(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128614
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】特定の波長域を有する光を照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有する皮膚外用剤及び内用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230907BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20230907BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20230907BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230907BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230907BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230907BHJP
A01H 3/02 20060101ALI20230907BHJP
A01H 6/74 20180101ALI20230907BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230907BHJP
A23G 3/48 20060101ALN20230907BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/73 ZNA
A61Q19/02
A61P43/00 105
A61P39/06
A61P17/00
A01H3/02
A01H6/74
A23L33/105
A23G3/48
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033066
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】瀬岡 真緒
(72)【発明者】
【氏名】山羽 宏行
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
2B030
4B014
4B018
4B117
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
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2B030CG05
4B014GB08
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4C083AA082
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4C083AD092
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4C083AD512
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4C083CC04
4C083CC05
4C083CC12
4C083CC25
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4C083EE16
4C088AB51
4C088AC01
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA08
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB22
4C088ZC01
4C088ZC37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全で安定性に優れ、メラニン生成抑制作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用に優れた新規な皮膚外用剤又は内用剤を提供する。
【解決手段】特定の波長域を有する人工光を照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有する皮膚外用剤や内用剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一でない、それぞれの波長域を有する人工光を2種組み合わせて照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項3】
波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が、8:1~1:1であることを特徴とする請求項2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が、4:1~2:1であることを特徴とする請求項2に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めることを特徴とするワレモコウ又はその栽培方法。
【請求項6】
波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めたワレモコウ又はその抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項7】
波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めたワレモコウ又はその抽出物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項8】
波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めたワレモコウ又はその抽出物を含有することを特徴とする内用剤。
【請求項9】
波長域570~730nm又は400~515nmの人工光を照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項10】
ワレモコウの抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の波長域を有する1種又は2種の光を照射して栽培した、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果(MMP産生抑制効果)、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果、抗酸化効果等に優れた新規なワレモコウ及び/又はその抽出物を含有する皮膚外用剤及び内用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シミ、ソバカス、日焼け等に見られる皮膚の色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線の刺激により、皮膚内に存在するメラニン色素生成細胞がメラニン色素を過剰に生成し、これが皮膚内に沈着することが原因と考えられている。このような色素沈着を防ぐ方法の一つに、メラニンの過剰な生成を抑制する方法が知られている。従来、色素沈着の治療には、内用や外用において、アスコルビン酸(ビタミンC)等が美白剤として用いられてきた(特許文献1)。
【0003】
また、皮膚は紫外線の他、乾燥、寒冷、熱、薬物等の様々な物理的及び化学的ストレスに日々曝されている。その結果、皮膚の機能低下が引き起こされ、様々な皮膚の老化現象が顕在化する。皮膚の老化現象の一つにシワがある。シワには、表皮性のシワと、真皮性のシワの2種類が存在することが知られている。表皮性のシワは小ジワと呼ばれ、皮膚の乾燥により、表皮角質中の水分量が低下することによって一時的に生じるシワである。一方、真皮性のシワは、太陽光線に含まれる紫外線や加齢によって形成されるシワである。その形成メカニズムとしては、紫外線や加齢による真皮線維芽細胞におけるコラーゲン合成能の低下や、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の増加によるコラーゲンの分解促進が挙げられる。
【0004】
乾燥に起因する表皮性のシワと真皮性のシワでは、組織学的形態、発症メカニズム、治療方法が異なり、紫外線や加齢により生じる真皮性のシワは、保湿効果を有する化粧品の使用によって改善することは困難である。
【0005】
これまでに、紫外線によって生じる真皮性のシワを改善することを目的として、加水分解アーモンドを有効成分とする皮膚のシワ形成防止・改善剤(特許文献2)、ジョチョウケイ、テンキシ及びキセンソウの抽出物を有効成分とする紫外線照射に起因するシワの改善剤(特許文献3)が報告されている。
【0006】
また、コラーゲンは、哺乳動物組織の約1/3を占める主要な構造タンパク質であり、軟骨、骨、腱、及び皮膚等の、多くのマトリックス組織の必須な成分である。MMPに属するコラゲナーゼ(MMP1)により一箇所を切断されると、通常の組織内では安定なコラーゲン分子は、変性して一本鎖のゼラチンとなり、他の様々なプロテアーゼにより分解されるようになる。その結果、マトリックス組織の構造の完全性が失われてしまう。
【0007】
コラゲナーゼの阻害活性を有する素材として、例えば、カカオ豆皮であるカカオハスク抽出物(特許文献4)、バラ科オニイチゴ抽出物(特許文献5)、ラクトフェリン(特許文献6)等が提案されている。皮膚老化や口腔衛生にますます関心が高まっている状況下で、副作用がなく、安全性が高い、コラゲナーゼ活性阻害作用の優れた素材を見出すことが求められている。
【0008】
MMPに属するゼラチナーゼ(MMP2)は、線維芽細胞や内皮細胞、ガン細胞等が産生する酵素であり、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン(動脈、腱、皮膚等の弾性組織の特殊成分をなす構造タンパク質)等の基質を分解する。従って、ゼラチナーゼに対して阻害活性を有する物質は、ガン組織における血管新生やガンの転移を抑制する効果が期待され、ガン疾患の予防、治療に有用であると考えられる。さらにMMPの阻害はガン疾患のみならず、潰瘍形成、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎等、MMPの亢進が原因で起こる各種疾患の予防、治療及び改善に有用である。
【0009】
また、線維芽細胞はコラーゲン等のタンパク質及びヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンを産生して真皮結合組織を形成し、皮膚のハリを保っている。この結合組織が収縮力を失い、更に弾性力を失う結果として、皮膚のシワやたるみが発生すると考えられている。
【0010】
特にヒアルロン酸は結合組織に広く分布する高分子多糖体として知られており、真皮中でゲル状の形態を呈し、肌の弾力を維持している。従って、ヒアルロン酸の変質や減少が皮膚老化において重要であると考えられている。また、ヒアルロン酸は高分子であるため、それを含有した化粧料を皮膚に直接塗布しても吸収されにくいという問題があった。そこで、これまで、線維芽細胞を活性化することで、細胞自らのコラーゲンやヒアルロン酸の産生を促進させることができる皮膚外用剤が模索されてきた(特許文献7)。
【0011】
また、ヒアルロン酸は関節にも存在しており、関節の荷重の衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりする機能を果たしていることが知られている。通常、ヒトの関節液中のヒアルロン酸濃度は約2.3mg/mLであるが、慢性関節リウマチの場合、関節液中のヒアルロン酸濃度は約1.2mg/mLと低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する(非特許文献1)。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎等でも、慢性関節リウマチの場合と同様、ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている(非特許文献2)。上記疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制及び病的関節液の改善のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが考えられる。例えば、慢性関節リウマチの患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入法を行うと、上記の症状の改善が認められることが知られている(非特許文献3)。しかしながら、上記疾患の治療は長期に渡る。従って、日常生活の中で手軽に予防や治療等ができるように、ヒアルロン酸産生促進剤を含有させた皮膚外用剤や食品、医薬品が望まれている。
【0012】
飛蚊症とは、視界内に糸くずや蚊のように見える薄い影が現れる症状で、目の内部を満たす硝子体内の混濁が網膜上に影を落とすことで発生する。飛蚊症は大きく2種類に分けることができ、加齢や紫外線、活性酸素等の影響で発症する生理的飛蚊症と、網膜剥離、網膜裂孔、硝子体出血、ぶどう膜炎等の疾患の一症状として現れる病的飛蚊症がある。生理的飛蚊症は、硝子体の主要成分であるヒアルロン酸の減少による液状化と、それに伴うコラーゲン線維の分解で硝子体内が混濁することで生じる。治療法として、硝子体切除手術やレーザー治療があるが、これらの施術は安全性の観点から日本ではあまり行われていないという実情があり、海外で治療を行うには多額の費用が必要となる。そのため、生理的飛蚊症を予防改善するためには日常的に利用可能なヒアルロン酸産生促進剤を含有させた食品や医薬品が望まれている。
【0013】
一般に、加齢と共に表皮細胞の増殖・分裂能は低下し、表皮層自体は薄くなる(非特許文献4)。生体因子であるEpidermal Growth Factor(EGF/上皮細胞成長因子)や女性ホルモン(エストロゲン)は皮膚の表皮細胞増殖に働きかけるが、加齢と共にその分泌は低下する。このような加齢による表皮細胞代謝機能の低下は皮膚のターンオーバー速度を遅らせ、肌荒れや皮膚の老化の原因となる。また、角層表面から剥がれ落ちる角層細胞が滞留することで、表皮内のメラニンの排泄がスムーズに行われなくなり、色素沈着や肌のくすみの原因となる。さらに表皮の創傷治癒が遅くなること等も知られている。これらの現象の進行を防止あるいは改善するために、表皮細胞の増殖を促進させる成分の探索や、皮膚外用剤の提案が多くなされてきた。
【0014】
また、皮膚は生体の最外層に位置し、紫外線等の影響により活性酸素が発生しやすい臓器であり、絶えずその酸素ストレスに曝されている。一方、皮膚細胞内には活性酸素消去酵素が存在しており、その能力を超える活性酸素が発生しない限り活性酸素の傷害から皮膚細胞を防衛している。ところが、皮膚細胞内の活性酸素消去酵素の活性は加齢と共に低下することが知られており、活性酸素による傷害がその防御反応を凌駕したとき、皮膚は酸化され、細胞機能が劣化して老化が進行すると考えられる。また、皮膚以外の臓器においても、その活性酸素消去能を超える活性酸素に曝されたとき、機能低下が起こり老化したり、ガンや心筋梗塞等様々な生活習慣病が発症したりすると考えられる。そこで、活性酸素による傷害からの防御を目的として活性酸素消去剤や抗酸化剤が検討され、SODやカタラーゼ等の活性酸素消去酵素、SOD様活性物質等の活性酸素消去剤や抗酸化剤を含有した食品、化粧品、医薬部外品及び医薬品等が開発されている(特許文献8、9)。
【0015】
ワレモコウ(学名:Sanguisorba officinalis)は、バラ科ワレモコウ属に属する多年生草本である。ワレモコウの公知文献としては、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害効果(特許文献10)及び抗酸化効果(特許文献11)等が知られている。
【0016】
一方で、植物の栽培方法によって植物の薬効を高める方法として、植物体内のビタミンやポリフェノール、ルチン等の機能性物質を特徴的に増加させる方法は、既に特許文献で報告されている。特許文献12には、大豆もやしに近紫外~青色領域波長の光を照射することにより、含有ビタミンA、ビタミンEを増量させる方法が開示されており、特許文献13には、小松菜に対して、人工紫外線照射を1日5分間行うことで、機能性物質であるα-トコフェロールやビタミンCを増加させる栽培方法が開示され、特許文献14には、人工光の青色光、赤色光及び遠赤色光の強度を調整することにより、小松菜、レタスのビタミンCやビタミンAを増加させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平5-229931号公報
【特許文献2】特開2000-119125号公報
【特許文献3】特開2006-199611号公報
【特許文献4】特開平3-44331号公報
【特許文献5】特開2003-137801号公報
【特許文献6】特開平5-186368号公報
【特許文献7】特開2007-1924号公報
【特許文献8】特開平9-118630号公報
【特許文献9】特開平9-208484号公報
【特許文献10】特開2001-269398公報
【特許文献11】特開2006-104117公報
【特許文献12】特開平11-103680号公報
【特許文献13】特開2004-305040号公報
【特許文献14】特開平8-205677号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】“Arthritis Rheumatism”,vol.10,pp 357,1967
【非特許文献2】「結合組成」、金原出版、481項、1984年
【非特許文献3】「炎症」、日本炎症学会、11巻、16項、1991年
【非特許文献4】Varani J et al., J Invest Dermatol, Vol.3,pp 57-60,1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、安全で安定性に優れ、メラニン生成抑制作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用に優れた新規な皮膚外用剤又は内用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、この問題点を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、特定の波長域を有する1種又は2種の人工光を照射して栽培したワレモコウの抽出物の、メラニン生成抑制作用、MMP阻害作用、ヒアルロン酸産生促進作用、細胞増殖促進作用及び抗酸化作用が優れていることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち、本発明は、以下の(1)~(10)からなる。
(1)同一でない、それぞれの波長域を有する人工光を2種組み合わせて照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(2)波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(3)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が、8:1~1:1であることを特徴とする、(2)に記載の皮膚外用剤。
(4)波長域570~730nmと400~515nmとの光合成光量子束密度(PPFD)比が、4:1~2:1であることを特徴とする、(2)に記載の皮膚外用剤。
(5)波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めることを特徴とするワレモコウ又はその栽培方法。
(6)波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めたワレモコウ又はその抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(7)波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めたワレモコウ又はその抽出物を含有することを特徴とする医薬品。
(8)波長域570~730nm及び400~515nmの人工光を照射して栽培することによって、太陽光で栽培したワレモコウと比較して、メラニン生成抑制効果、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果から選ばれる1種又は2種以上の効果を高めたワレモコウ又はその抽出物を含有することを特徴とする内用剤。
(9)波長域570~730nm又は400~515nmの人工光を照射して栽培したワレモコウの抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(10)ワレモコウの抽出物を含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明のワレモコウ又はその抽出物は、優れたメラニン生成抑制効果(美白効果)、MMP阻害効果、ヒアルロン酸産生促進効果、細胞増殖促進効果及び抗酸化効果を有しており、医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品の分野において貢献できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に用いるワレモコウ(学名:Sanguisorba officinalis)は、別名でグレートバーネットと呼ばれ、バラ科ワレモコウ属に属する多年生草本である。耐寒性及び耐暑性があり、寒帯から温帯にかけて広く生息し、日本の山野等でみられる。本発明において、ワレモコウの抽出物は、その花、種子、葉、茎、根茎、根等の植物体の一部又は植物体全体(全草)、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、葉、茎、根茎及び根が好ましい。また、抽出には、植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0024】
栽培方法としては、土を用いた栽培や水耕栽培で行うことができる。水耕栽培で行う場合には、種子を播種後、出根した状態、又は苗の状態で、水耕栽培に供することができる。栽培は、温度、光、二酸化炭素濃度が制御された施設で栽培することが好ましい。栽培温度は、15~30℃、好ましくは20~25℃である。栽培期間は、照射する条件によって異なるが、概ね10~30日で収穫できる。これ以上の期間で栽培することも可能である。
【0025】
光源は、植物の栽培施設で用いる光源等を使用することができ、中でもLED等の人工光が最も好ましい。人工光源は、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード等の光半導体素子が挙げられるが、特定の範囲の波長域が選択的に照射できる光源であれば良い。
【0026】
ワレモコウの栽培において、照射する波長としては、波長域400~515nmの青色光、570~730nmの赤色光であることが好ましく、波長域430~460nm、630~680nmの光がさらに好ましい。これらの光は、同時に照射することが最も好ましい。このときの波長は、照射スペクトルの極大波長(ピーク波長)のことをいう。このような波長のピークを有する光源であれば、独自に作製したものや市販のものを使用することもできる。また、上記波長を選択的に照射できるように、光学フィルタを用いても良い。上記の2種の範囲の光に加え、太陽光や蛍光灯等の光源も使用することもできる。
【0027】
照射する光量としては、光合成光量子束密度(PPFD)として表される。発光体を2種組み合わせて照射する場合には、その合計の光量を意味する。その光量は、発芽後は10~300μmol・m-2s-1が好ましく、50~200μmol・m-2s-1がさらに好ましい。この範囲外の光強度の場合は、生育障害、生育不良になる場合がある。照射は、ワレモコウの上部10~50cmの位置から照射することが好ましい。照射時間は、植物の特性や目的に応じて適宜変更できるが、1日当たり6時間以上が好ましく、12~24時間がより好ましい。
【0028】
赤色と青色の光量比においては、それぞれのPPFDの比を意味しており、収量や有効性等目的に応じて選択が可能である。
【0029】
中でも、植物体の収量を高めるには、赤色と青色の光量比が8:1~2:1が好ましく、その中でも特に、赤色と青色の光量比が4:1~2:1に高い収量が得られた。
【0030】
メラニン生成抑制作用においては、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が効果の面で好ましい。その中でも特に、赤色と青色の光量比が3:1が最も好ましい。
【0031】
MMP1 mRNA発現抑制作用においては、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が効果の面で好ましい。その中でも特に、赤色と青色の光量比が3:1が最も好ましい。
【0032】
MMP2 mRNA発現抑制作用においては、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が効果の面で好ましい。その中でも特に、赤色と青色の光量比が3:1が最も好ましい。
【0033】
ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2) mRNA発現促進作用においては、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が効果の面で好ましい。その中でも特に、赤色と青色の光量比が3:1が最も好ましい。また、太陽光で栽培した場合も効果が高く、好ましい。
【0034】
細胞増殖促進作用においては、赤色と青色の光量比が8:1~2:1が効果の面で好ましい。その中でも特に、赤色と青色の光量比が3:1が最も好ましい。
【0035】
活性酸素消去作用(フリーラジカル捕捉除去作用)においては、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が効果の面で好ましい。その中でも特に、赤色と青色の光量比が3:1が最も好ましい。
【0036】
以上のことを総じていえば、赤色と青色の光量比が8:1~1:1が好ましく、4:1~2:1がより好ましく、3:1が最も好ましい。
【0037】
また、本願発明では、前記の人工光ではなく、太陽光等の自然光を用いて栽培することで、新規なヒアルロン酸産生促進剤を提供できる。この時の栽培方法としては、周知の方法を利用できる。
【0038】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用い、撹拌又はカラム抽出する方法等により行うことができる。抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。特に好ましい抽出溶媒としては、水、水-エタノールの混合極性溶媒又は水-1,3-ブチレングリコールの混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えばワレモコウの植物体(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できる。
【0039】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0040】
本発明は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていても良い。
【0041】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。
【0042】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。更に、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を超えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0043】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。更に、20mg~2gが最も好ましい。
【0044】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、実験例及び処方例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例と処方例に示す%とは、重量%を示す。
【実施例0045】
(1)実験材料及び生育条件
市販のワレモコウの苗から土を除去したのち、根茎の塊を約1cm程度の小片に切断し、それを1片ずつスポンジに包み、水耕栽培装置を用いて、室温が24時間21~25℃になるよう設定し、植物の真上30cmの位置から、赤色LED(ピーク波長660nm)及び青色LED(ピーク波長450nm)を同時に照射し、赤色と青色LEDの合計光合成光量子束密度が100μmol・m-2s-1となるように、赤色と青色の光量比を1:0~0:1にして、栽培を行った。尚、栽培中は光量比を変えなかった。また、比較例として太陽光下で栽培を行った。いずれも4週間栽培した後、収穫し、約60℃で温風乾燥させることで、ワレモコウの乾燥物を得た(表1)。
【0046】
【0047】
(2)ワレモコウの抽出物の製造例
ワレモコウの抽出物を以下の通り製造した。製造例1A~4Aにおいて、抽出材料には赤色:青色=2:1の比で栽培したワレモコウの全草を用いた。
【0048】
(製造例1A)ワレモコウの熱水抽出物の調製
ワレモコウの乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してワレモコウの熱水抽出物を1.6g得た。
【0049】
(製造例2A)ワレモコウの50%エタノール抽出物の調製
ワレモコウの乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してワレモコウの50%エタノール抽出物を1.1g得た。
【0050】
(製造例3A)ワレモコウのエタノール抽出物の調製
ワレモコウの乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してワレモコウのエタノール抽出物を0.45g得た。
【0051】
(製造例4A)ワレモコウの1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ワレモコウの乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過して、ワレモコウの1,3-ブチレングリコール抽出物を192g得た。
【0052】
上記と同様に、赤色と青色LEDの合計光合成光量子束密度が100μmol・m-2s-1となるように、赤色と青色の光量比を変化させて栽培したワレモコウ及び太陽光で栽培したワレモコウを用い、上記の製造例1A~4Aと同様に抽出し、製造例1B~4B、1C~4C、製造例P~Sとした(表2)。
【0053】