(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128472
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】振動処理装置、ステージ駆動装置、振動処理方法、振動処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 3/12 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
G05D3/12 305V
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032833
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼原 大地
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敦志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 まりの
【テーマコード(参考)】
5H303
【Fターム(参考)】
5H303AA01
5H303BB02
5H303BB07
5H303CC03
5H303DD08
5H303KK25
(57)【要約】
【課題】アクチュエータの更なる高精度化が可能な振動処理装置等を提供する。
【解決手段】振動処理装置3は、Xアクチュエータ120、Yアクチュエータ130の非駆動時の振動データを収集する振動データ収集部31と、振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定部32と、ピーク周波数を出力するピーク周波数出力部33と、所定の抑制対象周波数の周波数成分を抑制可能なフィルタ4に対して、ピーク周波数出力部33が出力したピーク周波数を抑制対象周波数としてXアクチュエータ120、Yアクチュエータ130の非駆動時に設定する抑制対象周波数設定部35と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集部と、
前記振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定部と、
前記ピーク周波数を出力するピーク周波数出力部と、
を備える振動処理装置。
【請求項2】
前記ピーク周波数出力部は、前記極大値が大きい方から所定数以下の前記ピーク周波数を出力する、請求項1に記載の振動処理装置。
【請求項3】
前記ピーク周波数出力部は、所定周波数以上の前記ピーク周波数を出力する、請求項1または2に記載の振動処理装置。
【請求項4】
所定の抑制対象周波数の周波数成分を抑制可能なフィルタに対して、前記ピーク周波数出力部が出力した前記ピーク周波数を前記抑制対象周波数として前記アクチュエータの非駆動時に設定する抑制対象周波数設定部を更に備える、請求項1から3のいずれかに記載の振動処理装置。
【請求項5】
前記ピーク周波数出力部は、前記ピーク周波数を表示する、請求項1から4のいずれかに記載の振動処理装置。
【請求項6】
前記ピーク周波数出力部は、前記ピーク周波数における前記極大値を表示する、請求項5に記載の振動処理装置。
【請求項7】
前記ピーク周波数出力部は、周波数解析された前記振動データと共に前記ピーク周波数を表示する、請求項5または6に記載の振動処理装置。
【請求項8】
前記ピーク周波数出力部は、周波数解析された前記振動データ上に前記極大値および/または前記ピーク周波数を指すマークを表示する、請求項5から7のいずれかに記載の振動処理装置。
【請求項9】
前記ピーク周波数出力部は、所定の抑制対象周波数の周波数成分を抑制可能なフィルタに対して、前記ピーク周波数を前記抑制対象周波数として設定する操作を受け付ける設定操作受付部を、当該ピーク周波数と共に表示する、請求項5から8のいずれかに記載の振動処理装置。
【請求項10】
アクチュエータと、
前記アクチュエータによって駆動されるステージと、
前記アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集部と、
前記振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定部と、
前記ピーク周波数を出力するピーク周波数出力部と、
を備えるステージ駆動装置。
【請求項11】
アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集ステップと、
前記振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定ステップと、
前記ピーク周波数を出力するピーク周波数出力ステップと、
を備える振動処理方法。
【請求項12】
アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集ステップと、
前記振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定ステップと、
前記ピーク周波数を出力するピーク周波数出力ステップと、
をコンピュータに実行させる振動処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクチュエータの振動処理に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体の製造に使用される露光装置におけるステージ駆動装置として、ステージ駆動時の共振周波数成分を自動的に除去できるものが開示されている。ステージを目標位置に駆動した際の信号解析を通じてステージ駆動に伴う共振が検知され、その周波数成分を除去するようにフィルタの周波数特性が自動的に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体の微細化の進展に伴ってステージ駆動装置に求められる位置決め精度はますます高まっている。このように「超精密」なアクチュエータ(駆動装置)では、特許文献1で考慮されていたステージ駆動時の共振の他にも、アクチュエータ自体の構造や動作機構、アクチュエータの設置環境等に起因する撹乱要素が存在しうる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、アクチュエータの更なる高精度化が可能な振動処理装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の振動処理装置は、アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集部と、振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定部と、ピーク周波数を出力するピーク周波数出力部と、を備える。
【0007】
この態様では、アクチュエータの非駆動時の振動データから撹乱要素となりうるピークが特定および出力されるため、その周波数成分を抑制する等のアクチュエータの更なる高精度化のためのアクションに繋げられる。
【0008】
本発明の別の態様は、ステージ駆動装置である。この装置は、アクチュエータと、アクチュエータによって駆動されるステージと、アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集部と、振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定部と、ピーク周波数を出力するピーク周波数出力部と、を備える。
【0009】
本発明の更に別の態様は、振動処理方法である。この方法は、アクチュエータの非駆動時の振動データを収集する振動データ収集ステップと、振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定するピーク周波数特定ステップと、ピーク周波数を出力するピーク周波数出力ステップと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等の間で変換したものも、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アクチュエータを更に高精度化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】アクチュエータの振動処理装置の機能ブロック図である。
【
図4】ピーク周波数出力部が出力する画面の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
本発明は任意の原理(例えば磁気や電気)に基づく任意のタイプのアクチュエータに適用できるが、本実施形態では空気等の作動流体によって駆動対象を駆動する流体アクチュエータまたはエアアクチュエータについて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の流体アクチュエータが適用されるエアステージ100の斜視図である。エアステージ100は、定盤102と、除振台104と、除振装置106と、ステージ110と、一つのX軸エアアクチュエータ120と、二つのY軸エアアクチュエータ130A、130B(以下ではY軸エアアクチュエータ130と総称する)を備える。定盤102は除振台104によって支持される。エアステージ100は、上軸としてのX軸エアアクチュエータ120と、下軸としての二つのY軸エアアクチュエータ130A、130Bによって上面視でH字状に形成される。除振装置106は、エアステージ100が配置されている床等から定盤102への振動の伝播を抑制する。
【0016】
X軸エアアクチュエータ120およびY軸エアアクチュエータ130は、空気を作動流体として駆動対象であるステージ110をX軸およびY軸に沿って駆動する流体アクチュエータである。X軸エアアクチュエータ120は、ガイド122(スクエアシャフト)と、スライダ124と、サーボバルブ126(不図示)と、配管128(不図示)を有する。同様に、Y軸エアアクチュエータ130は、ガイド132と、スライダ134と、サーボバルブ136と、配管138を有する。ステージ110は、スライダ124に設けられる。ガイド122の両端は、Y軸エアアクチュエータ130のスライダ134によって支持される。
【0017】
スライダ124、134は、駆動対象としてのステージ110をX軸、Y軸に沿って駆動する駆動部を構成する。また、サーボバルブ126、136は、制御装置が演算した空気の作動量である吸排気量に基づき空気をスライダ124、134に供給する作動流体供給部を構成する。配管128、138は、駆動部と作動流体供給部の間で空気を流通させる。位置センサ140はステージ110のX軸方向の位置を検出し、位置センサ142はステージ110のY軸方向の位置を検出する。
【0018】
図2は、エアアクチュエータの断面図である。X軸エアアクチュエータ120は、ガイド122と、スライダ124と、サーボバルブ126(スプールバルブ)と、配管128を備える。ガイド122の外周面とスライダ124の内周面の間には、加圧空気が供給されて静圧軸受が形成される。加圧空気によってガイド122から浮上したスライダ124は、ガイド122と非接触で滑らかにX軸方向に移動可能である。スライダ124には、内部空間であるサーボチャンバ150が設けられる。サーボチャンバ150は、ガイド122と一体的に形成された受圧プレート123によって、正側チャンバ室152と負側チャンバ室154に区画される。
【0019】
スライダ124は、サーボバルブ126によって駆動される。サーボバルブ126は、スプールの位置によってコントロールポートの吸排気量を制御する。各軸のエアアクチュエータ120、130は、正側と負側に配置された一対のサーボバルブ126P、126Nを備える。正側のサーボバルブ126Pのコントロールポートは、正側配管128Pを介して正側チャンバ室152と連通する。負側のサーボバルブ126Nのコントロールポートは、負側配管128Nを介して負側チャンバ室154と連通する。サーボバルブ126P、126Nのスプール位置に応じて正側チャンバ室152と負側チャンバ室154の間に生じる差圧によって、ガイド122(受圧プレート123)に対するスライダ124の位置が制御される。以上では主にX軸エアアクチュエータ120について説明したが、Y軸エアアクチュエータ130もX軸エアアクチュエータ120と同様に構成できる。
【0020】
図3は、X軸エアアクチュエータ120やY軸エアアクチュエータ130等のアクチュエータの振動処理装置3の機能ブロック図である。振動処理装置3は、振動データ収集部31と、ピーク周波数特定部32と、ピーク周波数出力部33と、設定操作受付部34と、抑制対象周波数設定部35と、抑制対象周波数記憶部36を備える。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。例えば、振動処理装置3の機能ブロックの一部または全部を、アクチュエータ(X軸エアアクチュエータ120やY軸エアアクチュエータ130等)や駆動装置(エアステージ100等)に設けられるコンピュータやプロセッサで分散的または集中的に実現してもよいし、アクチュエータや駆動装置と有線または無線で通信可能なコンピュータやプロセッサで分散的または集中的に実現してもよい。
【0021】
ステージコントローラ160において、エアステージ100および/またはエアアクチュエータ120、130の制御部2は、位置センサ140、142で測定されるステージ110のX位置、Y位置に基づいてエアアクチュエータ120、130をフィードバック制御し、ステージ110を目的のX位置、Y位置に移動させる。具体的には、制御部2は、X位置センサ140で測定されるステージ110の現在X位置と、X位置指令部21から提供される目標X位置(X位置指令)の偏差(X位置偏差)に基づいて、Xアクチュエータ120に対する操作量であるXサーボバルブ126の吸排気量を定めるXバルブ指令を生成する。同様に、制御部2は、Y位置センサ142で測定されるステージ110の現在Y位置と、Y位置指令部22から提供される目標Y位置(Y位置指令)の偏差(Y位置偏差)に基づいて、Yアクチュエータ130に対する操作量であるYサーボバルブ136の吸排気量を定めるYバルブ指令を生成する。
【0022】
振動データ収集部31は、アクチュエータ120、130の非駆動時におけるステージ110の振動データを収集する。ここで「非駆動時」とは、アクチュエータ120、130の駆動対象としてのステージ110が、各アクチュエータ120、130の駆動方向(X軸方向、Y軸方向)において停止または静止している時を意味する。すなわち、ステージ110がX軸方向において停止している時がXアクチュエータ120の非駆動時であり、ステージ110がY軸方向において停止している時がYアクチュエータ130の非駆動時である。振動データ収集部31によってステージ110の振動データを収集するのは、両方のアクチュエータ120、130の非駆動時、すなわちステージ110がX軸方向においてもY軸方向においても停止している時とするのが好ましいが、一方のアクチュエータ120、130の非駆動時にステージ110の振動データを収集してもよい。なお、典型的には、アクチュエータ120、130は非駆動時にも通電されており、ステージ110の停止位置を目標位置とするサーボ制御が行われている。
【0023】
振動データ収集部31が振動データを収集するステージ110の位置(停止位置)は、ステージ110のX軸方向およびY軸方向の可動域内の任意の位置でよいが、
図3には典型的な停止位置の例としてX軸方向およびY軸方向のそれぞれの両端の位置を点線で示す。XLはX軸方向の一端(左端)の位置であり、XRはX軸方向の他端(右端)の位置であり、YUはY軸方向の一端(上端)の位置であり、YDはY軸方向の他端(下端)の位置である。これらの位置に加えてまたは代えて、
図3において実線で示される中央位置等にステージ110を停止させて、振動データ収集部31が振動データを収集してもよい。
【0024】
振動データ収集部31による振動データの収集や、後述する振動処理装置3の他の機能ブロックによる処理は、エアステージ100等の駆動装置を製造する工場において出荷前に行ってもよいし、駆動装置が使用されるファシリティへの設置後の本格稼働前のセットアップや調整の際に行ってもよいし、駆動装置の稼働中におけるステージ110の一時停止時や駆動装置の稼働時間の合間の待機時等に行ってもよい。
【0025】
振動データ収集部31は、アクチュエータ120、130の非駆動時、すなわちステージ110の停止時の振動データを収集するため、アクチュエータ120、130自体の構造や動作機構、アクチュエータ120、130の設置環境等に起因する撹乱要素を効果的に検知できる。特許文献1のように、アクチュエータ120、130の駆動時、すなわちステージ110の移動時の振動データを収集することも考えられるが、特許文献1の主題であるステージ駆動に伴う共振その他の振動によって上記の静的な撹乱要素が埋もれてしまう可能性が高い。
【0026】
振動データ収集部31は、ステージ110のX軸方向、Y軸方向の位置の微小な変動としての振動を検出する位置センサ140、142や、ステージ110等に取り付けられる振動センサ等によって、アクチュエータ120、130の非駆動時におけるステージ110の振動データを直接的に収集してもよい。あるいは、振動データ収集部31は、ステージ110が停止している間の制御部2内部の信号の変動に基づいて、ステージ110の振動データを間接的に収集してもよい。ステージ110が停止している場合(非駆動時)、巨視的にはX位置センサ140からの現在X位置がX位置指令部21からの目標X位置に一致し、Y位置センサ142からの現在Y位置がY位置指令部22からの目標Y位置に一致するが、実際には微視的な振動によってそれぞれの現在位置と目標位置に乖離が生じて制御部2内部の信号が変動するため、ここからステージ110の振動を間接的に検知できる。
【0027】
ピーク周波数特定部32は、振動データ収集部31が収集した振動データの周波数解析を通じて、極大値が現れるピーク周波数を少なくとも一つ特定する。具体的には、ピーク周波数特定部32は、振動データ収集部31が収集した時間ドメインの振動データをフーリエ変換した周波数ドメインの振動データにおいてピーク周波数を特定する。ピーク周波数出力部33は、ピーク周波数特定部32が特定したピーク周波数を出力する。ピーク周波数出力部33は、例えば
図4に示されるような画像または画面を、エアステージ100の調整者等の操作端末(コンピュータ等)のディスプレイに表示する。
図4の左側には、ピーク周波数特定部32の周波数解析(フーリエ変換)によって得られた周波数ドメインの振動データが表示され、
図4の右側には、ピーク周波数特定部32が特定したピークに関する情報が表示される。
【0028】
ピーク周波数出力部33は、極大値が大きい方から所定数以下のピーク周波数を出力または表示する。
図4の例では所定数が3であり、ピーク周波数出力部33は極大値が大きい方から3個以下のピーク周波数を出力または表示する。ここで、極大値またはピークの大きさは、ピークの絶対値(
図4に示される「強度」の値)でもよいし、ピークとその周囲の強度の差(実質的なピークの高さ)でもよい。ピーク周波数出力部33は、所定周波数(例えば3Hz)以上のピーク周波数のみを出力または表示してもよい。後述するようにピーク周波数出力部33によって出力されるピーク周波数はフィルタ4による除去対象となるが、例えば3Hz未満の低周波成分をフィルタ4によって除去してしまうとアクチュエータ120、130の動作が不安定になる可能性がある。そこで、このような低いピーク周波数はピーク周波数出力部33の出力対象外とするのが好ましい。
【0029】
以上のようなピーク検出基準を適用した結果、
図4の例では一回の処理当たりの最大出力可能ピーク数である3個より少ない2個のピークが、ピーク周波数特定部32によって特定されてピーク周波数出力部33によって表示されている。
図4の左側における周波数解析された周波数ドメインの振動データ上には、2個のピークを指すマークP1、P2が表示される。各マークP1、P2は、それぞれが指すピークの極大値(強度)に対応する縦軸(強度)位置とピーク周波数に対応する横軸(周波数)位置に表示される。
図4の右側には、2個のピークそれぞれについて、周波数(ピーク周波数)と強度(極大値)が表示される。このように
図4の画面では、周波数解析された周波数ドメインの振動データ(左側)と共にピークの周波数および強度(右側)が表示されることで一覧性が高められている。
【0030】
ピーク周波数出力部33は、所定の抑制対象周波数の周波数成分を抑制可能なステージコントローラ160のフィルタ4(
図3)に対して、ピーク周波数特定部32が特定したピーク周波数を抑制対象周波数として設定する操作を受け付ける設定操作受付部34を、当該ピーク周波数と共に表示する。
図4に示されるように、ピーク周波数特定部32が特定した2個のピーク周波数それぞれについて、フィルタ4の抑制対象周波数として設定する「フィルタ適用」およびフィルタ4の抑制対象周波数として設定しない「フィルタ非適用」を選択可能なボタンとしての設定操作受付部34が表示される。エアステージ100の調整者等は、画面上の設定操作受付部34に対するクリック等の操作によって、「フィルタ適用」および「フィルタ非適用」を簡単に切り替えられる。
【0031】
抑制対象周波数設定部35は、設定操作受付部34によって「フィルタ適用」とされたピーク周波数を、フィルタ4に対して抑制対象周波数として設定する。あるいは、抑制対象周波数設定部35は、設定操作受付部34を介さずに、ピーク周波数特定部32が特定してピーク周波数出力部33が出力したピーク周波数を、フィルタ4に対して抑制対象周波数として設定してもよい。この場合、振動データ収集部31による振動データの収集、ピーク周波数特定部32によるピーク周波数の特定、ピーク周波数出力部33によるピーク周波数の出力、抑制対象周波数設定部35による抑制対象周波数の設定という一連の処理を自動化できる。なお、抑制対象周波数設定部35によるフィルタ4の抑制対象周波数の設定または更新は、振動データ収集部31による振動データの収集と同様に、アクチュエータ120、130の非駆動時に行われる。アクチュエータ120、130の駆動時には、制御部2がフィルタ4を利用してステージ110を精密に駆動しているため、フィルタ4の抑制対象周波数に変更を加えることは避けるのが好ましい。
【0032】
フィルタ4は、抑制対象周波数設定部35によって設定された抑制対象周波数の周波数成分を抑制可能なノッチフィルタ等のバンドストップフィルタである。制御部2は、X位置偏差およびY位置偏差に基づいてXアクチュエータ120およびYアクチュエータ130をフィードバック制御する際に、フィルタ4によって抑制対象周波数の周波数成分を抑制または除去する。例えば、X位置指令部21、Y位置指令部22からのX位置指令、Y位置指令に対して指令フィルタとしてのフィルタ4が適用され、X位置指令、Y位置指令に含まれる抑制対象周波数成分が除去される。この結果、フィードバック制御に対する外乱となる
図4におけるP1等のピークの影響が低減または除去されるため、Xアクチュエータ120およびYアクチュエータ130によるステージ110の位置決め精度を高められる。なお、抑制対象周波数設定部35によって設定された複数の抑制対象周波数の差が所定値より小さい場合は、これら複数の抑制対象周波数をまとめて抑制する一つのバンドストップフィルタまたは一つの阻止帯域が形成されるようにフィルタ4が設定されてもよい。
【0033】
抑制対象周波数記憶部36は、抑制対象周波数設定部35が設定した抑制対象周波数を記憶する。抑制対象周波数記憶部36で記憶された抑制対象周波数をフィルタ4に設定可能とすることで、エアステージ100の稼働条件が変わらない間は振動処理装置3の他の機能ブロック(31~35)の一連の処理を繰り返すことなく適切な抑制対象周波数をフィルタ4に設定できる。なお、抑制対象周波数記憶部36は、抑制対象周波数となるピーク周波数が検出または特定されたステージ110の位置を、当該抑制対象周波数と共に記憶してもよい。
【0034】
例えば
図3において、各位置XL、XR、YU、YDで検出された各抑制対象周波数FL、FR、FU、FD(ピーク周波数)を、当該各位置XL、XR、YU、YDとの組(FL,XL)、(FR,XR)、(FU,YU)、(FD,YD)として、抑制対象周波数記憶部36に記憶してもよい。この場合、エアステージ100の稼働時に、位置XLからステージ110が移動する際は抑制対象周波数記憶部36に記憶された抑制対象周波数FLをフィルタ4に適用し、位置XRからステージ110が移動する際は抑制対象周波数記憶部36に記憶された抑制対象周波数FRをフィルタ4に適用し、位置YUからステージ110が移動する際は抑制対象周波数記憶部36に記憶された抑制対象周波数FUをフィルタ4に適用し、位置YDからステージ110が移動する際は抑制対象周波数記憶部36に記憶された抑制対象周波数FDをフィルタ4に適用する。このように、ステージ110の位置毎に記憶された抑制対象周波数を動的に適用することで、ステージ110の位置決め精度を更に高められる。
【0035】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0036】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0037】
2 制御部、3 振動処理装置、4 フィルタ、31 振動データ収集部、32 ピーク周波数特定部、33 ピーク周波数出力部、34 設定操作受付部、35 抑制対象周波数設定部、36 抑制対象周波数記憶部、100 エアステージ、110 ステージ、120 Xアクチュエータ、130 Yアクチュエータ。