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特開2023-128388パイロット式電磁弁およびコアの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128388
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】パイロット式電磁弁およびコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20230907BHJP
   H01F 7/16 20060101ALI20230907BHJP
   H01F 7/06 20060101ALI20230907BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16K31/06 305E
H01F7/16 E
H01F7/16 R
H01F7/06 D
H01F41/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032707
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】船橋 竹志
(72)【発明者】
【氏名】三宮 崇
(72)【発明者】
【氏名】阿部 繁
【テーマコード(参考)】
3H106
5E048
【Fターム(参考)】
3H106DA07
3H106DA12
3H106DA23
3H106DA35
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE34
3H106EE35
3H106GA13
3H106JJ02
3H106JJ07
3H106JJ09
3H106KK23
3H106KK31
5E048AB01
5E048AD02
(57)【要約】
【課題】パイロット式電磁弁の製造コストを低減する。
【解決手段】ある態様の電磁弁は、主通路に設けられた主弁孔と、主通路と連通する取付孔とを有するボディと、高圧室と背圧室とを区画する区画部を有し、低圧室と背圧室とを連通させるパイロット通路が貫通形成され、主弁孔に接離して主弁を開閉する主弁体と、パイロット通路に設けられたパイロット弁孔に接離してパイロット弁を開閉するパイロット弁体と、ボディに固定されるコアと、パイロット弁体が固定されるプランジャと、電磁コイルと、を有するソレノイドと、を備える。コアは、電磁コイルの内方でプランジャと軸線方向に対向する小径部と、取付孔に挿通されてボディに組み付けられ、主弁体の区画部を摺動可能に挿通する大径部と、を含み、磁性金属からなる素材の鍛造および切削により小径部と大径部とが一体成形された痕跡を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を導入する導入ポートと、流体を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとをつなぐ主通路に設けられた主弁孔と、前記主通路と連通する取付孔と、を有するボディと、
前記導入ポートに連通する高圧室と背圧室とを区画する区画部を有し、前記導出ポートに連通する低圧室と前記背圧室とを連通させるパイロット通路が貫通形成され、前記主弁孔に接離して主弁を開閉する主弁体と、
前記パイロット通路の一端に設けられたパイロット弁孔に接離してパイロット弁を開閉するパイロット弁体と、
前記ボディに固定されるコアと、前記パイロット弁体が一体に固定され前記コアと軸線方向に対向配置されるプランジャと、前記コアおよび前記プランジャとともに磁気回路を形成する電磁コイルと、を有するソレノイドと、
を備え、
前記コアは、
前記電磁コイルの内方で前記プランジャと軸線方向に対向する小径部と、
前記取付孔に挿通されて前記ボディに組み付けられ、前記主弁体の区画部を摺動可能に挿通する大径部と、
を含み、磁性金属からなる素材の鍛造および切削により前記小径部と前記大径部とが一体成形された痕跡を有することを特徴とするパイロット式電磁弁。
【請求項2】
前記コアの一部に切削加工が施されていない鍛造仕上面を有することを特徴とする請求項1に記載のパイロット式電磁弁。
【請求項3】
パイロット式電磁弁を構成し、大径の主弁体を摺動可能に挿通する大径部と、小径のパイロット弁体を挿通する小径部とを一体に有するコアの製造方法であって、
磁性金属からなる素材を鍛造により成形して前記コアの一次成形品を得る第1工程と、
前記一次成形品を切削加工して前記コアの二次成形品を得る第2工程と、
を備えることを特徴とするパイロット式電磁弁のコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット式電磁弁を構成するコアの構造および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小口径のパイロット弁を開閉制御することで大口径の主弁を自律的に開閉させるパイロット式電磁弁が知られている(例えば特許文献1参照)。パイロット作動方式を採用することで、小さなソレノイドで大きな弁を開閉できるため、電磁弁の小型化および省電力化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-89969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなパイロット式電磁弁は、主弁およびパイロット弁の二段構造を有するため、部品点数が増大する。このため、少しでも部品点数を削減でき、また部品の加工コストを低減できるのが望ましい。
【0005】
本発明の目的は、パイロット式電磁弁の製造コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、パイロット式電磁弁である。この電磁弁は、流体を導入する導入ポートと、流体を導出する導出ポートと、導入ポートと導出ポートとをつなぐ主通路に設けられた主弁孔と、主通路と連通する取付孔と、を有するボディと、導入ポートに連通する高圧室と背圧室とを区画する区画部を有し、導出ポートに連通する低圧室と背圧室とを連通させるパイロット通路が貫通形成され、主弁孔に接離して主弁を開閉する主弁体と、パイロット通路の一端に設けられたパイロット弁孔に接離してパイロット弁を開閉するパイロット弁体と、ボディに固定されるコアと、パイロット弁体が一体に固定されコアと軸線方向に対向配置されるプランジャと、コアおよびプランジャとともに磁気回路を形成する電磁コイルと、を有するソレノイドと、を備える。コアは、電磁コイルの内方でプランジャと軸線方向に対向する小径部と、取付孔に挿通されてボディに組み付けられ、主弁体の区画部を摺動可能に挿通する大径部と、を含み、磁性金属からなる素材の鍛造および切削により小径部と大径部とが一体成形された痕跡を有する。
【0007】
この態様によると、パイロット式電磁弁のコアは、プランジャとともに磁気回路を形成する本来の機能に加え、主弁体を摺動可能に支持する機能を有する。このため、大径の主弁体を軸線に沿ってガイドする別部材を設ける必要がなく、部品点数を削減できる。そして特に、コアが鍛造および切削加工の痕跡を有する、つまり鍛造により概形が加工された後に切削による仕上げ加工が施されたものである。このため、コアの成形に際して材料歩留まりを高く維持でき、結果的にパイロット式電磁弁の製造コストを低減できる。
【0008】
本発明の別の態様は、パイロット式電磁弁を構成するコアの製造方法である。このコアは、大径の主弁体を摺動可能に挿通する大径部と、小径のパイロット弁体を挿通する小径部とを一体に有する。この製造方法は、磁性金属からなる素材を鍛造により成形してコアの一次成形品を得る第1工程と、一次成形品を切削加工してコアの二次成形品を得る第2工程と、を備える。
【0009】
この態様によると、パイロット式電磁弁のコアの製造に際し、鍛造により概形が加工された後、切削による仕上げ加工が施される。コアが小径部と大径部を有するものであるため、その成形を切削加工のみで行う場合よりも材料歩留まりを高く維持でき、結果的にパイロット式電磁弁の製造コストを低減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パイロット式電磁弁の製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電磁弁の構成を表す断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3】電磁弁においてソレノイドがオンにされた通電状態を表している。
図4】コアの製造工程を表すフローチャートである。
図5】コアの製造工程を模式的に表す図である。
図6】一次成形品の断面の一部を表す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。
【0013】
図1は、電磁弁の構成を表す断面図である。図2は、図1のA部拡大図である。
図1に示すように、電磁弁1は、パイロット式電磁弁であり、主弁2およびパイロット弁4を備える。電磁弁1は、角柱状のボディ5にソレノイド6を組み付けて構成される。
【0014】
ボディ5は、本実施形態ではアルミニウム合金からなる。ボディ5の上部中央に取付孔8が設けられている。ソレノイド6は、その下部が取付孔8に挿通され、ボディ5に組み付けられている。ボディ5の一側面に冷媒を導入するための導入ポート10が設けられ、その反対側面に冷媒を導出するための導出ポート12が設けられている。導入ポート10と導出ポート12とを直接つなぐ通路が「主通路」を構成する。
【0015】
ボディ5における導入ポート10と導出ポート12との連通部には、円ボス状の弁座形成部14が設けられている。弁座形成部14の内方に弁孔16が形成されている。弁座形成部14の開口端に弁座18が形成されている。弁孔16は「主弁孔」として機能し、弁座18は「主弁座」として機能する。弁孔16の上流側に弁室20が形成されている。
【0016】
弁室20には弁体22が配設されている。弁体22は「主弁体」として機能する。弁体22は段付円筒状をなし、上部がやや拡径されて区画部24を形成する。弁体22はアルミニウム合金からなり、これを軸線に沿って貫通するようにパイロット通路26が形成されている。パイロット通路26は、弁孔16に向けて開口する。パイロット通路26の上部が縮径されて弁孔28が形成され、その開口端に弁座30が形成されている。弁孔28は「パイロット弁孔」として機能し、弁座30は「パイロット弁座」として機能する。
【0017】
弁体22の下部には、パッキン32が嵌着されている。パッキン32は、リング状の弾性体(本実施形態ではゴム)からなり、「シール部材」として機能する。弁体22の下端部が加締められることにより、パッキン32が弁体22に固定されている。弁体22が弁室20内を変位し、パッキン32が弁座18に着脱することにより主弁2を開閉する。弁体22とボディ5との間には、弁体22を上方に付勢するスプリング33(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0018】
区画部24は、ボディ5とソレノイド6とに囲まれる空間を高圧室34と背圧室36とに区画する。高圧室34は、導入ポート10に連通する一方、弁体22に設けられたリーク通路38を介して背圧室36に連通する。リーク通路38はオリフィスとして機能する。背圧室36は、ソレノイド6の内部に連通する。弁孔16の下流側は低圧室40となり、導出ポート12に連通する。区画部24は、ソレノイド6の下部に設けられたガイド孔42に挿通されている(詳細後述)。弁体22は、区画部24がガイド孔42に摺動可能に支持されることで、主弁2の開閉方向に安定に動作する。
【0019】
一方、ソレノイド6は、ボディ5に固定される段付円筒状のコア44(固定鉄心)と、コア44の上端開口部を閉止する有底円筒状のスリーブ46と、スリーブ46の内方に収容された円筒状のプランジャ48(可動鉄心)と、スリーブ46に外挿されるボビン50と、ボビン50に巻回された電磁コイル52を有する。
【0020】
スリーブ46は非磁性の金属材料からなる。スリーブ46の下部がコア44の上部に外挿され、外周溶接により固定されている。スリーブ46は、コア44とともに内部の圧力室を閉止するキャンを構成する。プランジャ48は、コア44と同軸状に配置されている。スリーブ46の底部とプランジャ48との間には、背圧室54が形成される。
【0021】
コア44は、小径部56と大径部58を一体に有する。大径部58は、内径および外径ともに小径部56よりも大きい。小径部56は、電磁コイル52の内方に挿通され、プランジャ48と軸線方向に対向する。大径部58は取付孔8に挿通される。大径部58の下半部には雄ねじ部が形成され、取付孔8の下部には雌ねじ部が形成されている。この雄ねじ部を雌ねじ部に螺合させることにより、コア44をボディ5に締結できる。
【0022】
なお、大径部58の上端部には半径方向外向きに突出するフランジ部60が設けられており、フランジ部60がボディ5の上面に係止されることで、コア44とボディ5との位置関係が設計どおりに担保される。また、大径部58の外周面には環状溝が形成され、Oリング62(シールリング)が嵌着されている。コア44と取付孔8との間にOリング62が介装されることで、両者の間隙を介した冷媒の漏洩が防止される。
【0023】
電磁コイル52を上下に挟むように端部材64,66が設けられている。これらの端部材64,66は、磁気回路を構成するヨークとしても機能する。電磁コイル52からは図示しない通電用のハーネスが引き出されている。本実施形態では、ボビン50、電磁コイル52および端部材64,66が一体化されてコイルユニット70を構成している。
【0024】
ソレノイド6をボディ5に組み付ける際には、まず、コア44、スリーブ46およびプランジャ48を組み立てた作動ユニット72をボディ5に組み付ける。この組み付けは、上述したコア44とボディ5との締結により行う。その後、コイルユニット70を作動ユニット72に外挿させる態様で組み付け、下側の端部材66を複数のボルト74によりボディ5に締結する。
【0025】
ボビン50の上端部と端部材64との間には環状のシール収容部76が形成され、Oリング78(シールリング)が嵌着されている。また、ボビン50の下端部と端部材66との間にも環状のシール収容部80が形成され、Oリング82(シールリング)が嵌着されている。コイルユニット70と作動ユニット72との間にOリング78,82が介装されることで、両者の間隙を介した外気(水分)の侵入が防止される。
【0026】
プランジャ48の下端部にパイロット弁体84が同軸状に連結されている。コア44とプランジャ48との間には、両者を離間させる方向に付勢するスプリング86(「付勢部材」として機能する)が介装されている。コア44とプランジャ48との対向面には相補形状のテーパ面が設けられており、プランジャ48のストロークを大きく確保しつつ、十分な磁気吸引力が得られるようにされている。
【0027】
また、端部材64の内周部(スリーブ46を挿通する部分)にバーリング加工を施すことにより、プランジャ48との対向面積を増大させている。それにより、この対向部分における磁気抵抗を低減でき、結果的に電磁力の補強が可能となる。
【0028】
図2にも示すように、コア44における小径部56の軸線方向中央には、半径方向内向きに突出したばね受け部88が設けられている。プランジャ48とばね受け部88との間にスプリング86が介装されている。パイロット弁体84は段付円筒状をなし、その下端にシール部材90が固定されている。パイロット弁体84の上端部がプランジャ48の下端部に挿入され加締められることにより、パイロット弁体84とプランジャ48とが同軸状に一体化されている(図1参照)。パイロット弁体84は、コア44のばね受け部88を貫通する。なお、変形例においては、パイロット弁体84の上端部がプランジャ48の下端部に圧入されることにより両者が一体化されてもよい。
【0029】
パイロット弁体84の下端部がやや大径の弁形成部92となっており、背圧室36に配置されている。弁形成部92の下端部に凹状の嵌合部94が設けられ、円板状のシール部材90が嵌合している。本実施形態において、パイロット弁体84はステンレス鋼(SUS)からなり、シール部材90はゴムからなる。弁形成部92の下端部が内方に加締められることによりシール部材90が固定支持されている。パイロット弁体84のシール部材90が弁座30に着脱することにより、パイロット弁4を開閉する。
【0030】
パイロット弁体84には、その上端部から嵌合部94にわたって軸線方向に貫通する連通路96と、弁形成部92を径方向に貫通する連通路98とが形成されている。連通路96と連通路98とは、弁形成部92の内方において連通している。このような構成により、ソレノイド6の内部(背圧室54を含む)と背圧室36とが連通されている。すなわち、背圧室36の圧力がソレノイド6の内部に安定に供給される。
【0031】
弁体22における区画部24の外周面には環状溝100が設けられ、ピストンリング102が嵌着されている。ピストンリング102はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる。コア44の大径部58にガイド孔42が設けられている。区画部24は、ピストンリング102の位置にてガイド孔42に摺動可能に支持される。
【0032】
図1に戻り、以上のような構成において、導入ポート10から導入された上流側の圧力P1(「上流側圧力P1」という)は、主通路において主弁2を経ることで圧力P2(「下流側圧力P2」という)となる。また、高圧室34に導入された上流側圧力P1は、リーク通路38を通過することで背圧室36にて中間圧力Ppとなり、さらにパイロット弁4を経ることで下流側圧力P2となる。
【0033】
次に、電磁弁1の動作について詳細に説明する。図3は、電磁弁1においてソレノイド6がオンにされた通電状態を表している。既に説明した図1は、ソレノイド6がオフにされた非通電状態を表している。
【0034】
図1に示すように、ソレノイド6がオフにされた状態ではソレノイド力が作用しないため、スプリング86によってプランジャ48が上方に付勢され、パイロット弁4が開弁状態となる。このとき、背圧室36の冷媒がパイロット通路26を介して下流側に導出されて中間圧力Ppが低下するため、弁体22が上流側圧力P1と中間圧力Ppとの差圧(P1-Pp)により上方に付勢される。それにより、主弁2が全開状態となる。その結果、図示のように主通路が開放される。すなわち、導入ポート10から導入された冷媒は、主に主通路を通って導出ポート12から導出される。
【0035】
一方、図3に示すように、ソレノイド6がオンにされると、ソレノイド力によってコア44とプランジャ48との間に吸引力が作用するため、プランジャ48が下方に付勢され、パイロット弁4が閉弁状態となる。このとき、上流側からの冷媒がリーク通路38を介して背圧室36に導入されるため、中間圧力Ppは上流側圧力P1となる。その結果、弁体22が中間圧力Ppと下流側圧力P2の差圧(Pp-P2)により下方に付勢される。それにより主弁2が閉弁状態となり、主通路が閉じられた状態となる。
【0036】
次に、コア44の製造方法について説明する。
本実施形態では上述のように、コア44が磁気回路を形成するとともに弁体22を摺動可能に支持する単一部材として構成されている。弁体22は、プランジャ48が直接駆動するパイロット弁体ではなく、パイロット弁体の作動により間接的に駆動される主弁体であるため、相当大きくなる。このため、コア44は、主として磁気回路を構成する小径部56と、弁体22を摺動可能に挿通する大径部58とを一体に有する。図1にも示したように、大径部58は小径部56よりも相当大きい。
【0037】
仮に一般的な丸棒材を用いてこのコア44を切削加工のみで得ようとすると、小径部56と大径部58との内外径の差が大きいために切屑が大量に発生し、材料歩留まりが相当低くなる。このように内外径の差が大きくなるのは、部品点数削減の観点からパイロット式電磁弁のコア44に主弁体をガイドする機能を併せもたせたためとも言える。
【0038】
そこで本実施形態では、コア44を鍛造と切削による二段階加工により成形する。図4は、コア44の製造工程を表すフローチャートである。図5は、コア44の製造工程を模式的に表す図である。図5(A)および(B)は鍛造後の一次成形品を示し、図5(C)はさらに切削加工を施した二次成形品を示す。以下、図4に基づき、図5を適宜参照しつつ説明する。
【0039】
本実施形態ではコア44の製造に際してコイル材を用意する。このコイル材として、クロムの含有率が10~20%のステンレス鋼を用いる。鋼にクロムを適度に含有させることで、後述のパシペート処理にも都合が良い。コイル材は磁性材料である。
【0040】
まず、鍛造に先立ってコイル材に対して潤滑用の表面処理を行う(S10)。本実施形態では、コイル材にシュウ酸塩処理を施すことで、コイル材の表面にシュウ酸塩被膜(潤滑被膜)を形成する。なお、変形例においては、リン酸塩処理(リン酸亜鉛処理、リン酸鉛カルシウム処理)その他の潤滑被膜形成処理を採用してもよい。
【0041】
続いて、コイル材を鍛造設備に送り出し、そのコイル材から円柱状の素材を切り出し(S12)、予め用意した金型にその素材を挿入して冷間鍛造による一次成形を行う(S14)。このとき、プレスによる荷重で素材が塑性変形する。この鍛造工程(第1工程)によりコア44の概形状をなす一次成形品110が得られる(図5(A))。一次成形品110は、コア44の小径部56に対応する小径対応部112と、大径部58に対応する大径対応部114を有する段付形状をなす(図5(B))。大径対応部114には、大径部58よりもやや小さい内径を有する穴部116(凹部)が形成される。言い換えれば、コイル材から切り出す素材の長さは、鍛造後に図示の一次成形品110を得るのに必要十分な長さが予め設定される。
【0042】
そして、金型から取り出した一次成形品110を洗浄する(S16)。本実施形態では、この洗浄処理を炭化水素洗浄にて行う。その後、一次成形品110にパシペート処理を施す(S18)。このパシペート処理により、一次成形品110に付着した潤滑被膜を除去する。それにより、次工程(熱処理工程)において被膜による炉内の汚染を防止する。また、次々工程(切削工程)において被膜の切削粉による切削加工機の詰まりなどを防止する。なお、パシペート処理に代えてバレル処理を採用してもよい。
【0043】
続いて、一次成形品110に熱処理を施す(S20)。鍛造により低下した磁性材料の特性を調整するものである。そして、一次成形品110に対し、図5(B)の二点鎖線に沿った切削加工による二次成形を行う(S22)。ターニングセンタ等による切削工程(第2工程)により、コア44の二次成形品120が得られる(図5(C))。二次成形品120は、コア44の仕上げ形状を有する。
【0044】
図6は、一次成形品の断面の一部を表す拡大写真である。図6(A)は図5(A)のB部拡大に対応し、図6(B)は図5(A)のC部拡大に対応する。
本実施形態では、鍛造後の加工痕を調べるために、一次成形品110をその軸線を含む縦断面で切断してエッチング処理を施した後、顕微鏡撮影を行った。
【0045】
その結果、図6(A)および(B)に示すように、鍛造の痕跡が材料流動の痕(繊維状の痕)として確認できた。切削のみではこのような痕跡は見られない。二次成形品120においても、切削される表面の内側断面においては、同様の痕跡が残る。したがって、本実施形態の鍛造および切削による小径部56と大径部58の成形の有無は、このような痕跡の有無を確認することで判別できる。
【0046】
以上に説明したように、本実施形態では、コア44が、プランジャ48とともに磁気回路を形成する本来の機能に加え、弁体22(パイロット式電磁弁の主弁体)を摺動可能に支持する機能を有する。このため、大径の主弁体を軸線に沿ってガイドする別部材を設ける必要がなく、部品点数を削減できる。
【0047】
そして特に、コア44の製造に際しては、鍛造により概形が加工された後、切削による仕上げ加工が施される。つまり、コアが鍛造および切削加工の痕跡を有するものとなる。コア44が小径部56と大径部58を有するものであるため、その成形を切削加工のみで行う場合よりも材料歩留まりを相当高く維持でき、結果的に電磁弁1の製造コストを低減できる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0049】
上記実施形態では、図5(B)に示したように、一次成形品110として凹状の穴部116を形成する例を示した。変形例においては、小径対応部112および大径対応部114を軸線方向に貫通する孔部を形成してもよい。孔部は、ドリル加工により成形してよく、コア44の内形状に概ね沿う段付孔としてもよい。段付孔は、穴部116に対応する大径孔と、穴部116よりも小径の小径孔を有するものでもよい。小径孔の内径は、ばね受け部88の内径よりもやや小さくすればよい。なお、孔部を鍛造により成形してもよい。
【0050】
上記実施形態では、図5(B)に示したように、コア44の外面および内面の全てに仕上げ加工(切削加工)を施す例を示した。変形例においては、コアの外面および内面の少なくとも一部に切削加工が施されていない鍛造仕上面を有するものとしてもよい。例えば図1を参照して、コア44における小径部56の外周面(Oリング82との対向面)、大径部58の底面(弁体22との軸線方向の対向面)など、高い寸法精度を要しない箇所を鍛造仕上面としてもよい。
【0051】
上記実施形態では述べなかったが、素材の線径は大径部の最外径以下とすればよいが、素材の線径が10mm以上のものであれば、上記実施形態による材料歩留まりの改善効果が大きい。
【0052】
上記実施形態では、鍛造工程を冷間鍛造とする例を示したが、熱間鍛造としてもよい。なお、上記実施形態では、素材をコイル材から切り出す例を示したが、丸棒材から切り出してもよい。ただし、素材を任意の長さで無駄なく切り出す観点(材料歩留まりの観点)からはコイル材を用いるのが好ましい。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 電磁弁、2 主弁、4 パイロット弁、5 ボディ、6 ソレノイド、8 取付孔、10 導入ポート、12 導出ポート、16 弁孔、18 弁座、20 弁室、22 弁体、24 区画部、26 パイロット通路、28 弁孔、30 弁座、34 高圧室、36 背圧室、38 リーク通路、40 低圧室、42 ガイド孔、44 コア、48 プランジャ、52 電磁コイル、56 小径部、58 大径部、84 パイロット弁体、90 シール部材、92 弁形成部、94 嵌合部、96 連通路、98 連通路、102 ピストンリング、110 一次成形品、112 小径対応部、114 大径対応部、116 穴部、120 二次成形品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6