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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128853
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】金属調フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20230907BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20230907BHJP
   C23C 18/48 20060101ALI20230907BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20230907BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20230907BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230907BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/31 A
C23C18/48
B22F9/24 B
B22F9/24 C
B22F9/24 E
B22F9/24 G
B22F9/24 Z
B22F7/04 A
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 N
B22F1/00 P
B22F1/00 R
C22C5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033498
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】赤松 謙祐
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
4K022
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA04
4K017BA05
4K017BA06
4K017BA10
4K017BB02
4K017CA07
4K017CA08
4K017EJ01
4K017EJ02
4K017FB03
4K017FB07
4K018BA20
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC01
4K018HA08
4K018JA21
4K018KA57
4K018KA70
4K022AA15
4K022AA41
4K022AA47
4K022BA01
4K022BA18
4K022BA32
4K022CA15
4K022CA20
4K022CA21
4K022DA01
4K022DB03
4K022DB26
4K022DB28
4K022EA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、高輝度及び優れた電波透過性を両立した金属調フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、樹脂基材と、前記樹脂基材上に形成した金属粒子層とを有する金属調フィルムであって、前記金属粒子層において、金属粒子間には隙間があり、金属粒子がPdとPd以外の少なくとも1種の他の金属を含み、前記金属粒子中のPd含有量が1.6モル%~34.4モル%である金属調フィルム、及びその製造方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、前記樹脂基材上に形成した金属粒子層とを有する金属調フィルムであって、
前記金属粒子層において、金属粒子間には隙間があり、金属粒子がPdとPd以外の少なくとも1種の他の金属を含み、前記金属粒子中のPd含有量が1.6モル%~34.4モル%である、金属調フィルム。
【請求項2】
前記他の金属が、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnから選択される、請求項1に記載の金属調フィルム。
【請求項3】
前記他の金属がAgである、請求項1又は2に記載の金属調フィルム。
【請求項4】
前記樹脂基材がポリイミドである、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属調フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の金属調フィルムの製造方法であって、
金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を準備するステップ1と、
前記金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を、Pdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液で処理して、イオン交換により、前記層にPdイオン及び前記他の金属のイオンを導入するステップ2と、
Pdイオン及び前記他の金属のイオンが導入された層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理して、Pd及び他の金属を含む金属粒子を表面に析出させるステップ3と
を含む、金属調フィルムの製造方法。
【請求項6】
ステップ3の後に熱処理するステップ4をさらに含む、請求項5に記載の金属調フィルムの製造方法。
【請求項7】
ステップ1において、樹脂基材の表面を改質することにより、前記樹脂基材の表面に前記金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を形成する、請求項5又は6に記載の金属調フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属調フィルムは、製品の表面に高輝度の金属光沢を付与し、高級感を与えることができるため、様々な製品に使用されている。金属調フィルムには、使用される製品に応じて種々の特性が必要とされ、このような特性の一つとして電波透過性が挙げられる。例えば、自動車等に搭載されるミリ波レーダーは、ミリ波帯(波長1~10mmの電波)の電波を照射して障害物反射して戻ってくる時間を計測し、障害物との距離を測定する装置である。このミリ波レーダーに金属調フィルムを用いる場合、金属調フィルムには、高輝度及び優れた電波透過性を有することが求められる。
【0003】
電波透過性を有する金属調フィルムとしては、例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)やクロム(Cr)を基材表面に蒸着又はスパッタリングして、成膜したものが広く知られている(特許文献1~3)。また、In、SnやCrに代えて他の金属を用いたものも知られている。例えば、特許文献4には、電波透過性を有する基体と、前記基体の連続面に直接形成された、不連続領域を有するアルミニウム層とを備える電波透過性金属光沢部材が開示されており、金属光沢部材はスパッタリングにより作製されている。また、特許文献5には、基材の表面に無電解めっき工程を経て設けられた、単位面積(1mm)当たり10000個を超える微細金属領域から成る金属被膜であって、互いに隣接する微細金属領域が電気的に隔離されている電磁波透過用金属被膜が開示されており、金属被膜がパラジウム又はパラジウム合金から成るものが開示されている。また、特許文献6には、蒸着、スパッタリングやめっきとは異なる方法で作製した金属調フィルムが開示されている。また、特許文献7には、パラジウム被覆異方性金ナノ粒子を含む組成物が開示されており、これを黒色の呈色剤として使用することが開示されている。
【0004】
特許文献1~3に開示されるようなIn、SnやCrを用いた金属調フィルムは、輝度に制約がある。また、In、SnやCrを用いた金属調フィルムの製造において広く用いられており、特許文献4のアルミニウムを用いた金属調フィルムの製造においても用いられているスパッタリング処理は、真空バッチ処理であるため、コストが高くなる。また、輝度を高めるために金属被膜を厚膜化すると、部分的に連続膜となるため、電波透過性が低下する。また、特許文献5又は6に開示されるような金属調フィルムにおいても、金属調フィルムの用途によっては、金属被膜の輝度をさらに高めることが望まれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-285093号公報
【特許文献2】特開2013-144902号公報
【特許文献3】特開2016-65297号公報
【特許文献4】特開2019-123238号公報
【特許文献5】特開2013-95997号公報
【特許文献6】特開2021-155844号公報
【特許文献7】特開2019-215176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、従来の金属調フィルムの製造方法ではコストが高くなることがあった。また、従来の金属調フィルムでは、金属調フィルムの用途によっては、金属被膜の輝度をさらに高めることが望まれる場合があった。それ故、本発明は、高輝度及び優れた電波透過性を両立した金属調フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、金属粒子にパラジウムを微小量添加することにより、金属被膜の輝度を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)樹脂基材と、前記樹脂基材上に形成した金属粒子層とを有する金属調フィルムであって、前記金属粒子層において、金属粒子間には隙間があり、金属粒子がPdとPd以外の少なくとも1種の他の金属を含み、前記金属粒子中のPd含有量が1.6モル%~34.4モル%である、金属調フィルム。
(2)前記他の金属が、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnから選択される、前記(1)に記載の金属調フィルム。
(3)前記他の金属がAgである、前記(1)又は(2)に記載の金属調フィルム。
(4)前記樹脂基材がポリイミドである、前記(1)~(3)のいずれかに記載の金属調フィルム。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の金属調フィルムの製造方法であって、
金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を準備するステップ1と、
前記金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を、Pdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液で処理して、イオン交換により、前記層にPdイオン及び前記他の金属のイオンを導入するステップ2と、
Pdイオン及び前記他の金属のイオンが導入された層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理して、Pd及び他の金属を含む金属粒子を表面に析出させるステップ3と
を含む、金属調フィルムの製造方法。
(6)ステップ3の後に熱処理するステップ4をさらに含む、前記(5)に記載の金属調フィルムの製造方法。
(7)ステップ1において、樹脂基材の表面を改質することにより、前記樹脂基材の表面に前記金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を形成する、前記(5)又は(6)に記載の金属調フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高輝度及び優れた電波透過性を両立した金属調フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の金属調フィルムの一実施形態の断面模式図を示す。
図2】本発明の金属調フィルムの別の一実施形態の断面模式図を示す。
図3】実施例における、金属粒子のPd含有量と金属調フィルムのL値の関係を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、樹脂基材と、該樹脂基材上に形成した金属粒子層とを有する金属調フィルムに関する。金属粒子層において、金属粒子間には隙間があり、すなわち、金属粒子層は金属粒子の不連続膜である。
【0013】
図1に、本発明の金属調フィルムの一実施形態の断面模式図を示す。金属調フィルム10は、樹脂基材11と、樹脂基材11の表面に形成した金属粒子層12を有する。金属粒子層12において、金属粒子間には隙間がある。また、金属調フィルムは、樹脂基材の両面に金属粒子層を有していてもよい。
【0014】
樹脂基材は、好ましくは絶縁材料からなる。樹脂基材としては、例えば、カルボキシル基及び/又はスルホ基に変換可能な基を有する樹脂を用いることができる。樹脂基材としては、特に限定されずに、例えば、ポリカーボネート、アクリル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート及びABS等を用いることができ、ポリカーボネート、アクリル及びポリイミドが好ましく、ポリイミドがより好ましい。
【0015】
樹脂基材としては、特に限定されずに樹脂フィルムを用いることができる。樹脂基材の厚さは、通常10μm~5mmであり、好ましくは20μm~800μmである。
【0016】
樹脂基材は、その表面にフィルム層を有するものであってもよい。フィルム層を有する金属調フィルムは、例えば、以下で説明する本発明の製造方法の第2実施形態により得られる。
【0017】
図2に、フィルム層を有する金属調フィルムの一実施形態の断面模式図を示す。図2に示されるように、金属調フィルム20は、表面にフィルム層22を有する樹脂基材21と、その上に形成した金属粒子層23を有する。金属調フィルム20は、樹脂基材21と、フィルム層22と、金属粒子層23が下からこの順に積層している。金属粒子層23において、金属粒子間には隙間がある。なお、フィルム層及び金属粒子層は樹脂基材の両面に形成していてもよい。
【0018】
フィルム層は、好ましくは樹脂フィルム層である。樹脂フィルム層を構成する樹脂としては、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有するものを用いることができ、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する樹脂が好ましく、ポリアミック酸、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体がより好ましく、ポリアミック酸が特に好ましい。一実施形態において、フィルム層を構成する樹脂がポリアミック酸である場合、フィルム層は、ポリアミック酸が脱水及び環化してポリイミドに変換された形態であってもよい。
【0019】
一実施形態において、樹脂基材がポリカーボネート又はアクリルであり、フィルム層がポリアミック酸又はポリイミドであることが好ましい。
【0020】
フィルム層の厚さは、通常、樹脂基材の厚さよりも小さく、例えば0.5μm~10μmであり、好ましくは0.5μm~9.0μmであり、より好ましくは0.7μm~1.5μmである。
【0021】
金属粒子層は樹脂基材上に形成している。金属粒子層において、金属粒子は、例えば島状に形成しており、すなわち、金属粒子同士が各々独立しており、各金属粒子間には隙間がある。金属粒子間に隙間があることにより、フィルムが電波透過性を示す。金属粒子は好ましくはその一部が樹脂基材又はその表面のフィルム層の表面に埋まった状態であり、このため、金属粒子は、容易に剥離せず、安定性が高く、金属調フィルムが高耐食性及び高耐候性を有する。
【0022】
金属粒子は、PdとPd以外の少なくとも1種の他の金属を含み、すなわち、PdとPd以外の少なくとも1種の他の金属の合金粒子である。他の金属は、特に限定されずに、例えば、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnであり、高輝度を有するという観点から、好ましくはAg、Al及びCrであり、より好ましくはAgである。
【0023】
金属粒子中のPd含有量は、金属粒子に対して1.6モル%~34.4モル%である。金属粒子中のPd含有量がこの範囲内であると、金属粒子がPdを含まない場合と比較して金属調フィルムのL値が大きくなり、より高輝度となる。金属粒子中のPd含有量は、より高輝度の金属調フィルムが得られるという観点から、好ましくは1.6モル%~22.0モル%であり、より好ましくは1.6モル%~9.6モル%である。金属粒子中のPd含有量は、例えば、金属粒子層を溶媒に溶解させて、金属粒子を構成する金属が溶解した溶液を質量分析して、金属イオンの量を定量し、モル%として算出することにより求めることができる。なお、本発明の金属調フィルムにおいては、Pdは各金属粒子中にほぼ均一に含まれていると考えられる。
【0024】
金属粒子の形状は、特に限定されずに、例えば球状、楕円体状、プレート状、フレーク状、鱗片状、樹枝状、ロッド状、ワイヤー状及び不定形状であってよい。
【0025】
金属粒子は、平均粒径が、通常5nm~200nmであり、好ましくは10nm~200nmであり、より好ましくは10nm~150nmである。金属粒子の平均粒径が5nm~200nmであると、金属粒子が可視光を反射し、且つミリ波を透過することができ、優れた電波透過性を有する。本発明において、金属粒子の平均粒径は、フィルム表面のFE-SEM(5万倍)観察画像により測定した、粒子の長径(最大直径)の数平均粒径をいう。なお、金属粒子が球状の場合には、平均粒径は、金属粒子の直径の数平均粒径をいう。
【0026】
金属粒子層の厚さは、通常5nm~200nmであり、好ましくは10nm~150nmである。
【0027】
金属調フィルムは、L値が、通常75超であり、好ましくは80超であり、より好ましくは85超である。金属調フィルムのL値は、例えば、分光測色計を用いてSCI方式(正反射光込み)にて測定を行い、分光反射率R(λ)を、物体から反射する波長λの分光放射束と完全拡散反射面から反射する波長λの分光放射束との比(JIS Z 8722)によって求め、分光反射率R(λ)を用いて、国際照明委員会(CIE)が規定するCIE1976(L*、a*、b*)表色系の指標値L*を算出することにより決定することができる。
【0028】
本発明は、前記の金属調フィルムの製造方法にも関する。本発明の金属調フィルムの製造方法は、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を準備すること(ステップ1)と、前記金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を、Pdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液で処理して、イオン交換により、前記層にPdイオン及び前記他の金属のイオンを導入すること(ステップ2)と、Pdイオン及び前記他の金属のイオンが導入された層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理して、Pd及び他の金属を含む金属粒子を表面に析出させること(ステップ3)とを含む。本発明の金属調フィルムの製造方法は、ステップ3の後に、Pd及び他の金属を含む金属粒子が表面に析出した樹脂基材を熱処理するステップ4をさらに含んでいてもよい。
【0029】
ステップ1では、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材を準備する。樹脂基材としては、金属調フィルムについて前記のものを用いることができる。
【0030】
ステップ1において、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層を表面に有する樹脂基材は、樹脂基材の表面にこの層を形成することにより準備することができる。金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層の形成は、例えば、樹脂基材の表面を改質することにより行ってもよく(第1実施形態)、また、樹脂基材の表面に、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有するフィルム層を形成することにより行ってもよい(第2実施形態)。すなわち、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層は、樹脂基材に由来する層であってもよく、また、樹脂基材に由来しない新たな層であってもよい。以下、本発明の金属調フィルムの製造方法の第1実施形態及び第2実施形態について説明する。
【0031】
<第1実施形態>
第1実施形態の方法は、樹脂基材の表面を改質することにより、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する層(改質層)を樹脂基材の表面に形成すること(ステップ1)と、改質層を表面に有する樹脂基材を、Pdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液(以下、金属イオン溶液とも記載する)で処理して、イオン交換により、改質層にPdイオン及び前記他の金属のイオンを導入すること(ステップ2)と、Pdイオン及び他の金属のイオンが導入された改質層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理して、Pd及び他の金属を含む金属粒子を表面に析出させて、金属粒子層を形成すること(ステップ3)とを含む。
【0032】
ステップ1では、樹脂基材の表面を改質することにより、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する改質層を樹脂基材の表面に形成する。
【0033】
樹脂基材は、表面を改質できるものであればよく、加水分解可能な官能基を有し、加水分解により、金属イオンとイオン交換可能な官能基を導入することができるものが好ましい。樹脂基材としては、例えば、加水分解により、カルボキシル基及び/又はスルホ基に変換可能な基を有する樹脂を用いることができる。このような樹脂基材として、ポリカーボネート、アクリル、ポリイミド等が挙げられ、官能基密度が高いポリイミドが好ましい。樹脂基材としてポリイミドを用いた場合、加水分解により、基材表面にポリアミック酸層が形成し、金属イオンとイオン交換可能な官能基としてカルボキシル基が生成する。また、樹脂基材として、表面を改質してスルホ基を導入可能な樹脂を用いることもでき、このような樹脂としては、ポリスチレンが挙げられ、例えば、濃硫酸で表面をスルホン化することによりスルホ基を導入することができる。
【0034】
ステップ1において、例えば、アルカリ溶液により樹脂基材の表面を処理して、加水分解により、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有する改質層を形成することができる。
【0035】
アルカリ溶液としては、特に限定されずに、例えば、NaOH、KOH、LiOH、CaO及びCa(OH)等が挙げられ、KOHが好ましい。
【0036】
アルカリ溶液の濃度は、通常1M(mol/l)~100Mであり、好ましくは1M~10Mである。
【0037】
アルカリ溶液による処理条件は、処理温度は、通常15℃~60℃であり、好ましくは25℃~50℃であり、処理時間は、通常10秒~10分であり、好ましくは30秒~5分である。
【0038】
ステップ1において、形成した改質層中の金属イオンとイオン交換可能な官能基の密度は、好ましくは1mol/l~10mol/lであり、より好ましくは5mol/l~8mol/lである。
【0039】
ステップ1において、改質層の厚さは、好ましくは0.5μm~10μmであり、より好ましくは0.7μm~1.5μmである。
【0040】
ステップ2では、改質層を表面に有する樹脂基材を、Pdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液で処理する。この処理により、イオン交換により、改質層中の官能基がPdイオン及び他の金属のイオンで置換され、これらの金属イオンが改質層に導入される。
【0041】
他の金属のイオンは、金属調フィルムについて前記の他の金属のイオンであり、特に限定されずに、例えば、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnのイオンであり、高輝度を有するという観点から、好ましくはAg、Al及びCrのイオンであり、より好ましくはAgイオンである。
【0042】
Pdイオン及び他の金属のイオンを含む溶液は、例えば、Pdイオンを含む化合物の溶液と他の金属のイオンを含む化合物の溶液とを混合すること、Pdイオンを含む化合物の溶液に他の金属のイオンを含む化合物(固体)を添加すること、又は他の金属のイオンを含む化合物の溶液にPdイオンを含む化合物(固体)を添加することによって調製することができる。
【0043】
Pdイオンを含む化合物としては、例えば、Pdイオンの塩及び錯体を用いることができ、特に限定されずに、例えば、Pdイオンの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩及びリン酸塩等や、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジアセテート、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム(II)、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム(II)、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム(II)、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、硝酸テトラアンミンパラジウム(II)等が挙げられるが、硝酸テトラアンミンパラジウムが好ましい。
【0044】
溶液中のPdイオンの濃度は、通常0.002mM~50mMであり、好ましくは0.02mM~20mMである。
【0045】
他の金属のイオンを含む化合物としては、例えば、他の金属のイオンの塩及び錯体を用いることができ、塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩及びリン酸塩等が挙げられる。他の金属のイオンがAgイオンの場合、好ましくは硝酸銀を用いる。
【0046】
溶液中の他の金属のイオンの濃度は、通常1mM~500mMであり、好ましくは50mM~150mMである。
【0047】
溶液中のPdイオンと他の金属のイオンのモル比(Pdイオン:他の金属のイオン)は、得られる金属調フィルムにおいて所定のPd含有量を満たすように選択すればよく、通常1:5~1:500であり、好ましくは1:15~1:500であり、より好ましくは1:90~1:500である。
【0048】
溶液中のPdイオンを含む化合物と他の金属のイオンを含む化合物の質量比は、得られる金属調フィルムにおいて所定のPd含有量を満たすように選択すればよい。例えば、一実施形態において、Pdイオンを含む化合物として硝酸テトラアンミンパラジウムを用い、他の金属のイオンを含む化合物として硝酸銀を用いる場合、溶液中の硝酸テトラアンミンパラジウムと硝酸銀の質量比は、通常1:5~1:300であり、好ましくは1:8~1:300であり、より好ましくは1:50~1:300である。
【0049】
金属イオン溶液による処理は、例えば、金属イオン溶液に樹脂基材を浸漬することによって行うことができる。金属イオン溶液による処理条件は、処理温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは20℃~30℃であり、処理時間は、好ましくは10秒~30分であり、より好ましくは1分~10分である。
【0050】
ステップ3では、Pdイオン及び他の金属のイオンが導入された改質層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理する。この処理により、Pd及び他の金属を含む金属粒子が表面に析出し、金属粒子層を形成した金属調フィルムが得られる。金属イオンは還元剤が存在する表面に拡散し、金属粒子へと還元されるため、得られる金属調フィルムは、樹脂基材と、その上に形成した改質層と、その上に形成した金属粒子層を有する。本発明においては、析出した金属粒子は、各金属粒子の一部が改質層(樹脂基材の表面)に埋まった状態であるため、容易に剥離しない。
【0051】
還元剤としては、特に限定されずに、リン酸系化合物、水素化ホウ素化合物及びヒドラジン誘導体等を挙げることができる。リン酸系化合物としては、次亜リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸等が挙げられる。また、水素化ホウ素化合物としては、メチルヘキサボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、モルホリンボラン、ピリジンアミンボラン、ピペリジンボラン、エチレンジアミンボラン、エチレンジアミンビスボラン、t-ブチルアミンボラン、イミダゾールボラン、メトキシエチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。また、ヒドラジン誘導体としては、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン塩や、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類等のヒドラジン誘導体等を用いることができる。これらの中で、ピラゾール類としては、ピラゾールの他に、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロン等のピラゾール誘導体を用いることができる。また、トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール等を用いることができる。また、ヒドラジド類としては、アジピン酸ヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、カルボヒドラジド等を用いることができる。還元剤は、好ましくはジメチルアミンボラン(DMAB)である。
【0052】
還元剤による処理は、例えば、樹脂基材を還元剤溶液に浸漬することによって行うことができる。還元剤溶液の濃度は、通常0.01mM~100mMであり、好ましくは0.01mM~10mMであり、より好ましくは、0.01mM~1mMであり、特に好ましくは0.01mM~0.5mMである。還元剤による処理条件は、処理温度は、好ましくは10℃~60℃であり、より好ましくは20℃~50℃であり、処理時間は、好ましくは10秒~60分であり、より好ましくは30秒~30分である。このような還元条件を適用することにより、還元剤の使用量を減らしつつ、金属粒子の密着力、耐久性及び耐摩耗性を向上させることができる。
【0053】
第1実施形態の方法は、ステップ3の後に、Pd及び他の金属を含む金属粒子が表面に析出した樹脂基材を熱処理して、改質層を変換するステップ4をさらに含んでいてもよい。一実施形態において、改質層がカルボキシル基及び/又はスルホ基を含む場合、熱処理により、これらの基が脱水される。この実施形態において、熱処理温度は、通常100℃~300℃である。
【0054】
第1実施形態の方法により得られる金属調フィルムは、樹脂基材と、その上に形成した改質層と、その上に形成した金属粒子層を含む。また、ステップ4を行った場合、改質層が樹脂基材へと変換されるため、得られる金属調フィルムは、樹脂基材と、その上に形成した金属粒子層を含む。図1に示される金属調フィルムは、第1実施形態の方法においてステップ1~4を行うことにより得られるものである。前記の通り、図1に示される金属調フィルム10は、樹脂基材11と、樹脂基材11の表面に形成した金属粒子層12を有する。
【0055】
第1実施形態の方法の好ましい態様において、樹脂基材はポリイミドであり、他の金属はAgである。この態様において、本発明の製造方法は、ポリイミド樹脂基材の表面をアルカリ溶液(例えば、KOH)で改質することにより、ポリイミドを加水分解して、カルボキシル基を有するポリアミック酸層を樹脂基材の表面に形成すること(ステップ1)と、ポリアミック酸層を表面に有するポリイミド樹脂基材をPdイオン及びAgイオンを含む溶液で処理して、イオン交換により、カルボキシル基のHをPdイオン及びAgイオンで置換し、Pdイオン及びAgイオンをポリアミック酸層に導入すること(ステップ2)と、Pdイオン及びAgイオンが導入されたポリアミック酸層を表面に有するポリイミド樹脂基材を還元剤(例えば、ジメチルアミンボラン)で処理して、Pd及びAgの合金粒子をポリアミック酸層の表面に析出させること(ステップ3)とを含む。この態様において、ステップ3の後に、熱処理により、ポリアミック酸層をポリイミドに変換するステップ4を行ってもよい。
【0056】
<第2実施形態>
第2実施形態の方法は、樹脂基材の表面に、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有するフィルム層を形成すること(ステップ1)と、フィルム層を表面に有する樹脂基材をPdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液で処理して、イオン交換により、フィルム層にPdイオン及び前記他の金属のイオンを導入すること(ステップ2)と、Pdイオン及び他の金属のイオンが導入されたフィルム層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理して、Pd及び他の金属を含む金属粒子を表面に析出させて、金属粒子層を形成すること(ステップ3)とを含む。
【0057】
樹脂基材としては、特に限定されずに、樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムとしては、透明のフィルムが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート及びアクリル等が挙げられ、ポリカーボネート及びアクリルが好ましい。第2実施形態の方法においては、樹脂基材上に金属イオンとイオン交換可能な官能基を有するフィルム層が形成されるため、樹脂基材は、第1実施形態の方法のように、金属イオンとイオン交換可能な官能基に変換可能な基を有していなくてもよい。
【0058】
フィルム層は、金属イオンとイオン交換可能な官能基を有するものであればよく、例えば、カルボキシル基及び/又はスルホ基を有する樹脂を用いることができる。フィルム層としては、ポリアミック酸、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が好ましく、ポリアミック酸がより好ましい。
【0059】
フィルム層は、例えば、フィルム層を形成するための樹脂の溶液を樹脂基材上に塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより形成することができる。
【0060】
フィルム層の厚さは、通常0.5μm~10μmであり、好ましくは0.7μm~1.5μmである。
【0061】
フィルム層中の金属イオンとイオン交換可能な官能基の密度は、好ましくは1mol/l~10mol/lであり、より好ましくは5mol/l~8mol/lである。
【0062】
金属イオンは、特に限定されずに、例えば、Ag、Al、Au、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Co及びSnのイオンであり、高輝度を有するという観点から、好ましくはAg、Al及びCrのイオンであり、より好ましくはAgイオンである。
【0063】
ステップ2では、フィルム層を表面に有する樹脂基材をPdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液で処理する。この処理により、金属イオンとイオン交換可能な官能基がイオン交換によりPdイオン及び前記他の金属のイオンで置換され、フィルム層にこれらの金属イオンが導入される。
【0064】
ステップ2において使用する金属イオン溶液及びその濃度については第1実施形態の方法について前記の通りである。
【0065】
金属イオン溶液による処理は、例えば、フィルム層を表面に有する樹脂基材をPdイオン及びPd以外の少なくとも1種の他の金属のイオンを含む溶液に浸漬することによって行うことができる。この溶液による処理条件は、処理温度は、好ましくは10℃~50℃であり、より好ましくは20℃~30℃であり、処理時間は、好ましくは1分~60分であり、より好ましくは15分~45分である。
【0066】
ステップ3では、Pdイオン及び他の金属のイオンが導入されたフィルム層を表面に有する樹脂基材を還元剤で処理する。この処理により、Pd及び他の金属を含む金属粒子が表面に析出し、金属粒子層を形成した金属調フィルムが得られる。Pdイオン及び他の金属のイオンは還元剤が存在する表面に拡散し、金属粒子へと還元されるため、得られる金属調フィルムは、樹脂基材と、その上に形成したフィルム層と、その上に形成した金属粒子層を有する。本発明においては、析出した金属粒子は、各金属粒子の一部がフィルム層に埋まった状態であるため、容易に剥離しない。
【0067】
ステップ3において使用する還元剤については第1実施形態の方法について前記の通りである。
【0068】
還元剤による処理は、例えば、樹脂基材を還元剤溶液に浸漬することによって行うことができる。還元剤の濃度は、好ましくは0.01mM~100mMであり、より好ましくは0.01mM~50mMである。還元剤による処理条件は、処理温度は、好ましくは25℃~60℃であり、より好ましくは40℃~60℃であり、処理時間は、好ましくは1分~60分であり、より好ましくは5分~30分である。
【0069】
第2実施形態の方法は、ステップ3の後に、Pd及び他の金属を含む金属粒子がフィルム層の表面に析出した樹脂基材を熱処理して、フィルム層を変換するステップ4をさらに含んでいてもよい。一実施形態において、フィルム層がカルボキシル基及び/又はスルホ基を含む場合、熱処理により、これらの基が脱水される。この実施形態において、熱処理温度は、通常100℃~300℃である。
【0070】
第2実施形態の方法により得られる金属調フィルムは、樹脂基材と、その上に形成したフィルム層と、その上に形成した金属粒子層を含む。図2に示される金属調フィルムは第2実施形態の方法により得られるものである。前記の通り、図2に示される金属調フィルム20は、表面にフィルム層22を有する樹脂基材21と、その上に形成した金属粒子層23を有する。
【0071】
第2実施形態の方法の好ましい態様において、樹脂基材はポリカーボネート又はアクリルであり、フィルム層はポリアミック酸であり、他の金属はAgである。この態様において、本発明の製造方法は、ポリカーボネート又はアクリル樹脂基材の表面にポリアミック酸からなるフィルム層を形成すること(ステップ1)と、フィルム層を表面に有する樹脂基材をPdイオン及びAgイオンを含む溶液で処理して、イオン交換により、カルボキシル基のHをPdイオン及びAgイオンで置換して、フィルム層にPdイオン及びAgイオンを導入すること(ステップ2)と、Pdイオン及びAgイオンが導入されたフィルム層を表面に有する樹脂基材を還元剤(例えば、ジメチルアミンボラン)で処理して、Pd及びAgを含む合金粒子をフィルム層の表面に析出させること(ステップ3)とを含む。この態様において、ステップ3の後に、熱処理により、フィルム層のポリアミック酸をポリイミドに変換するステップ4を行ってもよい。
【0072】
本発明の金属調フィルムは、高輝度及び電波透過性を両立することができるため、電波透過性が必要な製品用の金属調フィルムとして好適に用いることができる。
【実施例0073】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1
樹脂基材として、厚さ50μmのポリイミドフィルム(東レデュポン製、カプトン200H)を使用した。ポリイミドフィルムのサイズは、5cm×5cmとした。
【0075】
ポリイミドフィルムを5MのKOH溶液に40℃で1分間浸漬して、ポリイミドフィルムの表面を加水分解して、ポリアミック酸層を形成した。
【0076】
硝酸銀(AgNO)(ナカライテスク社製 31018-14)を純水に溶解して、100mMの硝酸銀溶液を調製した。調製した硝酸銀溶液に、PdとAgのモル比(Pd:Ag)が1:10となるように硝酸テトラアンミンパラジウム水溶液を添加し、硝酸テトラアンミンパラジウムと硝酸銀の混合溶液を作製した。フィルムを水洗した後、調製した混合溶液にフィルムを室温で5分間浸漬して、イオン交換により、ポリアミック酸層にAgイオン及びPdイオンを導入した。
【0077】
ジメチルアミンボラン(DMAB)(Wako製 028-08401)を純水に溶解して、0.1mMのDMAB溶液を調製した。フィルムを水洗した後、DMAB溶液に30℃で10分間浸漬して、Agイオン及びPdイオンを還元して、Ag及びPdの合金粒子をポリイミドフィルムの表面に析出させた。フィルムを水洗し、200℃で熱処理をして、ポリアミック酸をポリイミドに変換し、金属調フィルムを得た。この金属調フィルムの表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、金属調フィルムの断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察したところ、ポリイミドフィルムの表面には、Ag及びPdの合金粒子が島状に析出しており、各粒子間には隙間があった。
【0078】
実施例2~5
表1に示すPdとAgのモル比を有する、硝酸テトラアンミンパラジウムと硝酸銀の混合溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2~5の金属調フィルムを得た。
【0079】
比較例1
硝酸テトラアンミンパラジウムと硝酸銀の混合溶液を100mMの硝酸銀溶液に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の金属調フィルムを得た。比較例1では、ポリイミドフィルムの表面にAg粒子の層を有する金属調フィルムが得られた。
【0080】
実施例1~5及び比較例1の金属調フィルムについて、以下の測定を行った。
【0081】
Pd含有量
金属粒子中のPd含有量を以下のようにして測定した。まず、金属調フィルムを硝酸に浸漬させて、AgとPdを硝酸中に溶解させた。AgとPdが溶解した硝酸溶液を誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry; ICP-MS)にて分析し、AgとPd2+の量を定量し、これらの結果から金属粒子中のPd含有量(モル%)を算出した。
【0082】
色差
金属調フィルムの初期色彩L(すなわちL*)を以下のようにして測定した。分光反射率R(λ)を、物体から反射する波長λの分光放射束と完全拡散反射面から反射する波長λの分光放射束との比(JIS Z 8722)によって求めた。分光測色計として、村上色彩技術研究所製のCMS-35SPを用い、SCI方式(正反射光込み)にて測定を行った。計算した分光反射率R(λ)を用いて、国際照明委員会(CIE)が規定するCIE1976(L*、a*、b*)表色系の各指標値L*、a*、b*を算出した。ここで、L値は色の明度を記述する指標であり、L値が大きいほど色が明るいことを示す。
【0083】
ミリ波減衰量
金属調フィルムのミリ波減衰量を測定して、ミリ波透過性を評価した。ミリ波減衰量は、ホーンアンテナを有するミリ波特性測定装置を用いて、一方向減衰量測定を行い、得られた測定値を2倍にすることで求めた。具体的には、送信側のホーンアンテナからミリ波を測定サンプルに照射し、サンプルを通過して受信側のホーンアンテナに入射するミリ波の強度を測定して、一方向の減衰量を決定した。送信側と受信側のホーンアンテナ間の距離は95cmとした。サンプルは、送信側のホーンアンテナに対する仰角を17°とし、サンプルと送信側のホーンアンテナ間の距離を約40mmとして設置した。測定は、車載用のミリ波レーダーの適用周波数である77GHzで行った。
【0084】
表1に実施例1~5及び比較例1の金属調フィルムの測定結果(Pd含有量、L値、ミリ波減衰量)を示す。また、図3に、金属粒子のPd含有量と金属調フィルムのL値の関係を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるように、金属粒子がPdを含有する実施例1~5の金属調フィルムは、金属粒子がPdを含有していない比較例1の金属調フィルムと比較して、同等の優れた電波透過性を有しつつ、L値がより大きく、高輝度であった。実施例1~5の金属調フィルムでは、AgとPdの合金粒子とすることによって、粒子の結晶性が高くなり、粒子表面で光の全反射が起きやすくなり、高輝度となったと考えられる。また、表1及び図3に示されるように、Pdを微小量添加することで金属調フィルムのL値を著しく向上させることができた。さらに、図3に示されるように、金属粒子中のPd含有量と金属調フィルムのL値には一次の相関があり、Pd含有量が高くなると金属調フィルムのL値が低下する傾向があった。図3に示されるように、金属粒子中のPd含有量が34.4モル%以下であると、金属調フィルムのL値が75超となり、Pd非含有の比較例1のL値を超えた。また、金属粒子中のPd含有量が22モル%以下であると、金属調フィルムのL値が80超となり、金属粒子中のPd含有量が9.6モル%以下であると、金属調フィルムのL値が85超となり、より高輝度の金属調フィルムが得られた。
【符号の説明】
【0087】
10:金属調フィルム、11:樹脂基材、12:金属粒子層
20:金属調フィルム、21:樹脂基材、22:フィルム層、23:金属粒子層
図1
図2
図3