(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128587
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
B23K 37/04 20060101AFI20230907BHJP
B60G 9/04 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B23K37/04 Y
B60G9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033023
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】西郷 翔
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA85
3D301CA28
(57)【要約】
【課題】位置精度が高く、かつ、溶接ガンを容易に近づけることができる保持装置を提供する。
【解決手段】保持装置10は、一対のトレーリングアーム21がトーションビーム22の両端部に取り付けられたトーションビーム式サスペンション20を保持するものである。保持装置10は、トーションビーム22を一方向から挟持する第1の挟持手段11と、トーションビーム22を第1の挟持手段11とは異なる方向から挟持する第2の挟持手段12と、第1の挟持手段11を支持し、かつ、伸縮することにより第1の挟持手段11の位置を調整可能な第1の伸縮駆動手段13と、第2の挟持手段12を支持し、かつ、伸縮することにより第2の挟持手段12の位置を調整可能な第2の伸縮駆動手段14とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のトレーリングアームがトーションビームの両端部に取り付けられたトーションビーム式サスペンションを保持する保持装置であって、
前記トーションビームを一方向から挟持する第1の挟持手段と、
前記トーションビームを前記第1の挟持手段とは異なる方向から挟持する第2の挟持手段と、
前記第1の挟持手段を支持し、かつ、伸縮することにより前記第1の挟持手段の位置を調整可能な第1の伸縮駆動手段と、
前記第2の挟持手段を支持し、かつ、伸縮することにより前記第2の挟持手段の位置を調整可能な第2の伸縮駆動手段と
を備えたことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
前記トーションビームは一対の側壁部を有し、
前記第1の挟持手段は、前記トーションビームの一方の側壁部の上端部と下端部とを挟持し、
前記第2の挟持手段は、前記トーションビームの他方の側壁部の上端部と下端部とを挟持する
ことを特徴とする請求項1記載の保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のトレーリングアームをトーションビームで連結したトーションビーム式サスペンションを保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トーションビーム式サスペンションは、車体と車輪とを連結するための部材であり、一対のトレーリングアームをトーションビームで連結した構造を有している。トーションビーム式サスペンションは、トレーリングアームの前側が車体に取り付けられ、トレーリングアームの後側が車輪に取り付けられる。トーションビーム式サスペンションの溶接時には、熱歪みにより個体間にばらつきがあるので、トレーリングアームの前側、及び、後側をクランプ等により位置決めする必要がある。例えば、特許文献1には、一対の基準ピンをトレーリングアームのチューブ部に挿入することによりトーションビーム式サスペンションを握持して位置決めする位置決め装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の位置決め装置では、トレーリングアームの溶接部とクランプの位置が近いので、溶接ガンのアクセス性が悪く、サイクルタイムが長くなり、生産性を向上させることが難しいという問題があった。一方、溶接部と離れた位置を固定すると、歪みにより位置ずれしやすく、トレーリングアームの前側、及び、後側の位置精度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、位置精度が高く、かつ、溶接ガンを容易に近づけることができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の保持装置は、一対のトレーリングアームがトーションビームの両端部に取り付けられたトーションビーム式サスペンションを保持するものであって、トーションビームを一方向から挟持する第1の挟持手段と、トーションビームを第1の挟持手段とは異なる方向から挟持する第2の挟持手段と、第1の挟持手段を支持し、かつ、伸縮することにより第1の挟持手段の位置を調整可能な第1の伸縮駆動手段と、第2の挟持手段を支持し、かつ、伸縮することにより第2の挟持手段の位置を調整可能な第2の伸縮駆動手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1の伸縮駆動手段により位置を調整可能に支持された第1の挟持手段と、第2の伸縮駆動手段により位置を調整可能に支持された第2の挟持手段とにより、トーションビームを挟持するようにしたので、歪みによるばらつきに合わせて保持することができ、高い位置精度を得ることができる。また、溶接部から離れた位置を挟持するので、容易に溶接ガンを近づけることができ、サイクルタイムを短縮し、生産性を向上させることができる。更に、装置を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る保持装置の構成を表す図である。
【
図2】
図1に示した保持装置で保持するトーションビーム式サスペンションの一構成例を表す図である。
【
図3】
図1に示した保持装置を拡大して表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態に係る保持装置10の構成を表すものである。
図2は、保持装置10で保持するトーションビーム式サスペンション20の一構成例を表すものであり、(A)は全体構成を表し、(B)は(A)に示したI-I線に沿った端面構成を拡大して表している。
図3は、保持装置10を拡大して表すものである。なお、
図1では、分かりやすくするために、保持装置10の部分には濃いグレーの色を付し、トーションビーム式サスペンション20の部分には薄いグレーの色を付して表している。また、
図3において、トーションビーム22の断面形状は簡略化して表している。
【0011】
トーションビーム式サスペンション20は、車体(図示せず)と車輪(図示せず)とを連結するための部材であり、左右の車輪をそれぞれ回転可能に支持する一対のトレーリングアーム21と、一対のトレーリングアーム21が両端部に取り付けられたトーションビーム22とを備えている。一対のトレーリングアーム21は、アーム部23と、チューブ部24と、車輪取付部25とをそれぞれ有している。アーム部23は長手形状を有しており、アーム部23の一端部にはチューブ部24が取り付けられている。チューブ部24は、車体にブッシュを介して揺動自在に取り付けられるものである。アーム部23の他端部は、車輪取付部25を構成している。車輪取付部25には、後輪を回転自在に支持するためのブラケット26が取り付けられている。また、アーム部23の他端側には、スプリングやショックアブソーバーを設置可能なブラケット27が取り付けられている。
【0012】
トーションビーム22は、左右の車輪が相互に異なる高さに位置したときにねじれ、左右の車輪の各々にねじれによる反力を与えるものである。トーションビーム22は、長手形状を有しており、両端部に、各トレーリングアーム21のアーム部23が例えば溶接により取り付けられている。トーションビーム22は、例えば、筒状体を内側に潰し、長手方向と垂直な断面を略V字形状、略逆V字形状、略U字形状、又は、略逆U字形状とした構造を有している。すなわち、トーションビーム22は、例えば、長手方向に一対の側壁部28,29を有している。なお、トーションビーム22の長手方向と垂直な断面は、V字の閉鎖側が湾曲又は平坦化された略V字形状であってもよく、U字の閉鎖側が平坦化された略U字形状であってもよい。
【0013】
保持装置10は、トーションビーム式サスペンション20を保持するものであり、例えば、産業用ロボット等に取り付けて用いられる。具体的には、トーションビーム式サスペンション20を溶接する際に好ましく用いることができる。
【0014】
保持装置10は、トーションビーム22を一方向から挟持する第1の挟持手段11と、トーションビーム22を第1の挟持手段11とは異なる方向から挟持する第2の挟持手段12とを備えている。保持装置10は、トーションビーム22に対する第1の挟持手段11の配置と第2の挟持手段12の配置とを変えることにより、第1の挟持手段11と第2の挟持手段12とで異なる方向からトーションビーム22を挟持するように構成されている。具体的には、例えば、第1の挟持手段11は、トーションビーム22の一方の側壁部28の上端部と下端部とを挟持し、第2の挟持手段12は、トーションビーム22の他方の側壁部29の上端部と下端部とを挟持するように構成されている。トーションビーム22安定して保持するためである。
【0015】
第1の挟持手段11は、例えば、トーションビーム22を挟持する一対の挟持部11Aと、この一対の挟持部11Aを接近又は離隔するように相対的に移動させるシリンダ部11Bとを有している。第2の挟持手段12も第1の挟持手段11と同様に、例えば、トーションビーム22を挟持する一対の挟持部12Aと、この一対の挟持部12Aを接近又は離隔するように相対的に移動させるシリンダ部12Bとを有している。一対の挟持部11Aは、少なくとも一方が移動可能とされていればよいが、両方とも移動可能とされていることが好ましい。自由度を高めることができるからである。一対の挟持部12Aについても同様である。また、シリンダ部11B,12Bの動力は、限定されるものではなく、油圧、水圧、又は、空気圧等のいずれでもよい。
【0016】
また、保持装置10は、第1の挟持手段11を支持し、かつ、伸縮することにより第1の挟持手段11の位置を調整可能な第1の伸縮駆動手段13と、第2の挟持手段12を支持し、かつ、伸縮することにより第2の挟持手段12の位置を調整可能な第2の伸縮駆動手段14とを備えている。トーションビーム22に歪みに応じて、トーションビーム22に対する第1の挟持手段11又は第2の挟持手段12の位置を調整することができるようにするためである。これにより、保持装置10は、トーションビーム式サスペンション20が歪みにより個体間でトーションビーム22の位置が異なっていても、容易に保持することができるようになっている。
【0017】
第1の伸縮駆動手段13及び第2の伸縮駆動手段14は、例えば、ブレーキ付シリンダにより構成することが好ましい。ブレーキ付シリンダは、ピストンロッド13A,14Aにブレーキをかけて移動を停止させることができるものである。第1の伸縮駆動手段13は、例えば、ピストンロッド13Aの移動方向を第1の挟持手段11の挟持部11Aの接近・離隔方向と並行にし、ピストンロッド13Aを第1の挟持手段11(具体的には、シリンダ部11B)に配設することが好ましい。第2の伸縮駆動手段14は、例えば、ピストンロッド14Aの移動方向を第2の挟持手段12の挟持部12Aの接近・離隔方向と並行にし、ピストンロッド14Aを第2の挟持手段12(具体的には、シリンダ部12B)に配設することが好ましい。
【0018】
第1の伸縮駆動手段13のシリンダチューブ13B、及び、第2の伸縮駆動手段14のシリンダチューブ14Bには、例えば、産業用ロボット等に取り付けるための取付部材15に対して配設されている。第1の伸縮駆動手段13のシリンダチューブ13B、及び、第2の伸縮駆動手段14のシリンダチューブ14Bは、例えば、同一の取付部材15に対して配設され、一体的に移動されるように構成されている。
【0019】
この保持装置10は、例えば、次のようにして用いられる。まず、トーションビーム式サスペンション20を位置出し治具30に配置し、例えば、トレーリングアーム21のチューブ部24及びブラケット26を所定の位置に固定する。次いで、例えば、
図3(A)に示したように、保持装置10の第1の挟持手段11及び第2の挟持手段12の挟持部11A,12Aを開き、第1の伸縮駆動手段13及び第2の伸縮駆動手段14のブレーキを開放状態(ピストンロッド13A,14Aが移動可能な状態)とし、産業用ロボット等により保持装置10をトーションビーム22の中央部に接近させる。その際、第1の挟持手段11と第2の挟持手段12との間にトーションビーム22が位置し、トーションビーム22の一方の側壁部28の外側に第1の挟持手段11、他方の側壁部29の外側に第2の挟持手段12が位置するように移動させる。
【0020】
続いて、例えば、
図3(B)に示したように、第1の挟持手段11の一対の挟持部11Aを近づけて、トーションビーム22の一方の側壁部28の上端部と下端部とを外側から挟持する。また、第2の挟持手段12の一対の挟持部12Aを近づけて、トーションビーム22の他方の側壁部29の上端部と下端部とを外側から挟持する。その際、トーションビーム式サスペンション20の歪みによる側壁部28,29の上端部位置及び下端部位置のばらつきに応じて、第1の伸縮駆動手段13のピストンロッド13A、又は、第2の伸縮駆動手段14のピストンロッド14Aが移動する。
【0021】
次に、第1の第1の伸縮駆動手段13及び第2の伸縮駆動手段14のブレーキをかけてピストンロッド13A,14Aの移動を停止させ、固定する。これにより、トレーリングアーム21のチューブ部24及びブラケット26の位置精度を維持した状態でトーションビーム22を保持する。
【0022】
その後、位置出し治具30の固定を解除し、例えば、産業用ロボットにより保持装置10を搬送し、トーションビーム式サスペンション20を溶接待機位置に移動させ、トレーリングアーム21の溶接部について溶接を行う。この保持装置10によれば、トレーリングアーム21のチューブ部24及びブラケット26の位置出しをした状態で、歪みに合わせてトーションビーム22を挟持するので、歪みにより個体間にばらつきがあっても、チューブ部24及びブラケット26を同じ位置に合わせることが可能となる。よって、溶接時にチューブ部24及びブラケット26をクランプ等で固定する必要がなくなる。
【0023】
このように本実施の形態によれば、第1の伸縮駆動手段13により位置を調整可能に支持された第1の挟持手段11と、第2の伸縮駆動手段14により位置を調整可能に支持された第2の挟持手段12とにより、トーションビーム22を挟持するようにしたので、歪みによるばらつきに合わせて保持することができ、高い位置精度を得ることができる。また、トレーリングアーム21の溶接部から離れた位置を挟持するので、容易に溶接ガンを近づけることができ、サイクルタイムを短縮し、生産性を向上させることができる。更に、装置を簡素化することができる。
【0024】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、他の構成要素を備えていてもよい。また、各構成要素の要件は、異なっていてもよい。
【0025】
更に、上記実施の形態では、トーションビーム22の長手方向と垂直な断面が略V字形状、又は、略U字形状であり、長手方向に一対の側壁部28,29を有している場合について説明したが、本発明の保持装置10は、トーションビーム22が他の形状を有する場合について同様に適用することができる。トーションビーム22の長手方向と垂直な断面の他の形状としては、例えば、丸形や角形の中空形状、I形、略V字を横にした形状、又は、略U字を横にした形状が挙げられる。
【符号の説明】
【0026】
10…保持装置、11…第1の挟持手段、11A…挟持部、11B…シリンダ部、12…第2の挟持手段、12A…挟持部、12B…シリンダ部、13…第1の伸縮駆動手段、13A…ピストンロッド、13B…シリンダチューブ、14…第2の伸縮駆動手段、14A…ピストンロッド、14B…シリンダチューブ、15…取付部材、20…トーションビーム式サスペンション、21…トレーリングアーム、22…トーションビーム、23…アーム部、24…チューブ部、25…車輪取付部、26,27…ブラケット、28,29…側壁部