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特開2023-128439ビームを高精度に形成して通信する通信装置、制御装置、制御方法、及びプログラム
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  • 特開-ビームを高精度に形成して通信する通信装置、制御装置、制御方法、及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128439
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ビームを高精度に形成して通信する通信装置、制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/02 20090101AFI20230907BHJP
   H04W 16/26 20090101ALI20230907BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20230907BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20230907BHJP
   H04W 72/04 20230101ALI20230907BHJP
【FI】
H04W24/02
H04W16/26
H04W16/28
H04W24/08
H04W72/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032784
(22)【出願日】2022-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度総務省、「基地局端末間の協調による動的ネットワーク制御に関する研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 和輝
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA22
5K067DD11
5K067DD44
5K067EE02
5K067EE06
5K067EE10
5K067HH21
5K067KK02
(57)【要約】
【課題】通信装置において、相手装置の方向に高精度にビームを向けること。
【解決手段】ビームを形成して電波を出力する通信装置は、第1のビームを用いて出力される電波の受信電力と第2のビームを用いて出力される電波の受信電力との差分が、通信装置からの電波の出力方向ごとに異なるように、第1のビームおよび第2のビームを設定し、第1のビームを用いて電波を出力した場合の電波の受信装置における電波の第1の受信電力と、第2のビームを用いて電波を出力した場合の受信装置における電波の第2の受信電力との差分値に基づいて、受信装置に向けるビームの方向制御を行う。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置であって、
ビームを形成して電波を出力する出力手段と、
第1のビームを用いて出力される前記電波の受信電力と第2のビームを用いて出力される前記電波の受信電力との差分が、前記通信装置からの前記電波の出力方向ごとに異なるように、前記第1のビームおよび前記第2のビームを設定する設定手段と、
前記第1のビームを用いて前記電波を出力した場合の前記電波の受信装置における前記電波の第1の受信電力と、前記第2のビームを用いて前記電波を出力した場合の前記受信装置における前記電波の第2の受信電力との差分値に基づいて、前記受信装置に向けるビームの方向制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記通信装置は基地局装置であり、
前記受信装置は端末装置であり、
前記通信装置は、前記端末装置から、前記第1の受信電力および前記第2の受信電力を取得する取得手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記通信装置は中継装置であり、
前記受信装置は端末装置であり、
前記端末装置は、前記中継装置を介して前記第1の受信電力および前記第2の受信電力を基地局装置へ通知し、
前記通信装置は、前記基地局装置から、前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とに基づく前記方向制御のための情報を取得する取得手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記方向制御のための前記情報は、前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とを示す情報、又は、前記差分値を示す情報であり、
前記通信装置は、当該情報に基づいて前記差分値を取得し、当該差分値に基づいて前記中継装置から見た前記端末装置が存在する方向を推定する推定手段をさらに有し、
前記制御手段は、当該推定された前記端末装置の方向にビームを向けるように前記方向制御を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記方向制御のための前記情報は、前記差分値に基づくビームの制御指示であり、
前記制御手段は、当該制御指示に従って、前記端末装置の方向に向けられるビームについての前記方向制御を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項6】
前記中継装置は、メタサーフェスを有する反射板である、ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記中継装置は、無線リピータである、ことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項8】
基地局装置と所定の領域に滞在する端末装置との間での通信を中継する中継装置を制御する制御装置であって、
前記中継装置は、前記基地局装置から到来した電波を、第1のビームと、前記第1のビームとは異なる第2のビームとを形成して出力し、ここで、前記第1のビームを用いて中継される前記電波の受信電力と前記第2のビームを用いて中継される前記電波の受信電力との差分が、前記中継装置からの前記電波の出力方向ごとに異なるように、前記第1のビームおよび前記第2のビームが設定されており、
前記制御装置は、
前記端末装置から、前記中継装置が前記第1のビームを用いて電波を中継した場合の当該端末装置における当該電波の第1の受信電力と、前記中継装置が前記第2のビームを用いて電波を中継した場合の当該端末装置における当該電波の第2の受信電力と、の通知を受信する受信手段と、
前記端末装置に向けるビームの方向を前記中継装置に制御させるための前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とに関する情報を前記中継装置へ送信する送信手段と、
を有することを特徴とする制御装置。
【請求項9】
前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とに関する情報は、前記第1の受信電力および前記第2の受信電力、又は、前記第1の受信電力と前記第2の受信電力との差分値を示し、
前記中継装置は、当該情報に基づいて取得された前記差分値に基づいて、前記中継装置から見た前記端末装置が存在する方向を推定して、当該推定の結果に基づいて、前記基地局装置と前記端末装置との間の通信の中継に用いるビームの方向を制御する、
ことを特徴とする請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記第1の受信電力と前記第2の受信電力との差分値を算出する算出手段と、
当該差分値に基づいて、前記中継装置から見た前記端末装置が存在する方向を推定する推定手段と、
前記推定の結果に基づいて、前記中継装置から前記端末装置に向けられるビームの方向を決定する決定手段と、を有し、
前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とに関する情報は、前記決定に基づくビームの制御指示である、ことを特徴とする請求項8に記載の制御装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記基地局装置に含まれる、ことを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項12】
ビームを形成して電波を出力する通信装置によって実行される制御方法であって、
第1のビームを用いて出力される前記電波の受信電力と第2のビームを用いて出力される前記電波の受信電力との差分が、前記通信装置からの前記電波の出力方向ごとに異なるように、前記第1のビームおよび前記第2のビームを設定することと、
前記第1のビームを用いて前記電波を出力した場合の当該電波の受信装置における前記電波の第1の受信電力と、前記第2のビームを用いて前記電波を出力した場合の前記受信装置における前記電波の第2の受信電力との差分値に基づいて、前記受信装置に向けるビームの方向制御を行うことと、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項13】
基地局装置と所定の領域に滞在する端末装置との間での通信を中継する中継装置を制御する制御装置によって実行される制御方法であって、
前記中継装置は、前記基地局装置から到来した電波を、第1のビームと、前記第1のビームとは異なる第2のビームとを形成して出力し、ここで、前記第1のビームを用いて中継される前記電波の受信電力と前記第2のビームを用いて中継される前記電波の受信電力との差分が、前記中継装置からの前記電波の出力方向ごとに異なるように、前記第1のビームおよび前記第2のビームが設定されており、
前記制御方法は、
前記端末装置から、前記中継装置が前記第1のビームを用いて電波を中継した場合の当該端末装置における当該電波の第1の受信電力と、前記中継装置が前記第2のビームを用いて電波を中継した場合の当該端末装置における当該電波の第2の受信電力と、の報告を受信することと、
前記端末装置に向けるビームの方向を前記中継装置に制御させるための前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とに関する情報を前記中継装置へ送信することと、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項14】
コンピュータを、請求項1から7のいずれか1項に記載の通信装置として機能させるためのプログラム。
【請求項15】
コンピュータを、請求項8から11のいずれか1項に記載の制御装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信におけるビーム制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信では、基地局装置が送出した電波を受信可能な位置に存在する端末装置に対して無線通信サービスが提供される。このため、基地局装置が送出した電波を端末装置の位置に適切に到達させることが重要である。特に高周波数帯を使用する傾向のある近年の無線通信環境では、無線品質が低下しやすい。これに対して、基地局装置がビームを形成して、そのビームの利得により、無線品質を向上させることが想定される。また、無線品質が低い領域に向けて電波を反射させる反射板を用いることが検討されている。なお、反射板は、物理的な向きを変更することによって信号を反射させる方向を変更することができるが、メタサーフェス反射板(非特許文献1参照)を用いることにより、物理的な向きを変更せずに、様々な方向に電波を反射させることができる。また、同様に、ビームを形成可能な無線リピータなどを用いることもできる。さらに、受信した信号を復調及び復号して、復号後のデータを再符号化及び変調して、無線信号を再生して中継する再生中継装置が用いられてもよい。なお、これらの反射板、無線リピータ、及び再生中継装置をまとめて中継装置と呼ぶことがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. He、H. Wymeersch、T. Sanguanpuak、O. Silven、及び、M. Juntti、「Adaptive Beamforming Design for mmWave RIS-Aided Joint Localization and Communication」、2020 IEEE Wireless Communications and Networking Conference Workshops (WCNCW)、2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基地局装置が端末装置と十分な無線品質で通信するためには、基地局装置自身や中継装置によって形成されるビームが、端末装置の方向に適切に向けられていることが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、通信装置において、相手装置の方向に高精度にビームを向けるための適応制御技術を提供する。
【0006】
本発明の一態様による通信装置は、ビームを形成して電波を出力する出力手段と、第1のビームを用いて出力される前記電波の受信電力と第2のビームを用いて出力される前記電波の受信電力との差分が、前記通信装置からの前記電波の出力方向ごとに異なるように、前記第1のビームおよび前記第2のビームを設定する設定手段と、前記第1のビームを用いて前記電波を出力した場合の前記電波の受信装置における前記電波の第1の受信電力と、前記第2のビームを用いて前記電波を出力した場合の前記受信装置における前記電波の第2の受信電力との差分値に基づいて、前記受信装置に向けるビームの方向制御を行う制御手段と、を有する。
【0007】
本発明の一態様による制御装置は、基地局装置と所定の領域に滞在する端末装置との間での通信を中継する中継装置を制御する制御装置であって、前記中継装置は、前記基地局装置から到来した電波を、第1のビームと、前記第1のビームとは異なる第2のビームとを形成して出力し、ここで、前記第1のビームを用いて中継される前記電波の受信電力と前記第2のビームを用いて中継される前記電波の受信電力との差分が、前記中継装置からの前記電波の出力方向ごとに異なるように、前記第1のビームおよび前記第2のビームが設定されており、前記制御装置は、前記端末装置から、前記中継装置が前記第1のビームを用いて電波を中継した場合の当該端末装置における当該電波の第1の受信電力と、前記中継装置が前記第2のビームを用いて電波を中継した場合の当該端末装置における当該電波の第2の受信電力と、の報告を受信する受信手段と、前記端末装置に向けるビームの方向を前記中継装置に制御させるための前記第1の受信電力と前記第2の受信電力とに関する情報を前記中継装置へ送信する送信手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通信装置において、相手装置の方向に高精度にビームを向けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】無線通信システムの構成例を示す図である。
図2】複数のビームにおける利得の設定を説明する図である。
図3】装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】中継装置の機能構成例を示す図である。
図5】基地局装置の機能構成例を示す図である。
図6】端末装置の機能構成例を示す図である。
図7】処理の流れの第1の例を示す図である。
図8】処理の流れの第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(通信システムの構成)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す。無線通信システムは、例えば、基地局装置101と端末装置102とを含んで構成される。基地局装置101と端末装置102は、例えば、第5世代(5G)のセルラ通信規格による無線通信を行うが、これは一例であり、ロングタームエボリューション(LTE)や将来の無線通信規格など、他の通信規格による通信を行ってもよい。なお、基地局装置101の付近には、例えば建物等の障害物104が存在しているものとする。このような状況では、基地局装置101から見て障害物104の陰となる所定の領域において基地局装置101から送出された電波の受信電力が大幅に低下し、その所定の領域に滞在する端末装置102は、基地局装置101と直接通信することができない。このため、本実施形態では、中継装置103を用いて、基地局装置101からの電波を所定の領域に到達させ、また、所定の領域に滞在する端末装置102からの電波を基地局装置101へ到達させるようにする。
【0012】
中継装置103は、ユーザデータの復号を伴わずに無線信号を中継する反射板や無線リピータでありうる。なお、反射板は、複数の反射素子で構成されたメタサーフェス反射板であり、反射素子ごとの反射位相を調整することによって、任意の方向・ビーム幅の反射パターンを形成することができるように構成される。また、無線リピータは、受信した信号を増幅して(必要に応じてさらに周波数を変換して)出力することができる。また、無線リピータは、複数のアンテナを用いて任意の方向及びビーム幅のビームを形成することができるように構成される。なお、中継装置103は、ユーザデータを復調及び復号して、復号後のユーザデータを再符号化及び変調して無線信号を再生することにより中継する再生中継装置であってもよい。本実施形態では、中継装置103は、ビーム111を形成して、基地局装置101から到来した電波を出力することが可能に構成される。なお、図1では、1つのビームが形成されている例を示しているが、2つ以上のビームが形成されてもよいし、2つのビームのみが形成されてもよい。
【0013】
ここで、中継装置103を用いて、基地局装置101と端末装置102との間の無線通信を効率的に実行するには、中継装置103から、端末装置102の方向へ向けてビームが形成されることが重要である。このため、本実施形態では、中継装置103から見た端末装置102が位置する方向を推定する技術を提供する。なお、以下では、中継装置103において端末装置102に向けて電波が放射される方向を、電波出力方向と呼ぶ。また、以下では、中継装置103において端末装置102に向けるビームを制御する手法について説明するが、基地局装置101が端末装置102と直接通信可能な場合に、基地局装置101においてビームを形成する際など、任意のビームを形成して通信を行う通信装置に対して以下の議論を使用することができる。
【0014】
本実施形態では、中継装置103は、少なくとも2つのビームパターンを形成して、端末装置102に向けて電波を出力する。このとき、少なくとも2つのビームパターンは、第1のビームの利得と第2のビームの利得との差分値が、中継装置103からの電波の出力方向ごとに異なる値となるように、電波の出力方向ごとの利得が決定される。
【0015】
例えば、図2(A)に示すように、第1のビームと第2のビームとの電波出力方向ごとの利得が異なるようにビームが形成される。図2(A)のような利得が用いられる場合、第1のビームが使用されて電波が出力された際の第1の受信電力と第2のビームが使用されて電波が出力された際の第2の受信電力との差分値に基づいて、中継装置103から見た場合の端末装置102が存在する方向を特定することができる。
【0016】
例えば、中継装置103における電波の出力電力をP、第1のビームにおける利得をG1、第2のビームにおける利得をG2、端末装置102における受信アンテナの利得をGr、中継装置103から端末装置102までの間の伝搬ロスをPL、雑音をNとする。なお、これらは全て対数表記であるものとする。この場合、第1のビームが使用された場合の端末装置102における電波の第1の受信電力P1は、
P1=P+G1+Gr+PL+N
と表され、第2のビームが使用された場合の端末装置102における電波の第2の受信電力P2は、
P2=P+G2+Gr+PL+N
と表される。ここで、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値は、P1-P2によって表現される。ここで、端末装置102が大きく移動していない場合、伝搬ロスは第1のビームが使用された場合と第2のビームが使用された場合とで概ね共通であり、また、例えば出力電力Pが十分に大きい場合、相対的に雑音の影響を無視することができる。したがって、P1-P2≒G1-G2と表現することができる。すなわち、端末装置102における第1の受信電力と第2の受信電力との差分値は、第1のビームの利得と第2のビームの利得との差分値に対応する。したがって、図2(A)のような特性を有する第1のビームと第2のビームとが使用される場合、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値は、図2(B)のようになる。図2(B)のような特性が得られる場合、1つの差分値に対して、中継装置103から見た端末装置102の方向が1つのみ対応するため、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値が特定されることにより、中継装置103から見た端末装置102が存在する方向を一意に特定することが可能となる。
【0017】
このようにして、中継装置103において第1のビームを使用した場合の端末装置102における電波の第1の受信電力と、中継装置103において第2のビームを使用した場合の端末装置102における電波の第2の受信電力とに基づいて、中継装置103から見た端末装置102が存在する方向を特定することができる。このようにして、端末装置102が存在する方向が特定されると、中継装置103は、その特定された方向に向けてビームのピークが形成されるように、ビームの方向制御を実行することができる。
【0018】
一例において、端末装置102から、第1の受信電力及び第2の受信電力の測定結果を示す情報を通知する信号が送信された場合に、中継装置103は、その信号をそのまま基地局装置101へ転送する。その後、中継装置103は、基地局装置101から、端末装置102において測定された第1の受信電力と第2の受信電力とに基づく方向制御のための情報を取得しうる。一例において、この方向制御のための情報は、第1の受信電力及び第2の受信電力そのものの値を示す情報でありうる。この場合、中継装置103は、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値を算出して取得する。なお、方向制御のための情報として、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値を示す情報が取得されてもよい。中継装置103は、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値を算出することにより又は基地局装置101からの通知により取得すると、その差分値に基づいて、上述のようにして、中継装置103から見た端末装置102が存在する方向を推定し、その推定結果に基づいて、端末装置の方向にビームを向けるようにビームの方向制御を実行する。また、中継装置103から見た端末装置102が存在する方向の推定は、基地局装置101内に用意された制御装置又は基地局装置101に接続されたネットワーク内の制御装置によって行われてもよい。この場合、制御装置は、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値に基づいて中継装置103から見た端末装置102が存在する方向を推定し、その推定結果に基づいて、中継装置103によって形成されるビームが端末装置102の方向へ向くように中継装置103に指示するビームの制御指示情報を生成する。そして、制御装置は、基地局装置101を介して、中継装置103に対して、生成した制御指示情報を送信する。中継装置103は、この制御指示情報を受信すると、その指示に従って、ビームを端末装置102の方向へ向けるように制御を行う。この場合、中継装置103は、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値の算出や、端末装置102が存在する方向の推定を実行する必要はない。
【0019】
なお、中継装置103は、端末装置102から送信された第1の受信電力や第2の受信電力との通知を受信した場合に、その通知を復調及び復号して、第1の受信電力と第2の受信電力とを取得してもよい。すなわち、中継装置103は、端末装置103から基地局装置101へ通知された第1の受信電力と第2の受信電力を、基地局装置101を介して取得するのではなく、端末装置102から直接取得してもよい。この場合、中継装置103は、この取得した情報に基づいて、上述のようにして差分値を算出して、端末装置102が存在する方向を推定し、その推定の結果に基づいてビームを端末装置102の方向へ向けるように制御を行いうる。また、基地局装置101は、端末装置102と直接通信する(中継装置103を介さずに通信する)場合、上述のようにして少なくとも2つのビームを形成して、端末装置102からその少なくとも2つのビームを用いた場合の電波の受信電力の通知を受信し、その受信電力の差分値に基づいて、基地局装置101から見て端末装置102が存在する方向を推定しうる。そして、基地局装置101は、その推定した方向へビームが向くように、ビームの方向制御を実行しうる。なお、基地局装置101や中継装置103は、例えば、他の中継装置などの端末装置以外の装置に向けてビームを形成する際にも、この手法を使用することができる。この場合も、少なくとも2つのビームを用いて所定の電波を送出し、その電波を受信した受信装置からの受信電力のフィードバックによって、その受信装置の方向へビームを向ける制御を実行しうる。
【0020】
(装置構成)
図3を用いて、基地局装置101、端末装置102、及び中継装置103のハードウェア構成例について説明する。各装置は、一例において、プロセッサ301、ROM302、RAM303、記憶装置304、及び通信回路305を含んで構成される。プロセッサ301は、汎用のCPU(中央演算装置)や、ASIC(特定用途向け集積回路)等の、1つ以上の処理回路を含んで構成されるコンピュータであり、ROM302や記憶装置304に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、装置の全体の処理や、上述の各処理を実行する。ROM302は、各装置が実行する処理に関するプログラムや各種パラメータ等の情報を記憶する読み出し専用メモリである。RAM303は、プロセッサ301がプログラムを実行する際のワークスペースとして機能し、また、一時的な情報を記憶するランダムアクセスメモリである。記憶装置304は、例えば着脱可能な外部記憶装置等によって構成される。通信回路305は、例えば、LTEや5Gの無線通信用の回路を含んで構成される。なお、図3では、1つの通信回路305が図示されているが、各装置は、複数の通信回路を有してもよい。例えば、基地局装置101は他のノードの通信のために、また、中継装置103は制御装置との通信のために、有線通信回路を含んでもよい。
【0021】
図4は、中継装置103の機能構成例を示す図である。中継装置103は、その機能構成として、例えば、中継処理部401、ビーム形成部402、方向制御部403、及び端末位置特定部404を含む。なお、これらは一例に過ぎず、機能の一部が省略されてもよいし、他の機能部と統合されてもよいし、1つの機能部がさらに分割されてもよい。これらの機能部は、例えば、プロセッサ301が、ROM302や記憶装置304に記憶されたプログラムを実行することにより実現されうる。ただし、これに限られず、専用のハードウェアが用意されてもよい。
【0022】
中継処理部401は、基地局装置101又は端末装置102から送信された無線信号(電波)を(一例においてユーザデータの復号を伴わずに)中継する処理を実行する。例えば、中継装置103が無線リピータである場合、中継処理部301は、受信した電波を増幅して、必要に応じて周波数変換した上で出力する。また、中継装置103が反射板である場合、中継処理部301は、到来した電波に対して実態的な処理を行わずに反射させる。また、中継装置103が再生型中継装置である場合、中継処理部301は、受信した信号を復調及び復号し、その復号後のデータを再度符号化及び変調して無線信号を再生して、その再生した無線信号を中継先へ出力する。
【0023】
ビーム形成部402は、上述のように、少なくとも2つのビームパターンでビームを形成する。ビーム形成部402は、上述のように、第1のビームの利得と第2のビームの利得との差分値が、中継装置103からの電波の出力方向ごとに異なるように、第1のビームと第2のビームとを設定する。
【0024】
方向制御部403は、第1のビームを形成して電波を出力した際の端末装置102におけるその電波の第1の受信電力と、第2のビームを形成して電波を出力した際の端末装置102におけるその電波の第2の受信電力との差分値に基づいて、端末装置102が存在する方向に向けてビームを形成する制御を行う。端末位置特定部404は、例えば、制御装置から取得した情報に基づいて、端末の位置を特定する。例えば、端末位置特定部404は、制御装置から、端末装置102における電波の第1の受信電力及び第2の受信電力の測定値を示す情報やそれらの受信電力の差分値の情報(又はその値を特定可能な情報)を取得し、その情報に基づいて、中継装置103から見て端末装置102が存在する方向を推定しうる。また、端末位置特定部404は、例えば、端末装置102における電波の受信電力の測定結果を示す情報を、端末装置102からの報告を受信(又は傍受)することによって取得してもよい。なお、制御装置が端末装置102の位置を推定して、その推定に基づくビームの制御指示を中継装置103へ提供する場合には、端末位置特定部404は省略されてもよい。
【0025】
図5は、基地局装置101の機能構成例を示す図である。基地局装置101は、その機能構成として、例えば、報告受信部501、情報通知部502、及び端末方向推定部503を含む。なお、これらは一例に過ぎず、機能の一部が省略されてもよいし、他の機能部と統合されてもよいし、1つの機能部がさらに分割されてもよい。これらの機能部は、例えば、プロセッサ301が、ROM302や記憶装置304に記憶されたプログラムを実行することにより実現されうる。ただし、これに限られず、専用のハードウェアが用意されてもよい。また、図5は、本実施形態に関連する機能部のみを概略的に示したのみであり、基地局装置101は、通常のセルラ通信システムにおける基地局装置としての機能を当然に有する。
【0026】
報告受信部501は、端末装置102から、中継装置103が出力した電波の第1の受信電力および第2の受信電力の測定結果の報告を受信する。なお、基地局装置101は、通常の基地局装置として参照信号を定期的に所定の無線リソースで送信し続けており、端末装置102は、例えば中継装置103によって中継されたその参照信号を測定した参照信号受信電力(RSRP)を基地局装置101に報告しうる。なお、ここでは電波の受信電力が報告されるものとしているが、これに限られず、例えば、SNR(信号対雑音比)などの、電波の受信強度を特定可能な任意の指標が用いられてもよい。情報通知部502は、中継装置103へ、第1の受信電力及び第2の受信電力に関する情報を通知する。端末方向推定部503は、第1の受信電力と第2の受信電力との差分値に基づいて、中継装置103から見た端末装置102の存在する方向を推定する。ここで、情報通知部502によって通知される第1の受信電力及び第2の受信電力に関する情報に関する情報は、第1の受信電力及び第2の受信電力を示す情報又はこれらの受信電力の差分値の情報でありうる。また、この第1の受信電力及び第2の受信電力に関する情報は、例えば、端末方向推定部503によって推定された、中継装置103から見た端末装置102が存在する方向に基づいて、中継装置103がビームを向けるべき方向を指定する制御指示情報を含んでもよい。なお、中継装置103が、端末装置102からの報告を受信して自律的にビームの制御を行うことができる場合には、基地局装置101は、図5に示すような機能を有しなくてもよい。
【0027】
図6は、端末装置102の機能構成例を示す図である。端末装置102は、その機能構成として、例えば、受信電力測定部601、及び受信電力通知部602を含む。なお、これらは一例に過ぎず、機能の一部が省略されてもよいし、他の機能部と統合されてもよいし、1つの機能部がさらに分割されてもよい。これらの機能部は、例えば、プロセッサ301が、ROM302や記憶装置304に記憶されたプログラムを実行することにより実現されうる。ただし、これに限られず、専用のハードウェアが用意されてもよい。また、図6は、本実施形態に関連する機能部のみを概略的に示したのみであり、端末装置102は、通常のセルラ通信システムにおける端末装置としての機能を当然に有する。
【0028】
受信電力測定部601は、中継装置103から出力された電波の電力を測定する。例えば、受信電力測定部601は、基地局装置101から送信されて中継装置103によって中継された参照信号を測定し、参照信号受信電力(RSRP)を取得する。受信電力通知部602は、受信電力測定部601によって測定された受信電力を示す情報を(例えば中継装置103を介して)基地局装置101へ通知する。なお、受信電力通知部602は、受信電力を示す情報を中継装置103へ通知するように構成されてもよい。
【0029】
(処理の流れ)
続いて、無線通信システムで実行される処理の流れの例について図7を用いて概説する。本処理では、中継装置103が、基地局装置101から到来した(例えば、参照信号を含んだ)無線信号を、上述のようにして、第1のビームの利得と第2のビームの利得との差分値が、中継装置103からの電波の出力方向ごとに異なるように、第1のビームと第2のビームとを設定し、設定した第1のビームと第2のビームとを形成して出力する。例えば、中継装置103は、まず、基地局装置101から到来した無線信号を第1のビームを形成して中継する(S701、S702)。端末装置102は、中継された無線信号の受信電力(第1の受信電力)を測定し(S703)、中継装置103を介して、その測定結果を基地局装置101へ通知する(S704)。また、中継装置103は、基地局装置101から到来した無線信号を第2のビームを形成して中継する(S705、S706)。端末装置102は、中継された無線信号の受信電力(第2の受信電力)を測定し(S707)、中継装置103を介して、測定結果を基地局装置101へ通知する(S708)。なお、ここでは、第1のビームと第2のビームとが時分割で形成される場合について説明したが、これらのビームが並行して形成されてもよい。この場合、ビームごとに例えば異なる無線信号(例えば参照信号)が送信されるようにし、端末装置102において、これらの無線信号を並行して測定させるようにしてもよい。
【0030】
そして、基地局装置101は、受信した測定結果の情報に含まれる第1の受信電力および第2の受信電力又はこれらの受信電力の差分値の情報を中継装置103へ通知する(S709)。そして、中継装置103は、その情報に基づいて、自装置から見た端末装置102が存在する方向を推定し(S710)、その方向にビームが向くように、形成するビームの方向制御を実行する(S711)。
【0031】
なお、図7では、中継装置103が端末装置102の存在する方向を推定する場合の例について説明したが、図8のように、制御装置(基地局装置101)がその推定を行ってもよい。図8の場合、制御装置は、受信した測定結果に含まれる第1の受信電力および第2の受信電力の情報から、中継装置103から見た場合の端末装置102の存在する方向を推定して(S801)、中継装置103においてビームが向けられるべき方向を決定する(S802)。そして、制御装置は、基地局装置101を介して、決定した方向に中継装置103がビームを向けるように指示するビーム制御指示情報を送信する(S803)。中継装置103は、そのビーム制御指示情報に従って、ビームの方向制御を実行する(S804)。
【0032】
なお、中継装置103は、端末装置102が基地局装置101と直接通信できない領域に進入してくるまでは、初期的に事前設定された方向に向けてビームを形成して基地局装置101からの電波を出力するように構成されうる。なお、このビームは、例えば、第1のビーム又は第2のビームであってもよいし、不感地帯を広く覆うように、相対的にビーム幅が広くかつ利得が低く設定されたビームであってもよい。そして、端末装置102がそのビームのエリアに進入したことに応じて、上述の処理が実行されるように構成されうる。
【0033】
このように、本実施形態によれば、中継装置103における電波出力方向ごとに、少なくとも2つのビームの利得の差が一意に定まるようにビームパターンを設定することにより、端末装置102における電波の受信電力の測定値に基づいて、中継装置103から見た場合の端末装置102が存在する方向を高精度に推定することが可能となる。そして、中継装置103は、その推定された端末装置102が存在する方向に応じてビームを設定し、基地局装置101と端末装置102との間の通信を、その設定したビームを用いて高効率に中継することができるようになる。また、上述の手法を基地局装置101に適用することにより、基地局装置101が端末装置102と直接通信する場合のビーム設定を高精度に行うことができるようになる。
【0034】
上記構成により、通信装置において、適切な方向にビームを設定することができる。よって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0035】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8