(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128604
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ベルトコンベアの異常検知装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230907BHJP
G01M 13/023 20190101ALI20230907BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20230907BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01M13/023
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033043
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 明博
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓真
【テーマコード(参考)】
2G024
5H501
【Fターム(参考)】
2G024AB08
2G024AD15
2G024BA27
2G024CA18
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
5H501AA06
5H501BB08
5H501GG07
5H501JJ03
5H501JJ26
5H501LL14
5H501LL22
5H501LL35
5H501LL51
5H501MM09
5H501PP02
(57)【要約】
【課題】
ベルトコンベアを駆動するモータ電流の周波数成分を特徴量として用いた場合に、複数の異常が同じ周波数成分に影響を与えても、異常の種類を分離する事のできるベルトコンベアの異常検知システムを提供できる事。
【解決手段】
モータによって駆動されるベルトコンベアの異常を検知するベルトコンベアの異常検知装置9であって、前記ベルトコンベアの機械仕様値を用いて、前記モータ電流における特定の周波数成分における振幅値を抽出する特定周波数成分抽出部11と、前記振幅成値の時間変化の波形形状に関する特徴量および前記モータ電流の周波数スペクトルの形状に関する特徴量を、分離特徴量として抽出する分離特徴量抽出部12と、前記分離特徴量に基づいて、種類ごとに、前記異常を分類する異常分類部16を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって駆動されるベルトコンベアの異常を検知するベルトコンベアの異常検知装置であって、
前記ベルトコンベアの機械仕様値を用いて、前記モータのモータ電流から特定の周波数成分における振幅値を抽出する特定周波数成分抽出部と、
前記振幅値の時間変化の波形形状に関する特徴量および前記モータ電流の周波数スペクトルの形状に関する特徴量を、分離特徴量として抽出する分離特徴量抽出部と、
前記分離特徴量に基づいて、種類ごとに、前記異常を分類する異常分類部を有するベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
前記モータ電流は、1相以上の相電流であることを特徴とするベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項3】
請求項1に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
前記モータ電流は、トルク電流であることを特徴とするベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
前記分離特徴量抽出部は、前記波形形状に関する特徴量は、波形の傾きと波形の周期性を表す値であることを特徴とするベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
前記分離特徴量抽出部は、前記周波数スペクトルの形状に関する特徴量として、前記特定の周波数成分のピークの鋭さを表す値を抽出するベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
特定周波数成分抽出部は、前記ベルトコンベアの機械仕様値として、前記モータの極数、ベルトを駆動するプーリ直径、前記ベルトの長さのうち少なくとも1つを用いるベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項7】
請求項6に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
前記分離特徴量抽出部は、前記特定の周波数成分における周波数として、前記ベルトコンベアのベルトを駆動する軸の周波数であるベルトコンベアの異常検知装置。
【請求項8】
請求項7に記載のベルトコンベアの異常検知装置において、
前記異常分類部は、前記異常として、前記ベルトを駆動するプーリの軸受異常、前記ベルトの蛇行、前記ベルトコンベアで搬送される搬送対象の片寄りおよび前記ベルトの摩耗の少なくとも1つを特定するベルトコンベアの異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータなどの駆動源によって無限循環移動を行うベルトコンベアに係わり、その異常を診断する技術に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
現在、駆動源により、構成する部位を無限循環移動させることで、人や物といった搬送対象を搬送するベルトコンベアが用いられている。また、近年、IoT(Internet of Things)の広まりやAI(Artificial Intelligence)の高度化と労働人口減少という状況が重なり、保守作業の効率化や省人化を目的として、ベルトコンベアを含む機械装置の異常診断をセンサ等で取得した情報から自動で行う技術が注目されている。その中で、工場の搬送を担う重要機械であるベルトコンベアにおいても、様々な診断方法が提案されている。例えば、ベルトコンベアで頻繁に発生する異常のであるベルト蛇行ついては、リミットスイッチを用いた監視技術が特許文献1で提案されている。また、ベルトの摩耗に関しては、熱流センサを用いた監視技術が特許文献2で提案されている。さらに、軸受の劣化に関しては、振動センサを用いた監視技術が特許文献3で提案されている。このように、ベルトコンベアを含む搬送装置においては、複数種類の異常が生じる可能性がある。
【0003】
一方、センサの設置が容易な電流センサを用いた、異常検知技術についても提案されている。例えば、特許文献4では、モータ電流に含まれる電源周波数の高調波成分を用いて、低次成分と高次成分の振幅強度のバランスによって、伝導軸系のアライメント不良や軸受け潤滑不良、異物噛み込みなどが原因となる異常を診断する手法を開示している。また、特許文献1では、回転機械の異常が電流の周波数成分に現れることが多い事を利用した例である。
【0004】
一方、特許文献5では周波数成分は用いずに、起動時等に区間限定してモータ電流の時系列データから特徴量を抽出し、部位ごとの診断を実施している。例えば、起動時の電流値からモータの巻線の異常を判断し、起動時から電流が安定するまでの時間を用いてカップリング異常や潤滑不足を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-6703号公報
【特許文献2】特開2017-191031号公報
【特許文献3】特開2020-153926号公報
【特許文献4】特開平11-83686号公報
【特許文献5】特開平11-326146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したベルトコンベアにおける複数種類の異常(伝導軸系のアライメント不良や軸受け潤滑不良、異物噛み込み)が同じ周波数成分に影響を与える。このため、特許文献4では、何かしらの異常が発生したと判断できても、どの異常が発生しているかまで分離することはできない。一般的に異常が発生した場合は、どこにどんな異常が発生したかでその後の保守作業が変わってくるため、異常の種類の分離を行えることは、保守作業の効率化の観点からも重要な課題である。また、特許文献5では異常の種類の分離はできるが、周波数成分を用いた診断には適用ができない。
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の課題を検討し、これらの課題を解決するためになされたものである。従って、本発明の目的とすることころは、ベルトコンベアを駆動するモータ電流の周波数成分を特徴量として用いた場合に、複数の異常が同じ周波数成分に影響を与えても、異常の種類を分離することにある。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明では、ベルトコンベアにおけるモータ電流に関する複数の特徴量を、異常を分離するための分離特徴量として用いる。すなわち、その特定周波数成分における振幅値の時間変化を示す波形形状の特徴量および周波数スペクトルの形状の特徴量を分離特徴量とする。
【0009】
より具体的な本発明の一態様は、モータによって駆動されるベルトコンベアの異常を検知するベルトコンベアの異常検知装置であって、前記ベルトコンベアの機械仕様値を用いて、前記モータのモータ電流から特定の周波数成分における振幅値を抽出する特定周波数成分抽出部と、前記振幅値の時間変化の波形形状に関する特徴量および前記モータ電流の周波数スペクトルの形状に関する特徴量を、分離特徴量として抽出する分離特徴量抽出部と、前記分離特徴量に基づいて、種類ごとに、前記異常を分類する異常分類部を有するベルトコンベアの異常検知装置である。なお、本発明には、異常検知装置を用いた異常検知方法や異常検知装置を含む異常検知システムも含まれる。さらに、異常検知装置をコンピュータとして機能させるためのプログラムやこれを格納した記憶媒体も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果としては、ベルトコンベアを含む搬送装置における異常を分類することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】相電流を周波数解析した波形の例を示した図である。
【
図5】異常の種類別の特定周波数成分の時間変化の概要を表した図である。
【
図7】ベルト共振時の周波数スペクトルの例を表した図である。
【
図10】実施例2で用いる信号処理部の処理フローを表した図である。
【
図11】特定周波数のもうひとつの計算フローを表した図である。
【
図13】実施例3で用いる信号処理部の処理フローを表した図である。
【
図14】実施例3で用いるもう一つの信号処理部の処理フローを表した図である。
【
図16】本発明の一実施形態において、複数のベルトコンベアの異常を分類するための異常検知システムのシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願において開示される発明の代表的な実施の形態について詳細に説明する。参照する図面の参照符号は、それが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。本実施形態では、無限循環移動を行い、人や物といった対象物を搬送可能なベルトコンベアの異常の分類を実現する。このためには、本実施形態では、モータ電流に関する複数の特徴量を、異常を分離するための複数の分離特徴量を特定する。また、本実施形態では、これら複数の分離特徴量を用いて、搬送装置における異常を分離(分類)ないし検知してもよい。
【0013】
なお、本実施形態のベルトコンベアには、エスカレータ、ロープウエイ等の各種搬送装置が含まれ、その表記は問わない。また、その適用先は、空港、特に手荷物受取場所(ターンテーブル)、食品等の向上、鉱山なども含まれる。さらに、本実施形態の異常には、故障、その予兆、劣化などの各種不具合が含まれる。以上には、例えば、ベルト、軸受等の稼働部の劣化、蛇行搬送対象の片寄り)以下、本実施形態のより具体的な態様である各実施例について説明する。
【実施例0014】
まず、実施例1においては、1相のモータ電流とベルトコンベアの機械仕様値を入力として、異常を分離して診断する。
図1に、本実施例のシステム構成図を示す。本システム構成図で示される異常検知システムは、ベルトコンベア1に関わる異常を、1相のモータ相電流とベルトコンベア1の仕様値を用いて、異常検知装置9により診断する構成となっている。以降、ベルトコンベア1および異常検知装置9の詳細を述べていく。なお、機械仕様値とは、ベルトコンベアの設計情報などベルトコンベアの稼働に関する情報である。例えば、機械仕様値として、ベルトコンベア1におけるモータの極数、前記ベルトを駆動するプーリ直径、ベルト長さの少なくとも1つが用いられる。
【0015】
はじめに、ベルトコンベア1の説明を行う。ベルトコンベア1は、モータ3を駆動する電源2と、モータ3に機械的に接続された減速機4、減速機4の出力軸に接続されたプーリ5、そして、ベルト6とプーリ7から構成される。電源2は、モータ3を制御するインバータであってもよいし、系統電源であってもよい。また、ベルト6の駆動は、プーリ5が行い、プーリ7は従動輪を表しており、末端に設置されるテールプーリやベルトのテンションの調整を行う調整プーリなども含めるものとする。なお、以降説明が行われる異常検知装置9が対象とする部位は前述した構成品であり、それぞれの異常を検知するものとする。
【0016】
次に、異常検知装置9の説明を行う。異常検知装置9は、周波数解析部10と、特定周波数成分抽出部11と、分離特徴量抽出部12と、異常分類部16と、そして伝達部17の各処理ブロックから構成される。ここで、周波数解析部10は、電流センサ8により時系列データとして1相のモータ相電流を取得し、そのデータを周波数領域の信号に変換する。また、特定周波数成分抽出部11は、その周波数領域の信号から特定の周波数成分を抽出する。また、分離特徴量抽出部12は、特定周波数のスペクトル形状および特定周波数成分の時間変化の波形形状に関する特徴量を抽出する。また、異常分類部16は、分離特徴量を用いて異常の分離を行う。そして、伝達部17は、異常分離の結果を作業員等に表示するなどの方法で伝達する。ここからは、異常検知装置9の各処理ブロックの詳細を述べる。
【0017】
まず、周波数解析部10は、電流センサ8から取得したU,V,W相いずれかの電流の時系列データを周波数領域の信号に変換する。つまり、周波数解析部10は、モータ電流からその周波数を示す周波数データを特定する。例えば、この処理では高速フーリエ変換(FFT)を実施すればよい。次に、特定周波数成分抽出部11では、周波数データから、診断対象部位に応じた周波数成分を抽出する。抽出する周波数成分の計算例を
図2にブロック図として示す。この例では、プーリ5の軸受を診断するために、プーリ5の回転軸の回転数(周波数)を計算している(軸受異常発生時には、転がり摩擦が増えるため、軸の回転周波数成分が増加する)。計算のステップとしては、FFTの波形を入力し、ピークの周波数を抽出(ピーク周波数抽出部18)する。
【0018】
ここで、
図3に、相電流のFFT波形の例を示す。
図3において、横軸は周波数、縦軸は振幅である。
図3に示すとおり、相電流の周波数スペクトルのピーク周波数は電源周波数となる。つまり、ピーク周波数は電源周波数を探索していることになる。電源周波数が明確になれば、次にモータの仕様値からわかるモータ極数の半分の値(極対数)を電源周波数に除算(極対数除算部19)することで、モータ軸の回転数(周波数)を算出する事ができる。なお、磁石モータの場合この計算結果がモータ軸の回転数と一致するが、誘導モータの場合はすべりが存在するため、算出された周波数の1,2%小さい周波数をモータ軸の周波数とすればよい。
【0019】
そして、モータ軸の周波数を減速比(1以上の値として表記されるものとする)で除算(減速比除算部20)すると、プーリ5の軸の周波数を算出できる。ここで、相電流の場合、機械的な周波数が電源周波数の左右の側帯波として現れることが分かっている。ここでは高周波側の側帯波成分を利用するとして、プーリ5の軸の周波数に対して電源周波数を加算(電源周波数加算部28)し、この結果を特定周波数とする。特定周波数成分抽出部11では、前述の周波数計算後、FFT波形から対象の周波数成分(振幅値)を抽出する。
【0020】
周波数成分(振幅値)の抽出方法としては、例えば、前述の周波数に合致する周波数成分を抽出してもよいし、誘導モータなどの場合はすべりが正確にわからないため、「算出した周波数±数~十数%」の範囲で最大値となるピーク振幅を探索するなどしてもよい。また、本例では、異常診断するための周波数を1つとしたが、診断する対象物に合わせて、抽出する周波数成分は複数にしても良いし、算出した周波数の実数倍の値を用いても良い。ここで、
図2の計算では、プーリ5の軸受を診断するために軸の周波数を計算した。但し、計算された結果は、ベルト蛇行(回転軸にとっては、偏心やミスアライメント状態と類似)、搬送する荷物等の搬送対象の片寄り(回転軸にとっては、偏心やミスアライメント状態と類似)、ベルトの摩耗(伸び)(軸の周波数付近で共振)も同じ周波数成分に影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
そのため、前述の周波数成分の増減のみを観測していても、どんな異常が発生しているかの判断は困難である。本実施例を含む各実施例では、分離特徴量抽出部12は、ベルトを駆動するプーリの軸受異常、ベルトの蛇行、ベルトコンベア1で搬送される搬送対象の片寄りおよび前記ベルトの摩耗のうち少なくとも1つを特定することで、異常を分類する。
【0022】
そこで、分離特徴量抽出部12にて、異常の種類の分離を行うための特徴量を抽出する。
図4に分離特徴量抽出部12の詳細図を示す。
図4において、分離特徴量抽出部12は、大きく時間領域形状算出部21および周波数領域形状算出部22から構成される。以下、それぞれについて説明する。時間領域形状算出部21では、特定周波数成分抽出部11で抽出した周波数成分の時間変化(時系列データ)の波形形状に関する値を算出する。
【0023】
この波形形状の例としては、例えば、波形の変化速度(傾き)や周期性が挙げられる。ここで、異常の種類に応じた時系列波形の形状例を
図5に示す。まず、軸受劣化やベルト蛇行1(ベルトの片寄り)(図中(1)(2))では、転がり抵抗の増加や回転軸の偏心/ミスアライメントによって、プーリ5の軸の周波数成分(特定周波数成分)が徐々に増加をする。しかし、それぞれの劣化の速度は違うため、時間波形の変化速度が1つの分離特徴量となる。傾き算出部23で傾きを計算する際は、特定の時間幅を決めて、その中の最大値、最小値、最大値と最小値の時間幅から傾きを求めても良いし、1次関数の回帰分析によって傾きを求めてもよい。以後この傾きをG値とする。これらの計算は、定期的に実施することで傾きの変化も観測する事ができ、どのタイミングで異常が発生したかも推測できる。
【0024】
また、ノイズの影響を除去するためにフィルタや移動平均を適用してから傾きを算出してもよい。次に、荷物の片寄り(図中(3))も回転軸に対する偏心/ミスアライメントに影響すると考えられるため、プーリ5の軸の周波数成分(特定周波数成分)が増加するが、時間波形の形状は軸受異常などとは違う。荷物の片寄りは常時発生する事は無く、片寄った荷物の搬送中である一定期間だけ発生するため、傾きの変化は前述の異常に比べて急であり、周期性は無く、パルス的に値が増加する。この形状特性を分離特徴量として使用できる。
【0025】
ここで、周期性の有無について周期性算出部24で計算する場合、例えば、特定時間に区切ってFFT実施してベルトの回転周波数より早い周期で、ある一定上の振幅のピークが存在するかを確認し、「周期性有or無」に対応する特徴量(例えばF値として0、1を割付)を作成してもよい。この場合、ベルトの回転周波数は、コンベアの仕様値から、例えば以下の(数1)で計算できる。
fb = fp*π*D/L・・・(数1)
ここで、fbはベルトの回転周波数、fpはプーリの回転周波数、Dはプーリの直径、Lはベルトの長さである。一方、パルス的な値増加がある場合には、周波数スペクトルが
図6に示した模式図の様に、直流成分付近の低周波に大きな値が集中し、「1/t1」の周期で振幅が減少するようなスペクトルがあらわる。このような周波数スペクトルが表れた場合には、例えば、「周期性無(単一信号有)」に対応する特徴量(例えばF=2)を作成してもよい。
【0026】
最後に、ベルトの蛇行2(偏りが周期的に変化)(図中(4))においては、ベルトの片寄り度合いが、大きくなったり、小さくなったり、という変動を起こす。そのため、
図5に示したように、例えば、ベルトの回転周波数より早い周期で振動しながら増加する形状になる。つまり周期性や傾きが分離特徴量として利用できる。これが、時間領域の形状における分離特徴量の例である。
【0027】
しかし、これだけでは、ベルトの摩耗(伸び)の分離が難しい。ベルトは摩耗するとベルトの持つ固有振動数が低下して、場合によっては、プーリを回転させる軸の周波数近傍で共振を起こす。この時、軸の回転周波数±数~十数%の範囲に共振点が入ると、軸の回転周波数との区別が難しくなり、かつ、蛇行1に近い劣化速度になるため異常の分類ができなくなる。そこで、周波数領域形状算出部22が必要となる。
【0028】
周波数領域形状算出部22では、周波数解析部10で算出したFFT波形を用いて、対象となる軸の周波数成分(近傍)のスペクトル形状を数値化する。例えば、ベルトが摩耗して共振した場合、スペクトル形状は裾野が狭く、振幅が高い状態、つまり、鋭いピークになることが予想される。このようなピークの鋭さを表す値として電気回路など分野などではQ値という値が定義されており、例えばこのQ値を分離特徴量として利用する。共振状態算出部25では、例えば以下の(数2)に示す計算を実施する。
Q=W0/(W2-W1)・・・(数2)
ここで、
図7に示すとおりW0はピーク値の周波数、W1、W2はピーク値Aの半分になる周波数の低周波側と高周波側に相当する。
【0029】
最後に、異常分類部16では、前述したような分離特徴量を用いて異常の分離を行う。異常分類部16では、分離特徴量抽出部12で算出された時間領域の形状に関する情報と周波数領域の形状に関する情報を入力として異常の分離を行う。
図8に分離方法の1例を示す。
図8に示す例では、異常分類部26において分離特徴量の1例である前述のG値、F値、Q値に対して閾値等を設け、その判定結果の組み合わせで異常の分離を行う。つまり、傾き、周期性、共振状態についての分離を行うための閾値の設定を行う。
【0030】
まず、傾きについては、Xthという閾値とを設定して場合分けを行う形としている。本例では、軸受異常とそれ以外を切り分ける閾値を1つ設定しているが、閾値は複数あってもよい。次に、周期性においては、周期性の有無および周期性は無いが単一信号の存在が確認できる場合の3種類の場合分けを、先に定義した0,1,2の数値で実施する。そして、共振状態については、Q値に閾値を設けて共振が発生しているか否かを判断する。これらの組み合わせで、同じ周波数成分から例えば5つの異常を分離する事が可能となる。異常分類部26の結果は、異常状態評価部27に送られ、例えば、正常状態に対する異常度が異常の種類ごとに計算される。
【0031】
異常の計算には、事前に機械が健全な状態のデータを取得しておき、そのデータと現在のデータとの差を例えば、MT法やOne Class-SVM などの方法で計算し、異常度として出力する方法が考えられる。最後に伝達部17では、異常分類部16から算出された異常種ごとの異常度をコンベアの近辺もしくは集中監視センタのディスプレイなどに表示し、作業員等に状態を知らせる。また、異常度をそのまま表示するのではなく、異常度に閾値を設け、その閾値に対して色や音などを対応付けて伝達する方法をとっても良い。
【0032】
このように実施例1を用いると、1相のモータ電流からコンベアの異常を分離して複数診断する事が可能となる。なお、実施例1では、分離特徴量の特定および分離特徴量を用いた異常の分離のうち、少なくとも一方が実行されればよい。後者の場合、予め設定された分離特徴量を用いることが望ましい。
このように実施例2を用いると、相電流の包絡線成分を用いる事で、より小さな異常の変化を捉えることができる。このため、コンベアの異常の分離をより正確に実施する事が可能となる。