(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128512
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/02 20210101AFI20230907BHJP
【FI】
G01K7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032888
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慶春
(72)【発明者】
【氏名】安藤 千里
(72)【発明者】
【氏名】宮武 正平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和己
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056KA03
2F056KA14
2F056KA16
(57)【要約】
【課題】温度特性の差が小さい薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板10と、該基板の上にCuからなる第1導電性薄膜11及びCu-Ni合金からなる第2導電性薄膜12により形成され、一端側に測温用接点18を有し、他端側に各薄膜の外部接続点20,21を備えた熱電対と、を備え、-40℃~200℃において、起電力を、JIS C 1602-1995に従うT型熱電対の起電力で割った値である特性値が0.95以上1.05以下であり、前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%である薄膜熱電対素子により解決される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の上にCuからなる第1導電性薄膜及びCu-Ni合金からなる第2導電性薄膜により形成され、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対と、を備え、
-40℃~200℃において、起電力を、JIS C 1602-1995に従うT型熱電対の起電力で割った値である特性値が0.95以上1.05以下であり、
前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%である薄膜熱電対素子。
【請求項2】
前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%である請求項1に記載の薄膜熱電対素子。
【請求項3】
0℃~200℃における前記特性値が0.95以上1.05以下である請求項1に記載の薄膜熱電対素子。
【請求項4】
基板を用意する工程と、
前記基板の上にCuからなる第1導電性薄膜及びCu-Ni合金からなる第2導電性薄を成膜して、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対を形成する工程と、を行い、
前記熱電対を形成する工程では、前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%となるように前記第2導電性薄を成膜する薄膜熱電対素子の製造方法。
【請求項5】
前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%となるように前記第2導電性薄を成膜する請求項4に記載の薄膜熱電対素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度測定用に作られた二種類の金属の組み合わせからなる素子は熱電対と称され、ゼーベック効果を利用した温度測定素子として古くから利用されてきた技術である。従来用いられてきた、汎用的なバルクの熱電対素子は、線径が0.50~3.20mm程度の金属線を用いた熱電対であり、日本工業規格(JIS)の規格(JIS C 1602-1995)に従うK熱電対などが例として挙げられる。
【0003】
薄膜熱電対素子は、高分子フィルム等の基板上に熱電対材料の薄膜を形成したものであり、微小、狭隘な領域の温度を測定するための温度センサとして用いられている。薄膜熱電対素子はバルクの熱電対素子と比べて薄くフレキシブルであるという利点を有するが、薄膜熱電対素子において発生する熱起電力は、一般的なバルクの熱電対素子において発生する熱起電力より数割程度落ちるものであった。
【0004】
薄膜熱電対素子の温度-熱起電力特性を、バルクの熱電対素子の温度-熱起電力特性に一致させることは難しい。また、薄膜熱電対素子の温度-熱起電力特性をバルクの熱電対素子の温度-熱起電力特性に限りなく近づけることも可能であるが、生産性を考えると現実的ではない。
【0005】
特許文献1には、異種金属からなり、一端側の測温用接点で相互に接続すると共に、他端に一対の外部接点を有する一対の薄膜を少なくとも1つ備えた薄膜熱電対素子に接続される温度校正装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薄膜熱電対素子を交換型とするには、各素子間の温度特性のばらつきが小さいことが必須であるが、従来の技術では、各素子間の温度特性が許容範囲を超えており、薄膜熱電対素子を交換する毎に、温度計測器でキャリブレーションを行わなければならなかった。特に、クロメル-アルメルの組み合わせのK型薄膜熱電対の場合に、各素子間の温度特性のばらつきが大きいという課題を見出した。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、温度特性の差が小さい薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、T型熱電対の材料であるCuとCu-Ni合金の組み合わせを採用することで、K型の薄膜熱電対と比較して各素子間の温度特性のばらつきが小さく、バルクの熱電対素子の温度-熱起電力特性と同等の熱起電力特性を実現することが可能であることを見出した。
【0010】
前記課題は、本発明の薄膜熱電対素子によれば、基板と、該基板の上にCuからなる第1導電性薄膜及びCu-Ni合金からなる第2導電性薄膜により形成され、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対と、を備え、-40℃~200℃において、起電力を、JIS C 1602-1995に従うT型熱電対の起電力で割った値である特性値が0.95以上1.05以下であり、前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%であること、により解決される。
このとき、前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=54.6at%:45.4at%であると好適である。
このとき、0℃~200℃における前記特性値が0.95以上1.05以下であると好適である。
【0011】
前記課題は、本発明の薄膜熱電対素子の製造方法によれば、基板を用意する工程と、前記基板の上にCuからなる第1導電性薄膜及びCu-Ni合金からなる第2導電性薄を成膜して、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対を形成する工程と、を行い、前記熱電対を形成する工程では、前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%となるように前記第2導電性薄を成膜すること、により解決される。
このとき、前記Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%となるように前記第2導電性薄を成膜すると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法によれば、薄膜熱電対素子の間で温度特性の差が小さくなるとともに、特性値が略1となることで、煩雑な2点計測と温度の校正が不要となるため、市販の温度計測器に接続するだけで温度を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る薄膜熱電対素子を示す概略模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る測温素子の概略図である。
【
図3】測温素子を温度表示器に接続した状態を示す概略図である。
【
図7】特性値(0~200℃)を示すグラフである。
【
図8】特性値(0~200℃)の1付近を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態(本実施形態)に係る薄膜熱電対素子について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0015】
<薄膜熱電対素子1>
図1は本発明の実施形態に係る薄膜熱電対素子1の概略図である。
図1において第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12はそれぞれ異種材料であり、薄膜熱電対素子1の測温接点18にて接合されている。薄膜熱電対素子1の測温接点18は、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12が重なるように接合されている。
【0016】
薄膜熱電対素子1は、交換型の素子であり、コネクタ2に対して着脱可能に構成されている。薄膜熱電対素子1をコネクタ2と組み合わせることで測温素子Hが構成されている(
図2)。薄膜熱電対素子1と組み合わせるコネクタ2は、薄膜熱電対素子1を着脱可能なものであれば、素子の取付の方式等について、特に限定されるものではない。
【0017】
また、
図3に示されるように、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12は、測温接点18とは反対側の接続端部10aに位置する外部接続点20及び21にて、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12と同一の金属線と接合される。そして、薄膜熱電対素子1においては、基板10上に第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12を有し、その一端に被対象物の測温用である測温接点18、および他端に開放端となる各薄膜パターンの外部接続点20及び21が設けられている。薄膜熱電対素子1の外部接続点20及び21において、第1補償導線13及び第2補償導線14が接続される。
【0018】
測温素子Hにおいて、薄膜熱電対素子1の第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の材料は第1補償導線13及び第2補償導線14とそれぞれ同一材料であると好ましい。第1補償導線13及び第2補償導線14は、CPU(計算回路)を備えた演算部17a及び接続線17cにより接続された演算結果表示部17bに接続されている。
【0019】
薄膜熱電対素子1を形成する基板10として、ガラス、フィルム、金属などを用いることができる。但し、基板10を金属などの導電性のある材料とする場合には、予め金属表面にSiO2、Al2O3等の絶縁膜を形成した上で薄膜熱電対を形成する必要がある。
したがって、好ましくはフィルムを用いるのが良い。ガラス、フィルムは金属などの導電性のある基板のように、前処理を必要とすることがないため、操作が煩雑になることが無く、好適である。また、フィルムはその可撓性により、測温素子の強度を高めることができる。さらに好ましくは、ポリイミドフィルムを用いるのが良い。ポリイミドフィルムは、折り曲げることが可能で基板を数十ミクロンの厚さにしても壊れにくく取り扱いが容易である点と、200℃を超える温度でも比較的安定している点において、薄膜熱電対の基板として適した材料である。
【0020】
基板10の厚さは、1μm以上150μm以下とすることが好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、特に好ましくは1μm以上18μm以下であるとよい。
【0021】
薄膜熱電対素子1の第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12を構成する異種金属の組み合わせとしては、Cu及びCu-Ni合金である。具体的には、第1導電性薄膜11がCuであり、第2導電性薄膜12がCu-Ni合金である。ここで、第2導電性薄膜12を形成するCu-Ni合金の組成は、Cu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%であると好ましく、Cu:Ni=59.3at%:40.7at%であると特に好ましい。
【0022】
第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の厚さは、10nm以上1μm以下とすることが好ましく、より好ましくは100nm以上700nm以下、より好ましくは150nm以上550nm以下であるとよい。
【0023】
第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
【0024】
薄膜熱電対素子1は保護膜Pにより覆われていることが望ましい。保護膜Pは薄膜熱電対素子1の耐環境性を高めると共に、薄膜熱電対素子1が外力により変形した際に懸念されるクラックの発生を防ぐ効果もあるためである。適用可能な保護膜Pは、SiO2、Al2O3などを蒸着法、スパッタリング法、ディッピング法等により形成した絶縁膜、スクリーン印刷法によるポリイミドフィルムなどである。好ましくは、耐熱性および耐薬品性が高く、接着性の高いポリイミドフィルムを用いるのがよい。
【0025】
なお、基板10の接続端部10aにおいて、外部接続点20及び21は反対側には、補強部材Gが設けられていると好ましい。補強部材Gの材質は、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシガラスを用いることが可能である。補強部材Gによれば、薄膜熱電対素子1の強度が向上し、コネクタ2との接続性が向上する。
【0026】
本実施形態の薄膜熱電対素子1は、第2導電性薄膜12を形成するCu-Ni合金の組成は、Cu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%であることにより、-40℃~200℃において、起電力を、JIS C 1602-1995に従うT型熱電対の起電力で割った値である特性値が0.95以上1.05以下となる。
【0027】
また、本実施形態の薄膜熱電対素子1は、CuとCu-Ni合金という、単純な組成であるため、高温領域である0℃~200℃における特性値が0.95以上1.05以下と熱の影響が少なくなっている。
【0028】
<薄膜熱電対素子の製造方法>
本実施形態に係る薄膜熱電対素子の製造方法は、基板10を用意する工程(ステップS1)と、基板10の上にCuからなる第1導電性薄膜11及びCu-Ni合金からなる第2導電性薄膜12を成膜して、一端側に測温接点18を有し、他端側に各薄膜の外部接続点20,21を備えた熱電対を形成する工程(ステップS2)と、を行い、熱電対を形成する工程では、Cu-Ni合金の組成が好ましくはCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%となるように、特に好ましくはCu:Ni=59.3at%:40.7at%となるように第2導電性薄膜12を成膜する薄膜熱電対素子の製造方法である。
【0029】
熱電対を形成する工程(ステップS2)は、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法で行われることが好ましい。このとき、基板としてポリイミドフィルムを用いると好適である。成膜は、100℃よりも高い温度、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは140℃以上、特に好ましくは150℃以上で加熱するとよい。なお、基板の加熱温度の上限値は、基板の材質、成膜されるCu薄膜やCu-Ni合金薄膜の膜質にもよるが、250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下であるとよい。
【0030】
本実施形態に係る薄膜熱電対素子の製造方法によれば、得られる薄膜熱電対素子について、-40℃~200℃において、起電力を、JIS C 1602-1995に従うT型熱電対の起電力で割った値である特性値が0.95以上1.05以下であり、0℃~200℃における前記特性値が0.95以上1.05以下となる。
【実施例0031】
以下、本発明の薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0032】
<A.薄膜熱電対素子の作成>
以下の条件で、基板としてのポリイミド基材の上に、CuとCu-Ni合金の組み合わせで導電性薄膜を積層した(
図4)。
スパッタ装置 :カルーセル型バッチ式スパッタ装置
ターゲット :5インチ×25インチ、クロメル-アルメル
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタ
排気装置 :ターボ分子ポンプ
到達真空度 :2~5×10
-4Pa
基材温度 :25°C(室温)又は150℃(設定値)
スパッタ電力 :7.5kW
導電性薄膜の膜厚:300~500±10nm
Ar流量 :250sccm
使用基材 :ポリイミド(PI)フィルム基材(50μm厚)
【0033】
<B.温度特性の測定>
薄膜熱電対素子の導電性薄膜を構成する材料として、クロメル-アルメルを用い、基材温度を無加熱(室温25℃)又は加熱(150℃)として、上記の条件に基づいてスパッタリング法により、基板としてのポリイミドフィルム上に薄膜熱電対を形成した。さらに、形成した薄膜熱電対に基板とは異なるポリイミドフィルムを接着し、それを保護膜とした。
【0034】
図5に、各試料の比抵抗の値を比較したグラフを示す。CuとCu-Ni合金の比抵抗がK型熱電対(クロメルやアルメル)よりも小さいことがわかる。
【0035】
図6に、通常のK型熱電対素子を基準としたCu-Ni合金のNi40.7at%の場合の薄膜熱電対素子の温度特性値を比較したグラフを示す。薄膜熱電対素子の示す温度は、補正をすることなく、K型熱電対素子と温度特性が略一致(
図6の縦軸で±1℃の範囲内)することがわかった。
【0036】
図7および
図8に、0℃~200℃において、起電力を、JIS C 1602-1995に従うT型熱電対の起電力で割った値である特性値を各素子でプロットした結果を示す。Cu-Ni合金の組成比を変えると特性値も変化した。Ni含有率40.7at%の素子で値が最も大きくなった。加熱の有無によらず、特性値は非常に安定していた。また、加熱の有無によって、特性値に大きな変化は見られなかった。Cu-Ni合金の組成がCu:Ni=59.3at%:40.7at%~54.6at%:45.4at%である場合に、特性値が0.95以上1.05以下となることがわかった。
【0037】
<C.まとめ>
CuとCu-Ni合金の組み合わせを採用する場合、クロメルとアルメルの組み合わせであるK型薄膜熱電対と比較して幾つかの優位性があることがわかった。まず、特性値の値がK型材料と比べて大きく1に近い。また、素子間のばらつきが小さい(対K型薄膜熱電対)。さらに、成膜時の加熱の有無の影響が小さい(対K型薄膜熱電対)。
【0038】
バルク材(線材)の特性に合う様に、薄膜組成の検討をすることが必要となるが、K型熱電対は、2つの配線ともに合金(3成分以上)で形成されていて、薄膜組成の検討を行うことが難しい。一方で本実施形態の薄膜熱電対は、CuとCu-Ni合金の構成で、1極の合金(2成分)の組成の検討を行うことで組成の検討を行うことが可能である。
【0039】
従来のK型薄膜熱電対は、特性値が1ではなく、加工条件などの最適化を図っても0.8程度であり、温度測定に際し、2点測定による補正が必要であったし、特性値の狙いこみが煩雑であった。また、従来のK型薄膜熱電対では、シート間のバラつきがあり、加熱成膜をすることでフィルム1シート内のバラつきを抑える必要があり、工程管理が煩雑になっていたし、センサのレイアウトに制限があった。また、加熱の有無での特性値の差が大きいため、工程管理がシビアであった。そして、センサの抵抗値が高いため、計測の際のノイズの原因となり、長尺化できなかった。さらに、屈曲性について、ノイズを解消するために厚膜化することも考えられるが、屈曲性が損なわれたり、パターンクラックのリスクが上がったりするという課題があった。
【0040】
本実施形態の薄膜熱電対素子では、T型熱電対材料に変更し、銅-ニッケル合金の組成を適切に選択することで、特性値=1の薄膜熱電対を作成することができた。抵抗値が低い材料構成のT型に変更することで、より屈曲性に有利なものとなった。
【0041】
以上のことから、本実施形態の薄膜熱電対素子では、特性値=1となることで煩雑な2点計測と補正が不要なり、市販の計測器に接続するだけで使用が可能となる。また、センサ抵抗が小さくなるため、計測時のノイズの低減、長尺化をすることができる。また、柔らかい材料であるため、耐屈曲性がより向上する。また、K型薄膜熱電対作成時には、加熱成膜、成膜前の処理(プラズマアッシング)、脱水ベーク・ベークから装置投入までの時間などの管理が必要だが、これらが不要となるか、緩和できる。さらに、加熱が必要ないため、温度管理が緩和できる。CuとCu-Ni合金であるため、材料構成が単純で、合金の組成も煩雑でないので成膜等の条件のコントロールが容易であるとともに、熱の影響が小さい。
本発明の薄膜熱電対素子は、薄膜熱電対素子の間で温度特性の差が小さくなるとともに、特性値が略1となることで、煩雑な2点計測と温度の校正が不要となるため、市販の温度計測器に接続するだけで温度を測定することが可能となる。薄膜熱電対素子を用いた温度測定の利用分野は、特に限定されるものではないが、極小部の温度測定を好適に行うことが可能であり、例えば、燃料電池、加熱ローラー、熱プレス、電子回路部品発熱温度、化学反応温度、瞬間加熱温度などを測定することができる。さらに、比較的低温の温度計測(100℃以下)が可能となり、ヘルスケア・食品加工・バイオ関係などに応用することができる。