(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128806
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】シラン変性ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、シラン架橋ポリプロピレン、及びこれらを用いた成形体、架橋成形体、三次元網状繊維集合体並びに三次元網状繊維集合体の架橋成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 255/02 20060101AFI20230907BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08F255/02
C08L51/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033418
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】林 義晃
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002BN041
4J002BN042
4J002DD016
4J002DG036
4J002DK006
4J002EC076
4J002EF056
4J002EF076
4J002EN026
4J002EN036
4J002EN136
4J002ER026
4J002EU046
4J002EV186
4J002EW036
4J002EZ006
4J002EZ046
4J002FD156
4J002GC00
4J002GF00
4J002GK00
4J002GN00
4J026AA13
4J026AC01
4J026BA43
4J026BB01
4J026DB05
4J026DB07
4J026DB15
4J026DB38
4J026FA07
4J026GA01
4J026GA06
4J026GA09
(57)【要約】
【課題】耐熱変形性、及び柔軟性に優れる成形体等を実現可能なシラン変性ポリプロピレン等を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、該ポリプロピレン組成物が、融点が50℃以上130℃未満であるプロピレン単独重合体(a)と、融点が130℃以上180℃以下であり、かつプロピレン単位を51~92質量%、エチレン単位及び又はα-オレフィン単位を8~49質量%含有するプロピレン系共重合体(b)を含み、ポリプロピレン組成物100質量%における成分(a)の含有率が5~50質量%であり、成分(b)の含有率が50~95質量%であるシラン変性ポリプロピレンを用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、
該ポリプロピレン組成物が、融点が50℃以上130℃未満であるプロピレン単独重合体(a)と、
融点が130℃以上180℃以下であり、かつプロピレン単位を51~92質量%、エチレン単位及び又はα-オレフィン単位を8~49質量%含有するプロピレン系共重合体(b)を含み、
該ポリプロピレン組成物100質量%における成分(a)の含有率が5~50質量%であり、成分(b)の含有率が50~95質量%である、シラン変性ポリプロピレン。
【請求項2】
前記シラン変性ポリプロピレンのシラン変性部位が、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物の重合残基である請求項1に記載のシラン変性ポリプロピレン。
R-Si(R’)3 ・・・(1)
(式中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
【請求項3】
示差走査熱量計(DSC)で測定される半結晶化時間が30分以上である、請求項1又は2に記載のシラン変性ポリプロピレン。
【請求項4】
メルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定)が25~100g/10分である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを含むシラン変性ポリプロピレン組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体を架橋させてなる架橋成形体。
【請求項8】
請求項5に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる三次元網状繊維集合体。
【請求項9】
請求項8に記載の三次元網状繊維集合体を架橋させてなる三次元網状繊維集合体の架橋成形体。
【請求項10】
請求項5に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を架橋させたシラン架橋ポリプロピレンであって、
前記シラン変性ポリプロピレンの融点が150℃以上180℃以下であり、
JIS K 7171(2008)に準拠して測定した曲げ弾性率が150MPa以下であるシラン架橋ポリプロピレン。
【請求項11】
請求項10に記載のシラン架橋ポリプロピレンよりなる三次元網状繊維集合体の架橋成形体。
【請求項12】
請求項5に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を架橋させたシラン架橋ポリプロピレン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン変性ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物、シラン架橋ポリプロピレン、及びこれらを用いた成形体、架橋成形体、三次元網状繊維集合体並びに三次元網状繊維集合体の架橋成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂をループ状に押出成形して得られた三次元網状繊維集合体を、クッション材等の緩衝材として使用した家具や、枕、ベッド用マット等の寝具が普及しつつある。
【0003】
この三次元網状繊維集合体は、一般的に次のようにして製造される。即ち、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を押出機内で溶融し、多数の孔を有するダイスから溶融した樹脂を押出成形してストランドとする。ダイスの下方には水槽が設けられており、ストランドが自然流下して水槽内に着水し、ストランドが水中に滞留すると、水による冷却で樹脂が固化し、ループ状の絡み合いを持つ三次元網状繊維集合体が製造される(特許文献1)。成形に用いる熱可塑性樹脂としては、エチレン・α-オレフィン共重合体、発泡ポリウレタン、ポリエステル等が検討されている。
【0004】
熱可塑性樹脂よりなる三次元網状繊維集合体を用いた寝具等の緩衝材においては、荷重により繊維の圧縮及び引張方向に歪みが生じ、この歪みが長時間、或いは繰り返し起こることにより、繊維集合体の緩衝材は元の厚みに形状回復せず徐々に圧縮方向に潰れクッション性が損なわれる所謂「ヘタリ」が発生し問題となっている。ヘタリは高温下で顕著となり、電気毛布等暖房寝具を使用した場合、寝具の一部が変形する等の不具合が生じることが知られている。これらは、三次元網状繊維集合体を構成する熱可塑性樹脂が、高温での荷重下において、流動又は塑性変形することに起因するものである。
【0005】
三次元網状繊維集合体を構成する熱可塑性樹脂の耐熱性を向上させるものとして、特定のプロピレン系重合体を用いることが知られている(特許文献2)。また、シラン変性ポリプロピレンを含有する技術も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/035736号
【特許文献2】国際公開第2016/002941号
【特許文献3】特開2018-83867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、医療・介護分野の寝具用途では、高温での滅菌に対する耐熱性や、消毒処理に対する形状保持性が求められるところ、特許文献2及び3の技術は、耐熱性、柔軟性及び形状保持性の観点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、耐熱変形性、及び柔軟性に優れる成形体、架橋成形体、三次元網状繊維集合体及び三次元網状繊維集合体の架橋成形体を実現可能なシラン変性ポリプロピレン、シラン架橋ポリプロピレン、及びシラン変性ポリプロピレン組成物を提供することを目的とする。更には、これらを用いた耐熱変形性、及び柔軟性に優れる成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体及び三次元網状繊維集合体の架橋成形体を提供することを目的とする。
【0009】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、融点が50℃以上130℃未満であるプロピレン単独重合体と、融点が130℃以上180℃以下であり、かつプロピレン単位を51~92質量%、エチレン単位及び又はα-オレフィン単位を8~49質量%含有するプロピレン系共重合体とを、特定の配合割合で配合したポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物をシラン変性したシラン変性ポリプロピレンが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
【0011】
[1]ポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンであって、該ポリプロピレン組成物が、融点が50℃以上130℃未満であるプロピレン単独重合体(a)と、融点が130℃以上180℃以下であり、かつプロピレン単位を51~92質量%、エチレン単位及び又はα-オレフィン単位を8~49質量%含有するプロピレン系共重合体(b)を含み、該ポリプロピレン組成物100質量%における成分(a)の含有率が5~50質量%であり、成分(b)の含有率が50~95質量%である、シラン変性ポリプロピレン。
【0012】
[2]前記シラン変性ポリプロピレンのシラン変性部位が、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物の重合残基である[1]に記載のシラン変性ポリプロピレン。
R-Si(R’)3 ・・・(1)
(式中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
【0013】
[3]示差走査熱量計(DSC)で測定される半結晶化時間が30分以上である、[1]又は[2]に記載のシラン変性ポリプロピレン。
[4]メルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定)が25~100g/10分である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレン。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載のシラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを含むシラン変性ポリプロピレン組成物。
[6][5]に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる成形体。
[7][6]に記載の成形体を架橋させてなる架橋成形体。
[8][5]に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を成形してなる三次元網状繊維集合体。
【0014】
[9][8]に記載の三次元網状繊維集合体を架橋させてなる三次元網状繊維集合体の架橋成形体。
[10][5]に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を架橋させたシラン架橋ポリプロピレンであって、前記シラン変性ポリプロピレンの融点が150℃以上180℃以下であり、JIS K 7171(2008)に準拠して測定した曲げ弾性率が150MPa以下であるシラン架橋ポリプロピレン。
[11][10]に記載のシラン架橋ポリプロピレンよりなる三次元網状繊維集合体の架橋成形体。
[12][5]に記載のシラン変性ポリプロピレン組成物を架橋させたシラン架橋ポリプロピレン。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱変形性、及び柔軟性に優れる成形体、架橋成形体、三次元網状繊維集合体及び三次元網状繊維集合体の架橋成形体を実現可能なシラン変性ポリプロピレン、シラン架橋ポリプロピレン、及びシラン変性ポリプロピレン組成物を提供することができる。更には、これらを用いた耐熱変形性、及び柔軟性に優れる成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体及び三次元網状繊維集合体の架橋成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、なお、以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、本明細書において“質量%”と“質量%”、及び“質量部”と“重量部”とは、それぞれ同義である。さらに、(共)重合体とは、1のみの重合成分からなる単独重合体、2以上の共重合成分からなる共重合体の双方を包含する意味である。
【0017】
[シラン変性ポリプロピレン]
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物をシラン変性してなるシラン変性ポリプロピレンである。
[ポリプロピレン組成物]
本発明に係る、シラン変性に供されるポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物は、ポリプロピレンとして、プロピレン単独重合体(a)(以下、「成分(a)」と称することがある。)と、プロピレン系共重合体(b)(以下、「成分(b)」と称することがある。)を含む。
【0018】
(成分(a):プロピレン単独重合体(a))
前記のプロピレン単独重合体(a)は、結晶化速度を遅い方向に制御する観点から、その融点は、50℃以上130℃未満が必要で、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下が更に好ましい。
なお、融点(融解ピーク温度)が50℃以上130℃未満であるプロピレン単独重合体(a)とは、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解ピーク温度が50℃以上130℃未満であるプロピレン単独重合体を意味する。
【0019】
プロピレン単独重合体でありながら低融点を有する前記プロピレン単独重合体(a)は、メタロセン触媒を用いて、プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を製造する方法で製造することができる。
【0020】
メタロセン系触媒としては、特開昭58-19309号公報、特開昭61-130314号公報、特開平3-163088号公報、特開平4-300887号公報、特開平4-211694号公報、特表平1-502036号公報等に記載されるようなシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基等を1又は2個配位子とする遷移金属化合物、及び該配位子が幾何学的に制御された遷移金属化合物と助触媒を組み合わせて得られる触媒が挙げられる。
【0021】
メタロセン触媒のなかでも、配位子が架橋基を介して架橋構造を形成している遷移金属化合物からなる場合が好ましく、なかでも、2個の架橋基を介して架橋構造を形成している遷移金属化合物と助触媒を組み合わせて得られるメタロセン触媒を用いる方法がさらに好ましい。このメタロセン触媒の例としては、周期律表第3~10族又はランタノイド系列の金属元素に、置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,ヘテロシクロペンタジエニル基,置換ヘテロシクロペンタジエニル基,アミド基,ホスフィド基,炭化水素基及び珪素含有基の中から選ばれた2つの配位子が配位され、これら2つの配位子が2種類の架橋基によって架橋された化合物が挙げられる。この架橋基としては、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基、珪素含有基、ゲルマニウム含有基、スズ含有基、-O-、-CO-、-S-、-SO2 -、-Se-、-NR-、-PR-、-P(O)R-、-BR-又は-AlR-を等が挙げられる。なお、Rは水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン含有炭化水素基等が挙げられる。
このようなメタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン単独重合体は、一般的によく使用されているチーグラーナッタ触媒やメタロセン系触媒を用いて製造されたプロピレン単独重合体と比較して、立体規則性が低いことに起因して、低い融点を有する。またその低立体規則性から結晶化速度が遅くなるという特徴も有する。
【0022】
上記プロピレン単独重合体(a)の市販品としては、例えば、出光興産(株)製「エルモーデュ(登録商標)」、商品名「エルモーデュ S400」等が挙げられる。
【0023】
プロピレン単独重合体(a)のJIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)の下限は、成形性、特に三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の成形時のループコイルの形成しやすさから、30g/10分以上であることが好ましく、40g/10分以上であることがより好ましく、50g/10分以上であることが更に好ましい。その上限は、同様にループコイル形成の観点から、3000g/10分以下であることが好ましく、2900g/10分以下であることがより好ましく、2800g/10分以下であることが更に好ましい。
【0024】
プロピレン単独重合体(a)のJIS K7112(1999)にて測定した密度の下限は、成形体、特に三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の柔軟性の観点から、0.840g/cm3以上であることが好ましく、0.850g/cm3以上であることがより好ましく、0.860g/cm3以上であることが特に好ましい。その上限は、0.930g/cm3以下であることが好ましく、0.910g/cm3以下であることがより好ましく、0.890g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明に好適なプロピレン単独重合体(a)としては市販品を用いることもでき、出光興産社製「エルモーデュ(登録商標)」シリーズ等の中から前記の特性に該当するものを適宜選択して用いることができる。
プロピレン単独重合体(a)は、1種のみで構成されていてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上で構成されていてもよい。
【0026】
(成分(b):プロピレン系共重合体(b))
前記プロピレン系共重合体(b)は、プロピレン単位と、エチレン単位及び/又はα-オレフィン単位を有する共重合体である。
このプロピレン系共重合体(b)において、プロピレン単位と、エチレン単位及び/又はα-オレフィン単位の含有割合は、耐熱性と柔軟性の観点から、プロピレン単位が51~92質量%、エチレン単位及び/又はα-オレフィン単位が8~49質量%が必要である。この範囲内とすることにより、耐熱性と柔軟性を向上させることができる。
さらに、プロピレン系共重合体(b)のプロピレン単位の含有率の下限は、耐熱性の観点から、61質量%以上が更に好ましい。そして、エチレン単位及び/又はα-オレフィン単位の含有割合の下限は、耐熱性の観点から、8.5質量%以上がより好ましく、9質量%以上が更に好ましい。また、プロピレン系共重合体(b)のプロピレン単位の含有率の上限は、柔軟性の観点から、91質量%以下であることがより好ましい。そして、エチレン単位及び/又はα-オレフィン単位の含有割合の上限は、耐熱性の観点から、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。
【0027】
また、前記プロピレン系共重合体(b)の融点は、耐熱性と柔軟性の観点から、130℃以上180℃以下が必要である。この範囲内とすることにより、耐熱性と柔軟性を向上させることができる。
前記プロピレン系共重合体(b)の融点の下限は、耐熱性の観点から135℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましい。一方、成形時のブツ低減の観点からは、低い温度の成形が有効であることから、プロピレン系共重合体(b)の融点は175℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。
【0028】
前記プロピレン系共重合体(b)のα-オレフィン単位を形成するα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数4~10のα-オレフィン、即ち、炭素数4~10のα-オレフィンが好ましく、より好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。これらα-オレフィン単位の1種のみが含まれていてもよく、任意の2種以上が含まれていてもよい。
【0029】
前記プロピレン系共重合体(b)は、プロピレン単位、エチレン単位、α-オレフィン単位以外の単量体単位(以下、「その他の単量体単位」と称する。)を含有していてもよいが、好ましくは、プロピレン単量体とエチレン単量体、1-ブテン単量体、1-ヘキセン単量体、1-オクテン単量体等のα-オレフィン単位の中から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0030】
前記のその他の単量体単位を形成する単量体(以下、「その他の単量体」と称する場合がある)としては、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、スチレン誘導体等のビニル結合含有単量体の1種又は2種以上が挙げられる。ただし、耐熱性の観点から、プロピレン系共重合体(b)中のその他の単量体単位の含有率は40質量%以下、特に35質量%以下であることが好ましい。
なお、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の一方又は双方を示す。
【0031】
前記プロピレン系共重合体(b)の具体例としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・炭素数4~20のα-オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・炭素数4~20のα-オレフィン共重合体といったプロピレン共重合体が挙げられ、これらの中でも、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン共重合体が好ましい。
なお、プロピレン系共重合体は、プロピレンランダム共重合体であっても、プロピレンブロック共重合体であってもよい。
【0032】
プロピレン系共重合体(b)のJIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)は、成形性、特に、特に三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の成形時のループコイルの形成しやすさの観点から、0.4g/10分以上が好ましく、0.5g/10分以上がより好ましく、80g/10分以下が好ましく、70g/10分以下がより好ましい。
【0033】
プロピレン系共重合体(b)のJIS K7112(1999)にて測定した密度は、成形体、特に三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の柔軟性の観点から、0.840g/cm3以上であることが好ましく、0.850g/cm3以上であることがより好ましく、0.860g/cm3以上であることが特に好ましい。その上限は、0.930g/cm3以下であることが好ましく、0.910g/cm3以下であることがより好ましく、0.890g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明に好適なプロピレン系共重合体(b)としては市販品を用いることもでき、三菱ケミカル(株)製「ゼラス(登録商標)」シリーズ、三井化学(株)製「タフマー(登録商標)」シリーズ、LyondellBasell社製「アドフレックス(登録商標)」シリーズ等の中から前記の特性に該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0035】
プロピレン系共重合体(b)は1種のみで構成されていてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上で構成されていてもよい。
【0036】
本発明においてプロピレン単独重合体(a)及びプロピレン系共重合体(b)の融点は、下記測定条件で測定することができる。
<融点測定条件>
示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときの融解ピークの頂点の温度を融点とする。複数の融解ピークが得られる場合には、その最大値をその試料の融解ピーク温度とする。
【0037】
[ポリプロピレン組成物の配合割合]
本発明に係るポリプロピレン組成物において、プロピレン単独重合体(a)の含有率は、該ポリプロピレン組成物100質量%に対して5~50質量%である。一方、プロピレン系共重合体(b)の含有率は、該ポリプロピレン100質量%に対して50~95質量%である。
【0038】
前記プロピレン単独重合体(a)の含有率を5質量%以上とするにより、結晶化を遅延させる結晶化遅延性が高まり、成形時にストランドが水槽内に着水した後の溶融状態でストランド同士が絡み合い溶融接着しやすくなり、三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の耐熱融着性が優れる傾向にある。このような観点からプロピレン単独重合体(a)の含有率は、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。一方で架橋成形体とした際の耐熱性の観点からは、プロピレン単独重合体(a)の含有率は50質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
【0039】
また、前記プロピレン系共重合体(b)の含有率を50質量%以上とするにより、結晶化を遅延させる結晶化遅延性が高まり、成形時にストランドが水槽内に着水した後の溶融状態でストランド同士が絡み合い溶融接着しやすくなり、三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の耐熱融着性が優れる傾向にある。このような観点からプロピレン系共重合体(b)の含有率は、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましい。一方で架橋成形体とした際の柔軟性の観点からは、プロピレン系共重合体(b)の含有率は90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましい。
【0040】
前記ポリプロピレン組成物100質量%におけるプロピレン単独重合体(a)とプロピレン系共重合体(b)の合計の含有率は、耐熱融着性、耐熱性および柔軟性の観点から、55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましく、100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。
上述したようにポリプロピレン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記したプロピレン単独重合体(a)、プロピレン系共重合体(b)以外のプロピレン系重合体を含有していてもよい。
【0041】
前記のプロピレン単独重合体(a)、プロピレン系共重合体(b)以外のプロピレン系重合体としては、融点が130℃以上180℃以下のプロピレン単独重合体、融点が130℃以上180℃以下で、かつプロピレン単位を92質量%を超えて99質量%以下、エチレン単位及び又はα-オレフィン単位を1質量%以上8質量%未満含有するプロピレン系共重合体が好ましい(以下、プロピレン単独重合体(a)、プロピレン系共重合体(b)以外のプロピレン系重合体を「その他のプロピレン系重合体」と称する場合がある。)。
【0042】
(その他のプロピレン系重合体)
その他のプロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体もしくはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体でもよく、プロピレンと共重合させるプロピレン以外の炭素数2~20(3を除く)のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、6-メチル-1-ヘプテンなどが挙げられる。これらのうち、プロピレンと共重合させるα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
その他のプロピレン系重合体は、プロピレンと1種類のα-オレフィンとの共重合体であってもよく、2種類以上のα-オレフィンを組合わせた共重合体であってもよい。
【0043】
その他のプロピレン系重合体は、共重合体を構成する構成単位として、1種又は2種以上のα-オレフィン1質量%以上8質量%未満と、プロピレン92質量%を超えて99質量%以下とを共重合させたものが好ましい。α-オレフィン単位とプロピレン単位とをこの範囲とすることで、成形品とした時の耐熱性を維持できる。
【0044】
その他のプロピレン系重合体の密度は、880g/cm3以上、965g/cm3以下が好ましく、より好ましくは890g/cm3以上、960g/cm3以下である。その他のプロピレン系重合体の密度を上記上限以下とすることで、架橋により得られる架橋体の剛性を所望の範囲に抑えやすくなる傾向にあり、柔軟性を維持しやすくなる。その他のプロピレン系重合体の密度が上記下限値以上であると、耐熱性を維持し易い傾向にある。
【0045】
また、その他のプロピレン系重合体のMFR(230℃、荷重2.16kg)は特に限定されないが、通常0.5~30g/10分、好ましくは0.8~20g/10分、より好ましくは1~10g/10分である。MFRを前記下限値以上とすることで、単独での凝集力が強くなり他の成分との均一混合性が不十分になることを抑制できるほか、本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物を製造する際のエネルギー負荷が大きくなり過ぎることを抑制できる。また、MFRを前記上限値以下とすることで、本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物の流動性が高くなりすぎることにより(溶融粘度および溶融張力が低下し)、成形性の指標である三次元網状繊維集合体の架橋成形体の成形時のループコイルの形成が困難になることを抑制できる。
【0046】
その他のプロピレン系重合体としては、市販品を用いることもでき、例えば、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)」シリーズ、「ウィンテック(登録商標)」シリーズ、プライムポリマー社製「プライムポリプロ(登録商標)」シリーズ等の中から前記の特性に該当するものを適宜選択して用いることができる。
【0047】
(その他の材料)
ポリプロピレン組成物は上記したポリプロピレン以外に、本件発明の効果を損なわない範囲で、その他の材料を含んでいてよいが、ポリプロピレン組成物100質量%におけるその他材料の合計の含有率は、45質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
その他の材料としては、下記に説明する配合剤が挙げられる。
【0048】
[配合剤]
本発明のポリプロピレン組成物には、一般的に樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。このような配合剤としては、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、粘度調整剤、顔料を挙げることができる。
【0049】
酸化防止剤の具体例としては、フェノール系、硫黄系、又はリン系の酸化防止剤が挙げられるが、これらに特に限定されない。
酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、ポリプロピレン組成物100質量部に対し、0質量部が好ましく、より好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0050】
紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-N-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアリゾール系;フェニルサルチレート、p-オクチルフェニルサルチレート等のサリチル酸エステル系のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。
紫外線吸収剤の配合量は、特に限定されないが、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対して、0.01~1.0質量部が好ましく、より好ましくは0.02~0.5質量部である。
【0051】
粘度調整剤としては、ゴム配合油、具体的にはパラフィン系プロセスオイルが好ましい。粘度調整剤の配合量は、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対して、0.5~5質量部が好ましく、より好ましくは0.8~3質量部である。
その他材料として、公知のエチレン系重合体を含んでいてもよい。
【0052】
[シラン変性ポリプロピレン]
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、上述したポリプロピレンを含むポリプロピレン組成物をシラン変性したシラン変性ポリプロピレンである。
シラン変性は、シラン化合物によるグラフト変性が好適である。グラフト導入されるシラン化合物は、アルコキシ基を有するシラン化合物である限り、特に限定されないがシラン変性ポリプロピレンのシラン変性部位は、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物の重合残基であることが好ましい。すなわち、シラン変性に用いられるシラン化合物としては、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物が好ましい。
【0053】
R-Si(R’)3 ・・・(1)
上記式(1)中、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。なお、Rは、ポリプロピレンへのグラフト導入時に、結合部位となる。
【0054】
上記式(1)において、Rは、好ましくは炭素数2~10のエチレン性不飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~6のエチレン性不飽和炭化水素基である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
【0055】
上記式(1)において、R’は好ましくは炭素数1~6の炭化水素基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。また、R’のうちの少なくとも1つは、好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基である。
【0056】
上記式(1)において、R’の炭素数1~10の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、R’の炭素数1~10のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。R’の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基等に代表されるアルキル基、又はフェニル基等に代表されるアリール基が挙げられるが、これらに特に限定されない。R’のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、β-メトキシエトキシ基が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0057】
上記式(1)において、3つのR’のうち少なくとも1つはアルコキシ基であるが、2つ以上のR’がアルコキシ基であることが好ましく、3つ全てのR’がアルコキシ基であることがより好ましい。
【0058】
不飽和シラン化合物の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロペニルトリメトキシシラン等に代表されるビニルトリアルコキシシランが特に好ましい。これはエチレン性不飽和炭化水素基によって原料プロピレン系重合体のシラン変性が容易であることに加えて、3つのアルコキシ基によって後述の架橋反応を生じさせることができるからである。すなわち、原料プロピレン系重合体にグラフト導入されたアルコキシシランのアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解してシラノール基を生成させ、かかるシラノール基同士が脱水縮合することにより、シラン変性ポリプロピレン同士が結合する架橋反応が起こる。なお、不飽和シラン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0059】
シラン変性ポリプロピレン中のシラン化合物由来の構成要素の含有率は、特に限定されないが、成形時の粘度や取扱性、耐熱性、耐熱変形性、及び形状保持性等の観点から、シラン変性ポリプロピレンの総量に対して、0.1~5.0質量%であることが好ましい。シラン変性ポリプロピレン中のシラン化合物の含有率は、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、一方、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
なお、シラン変性ポリプロピレン中のシラン化合物の含有率は、変性前のポリプロピレンの総量に対する、シラン化合物(導入される不飽和シラン化合物)の質量割合である。
【0060】
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、本発明の効果を損なわない範囲で、シラン化合物(不飽和シラン化合物)以外の化合物(以下、「他のグラフト化合物」ともいう。)がグラフトされていてもよい。他のグラフト化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和カルボン酸、及び、これらの酸無水物が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0061】
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、上述したとおり、ポリプロピレンにシラン化合物をグラフト導入してシラン変性することにより製造することができる。シラン変性の方法は、公知の手法に従って行うことができ、特に限定されない。例えば、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性が好適に用いられる。これらの中でも、設備やコスト競争力に優れた溶融変性がより好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性が更に好ましい。溶融混練変性に用いられる装置としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機が好ましい。
【0062】
一般に、ポリプロピレンへのシラン化合物のグラフト導入は、ポリプロピレンの炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加する、といったグラフト重合反応によって行うことができる。炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温とする方法や、有機、無機過酸化物等のラジカル発生剤を用いることで行うこともできる。コストや操作性の観点からは、有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0063】
本発明のシラン変性ポリプロピレンを製造する際に用いるラジカル発生剤としては、特に限定されないが、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれる有機過酸化物、及びアゾ化合物が挙げられる。
【0064】
具体的には、ハイドロパーオキサイド群としては、キュメンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド群としては、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン-3が挙げられる。ジアシルパーオキサイド群としては、ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシエステル群としては、ターシャリーパーオキシアセテート、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエイト、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ケトンパーオキサイド群としては、シクロヘキサノンパーオキサイドが挙げられる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、メチルアゾイソブチレートが挙げられる。これらのラジカル発生剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0065】
一般的に用いられる押出機を用いた溶融混練変性の操作としては、ポリプロピレン、グラフト導入されるシラン化合物(例えば不飽和シラン化合物)、及び必要に応じて有機過酸化物等のラジカル発生剤を配合し、ブレンドして混練機や押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出しを行い、ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却してシラン変性ポリプロピレンを得る。
【0066】
ポリプロピレンとグラフト導入されるシラン化合物(例えば不飽和シラン化合物)との配合割合は、所望するシラン化合物の導入割合に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。所望するシラン変性量を得るとともに未反応物の残留を低減する等の観点から、ポリプロピレン100質量部に対し、シラン化合物の配合割合は0.3~10質量部が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0067】
また、必要に応じて配合するラジカル発生剤の使用量は、適宜調整することができ、特に限定されないが、有機過酸化物の場合には、所望するシラン変性量を得るとともに、得られるシラン変性ポリプロピレンの劣化を抑制する等の観点から、シラン化合物(例えば不飽和シラン化合物)100質量部に対し、有機過酸化物の配合割合は0.001~10質量部が好ましく、より好ましくは0.01~5質量部である。
また、溶融押出変性条件としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機を用いる場合には、150~300℃程度の温度で押出すことが好ましい。
【0068】
[物性]
[半結晶化時間]
本発明のシラン変性ポリプロピレンの示差走査熱量計(DSC)で測定される半結晶化時間は、30分以上であることが好ましい。
(株)日立ハイテック製の示差走査熱量計、商品名「DSC7000X」を用いて、試料約5mgを窒素雰囲気下にて、加熱速度100℃/分で30℃から230℃まで昇温し、230℃で10分間保持した後、冷却速度100℃/分で125℃まで降温し、その後125℃で40分間保持して測定されたサーモグラムを用いエンタルピー50%到達時間から半結晶化時間(min.)を算出した。値が大きい方が結晶化遅延性の高い事を示す。
【0069】
半結晶化時間は、プロピレン100質量%におけるプロピレン単独重合体(a)の含有率により、制御することができ、5質量%以上とするにより、結晶化を遅延させる結晶化遅延性が高まる。結晶化遅延性が高まることにより、成形時にストランドが水槽内に着水した後の溶融状態でストランド同士が絡み合い溶融接着しやすくなり、三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体の耐熱融着性が優れる傾向にある。
【0070】
本発明のシラン変性ポリプロピレンの融点は、150℃以上である。融点が上記下限値以上であると、耐熱性が高く、得られる架橋成形体等において、良好な耐熱性を持つ製品を作製しやすくなる。また、融点を上記下限値以上とすることで、高温での使用時にヘタリが生じにくい傾向にある。一方、本発明のシラン変性ポリプロピレンの融点の上限は特に限定されないが、通常180℃以下である。
上記観点から本発明のシラン変性ポリプロピレンの融点は、155℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。
【0071】
シラン変性ポリプロピレンの融点は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融点としたものを用いる。
【0072】
本発明のシラン変性ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、JIS K7210(1999)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定)は、特に限定されないが、15g/10分以上が好ましく、より好ましくは20g/10分以上、更に好ましくは25g/10分以上であり、100g/10分以下が好ましく、より好ましくは90g/10分以下、更に好ましくは80g/10分以下である。MFRが上記下限値以上であると、ダイスウェル及び溶融張力が低いためストランド径が増加しにくく、得られる三次元網状繊維集合体において集合体側面に沿ってループを形成しやすく、良好な反発感を持つ製品を作製しやすい傾向にある。また、MFRが上記上限値以下であると、複数のストランドを押出成形する際、ストランドの吐出が安定しやすく、複数のストランドが丸まって固まった樹脂塊を形成し難い傾向にある。またループ形成及びストランドの融着が安定し、ストランド径も均一となりやすく、得られる三次元網状繊維集合体の均一性が良好となり、製品としての性能、品質が向上されやすい傾向にある。
【0073】
本発明のシラン変性ポリプロピレンの密度は、プレス成形した厚さ2mmのシート状の試験片を用い、JIS K7112(1999)に準拠して測定される。本発明のシラン変性ポリプロピレンの密度は、特に限定されないが、三次元網状繊維集合体、三次元網状繊維集合体の架橋成形体としたときの柔軟性の観点から、0.850g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.855g/cm3以上、更に好ましくは0.860g/cm3以上であり、0.930g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.925g/cm3以下、更に好ましくは0.920g/cm3以下である。
【0074】
[シラン変性ポリプロピレン組成物]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、上述した本発明のシラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを少なくとも含む組成物である。
【0075】
[シラノール縮合触媒]
ここで用いるシラノール縮合触媒としては、金属有機酸塩、チタネート、ホウ酸塩、有機アミン、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、無機酸及び有機酸、並びに無機酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物が挙げられる。
【0076】
前記金属有機酸塩としては、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ナフテン酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、オクチル酸鉄、ステアリン酸鉄等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
前記チタネートとしては、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ-イソプロピルチタネート等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0077】
前記有機アミンとしては、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルソーヤアミン、テトラメチルグアニジン、ピリジン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
前記アンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
前記ホスホニウム塩としては、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
前記の無機酸及び有機酸としては、硫酸、塩酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、アルキルナフチルスルホン酸等のスルホン酸化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。無機酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、リン酸エステル等が挙げられる。
【0078】
これらの中でも、好ましくは金属有機酸塩、スルホン酸化合物、リン酸エステルが挙げられ、更に好ましくは錫の金属カルボン酸塩、例えばジオクチル錫ジラウレート、アルキルナフチルスルホン酸、エチルヘキシルリン酸エステルが挙げられる。なお、シラノール縮合触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0079】
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、特に限定されないが、架橋前の成形品の成形時の早期架橋を抑制するとともにシラン架橋ポリプロピレン作製時の架橋反応を促進させ、得られる三次元網状繊維集合体等の耐熱性を向上させる等の観点から、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対し、0.01~0.5質量部が好ましく、より好ましくは0.03~0.3質量部である。
【0080】
なお、シラノール縮合触媒は、樹脂とシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして用いることが好ましい。このシラノール縮合触媒含有マスターバッチに用いることのできる樹脂としては、例えば、プロピレンの重合体であるホモポリプロピレン、プロピレンと、エチレン又はブテン、ヘキセン、オクテン等のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)との共重合体や、エチレン共重合体が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、柔軟性等の観点から、ホモポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合が好ましい。ここで、プロピレン・エチレン共重合体は、プロピレン60~98質量%と、エチレン2~40質量%とを共重合させたものであることが好ましい。なお、シラノール縮合触媒のマスターバッチにおいて、これらのポリプロピレンの1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0081】
シラノール縮合触媒を、樹脂とシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有率には特に制限はないが、通常0.1~5.0質量%程度とすることが好ましい。なお、シラノール縮合触媒含有マスターバッチとしては市販品を用いることができ、例えば、三菱ケミカル社製「PZ010」を用いることができる。
【0082】
[その他の成分]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、上述したシラン変性ポリプロピレン及びシラノール縮合触媒以外に、その他の成分として、各種の添加剤やシラン変性ポリプロピレン以外の樹脂(シラノール縮合触媒含有マスターバッチ中のポリプロピレンや、シラノール縮合触媒含有マスターバッチ中のポリプロピレン以外の樹脂を含む)、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。例えば、本発明のシラン変性ポリプロピレンに配合し得る、前述の配合剤を含有していてもよい。
【0083】
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物が上述したシラン変性ポリプロピレン及びシラノール縮合触媒以外その他の成分を含有する場合、シラン変性ポリプロピレン及びシラノール縮合触媒を含有することによる効果を十分に得る上で、他の成分の含有量は、シラン変性ポリプロピレン100質量部に対して20量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0084】
その他の成分の具体例としては、ポリオレフィン以外の熱可塑性固形樹脂、固形状ゴム、液状樹脂、軟化剤、可塑剤等が挙げられる。これらは、接着性或いは相溶性等を改善するための粘着付与剤として用いることもできる。例えば、ロジンとその誘導体、テルペン樹脂や石油樹脂とその誘導体、アルキッド樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、合成テルペン樹脂、アルキレン樹脂、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリブテン、イソブチレンとブタジエンの共重合物、鉱油、プロセスオイル、パイン油、アントラセン油、松根油、可塑剤、動植物油、重合油等を含有していてもよい。
【0085】
[シラン架橋ポリプロピレン]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、水含有雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、シラン架橋ポリプロピレンとすることができる。水含有雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、特に限定されない。例えば、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法が挙げられる。
【0086】
詳述すると、本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物においては、シラン変性ポリプロピレンにグラフト導入されたシラン化合物(例えば不飽和シラン化合物)由来の加水分解可能なアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、架橋反応が進行し、シラン変性ポリプロピレン同士が結合して、シラン架橋ポリプロピレンを生成する。
【0087】
架橋条件は水含有雰囲気中に曝す条件によって決まり、特に限定されないが、通常20~130℃の温度範囲、且つ10分~1週間の範囲が好ましく、より好ましくは20~130℃の温度範囲、且つ1時間~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲内で適宜調整すればよい。
【0088】
[成形体・架橋成形体]
上述した架橋処理前に、本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物を押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形方法により所定形状に成形することで、(未架橋の)成形体とすることができる。そして、得られた(未架橋の)成形体を水含有雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、架橋成形体(シラン架橋ポリプロピレン成形体)とすることができる。
【0089】
[三次元網状繊維集合体及びその架橋成形体]
本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物を押出成形してストランドとし、次いでこのストランド同士を熱融着してから、水冷却することにより、三次元網状繊維集合体とすることができる。例えば国際公開第2012/035736号に記載されているような製造装置及び成形方法により、シラン変性ポリプロピレン組成物を三次元網状繊維集合体に成形することができる。このようにして得られた三次元網状繊維集合体は、前述したように水雰囲気に曝し、架橋三次元網状成形体として用いることが好ましい。
【0090】
エチレン・α-オレフィン共重合体等のエチレン系共重合体を用いた成形体では、耐熱性に課題が残り、特定のプロピレン系重合体やシラン変性ポリプロピレンを使用することにより改善は見られたものの、高温での滅菌等に耐えられる耐熱性は未だ得られていない。本発明のシラン変性ポリプロピレン組成物は、成形時には架橋せずに成形することができるため、成形直後のループ性、熱接着性等特殊な成形性を必要とする三次元網状繊維集合体を効率よく成形することができる。更に、耐熱性と柔軟性を両立する事ができ、本組成物を使用することで、高温での荷重下でもヘタリの問題が大きく改善され、優れたクッション性を示す三次元網状繊維集合体を提供することができる。
【0091】
また、この三次元網状繊維集合体を、水含有雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、三次元網状繊維集合体の架橋成形体、すなわち、架橋された三次元網状繊維集合体とすることができる。
【0092】
[シラン架橋ポリプロピレンの物性]
以下に挙げる本発明のシラン架橋ポリプロピレンの物性の評価に用いる試験片は、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で製造される。
本発明のシラン架橋ポリプロピレンの曲げ弾性率は、JIS K7171(2008)に準拠して、射出成形した厚さ4mm、長さ80mm、幅10mmの試験片を用いて測定できる。
【0093】
本発明のシラン架橋ポリプロピレンの曲げ弾性率の下限は、30MPa以上が好ましく、より好ましくは35MPa以上、更に好ましくは40MPa以上である。一方、本発明のシラン架橋ポリプロピレンの曲げ弾性率の上限は、150MPa以下が好ましく、より好ましくは120MPa以下、更に好ましくは90MPa以下である。曲げ弾性率が上記下限値以上であることで、得られる三次元網状繊維集合体において、荷重に耐え得る十分な強度を獲得しやすく、ヘタリが生じにくい傾向にある。また、曲げ弾性率が上記上限値以下であることで、得られる三次元網状繊維集合体において、使用するのに十分な柔軟性を得やすい傾向にある。
【0094】
[架橋成形体の製造方法]
本発明の架橋成形体は、上述した成分(a)及び成分(b)を含むポリプロピレン組成物をシラン変性したシラン変性ポリプロピレンを得る工程、該シラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを含むシラン変性ポリプロピレン組成物を得る工程、該シラン変性ポリプロピレン組成物を成形して成形体を得る工程、該成形体を架橋させて架橋成形体を得る工程、を有する架橋成形体の製造方法により得られる。
【0095】
[三次元網状繊維集合体の架橋成形体の製造方法]
本発明の三次元網状繊維集合体の架橋成形体は、上述した成分(a)及び成分(b)を含むポリプロピレン組成物をシラン変性したシラン変性ポリプロピレンを得る工程、該シラン変性ポリプロピレンと、シラノール縮合触媒とを含むシラン変性ポリプロピレン組成物を得る工程、該シラン変性ポリプロピレン組成物を押出成形して得られるストランド同士を熱融着させた状態で固化することにより三次元網状繊維集合体を得る工程、該三次元網状繊維集合体を架橋させて三次元網状繊維集合体の架橋成形体を得る工程、を有する三次元網状繊維集合体の架橋成形体の製造方法により得られる。
【0096】
[用途]
本発明のシラン変性ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレン組成物及びシラン架橋ポリプロピレンの用途は、特に限定されない。例えば家具、ベッド用マット、枕等の寝具;車両用、船舶等の乗物用座席等のクッション材として好適に用いることができる。なお、これらの用途に適用される場合、前述の三次元網状繊維集合体として用いることが好ましい。この三次元網状繊維集合体は、必要に応じて、他の材料との積層体として用いることもできる。ただし、上述したとおり、成形体の形状は、三次元網状繊維集合体に限定されるものではなく、用途に応じて所定の形状に成形することができる。
【実施例0097】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0098】
[原料]
実施例及び比較例で用いた原料を、以下に示す。
[ポリプロピレン系樹脂]
・a-1:エルモーデュ(登録商標)S400(出光興産(株)製、プロピレン単独重合体、MFR:2600g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm3)、融点:80℃を使用した。
【0099】
・b-1:タフマー(登録商標)PN-2060(三井化学(株)製、プロピレン・エチレン・ブテン共重合体、プロピレン単位:84質量%、α-オレフィン単位:16質量%、MFR:6g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm3)、融点:162℃を使用した。
【0100】
(その他のポリプロピレン系樹脂)
・PP-1:ノバテックPP(登録商標)MA3Q(日本ポリプロ(株)製、プロピレン単独重合体、MFR:11g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.90g、融点:160℃を使用した。
【0101】
・PP-2:アドフレックス(登録商標)V109F(LyondellBasell社製、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン単位:93質量%、α-オレフィン単位:7質量%、MFR:12g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.88g/cm3)、融点:142℃を使用した。
【0102】
・PP-3:ノバテック(登録商標)EG8B(日本ポリプロ(株)製、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン単位:97質量%、α-オレフィン単位:3質量%、MFR:0.8g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度:0.90g/cm3)、融点:143℃を使用した。
【0103】
[ポリプロピレン以外の材料]
・PE-1:エンゲージ(登録商標)8100(ダウケミカル社製、エチレン・オクテン共重合体(エチレン単位を主成分とする)、MFR:1g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm3)を使用した。
【0104】
・PE-2:エンゲージ(登録商標)XLT8677(ダウケミカル社製、エチレン・オクテン共重合体(エチレン単位を主成分とする)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm3)を使用した。
【0105】
[触媒マスターバッチ(MB)]
・触媒MB:PZ010(三菱ケミカル(株)製、錫触媒(ジオクチル錫ジラウレート)を含有するホモポリプロピレン、ホモポリプロピレンのMFR:16g/10分(230℃、2.16kg荷重)、線状低密度ポリエチレンの密度:0.90g/cm3)を使用した。
【0106】
[測定・評価方法]
各種物性、特性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0107】
[ポリプロピレン、シラン変性ポリプロピレンの測定]
[融点]
(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融点とした。なお、融点は、耐熱性の指標となる。
【0108】
[メルトフローレート(MFR)]
JIS K7210(1999)に準拠して、230℃、2.16kg荷重にて測定した。なお、MFRは、成形性の指標となる。
【0109】
[密度]
シラン変性ポリプロピレンをプレス成形して得られた厚さ2mmのシート状の試験片を用い、JIS K7112(1999)に準拠して測定した。なお、密度は、成形性の指標となる。
【0110】
[半結晶化時間]
(株)日立ハイテック製の示差走査熱量計、商品名「DSC7000X」を用いて、試料約5mgを窒素雰囲気下にて、加熱速度100℃/分で30℃から230℃まで昇温し、230℃で10分間保持した後、冷却速度100℃/分で125℃まで降温し、その後125℃で40分間保持して測定されたサーモグラムを用いエンタルピー50%到達時間から半結晶化時間(min.)を算出した。値が大きい方が結晶化遅延性の高い事を示す。なお、半結晶化時間は、結晶化遅延性の指標となる。
【0111】
[シラン架橋ポリプロピレンの評価]
[曲げ弾性率]
JIS K7171(2008)に準拠して、射出成形した厚さ4mm、長さ80mm、幅10mmの試験片を用いて測定した。なお、曲げ弾性率は、柔軟性の指標となる。
【0112】
[実施例1]
a-1を20質量部、b-1を60質量部、その他PP-1を20質量部、アルコキシシランとして不飽和シラン化合物であるビニルトリメトキシシラン(VTMOS)を1.0質量部、ラジカル発生剤として有機過酸化物であるジクミルパーオキサイド0.01質量部をブレンダーにて攪拌した。その後、温度200℃に設定された単軸スクリュー押出機(アイ・ケー・ジー社製、PMS50)に投入し、ノズルより出てきたストランドを水槽にて冷却固化させた後にペレット状にカッティングして、シラン変性ポリプロピレンを得た。得られたシラン変性ポリプロピレンについて、前述の測定・評価法に従って融点、半結晶化時間、MFR、密度を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
上記で得られたシラン変性ポリプロピレン100質量部に対して、触媒MBとしてPZ010を5質量部加えてシラン変性ポリプロピレン組成物を得た。これを射出成形機に投入し、200℃の条件下で厚さ4mm又は2mmのシート状に成形した。このシート状成形体を85℃、85%RHの恒温恒湿機中に16時間放置し、シラン架橋ポリプロピレンよりなるシート状成形体を得た。得られたシート状成形体を用いて、前述の測定・評価法に従って曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0114】
[比較例1~3]
表1に記載の原料配合組成とした以外は実施例1と同様にして、比較例1~3のシラン変性ポリプロピレン、シラン架橋ポリプロピレンよりなるシート状成形体を製造し、評価測定を実施した。結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
上記の結果より次のことが分かる。
実施例1のシラン変性ポリプロピレンは、耐熱性に優れるものであった。また、実施例1のシラン変性ポリプロピレンを用いたシラン架橋ポリプロピレンは、柔軟性の指標となる曲げ弾性率が三次元網状繊維集合体の架橋成形体として使用するのに十分な柔軟性を示す数値であった。またMFR及び密度が適切であるため三次元網状繊維集合体への成形性が良好であり、優れたクッション性が期待できる。また、結晶化遅延性の指標である半結晶化時間に優れる為、優れた耐熱融着性に期待できる。
【0117】
比較例1のシラン変性ポリプロピレン、比較例2のシラン変性ポリプロピレンは、耐熱性には優れるものの、柔軟性に劣るものであった。また、MFR、密度は三次元網目状繊維集合体への成形性の点で好適であるが、半結晶化時間が劣る結果となっており、比較例1のシラン変性ポリプロピレン、比較例2のシラン変性ポリプロピレンを用いたシラン架橋ポリプロピレンの耐熱融着性は劣ると考えられる。
比較例3のシラン変性ポリプロピレンは、耐熱性も低く、柔軟性も十分なものが得られていない。また、MFRが低く、三次元網状繊維集合体を成形する際にストランド径が太くなり、外観の良い成形体を得られないと考えられる。
【0118】
以上のことから、本発明のシラン変性ポリプロピレンは、耐熱性、結晶化遅延性、成形性に優れ、このシラン変性ポリプロピレンを架橋処理したシラン架橋ポリプロピレンは柔軟性にも優れることが示された。また、このシラン変性ポリプロピレンを架橋処理したシラン架橋ポリプロピレンは、成形体、特に三次元網状繊維集合体の耐熱融着性に優れると考える。
本発明のシラン変性ポリプロピレンは、耐熱性及びマットレス成形時の結晶化遅延性に優れるため、高温条件下でも耐熱融着性が高く、医療や介護用マットレスの消毒・滅菌など、長時間の高温環境下においても使用可能な、耐熱変形性、及び形状復元性に優れるシラン架橋ポリプロピレンを与えることができる。このため、本発明のシラン変性ポリプロピレン、及びシラン変性ポリプロピレン組成物、並びに、これらを用いた成形体、架橋成形体及び三次元網状繊維集合体等は、例えば家具、ベッド用マット、枕等の寝具;車両用、船舶用座席等のクッション材の構成材料等において、広く且つ有効に利用することができる。