(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128573
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】腸管へのウイルス特異的な抗体誘導が可能なノロウイルスワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20230907BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230907BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230907BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230907BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230907BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230907BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230907BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230907BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20230907BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230907BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20230907BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
A61K35/76
A61K9/107
A61K47/06
A61K31/7088
A61P31/14
A61P37/04
A61K47/64
A61P43/00 121
C12N7/01 ZNA
C12N15/12
C12N15/40
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032987
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 渚
(72)【発明者】
【氏名】三股 亮大郎
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
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4C076AA17
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4C086AA01
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4C086ZC75
4C087AA01
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4C087BC83
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4C087MA22
4C087NA05
4C087NA10
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
【課題】腸管粘膜にウイルス特異的なIgG抗体やIgA抗体を誘導する、VLPをワクチン抗原とするノロウイルスワクチンを提供する。
【解決手段】腸管粘膜にウイルス特異的抗体を誘導するノロウイルスワクチン組成物であって、ノロウイルスウイルス様粒子及びスクワレン含有エマルジョンを含む組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管粘膜にウイルス特異的抗体を誘導するノロウイルスワクチン組成物であって、ノロウイルスウイルス様粒子及びスクワレン含有エマルジョンを含む組成物。
【請求項2】
ノロウイルスウイルス様粒子がGenogroupI又はGenogroupIIのいずれか又は両方のノロウイルスから作製されたものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
さらに、細胞膜透過ペプチド核酸を含有する、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ノロウイルスウイルス様粒子をVP1タンパク質含量として1株あたり15μg以上含有する、請求項1~3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
非経口投与によって投与される、請求項1~4のいずれか1項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管粘膜にウイルス特異的な抗体応答を誘導可能なノロウイルスワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは急性胃腸炎や流行性下痢症の原因ウイルスの1つであり、主にヒトの手指や食品などを介して感染し、嘔吐、下痢、腹痛などの症状を引き起こすことが知られている。ノロウイルス感染症は主に冬季で流行し、世界では年間6.8億人以上が罹患して発展途上国を中心に20万人が死亡している。感染症の有効な予防法はワクチンであるが、ノロウイルスに対するワクチンはなく、治療法も対症療法に限られている。
【0003】
ノロウイルスは10つの遺伝子群に分類されており、そのうちヒトに感染して検出されるノロウイルスはGenogroupI(GI)、GenogroupII(GII)及びGenogroupIV(GIV)に属しており、そのなかでもヒトの感染例の大半はGIとGIIである。このGI及びGIIの各遺伝子群には、GIで9種類、GIIで27種類の遺伝子型に分類されており、異なる遺伝子型では基本的には抗原性も異なると考えられている。このようにノロウイルスには多くの遺伝子型が存在しているうえ、流行の中で遺伝子の変異を起こしているため、流行株が新たな変異株や別の遺伝子型にシフトした場合、大規模な感染を引き起こす可能性がある。
【0004】
ノロウイルスはカリシウイルス科ノロウイルス属に属するプラス鎖の一本鎖RNAウイルスである。ノロウイルスのゲノムRNAは非構造タンパク質:ORF1、構造タンパク質1(VP1):ORF2、構造タンパク質2(VP2):ORF3の3つのタンパク質をコードする領域が存在し、VP1及びVP2はウイルスのカプシドを構成する。VP1遺伝子を導入した細胞では、感染性を有するウイルスと形態学的に類似したウイルス様中空粒子(VLP:Virus Like Particle)を形成することが知られており、このVLPは内部に遺伝子を持たないため感染性はないが、抗原性を有するためノロウイルスに対するワクチン抗原として期待されている(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
VLPをワクチン抗原としたノロウイルスワクチンの実用化するにあたり研究開発が進んでいるが、その課題の1つとして、VLP抗原の筋肉内注射では、全身性のウイルス特異的なIgG抗体を誘導することが可能だが、ノロウイルスの感染部位である腸管粘膜において粘膜免疫を誘導できないことが報告されている。また、ウイルス感染を防御するIgA抗体は、既承認のワクチンで使用されるTh1誘導型アジュバントであるMPL(monophosphoryl lipid)やTh2誘導型アジュバントであるアルミニウム塩を加えた場合においても、誘導されないことが報告されている(非特許文献1)。
【0006】
さらに、18~50歳の健常成人によるランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、アジュバント(MPL及びAlum)を加えた2価VLPワクチンの2回の筋肉内注射において、対照に比べて症状が軽症であったものの、ワクチン接種者で54%のノロウイルス感染が確認されたことが報告されている(非特許文献2)。
したがって、VLPをワクチン抗原とするノロウイルスワクチンは未だ開発段階であり、より有効性の高いワクチンの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-234188号公報
【特許文献2】特表2014-520852号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Suvi Heinimaki , Maria Malm , Timo Vesikari, and Vesna Blazevic. Parenterally Administered Norovirus GII.4 Virus-Like Particle Vaccine Formulated with Aluminum Hydroxide or Monophosphoryl Lipid A Adjuvants Induces Systemic but Not Mucosal Immune Responses in Mice. J Immunol Res. 2018 Feb 28;2018:3487095.
【非特許文献2】Bernstein DI, Atmar RL, Lyon GM, Toreador JJ, Chen WH, Jiang X, Vinje J, Gregarious N, Franck RW Jr, Moe CL, Al-Ibrahim MS, Barrett J, Ferreira J, Estes MK, Graham DY, Goodwin R, Borkowskia, Clemens R, Mendel man PM. Norovirus Vaccine Against Experimental Human GII.4 Virus Illness: A Challenge Study in Healthy Adults. J Infect Dis. 2015 Mar 15;211(6):870-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、腸管粘膜にウイルス特異的なIgG抗体やIgA抗体を誘導する、VLPをワクチン抗原とするノロウイルスワクチンを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ノロウイルスワクチンの候補となるVLP抗原に特定のアジュバントを加えると、血中及び腸管粘膜のウイルス特異的なIgG及びIgA抗体誘導能が高くなること、また、当該アジュバントの添加により血中に誘導される抗体のレセプター結合阻害活性(PGM結合阻害活性)が高まることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明は以下の1)~5)に係るものである。
1)腸管粘膜にウイルス特異的抗体を誘導するノロウイルスワクチン組成物であって、ノロウイルスウイルス様粒子及びスクワレン含有エマルジョンを含む組成物。
2)ノロウイルスウイルス様粒子がGenogroupI又はGenogroupIIのいずれか又は両方のノロウイルスから作製されたものである、1)の組成物。
3)さらに、細胞膜透過ペプチド核酸を含有する、1)又は2)の組成物。
4)ノロウイルスウイルス様粒子をVP1タンパク質含量として1株あたり15μg以上含有する、1)~3)のいずれかの組成物。
5)非経口投与によって投与される、1)~4)のいずれかの組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウイルス感染の門戸である腸管粘膜におけるウイルス特異的な抗体誘導が高く、感染防御に優れたVLPをワクチン抗原とするノロウイルスワクチンを提供でき、医薬品業界に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】血清のGI.4-Chiba株に対するIgG力価
【
図2A】腸洗浄液のGI.4-Chiba株に対するIgG力価
【
図2B】腸洗浄液のGI.4-Chiba株に対するIgA力価
【
図3A】ワクチンの1回投与3週間後の血清のGI.4-Chiba株に対するIgG力価
【
図3B】ワクチンの1回投与3週間後の血清のGII.4-Aomori株に対するIgG力価
【
図4A】ワクチンの2回投与3週間後の血清のGI.4-Chiba株に対するIgG力価
【
図4B】ワクチンの2回投与3週間後の血清のGII.4-Aomori株に対するIgG力価
【
図5A】ワクチンの2回投与3週間後の腸洗浄液のGI.4-Chiba株に対するIgG力価
【
図5B】ワクチンの2回投与3週間後の腸洗浄液のGII.4-Aomori株に対するIgG力価
【
図6A】ワクチンの2回投与3週間後の腸洗浄液のGI.4-Chiba株に対するIgA力価
【
図6B】ワクチンの2回投与3週間後の腸洗浄液のGII.4-Aomori株に対するIgA力価
【
図7A】ワクチンの2回投与3週間後の血清のGI.4-Chiba株に対するPGM結合阻害活性
【
図7B】ワクチンの2回投与3週間後の血清のGII.4-Aomori株に対するPGM結合阻害活性
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明において、「ノロウイルスワクチン」とは、ヒトノロウイルスのワクチンであり、ノロウイルスウイルス様粒子(VLP)をワクチン抗原とする。
VLPは、ウイルスのカプシドを細胞中で発現させた組換えタンパク質であり、ノロウイルスに形態的に類似し、内部に遺伝子を持たないウイルス様中空粒子である。
VLPの作製に用いられるノロウイルスとしては、現在知られているすべてのGenogroupI(GI)及びGenogroupII(GII)の遺伝子型及び将来単離、同定される遺伝子型を包含し、適宜選択して使用することができる。すなわち、本発明のノロウイルスワクチンは、GI又はGIIの一方のみの遺伝子型を含む単価ワクチンでもよく、複数の遺伝子型を含む多価ワクチンであっても良い。好ましくはGI及びGIIの複数の遺伝子型を含む多価ワクチンであり、より好ましくはGIから1種類以上の遺伝子型及びGIIから1種類以上の遺伝子型を含む多価ワクチンである。
【0016】
VLPを形成する組換えタンパク質は、ノロウイルスの構造タンパク質であるVP1又は、VP1及びVP2を指し、このVLPはバキュロウイルス発現システム、哺乳類細胞発現システム又は植物発現システムを用いて生産される。
【0017】
「バキュロウイルス発現システム」で使用する昆虫細胞はチョウ目昆虫から樹立した細胞株であれば特に限定されず、例えば、カイコ細胞(BmN細胞、BmN4細胞、BoMo細胞等)、サクサン細胞(Anpe細胞)、スポドプテラ・フルギペルーダ細胞(Sf9細胞及びSf21細胞等)、クワゴマダラヒトリ細胞(SpIm細胞)、イラクサキンウワバ細胞(Tn-5細胞、HIGH FIVE細胞、MG1細胞等)等が挙げられる。また、これらの細胞に改変を加え派生した改良型の昆虫細胞株も包含される。
上記昆虫細胞を使用して調製されるノロウイルスワクチン抗原は、例えば、組換えバキュロウイルス感染後、26~28℃で5~10日間程度の培養が行われ、培養終了後、感染細胞の培養上清が回収され、清澄化のため遠心分離及び濾過が行われる。次いで、濃縮のための限外濾過、並びに精製は密度勾配遠心分離やクロマトグラフィー等の手段を用いて行うことができる。
【0018】
後述する参考例1に示すとおり、VLPワクチン抗原としてVP1タンパク質を1株あたり15μg~150μgで皮下投与した場合、1回投与においては15μgから150μgまで用量依存的にIgG抗体誘導が向上したが、2回投与においては、いずれの用量でも同程度のIgG抗体誘導を示した(
図1)。したがって、投与回数が2回では、VP1タンパク質1株あたり15μg以上はIgG抗体誘導に大きな差はなく、いずれも高いIgG抗体誘導能を有している。
【0019】
本発明のノロウイルスワクチン組成物は、ワクチン抗原である上記のVLPとスクワレン含有エマルジョンを含有する。スクワレン含有エマルジョンは、Th1及びTh2のいずれも活性化するアジュバントとして知られている。
スクワレン含有エマルジョンは、スクワレンを投与当りに3~15mg、好ましくは5~10mg含有する水中油型乳濁液であり、スクワレンの他に界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等)、トコフェロール等の抗酸化剤、免疫賦活剤等を含有することもできる。スクワレン含有エマルジョンは1ミクロン未満の粒子になるように処方されたナノ乳剤であり得る。
市販品としては、例えばAddavax(商標)(InvivoGen社;以下、「Addavax」と称する)、Ribi(Sigma社)、MF59(商標)等が挙げられる。
【0020】
本発明のノロウイルスワクチン組成物は、VLPとスクワレン含有エマルジョンに加えて、細胞膜透過ペプチド核酸(CPP-PNA)を用いるのが、腸管粘膜上のIgG抗体価及びIgA抗体価の向上の点から好ましい。ここで、細胞膜透過ペプチド核酸とは、細胞膜透過性ペプチド(Cell Penetrating Peptide:CPP)のN若しくはC末端にペプチド核酸(Peptide-nucleic acid:PNA)が結合した分子を意味する。CPP-PNAとしては、例えば、HIVのTAT由来の13アミノ酸からなるペプチド(配列番号1)がそのC末端で、C10PNAと共有結合した下記式(1)で示される物質等が挙げられる。
CPP-PNAは、CPPのN若しくはC末端に、化学的手法、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを両末端に有する架橋剤を介してCPPとPNAのN末端間を共有結合させることにより製造することができる。なお、PNAは、例えばFmoc型PNAモノマーユニット等を用い、当技術分野で公知の固相ペプチド合成法を利用して合成することができる。
【0021】
【0022】
本発明のノロウイルスワクチン組成物は、さらに医薬として許容され得る担体を含んでいてもよい。当該担体としては、ワクチンの製造に通常用いられる担体が挙げられ、具体的には、緩衝剤、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、不活化剤(例えば、ホルマリン)、スクワレン含有エマルジョンを除くアジュバント、免疫刺激剤等が例示される。
【0023】
本発明のノロウイルスワクチン組成物に含まれる抗原の量は、特異的抗体応答を誘導するのに十分な量、例えば15μgVP1/株以上、好ましくは50μgVP1/株以上であれば特に限定されるものではなく、併用するスクワレン含有エマルジョンとの比率も勘案して適宜設定することができる。すなわち、本発明のノロウイルスワクチン中に含まれる抗原量は、例えば、1回の投与用量が15~150μgVP1(VP1換算)、好ましくは50~100μgVP1(VP1換算)となるように調製することが挙げられる。
また、本発明のノロウイルスワクチン組成物の投与回数は、1回又は2回以上の投与が挙げられ、好ましくは複数回の投与である。この場合、1~4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。
【0024】
本発明のノロウイルスワクチン組成物の1回の投与容量としては、投与部位や投与デバイスによって決定されるが、通常、0.05~1.0mL程度であり、好ましくは0.2~0.5mLである。
【0025】
本発明のノロウイルスワクチン組成物は非経口投与によって投与され、好ましくは注射投与である。注射投与としては、例えば皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、静脈内投与が挙げられる。
【0026】
本発明のノロウイルスワクチン組成物の投与対象は、ヒト及びヒトを除く哺乳動物が挙げられるが、ヒトが好ましい。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、ブタ、オランウータン、チンパンジー等が挙げられる。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0028】
参考例1 ノロウイルスワクチンによるウイルス特異的IgG及びIgAの誘導
GI.4(Chiba株)のVLPを抗原とし、0.3mL当りにVP1タンパク質が15μg、50μg、100μg、又は150μgとなるように15w/w%しょ糖含有リン酸緩衝生理食塩液(pH7.2)で調製し、これをノロウイルスワクチンとした。
【0029】
本参考例で使用したVLPの調製は以下に示す通りである。
High Five細胞にウイルスシードをMOI=1で感染させ、回収の前日にベンゾナーゼを添加し、27℃で合計6日間撹拌培養した。培養終了後、回収した感染細胞の培養上清は遠心分離及びフィルター濾過にて清澄化させ、限外濾過により濃縮及び2w/w%しょ糖含有リン酸緩衝生理食塩液(pH7.2)へ置換した。バキュロウイルスの感染性を不活化するため、終濃度0.05%となるように不活化剤であるベータプロピオラクトンを添加して、4℃、12時間で反応させ、さらにウイルス除去フィルター(0.1μm)でバキュロウイルス粒子を除去した。このウイルス除去後に、セシウム密度勾配遠心でVP1を含む画分を回収し、再度、限外濾過により濃縮及び15w/w%しょ糖含有リン酸緩衝生理食塩液(pH7.2)へ置換した。この精製VLPを26,000×gで30分間の超遠心後、さらに、上清をウイルス除去フィルター(0.1μm)で濾過して、これをワクチン抗原とした。
【0030】
上記の通りに投与液(表1)を、BALB/cマウスの皮下へ1匹当り0.3mLを1回若しくは3週間隔で2回皮下投与した。1回目投与から21及び42日後に全採血(各時点当り8匹より採血)及び腸洗浄液の回収を行った。採取した血液は、遠心分離により血清を調製した。また、腸洗浄液は小腸部位を約10cm摘出し、摘出した小腸の管腔内にピペットマンを挿し込み、0.175%BSA及びプロテアーゼインヒビター(Thermo Fisher Scientific社)を含有するD-PBSを1mL流し込み、回収した溶液を腸洗浄液とした。血清は、GI.4(Chiba株)に結合するIgG力価測定、腸洗浄液はGI.4(Chiba株)に結合するIgG及びIgA力価測定に供した。
【0031】
【0032】
血清のウイルス特異的なIgG力価は
図1に示す通りであり、1回投与群の比較では15μgから150μgにおいてIgG抗体価が用量依存的に向上することが確認された。一方で、2回投与においては15μgから150μgでIgG力価は同程度であった。また、ノロウイルスの感染局所である腸管粘膜におけるウイルス特異的なIgG力価は
図2A、IgA力価は
図2Bに示す通りである。腸洗浄液のIgG抗体価は血清と同様に、1回投与群の比較では15μgから150μgにおいてIgG抗体価が用量依存的に向上することが確認された。しかし、IgA抗体価はいずれの用量及び投与回数においても明確な抗体誘導は確認されなかった。
この結果より、VP1タンパク質1株あたり15μg以上においては、複数回の投与を行うことでIgG抗体誘導に大きな差はなく、いずれも高いIgG抗体誘導能を示したが、ノロウイルス抗原(VLP)のみでは腸管粘膜に特異的なIgA抗体を誘導することが難しいと考えられた。
【0033】
実施例1 アジュバント評価試験
GI.4(Chiba株)及びGII.4(Aomori株)のVLPを、それぞれ0.4mL当りにVP1タンパク質が50μgVP1となるようアジュバントを混合した。ここで用いたアジュバントは、ノロウイルスワクチンのアジュバントとして実績のあるAlum、スクワレン含有エマルジョンであるAddavax、TLR9アゴニストであるODN1826、HIVのTAT由来の13アミノ酸からなるペプチドにC10PNAを共有結合した前記式(1)のCPP-PNAである。また、対照としてアジュバントを添加しない抗原のみの投与液も併せて調製した。
【0034】
上記の通りに調製した投与液(表2)を、BALB/cマウスに1匹当り0.4mLを1回若しくは3週間隔で2回皮下投与した。1回目投与から21日後に頸静脈より120μLの血液を採取し、1回目投与から42日後(2回目投与から21日後)に全採血(各時点当り8匹より採血)及び腸洗浄液を回収した。採取した血液は、遠心分離により血清を調製し、血清のGI.4(Chiba株)又はGII.4(Aomori株)に結合するIgG力価及びPGM結合阻害活性を測定した。また、腸洗浄液については、GI.4(Chiba株)又はGII.4(Aomori株)に結合するIgG力価及びIgA力価を測定した。
【0035】
【0036】
1回投与後の血清のIgG力価は
図3A及び
図3Bに示す通りである。GI.4(Chiba株)及びGII.4(Aomori株)のいずれも、アジュバント非投与群に比べて全てのアジュバント投与群において抗体誘導が有意に向上することを確認した。また、ノロウイルスワクチンのアジュバントとして実績のあるAlumや比べて、GI.4(Chiba株)においては、Addavax投与群にて抗体誘導が有意に向上することを確認し、GII.4(Aomori株)においてはAddavax投与群及びAddavaxとCPP-PNAの共投与群において抗体誘導が有意に向上することを確認した。しかし、TLR9のリガンドであるODN1826とCPP-PNAの共投与群は、Alumと同程度の抗体誘導であった。
【0037】
2回投与の血清のIgG力価は
図4A及び
図4Bに示す通りである。2回投与においても1回投与と同様に、GI.4(Chiba株)及びGII.4(Aomori株)のいずれも、アジュバント非投与群に比べて全てのアジュバント投与群において抗体誘導が有意に向上することを確認した。また、Alum投与群との比較においても、GI.4(Chiba株)ではAddavax投与群、GII.4(Aomori株)ではAddavax投与群及びAddavaxとCPP-PNAの共投与群にて抗体誘導が有意に向上することを確認した。しかし、ODN1826とCPP-PNAの共投与群は、Alumと同程度の抗体誘導であった。
【0038】
2回投与後の腸洗浄液のIgG力価は
図5A及び
図5Bに示す通りである。血清と同様に、GI.4(Chiba株)及びGII.4(Aomori株)のいずれも、アジュバント非投与群に比べて全てのアジュバント投与群において抗体誘導が有意に向上することを確認した。また、Alumに比べて、GI.4(Chiba株)においてはAddavax投与群、又はAddavax及びCPP-PNA投与群、GII.4(Aomori株)においてはAddavax投与群にて抗体誘導が有意に向上することを確認した。しかし、ODN1826とCPP-PNAの共投与群は、Alumと同程度の抗体誘導であった。
【0039】
2回投与の腸洗浄液のIgA力価は
図6A及び
図6Bに示す通りである。GI.4(Chiba株)及びGII.4(Aomori株)のいずれも、アジュバント非投与群は腸管へIgA抗体を誘導しない、若しくは誘導が非常に低いことが確認された。しかし、アジュバント非投与群に比べて、全てのアジュバント投与群においてIgA抗体の誘導が有意に向上することを確認し、その中でも、Addavax投与群及びAddavaxとCPP-PNAの共投与群では抗体誘導が有意に向上することがわかった。ODN1826とCPP-PNAの共投与群については、アジュバント非投与群やAlumに比べて高い抗体価を示したが、Addavax及びAddavaxとCPP-PNAの共投与群の抗体価には劣る結果となった。
【0040】
2回投与の血清のPGM結合阻害活性は
図7A及び
図7Bに示す通りである。GI.4(Chiba株)及びGII.4(Aomori株)のいずれも、アジュバント非投与群に比べて全てのアジュバント投与群においてPGM結合阻害活性が有意に向上することを確認した。また、Alumとの比較においても、GII.4(Aomori株)ではAddavax投与群及びAddavaxとCPP-PNAの共投与群にて有意に抗体誘導が向上することが確認された。しかし、ODN1826とCPP-PNAの共投与群は、Alumと同程度の抗体誘導であった。
上記の結果より、抗原にスクワレン含有エマルジョンであるAddavax又はAddavaxと細胞膜透過ペプチド核酸(CPP-PNA)の混合アジュバントを添加したノロウイルスワクチンは、血清のIgG抗体価やPGM結合阻害活性が向上するだけでなく、ノロウイルスの感染局所である腸管粘膜上のIgG抗体価及びIgA抗体価も向上させることを確認した。したがって、本発明のノロウイルスワクチンは腸管におけるノロウイルスの感染防御に優れたワクチンとなる可能性が示唆された。