(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128426
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】厚鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 45/00 20060101AFI20230907BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20230907BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230907BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230907BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20230907BHJP
B21B 1/38 20060101ALI20230907BHJP
B21B 45/08 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B21B45/00 B
C21D8/02 A
C22C38/00 301A
C22C38/60
C23C26/00 C
B21B1/38 Z
B21B45/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032764
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】多根井 寛志
(72)【発明者】
【氏名】川田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】坂井 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 竜一
【テーマコード(参考)】
4E002
4K032
4K044
【Fターム(参考)】
4E002AB01
4E002AD01
4E002AD07
4E002BC07
4E002BD07
4E002BD08
4E002BD10
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA12
4K044CA12
(57)【要約】
【課題】バーニングの発生が抑制又は防止され、それゆえレーザー切断に使用するのに有用な厚鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板と、鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、鋼板とスケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量(質量%)の合計の3.0倍以上となる金属濃化相を50μm2以上含有する厚鋼板が提供される。スラブを加熱する工程であって、スラブの表面温度が1100~1300℃となる範囲で30~120分間保持することを含む工程、スラブを大気中で50~120秒間保持する工程、及びスラブを熱間圧延する工程であって、最終の高圧水デスケーリングを1050℃以上の温度で実施することを含む工程を含む厚鋼板の製造方法がさらに提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、前記鋼板と前記スケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が前記鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量(質量%)の合計の3.0倍以上となる金属濃化相を50μm2以上含有する、厚鋼板。
【請求項2】
前記鋼板が、質量%で、
C:0.01~0.30%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.001~0.050%、
S:0.001~0.050%、
Al:0.001~0.100%、
Cr:0.01~0.50%、
Cu:0.010~0.50%、
Ni:0.010~0.50%、
Mo:0.010~0.500%、
Sn:0~0.500%、
Sb:0~0.500%、
Nb:0~0.500%、
V:0~0.500%、
Ti:0~0.500%、
B:0~0.0100%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、並びに
残部:Fe及び不純物からなり、
0.060≦[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]≦1.000を満たす化学組成を有する、請求項1に記載の厚鋼板。
ここで、[Cu]、[Ni]、[Mo]、[Sn]及び[Sb]は鋼板における各元素の含有量(質量%)であり、元素を含有しない場合は0である。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
Sn:0.001~0.500%、
Sb:0.001~0.500%、
Nb:0.001~0.500%、
V:0.001~0.500%、
Ti:0.001~0.500%、
B:0.0001~0.0100%
Ca:0.0001~0.0100%、
Mg:0.0001~0.0100%、及び
REM:0.0001~0.0100%
からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項2に記載の厚鋼板。
【請求項4】
前記スケールの厚さが5~50μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の厚鋼板。
【請求項5】
6~40mmの板厚を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の厚鋼板。
【請求項6】
レーザー切断用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の厚鋼板。
【請求項7】
スラブを加熱炉において加熱する工程であって、前記スラブの表面温度が1100~1300℃となる範囲で30~120分間保持することを含む工程、
前記スラブを前記加熱炉から取り出し、次いで大気中で50~120秒間保持する工程、及び
前記スラブを熱間圧延する工程であって、最終の高圧水デスケーリングを1050℃以上の温度で実施することを含む工程
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板及びその製造方法に関し、より詳しくはレーザー切断に使用するのに有用な厚鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、建築、産業機械、橋梁等の鋼構造物には多量の厚鋼板が使用されている。これらの鋼構造物の工作においては、施工コスト・工数の多くが溶接と切断で占められている。鋼板の切断方法としては、従来のガス切断に加えて、プラズマ切断やレーザー切断などが知られている。
【0003】
レーザー切断は、従来のガス切断と比較して、切断面の精度に優れ、熱影響部が小さいこと、さらには自動化が可能なことから薄板加工業を中心に普及してきた。しかしながら、近年、高出力のレーザー切断機の実用化により、厚鋼板の切断においてもレーザー切断機が利用されるようになってきている。
【0004】
厚鋼板等の鋼板の製造はスラブを熱間圧延する工程を一般に含み、一方で、熱間圧延された鋼板は大気中で酸化されてその表面にスケール(酸化物)が形成することが知られている。厚鋼板のレーザー切断においては、このスケールが鋼板表面で剥離していたり、切断時にレーザーによって剥離したりすると、厚鋼板をうまく切断できなかったり、切断面にえぐられたような異常切断部が生じたりして、安定的な切断ができない場合がある。
【0005】
これに関連して、例えば、特許文献1では、鋼表面のスケール層が、鋼母材との界面近傍に、Fe、Cu、Niを主成分とする合金からなるメタル微粒子がスケール中に分散した構造を持つ、厚さ5~30μmのスケール/メタル混合層を有していることを特徴とする鋼板が記載されている。また、特許文献1では、スケール/メタル混合層がスケールの密着性向上に大きく寄与し、より具体的にはメタルの微粒子がスケール中に分散しているスケール/メタル混合層は、金属酸化物からなるスケール単体に比べて、熱容量が大きいため、レーザー光が当ったときにバッファの役目を果たし、レーザー光による衝撃を吸収して、スケール層が鋼表面から剥離するのを防ぐ効果があると記載されている。
【0006】
特許文献2では、重量%にて、C:0.03~0.25%、Si:0.10~0.50%、Mn:0.05~1.60%、Mo:0.005~0.1%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、10~60μmの厚みのスケール層を有するレーザガス切断用鋼材が記載されている。また、特許文献2では、当該鋼材によれば、レーザガス切断性の重要な支配因子であるスケール層の密着性が向上し、レーザガス切断での安定切断範囲が顕著に拡大すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-219712号公報
【特許文献2】特開平9-279305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザー切断において安定な切断を実現するためには、特許文献1及び2において教示されるようなスケールの密着性向上に加えて、バーニングと呼ばれる切断不良の発生を防止することが重要である。より詳しくは、鋼板のレーザー切断では、レーザー照射により鋼板を加熱し、加熱した鋼板を周辺に吹き込んだ酸素と反応させ、その発熱を利用して鋼板を溶融させている。例えば、レーザー切断では、切断幅が狭いために溶融物が当該切断幅内で詰まる場合があり、このような詰まりを起点として周辺部が過剰に溶融したり、溶融物が吹き上げたりするバーニングと呼ばれる切断不良が発生することがある。したがって、このような切断不良の発生を抑制又は防止することが当技術分野において求められている。
【0009】
特許文献1及び2では、安定なレーザー切断を実現するためにスケールの密着性向上に関して検討されているものの、バーニングの発生を防止するという観点からは必ずしも十分な検討はなされていない。したがって、これらの特許文献に記載の鋼材では、切断性向上に関して依然として改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、バーニングの発生が抑制又は防止され、それゆえレーザー切断に使用するのに有用な厚鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、切断の起点となる鋼板表面においてFeを過剰に溶融させないことが重要と考えて検討を行った。その結果、本発明者らは、鋼板とスケールの界面近傍領域において特定の元素を濃化させることでFeの過剰溶融を抑制することができ、これに関連して厚鋼板の切断時にバーニングの発生を抑制又は防止できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
上記目的を達成し得た本発明は下記のとおりである。
(1)鋼板と、前記鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、前記鋼板と前記スケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が前記鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量(質量%)の合計の3.0倍以上となる金属濃化相を50μm2以上含有する、厚鋼板。
(2)前記鋼板が、質量%で、
C:0.01~0.30%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.001~0.050%、
S:0.001~0.050%、
Al:0.001~0.100%、
Cr:0.01~0.50%、
Cu:0.010~0.50%、
Ni:0.010~0.50%、
Mo:0.010~0.500%、
Sn:0~0.500%、
Sb:0~0.500%、
Nb:0~0.500%、
V:0~0.500%、
Ti:0~0.500%、
B:0~0.0100%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、並びに
残部:Fe及び不純物からなり、
0.060≦[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]≦1.000を満たす化学組成を有する、上記(1)に記載の厚鋼板。
ここで、[Cu]、[Ni]、[Mo]、[Sn]及び[Sb]は鋼板における各元素の含有量(質量%)であり、元素を含有しない場合は0である。
(3)前記化学組成が、質量%で、
Sn:0.001~0.500%、
Sb:0.001~0.500%、
Nb:0.001~0.500%、
V:0.001~0.500%、
Ti:0.001~0.500%、
B:0.0001~0.0100%
Ca:0.0001~0.0100%、
Mg:0.0001~0.0100%、及び
REM:0.0001~0.0100%
からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、上記(2)に記載の厚鋼板。
(4)前記スケールの厚さが5~50μmである、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の厚鋼板。
(5)6~40mmの板厚を有する、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の厚鋼板。
(6)レーザー切断用である、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の厚鋼板。
(7)スラブを加熱炉において加熱する工程であって、前記スラブの表面温度が1100~1300℃となる範囲で30~120分間保持することを含む工程、
前記スラブを前記加熱炉から取り出し、次いで大気中で50~120秒間保持する工程、及び
前記スラブを熱間圧延する工程であって、最終の高圧水デスケーリングを1050℃以上の温度で実施することを含む工程
を含む、上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の厚鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バーニングの発生が抑制又は防止され、それゆえレーザー切断に使用するのに有用な厚鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明は、レーザー切断用に用いられる厚鋼板についてより詳しく説明されるが、本発明の厚鋼板は、このような特定の用途に限定されるものではなく、バーニングが発生し得る任意の切断操作、例えばガス切断やプラズマ切断等においても適用することができることは言うまでもない。
【0015】
<厚鋼板>
本発明の実施形態に係る厚鋼板は、鋼板と、前記鋼板の表面に形成されたスケールとを含み、前記鋼板と前記スケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が前記鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量(質量%)の合計の3.0倍以上となる金属濃化相を50μm2以上含有することを特徴としている。
【0016】
先に述べたとおり、鋼板のレーザー切断では、レーザー照射により鋼板を加熱し、加熱した鋼板を周辺に吹き込んだ酸素と反応させ、その発熱を利用して鋼板を溶融させている。そして、溶融した酸化物又は金属を酸素の吹き込みによって除去することで切断が行われる。レーザー切断の場合、溶融除去される幅が比較的狭いために、切断によるサイズ変化が小さいことや微細加工が可能であることなどが利点として挙げられる。しかしながらその一方で、切断幅が狭いために溶融物の粘性が高かったり溶融物が多かったりすると、溶融物の排出性(「湯流れ性」とも称する)が悪くなり、切断幅内で溶融物が詰まる場合がある。溶融物が詰まると、詰まりを起点として周辺部が過剰に溶融したり、溶融物が吹き上げたりするバーニングと呼ばれる切断不良が発生することがある。バーニングが発生すると、例えば、レーザー切断の自動運転を停止させる必要が生じ、さらには溶融物の飛散によって設備トラブルなどを引き起こす場合もある。したがって、レーザー切断に供される厚鋼板等の鋼板では、一般的なレーザー切断条件においてバーニングの発生を抑制又は防止できることが求められている。
【0017】
バーニングの発生を抑制又は防止するためには、切断時における溶融物の湯流れ性を高いレベルに維持し、溶融物の詰まりを発生させないことが重要である。これに関連して、本発明者らは、湯流れ性を高めるためには、切断の起点となる鋼板表面においてFeを過剰に溶融させないことが重要と考え、このようなFeの過剰溶融を抑制することができる鋼板の構成について検討を行った。その結果、本発明者らは、鋼板表面、より具体的には鋼板とスケールの界面において、特定の元素、より具体的にはCu、Ni、Mo、Sn及びSbの元素を濃化させて存在させることで、レーザー等による切断時の鋼板表面におけるFeの過剰溶融を抑制することができることを見出した。この知見に基づいて、本発明者らはさらに詳細に検討し、鋼板とスケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計(Ms)が鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計(Mm)の3.0倍以上、すなわちMs/Mm比が3.0以上となる金属濃化相を50μm2以上含有させることで、レーザー等による切断時の鋼板表面におけるFeの過剰溶融を十分に抑制して溶融物の湯流れ性を向上させることができ、その結果としてバーニングの発生を防止することができるか又は顕著に抑制することができることを見出した。
【0018】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、Cu、Ni、Mo、Sn及びSbはFeよりも貴な元素であるために、これらの元素は鋼板とスケールの界面において酸化物等ではなく金属として存在しているものと考えられる。このような比較的酸化しにくい元素が鋼板とスケールの界面(すなわち母材鋼板の表面)の近傍領域において比較的広い範囲で濃化して存在していることで、切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及び当該酸化に伴う発熱を抑制することができるものと考えられる。その結果として、切断時の鋼板表面におけるFeの過剰溶融を顕著に抑制することができるため、レーザー切断と比較して切断幅が広いガス切断やプラズマ切断の場合は当然ながら、レーザー切断のように切断幅が比較的狭く、溶融物の詰まりが生じやすい切断方法であっても、溶融物の湯流れ性を確実に向上させることが可能になるものと考えられる。したがって、本発明の実施形態に係る厚鋼板によれば、鋼板とスケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計の3.0倍以上となる金属濃化相を50μm2以上含有させることで、バーニング等の切断不良を確実に抑制又は防止することが可能となる。Feと比較して酸化しにくいこれら特定の金属元素を鋼板とスケールの界面に濃化させることによってFeの過剰溶融を抑制してバーニング等の切断不良を確実に抑制又は防止することができるという事実は従来知られておらず、今回、本発明者らによって初めて明らかにされたことである。
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る厚鋼板についてより詳しく説明するが、これらの説明は、本発明の好ましい実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0020】
[界面近傍領域におけるMs/Mm比が3.0以上の金属濃化相:50μm2以上]
本発明の実施形態に係る厚鋼板では、鋼板とスケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μmの界面近傍領域において、Cu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計(Ms)が鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計(Mm)の3.0倍以上、すなわちMs/Mm≧3.0となる金属濃化相を50μm2以上含有させることが必要である。上記のとおり、Cu、Ni、Mo、Sn及びSbはFeよりも貴な元素であるため、Feに比べて酸化されにくい。したがって、界面近傍領域においてこれらの元素がMs/Mm≧3.0となるにように濃化させた金属濃化相を50μm2以上の比較的広い範囲において存在させることで、切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及び当該酸化に伴う発熱を抑制することができ、その結果として溶融物の湯流れ性を顕著に向上させることが可能となる。本発明の実施形態に係る厚鋼板では、界面近傍領域の各金属濃化相におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度の合計が鋼板全体のこれら元素の含有量の合計に対して上記の要件を満足していればよく、金属濃化相又は鋼板はこれらの元素の全てを必ずしも含んでいる必要はない。すなわち、金属濃化相又は鋼板は、Cu、Ni、Mo、Sn及びSbのうち任意の1種又は2種以上を含んでいなくてもよい。
【0021】
バーニング等の切断不良を抑制又は防止する観点からは、上記金属濃化相の界面近傍領域における面積は大きいことが好ましい。具体的には、当該面積は、好ましくは52μm2以上、より好ましくは55μm2以上、さらにより好ましくは60μm2以上、最も好ましくは65μm2以上である。上記金属濃化相の界面近傍領域における面積の上限は特に限定されないが、例えば、当該面積は、200μm2以下、150μm2以下又は120μm2以下であってもよい。
【0022】
金属濃化相は、界面近傍領域において層状又は粒状に存在しており、当該金属濃化相の存在形態及び存在質量は、EPMA(電子線マイクロアナライザ)観察によって定量的に評価することが可能である。したがって、本発明に係る界面近傍領域における金属濃化相の面積は、EPMAを用いて以下のようにして決定される。具体的には、鋼板の板厚方向に平行な任意の箇所の断面に対し、1500倍の倍率でEPMAを用いた定量測定が行われる。まず、O(酸素)のEPMA測定結果において、スケールの厚さ方向に1ピクセル、それと垂直な方向に全ピクセルの領域におけるO濃度の平均値が算出される。次いで、この平均値をスケール側から地鉄方向に順に算出し、この平均値が10%を初めて下回った箇所が鋼板とスケールの界面として決定され、決定された界面の位置から板厚方向のスケール側及び地鉄側にそれぞれ5μm、すなわち界面の位置を中心とした板厚方向に10μmの領域が界面近傍領域として決定される。次に、この界面近傍領域におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSbの元素分布を観察する。EPMA測定で得られる元素分布の画像は、ピクセルごとに定量測定値が割り当てられる。このため、それらの値をCu、Ni、Mo、Sn及びSbについて足し合わせることにより、界面近傍領域におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計の分布を得ることができる。本発明では、先に決定した界面の位置を基準として板厚方向と垂直な方向に100μmの直線長さ(界面長さ)における界面近傍領域、すなわち100μm×10μm=1000μm2の界面近傍領域が特定され、特定された界面近傍領域内の各金属相におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度の合計Ms(質量%)が算出される。算出されたMsを鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計Mm(質量%)で除すことにより、Cu、Ni、Mo、Sn及びSbの濃化比率(Ms/Mm)とその分布を得ることができる。最後に、1000μm2の界面近傍領域におけるEPMA測定画像中のMs/Mmが3.0以上となるピクセル数にピクセルあたりの実面積を乗じることにより、界面近傍領域におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量(質量%)の合計の3.0倍以上となる金属濃化相の面積が決定される。
【0023】
鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。
【0024】
[鋼板の好ましい化学組成]
本発明の実施形態においては、鋼板は、スケールの界面の位置を中心とした板厚方向に10μm×界面長さ100μm=1000μm2の界面近傍領域(以下では界面近傍領域1000μm2と記載)においてMs/Mm≧3.0となる金属濃化相を50μm2以上含有するという要件を満たす任意の材料であってよい。したがって、鋼板の化学組成は、特に限定されず、当該要件を満たす範囲で適切に決定すればよい。より詳しくは、本発明は、上記のとおり、バーニングの発生が抑制又は防止され、それゆえレーザー切断に使用するのに有用な厚鋼板を提供することを目的とするものであって、界面近傍領域1000μm2当たりにおいてMs/Mm≧3.0となる金属濃化相を50μm2以上含有させることによって当該目的を達成するものである。したがって、鋼板の化学組成自体は、本発明の目的を達成する上で必須の技術的特徴でないことは明らかである。以下、本発明の実施形態に係る鋼板の好ましい化学組成について詳しく説明するが、これらの説明は、界面近傍領域1000μm2当たりにおいてMs/Mm≧3.0となる金属濃化相を50μm2以上含有するという要件を満たすための鋼板における好ましい化学組成の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の化学組成を有する鋼板に限定することを意図するものではない。また、以下の説明において、各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味するものである。さらに、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0025】
[C:0.01~0.30%]
Cは、硬さの安定化及び/又は強度の確保に必要な元素である。これらの効果を十分に得るために、C含有量は0.01%以上であることが好ましい。C含有量は0.03%以上、0.05%以上又は0.10%以上であってもよい。一方で、Cを過度に含有すると、靭性、曲げ性及び/又は溶接性が低下する場合がある。したがって、C含有量は0.30%以下であることが好ましい。C含有量は0.28%以下、0.26%以下又は0.24%以下であってもよい。
【0026】
[Si:0.01~0.60%]
Siは、脱酸元素であり、強度の向上にも寄与する元素である。これらの効果を十分に得るために、Si含有量は0.01%以上であることが好ましい。Si含有量は0.05%以上、0.10%以上又は0.15%以上であってもよい。一方で、Siを過度に含有すると、靭性が低下したり、スケール疵と呼ばれる表面品質不良を発生したりする場合がある。したがって、Si含有量は0.60%以下であることが好ましい。Si含有量は0.50%以下、0.45%以下又は0.40%以下であってもよい。
【0027】
[Mn:0.01~2.00%]
Mnは、焼入れ性及び/又は強度の向上に有効な元素であり、有効なオーステナイト安定化元素でもある。これらの効果を十分に得るために、Mn含有量は0.01%以上であることが好ましい。Mn含有量は0.10%以上、0.30%以上又は0.50%以上であってもよい。一方で、Mnを過度に含有すると、靭性に有害なMnSが生成する場合がある。したがって、Mn含有量は2.00%以下であることが好ましい。Mn含有量は1.60%以下、1.40%以下又は1.20%以下であってもよい。
【0028】
[P:0.001~0.050%]
Pは、製造工程で混入する元素である。Pは少ないほど好ましいが、P含有量を0.001%未満に低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く場合がある。したがって、P含有量は0.001%以上であることが好ましい。P含有量は0.005%以上、0.007%以上又は0.010%以上であってもよい。一方で、Pを過度に含有すると、加工性及び/又は靭性が低下する場合がある。したがって、P含有量は0.050%以下であることが好ましい。P含有量は0.040%以下、0.030%以下又は0.020%以下であってもよい。
【0029】
[S:0.001~0.050%]
Sは、製造工程で混入する元素である。Sは少ないほど好ましいが、S含有量を0.001%未満に低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く場合がある。したがって、S含有量は0.001%以上であることが好ましい。S含有量は0.002%以上、0.004%以上又は0.006%以上であってもよい。一方で、Sを過度に含有すると、靭性が低下する場合がある。したがって、S含有量は0.050%以下であることが好ましい。S含有量は0.035%以下、0.020%以下又は0.015%以下であってもよい。
【0030】
[Al:0.001~0.100%]
Alは、脱酸元素であり、耐食性及び/又は耐熱性を向上させるのに有効な元素でもある。これらの効果を十分に得るために、Al含有量は0.001%以上であることが好ましい。Al含有量は0.005%以上、0.010%以上又は0.020%以上であってもよい。一方で、Alを過度に含有すると、粗大な介在物が生成して靭性が低下する場合がある。したがって、Al含有量は0.100%以下であることが好ましい。Al含有量は0.080%以下、0.060%以下又は0.040%以下であってもよい。
【0031】
[Cr:0.01~0.50%]
Crは、強度及び/又は耐食性の向上に寄与する元素である。これらの効果を十分に得るために、Cr含有量は0.01%以上であることが好ましい。Cr含有量は0.03%以上、0.05%以上又は0.10%以上であってもよい。一方で、Crを過度に含有すると、合金コストの増加に加えて靭性が低下する場合がある。したがって、Cr含有量は0.50%以下であることが好ましい。Cr含有量は0.40%以下、0.30%以下又は0.20%以下であってもよい。
【0032】
[Cu:0.010~0.50%]
Cuは、鋼板とスケールの界面に濃化してレーザー切断等による切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及びそれに伴う発熱を抑制するのに有効な元素である。また、Cuは、鋼板の製造過程における高温下で溶融し、Ni、Mo、Sn及び/又はSbの他の金属元素を液相Cu中に取り込んで鋼板とスケールの界面におけるこれらの元素の濃化を促進させる機能も有する。これらの効果を十分に得るために、Cu含有量は0.010%以上であることが好ましい。Cu含有量は0.03%以上、0.05%以上、0.10%以上、0.20%以上又は0.30%以上であってもよい。一方で、Cuを過度に含有すると、効果が飽和するとともに、靭性や溶接性の劣化を招く場合がある。したがって、Cu含有量は0.50%以下であることが好ましい。Cu含有量は0.45%以下、0.40%以下又は0.35%以下であってもよい。
【0033】
[Ni:0.010~0.50%]
Niは、鋼板とスケールの界面に濃化してレーザー切断等による切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及びそれに伴う発熱を抑制するのに有効な元素である。このような効果を十分に得るために、Ni含有量は0.010%以上であることが好ましい。Ni含有量は0.03%以上、0.05%以上、0.10%以上、0.20%以上又は0.30%以上であってもよい。一方で、Niを過度に含有すると、効果が飽和するとともに、合金コストの増加を招く。したがって、Ni含有量は0.50%以下であることが好ましい。Ni含有量は0.45%以下、0.40%以下又は0.35%以下であってもよい。
【0034】
[Mo:0.010~0.500%]
Moは、鋼板とスケールの界面に濃化してレーザー切断等による切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及びそれに伴う発熱を抑制するのに有効な元素である。このような効果を十分に得るために、Mo含有量は0.010%以上であることが好ましい。Mo含有量は0.015%以上、0.030%以上、0.100%以上又は0.300%以上であってもよい。一方で、Moを過度に含有すると、熱間加工時の変形抵抗が増大し、設備負荷が大きくなる場合がある。したがって、Mo含有量は0.500%以下であることが好ましい。Mo含有量は0.450%以下、0.400%以下又は0.350%以下であってもよい。
【0035】
本発明の実施形態に係る鋼板の基本化学組成は上記のとおりである。さらに、当該鋼板は、必要に応じて以下の任意選択元素のうち1種又は2種以上を含有してもよい。例えば、鋼板は、Sn:0~0.500%及びSb:0~0.500%からなる群から選択される1種又は2種を含有してもよい。また、鋼板は、Nb:0~0.50%、V:0~0.50%及びTi:0~0.50%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。また、鋼板は、B:0~0.0100%を含有してもよい。また、鋼板は、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%及びREM:0~0.0100%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。以下、これらの任意選択元素について詳しく説明する。
【0036】
[Sn:0~0.500%]
Snは、鋼板とスケールの界面に濃化してレーザー切断等による切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及びそれに伴う発熱を抑制するのに有効な元素である。また、Snは、Cuの場合と同様に鋼板の製造過程における高温下で溶融し、他の金属元素を液相Sn中に取り込んで鋼板とスケールの界面におけるこれらの元素の濃化を促進させる機能も有する。Sn含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Sn含有量は0.001%以上であることが好ましい。Sn含有量は0.003%以上、0.005%以上、0.010%以上、0.030%以上又は0.100%以上であってもよい。一方で、Snを過度に含有すると、効果が飽和するとともに、靭性、特には低温靭性の劣化を招く場合がある。したがって、Sn含有量は0.500%以下であることが好ましい。Sn含有量は0.400%以下、0.300%以下又は0.200%以下であってもよい。
【0037】
[Sb:0~0.500%]
Sbは、鋼板とスケールの界面に濃化してレーザー切断等による切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及びそれに伴う発熱を抑制するのに有効な元素である。また、Sbは、Cu及びSnの場合と同様に鋼板の製造過程における高温下で溶融し、他の金属元素を液相Sb中に取り込んで鋼板とスケールの界面におけるこれらの元素の濃化を促進させる機能も有する。Sb含有量は0%であってもよいが、これらの効果を得るためには、Sb含有量は0.001%以上であることが好ましい。Sb含有量は0.003%以上、0.005%以上、0.010%以上、0.030%以上又は0.100%以上であってもよい。一方で、Sbを過度に含有すると、効果が飽和するとともに、靭性、特には低温靭性の低下を招く場合がある。したがって、Sb含有量は0.500%以下であることが好ましい。Sb含有量は0.400%以下、0.300%以下又は0.200%以下であってもよい。
【0038】
[Nb:0~0.500%]
[V:0~0.500%]
[Ti:0~0.500%]
Nb、V及びTiは、析出強化等により鋼板の強度向上に寄与する元素である。Nb、V及びTi含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Nb、V及びTi含有量はそれぞれ0.001%以上であることが好ましく、0.010%以上、0.050%以上または0.100%以上であってもよい。一方で、これらの元素を過度に含有すると、効果が飽和し、加工性及び/又は靭性を低下させる場合がある。したがって、Nb、V及びTi含有量はそれぞれ0.500%以下であることが好ましく、0.400%以下、0.300%以下又は0.200%以下であってもよい。
【0039】
[B:0~0.0100%]
Bは、強度の向上に寄与する元素である。B含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上であることが好ましい。B含有量は0.0003%以上、0.0005%以上又は0.0007%以上であってもよい。一方で、Bを過度に含有すると、靭性及び/又は溶接性が低下する場合がある。したがって、B含有量は0.0100%以下であることが好ましい。B含有量は0.0080%以下、0.0050%以下又は0.0030%以下であってもよい。
【0040】
[Ca:0~0.0100%]
[Mg:0~0.0100%]
[REM:0~0.0100%]
Ca、Mg及びREMは、硫化物の形態を制御できる元素である。Ca、Mg及びREM含有量は0%であってもよいが、このような効果を得るためには、Ca、Mg及びREM含有量はそれぞれ0.0001%以上であることが好ましく、0.0003%以上、0.0005%以上または0.0007%以上であってもよい。一方で、これらの元素を過度に含有すると、効果が飽和し、それゆえCa、Mg及びREMを必要以上に鋼板中に含有させることは製造コストの上昇を招く虞がある。したがって、Ca、Mg及びREM含有量はそれぞれ0.0100%以下であることが好ましく、0.0080%以下、0.0050%以下又は0.0030%以下であってもよい。本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)及びランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)の17元素の総称であり、REM含有量はこれら元素の合計含有量である。
【0041】
本発明の実施形態に係る鋼板において、上記の元素以外の残部はFe及び不純物からなる。不純物とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分等である。
【0042】
[0.060≦[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]≦1.000]
本発明の実施形態に係る鋼板の化学組成は、下記式を満たすことが好ましい。
0.060≦[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]≦1.000
ここで、[Cu]、[Ni]、[Mo]、[Sn]及び[Sb]は鋼板における各元素の含有量(質量%)であり、元素を含有しない場合は0である。鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計を0.060%以上とすることで、鋼板とスケールの界面近傍領域1000μm2当たりにおいてMs/Mm比が3.0以上となる金属濃化相を所望の面積量、より具体的には50μm2の面積量で存在させることを確実にすることができる。その結果として、レーザー切断等による切断時の鋼板表面におけるFeの酸化及びそれに伴う発熱を抑制し、ひいてはFeの過剰溶融を抑制して溶融物の湯流れ性を顕著に向上させることが可能となる。界面近傍領域における金属濃化相の面積をより増加させる観点からは、鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計(すなわち[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]又はMm)は大きいことが好ましい。したがって、[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]は、好ましくは0.070以上、より好ましくは0.100以上、さらにより好ましくは0.200以上又は0.300以上、最も好ましくは0.500以上である。界面近傍領域における金属濃化相の面積をより増加させる観点からは、[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]の上限は特に限定されない。しかしながら、これらの元素を過度に含有しても、効果が飽和するとともに合金コストの上昇を招く虞がある。したがって、経済性の観点から、[Cu]+[Ni]+[Mo]+[Sn]+[Sb]は、1.000以下であることが好ましく、例えば0.900又は0.800であってもよい。
【0043】
鋼板の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、鋼板の化学組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。C及びSは燃焼-赤外線吸収法を用いる。
【0044】
[スケール厚さ:5~50μm]
本発明の好ましい実施形態によれば、上記鋼板の表面に形成されるスケールの厚さは5~50μmである。スケールはレーザーの入熱を安定化させる機能を有するため、安定なレーザー切断を実現するためには、厚鋼板はある程度のスケール厚さを有していることが好ましい。スケール厚さを5μm以上とすることで、このような安定なレーザー切断を確実にすることができる。スケール厚さは、10μm以上、20μm以上、30μm以上又は40μm以上であってもよい。一方で、スケール厚さが厚くなりすぎると、スケールが剥離して安定なレーザー切断が阻害される場合がある。したがって、このようなスケールの剥離を確実に回避する観点からは、スケール厚さは50μm以下であることが好ましく、45μm以下であってもよい。厚鋼板の製造方法に関連して後で詳しく説明するように、製造過程におけるスケールの生成及び成長は所望の金属濃化相を生成する上で重要な因子である。しかしながら、最終的な製品におけるスケール厚さは金属濃化相の形態とは必ずしも関係しておらず、それゆえレーザー切断等による切断時のバーニング発生において直接的には影響しない。したがって、厚鋼板におけるスケール厚さは、安定な切断を実現する観点から適切な値を適宜選択すればよい。
【0045】
スケール厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて決定される。より具体的には、スケール厚さは、厚鋼板の板厚方向に平行な断面を観察面として試料を採取し、観察面を研磨し、当該観察面をSEMにより500倍の倍率で観察し、スケールと地鉄との界面からスケール表面までの距離を5点以上求める測定を任意の3視野で行い、得られた距離の平均値として決定される。
【0046】
[厚鋼板の板厚:6~40mm]
本発明の実施形態に係る厚鋼板は、レーザー切断等の切断方法が適用可能な任意の厚さを有することができ、特に限定されないが、例えば6~40mm以下の板厚を有していてよい。板厚は、例えば8mm以上、10mm以上、15mm以上又は20mm以上であってもよい。同様に、板厚は、例えば35mm以下、30mm以下又は25mm以下であってもよい。
【0047】
<鋼板の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る厚鋼板の好ましい製造方法について説明する。以下の説明は、本発明の実施形態に係る厚鋼板を製造するための特徴的な方法の例示を意図するものであって、当該厚鋼板を以下に説明するような製造方法によって製造されるものに限定することを意図するものではない。
【0048】
本発明の実施形態に係る鋼板の製造方法は、
スラブを加熱炉において加熱する工程であって、前記スラブの表面温度が1100~1300℃となる範囲で30~120分間保持することを含む工程(加熱工程)、
前記スラブを前記加熱炉から取り出し、次いで大気中で50~120秒間保持する工程(大気保持工程)、及び
前記スラブを熱間圧延する工程であって、最終の高圧水デスケーリングを1050℃以上の温度で実施することを含む工程(熱間圧延工程)
を含むことを特徴としている。
【0049】
[加熱工程]
まず、加熱工程に先立ち、溶鋼を鋳造してスラブを形成する。鋳造方法は、通常の鋳造方法でよく、連続鋳造法、造塊法などを採用できるが、生産性の点で、連続鋳造法が好ましい。スラブは、特に限定されないが、例えば、鋼板に関連して上で説明した好ましい化学組成を有するものであってよい。
【0050】
次いで、得られたスラブは加熱炉において加熱される。スラブの加熱は、スラブの表面温度が1100~1300℃となる範囲で30~120分間保持することを含むことが重要である。このような高温下で所定の時間保持することによりスケールの成長を促進させることができる。ここで、「保持」とは、スラブを必ずしも一定温度に保持する必要はなく、1100~1300℃の範囲内で温度が変動する場合も包含するものである。スケールが成長することで、スケール中に溶解できないCu、Ni、Mo、Sn及びSbの金属元素がスケールから排出されるため、これらの元素を鋼板の表面、すなわち鋼板とスケールの界面に濃化させることができる。加えて、スラブがCu、Sn及び/又はSb、とりわけCuを含有する場合には、このような高温下でスケールから吐き出されたCu等が溶融し、他の金属元素をCu等の液相中に取り込んで鋼板とスケールの界面におけるこれらの元素の濃化をさらに促進させることが可能となる。その結果、最終的に得られる厚鋼板の界面近傍領域において、所望の濃化比率を有する金属濃化相を十分な面積量で生成することが可能となる。
【0051】
加熱温度が1100℃未満であるか又は保持時間が30分未満である場合には、スケールの成長が十分でないために、鋼板とスケールの界面にCu、Ni、Mo、Sn及びSbを十分な量で濃化させることができなくなる。したがって、加熱温度は1100℃以上とし、好ましくは1110℃以上である。同様に、保持時間は30分以上とする。一方で、加熱温度が1300℃超であるか又は保持時間が120分超であると、スケールが厚く成長しすぎて、その後の製造過程でスケールが金属濃化相とともに剥離し、同様に鋼板とスケールの界面にCu、Ni、Mo、Sn及びSbを十分な量で濃化させることができなくなる場合がある。また、スケールが厚く成長しすぎると、歩留まりが低下するという問題もあり、さらには燃料コストも上昇するため好ましくない。したがって、加熱温度は1300℃以下とし、好ましくは1280℃以下である。同様に、保持時間は120分以下とし、好ましくは100分以下である。
【0052】
[大気保持工程]
次に、加熱されたスラブは、加熱炉から取り出され、次いで大気中で50~120秒間保持される。加熱炉から取り出されたスラブは、加熱炉でCu等の金属元素を濃化させた界面性状を維持しつつ、界面上に形成されたスケールを十分に除去した状態で熱間圧延に供される必要がある。ここで、界面上に形成されたスケールは、地鉄(鋼板)側から、ウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe3O4)及びヘマタイト(Fe2O3)の順で構成された3層構造を有することが一般に知られている。これらの酸化鉄は、地鉄側から拡散する鉄(Fe)と大気中の酸素(O2)とが反応することによって生成される。そのため、地鉄側ほど低次の酸化鉄が生成され、大気側ほど高次の酸化鉄が生成される。このような3層構造を有するスケールを高圧水デスケーリング等により効率的に除去するためには、スケールの最表層に形成される高次の酸化物に相当するヘマタイトの割合を大きくすることが有効である。このような高次の酸化物の割合を大きくするためには、加熱炉から取り出されたスラブを大気中で所定の時間保持し、スケールの大気側における酸化反応を促進させて、ウスタイト及びマグネタイトをヘマタイトに改質することが有効である。
【0053】
このような観点から、本製造方法では、加熱炉から取り出されたスラブを大気中で50~120秒間保持すること、より具体的には加熱炉から取り出されてから最初の高圧水デスケーリングを実施するまでの間にスラブを大気中で50~120秒間保持することにより、スケールの最表層に形成されるヘマタイトの割合を大きくしてスラブ外層部のデスケーリング性を向上させている。その結果、大気保持後でかつ熱間圧延工程前の高圧水デスケーリングによってスケールの外層部を十分に除去するとともに界面の金属濃化相を残留させることができ、さらに熱間圧延等を適切に実施することで、最終的に得られる厚鋼板において鋼板とスケールの間の所望の界面性状を達成することが可能となる。一方で、大気中での保持時間が50秒未満であると、スケールの表層にヘマタイトが十分に生成しないため、熱間圧延工程前の高圧水デスケーリングによってもスケールを十分に除去することができない。その結果、熱間圧延の際にスケールの噛み込み等が多発し、最終的に得られる厚鋼板において鋼板とスケールの間で所望の界面性状を得ることができなくなる。一方で、大気中での保持時間が120秒を超えると、ヘマタイトが過剰に生成してデスケーリング性が過度に向上し、結果として高圧水デスケーリングの際にスケールが金属濃化相とともに除去される場合がある。このような場合には、最終的に得られる厚鋼板において鋼板とスケールの間で所望の界面性状を得ることができなくなる。したがって、熱間圧延工程前の高圧水デスケーリングによるこのような金属濃化相の除去を回避するため、大気中での保持時間は120秒以下とし、好ましくは100秒以下である。また、大気保持後の高圧水デスケーリングは、特に限定されず、例えば衝突圧が10~15MPaの高圧水を用いて実施することができる。
【0054】
[熱間圧延工程]
次に、スラブは熱間圧延に供される。熱間圧延は、例えば、板厚調整等のための粗圧延を含むものであってもよい。当該粗圧延は、所望の板厚寸法が確保できればよく、その条件は特に限定されない。本製造方法における熱間圧延工程では、通常の熱間圧延の場合と同様に、高圧水デスケーリングによるスケール除去を適宜実施しつつ、このようなスケール除去と圧延を繰り返して所定の厚さまでスラブを圧下する。しかしながら、この熱間圧延工程では、最終の高圧水デスケーリングを1050℃以上の温度で実施すること、言い換えると、最終の高圧水デスケーリングを1050℃未満の温度では実施しないことが極めて重要である。最終の高圧水デスケーリングを1050℃以上の温度で実施した場合には、当該最終の高圧水デスケーリング後の鋼板においても表面温度が比較的高いために、その後の鋼板表面の再酸化を促すことができる。このような再酸化によりスケールが生成及び成長することで、スケール中に溶解できないCu、Ni、Mo、Sn及びSbの金属元素が当該スケールから排出されるため、これらの元素を鋼板とスケールの界面に濃化させることが可能となる。
【0055】
一方で、最終の高圧水デスケーリングを1050℃未満の温度で実施すると、先の加熱工程及び大気保持工程において作り込んだ鋼板とスケールの間の界面近傍領域における金属濃化相が過剰に除去される場合がある。加えて、当該最終の高圧水デスケーリング後の鋼板では、表面温度が比較的低いために、その後の鋼板表面の再酸化を促すことができず、さらなるスケールの生成及び成長並びにそれに起因するCu、Ni、Mo、Sn及びSbの界面濃化を促進させることができなくなる。したがって、最終の高圧水デスケーリングは1050℃以上の温度で実施し、好ましくは1060℃以上の温度で実施する。また、最終の高圧水デスケーリングについても、大気保持後の高圧水デスケーリングの場合と同様に、例えば衝突圧が10~15MPaの高圧水を用いて実施することができる。
【0056】
[他の工程]
本製造方法は、上記の加熱工程、大気保持工程及び熱間圧延工程に加えて、ホットレベラー等による平坦化工程、冷却工程、必要に応じて熱処理工程等をさらに含んでいてもよい。これらの追加の工程は、鋼板とスケールの間の界面近傍領域に形成される金属濃化相の形態、ひいてはレーザー切断等に関連する切断性には特に影響しない。したがって、これらの追加の工程は、特には限定されず、他の所望の鋼板特性を考慮して、任意の適切な条件を適宜選択して実施すればよい。
【0057】
本製造方法によって製造された厚鋼板は、界面近傍領域1000μm2当たりにおいてMs/Mm≧3.0となる金属濃化相を50μm2以上含有するため、レーザー等による切断時の鋼板表面におけるFeの過剰溶融を十分に抑制して溶融物の湯流れ性を向上させることができる。したがって、このような厚鋼板によれば、レーザー切断と比較して切断幅が広いガス切断やプラズマ切断の場合は当然ながら、レーザー切断のように切断幅が比較的狭く、溶融物の詰まりが生じやすい切断方法であっても、溶融物の湯流れ性を確実に向上させることができるため、バーニングの発生を防止又は顕著に抑制することが可能である。それゆえ、本発明の実施形態に係る厚鋼板は、造船、建築、産業機械、橋梁等の鋼構造物に使用される厚鋼板であって、バーニングが発生し得る任意の切断操作、とりわけレーザー切断が利用可能な厚鋼板として有用である。
【0058】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0059】
以下の実施例では、本発明の実施形態に係る厚鋼板を種々の条件下で製造し、得られた厚鋼板をレーザー切断した際のバーニングの発生の有無について調べた。
【0060】
まず、連続鋳造法により表1に示す化学組成を有するスラブを鋳造し、次いで鋳造されたスラブを加熱炉において表2に示す条件下で加熱保持した。次に、スラブを加熱炉から取り出し、次いで表2に示す時間にわたり大気中で保持した。大気保持後のスラブに対して高圧水デスケーリングを実施し、次いでスラブを熱間圧延に供し、板厚25mmまで圧下した。熱間圧延において最終の高圧水デスケーリングを実施した際の温度を表2に示す。大気保持後及び熱間圧延における高圧水デスケーリングは衝突圧が10MPaの高圧水を用いて実施した。得られた厚鋼板の特性は以下の方法によって測定及び評価した。
【0061】
[スケール厚さ]
スケール厚さは、厚鋼板の板厚方向に平行な断面を観察面として試料を採取し、観察面を研磨し、当該観察面をSEMにより500倍の倍率で観察し、スケールと地鉄との界面からスケール表面までの距離を5点求める測定を任意の3視野で行い、得られた距離の平均値として決定した。
【0062】
[界面近傍領域における金属濃化相(Ms/Mm≧3.0)の面積]
界面近傍領域における金属濃化相の面積は、EPMAを用いて以下のようにして決定した。具体的には、鋼板の板厚方向に平行な任意の箇所の断面に対し、1500倍の倍率でEPMAを用いた定量測定を行った。まず、O(酸素)のEPMA測定結果において、スケールの厚さ方向に1ピクセル、それと垂直な方向に全ピクセルの領域におけるO濃度の平均値を算出した。次いで、この平均値をスケール側から地鉄方向に順に算出し、この平均値が10%を初めて下回った箇所を鋼板とスケールの界面として決定し、決定した界面の位置から板厚方向のスケール側及び地鉄側にそれぞれ5μmを界面近傍領域として決定した。次に、この界面近傍領域におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSbの元素分布を観察した。具体的には、先に決定した界面の位置を基準として板厚方向と垂直な方向に100μmの直線長さ(界面長さ)における100μm×10μmの界面近傍領域を特定し、特定した界面近傍領域1000μm2内の各金属相におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度の合計Ms(質量%)を算出した。算出されたMsを鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計Mm(質量%)で除すことにより、Cu、Ni、Mo、Sn及びSbの濃化比率(Ms/Mm)とその分布を得た。最後に、上記の界面近傍領域におけるEPMA測定画像中のMs/Mmが3.0以上となるピクセル数にピクセルあたりの実面積を乗じることにより、当該界面近傍領域におけるCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度(質量%)の合計が鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量(質量%)の合計の3.0倍以上となる金属濃化相の面積を決定した。
【0063】
[レーザー切断による評価]
熱間圧延後の厚鋼板を1m×1mの寸法に切り出し、レーザー切断試験に供し、その際のバーニング発生の有無を調べた。レーザー切断試験は、CO2レーザーを用いて以下の条件下で100mm×100mmの小片の切断を実施することにより行った。その結果を表2に示す。
レーザー出力:4500W
周波数:500Hz
デューティ:75%
アシストガス圧力:30MPa
切断速度:570mm/分
【0064】
【0065】
【0066】
表2を参照すると、比較例12では、加熱工程におけるスラブ表面温度が低かったために、加熱工程においてスケールが十分に成長せず、鋼板とスケールの界面においてCu等の元素を十分に濃化させることができなかったと考えられる。その結果として、界面近傍領域における金属濃化相の面積が小さくなり、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。比較例13では、加熱工程における所定のスラブ表面温度での保持時間が短かったために、同様に加熱工程においてスケールが十分に成長せず、鋼板とスケールの界面においてCu等の元素を十分に濃化させることができなかったと考えられる。その結果として、界面近傍領域における金属濃化相の面積が小さくなり、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。比較例14では加熱工程におけるスラブ表面温度が高かったために、また比較例15では加熱工程における保持時間が長かったため、いずれの場合も加熱工程においてスケールが厚くなりすぎてしまい、その後の製造過程でスケールが金属濃化相とともに部分的に剥離し、鋼板とスケールの界面においてCu等の元素を十分に濃化させることができなかったと考えられる。その結果として、界面近傍領域における金属濃化相の面積が小さくなり、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。
【0067】
比較例16では、大気保持工程における保持時間が短かったために、スケール表層においてヘマタイトが十分に生成せず、デスケーリング性が低下してその後の高圧水デスケーリングによってもスケールを十分に除去することができなかったと考えられる。その結果として、熱間圧延の際にスケールの噛み込みが多発し、鋼板とスケールの間で所望の界面性状を得ることができず、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。比較例17では、大気保持工程における保持時間が長かったために、スケール表層においてヘマタイトが過剰に生成してデスケーリング性が過度に向上し、その後の高圧水デスケーリングの際にスケールが金属濃化相とともに除去されたものと考えられる。その結果として、鋼板とスケールの間で所望の界面性状を得ることができず、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。
【0068】
比較例18では、熱間圧延工程における最終のデスケーリング温度が低かったために、その後のスケール成長が十分でなく、鋼板とスケールの界面においてCu等の元素を十分に濃化させることができなかったと考えられる。その結果として、界面近傍領域における金属濃化相の面積が小さくなり、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。比較例19~22では、鋼板全体のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計(Mm)が低かったために、界面近傍領域における金属濃化相の面積が小さくなり、レーザー切断試験においてバーニングが発生した。
【0069】
これとは対照的に、発明例1~11では、鋼板とスケールの界面近傍領域1000μm2当たりにおいてCu、Ni、Mo、Sn及びSb濃度の合計が鋼板のCu、Ni、Mo、Sn及びSb含有量の合計の3.0倍以上となる金属濃化相を50μm2以上含有させることで、バーニングを発生させることなく、良好にレーザー切断を行うことができた。