(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128444
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】肥料組成物を副産するグリコールリグニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07G 1/00 20110101AFI20230907BHJP
C05D 1/00 20060101ALI20230907BHJP
C05B 3/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C07G1/00
C05D1/00
C05B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032789
(22)【出願日】2022-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究(木質リグニン由来次世代マテリアルの製造・利用技術等の開発)委託事業、産業技術力強化第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】521166319
【氏名又は名称】株式会社リグノマテリア
(71)【出願人】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 依里
(72)【発明者】
【氏名】見正 大祐
(72)【発明者】
【氏名】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇之
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB21
4H061BB51
4H061KK02
(57)【要約】
【課題】環境に対する負荷が低減されたグリコールリグニンの製造方法の提供。
【解決手段】(1)リグノセルロースをアルコール溶媒中、触媒の存在下で加溶媒分解を行い、反応混合物を得る工程と、(2)前記反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する工程と、(3)前記グリコールリグニンを含む溶液と酸溶液とを混合することでグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得る工程と、(4)前記グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液から、グリコールリグニン及び母液を分離する工程と、を含む、グリコールリグニンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リグノセルロースをアルコール溶媒中、触媒の存在下で加溶媒分解を行い、反応混合物を得る工程と、
(2)前記反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する工程と、
(3)前記グリコールリグニンを含む溶液と酸溶液とを混合することでグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得る工程と、
(4)前記グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液から、グリコールリグニン及び母液を分離する工程と、
を含む、グリコールリグニンの製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)において、前記酸溶液がリン酸水溶液、硫酸水溶液、塩酸水溶液、及び硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載のグリコールリグニンの製造方法。
【請求項3】
前記工程(3)において、前記酸溶液がリン酸水溶液、及び硫酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つである請求項2に記載のグリコールリグニンの製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)において、前記酸溶液がリン酸水溶液である請求項3に記載のグリコールリグニンの製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のグリコールリグニンの製造方法により得られた前記母液を濃縮して、前記母液の濃縮液を得る工程を含む肥料の製造方法。
【請求項6】
前記濃縮液に対して、肥料成分を添加する工程を含む請求項5に記載の肥料の製造方法。
【請求項7】
肥料は、液体又は固体である請求項6に記載の肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコールリグニンの製造方法及び肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、植物細胞壁の主成分であり、芳香環を有する高分子化合物である。そして、リグニンは地球上で最も豊富な天然資源の一つであり、その有効活用方法について近年検討されている。
グリコールで誘導体化されたリグニンはグリコールリグニンという。グリコールリグニンは、リグニン由来の性能を有しつつ熱可塑性を有する化合物であり、熱可塑性樹脂、炭素繊維、フィルム等の用途への適用が期待されている。
【0003】
グリコールリグニンの製造方法として、例えば、特許文献1には、「(a)リグノセルロースをポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン及びポリグリセリンから選択される少なくとも1種のグリコール系蒸解溶媒で、酸触媒の存在下、常圧下で加溶媒分解する工程と、(b)前記加溶媒分解工程後の反応混合物と希アルカリとを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液画分と固形分とを分離する工程と、(c)前記溶液画分を硫酸で酸性化することにより、グリコールリグニンを沈殿物として得る工程と、(d)グリコールリグニンの沈殿物を、硫酸で酸性化した前記溶液画分から分離する工程と、(e)グリコールリグニンの沈殿物分離後の上清液を集積し、その集積溶液に水酸化ナトリウムを添加することにより、集積溶液を中和する工程と、(f)前記中和溶液を加熱することにより含水率10%以下に濃縮して蒸解溶媒を回収する工程と、(g)濃縮により生成した硫酸ナトリウムの結晶を分離することを含む工程とを含む、グリコールリグニンの製造方法。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のグリコールリグニンの製造方法において、グリコールリグニンの製造に使用されたグリコール系蒸解溶媒は、所定の工程(前記(e)~(g))を経て再生される。そして、再生されたグリコール系蒸解溶媒は、再びグリコールリグニンの製造に使用される。しかしながら、再生回数が増加するにしたがって、グリコール系蒸解溶媒中にヘミセルロース等の不純物が蓄積することにより、グリコール系蒸解溶媒の粘度が増加することがあった。また、リグノセルロースの加溶媒分解における反応性低下に伴い、添加する酸触媒が増加することがあった。そのため、グリコール系蒸解溶媒の再生回数には限りがある。よって、最終的にはグリコール系蒸解溶媒を廃棄する必要がある。また、再生工程で排出される硫酸ナトリウムも廃棄物となる課題があった。そして、これらの廃棄物は、自然の浄化作用によって分解されにくい。そのため、別途人為的に廃棄物を処理する必要があり、環境に対して負荷がかかるということがあった。
【0006】
そのため、環境に対する負荷が低減されたグリコールリグニンの製造方法の要求が高まっている。
そこで、本発明の課題は、環境に対する負荷が低減されたグリコールリグニンの製造方法及び肥料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち
<1> (1)リグノセルロースをアルコール溶媒中、触媒の存在下で加溶媒分解を行い、反応混合物を得る工程と、
(2)前記反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する工程と、
(3)前記グリコールリグニンを含む溶液と酸溶液とを混合することでグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得る工程と、
(4)前記グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液から、グリコールリグニン及び母液を分離する工程と、
を含む、グリコールリグニンの製造方法。
<2> 前記工程(3)において、前記酸溶液がリン酸水溶液、硫酸水溶液、塩酸水溶液、及び硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つである前記<1>に記載のグリコールリグニンの製造方法。
<3> 前記工程(3)において、前記酸溶液がリン酸水溶液、及び硫酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つである前記<2>に記載のグリコールリグニンの製造方法。
<4> 前記工程(3)において、前記酸溶液がリン酸水溶液である前記<3>に記載のグリコールリグニンの製造方法。
<5> 前記<1>~<4>のいずれか1つに記載のグリコールリグニンの製造方法により得られた前記母液を濃縮して、前記母液の濃縮液を得る工程を含む肥料の製造方法。
<6> 前記濃縮液に対して、肥料成分を添加する工程を含む前記<5>に記載の肥料の製造方法。
<7> 肥料は、液体又は固体である前記<6>に記載の肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境に対する負荷が低減されたグリコールリグニンの製造方法及び肥料の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「pH」は測定溶液の温度が25℃におけるpHである。
【0011】
<グリコールリグニンの製造方法>
本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、
(1)リグノセルロースをアルコール溶媒中、触媒の存在下で加溶媒分解を行い、反応混合物を得る工程と、
(2)前記反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する工程と、
(3)前記グリコールリグニンを含む溶液と酸溶液とを混合することでグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得る工程と、
(4)前記グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液から、グリコールリグニン及び母液を分離する工程と、を含む。
【0012】
本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、上記構成により、環境に対する負荷が低減する。その理由は、次の通りである。
上記工程(2)において、水酸化カリウムを添加する。そのため、前記工程(3)及び前記工程(4)を経ることで、グリコールリグニンが分離された母液は、植物の三大栄養素の1つであるカリウムを含有する。また、当該母液は、リグノセルロース由来のヘミセルロースも含有する。ヘミセルロースも、植物の養分となる化合物である。そのため、当該母液は、肥料としての利用が可能である。
前記グリコールリグニンが分離された母液にはアルコール溶媒が含有されるため、従来のグリコールリグニンの製造方法においては、当該母液を再生することで、グリコールリグニンの製造における溶媒として再利用され、上述の通り最終的には廃棄される。また、グリコールリグニンの製造方法では、上記工程(2)において水酸化ナトリウムを添加する。そのため、前記グリコールリグニンが分離された母液には、植物の生育を妨げる可能性があるナトリウムが含有されるため、当該母液を肥料として使用することができない。
一方、本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法では当該母液を肥料として利用することが可能であるため、母液の再生及び母液の廃棄による環境への負荷が低減すると考えられる。
【0013】
以上のことから、本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、上記構成により、環境に対する負荷が低減すると考えられる。
【0014】
(工程(1))
本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、リグノセルロースをアルコール溶媒中、触媒の存在下で加溶媒分解を行い、反応混合物を得る工程を含む。
ここで、加溶媒分解とは、溶質が溶媒と反応して分解することをいう。ここで、本発明の一実施形態においては、リグノセルロースが溶質に該当する。
【0015】
加溶媒分解時の反応条件としては特に限定されないが、例えば、110℃~180℃の反応温度で、60分間~240分間撹拌することが好ましい。
リグノセルロースの添加量としては、工程(1)において添加されるリグノセルロース、アルコール溶媒、及び触媒の合計100質量部に対して、1質量部~80質量部であることが好ましく、5質量部~80質量部であることがより好ましく、10質量部~35質量部であることが更に好ましい。
アルコール溶媒の添加量としては、リグノセルロース1質量部に対して、1質量部~50質量部であることが好ましく、1質量部~25質量部であることがより好ましく、2質量部~6質量部であることが更に好ましい。
触媒の添加量としては、リグノセルロース及びアルコール溶媒の合計100質量部に対して、0.1質量部~5.0質量部であることが好ましい。
【0016】
-リグノセルロース-
リグノセルロースとは、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成される有機物である。
リグノセルロースとしては、スギ、モミ、ヒノキ、マツ等の針葉樹、ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナ、ナラ等の広葉樹、稲藁、穀物、バガス、竹、ケナフ、葦等の草本植物等が挙げられる。
リグノセルロースは、木片および木材チップの形態で用いても構わないが、粉末形態であることが好ましい。リグノセルロースを粉末形態にするための粉砕手段は特に限定されず、切削チッパー、破砕チッパー、カッターミル、振動ミル、ハンマーミル等、慣用粉砕機を用いることができる。
リグノセルロースの含水率は50%以下に調整すればよいが、20%以下が好ましい。
【0017】
-アルコール溶媒-
アルコール溶媒としては、特に限定されず、1分子内にヒドロキシ基を1個以上有するアルコールが挙げられる。
アルコール溶媒としては、1分子内にヒドロキシ基を1個以上3個以下有するアルコールであることが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個以上3個以下有するアルコールであることが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個有するアルコールであることがより好ましい。
【0018】
1分子内にヒドロキシ基を1個有するアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等が挙げられる。
1分子内にヒドロキシ基を2個有するアルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール;ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
1分子内にヒドロキシ基を3個有するアルコールとしては、具体的には、グリセリン;グリセリンにアルキレンオキサイドを付加重合した化合物等が挙げられる。
また、アルコール溶媒としては、例えば、ポリグリセリンを用いてもよい。
【0019】
得られるグリコールリグニンの特性およびアルコール溶媒としての取り扱いの容易性の観点から、アルコール溶媒としてはポリアルキレングリコールを用いることが好ましい。
ここで、ポリアルキレングリコールとは、アルコールにアルキレンオキサイドを付加重合した化合物である。
【0020】
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールに炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加重合した化合物であることが好ましく、アルコールに炭素数2~3のアルキレンオキサイドを付加重合した化合物であることがより好ましく、アルコールに炭素数2のアルキレンオキサイドを付加重合した化合物であることが更に好ましい。
【0021】
ポリアルキレングリコールとしては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられ、得られるグリコールリグニンの特性およびアルコール溶媒としての取り扱いの容易性の観点から、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0022】
アルコール溶媒として用いられるポリエチレングリコールの分子量としては、200以上2000以下であることが好ましく、200以上1000以下であることが好ましく、200以上700以下であることがさらに好ましい。
【0023】
-触媒-
触媒としては、酸が挙げられる。
酸としては、具体的には、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが挙げられ、硫酸を用いることが好ましい。
【0024】
(工程(2))
本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する工程を含む。
【0025】
以下、工程(2)の具体的な手順の一例について説明する。
先ず、工程(1)で得られた反応混合物の温度を冷却し40℃以下とすることが好ましい。次に、前記反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合し、撹拌を行うことで溶液をアルカリ性にする。なお、グリコールリグニンを含む溶液をアルカリ性(pH=10.5以上とすることが好ましい)とすることで、効率的にグリコールリグニンを前記溶液中に溶解させることができる。続いて、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する。ここで、固形分はセルロース及びヘミセルロースを主成分とするパルプである。
【0026】
グリコールリグニンを含む溶液のpHは、pH計を用いて測定される値である。具体的な測定手順は下記の通りである。
pHの測定は、検査対象の溶液の温度を25℃とし、pH計を用いて行う。
pH計としては品名:ポータブル型 pH・水質計 LAQUAactD-72、堀場製作所社製などが使用可能である。
【0027】
-水酸化カリウム水溶液-
水酸化カリウム水溶液の濃度、及び添加量としては、特に限定されず、水酸化カリウム水溶液を添加した後の溶液がアルカリ性となる様に調整する。
水酸化カリウム水溶液の濃度としては、例えば、0.1mol/L~12.8mol/Lであることが好ましく、0.15mol/L~0.5mol/Lであることがより好ましく、0.2mol/L~0.4mol/Lであることが更に好ましい。
【0028】
水酸化カリウム水溶液の添加量としては、例えば、工程(1)で得られた反応混合物全体100質量部に対して、50質量部以上300質量部以下であることが好ましく、80質量部以上270質量部以下であることがより好ましく、110質量部以上240質量部以下であることが更に好ましい。
【0029】
-グリコールリグニンを含む溶液と固形分との分離-
グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する方法としては、ろ過、遠心分離などが挙げられる。
グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離するための分離機としては、特に限定されず、フィルタープレス、真空濾過機、遠心分離機等が挙げられる。
分離機としては、工程の生産性や洗浄効果の観点から、フィルタープレスを用いることが好ましい。
【0030】
(工程(3))
本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、グリコールリグニンを含む溶液と酸溶液とを混合することでグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得る工程を含む。
【0031】
以下、工程(3)の具体的な手順の一例について説明する。
工程(2)で得られたグリコールリグニンを含む溶液に対し酸溶液を添加し、撹拌を行うことで溶液を酸性にする。溶液を酸性とすることで、グリコールリグニンが沈殿する。
グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液のpHを、pH=1~5に調整することが好ましく、pH=1~3に調整することがより好ましく、pH=1~2に調整することが更に好ましい。
【0032】
グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液のpHは、前述のグリコールリグニンを含む溶液のpHの測定と同様にして測定される値である。
【0033】
-酸溶液-
酸溶液としては、有機酸又は無機酸を含む水溶液が挙げられる。
有機酸としては、具体的には、酢酸等の1価のカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、酒石酸等の2価のカルボン酸、クエン酸、エチレンジアミン4酢酸等の3価以上のカルボン酸等が挙げられる。
無機酸としては、具体的には、塩酸、硫酸水溶液、硝酸水溶液、リン酸水溶液等が挙げられる。
【0034】
グリコールリグニンを含む溶液に対し酸溶液を添加した場合において、溶液のpHを所望の範囲内としやすい観点及び後述する肥料の製造方法において分離される肥料成分の肥料としての利用可能性をより高める観点から、酸溶液としては、リン酸水溶液、硫酸水溶液、塩酸水溶液、及び硝酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0035】
また、酸溶液としては、リン酸水溶液、及び硫酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0036】
また、酸溶液としては、リン酸水溶液であることが更に好ましい。
酸溶液としてリン酸水溶液を用いることにより、後述の工程(4)を経ることでグリコールリグニンが分離された母液は、カリウム及びヘミセルロースに加え、植物の三大栄養素の1つであるリンも含むこととなる。そのため、前記母液の肥料としての利用価値がより高まる。
【0037】
酸溶液の濃度、及び添加量としては、特に限定されず、グリコールリグニンを含む溶液に対し酸溶液を添加した後の溶液が酸性となる様に調整する。
ここで、酸溶液がリン酸水溶液である場合の、濃度及び添加量の一例について説明する。
リン酸水溶液の濃度としては、リン酸水溶液全体に対するリン酸の含有量が、20質量%~85質量%であることが好ましく、30質量%~80質量%であることがより好ましく、40質量%~75質量%であることが更に好ましい。
リン酸水溶液の添加量としては、例えば、工程(2)で得られたグリコールリグニンを含む溶液全体100質量部に対して、1.0質量部以上15.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以上10.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以上8.0質量部以下であることが更に好ましい。
【0038】
つぎに、酸溶液が硫酸水溶液である場合の、濃度及び添加量の一例について説明する。
硫酸水溶液の濃度としては、0.5mol/L~2.5mol/Lであることが好ましく、1.0mol/L~2.0mol/Lであることがより好ましく、1.2mol/L~1.8mol/Lであることが更に好ましい。
硫酸水溶液の添加量としては、例えば、工程(2)で得られたグリコールリグニンを含む溶液全体100質量部に対して、0.1質量部以上15.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以上10.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以上8.0質量部以下であることが更に好ましい。
【0039】
(工程(4))
本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液から、グリコールリグニン及び母液を分離する工程を含む。
【0040】
工程(3)で得られたグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液から、グリコールリグニン及び母液を分離する方法としては、遠心分離を行う方法、又はろ過を行う方法が挙げられる。
グリコールリグニン及び母液の分離を効率的に行う観点から、グリコールリグニン及び母液を分離する方法としては、遠心分離を行う方法が好ましい。
【0041】
工程(3)で得られたグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を円筒型遠心分離機などの遠心分離機に供給し、遠心分離を行い、グリコールリグニンとグリコールリグニンが分離された母液とに分ける。そして、グリコールリグニン及び母液を回収する。
【0042】
<肥料の製造方法>
本発明の他の実施形態に係る肥料の製造方法は、上記グリコールリグニンの製造方法により得られた母液を濃縮して、前記母液の濃縮液を得る工程(以下、「濃縮工程」とも称する)を含む。
また、本発明の他の実施形態に係る肥料の製造方法は、濃縮液に対して、肥料成分を添加する工程(以下、「肥料成分添加工程」とも称する)を含むことが好ましい。
【0043】
(濃縮工程)
濃縮工程は、母液を濃縮して、前記母液の濃縮液を得る工程である。
濃縮工程は、具体的には、工程(4)において得られる母液を濃縮して、前記母液の濃縮液を得る工程である。
【0044】
ここで「濃縮」とは、母液から揮発成分(アルコール溶媒、水、木材由来成分(ギ酸、酢酸、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、アセトグアイアコン、バニリン、及びバニリン酸)など)の一部又は全部を除去することをいう。
母液を濃縮することで水分量の調整が可能であり、濃縮液を用いて得られる肥料の有効成分を制御することが容易となる。
工程(4)で得られる母液は水分量の調整のために濃縮を行った後に、肥料成分と混合して肥料として利用することもできる。また、母液を濃縮することで、カリウム塩を析出した後に固液分離を行い、カリウム塩を固体肥料として利用することもできる。
【0045】
母液を濃縮する方法としては、例えば、母液を減圧する方法が挙げられる。
減圧条件としては、例えば、6mmHg以上760mmHg以下とすることが好ましい。
【0046】
圧力の測定は、圧力計を用いて測定される値である。
圧力計としては、例えば、EYEL社製、NVC-2200が挙げられる。
【0047】
また、母液を濃縮する際、母液を加熱することが好ましい。
加熱条件としては、例えば、母液の温度を30℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0048】
温度の測定は、温度計を用いて測定される値である。
温度計としては、例えば、アズワン社製、品名TM-201が挙げられる。
【0049】
母液を濃縮して、前記母液の濃縮液を得る工程としては、例えば、エバポレーターを用いて母液を濃縮する方法が挙げられる。
エバポレーターとしては、例えば、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーター等が挙げられ、濃縮作業の効率化の観点から、ロータリーエバポレータを用いることが好ましい。
ロータリーエバポレーターを用いて母液の濃縮を行う場合、ロータリーエバポレーターの条件は下記の通りとすることが好ましい。
圧力:6mmHg以上400mmHg以下
温度:30℃以上70℃以下
時間:5分以上60分以下
【0050】
-母液の濃縮液-
以下、母液の濃縮液の成分などについて説明する。
母液の濃縮液は、例えば、カリウム塩、ヘミセルロース、アルコール溶媒、水、及びリグノセルロース由来の不純物を含有する。
【0051】
肥料の有効成分を高める観点から、母液の濃縮液中に含有される水の含有量は、母液の濃縮液全体に対して、10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
母液の濃縮液中に含有される水の含有量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
水の含有量の測定は、例えば、以下の条件で測定される。
カールフィシャー水分計:品名870 KF Titrino pulus、Metrohm社製
カールフィッシャー試薬:品名HYDRANAL コンポジット5、ハネウェル社製
溶媒:品名HYDRANALメタノールラピッド、ハネウェル社製
測定サンプル投入量:0.1g
測定温度:23℃
測定時間:10分
【0053】
母液の濃縮液は、植物の栄養素である、カリウムを多く含有するため、肥料又は肥料の原料として用いることができる。
母液の濃縮液に含有されるカリウムは、既述のグリコールリグニンの製造方法における「(2)反応混合物と水酸化カリウム水溶液とを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを分離する工程」において添加される水酸化カリウムに主に由来する。
【0054】
母液の濃縮液全体に対する、水溶性加里の含有量は、1質量%以上20%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。
【0055】
水溶性加里の含有量は、公定肥料分析法に従い測定される値であり、水に溶解するカリウムの含有量をK2O換算で表したものである。
【0056】
母液の濃縮液は、リンを含有することが好ましい。
リンは、植物の育成において多量に必要とする栄養素である肥料の三要素(カリウム、リン、及び窒素)の一つである。そのため、母液の濃縮液がリンを含有することで、肥料又は肥料の原料としての有用性がより高まる。
母液の濃縮液にリンを含ませる方法としては、例えば、既述のグリコールリグニンの製造方法における「(3)グリコールリグニンを含む溶液と酸溶液とを混合することでグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得る工程」において添加する酸溶液としてリン酸水溶液を用いる方法が挙げられる。
【0057】
母液の濃縮液全体に対する、水溶性リン酸の含有量は、1質量%以上20%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。
【0058】
水溶性リン酸の含有量は、公定肥料分析法に従い測定される値であり、水に溶解するリンの含有量をP2O5換算で表したものである。
【0059】
ヘミセルロースは展着剤として、アルコール溶媒はつなぎ剤(バインダー)として使用可能である。
そのため、ヘミセルロースを含有する母液の濃縮液は、展着剤として使用可能である。
アルコール溶媒を含有する母液の濃縮液は、つなぎ剤(バインダー)として使用可能である。母液の濃縮液をつなぎ剤として使用する場合、母液の濃縮液が含有するアルコール溶媒はポリエチレングリコールを含むことが好ましい。
【0060】
(肥料成分添加工程)
肥料の製造方法は、濃縮液に対して、肥料成分を添加する工程を含むことが好ましい。
肥料の製造方法が本工程を含むことで、肥料に含有される有効成分の濃度をより高めることができる。
【0061】
肥料成分としては、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、ホウ素、塩素、銅、鉄、マンガン、モリブデン、亜鉛などが挙げられる。
肥料成分を添加する方法としては、肥料成分を含有する化合物を濃縮液に添加する方法が挙げられる。
肥料成分を含有する化合物としては、窒素を含有する化合物、リンを含有する化合物、カリウムを含有する化合物、カルシウムを含有する化合物、マグネシウムを含有する化合物、硫黄を含有する化合物、ホウ素を含有する化合物、塩素を含有する化合物、銅を含有する化合物、鉄を含有する化合物、マンガンを含有する化合物、モリブデンを含有する化合物、亜鉛を含有する化合物などが挙げられる。
【0062】
窒素を含有する化合物としては、例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、ホルムアルデヒド加工尿素肥料(UF)、アセトアルデヒド加工尿素肥料(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素肥料(IBDU)、グアニール尿素(GU)が挙げられる。
【0063】
リンを含有する化合物としては、例えば、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、苦土過リン酸、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安、リン酸等が挙げられる。
カリウムを含有する化合物としては、例えば、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
カルシウムを含有する化合物としては、例えば、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム肥料、貝化石肥料、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リグニンスルホン酸カルシウム等が挙げられる。
【0064】
マグネシウムを含有する化合物としては、例えば、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。
硫黄を含有する化合物としては、例えば、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム等の硫酸塩;粉末状の硫黄等が挙げられる。
【0065】
ホウ素を含有する化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩等が挙げられる。
塩素を含有する化合物としては、例えば、塩素を含有する塩(塩化カリウム、リン酸カリウム等)等が挙げられる。
銅を含有する化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅等が挙げられる。
鉄を含有する化合物としては、例えば、鉄鋼スラグ、硝酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄、リン酸鉄、酢酸鉄、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、アスコルビン酸鉄等が挙げられる。
【0066】
マンガンを含有する化合物としては、例えば、硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン、鉱さいマンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン等が挙げられる。
モリブデンを含有する化合物としては、例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。
亜鉛を含有する化合物としては、例えば、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。
【0067】
肥料成分を含有する化合物の添加量は、肥料の使用目的に応じて設定され、例えば、得られる肥料中に含有される肥料成分を肥料取締法に基づき公定規格で定められている含有量とすることが好ましい。
【0068】
以上の工程を経て肥料を製造する。
(肥料)
肥料の剤型は、液体、粉末、又は固体のいずれであってもよいが、肥料の製造の容易さの観点から液体又は固体であることが好ましい。
【0069】
肥料全体に対する、水溶性加里の含有量は、1質量%以上20%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。
【0070】
肥料全体に対する、水溶性リン酸の含有量は、1質量%以上20%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。
【0071】
肥料は、例えば、肥料取締法に基づき公定規格で定められている「液状複合肥料」であることが好ましい。
【実施例0072】
以下に試験例について説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0073】
<試験例1>
(工程(1))
リグノセルロースとして木粉(富山県産杉)10g、アルコール溶媒としてポリエチレングリコール(分子量200)50g、及び触媒として濃硫酸(98%硫酸)0.15gを、反応容器である丸底フラスコに加えた。丸底フラスコの内容物を撹拌しながら、130~140℃に昇温し、1.5時間反応を行うことで、リグノセルロースを加溶媒分解した。
(工程(2))
丸底フラスコの内容物を40℃以下に冷却した後、抽出塩基として0.2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液70gを添加し、15分間撹拌を行い、溶液のpHを10.7とした。グリコールリグニンを含む溶液と固形分とを吸引ろ過によって分離した。この時、固形分を水で洗浄し、吸引ろ過することで、固形分中のグリコールリグニンを回収するようにした。
(工程(3))
工程(2)で得られたグリコールリグニンを含む溶液に、酸溶液として1.5mol/Lの硫酸水溶液6.7mL添加することで、溶液のpHを2.0とし、グリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を得た。
(工程(4))
工程(3)で得られたグリコールリグニンの沈殿物を含む溶液を、遠心分離機によって遠心分離を行った。遠心分離後の溶液から上澄み(つまり「グリコールリグニンが分離された母液」)を取り除いた。その後、グリコールリグニンを含む沈殿に水を添加し、水中にグリコールリグニンを分散させ、再び遠心分離を行った。そして、遠心分離後の上澄みを取り除き、グリコールリグニンを含む沈殿を乾燥することで、グリコールリグニン2.76g(収率27.6%)を得た。なお、使用した木粉の質量を100としたときの、得られたグリコールリグニンの質量を収率とした。
【0074】
<試験例2~16>
木粉の添加量、触媒の添加量、ポリエチレングリコールの分子量及び添加量、抽出塩基の種類、濃度及び添加量、並びに、酸溶液の種類、濃度及び添加量を表1及び表2の通りに変えた以外は、試験例1と同様の手順でグリコールリグニンを得た。
なお、試験例16はベンチプラントを用いて製造した例であり、反応容器としてはベンチプラントに備えられている反応容器を使用した。また、表2における試験例16の木粉の添加量、ポリエチレングリコールの添加量、触媒の添加量、抽出塩基の添加量、及びグリコールリグニンの収量の単位は「kg」であり、酸溶液の添加量の単位は「L」である。
【0075】
【0076】
【0077】
以下、表中の略称について説明する。
・PEG:ポリエチレングリコール。
・pH(工程2):工程(2)において、抽出塩基を添加し、15分間撹拌を行った後の溶液のpH。
・pH(工程3):工程(3)において、酸溶液を添加した後の溶液のpH。
【0078】
上記結果から、工程(2)にて添加される抽出塩基が、従来のグリコールリグニンの製造方法において用いられてきた水酸化ナトリウム水溶液の場合であっても、水酸化カリウム水溶液の場合であっても、グリコールリグニンの収率は同等であることがわかる。
【0079】
また、抽出塩基が水酸化カリウム水溶液である試験例(つまり、発明例)において、工程(3)及び工程(4)を経ることで、グリコールリグニンが分離された母液は、カリウム、ヘミセルロース及びリンを含む。そのため、前記母液は肥料としての利用価値が高い。
【0080】
(肥料の製造)
次に、試験例16で得られた、前記グリコールリグニンが分離された母液から肥料を製造した。
母液をナスフラスコに420g量り取りロータリーエバポレーターを用いて濃縮を行い、濃縮液315gを得た。濃縮液全体に対する水の含有量は60質量%であった。濃縮液をビーカーに移して、撹拌を行いながら、肥料成分として85%リン酸を37g加えた。その後、肥料成分として48%水酸化カリウム水溶液を58g加え、pH=7に調整した肥料を得た。
【0081】
<評価>
試験機関として、公益財団法人日本肥糧検定協会で、「植物に対する害に関する栽培試験」を行った。また、「植物に対する害に関する栽培試験」は、昭和59年4月18日付59農蚕第1943号農林水産省農蚕園芸局長通知「植物に対する害に関する栽培試験の方法」に準じて行った。
得られた肥料を「供試肥料」とし、りん酸一加里(KH2PO4)と硫酸加里(K2SO4)とを純粋に溶解して得た溶液を「対照肥料」として試験を行った。供試肥料の肥料全体に対する、水溶性加里の含有量は4.11質量%であり、水溶性リン酸の含有量は、4.06質量%であった。
供試作物として「こまつな」を使用し、供試土壌は下記表3の土壌を使用した。
【0082】
【0083】
施肥の設計および試験区の名称は表4のとおりとした。
【0084】
【0085】
植害試験の結果は表5のとおりである。
【0086】
【0087】
上記結果から、供試肥料を用いた場合であっても、植物の生育上の異常症状は認められないことが明らかとなった。
供試肥料区の発芽率(4月23日)は、対照肥料区及び標準区と同等の成績を示した。供試肥料区の葉長(5月10日)は、対照肥料の対応する各区と同等、標準区と比較していずれの試験区も同等以上の成績を示した。供試肥料区の生体重は、対照肥料の対応する各区と同等、標準区と比較していずれの試験区も同等以上の成績を示した。
以上の結果から、グリコールリグニンの製造方法において得られた母液を用いて製造された肥料は、肥料としての利用価値が高いことが分かる。
【0088】
以上のことから、本発明の一実施形態に係るグリコールリグニンの製造方法は、グリコールリグニンの収率を維持しつつ、環境に対する負荷が低減されるグリコールリグニンの製造方法であることがわかる。