(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128835
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】コーク生成用添加剤および該添加剤の製造方法、ならびに該添加剤を含む流動接触分解触媒組成物
(51)【国際特許分類】
B01J 27/185 20060101AFI20230907BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230907BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230907BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20230907BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230907BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20230907BHJP
B01J 29/06 20060101ALI20230907BHJP
C10G 11/18 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B01J27/185 M
B01J35/10 301A
B01J37/08
B01J37/03 Z
B01J37/02 101Z
B01J37/00 F
B01J29/06 M
C10G11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033468
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武聡
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA07B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB14A
4G169BB14B
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4G169BC68B
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4G169DA08
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4G169EC06X
4G169EC06Y
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4G169FA01
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4G169FB08
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4G169FB30
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4G169ZA01B
4H129AA02
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4H129KA02
4H129KD09X
4H129KD09Y
4H129KD24X
4H129KD24Y
4H129KD37X
4H129KD37Y
4H129NA19
4H129NA45
4H129NA50
(57)【要約】
【課題】適度なコークを生成すると共に、接触分解プロセスを円滑に進めるためのコーク生成用添加剤およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】リン酸ランタン成分にニッケル成分が担持された金属酸化物を含むコーク生成用添加剤であって、前記リン酸ランタン成分は、ランタンとリンとを含み、ランタン/リンのモル比が0.8/1.2~1.2/0.8の範囲にある酸化物であり、前記ニッケル成分が前記コーク生成用添加剤中にニッケル換算で0.1~10質量%の範囲で固着していることを特徴とするコーク生成用添加剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸ランタン成分にニッケル成分が担持された金属酸化物を含むコーク生成用添加剤であって、
前記リン酸ランタン成分は、ランタンとリンとを含み、ランタン/リンのモル比が0.8/1.2~1.2/0.8の範囲にある酸化物であり、
前記ニッケル成分が前記コーク生成用添加剤中にニッケル換算で0.1~10質量%の範囲で固着していることを特徴とするコーク生成用添加剤。
【請求項2】
さらにバインダー成分を含み、前記バインダー成分は前記コーク生成用添加剤中に酸化物換算で5~20質量%の範囲で含むことを特徴とする請求項1に記載のコーク生成用添加剤。
【請求項3】
前記コーク生成用添加剤は、平均粒子径が50~90μmの範囲にあり、比表面積が30~200m2/gの範囲にあり、細孔容積が0.05~0.50ml/gの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載のコーク生成用添加剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のコーク生成用添加剤の製造方法であって、
ランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液を混合し、混合スラリーを得る第一工程と、
前記混合スラリーから固形分を濾別・洗浄し、洗浄ケーキを得る第二工程と、
前記洗浄ケーキを水に再分散させた後、ニッケルを含む水溶液を加えた後、噴霧乾燥し噴霧乾燥品を得る第三工程と、
前記噴霧乾燥品を加熱処理し、コーク生成用添加剤を得る第四工程と、
を含むことを特徴とするコーク生成用添加剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のコーク生成用添加剤と、流動接触分解触媒と、を含むことを特徴とする流動接触分解触媒組成物。
【請求項6】
前記流動接触分解触媒組成物中に含まれるコーク生成用添加剤は、1.0~15.0質量%の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の流動接触分解触媒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーク生成用添加剤および該添加剤の製造方法、ならびに該添加剤を含む流動接触分解触媒組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、コーク生成用添加剤を流動接触分解触媒に加えることでコーク生成量を増加させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プロセスにおける流動接触分解装置は、流動接触分解触媒上に堆積したコークの燃焼熱を反応熱として用い、熱収支を合わせることで外部からの加熱を行うことなく目的の生成油を得る装置である。ここで、生成油の原料油として、残炭や重金属含有量が少なく軽質で分解しやすいものを用いた場合、流動接触分解触媒上でのコーク不足となる。 また、流動接触分解装置における原料油の処理量の減少もコーク不足となり、当該装置の運転が困難となる場合がある。そのため、適度なコークを生成することが求められる。
【0003】
一般に流動接触分解触媒としては、常圧蒸留残油などの重質炭化水素油に対する分解能力(以下「ボトム分解能」ともいう。)が高いこと、あるいは、触媒表面に析出するコークの析出量が少ないことなど、種々の観点で高い性能を発揮できるものが求められる。
この点に関し、従来、重質炭化水素油の流動接触分解にあたっては、コークの収率を低くして、ガソリンや中間留分(軽油および灯油)などの収率を上げる(高液収率)ことを目的として開発されてきた。
【0004】
しかしながら、昨今では二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)の削減が叫ばれており、燃料油からのエネルギー転換の流れが進んでいる。そのため、石油精製量が今後徐々に低下していく時代の流れとなっており、石油精製プロセスも変化が起こりつつあり、従来のコーク生成を抑制することを目的とした流動接触分解触媒に関する触媒開発とは異なるものが求められる。
【0005】
従来の流動接触分解触媒として特許文献1、2には、低コーク収率でガソリンや液化石油ガスまたは中間留分等の選択性に優れた流動接触分解触媒として希土類金属を含むゼオライトを含む触媒が開示されている。
【0006】
また、特許文献3、4には、流動接触分解触媒の添加剤としてはコーク生成を抑制し、重質油留分の分解効率を高めたり、脱硫効果を高めたりする添加剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-142229号公報
【特許文献2】特開2020-032350号公報
【特許文献3】特開2011-147933号公報
【特許文献4】特開2005-262160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~4に開示された希土類金属を含むゼオライトを触媒成分とする流動接触分解触媒等は、コーク生成の抑制に有効で、選択性(高液収率や低ガス)に優れた炭化水素油の流動接触分解触媒に過ぎないものである。特許文献1~4に開示された希土類金属を含むゼオライトを触媒成分とする流動接触分解触媒等は、原料油の処理量の減少に伴って発生するコーク不足に対応して、流動接触分解反応を継続的に維持するために適度なコークの生成をするものとなっていない。
【0009】
現在は、環境問題をきっかけとして、温室効果ガス(GHG)の排出削減が求められ、今後石油精製量が徐々に低下していく時代の流れとなっている。今後、石油精製量が低下することにより、重質炭化水素油の流動接触分解反応過程において、従来のようにコーク生成量が抑えられることで、熱収支が合わず流動接触分解装置の運転が困難となることを防ぐために、適度なコークを生成することが逆に求められることが予想される。
【0010】
そこで、本発明の目的は、コーク生成量が抑えられることで、熱収支が合わず流動接触分解装置の運転が困難となることを防ぐために、適度なコークを生成すると共に、接触分解プロセスを円滑に進めるためのコーク生成用添加剤およびその製造方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、そのコーク生成用添加剤を含む流動接触分解触媒組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような技術的背景のもと、発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、適度なコークを生成すると共に、重質炭化水素油の流動接触分解プロセスを円滑に進めるためのコーク生成用添加剤が得られることを知見し、本発明を開発するに至った。
【0012】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、第一に、リン酸ランタン成分にニッケル成分が担持された金属酸化物を含むコーク生成用添加剤であって、前記リン酸ランタン成分は、ランタンとリンとを含み、ランタン/リンのモル比が0.8/1.2~1.2/0.8の範囲にある酸化物であり、前記ニッケル成分が前記コーク生成用添加剤中にニッケル換算で0.1~10質量%の範囲で固着していることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明にかかる上記コーク生成用添加剤については、
(1)さらにバインダー成分を含み、前記バインダー成分は前記コーク生成用添加剤中に酸化物換算で5~20質量%の範囲で含むこと、
(2)上記コーク生成用添加剤は、平均粒子径が50~90μmの範囲にあり、比表面積が30~200m2/gの範囲にあり、細孔容積が0.05~0.50ml/gの範囲にあること、などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0014】
また、本発明は、第二に、上記いずれかのコーク生成用添加剤の製造方法であって、ランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液を混合し、混合スラリーを得る第一工程と、前記混合スラリーから固形分を濾別・洗浄し、洗浄ケーキを得る第二工程と、前記洗浄ケーキを水に再分散させた後、ニッケルを含む水溶液を加えた後、噴霧乾燥し噴霧乾燥品を得る第三工程と、前記噴霧乾燥品を加熱処理し、コーク生成用添加剤を得る第四工程と、を含むことを特徴とするコーク生成用添加剤の製造方法を提案する。
【0015】
さらに、本発明は、第三に、上記いずれかのコーク生成用添加剤と、流動接触分解触媒と、を含むことを特徴とする流動接触分解触媒組成物を提供する。
【0016】
なお、本発明にかかる上記コーク生成用添加剤については、
(3)上記流動接触分解触媒組成物中に含まれるコーク生成用添加剤は、1.0~15.0質量%の範囲にあること、などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコーク生成用添加剤によれば、石油精製量が低下するVGO-FCCやHC-BTMを原料とする接触分解反応過程において、コーク生成量が抑えられることで、熱収支が合わず流動接触分解(FCC)装置の運転が困難となることを防ぐために、適度なコークを生成することができる。さらに、流動接触分解触媒に該添加剤を加えた本発明の流動接触分解触媒組成物によれば、VGO-FCCやHC-BTMを原料とする接触分解反応過程において、流動接触分解装置の運転が困難となることを防ぐために、コーク生成量を増すことができる。従って、本発明の流動接触分解触媒組成物によれば、発熱量を増加させることで熱収支が合わせられ流動接触分解(FCC)装置の安定運転に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
[コーク生成用添加剤]
本発明のコーク生成用添加剤は、リン酸ランタンに、ニッケル成分を担持させた金属酸化物を含んで構成されている。以下、本発明のコーク生成用添加剤に含まれる各成分について説明する。
【0019】
<リン酸ランタン成分>
本発明で使用されるリン酸ランタンは、ランタンを含む水溶性化合物とリン酸またはリン酸塩とから得られたもので、ランタン(La)とリン(P)のモル比が、0.8:1.2~1.2:0.8の範囲の組成比であることが好ましい。
ランタン(La)とリン(P)のモル比が、上記範囲にあれば、添加剤として必要な物理性状を満たし、かつ、コーク生成に効果的に寄与するため好ましい。
ランタンを含む水溶性化合物としては、例えばランタンのハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等の無機塩や、クエン酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩を用いることができる。
リン酸またはリン酸塩としては、例えばリン酸やリン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩を用いることができる。
【0020】
<ニッケル成分>
本発明で使用されるニッケル成分は、酸化ニッケル前駆体であり、例えばニッケルのハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等の無機塩や、クエン酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩を用いることができる。
ニッケル成分は、コーク生成用添加剤中にニッケル換算で0.1~10質量%含むことが好ましい。ニッケル成分がコーク生成用添加剤中にニッケル換算で0.1質量%以上含むものであれば、反応中に適度に脱水素反応を進行させコーク生成を促進するため好ましい。一方、ニッケル成分がコーク生成用添加剤中にニッケル換算で10質量%以下含むものであれば、水素添加反応等のコーク生成を妨げる反応が起こりにくいため好ましい。
【0021】
本発明のコーク生成用添加剤は、平均粒子径が50~90μmの範囲にあることが好ましい。なお、平均粒子径の評価は、下記に記載するレーザー回折・散乱式粒度分布測定により測定することができる。平均粒子径が50μmよりも過度に小さいと金属捕捉効率が低下し、一方、90μmよりも過度に大きいとコーク生成用添加剤の耐摩耗性や強度が低下するおそれがある。
【0022】
本発明のコーク生成用添加剤は、BET法で測定した比表面積(SA)が、30~200m2/gの範囲にあることが好ましい。コーク生成用添加剤の比表面積が30m2/gよりも過度に小さいと、反応性が低下し添加剤としての効果が小さくなる。一方、比表面積が200m2/gよりも過度に大きいと、コーク生成用添加剤として強度が小さくなり、コーク生成用添加剤としての形状保持性が低下するおそれがある。なお、コーク生成用添加剤の比表面積は、40~150m2/gの範囲であることがより好ましい。
【0023】
本発明のコーク生成用添加剤は、嵩密度(ABD)が0.70g/ml以上であることが好ましい。嵩密度が0.70g/mlより低い場合は、耐摩耗性が不十分となり、流動触媒として使用した場合、容易に粉化して触媒が飛散する要因となり、実用的使用に向かないおそれがある。一方、嵩密度の上限は、組成から定まる密度となるが、嵩密度が1.50g/mlより高い場合は、装置内での触媒循環ができなくなるおそれがある。なお、嵩密度の測定方法は、例えば、25mlのシリンダーを用いて、コーク生成用添加剤の重量を測定し、単位体積当たりの重量から嵩密度を計算することができる。
【0024】
本発明のコーク生成用添加剤は、さらにバインダー成分を含んでいてもよい。コーク生成用添加剤に含まれるバインダー成分としては、例えば、アルミナゾル、第一リン酸アルミニウム等を挙げることができる。バインダー成分は、コーク生成用添加剤中に、酸化物換算で5~20質量%の範囲で含むことが好ましい。上記バインダー成分の含有量が5質量%以上であれば、添加剤として必要な物理性状を保持することが容易となるため好ましく、20質量%以下であれば、コーク生成機能の低下を最小限にとどめることができるため好ましい。
【0025】
[コーク生成用添加剤の製造方法について]
本発明に係るコーク生成用添加剤の製造方法の1例としては、
(I)ランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液を混合し、混合スラリーを得る第一工程と、
(II)前記混合スラリーから固形分を濾別・洗浄し、洗浄ケーキを得る第二工程と、
(III)前記洗浄ケーキを水に再分散させた後、ニッケルを含む水溶液を加えた後、噴霧乾燥し噴霧乾燥品を得る第三工程と、
(IV)前記噴霧乾燥品を加熱処理し、コーク生成用添加剤を得る第四工程と、を含む。以
下、本発明のコーク生成用添加剤の製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0026】
<第一工程:ランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液を混合し、混合スラリーを得る工程>
本発明のコーク生成用添加剤の製造方法は、ランタンを含む水溶液と、リン酸イオンを含む水溶液と、を混合し、混合スラリーを得る第一工程を含む。第一工程では、まず、ランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液を混合することによって、ランタン-リン酸混合スラリーを調製する。ランタンを含む水溶液に含まれる成分としては、例えばランタンのハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等の無機塩や、クエン酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩を用いることができる。
【0027】
次に、リン酸イオンを含む水溶液に含まれるリン酸イオンを含む成分として、例えばリン酸やリン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸塩を用いることができる。
【0028】
ランタンを含む水溶液と、リン酸イオンを含む水溶液とを混合する際に、ランタン(La)とリン(P)のモル比が、0.8:1.2~1.2:0.8の範囲の比率で混合することが好ましい。ランタン(La)とリン(P)とのモル比が上記範囲にあれば、コーク生成に必要な比表面積を保持でき、かつ、コーク生成用添加剤として必要な物性を満たせるため好ましい。
【0029】
ランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液とを混合し、混合スラリーを調製する際には、必要に応じてランタンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液とからなる混合スラリー溶液のpH等を調整してもよいし、混合スラリー溶液の液温を上げて反応を促進させてもよい。具体的に混合条件は、上記混合スラリー溶液を20~90℃、好ましくは25~80℃に加温して保持し、この溶液の温度の±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃に加温した金属成分を含む水溶液を、pHが3.0~12.0、好ましくは3.5~11.5、より好ましくは4.0~11.5になるように、通常5~20分、好ましくは7~15分の間に連続添加し沈殿を生成させ、混合スラリーを得る。
【0030】
<第二工程:混合スラリーから固形分を濾別・洗浄し、洗浄ケーキを得る工程>
本発明のコーク生成用添加剤の製造方法は、混合スラリーから固形分を濾別・洗浄し、洗浄ケーキを得る第二工程を含む。第二工程では、上記第一工程で得られた混合スラリーに含まれる固形分を濾過等によりを濾別した後、濾別後に得られた固形分を洗浄することにより洗浄ケーキを得る。第二工程において、混合スラリーの洗浄には、水を用いてもよいが、温水を用いてもよい。
【0031】
<第三工程:洗浄ケーキを水に再分散させ再分散スラリーを得た後、ニッケルを含む水溶液を加えた後、噴霧乾燥し噴霧乾燥品を得る工程>
本発明のコーク生成用添加剤の製造方法は、洗浄ケーキを水に再分散させた後、ニッケルを含む水溶液を加えた後、噴霧乾燥し噴霧乾燥品を得る第三工程を含む。
第三工程では、まず、上記第二工程で得られた上記洗浄ケーキを水に再分散させ再分散スラリーを得る。ここで、洗浄ケーキを再分散させた再分散スラリー中の固形分濃度は、15~45質量%の範囲であることが好ましい。次に、得られた再分散スラリーに、ニッケルを含む水溶液を加える。ここで、ニッケルを含む水溶液として、再分散スラリーに添加するニッケルは、コーク生成用添加剤中にニッケル換算で0.1~10.0質量%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0032】
さらに、得られた再分散スラリーにニッケルを含む水溶液を加えた後、混合することにより、再分散スラリー中の固形成分とニッケルを十分に反応させる。再分散スラリーにニッケルを含む水溶液を加えた再分散スラリー-ニッケル混合溶液を噴霧乾燥する。再分散スラリー-ニッケル混合溶液の噴霧乾燥を行うことにより、コーク生成用添加剤の前駆体である噴霧乾燥品を得る。第三工程において採用される噴霧乾燥の条件は、噴霧乾燥器への入口温度が200~500℃、その出口温度が80~180℃の範囲で、噴霧乾燥品の平均粒子径が、50~100μmの範囲となるように適宜調整する。
【0033】
<第四工程:噴霧乾燥品を加熱処理し、コーク生成用添加剤を得る工程>
本発明のコーク生成用添加剤の製造方法は、混合スラリーから固形分を濾別・洗浄し、洗浄ケーキを得る第四工程を含む。第四工程では、上記第三工程で得られた噴霧乾燥品を加熱処理し、コーク生成用添加剤を得る。加熱処理とは、乾燥、焼成を意味する。加熱処理温度としては、110~800℃の範囲で0.5~24時間の範囲で適宜行い、目的物であるコーク生成用添加剤を得る。
【0034】
なお、本発明のコーク生成用添加剤の製造方法は、得られた目的物であるコーク生成用添加剤の粒度を調整するために、第四工程の後に焼成後のコーク生成用添加剤に粉砕処理を適度に施すための粉砕処理工程をさらに含んでいてもよい。
【0035】
[流動接触分解触媒組成物について]
本発明の流動接触分解触媒組成物は、上記コーク生成用添加剤と、流動接触分解触媒と、を含むことを特徴とする。すなわち、本発明の流動接触分解触媒組成物とは、流動接触分解触媒と本発明のコーク生成用添加剤をブレンドしたものを意味する。つまり、本発明の流動接触分解触媒組成物(以下、「本発明触媒組成物」という。)は、上記コーク生成用添加剤を必須成分とし、その他の成分として、流動接触分解触媒であるゼオライト成分、バインダー成分(シリカ系バインダーあるいはアルミナ系バインダー)、粘土鉱物成分を含む。以下、本発明触媒組成物に含まれる各成分について説明する。
【0036】
<流動接触分解触媒>
本発明触媒組成物を使用した原油又は残油の流動接触分解処理は、固定床反応装置に上記触媒組成物を充填して水素雰囲気下、高温高圧条件で行なわれる。本発明触媒組成物に含まれる流動接触分解触媒としては、従来公知の流動接触分解触媒(日揮触媒化成株式会社より提供される一般的なCVZシリーズの流動接触分解触媒)を用いることができる。
【0037】
<コーク生成用添加剤の含有量>
本発明触媒組成物には、本発明のコーク生成用添加剤が1.0~15.0質量%の範囲で含まれることが好ましい。コーク生成用添加剤が、1.0質量%より少ないと、添加した効果を十分に得ることが出来ないおそれがあるため好ましくない。一方、コーク生成用添加剤が、15.0質量%を超えると希釈効果により触媒活性が低下し、そのためコーク収率自体が低下することになるおそれがあり好ましくない。
【0038】
<比表面積(SA)>
本発明にかかる触媒組成物は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法で測定した比表面積(SA)が、30~150m2/gの範囲であることが好ましい。比表面積が30m2/gよりも小さいと、重質炭化水素油の流動接触分解プロセスなどにおいて短い接触時間で接触分解反応を十分に進行させることができないおそれがある。一方、150m2/gより大きいと流動接触分解触媒を含む触媒組成物として、十分な強度が得られないおそれがある。
【0039】
<コーク生成用添加剤および触媒の平均粒子径>
本発明にかかる触媒組成物に含まれるコーク生成用添加剤および流動接触分解触媒は、所定の平均粒子径を有する。コーク生成用添加剤および流動接触分解触媒である各々試料の粒度分布の測定は、堀場製作所(株)製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-950V2)にて行うことができる。具体的には、光線透過率が70~95%の範囲となるように試料を溶媒(水)に投入し、循環速度 2.8L/min、超音波 3min、反復回数 30で測定することができる。メディアン径(D50)を平均粒子径として採用し、本発明にかかる触媒組成物に含まれるコーク生成用添加剤および流動接触分解触媒の平均粒子径は、40~100μmが好適であり、50~90μmがより一層好ましい。
【0040】
<細孔容積(PV)>
本発明にかかるコーク生成用添加剤は、水のポアフィリング法により測定した全細孔径範囲の細孔容積(PV)が0.05~0.50ml/g、好適には0.10~0.45ml/gの範囲内にあることが好ましい。流動接触分解触媒として使用した場合、細孔容積が0.05ml/gを下回ると、十分な接触分解活性が得られないおそれがある。一方で、細孔容積が0.50ml/gを超えるものは触媒強度が低下するおそれがある。
【0041】
<嵩密度(ABD)>
本発明にかかるコーク生成用添加剤の嵩密度(ABD)の測定方法は、25mlのシリンダーを用いて、コーク生成用添加剤の重量を測定し、単位体積当たりの重量から嵩密度を計算した。嵩密度は0.70g/mlを下限とすることが好ましい。嵩密度が0.70g/mlより低い場合は、耐摩耗性が不十分となり、流動接触分解触媒として使用した場合、容易に粉化して触媒が飛散する要因となるおそれがある。
【実施例0042】
(実施例1)
[コーク生成用添加剤の調製]
塩化ランタン水溶液(La2O3換算濃度:20.2質量%)1722gをイオン交換水1722gで希釈し、60℃に加温した後、リン酸(P2O5換算濃度:61.6質量%)を246g添加し、良く攪拌した後、アンモニア水をpHが6.3となるように添加した。さらに、ランタン-リン酸混合スラリー溶液を90℃に昇温して、30分保持した後、冷却した後、混合スラリーを得た。
【0043】
得られた混合スラリーをろ紙にて濾別し、イオン交換水10Lを用いて掛水洗浄し、得られた固形物を洗浄ケーキとして回収した。次に、洗浄ケーキをLaPO4濃度が30質量%となるようにイオン交換水で希釈し、さらに硝酸ニッケルをNi含有量が0.8質量%となるように添加したスラリーを入口温度240℃、出口温度130℃となるようにスプレードライヤーで噴霧乾燥を行い、噴霧乾燥品を得た。得られた噴霧乾燥品を600℃にて2時間焼成することでコーク生成用添加剤(1)を得た。実施例1で得られたコーク生成用添加剤(1)の性状を表1に示す。
【0044】
[コーク生成用添加剤(1)含有FCC触媒組成物]
得られたコーク生成用添加剤(1)をFCC触媒(日揮触媒化成株式会社製、CVZ触媒)に10質量%となるように混合した。得られた流動接触分解触媒組成物を、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation-Micro Activity Test)を用い、同一原油、同一反応条件下で、触媒組成物の性能評価試験を行った。ただし、これらの性能評価試験を行う前に、予め触媒再生塔で水熱劣化を受けた状態を模擬する目的で、780℃で13時間のスチーム処理を行った。
【0045】
[FCC触媒組成物の性能評価試験(触媒活性)]
実施例1で得られたコーク生成用添加剤(1)を含むFCC触媒組成物の性能評価試験における反応条件等は、以下のとおりである。上記触媒組成物の性能評価試験の結果を表2に示す。
原料油:脱硫減圧軽油(DSVGO)100質量%
反応温度:520℃
触媒質量基準の空間速度(WHSV):8h-1
触媒/油比(以下「C/O」と記載する。):5.0(質量%/質量%)
1)転化率:100-(LCO;HCO+CLO)(質量%)
2)収率:C/O=5.0のときの各生成物の割合(質量%)
3)ガソリンの沸点範囲: 30~216℃ (Gasoline)
4)LCOの沸点範囲:216~343℃(LCO:Light Cycle Oil)
5)HCO十CLOの沸点範囲:343℃+(HCO:Heavy Cycle Oil、CLO:Clarified Oil)
6)LPG(液体石油ガス)
7)Dry Gas:メタン、エタンおよびエチレン
8)プロピレン:LPGに含まれる。
【0046】
(比較例1)
実施例1で得られたコーク生成用添加剤(1)を従来公知の流動接触分解触媒に混合することなく、実施例1に記載のFCC触媒(日揮触媒化成株式会社製、CVZ触媒)のみを用いて同様に性能評価試験を行った。触媒組成物の性能評価試験の結果を表2に示す。
【0047】
[添加剤(R1)の調製]
(比較例2)
特開2011-147933号公報に記載の[実施例1:添加剤1]を調製した後、Ni含有量が1.0質量%となるように硝酸ニッケル水溶液を含浸し、120℃で乾燥した後、600℃で2時間保持することで添加剤(R1)を得た。
【0048】
[添加剤(R1)含有FCC触媒組成物]
実施例1で得られたコーク生成用添加剤(1)に代えて、得られた添加剤(R1)をFCC触媒(日揮触媒化成株式会社製、CVZ触媒)に10質量%となるように混合した。比較例2のFCC触媒組成物の性能評価試験は、実施例1と同様に行った。比較例2のFCC触媒組成物の性能評価試験の結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
(実施例2)
実施例1において、塩化ランタン水溶液(La2O3濃度:20.2質量%)1722gをイオン交換水1722gで希釈し、60℃に加温した後、リン酸(P2O5濃度:61.6質量%)を222g添加し、良く攪拌した後、アンモニア水をpHが6.3となるように添加した以外は同様に実施し、コーク生成用添加剤(2)を得た。実施例2で得られたコーク生成用添加剤(2)の性状を表1に示す。さらに、コーク生成用添加剤(2)を含むFCC触媒組成物の性能評価試験の結果を表2に示す。
【0051】
(実施例3)
実施例1において、塩化ランタン水溶液(La2O3濃度:20.2質量%)1722gをイオン交換水1722gで希釈し、60℃に加温した後、リン酸(P2O5濃度:61.6質量%)を285g添加し、良く攪拌した後、アンモニア水をpHが6.8となるように添加した以外は同様に実施し、コーク生成用添加剤(3)を得た。実施例3で得られたコーク生成用添加剤(3)の性状を表1に示す。さらに、コーク生成用添加剤(3)を含むFCC触媒組成物の性能評価試験の結果を表2に示す。
【0052】
(実施例4)
実施例1において、Ni含有量が7.5質量%となるように調製した以外は同様に実施し、コーク生成用添加剤(4)を得た。実施例4で得られたコーク生成用添加剤(4)の性状を表1に示す。さらに、コーク生成用添加剤(4)を含むFCC触媒組成物の性能評価試験の結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
[触媒の活性評価結果]
触媒の活性評価結果によれば、実施例1~4にて調製した触媒は比較例1、比較例2と比較して同一C/Oにおいてコーク収率が高く、コーク収率の増加に寄与することが確認できている。
以上説明したように、本発明にかかるコーク生成用添加剤は、コーク生成比率が高く、耐摩耗性も有するので、流動接触分解触媒に添加して、炭化水素油の分解に使用して、適度なコークを生成することで、流動接触分解反応を継続的に維持でき、好適である。