(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128734
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】特定の電磁波を選択的に透過させる電磁波遮蔽体
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20230907BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H01Q15/14 B
H05K9/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033296
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103160
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 光春
(72)【発明者】
【氏名】菅 武
【テーマコード(参考)】
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB53
5E321BB57
5E321GG05
5E321GG11
5J020AA06
5J020BC10
5J020BD01
(57)【要約】
【課題】 特定の周波数の電磁波を遮蔽する電磁波遮蔽手段を提供すること。
【解決手段】 対称性面を有する電磁波遮蔽体の一方の側の面に受信アンテナと、他方の側の面に発信アンテナが設けられており、かつ、上記両アンテナは電気的に導通されていることを特徴とする、上記電磁波遮蔽体に遮蔽される帯域のうち、上記受信アンテナが受信でき、発信アンテナが発信できる周波数の電磁波を選択的に透過させる電磁波遮蔽体、を提供することにより上記の課題を解決することを見出した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対称性面を有する電磁波遮蔽体の一方の側の面に受信アンテナと、他方の側の面に発信アンテナが設けられており、かつ、上記両アンテナは電気的に導通されていることを特徴とする、上記電磁波遮蔽体に遮蔽される帯域のうち、上記受信アンテナが受信でき、発信アンテナが発信できる周波数の電磁波、を選択的に透過させる電磁波遮蔽体。
【請求項2】
前記対称面を有する電磁波遮蔽体の形状は、平板状又はシート状である、請求項1に記載の電磁波遮蔽体。
【請求項3】
前記受信アンテナ及び発信アンテナの全体形状は、平板状又はシート状である、請求項1又は2に記載の電磁波遮蔽体。
【請求項4】
平板状又はシート状の電磁波遮蔽体の平板面又はシート面の一方に、全体形状が平板状又はシート状の受信アンテナが積層固定され、他方に全体形状が平板状又はシート状の発信アンテナが積層固定されており、上記両アンテナは互いに電気的な特性が実質的に同一であり、互いに電気的に導通されていることを特徴とする、電磁波遮蔽体。
【請求項5】
前記受信アンテナ及び発信アンテナは、平板状又はシート状の外形の線状アンテナである、請求項1-4のいずれか1項に記載の電磁波遮蔽体。
【請求項6】
対称性面を有する電磁波遮蔽体の一方の側の面に受信アンテナを、他方の側の面に発信アンテナを設け、かつ、上記両アンテナを電気的に導通することにより、上記電磁波遮蔽体に遮蔽される帯域のうち、上記受信アンテナが受信でき、発信アンテナが発信できる周波数の電磁波を、上記電磁波遮蔽体において選択的に透過させる、電磁波の透過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波の遮蔽手段に関連する発明である。より具体的には、元来広い帯域の周波数の電磁波を遮蔽することができる電磁波遮蔽体において、特定の周波数の電磁波を選択的に透過させる手段に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁波を情報通信媒体とした様々な側面からの利用が、例えば、自動車分野、情報通信分野等において進んでいる。このような電磁波の利用に際しては、誤認防止や感度向上の観点から、ノイズとなる不要な電磁波を排除することが重要であり、電磁波を吸収又は反射して遮蔽を行う、種々の電磁波遮蔽体が提供されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に電磁波遮蔽体は、その遮蔽可能な電磁波の周波数の帯域は連続的、かつ、広範である。しかしながら、場合によっては特定の周波数の電磁波を選択的に電磁波遮蔽体において透過させることが技術上必要となる場合が認められる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題の解決に向けて検討を行った結果、特定の周波数の電磁波を受信し、発信するアンテナの機能を電磁波遮蔽体において組み入れることにより、遮蔽対象となる電磁波の周波数の帯域が連続的、かつ、広範であっても、所望の周波数の電磁波を自由に選んで電磁波遮蔽体を透過させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、対称性面を有する電磁波遮蔽体の一方の側の面に受信アンテナと、他方の側の面に発信アンテナが設けられており、かつ、上記両アンテナは電気的に導通されていることを特徴とする、上記電磁波遮蔽体に遮蔽される帯域のうち、上記受信アンテナが受信でき、発信アンテナが発信できる周波数の電磁波、を選択的に透過させる電磁波遮蔽体(以下、本発明の電磁波遮蔽体ともいう)を提供する。
【0006】
「電磁波の遮蔽」とは、吸収又は反射により曝露される電磁波を遮断又は抑制することを意味する。
【0007】
「対称性面を有する電磁波遮蔽体」は、本発明の電磁波遮蔽体の基となる電磁波遮蔽体(以下、基盤遮蔽体ともいう)であり、「対称性面を有する」とは、互いに3次元的に対向する面をその表面に有する形状であることを意味している。この条件を満たす限りは、基盤遮蔽体の形状、素材、構造、種類等は限定されないが、形状は、平板状又はシート状であることが好適である。その場合の平板又はシートの表面と裏面が「対称性面」に該当する。受信アンテナと発信アンテナの全体形状は、基盤遮蔽体の形状に応じて選択することが可能であるが、平板状又はシート状が好適である。平板とは、文字通り「平たい板」であり、可撓性、剛性の強弱や有無は問わずに定義として組み入れられる。シートとは、薄くて広がりのあるものであり、柔軟性の有無を問わずに定義として組み入れられる。
【0008】
従って、本発明の電磁波遮断体の好適な態様の一つは、平板状又はシート状の電磁波遮蔽体の平板面又はシート面の一方に、全体形状が平板状又はシート状の受信アンテナが積層固定され、他方に全体形状が平板状又はシート状の発信アンテナが積層固定されており、上記両アンテナは互いに電気的な特性が実質的に同一であり、互いに電気的に導通されていることを特徴とする、電磁波遮蔽体である。
【0009】
受信アンテナと発信アンテナの種類は特に限定されないが、平板状アンテナ又はシート状アンテナにおいては、該平板又はシート面に線状アンテナが組み入れられている形態が好ましい。受信アンテナと発信アンテナは、電気的に導通されている。線状アンテナが形成するパターン、線自体の太さ(幅)、線間の幅等を調整することによって、受発信される電磁波の周波数を調整することができる。この受発信される電磁波の周波数は、基盤遮蔽体が遮蔽可能な電磁波の周波数帯域に含まれていることが必要である。
【0010】
本発明の電磁波遮蔽体においては、曝露される電磁波のうち、基盤遮蔽体が本来遮蔽可能な周波数帯域の電磁波のうち、基盤遮蔽体の対称面の一方(電磁波曝露側)に設けられた受信アンテナに受信され、他方(電磁波遮断又は抑制側)の発信アンテナから発信される周波数の電磁波(以下、特定電磁波ともいう)が該アンテナ機構を介して電磁波遮蔽体を透過し、基盤遮蔽体の物性としては遮蔽可能な帯域の電磁波のうち、特定電磁波のみを積極的に透過させることができる。
【0011】
本発明は、本発明の電磁波遮蔽体を用いた、電磁波の透過方法という側面を有している。すなわち本発明は、対称性面を有する電磁波遮蔽体の一方の側の面に受信アンテナを、他方の側の面に発信アンテナを設け、かつ、上記両アンテナを電気的に導通することにより、上記電磁波遮蔽体に遮蔽される帯域のうち、上記受信アンテナが受信でき、発信アンテナが発信できる周波数の電磁波を、上記電磁波遮蔽体において選択的に透過させる、電磁波の透過方法(以下、本発明の電磁波透過方法ともいう)を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、基盤となる電磁波遮蔽体が遮断可能な電磁波の帯域のうち、特定の周波数の電磁波を透過させる電磁波遮蔽体が提供される。また、電磁波遮蔽体の本来有している遮蔽可能な電磁波の帯域から、特定の周波数を透過させる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の電磁波遮蔽体の一実施態様を示した図面である。
【
図2】基盤遮蔽体における電磁波の遮蔽効果の膜厚依存性について検討した結果を示した図面である。
図2(1)は、100-500μm厚の間の検討を行った結果を示し、(2)は最も良好であった500μm厚の結果を抜き出したものである。
【
図3】アンテナサイズの小パターンの実施例における電磁波遮蔽効果を検討した結果を示す図面である。
図3(1)は小パターン・表側、
図3(2)は小パターン・裏側の結果を示している。
図3(3)は、小パターンにおける具体的なアンテナパターンの内容を示している。
【
図4】アンテナサイズの中パターンの実施例における電磁波遮蔽効果を検討した結果を示す図面である。
図4(1)は中パターン・表側、
図4(2)は中パターン・裏側の結果を示している。
図4(3)は、中パターンにおける具体的なアンテナパターンの内容を示している。
【
図5】アンテナサイズの大パターンの実施例における電磁波遮蔽効果を検討した結果を示す図面である。
図5(1)は大パターン・表側、
図5(2)は大パターン・裏側の結果を示している。
図5(3)は、大パターンにおける具体的なアンテナパターンの内容を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
【0015】
図1は、本発明の電磁波遮蔽体の一実施態様を示した図面である。
図1(1)は、本発明の電磁波遮蔽体10を厚さ方向から側面視した縦断面概略図である。電磁波遮蔽体10は、シート状又は平板状の基盤遮蔽体11の一平面に平板状又はシート状の受信アンテナ12が積層固定され、他平面に平板状又はシート状の発信アンテナ13が積層固定され、該受信アンテナ12と発信アンテナ13は、接続ポイント12-13を介して電気的に導通されている。
図1(2)は、受信アンテナ12を矢印Aの方向から見た平面図である。図中のa、bは、該平面の縦横の大きさを示している(横amm,縦bmm)。発信アンテナ13は、受信アンテナ12と実質的に同一であるので図示を省略する。受信アンテナ12は、絶縁フィルム121と、線状アンテナ122で構成されている。線状アンテナ122は、絶縁フィルム121の平面上に固定されて設けられており、開始端1221から方形らせん状に内側に渦巻いて終了端1222に至っている。また、開始端1221は、本発明の電磁波遮蔽体10の反対側の面に設けられた図示しない発信アンテナ13において同様に設けられた方形らせん状の線状アンテナの開始端と電気的に接続されている。
【0016】
基盤遮蔽体11は、所望の遮蔽周波数の帯域を有するものを自由に選択可能である。絶縁フィルム121の素材は、絶縁性を有している限り特に限定されないが、線状アンテナ122のパターン印刷に適した素材が好適であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート等が例示されるが、これらに限定されるものではない。線状アンテナ122の素材は、導電性素材であり、例えば、金、銀、銅、アルミ等の導電性金属、あるいはこれらの合金、導電性ポリマー等が挙げられる。ペースト状の導電性素材を印刷等の手段によって所望の形状の線状アンテナ部分とすることができる。
【0017】
矢印A方向で放射された電磁波は、基盤遮蔽体11固有の電磁波遮蔽能によって、その遮蔽周波数帯域にて遮蔽され、矢印B方向への透過が遮断又は抑制される一方で、受信アンテナ12において受信し、発信アンテナ13において発信可能な周波数の電磁波は、該アンテナ機構を介して電磁波遮蔽体10を透過し、矢印Bの方向へ選択的に放射される。上記透過電磁波の波長は、線状アンテナ122の素材、太さ(幅)、線間の幅c等によって設定・選択することが可能である。透過電磁波の周波数は、基盤遮蔽体11固有の遮蔽周波数帯域の周波数の範囲に含まれていることが必要である。
【実施例0018】
以下、本発明に関する実施例を開示する。
【0019】
[製造例] 本発明の電磁波遮蔽体の製造
図1に記載された本発明の電磁波遮蔽体10を具体的に製造した。基盤遮蔽体11としては、磁気シールド塗料であるドータイトXO-9021(藤倉化成社製)をシート化して用いた。ドータイトXO-9021は、広範な帯域(0.1-1000MHz)で優れた電磁波遮断効果が認められている。該基盤遮蔽体のシート厚は500μm厚として、縦・横長さ方向は共に150mmとした。なお、上記のシート厚(500μm)は、100μm厚のドータイトXO-9021を重ねて、100μm厚から500μm厚まで100μm厚毎の電磁気遮蔽効果をKEC法で検討したところ、500μm厚が最も遮蔽効果が高かったので、このシート厚を採用した。
図2(1)は、上記の各膜厚における0.1-1000MHzの間の電磁気遮蔽効果[dB]を検討した結果を示しており、
図2(2)は、その中から500μm厚についての結果を抜き出して表したものである。基礎的には、特定の周波数の透過は、上記の帯域において認められないことが確認された。
【0020】
受信アンテナ12と発信アンテナ13を構成する絶縁シートは、縦方向は150mm、横方向は300mmのパターン印刷用のPETフィルムを用いた。
図1の線状アンテナ122の方形らせんのデザインに従って、Agペースト(ドータイト フレキシブル基材用タイプFA-323)によるパターン印刷を行った。該パターン印刷は、所望の方形らせん構造の線状アンテナ部分をPETフィルム上に同一の内容の方形らせん構造を、上記絶縁シートの横方向(長さ方向)の中点を垂直に切る線(折り曲げ線)に対して線対称の位置に2カ所設けて、これらの方形らせん構造の始点同士が電気的に導通するような接続線を設けた。
図3(3)、
図4(3)、
図5(3)は、上記の2カ所の方形らせん構造と、これらの電気的接続線がPETフィルム上に印刷された状態を示している
実施例用の受信アンテナと発信アンテナとして用いた。AgペーストによりPETフィルム上に描かれた線状アンテナの線幅は2mmで、らせんを構成する隣接する線間距離は3mmとした。アンテナパターンのサイズ(アンテナ長)は、(1)小パターン:413mm(想定周波数726MHz)、(2)中パターン:1000mm(想定周波数300MHz)、(3)大パターン:1770mm(想定周波数169MHz)の3種類を準備した。受信アンテナの最内周末端(らせんの最も内側の端)と発信アンテナの最内周末端の間の抵抗値は、(1)小パターン:10Ω、(2)中パターン:15Ω、(3)大パターン:35Ω、であった。
【0021】
上記のように準備したシート状の基盤遮蔽体の表面と裏面に、同じアンテナパターンのシート状アンテナが位置するように、PETフィルムを上記の折り曲げ線で折り曲げつつ貼り付けて、試験用の本発明の電磁波遮蔽体を作製した。貼り付け方は、アンテナパターンが電磁波遮蔽体の表側に露出させるように貼り付けた「表向き」と、絶縁シート側が電磁波遮蔽体の表側、すなわちアンテナパターンは絶縁シートが介在して露出しない「裏向き」の2種類を準備した。
【0022】
[実施例] 小中大の各パターンにおける特定の周波数の電磁波の透過効果の検討
(1)小パターン
図3は、小パターンの構成(
図3(3))とそれに従った試験品における「表向き」(
図3(1))と「裏向き」(
図3(2))について、それぞれの電磁波遮蔽効果をKEC法に従って検討した結果を示している。その結果、想定された透過周波数における電磁波の遮蔽効果が特異的に落ちていることが明らかになった。表向きの方が裏向きよりも低波長側に透過周波数がシフトしていた。
【0023】
(2)中パターン
図4は、中パターンの構成(
図4(3))とそれに従った試験品における「表向き」(
図4(1))と「裏向き」(
図4(2))について、それぞれの電磁波遮蔽効果をKEC法に従って検討した結果を示している。その結果、想定された透過周波数における電磁波の遮蔽効果が特異的に落ちていることが明らかになった。表向きの方が裏向きよりも低波長側に透過周波数がシフトしていた。
【0024】
(3)大パターン
図5は、大パターンの構成(
図5(3))とそれに従った試験品における「表向き」(
図5(1))と「裏向き」(
図5(2))について、それぞれの電磁波遮蔽効果をKEC法に従って検討した結果を示している。その結果、想定された透過周波数における電磁波の遮蔽効果が特異的に落ちていることが明らかになった。表向きの方が裏向きよりも低波長側に透過周波数がシフトしていた。