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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128846
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】角層剥離改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20230907BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230907BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20230907BHJP
   A61K 36/282 20060101ALI20230907BHJP
   A61K 36/8967 20060101ALI20230907BHJP
   A61P 17/12 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K8/9794
A61K36/282
A61K36/8967
A61P17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033489
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲史
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AB032
4C083AB242
4C083AC012
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC582
4C083AC792
4C083AC842
4C083AD092
4C083AD512
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC13
4C083CC23
4C083EE12
4C088AB29
4C088AB85
4C088AC01
4C088AC03
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
(57)【要約】      (修正有)
【課題】角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成やタンパク質構造の変化等が生じ、このことにより分解酵素による分解が阻害される現象を抑制、もしくは改善する効果に優れた角層剥離改善剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、タラゴンの全草の抽出物、オトメユリの花弁の抽出物から選択される1種以上を用いることで上記課題を解決した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラゴン(Artemisia dracunculus)の全草の抽出物、オトメユリ(Lilium rubellum)の花弁の抽出物から選択される1種以上を含有する角層剥離改善剤。
【請求項2】
タラゴン(Artemisia dracunculus)の全草の抽出物、オトメユリ(Lilium rubellum)の花弁の抽出物から選択される1種以上を含有する角層細胞接着因子の構造変化抑制または改善剤。
【請求項3】
前記角層細胞接着因子の構造変化が、タンパク質の糖化、カルボニル化、またはニトロ化から選ばれる1種以上を起因とする請求項2記載の抑制または改善剤。
【請求項4】
前記角層細胞接着因子が、デスモグレイン1である請求項2又は請求項3記載の抑制または改善剤。
【請求項5】
化粧品料又は医薬部外品である請求項1~4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
角層剥離改善のためのタラゴン(Artemisia dracunculus)の全草の抽出物及び/又はオトメユリ(Lilium rubellum)の花弁の抽出物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層剥離改善剤に関する。
より詳細には、角層細胞接着因子の構造変化が起因となり、分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される現象を抑制または改善する各種剤、使用に関する。
【背景技術】
【0002】
角層は皮膚の最表層に位置し、生体と外部環境の間の物理的・化学的バリアとして機能するほか、皮膚の質感や外観を調整し、健康的な生体や皮膚の維持にとって、健常な角層の維持は不可欠である。この健常な角層の維持においては、表皮ターンオーバー、すなわち、表皮基底層における表皮細胞の増殖と角化、角層剥離の過程(角層剥離の過程は落屑とも呼ばれる)が適切に進行することが重要である。中でも角層剥離は、種々の酵素によって細胞接着因子の分解が複雑に制御された過程であり、それら分子の量や機能が精密に制御されている必要がある。
【0003】
正常な皮膚では、角層の細胞同士を接着している細胞接着因子の分解がスムーズに行われるため、角層の最外層では角層の細胞同士の接着が弱くなり、自然な剥離が行なわれる。一方、表皮細胞の異常な増殖亢進や酵素活性の低下、角層剥離酵素抑制因子の異常などは、細胞接着因子分解過程の精密な制御を乱し、皮膚の粗い質感や外観、皮膚疾患の原因となる。また、上記異常などが局所的に生じることによって、異常を来していない、周囲の皮膚との違いが外観上明確に認識されるため、角層剥離の異常は美容上、特に好ましくない。従って、健康的な生体や皮膚の維持にとって、正常な角層剥離過程の維持は極めて重要である。
【0004】
角層細胞には、細胞接着因子の一種、コルネオデスモソームが存在する。コルネオデスモソームとは、角化細胞が顆粒細胞から角層細胞になるときにデスモゾームが構造変化したものである。コルネオデスモソームは、顆粒細胞のデスモゾーム構成の主要素であるデスモグレイン1(DSG1)とデスモコリン1(DSC1)に加えて、細胞内の層板顆粒から供給されるコルネオデスモシン(CDSN)が細胞外部分に加わり構成される。
【0005】
コルネオデスモソームの分解に関与する酵素として、kallikrein-related peptidases (KLK)が知られている。KLKはKLK1からKLK15までの15種類からなるセリンプロテアーゼに属する酵素ファミリーである。角層においてはトリプシン様セリンプロテアーゼであるKLK5がDSG1とDSC1を分解し、キモトリプシン様セリンプロテアーゼであるKLK7はDSC1を分解し、さらに両者はCDSNを分解することがすることが明らかにされている。角層剥離にはコルネオデスモソームに対するKLKの作用の寄与が大きく、コルネオデスモソームのKLKによる分解が抑制されると角層剥離も抑制される。
【0006】
<角層剥離の阻害事象と解決すべき課題/知られていないこと>
コルネオデスモソームの構成因子が何らかの変化を受けると、分解されずに角層剥離が抑制されると考えられる。コルネオデスモソームの分解抑制に関連する角層剥離抑制については、角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成やタンパク質構造の変化が生じると、角層細胞接着因子に対して分解酵素が十分に機能しにくくなることで、円滑な角層剥離が阻害される状態になることが報告されている(特許文献1)。また、角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成やタンパク質構造の変化には、角層における糖化やカルボニル化、ニトロ化などのタンパク質修飾が関与していることが示唆されている。これらのことから、角層剥離には、コルネオデスモソームを変化させないこと、もしくは変化が生じてもその変化を解消して分解酵素により分解できる状態にすることが重要だと考えられる。即ち、角層接着因子の分解酵素が十分に機能しにくいことで角層剥離が阻害される現象を抑制、もしくは改善できれば、角層剥離の遅延を改善できると考えられるが、係る現象を抑制もしくは改善できる有効成分は発見されておらず、新たな有効成分の開発が望まれていた。
【0007】
ところで、タラゴンは(Artemisia dracunculus)は、キク科ヨモギ属の多年生植物であり、南ヨーロッパからシベリア原産地として、ロシア南部や中央アジアにかけて分布するとされている。草丈は60~100cmで、茎は直立してよく分枝し、葉は対生で、細長く、先がとがっており、光沢のある濃い黄緑色である。タラゴンには、経口投与したマウスから得られた血漿に酸化剤を加えた時、過酸化脂質の生成を抑制する作用(特許文献2)、活性酸素消去する作用(特許文献3)が公知であるが、タンパク質の修飾を抑制、および改善すること、さらには角層剥離を改善する効果については知られていなかった。
【0008】
また、オトメユリ(Lilium rubellum)はユリ科ユリ属の植物のひとつであり、別名、ヒメサユリ(姫早百合・姫小百合)とも呼ばれる。高さは30-50cm程度、花は薄いピンク色で斑点がないのが特徴とされている。良く似たユリにササユリがあるが、オトメユリはおしべの先が黄色くなっているところで区別される。ユリ目ユリ科のうち主としてユリ属(学名:Lilium)のユリ(百合)では、オニユリ、ハカタユリなど特定種の根に、滋養強壮、利尿、鎮咳などの効果が知られ、古くから生薬として用いられている。また、マドンナリリー根エキスにエラスチン産生促進効果があること(特許文献4)、ユリ科ユリ属の球根にセラミド産生促進効果(特許文献5)、抗酸化効果(特許文献6)など、球根に関しては多数の報告例が存在する。また、根以外の部位では、報告例は少ないものの、その中にはユリ科ユリ属の植物にグリコサミノグリカン産生促進効果があること(特許文献7)、テッポウユリの葉、スカシユリの花弁にヒアルロニダーゼ活性阻害効果などがあることが報告されている(特許文献8)。また、ユリ科(Liliaceae)ユリ属(Lilium)に属する植物の蕾の抽出物には抗酸化作用、タンパク質糖化抑制作用があること(特許文献9)が報告されているが、それらの作用は花、茎、葉の抽出物には確認されない効果であり、蕾の抽出物に特有の作用であることが示されている。このようにユリに関しては古くから数多くの研究がなされているが、タンパク質の修飾を抑制、および改善すること、さらには角層剥離を改善する効果については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-148492号公報
【特許文献2】特開2011-236149号公報
【特許文献3】特開2001-122765号公報
【特許文献4】特開2012-056933号公報
【特許文献5】特開2002-370998号公報
【特許文献6】特開2011-016760号公報
【特許文献7】特開2010-018594号公報
【特許文献8】特開2003-012489号公報
【特許文献9】特開2011-225564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成やタンパク質構造の変化等が生じ、このことにより分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される現象を抑制、もしくは分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される状態を改善する効果に優れた角層剥離改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
角層細胞接着因子の凝集・高分子化物の生成やタンパク質構造の変化等が生じ、このことにより分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される現象を鑑み、この現象を抑制、もしくは改善するために本発明者は鋭意研究を行った結果、タラゴン(Artemisia dracunculus)の全草の抽出物、オトメユリ(Lilium rubellum)の花弁の抽出物に分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される現象を抑制するだけでなく、改善する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、タラゴンの全草の抽出物、オトメユリの花弁の抽出物から選択される1種以上を用いることで上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、角層細胞接着因子の構造変化を抑制、または改善することより、角層細胞接着因子は分解酵素により分解され、このことで角層剥離の改善による皮膚状態の健全性の維持や健全化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明でいう角層剥離の改善とは、角層剥離の遅延の予防や遅延した角層剥離の円滑化によって皮膚の質感や外観を調整し皮膚の状態を健全に保つ、あるいは健全化すること、より具体的には角層細胞接着因子のタンパク質修飾を防ぐこと、または改善することにより皮膚状態を健全に保つ、あるいは健全化することを意味する。
【0015】
角層細胞接着因子の構造変化とは、角層細胞接着因子のタンパク質に凝集や高分子化が生じること、構成するタンパク質の立体構造の変化、構成タンパク質やアミノ酸の官能基が化学反応や修飾を受けて性質が変化することを含み、角層細胞接着因子に対して分解酵素が十分に機能しにくくなることであり、角層細胞接着因子が分解酵素により分解されにくくなることをさす。このことにより円滑な角層剥離が阻害された状態になることを意味する。
【0016】
角層細胞接着因子の凝集や高分子化とは、タンパク質の分子又は複合体を含む重合集合体を形成することであり、可視的な沈殿物が形成される程度にまで進行することも含む。タンパク質の重合集合体は、単一または複数種のタンパク質からなるものを含み、重合形態は分子間架橋等の共有結合、イオン結合、疎水相互作用、ファンデルワールス力等の非共有結合によるものを含む。凝集・高分子化物、または凝集・高分子化した物質は、上記の状態を示すタンパク質のことであり、例えばタンパク質修飾により角層細胞接着因子の分子量や分子サイズが増大したタンパク質が増加した場合、分子量や分子サイズが増大したタンパク質を凝集・高分子化物ということができる。
【0017】
タンパク質修飾とは、タンパク質に対する様々な化学的修飾であって、例えば角層細胞接着を構成する因子のタンパク質が糖化、カルボニル化またはニトロ化の修飾を受けること等が挙げられる。
【0018】
本発明でいう角層細胞接着因子の構造変化抑制または改善剤とは、少なくとも角層細胞接着因子の構造変化抑制作用又は改善作用のいずれかの作用を有する剤をいう。構造変化の状態により、角層細胞接着因子の構造変化を抑制する抑制剤となる場合もあるし、角層細胞接着因子の構造変化を改善する改善剤となる場合もある。
【0019】
角層細胞接着因子の構造変化の抑制とは、前述の原因により角層細胞接着因子のタンパク質に構造変化が生じることを抑制することであり、分解酵素による角層細胞接着因子の分解を阻害されない状態であることをさす。
【0020】
角層細胞接着因子の構造変化の改善とは、タンパク質の構造変化に起因して分解酵素により角層細胞接着因子が分解されにくい状態から、分解酵素により角層細胞接着因子が分解されやすい状態にすることをさす。例えば、タンパク質修飾による角層細胞接着因子の構造変化の場合であれば、修飾タンパク質またはその構成アミノ酸が消化あるいは切断されて消失するだけでなく、特徴となる官能基において酸化還元、その他の化学反応を受けて特徴となる官能基が異なる官能基や物質に変換されることが含まれ、これらのことにより分解酵素が角層細胞接着因子を分解しやすくなることをさす。
【0021】
本発明で示される角層細胞接着因子は、特に限定されない。角層細胞接着因子としては、デスモソームの構成成分であるDSG1、2、3、4、DSC1、2、3、CDSN、プラコグロビン、プラコフィリン、デスモプラキン1、2等を挙げることができる。
【0022】
角層細胞接着因子の分解酵素も特に限定されない。角層細胞接着因子の分解酵素としては、皮膚で発現するKLK5、KLK7、KLK14等を挙げることができる。
【0023】
本発明に用いられるタラゴン(Artemisia dracunculus)としては、全草を用いることができ、いずれの時期のものでも使用できる。
【0024】
本発明に用いられるオトメユリ(Lilium rubellum)としては、蕾から開花した状態の花弁(外花被、内花被)を用いることができるが、好適には完全に開花した状態の花弁を使用するのが好ましい。もっとも、工業生産上、作業上等の理由により、調製の過程で花弁以外の部分(例えば、花糸、葯、柱頭、花柱、子房、花粉)が多少含まれることは差し支えない。
【0025】
抽出物を得る方法としては公知の方法が利用できる。抽出物の調製は特に限定されないが、例えば上記植物を種々の適当な溶媒を用いて、低温下から加温下で抽出される。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2種以上を用いることが出来る。就中、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコールの1種または2種以上の混合溶媒が特に好適である。
【0026】
本発明に用いることのできる抽出物の抽出方法は特に限定されない。本発明で指定の部位をそのまま乾燥せずに予め裁断して小片にしてから抽出してもよいし、乾燥させてから裁断して小片、もしくは粉砕して粉末状にしてから抽出することができる。例えば生のものであれば重量比で1~100倍量、特に4~20倍量の溶媒を用い、常温抽出の場合には、0℃以上、特に20℃~40℃で1時間以上、特に3~7日間抽出することが好ましい。また、加熱抽出の場合には、60~100℃で1時間以上、特には4時間以上加熱して抽出することが好ましい。また、10℃以下の抽出溶媒が凍結しない程度の温度で、1時間以上、特に1~7日間抽出を行なっても良い。
【0027】
上記の如く得られた抽出物は、効果を損なわない範囲で必要に応じて活性炭又は活性白土、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤(HP-20:三菱化成社製)やオクタデシルシラン処理シリカ(ChromatorexODS:富士シリシア化学製)等により精製することができる。場合によっては、固液分離後の液相を、スプレードライ法、凍結乾燥法等、常法に従って固体化し、さらに必要に応じて粉砕して粉末状とした上で用いてもよい。
【0028】
ここで、本実施形態における抽出物には、植物原体から溶媒を用いて抽出された抽出液、この抽出液の希釈した液もしくは濃縮した液、あるいは抽出液の溶媒を蒸発させて得られた乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製したものが含まれる。
【0029】
また、上記の如く得られた抽出物を本願発明の各剤として用いる場合は、抽出物をそのまま剤としてもよいし、一般的な基剤に抽出物を混合して用いても差し支えない。最終形態として、液状、乳化物状、ゲル状、固形状、粉末状、顆粒状等のどのような形態であっても問題なく、その効果を損なわない範囲で皮膚外用剤に用いられる任意配合成分を必要に応じて適宜配合することができる。前記任意配合成分としては、例えば、油剤、界面活性剤、粉体、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、香料、各種薬効成分、pH調整剤、中和剤などが挙げられる。また、前記最終形態として、例えば、皮膚外用剤であれば、乳液、クリーム、ローション、エッセンス、ジェル、パック、洗顔料等の基礎化粧料、口紅、ファンデーション、リキッドファンデーション、メイクアッププレスドパウダー等のメイクアップ化粧料、洗顔料、ボディーシャンプー、石けん等の清浄用化粧料、さらには浴剤等が挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。
各剤中における抽出物の配合量は、所望の効果に応じて適宜調整すればよいが、乾燥重量に換算して0.0001重量%~100重量%を任意に使用することができる。好ましい配合量としては、0.01重量%~20重量%、更に好ましい配合量としては、0.1重量%~10重量%である。
【0030】
本願における各剤の効果については、薬剤の存在により角層細胞接着因子の構造変化を抑制する割合や改善した割合が高くなれば効果ありと判定することができる。例えば、角層細胞接着因子の構造変化については、分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される現象で説明することができ、薬剤の存在によりその現象を抑制する効果を抑制率で示す場合では、所望する効果の程度により適宜設定すればよいが、概ね20%以上抑制することができれば効果ありと判定することができ、50%以上であれば優れた効果があると判断できる。薬剤の存在により分解酵素による角層細胞接着因子の分解が阻害される現象を改善する効果についても同様である。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り配合量は質量%で示す。
【0032】
<抽出物の調製>
タラゴン(Artemisia dracunculus)の全草 5gに10倍の重量の蒸留水 50gを加えて60℃、4時間加熱抽出した。抽出後、ろ過をして植物原体を取り除いた後蒸発乾固し、固形蒸発残分が1%になるように蒸留水に溶解し、得られた抽出物を被験物質とした。
オトメユリ(Lilium rubellum)の花弁 5gに4倍の重量の50V/V% エタノール水溶液 20gを加えて60℃、4時間加熱抽出した。抽出後、ろ過をして植物原体を取り除いた後蒸発乾固し、固形蒸発残分が1%になるように蒸留水に溶解し、得られた抽出物を被験物質とした。
比較例として、ユリ属のマルコポーロの花弁、テッポウユリの花弁各 5gにそれぞれ4倍の重量の50V/V% エタノール水溶液 20gを加えて60℃、4時間加熱抽出した。抽出後、ろ過をして植物原体を取り除いた後蒸発乾固し、固形蒸発残分が1%になるように蒸留水に溶解し、得られた抽出物を被験物質とした。
【0033】
<活性酸素消去作用試験;DPPH試験>
[DPPH溶液の調製]DPPH溶液は、以下に示す各成分を、(A):(B):(C)=1:4:3容量の割合で混合し調製した。
(A)MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)5.52gを水100mLに溶かし、1N-NaOHでpH6.1に調製した。
(B)DPPH(1,1-ジフェニルー2-ピクリルヒドラジル)15.7mgをエタノール100mLに溶解した。
(C)精製水
[Trolox溶液の調製]Trolox 25mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)10mLに溶解し、10mM溶液を作製した。
[DPPH試験]10μLの被験物質またはTrolox溶液(0.078mM、0.156mM、0.313mM、0.625mM、1.25mM)を96well plateの各well中に加え、次いでDPPH溶液190μLを迅速に加え混合した。10分後、各wellの吸光度を540nmで測定した。Trolox濃度と540nmの吸光度値の検量線を作成し、被験物質の540nmの吸光度から、被験物質のTrolox当量を算出した。
Troloxを1とした場合、活性酸素消去効果が高いと言われているδ-トコフェロールは、1.36を示すといわれているので、Trolox当量が1.0以上であれば、高い活性酸素消去作用であると言える。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より、タラゴン抽出物、マルコポーロ抽出物およびテッポウユリ抽出物は、Trolox当量で2mMよりも高い値を示し、著しく高い活性酸素消去作用が認められた。一方で、同じユリ属のユリであっても、オトメユリ抽出物とマルコポーロ抽出物およびテッポウユリ抽出物におけるTrolox当量は大きく異なり、品種の違いにより性酸素消去作用の強さも異なることが確認された。
【0036】
<タンパク質修飾による角層細胞接着因子の分解阻害を抑制する作用の評価試験>
(1)角層の採取
洗浄料により洗浄したヒト前腕の皮膚からスキンチェッカー(プロモツール)を用いて角層を採取した。
(2)角層のタンパク質修飾抑制
上記にて角層を採取したスキンチェッカーを以下の条件で処理した。
[糖化修飾]
1M D-グルコースと100mM D-リボースの混合液に10%分の蒸留水(コントロールB)もしくは被験物質を加えた。そこに角層を採取したスキンチェッカーを浸して60℃で72時間インキュベートした。その後PBS(Phosphate Buffered Saline)で3回洗浄した。
[カルボニル化修飾]
PBSにアクロレイン(富士フィルム和光純薬)が0.5%となるように溶解した反応液に10%分の蒸留水(コントロールB)もしくは被験物質を加えた。そこに角層を採取したスキンチェッカーを浸して37℃で24時間インキュベートし、その後PBSで3回洗浄した。
[ニトロ化修飾]
1M リン酸緩衝液(pH7.4)に10%分の蒸留水(コントロールB)もしくは被験物質を加えた。そこに角層を採取したスキンチェッカーを浸し、ペルオキシナイトライト溶液(DOJINDO)を100μMになるように添加し、室温で2時間反応させた。その後PBSで3回洗浄した。
(3)角層の分解酵素処理
[KLK5ストック溶液]
Kallikrein 5, Human, Recombinant, Carrier-free(R&D)を25ng/μLとなるようにバッファー(100mM sodium phosphate, 1mM EDTA, pH7.4)に溶解した。
[分解酵素による角層中の細胞接着因子の分解]
KLK5ストック溶液をPBSで10倍に希釈し、それぞれの修飾を施した角層採取スキンチェッカーを浸漬して、37℃で24時間インキュベートした。その後PBSで3回洗浄した。なお、コントロールとして、修飾を施していない角層採取スキンチェッカーにも同様の処理を行った(コントロールC)。
(4)角層の免疫染色
それぞれの処理を行った角層採取スキンチェッカーにPBSで10倍に希釈した1次抗体(anti-Desmoglein 1 mouse monoclonal, Dsg1-P124, supernatant(PROGEN))を加えて、室温で1時間反応させた。PBSで洗浄後、次いで1% BSA/PBS溶液で200倍に希釈した2次抗体(Goat Anti-Mouse IgG H&L (Alexa Fluor(R) 568) preadsorbed(Abcam))を加えて、室温で1時間反応させた。PBSで洗浄後、蛍光顕微鏡(BZ-X700,KEYENCE)にて角層細胞の明視野画像とDSG1の蛍光画像を取得し、画像解析ソフト (ImageJ, open source)で角層細胞の面積およびDSG1蛍光値を計測し、最終的に角層細胞面積当たりのDSG1蛍光値を求めてから抑制率を算出した。
(5)作用の評価
以下の式により、角層におけるタンパク質修飾を抑制することにより、分解酵素による角層細胞接着因子の分解阻害を抑制した割合(抑制率)を算出した。
【0037】
【数1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2に、それぞれのタンパク質修飾よる角層細胞接着因子の分解阻害の抑制率(%)を示す。タラゴン抽出物とオトメユリ抽出物においては、それぞれのタンパク質修飾を抑制することで、タンパク質修飾によって引き起こされる角層細胞接着因子のタンパク質の構造変化、つまりは分解酵素が角層細胞接着因子に十分に機能せずに分解が阻害される現象を抑制する作用が認められ、タラゴン抽出物とオトメユリ抽出物共にいずれのタンパク修飾に対しても分解阻害のほとんどを抑制する著しく高い作用が認められた。一方で、オトメユリと同じユリ属で品種が異なるマルコポーロ抽出物においては、活性酸素消去効果ではタラゴンと同等の高い効果を示したものの、角層におけるタンパク質修飾を抑制し角層細胞接着因子の分解阻害を抑制する作用は認められなかった。また、ユリ属のテッポウユリ抽出物においては、オトメユリ抽出物と同様に、糖化によるタンパク質修飾に対して分解阻害を抑制する著しく高い作用が認められたものの、カルボニル化やニトロ化によるタンパク質修飾に対する分解阻害を抑制する作用は認められなかった。このことから、1種のタンパク質修飾に対して作用を示す場合であっても、全てのタンパク質修飾に対して作用があるわけではないことが確認された。
【0040】
<タンパク質修飾による角層細胞接着因子の分解阻害を改善する作用の評価試験>
(1)角層の採取
洗浄料により洗浄したヒト前腕の皮膚からスキンチェッカー(プロモツール)を用いて角層を採取した。
(2)角層のタンパク質修飾
上記にて角層を採取したスキンチェッカーを以下の条件で処理した。
[糖化修飾]
1M D-グルコースと100mM D-リボースの混合液に角層を採取したスキンチェッカーを浸して60℃で72時間インキュベートし、その後PBS(Phosphate Buffered Saline)で3回洗浄した。
[カルボニル化修飾]
PBSにアクロレイン(富士フィルム和光純薬)が0.5%となるように溶解した反応液に角層を採取したスキンチェッカーを浸して37℃で24時間インキュベートし、その後PBSで3回洗浄した。
[ニトロ化修飾]
1M リン酸緩衝液(pH7.4)に角層を採取したスキンチェッカーを浸し、ペルオキシナイトライト溶液(DOJINDO)を100μMになるように添加し、室温で2時間反応させた。その後PBSで3回洗浄した。
(3)タンパク質修飾を施した角層への被験物質の適用
PBSに10%分の蒸留水(コントロールB)もしくは被験物質を加え、それぞれのタンパク質修飾を施した角層採取スキンチェッカーを浸して37℃で24時間インキュベートした。
(4)角層の分解酵素処理
[KLK5ストック溶液]
Kallikrein 5, Human, Recombinant, Carrier-free(R&D)を25ng/μLとなるようにバッファー(100mM sodium phosphate, 1mM EDTA, pH7.4)に溶解した。
[分解酵素による角層中の細胞接着因子の分解]
KLK5ストック溶液をPBSで10倍に希釈し、それぞれの修飾を施した後に被験物質を適用した角層採取スキンチェッカーを浸漬して、37℃で24時間インキュベートした。その後PBSで3回洗浄した。なお、コントロールとして、修飾も被験物質適用も施していない角層採取スキンチェッカーにも同様の処理を行った(コントロールC)。
(5)角層の免疫染色
それぞれの処理を行った角層採取スキンチェッカーにPBSで10倍に希釈した1次抗体(anti-Desmoglein 1 mouse monoclonal, Dsg1-P124, supernatant(PROGEN))を加えて、室温で1時間反応させた。PBSで洗浄後、次いで1% BSA/PBS溶液で200倍に希釈した2次抗体(Goat Anti-Mouse IgG H&L (Alexa Fluor(R) 568) preadsorbed(Abcam))を加えて、室温で1時間反応させた。PBSで洗浄後、
蛍光顕微鏡(BZ-X700,KEYENCE)にて角層細胞の明視野画像とDSG1の蛍光画像を取得し、画像解析ソフト (ImageJ, open source)で角層細胞の面積およびDSG1蛍光値を計測し、最終的に角層細胞面積当たりのDSG1蛍光値を求めてから改善率を算出した。
(6)作用の評価
以下の式により、分解酵素による角層細胞接着因子の分解阻害を改善した割合(改善率)を算出した。
【0041】
【数2】
【0042】
【表3】
【0043】
表3に、それぞれのタンパク質修飾による角層細胞接着因子の構造変化を改善することにより分解阻害されていた角層細胞接着因子の分解の改善率(%)を示す。タラゴン抽出物とオトメユリ抽出物においては、それぞれのタンパク質修飾に対する改善率は異なるものの、分解阻害を25%以上改善する作用が認められた。これらの結果から、タラゴン抽出物とオトメユリ抽出物には、タンパク質修飾によって引き起こされる角層細胞接着因子のタンパク質の構造変化、つまりは分解酵素が角層細胞接着因子に十分に機能せずに分解が阻害される現象を改善する作用が認められた。一方で、オトメユリと同属他品種のマルコポーロ抽出物およびテッポウユリ抽出物においては、活性酸素消去効果ではタラゴンと同等の高い効果を示したものの、ここではそれぞれのタンパク質修飾に対する改善する作用は認められなかった。
【0044】
角層細胞接着因子の構造の変化を抑制する作用、および改善する作用に関しては、DSG1を指標にした場合であっても他の角層細胞接着因子であるDSC1でも同様の結果が得られる(特許文献1)ことから、本発明に関しても、DSG1に限らず他の角層細胞接着因子においても有効性を発揮すると言える。
【0045】
以下、本発明における各剤の処方例を示す。なお、含有量は質量%である。製法は、常法による。なお、処方は代表例であり、本発明は本処方例に限定されるものではない。また、処方例中の各種抽出物の濃度は乾燥残分としての濃度である。以下の処方においても本願の効果が確認された。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
角層細胞接着因子のタンパク質に構造変化が生じ、このことにより分解酵素による分解が阻害される現象を抑制、もしくは改善することができ、これにより効果的に角層剥離を改善することが期待出来る。