(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012881
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】配管の洗浄方法および配管構造
(51)【国際特許分類】
B08B 9/032 20060101AFI20230119BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20230119BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20230119BHJP
【FI】
B08B9/032 328
B08B3/02 F
C02F5/00 610H
C02F5/00 610J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116614
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 穣
(72)【発明者】
【氏名】八幡 斉晃
【テーマコード(参考)】
3B116
3B201
【Fターム(参考)】
3B116AA13
3B116AB53
3B116BB21
3B116BB62
3B116CC01
3B201AA13
3B201AB53
3B201BB21
3B201BB62
3B201BB93
3B201BB94
3B201BB95
3B201BB96
3B201BB98
3B201CB11
3B201CC01
(57)【要約】
【課題】配管の分解や特殊な機器に依らず配管内を効果的に洗浄できる配管の洗浄方法、および、それに用いる配管構造を提供する。
【解決手段】配管構造100は、洗浄の対象である洗浄対象配管20と、洗浄対象配管20を洗浄する洗浄液を貯留するタンク1と、タンク1と洗浄対象配管とを接続する供給配管10と、洗浄液をタンク1から洗浄対象配管20に送るポンプ3とを備え、供給配管10は、タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造である。配管の洗浄方法は、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する配管の洗浄方法であって、配管構造100において、タンク1に貯留された洗浄液を、タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管20に導入して洗浄対象配管20を洗浄するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する配管の洗浄方法であって、
洗浄の対象である洗浄対象配管と、
前記洗浄対象配管を洗浄する洗浄液を貯留するタンクと、
前記タンクと前記洗浄対象配管とを接続する供給配管と、を備えた配管構造において、
前記タンクに貯留された前記洗浄液を、前記タンクに貯留された前記洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の前記洗浄対象配管に導入して前記洗浄対象配管を洗浄する配管の洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の配管の洗浄方法であって、
前記洗浄液は、前記洗浄対象配管に導入されたとき、流れの先端部に気液界面を形成し、前記先端部の下流側に気液二相流を形成する配管の洗浄方法。
【請求項3】
請求項1に記載の配管の洗浄方法であって、
前記洗浄対象配管の洗浄前に、前記供給配管および前記洗浄対象配管に入っている液体を排出して、前記供給配管および前記洗浄対象配管を気体が入った状態とする配管の洗浄方法。
【請求項4】
請求項1に記載の配管の洗浄方法であって、
前記洗浄液は、水、温水、熱水、酸溶液、アルカリ溶液または薬液である配管の洗浄方法。
【請求項5】
洗浄の対象である洗浄対象配管と、
前記洗浄対象配管を洗浄する洗浄液を貯留するタンクと、
前記タンクと前記洗浄対象配管とを接続する供給配管と、
前記洗浄液を前記タンクから前記洗浄対象配管に送るポンプと、を備え、
前記供給配管は、前記タンクに貯留された前記洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造である配管構造。
【請求項6】
請求項5に記載の配管構造であって、
前記洗浄対象配管の洗浄時に、気体が入った状態の前記供給配管に前記タンクから前記洗浄液が導入されて、前記洗浄対象配管が洗浄される配管構造。
【請求項7】
請求項5に記載の配管構造であって、
前記洗浄対象配管は、水平に配置された区間を有する配管構造。
【請求項8】
請求項5に記載の配管構造であって、
前記供給配管は、前記タンクの下部から前記タンクに貯留された前記洗浄液の液面よりも高い位置に延び、前記洗浄液の液面よりも高い位置から前記洗浄対象配管に繋がる構造である配管構造。
【請求項9】
請求項5に記載の配管構造であって、
前記供給配管および前記洗浄対象配管に入っている液体を排出して、前記供給配管および前記洗浄対象配管を気体が入った状態とするためのドレン配管を備える配管構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する配管の洗浄方法、および、それに用いる配管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品、化学薬品、医薬品等を製造する設備には、液体状の原料、中間製品、最終製品等を送液するために配管が備えられている。また、上下水等を処理する水処理施設、化学プラント等には、液体を移送するために配管が備えられている。使用が続けられた配管の内面には、固形浮遊物質、溶質等が沈着したり、スケール、バイオフィルム等が固着したりすることが知られている。
【0003】
飲食品等を製造する設備の場合、配管中に異物が蓄積すると、その異物が剥離した場合に、配管に流される液体に混入するため、衛生上の問題、品質上の問題等を生じる。飲食品を製造する設備等では、一つの製造ラインで複数種類の製品が製造される場合もある。配管内に異物が残存していると、別種類の製品の製造時に風味が変わる等の交叉汚染の問題も生じる。
【0004】
従来、このような配管の汚染の問題を防ぐために、配管の内部が定期的に洗浄されている。洗浄方法としては、ブラシ、高圧の水流、キャビテーション等を利用する物理洗浄と、化学薬品を溶解させた薬液を利用する化学洗浄がある。
【0005】
配管の内部を洗浄する方法としては、配管を分解して洗浄する分解洗浄(Cleaning Out Place:COP)や、配管を分解せず洗浄する定置洗浄(Cleaning in Place:CIP)がある。CIPでは、洗浄の対象である配管・タンクに、酸溶液、アルカリ溶液等の洗浄液を流して洗浄を行う。
【0006】
特許文献1には、液体が流れる各種産業用導管内に発生したスケール等のスライムや各種導管に沈着された細菌等を効果的に除去するために気体混合液体を用いる技術が開示されている。気体混合液体は、液体と気体を混合してマイクロバブルを発生させる洗浄装置によって生成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、配管の内面を効果的に洗浄するために、気泡によるキャビテーションの作用が利用されている。特許文献1では、マイクロバブルのような噴霧流状の気液二相流を配管に流している。また、高圧洗浄も広く利用されている。高圧洗浄時には、配管を分解した後に、高圧洗浄機を用いて配管内に高圧水を噴射している。
【0009】
しかし、配管の内面を効果的に洗浄するにあたり、ガスを供給して気泡を発生させる方法では、ガスの供給に大きなエネルギを消費する。また、配管構造が複雑になり、保守コスト等がかかる。また、高圧洗浄機を用いる方法では、配管を分解する手間がかかる。
【0010】
そこで、本発明は、配管の分解や特殊な機器に依らず配管内を効果的に洗浄できる配管の洗浄方法、および、それに用いる配管構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明に係る配管の洗浄方法は、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する配管の洗浄方法であって、洗浄の対象である洗浄対象配管と、前記洗浄対象配管を洗浄する洗浄液を貯留するタンクと、前記タンクと前記洗浄対象配管とを接続する供給配管と、を備えた配管構造において、前記タンクに貯留された前記洗浄液を、前記タンクに貯留された前記洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の前記洗浄対象配管に導入して前記洗浄対象配管を洗浄する。
【0012】
また、本発明に係る配管構造は、洗浄の対象である洗浄対象配管と、前記洗浄対象配管を洗浄する洗浄液を貯留するタンクと、前記タンクと前記洗浄対象配管とを接続する供給配管と、前記洗浄液を前記タンクから前記洗浄対象配管に送るポンプと、を備え、前記供給配管は、前記タンクに貯留された前記洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、配管の分解や特殊な機器に依らず配管内を効果的に洗浄できる配管の洗浄方法、および、それに用いる配管構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る配管構造の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る配管構造の一例を示す図である。
【
図3】配管構造の流体解析に用いた空間モデルを示す図である。
【
図4】流体解析の開始時の空間モデルの状態を示す図である。
【
図5】流体解析の開始時から4秒後の空間モデルの状態を示す図である。
【
図6】流体解析の開始時から5秒後の空間モデルの状態を示す図である。
【
図7】流体解析の開始時から7秒後の空間モデルの状態を示す図である。
【
図8】流体解析の開始時から8秒後の空間モデルの状態を示す図である。
【
図9】流体解析の開始時から9秒後の空間モデルの状態を示す図である。
【
図10】流体解析の開始時から10秒後の空間モデルの状態を示す図である。
【
図11】配管内の液相のボイド率の時間変化を示す図である。
【
図12】配管内の乱流エネルギの散逸率の時間変化を示す図である。
【
図13】配管の内面に作用するせん断力の時間変化を示す図である。
【
図14】配管の内面の異物に対する洗浄効果を実測した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る配管の洗浄方法、および、それに用いる配管構造について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る配管構造の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る配管構造100は、洗浄液タンク1と、製造タンク2と、供給ポンプ3と、供給バルブ4と、排出バルブ5と、ドレンバルブ6と、供給配管10と、洗浄対象配管20と、排出配管30と、ドレン配管40と、を備えている。
【0017】
本実施形態に係る配管構造100は、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する洗浄プロセスを効果的に行うための構造であり、配管やタンクの配置・接続に特徴付けられる配管周辺の構造に関する。この配管構造100は、洗浄対象に洗浄液を導入するための構造として、タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造を持つ。
【0018】
図1には、洗浄プロセスを効果的に行うための配管構造100を、製造タンク2の洗浄に用いられる定置洗浄(CIP)機構に適用した例を示す。
図1では、洗浄対象配管20が効果的な洗浄の対象となるが、製造タンク2も洗浄される。
【0019】
洗浄液タンク1は、洗浄対象配管20を洗浄する洗浄液を貯留するタンクである。洗浄液は、洗浄対象配管20の洗浄前に、洗浄液タンク1に予め用意される。洗浄液としては、洗浄対象配管20の管径、洗浄対象配管20の長さ、洗浄液タンク1の容量等に応じて、適宜の量を用意することができる。
【0020】
洗浄液タンク1の下部には、洗浄液をタンク内から流出させる液出口が設けられている。洗浄液タンク1の液出口には、供給配管10が接続されている。供給配管10上には、洗浄液タンク1の液出口の近傍に、開閉自在な供給バルブ4が備えられている。供給バルブ4が開放されると、洗浄液タンク1内の洗浄液が供給配管10を通じて流出可能になる。
【0021】
洗浄液としては、30℃以下の水や、30℃以上60℃未満の温水や、60℃以上の熱水や、酸溶液、アルカリ溶液、薬品を溶解させた薬液等を用いることができる。酸溶液としては、硝酸、リン酸等の溶液が挙げられる。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム等の溶液が挙げられる。薬品としては、次亜塩素酸ナトリウム、クロラミン等の塩素系薬品や、第四級アンモニウム塩、界面活性剤、オゾン、過酸化水素等が挙げられる。
【0022】
洗浄液としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。複数種の洗浄液は、配管を洗浄する洗浄プロセスにおいて、洗浄手法等に応じて、順番に用いることができる。複数種の洗浄液を用いる場合、洗浄液毎に、洗浄液タンク1や供給バルブ4を並列状に設けることができる。
【0023】
製造タンク2は、製品を製造する製造プロセスに用いられるタンクである。製造タンク2には、液体状、流動体状等の原料や、このような中間製品や、最終製品等が入れられる。製造タンク2は、液体等を一時的に貯留するタンクであってもよいし、液体等を所定の処理や反応に供するタンクであってもよい。製造タンク2には、液体等をタンク内に投入するための不図示の配管や、液体等をタンク外に排出するための不図示の配管を接続することができる。
【0024】
製造タンク2の下部には、液体をタンク内から流出させる液出口が設けられている。製造タンク2の液出口には、排出配管30が接続されている。排出配管30上には、製造タンク2の液出口の近傍に、開閉自在な排出バルブ5が備えられている。排出バルブ5が開放されると、製造タンク2内の液体が排出配管30を通じて流出可能になる。
【0025】
供給ポンプ3は、洗浄液を洗浄液タンク1から洗浄対象配管20や製造タンク2に向けて送るポンプである。供給ポンプ3としては、遠心ポンプ、軸流ポンプ、斜流ポンプ等の適宜の種類を用いることができる。供給ポンプ3は、供給配管10上に備えられている。供給ポンプ3は、洗浄液の揚水に用いるため、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも低い位置に設けられることが好ましい。
【0026】
供給配管10は、洗浄液を洗浄液タンク1から洗浄対象配管20や製造タンク2に向けて送る配管であり、洗浄液タンク1と洗浄対象配管20との間を接続している。供給配管10の一端は、洗浄液タンク1の下部の液出口に接続されている。供給配管10の他端は、洗浄対象配管20に接続されている。供給配管10は、洗浄プロセスを効果的に行うために、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造とされている。
【0027】
洗浄対象配管20は、洗浄プロセスにおける主要な洗浄の対象である。洗浄対象配管20の一端は、供給配管10に接続されている。洗浄対象配管20の他端は、製造タンク2の上部の液入口に接続されている。洗浄対象配管20は、製造タンク2を洗浄するための定置洗浄(CIP)機構において、洗浄液を洗浄液タンク1から製造タンク2に向けて送る管路の一部を構成している。
【0028】
排出配管30は、洗浄液を製造タンク2から排出する配管である。排出配管30の一端は、製造タンク2の下部の液出口に接続されている。排出配管30の他端は、外部の廃液処理設備等に接続される。排出配管30は、洗浄プロセスのみで使用される専用の配管であってもよいし、製造プロセスと洗浄プロセスで使用される兼用の配管であってもよい。
【0029】
ドレン配管40は、洗浄液を供給配管10や洗浄対象配管20から排出するための配管である。ドレン配管40の一端は、洗浄対象配管20の高さが低い区間に接続されている。ドレン配管40の他端は、外部の廃液処理設備等に接続される。ドレン配管40上には、洗浄対象配管20の近傍に、開閉自在なドレンバルブ6が備えられている。ドレンバルブ6が開放されると、供給配管10内の液体や洗浄対象配管20内の液体が、ドレン配管40を通じて流出可能になる。
【0030】
なお、ドレン配管40は、製造タンク2が洗浄対象配管20よりも高さが低い場所に設けられ、供給配管10内の液体や洗浄対象配管20内の液体を、製造タンク2を通じて排出できる場合には、設置を省略してもよい。
【0031】
図2は、本発明の実施形態に係る配管構造の一例を示す図である。
図2に示すように、本実施形態に係る配管構造200は、洗浄液タンク1と、製造タンク2と、供給ポンプ3と、供給バルブ4と、排出バルブ5と、ドレンバルブ6と、供給配管10と、洗浄対象配管20と、ドレン配管40と、返送配管50と、を備えている。
【0032】
本実施形態に係る配管構造200は、前記の配管構造100と同様に、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する洗浄プロセスを効果的に行うための構造であり、配管やタンクの配置・接続に特徴付けられる配管周辺の構造に関する。この配管構造200は、洗浄対象に洗浄液を導入するための構造として、タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造を持つ。
【0033】
図2に示す配管構造200は、排出配管30に代えて、返送配管50を備えている。
図2に示す配管構造200の他の構成は、
図1に示す配管構造100と略同様である。
【0034】
図2には、洗浄プロセスを効果的に行うための配管構造200を、前記の配管構造100と同様に、製造タンク2の洗浄に用いられる定置洗浄(CIP)機構に適用した例を示す。
図2では、洗浄対象配管20が効果的な洗浄の対象となるが、製造タンク2も洗浄される。
【0035】
返送配管50は、洗浄液を製造タンク2から排出して洗浄液タンク1に返送する配管である。返送配管50の一端は、製造タンク2の下部の液出口に接続されている。返送配管50の他端は、洗浄液タンク1の上部の液入口に接続されている。返送配管50上には、製造タンク2の液出口の近傍に、開閉自在な排出バルブ5が備えられている。返送配管50上には、製造タンク2に流入した洗浄液を製造タンク2から排出して洗浄液タンク1に返送する返送ポンプを備えることができる。
【0036】
図1に示す配管構造100によると、排出配管30を備えるため、洗浄対象配管20や製造タンク2を洗浄した洗浄液をワンパスで外部に排出することができる。ワンパス式の配管構造100は、多量の洗浄液を必要とするが、異物を洗い流した洗浄液を直ちに系外に排出できる。
【0037】
一方、
図2に示す配管構造200は、返送配管50を備えるため、洗浄対象配管20や製造タンク2を洗浄した洗浄液を、循環的に再利用することができる。循環式の配管構造200は、異物を洗い流した後の洗浄液が汚染され易いが、洗浄液の液量や洗浄液の加熱コストを小さく抑制することができる。返送配管50を通じて洗浄液を循環させるターン数は、特に制限されるものではない。
【0038】
図1および
図2に示すように、洗浄プロセスを効果的に行うための配管構造としては、タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由して洗浄対象に洗浄液を導入する構造が備えられるが、このような配管構造は、
図1に示すような排出配管30を備えたワンパス式であってもよいし、
図2に示すような返送配管50を備えた循環式であってもよいし、これらの両方を備えた切替式であってもよい。
【0039】
次に、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する洗浄プロセスを効果的に行うための配管構造100,200の特徴や、配管の洗浄方法について、具体的に説明する。
【0040】
製造プロセスに用いられるタンク・配管の定置洗浄時には、洗浄液を貯留する洗浄液タンクから洗浄の対象であるタンク・配管に洗浄液が供給される。洗浄液は、洗浄液タンクと洗浄対象のタンク・配管とを接続する配管を通じて供給される。洗浄液としては、酸溶液、アルカリ溶液、薬液等の他、これらを濯ぐためのリンス液等が用いられている。
【0041】
洗浄液を供給する配管の使用を続けると、配管の内面に異物が堆積することがある。水、酸溶液、アルカリ溶液、薬液、循環液等を流すと、固形浮遊物質、溶質等が沈着したり、スケール、バイオフィルム等が固着したりする。特に、配管が水平に配置された区間を持つ場合、配管内の底面側に洗浄液が流れ易いため、配管内の底面で異物の沈着が進む。
【0042】
洗浄液を供給する配管に異物が蓄積すると、製造プロセスに用いるタンク・配管の定置洗浄時に、定置洗浄対象のタンク・配管に向けて異物が流出する問題を生じる。定置洗浄対象のタンク・配管に異物が流出すると、タンク・配管の汚染が起こり、定置洗浄が不十分になる。一つの製造ラインで複数種類の製品が製造される場合には、交叉汚染の問題も生じる。そのため、定置洗浄対象のタンク・配管だけでなく、洗浄液を供給する配管についても洗浄が必要とされる。
【0043】
従来、洗浄液を供給する配管は、分解されてから洗浄されている。配管を分解した後に、高圧洗浄機を用いて配管内に高圧水を噴射する高圧洗浄や、手作業による物理洗浄が行われている。これに対し、本実施形態に係る配管構造100,200では、配管を分解することなく、また、高圧洗浄機等の特殊な機器を用いることなく、洗浄液タンク1から供給される洗浄液を導入して洗浄対象配管20を洗浄する。
【0044】
配管構造100,200において、洗浄液タンク1と洗浄対象配管20とを接続する供給配管10は、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造に設けられる。このような構造によると、供給配管10および洗浄対象配管20に入っている液体を排出したとき、供給配管10および洗浄対象配管20を液体が満たされてなく気体が入った状態とすることができる。
【0045】
本実施形態に係る配管構造100,200を用いた配管の洗浄方法は、液体排出ステップと、洗浄液導入ステップと、を含む。
【0046】
はじめに、液体排出ステップでは、洗浄対象配管20の洗浄前に、供給配管10および洗浄対象配管20に入っている液体を排出して、供給配管10および洗浄対象配管20を気体が入った状態とする。
【0047】
このステップでは、前回の洗浄プロセスで用いた洗浄液等の液体を、供給配管10および洗浄対象配管20から排出しておく。少なくとも、供給配管10上の洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置にある区間、および、この区間よりも下流側の区間と、洗浄対象配管20上の効果的な洗浄の対象とする区間とを、気体が充満した空洞状態にしておくことが好ましい。
【0048】
供給配管10に入っている液体や、洗浄対象配管20に入っている液体は、ドレンバルブ6を開放して、ドレン配管40を通じて排出することができる。なお、洗浄プロセスの開始時に、供給配管10および洗浄対象配管20に液体が入っていない場合には、液体排出ステップを省略することができる。気体は、洗浄液タンク1、製造タンク2、供給配管10、洗浄対象配管20等に、吸気口、排気口、通気口、吸気配管、排気配管、通気配管等を設けることによって、供給配管10や洗浄対象配管20に吸気や排気ができる。
【0049】
続いて、洗浄液導入ステップでは、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液を、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管20に導入する。
【0050】
このステップでは、洗浄液タンク1内の洗浄液を、供給配管10を通じて洗浄対象配管20に導入し、気体が入った状態の洗浄対象配管20に洗浄液を流して、洗浄対象配管20の内面を洗浄する。洗浄液の導入は、供給ポンプ3を作動させて行うことができる。供給ポンプ3は、例えば、定流量で運転することができるが、インバータ制御等によって可変流量で運転してもよい。
【0051】
供給配管10は、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由する構造であり、供給配管10および洗浄対象配管20は、洗浄液導入ステップの実行時において、気体が入った状態とされている。そのため、洗浄対象配管20に導入された洗浄液は、流れの先端部に気液界面を形成し、流れの先端部の下流側に位置する先端部付近に、洗浄液と気体が混在した乱流状態の気液二相流を形成する。
【0052】
流れの先端部に気液界面を形成した洗浄液によると、水撃作用による洗浄作用が得られる。水撃作用は、流れの先端部で液体の衝突や、せん断力や、高圧力による洗浄作用をもたらす。配管内に液体が満ちている場合には、壁面に作用するせん断力が、平均流速の2乗と摩擦係数の積に比例する。摩擦係数は、レイノルズ数の関数となる。一方、配管内に気体が満ちている場合には、平均流速と音速の積に比例する。そのため、気液界面を形成した洗浄液によると、洗浄対象配管20の内面に固着した異物を剥離させて、配管内を効果的に洗浄することができる。
【0053】
また、乱流状態の気液二相流によると、乱流によるせん断作用、拡散作用等による洗浄作用や、キャビテーションによる洗浄作用が得られる。噴霧流のような乱流状態の気液二相流は、配管の内面に対して大きなせん断力を生じる。また、異物の濃度勾配を生じて物質移動・拡散を促進する。キャビテーションは、気泡の消滅時に衝撃波等を生じる。そのため、乱流状態の気液二相流によると、洗浄対象配管10の内面に固着した異物を流し落として、配管内を効果的に洗浄することができる。
【0054】
供給配管10、洗浄対象配管20、排出配管30、ドレン配管40、返送配管50等は、管径、長さ、管形状、経路形状、材質等が、特に限定されるものではない。供給配管10、洗浄対象配管20等には、流量計、圧力計等を設置してもよい。但し、洗浄対象配管20は、その途中の区間に、ポンプ、バルブ、タンク等の配管機器が備えられていないことが好ましい。配管機器があると、水撃作用による洗浄作用や、乱流状態の気液二相流による洗浄作用が得られ難くなるためである。
【0055】
供給配管10は、洗浄液タンク1に洗浄液が最大量まで入れられた状態において、洗浄液タンク1内の洗浄液の液面の高さよりも高い位置に供給配管10内の底面が位置するように設けられることが好ましい。より好ましい供給配管10の構造は、洗浄液タンク1の上端よりも高い位置を経由する構造である。洗浄液タンク1や製造タンク2は、タンクの上部等に、タンク外に大気開放される吸気口、排気口、通気口、吸気配管、排気配管、通気配管等を備えてもよい。
【0056】
供給配管10は、洗浄液タンク1の下部から洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置に延び、洗浄液の液面よりも高い位置から洗浄対象配管20に繋がる構造に設けられることが好ましい。このような構造によると、洗浄液タンク1の下部から延びているため、供給配管10および洗浄対象配管20を気体が入った状態にすることを可能としつつ、洗浄液や気体の逆流を抑制することができる。また、供給ポンプ3の設置場所を供給配管10上の低い位置に確保することができる。
【0057】
洗浄対象配管20は、水平に配置された区間を有することが好ましい。このような構造によると、逆傾斜の場合と比較して、洗浄液の通流性を確保することができる。また、順傾斜の場合と比較して、大きな水撃作用や、洗浄対象配管20の内面に対する大きなせん断作用を得ることができる。そのため、水平に配置された区間が長いほど、洗浄対象配管20の全体が効果的に洗浄される。
【0058】
洗浄対象配管20は、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも低い位置に配置された区間を有していてもよいし、このような区間を有していなくてもよい。このような区間を有していると、揚水された洗浄液の位置エネルギを利用して洗浄対象配管20を洗浄できる。但し、このような区間を有していなくても、水撃作用や壁面に対するせん断作用等で洗浄対象配管20を効果的に洗浄できる。
【0059】
供給配管10は、
図1および
図2に示すように、洗浄液タンク1の下部から下方に延びた区間と、洗浄液タンク1の下方から水平に延びた区間と、洗浄液タンク1の下方の水平に延びた区間から洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置に上方に延びた区間と、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも高い位置から水平に延びた区間と、洗浄液の液面よりも高い位置の水平に延びた区間から下方に延びた区間とを有し、洗浄液タンク1に貯留された洗浄液の液面よりも低い位置で洗浄対象配管20に繋がる構造であることがより好ましい。このような上下迂流状の構造であると、揚水された洗浄液の位置エネルギを利用できる。また、供給配管10の周辺の占有体積を小さくすることができる。
【0060】
洗浄対象配管20は、水平に配置された区間を有する共に、水平に配置された区間の直前に、鉛直に配置された区間が接続していることが好ましい。すなわち、洗浄対象配管20は、水平に配置された区間と鉛直に配置された区間とが直交する曲管部の下流に位置することが好ましい。このような構造であると、洗浄液ないし気液二相流を、曲管部を通過する間に効率的に乱流化させることができる。
【0061】
次に、配管内に洗浄液を流して配管を洗浄する洗浄プロセスを効果的に行うための配管構造100,200の作用を解析した結果について、具体的に説明する。
【0062】
図3は、配管構造の流体解析に用いた空間モデルを示す図である。
図3に示すように、タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管に洗浄液を導入する配管構造について、空間モデル上で流体解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)を行って、洗浄液による洗浄作用を調べた。
【0063】
洗浄液による洗浄作用は、配管内に洗浄液を通流させたときに配管の壁面に作用するせん断力に依存すると考えられる。壁面に作用するせん断力τは、粘性係数μと速度勾配Gで表されるテンソルであり、τ=μ・Gの関係を満たす。しかし、テンソルを持ち込むと、解析が複雑になる。
【0064】
そこで、空間モデルを用いた流体解析では、洗浄液による洗浄作用を、乱流エネルギの散逸率εに基づいてスカラで評価した。乱流エネルギの散逸率εは、流体の密度σに対してσ・ε=μ・G2の関係を満たす。μ・Gで表されるせん断力τに対して一対一の関係を持つため、洗浄液による洗浄作用と相関がある。
【0065】
図3には、流体解析で用いた空間モデル300を示す。空間モデル300は、製造タンク2を洗浄するための定置洗浄(CIP)機構に適用することを想定した配管構造を持つ。空間モデル300は、洗浄液タンク1を模擬した模擬タンク301と、供給配管10を模擬した供給配管部310と、洗浄対象配管20を模擬した対象配管部320と、大気開放されており吸気も可能な排気口として機能する排気配管を模擬した排気配管部350と、によって構成されている。
【0066】
供給配管部310は、管径が36mmである。供給配管部310は、模擬タンク301の下部から下方に延び、模擬タンク301の下方から水平に延び、模擬タンク301の下方の水平な区間から上方に延び、模擬タンク301の上方から水平に延び、模擬タンク301の上方の水平な区間から下方に延びて、対象配管部320に繋がっている。
【0067】
対象配管部320は、管径が36mmであり、製造タンク2の接続を想定した位置に折り返し部を設けた構造とした。対象配管部310は、折り返し部を挟んで、水平に配置された下側の区間と、水平に配置された上側の区間とを有している。下側の区間の一端は、供給配管部320に繋がっている。上側の区間の一端は、逆U字状の区間を介して模擬タンク301の天井面に繋がっている。
【0068】
排気配管部350は、管径が36mmであり、模擬タンク301の天井面から外部の大気環境に連通する構造とした。模擬タンク301は、直径が500mm、高さが720mmの円柱状とした。
【0069】
流体としては、洗浄液を模擬した20℃の水を解析した。流体の密度は、998.2kg/m3、流体の粘度は、1.002mPa・sとした。気体としては、排気配管部350を介した空気の流入出を想定した。気体の密度は、1000kg/m3、気体の粘度は0.009mPa・sとした。
【0070】
空間モデル300における壁面の境界条件は、供給配管部310、対象配管部320、排気配管部350および模擬タンク301のいずれについても、壁面で流体の速度がゼロとなるノンスリップ条件とした。
【0071】
流体の輸送は、ポンプによる吸引・吐出条件として設定した。仮想ポンプの場所は、図中に矢印で示すように、供給配管部310の下部の湧出位置Fに設定した。仮想ポンプによる吸引・吐出条件は、インバータ式のポンプの始動時間を想定して、運転開始から10秒後までの流速上昇速度を、0.15m/s2とし、10秒後以降の流速を、1.5m/sの一定速度とした。
【0072】
洗浄効率の評価は、図中に矢印で示すように、測定位置Aと測定位置Bについて行った。測定位置Aは、対象配管部320の水平に配置された下側の区間の中間部に位置している。測定位置Bは、対象配管部320の水平に配置された上側の区間の中間部に位置しており、上側の区間の測定位置Aの直上に位置している。
【0073】
図4は、流体解析の開始時の空間モデルの状態を示す図である。
図4に示すように、流体の輸送の開始前の初期状態では、模擬タンク301の所定の高さまで液体が入っている。供給配管部310の下部側には、模擬タンク301の液面と同じ高さまで液体が入っている。模擬タンク301の上部側や、供給配管部310の上部側や、対象配管部320には、気体が充満している。このような空間モデル300上で、空間中の液体の体積割合(液体割合)の経時変化や乱流エネルギの散逸率を求めた。
【0074】
図5は、流体解析の開始時から4秒後の空間モデルの状態を示す図である。
図5に示すように、4秒後の状態では、液体の流れの先端部が、測定位置Aに到達している。先端部よりも僅かに下流側に位置する先頭部分には、乱流状態の気液二相流が形成されている。
【0075】
図6は、流体解析の開始時から5秒後の空間モデルの状態を示す図である。
図6に示すように、5秒後の状態では、液体の流れの先端部が、測定位置Aを通過している。測定位置Aには、初期の気液二相流よりも単相に近い液体が流れている。
【0076】
図7は、流体解析の開始時から7秒後の空間モデルの状態を示す図である。
図7に示すように、7秒後の状態では、液体の流れの先端部が、対象配管部320の折り返し部を通過して、測定位置Bに到達している。先端部よりも僅かに下流側に位置する先頭部分には、乱流状態の気液二相流が形成されている。測定位置Aが位置する水平に配置された下側の区間には、気体が残存しており、若干の気液二相流が流れ続けている。
【0077】
図8は、流体解析の開始時から8秒後の空間モデルの状態を示す図である。
図8に示すように、8秒後の状態では、液体の流れの先端部が、測定位置Bを通過している。測定位置Bには、到達初期の気液二相流よりも単相に近い液体が流れている。測定位置Aが位置する水平に配置された下側の区間には、気体が残存しており、若干の気液二相流が流れ続けている。
【0078】
図9は、流体解析の開始時から9秒後の空間モデルの状態を示す図である。
図9に示すように、9秒後の状態では、測定位置Bが位置する水平に配置された上側の区間に、気体が残存しており、若干の気液二相流が流れ続けている。測定位置Aが位置する水平に配置された下側の区間には、気体が殆ど残存していない。測定位置Aには、略単相の液体のみが流れている。
【0079】
図10は、流体解析の開始時から10秒後の空間モデルの状態を示す図である。
図10に示すように、10秒後の状態では、測定位置Bが位置する水平に配置された上側の区間に、気体が殆ど残存していない。また、測定位置Aが位置する水平に配置された下側の区間に、気体が殆ど残存していない。測定位置Aだけでなく、測定位置Bにも、略単相の液体のみが流れている。
【0080】
図11は、配管内の液相のボイド率の時間変化を示す図である。
図11において、横軸は、流体解析の開始時から起算される洗浄時間(秒)を示す。縦軸は、空間モデルの配管内の液相のボイド率(ホールドアップ)を示す。液相のボイド率は、対象配管部320の測定位置AまたはBにおいて、流路断面中の液体の面積割合(液体割合)として求めた。〇のプロットは、測定位置Aの結果である。△のプロットは、測定位置Bの結果である。
【0081】
図11に示すように、測定位置Aでは、流体解析の開始時から4秒後に、液体の先端部が到達している。5秒後から6秒後までには、微量の気体が残存し続けている。測定位置Bでは、流体解析の開始時から7秒後に、液体の先端部が到達している。8秒後までには、微量の気体が残存し続けている。
【0082】
測定位置Aでは、流体解析の開始時から7秒後に、液体の折り返しによって、一時的にボイド率が低下している。水平に配置された区間は、気体が残存し易い傾向が認められる。しかし、測定位置AおよびBのいずれにおいても、10秒後以降には、略液体のみが流れている。
【0083】
図12は、配管内の乱流エネルギの散逸率の時間変化を示す図である。
図12において、横軸は、流体解析の開始時から起算される洗浄時間(秒)を示す。縦軸は、空間モデルの配管内の乱流エネルギの散逸率(m
2/s
3)を示す。〇のプロットは、測定位置Aの結果である。△のプロットは、測定位置Bの結果である。
【0084】
図12に示すように、測定位置Aでは、流体解析の開始時から4秒後に、液体の先端部が到達した時点から、乱流エネルギの散逸率が急激な上昇を示している。乱流エネルギの散逸率は、液体の先端部が測定位置Aを通過した直後に極大値を示し、その後に低下している。測定位置Bでも、流体解析の開始時から7秒後に、液体の先端部が到達した時点から、乱流エネルギの散逸率が急激な上昇を示している。乱流エネルギの散逸率は、液体の先端部が測定位置Bを通過した直後に測定位置Aに近い極大値を示し、その後に低下している。
【0085】
測定位置Aでは、流体解析の開始時から7秒後に、液体の流れの先端部が通過し終えているが、若干の気液二相流が流れ続けており、やや高い乱流エネルギの散逸率を保っている。測定位置Bでも、流体解析の開始時から9秒後に、液体の流れの先端部が通過し終えているが、若干の気液二相流が流れ続けており、やや高い乱流エネルギの散逸率を保っている。測定位置AおよびBのいずれにおいても、10秒後以降には、乱流エネルギの散逸率が一定の定常状態になっている。
【0086】
乱流エネルギの散逸率の高さは、流体の仕事率が大きいことを意味する。このような状態では、流体の衝突や高圧力による作用が得られる。そのため、配管の内面の異物を効果的に除去できるといえる。乱流エネルギの散逸率の上昇は、ボイド率の上昇(
図11参照)に対して僅かに遅れて追従している。タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管に洗浄液を導入すると、流れの先端部の下流側に位置する先端部付近に乱流状態の気液二相流が生じて、乱流状態の気液二相流による洗浄作用が得られるといえる。
【0087】
図13は、空間モデルの壁面に作用するせん断力の時間変化を示す図である。
図13において、横軸は、流体解析の開始時から起算される洗浄時間(秒)を示す。縦軸は、流体によって壁面に作用するせん断力(kPa)を示す。〇のプロットは、測定位置Aの結果である。△のプロットは、測定位置Bの結果である。
【0088】
図13に示すように、測定位置Aでは、流体解析の開始時から4秒後に、液体の流れの先端部が到達した時点から、壁面に作用するせん断力が急激に大きくなっている。測定位置Aでは、3秒後から10秒後までの過渡期間において、強いせん断力が作用し続けている。測定位置Bでも、強いせん断力が作用している。測定位置AおよびBのいずれにおいても、10秒後以降には、せん断力が略一定の定常状態になっている。
【0089】
壁面に作用するせん断力は、配管の内面に付着した異物を剥離させる洗浄作用に影響するといえる。せん断力の上昇は、ボイド率の変動(
図11参照)に対して略同期して起こっている。液体の流れの先端部が通過する間に、せん断力が急激に大きくなり、定常状態を上回る強さを示しているため、気液界面で強い水撃作用が働いているといえる。タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管に洗浄液を導入すると、水撃作用やせん断作用による洗浄作用が得られるといえる。
【0090】
図14は、配管の内面の異物に対する洗浄効果を実測した結果を示す図である。
図14には、配管の内面に異物を付着させて、配管に洗浄液を導入した後に、異物の残存量を測定した結果を示す。
図14において、横軸は、異物を付着させた箇所に洗浄液が到達した時点から起算される洗浄時間(秒)を示す。縦軸は、配管の内面に付着させた異物の初期量に対する洗浄後に残存している異物の割合(残存率)を示す。
【0091】
配管構造としては、
図3に示す空間モデル300と略同様の構造を用いた。異物としては、無脂肪乳を用いた。洗浄対象配管の水平に配置された区間に位置する測定位置に、配管の内面の全周にわたって無脂肪乳を塗布して乾燥させた。洗浄液としては、20℃の0.5%水酸化ナトリウム水溶液を、1.5m/sの一定速度で流した。配管内に洗浄液を流した後に、測定位置に残存している異物を綿棒で採取し、プロテインアッセイ溶液に懸濁して、吸光光度測定による比色分析でタンパク量を定量した。
【0092】
図14に示すように、洗浄の開始時から10秒後に、99%程度の大部分の異物が除去された(図中の矢印参照)。洗浄の初期の過渡期間には、水撃作用や乱流状態の気液二相流の作用によって、強いせん断力が作用したと考えられる。洗浄を開始して10秒後以降には、除去率が緩やかに漸減した。この間には、定常状態の流れによるせん断作用や、異物の濃度勾配に基づく物質移動・拡散作用等が働いたと考えられる。
【0093】
以上の結果によると、タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管に洗浄液を導入する配管構造によって、水撃作用による洗浄作用や、乱流状態の気液二相流による洗浄作用を得ることができる。このような配管構造や、これを用いる配管の洗浄方法によると、配管を分解したり、高圧洗浄機、気泡発生装置等の特殊な機器を用いたりしなくとも、配管の内面に付着した異物を流し落として、配管内を効果的に洗浄することができる。よって、配管の分解や特殊な機器に依らない洗浄や、配管の分解や特殊な機器に依る洗浄を行う場合の負荷の軽減や、洗浄液の液量や洗浄液の加熱コストの抑制が可能になる。
【0094】
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【0095】
例えば、前記の配管構造100,200は、製造タンク2の洗浄に用いられる定置洗浄(CIP)機構に適用されているが、タンクに貯留された洗浄液の液面よりも高い位置を経由させて、気体が入った状態の洗浄対象配管に洗浄液を導入する配管構造は、任意の配管、タンク、液槽等に洗浄液を供給する配管に適用することができる。尚、流体解析のモデルの説明で示している通り、洗浄液タンク1や製造タンク2やこれらの両方に、模擬タンク301に備わる排気配管部350のような排気配管や、同等の機能を持つ双方向の通気配管が備わることが、より好ましいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0096】
1 洗浄液タンク(タンク)
2 製造タンク
3 供給ポンプ
4 供給バルブ
5 排出バルブ
6 ドレンバルブ
10 供給配管
20 洗浄対象配管
30 排出配管
40 ドレン配管
50 返送配管
100 配管構造
200 配管構造
300 空間モデル
301 模擬タンク
310 供給配管部
320 対象配管部
350 排気配管部