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▶ 谷川 康夫の特許一覧

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  • 特開-電動車両用バッテリーケース 図1
  • 特開-電動車両用バッテリーケース 図2
  • 特開-電動車両用バッテリーケース 図3
  • 特開-電動車両用バッテリーケース 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128714
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】電動車両用バッテリーケース
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/231 20210101AFI20230907BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230907BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20230907BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230907BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230907BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20230907BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20230907BHJP
   H01M 50/224 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/227 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M50/231
B05D7/14 P
B05D3/10 A
B05D3/10 P
B05D5/00 C
B05D7/24 301A
B05D1/36 A
B05D5/12 D
H01M50/224
H01M50/227
H01M50/249
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033262
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】721001638
【氏名又は名称】谷川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】谷川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】アイザック ペティット
【テーマコード(参考)】
4D075
5H040
【Fターム(参考)】
4D075AE19
4D075BB05X
4D075BB18Z
4D075BB56Z
4D075BB57Z
4D075BB65X
4D075BB73X
4D075BB89X
4D075CA04
4D075CA23
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB02
4D075DC11
4D075DC12
4D075DC13
4D075EA02
4D075EB33
5H040AA03
5H040AS04
5H040AS07
5H040AY05
5H040JJ00
5H040JJ04
5H040JJ08
5H040LL01
5H040LL06
5H040LL10
5H040NN03
(57)【要約】
【課題】電動車両用バッテリーケースの製造において、塗装にかかわるVOC排出と乾燥にかかわる二酸化炭素排出を最小限にすることで、環境対応できる。
【解決手段】防錆鋼板を基材とする電動車両用バッテリーケースの内外面に化成皮膜処理と電着塗装を施したのち、電着塗膜をガラス転移温度以下で脱水し、続いて該基材の外面に耐チッピングを目的とする粉体塗料を塗装し、さらに該基材の内面に電気絶縁性向上を目的とする粉体塗料を塗装し、その後、すべての塗膜を同時に硬化乾燥させてバッテリーケースを製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材が、防錆鋼板からなり、該基材の内外面に化成皮膜処理と電着塗装を施したのち、電着塗膜を加温脱水し、続いて該基材の外面に耐チッピングを目的とする粉体塗料を塗装し、さらに該基材の内面の電気絶縁性向上を目的とする粉体塗料を塗装し、その後、乾燥することにより、すべての塗膜を同時に硬化させることを特徴とする電動車両用バッテリーケースの塗装方法。
【請求項2】
基材が、防錆鋼板からなり、該基材の内外面に化成皮膜処理と電着塗装を施したのち、電着塗膜を加温脱水し、続いて該基材の外面に耐チッピングを目的とする粉体塗料を塗装し、さらに該基材の内面の電気絶縁性向上を目的とする粉体塗料を塗装し、その後、他部品との締結部となる部位の塗料を吸引等で除去したのち、乾燥することにより、すべての塗膜を同時に硬化させることを特徴とする電動車両用バッテリーケースの塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両用バッテリーケースの塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両に使われるバッテリーは、バッテリーケース(またはバッテリーハウジング)と呼ばれている筐体内に収められる。このバッテリーケースには、耐衝撃性、耐腐食性、電磁シールド性、電気絶縁性とともに、冷却効果も求められる。さらに、車両の衝突時においては、バッテリーを保護し安全性を確保するという要件も加えられる。バッテリーケースの材質としては、軽量化と費用対効果を条件に、鋼板、アルミダイキャスト、繊維強化プラスチック、金属と樹脂の複合材料などが提案されている。
【0003】
鋼板は、軽量化、安全性、防火性、電磁シールド性などには優れる。しかし、バッテリーケースは、車両の最下部に取り付けられるために、道路上の落下物との衝突や融雪塩とともに撒かれた砕石によるチッピング腐食への対策が必要である。そのため、チタン製のプロテクターや樹脂カバーなどにより、バッテリーケース下部を覆う例もあるが、それはコスト高になることが課題である。カバー装着の代わりに、強度の高い亜鉛メッキ防錆鋼板をバッテリーケース材料として選定し、効果的な表面処理(塗装)を行うことができれば、鋼板の粗材費は他の素材に比べて安価なため、バッテリーケースのコスト削減が期待できる。
【0004】
特許文献1において、外面には、耐チッピング塗膜を被覆し、該基材の内面には、電波シールドを目的に合成樹脂製塗料に導電性粉末や磁性粉末を含む混合材で被覆する車両用バッテリーケースの技術が公開されている。しかし、防錆鋼板上に直接塩化ビニル系の耐チッピング塗装を施すだけでは、防錆能力の点で実用化には問題があった。また、公知の技術として、1990年代にクライスラー社のベルビディア工場で組み立てられた自動車(商品名ネオン)の外板側面の下部には、未硬化の薄膜電着塗装上に、耐チッピング粉体塗装され、同時に硬化乾燥が施されていた。これは、特許文献2と特許文献3によって公開されている。しかし、この例では、車体側面における、いわゆるマイルドチッピング対策であって、バッテリーケースのように、車体底部にあって、いわゆるハードチッピングを受けるような厳しいものではなく、さらに内面は電着塗装のみであるので、本発明とは目的と構成が異なる。
【0005】
この改善策として、図2のフローチャートで示すように、防錆鋼板を基材とし、まず厚膜カチオン塗装を施し、乾燥後に、塩化ビニル系耐チップ塗装を外面に施し、乾燥後に、さらに内面に電気絶縁または電波シールド塗装を行い、乾燥するという、3回塗装3回乾燥の工程も試行されたが、工程長が長く、乾燥工程での消費エネルギーが多く、設備費も増大するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-097883号公報
【特許文献2】特開昭63-302033号公報
【特許文献3】特開平08-325480号公報
【特許文献4】特表2015-515367号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】門脇康二郎、遠藤 貢、平松靖博共著 「環境対応自動車用水性塗料の開発 水性3WET について」塗料の研究 No.144 Oct. 2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、バッテリーケースの外側と内側とで異なる塗装要件があるため、それぞれに合わせて、複数回の塗装と乾燥/冷却を行うことで、多大なエネルギー消費と二酸化炭素排出になる点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、バッテリーケースの電着塗装、耐チッピング塗装、電気絶縁塗装の塗膜を同時に乾燥(硬化)することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバッテリーケースの製造方法は、耐チッピング性と電気絶縁性のそれぞれを、プライマーとしての電着塗膜とともに、2層の塗膜で構成することで十分に保証し、その3回の塗装に対して、一回の乾燥工程によって、同時に硬化させることで、工程短縮と省エネルギーを可能にするという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の実施例の同時硬化工程フローチャートである。
図2図2は従来工程フローチャートである。
図3図3はバッテリーケース基材を示した説明図である。
図4図4は本発明の実施例のバッテリーケース断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
鋼板基材のバッテリーケースにおいて、VOCと二酸化炭素の排出を抑制する塗装技術を提供することにより、合理的に耐チッピング性能と電気絶縁性能を確保するための製造方法を実現した。
【実施例0013】
図1は、本発明の1実施例の工程フローチャートである。ここでは、電着塗料として、PPG製の商品名POWERCRON ADVANTEDGEを25ミクロン以上の厚さで全面塗装し、次に、耐チッピング塗料として、PPG製のエポキシ系粉体塗料で商品名ENVIROCRON PCM70101を150ミクロン以上の厚さで外面(車両の下面側)を塗装し、次に、電気絶縁塗料として、PPG製の粉体塗料で商品名EXTREME PROTECTION Dielectric Powderを100ミクロンの以上厚さで内面(車両の上面側)を塗装した。
【0014】
電着塗膜からの水分除去は、電着塗膜の表面温度が電着塗料のガラス転移点以下になる条件で、近赤外線乾燥、または熱風乾燥あるいはそれらの組み合わせで行った。表面温度の実測は110度Cであったので、架橋反応はほとんど生じていなかった。どの方法によっても、最終的な製品の性能には大きな差はなかった。
【0015】
電着塗料の選定においては、その電着塗料の硬化開始温度は、二つの粉体塗料の硬化開始温度よりも低いものとした。それにより、同時硬化乾燥の工程においては、下地である電着塗膜が先に硬化開始となり、その後に二つの粉体塗料が硬化開始することで、混層制御を可能とした。焼き付け温度と時間は、175度Cで30分であり、急昇温を避けたため、ピンホールなどの不具合はなかった。
【0016】
図4は、バッテリーケースの断面であり、防錆鋼板を基材とするバッテリーケース1、全周に塗装された電着塗膜2、外面に塗装された耐チッピング塗膜3、内面に塗装された電気絶縁塗膜4を示している。
【0017】
本発明で得られた塗膜の対チッピング試験はグラベロ試験機にて7号砕石100gを3kg/cm2の圧力で噴射させ、塗板温度-20℃、塗板角度90°を標準条件として行った。目視の破壊面積と個数を10段階で評価し、電着塗料を膜厚25ミクロン以上とエポキシ系粉体耐チッピング塗料を膜厚150ミクロン以上の塗布後に同時硬化乾燥した部位において、結果はレイティング8以上で且つ鋼板素地への到達が無かった。
【0018】
本発明によりバッテリーケース内面に塗装された粉体塗膜の表面とバッテリーケース基材の金属間の絶縁抵抗は、衝突試験後も0.4メガオームをはるかに上回り、安全性が確認できた。
【0019】
バッテリーケースは、インバーターなどから発生する電波ノイズを遮蔽しなければならない。特に自動車では、緊急時に災害情報などを得る手段となるAMラジオへの干渉を避けなければならない。本発明で製造されたバッテリーケースの基材が防錆鋼板であるので、AMラジオ帯(0.5M~1.7MHz)において45dB以上の電波遮蔽特性を実現していた。
【実施例0020】
図3の10で示す部位は、バッテリーケースの蓋となる部品の締結や、バッテリーケースそのものを車両に締結するためのボルト穴などを有する。塗膜の総膜厚が大きくなると、塗膜収縮により締結後の経時的緩みが発生するおそれがある。また、バッテリーケースにバッテリーケースの蓋を緊密に被せて、ケース内の水密性を確保するために、その締結面に液状パッキンが塗布されることが一般的である。液状パッキン塗布部位の平滑性を保つためにも、塗膜の総膜厚は制限せねばならないことがある。図2のような従来工程では、塗装前に締結部分をマスキングし、不要な塗装を防ぐ必要があった。この発明の実施例では、乾燥工程の手前にて、塗装不可部位は、吸引またはエアブローにて粉体塗料を簡単に除去することができる。こうして、マスキングとアンマスキング工程を不要とする。
【産業上の利用可能性】
【0021】
電動車両は地球温暖化防止を主目的として、走行中だけではなく、製造工程においても二酸化炭素とVOCの排出を最小限にしなければならない。防錆鋼板を基材とする電動車両用バッテリーケースの製造において、有機溶剤が1%以下の電着塗装と有機溶剤を含まない2種類の粉体塗装を、1回だけの焼き付け乾燥で硬化させることで、塗装にかかわるVOC排出と乾燥にかかわる二酸化炭素排出を最小限にすることで、環境対応としても適用できる。
【符号の説明】
【0022】
1 バッテリーケース基材
2 電着塗膜
3 耐チッピング塗装膜
4 電気絶縁塗装膜
5 バッテリーケース締結部位
図1
図2
図3
図4