(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128687
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20230907BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230907BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230907BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08J7/04 B CFD
B32B27/36
B32B27/20 Z
B32B3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033217
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千代 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】東大路 卓司
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AA55
4F006AB24
4F006AB32
4F006AB76
4F006BA07
4F006BA12
4F006CA05
4F006CA08
4F006EA03
4F006EA06
4F100AA20A
4F100AA20B
4F100AA21B
4F100AK25B
4F100AK36B
4F100AK41A
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4F100AK51B
4F100AK54B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02B
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4F100DD07A
4F100DE01A
4F100DE01B
4F100EH46B
4F100EJ38A
4F100EJ943
4F100GB15
4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JA06A
4F100JB04B
4F100JB04C
4F100JG03B
4F100JK07A
4F100JK14A
4F100JK16A
4F100JL14B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】フィルム片面に、突起を有し表面弾性率が制御された高平滑な表面を設け、反対側に表面特性を制御した塗布層を有することで、次世代微細配線向けのレジスト特性に優れながら、ロールとして巻き取った後の塗布層の削れを抑制した二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】次の(1)を満たす表面(A面)を有し、A面とは反対に設けられた塗布層が次の(2)、(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1) 前記A面において、AFM(Atomic Force Microscope)で測定した高さ1nm以上10nm未満の突起個数をN1-10nmA(個/25μm2)とした場合に、N1-10nmAが100以上1000以下であること。
(2) 前記塗布層の厚みが10nm以上200nm以下であること。
(3) 前記塗布層が、平均一次粒子径が3nm以上300nm以下の粒子を塗布層全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下含有すること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)を満たす表面(A面)を有し、A面とは反対に設けられた塗布層が次の(2)、(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1) 前記A面において、AFM(Atomic Force Microscope)で測定した高さ1nm以上10nm未満の突起個数をN1-10nmA(個/25μm2)とした場合に、N1-10nmAが100以上1000以下であること。
(2) 前記塗布層の厚みが10nm以上200nm以下であること。
(3) 前記塗布層が、平均一次粒子径が3nm以上300nm以下の粒子を塗布層全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下含有すること。
【請求項2】
前記A面を、光干渉式顕微鏡で測定し得られる高さ50nm以上の突起個数をN50nm(個/mm2)とした場合に、N50nmが50以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記A面を、AFMを用いた表面弾性率測定において、A面が有する高さ10nm以上の突起の最大弾性率をFMAX(GPa)、高さ1nm以上10nm未満における平均弾性率をFAVE(GPa)とした場合に、FMAX/FAVEが50以下である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記A面を構成する層をP1層とした場合に、P1層の主成分がポリエステル樹脂であり、前記ポリエステル樹脂の固有粘度であるIVP1(dl/g)が0.45以上0.55以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記塗布層の表面をB面とし、前記B面の表面自由エネルギーをEB(mN/m)、前記A面の表面自由エネルギーをEA(mN/m)とした場合に、フィルム両面の表面自由エネルギー差の絶対値|EA-EB|(mN/m)が5以上である請求項1~4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記フィルム両面の表面自由エネルギー差であるEA-EB(mN/m)が5以上である請求項5に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記フィルム両面の表面自由エネルギー差であるEA-EB(mN/m)が-5以下である請求項5に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
ドライフィルムレジスト用基材フィルムとして用いられる請求項1~7のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の特性を有する面をフィルム両面に設けた二軸配向ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂はその加工性の良さから、様々な工業分野に利用されている。また、これらポリエステル樹脂をフィルム状に加工した製品(ポリエステルフィルム)は工業用途、光学製品用途、包装用途、磁気記録テープ用途など今日の生活において重要な役割を果たしている。
近年、電子情報機器において、小型化、高集積化が進み、それに伴って、電子情報機器の配線も微細化が進展している。これら電子情報機器の微細な配線の作製には、透明なフィルムを支持体とし、表面に光硬化性の樹脂層(レジスト層)を設けたものを薄膜銅が張り合わされた基板と密着させ、フィルムごとフォトレジスト技術を用いて銅配線形状を描写し、フィルム剥離後ドライフィルムレジスト工法を用いることが多く、次世代製品では配線幅が2~5μmと非常に精細な加工を行うことが必要となってくる。
一般に、ポリエステルフィルムは、製造工程にて製膜した後、ロール状に巻き取られる。この時、フィルム表面が平滑すぎるとフィルム同士が密着するため、フィルムの巻取り性が悪化する。そのため、フィルムの巻取り性を担保するためにフィルムに粒子を添加・含有させることで、フィルム表面を一定程度荒らす(フィルム表面に突起を形成させる)方法が知られている。添加する粒子の量を低減させたり、添加粒子の粒径を小径化したりすることでレジスト配線描写に寄与するフィルムの光学特性を高めることができるが、特にフィルム表面にコーティング手法を用いて粒子を含有する薄膜の塗布層を設けることで、前記光学特性とフィルムの巻取り性を両立することができ、例えば特許文献1では、特定の粒子径を有する粒子を含有した塗布層を粒子含有フィルムの上に設けることで優れた光学特性を制御する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の様な粒子を含有するフィルムでは表面の粒子に由来する表面突起によりフィルム製膜時のロール巻取り工程、スリット工程、さらにフィルム後加工時のフィルム両面の擦れにより塗布層が削れや塗布層に含有される粒子が脱落することで光学特性が時間経過と共に悪化することが課題となることが判明した。
【0005】
本発明は、フィルム表面に高さを制御した微細な突起を形成させ高平滑な面とすると共に、突起を有する面の表面弾性率、および塗布層の表面特性を制御することで、塗布層の削れや粒子脱落が抑制されたポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を取る。すなわち、
[I]次の(1)を満たす表面(A面)を有し、A面とは反対に設けられた塗布層が次の(2)、(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1) 前記A面において、AFM(Atomic Force Microscope)で測定した高さ1nm以上10nm未満の突起個数をN1-10nmA(個/25μm2)とした場合に、N1-10nmAが100以上1000以下であること。
(2) 前記塗布層の厚みが10nm以上200nm以下であること。
(3) 前記塗布層が、平均一次粒子径が3nm以上300nm以下の粒子を塗布層全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下含有すること。
[II]前記A面を、光干渉式顕微鏡で測定し得られる高さ50nm以上の突起個数をN50nm(個/mm2)とした場合に、N50nmAが50以下である[I]に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[III]前記A面を、AFMを用いた表面弾性率測定において、A面が有する高さ10nm以上の突起の最大弾性率をFMAX(GPa)、高さ1nm以上10nm未満における平均弾性率をFAVE(GPa)とした場合に、FMAX/FAVEが50以下である[I]または[II]に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[IV]前記A面を構成する層をP1層とした場合に、P1層の主成分がポリエステル樹脂であり、前記ポリエステル樹脂の固有粘度であるIVP1(dl/g)が0.45以上0.55以下であることを特徴とする[I]~[III]のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[V]前記塗布層の表面をB面とし、前記B面の表面自由エネルギーをEB(mN/m)、前記A面の表面自由エネルギーをEA(mN/m)とした場合に、フィルム両面の表面自由エネルギー差の絶対値|EA-EB|(mN/m)が5以上である[I]~[IV]のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[VI]前記フィルム両面の表面自由エネルギー差であるEA-EB(mN/m)が5以上である[V]に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[VII]前記フィルム両面の表面自由エネルギー差であるEA-EB(mN/m)が-5以下である[V]に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
[VIII]ドライフィルムレジスト用基材フィルムとして用いられる[I]~[VII]のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0007】
フィルム片面に、突起を有し表面弾性率が制御された高平滑な表面を設け、反対側に表面特性を制御した塗布層を有することで、次世代微細配線向けのレジスト特性に優れながら、ロールとして巻き取った後の塗布層の削れ発生、粒子脱落を抑制した二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】AFM測定、および走査型白色干渉顕微鏡で測定されるA面の有する突起を表す概念図である。
【
図2】本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの2層構成図
【
図3】本発明の塗布層を有する場合のポリエステルフィルムの3層構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
次の(1)を満たす表面(A面)を有し、A面とは反対に設けられた塗布層が次の(2)、(3)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。
(1) 前記A面において、AFMで測定した高さ1nm以上10nm未満の突起個数 をN1-10nm(個/25μm2)とした場合に、N1-10nmが100以上1000以下であること。
(2) 前記塗布層の厚みが10nm以上200nm以下であること。
(3) 前記塗布層が、平均一次粒子径が3nm以上300nm以下の粒子を塗布層全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下含有すること。
【0011】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは前記A面を有するポリエステル樹脂層(P1層)、を有し、前記A面とは反対面(B面)を有する塗布層(P2層)を有するP1層/P2層の2層積層構成が好ましく、前記P1層と塗布層でありP2層の間に粒子を含有しない中間層(P3)を有するP1層/P3層/P2層の3層積層構成を取ることが好ましい。
【0012】
(突起を有する面:A面)
本発明における前記A面は突起を有し、後述の手法に従ったAFM(Atomic Force Microscope)測定にて得られる高さ1nm以上10nm未満の突起個数をN1-10nmA(個/25μm2)とした場合に、N1-10nmが100以上1000以下である。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムをドライフィルムレジスト用基材フィルムとして用いた場合にN1-10nmAは前記A面の地肌部に形成された微細な突起の個数を表し、前記A面の易滑性、および前記A面上にレジスト層を設け前記A面とは反対面側から露光加工を行う場合の微細配線向けレジスト特性に影響を与える値であり、また、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造しフィルムロールとして巻き取る場合にロールの巻き姿やA面の傷つきに影響を与える。
前記A面におけるN1-10nmA(個/25μm2)が100以上となることで、ロール巻取りの際に、前記A面とは反対面に設けられる塗布層表面(B面)との接触する面積(接触面積)を減少させ、前記面間の摩擦を低減させることでフィルムロールの巻き姿を向上させることができる。また、前記A面におけるN1-10nmA(個/25μm2)を1000以下とすることで、フィルム両面の摩擦が過剰に低減し、フィルムロールの巻きズレ発生を抑制することができる。前記A面におけるN1-10nmA(個/25μm2)のより好ましい範囲としては250以上である。
【0013】
本発明における、後述の走査型白色干渉顕微鏡測定により得られる前記A面の高さ50nm以上の突起個数N50nmA(個/mm2)は50以下であることが好ましい。前記N50nmA(個/mm2)は、前記A面に存在するフィルムロール巻取り時に前記塗布層にダメージを与える突起個数を反映した値であり、前記B面との摩擦が発生する際に前記塗布層の削り異物発生を誘発し、また前記B面の含有粒子による突起と衝突することで粒子の脱落を誘発する。本発明における前記A面の高さ50nm以上の突起個数は、走査型白色干渉顕微鏡付属のソフトウェアにより求まるISO 25178に基づき、後述する測定方法により測定される値である。前記高さ50nm以上の突起個数N50nmA(個/mm2)を50以下とすることで、前記塗布層へのダメージを抑えることができ、ドライフィルムレジスト用工程フィルムとして用いる際には、前記塗布層が削れることにより発生する異物混入でレジスト配線形成の歩留まりが低下することを抑制することが出来る。前記A面の高さ50nm以上の突起個数N50nmA(個/mm2)のより好ましい範囲としては15以下である。
【0014】
(A面を構成するポリエステル樹脂層:P1層)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、前記A面はポリエステル樹脂を主成分とする層(P1層)から構成されることが好ましい。
【0015】
(ポリエステル樹脂)
本発明で言う二軸配向ポリエステルフィルムとは、ポリエステル樹脂を主成分とするフィルムを示す。ここでいう主成分とはフィルムの全成分100質量%において、50質量%を超えて含有している成分を示す。
【0016】
また、本発明で言うポリエステル樹脂はジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を重縮合してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。
【0017】
かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0018】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環式ジオール類、上述のジオールが複数個連なったものなどが挙げられる。
【0019】
本発明において用いられるポリエステル樹脂としては、機械特性、透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、およびPETのジカルボン酸成分の一部にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸を共重合したもの、PETのジオール成分の一部にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコールを共重合したポリエステルが好適に用いられ、その中でも特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0020】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおけるポリエステルフィルムは二軸配向していることが好ましい。二軸配向していることにより、フィルムの機械強度が向上することでシワが入りにくくなり、巻取り性を向上させることができ、また延伸工程において均一な延伸応力をかけることで表面の平滑性をフィルム全域において均一にすることができる。ここでいう二軸配向とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。ポリエステルフィルムは、一般に未延伸状態の熱可塑性樹脂シートをシート長手方向および幅方向に延伸し、その後熱処理を施し結晶配向を完了させることにより、得ることができる。詳しい製膜条件に関しては後述する。
【0021】
本発明のP1層が有する前記A面において、前記AFM(Atomic Force Microscope)測定にて得られる高さ1nm以上10nm未満の突起個数であるN1-10nmA(個/25μm2)を上記の範囲とするための方法としては、例えば、ナノインプリントのようにモールドを用いて表面に形状を転写させる方法、未延伸シートに大気圧グロー放電によるプラズマ表面処理をした後、二軸延伸を行う方法などが挙げられる。インラインでの製膜適応性や微細な突起の形成個数の観点からは、大気圧グロー放電によるプラズマ処理を行い二軸延伸することがより好ましい。
【0022】
大気圧グロー放電によるプラズマ表面処理はポリエステルフィルム製造工程において押出後の未延伸フィルムの状態で処理を施しても延伸後フィルムに処理を施しても良いが、前記A面に平滑性とともに易滑性を付与できる観点から、未延伸フィルムの状態に大気圧グロー放電によるプラズマ表面処理を施すことが最も好ましい。これは大気圧グロー放電によるプラズマ表面処理により非晶ポリエステル部分が削り取られ、その後の延伸製膜工程にて表面に残存した結晶ポリエステル部分が凸部として結晶成長し表面に微細な突起が形成させるためである。
【0023】
ここでいう大気圧とは700Torr~780Torrの範囲である。大気圧グロー放電処理は、相対する電極とアースロール間に処理対象のフィルムを導き、装置中にプラズマ励起性気体を導入し、電極間に高周波電圧を印加することにより、該気体をプラズマ励起させ電極間においてグロー放電を行うものである。これによりフィルム表面が微細に加工(アッシング)され突起が形成する。
【0024】
プラズマ励起性気体とは前記のような条件においてプラズマ励起されうる気体をいう。プラズマ励起性気体としては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、窒素、二酸化炭素、酸素、またはテトラフルオロメタンのようなフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。また、プラズマ励起性気体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の混合比で組み合わせてもよい。
【0025】
プラズマ処理における高周波電圧の周波数は1kHz~100kHzの範囲が好ましい。また、以下方法で求められる放電処理強度(E値)は、50~1000W・min/m2の範囲で処理することが突起形成の観点から好ましく、より好ましくは150~800W・min/m2である。放電処理強度(E値)が50W・min/m2以上であることにより、突起を十分に形成でき、放電処理強度(E値)が1000W・min/m2以下であることにより、ポリエステルフィルムに過度なダメージを与えることを抑制でき表面異物の発生を低減できる。
【0026】
<放電処理強度(E値)の求め方>
E=Vp×Ip/(S×Wt)
E:E値(W・min/m2)
Vp:印加電圧(V)
Ip:印加電流(A)
S:処理速度(m/min)
Wt:処理幅(m)
一般的に、大気圧グロー放電処理によってポリエステルフィルム、特にPETやPENのように非晶部と結晶部を持つフィルムの表面をアッシングする場合、柔らかい非晶部からアッシングされていく。結晶部と非晶部を細分化させることで、大気圧グロー放電処理することでより微細な突起を形成することができ、前記N1-10nmAを増加させることが出来る。
【0027】
本発明のP1層が有する前記A面において、前記AFM(Atomic Force Microscope)測定にて得られる高さ1nm以上10nm未満の突起個数であるN1-10nmA(個/25μm2)を上記の範囲とするための方法としては、前記P1層に含有させる粒子の粒子径および量を制御する方法や、主成分とするポリエステル樹脂とは異なる骨格を有するポリエステル樹脂または他の樹脂をアロイすることで樹脂ドメインを形成させポリエステルフィルムとの延伸性の違いから高い突起を形成させる方法などで制御することも好ましく例示される。
【0028】
添加する粒子に関しては、無機粒子、有機粒子どちらを用いても良く、2種類以上の粒子を併用してもよい。無機粒子としては例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、リン酸カルシウム、アルミナ(αアルミナ、βアルミナ、γアルミナ、δアルミナ)、マイカ、雲母、雲母チタン、ゼオライト、タルク、クレー、カオリン、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、ジルコニア、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカなどが挙げられる。有機粒子としては例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などを構成成分とする有機粒子、コアシェル型有機粒子などが例示できる。
【0029】
前記粒子の平均粒子径は、前記A面に易滑性を付与しながら前記高さ50nm以上の突起個数N50nmAを好ましい範囲に制御する観点から、平均粒子径が10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の前記P1層が含有する粒子量としては、粒子凝集による高さ50nm以上の突起の過剰な形成を防ぐ観点から0.5質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0031】
前記P1層にアロイさせる樹脂としては、ポリエステル樹脂と同時に溶融押出しが可能であれば特に制限は無いが、例えば上述にて例示したポリエステル樹脂および共重合体を複数種類用いることや、他樹脂としては特開2021-55077号公報などに記載されるポリエーテルイミド樹脂を用いることができる。
【0032】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、P1層の固有粘度(IV)をIVP1(dl/g)とした場合、IVP1(dl/g)は0.45以上0.55以下であることが好ましい。IVは分子鎖の長さを反映した数字であり、分子鎖が短い方が延伸・熱処理を行った際にポリエステル分子が配向・結晶化しやすく、延伸製膜工程での突起形成を促進し易滑性を向上させやすい傾向にある。また製膜後の結晶化が進行することで、後述する粒子を含有する場合でも表面弾性率をより均一にすることで塗布層の削れ発生を抑制することができる。IVP1を0.45dl/g以上とすることで、ポリエステル樹脂を溶融押出しする際に圧力が掛からず気泡が発生することで製膜が困難になることを抑制することができる。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムの前記A面において、後述のAFM(Atomic Force Microscope)測定にて得られるA面の有する高さ10nm以上の突起の最大弾性率をFMAX(GPa)、高さ10nm未満における平均弾性率をFAVE(GPa)とした場合に、FMAX/FAVEが50以下であることが好ましい。FMAX/FAVEは、上述の粒子添加や樹脂アロイによって形成する高さ10nm以上の突起部分の表面弾性率と主成分であるポリエステル樹脂の表面弾性率の比率を表した値であり、前記A面の表面弾性率の均一性を反映した値である。
【0034】
前記FMAX/FAVEを50以下とすることで、前記A面に存在する高い突起の弾性率と地肌のポリエステル樹脂との差を小さくすることで、前記A面と前記B面を有する塗布層が接触する際に面全体として均一な弾性変形を引き起こすため、局所的な高弾性部に引っかかり塗布層が削れることを抑制することができる。FMAX/FAVEのより好ましい範囲としては30以下であり、更に好ましくは10以下である。前記A面に高さ10nm以上の突起が存在しない場合は、AFM(Atomic Force Microscope)測定よって得られる高さ1nm以上10nm未満の領域における突起の弾性率の最大値をFMAXとする。詳しくは後述する。
【0035】
(塗布層:P2層)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける前記A面とは反対に形成される塗布層をP2層とした場合、帯電防止剤や離型剤から選ばれる少なくとも1種類以上の機能性添加剤(A)と、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、アクリル樹脂、シリコーン樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂または化合物(B)と粒子成分(C)とを含有する塗料組成物を用いて構成されることが好ましい。
【0036】
<機能性添加剤(A)>
本発明における塗布層(P2層)の塗料組成物は、帯電防止剤や離型剤から選ばれる少なくとも1種類以上の機能性添加剤(A)を含有させることが好ましい。これは、後述する塗布層表面(B面)の表面自由エネルギーを制御するためだけではなく、ドライフィルムレジスト用基材フィルムとして用いる場合に、離型剤であればフィルム搬送・工程ロールとの易滑性が向上し、帯電防止剤であればフィルムロール巻き出し時にフィルム表面への異物付着の抑制を達成することが可能であるからである。
【0037】
(離型剤)
本発明において用いることのできる離型剤としては、長鎖アルキル基含有樹脂、オレフィン樹脂、フッ素化合物、ワックス系化合物などが挙げられる。中でも、長鎖アルキル基含有樹脂は、良好な剥離性を付与できる点で好ましい。
【0038】
長鎖アルキル基含有化合物は市販されているものを使用してもよく、具体的には、アシオ産業社製の長鎖アルキル系化合物である“アシオレジン”(登録商標)シリーズ、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の長鎖アルキル化合物である“ピーロイル”シリーズ、中京油脂社製の長鎖アルキル系化合物の水性分散体である“レゼム”シリーズなどを使用することができる。前記離型剤(A)は、炭素数12以上のアルキル基を有することが好ましく、炭素数16以上のアルキル基を有することがより好ましい。アルキル基の炭素数を12以上にすることで、疎水性が高まることとなり、離型剤(A)として十分な離型性能を発現させることができる。アルキル基の炭素数が12未満であると、離型性能が不十分なものとなる恐れがある。アルキル基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、25以下であると製造が容易であるため好ましい。
【0039】
前記炭素数12以上のアルキル基を有する樹脂は、ポリメチレンの主鎖に炭素数12以上のアルキル基の側鎖を有する樹脂であることがより好ましい。主鎖がポリメチレンであることで、樹脂全体の親水基が少なくなるため、離型剤(A)の離型効果をより優れたものとすることができる。
【0040】
なお、炭素数12のアルキル基の含有有無については積層フィルムからも、例えばTOF-SIMS(TOF-SIMS:飛行時間型二次イオン質量分析法)にて得られる信号の内、アルキル基に相当する物の強度を用いて評価することが出来る。このとき、イオンスパッタ法による切削法を併用することで深さ方向に連続的に測定を行うことが可能で有り、アルキル基含有化合物の分布状態についても評価することが出来る。
【0041】
(帯電防止剤)
本発明において用いることのできる帯電防止剤としては、ポリスチレンスルホン酸共重合体や、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリマー骨格内に有するイオン導電タイプでも、ポリチオフェン系化合物、ポリアニリン系化合物、アンチモンドーピングした酸化スズ系化合物などの電子伝導タイプの帯電防止剤のいずれでもよい。中でもポリチオフェン系化合物と遊離酸状態の酸性高分子であるポリスチレンスルホン酸とを組合せが入手しやすく安価で使いやすい。
【0042】
ポリチオフェン系導電体化合物としては、例えば、チオフェン環の3位と4位の位置が置換された構造を有する化合物などを用いることができる。更にはチオフェン環の3位と4位の炭素原子に酸素原子が結合した化合物を好適に用いることができる。該炭素原子に直接、水素原子あるいは炭素原子が結合したものは、塗液の水性化が容易でない場合がある。上記化合物は、例えば、特開2000-6324号公報、欧州特許第602713号、米国特許第5391472号に開示された方法により製造することができるが、これら以外の方法であってもよい。
【0043】
例えば、3,4-ジヒドロキシチオフェン-2,5、-ジカルボキシエステルのアルカリ金属塩を出発物質として、3,4-エチレンジオキシチオフェンを得た後、ポリスチレンスルホン酸水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸鉄と、先に得た3,4-エチレンジオキシチオフェンを導入して反応させることにより、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェンに、ポリスチレンスルホン酸などの酸性ポリマーが複合体化した組成物を得ることができる。
【0044】
またポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン及びポリスチレンスルホン酸を含む水性の塗料組成物として、H.C.Starck社(ドイツ国)から、“Baytron”Pとして販売されているものなどを用いることができる。
【0045】
一方、遊離酸状態の酸性高分子としては、例えば高分子カルボン酸、あるいは、高分子スルホン酸、ポリビニルスルホン酸などが挙げられる。高分子カルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸が例示される。また、高分子スルホン酸としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸が例示され、特に、ポリスチレンスルホン酸が帯電防止性の点で好ましい。なお、遊離酸は、一部が中和された塩の形をとってもよい。また、共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどと共重合した形で用いることもできる。高分子カルボン酸や高分子スルホン酸の分子量は特に限定されないが、塗剤の安定性や帯電防止性の点で、その重量平均分子量は1000以上1000000以下であることが好ましく、より好ましくは5000以上150000以下である。また、発明の特性を阻害しない範囲で、一部、リチウム塩やナトリウム塩などのアルカリ塩やアンモニウム塩などを含んでもよい。ポリ陰イオンが中和された塩の場合も、トーパントとして作用すると考えられる。これは、非常に強い酸として機能するポリスチレンスルホン酸とアンモニウム塩は、中和後の平衡反応の進行により、酸性サイドに平衡がずれるためである。
【0046】
<樹脂または化合物(B)>
本発明の前記P2層において用いることのできる樹脂または化合物(B)としては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0047】
樹脂または化合物(B)として用いることができるポリエステル樹脂としては、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、ジカルボン酸とジオールから重縮合して得られるものが好ましい。
【0048】
ポリエステル樹脂の原料となるジカルボン酸としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。脂肪族及び脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、及びそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0049】
ポリエステル樹脂の原料となるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’-メチレンジフェノール、4,4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-、m-、及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2’-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオールなどを用いることができる。
【0050】
また、ポリエステル樹脂として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることも可能である。
【0051】
樹脂または化合物(B)として用いることができるエポキシ樹脂としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系架橋剤などを用いることができる。エポキシ樹脂として、市販されているものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテック株式会社製エポキシ化合物“デナコール”(登録商標)EX-611、EX-614、EX-614B、EX-512、EX-521、EX-421、EX-313、EX-810、EX-830、EX-850など)、坂本薬品工業株式会社製のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物(SR-EG、SR-8EG、SR-GLGなど)、大日本インキ工業株式会社製エポキシ架橋剤“EPICLON”(登録商標)EM-85-75W、あるいはCR-5Lなどを好適に用いることができ、中でも、水溶性を有するものが好ましく用いられる。
【0052】
樹脂または化合物(B)として用いることができるメラミン樹脂としては、例えば、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。また、メラミン樹脂としては、単量体または2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。エーテル化に用いられる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノールなどを用いることができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂及び完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などである。その中でも、メチロール化メラミン樹脂が最も好ましく用いられる。
【0053】
また、樹脂または化合物(B)として用いることができるオキサゾリン化合物は、該化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであり、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体からなるものが好ましい。
【0054】
オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを用いることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0055】
オキサゾリン化合物において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーは、該オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであり、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α,β-不飽和モノマー類、スチレン及びα-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族モノマー類などを用いることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0056】
また、樹脂または化合物(B)として用いることができるカルボジイミド化合物は、該化合物中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に1個または2個以上有する化合物である。このようなカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド及びウレア変性カルボジイミド等を挙げることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0057】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの塗布層は、樹脂または化合物(B)としてイソシアネート化合物を含んでいても良い。イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ビトリレン-4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0058】
さらに、イソシアネート基は水と反応し易いため、塗剤のポットライフの点で、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などを好適に用いることができる。この場合、ポリエステルフィルムに塗料組成物を塗布した後の乾燥工程において熱がかかることで、ブロック剤が解離し、イソシアネート基が露出する結果、架橋反応が進行することになる。
【0059】
樹脂または化合物(B)として用いることができるアクリル樹脂は、特に限定されることはないが、アルキルメタクリレート及び/またはアルキルアクリレートから構成されるものが好ましい。
【0060】
アルキルメタクリレート及び/またはアルキルアクリレートとしては、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどを用いるのが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0061】
また、樹脂または化合物(B)として用いることができるウレタン樹脂は、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0062】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプトラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0063】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0064】
樹脂または化合物(B)として用いることができるシリコーン樹脂は、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよく、変性シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよい。硬化型シリコーン樹脂の種類としては付加型・縮合型・紫外線硬化型・電子線硬化型・無溶剤型、熱と紫外線硬化併用型等、何れの硬化反応タイプでも用いることができる。変性シリコーン樹脂の種類としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキル樹脂などの有機樹脂とのグラフト重合等を行い得られる変性シリコーン樹脂でもよい。
【0065】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの塗布層をなす塗料組成物において、塗布層の製膜工程、加工工程での削れを抑制する観点から、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種類以上を含有させ、塗布層内の架橋構造を構築することで塗布層の強度を向上させることが好ましい。
【0066】
<粒子成分(C)>
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層をなす塗料組成物は、機能性添加剤(A)と樹脂または化合物(B)のほかに、粒子成分(C)を含むことで二軸配向ポリエステルフィルムの易滑性を向上させることができる。
【0067】
本発明において用いられる粒子成分(C)としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ヒ素(As)、テルル(Te)及びアスタチン(At)を結ぶ斜めの線上および左に位置する元素の酸化物微粒子を好適に用いることが出来る。
【0068】
このような粒子成分(C)としては、SiO2、TiO2、ZrO2、ZnO、CeO2、SnO2、Sb2O5、インジウムドープ酸化錫(ITO)、リンドープ酸化錫(PTO)、Y2O3、La2O3、Al2O3、などが挙げられる。
【0069】
これらの粒子成分(C)は1種を単独で用いても良く、2種以上を組合せて用いてもよい。分散安定性や屈折率の観点から、SiO2、TiO2、ZrO2が特に好ましい。
【0070】
ここで、該粒子成分(C)の数平均粒子径について説明する。ここで数平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により求めた粒子径をいう。倍率は50万倍とし、その画面に存在する10個の粒子の外径を、10視野について合計100個の粒子を測定した数平均粒子径である。ここで外径とは、粒子の最大の径(つまり粒子の長径であり、粒子中の最も長い径を示す)を表し、内部に空洞を有する粒子の場合も同様に、粒子の最大の径を表す。
【0071】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層(P2層)に用いる粒子成分(C)は、平均一次粒子径が3nm以上300nm以下であることが好ましい。より好ましくは30nm以上200nm以下であり、最も好ましくは50nm以上180nm以下である。該粒子成分(C)の平均一次粒子径を3nm以上にすることで塗布層表面に突起を形成させ前記B面の工程金属ロールとの易滑性を向上させるとともにフィルム両面の易滑性を向上させることができ、また粒子同士が凝集し塗布層内に局所的に点在することで塗布層の削れを誘発することを防ぐことができる。一方、該粒子成分(C)の平均一次粒子径を300nm以下とすることで、ドライフィルムレジスト用工程フィルムとして使用した場合でも微細配線向けレジスト特性の低下を最小限に留めることが出来る。
【0072】
粒子成分(C)の製造方法は、例えば粒子成分(C)をアクリル樹脂で表面処理を施す場合の方法としては、以下の(i)~(iv)の方法が例示される。なお、本発明において、表面処理とは、粒子成分(C)の表面の全部または一部にアクリル樹脂を吸着・付着させる処理をいう。
(i)粒子成分(C)とアクリル樹脂をあらかじめ混合した混合物を溶媒中に添加した後、分散する方法。
(ii)溶媒中に、粒子成分(C)とアクリル樹脂を順に添加して分散する方法。
(iii)溶媒中に、粒子成分(C)とアクリル樹脂をあらかじめ分散し、えられた分散体を混合する方法。
(iv)溶媒中に、粒子成分(C)を分散した後、得られた分散体に、アクリル樹脂を添加する方法。
【0073】
これらのいずれの方法によっても目的とする効果を得ることができ、また表面処理を行う樹脂はアクリル樹脂に限らず上述の樹脂においても適用することができる。
【0074】
また、分散を行う装置としては、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ミーダー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、SCミル、アニュラー型ミル、ピン型ミル等が使用できる。
【0075】
また、分散方法としては、上記装置を用いて、回転軸を周速5~15m/sで回転させる。回転時間は5~10時間である。
【0076】
また、分散時に、ガラスビーズ等の分散ビーズを用いることが分散性を高める点でより好ましい。ビーズ径は、好ましくは0.05~0.5mm、より好ましくは0.08~0.5mm、特に好ましくは0.08~0.2mmである。混合、攪拌する方法は、容器を手で振って行ったり、マグネチックスターラーや攪拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などを行うことができる。
【0077】
塗布層における粒子成分(C)の含有量は、塗布層全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1質量%以上7質量%以下である。粒子成分(C)の含有量を、樹脂層全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下とすることで、該塗布層の造膜性を損なうことなくB面に粒子に由来する表面突起を形成しB面の工程金属ロールとフィルム両面の易滑性を向上することができる。その結果、塗布層の削れおよび粒子脱落の抑制と易滑性とを十分に両立し発現させることが可能となる。
【0078】
本発明における前記P2層の厚みをTP2(μm)とした場合にTP2は0.01以上0.20以下であることが好ましい。前記TP2(μm)を0.01以上とすることで、後述する塗布層表面の濡れ性を制御できると共に含有する粒子成分(C)の脱落を防ぐことができる。また、前記TP2(μm)を0.20以下とすることで、含有する粒子による突起を十分に形成させることができ、また本発明の二軸配向ポリエステルフィルムをドライフィルムレジスト用工程フィルムとして用いる場合に、塗布層に含有される粒子に由来した微細配線向けレジスト特性の低下を抑制できる。
【0079】
本発明における前記P2層を構成する手法は、前記の塗料組成物を用いる場合にはポリエステルフィルム製造後に塗工を行うオフコート手法やポリエステルフィルム製造工程中で塗工および乾燥を行うインラインコート手法のどちらも用いることができるが、二軸延伸ポリエステルフィルムにおいてP2層と接する層に粒子が含有されていない場合は、フィルム製膜時の易滑性を付与する観点からはインラインコート手法を用いることが好ましい。
【0080】
(塗布層表面:B面)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの塗布層(P2層)の表面の濡れ性は前記A面と異なることが好ましい。具体的には、前記A面の表面自由エネルギーをEA(mN/m)および、前記B面の表面自由エネルギーをEB(mN/m)とした場合に、A面とB面の表面自由エネルギー差の絶対値である|EA-EB|(mN/m)は5以上であることが好ましい。前記|EA-EB|(mN/m)が5以上であることで、二軸延伸ポリエステルフィルムの両面が密着することを抑制することで易滑性が向上する傾向にある。前記A面とB面の表面自由エネルギー差|EA-EB|(mN/m)のより好ましい範囲としては10以上であり、更に好ましくは20以上である。
【0081】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおけるA面とB面の表面自由エネルギー差は|EA-EB|(mN/m)が5以上であればどちらの面の表面自由エネルギーが大きくても良く、EA-EB(mN/m)が5以上または-5以下であることが好ましく、より好ましくは10以上または-10以下であり、更に好ましくは20以上または-20以下である。
【0082】
(中間層:P3層)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは前記P1層および塗布層(P2層)の間にP3層を設けてもよく、例えば、P1層に粒子を含有させる場合はポリエステルフィルムの光学特性を向上させる観点から、前記P1層とP2層の間に粒子を含有しないP3層を設けたP1層/P3層/P2層の3層構成とすることが好ましい。更に、P1層を構成するポリエステル樹脂の固有粘度を前述の好ましい範囲に制御する場合には、ポリエステルフィルム全体の機械特性を向上させる観点から、前記P3層は固有粘度(IV)が0.55以上であるポリエステル樹脂から構成されたP1層/P3層/P2層の3層構成とすることが好ましい。
【0083】
(二軸配向ポリエステルフィルム)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおけるポリエステルフィルムは二軸配向していることが好ましい。二軸配向していることにより、フィルムの機械強度が向上することでシワが入りにくくなり、巻取り性が向上させることができ、また延伸工程において均一な延伸応力をかけることで表面の平滑性をフィルム全域において均一にすることができる。ここでいう二軸配向とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。ポリエステルフィルムは、一般に未延伸状態の熱可塑性樹脂シートをシート長手方向および幅方向に延伸し、その後熱処理を施し結晶配向を完了させることにより、得ることができる。詳しくは後述する。
【0084】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルム全体の固有粘度(IV)は、0.50dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.55dl/g以上である。IVが0.50dl/g以上とすることで、ポリエステル分子鎖が短いことで結晶化が進行し延伸工程で破断が頻発し製膜が困難になることを抑制することができる。
【0085】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、上述の通り、前記A面および前記B面が互いに最表面となる2層構成(P1層/P2層)でもよく、P1層とP2層の間に中間層であるP3層を介した少なくとも3層以上の構成(P1層/P3層/P2層)であってもよい。
ポリエステル樹脂から構成されるP1層とP3層とを積層する方法としては特に制限されないが、後述する共押出法や、製膜途中のフィルムに他の樹脂層原料を押出機に投入して溶融押出して口金から押出しながらラミネートする方法(溶融ラミネート法)、製膜後のフィルム同士を接着剤層とを介して積層する方法などを用いることができ、中でも前述処理による突起形成と積層を同時に行える共押出法が好ましく用いられる。
【0086】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムロール巻取性の観点から、フィルム両面(前記A面と前記B面)の静摩擦係数(μs)は0.4以上1.3以下が好ましい。前記フィルム両面の静摩擦係数(μs)を0.4以上とすることでロール巻取り時に過剰にフィルム同士が滑りロール巻きズレを抑制でき、前記フィルム両面の静摩擦係数(μs)を1.3以下とすることでロール巻取り時にフィルム両面が密着することでシワが発生し巻き姿が悪化することを抑制できる。静摩擦係数の更に好ましい範囲としては0.5以上1.1以下である。
【0087】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの全層厚みをT(μm)とした場合、Tは10以上100以下であることが好ましい。全層厚みT(μm)を10以上とすることで、二軸配向ポリエステルフィルムの製造工程、およびドライフィルムレジスト用工程フィルムとして用いる場合において、加工工程中のレジスト層の塗工工程や高温ラミネート工程、および熱処理工程にてフィルム破れが発生するのを抑制でき、また全層厚みT(μm)を100以下とすることで二軸配向ポリエステルフィルムのフィルム剛性が過剰に高まるのを防ぎ、加工性を良好なものとすることができる。全層厚みT(μm)の更に好ましい範囲としては15以上100以下である。
【0088】
(二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法)
次に、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法について例を挙げて説明するが、本発明は、かかる例によって得られる物のみに限定して解釈されるものではない。
【0089】
本発明に用いられるポリエステルフィルムを得る方法としては、常法による重合方法が採用できる。例えば、テレフタル酸等のジカルボン酸成分またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール等のジオール成分またはそのエステル形成性誘導体とを公知の方法でエステル交換反応あるいはエステル化反応させた後、溶融重合反応を行うことによって得ることができる。また、必要に応じ、溶融重合反応で得られたポリエステルを、ポリエステルの融点温度以下にて、固相重合反応を行っても良い。
【0090】
本発明のポリエステルフィルムは、従来公知の製造方法で得ることが出来る。具体的には本発明のポリエステルフィルムは、必要に応じて乾燥した原料を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。その他の方法として、原料を溶媒に溶解させ、その溶液を口金からキャストドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して膜状とし、次いでかかる膜層から溶媒を乾燥除去させてシート状に加工する方法(溶液キャスト法)等も使用することができる。
【0091】
2層以上の二軸配向ポリエステルフィルムを溶融キャスト法により製造する場合、二軸配向ポリエステルフィルムを構成する層毎に押出機を用い、各層の原料を溶融せしめ、これらを押出装置と口金の間に設けられた合流装置にて溶融状態で積層したのち口金に導き、口金からキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(共押出法)が好適に用いられる。該積層シートを、表面温度20℃以上60℃以下に冷却されたキャストドラム上で静電気により密着させ冷却固化することで未延伸フィルムを作製する。キャストドラムの表面温度を20℃以上とすることで未延伸フィルム表面の結晶ポリエステル部分をより増大させることができ、大気圧グロー放電によるプラズマ表面処理による延伸後の微細突起の形成の効果を得ることができる。またキャストドラムの表面温度を60℃以下とすることで未延伸フィルムのキャストドラムへの粘着を抑制し、フィルム走行方向に厚みムラの少ない未延伸フィルムを得ることができる。キャストドラムの表面温度のより好ましい範囲としては25℃以上55℃以下である。
【0092】
次いで、ここで得られた未延伸フィルムに大気圧グロー放電によるプラズマ表面処理などの表面処理を施す。これらの表面処理は未延伸フィルムを得た直後でも、フィルムの走行方向(以下、長手方向と称することがある)に延伸した後でも良いが、本発明では未延伸フィルムに表面処理することが前述の突起形成をより促す観点から好ましい。また、表面処理を施す面はキャストドラムに接していた面(ドラム面)でもキャストドラムに接していない面(非ドラム面)のいずれでも良い。
【0093】
(逐次二軸延伸)
未延伸フィルムを二軸延伸する場合の延伸条件に関しては、本発明のポリエステルフィルムがポリエステルを主成分とする場合、長手方向の延伸としては、未延伸フィルムを70℃以上に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に延伸し、20℃以上50℃以下の温度に設定したロール群で冷却することが好ましい。長手方向の延伸における加熱ロール温度の下限についてはシートの延伸性を損なわない限り特に制限はないが、使用するポリエステル樹脂のガラス転移温度を超えることが好ましい。また、長手方向の延伸倍率の好ましい範囲は3倍以上5倍以下である。より好ましい範囲としては3倍以上4倍以下である。長手方向の延伸倍率が3倍以上であると、配向結晶化が進行しフィルム強度を向上することができる。一方で、延伸倍率を5倍以下とすることで延伸に伴うポリエステル樹脂の配向結晶化が過度に進行し脆くなり製膜時の破れが発生することを抑制できる。
【0094】
長手方向に延伸した工程フィルム(一軸延伸フィルム)に対し、前記A面とは反対側の面にP2層を構成させる塗料組成物を塗布し、その後の幅方向に延伸、乾燥させるインラインコートを行う。塗料組成物の塗布方式は公知の塗布方式を任意で用いることができる。例えばワイヤーバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法などが挙げられる。
【0095】
長手方向に直角な方向(幅方向)の延伸に関しては、フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導き、70℃以上160℃以下の温度に加熱された雰囲気中にて、長手方向に直角な方向(幅方向)への3倍以上5倍以下の延伸することが好ましい。
【0096】
塗布層であるP2層を設ける上では前記幅方向への延伸を行う際に、延伸倍率に応じて段階的に温度を上げていくことが好ましい。これは幅方向の延伸が進展することでポリエステル樹脂の分子鎖配向が進展し、延伸を行うのに必要な熱量を常に与え続けることで、延伸不良が発生するのを抑制できるだけでは無く、上述の方式にて塗工された塗料組成物を幅方向に均一な厚みで塗布層形成を行うことができるためである。塗布層が均一な厚みで形成されることで、塗布層削れの基点になる局所的に厚みの高い部分の発生や塗布層に含有される粒子の凝集が抑制され粒子の脱落を抑制することができる。段階的な延伸温度の昇温(以降、段階昇温と称する場合がある)を行う具体的な方法としてはテンター内の延伸区間において延伸温度を少なくとも3区間以上に分け、延伸倍率に比例しながら延伸温度を増加することが好ましい。
【0097】
その後、延伸されたフィルムを熱処理し内部の配向構造の安定化を行うことが好ましい。熱処理時にフィルムの受けた熱履歴温度に関しては、後述する示差走査熱量計(DSC)にて測定される融点温度の直下に現れる微小吸熱ピーク(Tmetaと称することがある。)温度にて確認することができるが、テンター装置設定温度としてはポリエステル(融点255℃)が主成分である場合には、テンター内の最高温度が200℃以上250℃以下であるように設定することが好ましく、他の熱可塑性樹脂を主成分とする際は、樹脂融点-55℃以下樹脂融点-5℃以下に設定することが好ましい。熱処理温度を200℃以上とすることで二軸配向ポリエステルフィルムの寸法安定性を向上させることができ、またP2層を構成する際に分子間の架橋反応の進行を促進し、より強固な塗布層(P2層)を形成させることが出来る。また、熱処理温度を250℃以下とすることでポリエステルフィルムの融解に伴うフィルム破れの発生を抑制し生産性良く製造することができる。より好ましい範囲としては220℃以上245℃以下である。
【0098】
熱処理時にフィルムの受けた熱履歴温度を表すTmetaの範囲としては、ポリエステル樹脂を主成分とする場合、前述の理由から190℃以上245℃以下であることが好ましい。より好ましい範囲としては210℃以上240℃以下である。
【0099】
更に熱処理した後に寸法安定性を付与することを目的として、1%以上6%以下の範囲で弛緩処理(リラックス処理)を行ってもよい。弛緩処理を1%以上とすることで二軸配向ポリエステルフィルムを高温環境下で用いる場合の寸法安定性を向上でき、6%以下とすることで、二軸配向ポリエステルフィルムに適度な張力をかけ続け、厚みムラが悪化するのを防ぐことができる。
【0100】
延伸倍率は、長手方向と幅方向それぞれ3倍以上5倍以下とするが、その面積倍率(長手方向の延伸倍率×幅方向の延伸倍率)は9倍以上22倍以下であることが好ましく、9以上20倍以下であることがより好ましい。面積倍率を9倍以上とすることで得られる二軸配向ポリエステルフィルムの分子配向を促進させ耐久性を向上させることができ、面積倍率を22倍以下とすることで延伸時の破れ発生を抑制することができる。
【0101】
[特性の評価方法]
A.AFM(Atomic Force Microscope)による突起個数評価
高さ1nm以上10nm未満の突起の個数N1-10nmA(個/25μm2)
以下の測定方法によって得られる5μm四方視野(測定サイズ:5μm×5μm、測定面積:25μm2)の前記表面(A面)の画像を、付属の解析ソフト(NanoScope Analysis Version 1.40)を用い解析する。得られるフィルム表面のHeight Sensor画像を下記するFlatten処理のみを施した後、Particle Analysis解析モードを下記の通り設定することで、フィルム表面の基準面が自動的に決定される。基準面とは下記のFlatten処理条件において決定される高さが0nmの面である。該基準面から、突起高さの閾値(Threshold Height)が1nm(R1nm)での25μm2当たりの突起密度の平均値(Density行、Mean列の値)をN1nm(個/25μm2)、10nm(R10nm)での25μm2当たりの突起密度の平均値(Density行、Mean列の値)をN10nm(個/25μm2)としたとき、次の式で求められる値をその測定画像の高さ1nm以上10nm未満の突起個数N1-10nmA(個/25μm2)とする。
N1-10nmA(個/mm2)=N1nm(個/mm2)-N10nm(個/mm2)
前記解析を各サンプルにおける20か所の測定画像全てにおいて行い、その平均値をサンプルのA面が有する高さ1nm以上10nm未満の突起個数N1-10nmA(個/mm2)とする。
【0102】
[AFM測定方法]
・装置:Bruker社製 原子間力顕微鏡(AFM)
Dimention Icon with ScanAsyst
・カンチレバー:窒化ケイ素製プローブ ScanAsyst Air
・走査モード:ScanAsyst
・走査速度:0.977Hz
・走査方向:後述する方法にて作製した測定サンプルの幅方向に走査を行う
・測定視野:5μm四方
・サンプルライン:512
・Peak Force SetPoint:0.0195V~0.0205V
・Feedback Gain:10~20
・LP Deflection BW:40 kHz
・ScanAsyst Noise Threshold: 0.5nm
・サンプル調整:23℃、65%RH、24時間静置
・AFM測定環境:23℃、65%RH
・測定サンプル作成方法:AFM試料ディスク(直径15mm)の片面に両面テープを貼りつけ、AFM試料ディスクと、約15mm×13mm(長手方向×幅方向)に切り出した本発明の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムの前記表面(測定面)とは逆側の面とを張り合わせ、測定サンプルとした。
【0103】
・サンプル測定回数:各サンプル同士が少なくとも5μm以上離れるように場所を変え、20回測定を行う。
【0104】
・測定値:測定した20か所の画像に関して前述の解析を行い、各数値を測定しその平均値をサンプルの持つ各数値として扱う。
[Flatten処理]
・Flatten Order:3rd
・Flatten Z Threshholding Direction:No theresholding
・Find Threshold for:the whole image
・Flatten Z Threshold %:0.00 %
・Mark Excluded Data:Yes
[Particle Analysisモード設定]
(Detectタブ)
・Threshold Height:各値に応じて入力
・Feature Direction:Above
・X Axis:Absolute
・Number Histogram Bins:512
・Histogram Filter Cutoff:0.00 nm
・Min Peak to Peak:1.00 nm
・Left Peak Cutoff:0.00000%
・Right Peak Cutoff:0.00000%
(Modifyタブ)
・Beughbirhood Size:3
・Number Pixels Off:1
・一切のDilate/Erode操作を行わない。
(Selectタブ)
・Image Cursor Mode:Particle Select
・Bound Particles:Yes
・Non-Representative Particles:No
・Height Reference:Relative To Max Peak
・Number Histogram Bins:50
・前記数値を求めるに際し、解析画像中の特定のピーク、エリアを選択しない。
・Diameter、Height、Area全てのヒストグラムで特定の場所を選択しない。
【0105】
B.AFM(Atomic Force Microscope)による表面弾性率評価
(i)高さ10nm以上の突起高さにおける最大弾性率FMAX
以下の測定方法によって得られる30μm四方視野の前記表面(A面)の画像を、付属の解析ソフト(NanoScope Analysis Version 1.40)を用い解析する。
得られたフィルム表面のHeight Sensor画像を下記するFlatten処理のみを施した後に確認される高さ10nm以上の高さを持つ最大突起高さを有する突起の位置を確認し、DMT Modulus画像において目的の突起に対応する位置の弾性率を以下の手順で確認する。
まず、SectionモードよりDMT Modulus画像を呼び出し、目的とする突起の頂点を通過するHorizontal Lineを用いたSection像(2次元グラフ、縦軸:弾性率、横軸:走査測定位置)を表示させ、2次元グラフの数値データを得る。この際、DMT Modulus画像に対しては前述のFlatten処理は行わない。
前記Section像における目的の突起部分の最大弾性率をFMAXとして求める。
【0106】
(ii)高さ10nm未満の領域における平均弾性率FAVE
前項(i)と同様にして、同一Section像におけるHeight Sensor画像にて高さ10nm未満の領域における平均弾性率を走査測定位置に対応した数値の平均値として求めFAVEを得る。
【0107】
(iii)表面弾性率の比率FMAX/FAVE
前項(i)、(ii)にて求まる同一の走査線上のFMAXをFAVEで除することでFMAX/FAVEを得る。同様の解析を5つの異なるDMT Modulus画像、およびHeight Sensor画像のセットに対して実施し、それらの5回の解析値の平均をサンプルの有する表面弾性率の比率FMAX/FAVEとする。
・装置:Bruker社製 原子間力顕微鏡(AFM)
Dimention Icon with ScanAsyst
・カンチレバー:TAP525A
・走査モード:QNMモード
・走査速度:0.977Hz
・走査方向:前項Aと同様の方法にて作製した測定サンプルの幅方向に走査を行う
・測定視野:30μm四方
・サンプルライン:512
・サンプル調整:23℃、65%RH、24時間静置
・AFM測定環境:23℃、65%RH。
【0108】
C.走査型白色干渉顕微鏡(VertScan)による評価
二軸配向ポリエステルフィルムより6cm×6cmのサンプリングを行い、それぞれのサンプルについて、走査型白色干渉顕微鏡(装置:日立ハイテクサイエンス社製 “VertScan”(登録商標) VS1540)を用い、二軸配向ポリエステルフィルムにおける前記表面を、50倍対物レンズを使用して測定面積113μm×113μmで90視野測定を行う。サンプルセットは、測定Y軸がサンプルフィルムの長手方向(フィルムが巻き取られている方向)となるようにサンプルをステージにセットして測定する。なお、長手方向が分からないサンプルの場合は、測定Y軸がサンプルフィルムの任意の1方向となるようして測定し、その後120度回転させた方向となるようして測定し、さらにその後120度回転させた方向となるようにして測定し、それぞれの測定結果の平均をそのサンプル有する突起個数とする。また測定するサンプルフィルムは、ゴムパッキンの入った2枚の金属フレームに挟み込むことで、フレーム内のフィルムが張った状態(サンプルのたるみやカールを除した状態)にしてサンプル表面の測定を行う。
【0109】
得られた顕微鏡像について、該顕微鏡に内蔵された表面解析ソフトウェアVS-Viewer Version 10.0.3.0にて、下記条件にて画像処理を施すことで算術平均表面粗さ、および各高さの突起個数を求める。
【0110】
(画像処理条件)
下記の順にて画像処理を行う。
・補間処理 :完全補間
・フィルタ処理:メジアン(3×3ピクセル)
・面補正 :4次。
【0111】
(i)高さ50nm以上の突起個数(N50nmA)
上記に従い、前記表面(A面)の顕微鏡像観察と画像処理を施した後、該顕微鏡に内蔵された表面解析ソフトウェアVS-Viewer Version 10.0.3.0にて、下記条件にて粒子解析処理を行い、50nmの高さ閾値(R50nm、高さ閾値設定値:0.05μm)にて検出される「粒子解析」画面に表示される粒子の個数(個)を測定面積(113μm×113μm)で割ることで高さ50nm以上の突起個数(個/mm2)を求める。
【0112】
(粒子解析条件)
下記の条件にて突起解析処理を行う。
・解析種類 :突解析
・画像補正 :なし
・処理
高さ閾値 : 0.05μm
粒子整形 : なし
基準高さ : ゼロ面(平均面)
・判定対象
高さ/深さ : -10000μm≦h≦10000μm
最長径 : -10000μm≦d≦10000μm
体積 : V≧0.0000μm3
アスペクト比: r≧0.0000
・ヒストグラム: 分割数 50
測定した90視野すべてにおいて同様の操作を行い、それらの平均値をサンプルの有する前記A面の高さ50nm以上の突起個数N50nmA(個/mm2)とする。
【0113】
(基準高さ:ゼロ面(平均面))
前記、基準高さ(高さ0nm)設定における「ゼロ面(平均面)」としては、前述の方法により顕微鏡像観察を行い、前述の画像処理を施した得られる測定画像(113μm×113μm)において、以下の式より自動的に求まる「高さの平均値(Ave)」の平面を用いる。
【0114】
【0115】
・lx:前述の画像処理を行った各測定画像におけるX方向の範囲長さ
・ly:前述の画像処理を行った各測定画像におけるY方向の範囲長さ
・h(x,y):前述の画像処理を行った測定画像内の各画像点(x,y)における高さ。
【0116】
D.表面自由エネルギー(EA、EB)
まず、積層フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後する。その後、同雰囲気下で、積層フィルムの樹脂層の表面側に対して、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の溶液のそれぞれの接触角を、協和界面科学社製 接触角径DropMaster DM-501により、それぞれ5点測定する。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値をそれぞれの溶液の接触角とする。
【0117】
次に、得られた4種類の溶液の接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γS
d)、極性力成分(γS
p)、及び水素結合力成分(γS
h)の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により、本発明の分散力、極性力、水素結合力及び分散力と極性力の和である表面自由エネルギーを算出する。
【0118】
具体的な算出方法を示す。各記号の意味について下記する。γS
Lは固体と液体の界面での張力である場合、数式(2)が成立する。
【0119】
γS
L: 樹脂層と表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γS : 樹脂層の表面自由エネルギー
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γS
d: 樹脂層の表面自由エネルギーの分散力成分
γS
p: 樹脂層の表面自由エネルギーの極性力成分
γS
h: 樹脂層の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γL
d : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの分散力成分
γL
p : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの極性力成分
γL
h: 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γS
L=γS+γL-2(γS
d・γL
d)1/2-2(γS
p・γLp)1/2-2(γS
h・γL
h)1/2 ・・・ 数式(2)。
【0120】
また、平滑な固体面と液滴が接触角(θ)で接しているときの状態は次式で表現される(Youngの式)。
【0121】
γS=γS
L+γLcosθ ・・・ 数式(3)。
【0122】
これら数式(2)、数式(3)を組み合わせると、次式が得られる。
(γS
d・γL
d)1/2+(γS
p・γL
p)1/2+(γS
h・γL
h)1/2=γL(1+cosθ)/2 ・・・ 数式(4)。
【0123】
実際には、水、エチレングリコール、ホルムアミド、及びジヨードメタンの4種類の溶液に接触角(θ)と、表1に記載の既知の溶液の表面張力の各成分(γL
d、γL
p、γL
h)を数式(4)に代入し、4つの連立方程式を解く。その結果、固体の表面自由エネルギー(γ)、分散力成分(γS
d)、極性力成分(γS
p)、及び水素結合力成分(γS
h)が算出される。
【0124】
E.フィルム厚み
(i)全層厚み
二軸配向ポリエステルフィルムの全層厚みは、ダイヤルゲージを用い、JIS K7130(1992年)A-2法に準じて、フィルムを10枚重ねた状態で任意の5ヶ所について厚さを測定した。その平均値を10で除してフィルム全層厚みT(μm)とする。
【0125】
(ii)積層厚み(TP1、TP3)
二軸配向ポリエステルフィルム断面を、フィルム幅方向に平行な方向にミクロトームで切り出す。該断面を走査型電子顕微鏡で5000~20000倍の倍率で観察し、積層各層の厚み比率を求める。求めた積層比率と前記(i)項で得た全層フィルム厚みから、各層の厚みを算出する。
【0126】
(iii)塗布層(P2)の厚み(TP2)
二軸配向ポリエステルフィルムを四酸化ルテニウム(RuO4)及び/または四酸化オスミウム(OsO4)を用いて染色する。二軸配向ポリエステルフィルムを凍結せしめ、フィルム厚み方向に切断し、樹脂層断面観察用の超薄切片サンプルを10点(10個)得る。それぞれのサンプル断面をTEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立製作所製H7100FA型)にて1万~100万倍で観察し、断面写真を得る。その10点(10個)における前記表面を有する離型樹脂層(P1層)厚みの測定値を平均して、離型樹脂層の厚みTP2(μm)とする。
【0127】
F.静摩擦係数(μs)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを23℃、65%RHにて調湿した後、製膜ライン方向が長手となるように、幅75mm、長さ100mmの矩形状に2枚切り出してサンプルとし、スベリ係数測定装置(型式ST-200、(株)テクノニーズ製)を使用し、23℃65%RH雰囲気下にて測定する。該装置の測定試料台上に矩形状サンプルを該装置引っ張り方向が矩形サンプルの長手方向となり、また前記A面側が上になるようにセットし固定する。その上にもう1枚の矩形状サンプルを前記表面が上側、引っ張り方向が長手方向になるように置き、前記A面とその反対面(B面)とを接触させるとともに、サンプル端部を該装置の加重検出用Uゲージに固定する。その後フィルムを静置し、その上に、サンプル接触面が6.5cm×6.5cmのテフロン(登録商標)樹脂製シートであり荷重が200gの錘を置きサンプル同士を密着させた後、上側のフィルムを以下の条件で引っ張った際の静摩擦係数を測定する。10回の測定を行い、上位2点と下位2点を除いた6回測定値の平均値をもって静摩擦係数(μs)とする。
測定距離:12mm
測定速度:210mm/min。
【0128】
G.ポリマー特性
(i)固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mlに、測定試料(ポリエステル樹脂(原料)又は本発明のポリエステルフィルム)を溶解させ(溶液濃度C(測定試料重量/溶液体積)=1.2g/100ml)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(5)により、[η]を算出し、得られた値をもってポリエステルフィルム全体の固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C ・・・(5)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)
なお、測定試料を溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、以下の方法を用いて測定を行った。
(1-1)オルトクロロフェノール100mLに測定試料を溶解させ、溶液濃度が1.2g/100mLよりも濃い溶液を作成する。ここで、オルトクロロフェノールに供した測定試料の重量を測定試料重量とする。
(1-2)次に、不溶物を含む溶液を濾過し、不溶物の重量測定と、濾過後の濾液の体積測定を行う。
(1-3)濾過後の濾液にオルトクロロフェノールを追加して、(測定試料重量(g)-不溶物の重量(g))/(濾過後の濾液の体積(mL)+追加したオルトクロロフェノールの体積(mL))が、1.2g/100mLとなるように調整する。
(例えば、測定試料重量2.0g/溶液体積100mLの濃厚溶液を作成したときに、該溶液を濾過したときの不溶物の重量が0.2g、濾過後の濾液の体積が99mLであった場合は、オルトクロロフェノールを51mL追加する調整を実施する。((2.0g-0.2g)/(99mL+51mL)=1.2g/100mL))
(1-4)(1-3)で得られた溶液を用いて、25℃での粘度をオストワルド粘度計を用いて測定し、得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、上記式(5)により、[η]を算出し、得られた値をもって固有粘度(IV)とする。
【0129】
(ii)P1層の固有粘度(IVP1)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおけるP1層部分のみを削り取り前項(i)と同様にしてP1層の固有粘度(IVP1)を得た。
(iii)フィルムの固有粘度(IVF)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルム全層を前項(i)と同様にしてフィルムの固有粘度(IVF)を得た。
【0130】
(iv)末端カルボキシル基量(単位:eq/t、表中ではCOOH量と記載する。)
Mauliceの方法によって測定した。(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960))。
すなわち、測定試料(ポリエステル(原料)またはP1層のみを分離したポリエステルフィルム)0.5gを0.001g以内の精度で秤量する。該試料にo-クレゾール/クロロホルムを7/3の質量比で混合した溶媒50mlを加え、加熱して内温が90℃になってから20分間加熱攪拌して溶解する。また混合溶媒のみもブランク液として同様に別途加熱する。溶液を室温に冷却し、1/50Nの水酸化カリウムのメタノール溶液で電位差滴定装置を用いて滴定をおこなう。また、混合溶媒のみのブランク液についても同様に滴定を実施する。
以下の式により算出される値を測定試料の末端カルボキシル基量とした。
末端カルボキシル基量(等量/t)={(V1-V0)×N×f}×1000/S
ここでV1は試料溶液での滴定液量(mL)、V0はブランク液での滴定液量(mL)、Nは滴定液の規定度(N)、fは滴定液のファクター、Sはポリエステル組成物の質量(g)である。
【0131】
H.含有粒子評価
(i)P1層およびP2層含有粒子の平均粒子径
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムに関して、ミクロトームを用いて表面に対して垂直方向に切削した小片を作成し、その断面をTEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立製作所製H7100FA型)にてP1層、またはP3層を1万~100万倍で観察し断面写真を得た。その断面写真よりP1層、P2層またはP3層中に存在する粒子の粒度分布を画像解析ソフトImage-Pro Plus(日本ローパー(株))を用いて求めた。断面写真は異なる任意の測定視野から選び出し、断面写真中から任意に選び出した400個以上の粒子の基準円相当径を測定し個数基準での平均値から数平均粒子径を得た。下記粒子の構成元素分析により2種類以上の粒子が含有される場合には、各粒子に関して200個以上の粒子の円相当径を測定し個数基準円相当径の平均値より数平均粒子径を求めた。
【0132】
(ii)P2層に含有される粒子の平均一次粒子径
前項(i)に従い、P2層の断面写真にて粒子に関して前項(i)の解析を行う。この際粒子が複数個あつまり凝集した状態の粒子に関しは観察する粒子からは排除する。得られた個数基準円相当径の平均値をP2層に含有される粒子の平均一次粒子径とした。
【0133】
(iii)粒子含有量
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのP1層部分を1N-KOHメタノール溶液200mlに投入して加熱還流し、ポリマーを溶解した。溶解が終了した該溶液に200mlの水を加え、ついで該液体を遠心分離器にかけて粒子を沈降させ、上澄み液を取り除いた。粒子にはさらに水を加えて洗浄、遠心分離を2回繰り返した。このようにして得られた粒子を乾燥させ、その質量を量ることで各層に含有される粒子の含有量(質量%)を算出した。添加粒子に有機粒子が含まれる場合、ポリマーは溶解するが有機粒子は溶解させない溶媒を選択し、過熱還流すること無くポリマーを溶解し、粒子を遠心分離して粒子の含有量(質量%)を算出した。
【0134】
[用途特性の評価方法]
I. 巻取り性
(1)巻きシワ評価
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを、製膜速度が100m/分以上の条件にて製膜を行い、連続した5000mのロール巻取りを10回行う。得られた10本のフィルムロールの巻きシワ発生に関して下記の通り評価した。
【0135】
A:10本のロールの内、巻きシワの発生したロールが2本以下。
B:10本のロールの内、巻きシワの発生したロールが3本以上4本以下。
C:10本のロールの内、巻きシワの発生したロールが5本以上6本以下。
D:10本のロールの内、巻きシワの発生したロールが7本以上。
巻きシワ評価としてはA~Cが良好であり、その中で最もAが優れている。
【0136】
(2)巻きズレ評価
前項(1)にて得られた10本のフィルムロールの巻きズレ発生に関して下記の通り評価した。
【0137】
A:10本のロールの内、巻きズレの発生したロールが1本以下。
B:10本のロールの内、巻きズレの発生したロールが2本以上4本以下。
C:10本のロールの内、巻きズレの発生したロールが5本以上6本以下。
D:10本のロールの内、巻きズレの発生したロールが7本以上。
巻きズレ評価としてはA~Cが良好であり、その中で最もAが優れている。
【0138】
J.塗布層の耐久性評価
(1)塗布層の削れ評価
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを、製膜速度が100m/分以上の条件にて製膜を行い、連続した1000mのロール巻取りを行う。得られたロールに関してロールからフィルム巻き出し、新たに別のロールとして巻き直す作業を2回繰り返す。
得られた複数回巻き返しを行った1000mフィルムロールに関して前記B面側のキズ観察を行い下記の通り塗布層の削れ評価を行った。
A:巻き返したロールの塗布層表面に、キズの発生が無い。
B:巻き返したロールの塗布層表面に、キズの発生箇所が1箇所以上3箇所以下。
C:巻き返したロールの塗布層表面に、キズの発生箇所が4箇所以上9箇所以下。
【0139】
D:巻き返したロールの塗布層表面に、キズの発生箇所が10箇所以上。
塗布層の削れ評価としてはA~Cが良好であり、その中で最もAが優れている。
【0140】
(2)塗布層の粒子脱落評価
前項Iに従い得ら複数回巻き返しを行った1000mフィルムロールに関して1μm以上の異物欠点観察を行い下記の通り塗布層の削れ評価を行った。
A:巻き返したロールに、異物欠点が生じない。
B:巻き返したロールに、異物欠点発生が1箇所以上3箇所以下。
C:巻き返したロールに、キズの発生箇所が4箇所以上9箇所以下。
【0141】
D:巻き返したロールに、キズの発生箇所が10箇所以上。
塗布層の粒子脱落評価としてはA~Cが良好であり、その中で最もAが優れている。
K.ドライフィルムレジスト適性評価
(i)レジスト配線パターン作成
以下a.からc.の方法により分割縮小露光法を用いたフォトレジスト評価を行う。
a.片面鏡面研磨した6インチサイズのSiウエハー上に、東京応化(株)製のネガレジスト“PMERN-HC600”を塗布し、大型スピナーで回転させることによって厚み10μmのフォトレジスト層を作製する。次いで、窒素循環の通風オーブンを用いて70℃の温度条件で約20分間の前熱処理を行う。
b.ポリエステルフィルムの前記表面をレジスト層と接触するように重ね、ゴム製のローラーを用いて、フォトレジスト層上にポリエステルフィルムをラミネートし、その上に、クロム金属でパターニングされたレチクルを配置し、そのレクチル上から投影レンズを具備したi線(波長365nmにピークをもつ紫外線)ステッパーを用いた投影露光を行う。
c.フォトレジスト層からポリエステルフィルムを剥離した後、現像液N-A5が入った容器にフォトレジスト層を入れ約1分間の現像を行う。その後、現像液から取り出し、水で約1分間の洗浄を行う。現像後に作成されたレジスト配線パターンのL/S(μm)(Line and Space)=5/5μmの30本の状態を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて約800~3000倍率で観察する。
【0142】
(ii)微細配線レジスト特性評価
前項(i)にて観察した30本のレジスト配線パターンに関して、配線パターン上面の長辺部分において直線形状が0.5μm以上の欠ける部分が存在する配線パターンの本数を確認し、フィルムの微細配線レジスト特性を下記の通り評価する。
A:欠けのある本数が0本
B:欠けのある本数が1本以上5本以下。
C:欠けのある本数が6本以上10本以下。
D:欠けのある本数が10本を超える。
レジスト特性評価としてはA~Cが良好であり、その中で最もAが優れている。
【0143】
L.押出安定性
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを、製膜速度が100m/分以上の条件にて48時間以上製膜を行い、口金から発生した泡に由来するフィルム破れ回数から、押出安定性を以下の通り評価した
A:48時間の製膜中に、泡に由来するフィルム破れの発生なし。
B:48時間の製膜中に、泡に由来するフィルム破れの発生が1回発生。
C:48時間の製膜中に、泡に由来するフィルム破れの発生が2回以上3回以下発生。
D:48時間の製膜中に、泡に由来するフィルム破れの発生が4回以上発生。
押出安定性としてはA~Cが良好であり、その中で最もAが優れている。
【実施例0144】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0145】
[PET-1の製造]ジメチルテレフタレート(DMT)に、DMT・1モルに対し1.9モルのエチレングリコールおよび酢酸マグネシウム・4水和物をDMT100重量部に対し0.05重量部、リン酸を0.015重量部加え加熱エステル交換を行った。引き続き三酸化アンチモンを0.025重量部加え、加熱昇温し真空状態下で重縮合を行い、実質的に粒子を含有しないポリエステルペレットを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.45であった。
【0146】
その後、得られたポリエステルペレットを160℃で6時間乾燥し結晶化させた後、220℃、真空度0.3Torr、8時間の固相重合を行い、固相重合PET(PET-1)を得た。得られた固相重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.54であった。
【0147】
[PET-2の製造]前項[PET-1の製造]と同様にしてガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度が0.64の固相重合PET(PET-2)を得た。
【0148】
[PET-3の製造]前項[PET-1の製造]と同様にしてガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度が0.51の固相重合PET(PET-3)を得た。
【0149】
[MB-Aの製造]前項PET-1の重合に際し、PETに対する添加量が1質量%となるように、エチレングリコールに分散させた平均一次粒子径が65nmのシリカ粒子(シリカ-1)を添加し、PETベースの粒子マスターペレットMB-Aを得た。得られた溶融重合MB-Aのガラス転移温度は80℃、融点は255℃、固有粘度は0.53であった。
【0150】
[MB-Bの製造]前項PET-2の重合に際し、PETに対する添加量が1質量%となるように、エチレングリコールに分散させた平均一次粒子径が65nmのシリカ粒子(シリカ-1)を添加し、PETベースの粒子マスターペレットMB-Aを得た。得られた溶融重合MB-Aのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.63であった。
【0151】
【0152】
[機能性添加剤(A)]
(帯電防止剤)
ポリチオフェン系化合物(a-1)
酸性ポリマー化合物であるポリスチレンスルホン酸を20.8質量部含む1887質量部の水溶液中に、1質量%硫酸鉄(III)水溶液49質量部、チオフェン化合物である3,4-エチレンジオキシチオフェン8.8質量部、および10.9質量%のペルオキソ二硫酸水溶液117質量部を加えた。この混合物を18℃で23時間攪拌し、この混合物に154質量部の陽イオン交換樹脂(レバチット モノプラス S100H)および232質量部の陰イオン交換樹脂(レバチット モノプラス M800)を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる混合物のポリチオフェン系化合物(a-1)(固形分濃度は1.3重量%)を得た。
【0153】
(離型剤)
・長鎖アルキル基含有樹脂(a-2)
25mL耐圧ガラス製重合用アンプルに、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(関東化学(株)社製)、重合開始剤としてα,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(関東化学(株)社製)、RAFT剤としてクミルジチオベンゾエート(CDB)、および溶媒であるトルエンを、HEA/CDB/AIBN/トルエン=0.35/0.03/0.007/2.27の重量(g)で仕込んだ。次に、アンプル内の混合溶液を凍結脱気法により2回脱気した後、アンプルを密閉し、100℃のオイルバス中で18時間加熱し、重合体を含む反応液を得た。
【0154】
アンプル内の反応液に、ドコシルアクリレート、重合開始剤としてAIBN、および溶媒であるトルエンを、ドコシルアクリレート/AIBN/トルエン=4.65/0.003/1.3の重量(g)で加え、凍結脱気を2回行った後、アンプルを密閉して100℃で48時間加熱した。その後、重合溶液を20倍質量のヘキサンに滴下し、撹拌して固体を析出させた。得られた固体をろ過して取り出し、40℃で一晩真空状態にて乾燥して長鎖アルキル基含有樹脂(炭素数22のアルキル基を有するブロック共重合体)である長鎖アルキル基含有樹脂(a-2)を得た。
【0155】
得られた長鎖アルキル基含有樹脂(a-2)を以下の様に乳化し、水系樹脂エマルションとした。容量1Lのホモミキサーに375gの水を入れ、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル45g、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール30g、長鎖アルキル基含有樹脂(a-2)を200g、トルエン150gを順次加え、70℃に加熱して、均一に撹拌した。この混合液を加圧式ホモジナイザーに移して乳化を行った後、さらに加温下で減圧しトルエンを留去した。
【0156】
[樹脂または化合物(B)]
・ポリエステル樹脂(b-1)
高松油脂(株)製、“ペスレジン” (登録商標)A-210(固形分濃度30質量%、溶媒:水)を用いた。
【0157】
・アクリル樹脂(b-2)
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(α)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(β)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)(γ)を(α)/(β)/(γ)=94/1/5の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(γ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60重量部と、イソプロピルアルコール200重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5重量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱し、混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、混合液1の40重量部とイソプロピルアルコール50重量部、過硫酸カリウム5重量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25%アンモニア水60重量部、及び純水900重量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂(b-2)を得た。
【0158】
・メチロール化メラミン樹脂(b-3)
(株)三和ケミカル製、“ニカラック”(登録商標)MW-035(固形分濃度70質量%、溶媒:水)を用いた。
【0159】
[粒子成分(C)]
・粒子(c-1)
日揮触媒化成(株)製“スフェリカ”(登録商標)140(シリカ粒子、平均粒子一次径140nm)を用いた。
【0160】
・粒子(c-2)
日揮触媒化成(株)製“カタロイド”(登録商標)SI-80P(シリカ粒子、平均粒子一次径80nm)を用いた。
【0161】
・粒子(c-3)
平均粒子一次径が200nmのシリカ粒子の水分散体を用いた。
【0162】
・粒子(c-4)
日揮触媒化成(株)製“カタロイド-S”(登録商標)SI-50(シリカ粒子、平均粒子一次径20nm)を用いた。
【0163】
・粒子(c-5)
日本触媒(株)製“シーホスター”(登録商標)KEW-30(シリカ粒子、平均粒子一次径300nm)を用いた。
【0164】
・粒子(c-6)
日本触媒(株)製“シーホスター”(登録商標)KEW-50(シリカ粒子、平均粒子一次径500nm)を用いた。
【0165】
[塗料組成物A~Gの調合]
前記の通りにて得られる離型剤(A)、樹脂または化合物(B),粒子成分(C)を表2に記載の固形分質量比で混合し塗料組成物A~Gとした。
【0166】
【0167】
(実施例1)
PET-1、PET-2を180℃で2時間半減圧乾燥した後、配合量が表3に記載のP1層およびP3層の量になるように配合し、2台それぞれの押出機に供給し、溶融押出してフィルタで濾過した後、フィードブロックにて2層(P1層/P3層構成)に積層するように合流させた後、Tダイを介し35℃に保った冷却キャストロール上に静電印加キャスト法を用いて巻き付け冷却固化して未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを相対する電極とアースロール間に導き、装置中に窒素ガスを導入し、処理強度(E値)が240W・min/m2となる条件でP1層の表面に大気圧グロー放電によるプラズマ処理を行った。
【0168】
処理後の未延伸フィルムをロール温度が25℃に設定された除電ロールを通した後、表4に記載の条件にて逐次二軸延伸機を行う。まず長手方向に60℃~100℃に加熱された延伸ロール群へと導き延伸操作によりトータル3.5倍に延伸を行う。その後P3層の表面上に塗布層であるP2層を構築するため、塗料組成物Aを用いて乾燥後の塗布層厚みが表3に記載の値になるようにグラビアコーターを用いたインラインコート塗工を行う。塗布後のフィルムをテンターへと導き80℃の予熱を加えた後、90℃、110℃、130℃に温度設定された長さが均等な3区間にて各区間にて1.6倍ずつ、段階昇温を行いながら延伸を行い幅方向にトータル4.1倍の延伸を施し、定長下235℃で熱処理を施し幅方向に弛緩処理を3%施すことで、塗布層を片面に有する厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0169】
【0170】
【0171】
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性は表5に示す通りであった。
【0172】
【0173】
生産適性、用途適性は表6に示す通り、押出安定性、フィルムロール巻取り性(巻きシワ、巻きズレ)、塗布層の耐久性(削れ、粒子脱落)、および微細配線レジスト特性が良好なフィルムであった。
【0174】
【0175】
(実施例2)
実施例2ではP2層を構築するために塗料組成物Bを用いた以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであり、生産適性、用途適性は表6に記載の通り、実施例1と同様に良好なフィルムであった。
【0176】
(実施例3、4)
実施例3、4ではP1層に施す大気圧グロー放電処理(プラズマ処理)の処理強度を表4に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、実施例3ではフィルム両面の静摩擦係数が実施例1よりも低下し、フィルムロールの巻きズレが悪化したものの実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。実施例4ではフィルムロールの巻きシワが実施例1よりも悪化したものの実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。
【0177】
(実施例5、6)
実施例5では塗布層であるP2層の層厚みを、実施例6では塗料組成物およびP2層厚みを表3、4に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、実施例5ではフィルムロールの巻きシワおよび微細配線レジスト特性が、実施例6ではフィルムロールの巻きズレおよび塗布層の粒子脱落が実施例1よりも悪化したものの実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。
【0178】
(実施例7、8)
実施例5、6では塗布層であるP2層を構築する塗料組成物を表3、4に記載の通り変更しP2層に含有させる粒子径を変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、実施例7では塗布層の粒子脱落および微細配線レジスト特性が、実施例8ではフィルムロールの巻きシワが実施例1よりも悪化したものの実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。
【0179】
(実施例9、10)
実施例9、10では、P1層に使用する原料を表3に記載の通り変更することで、P1層の固有粘度の変更し表3の記載された量の粒子を含有させた以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、実施例9ではP1層の固有粘度を実施例1よりも高め、粒子を含有させたことで、塗布層の耐久性(削れ、粒子脱落)および微細配線レジスト特性が悪化したものの実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。実施例10ではP1層の固有粘度を好ましい範囲とすることで、微細配線レジスト特性は実施例1に比べ悪化するも実用の範囲内であり、また実施例9と同濃度の粒子含有であっても実施例1と同様に生産適性は良好なフィルムであった。
【0180】
(実施例11)
実施例11では、P1層に使用する原料を表3に記載の通り変更することで、P1層の固有粘度の変更した以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、押出安定性とフィルムロールの巻きズレが悪化するものの実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。
【0181】
(実施例12)
実施例12では塗布層であるP2層を構築する塗料組成物を表3、4に記載の通り変更しP2層に含有させる粒子径を変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、実施例12ではフィルムロールの巻きズレ、塗布層の粒子脱落、微細配線レジスト特性は実施例1に比べ悪化するも実用の範囲内であり、それ以外は実施例1と同様に良好なフィルムであった。
【0182】
(比較例1)
比較例1では、P1層に大気圧グロー放電処理(プラズマ処理)を施さずに製膜を行った以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、比較例1はフィルムロールの巻きシワが実施例1に比べて大幅に劣るとともに、フィルム両面での摩擦が悪化することで、塗布層の削れが実施例1に比べ大幅に劣るフィルムとなった。
【0183】
(比較例2)
比較例2では、P3層表面に塗布層であるP2層を設けない以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、比較例2はフィルムロールの巻きシワが実施例1に比べて大幅に劣るとともに、フィルム両面での摩擦が悪化することで、塗布層の削れが実施例1に比べ大幅に劣るフィルムとなった。
【0184】
(比較例3、4)
比較例3では、P2層厚みを表4に記載の通り変更する以外は、また比較例4ではP2層を構成する塗料組成物を表3に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、比較例3では塗布層の削れと微細配線レジスト特性が、比較例4ではフィルムロールの巻きズレ、塗布層の粒子脱落および微細配線レジスト特性が実施例1に比べて大幅に劣るフィルムとなった。
【0185】
(比較例5)
比較例5では塗料組成物およびP2層厚みを表3、4に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、比較例6では塗布層の厚みが薄くなることで、含有する粒子の粒子脱落が実施例1に比べて大幅に劣るフィルムとなった。
【0186】
(比較例6)
比較例6では、P1層に施す大気圧グロー放電処理(プラズマ処理)の処理強度を表4に記載の通り変更する以外は、実施例1と同様にして厚み16μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの構成、フィルム特性、表面特性、生産適性、用途適性は表5に示す通りであった。
生産適性、用途適性は表6に記載の通り、比較例6では大気圧グロー放電処理(プラズマ処理)の処理強度を上げることによりA面に高さ10nm以上の突起個数が増加することでフィルム両面の静摩擦係数が実施例1よりも低下し、フィルムロールの巻きズレが実施例1から大幅に悪化するフィルムとなった。また大気圧グロー放電処理(プラズマ処理)の処理強度を上げることによりA面にP1層の劣化物由来と推定される高さ50nm以上の粗大な異物が実施例1よりも増加し、塗布層の削れおよび微細配線レジスト特性が実施例1よりも大幅に劣るフィルムとなった。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムはフィルム片面に、突起を有し表面弾性率が均一な高平滑な表面を設け、反対側に易滑性と表面特性を制御した薄膜の塗布層を有することで、ロールとして巻き取った後の塗布層の耐久性(削れおよび含有粒子の脱落)が向上し、次世代微細配線向けの光学特性を満たすドライフィルムレジスト用基材フィルムとして好適に用いられる。