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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128599
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】支保工構造体及びトンネル構築方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/18 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
E21D11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033036
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】秋月 健一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 将史
(72)【発明者】
【氏名】脇澤 昌也
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BB02
2D155FB04
2D155LA18
(57)【要約】
【課題】トンネル掘進の危険作業の低減と効率性の向上を図ることができ、十分な支保機能を発現して地山の緩みを防止することができる。
【解決手段】トンネルの支保工に用いられる支保工構造体1であり、長さ方向に間隔を開けてグラウト材Gの吐出孔311が形成された注入管材3が、弧状の支保工材2の外周面に沿い且つ支保工材2の長さ方向に延びるように配置されて固定され、支保工材2の下部24で、グラウト材Gの注入側を担う注入管材3の一方の端部が支保工材2の内周側に導入され、支保工材2の天端部25で、グラウト材Gの注入時の排気側を担う注入管材3の他方の端部が支保工材2の内周側に導入される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの支保工に用いられる支保工構造体であって、
長さ方向に間隔を開けてグラウト材の吐出孔が形成された注入管材が、弧状の支保工材の外周面に沿い且つ前記支保工材の長さ方向に延びるように配置されて固定され、
前記支保工材の下部で、前記グラウト材の注入側を担う前記注入管材の一方の端部が前記支保工材の内周側に導入され、
前記支保工材の天端部で、前記グラウト材の注入時の排気側を担う前記注入管材の他方の端部が前記支保工材の内周側に導入されていることを特徴とする支保工構造体。
【請求項2】
断面視H形の前記支保工材の外周フランジと内周フランジにそれぞれ形成された貫通穴を介して、前記注入管材の一方の端部と他方の端部が前記支保工材の内周側に導入されていることを特徴とする請求項1記載の支保工構造体。
【請求項3】
前記支保工材の幅方向の外側を介して、前記注入管材の一方の端部と他方の端部が前記支保工材の内周側に導入されていることを特徴とする請求項1記載の支保工構造体。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の支保工構造体を用いるトンネル構築方法であって、
掘削したトンネル空間に前記支保工構造体を建て込む第1工程と、
前記支保工構造体のトンネル掘進方向の前側に吹付コンクリートを吹き付ける第2工程と、
前記支保工構造体の前記注入管材の一方の端部から前記グラウト材を注入して前記注入管材の他方の端部からの前記グラウト材のリターンを確認し、前記支保工材と地山との間の空隙に前記グラウト材を充填する第3工程とを備えることを特徴とするトンネル構築方法。
【請求項5】
前記第1工程において、第1の前記支保工構造体を建て込むと共に、前記第1の支保工構造体のトンネル掘進方向の前方でトンネル空間の切羽直近に第2の前記支保工構造体を建て込み、
前記第2工程において、前記第1の支保工構造体と前記第2の支保工構造体との間に吹付コンクリートを吹き付け、
前記第3工程において、前記第1の支保工構造体の前記注入管材の一方の端部から前記グラウト材を注入して前記注入管材の他方の端部からの前記グラウト材のリターンを確認し、前記第1の支保工構造体の前記支保工材と地山との間の空隙に前記グラウト材を充填することを特徴とする請求項4記載のトンネル構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの土圧を支持して地山の緩みを防止する支保工構造体及びトンネル構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの掘進作業では、図5(a)に示すように、例えば地山201でアーチ状の切羽202を1m掘り進むごとに坑壁に一次吹付コンクリート203を施し、一次吹付コンクリート203の内周側にアーチ状の鋼製の支保工204を建て込み、一次吹付コンクリート203の内周側における支保工204・204相互間を埋めるように二次吹付コンクリート205を施し、二次吹付コンクリート205から地山201に向かってロックボルト206を打設する。更に、その後側では、二次吹付コンクリート205の内周側に防水シート207を敷設し、防水シート207の内周側にアーチ状の覆工コンクリート208を打設する一方、インバートを掘り下げてインバートコンクリート209を打設して、アーチ状の覆工コンクリート208とインバートコンクリート209とを周状になるように形成する。
【0003】
掘進作業で建て込まれる支保工204は、H型鋼材の支保工材を半円形となるように建て込まれるのが一般的であるため、二次吹付コンクリート205を吹き付ける際に支保工204の外周面側には吹き付けることができず、一次吹付コンクリート203或いは地山201と支保工204の外周面とに間に空隙210が残ってしまう。残った空隙210は地山201の緩みを許容する要因となる(図5(b)参照)。
【0004】
そこで空隙210を埋めて地山201の緩みを抑制する手段として特許文献1、2のようなプレロードシェル工法が用いられている。プレロードシェル工法では、図6に示すように、切羽近傍の地山201が崩れてこないように先受工211を併用しながら、外周面に沿って袋体212が固定された支保工材を用いて支保工204を建て込むことで一次吹付コンクリート203と支保工204の間に袋体212を設置し、袋体212に無収縮モルタル213を圧入して充填することで空隙210を埋め、地山荷重を支保工204に伝達して支保機能を発現できるようにしている。また、支保工204の脚部と地山201との間の空隙にも袋体212を設置し、無収縮モルタル213を圧入充填して空隙を埋めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-293195号公報
【特許文献2】特開2001-295598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、プレロードシェル工法で無収縮モルタルを圧入する際には、現場でプレミックス材料と水を混錬して無収縮モルタルを作製し、注入するという時間のかかる作業が必要となるが、この長い時間のかかる作業は、切羽直近の坑壁に二次吹付コンクリートが施されていない危険性の高い場所で行われ、危険な作業となる。また、プレロードシェル工法では、支保工の外周面側の袋体への無収縮モルタルの圧入、充填を完了するまで待った後に、この支保工のトンネル掘進方向の前側における二次吹付コンクリートの吹き付けを行う必要があり、二次吹付コンクリートの施工を連続して行うことができず、トンネル掘進作業の効率性に劣る。そのため、トンネル掘進の危険作業の低減と効率性の向上を図ることができ、必要な支保機能を発現できる技術が求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、トンネル掘進の危険作業の低減と効率性の向上を図ることができ、十分な支保機能を発現して地山の緩みを防止することができる支保工構造体及びこの支保工構造体を用いるトンネル構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の支保工構造体は、トンネルの支保工に用いられる支保工構造体であって、長さ方向に間隔を開けてグラウト材の吐出孔が形成された注入管材が、弧状の支保工材の外周面に沿い且つ前記支保工材の長さ方向に延びるように配置されて固定され、前記支保工材の下部で、前記グラウト材の注入側を担う前記注入管材の一方の端部が前記支保工材の内周側に導入され、前記支保工材の天端部で、前記グラウト材の注入時の排気側を担う前記注入管材の他方の端部が前記支保工材の内周側に導入されていることを特徴とする。
これによれば、弧状の支保工材の外周面に沿い支保工材の長さ方向に延びる注入管材に下側からグラウト材を注入し、吐出孔からグラウト材を吐出させることにより、トンネルの一次吹付コンクリート或いは地山と支保工の外周面とに間に形成される空隙の全体に亘ってグラウト材をより均一に充填して埋めることができる。従って、支保工材で構成される支保工と地山を一体化させ、支保工に十分な支保機能を発現させて地山の緩みを防止し、地山を安定化することができる。また、グラウト材の注入側を担う注入管材の一方の端部と排気側を担う注入管材の他方の端部とを支保工材の内周側に導入することにより、建て込んだ支保工構造体にグラウト材を注入する前に、この支保工構造体よりトンネル掘進方向の前側の領域に二次吹付コンクリートを施すことができ、二次吹付コンクリートが形成されて坑壁の安定性が高められた場所でグラウト材の準備と注入を行うことができる。従って、トンネル掘進の危険作業を低減することができる。更に、グラウト材注入前の支保工構造体よりトンネル掘進方向の前側の領域に二次吹付コンクリートを施すことができることから、支保工間を埋めるように二次吹付コンクリートの施工を連続して行うことができ、トンネル掘進作業の効率性を向上し、施工コストを低減することができる。
【0009】
本発明の支保工構造体は、断面視H形の前記支保工材の外周フランジと内周フランジにそれぞれ形成された貫通穴を介して、前記注入管材の一方の端部と他方の端部が前記支保工材の内周側に導入されていることを特徴とする。
これによれば、グラウト材の注入側を担う注入管材の一方の端部と排気側を担う注入管材の他方の端部とを支保工材の内周側により確実に導入し、導入した状態を安定化することができる。
【0010】
本発明の支保工構造体は、前記支保工材の幅方向の外側を介して、前記注入管材の一方の端部と他方の端部が前記支保工材の内周側に導入されていることを特徴とする。
これによれば、支保工材に特別な加工を施さずに、グラウト材の注入側を担う注入管材の一方の端部と排気側を担う注入管材の他方の端部とを支保工材の内周側に導入することができる。また、断面欠損がない支保工材で支保工を構築できることから、支保工に求められる強度を確実に得ることができる。
【0011】
本発明のトンネル構築方法は、本発明の支保工構造体を用いるトンネル構築方法であって、掘削したトンネル空間に前記支保工構造体を建て込む第1工程と、前記支保工構造体のトンネル掘進方向の前側に吹付コンクリートを吹き付ける第2工程と、前記支保工構造体の前記注入管材の一方の端部から前記グラウト材を注入して前記注入管材の他方の端部からの前記グラウト材のリターンを確認し、前記支保工材と地山との間の空隙に前記グラウト材を充填する第3工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、支保工材の天端部に配置されている注入管材の他方の端部からのグラウト材のリターンを確認してグラウト材を充填することにより、トンネルの一次吹付コンクリート或いは地山と支保工の外周面とに間に形成される空隙の全体に亘ってグラウト材をより均一且つ確実に充填して埋めることができる。
【0012】
本発明のトンネル構築方法は、前記第1工程において、第1の前記支保工構造体を建て込むと共に、前記第1の支保工構造体のトンネル掘進方向の前方でトンネル空間の切羽直近に第2の前記支保工構造体を建て込み、前記第2工程において、前記第1の支保工構造体と前記第2の支保工構造体との間に吹付コンクリートを吹き付け、前記第3工程において、前記第1の支保工構造体の前記注入管材の一方の端部から前記グラウト材を注入して前記注入管材の他方の端部からの前記グラウト材のリターンを確認し、前記第1の支保工構造体の前記支保工材と地山との間の空隙に前記グラウト材を充填することを特徴とする。
これによれば、切羽直近の第2の支保工構造体から離れた第1の支保工構造体に対してグラウト材を準備して注入することにより、地山が崩れやすい切羽からより離れた場所でグラウト材の準備と注入を行うことができる。従って、トンネル掘進の危険作業をより一層低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の支保工構造体或いはトンネル構築方法によれば、トンネル掘進の危険作業の低減と効率性の向上を図ることができ、十分な支保機能を発現して地山の緩みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は本発明による実施形態の支保工構造体の模式正面図、(b)は実施形態の支保工構造体の模式平面図。
図2】(a)は実施形態の支保工構造体で用いられる支保工材の断面図、(b)は同図(a)の支保工材を外周フランジ側から視た部分図。
図3】実施形態の支保工構造体におけるグラウト材注入部分の拡大図。
図4】(a)~(c)は実施形態の支保工構造体を用いるトンネル構築方法の工程模式説明図。
図5】(a)は従来のトンネル掘進作業で形成されるトンネル構造の断面説明図、(b)は従来のトンネル掘進作業で形成される支保工の外周面の空隙を説明する断面説明図。
図6】従来のプレロードシェル工法で形成される構造の概念説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態の支保工構造体及びトンネル構築方法〕
本発明による実施形態の支保工構造体1は、トンネルの支保工に用いられるものであり、図1図3に示すように、弧状の支保工材2と、弧状の支保工材2の外周面に沿い且つ支保工材2の長さ方向に延びるように配置されて支保工材2に固定される注入管材3とから構成される。
【0016】
支保工材2は、本例では断面視H形の鋼材であり、略1/4円の円弧状で形成されている。支保工材2には、ウェブ21の外周側に外周フランジ22が形成され、ウェブ21の内周側に内周フランジ23が形成されており、外周フランジ22と内周フランジ23の下部24の対応する位置と、外周フランジ22と内周フランジ23の天端部25の対応する位置には、それぞれ注入管材3を支保工材2の内周側に導入するための貫通穴26が形成されている。
【0017】
本例の支保工材2には、天端部25側の先端に継手板27が固定して設けられている。そして、一対の支保工材2・2の継手板27・27を当接させ、当接させた継手板27・27同士をボルト接合等で固定することにより、一対の支保工材2・2が地山100に形成されたトンネル空間Tにアーチ状に建て込まれ、支保工が構成される。
【0018】
注入管材3は、支保工材2の弧状の外周面に沿って湾曲可能なグラウト材Gの注入ホース31で構成され、注入ホース31には長さ方向に間隔を開けてグラウト材Gの吐出孔311が形成されている。注入ホース31は、弧状の支保工材2の外周面に沿い且つ支保工材2の長さ方向に延びるように配置され、ゴムバンド等の固定バンド4を支保工材2と注入ホース31の周囲に巻くようにして、固定バンド4で支保工材2に固定されている。尚、固定バンド4で注入ホース31を固定する場合、固定バンド4の外側からの加圧で注入ホース31が潰れないように注入ホース31を耐圧ホースとすると好適であり、例えば強化テトロンコードを網状に補強したテトロンブレードホース等の耐圧ホースとすると良い(「テトロン」は登録商標)。
【0019】
更に、本例の注入管材3には、注入管材3を支保工材2の内周側に導入するための導入部32が設けられ、導入部32は支保工材2の下部24と支保工材2の天端部25に対応する位置にそれぞれ設けられている。本例の導入部32は、図3に示すように、外周フランジ22と内周フランジ23の対応する位置の貫通穴26・26に挿入して配置される鋼製パイプ等の導入管321と、導入管321の外周側の端部と注入ホース31の下部24側の端部とを連通するように接続するエルボ継手322と、導入管321の内周側の端部に設けられるニップル323とから構成されている。
【0020】
即ち、支保工材2の下部24では、グラウト材Gの注入側を担う注入管材3の一方の端部に相当するエルボ継手322と導入管321とニップル323で構成される導入部32が、外周フランジ22と内周フランジ23の対応する貫通穴26を介して、支保工材2の内周側に導入されている。グラウト材Gの注入側を担う導入部32のニップル323には、グラウト材Gの加圧ホース51の先端に設けられたワンタッチカップリング等のカップリング52が接続され、加圧ホース51から導入管321、エルボ継手322、注入ホース31の下部24側へとグラウト材Gが注入される。
【0021】
また、支保工材2の天端部25では、グラウト材Gの注入時の排気側を担う注入管材3の他方の端部に相当するエルボ継手322と導入管321とニップル323で構成される導入部32が、外周フランジ22と内周フランジ23の対応する貫通穴26を介して、支保工材2の内周側に導入されている。グラウト材Gの注入時の排気側を担う導入部32のニップル323からは、グラウト材Gの注入時に排気がなされると共に、このニップル323は、グラウト材Gの注入、充填時に必要十分なグラウト材Gが充填されたことを示すグラウト材Gのリターン確認に用いられる。
【0022】
次に、本実施形態の支保工構造体1を用いるトンネル構築方法について説明する。先ず、図4(a)に示すように、地山100を掘削してトンネル空間Tを形成し、坑壁101の内周側に一次吹付コンクリート102を吹き付け、切羽103の直近まで支保工構造体1を建て込む。本例では、第1の支保工構造体1aを建て込むと共に、第1の支保工構造体1aのトンネル掘進方向の前方でトンネル空間Tの切羽103の直近に第2の支保工構造体1bを建て込む。
【0023】
更に、第1の支保工構造体1aのトンネル掘進方向の前側に二次吹付コンクリート104を吹き付けて、第1の支保工構造体1aと第2の支保工構造体1bとの間に二次吹付コンクリート104を吹き付け、第2の支保工構造体1bよりトンネル掘進方向の後側の領域で一次吹付コンクリート102或いは地山100の坑壁101を覆うように二次吹付コンクリート104を設ける(図4(b)参照)。この二次吹付コンクリート104を設けた状態では、第1の支保工構造体1aの支保工材2の外周面と一次吹付コンクリート102或いは坑壁101との間と、第2の支保工構造体1bの支保工材2の外周面と一次吹付コンクリート102或いは坑壁101との間の双方に、空隙105が形成されている。
【0024】
そして、切羽103から第2の支保工構造体1bより離れて位置し、前方に二次吹付コンクリート104が設けられている第1の支保工構造体1aについて、支保工材2の下部24に配置された注入管材3の一方の端部に相当する導入部32からグラウト材Gを注入し、支保工材2の天端部25に配置された注入管材3の他方の端部に相当する導入部32から排気しながら、注入ホース31にグラウト材Gを注入する。グラウト材Gには、高流動性で早期強度発現タイプの無収縮セメント系材料を用いると好適である。注入されたグラウト材Gは、注入ホース31の吐出孔311から吐出され、空隙105に充填されていく(図4(c)、図1参照)。
【0025】
グラウト材Gの注入を継続して、支保工材2の天端部25に配置された注入管材3の他方の端部に相当する導入部32からのグラウト材Gのリターンを確認できたら、第1の支保工構造体1aの支保工材2と一次吹付コンクリート102或いは地山100の坑壁101との間の空隙105へのグラウト材Gの充填を完了する(図4(c)、図1参照)。このグラウト材Gの注入、充填はアーチ状の支保工を構成する一対の支保工構造体1・1の双方について行う。
【0026】
本実施形態によれば、弧状の支保工材2の外周面に沿い支保工材2の長さ方向に延びる注入管材3に下側からグラウト材Gを注入し、吐出孔311からグラウト材Gを吐出させることにより、トンネルの一次吹付コンクリート102或いは地山100と支保工の外周面とに間に形成される空隙105の全体に亘ってグラウト材Gをより均一に充填して埋めることができる。従って、支保工材2で構成される支保工と地山100を一体化させ、支保工に十分な支保機能を発現させて地山100の緩みを防止し、地山100を安定化することができる。
【0027】
また、グラウト材Gの注入側を担う注入管材3の一方の端部と排気側を担う注入管材3の他方の端部とを支保工材2の内周側に導入することにより、例えば第1の支保工構造体1aなど建て込んだ支保工構造体1にグラウト材を注入する前に、この支保工構造体1よりトンネル掘進方向の前側の領域に二次吹付コンクリート104を施すことができ、二次吹付コンクリート104が形成されて坑壁101の安定性が高められた場所でグラウト材Gの準備と注入を行うことができる。従って、トンネル掘進の危険作業を低減することができる。
【0028】
また、例えば第1の支保工構造体1aなどグラウト材Gの注入前の支保工構造体1よりトンネル掘進方向の前側の領域に二次吹付コンクリート104を施すことができることから、支保工間を埋めるように二次吹付コンクリート104の施工を連続して行うことができ、トンネル掘進作業の効率性を向上し、施工コストを低減することができる。
【0029】
また、支保工材2の外周フランジ22と内周フランジ23にそれぞれ形成された貫通穴26を介して注入管材3の一方の端部と他方の端部を支保工材2の内周側に導入することにより、グラウト材Gの注入側を担う注入管材3の一方の端部と排気側を担う注入管材3の他方の端部とを支保工材2の内周側により確実に導入することができ、且つ導入した状態を安定化することができる。
【0030】
また、本実施形態の支保工構造体1を用いるトンネル構築方法によれば、支保工材2の天端部25に配置されている注入管材3の他方の端部からのグラウト材Gのリターンを確認してグラウト材Gを充填することにより、トンネルの一次吹付コンクリート102或いは地山100と支保工の外周面とに間に形成される空隙105の全体に亘って、グラウト材Gをより均一且つ確実に充填して埋めることができる。
【0031】
また、切羽103の直近の第2の支保工構造体1bから離れた第1の支保工構造体1aに対してグラウト材Gを準備して注入することにより、地山100が崩れやすい切羽103からより離れた場所でグラウト材Gの準備と注入を行うことができる。従って、トンネル掘進の危険作業をより一層低減することができる。
【0032】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0033】
例えば上記実施形態の例では、外周フランジ22と内周フランジ23の対応する貫通穴26と、注入ホース31の下部24側の端部と天端部25側の端部にそれぞれ設けられる導入部32によって、注入管材3の一方の端部と他方の端部を支保工材2の内周側に導入する構成としたが、グラウト材Gの注入側を担う注入管材3の一方の端部と排気側を担う注入管材2の他方の端部を支保工材2の内周側に導入する構成は本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、例えば注入管材3を注入ホース31だけで構成し、注入ホース31のグラウト材Gの注入側を担う一方の端部を支保工材2の幅方向の外側を介して支保工材2の内周側に導入し、注入ホース31の排気側を担う他方の端部を支保工材2の幅方向の外側を介して支保工材2の内周側に導入する変形例の支保工構造体1の構造としても好適である。
【0034】
この変形例の構造とすることにより、支保工材に貫通穴26のような特別な加工を施さずに、グラウト材Gの注入側を担う注入管材の一方の端部と排気側を担う注入管材の他方の端部とを支保工材の内周側に導入することができる。また、貫通穴26のような断面欠損がない支保工材で支保工を構築できることから、支保工に求められる強度を確実に得ることができる。
【0035】
また、本発明の支保工構造体における支保工材は、上記実施形態の支保工材2に限定されず、複数の部材で構成され或いは単一の部材で構成され、下部と天端部を有する弧状の支保工材であれば適宜である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、トンネルの支保工の背面と地山或いは一次吹付コンクリートとの間に形成される空隙をグラウト材で充填し、地山の緩みを防止する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1、1a、1b…支保工構造体 2…支保工材 21…ウェブ 22…外周フランジ 23…内周フランジ 24…下部 25…天端部 26…貫通穴 27…継手板 3…注入管材 31…注入ホース 311…吐出孔 32…導入部 321…導入管 322…エルボ継手 323…ニップル 4…固定バンド 51…加圧ホース 52…カップリング 100…地山 101…坑壁 102…一次吹付コンクリート 103…切羽 104…二次吹付コンクリート 105…空隙 T…トンネル空間 G…グラウト材 201…地山 202…切羽 203…一次吹付コンクリート 204…支保工 205…二次吹付コンクリート 206…ロックボルト 207…防水シート 208…覆工コンクリート 209…インバートコンクリート 210…空隙 211…先受工 212…袋体 213…無収縮モルタル
図1
図2
図3
図4
図5
図6