IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-厚鋼板およびその製造方法 図1
  • 特開-厚鋼板およびその製造方法 図2
  • 特開-厚鋼板およびその製造方法 図3
  • 特開-厚鋼板およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128423
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】厚鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/00 20060101AFI20230907BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230907BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230907BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230907BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230907BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230907BHJP
   B21B 1/38 20060101ALI20230907BHJP
   B21B 45/08 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B21B45/00 B
C22C38/00 301A
C22C38/60
C21D9/00 101A
C21D8/02 A
C23C26/00 C
B21B1/38 Z
B21B45/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032761
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】川田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】多根井 寛志
(72)【発明者】
【氏名】原野 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 竜一
(72)【発明者】
【氏名】白幡 浩幸
【テーマコード(参考)】
4E002
4K032
4K044
【Fターム(参考)】
4E002AD01
4E002AD07
4E002BC05
4E002BC07
4E002BD07
4E002BD08
4E002BD10
4E002CA08
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA34
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CC04
4K032CD05
4K032CD06
4K032CE01
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB03
4K044CA12
(57)【要約】
【課題】スケールの密着性を高め、レーザー照射時のスケール剥離を抑制または防止し、それゆえレーザー切断を適用するのに有用な厚鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板と、鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、スケール内に存在するき裂の板厚方向最大長さがスケールの平均厚さの50%以下であり、スケールがスケールと鋼板の界面に形成された層状ファイアライトを含み、層状ファイアライトの平均厚さが0.3~2.0μmであり、層状ファイアライトによる当該界面の被覆率が50%以上であり、スケールが層状マグネタイトをさらに含み、層状マグネタイトの平均厚さが2.0μm以上であり、スケールの厚さ偏差が0.25以下である厚鋼板およびその製造方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、前記スケール内に存在するき裂の板厚方向最大長さが前記スケールの平均厚さの50%以下であり、前記スケールが前記スケールと前記鋼板の界面に形成された層状ファイアライトを含み、前記層状ファイアライトの平均厚さが0.3~2.0μmであり、前記層状ファイアライトによる前記界面の被覆率が50%以上であり、前記スケールが層状マグネタイトをさらに含み、前記層状マグネタイトの平均厚さが2.0μm以上であり、前記スケールの厚さ偏差が0.25以下である、厚鋼板。
【請求項2】
前記スケールの平均厚さが6~60μmである、請求項1に記載の厚鋼板。
【請求項3】
前記鋼板が、質量%で、
C:0.001~0.300%、
Si:0.10~1.00%、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.001~0.050%、
S:0.0001~0.0100%、
Al:0.001~0.200%、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~2.00%、
Cr:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
W:0~0.50%、
Nb:0~0.500%、
Ti:0~0.500%、
V:0~1.000%、
B:0~0.0100%、
Sn:0~0.500%、
Sb:0~0.500%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Hf:0~0.0100%、
Te:0~0.0100%、
Sr:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、ならびに
残部:Feおよび不純物からなる化学組成を有する、請求項1または2に記載の厚鋼板。
【請求項4】
前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.01~1.00%、
Ni:0.01~2.00%、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
W:0.003~0.50%、
Nb:0.003~0.500%、
Ti:0.003~0.500%、
V:0.003~1.000%、
B:0.0003~0.0100%、
Sn:0.003~0.500%、
Sb:0.003~0.500%、
Ca:0.0003~0.0100%、
Mg:0.0003~0.0100%、
Hf:0.0003~0.0100%、
Te:0.0003~0.0100%、
Sr:0.0003~0.0100%、および
REM:0.0003~0.0100%
からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項3に記載の厚鋼板。
【請求項5】
前記層状ファイアライトが、前記スケール内の全てのファイアライトの50%以上を占める、請求項1~4のいずれか1項に記載の厚鋼板。
【請求項6】
スラブを加熱する工程であって、前記スラブの表面温度が(T0+20)℃~1300℃となる最高加熱温度まで加熱し、T0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間が下記式(2)を満たすように制御される加熱工程、
前記スラブを熱間圧延する工程であって、圧延完了温度が1050℃~(T0-30)℃であり、累積圧下率が15~30%である圧延を施した後、1000℃~(T0-30)℃の温度範囲で高圧水デスケーリングを実施し、次いで1パスでの圧下率が各パスでの圧延前の板厚に比して30%以下である圧延を2回以上施し、前記高圧水デスケ―リング後の前記圧延のパス間時間が下記式(3)を満たすよう制御し、最終圧延パスにおける圧延完了温度を850℃以上とする熱間圧延工程、および
得られた鋼板を冷却する工程であって、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間が下記式(4)を満たすように制御され、水冷停止温度を550~650℃とする冷却工程
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造方法。
0は下記式(1)で求められる温度である。
0=1175-8.4[Mn]-135[P]0.5-52[Al]-24[Cr] ・・・式(1)
[Mn]、[P]、[Al]および[Cr]はスラブにおけるそれぞれの元素の含有量[質量%]である。
1.0≦x10≦10.0 ・・・式(2)
1=D1・(T1 3+D2・T1 2+D3・T1+D4)・{1-exp{D5・(T1-T0))}0.5・Δt0.5
n=xn 2・D1 ー2・(Tn+1 3+D2・Tn+1 2+D3・Tn+1+D4-2・{1-exp{D5・(Tn+1-T0))}-1
n=D1・(Tn 3+D2・Tn 2+D3・Tn+D4)・{1-exp{D5・(Tn-T0))}0.5・(tn-1+Δt)0.5
nは、加熱工程においてスラブの表面温度がT0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のファイアライトの沈降度合いを表す指標であり、nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示し、
1、D2、D3、D4およびD5は定数であり、それぞれ4.00×10-9、-4.22×103、5.93×106、-2.74×109および-1.85×10-2であり、
nは10等分した区間のn番目の領域における平均スラブ温度[℃]であり、
Δtは前記経過時間の10分の1の時間[秒]であり、
10は、上記計算式によりx1からx2、x3・・・と順に計算することで得られる。
n≦1.00 ・・・式(3)
m=ym-1・exp[E1・km-1・exp{E2・(Jm-1+Jm)}]+E3・Rm・exp(E4・Jm
0=0.00
mは、高圧水デスケーリング実施後から圧延完了までに施す全n回の圧延において、m回目において生じるスケールのき裂の程度を表す指標であり、
1、E2、E3およびE4は定数であり、それぞれ-2.57×10-10、-1.02×10-2、2.70×101および-8.33×10-3であり、
mはm回目の圧延からm+1回目の圧延までの経過時間[秒]であり、
mはm回目の圧延を施す圧延材温度[℃]であり、
mはm回目の圧延における圧延前の板厚に対する圧下率[%]であり、
nは、上記式によりy1からy2、y3・・・と順に計算することで得られる。
1.0≦z10≦10.0 ・・・式(4)
1=F1・exp{F2/(H1-F3)}・(-H1 2+F41+F50.5・Δp0.5
n=zn 2・F1 -2・exp{2・F2/(H1-F3)}・(-Hn+1 2+F4n+1+F5-1
n=F1・exp{F2/(Hn-F3)}・(-Hn 2+F4n+F50.5・(pn-1+Δp)0.5
nは、冷却工程において熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のスケールの成長度合いを表す指標であり、nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示し、
1、F2、F3、F4およびF5は定数であり、それぞれ1.63×10-6、-2.50×102、3.25×102、2.94×102および1.36×106であり、
nは10等分した区間のn番目の領域における平均鋼板温度[℃]であり、
Δpは前記経過時間の10分の1の時間[秒]であり、
10は、上記計算式によりz1からz2、z3・・・と順に計算することで得られる。
【請求項7】
前記高圧水デスケーリング後の圧延において、熱間圧延工程完了までに更に1回または2回以上の高圧水デスケーリングを施す、請求項6に記載の厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板およびその製造方法に関し、より詳しくは構造体の成形に当たってレーザー切断を施して利用する厚鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、建築部材、産業機械、橋梁等の大型鋼構造物には多量の厚鋼板が使用されている。これらの鋼構造物の構築では、切断および溶接が施工工数の多くを占める。そのため、切断工数を削減するとともに、溶接工数を削減するために精度の良い切断を行うことが求められる。
【0003】
鋼板の切断方法としては、従来のガス切断に加えて、レーザー切断やプラズマ切断が知られている。レーザー切断は、従来のガス切断と比較して、切断面の精度に優れ、切断による熱影響部が小さく、さらには自動化による工数削減が可能なことから薄手の鋼板の切断を中心に普及してきた。近年では、高出力のレーザー切断機の実用化により、前記大型鋼構造物に用いられる厚手の鋼板の切断においてもレーザー切断が行われることがある。
【0004】
厚鋼板等の鋼板の製造はスラブを熱間圧延する工程を一般に含み、熱間圧延された鋼板には大気中で酸化してその表面にスケール(酸化鉄)が形成することが知られている。鋼板のレーザー切断はレーザーを照射することによって鋼板に熱を与え、鋼板を溶融させて切断することから、レーザーが照射された箇所における吸熱性の変化によって溶融状況が大きく変化する。鋼板の吸熱性は表面のスケール並びにスケールと地鉄の界面の状態によって大きく変動するため、その状態によっては鋼板が安定して切断できなかったり、切断面にえぐれた異常切断部が生じたりし、却って工数の増大や切断精度の劣化が起こる。特に、レーザー照射によって表面のスケールが不規則に剥離する場合、吸熱性も同様に不規則に大きく変動するため、レーザー切断は特に不安定となり、バーニングと呼ばれる切断部からの溶融物の噴出が発生する。
【0005】
レーザー切断性を改善する手法として、例えば、特許文献1では、鋼板の表面にチタニア粉末および亜鉛粉末およびアルミニウム粉末および黒色酸化鉄顔料、黒色焼成顔料の1種または2種以上からなる着色顔料を含有する乾燥塗膜を付与した鋼材が提案されている。特許文献1では、塗装鋼材の塗膜中にレーザー吸収性の高いチタニア粉末を添加してレーザーの吸収率を高めることによりレーザー切断性を向上させることが教示されている。また、特許文献2では、表面に2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物(例、テトラアルコキシシラン)、亜鉛末、ならびにリン酸アルミニウム(好ましくはトリポリリン酸アルミニウム)の粉末もしくはリン酸アルミニウムとリン酸亜鉛との混合粉末を含有する塗料組成物を塗布した鋼材が提示されている。
【0006】
一方、特許文献3では、レーザー切断性を改善するために、鋼板表面のスケールに占めるマグネタイト相(Fe34)の割合を85%以上として密着性を高め、かつ、当該スケールの厚さを6μm以下に制限した鋼板が提示されている。
【0007】
また、特許文献4および5では、厚鋼板においてレーザー切断前に存在するスケールと地鉄の界面の剥離を低減し、かつ、スケール中に存在する空孔を低減することで、レーザー切断性を改善することが提案されている。
【0008】
また、特許文献6では、スケール中にSiが0.4%以上のSi濃化域が層状に存在し、Si濃化域の表層側にAl/Si比が0.3以上のAl濃化域が層状に存在することで安定した切断性を確保できると記載されている。特許文献7では、鋼板のスケールと地鉄の界面の地鉄側に合金元素の濃化した内部酸化層を形成し、それによってスケールの耐剥離性を高めることが提案されている。更に、特許文献8では、厚鋼板のスケールと地鉄の界面に合金元素の濃化域を形成し、加えて、スケール中に存在する空孔を低減することで、レーザー切断性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/065349号
【特許文献2】特開2008-156377号公報
【特許文献3】特開2003-221640号公報
【特許文献4】特開2002-332540号公報
【特許文献5】特開2005-271074号公報
【特許文献6】国際公開第2012/014851号
【特許文献7】特開平09-078180号公報
【特許文献8】特開2002-332541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
人口減社会における省コスト化のため、鋼板をレーザーによって切断するに当たって、その自動化の要求は一層高まっている。一方、構造体の大型化による切断対象の厚肉化と、高出力のファイバーレーザーによる切断の高速化に対応するため、従来よりも更にレーザー切断性に優れた鋼板が必要とされている。具体的には、レーザー切断性を改善するために、従来よりも高出力のレーザー照射に対して不規則に剥離しない、密着性に非常に優れたスケールを有する鋼板が求められている。
【0011】
特許文献3に記載の鋼板では、スケールの不規則な剥離に対する対策が為されているが、圧延の全パスにおいて高圧水によるデスケーリングを施す必要があり、根本の課題である省コスト化に対する対応としては依然として改善の余地がある。また、特許文献7では、スケールの耐剥離性の改善について検討されているが、レーザー出力の上昇に対して依然として改善の余地がある。
【0012】
そこで、本発明は、スケールの密着性を高め、レーザー照射時のスケール剥離を抑制または防止し、それゆえレーザー切断を適用するのに有用な厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、レーザー切断において安定して切断を行うために必要な鋼板表層について検討を行った。その結果、スケール内に板厚方向に伸長したき裂が存在すると、高出力のレーザーを照射することで容易にスケールが割れ、不規則に剥離する早期剥離現象が起こることを見出した。これは、レーザーの照射によって生じた熱応力によると推定されるが、このような現象は、スケール内のボイド(空隙)量を低減しても、粗大なき裂が発生する場合には発現する。
【0014】
本発明者らは、このき裂の粗大化を抑制し、レーザー切断性を高めた鋼板を得るべく検討を行い、熱間圧延工程を通じて、スケール/鋼板(地鉄)界面をファイアライト(Fe2SiO4)で覆い、圧延条件を精緻に制御することによりき裂の少ない均質なスケールの形成を促してスケールの密着性を高め、かつ、レーザーによる入熱の吸熱性に優れ、また、密着性にも優れるマグネタイトを層状マグネタイトとしてスケール内に均質に存在させることで、レーザー切断性をさらに高めることができることを見出した。
【0015】
上記目的を達成し得た本発明は下記の通りである。
(1)鋼板と、前記鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、前記スケール内に存在するき裂の板厚方向最大長さが前記スケールの平均厚さの50%以下であり、前記スケールが前記スケールと前記鋼板の界面に形成された層状ファイアライトを含み、前記層状ファイアライトの平均厚さが0.3~2.0μmであり、前記層状ファイアライトによる前記界面の被覆率が50%以上であり、前記スケールが層状マグネタイトをさらに含み、前記層状マグネタイトの平均厚さが2.0μm以上であり、前記スケールの厚さ偏差が0.25以下である、厚鋼板。
(2)前記スケールの平均厚さが6~60μmである、上記(1)に記載の厚鋼板。
(3)前記鋼板が、質量%で、
C:0.001~0.300%、
Si:0.10~1.00%、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.001~0.050%、
S:0.0001~0.0100%、
Al:0.001~0.200%、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~2.00%、
Cr:0~1.00%、
Mo:0~1.00%、
W:0~0.50%、
Nb:0~0.500%、
Ti:0~0.500%、
V:0~1.000%、
B:0~0.0100%、
Sn:0~0.500%、
Sb:0~0.500%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
Hf:0~0.0100%、
Te:0~0.0100%、
Sr:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、ならびに
残部:Feおよび不純物からなる化学組成を有する、上記(1)または(2)に記載の厚鋼板。
(4)前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.01~1.00%、
Ni:0.01~2.00%、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
W:0.003~0.50%、
Nb:0.003~0.500%、
Ti:0.003~0.500%、
V:0.003~1.000%、
B:0.0003~0.0100%、
Sn:0.003~0.500%、
Sb:0.003~0.500%、
Ca:0.0003~0.0100%、
Mg:0.0003~0.0100%、
Hf:0.0003~0.0100%、
Te:0.0003~0.0100%、
Sr:0.0003~0.0100%、および
REM:0.0003~0.0100%
からなる群から選択される1種または2種以上を含む、上記(3)に記載の厚鋼板。
(5)前記層状ファイアライトが、前記スケール内の全てのファイアライトの50%以上を占める、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の厚鋼板。
(6)スラブを加熱する工程であって、前記スラブの表面温度が(T0+20)℃~1300℃となる最高加熱温度まで加熱し、T0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間が下記式(2)を満たすように制御される加熱工程、
前記スラブを熱間圧延する工程であって、圧延完了温度が1050℃~(T0-30)℃であり、累積圧下率が15~30%である圧延を施した後、1000℃~(T0-30)℃の温度範囲で高圧水デスケーリングを実施し、次いで1パスでの圧下率が各パスでの圧延前の板厚に比して30%以下である圧延を2回以上施し、前記高圧水デスケ―リング後の前記圧延のパス間時間が下記式(3)を満たすよう制御し、最終圧延パスにおける圧延完了温度を850℃以上とする熱間圧延工程、および
得られた鋼板を冷却する工程であって、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間が下記式(4)を満たすように制御され、水冷停止温度を550~650℃とする冷却工程
を含む、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造方法。
0は下記式(1)で求められる温度である。
0=1175-8.4[Mn]-135[P]0.5-52[Al]-24[Cr] ・・・式(1)
[Mn]、[P]、[Al]および[Cr]はスラブにおけるそれぞれの元素の含有量[質量%]である。
1.0≦x10≦10.0 ・・・式(2)
1=D1・(T1 3+D2・T1 2+D3・T1+D4)・{1-exp{D5・(T1-T0))}0.5・Δt0.5
n=xn 2・D1 ー2・(Tn+1 3+D2・Tn+1 2+D3・Tn+1+D4-2・{1-exp{D5・(Tn+1-T0))}-1
n=D1・(Tn 3+D2・Tn 2+D3・Tn+D4)・{1-exp{D5・(Tn-T0))}0.5・(tn-1+Δt)0.5
nは、加熱工程においてスラブの表面温度がT0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のファイアライトの沈降度合いを表す指標であり、nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示し、
1、D2、D3、D4およびD5は定数であり、それぞれ4.00×10-9、-4.22×103、5.93×106、-2.74×109および-1.85×10-2であり、
nは10等分した区間のn番目の領域における平均スラブ温度[℃]であり、
Δtは前記経過時間の10分の1の時間[秒]であり、
10は、上記計算式によりx1からx2、x3・・・と順に計算することで得られる。
n≦1.00 ・・・式(3)
m=ym-1・exp[E1・km-1・exp{E2・(Jm-1+Jm)}]+E3・Rm・exp(E4・Jm
0=0.00
mは、高圧水デスケーリング実施後から圧延完了までに施す全n回の圧延において、m回目において生じるスケールのき裂の程度を表す指標であり、
1、E2、E3およびE4は定数であり、それぞれ-2.57×10-10、-1.02×10-2、2.70×101および-8.33×10-3であり、
mはm回目の圧延からm+1回目の圧延までの経過時間[秒]であり、
mはm回目の圧延を施す圧延材温度[℃]であり、
mはm回目の圧延における圧延前の板厚に対する圧下率[%]であり、
nは、上記式によりy1からy2、y3・・・と順に計算することで得られる。
1.0≦z10≦10.0 ・・・式(4)
1=F1・exp{F2/(H1-F3)}・(-H1 2+F41+F50.5・Δp0.5
n=zn 2・F1 -2・exp{2・F2/(H1-F3)}・(-Hn+1 2+F4n+1+F5-1
n=F1・exp{F2/(Hn-F3)}・(-Hn 2+F4n+F50.5・(pn-1+Δp)0.5
nは、冷却工程において熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のスケールの成長度合いを表す指標であり、nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示し、
1、F2、F3、F4およびF5は定数であり、それぞれ1.63×10-6、-2.50×102、3.25×102、2.94×102および1.36×106であり、
nは10等分した区間のn番目の領域における平均鋼板温度[℃]であり、
Δpは前記経過時間の10分の1の時間[秒]であり、
10は、上記計算式によりz1からz2、z3・・・と順に計算することで得られる。
(7)前記高圧水デスケーリング後の圧延において、熱間圧延工程完了までに更に1回または2回以上の高圧水デスケーリングを施す、上記(6)に記載の厚鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スケールの密着性を高めることで、レーザー照射時のスケールの剥離が抑制または防止され、それゆえレーザー切断を適用するのに有用な厚鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る厚鋼板におけるスケールの模式図である。
図2】EBSD法を用いた結晶方位解析によるスケール内部でのヘマタイト、マグネタイトおよびウスタイトの分布を示す。
図3】EPMAによるSi濃度マップを示す。
図4】EPMAによる酸素濃度マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る厚鋼板およびその製造方法についてより詳しく説明するが、これらの説明は本発明の好ましい形態の例示を意図するものであって、本発明を特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0019】
[好ましい化学組成]
本発明の実施形態においては、鋼板の化学組成は、特に限定されず、レーザー切断において適用するのに有用な範囲内で適切に決定すればよい。本発明は、上記のとおり、スケールの密着性を高め、レーザー照射時のスケール剥離を抑制または防止し、それゆえレーザー切断を適用するのに有用な厚鋼板を提供することを目的とするものであって、スケール内に存在するき裂の板厚方向最大長さをスケールの平均厚さの50%以下とし、スケールと鋼板の界面に平均厚さが0.3~2.0μmの層状ファイアライトを形成してその界面被覆率を50%以上とするとともに、平均厚さが2.0μm以上の層状マグネタイトをさらに含め、加えてスケールの厚さ偏差を0.25以下とすることによって上記の目的を達成するものである。したがって、鋼板の化学組成自体は、本発明の目的を達成する上で必須の技術的特徴でないことは明らかである。以下、本発明の実施形態に係る鋼板の好ましい化学組成について説明するが、これらの説明は、単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の化学組成を有する鋼板に限定することを意図するものではない。また、以下の説明において、各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りが無い限り、「質量%」を意味するものである。
【0020】
[C:0.001~0.300%]
Cは一般的な製鉄法において不可避的に含まれる元素であり、0.001%未満に制限することは製錬工程における負荷が大きく、経済的に好ましくない。この観点から、Cの含有量は0.001%以上とすることが好ましい。Cは強度を大きく高める元素であり、強度を高めるため、0.030%以上含有することが好ましく、0.050%以上含有することが更に好ましい。一方、Cが0.300%を超えると、鋼板の靭性が大きく劣化するため、Cの含有量は0.300%以下とすることが好ましい。また、Cは溶接性および溶接部の靭性を損なう元素であり、この観点から、Cの含有量は0.230%以下であることが好ましく、0.200%以下であることが更に好ましい。
【0021】
[Si:0.10~1.00%]
Siはスケール中にファイアライト(Fe2SiO4)を形成する元素であり、鋼板が適量のSiを含むことにより、本発明の実施形態に係る厚鋼板における特徴を有するスケールを形成することができる。ファイアライトをスケール/鋼板界面に十分に形成するため、Si含有量は0.10%以上とすることが好ましい。スケール密着性を高めるには、Si含有量は0.12%以上とすることが好ましく、0.15%以上とすることが更に好ましい。一方、Siの含有量が多いと、ファイアライトがスケール/鋼板界面に過剰に形成し、鋼板の表面におけるスケールの形成挙動が不均質となって、レーザー切断性が劣化するため、Siの含有量は1.00%以下とすることが好ましい。また、Siは鋼板の靭性を損なう元素であり、この観点からSiの含有量は0.70%以下であることが好ましく、0.50%以下であることが更に好ましい。
【0022】
[Mn:0.10~2.50%]
Mnは強度の向上に寄与する元素であり、この効果を十分に得るため、Mnの含有量は0.10%以上とすることが好ましい。強度を高める観点から、Mnの含有量は0.30%以上とすることが好ましく、0.50%以上とすることが更に好ましい。一方、Mnを過度に含有すると、ファイアライトの形成が過剰に促進され、鋼板の表面におけるスケールの形成挙動が不均質となって、レーザー切断性が劣化するため、Mnの含有量は2.50%以下に制限することが好ましい。この観点から、Mnの含有量は2.00%以下であることが好ましく、1.80%以下であることが更に好ましい。
【0023】
[P:0.001~0.050%]
Pは一般的な製鉄法において不可避的に含まれる元素であり、0.001%未満に制限することは製錬工程における負荷が大きく、経済的に好ましくない。この観点から、Pの含有量は0.001%以上とすることが好ましい。また、Pはファイアライトの形成を促進する元素であり、この観点からPの含有量は0.005%以上とすることが好ましく、0.008%以上とすることが更に好ましい。一方、Pを過度に含有すると、ファイアライトの形成が過剰に促進され、鋼板の表面におけるスケールの形成挙動が不均質となり、レーザー切断性が劣化する。この観点から、Pの含有量は0.050%以下に制限することが好ましく、0.035%以下であることがより好ましく、0.025%以下であることが更に好ましい。
【0024】
[S:0.0001~0.0100%]
Sは一般的な製鉄法において不可避的に含まれる元素であり、0.0001%未満に制限することは製錬工程における負荷が大きく、経済的に好ましくない。この観点から、Sの含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。一方、Sは粗大な硫化物を形成して靭性を損なう元素であり、この観点から、Sの含有量は0.0100%以下に制限することが好ましい。また、Sは溶接性および溶接部の靭性を損なう元素であり、この観点からSの含有量は0.0060%以下であることが好ましく、0.0040%以下であることが更に好ましい。
【0025】
[Al:0.001~0.200%]
Alは脱酸元素であり、その効果を得るため、Alの含有量は0.001%以上とすることが好ましい。脱酸効果を十分に発揮するためには、Alの含有量は0.005%以上であることが好ましい。更に、Alはファイアライトの形成を促進する元素であり、この観点から、Alの含有量は0.012%以上とすることが好ましい。一方、Alを過度に含有すると、ファイアライトの形成が過剰に促進され、レーザー切断性が損なわれるため、Alの含有量は0.200%以下に制限することが好ましく、Alの含有量は0.120%以下であることがより好ましく、0.080%以下であることが更に好ましい。
【0026】
[N:0.0150%以下]
Nは一般的な製鉄法において不可避的に含まれる元素である。多量のNが含まれると粗大な窒化物が形成され、鋼板の靭性が損なわれるため、Nの含有量は0.0150%以下に制限することが好ましい。また、Nは溶接部の靭性を損なう元素であり、この観点から、Nの含有量は0.0100%以下にすることが好ましく、0.0060%以下とすることが更に好ましい。Nの含有量の下限は特に設けないが、0.0003%未満に制限することは製錬工程における負荷が大きく、経済的に好ましくないため、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0027】
[O:0.0050%以下]
Oは一般的な製鉄法において不可避的に含まれる元素である。多量のOが含まれると粗大な酸化物が形成され、鋼板の靭性が損なわれるため、Oの含有量は0.0050%以下に制限することが好ましい。また、Oは溶接部の靭性を損なう元素であり、この観点から、Oの含有量は0.0035%以下にすることが好ましく、0.0025%以下とすることが更に好ましい。Oの含有量の下限は特に設けないが、0.0002%未満に制限することは製錬工程における負荷が大きく、経済的に好ましくないため、0.0002%以上とすることが好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係る鋼板の基本化学組成は上記のとおりである。さらに、当該鋼板は、必要に応じて以下の任意選択元素のうち1種または2種以上を含有してもよい。鋼板は、Cu:0~1.00%、Ni:0~2.00%、Cr:0~1.00%、Mo:0~1.00%およびW:0~0.50%からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。また、鋼板は、Nb:0~0.500%、Ti:0~0.500%およびV:0~1.000%からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。また、鋼板は、B:0~0.0100%を含有してもよい。また、鋼板は、Sn:0~0.500%およびSb:0~0.500%からなる群から選択される1種または2種を含有してもよい。また、鋼板は、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、Hf:0~0.0100%、Te:0~0.0100%、Sr:0~0.0100%およびREM:0~0.0100%からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。以下、これらの任意選択元素について詳しく説明する。
【0029】
[Cu:0~1.00%]
Cuは、Niと共に鋼板とスケールの密着性を高め、鋼板のレーザー切断性を高める元素である。Cuの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上であってもよい。この効果を得るには、Cuの含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.04%以上とすることが更に好ましい。一方、Cuの含有量が過剰であると、鋳片の表面に疵が発生し、圧延に支障が生じる懸念があるため、Cuの含有量は1.00%以下に制限することが好ましい。また、Cuは溶接性を劣化させるため、Cuの含有量は0.50%以下とすることが更に好ましい。
【0030】
[Ni:0~2.00%]
Niは、Cuと共に鋼板とスケールの密着性を高め、鋼板のレーザー切断性を高める元素である。Niの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上であってもよい。この効果を得るには、Niの含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.04%以上とすることが更に好ましい。一方、Niの含有量が過剰であると、鋳片の表面に疵が発生し、圧延に支障が生じる懸念があるため、Niの含有量は2.00%以下に制限することが好ましい。また、Niは溶接性を劣化させるため、Niの含有量は1.00%以下とすることが更に好ましい。
【0031】
[Cr:0~1.00%]
Crは強度の向上に寄与する元素である。Crの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上または0.01%以上であってもよい。また、Crはファイアライトの形成を促進する元素であり、この観点から、Crの含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.15%以上とすることが更に好ましい。一方、Crを過度に含有すると、粗大なCr炭窒化物が生成し、鋼板の靭性が大きく劣化する懸念がある。この観点から、Crの含有量は1.00%以下に制限することが好ましい。また、Crは溶接性および溶接部の靭性を損なう元素であり、この観点からCrの含有量は0.60%以下であることが好ましい。
【0032】
[Mo:0~1.00%]
Moは強度の向上に寄与する元素である。Moの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上または0.01%以上であってもよい。強度を高める観点から、Moの含有量は0.02%以上とすることが好ましく、0.05%以上とすることが更に好ましい。一方、Moを過度に含有すると、溶接性および溶接部の靭性が損なわれる懸念がある。この観点から、Moの含有量は1.00%以下に制限することが好ましく、0.30%以下であることが更に好ましい。
【0033】
[W:0~0.50%]
Wは強度の向上に寄与する元素である。Wの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上または0.003%以上であってもよい。強度を高める観点から、Wの含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.15%以上とすることが更に好ましい。一方、Wを過度に含有すると、溶接性および溶接部の靭性が損なわれる懸念がある。この観点から、Wの含有量は0.50%以下に制限することが好ましく、0.30%以下であることが更に好ましい。
【0034】
[Nb:0~0.500%]
Nbは強度の向上に寄与する元素である。Nbの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上または0.003%以上であってもよい。強度を高める観点から、Nbの含有量は0.005%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることが更に好ましい。一方、Nbを過度に含有すると、粗大なNb炭窒化物が生成し、鋼板および溶接部の靭性が大きく劣化する懸念がある。この観点から、Nbの含有量は0.500%以下に制限することが好ましく、0.100%以下であることが更に好ましい。
【0035】
[Ti:0~0.500%]
Tiは強度の向上に寄与する元素である。Tiの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上または0.003%以上であってもよい。強度を高める観点から、Tiの含有量は0.005%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることが更に好ましい。一方、Tiを過度に含有すると、粗大なTi炭窒化物が生成し、鋼板および溶接部の靭性が大きく劣化する懸念がある。この観点から、Tiの含有量は0.500%以下に制限することが好ましく、0.200%以下であることが更に好ましい。
【0036】
[V:0~1.000%]
Vは強度の向上に寄与する元素である。Vの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.001%以上または0.003%以上であってもよい。強度を高める観点から、Vの含有量は0.030%以上とすることが好ましく、0.080%以上とすることが更に好ましい。一方、Vを過度に含有すると、溶接性および溶接部の靭性が損なわれる懸念がある。この観点から、Vの含有量は1.000%以下に制限することが好ましく、0.600%以下であることが更に好ましい。
【0037】
[B:0~0.0100%]
Bは強度の向上に寄与する元素である。Bの含有量は0%であってもよいが、含有させる場合には0.0001%以上であってもよい。強度を高める観点から、Bの含有量は0.0003%以上とすることが好ましく、0.0008%以上とすることが更に好ましい。一方、Bを過度に含有すると、溶接性および溶接部の靭性が損なわれる懸念がある。この観点から、Bの含有量は0.0100%以下に制限することが好ましく、0.0035%以下であることが更に好ましい。
【0038】
[Sn:0~0.500%]
Snは、鋼板とスケールの界面に濃化し、ファイアライトの形成を促進する効果がある。Snの含有量は0%であってもよいが、スケールの密着性を高め、レーザー切断性を向上させるため、Snを0.500%以下含有しても構わない。この効果を十分に得るには、Snの含有量は0.001%以上または0.005%以上であることが好ましく、0.025%以上であることが更に好ましい。一方、Snを多量に含有すると、溶接性および溶接部の靭性が損なわれるため、Snの含有量は0.500%以下に制限することが好ましい。この観点から、Snの含有量は0.300%以下とすることが好ましく、0.200%以下であることが更に好ましい。
【0039】
[Sb:0~0.500%]
Sbは、鋼板とスケールの界面に濃化し、ファイアライトの形成を促進する効果がある。Sbの含有量は0%であってもよいが、スケールの密着性を高め、レーザー切断性を向上させるため、Sbの含有量は0.001%以上または0.003%以上であることが好ましい。この効果を十分に得るには、Sbの含有量は0.005%以上であることが好ましく、0.025%以上であることが更に好ましい。一方、Sbを多量に含有すると、溶接性および溶接部の靭性が損なわれるため、Sbの含有量は0.500%以下に制限することが好ましい。この観点から、Sbの含有量は0.300%以下とすることが好ましく、0.200%以下であることが更に好ましい。
【0040】
[Ca:0~0.0100%]
[Mg:0~0.0100%]
[Hf:0~0.0100%]
[Te:0~0.0100%]
[Sr:0~0.0100%]
[REM:0~0.0100%]
Ca、Mg、Hf、Te、SrおよびREMは、硫化物を微細化し、鋼板の靭性を向上させる元素である。Ca、Mg、Hf、Te、SrおよびREMの含有量は0%であってもよいが、この効果を得るには、Ca、Mg、Hf、Te、SrおよびREMの含有量は、それぞれ0.0001%以上または0.0003%以上であることが好ましい。一方、これらの元素を過度に含有すると、効果が飽和し、それゆえCa、Mg、Hf、Te、SrおよびREMを必要以上に鋼板に含有させることは製造コストの上昇を招く。従って、Ca、Mg、Hf、Te、SrおよびREMの含有量は0.0100%以下に制限することが好ましく、0.0040%以下であることが更に好ましい。ここで、REMとは、Sc、Yおよびランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLu)の総称であり、これら17元素の含有量の総計をREMの含有量とする。
【0041】
本発明の実施形態に係る鋼板において、上記の元素以外の残部はFeおよび不純物からなる。不純物とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分等である。
【0042】
鋼板の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、鋼板の化学組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。CおよびSは燃焼―赤外線吸収法を用いる。
【0043】
続いて、本発明の実施形態に係る厚鋼板について、そのスケールにおける特徴を述べる。
【0044】
本発明の実施形態に係る厚鋼板におけるスケールの模式図を図1に示す。図1を参照すると、本発明の実施形態に係る厚鋼板10は、鋼板(地鉄)11と、当該鋼板の表面に形成されたスケール12とを含み、スケール12は、スケール12と鋼板11の界面13に形成された層状ファイアライト14を有し、さらに層状マグネタイト15を有し、かつ、その内部にき裂16を有する。
【0045】
[き裂の板厚方向最大長さ:スケールの平均厚さの50%以下]
本発明の実施形態に係る厚鋼板は、表層にあるスケール内部に存在するき裂の板厚方向に対する大きさを一定の範囲に制限し、スケールの剥離を抑制し、レーザー切断性を改善する。ここで、き裂とはボイド(空隙)を含む、スケールおよび金属部の存在しない空間を指し、その形態は問わない。スケールに複数存在するき裂のうち、板厚方向に対する長さが最大であるき裂における板厚方向に対する長さを、スケールの平均厚さに比してその50%以下に制限する。き裂の板厚方向に対する最大長さは小さいほどレーザー切断性が改善するため、その長さをスケールの平均厚さに比して43%以下とすることが好ましく、35%以下とすることが更に好ましい。き裂の板厚方向に対する最大長さの下限は特に設定しないが、スケールの平均厚さの15%未満に管理することは実際の生産工程では困難であり、特殊な装置によって表層の酸化挙動を制御する必要が生じるため、経済的に好ましくない。したがって、き裂の板厚方向最大長さはスケールの平均厚さの15%以上であってもよい。
【0046】
[層状ファイアライトの平均厚さ:0.3~2.0μm]
[層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率:50%以上]
本発明の実施形態に係る厚鋼板は、層状ファイアライトを有し、かつ、その層状ファイアライトをスケール/鋼板界面に配することにより、そこから成長するスケールを均質にし、更に、スケールの密着性を高めることによって、レーザー切断性が改善している。この層状ファイアライトの平均厚さが過剰に薄いと、スケールの密着性を高める効果が不足し、レーザー切断性が十分に改善しない。一方、この層状ファイアライトの平均厚さが過剰に厚いと、レーザー照射による熱応力によってファイアライトおよびその近傍において割れが発生しやすくなり、却ってスケールの密着性が劣化し、レーザー切断性が劣化する。以上の観点から、層状ファイアライトの平均厚さは0.3~2.0μm以下とし、0.5~1.7μm以下とすることが好ましい。
【0047】
層状ファイアライトが前記効果を発揮するには、その層状ファイアライトがスケール/鋼板界面に配置され、同界面が層状ファイアライトによって十分に覆われている必要がある。同界面の層状ファイアライトによる被覆が不十分であると、同界面に層状ファイアライトが存在しない箇所におけるスケールの剥離が抑制できず、スケールの密着性が低下し、更に、同界面に層状ファイアライトが存在する箇所としない箇所とでスケールの成長挙動が異なり、スケール厚の偏差が生じることにより、レーザー切断性が劣化する。上記の観点から、本発明の実施形態に係る厚鋼板において、層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率は50%以上とする。層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率は高いほど好ましく、65%以上とすることが好ましく、80%以上とすることが更に好ましく、100%とすることが最も好ましい。
【0048】
[全ファイアライトに占める層状ファイアライトの割合:50%以上]
スケール内のファイアライトには、前記層状に存在するファイアライトの他、スケール内の他の相(ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイト)の内部に断片的に存在するものも存在する。このような断片的なファイアライトは、スケール/鋼板界面に存在しないため、スケールの密着性およびスケール成長の均質性を高める効果が発揮されず、一方でスケール内部の異物として働くため、却ってスケールの密着性を劣化させ、レーザー切断性を損なう。そのため、このような断片的なファイアライトの割合は低減することが好ましい。具体的には、スケール内の全てのファイアライトのうち、前記層状に存在するファイアライトの割合を50%以上とすることが好ましく、65%以上とすることがより好ましく、80%以上とすることが更に好ましい。全ファイアライトに占める層状ファイアライトの割合は、100%でも問題無いが、80%以上としても前記効果は飽和するため、100%に到達せずとも本発明の実施形態に係る厚鋼板の特性は損なわれない。
【0049】
[層状マグネタイトの平均厚さ:2.0μm以上]
本発明の実施形態に係る厚鋼板におけるスケールは、層状のマグネタイトをさらに有する。マグネタイトはレーザーによる入熱の吸熱性に優れ、また、密着性にも優れることから、層状マグネタイトとしてスケール内に均質に存在することで、レーザー切断性を高めることができる。この効果を十分に得るには、層状マグネタイトの平均厚さは2.0μm以上とする必要があり、3.5μm以上とすることが好ましい。層状マグネタイトの平均厚さの上限は特に設定しないが、30.0μm以上とするには多量の酸素を供給する必要があり、スケール内のき裂が粗大化する場合があるため、30.0μm以下とすることが好ましく、20.0μm以下とすることが更に好ましい。
【0050】
本発明の実施形態に係る厚鋼板におけるスケールは、上記特徴を満たす範囲において、ヘマタイト(Fe23)、ウスタイト(FeO)、合金酸化物、フェライト、金属粒をさらに含んでいても構わない。
【0051】
[スケール厚さ偏差:0.25以下]
本発明の実施形態に係る厚鋼板は、スケール厚さが均質であることにより、熱応力の発生が抑制され、スケール密着性が高まり、優れたレーザー切断性を有する。スケールの厚さが大きく変動すると、レーザーの照射に伴うスケールの溶融によって消費される熱量が不規則に変化し、熱応力が不規則に発生して、スケール密着性が劣化する。この観点から、本発明の実施形態に係る厚鋼板では、測定されるスケールの最大厚さと最小厚さの差を平均厚さで除したスケール厚さ偏差を0.25以下に制限する。スケール厚さ偏差が小さいほどスケール密着性は高まり、スケール厚さ偏差を0.20以下とすることが好ましく、0.15以下とすることがより好ましく、0.10以下とすることが更に好ましい。スケール厚さ偏差の下限は特に設定しないが、0.03未満となると、スケール厚さ偏差を小さくする効果が飽和するため、経済的観点からは0.03以上とすることが好ましい。
【0052】
ここまで述べたスケールの特徴の評価は、スケールの断面における結晶方位解析ならびに組織観察によって行う。具体的には、厚鋼板の幅方向に1/2の箇所から小片を切り出し、圧延方向に平行で板面に垂直な断面を観察面とし、観察面に湿式研磨およびコロイダルシリカによる研磨を施して鏡面とし、厚鋼板の最表面からスケール/鋼板界面までの区間において、電界放出型走査型電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope(FE-SEM))を用いた観察と、FE-SEMに搭載した電子線後方散乱回折法(Electron Backscattering Diffraction:EBSD法)を用いた結晶方位解析装置による解析と、更に、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalizer:EPMA)による元素マッピングとを行う。
【0053】
EBSD法を用いた結晶方位解析により、図2に示す通り、スケール内部でのマグネタイトの分布が分かる。また、EBSD法により、ファイアライトの存在も検出されるが、ファイアライトの結晶構造は複雑であり、EBSD法によって得られる検出パターンが微弱となるため、図2に示すマップからファイアライトの厚さを求めることはできない。そこで、EBSD法によってファイアライトが検出された箇所において、EPMAによって元素マッピングを行うと、図3に示す通り、Siの濃化部が観察される。ここで、各測定点において、検出されたSiの濃度が5.0質量%以上となる測定点をファイアライトと判断する。前記マグネタイトおよび前記ファイアライトは、各相と判定される測定点が隣接して存在しており、圧延方向に沿って20μm以上連結している領域を、層状の領域として判断する。また、図4に示す通り、前記元素マッピングによって得られる酸素濃度のマップから判断されるスケール/鋼板界面に対し、その界面から板厚方向に2.0μm以内にファイアライトが存在する場合、前記スケールのその箇所はファイアライトに被覆されていると判断する。更に、鉄、酸素、および、置換型元素(Si、Mn、Ni、CuおよびCr)の元素濃度マップから、これらの元素量の合計が50at%未満となる測定点を空隙と判断し、これらがスケール中で連続して存在する箇所を、スケール中のき裂であると判断する。
【0054】
各観察サンプルにおいて、観察面における表層の評価は、圧延方向に平行な長さ100μmの範囲において行い、EBSD法による結晶方位解析およびEPMAによる元素マッピングの測定ステップは0.3μmとする。スケールおよびスケール内の各層の厚さは、各観察サンプルにおいて板面に垂直な方向に任意の5本の線を引き、それぞれの線上においてスケールおよびスケール内の各層に対応する線分の長さを評価し、5つの線における値の単純平均によって同サンプルにおけるスケール内の層状マグネタイトおよび層状ファイアライトの厚さとする。また、同様に5箇所で測定したスケール厚に対し、そのうちで最大の値と最小の値の差を求め、この差を5箇所のスケール厚の平均値で除し、スケール厚の偏差とする。また、図4に示されるような酸素濃度のマップから判断されるスケール/鋼板界面の総長さに対し、図3に示されるようなSi濃度のマップから判断されるファイアライトに被覆されたスケール/鋼板界面の総長さが占める割合を、層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率[%]とする。
【0055】
本発明の実施形態に係る厚鋼板は、レーザー切断の適用が可能である任意の厚さを有することができ、特に限定されないが、例えば6~40mmの板厚を有していてもよい。板厚は、例えば8mm以上、10mm以上、15mm以上または20mm以上であってもよい。同様に、板厚は、例えば35mm以下、30mm以下または25mm以下であってもよい。
【0056】
続いて、本発明の実施形態に係る厚鋼板について、その好ましい製造方法について説明する。以下の説明は、本発明の実施形態に係る厚鋼板を製造するための特徴的な方法の例示であって、当該厚鋼板を、以下に説明する製造方法によって製造されるものに限定するものではない。
【0057】
本発明の実施形態に係る厚鋼板の製造方法は、
スラブを加熱する工程であって、前記スラブの表面温度が(T0+20)℃~1300℃となる最高加熱温度まで加熱し、T0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間が下記式(2)を満たすように制御される加熱工程、
前記スラブを熱間圧延する工程であって、圧延完了温度が1050℃~(T0-30)℃であり、累積圧下率が15~30%である圧延を施した後、1000℃~(T0-30)℃の温度範囲で高圧水デスケーリングを実施し、次いで1パスでの圧下率が各パスでの圧延前の板厚に比して30%以下である圧延を2回以上施し、前記高圧水デスケ―リング後の前記圧延のパス間時間が下記式(3)を満たすよう制御し、最終圧延パスにおける圧延完了温度を850℃以上とする熱間圧延工程、および
得られた鋼板を冷却する工程であって、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間が下記式(4)を満たすように制御され、水冷停止温度を550~650℃とする冷却工程
を含むことを特徴としている。
0は下記式(1)で求められる温度である。
0=1175-8.4[Mn]-135[P]0.5-52[Al]-24[Cr] ・・・式(1)
[Mn]、[P]、[Al]および[Cr]はスラブにおけるそれぞれの元素の含有量[質量%]である。
1.0≦x10≦10.0 ・・・式(2)
1=D1・(T1 3+D2・T1 2+D3・T1+D4)・{1-exp{D5・(T1-T0))}0.5・Δt0.5
n=xn 2・D1 ー2・(Tn+1 3+D2・Tn+1 2+D3・Tn+1+D4-2・{1-exp{D5・(Tn+1-T0))}-1
n=D1・(Tn 3+D2・Tn 2+D3・Tn+D4)・{1-exp{D5・(Tn-T0))}0.5・(tn-1+Δt)0.5
nは、加熱工程においてスラブの表面温度がT0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のファイアライトの沈降度合いを表す指標であり、nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示し、
1、D2、D3、D4およびD5は定数であり、それぞれ4.00×10-9、-4.22×103、5.93×106、-2.74×109および-1.85×10-2であり、
nは10等分した区間のn番目の領域における平均スラブ温度[℃]であり、
Δtは前記経過時間の10分の1の時間[秒]であり、
10は、上記計算式によりx1からx2、x3・・・と順に計算することで得られる。
n≦1.00 ・・・式(3)
m=ym-1・exp[E1・km-1・exp{E2・(Jm-1+Jm)}]+E3・Rm・exp(E4・Jm
0=0.00
mは、高圧水デスケーリング実施後から圧延完了までに施す全n回の圧延において、m回目において生じるスケールのき裂の程度を表す指標であり、
1、E2、E3およびE4は定数であり、それぞれ-2.57×10-10、-1.02×10-2、2.70×101および-8.33×10-3であり、
mはm回目の圧延からm+1回目の圧延までの経過時間[秒]であり、
mはm回目の圧延を施す圧延材温度[℃]であり、
mはm回目の圧延における圧延前の板厚に対する圧下率[%]であり、
nは、上記式によりy1からy2、y3・・・と順に計算することで得られる。
1.0≦z10≦10.0 ・・・式(4)
1=F1・exp{F2/(H1-F3)}・(-H1 2+F41+F50.5・Δp0.5
n=zn 2・F1 -2・exp{2・F2/(H1-F3)}・(-Hn+1 2+F4n+1+F5-1
n=F1・exp{F2/(Hn-F3)}・(-Hn 2+F4n+F50.5・(pn-1+Δp)0.5
nは、冷却工程において熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のスケールの成長度合いを表す指標であり、nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示し、
1、F2、F3、F4およびF5は定数であり、それぞれ1.63×10-6、-2.50×102、3.25×102、2.94×102および1.36×106であり、
nは10等分した区間のn番目の領域における平均鋼板温度[℃]であり、
Δpは前記経過時間の10分の1の時間[秒]であり、
10は、上記計算式によりz1からz2、z3・・・と順に計算することで得られる。
【0058】
[鋳造工程]
本発明の実施形態に係る厚鋼板に適用されるスラブの製造方法は特に指定せず、例えば、連続鋳造法、あるいは、分塊法によって製造することができる。また、レーザー切断性の安定化や、製品の外観向上などを目的として、鋳造後のスラブ表面を研削し、スケールおよびスケール/鋼板界面を除いても構わない。
【0059】
[加熱工程]
製造したスラブを、熱間圧延するため、最高加熱温度を、(T0+20)℃~1300℃の範囲とする加熱処理に供する。この加熱処理によって、スラブ表面のスケール内のファイアライトをスケール/鋼板界面へと沈降させ、スケール/鋼板界面に層状ファイアライトを形成する。T0はスケール内部においてファイアライトの沈降が開始する指標となる温度であり、下記式(1)で求められ、加熱温度が(T0+20)℃を下回ると、スケール/鋼板界面において十分に層状ファイアライトを得ることができない。一方、加熱温度が過剰に高まると、スケールが不均質に成長し、加熱後のデスケーリングにおいて十分にスケールを除去することができず、層状ファイアライトの上にスケールが残存し、スケールの厚さが不均質となってレーザー切断性が劣化する。このため、加熱温度は1300℃以下に制限する。以上の観点から、加熱温度は(T0+20)℃~1300℃に制限し、更に、(T0+40)℃~1270℃とすることが好ましい。
0=1175-8.4[Mn]-135[P]0.5-52[Al]-24[Cr] ・・・式(1)
ここで、[Mn]、[P]、[Al]および[Cr]はスラブにおけるそれぞれの元素の含有量[質量%]である。
【0060】
加熱工程におけるスケール内でのファイアライトの沈降挙動には、加熱温度に加え、加熱される時間も大きく影響するため、加熱は、T0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間が下記式(2)を満たすように施す。ここで、式(2)のx10は後述する計算によって求められる、加熱過程での刻々の温度に応じた時間経過によるスケール成長への影響の変化を考慮した、スラブ表面でのファイアライトの沈降度合いを表す指標である。経過時間が短すぎ、x10が1.0を下回ると、スケール/鋼板界面における層状ファイアライトの形成度合い不十分となり、レーザー切断性が損なわれる。このため、x10を1.0以上とする。層状ファイアライトの形成を促し、レーザー切断性を更に改善するため、x10は1.5以上とすることが好ましく、2.0以上とすることが更に好ましい。一方、経過時間が長すぎると、スケールの成長によってデスケーリング後にスケールが不均質に残存し、その後のスケールの形成が不均質となり、レーザー切断性が損なわれる。このため、x10は10.0以下に制限し、9.0以下とすることが好ましく、8.0以下とすることが更に好ましい。
1.0≦x10≦10.0 ・・・式(2)
1=D1・(T1 3+D2・T1 2+D3・T1+D4)・{1-exp{D5・(T1-T0))}0.5・Δt0.5
n=xn 2・D1 ー2・(Tn+1 3+D2・Tn+1 2+D3・Tn+1+D4-2・{1-exp{D5・(Tn+1-T0))}-1
n=D1・(Tn 3+D2・Tn 2+D3・Tn+D4)・{1-exp{D5・(Tn-T0))}0.5・(tn-1+Δt)0.5
【0061】
これらの計算は、加熱工程においてスラブの表面温度(スラブ温度ともいう)がT0℃を超えてから加熱工程完了までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のファイアライトの沈降度合い(xn)を評価するものであり、添字nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示す。D1、D2、D3、D4およびD5は定数であり、それぞれ4.00×10-9、-4.22×103、5.93×106、-2.74×109および-1.85×10-2である。Tnは10等分した区間のn番目の領域における平均スラブ温度[℃]、すなわち、n番目の領域全体における所定時間ごと、例えば10秒ごとの温度測定値の算術平均である。Δtは、前記経過時間の10分の1の時間[秒]である。式(2)におけるx10は、上記計算式により、x1からx2、x3・・・と順に計算することで得られる。
【0062】
[熱間圧延工程]
前記加熱処理を施したスラブの表面には、剥離しやすい不均質なスケールが存在する。よって、熱間圧延および高圧水によるデスケーリングを施し、層状ファイアライトの上に成長した不均質なスケールを除去し、鋼板の表面に層状ファイアライトを露出させることで、その後のスケールの形成挙動を均質化し、その後に適正な圧延および冷却処理を施すことによって、本発明の実施形態に係る厚鋼板におけるスケールの構造を得ることができる。
【0063】
デスケーリングによってスケールを十分に除去するため、デスケーリングに先立って熱間圧延を施し、層状ファイアライトの上に成長したスケールを破砕する。デスケーリングに先立つ圧延は、圧延完了温度が1050℃~(T0-30)℃の温度範囲において、1回ないし複数回に分けて施し、その圧下率は、スラブ厚に対して、累積で15~30%とする。すなわち、デスケーリングに先立つ圧延を複数回に分けて施す場合には、スラブ厚に対する当該複数回の圧延完了後の板厚によって求められる累積圧下率を15~30%とする。デスケーリング前の圧延完了温度が1050℃を下回ると、層状ファイアライトがその上のスケールと共に破砕され、デスケーリングによって層状ファイアライトが除去され、レーザー切断性が劣化する。一方、デスケーリング前の圧延完了温度が(T0-30)℃を上回ると、層状ファイアライトとその上に成長するスケールとの密着性が高く、スケールの破砕が不十分となり、デスケーリング後のスケールの残存度合いが不均質となり、その後のスケールの形成挙動が不均質となって、レーザー切断性が劣化する。
【0064】
また、上記熱間圧延の累積圧下率が15%未満であると、スケールの破砕が不十分となり、デスケーリング後にスケールが不均質に残存し、その後のスケールの形成挙動が不均質となって、レーザー切断性が劣化する。一方、当該熱間圧延の累積圧下率が30%を超えると、層状ファイアライトが破砕し、デスケーリングによって層状ファイアライトが除去され、レーザー切断性が劣化する。層状ファイアライトの破砕を抑制し、スケール内部への塊状のファイアライトの形成を避けるため、当該熱間圧延の累積圧下率は25%以下とすることが好ましい。
【0065】
上記熱間圧延の後、得られた圧延材に対して高圧水によるデスケーリングを施す。デスケーリングは、例えば衝突圧が10~15MPaの高圧水を用いて実施することができる。ここで、高圧水デスケーリングの実施温度が1000℃を下回ると、一部の不均質に成長したスケールが残存し、その後のスケールの形成が不均質となる。一方、高圧水デスケーリングの実施温度が(T0-30)℃を超えると、高圧水デスケーリングによって一部の層状ファイアライトが剥離する。上記の観点から、上記熱間圧延後の高圧水デスケーリングの実施温度は、1000℃~(T0-30)℃の範囲に制限する。
【0066】
上記デスケーリング後、鋼板の表層は主に層状ファイアライトに覆われ、そこからウスタイトを主体とするスケールが形成される。鋼板を用途に応じた厚さとするため、圧延を施すが、この圧延の1パス当たりの圧下率が30%を超えると、形成されるスケールに粗大なき裂が生じ、レーザー切断性が損なわれるため、1パス当たりの圧下率を30%以下に制限する。1パス当たりの圧下率が小さいほど、スケールに形成されるき裂は小さくなり、この観点からは1パス当たりの圧下率を25%以下に制限することが好ましく、20%以下とすることが更に好ましい。一方、全ての圧延において圧下率を過剰に小さくすると、用途に応じた板厚を得るための圧延回数が嵩み、圧延を施す温度が低下し、圧延完了温度が過剰に低下するため、高圧水デスケーリング後の圧延における平均圧下率は10%以上とすることが好ましい。
【0067】
圧延の1パス当たりの圧下率を30%以下とすることで、形成されるスケールに生じるき裂の大きさを抑制することができるが、連続して圧延を施すと、そのき裂が成長し、レーザー切断性が損なわれる。そのため、圧延を連続して施すに当たり、その圧延と圧延の間に十分な経過時間を置くことにより、スケールの成長を促し、形成されたき裂を埋めることで、粗大なき裂の形成を抑制し、レーザー切断性を改善することができる。以上の観点から、上記高圧水デスケーリング後に施す圧延において、圧延と圧延の間のパス間時間が、下記式(3)を満たすように圧延を行う。
【0068】
上記高圧水デスケーリング後、層状ファイアライトの一部が圧延によって破砕し、スケール内に取り込まれ、粒状のファイアライトとしてスケール中に残存することを防ぐため、上記連続圧延の途中で1回あるいは2回以上の高圧水デスケーリングを施し、余剰のスケールを剥離しても構わない。
n≦1.00 ・・・式(3)
m=ym-1・exp[E1・km-1・exp{E2・(Jm-1+Jm)}]+E3・Rm・exp(E4・Jm
0=0.00
【0069】
mは高圧水デスケーリング実施後から圧延完了までに施す全n回の圧延において、そのm回目において生じるスケールのき裂の程度を表す指標であり、上記式に従ってy1から順にy2、y3・・・と連続して計算することによって圧延完了時のき裂の程度を表すynを得ることができる。ynが大きいと、スケール中のき裂は大きくなるため、上記式(3)の通り、ynの値を1.00以下に制限する。スケール中のき裂を小さくするには、ynの値は0.70以下とすることが好ましく、0.50以下とすることがさらに好ましい。ここで、kmはm回目の圧延からm+1回目の圧延までの経過時間[秒]であり、Jmはm回目の圧延を施す鋼鈑温度[℃]であり、Rmはm回目の圧延における同圧延前の板厚に対する圧下率[%]である。また、E1、E2、E3およびE4は定数であり、それぞれ-2.57×10-10、-1.02×10-2、2.70×101および-8.33×10-3である。
【0070】
高圧水デスケーリング後の圧延の最終圧延パスにおける圧延完了温度は850℃以上とする。850℃を下回る温度で圧延を施すと、一部のスケールが剥離し、更に、剥離したスケールが押し込まれ、スケールの厚さが不均質となり、レーザー切断性が損なわれる。前記圧延完了温度は875℃以上とすることが好ましく、900℃以上とすることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、最終圧延パスにおける圧延完了温度は1000℃以下であってもよい。
【0071】
[冷却工程]
熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間を制御し、スケール内部に形成されたき裂のサイズを低減しつつ、更に、スケールの内部に適量のマグネタイトを得るため、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間は式(4)によって管理する。ここで、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間が短すぎ、z10が1.0を下回ると、スケールの成長が過度に抑制され、マグネタイトが十分に形成されず、レーザー切断性が損なわれる。このため、z10を1.0以上とする。一方、熱間圧延工程完了から水冷開始までの時間が長すぎ、z10が10.0を超えると、スケールに過度に酸素が供給され、一部のき裂が却って粗大化する。このため、z10を10.0以下とする。スケールの構造を整え、レーザー切断性を高めるには、z10は2.0以上、8.0以下とすることが好ましく、3.0以上、7.0以下とすることが更に好ましい。
1.0≦z10≦10.0 ・・・式(4)
ここで、znは下記の計算によって求められる。
1=F1・exp{F2/(H1-F3)}・(-H1 2+F41+F50.5・Δp0.5
n=zn 2・F1 -2・exp{2・F2/(H1-F3)}・(-Hn+1 2+F4n+1+F5-1
n=F1・exp{F2/(Hn-F3)}・(-Hn 2+F4n+F50.5・(pn-1+Δp)0.5
【0072】
これらの計算は、冷却工程において熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間を10等分し、各区間が完了した後のスケールの成長度合い(zn)を評価するものであり、添字nは10等分した区間のn番目に当たる計算であることを示す。F1、F2、F3、F4およびF5は定数であり、それぞれ1.63×10-6、-2.50×102、3.25×102、2.94×102および1.36×106である。Hnは10等分した区間のn番目の領域における平均鋼板温度[℃]、すなわち、n番目の領域全体における所定時間ごとの温度測定値の算術平均である。Δpは、前記経過時間の10分の1の時間[秒]である。式(4)におけるz10は、上記計算式により、z1からz2、z3・・・と順に計算することで得られる。
【0073】
水冷は、鋼板温度が550~650℃に達した時点で停止する。この水冷停止温度が高すぎると、スケールが不均質に成長し、スケールの厚さが不均質となってレーザー切断性が劣化する。一方、水冷停止温度が低すぎると、水冷中に熱応力によってスケールにき裂が発生し、レーザー切断性が損なわれる。このため、水冷停止温度は550~650℃とする。
【0074】
本発明の実施形態に係る厚鋼板の製造方法では、水冷完了後の鋼板の冷却条件は特に定めないが、水冷後に過度に保熱すると鋼板の靭性が損なわれる懸念があり、放冷ないし空冷することが好ましい。あるいは、水冷後ないし水冷中の鋼板をコイル状に巻き取り、更に、上記の製造方法の特徴を満たした上で、水冷、空冷、および/または放冷しても構わない。また、鋼板を冷却完了後、本発明の実施形態に係る厚鋼板の特徴を損なわない範囲で、焼戻処理を施しても構わない。
【0075】
本発明の実施形態に係る厚鋼板の製造方法では、上記の加熱工程、熱間圧延工程、冷却工程に加えて、ホットレベラー等による平坦化工程を更に含んでいてもよい。
【0076】
本発明の実施形態に係る厚鋼板の製造方法によって製造された厚鋼板は、鋼板と、前記鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、前記スケール内に存在するき裂の板厚方向最大長さが前記スケールの平均厚さの50%以下であり、前記スケールが前記スケールと前記鋼板の界面に形成された層状ファイアライトを含み、前記層状ファイアライトの平均厚さが0.3~2.0μmであり、前記層状ファイアライトによる前記界面の被覆率が50%以上であり、前記スケールが層状マグネタイトをさらに含み、前記層状マグネタイトの平均厚さが2.0μm以上であり、前記スケールの厚さ偏差が0.25以下であるため、レーザー切断作業におけるレーザー照射時のスケールの不規則な剥離を抑制または防止し、安定して任意の形状への切断を進めることができ、造成、建築、産業機械、橋梁等の構造物に供することができる。
【0077】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用する一条件例である。本発明は、これらの条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用しうる。
【実施例0078】
以下の実施例では、本発明の実施形態に係る厚鋼板を種々の条件下で製造し、得られた厚鋼板に対してレーザーを照射した際のスケール剥離の発生度合いについて調べた。
【0079】
まず、表1に示す化学組成を有するスラブを用い、表2に示す条件で加熱工程、熱間圧延工程および冷却工程を実施することで、実施例および比較例を含む、実験例としての厚鋼板を得た。なお、実験例1、8、10、36、51および74は、加熱からデスケーリングまでの間に誘導加熱による再加熱を施す例である。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2-1】
【0082】
【表2-2】
【0083】
[スケール密着性の評価]
得られた厚鋼板のスケール密着性は、厚鋼板にレーザーを照射した状態を模擬する試験によって評価した。まず、表層にスケールを含む厚鋼板を100mm×100mmに切断し、室温(20~30℃)に保持した厚鋼板表面の中央部に下記の条件でレーザーを長さ10mmに渡って照射し、表面のレーザー照射痕の中央部における長さ1mmの領域を光学顕微鏡によって観察し、同領域におけるスケールの剥離度合いを評価した。1度の照射によって、当該箇所においてスケールが剥離する面積率が30%を超えた場合を「×」、5%超30%以下を「○」、5%以下を「◎」とし、「○」または「◎」が得られた厚鋼板を、スケール密着性に優れ、レーザー照射時のスケール剥離が抑制または防止された厚鋼板であるとして、合格と判断した。その結果を表3に示す。
レーザー出力:500W
パルス周波数:60kHz
集光径:0.70mm
照射速度:3m/秒
【0084】
【表3-1】
【0085】
【表3-2】
【0086】
表1~3に記載する実験例において、実験例25は、加熱工程におけるスラブの最高加熱温度が低く、スケール/鋼板界面において十分な層状ファイアライトが得られず、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例14は、加熱工程におけるスラブの最高加熱温度が高く、スケールの厚さ偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例17は、加熱工程における加熱時間が短く、式(1)が満たされない場合であり、スケール/鋼板界面において十分な層状ファイアライトが得られず、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例33は、加熱工程における加熱時間が長く、式(1)が満たされない場合であり、スケールの厚さ偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例36は、デスケーリング前の圧延完了温度が低く、層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率が低く、レーザー切断性が劣位となった比較例である。また、実験例3は、デスケーリング前の圧延完了温度が高く、スケールの厚さ偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例73は、デスケーリングに先立つ圧延の累積圧下率が小さく、スケール厚さの偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例22は、デスケーリングに先立つ圧延の累積圧下率が大きく、層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率が低く、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例44は、デスケーリングの実施温度が低く、スケールの厚さ偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例74は、デスケーリングの実施温度が高く、層状ファイアライトによるスケール/鋼板界面の被覆率が低く、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例6は、デスケーリング後の圧延における最大圧下率が大きく、スケール中のき裂が大きくなり、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例11は、デスケーリング後の圧延において、圧延パス間の経過時間が短く、式(3)が満たされない場合であり、スケール中のき裂が大きくなり、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例52および59は、最終圧延パスにおける圧延完了温度が低く、スケール厚さの偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例47は、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間が短く、式(4)が満たされない場合であり、層状マグネタイトが十分に得られず、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例64は、熱間圧延工程完了から水冷開始までの経過時間が長く、式(4)が満たされない場合であり、スケール中のき裂が大きくなり、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例39は、水冷停止温度が低い例であり、スケール中のき裂が大きくなり、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例28は、水冷停止温度が高い例であり、スケール厚さの偏差が大きく、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
実験例77は鋼板のSi含有量が少なかったために、スケール/鋼板界面において層状ファイアライトが十分に得られず、レーザー切断性が劣位となった比較例である。一方、実験例78は鋼板のSi含有量が多かったために、スケール/鋼板界面に層状ファイアライトが過剰に存在し、レーザー切断性が劣位となった比較例である。
【0087】
上記の比較例を除く実験例、すなわち、実験例1、2、4、5、7~10、12、13、15、16、18~21、23、24、26、27、29~32、34、35、37、38、40~43、45、46、48~51、53~58、60~63、65~72、75および76は、本発明の実施例であり、スケール密着性に優れ、レーザー照射時のスケール剥離が抑制または防止され、それゆえレーザー切断性に優れた鋼板が得られた。また、実験例12、16、23および50は、最初のデスケーリングに続いて施した圧延が完了してから、最終圧延パスの圧延を施すまでの間に、デスケーリングを更に3回施した実施例である。また、実験例57、60および70は、水冷完了後に鋼板をコイル状に巻き取った実施例である。
【符号の説明】
【0088】
10 厚鋼板
11 鋼板
12 スケール
13 スケールと鋼板の界面
14 層状ファイアライト
15 層状マグネタイト
16 き裂
図1
図2
図3
図4