(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128621
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033083
(22)【出願日】2022-03-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月6日に、令和3年粉体工学会第56回夏期シンポジウム「DX時代の粉体工学:粉体工学とデータサイエンスの融合に向けて」、研究速報、一般-22 一般社団法人粉体工学会に掲載。また上記刊行物は、以下のウェブサイトからシンポジウム参加者がダウンロード可能となった。 https://funtai-my.sharepoint.com/:b:/g/personal/kanatani_funtai_onmicrosoft_com/EaCU8-QNyOZNn70LMAnkXYoB9xa6RQCA6_g0GIUvPd-YIw?e=X5r6nC (証明書▲1▼) 〔刊行物等〕令和3年10月9日に、ウェブサイト https://zoom.us/j/92884860270?pwd=WWUxSGlKbWE3QkM1K1czZGZIWkltQT09に掲載。(証明書▲2▼)
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 千加
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カブトムシ幼虫に非接触で雌雄を判別できる方法を提供する。
【解決手段】カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法であって、当該判別方法は、
糞の表面の凸凹度を第1の指標とし、糞の面積と糞の長さの比を第2の指標とし、第1の指標および第2の指標を組み合わせることで雌雄を判別する判別工程を含む
判別方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法であって、当該判別方法は、
糞の表面の凸凹度を第1の指標とし、糞の面積と糞の長さの比を第2の指標とし、第1の指標および第2の指標を組み合わせることで雌雄を判別する判別工程を含む
判別方法。
【請求項2】
第1の指標が、凸度、輪郭長さを近似楕円の近似周長で割ったもの、真円度を楕円近似の短軸で割ったものから選択される
請求項1に記載の判別方法。
【請求項3】
第2の指標が、面積をフェレ径で割ったもの、面積を楕円近似の長軸長さで割ったもの、面積を長方形近似の長辺長さで割ったものから選択される
請求項1または2に記載の判別方法。
【請求項4】
判別工程が、
第1の指標および第2の指標を用いて、マハラノビス・タグチ法により、幼虫の糞のマハラノビス距離の2乗の異常値率を計算し、
計算した幼虫の糞の異常値率が、雌のマハラノビス距離の2乗の異常値率から求めた閾値と比較して、閾値以上の場合は雄と判別し、閾値未満の場合は雌と判別する、
請求項1~3の何れか一項に記載の判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法に関する。
【0002】
カブトムシは、「昆虫の王様」と呼ばれ、クワガタムシと並び人気の高い大型の甲虫として知られている。特にカブトムシの雄は頭部に大きな角を持ち、子供にも大人にも人気が高い。そのため、幼虫の段階で雌雄を判別することが知られている。カブトムシの雌雄判別方法の一例として、三齢幼虫の下腹・後腸が存在する付近にV字マークが確認できれば、雄と判別する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 進化発生研究部門[令和4年2月4日検索]、インターネット<URL:https://www.nibb.ac.jp/niimilab/column/16_001.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、三齢幼虫の下腹・後腸が存在する付近にV字マークを確認する方法は、(1)幼虫を直接手で触る必要があり、また、(2)幼虫が丸まっている場合は、下腹・後腸部分を目視するため幼虫を伸ばす必要がある。そのため、雌雄を判別する際に幼虫への負担が大きく、幼虫が弱ることがあるという問題がある。
【0005】
本出願における開示は、上記問題を解決するためになされたものである。本発明者らが鋭意検討を行ったところ、カブトムシ幼虫の糞の表面の凸凹度を第1の指標とし、糞の面積と糞の長さの比を第2の指標とし、第1の指標および第2の指標を組み合わせることで、カブトムシ幼虫に非接触で雌雄を判別できることを新たに見出した。
【0006】
すなわち、本出願における開示の目的は、カブトムシ幼虫の糞に基づき雌雄を判別する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願における開示は、以下に示す、カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法に関する。
【0008】
(1)カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法であって、当該判別方法は、
糞の表面の凸凹度を第1の指標とし、糞の面積と糞の長さの比を第2の指標とし、第1の指標および第2の指標を組み合わせることで雌雄を判別する判別工程を含む
判別方法。
(2)第1の指標が、凸度、輪郭長さを近似楕円の近似周長で割ったもの、真円度を楕円近似の短軸で割ったものから選択される
上記(1)に記載の判別方法。
(3)第2の指標が、面積をフェレ径で割ったもの、面積を楕円近似の長軸長さで割ったもの、面積を長方形近似の長辺長さで割ったものから選択される
上記(1)または(2)に記載の判別方法。
(4)判別工程が、
第1の指標および第2の指標を用いて、マハラノビス・タグチ法により、幼虫の糞のマハラノビス距離の2乗の異常値率を計算し、
計算した幼虫の糞の異常値率が、雌のマハラノビス距離の2乗の異常値率から求めた閾値と比較して、閾値以上の場合は雄と判別し、閾値未満の場合は雌と判別する、
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の判別方法。
【発明の効果】
【0009】
本出願で開示するカブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法は、カブトムシ幼虫に非接触で雌雄を判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、判別方法の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図2】
図2は、判別方法の実施形態の概略を説明するための図である。
【
図3】
図3は図面代用写真で、実施例1で撮影した糞の写真の一例である。
【
図4】
図4は、実施例1で解析した各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1で解析した各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1で解析した各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1で解析した各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1で解析した各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例2で解析した各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本出願で開示する、カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法について詳しく説明する。なお、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願の開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0012】
また、本明細書において、
(1)「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、
(2)数値、数値範囲、及び定性的な表現(例えば、「同一」、「同じ」等の表現)については、当該技術分野において一般的に許容される誤差を含む数値、数値範囲及び性質を示している、
(3)形状について記載は、当該記載の正確な形状に加え、凡そ〇〇形状と把握される形状を含む、
と解釈される。
【0013】
(カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法の実施形態)
図1および
図2を参照して、カブトムシ幼虫の糞を用いた雌雄判別方法(以下、単に「判別方法」と記載することがある。)の実施形態について説明する。
図1および
図2は、判別方法の実施形態の概略を説明するための図である。
【0014】
判別方法は、カブトムシ幼虫の糞の表面の凸凹度を第1の指標とし、糞の面積と糞の長さの比を第2の指標とし、第1の指標および第2の指標を組み合わせることで雌雄を判別する判別工程を含んでいる。
【0015】
本明細書において「カブトムシ」は、コウチュウ目(鞘翅目)・コガネムシ科・カブトムシ亜科・真性カブトムシ族に属する昆虫を意味する。頭部に大きな角を有する人気の高いカブトムシの多くは真性カブトムシ族に属し、以下の13属が知られている。また、当該属に含まれる著名なカブトムシ名も併せて記載する。
・ヘラクレスオオカブト属:ヘラクレスオオカブト、ネプチューンオオカブト、サターンオオカブト、シロカブト
・ゾウカブト属:エレファスゾウカブト、ギアスゾウカブト、アヌビスゾウカブト、アクティオンゾウカブト、レックスゾウカブト、マルスゾウカブト、ヤヌスゾウカブト、ヒメゾウカブト
・タテヅノカブト属:ノコギリタテヅノカブト、ピサロタテヅノカブト、ヒシガタタテヅノカブト、
・アトラスオオカブト属:アトラスオオカブト、コーカサスオオカブト、モーレンカンプオオカブト
・ケンタウルスオオカブト属:ケンタウルスオオカブト、ガボンオオカブト
・ゴホンツノカブト属:ゴホンヅノカブト、タイゴホンヅノカブト、ヒマラヤゴホンヅノカブト
・サンボンヅノカブト属:サンボンヅノカブト、クロサンボンヅノカブト
・ユミツノカブト属:ユミツノカブト、ホソユミツノカブト
・ヒメカブト属:ヒメカブト、ケブカヒメカブト
・カブトムシ属:日本カブトムシ
・サビカブト属:サビカブト
・シナカブト属:ダビディスカブト
・ゴウシュウカブト属:ゴウシュウカブト、オオゴウシュウカブト
【0016】
なお、上記のとおり、頭部に大きな角を有する人気の高いカブトムシの多くは真性カブトムシ族に属する。したがって、本出願で開示する判別方法は、真性カブトムシ族の幼虫の雌雄判別に好適に用いることができるが、技術的に真性カブトムシ族に限定されるものではない。真性カブトムシ族と同様、カブトムシ亜科に属する、ヒナカブト族、サイカブト族、コカブト族、クロマルコガネ族、パプアカブト族、スジコガネモドキ族、および、ヘクソドン族にも適用可能である。
【0017】
カブトムシ幼虫(以下、単に「幼虫」と記載することがある。)は、糞を回収できれば幼虫の成長段階の制限は特になく、1齢、2齢、3齢の何れであってもよい。
【0018】
幼虫は、一般的に、昆虫ケース内に腐葉土を入れて飼育する。カブトムシは強靭な顎で腐葉土を砕き、腸内細菌の働きによって分解し吸収した残渣を俵状の糞に成形する。したがって、幼虫の糞は、例えば、腐葉土からふるい分けることで採取すればよい。雌雄判別の際に必要な幼虫一匹当たりの糞の数は、少なくとも2個以上あればよいが、糞の数が多いほど平均化できる。限定されるものではないが、例えば、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上、110個以上、120個以上、130個以上、140個以上、150個以上等が挙げられる。
【0019】
次に、
図1を参照して、判別方法に用いる指標について説明する。第1の指標である糞の表面の凸凹度は、糞の表面のでこぼこ(凸凹)を表すことができる指標であれば特に制限はない。例えば、
(1)凸度(Solidity)、
(2)[輪郭長さ(Perimeter)]を[近似楕円の近似周長(=4×楕円近似の短軸(Minor))]で割ったもの(Perim/4Mi)、
(3)[真円度(Circularity)]を[楕円近似の短軸(Minor)で割ったもの](Ciru/Mi)、
等が挙げられる。
【0020】
上記第1の指標で用いる用語の定義は以下のとおりである。ただし、凸度および真円度については、
図1に記載されていない。
(a)凸度(Solidity)
形態のへこみの少なさを表す数値で、へこみが大きいほど小さい値、凹みがすくなければ1.0に近づく。[糞の面積]÷[凸包(Convex hull)の面積]で求めることができる。なお、凸包(Convex hull)とは、与えられた集合を含む最小の凸集合である。例えば、糞を輪ゴムで囲んだ場合に輪ゴムが作る図形ということができる。
(b)輪郭長さ(Perimeter(Perim))
糞の輪郭の長さ。
(c)真円度(Circularity(Circ))
[4π×面積]÷[(輪郭長)
2]で求めることができる。1.0は真円であり、0に近づくほど長細い形になる。
(d)楕円近似の短軸(Minor)
糞を楕円に近似した時の短軸の長さ。
【0021】
第2の指標である糞の面積と糞の長さの比は、糞の面積と糞の長さを含めた比で表すことができる指標であれば特に制限はない。例えば、
(4)[面積]を[フェレ径(Feret’s diameter)]で割ったもの(A/F)、
(5)[面積]を[楕円近似の長軸長さ(Major)]で割ったもの(A/Ma)、
(6)面積を長方形近似の長辺長さ(Height)で割ったもの、
等が挙げられる。
【0022】
上記第2の指標で用いる用語の定義は以下のとおりである。
(e)面積(Area(A))
糞の投影面積。
(f)フェレ径(Feret’s diameter)
糞を平行な2直線で挟んだ時の最も長い直線間の距離。
(g)楕円近似の長軸長さ(Major)
糞を楕円に近似した時の長軸の長さ。
(h)長方形近似の長辺長さ(Height)
糞を長方形に近似した時の長辺の長さ。
【0023】
上記(1)~(6)に記載の指標(換言すると、(a)~(h)に記載の値)は、幼虫の糞の写真を画像解析ソフトウェアであるImageJを用いて解析をすればよい。
【0024】
本発明者らは、幼虫の糞に着目して種々の検討を行ったところ、雄と雌とでは糞形状に関する特徴量に違いがあることを新たに見出した。より具体的には、雌と比較して雄の糞形状は、
図2に示すように異常値(
図2の矢印に示すサンプル)を示す糞の割合(異常値率:MD)が大きいことを見出した。なお、異常値とは、
図2の矢印に示すように、単位空間のデータと相関性のパターンが異なるデータを意味する。また、異常値率とは、[幼虫Xの糞の中で異常値を示すサンプル数]÷[幼虫Xの全糞サンプル数]を意味する。判別工程は、第1の指標および第2の指標を組み合わせ、糞形状に関する特徴量の違いに基づき雌雄を判別できれば特に制限はない。判別工程で使用できる判別方法としては、限定されるものではないが、例えば、マハラノビス・タグチ法、決定木分析、ランダムフォレスト、SVM(サポートベクターマシーン)、DNN(深層学習)等が挙げられる。
【0025】
判別工程に、マハラノビス・タグチ法を用いた例についてより詳しく説明する。マハラノビス・タグチ法を用いたパターン診断により、幼虫Xから回収した糞の異常値率(
図2のMD
2(マハラノビス距離の2乗))を計算し、計算した幼虫Xの糞の異常値率が、雌のマハラノビス距離の2乗の異常値率から求めた閾値と比較して、閾値以上の場合は雄と判別し、閾値未満の場合は雌と判別すればよい。
【0026】
ハラノビス・タグチ(MT)法は対象物の特徴を見出すことに長けた公知のパターン認識手法である。判別方法の実施形態では、雌の糞を基準(単位空間)として、雌雄の判別をしたい幼虫Xの糞の各変量が単位空間の変量データ群とどれだけ離れているのかを、以下の式に基づきMDを計算して評価すればよい。
【数1】
上記式において、kは変量の数、Yは正規化した評価試料の変量、aは単位空間の相関係数行列の逆行列を意味する。なお、糞の数は、第1の指標から選択した1以上の変量の数と第2の指標から選択した1以上の変量の数の合計数以上にする必要がある。したがって、第1の指標から変量を1つ選択し、第2の指標から変量を1つ選択した場合、上記のとおり幼虫Xの判別に必要な糞の数は2以上である。なお、ハラノビス・タグチ(MT)法のより詳しい手順は、例えば、「救仁郷 誠,マハラノビスの距離 入門,品質工学,Vol.9,14(2001)」等を参照すればよい。「救仁郷 誠,マハラノビスの距離 入門,品質工学,Vol.9,14(2001)」に記載の内容は、参照により本明細書に含まれる。
【0027】
閾値は、以下の点を考慮しながら適宜決定すればよい。
(ア)第1の指標(例えば、上記(1)~(3)から選択した少なくとも1つ)、および、第2の指標(例えば、上記(4)~(6)から選択した少なくとも1つ)として、何を用いるのかにより閾値は異なる。したがって、閾値は、用いる指標に応じて適宜決定すればよい。
(イ)任意の一匹の雌の糞を基準として閾値を決定してもよいし、複数の雌グループの糞を用いて閾値を決定してもよい。複数の雌グループの糞を用いて閾値を決定する場合は、雌グループの異常値率の中で最大の異常値率を閾値とすればよい。
(ウ)第1の指標および第2の指標として同じ指標を用いた場合でも、カブトムシの種類、餌の種類等の飼育環境が糞の形状に影響を与える可能性がある。同じブリーダーの幼虫の雌雄を判別する場合は、過去に成虫になるのを待って雌と判明したカブトムシの幼虫時の糞から決定した閾値を、当該ブリーダー用の閾値としてもよい。また、初めてのブリーダーの幼虫のみから雌雄を判別する場合は、必要に応じて、複数の幼虫の中から従来方法や遺伝子解析により判別した任意の雌の糞を基準として閾値を決定してもよい。
【0028】
決定木分析、ランダムフォレスト、SVM(サポートベクターマシーン)、DNN(深層学習)に関しても、第1の指標および第2の指標を組み合わせて用いる以外は、公知の手順にしたがって実施すればよい。
【0029】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0030】
<実施例1>
[幼虫飼育と糞の採取]
2019年長崎県で採取された初代成虫カブトムシ(カブトムシ属:日本カブトムシ)を累代飼育し、二代目成虫の卵から孵化した三代目幼虫20匹(GU1~20)を岐阜大学にて飼育、三齢幼虫の糞を腐葉土からふるい分けして採取した。飼育環境を同一にするため、1804mLのPP製容器に腐葉土(マルカンバイオ育成幼虫マット)と幼虫個体を入れた。採取した糞はカビの発生を抑えるため、140℃のホットプレート上で乾燥させた。2021年7月に羽化した成虫の角の有無から雌雄を確認した。なお、2匹(GU7およびGU12)は蛹化に失敗した。成虫となった18匹のうち、雄は8匹、雌は10匹であった。
【0031】
[マハラノビス・タグチ法による解析]
成虫となった18匹の三齢幼虫の糞(2021年1月~5月採取)を並べ、デジタルカメラで撮影した。
図3は撮影した写真の一例である。実施例では、幼虫により異なるものの、約100~300個程度の糞を撮影した。撮影した写真をImageJ(ver.1.53a,National Institutes of Health,USA)を用いて二値化した後、凸度(Solidity)、輪郭長さ(Perim)、真円度(Circ)、楕円近似の短軸(Minor)、面積(A)、フェレ径(F)、楕円近似の長軸長さ(Ma)、長方形近似の長辺長さ(H)を算出した。GU14(雌)の糞を基準(単位空間)とし、第1の指標および第2の指標として表1に示す組み合わせを用いて、残り17個体の各糞の各変量が単位空間の変量データ群とどれだけ離れているかを、マハラノビス距離(MD)を使って評価した。
図4~
図8に各幼虫毎(縦軸)の異常値率(横軸)を示す。また、雌グループの異常値率の最大値を閾値として、雄の異常値率が閾値より大きい割合(%、正答率)を表1および
図4~
図8に示す。
【0032】
【0033】
図4~
図8に示すように、表1に示す第1の指標および第2の指標を用いることで、糞から幼虫の雌雄を高い確率で判別できることを確認した。特に、第1の指標として凸度(Solidity)を用いた際には、第2の指標の種類を問わず正答率は100%であった。また、第2の指標として面積/Feret径を用いた際には、第1の指標の種類を問わず正答率は100%であった。したがって、第1の指標として凸度(Solidity)を用いること、および、第2の指標として面積/Feret径を用いることが特に好ましいことを確認した。
【0034】
<実施例2>
実施例1の日本カブトムシ(カブトムシ属)に替え、ヘラクレスオオカブト(ヘラクレスオオカブト属)の雌雄が判別している7匹の三齢幼虫[雌2匹(GUF1、GUF2)、および、雄5匹(GUM1~GUM5)]を用い、GUF1(雌)の糞を基準(単位空間)とした以外は、実施例1と同様の手順で各幼虫のマハラノビス距離(MD)の異常値率を求めた。
図9に結果を示す。なお、
図9は、第1の指標として凸度(Solidity)を用い、第2の指標として面積/Feret径を用いた例を示している。
図9から明らかなように、ヘラクレスオオカブトでも雌雄の判別ができることを確認した。
【0035】
以上の結果より、本出願で開示する判別方法を用いることで以下の効果を奏することを確認した。
(1)幼虫に触ることなく雌雄の判別ができる。したがって、幼虫が弱ることを防止できる。
(2)糞の画像解析により雌雄が判別できる。したがって、従来のVマークによる判別と異なり、熟練者でなくても雌雄の判別ができる。
(3)雌雄の判別は、画像があれば幼虫自体は不要である。したがって、インターネット等の通信サービスを用いて画像が提供されれば、幼虫を移動することなく、任意の所在地のブリーダーが飼育している幼虫の雌雄が判別できる。