(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128529
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】β-Ala-DOPAの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20230907BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230907BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
C12P21/02 A ZNA
C12N15/31
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032913
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木野 邦器
(72)【発明者】
【氏名】中森 俊宏
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA21
4B064CC24
4B064CD30
4B064DA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、β-Ala-DOPAを、効率的に、合成する技術を提供する事を目的とする。
【解決手段】L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株を用いて、(1)基質として、β-AlaとL-DOPAとから、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む、β-Ala-DOPAの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
L-アミノ酸α-リガーゼ活性に依り、
(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、β-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項2】
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株を用いて、
(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、請求項1に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項3】
前記微生物株は、ペプチダーゼの欠損株である、請求項2に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項4】
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、
(1)アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、請求項1に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項5】
抗酸化剤の存在下で行う、請求項1~4の何れかに記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項6】
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び
(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性に依り、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、β-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項7】
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株を用いて、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び
(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を発現する微生物株を用いて、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、請求項6に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項8】
前記微生物株は、ペプチダーゼの欠損株である、請求項7に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項9】
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び
(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を用いて、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、請求項6に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【請求項10】
抗酸化剤の存在下で行う、請求項6~9の何れかに記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-Ala-DOPAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類では、体内や脳内で、L-チロシン(L-4-ヒドロキシフェニルアラニン、L-Tyr):
【0003】
【化1】
から、チロシン水酸化酵素に依り、L-ドパ(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、L-DOPA、或はレボドパ):
【0004】
【0005】
L-ドパは、レボドパ脱炭酸酵素に依り、ドーパミン(Dopamine):
【0006】
【化3】
と成る。L-ドパは、神経伝達物質であるドーパミンの前駆体である。
【0007】
本発明者は、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(YwfE)を用いて、β-アラニンとL-ヒスチジンを基質として、ATP存在下、β-Ala-Hisであるカルノシン(L-Carnosine)の合成や、前記タンパク質を発現させた大腸菌を用いて、カルノシンの合成を開発している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、β-Ala-DOPAを、効率的に、合成する技術を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す、β-Ala-DOPAの製造方法を包含する。
【0011】
菌体反応系、又は酵素反応系において、1ステップで、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質に依り、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する技術である。
【0012】
菌体反応系、又は酵素反応系において、2ステップで、先ず、(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質に依り、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とからβ-Ala-Tyr合成し、次いで、(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質に依り、β-Ala-Tyrからβ-Ala-DOPAを合成する技術である。
【0013】
項1.
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
L-アミノ酸α-リガーゼ活性に依り、
(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、β-Ala-DOPAの製造方法。
【0014】
項2.
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株を用いて、
(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、前記項1に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0015】
項3.
前記微生物株は、ペプチダーゼの欠損株である、前記項2に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0016】
項4.
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、
(1)アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、前記項1に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0017】
項5.
抗酸化剤の存在下で行う、前記項1~4の何れかに記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0018】
項6.
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び
(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性に依り、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、β-Ala-DOPAの製造方法。
【0019】
項7.
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株を用いて、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び
(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を発現する微生物株を用いて、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、前記項6に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0020】
項8.
前記微生物株は、ペプチダーゼの欠損株である、前記項7に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0021】
項9.
β-Ala-DOPAの製造方法であって、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び
(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を用いて、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
を含む、前記項6に記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【0022】
項10.
抗酸化剤の存在下で行う、前記項6~9の何れかに記載のβ-Ala-DOPAの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、β-Ala-DOPAを、効率的に、合成する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、チロシン含有ジペプチド(β-Ala-Tyr)生産用のプラスミドマップを表す。ベクター:pET-21a(+)、インサート:ywfE(Bacillu subtilis ATCC 15245由来L-アミノ酸α-リガーゼ)、発現酵素の一次配列:YwfE改変酵素N108A(C末端側His-tag)。
【
図2】
図2は、DOPA含有ジペプチド(β-Ala-DOPA)生産用のプラスミドマップを表す。ベクター:pETDuet-1、インサート:hpaBC(Pseudomonas aeruginosa PAO1由来二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ)、発現酵素の一次配列:HpaB及びHpaCの共発現。
【
図3】
図3は、酵素反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造において、アスコルビン酸(5mM~20mM)に依る酸化防止の効果を表す。
【
図4】
図4は、菌体反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造において、PepD欠損変異株の使用に依る効果を表す。
【
図5】
図5は、菌体反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造において、アスコルビン酸に依る酸化防止の効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法を詳細に説明する。
【0026】
本明細書では、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0027】
本明細書では、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0028】
本明細書では、タンパク質のアミノ酸配列は、当業者に周知慣用のアミノ酸の3文字又は1文字に依る表記法で記述される。本明細書では、アミノ酸は、特に記載の無い限り、L体である。本明細書では、変異型タンパク質を表す場合、当業者に周知慣用の方法である野生型タンパク質の変異が導入されるアミノ酸の1文字表記、変異位置を表す数字、及び、変異されたアミノ酸の1文字表記が使用される。
【0029】
本明細書では、「配列番号XのN末端からY番目のZ1残基(Z1)に相当するアミノ酸残基をZ2残基(Z2)に置換したタンパク質」とは、前記タンパク質のアミノ酸配列と、配列番号Xとを最も高い相同性スコアを与える様にアライメントした時に、配列番号Xのアミノ酸配列のN末端からY番目の位置に相当するZ1残基がZ2残基に置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質を表す。
【0030】
「X」及び「Y」は、1以上の整数を表し、「Z1」及び「Z2」は、任意のアミノ酸を表し、「(Z1)」及び「(Z2)」は、夫々のアミノ酸を1文字表記したものである。
【0031】
[1]1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法は、L-アミノ酸α-リガーゼ活性に依り、(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。本発明は、菌体反応系、又は酵素反応系において、1ステップで、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質に依り、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する技術である。
【0032】
L-ドパ(L-DOPA)からの1段階反応は、その反応効率が良い。
【0033】
[1-1]菌体を用いる1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法は、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株を用いて、(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0034】
【0035】
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法では、前記微生物株は、好ましくは、ペプチダーゼの欠損株(形質転換株)である。
【0036】
[1-2]酵素反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法は、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、(1)アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0037】
[1-3]L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質
本発明のタンパク質が有するL-アミノ酸α-リガーゼ活性は、例えば、イミダゾールジペプチド合成活性である。
【0038】
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質は、好ましくは、バチルス属細菌であるBacillus subtilis由来のL-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(野生型YwfE、配列番号1及び配列番号2)である。L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質は、野生型YwfEの変異型YwfEを用いても良い。
【0039】
酵素L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質は、市販品として、協和発酵バイオ株式会社が提供する酵素を用いても良い。
【0040】
変異型YwfE(変異型酵素、変異タンパク質)は、好ましくは、野生型L-アミノ酸α-リガーゼ:YwfEのアミノ酸配列の少なくとも1~3個のアミノ酸残基の置換を含む変異タンパク質である。
【0041】
変異型YwfEは、野生型アミノ酸配列と、好ましくは、80%以上の相同性を有し、より好ましくは、85%以上の相同性を有し、更に好ましくは、90%以上の相同性を有し、特に好ましくは、95%以上の相同性を有し、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質である。
【0042】
変異型YwfEは、好ましくは、野生型アミノ酸配列の1或は複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列から成り、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質である。
【0043】
バチルス属由来のYwfEはC末端基質としてL-ヒスチジンをはじめとする多くのアミノ酸を認識してジペプチドを合成する活性を有するL-アミノ酸α-リガーゼである。
【0044】
本発明により、初めて、野生型YwfE及び変異型YwfEが、N末端側基質がβ-アラニン(β-Ala)で、C末端側基質がL-ドパ(L-DOPA)に対するリガーゼ活性を有し、β-Ala-DOPAを合成出来る事を明らかにした。
【0045】
L-アミノ酸α-リガーゼ活性(ジペプチド合成活性)の評価では、例えば、被験タンパク質、基質であるアミノ酸、アデノシン三リン酸(ATP)を含み、pH5~pH11の緩衝水溶液中で、20℃~50℃の温度で、2時間~150時間の所定の時間反応させた後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を用いて、ジペプチド合成活性を評価する。
【0046】
変異型YwfEは、例えば、1個、2個(二重変異型酵素)或いは3個(三重変異型酵素)のアミノ酸残基を置換した変異型酵素である。変異型YwfEとして、野生型YwfEのアミノ酸配列(配列番号1及び配列番号2)のN末端から、108位のアスパラギン(N)残基が、アラニン(A)残基に置換(変異)されている(N108A)酵素(YwfEの1変異型YwfE)を用いる事が出来る(配列番号3)。
【0047】
[1-4]タンパク質をコードする核酸
核酸は、例えば、プライマーを用い、Bacillus subtilis 168等のYwfEタンパク質或いはその類縁タンパク質をコードする微生物の染色体DNAを鋳型とした部位特異的変異法を用いて、部位特異的変異の導入に依り、取得する。
【0048】
鋳型遺伝子への目的の変異導入は、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行う。部位特異的変異導入法は、例えば、PCR法、アニーリング法等(村松ら編、「改訂第4版、新遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82-88)の任意の手法に依り行う。必要に応じてQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社、米国)、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレントテクノロジー社、米国)等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用する。
【0049】
YwfE遺伝子を含む鋳型DNAは、YwfEタンパク質を産生する細菌から、常法に依り、ゲノムDNAを抽出するか、或はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成する事に依って調製する。
【0050】
YwfEタンパク質を産生する細菌は、好ましくは、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属細菌であり、例えば、バチルス・エスピーのKSM-S237株(受託番号FERM BP-7875)、KSM-64株(受託番号FERM BP-2886)、KSM-635株(受託番号FERM BP-1485)は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)等である。
【0051】
バチルス属細菌からのゲノムDNAの調製は、例えば、Pitcher et al., Lett. Appl. Microbiol., 1989, 8: p.151-156に記載の方法等を用いて行う。YwfE遺伝子を含む鋳型DNAは、調製したcDNA或はゲノムDNAから切り出したYwfE遺伝子を含むDNA断片を任意のベクター中に挿入した形で調製する。
【0052】
YwfE遺伝子への部位特異的変異の導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異プライマーを用いて行う。変異プライマーは、YwfE遺伝子内の置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、且つその置換対象のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて置換後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有する塩基配列を含む様に設計ある。
【0053】
前記方法で取得した核酸を用いて、野生型YwfE、又はYwfEの1変異型酵素を宿主株で発現させる為のベクター又はプラスミドを調製し、このベクター又はプラスミドを導入した宿主株、即ち、形質転換株を作製し、更に、野生型YwfE、或はYwfEの1変異型酵素を製造する。
【0054】
組換えDNAを作製する為の発現ベクターは、商業的に利用可能である。これらベクターを入手し、利用する事に依り、核酸挿入ベクターを作製し、核酸挿入ベクターを含む宿主細胞、即ち形質転換細胞の作製に使用する。
【0055】
ベクター、例えば、宿主細胞にエシェリヒア・コリを用いる場合、好ましくは、pColdI(タカラバイオ社製)、pCDF-1b、pRSF-1b(ノバジェン社製)、pMAL-c2x(ニューイングランドバイオラブス社製)、pGEX-4T-1(ジーイーヘルスケアバイオサイエンス社製)、pTrcHis(インビトロジェン社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-30(キアゲン社製)、pET-3(ノバジェン社製)、pBluescriptII SK(+)、pBluescript II KS(-)(ストラタジーン社製)、pTrS30[エシェリヒア・コリ JM109/pTrS30(受託番号FERM BP-5407)依り調製]、等である。
【0056】
前記ベクターを用いる場合のプロモーターは、エシェリヒア・コリ等の宿主細胞中で機能するものであれば良い。プロモーターは、好ましくは、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等、エシェリヒア・コリやファージ等に由来するプロモーターを用いる。
【0057】
前記ベクターを用いる場合のプロモーターは、親株として、バチルス属に属する微生物を用いる場合、好ましくは、バチルス・サチルスで機能するSPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等である。
【0058】
プロモーターは、好ましくは、Ptrpを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーター等の人為的に設計改変されたプロモーターである。
【0059】
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を生成する目的において、ベクターを利用する場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターは、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でタンパク質を発現するベクターであれば特に制限は無い。発現ベクターは、試験管内発現であれば、好ましくは、pBESTベクター(プロメガ社製)である。発現ベクターは、大腸菌であれば、好ましくは、pETベクター(インビトロジェン社製)である。発現ベクターは、培養細胞であれば、好ましくは、pME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No.AB009864)である。発現ベクターは、生物個体であれば、好ましくは、pME18Sベクター(Mol Cell Biol.8: 466-472(1988))である。
【0060】
ベクターへのDNAの挿入は、常法に依り、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応に依り行う。参考:Current protocols in Molecular Biology Edited by Ausubel et al.(1987) Publish. John Wiley & Sons. Section 11.4-11.11
【0061】
[1-5]宿主株
宿主株に前記核酸挿入ベクターを導入し、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を発現する形質転換された形質転換株を得る。
【0062】
宿主株は、好ましくは、ペプチダーゼDの欠損株である。
【0063】
宿主株は、好ましくは、酵母、真菌、藻類、動物細胞、昆虫細胞、細菌、植物細胞、古細菌等である。
【0064】
宿主株は、好ましくは、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、キャンディダ(Candida)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、デバリヨミセス(Debaryomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、キサントフィロミセス(Xanthophyllomyces)属等に属する酵母を用いる。宿主株は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・グラブラータ(Candida glabrata)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、デバリヨミセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lypolitica)、クリプトコッカス・カバタス(Cryptococcus curvatus)、キサントフィロミセス・デンドロロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)等を用いる。
【0065】
宿主株は、好ましくは、エシェリヒア(Escherichia)属、放線菌(Actinomycetes)属、バチルス(Bacillus)属、セラチア(Serratia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、サーマス(Thermus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属等に属する細菌を用いる。宿主株は、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、セラチア・マーセッセンス(Serratia marcescens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)等を用いる。
【0066】
宿主株は、好ましくは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等に属する糸状菌(カビ)を用いる。
【0067】
宿主株は、好ましくは、モルティエレラ(Mortierella)属、フザリウム(Fusarium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)属等に属する微生物を用いる。宿主株は、例えば、モルティエレラ・ラマニアナ(Mortierella ramanniana)、モルティエレラ・バイニエリ(Mortierella bainieri)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)カニンガメラ・エレガンス(Cunninghamella elegans)、フザリウム・フジクロイ(Fusarium fujikuroi)、シゾキトリウム・リマシアム(Schizochytrium limacium)、スラウストキトリウム・アウレウム(Thraustochytrium aureum)等を用いる。
【0068】
宿主株への前記核酸挿入ベクターの導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、ポリブレン媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、リポソーム媒介トランスフェクション(リポフェクション)、接合、天然の形質転換、エレクトロポレーション、当業者に公知のその他の方法を含む様々な方法に依り、実施する。
【0069】
宿主株への前記発現ベクターの導入は、商業的に利用可能なトランスフェクション試薬を入手し、これらを利用する事に依り、実施す。参考:Current protocols in molecular biology. 3 vols. Edited by Ausubel F. M. et al., John Wiley & Son, Inc., Current Protocols.
【0070】
[1-6]β-Ala-DOPAの製造方法
[1-6-1]菌体反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法では、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(野生型YwfE、又はYwfEの1変異型YwfE)を発現する微生物株(形質転換株)を用い、培養用培地中で培養する事に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する事が出来る。培養菌体を集菌して、それを生体触媒とした菌体反応系で目的のβ-Ala-DOPAを合成する事が出来る。培養によって得られた発現株を用いて(集菌して)、β-アラニン(β-Ala)及びL-ドパ(L-DOPA)を添加し、目的のβ-Ala-DOPA生産を行い、当該反応液からβ-Ala-DOPAを単離する。
【0071】
次いで、培地から前記産生されたβ-Ala-DOPAを単離する。
【0072】
培養培地に添加する成分の内、炭素源は、好ましくは、微生物株(形質転換株)が資化し得るものである。炭素源は、好ましくは、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを有する糖蜜、デンプン或いはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を用いる。
【0073】
培養培地に添加する成分の内、窒素源は、好ましくは、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸、有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕、大豆粕加水分解物、各種発酵菌体、その消化物等を用いる。
【0074】
培養培地に添加する成分の内、無機塩は、好ましくは、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いる。
【0075】
細胞培養培地に添加する成分は、他に、好ましくは、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加する。
【0076】
培養は、通常、通気撹拌、振盪(しんとう)培養等の好気条件下で行う。
【0077】
培養温度は、微生物株(形質転換株)の生育し得る温度であれば特に制限は無い。
【0078】
培養途中のpHは、微生物株(形質転換株)が生育し得るpHであれば特に制限は無い。培養中のpH調整は、酸或はアルカリを添加して行う。
【0079】
抗酸化剤を添加する事
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する際に、好ましくは、抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸を適宜(5mM~50mM程度)添加する。
【0080】
抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸)を添加する事に依り、主にL-ドパ(L-DOPA)の酸化防止をする。抗酸化剤を添加する事に依り、基質であるL-ドパ(L-DOPA)の褐変及び重合化を抑制する事が出来、基質の減少を抑制する事が出来る。抗酸化剤は、また、目的化合物であるβ-Ala-DOPAの酸化分解を抑制する事も可能である。
【0081】
本発明の何れの方法においても、抗酸化剤(アスコルビン酸等)を添加する事に依り、目的物であるβ-Ala-DOPAを安定生産(生産収率の向上)する事が可能である。
【0082】
ペプチダーゼ活性を欠失する事
本発明は、初めて、β-Ala-DOPAがペプチダーゼD(pepD)によって分解されて事を明らかにした。そこで、本発明の菌体を用いる製造方法では、pepDを欠損する形質転換株を使用する事に依り、β-Ala-DOPAの分解を抑制する事が出来る。宿主株として、例えば、エシェリヒア・コリB株系列BL21(DE)株を使用し、ペプチダーゼD(pepD)を欠損させる事に依り、β-Ala-DOPAの分解を抑制し、β-Ala-DOPAを高効率で製造する事が出来る。
【0083】
菌体反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
β-Ala-DOPAは、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とを基質として、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質が、触媒として働き、縮合反応する事に依り、産生される。
【0084】
従って、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とを含む培養用培地で、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を発現する微生物株(形質転換株)を培養後、必要な基質を添加することで合成されるβ-Ala-DOPAを単離精製する事に依り、β-Ala-DOPAを製造し、取得する事が出来る。
【0085】
製造方法では、添加するβ-アラニン(β-Ala)及びL-ドパ(L-DOPA)の量は、各々、一例として、0.5g/L~100g/L程度である。
【0086】
培養は、通常、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。
【0087】
培養温度は、好ましくは、15℃~40℃である。
【0088】
培養時間は、好ましくは、5時間~7日間である。
【0089】
培養中のpHは、好ましくは、pH3~pH9に保持する。pHの調整は、無機或は有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
【0090】
高収率での変換反応(基質のβ-アラニン(β-Ala)及びL-ドパ(L-DOPA)からの目的ジペプチドであるβ-Ala-DOPAを合成する事)を達成する為には、高発現した菌体を集菌後に反応系(休止菌体反応)で反応する事が好ましい。
【0091】
緩衝液中に生成、蓄積したβ-Ala-DOPAの単離・精製は、当業者に慣用の活性炭、イオン交換樹脂等を用いる方法、有機溶媒による抽出、結晶化、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等により行う。
【0092】
微生物株(形質転換株)を用いた菌体反応では、集菌した微生物株(形質転換株)を生体触媒として緩衝液中で反応させる事が可能である。また、工業化を踏まえた大きなスケールでの生産では、緩衝液ではなくアルカリによる下限コントロールにて反応中のpHを制御する事が好ましい。
【0093】
[1-6-2]酵素反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法では、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(野生型YwfE、或は変異型YwfE)を用い、アデノシン三リン酸(ATP)の共存下、緩衝液中で反応させる事に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する事が出来る。
【0094】
次いで、産生されたβ-Ala-DOPAを、緩衝液から単離する。
【0095】
緩衝液は、好ましくは、当業者に慣用のリン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等である。
【0096】
酵素反応系による製造方法では、アデノシン三リン酸(ATP)を用いる。
【0097】
酵素反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
β-Ala-DOPAは、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とを基質として、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質が、触媒として働き、縮合反応する事に依り、合成される。
【0098】
従って、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とを含む緩衝液に、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を添加し、所定の時間反応後、合成されるβ-Ala-DOPAを単離精製する事に依り、β-Ala-DOPAを製造し、取得する事が出来る。
【0099】
製造方法では、添加するβ-アラニン(β-Ala)及びL-ドパ(L-DOPA)の量は、各々、一例として、0.5g/L~100g/L程度である。
【0100】
抗酸化剤を添加する事
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する際に、好ましくは、抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸を適宜(5mM~50mM程度))添加する。
【0101】
酵素反応系による製造方法では、基質に対して、当量以上のアデノシン三リン酸(ATP)を添加する。
【0102】
酵素による合成反応は、水性媒体中、好ましくは、pH5~pH11であり、より好ましくは、pH6~pH10である。
【0103】
酵素による合成反応は、水性媒体中、好ましくは、20℃~50℃であり、より好ましくは、25℃~45℃の条件である。
【0104】
酵素による合成反応は、水性媒体中、好ましくは、2時間~72時間であり、より好ましくは、6時間~36時間行う。
【0105】
緩衝液中に生成、蓄積したβ-Ala-DOPAの単離・精製は、当業者に慣用の活性炭、イオン交換樹脂等を用いる方法、有機溶媒による抽出、結晶化、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等により行う。
【0106】
[2]2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法は、(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性に依り、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。本発明は、菌体反応系或いは酵素反応系において、2ステップで、先ず、(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質に依り、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とからβ-Ala-Tyr合成し、次いで、(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質に依り、β-Ala-Tyrからβ-Ala-DOPAを合成する技術である。
【0107】
β-Ala-DOPAの製造方法では、原料のコストの観点で、L-チロシン(L-Tyr)からの2段階反応は、圧倒的に安価である。L-チロシン(L-Tyr)をジペプチド化した後に、そのチロシン(Tyr)をドパ(DOPA)に変換する事で、不安定なドパ(DOPA)(遊離)を経る事無く、効率的にβ-Ala-DOPAを製造する事が可能である。
【0108】
[2-1]菌体系(in vivo)の2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法は、(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株(形質転換株)を用いて、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を発現する微生物株(形質転換株)を用いて、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0109】
【0110】
【0111】
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法では、微生物株は、好ましくは、ペプチダーゼの欠損株である(形質転換株)。2ステップで、菌体反応系を使う場合、ペプチダーゼ欠損に関して、PepDのターゲットは最終目的物のβ-Ala-DOPAであり、ペプチダーゼ欠損株を共通の形質転換株とする事が好ましい。
【0112】
[2-2]酵素反応系による2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法は、(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、及び(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を用いて、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化(水酸基を導入)し、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0113】
[2-3]L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質
[2-3-1]タンパク質
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法では、工程(1)において、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(野生型YwfE、或いはYwfEの変異型)を発現する微生物株(形質転換株)を用い、培養用培地中で培養する事に依り、当該タンパク質を調製し、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、反応基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する。
【0114】
本発明のタンパク質が有するL-アミノ酸α-リガーゼ活性は、前記説明の通りである。
【0115】
野生型YwfE及び変異型YwfEは、N末端側基質がβ-アラニン(β-Ala)で、C末端側基質がL-チロシン(L-Tyr)に対するリガーゼ活性を有し、β-Ala-Tyrを合成する事が出来る。
【0116】
野生型YwfE、或はYwfEの変異型は、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する為の酵素として使用される。
【0117】
[2-3-2]タンパク質をコードする核酸
本発明のL-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸は、前記説明の通りである。
【0118】
[2-3-3]核酸挿入ベクター
本発明のL-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子及び適切な発現配列を含む核酸挿入ベクターは、前記説明の通りである。
【0119】
[2-3-4]核酸挿入ベクターを導入する宿主株
本発明の核酸挿入ベクターを宿主株に導入し、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を発現する形質転換された形質転換株は、前記説明の通りである。
【0120】
[2-4]二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質は(HpaBC)は、フラビン依存性のヒドロキシラーゼ(HpaB:4-Hydroxyphenylacetate (4HPA) 3-monooxygenase)とフラビンレダクターゼ活性を有するタンパク質(HpaC:NAD(P)H-flavin oxidoreductase)との二成分から構成されるモノオキシゲナーゼである。
【0121】
配列番号4:HpaBアミノ酸配列
HpaB:Pseudomonas aeruginosa PA01、-HpaB(520aa)
配列番号5:HpaB(1,563bp)
配列番号8:HpaCアミノ酸配列
HpaC:Pseudomonas aeruginosa PA01、-HpaC(179aa)
配列番号9:HpaC(513bp)
【0122】
本発明のβ-Ala-DOPAの製造方法では、工程(2)では、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質(好ましくは、HpaBC, EC : 1.14.14.9.)を発現する微生物株(形質転換株)を用い、培養用培地中で培養する事に依り、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化(-OH基:水酸基導入)し、β-Ala-DOPAを合成する。
【0123】
[2-5]β-Ala-DOPAの製造方法
菌体系の2ステップのβ-Ala-DOPAの製造方法では、
(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株(形質転換株)を用いて、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程を進め、
次いで、(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を発現する微生物株(形質転換株)を用いて、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程を進めても良い。
【0124】
[2-5-1]菌体反応系による2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
工程(1):基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程
工程(1)では、β-Ala-DOPAの製造方法の内、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(野生型YwfE、或はYwfEの変異型)を発現する微生物株(形質転換株)を用い、培養用培地中で培養する事に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する。
【0125】
工程(1)では、培養用培地で、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を発現する微生物株(形質転換株)を培養後、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とを含む反応液で合成されるβ-Ala-Tyrを単離精製する事に依り、β-Ala-Tyrを製造し、取得する。
【0126】
製造方法では、添加するβ-アラニン(β-Ala)及びL-チロシン(L-Tyr)の量は、各々、一例として、0.5g/L~100g/L程度である。
【0127】
高収率での変換反応(基質のβ-アラニン(β-Ala)及びL-チロシン(L-Tyr)からの目的ジペプチドであるβ-Ala-Tyrを合成する事)を達成する為には、高発現した菌体を集菌後に反応系(休止菌体反応)で反応する事が好ましい。
【0128】
工程(2):前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
工程(2)では、β-Ala-DOPAの製造方法の内、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質(好ましくは、HpaBC(HpaBCはHpaB(EC 1.14.14.9)とHpaC(Flavin reductase:EC 1.5.1.36)とから成る複合酵素))を発現する微生物株(形質転換株)を用い、培養用培地中で培養する事に依り、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化(水酸基導入)し、β-Ala-DOPAを合成する。
【0129】
HpaBCは、エシェリヒア(Escherichia)属細菌由来のHpaBC、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌由来のHpaBC等を用いる事が出来る。
【0130】
工程(2)では、β-Ala-Tyrを含む培養用培地で、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を発現する微生物株(形質転換株)を培養する事に依り、β-Ala-DOPAを製造する。合成されるβ-Ala-DOPAを単離精製しても良い。
【0131】
培養は、通常、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。
【0132】
培養温度は、好ましくは、15℃~40℃である。
【0133】
培養時間は、好ましくは、5時間~7日間である。
【0134】
培養中のpHは、好ましくは、pH3~pH9に保持する。pHの調整は、無機或は有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
【0135】
高収率での変換反応(基質のβ-Ala-Tyrからの目的ジペプチドであるβ-Ala-DOPAを合成する事)を達成する為には、高発現した菌体を集菌後に反応系(休止菌体反応)で反応する事が好ましい。
【0136】
抗酸化剤を添加する事
β-Ala-DOPAを合成する際に、好ましくは、抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸を適宜(5mM~50mM程度)添加する。抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸)を添加する事に依り、目的化合物であるβ-Ala-DOPAの酸化分解を抑制する事が可能である。
【0137】
緩衝液中に生成、蓄積したβ-Ala-DOPAの単離・精製は、当業者に慣用の活性炭、イオン交換樹脂等を用いる方法、有機溶媒による抽出、結晶化、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等により行う。
【0138】
菌体反応系による製造方法では、集菌した微生物株(形質転換株)を生体触媒として緩衝液中で反応させる事が可能である。また、工業化を踏まえた大きなスケールでの生産では、緩衝液ではなくアルカリによる下限コントロールにて反応中のpHを制御する事が好ましい。
【0139】
[2-5-2]酵素反応系による2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造方法
工程(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、
工程(1)では、β-Ala-DOPAの製造方法の内、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(野生型YwfE、或いはYwfEの変異型)を用い、アデノシン三リン酸(ATP)の共存下、緩衝液中で反応する事に依り、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する。工程(1)において、アデノシン三リン酸(ATP)を添加する。
【0140】
酵素反応系による製造方法では、基質に対して、当量以上のアデノシン三リン酸(ATP)を添加する。
【0141】
工程(1)では、β-Ala-Tyrは、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とを基質として、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質が、触媒として働き、アデノシン三リン酸(ATP)の共存下、縮合反応する事に依り、合成される。
【0142】
製造方法では、添加するβ-アラニン(β-Ala)及びL-チロシン(L-Tyr)の量は、各々、一例として、0.5g/L~100g/L程度である。
【0143】
工程(1)では、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とを含む緩衝液に、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を添加し、所定の時間インキュベーション後、合成されるβ-Ala-Tyrを単離精製する事に依り、β-Ala-Tyrを製造し、取得する事が出来る。
【0144】
工程(2):二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を用いて、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程
工程(2)では、β-Ala-DOPAの製造方法の内、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質(好ましくは、HpaBC)を用い、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する。工程(2)において、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を添加する。
【0145】
酵素反応系による製造方法では、基質に対して、当量以上の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を添加する。
【0146】
工程(2)では、β-Ala-DOPAは、β-Ala-Tyrを基質として、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質が、触媒として働き、水酸化する事に依り、合成される。
【0147】
工程(2)では、添加するβ-Ala-Tyrの量は、一例として、0.1g/L~100g/L程度である。
【0148】
工程(2)では、β-Ala-Tyrを含む緩衝液に、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を添加し、所定の時間インキュベーション後、β-Ala-DOPAを製造し、取得する事が出来る。
【0149】
合成反応は、水性媒体中、好ましくは、pH5~pH11であり、より好ましくは、pH6~pH10である。
【0150】
合成反応は、水性媒体中、好ましくは、20℃~50℃であり、より好ましくは、25℃~45℃の条件である。
【0151】
合成反応は、水性媒体中、好ましくは、2時間~72時間であり、より好ましくは、6時間~36時間行う。
【0152】
抗酸化剤を添加する事
β-Ala-DOPAを合成する際に、好ましくは、抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸を適宜(5mM~50mM程度)添加する。抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸)を添加する事に依り、目的化合物であるβ-Ala-DOPAの酸化分解を抑制する事が可能である。
【0153】
緩衝液中に生成、蓄積したβ-Ala-DOPAの単離・精製は、当業者に慣用の活性炭、イオン交換樹脂等を用いる方法、有機溶媒による抽出、結晶化、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等により行う。
【実施例0154】
実施例は、本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0155】
以下の実施例において、ポリヌクレオチド(DNA、mRNA)の調製、PCR、塩基配列決定、微生物株(形質転換株)、タンパク質の発現、タンパク質の精製、HPLC分析等は、当業者に周知慣用の方法を用いて行う。
【0156】
例えば、Sambrook、J.及びRussell、D. W.、Molecular Cloning A Laboratory Manual 4th Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)等を参照する。
【0157】
[1]YwfEへの部位特異的変異の導入
YwfE遺伝子(
配列番号1、1419bp、472残基)を組み込んだpETベクターを鋳型として、Quick Change Site-Directed Mutagenesis(Strategene、米国)を用いて目的の変異を導入した(
図1)。
【0158】
PCR反応は、表1(組成)及び表2(PCRサイクル)に示す反応条件で実施した。PCR反応では、KOD-Plus-Neo-DNA polymerase(Toyobo Co., Ltd.、大阪)を用いた。
【0159】
プライマーを使用し、YwfEタンパク質のN末端から108番目のアスパラギン(N)残基をアラニン(A)残基に置換したYwfEタンパク質をコード(配列番号3)するポリヌクレオチドN108Aの部位特異的変異を導入したプラスミドを得た。
【0160】
【0161】
【0162】
PCR反応後、得られたPCR産物について、DNAシークエンサー(アプライドバイオシステムズ、ライフテクノロジーズジャパン株式会社、東京)で解析し、部位特異的変異が導入されたかを確認した。
【0163】
大腸菌から抽出されたベクターは、Damメチラーゼにより、Dpn Iサイトがメチル化されている一方、PCR産物は、Dpn Iサイトがメチル化されていない。これを利用する事に依り、鋳型ベクターと、PCR産物とを区別出来る。簡潔には、PCR後の反応液に含まれる鋳型ベクターを除去する為に、精製したPCR産物をDpn Iで37℃、2時間処理した。
【0164】
制限酵素反応は、表3に示した反応条件で実施した。
【0165】
【0166】
制限酵素Dpn Iでの消化後、フェノール・クロロホルム処理及びエタノール沈殿に依り、精製した部位特異的変異導入プラスミドを、TE緩衝液pH8.0に溶解した。
【0167】
[2]部位特異的変異導入プラスミドによる大腸菌JM109の形質転換
大腸菌JM109のコンピテントセルと、部位特異的変異導入プラスミドとをともに、42℃で熱処理した。その後、SOC培地を加えて培養し、カナマイシン50μg/mL含有LB寒天培地に植菌し、37℃で終夜培養した。
【0168】
生育したコロニーから1つのコロニーを選択し、カナマイシン含有LB培地3mLに懸濁し、37℃で5時間培養した。培養後、アルカリSDS法に依り、形質転換株から部位特異的変異導入プラスミドを抽出した。抽出した部位特異的変異導入プラスミドをフェノール・クロロホルム処理とエタノール沈殿により精製し、TE緩衝液(pH8.0)に溶解した。
【0169】
[3]精製酵素の調製
部位特異的変異導入プラスミドによる大腸菌BL21の形質転換
精製した部位特異的変異導入プラスミドを用いて、ヒートショック法により大腸菌BL21の形質転換を行った。大腸菌BL21のコンピテントセルと部位特異的変異導入プラスミドとを共に、42℃で熱処理した。その後、SOC培地を加えて培養し、カナマイシン50μg/mL含有LB寒天培地に植菌し、37℃で終夜培養した。
【0170】
コロニーを形成した大腸菌を、YwfE発現形質転換株とした。
【0171】
IPTGによる発現誘導
生育したYwfE発現形質転換株のコロニーから1つのコロニーを選択し、試験管中でカナマイシン含有LB培地3mLに懸濁して、37℃で5時間、前培養を行った。次に、500mLバッフル付エルレンマイヤーフラスコ中のカナマイシン含有LB培地200mLに前培養液2mLを添加した。37℃、120rpmで2時間本培養した後、100mM IPTG 200μLを添加した。IPTG添加後の培養液を25℃、120rpmで終夜培養した。
【0172】
終夜培養後、5,000×g、10分間の遠心分離を行って集菌し、菌体ペレットを100mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)で懸濁して洗菌した。この操作を2回繰り返して培地成分を除去した。洗菌後、菌体ペレットを-80℃で凍結保存した。
【0173】
酵素精製
解凍した菌体ペレットに、BugBuster(BugBusterTM Protein Extraction Reagent、メルクKGaA社、独国)とリゾチームとを添加し、タンパク質を抽出した。菌体破砕液は遠心分離によって、沈殿(不溶性画分)と上清(無細胞抽出液)とに分離した。無細胞抽出液をHis GraviTrap(GEヘルスケア社、米国)を用いて、適用した。溶出した溶液を、PD-10カラム(GEヘルスケア社)を用いて、脱塩した。
【0174】
精製酵素の濃度測定
精製した酵素の濃度を、クマシーブリリアントブルーを用いた呈色反応後、マイクロプレートリーダーMODEL550(Bio-Rad社、米国)に依り、測定した。検量線法により595nmの吸光度の測定値から精製した酵素濃度を決定した。
【0175】
[4]β-Ala-DOPA或はβ-Ala-Tyr合成活性評価(HPLC分析)
β-Ala-DOPA或はβ-Ala-Tyrの標品を使用した。β-Ala-DOPA或はβ-Ala-Tyrの合成量は、Nα-(5-fluoro-2,4-dinitrophenyl)-L-alanineamide(FDAA)誘導体化法を用いたHPLC分析を実施し、検量線法に依り、定量した。HPLC分析は、表4(溶離液組成)及び表5(グラジエントプログラム)に示した条件で定法に従って実施した。
【0176】
<分析条件>
使用機器:HITACHI L-7000 シリーズ(株式会社日立製作所、東京)
使用カラム:WH-C18A(4×150mm)(株式会社日立ハイテクノロジーズ、東京)
サンプル注入量:10μL
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
UV検出波長:340nm
【0177】
【0178】
【0179】
酵素は、野生型酵素(YwfE)(配列番号2)、及びYwfE単変異型酵素N108A(配列番号3)を用いた。
【0180】
反応終了後、HPLCを用いて、β-Ala-DOPA或はβ-Ala-Tyrを分析した。
【0181】
統計学的検定は、統計検定ソフト:EZR
(http://www.jichi.ac.jp/saitama-sct/SaitamaHP.files/statmed.htm)
を用い、野生型酵素によって生成されるβ-Ala-DOPA或いはβ-Ala-Tyrの濃度、及び各変異型酵素に依り、生成されるβ-Ala-DOPA或いはβ-Ala-Tyrの濃度を、一元配置分散分析(ANOVA)及びDunnettの検定法に依り、p値0.05を有意水準としてpost hoc解析した(各群n=3)。
【0182】
[5]1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造
菌体反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造では、L-アミノ酸α-リガーゼ活性(野生型YwfE、或はYwfEの1変異型YwfE)を発現する宿主細胞を用いて、(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0183】
宿主株は、好ましくは、ペプチダーゼの欠損株である。
【0184】
宿主株(大腸菌)を用いる菌体反応系では、糖を供給することでATP無添加系とする事が出来る。菌体反応系では、宿主が有するペプチダーゼ(PepD)の欠損変異を有した宿主株を用いる事に依り、β-AlaとDOPAから、β-Ala-DOPAを高収率に合成する事が出来る。
【0185】
酵素反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造では、L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質(YwfE、野生型或いはその変異型酵素)を用いて、(1)アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-ドパ(L-DOPA)とから、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0186】
酵素系の1ステップのβ-Ala-DOPAの製造は、好ましくは、抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸(10mM))の存在下で行う。L-ドパ(L-DOPA)の性質として、酸化分解による褐変反応や重合化が有る。基質として、L-ドパ(L-DOPA)を使用する際に、抗酸化剤(好ましくは、アスコルビン酸(10mM~20mM程度))を添加する事に依り、L-ドパ(L-DOPA)の褐変或は重合化を抑制する事が出来、L-ドパ(L-DOPA)を安定に維持する事が出来、L-ドパ(L-DOPA)の減少を抑止する事が出来る。
【0187】
[5-1]酵素反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造
アスコルビン酸に依る酸化防止の効果
酵素系では、アスコルビン酸を5mM~20mMの濃度で添加する事に依り、基質のL-ドパ(L-DOPA)に対して、目的物のβ-Ala-DOPAを、変換率90%を超える収率で合成する事が出来た(
図3)。
【0188】
【0189】
[5-2]菌体反応系による1ステップでのβ-Ala-DOPAの製造
PepD欠損変異株の使用に依る効果
大腸菌組換え株を用いる菌体系では、若干の糖を添加することでATP無添加反応系とする事が出来る。大腸菌組換え株を用いる菌体反応系では、好ましくは、ペプチダーゼ(PepD)の欠損変異を施した宿主を用いる。
【0190】
菌体反応系では、ペプチダーゼ(PepD)の欠損変異を施した大腸菌組換え株を用いる事に依り、基質のL-ドパ(L-DOPA)に対して、目的物のβ-Ala-DOPAを、変換率50%を超える収率で合成する事が出来た(
図4)。
【0191】
【0192】
使用菌体量の増加に依る効果
菌体系では、菌体量を増加させる事に依り、基質のL-ドパ(L-DOPA)に対して、目的物のβ-Ala-DOPAを、変換率70%を超える収率で合成する事が出来た。
【0193】
【0194】
アスコルビン酸に依る酸化防止の効果
菌体反応系では、アスコルビン酸を5mM~20mMの濃度で添加する事に依り、基質のL-ドパ(L-DOPA)に対して、目的物のβ-Ala-DOPAを、変換率60%を超える収率で合成する事が出来た(
図5)。また、菌体量を増量する等、反応条件最適化によって、最終的に収率(変換率)を76%程度にまで上昇させる事が可能である。
【0195】
【0196】
[6]2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造
菌体反応系による2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造では、L-アミノ酸α-リガーゼ活性(野生型YwfE、或はYwfEの変異型)及び二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を共発現する株を用いて、先ず、(1)基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、次いで、(2)前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化(水酸基を導入)し、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0197】
L-アミノ酸α-リガーゼ活性を発現する微生物株(形質転換株)に、基質として、β-AlaとTyrを添加し、β-Ala-Tyrを生産する事が出来る。二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼを発現する微生物株(形質転換株)に、基質として、β-Ala-Tyrを添加し、β-Ala-DOPAを生産する事が出来る。二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ及びこれを発現する株については前記説明の通りである。L-アミノ酸α-リガーゼ活性(YwfE)と二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ(HaBC)の2つの酵素を同時に発現する菌を用いる事に依り、2ステップの反応を同時に行う事が出来る。
【0198】
微生物株は、好ましくは、ペプチダーゼの欠損株(形質転換株)である。
【0199】
微生物株(大腸菌等)を用いる菌体反応系では、若干の糖を添加することでATP無添加系とする事が出来る。菌体系では、菌体が持つペプチダーゼ(PepD)の欠損変異を有した形質転換株を用いる事に依り、β-AlaとDOPAから、β-Ala-DOPAを高収率に合成する事が出来る。
【0200】
酵素反応系による2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造では、先ず、(1)L-アミノ酸α-リガーゼ活性を有するタンパク質を用いて、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下、基質として、β-アラニン(β-Ala)とL-チロシン(L-Tyr)とから、β-Ala-Tyrを合成する工程、次いで、(2)二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を用いて、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、前記工程(1)で得られるβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成する工程を含む。
【0201】
工程(1)のL-アミノ酸α-リガーゼ活性(野生型YwfE、或いはYwfEの変異型)に依るジペプチドの合成には、ATPを必要とする為に、酵素反応系ではATPの供給が必要である。工程(2)のβ-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAへの変換には、二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ(HpaBC)を用いる。酵素反応系ではNADHの供給が必要である。
【0202】
[6-1]菌体反応系による2ステップでのβ-Ala-DOPAの製造
工程(1)β-Ala-Tyrの合成
工程(1)では、L-アミノ酸α-リガーゼ活性(YwfE、ジペプチド合成酵素)を有する酵素YwfEの部位特異的変異型酵素YwfE(N108A)を発現する大腸菌組換え株を用いて、β-Ala-Tyrの合成を行った。
【0203】
チロシン含有ジペプチド(β-Ala-Tyr)生産用
宿主:E. coli BL21 (DE3)
プラスミド情報
ベクター:pET-21a (+)
インサート:ywfE (Bacillu subtilis ATCC 15245由来L-アミノ酸リガーゼ)
発現酵素の一次配列:YwfE改変酵素N108A (C末端側His-tag)
【0204】
【0205】
LC-MSに依る定量を行うと、12.5mMのβ-Ala(基質)から、4.73mMのβ-Ala-Tyr(目的化合物)を合成した事を確認する事が出来た。
【0206】
培養スケールを、300μLから3mLに挙げた処、9.23mMのβ-Ala-Tyr(目的化合物)に合成収量を上昇させる事が出来た(変換率が73.8%)。
【0207】
反応容器の変更に依り、通気・攪拌条件が重要である事が示唆され、スケールアップには、ジャーファメンターの使用が好適である。
【0208】
工程(2)β-Ala-DOPAの合成(大腸菌を用いた菌体反応系による方法)
工程(2)は、β-Ala-Tyrからβ-Ala-DOPAへの変換プロセスである。
【0209】
予備検討として、L-ドパ(L-DOPA)飽和水溶液を30℃で20hr放置すると、pH6.5以上では褐変を起こす現象が確認された。
【0210】
二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ(HpaBC)を高発現する大腸菌組換え株を用いて、基質として、β-Ala-Tyrを、水酸化し、β-Ala-DOPAを合成した。
【0211】
DOPA含有ジペプチド(β-Ala-DOPA)生産用
宿主:E. coli BL21 (DE3)
プラスミド情報
ベクター:pETDuet-1
インサート:hpaBC (Pseudomonas aeruginosa PAO1由来二成分型フラビン依存性モノオキシゲナーゼ)
発現酵素の一次配列:HpaB及びHpaCの共発現
LC-MSに依る定量を行うと、β-Ala-Tyr(基質)の減少が定量され、β-Ala-DOPA(目的化合物)の生成した事を確認する事が出来た(収率は16.7%)。
【0212】
アスコルビン酸を添加した反応系では、pH8.0というアルカリ下で、褐変も無く、反応が進み、良好にL-ドパ(L-DOPA)がβ-Ala化されたと考えられる。
【0213】
【0214】
配列番号1:野生型YwfE
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
ATG GAG AGA AAA ACA GTA TTG GTC ATC GCT GAT CTT GGA GGC TGC CCG CCG CAC ATG TTT
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40
TAT AAA AGC GCT GCT GAA AAA TAT AAC CTG GTC AGC TTT ATT CCA AGA CCT TTT GCA ATT
41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60
ACA GCC TCC CAT GCA GCA TTG ATT GAA AAA TAC TCG GTC GCG GTC ATA AAA GAT AAA GAC
61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80
TAT TTT AAG AGT TTA GCT GAT TTT GAA CAC CCT GAT TCC ATT TAT TGG GCG CAT GAA GAT
81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100
CAT AAC AAG CCT GAG GAA GAG GTC GTC GAG CAA ATC GTC AAG GTT GCC GAA ATG TTT GGG
101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120
GCG GAT GCC ATC ACA ACA AAC AAT GAA TTA TTC ATT GCT CCG ATG GCG AAA GCC TGT GAA
121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140
CGT CTG GGC TTG AGA GGT GCC GGC GTG CAG GCA GCC GAA AAT GCC AGA GAT AAA AAT AAA
141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160
ATG AGG GAC GCT TTT AAT AAG GCC GGA GTC AAA TCG ATC AAA AAC AAA CGA GTC ACA ACT
161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180
CTT GAA GAT TTC CGT GCT GCT CTT GAA GAG ATC GGC ACA CCT CTT ATC TTA AAG CCT ACA
181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200
TAC TTA GCG AGT TCT ATC GGT GTA ACG CTG ATT ACG GAC ACT GAG ACG GCA GAA GAT GAA
201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220
TTT AAC AGA GTC AAT GAC TAT CTG AAA TCA ATT AAC GTG CCA AAG GCG GTT ACG TTT GAA
221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240
GCG CCG TTT ATC GCT GAA GAA TTT TTA CAG GGT GAG TAC GGA GAC TGG TAT CAA ACA GAA
241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260
GGG TAC TCC GAC TAT ATC AGT ATA GAA GGC ATC ATG GCT GAC GGT GAG TAT TTC CCG ATC
261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280
GCC ATT CAT GAT AAA ACG CCG CAA ATC GGG TTT ACA GAG ACA TCC CAC ATT ACG CCG TCC
281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300
ATT CTG GAT GAA GAG GCA AAA AAG AAA ATT GTC GAA GCT GCC AAA AAG GCA AAT GAA GGG
301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320
CTT GGA CTG CAA AAT TGC GCA ACA CAT ACA GAG ATC AAG CTA ATG AAA AAC AGA GAA CCG
321 322 323 324 325 326 327 328 329 310 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340
GGT TTA ATA GAG TCG GCA GCC AGA TTT GCC GGC TGG AAT ATG ATC CCC AAT ATT AAA AAG
341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360
GTC TTT GGC CTT GAT ATG GCG CAA TTA TTA TTA GAT GTC CTC TGT TTC GGA AAA GAC GCC
361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380
GAT CTG CCG GAC GGA TTA TTG GAT CAA GAG CCT TAT TAT GTT GCC GAC TGC CAT TTG TAC
381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400
CCG CAG CAT TTC AAA CAA AAT GGC CAA ATT CCT GAA ACT GCT GAG GAT TTG GTC ATT GAA
401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420
GCG ATC GAT ATT CCG GAC GGG CTT TTA AAA GGG GAT ACT GAA ATC GTT TCT TTT TCG GCC
421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440
GCA GCA CCA GGC ACT TCA GTT GAT TTG ACA TTG TTT GAA GCT TTC AAT TCC ATT GCT GCA
441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460
TTT GAA CTG AAA GGC AGT AAT TCA CAG GAT GTG GCT GAA TCA ATC AGA CAA ATT CAG CAG
461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 END
CAT GCG AAG CTG ACG GCA AAG TAT GTG CTG CCA GTA TGA
【0215】
配列番号2:野生型YwfEのアミノ酸配列
1 MERKTVLVIA DLGGCPPHMF YKSAAEKYNL VSFIPRPFAI TASHAALIEK 50
51 YSVAVIKDKD YFKSLADFEH PDSIYWAHED HNKPEEEVVE QIVKVAEMFG 100
101 ADAITTNNEL FIAPMAKACE RLGLRGAGVQ AAENARDKNK MRDAFNKAGV 150
151 KSIKNKRVTT LEDFRAALEE IGTPLILKPT YLASSIGVTL ITDTETAEDE 200
201 FNRVNDYLKS INVPKAVTFE APFIAEEFLQ GEYGDWYQTE GYSDYISIEG 250
251 IMADGEYFPI AIHDKTPQIG FTETSHITPS ILDEEAKKKI VEAAKKANEG 300
301 LGLQNCATHT EIKLMKNREP GLIESAARFA GWNMIPNIKK VFGLDMAQLL 350
351 LDVLCFGKDA DLPDGLLDQE PYYVADCHLY PQHFKQNGQI PETAEDLVIE 400
401 AIDIPDGLLK GDTEIVSFSA AAPGTSVDLT LFEAFNSIAA FELKGSNSQD 450
451 VAESIRQIQQ HAKLTAKYVL PV 472
【0216】
配列番号3:YwfEのN108A変異導入したアミノ酸配列
1 MERKTVLVIA DLGGCPPHMF YKSAAEKYNL VSFIPRPFAI TASHAALIEK 50
51 YSVAVIKDKD YFKSLADFEH PDSIYWAHED HNKPEEEVVE QIVKVAEMFG 100
101 ADAITTNAEL FIAPMAKACE RLGLRGAGVQ AAENARDKNK MRDAFNKAGV 150
151 KSIKNKRVTT LEDFRAALEE IGTPLILKPT YLASSIGVTL ITDTETAEDE 200
201 FNRVNDYLKS INVPKAVTFE APFIAEEFLQ GEYGDWYQTE GYSDYISIEG 250
251 IMADGEYFPI AIHDKTPQIG FTETSHITPS ILDEEAKKKI VEAAKKANEG 300
301 LGLQNCATHT EIKLMKNREP GLIESAARFA GWNMIPNIKK VFGLDMAQLL 350
351 LDVLCFGKDA DLPDGLLDQE PYYVADCHLY PQHFKQNGQI PETAEDLVIE 400
401 AIDIPDGLLK GDTEIVSFSA AAPGTSVDLT LFEAFNSIAA FELKGSNSQD 450
451 VAESIRQIQQ HAKLTAKYVL PVLEHHHHHH 480
【0217】
配列番号4:HpaBアミノ酸配列
1 MKPEDFRASA TRPFTGEEYL ASLRDDREIY IYGDRVKDVT SHPAFRNAAA 50
51 SMARLYDALH DPQSKEKLCW ETDTGNGGYT HKFFRYARSA DELRQQRDAI 100
101 AEWSRLTYGW MGRTPDYKAA FGSALGANPG FYGRFEDNAK TWYKRIQEAC 150
151 LYLNHAIVNP PIDRDKPVDQ VKDVFISVDE EVDGGIVVSG AKVVATNSAL 200
201 THYNFVGQGS AQLLGDNTDF ALMFIAPMNT PGMKLICRPS YELVAGIAGS 250
251 PFDYPLSSRF DENDAILVMD KVFIPWENVL IYRDFERCKQ WFPQGGFGRL 300
301 FPMQGCTRLA VKLDFITGAL YKALQCTGSL EFRGVQAQVG EVVAWRNLFW 350
351 SLTDAMYGNA SEWHGGAFLP SAEALQAYRV LAPQAYPEIK KTIEQVVASG 400
401 LIYLPSGVRD LHNPQLDKYL STYCRGSGGM GHRERIKILK LLWDAIGSEF 450
451 GGRHELYEIN YAGSQDEIRM QALRQAIGSG AMKGMLGMVE QCMGDYDENG 500
501 WTVPHLHNPD DINVLDRIRQ 520
【0218】
配列番号5:HpaB
atgaaacccg aagatttccg tgcctctgcc acccgtccgt tcaccggcga ggagtacctc gccagcctgc
gcgacgaccg tgagatctac atctacggcg accgcgtcaa ggacgtcacc agccaccccg ccttccgcaa
cgcggccgcc tccatggccc ggctctacga cgccctgcac gatccgcaga gcaaggaaaa gctctgctgg
gagaccgata ccggcaacgg cggctatacc cacaagttct tccgctacgc gcgcagcgcc gacgaactgc
gccagcagcg cgacgccatc gccgagtggt cgcggctgac ctacggctgg atgggccgca ccccggacta
caaggccgcc ttcggcagcg ccctcggcgc caacccgggc ttctacgggc gtttcgagga caacgcgaaa
acctggtaca agcgcatcca ggaagcctgc ctgtacctca accatgccat cgtcaacccg ccgatcgacc
gcgacaagcc ggtggaccag gtcaaggacg tgttcatctc ggtggacgag gaagtcgacg gcggcatcgt
cgtcagcggc gccaaggtgg tcgccacgaa ttccgcgctg acccactaca acttcgtcgg ccagggttcg
gcgcaactgc tcggcgacaa caccgacttc gccctgatgt tcatcgcgcc gatgaacacc cccggcatga
agctgatctg ccgcccctcc tacgaactgg tggcgggtat cgccggatcg ccgttcgact acccgctgtc
cagccgtttc gacgagaacg acgcgatcct ggtgatggac aaggtgttca tcccctggga gaacgtactg
atctaccgcg acttcgagcg ctgcaagcag tggttccccc agggtggctt cggccggctg ttcccgatgc
agggctgcac ccgcctggcg gtcaagctcg acttcatcac cggcgccctc tacaaggccc tgcaatgcac
cggctccctg gagttccgcg gcgtgcaggc gcaggtcggc gaagtggtgg cctggcgcaa cctgttctgg
tcgctgaccg acgccatgta cggcaacgcc agcgaatggc acggcggcgc cttcctgccc agcgccgagg
ccctgcaggc ctaccgcgtg ctggcgccgc aggcctaccc ggagatcaag aagaccatcg agcaggtggt
cgccagcggc ctgatctacc tgccctccgg cgttcgcgac ctgcacaatc cgcaactcga caagtatctc
Tccacctatt gccgcggctc cggcggcatg ggccaccggg agcggatcaa gatcctcaag ctgctctggg
acgccatcgg cagcgagttc ggcggccgcc acgagctgta cgagatcaac tacgccggca gccaggacga
gatccgcatg caggccctgc gccaggcgat cggcagcggg gcgatgaagg gcatgctcgg catggtcgag
cagtgcatgg gcgactacga cgagaacggc tggaccgtgc cgcacctgca caacccggac gacatcaacg
tgctcgatcg catccgccaa tga
【0219】
配列番号6:HpaBプライマー(forward)
forward : 5' -ttctcatgaaacccgaagatttccgtgcct-3’
【0220】
配列番号7:HpaBプライマー(reverse)
reverse :5’-cgcggatcctcattggcggatgcgatcgag-3’
【0221】
配列番号8:HpaCアミノ酸配列
1 MSQLEPRQQA FRNAMAHLSA AVNVITSNGP AGRCGITATA VCSVTDSPPT 50
51 LMLCINRNSE MNTVFKANGR LCVNVLSGEH EEVARHFAGM TEVPMERRFA 100
101 LHDWREGLAG LPVLHGALAN LQGRIAEVQE IGTHSVLLLE LEDIQVLEQG 150
151 DGLVYFSRSF HRLQCPRRAA 170
【0222】
配列番号9:HpaC
1 atgtcccagc tcgaacccag gcagcaagcc ttccgcaacg ccatggcgca tctttcggcg
61 gcggtcaacg tgatcaccag caacggcccg gccggacgct gcgggatcac cgccaccgcg
121 gtctgctcgg tcaccgacag cccgccgacg ctgatgctct gcatcaaccg caacagcgag
181 atgaacacgg tgttcaaggc caacggtcga ctctgcgtga acgtcctcag cggcgaacat
241 gaagaggtgg cccgccactt cgccggcatg accgaggtcc cgatggaacg ccgcttcgcc
301 ctccacgact ggcgcgaggg cctcgccggg ttgccggtgc tgcacggcgc cctggccaac
361 ctgcagggac gcatcgccga ggtccaggag atcggcaccc actcggtgct gttgctggaa
421 ctggaggaca tccaggtcct cgaacagggc gacggcctgg tctacttcag ccgcagcttc
481 catcgcctgc aatgcccccg gcgggcggcc tga
【0223】
配列番号10:HpaCプライマー(forward)
forward :5′-ttccatatgtcccagctcgaacccaggcag-3′
【0224】
配列番号11:HpaCプライマー(reverse)
reverse : 5′-ttcggtacctcaggccgcccgccgggggca-3′
本発明に依り、効率的に、L-ドパ(L-DOPA)をβ-Alaと結合させて、β-Ala-DOPAを合成する事が出来る。本発明に依り合成されるβ-Ala-DOPAは、人の体内での安定性が向上する(体内での分解が抑制される)と考えられ、本発明に依り、ペプチド本体またはその代謝物が脳機能改善に寄与する可能性を有したβ-Ala-DOPAを、効率良く合成する事を期待出来る。
本発明に依り、安定的に、β-Ala-DOPAを供給する事が出来る。本発明に依り合成されるβ-Ala-DOPAを、少量の使用で、長期間の効果を有するDOPA誘導体として、医薬品としての使用する事に期待が出来る。