(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128740
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】脂肪族環状ジオール化合物及びその製造法
(51)【国際特許分類】
C07C 35/21 20060101AFI20230907BHJP
C07C 29/32 20060101ALI20230907BHJP
C07C 41/20 20060101ALI20230907BHJP
C07C 43/196 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C07C35/21 CSP
C07C29/32
C07C41/20
C07C43/196
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033305
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳
(72)【発明者】
【氏名】柴原 哲也
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC11
4H006BA25
4H006BA55
4H006BB14
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006FC22
4H006FC24
4H006FE12
4H006GP01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水素添加フルオレン骨格に2つのシクロヘキサン環を有する脂環式ジオール化合物、およびその製造方法の提供。
【解決手段】水素添加フルオレン骨格に2つのシクロヘキサン環を有する脂環式ジオール化合物(下記一般式(1)、式中のnは0、1または2、R1は水素原子、メチル基またはエチル基)並びに高圧反応容器中にフルオレン骨格に2つのベンゼン環を有するジオール化合物、触媒および溶媒を仕込み、高温高圧下で水素ガスを作用させて還元する前記脂環式ジオール化合物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される脂環式ジオール化合物(式中のnは0、1または2を表し、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)。
【化1】
【請求項2】
高圧反応容器中に下記式(2)で表される芳香族ジオール化合物、触媒および溶媒を仕込み、高温高圧下で水素ガスを作用させて還元する、下記式(1)で表される脂環式ジオール化合物の製造方法(式中のnは0、1または2を表し、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素添加フルオレン骨格に2つのシクロヘキサン環を有する新規脂肪族環状ジオール化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族環状ジオール化合物は、脂環式ジカルボン酸とから合成されるポリエステル樹脂及び脂肪族式ジイソシアネートとから合成されるポリウレタン系樹脂などの原料となり、合成された樹脂は、光学材料、電子情報材料、医療器具材料、自動車部品、家電部品、食品用機器部品、電線などの用途に用いられている。
【0003】
例えば、脂環式ジカルボン酸として1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-CHDA)、脂環式ジオールとして1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)を用いて、耐熱性、成型加工性、耐溶剤性、機械特性、生分解性に優れるポリエステル樹脂(特許文献1)や成型体からの放出ガス量の少ない導電性ポリエステル(特許文献2)や泡の消失時間が短く医療用途に適するポリエステル(特許文献3)を合成している。また、脂環式ジカルボン酸としてトリシクロ[3.3.1.13、7]デカンジカルボン酸、脂環式ジオールとしてトリシクロ[3.3.1.13、7]デカンジオールを用いて光学異方性が小さく成形性に優れるポリエステル樹脂を合成している(特許文献4)。
【0004】
また、脂環式ジイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート、脂環式ジオールとして2,2-ビス(4’-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンを用いて機械的強度及び透明性に優れると共に、耐光性にも優れるポリウレタン系熱可塑性エラストマーを合成している(特許文献5)。
【0005】
縮合芳香環構造、特にフルオレン骨格を有するジオールから合成されるポリエステル樹脂は耐熱性において優れた機能を有することが知られている(特許文献6)。また、フルオレン骨格を有するジオールから合成されるポリウレタンも耐熱性において優れた機能を有することが知られている(特許文献7)。
【0006】
一方、フルオレンに代表される芳香族化合物はπ-電子を豊富に有することから光吸収性および蛍光性を有するという欠点を有している。(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-290356号公報
【特許文献2】特開2004-124022号公報
【特許文献3】特開2005-298555号公報
【特許文献4】特許第3862538号公報
【特許文献5】特開2000-178340号公報
【特許文献6】特開2008-069224号公報
【特許文献7】特開平08-003260号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】有機合成化学 第23巻 第11号,919-925(1965)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、水素添加フルオレン骨格に2つのシクロヘキサン環を有する脂環式ジオール化合物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、フルオレン骨格に2つのベンゼン環を有するジオール化合物を水素還元することにより、水素添加フルオレン骨格に2つのシクロヘキサン環を有する脂環式ジオール化合物を製造する方法について検討を行った結果、下記式(1)で表される新規脂環式ジオール化合物およびその製造方法の発明を完成することができた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 下記式(1)で表される脂環式ジオール化合物(式中のnは0、1または2を表し、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)。
【化1】
〔2〕 高圧反応容器中に下記式(2)で表される芳香族ジオール化合物、触媒および溶媒を仕込み、高温高圧下で水素ガスを作用させて還元する、下記式(1)で表される脂環式ジオール化合物の製造方法(式中のnは0、1または2を表し、R1は水素原子、メチル基またはエチル基を表す。)。
【化2】
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記式(1)で表される新規脂環式ジオール化合物は、新規ポリエステル樹脂および新規ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの原料として使用することができる。
このようなポリエステル樹脂およびポリウレタン系熱可塑性エラストマーは透明性、耐熱性、耐候性、カスバリア性及び光学特性が優れているため、光学材料、電子情報材料、医療器具材料、自動車部品、家電部品、食品用機器部品、電線などの用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の脂環式ジオール化合物の製造方法の反応式
【
図2】2,2’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)(6)の1H-NMRスペクトル
【
図3】実施例1反応生成物液濃縮物の1H-NMRスペクトル
【
図4】実施例2反応生成物液濃縮物の1H-NMRスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
本発明の水素添加フルオレン骨格に2つのシクロヘキサン環を有する脂環式ジオール化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【化1】
式中のnは0または自然数であれば問題はないが、0、1または2の短鎖であることが好ましい。また、式中のR1は水素原子またはアルキル基であれば問題はないが、水素原子、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0015】
より好ましい上記式(1)の脂環式ジオール化合物としては、下記式(11)の8,8-ビス(4‘-ヒドロキシシクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカン、下記式(12)の8,8-ビス(4‘-(2“-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカン、および下記式(13)の8,8-ビス(4‘-ヒドロキシ-3’-メチルシクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカンを挙げることができる。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
下記式(1)で表される本発明の新規脂環式ジオール化合物は、下記式(2)で表されるフルオレン骨格に2つのベンゼン環を有する芳香族ジオール化合物に水素ガスを作用させて還元することで製造することができる。
【0020】
【0021】
より好ましい上記式(1)の化合物として例示した、上記式(11)、(12)および(13)の化合物は、それぞれ芳香族ジオール化合物の4,4’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ジフェノール、2,2’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)および4’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチルフェノール)を原料として製造することができる。
【0022】
前記式(2)で表される芳香族ジオール化合物は、水素ガスを還元剤として高温高圧下でもって、以下のようにして本発明の新規脂環式ジオール化合物に還元することができる。
高圧反応容器に、前記式(2)で表される芳香族ジオール化合物、触媒および溶媒を仕込み、高圧で水素ガスを高圧反応容器に供給、充填し密閉した後、昇温して高温、高圧で反応させる。
【0023】
前記式(2)で表される芳香族ジオール化合物に水素ガスを作用させて還元する反応に用いられる触媒は、芳香族化合物の水素添加還元に用いられる通常の触媒であれば特に限定されないが、周期表第8~11属金属から選ばれる少なくとも1種を含有する触媒が好ましい。
【0024】
水素添加還元触媒の具体例としては、特に限定されないが、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金及び金から選ばれる少なくとも1種を含有する水素添加還元触媒が挙げられる。
水素添加還元触媒は、固体触媒でも均一系触媒でもよいが、反応物との分離性の観点から固体触媒が好ましい。固体触媒としては、特に限定されないが、例えば、非担持型金属触媒や担持金属触媒などが挙げられる。
【0025】
非担持型金属触媒としては、ラネーニッケル、ラネーコバルト、ラネー銅などのラネー触媒、又は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの酸化物やコロイド触媒が好ましい。
【0026】
担持金属触媒としては、特に限定されないが、例えば、マグネシア、ジルコニア、セリア、ケイソウ土、活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライト、又はチタニアなどの担体に鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金のうち少なくとも1種を担持あるいは混合した担持金属触媒が挙げられる。
【0027】
中でもPt/CやPt/アルミナ等の担持白金触媒、Pd/CやPd/アルミナ等の担持パラジウム触媒、Ru/CやRu/アルミナ等の担持ルテニウム触媒、又は、Rh/CやRh/アルミナ等の担持ロジウム触媒等が好ましい。反応活性の点でPd/Cがより好ましい。
【0028】
還元反応に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ギ酸、酢酸などの有機酸類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
還元反応において、水素添加還元触媒の使用量は原料である芳香族化合物の1~100重量パーセント、より好ましくは3~30重量パーセント、さらに好ましくは5~20重量パーセントである。
【0030】
還元反応において、溶媒の使用量は、原料である芳香族化合物が溶解する量であれば特に限定されない。
【0031】
還元反応における水素ガスの圧力は、反応平衡を脂環式ジオール化合物側に移動させるという観点からは高圧ほど好ましいが、1~30MPaが好ましく、5~10MPaがより好ましい。
【0032】
還元反応における反応温度は、十分な反応速度を得るという観点から、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。
還元反応の形式は、水素添加還元可能であれば特に限定されるものでなく、前記で例示した回分処理以外の連続処理でもその他公知の形式でもよい。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0034】
<実施例1>
8,8-ビス(4‘-ヒドロキシシクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.0
2,7]トリデカン(11)の製造。
ステンレス製高圧反応容器(耐圧硝子工業株式会社製、TAS-03型反応装置)に、4,4’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ジフェノール(5、東京化成工業株式会社製)1.01gおよびPd/C,NXタイプ(Pd 5%)(含水)(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.115gおよび2-プロパノール100mLを入れ、室温での初期水素圧力5MPaで充填し高圧反応容器を密閉昇温して、200℃で17時間攪拌して還元反応を行った。
反応終了後、高圧反応容器を室温に戻し、圧力を常圧に戻して反応液を容器から取り出し濾過して触媒を除去し、溶媒を減圧溜去して生成物を得た。
生成物の1H-NMRの測定結果を以下に示す。1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:4.04(s、2H)、3.5~3.7(m、2H)、0.7~2.1(m、38H)。
4,4’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ジフェノール(5)にみられる芳香族領域のシグナルは消失していた。4.04ppmの水酸基、および3.5~3.7ppmの水酸基が直結するメチン基のシグナルは保持していた。これらの測定結果から総合的に判断して、実施例1で得られた生成物の主成分は8,8-ビス(4‘-ヒドロキシシクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.0
2,7]トリデカン(1)であると同定された。
図2に原料の2,2’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)(6)の1H-NMRスペクトルを示す。
図3に実施例1反応生成物の1H-NMRスペクトルを示す。
【0035】
<実施例2>
8,8-ビス(4‘-(2“-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.0
2,7]トリデカン(12)の製造。
ステンレス製高圧反応容器(耐圧硝子工業株式会社製、TAS-03型反応装置)に、2,2’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)(6、東京化成工業株式会社製)1.02gおよびPd/C,NXタイプ(Pd 5%)(含水)(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.103gおよび2-プロパノール100mLを入れ、室温での初期水素圧力5MPaで充填し高圧反応容器を密閉昇温して、200℃で17時間攪拌して還元反応を行った。
反応終了後、高圧反応容器を室温に戻し、圧力を常圧に戻して反応液を容器から取り出し濾過して触媒を除去し、溶媒を減圧溜去して生成物を得た。
生成物の1H-NMRの測定結果を以下に示す。1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:3.77(m、2H)、3.48(m、2H)、3.43(m、2H)、2.2(s、2H)、0.7~2.1(m、38H)。
2,2’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)(6)にみられる芳香族領域のシグナルは消失していた。2.2ppmの水酸基、3.77ppmの水酸基が直結するメチレン基、3.48ppmのエーテル酸素が直結するメチレン基、および3.43ppmのエーテル酸素が直結するメチン基のシグナルは保持していた。これらの測定結果から総合的に判断して、実施例2で得られた生成物の主成分は8,8-ビス(4‘-(2“-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)トリシクロ[7.4.0.0
2,7]トリデカン(2)であると同定された。
図4に実施例2反応生成物の1H-NMRスペクトルを示す。
本発明で得られる新規脂環式ジオール化合物は、光学材料、電子情報材料、医療器具材料、自動車部品、家電部品、食品用機器部品、電線などの原料に用いることができる。