(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012873
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】部屋の清掃方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20230119BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20230119BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20230119BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20230119BHJP
A61L 101/06 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
B08B3/08
A61L2/18
A61L9/00 C
A61L101:22
A61L101:06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116599
(22)【出願日】2021-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】519100516
【氏名又は名称】株式会社ふうせんの風
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】芋田 健二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 憲正
【テーマコード(参考)】
3B201
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
3B201AA31
3B201BA03
3B201BB94
3B201BB95
3B201CA03
4C058BB07
4C058CC05
4C058CC08
4C058JJ07
4C058JJ24
4C180AA02
4C180CA06
4C180CB08
4C180CC03
4C180CC11
4C180DD04
4C180EA17X
4C180EA34X
4C180MM10
(57)【要約】
【課題】特殊清掃において効率的に汚染を除去し、部屋を消臭するための方法を提供すること。
【解決手段】清掃方法は、死骸に由来する汚物によって汚染された部屋に対して消毒または除菌を行うこと、汚物を固化して除去すること、汚物で汚染された部分を温風を用いて250℃以上550℃以下の温度で加熱すること、および加熱された部分に対して染み抜きを行うことを含む。汚物で汚染された部分は、部屋の床、壁、柱、天井、床の下地部材、壁の下地部材、柱の下地部材、および天井の下地部材の少なくとも一つである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
死骸に由来する汚物によって汚染された部屋に対して消毒または除菌を行うこと、
前記汚物を固化して除去すること、
前記汚物で汚染された部分を温風を用いて250℃以上550℃以下の温度で加熱すること、および
加熱された前記部分に対して染み抜きを行うことを含み、
前記部分は、前記部屋の床、壁、柱、天井、前記床の下地部材、前記壁の下地部材、前記柱の下地部材、および前記天井の下地部材の少なくとも一つである、部屋の清掃方法。
【請求項2】
前記加熱の後に、前記部屋をオゾンで処理することをさらに含む、請求項1に記載の清掃方法。
【請求項3】
前記加熱の後に、前記部屋を光触媒を含む消臭剤で処理することをさらに含む、請求項1に記載の清掃方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、部屋を清掃する方法に関する。例えば、本発明の実施形態の一つは、人または動物の死骸が放置された部屋の清掃方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人や動物の死骸が部屋で長時間放置されると、死骸の腐敗が進行し、死骸から排出される血液や体液、肉片(以下、これらを総じて汚物と記す。)が部屋を汚染する。汚染された部屋は事故物件とも呼ばれる。事故物件を清掃して原状に復旧するための清掃作業(特殊清掃)では、例えばオゾンを用いて部屋を消臭することが知られている(特許文献1参照。)。また、オゾンを用いる脱臭は、火災が発生した部屋に対しても有効であることが知られている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-96694号公報
【特許文献2】特許第6624753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、特殊清掃における新しい方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、特殊清掃において効率的に汚物を除去し、若しくは部屋を消臭するための方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、部屋の清掃方法である。この清掃方法は、死骸に由来する汚物によって汚染された部屋に対して消毒または除菌を行うこと、汚物を固化して除去すること、汚物で汚染された部分を温風を用いて250℃以上550℃以下の温度で加熱すること、および加熱された部分に対して染み抜きを行うことを含む。汚物で汚染された部分は、部屋の床、壁、柱、天井、床の下地部材、壁の下地部材、柱の下地部材、および天井の下地部材の少なくとも一つである。
【0006】
この清掃方法ではさらに、加熱の後、部屋をオゾンで処理してもよく、光触媒を含む消臭剤で処理してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る清掃方法のフローチャート。
【
図2】本発明の実施形態に係る清掃方法を説明する模式的側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。以下に述べる実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【0009】
本発明の実施形態の一つに係る清掃方法のフローを
図1に示す。本清掃方法は、死骸が長期間放置されて腐敗が進行し、その結果、死骸に由来する汚物によって汚染された部屋を清掃する方法である。処理対象となる部屋に制約はなく、マンションやアパートなどの集合住宅の部屋や戸建て住宅の部屋でもよく、あるいは商業ビルや倉庫、病院、宿泊施設などの部屋でもよい。本清掃方法はいくつかのステップを含むことができるが、汚物によって汚染された部分(例えば、床、壁、柱、または天井)に対する加熱処理が含まれる。この加熱処理により、汚物に含まれる皮脂や油脂を蒸発、分解、または炭化させることができるため、汚染を効果的に除去することができる。また、この清掃方法は、光触媒機能を有する化合物(以下、単に光触媒と記す。)を含む消臭剤を散布して部屋を消臭処理することを含んでもよい。
【0010】
1.消毒、除菌
まず、加熱処理に先立ち、任意の構成として、本清掃方法は部屋を消毒または除菌するステップを含んでもよい。死骸が腐敗すると、種々の害虫が発生するとともに、死骸や汚物から細菌やウイルスが発生、蔓延することがある。このため、作業員の安全性を確保することを目的の一つとして、汚物による汚染部分を中心に部屋全体を消毒または除菌してもよい。消毒または除菌は、例えば過酸化水素水、次亜塩素酸水溶液、次亜塩素酸素ナトリウム水溶液などの酸化力を有する化合物の水溶液(以下、消毒剤)を用いることができる。消毒剤は、部屋全体にスプレーまたは噴霧することで散布すればよい。また、汚染部分に対して重点的に消毒剤を散布してもよい。消毒剤による消毒・除菌が完了すると、消毒剤はスポンジや布、モップなどで拭き取られる。
【0011】
2.汚染部分の洗浄
引き続き、汚染部分を中心とする洗浄が行ってもよい。具体的には、比較的高濃度(例えば、20%以上50%以下)の活性殺菌成分を含む洗浄剤や、吸水性ポリマーなどを含む凝固剤をそれぞれ単独でまたは混合して汚染部分を中心に散布する。死骸からの汚物は粘性があり、かつ、床や壁、柱、天井などを構成する部材(例えば、木材、タイル、樹脂など)に付着すると除去するのが困難な場合がある。上述した洗浄剤や凝固剤で汚染部分を処理することで、汚染部分の殺菌ができるとともに、汚物を固化(ゲル化)することができる。このため、汚染部分に付着した汚物を固形物として容易に除去することができる。汚物の除去においては、へらなどを用いて汚染部分の表面から汚物を剥がし取る方法が有効な方法の一つである。
【0012】
汚物の量が多い場合、あるいは死骸が長時間放置された場合には、死骸からの汚物は、床や壁、柱、天井の表面のみならず、その内部まで浸透することがある。この場合、床や壁、柱、天井などを覆う表面部材(フローリングの木材、畳、タイル、絨毯、クッションフロアなど)を剥離してもよい。表面部材を剥離し、露出した下地部材(例えば合板、コンクリート、モルタル、鉄板、石膏ボード、梁、野縁、野縁受けなど)を洗浄して汚物を除去することにより、より効果的に部屋を清掃することができる。
【0013】
3.加熱処理
本発明の実施形態の一つに係る清掃方法では、汚染部分に付着した汚物に対して加熱処理を行う。加熱処理は、火気を用いることを避けるため、汚染部分である床、柱、または壁に対して温風(あるいは熱風)を吹き付けることで行われる。天井が汚物によって汚染されている場合には、天井にも温風を吹き付けて加熱処理を行ってもよい。加熱温度は、250℃以上550℃以下、または300℃以上500℃以下の範囲から適宜選択される。加熱処理においては、
図2に示すように、例えばヒートガンと呼ばれる温風を吹き出す工具100を用い、温風を汚染部分104上の汚物102に吹き付ければよい。汚物による汚染が床や壁、柱、天井の内部まで広がっている場合には、これらを覆う表面部材を剥離し、露出した下地部材に付着した汚物に対して加熱処理を行う。この処理により、汚物やそれに含まれる皮脂や油脂が蒸発、分解、または炭化し、粘性が大きく低下した固体へ変化する。このため、効果的に汚物を除去することができる。
【0014】
加熱処理における熱源としては、温風を生成する工具に限らず、例えば加熱用のランプ(ヒータランプ)でもよい。ランプの光源としては、ハロゲンランプが例示される。ヒータランプを用いる場合には、光の照射範囲を調整することで広範囲の汚染部分を処理することができる。
【0015】
4.染み抜き
本発明の実施形態の一つに係る清掃方法では、加熱処理後、汚物によって生じる染みを抜き取ってもよい。染み抜きでは、例えばキレート剤を含む薬剤に加え、過酸化水素や次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を含む薬剤をそれぞれ単独でまたは混合して使用することができる。これらの薬剤は、染みが残存する部分に対してスプレー塗布してもよく、刷毛などを用いて塗布してもよい。あるいは、染みが残存する部分に紙や綿を含む吸水性のシートを被せ、その上に上記薬剤を単独で、または混合して散布してもよい。染みが残存する部分と薬剤との接触時間は、例えば30分以上3時間以内、または30分以上1時間以内とすればよい。これにより、加熱処理後の汚物の残渣が酸化または溶解し、汚物に起因する染みを除去することができる。
【0016】
5.オゾン処理
さらに任意の構成として、加熱処理後に部屋をオゾンで殺菌・脱臭処理してもよい。具体的には、酸素に放電して生成するオゾンガスを部屋内に充満させる、あるいは、水の電気分解で生成するオゾン水を部屋の内部に噴霧してもよい。処理時間に制約はなく、例えば30分以上3時間以内、または1時間以上2時間以内の範囲から適宜選択すればよい。この操作により、汚物に起因する臭いを低減することができる。なお、このオゾン処理は、後述する消臭処理の後に行ってもよい。
【0017】
6.消臭処理
本発明の実施形態の一つに係る清掃方法では、加熱処理後に、光触媒の粉末を含む水懸濁液を消臭剤として散布して部屋を消臭処理してもよい。光触媒としては、例えば酸化チタン(TiO2)が挙げられる。消臭剤には、さらにクエン酸や酸化剤、リン灰石(アパタイト)などが含まれていてもよい。消臭剤をスプレーすることで部屋の内部に光触媒が散布される。このため、太陽光や室内灯からの光によって空気中に漂う悪臭の原因となる物質が分解されるため、部屋の消臭効果を長期にわたって持続させることができる。その結果、より効果的に消臭が可能となる。
【0018】
本清掃方法では、上述したステップ以外のステップを含んでもよい。例えば、エタノールやイソプロパノールを用いるアルコール洗浄、高温高圧水蒸気を利用する水蒸気洗浄、アミラーゼやプロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼなどの酵素を含む消臭剤による処理、トルエンやキシレン、アセトンなどの非アルコール系有機溶媒を用いる汚染部分の洗浄などが含まれてもよい。これらのステップは、加熱処理の前に行ってもよく、加熱処理後に行ってもよい。
【0019】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係る清掃方法では、部屋の床や壁、柱、天井などに付着した汚物に対して火気を伴わない加熱処理が行われる。このため、汚物を蒸発、分解、あるいは炭化して除去しやすくすることができるので、汚物を効率よく除去することができる。また、汚物の一部が残存したとしても、汚物は分解または炭化されるため、悪臭の発生を抑制することができる。さらにこの清掃方法では、光触媒を含む消臭剤による消臭処理を行うことができる。通常、部屋は太陽光や室内灯からの光に定常的に晒されるため、光触媒が持続的に機能し、消臭効果を長期にわたって維持することができる。
【符号の説明】
【0020】
100:工具、102:汚物、104:汚染部分