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  • 特開-シールリング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128809
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20230907BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20230907BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16J15/10 X
C08G69/26
C08L77/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033424
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅井 美穂
【テーマコード(参考)】
3J040
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
3J040BA02
3J040EA16
3J040FA06
3J040FA20
3J040HA06
4J001DA01
4J001DB01
4J001DB02
4J001DC14
4J001EB04
4J001EB05
4J001EB06
4J001EB07
4J001EB08
4J001EB09
4J001EB10
4J001EB14
4J001EB35
4J001EB36
4J001EB37
4J001EB46
4J001EC04
4J001EC05
4J001EC06
4J001EC07
4J001EC08
4J001EC09
4J001EC14
4J001EC44
4J001EC47
4J001FA01
4J001FB03
4J001FB06
4J001FC03
4J001FC06
4J001FD01
4J001GA12
4J001GB02
4J001GC03
4J001HA01
4J001JA05
4J001JB06
4J001JC02
4J002BD152
4J002DA026
4J002DE146
4J002DG026
4J002DJ036
4J002DL006
4J002FA042
4J002FA046
4J002FD012
4J002FD016
4J002GJ02
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】高温のオイル浸漬環境下での耐摩耗性に優れ、組付け性にも優れたシールリングを提供する。
【解決手段】
樹脂組成物を成形してなるシールリングであって、前記樹脂組成物は、芳香族ジカルボン酸とジアミン成分とからなり、芳香族ジカルボン酸成分はテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分は、炭素数が8以上のジアミンを主成分とする半芳香族ポリアミドをベース樹脂とすることを特徴とするシールリング、および、さらに、繊維状強化材を含有することを特徴とする前記シールリング、および、半芳香族ポリアミドのジアミン成分が、1,9-ノナンジアミンまたは1,10-デカンジアミンを主成分とすることを特徴とする前記シールリング、および、半芳香族ポリアミドの融点が310℃以上であることを特徴とする前記シールリング。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を成形してなるシールリングであって、
前記樹脂組成物は、芳香族ジカルボン酸とジアミン成分とからなり、芳香族ジカルボン酸
成分はテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分は、炭素数が8以上のジアミンを主成分
とする半芳香族ポリアミドをベース樹脂とすることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
さらに、繊維状強化材を含有することを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
【請求項3】
半芳香族ポリアミドのジアミン成分が、1,9-ノナンジアミンまたは1,10-デカン
ジアミンを主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載のシールリング。
【請求項4】
半芳香族ポリアミドの融点が310℃以上であることを特徴とする請求項1~3いずれか
に記載のシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートマチックトランスミッション(AT)やマニュアルトランスミッション(MT)、無段変速機(CVT)等の油圧作動油の流体の流体圧を利用した機器において、作動油を封止するために用いるシールリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
AT、MT、CVT等の機器には、作動油を密封するためのシールリングが重要な箇所に取り付けられている。前記シールリングは、回転軸と摺動接触しながら、作動油の油圧を保持するため作業油が漏れないようにしている。一般に、作動油を密封するためのシールリングは、往復運動タイプ(油圧が高く・摺動速度が遅い用途用、高圧・低速用途用)と回転運動タイプ(油圧が低く・摺動速度が速い用途用、低圧・高速用途用)に分類され、用途に応じて用いられている。いずれのタイプにおいても、高温のオイル浸漬環境下での優れた耐摩耗性が求められている。
【0003】
作動油を密封するためのシールリングとしては、従来、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を成形したものが用いられている(例えば、特許文献1~5)。しかしながら、特許文献1~5のシールリングは、材料の弾性率が高く、治具を組み込む際のシールリングのひろげやすさ(組付け性)が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-106030号公報
【特許文献2】特開2019-168012号公報
【特許文献3】特開2020-051555号公報
【特許文献4】特開2015-028382号公報
【特許文献5】特開2016-070466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するものであって、高温のオイル浸漬環境下での耐摩耗性に優れ、さらには組付け性にも優れたシールリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の半芳香族ポリアミドをベース樹脂とした樹脂組成物を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)樹脂組成物を成形してなるシールリングであって、前記樹脂組成物は、芳香族ジカルボン酸とジアミン成分とからなり、芳香族ジカルボン酸成分はテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分は、炭素数が8以上のジアミンを主成分とする半芳香族ポリアミドをベース樹脂とすることを特徴とするシールリング。
(2)さらに、繊維状強化材を含有することを特徴とする(1)に記載のシールリング。
(3)半芳香族ポリアミドのジアミン成分が、1,9-ノナンジアミンまたは1,10-デカンジアミンを主成分とすることを特徴とする(1)または(2)に記載のシールリング。
(4)半芳香族ポリアミドの融点が310℃以上であることを特徴とする(1)~(3)いずれかに記載のシールリング。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温のオイル浸漬環境下での耐摩耗性に優れ、さらには、組付け性にも優れたシールリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で作製したシールリングの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシールリングは、樹脂組成物を成形してなるシールリングであって、前記樹脂組成物は、芳香族ジカルボン酸とジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミドをベース樹脂とするものである。本発明において、ベース樹脂とは、用いる樹脂のうち、最も質量比率が多いものをいう。
【0011】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸成分とジアミン成分とから構成される。芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分とすることが必要である。芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分としない場合、成形したシールリングが、従来のシールリングより、高温のオイル浸漬環境下での耐摩耗性が不良となったり、曲げ弾性率が低くなり組付け性が不良となったりするので好ましくない。本発明において、テレフタル酸を主成分とするとは、芳香族ジカルボン酸成分において、テレフタル酸の含有量が75モル%以上であることをいう。テレフタル酸の含有量は、芳香族ジカルボン酸成分において、65モル%以上であることが好ましく、55モル%以上であることがより好ましい。テレフタル酸を主成分とすることにより、高融点、低吸水、高結晶性の半芳香族ポリアミドを得ることができる。
【0012】
ジアミン成分は、炭素数が8以上のジアミンを主成分とすることが必要である。本発明において、炭素数が8以上のジアミンを主成分とするとは、ジアミン成分において、炭素数が8以上のジアミンの合計の含有量が75モル%以上であることをいう。炭素数が8以上のジアミンの合計の含有量は、ジアミン成分において、65モル%以上であることが好ましく、55モル%以上であることがより好ましい。炭素数が8以上のジアミンを主成分とすることで、高融点、低吸水、高結晶性の半芳香族ポリアミドを得ることができる。ジアミン成分が、炭素数が8以上のジアミンを主成分としない場合、成形したシールリングが、従来のシールリングより、高温のオイル浸漬環境下での耐摩耗性が不良となったり、曲げ弾性率が低くなり組付け性が不良となったりするので好ましくない。炭素数が8以上のジアミンは、2種以上のジアミンを併用するよりも、単独のジアミンを用いることが好ましい。炭素数が8以上のジアミンとしては、例えば、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンが挙げられる。
【0013】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドには、溶融加工時の流動性や成形時の離型性が向上することから、モノカルボン酸成分を共重合することが好ましい。モノカルボン酸成分の共重合量は、ポリアミドを構成する全モノマー成分に対して、0.3~4.0モル%とすることが好ましく、0.3~3.0モル%とすることがより好ましく、0.3~2.5モル%とすることがさらに好ましい。
【0014】
モノカルボン酸の分子量は、140以上であることが好ましく、170以上であることがさらに好ましい。モノカルボン酸の分子量が140以上であると、半芳香族ポリアミドは、溶融加工時の流動性や成形時の離型性がより向上する。溶融加工時の流動性が向上することにより、加工温度を下げることもでき、溶融加工時の熱劣化を抑制できる。
【0015】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられる。中でも、溶融加工時の流動性や成形時の離型性が向上するため、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0016】
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、アルキル安息香酸類、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0017】
モノカルボン酸成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0018】
半芳香族ポリアミドには、テレフタル酸や炭素数が8以上のジアミン以外の他のジカルボン酸成分や他のジアミン成分やラクタム類成分やω-アミノカルボン酸成分等の他の成分を共重合してもよい。ただし、前記他の成分を共重合した場合、耐熱性、耐摩耗性、耐久性が低下するので、他の成分は共重合しないことが好ましい。前記他の成分を含有させる場合であっても、それらの合計の共重合量は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましい。
【0019】
他のジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0020】
他のジアミン成分としては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン等の脂肪族ジアミンや、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0021】
ラクタム類成分としては、例えば、カプロラクタムやラウロラクタムが挙げられる。
【0022】
ω-アミノカルボン酸成分としては、例えば、アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドの融点は310℃以上であることが好ましい。310℃以上とすることで、耐熱性が向上するだけでなく、高結晶性により耐摩耗性、耐久性も向上する。半芳香族ポリアミドの融点の上限は350℃以下であることが好ましい。融点が350℃を超える場合、ポリアミド結合の分解温度が約350℃であるため、溶融加工時に、炭化や分解が進行するおそれがある。なお、本発明において、融点は、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度20℃/分で昇温した際の吸熱ピークのトップとする。
【0024】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドの相対粘度は、機械的特性が向上することから、1.8以上であることが好ましく、1.8~3.5であることがより好ましく、2.2~3.1であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミドは、相対粘度が3.5を超えると、溶融加工が困難となる場合がある。なお、本発明において、相対粘度は、96%硫酸中、25℃、濃度1g/dLで測定した際の値とする。
【0025】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドの製造方法は特に限定されないが、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いることができる。中でも、工業的に有利であることから、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0026】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドには、さらに繊維状補強材を含有させることが好ましい。繊維状補強材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイトが挙げられる。中でも、機械的特性の向上効果が大きく、入手しやすい点から、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。
【0027】
繊維状補強材を用いる場合、分散性の向上を目的に、繊維状補強材はシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤は、収束剤と併用してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられる。中でも、半芳香族ポリアミドとの密着効果が高く、耐熱性に優れることから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0028】
繊維状補強材の繊維長は特に限定されないが、0.1~7mmであることが好ましく、0.5~6mmであることがより好ましい。繊維状補強材の繊維長が0.1~7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、半芳香族ポリアミドを補強することができる。また、繊維状補強材の繊維径は特に限定されないが、3~20μmであることが好ましく、5~14μmであることがより好ましい。繊維状補強材の繊維径が3~20μmであることにより、溶融混練時に折損することなく、半芳香族ポリアミドを補強することができる。繊維状補強材の断面形状としては、例えば、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面が挙げられ、中でも、円形が好ましい。
【0029】
繊維状補強材を用いる場合、その含有量は、半芳香族ポリアミド100質量部に対して、5~50質量部とすることが好ましく、5~20質量部とすることがさらに好ましい。繊維状補強材を含有することで、耐摩耗性や高温環境下での耐久性等が向上する。前記含有量が50質量部を超えると、耐摩耗性や耐久性の向上効果が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、溶融混練時の作業性が低下し、樹脂組成物のペレットを得ることが困難になる場合がある。
【0030】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドには、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、繊維状強化材以外の充填材、着色剤、帯電防止剤等のその他の添加剤をさらに加えてもよい。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。熱安定剤としては、例えば、銅系の熱安定剤、多価アルコール系の熱安定剤が挙げられる。繊維状強化材以外の充填材としては、例えば、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。帯電防止剤としては、例えば、アニオン
性帯電防止剤、カチオン性帯電防止材、非イオン系帯電防止剤が挙げられる。上記添加剤を用いる場合、それらの合計の含有量は、半芳香族ポリアミド100質量部に対して、0.01~5.0質量部とすることが好ましく、0.05~3.0質量部とすることがより好ましい。
【0031】
半芳香族ポリアミドに、繊維状補強材やその他の添加剤等を配合してポリアミド樹脂組成物として用いる場合、それらの配合方法は溶融混練法が好ましい。溶融混練法としては、例えば、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、用いる半芳香族ポリアミドが溶融し、分解しない温度であれば特に限定されないが、高すぎると半芳香族ポリアミドが分解することから、(半芳香族ポリアミドの融点-20℃)以上、(半芳香族ポリアミドの融点+40℃)以下であることが好ましい。
【0032】
溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ストランド状に押出してペレット形状にする方法や、ホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出してカッティングする方法や、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法等により、様々な形状に加工することができる。
【0033】
本発明のシールリングは、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなるものである。その成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法、圧縮成形法、切削成形法が挙げられ、機械的特性や成形性の向上効果が大きく、生産性が優れることから、射出成形法が好ましい。
【0034】
射出成形機は特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機やプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、(半芳香族ポリアミドの融点-20℃)以上、(半芳香族ポリアミドの融点+40℃)未満とすることがより好ましい。
【0035】
ポリアミド樹脂組成物を溶融加工する時には、十分に乾燥されたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いポリアミド樹脂組成物を用いると、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適なシールリングを得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分量は、0.1質量%であることが好ましく、0.06質量%未満であることがより好ましい。
【0036】
本発明のシールリングの形状や種類としては、例えば、Oリング、Xリング、Dリング、Tリング、Uパッキン、Vパッキン、Lパッキン、Jパッキン、シールパッキン、スクイーズパッキン、リップパッキンが挙げられる。また、本発明のシールリングは、合口を有しても有していなくてもよい。合口の形状は特に限定されないが、例えば、ストレートカット形状、アングルカット形状、複合ステップカット形状が挙げられる。シールリングの断面形状や表面形状は特に限定されない。また、本発明のシールリングは、単体で用いてもよいし、オイルシール、メカニカルシール、シールワッシャー、グランドパッキン等を構成する部品として用いてもよい。
【0037】
本発明のシールリングは、オートマチックトランスミッション(AT)やマニュアルトランスミッション(MT)、無段変速機(CVT)等の油圧作動油の流体の流体圧を利用した機器に好適に用いることができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
1.評価方法
本発明に用いた半芳香族ポリアミドおよびポリアミド樹脂組成物の評価測定は以下の方法によりおこなった。
(1)融点
示差走査熱量計DSC-7型(パーキンエルマー社製)用い、窒素雰囲気下にて昇温速度20℃/分で360℃まで昇温した後、360℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点とした。
【0040】
(2)高温のオイル浸漬環境下での耐摩耗性
得られたシーリングを用いて、摩擦摩耗試験機MODEL EFM-3シリーズ(エー・アンド・デイ社製)により、120℃のオートマチックトランスミッションフルード(ATF、Kendall製デキシロン6)浸漬下で下記の2種類の試験をおこなった。
(2a)高圧、低速条件下(相手材:FC250、圧力:20MPa、回転数:5rpm、試験時間:10時間)
(2b)低圧・高速条件下(相手材:FC250、圧力:2MPa、回転数:3500rpm、試験時間:10時間)
試験後、シーリングの写真を三次元測定機VR-3200(キーエンス社製)で撮影し、摺動面積を測定した。
相手材は、シールリングと摺動する面が鋭角な(85度)突起状となっており、摩耗するほど摺動面積が大きくなる。したがって、摺動面積が小さいほど、耐摩耗性が優れている。
本発明においては、摺動面積が60mm以下の場合、合格と判断した。
【0041】
(3)組付け性
得られたダンベル片を用いて、ISO178に準拠して測定した。
曲げ弾性率が小さいほど、組付け性に優れている。
本発明においては、曲げ弾性率が9GPa以下の場合、合格と判断した。
【0042】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)樹脂
・半芳香族ポリアミド(A-1)
ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.81kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)0.15kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)5.04kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=49.3:49.8:0.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.5:50.0:0.5)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、半芳香族ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られた半芳香族ポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして半芳香族ポリアミド(A-1)ペレットを得た。
【0043】
・半芳香族ポリアミド(A-2)~(A-4)
組成を表1に示すように変更した以外は、半芳香族ポリアミド(A-1)と同様にして、半芳香族ポリアミドペレットを得た。
【0044】
上記半芳香族ポリアミド(A-1)~(A-4)の組成とその融点を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
・ポリフェニレンサルファイド(A-5):DIC社製 Z-200-E5、融点290℃
【0047】
(2)繊維状強化材
・B-1:ガラス繊維(日東紡績社製 CSX 3J-451)
・B-2:炭素繊維(東邦テナックス社製 HTA-C6-NR)
【0048】
実施例1
半芳香族ポリアミド(A-1)ペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(ファナック社製 S2000i-100B型)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型温度130℃、成形サイクル35秒の条件で射出成形し、ダンベル試験片と、外径φ50mm、内径φ47mm、厚み1.5mm、リング幅1.5mmの図1に記載の形状のシールリングを作製した。
【0049】
実施例4、7、比較例1
半芳香族ポリアミドを変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、ダンベル試験片とシールリングを作製した。
【0050】
実施例2
実施例1で得られた半芳香族ポリアミド(A-1)ペレット100質量部をロスインウェイト式連続定量供給装置CE-W-1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーよりガラス繊維(B-1)18質量部を供給し、さらに混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(半芳香族ポリアミドの融点+5℃)~(半芳香族ポリアミドの融点+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
その後、実施例1と同様の操作をおこなって、ダンベル試験片とシールリングを作製した。
【0051】
実施例5、8、比較例2
ベース樹脂の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例2と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
その後、実施例1と同様の操作をおこなって、ダンベル試験片とシールリングを作製した。
【0052】
実施例3
実施例1で得られた半芳香族ポリアミド(A-1)ペレット100質量部をロスインウェイト式連続定量供給装置CE-W-1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーより炭素繊維(B-2)5質量部を供給し、さらに混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(半芳香族ポリアミドの融点+5℃)~(半芳香族ポリアミドの融点+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
その後、実施例1と同様の操作をおこなって、ダンベル試験片とシールリングを作製した。
【0053】
実施例6、9、比較例3
ベース樹脂の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例3と同様の操作をおこなって、ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
その後、実施例1と同様の操作をおこなって、ダンベル試験片とシールリングを作製した。
【0054】
比較例4
ポリフェニレンサルファイド(A-5)ペレットを用いる以外は、実施例2と同様の操作をおこなって、シールリングとダンベル試験片を作製した。
【0055】
実施例、比較例で作製したダンベル試験片とシールリングを用いた樹脂組成物の樹脂組成と特性値を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1~9のシーリングは、高圧・低速条件下、低圧・高速条件下いずれにおいても優れた耐摩耗性を有していた。また、実施例1~9のシーリングは、曲げ弾性率が低く、組付け性にも優れていた。
【0058】
比較例1~3のシーリングは、用いる半芳香族ポリアミドのジアミン成分が、炭素集8以上のジアミンを主成分とする半芳香族ポリアミドでなかったため、高圧・低速条件下、低圧・高速条件下いずれにおいても耐摩耗性が劣っていた。
【0059】
比較例4のシールリングは、ポリフェニレンサルファイドを用いたため、曲げ弾性率が高く、組付け性に劣り、高圧・低速条件下において耐摩耗性が劣っていた。
【符号の説明】
【0060】
1:合口
図1