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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128673
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】車両の冷却システム
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20230907BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F01P7/16 A
F01P3/20 F
F01P7/16 502A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033192
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 学之
(72)【発明者】
【氏名】勅使 正輝
(57)【要約】
【課題】トランスミッションオイルを昇温させる場合にはトランスミッションの昇温を促進させることができ、トランスミッションオイルを降温させる場合にはトランスミッションの降温を促進させることができる車両の冷却システムを提供すること。
【解決手段】車両の冷却システムは、送り通路21Aから分岐する出口側冷却水供給経路24と、戻し通路21Bにおける冷却水入口2Aの上流側の近傍の位置から分岐する入口側冷却水供給経路25と、出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水と入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水とのいずれか一方をオイルクーラ4Aに流入するように切り替え可能な流路切替バルブ41と、を備える。制御部10は、冷却水の冷却水温度と所定水温TWcとの比較結果およびトランスミッションオイルのオイル温度と所定オイル温度TOcとの比較結果に基づいて流路切替バルブ41を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水が流通するエンジンと、
トランスミッションオイルが流通するトランスミッションと、
前記エンジンの冷却水出口に送り通路を介して接続され、前記エンジンの冷却水入口に戻し通路を介して接続され、前記送り通路から流入する冷却水を熱交換により冷却して前記戻し通路に流出させるラジエータと、
前記トランスミッションオイルと冷却水とを熱交換させるオイルクーラと、を備える車両の冷却システムであって、
前記送り通路から分岐し、前記冷却水出口から流出した冷却水の一部を前記オイルクーラに供給する出口側冷却水供給経路と、
前記戻し通路における前記冷却水入口の上流側の近傍の位置から分岐し、前記冷却水入口に向かう冷却水の一部を前記オイルクーラに供給する入口側冷却水供給経路と、
前記出口側冷却水供給経路を流れる冷却水と前記入口側冷却水供給経路を流れる冷却水とのいずれか一方を前記オイルクーラに流入するように切り替え可能な流路切替バルブと、
前記冷却水の冷却水温度と所定水温との比較結果および前記トランスミッションオイルのオイル温度と所定オイル温度との比較結果に基づいて前記流路切替バルブを制御する制御部と、を備えることを特徴とする車両の冷却システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記冷却水温度が前記所定水温以上で、かつ、前記オイル温度が前記所定オイル温度未満である場合、
前記入口側冷却水供給経路を流れる冷却水を遮断して前記出口側冷却水供給経路を流れる冷却水が前記オイルクーラに流入するように前記流路切替バルブを制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の冷却システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記オイル温度が前記所定オイル温度以上である場合、
前記出口側冷却水供給経路を流れる冷却水を遮断して前記入口側冷却水供給経路を流れる冷却水が前記オイルクーラに流入するように前記流路切替バルブを制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の冷却システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記冷却水温度が前記所定水温未満で、かつ、前記オイル温度が前記所定オイル温度未満である場合、
前記入口側冷却水供給経路を流れる冷却水と前記出口側冷却水供給経路を流れる冷却水とを遮断して、前記入口側冷却水供給経路を流れる冷却水と前記出口側冷却水供給経路を流れる冷却水とが前記オイルクーラに流入しないように前記流路切替バルブを制御することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の車両の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジン冷却水とトランスミッションオイルとを熱交換させることができる熱交換器を有する動力出力装置が記載されている。この動力出力装置において、熱交換器でのエンジン冷却水とトランスミッションオイルとの熱交換の実行および停止は、トランスミッションオイルの温度に応じて切替可能とされている。これにより、特許文献1に記載の動力出力装置は、電動機の温度を調節するためのトランスミッションオイルの温度を状況に応じた好適な温度に設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-162132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、トランスミッションオイルを冷却する場合と、トランスミッションオイルを昇温させる場合とで、熱交換器における熱交換の実行および停止を切り替えているだけであり、熱交換器を通過する冷却水の温度によってトランスミッションオイルの温度調整性能が左右されてしまうため、トランスミッションオイルの昇温および降温を促進させることができなかった。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、トランスミッションオイルを昇温させる場合にはトランスミッションの昇温を促進させることができ、トランスミッションオイルを降温させる場合にはトランスミッションの降温を促進させることができる車両の冷却システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、冷却水が流通するエンジンと、トランスミッションオイルが流通するトランスミッションと、前記エンジンの冷却水出口に送り通路を介して接続され、前記エンジンの冷却水入口に戻し通路を介して接続され、前記送り通路から流入する冷却水を熱交換により冷却して前記戻し通路に流出させるラジエータと、前記トランスミッションオイルと冷却水とを熱交換させるオイルクーラと、を備える車両の冷却システムであって、前記送り通路から分岐し、前記冷却水出口から流出した冷却水の一部を前記オイルクーラに供給する出口側冷却水供給経路と、前記戻し通路における前記冷却水入口の上流側の近傍の位置から分岐し、前記冷却水入口に向かう冷却水の一部を前記オイルクーラに供給する入口側冷却水供給経路と、前記出口側冷却水供給経路を流れる冷却水と前記入口側冷却水供給経路を流れる冷却水とのいずれか一方を前記オイルクーラに流入するように切り替え可能な流路切替バルブと、前記冷却水の冷却水温度と所定水温との比較結果および前記トランスミッションオイルのオイル温度と所定オイル温度との比較結果に基づいて前記流路切替バルブを制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように上記の本発明によれば、トランスミッションオイルを昇温させる場合にはトランスミッションの昇温を促進させることができ、トランスミッションオイルを降温させる場合にはトランスミッションの降温を促進させることができる車両の冷却システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムを備える車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムの第1状態における冷却水の流れを示す図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムの第2状態における冷却水の流れを示す図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムの第3状態における冷却水の流れを示す図である。
図5図5は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムにおける冷却水温度およびオイル温度に対する流路切替バルブの制御状態を示す図である。
図6図6は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムにおける冷却水温度およびオイル温度の温度帯および閾値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両の冷却システムは、冷却水が流通するエンジンと、トランスミッションオイルが流通するトランスミッションと、エンジンの冷却水出口に送り通路を介して接続され、エンジンの冷却水入口に戻し通路を介して接続され、送り通路から流入する冷却水を熱交換により冷却して戻し通路に流出させるラジエータと、トランスミッションオイルと冷却水とを熱交換させるオイルクーラと、を備える車両の冷却システムであって、送り通路から分岐し、冷却水出口から流出した冷却水の一部をオイルクーラに供給する出口側冷却水供給経路と、戻し通路における冷却水入口の上流側の近傍の位置から分岐し、冷却水入口に向かう冷却水の一部をオイルクーラに供給する入口側冷却水供給経路と、出口側冷却水供給経路を流れる冷却水と入口側冷却水供給経路を流れる冷却水とのいずれか一方をオイルクーラに流入するように切り替え可能な流路切替バルブと、冷却水の冷却水温度と所定水温との比較結果およびトランスミッションオイルのオイル温度と所定オイル温度との比較結果に基づいて流路切替バルブを制御する制御部と、を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の冷却システムは、トランスミッションオイルを昇温させる場合にはトランスミッションの昇温を促進させることができ、トランスミッションオイルを降温させる場合にはトランスミッションの降温を促進させることができる。
【実施例0010】
以下、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムについて図面を用いて説明する。図1から図6は、本発明の一実施例に係る車両の冷却システムを示す図である。
【0011】
まず、構成を説明する。図1に示すように、車両1は、エンジン(図中、ENGと記す)2と、トランスミッション(図中、T/Mと記す)3と、電動機(図中、MGUと記す)4と、インバータ(図中、INVと記す)5とを備えている。
【0012】
エンジン2は、ガソリンまたはディーゼル燃料を用いる内燃機関型のエンジンであり、走行用の駆動力(エンジントルク)を発生する。エンジン2の内部には冷却水が流通する図示しないウォータジャケットが設けられている。エンジン2は、冷却水が流入する冷却水入口2Aと、冷却水が流出する冷却水出口2Bとを有している。
【0013】
トランスミッション3は、エンジン2に連結されており、エンジン2の発生する駆動力(エンジントルク)が伝達される。トランスミッション3は、図示しない変速機構を備えており、エンジン2から伝達された回転を変速機構によって変速し、図示しない駆動輪に伝達する。
【0014】
電動機4は、インバータ5を介して図示しないバッテリと電気的に接続されている。電動機4は、トランスミッション3における変速機構の後段の部分に内蔵されている。電動機4の発生する走行用の駆動力(電動機トルク)は、トランスミッション3の変速機構を介さずに駆動輪に伝達される。トランスミッション3および電動機4の内部には、トランスミッションオイルが流通する。
【0015】
電動機4にはオイルクーラ(図中、O/Cと記す)4Aが設けられており、オイルクーラ4Aは、トランスミッションオイルを、冷却水との熱交換により昇温または降温させる。
【0016】
インバータ5は、図示しないバッテリの直流電力を交流電力に変換して電動機4に供給し、電動機4が発電した交流電力を直流電力に変換してバッテリに供給する。
【0017】
車両1は、1つのラジエータ50を備えている。ラジエータ50は、走行風との熱交換により冷却水を冷却する。ラジエータ50は、エンジン2を冷却した相対的に高温の冷却水を冷却する高温部50Hと、インバータ5を冷却した相対的に低温の冷却水を冷却する低温部50Lと、を備えている。
【0018】
高温部50Hは、エンジン2から冷却水が流入する入口51Aと、冷却後の冷却水が流出する出口52Aとを有している。低温部50Lは、インバータ5から冷却水が流入する入口51Bと、冷却後の冷却水が流出する出口52Bとを有している。
【0019】
車両1はエンジン冷却水循環回路21を備えている。エンジン冷却水循環回路21は、エンジン2とラジエータ50とを接続しており、エンジン2とラジエータ50との間で冷却水を循環させる。ラジエータ50は、エンジン冷却水循環回路21を循環する冷却水を冷却する。
【0020】
エンジン冷却水循環回路21は、エンジン2からラジエータ50の高温部50Hに冷却水を送る送り通路21Aを備えており、送り通路21Aはエンジン2の冷却水出口2Bとラジエータ50の入口51Aとに接続されている。
【0021】
エンジン冷却水循環回路21は、ラジエータ50により冷却された冷却水をエンジン2に戻す戻し通路21Bを備えており、戻し通路21Bはラジエータ50の出口52Aとエンジン2の冷却水入口2Aとに接続されている。
【0022】
このように、ラジエータ50は、エンジン2の冷却水出口2Bに送り通路21Aを介して接続され、エンジン2の冷却水入口2Aに戻し通路21Bを介して接続されている。ラジエータ50は、送り通路21Aから流入する冷却水を熱交換により冷却して戻し通路21Bに流出させる。
【0023】
車両1は、エンジン2を駆動力源として作動する機械式のウォータポンプ(図中、WPと記す)32を備えている。ウォータポンプ32は、戻し通路21Bにおけるエンジン2の冷却水入口2Aの近傍に設けられており、戻し通路21Bから吸引した冷却水をエンジン2に送る。ウォータポンプ32の図示しないプーリーは、エンジン2の図示しないクランクプーリーに対して図示しないファンベルトを介して連結されており、ウォータポンプ32は、エンジン2の回転から得た動力により冷却水を強制的に循環させる。
【0024】
車両1はサーモスタット33を備えている。サーモスタット33は、戻し通路21Bにおけるウォータポンプ32の上流側の近傍に設けられている。サーモスタット33は、冷却水の温度が所定温度より低いときは閉弁し、エンジン冷却水循環回路21における冷却水の循環を阻止する。サーモスタット33は、冷却水の温度が所定温度より高くなると開弁し、エンジン冷却水循環回路21における冷却水の循環を許容する。すなわち、サーモスタット33が開弁している時は、戻し通路21Bの冷却水がウォータポンプ32によってエンジン2に送られる。また、ウォータポンプ32によってエンジン2に送られた冷却水は、エンジン2を冷却した後にエンジン2から排出され、送り通路21Aを通ってラジエータ50に導入される。そして、ラジエータ50で冷却された冷却水は、戻し通路21Bを通ってエンジン2に戻される。
【0025】
車両1は高温冷却水循環回路22を備えている。高温冷却水循環回路22は、エンジン2を少なくとも冷却する冷却水が循環する。エンジン2には高温冷却水循環回路22を介してヒータコア31およびEGRクーラ30が接続されている。
【0026】
ヒータコア31はエンジン2から導入された高温の冷却水との熱交換により図示しない車室を暖房する。EGRクーラ30は、エンジン2から排出された排気ガスを冷却水との熱交換により冷却する。EGRクーラ30により冷却された排気ガスはエンジン2の吸気経路に送られる。
【0027】
高温冷却水循環回路22は、エンジン2からヒータコア31に冷却水を送る送り通路22Aと、エンジン2からEGRクーラ30に冷却水を送る送り通路22Bと、ヒータコア31およびEGRクーラ30から冷却水をエンジン2に戻す戻し通路22Cとを有している。
【0028】
戻し通路22Cは、ヒータコア31からの冷却水とEGRクーラ30からの冷却水とを合流させるように集合している。送り通路22A、22Bの上流端は、エンジン冷却水循環回路21の送り通路21Aから分岐している。戻し通路22Cの下流端は、サーモスタット33内の迂回路に接続されている。したがって、エンジン2の運転中は、サーモスタット33の閉弁または開弁に関わらず、高温冷却水循環回路22を冷却水が常に循環する。
【0029】
車両1は、低温冷却水循環回路23を備えている。低温冷却水循環回路23は、高温冷却水循環回路22を循環する冷却水よりも低温の冷却水が循環する。インバータ5は、低温冷却水循環回路23を介してラジエータ50に接続されている。ラジエータ50は、低温冷却水循環回路23を循環する冷却水を冷却する。
【0030】
低温冷却水循環回路23は、インバータ5からラジエータ50に冷却水を送る送り通路23Aと、ラジエータ50からインバータ5に冷却水を戻す戻し通路23Bとを有している。戻し通路23Bには、電気により作動する電動ウォータポンプ(図中、EWPと記す)37が設けられている。低温冷却水循環回路23を循環する冷却水は、インバータ5を冷却する。
【0031】
したがって、低温冷却水循環回路23は、インバータ5とラジエータ50との間で冷却水を循環させる。低温冷却水循環回路23を循環する冷却水は、高温冷却水循環回路22を循環する冷却水よりも低温である。
【0032】
車両1は制御部10を備えている。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されるECU(Electronic Control Unit)として構成されている。
【0033】
制御部10のROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部10として機能させるためのプログラムが格納されている。制御部10は、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより目的の動作を達成する。
【0034】
制御部10は、少なくともエンジン2を駆動力源として用いて走行するエンジン走行モードと、エンジン2を駆動力源として用いずに電動機4を駆動力源として用いて走行するEV走行モードと、の何れかに走行モードを切り替える。エンジン走行モードには、エンジン2を駆動力源として用いて走行する状態と、エンジン2および電動機4の両方を駆動力源として用いて走行する状態とがある。
【0035】
トランスミッション3に電動機4を内蔵する車両1にあっては、電動機4を駆動するインバータ5の管理温度の影響を受けてトランスミッション3が適温範囲より低温に冷却された場合、トランスミッションオイルが高粘度となりトランスミッション3の伝達効率が悪化する。一方、トランスミッション3が適温範囲より高温に昇温した場合、トランスミッション3およびその内部の電動機4の耐久性が悪化する。トランスミッションオイルのオイル温度の昇温および降温を促進するために、オイルクーラ4Aをラジエータ50の高温部50Hまたは低温部50Lに繋ぎ替えるように構成することが考えられる。しかし、ラジエータ50の高温部50Hおよび低温部50Lは、互いに異なる温度帯を受け持っており、冷却水の圧力も互いに異なるため、温度帯等に制約されずにこのような繋ぎ替えをすることは技術的に困難であったり、構造の複雑化を引き起こしたりしてしまう。
【0036】
そこで、本実施例では、車両1は、トランスミッション3の冷却にラジエータ50の高温部50Hを用いる構成のままで、トランスミッションオイルの昇温および降温を促進させることができるように、出口側冷却水供給経路24と、入口側冷却水供給経路25と、流路切替バルブ41と、を備えている。
【0037】
出口側冷却水供給経路24は、送り通路21Aから分岐し、冷却水出口2Bから流出した冷却水の一部をオイルクーラ4Aに供給する。
【0038】
入口側冷却水供給経路25は、戻し通路21Bにおける冷却水入口2Aの上流側の近傍の位置から分岐し、冷却水入口2Aに向かう冷却水の一部をオイルクーラ4Aに供給する。
【0039】
流路切替バルブ41は、制御部10による制御によって、オイルクーラ4Aへの冷却水の供給状態を切り替える。流路切替バルブ41は、出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水と入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水とのいずれか一方をオイルクーラ4Aに流入するように切り替え可能に構成されている。
【0040】
本実施例では、送り通路21Aと流路切替バルブ41とが出口側冷却水供給経路24により接続されている。また、戻し通路21Bと流路切替バルブ41とが入口側冷却水供給経路25により接続されている。流路切替バルブ41は、オイルクーラ4Aの冷却水導入通路45に接続されている。オイルクーラ4Aの冷却水排出通路26は、戻し通路22Cに接続されている。オイルクーラ4Aを冷却した冷却水は、冷却水排出通路26を通って戻し通路22Cに流出する。
【0041】
制御部10は、冷却水の冷却水温度と所定水温TWcとの比較結果およびトランスミッションオイルのオイル温度と所定オイル温度TOcとの比較結果に基づいて流路切替バルブ41を制御する。
【0042】
流路切替バルブ41は、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水と出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水とを遮断して、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水と出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水とがオイルクーラ4Aに流入しない第1状態(図2参照)と、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水を遮断して出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水がオイルクーラ4Aに流入する第2状態(図3参照)と、出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水を遮断して入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水がオイルクーラ4Aに流入する第3状態(図4参照)と、に切替可能に構成されている。
【0043】
図2に示すように、流路切替バルブ41が第1状態のときは、出口側冷却水供給経路24とオイルクーラ4Aの冷却水導入通路45との間が遮断され、入口側冷却水供給経路25とオイルクーラ4Aの冷却水導入通路45との間が遮断される。このため、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水と出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水とがオイルクーラ4Aに流入しない。
【0044】
図3に示すように、流路切替バルブ41が第2状態のときは、出口側冷却水供給経路24が、流路切替バルブ41を介してオイルクーラ4Aの冷却水導入通路45に連通している。このため、冷却水出口2Bから送り通路21Aに流出した冷却水の一部が出口側冷却水供給経路24を通ってオイルクーラ4Aに供給される。
【0045】
図4に示すように、流路切替バルブ41が第3状態のときは、入口側冷却水供給経路25が、流路切替バルブ41を介してオイルクーラ4Aの冷却水導入通路45に連通している。このため、戻し通路21B内を冷却水入口2Aに向かう冷却水の一部が入口側冷却水供給経路25を通ってオイルクーラ4Aに供給される。
【0046】
図5は、冷却水温度およびオイル温度に対する流路切替バルブの制御状態を示している。図5において、所定水温TWcは、エンジン水温に係る閾値であり、エンジン2の廃熱をトランスミッション3の暖機に利用してもよい下限水温である。また、所定オイル温度TOcは、電動機4およびトランスミッション3の構成部品の保護のためにトランスミッションオイルの冷却が必要な下限油温である。
【0047】
図5に示すように、冷却水温度(図中、エンジン水温と記す)が所定水温TWc未満で、かつ、オイル温度(図中、トランスミッション油温と記す)が所定オイル温度TOc未満である場合、制御部10は、流路切替バルブ41を第1状態に切り替える。冷却水温度が所定水温TWc以上で、かつ、オイル温度が所定オイル温度TOc未満である場合、制御部10は、流路切替バルブ41を第2状態に切り替える。オイル温度が所定オイル温度TOc以上である場合、制御部10は、流路切替バルブ41を第3状態に切り替える。
【0048】
図6において、縦軸は温度を表し、横軸は温度の測定部位を表している。詳しくは、図6は、エンジン2の冷却水入口2A(図中、エンジン入口と記す)および冷却水出口2B(図中、エンジン出口と記す)における冷却水温度(図中、エンジン水温と記す)と、トランスミッションオイルのオイル温度(図中、トランスミッション油温と記す)とを表している。
【0049】
図6に示すように、冷却水出口2Bにおける冷却水温度の温度帯は、エンジン2の内部での昇温により、冷却水入口2Aにおける冷却水温度の温度帯よりも高い。また、トランスミッションオイルのオイル温度の温度帯は、エンジン2の冷却水温度の温度帯よりも広い。トランスミッションオイルのオイル温度の許容最高温度および所定オイル温度TOcは、冷却水出口2Bにおける冷却水温度の許容最高温度よりも高く設定されている。
【0050】
例えば、トランスミッションオイルのオイル温度が許容最高温度である場合、オイル温度が所定オイル温度TOc以上であるために流路切替バルブ41が第3状態に切り替えられる。このため、戻し通路21B内を冷却水入口2Aに向かう冷却水の一部が入口側冷却水供給経路25を通ってオイルクーラ4Aに供給される。ここで、オイルクーラ4Aにおけるオイル温度と冷却水温度との温度差は、冷却水出口2Bからオイルクーラ4Aに冷却水を供給する場合の温度差△T1よりも、冷却水入口2Aからオイルクーラ4Aに冷却水を供給する場合の温度差△T2の方が大きい。このため、より低温の冷却水を用いてトランスミッション3を冷却することができる。したがって、トランスミッション3の降温を促進させることができる。
【0051】
一方、冷却水の水温が所定水温TWc以上で、かつ、オイル温度が所定オイル温度TOc未満である場合、流路切替バルブ41が第2状態に切り替えられる。このため、冷却水出口2Bから送り通路21Aに流出した冷却水の一部が出口側冷却水供給経路24を通ってオイルクーラ4Aに供給される。この場合、冷却水出口2Bの冷却水温度が冷却水入口2Aの近傍の冷却水温度よりも高温であるため、トランスミッション3の昇温を促進させることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施例の車両の冷却システムは、送り通路21Aから分岐し、冷却水出口2Bから流出した冷却水の一部をオイルクーラ4Aに供給する出口側冷却水供給経路24と、戻し通路21Bにおける冷却水入口2Aの上流側の近傍の位置から分岐し、冷却水入口2Aに向かう冷却水の一部をオイルクーラ4Aに供給する入口側冷却水供給経路25と、出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水と入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水とのいずれか一方をオイルクーラ4Aに流入するように切り替え可能な流路切替バルブ41と、を備えている。そして、制御部10は、冷却水の冷却水温度と所定水温TWcとの比較結果およびトランスミッションオイルのオイル温度と所定オイル温度TOcとの比較結果に基づいて流路切替バルブ41を制御する。
【0053】
これにより、トランスミッションオイルを昇温させる場合には、出口側冷却水供給経路24を流れる高温の冷却水がオイルクーラ4Aに流入するように流路切替バルブ41を切り替えることで、トランスミッションオイルの昇温を促進させることができる。また、トランスミッションオイルを降温させる場合には、入口側冷却水供給経路25を流れる低温の冷却水がオイルクーラ4Aに流入するように流路切替バルブ41を切り替えることで、トランスミッションオイルの降温を促進させることができる。
【0054】
この結果、トランスミッションオイルを昇温させる場合にはトランスミッション3の昇温を促進させることができ、トランスミッションオイルを降温させる場合にはトランスミッション3の降温を促進させることができる。
【0055】
また、本実施例の車両の冷却システムにおいて、制御部10は、冷却水温度が所定水温TWc以上で、かつ、オイル温度が所定オイル温度TOc未満である場合、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水を遮断して出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水がオイルクーラ4Aに流入するように流路切替バルブ41を制御する。
【0056】
これにより、エンジン2の冷却水出口2Bから流出した相対的に高温の冷却水をオイルクーラ4Aに供給することができ、トランスミッション3およびトランスミッションオイルの昇温を促進することができる。
【0057】
また、本実施例の車両の冷却システムにおいて、制御部10は、オイル温度が所定オイル温度TOc以上である場合、出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水を遮断して入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水がオイルクーラ4Aに流入するように流路切替バルブ41を制御する。
【0058】
これにより、ラジエータ50からエンジン2の冷却水入口2Aに向かう相対的に低温の冷却水をオイルクーラ4Aに供給することができ、トランスミッション3およびトランスミッションオイルの降温を促進することができる。これに加え、トランスミッション3を構成する電動機4等の部品を降温させて保護することができる。
【0059】
また、本実施例の車両の冷却システムにおいて、制御部10は、冷却水温度が所定水温TWc未満で、かつ、オイル温度が所定オイル温度TOc未満である場合、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水と出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水とを遮断して、入口側冷却水供給経路25を流れる冷却水と出口側冷却水供給経路24を流れる冷却水とがオイルクーラ4Aに流入しないように流路切替バルブ41を制御する。
【0060】
これにより、オイルクーラ4Aで冷却水が冷却されることがなくなるため、エンジン2の昇温を促進することができる。
【0061】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 エンジン
2A 冷却水入口
2B 冷却水出口
3 トランスミッション
4A オイルクーラ
10 制御部
21 エンジン冷却水循環回路
21A 送り通路
21B 戻し通路
24 出口側冷却水供給経路
25 入口側冷却水供給経路
41 流路切替バルブ
50 ラジエータ
TOc 所定オイル温度
TWc 所定水温
図1
図2
図3
図4
図5
図6