(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128507
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/64 20060101AFI20230907BHJP
C21D 1/60 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/60 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032883
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】細川 明宏
(57)【要約】
【課題】焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する。
【解決手段】焼入冷却液監視装置は、焼入冷却液を貯水槽から取り込んで、前記貯水槽に循環させる循環管路と、前記循環管路内の前記焼入冷却液の流量を計測する熱式流量計と、前記熱式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量の変化量に基づいて、前記焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する監視部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入冷却液を貯水槽から取り込んで、前記貯水槽に循環させる循環管路と、
前記循環管路内の前記焼入冷却液の流量を計測する熱式流量計と、
前記熱式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量の変化に基づいて、前記焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する監視部と、を備える、焼入冷却液監視装置。
【請求項2】
前記循環管路内の前記焼入冷却液の流量を計測する電磁式流量計を更に備え、
前記監視部は、前記熱式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量と、前記電磁式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量との差分に基づいて、前記焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する、請求項1に記載の焼入冷却液監視装置。
【請求項3】
前記監視部は、前記差分の変化が大きいほど、前記焼入冷却液の冷却曲線の変化が高いと推定する、請求項2に記載の焼入冷却液監視装置。
【請求項4】
前記循環管路内の前記焼入冷却液の糖度を計測する濃度センサを更に備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載の焼入冷却液監視装置。
【請求項5】
鋼材からなるワークに対して加熱を行う加熱部と、
前記加熱部で加熱された前記ワークを冷却して焼入する焼入冷却液を有する貯水槽と、
前記貯水槽内の前記焼入冷却液を取り出して循環させる焼入冷却液監視装置と、を備え、
前記焼入冷却液監視装置は、
前記焼入冷却液を前記貯水槽から取り込んで、前記貯水槽に循環させる循環管路と、
前記循環管路内の前記焼入冷却液の流量を計測する熱式流量計と、
前記熱式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量の変化に基づいて、前記焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する監視部と、を有する、焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入冷却は、所定の高温に加熱された鋼材を、ポリマー溶液などの焼入冷却液で急速に冷却させるというプロセスであり、冷却曲線を調整できるポリマー焼入冷却剤が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、焼入冷却液を循環使用すると、焼入冷却液に前工程の添加剤や機器冷却水などが混入しポリマー濃度を合わせても目的の冷却曲線に合わない(冷却性能が変化する)場合がある。
【0005】
そこで、本発明の一実施形態では、焼入冷却液の冷却性能の変化を監視(推測)する焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、焼入冷却液を貯水槽から取り込んで、前記貯水槽に循環させる循環管路と、
前記循環管路内の前記焼入冷却液の流量を計測する熱式流量計と、
前記熱式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量の変化量に基づいて、前記焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する監視部と、を備える、焼入冷却液監視装置が提供される。
【0007】
また、本発明の一実施形態によれば、鋼材からなるワークに対して加熱を行う加熱部と、
前記加熱部で加熱された前記ワークを冷却して焼入する焼入冷却液を有する貯水槽と、
前記貯水槽内の前記焼入冷却液を取り出して循環させる焼入冷却液監視装置と、を備え、
前記焼入冷却液監視装置は、
前記焼入冷却液を前記貯水槽から取り込んで、前記貯水槽に循環させる循環管路と、
前記循環管路内の前記焼入冷却液の流量を計測する熱式流量計と、
前記熱式流量計で計測された前記焼入冷却液の流量の変化に基づいて、前記焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する監視部と、を有する、焼入装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置の全体構成図。
【
図3】熱式流量計と電磁式流量計の計測結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置の実施形態について説明する。以下では、焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置の主要な構成部分を中心に説明するが、焼入冷却液監視装置及びそれを用いた焼入装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0010】
図1は本実施形態に係る焼入冷却液監視装置1及びそれを用いた焼入装置2の全体構成図である。
図1の焼入装置2は、鋼材からなるワークに対して焼入する装置である。ワークが十分に加熱されたら、ワークを焼入冷却液で急速冷却(焼入冷却)することで、ワークの焼入れを行う。
【0011】
図1に示すように、焼入冷却液監視装置1は、焼入装置2の貯水槽3に装着される。焼入装置2でワークの焼入れを繰り返すと、焼入冷却液によりワークを冷却する際、ワークに付着していた前工程の添加剤や機器冷却水などが貯水槽3内の焼入冷却液に混入すると、貯水槽3内の焼入冷却液に含まれるポリマー濃度が高くなる。ポリマー焼入れは、水焼入れに対して広い温度域で緩冷却できるところ、冷却曲線が変化すると所望の冷却速度でワークを冷却できなくなり、焼入れの品質が変化するおそれがある。よって、例えば所定時間ごとに、焼入冷却液監視装置1内の焼入冷却液の冷却性能が適正か否かを監視する。
【0012】
図1の焼入冷却液監視装置1は、循環管路4と、熱式流量計6と、監視部7とを備えている。
【0013】
循環管路4は、焼入装置2の貯水槽3からの焼入冷却液を取り込んで、貯水槽3に循環させる管路である。循環管路4には、不図示のポンプが取り付けられており、ポンプの駆動力に応じて、貯水槽3内の焼入冷却液を循環管路4に取り込んで、貯水槽3に循環させることができるようにしている。
図1は、U字形状の循環管路4の例を示しているが、循環管路4の形状は特に問わない。
【0014】
熱式流量計6は、循環管路4内の焼入冷却液を昇温させた後の冷却速度に基づいて、焼入冷却液の流量を計測する。熱式流量計6は、純水の冷却速度と流量との対応関係を示すテーブルを有する。このテーブルは、純水の冷却速度に対応する流量を記録したデータであり、例えば、熱式流量計6に設けられる不図示の記憶部に予め記憶されている。このテーブルを用いることで、熱式流量計6で計測した冷却速度から、焼入冷却液の流量を計測できる。
【0015】
なお、熱式流量計6が有するテーブルは、純水のデータであるため、焼入冷却液にポリマーが含まれる場合は、当該テーブルとの間にずれが生じる。一般には、焼入冷却液のポリマー濃度が高いほど、焼入冷却液の流量がより緩やかになるためである。
【0016】
図2は熱式流量計6の模式的な外観図である。
図2の熱式流量計6は、表示部6aと、操作部6bとを有する。熱式流量計6は、循環管路4に設けられた分岐部4aに取り付けられて、熱式流量計6の先端部6cは、循環管路4内の焼入冷却液4bに接触する。熱式流量計6の先端部6cに設けられた抵抗素子にパルス電流を流すことで、焼入冷却液4bの温度が数℃上昇する。先端部6cは、焼入冷却液4bに常に接触しており、焼入冷却液4bの流量に応じて、先端部6cの温度を低下させる速度(以下、冷却速度)が異なる。熱式流量計6は、先端部6cの温度を計測する機能を有する。熱式流量計6は、先端部6cの温度の時間変化である冷却速度と、焼入冷却液4bの流量との対応関係を示すデータを予め収集してテーブル化されている。よって、熱式流量計6は、焼入冷却液4bの温度を数℃上昇させた後に、先端部6cの冷却速度を検出し、検出された冷却速度に対応する流量をテーブルから参照する。これにより、循環管路4内の焼入冷却液4bの流量を検出できるが、上述したように、熱式流量計6は、純水の冷却速度と流量との対応関係を示すテーブルを有するため、焼入冷却液4bにポリマーが含まれる場合は、検出された流量に誤差が生じる、また、焼入冷却液の冷却曲線が変化すると検出された流量も変化する。
【0017】
図1の監視部7は、熱式流量計6で計測された焼入冷却液4bの流量の変化に基づいて、焼入冷却液4bの冷却曲線を監視する。より具体的には、監視部7は、熱式流量計6で計測された焼入冷却液4bの流量の誤差に基づいて、焼入装置2の貯水槽3内の冷却液4bの冷却曲線を推測する。
【0018】
すなわち、上述したように、熱式流量計6は、純水の冷却速度と流量との対応関係を示すテーブルを有するため、焼入冷却液4bにポリマーが含まれる場合は、検出された流量に誤差が生じる。そのため、焼入冷却液4bの冷却曲線が変化すれば、それによって誤差も変化する。よって、この誤差、すなわち、熱式流量計6で計測された焼入冷却液4bの流量の変化量により、焼入冷却液4bの冷却曲線の変化が確認することができるため、この特性を利用して焼入冷却液の冷却性能の変化を監視することが可能となる。
【0019】
図1の焼入装置2の本体部分は、例えば、ワーク支持部11と、回転駆動部12と、加熱部13と、貯水槽3とを備えている。ワーク支持部11は、焼き入れを行うワークを支持する。回転駆動部12は、ワーク支持部11を回転駆動する。貯水槽3は、加熱後のワークに焼入冷却液を接触させて急速冷却する。貯水槽3内の焼入冷却液4bは、冷却性能の変化が焼入冷却液監視装置1により監視される。
【0020】
また、
図1に示すように、焼入冷却液監視装置1は、循環管路4内の前記焼入冷却液の流量を計測する電磁式流量計9を更に備え、監視部7は、熱式流量計6で計測された焼入冷却液の流量と、電磁式流量計9で計測された焼入冷却液の流量との差分に基づいて、焼入冷却液に含まれる冷却性能の変化を監視することが好ましい。
【0021】
電磁式流量計9は、ファラデーの電磁誘導を利用して流量を検出する流量計であり、例えば、磁界を発生させる電磁コイルと、起電力を捉える電極で構成されており、液体の温度、圧力、密度、粘度の影響を受けず、混入物を含む液体の検出が可能である。そのため、電磁式流量計9は、ポリマーを含む焼入冷却液であっても、ポリマーの影響を受けずに焼入冷却液の流量を測定することが可能である。
【0022】
以上から、上記のように、電磁式流量計9を更に備えることで、熱式流量計6が検出した流量の変化が循環管路4を流れる流量変化ではないことリアルタイムに証明(監視)できるため好ましい。
【0023】
また、
図1に示すように、焼入冷却液監視装置1は、濃度センサ5と温度センサ8を更に備えることが好ましい。
【0024】
濃度センサ5は、Brix値(糖度)を測定して焼入冷却液のポリマー濃度を監視する(ポリマー濃度とBrix値は比例する)。また、温度センサ8は、焼入冷却液の温度を測定するものである。
【0025】
このように、焼入冷却液監視装置1は、濃度センサ5と温度センサ8を更に備えることで、焼入冷却液の冷却曲線の変化の推測に加え、焼入冷却液の他の特性(濃度や温度)も同時に測定することができるため、焼入冷却液の冷却性能の変化原因を推測することも可能となる。
【0026】
図3は熱式流量計6と電磁式流量計9の計測結果を示す図である。
図3の横軸は焼入冷却液4bのポリマー濃度[%]、縦軸は流量[リットルL
3/分]である。
図3の波形w1は熱式流量計6の計測結果、波形w2は電磁式流量計9の計測結果を示している。
図3の計測を行うにあたって、循環管路4内の焼入冷却液4bの流量は一定であるものとする。
【0027】
図3の波形w1に示すように、熱式流量計6では、焼入冷却液4bのポリマー濃度が高くなるほど、循環管路4内の焼入冷却液4bの流量が小さく計測される。一方、波形w2に示すように、電磁式流量計9では、焼入冷却液4bのポリマー濃度が変化しても、循環管路4内の焼入冷却液4bの流量はほとんど変化しない。
【0028】
このように、循環管路4内の焼入冷却液4bの流量が一定であっても、熱式流量計6では、焼入冷却液4bのポリマー濃度が高くなるほど、流量の誤差が大きくなる。よって、熱式流量計6で計測された流量と、電磁式流量計9で計測された流量との差分により、循環管路4内の焼入冷却液4bの冷却性能の変化を推測することができる。
【0029】
監視部7は、熱式流量計6で計測された流量と電磁式流量計9で計測された流量との差分の絶対値が第1閾値以上で第2閾値以下の範囲に収まっているか否かを判定する。ポリマー濃度が適正値でも差分が閾値を逸脱している場合は、焼入冷却液の交換を促す。
【0030】
監視部7は、例えば、パーソナルコンピュータ(以下、PC)、ワークステーション、PLC(プログラマブル ロジック コントローラー)、タブレット、又はスマートフォン等のコンピュータ機器を用いて構成可能である。
【0031】
このように、本実施形態では、焼入装置2内の貯水槽3の焼入冷却液4bの冷却性能が適切でないと、ワークの焼き入れの品質が低下することから、必要に応じて、焼入貯水槽3に冷却液監視装置1を装着する。冷却液監視装置1は、貯水槽3からの焼入冷却液4bを取り込んで焼入冷却液4bの冷却性能の変化を計測した後に貯水槽3に戻す循環管路4を有する。循環管路4には、熱式流量計6が取り付けられている。冷却液監視装置1内の監視部7は、熱式流量計6で計測された焼入冷却液4bの流量の変化量に基づいて、焼入冷却液4bの冷却曲線の変化を推測する。より具体的には、循環管路4に、熱式流量計6と電磁式流量計9とを設ける。熱式流量計6で計測された流量は、焼入冷却液4bの冷却曲線によって大きく変化することから、熱式流量計6で計測された流量と、冷却曲線の影響を受けない電磁式流量計9で計測された流量との差分により、焼入冷却液4bの冷却性能を推測する。これにより、貯水槽3の焼入冷却液4bの冷却性能の変化を推測できる。
【0032】
上述した実施形態では、金属部材(特に、鋼材)からなるワークの焼き入れのための焼入冷却液の冷却性能の変化を監視する例を説明したが、本発明の実施形態は、種々の用途で用いられる冷却液の冷却性能の変化を監視する目的に適用可能である。
【0033】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 冷却液監視装置、2 焼入装置、3 貯水槽、4 循環管路、4a 分岐部、4b 焼入冷却液、5 濃度センサ、6 熱式流量計、6a 表示部、6b 操作部、6c 先端部、7 監視部、8 温度センサ、9 電磁式流量計、11 ワーク支持部、12 回転駆動部、13 加熱部