(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128867
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20230907BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20230907BHJP
【FI】
G01R33/09
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033515
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】519062764
【氏名又は名称】スピンセンシングファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静似
(72)【発明者】
【氏名】藤原 耕輔
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AB07
2G017AD55
5F092AA20
5F092AB01
5F092AC12
5F092BB04
5F092BB10
5F092BB15
5F092BB17
5F092BB23
5F092BB34
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB42
5F092BB43
5F092BB53
5F092BC03
5F092BC08
5F092BC13
(57)【要約】
【課題】素子単体でさらにノイズを低減することができる磁気センサを提供する。
【解決手段】磁気抵抗効果素子が、磁化方向が固定されている参照層15と、磁化方向が変化可能な自由層13と、参照層15と自由層13との間に配置された障壁層14とを有している。自由層13は、非磁性体から成る第1磁気分断層21と、第1磁気分断層21の両側にそれぞれ積層して配置された1対の細分化層22とを有している。各細分化層22は、磁化方向が変化可能で互いに反平行である2つの磁性層22aと、非磁性体から成り、各磁性層22aが静磁結合するよう、各磁性層22aの間に配置された第2磁気分断層22bとを有している。第1磁気分断層21は、その両側に配置された2つの磁性層22aが静磁結合するよう設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子を利用した磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定されている参照層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記参照層と前記自由層との間に配置された障壁層とを有し、
前記自由層は、非磁性体から成る第1磁気分断層と、前記第1磁気分断層の両側にそれぞれ積層して配置された1対の細分化層とを有し、各細分化層は、磁化方向が変化可能で互いに反平行である2つの磁性層と、非磁性体から成り、各磁性層が静磁結合するよう、各磁性層の間に配置された第2磁気分断層とを有し、前記第1磁気分断層は、その両側に配置された2つの磁性層が静磁結合するよう設けられていることを
特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
磁気抵抗効果素子を利用した磁気センサであって、
前記磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定されている参照層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記参照層と前記自由層との間に配置された障壁層とを有し、
前記自由層は、非磁性体から成る第1磁気分断層と、前記第1磁気分断層の両側にそれぞれ同じ数だけ積層して配置された複数対の細分化層と、前記第1磁気分断層の両側で各細分化層の間に配置された複数の第3磁気分断層とを有し、各細分化層は、磁化方向が変化可能で互いに反平行である2つの磁性層と、非磁性体から成り、各磁性層が静磁結合するよう、各磁性層の間に配置された第2磁気分断層とを有し、前記第1磁気分断層は、その両側に配置された2つの磁性層が静磁結合するよう設けられ、前記第3磁気分断層は、その両側に配置された2つの磁性層が静磁結合するよう設けられていることを
特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
前記第1磁気分断層の層厚が、前記第2磁気分断層の層厚よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記第1磁気分断層の層厚が、前記第2磁気分断層および前記第3磁気分断層の層厚よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記第1磁気分断層の層厚が、2nm乃至12nmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気抵抗効果素子を利用した磁気センサとして、例えばトンネル磁気抵抗(TMR)素子のTMR効果等を利用したMRセンサ(磁気抵抗センサ)がある。TMR素子を利用した磁気センサの感度は、TMR比/2Hkで定義され、感度を高めるためには、TMR比の改善や、Hkの低減が有効である。なお、Hkは、TMR素子の自由層の異方性磁場であり、TMR素子を磁気センサとして使用する場合には、磁気センサのダイナミックレンジとなる。
【0003】
本発明者等により、TMR素子を利用した高感度の磁気センサが開発されている(例えば、非特許文献1または2参照)。しかし、磁気抵抗効果素子では、磁性体から成る自由層内の静磁エネルギーを小さくするために、自由層内に磁化方向が異なる複数の磁区が形成され、その磁区同士の境界領域(磁壁)が熱で揺らぐことにより、低周波領域で1/fノイズ等のノイズが発生するという問題があった。
【0004】
そこで、本発明者等は、素子単体でノイズを低減できるものとして、自由層が、磁化方向が変化可能な複数の磁性層と、非磁性体から成る1または複数の挿入層とを有し、いくつかの磁性層の磁化方向が同じ方向であり、残りの磁性層の磁化方向がそれとは反平行であり、隣り合う磁性層が静磁結合するよう、各磁性層の間に挿入層を挟んで、磁性層と挿入層とを交互に積層して成る磁気センサを開発している(例えば、特許文献1参照)。この磁気センサでは、各磁性層が挿入層を挟んで静磁結合しているため、各磁性層の内部に複数の磁区が形成されるのを抑制して、磁区形成による低周波領域のノイズの発生を抑えることができ、素子単体でノイズを低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. Fujiwara, M. Oogane, S. Yokota, T. Nishikawa, H. Naganuma, and Y. Ando, “Fabrication of magnetic tunnel junctions with a bottom synthetic antiferro-coupled free layers for high sensitive magnetic field sensor device”, J. Appl. Phys., 2012, 111, 07C710.
【非特許文献2】D. Kato, M. Oogane, K. Fujiwara, T. Nishikawa, H. Naganuma, and Y. Ando, “Fabrication of Magnetic Tunnel Junctions with Amorphous CoFeSiB Ferromagnetic Electrode for Magnetic Field Sensor Devices”, Appl. Phys. Express, 2013, 6, 103004
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の磁気センサでは、各磁性層の内部に複数の磁区が形成されるのを抑制し、ノイズを低減することができるが、よりノイズが小さい磁気センサの開発が期待されている。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、素子単体でさらにノイズを低減することができる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁気センサは、磁気抵抗効果素子を利用した磁気センサであって、前記磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定されている参照層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記参照層と前記自由層との間に配置された障壁層とを有し、前記自由層は、非磁性体から成る第1磁気分断層と、前記第1磁気分断層の両側にそれぞれ積層して配置された1対の細分化層とを有し、各細分化層は、磁化方向が変化可能で互いに反平行である2つの磁性層と、非磁性体から成り、各磁性層が静磁結合するよう、各磁性層の間に配置された第2磁気分断層とを有し、前記第1磁気分断層は、その両側に配置された2つの磁性層が静磁結合するよう設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る磁気センサは、非磁性体から成る第1磁気分断層の両側に1対の細分化層が配置されており、第1磁気分断層を挟む2つの磁性層だけでなく、各細分化層中の第2磁気分断層を挟む2つの磁性層も静磁結合しているため、各磁性層の内部に複数の磁区が形成されるのを抑制し、素子単体でノイズを低減することができる。特に、第1磁気分断層の両側に各細分化層が対称に配置されているため、さらに効果的にノイズを低減することができる。
【0011】
本発明に係る磁気センサは、第1磁気分断層の両側に1対の細分化層が配置される場合に限らず、第1磁気分断層の両側に複数対の細分化層が配置されていてもよい。この場合、第1磁気分断層の両側で各細分化層の間に配置された複数の第3磁気分断層を有し、第3磁気分断層は、その両側に配置された2つの磁性層が静磁結合するよう設けられていることが好ましい。これにより、第3磁気分断層を挟む2つの磁性層も静磁結合しているため、各磁性層の内部に複数の磁区が形成されるのを抑制し、ノイズを低減することができる。また、この場合も、第1磁気分断層の両側に各細分化層が対称に配置されているため、素子単体でさらに効果的にノイズを低減することができる。
【0012】
本発明に係る磁気センサで、第1磁気分断層、第2磁気分断層および第3磁気分断層は、それらを挟む磁性層がRKKY相互作用の結合ではなく、静磁気的な結合をする必要があるため、層厚が2nm以上であることが好ましい。さらに、第1磁気分断層、第2磁気分断層および第3磁気分断層は、それらを挟む磁性層の磁気秩序を分断可能な層厚を有していることが好ましい。特に、より効果的にノイズを低減するために、第1磁気分断層は、それを挟む磁性層の磁気秩序を確実に分断し、第2磁気分断層および第3磁気分断層は、それらを挟む磁性層を確実に静磁結合することが好ましい。このため、細分化層が1対のときには、前記第1磁気分断層の層厚が、前記第2磁気分断層の層厚よりも大きく、細分化層が複数対のときには、前記第1磁気分断層の層厚が、前記第2磁気分断層および前記第3磁気分断層の層厚よりも大きいことが好ましい。第1磁気分断層は、それを挟む磁性層を静磁結合しつつ、それを挟む磁性層の磁気秩序を確実に分断するために、層厚が2nm乃至50nmであることが好ましく、特に8nm以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る磁気センサで、参照層、障壁層、自由層の各磁性層、第1磁気分断層、第2磁気分断層および第3磁気分断層は、感度が高くなる材料であることが好ましい。例えば、自由層の各磁性層は、軟磁性材料のNiFeや、CoFeSiB、FeCuNbSiB等から成り、第1磁気分断層、第2磁気分断層および第3磁気分断層は、RuやTa、TaBから成り、障壁層は、MgO、Mg-Al-O、AlOx等から成ることが好ましい。
【0014】
本発明に係る磁気センサは、各磁性層の磁化の強さの和がほぼゼロになるよう構成されていることが好ましい。また、本発明に係る磁気センサは、磁気抵抗効果素子を1つ有していてもよく、複数有していてもよい。複数有する場合には、磁気抵抗効果素子がアレイを構成していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、素子単体でさらにノイズを低減することができる磁気センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態の磁気センサの縦断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態の磁気センサの、挿入結合層および結合磁性層以外の自由層の変形例を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態の磁気センサに対する比較例(比較例1)の磁気センサの、(a)挿入結合層および結合磁性層以外の自由層の縦断面図、(b)ゼロ磁場での結合磁性層の表面の磁気光学カー効果を示す顕微鏡写真(図中の矢印は、予想される磁化方向)である。
【
図4】本発明の実施の形態の磁気センサに対する他の比較例(比較例2)の磁気センサの、(a)挿入結合層および結合磁性層以外の自由層の縦断面図、(b)ゼロ磁場での結合磁性層の表面の磁気光学カー効果を示す顕微鏡写真(図中の矢印は、予想される磁化方向)である。
【
図5】
図1に示す磁気センサの、(a)挿入結合層および結合磁性層以外の自由層の縦断面図、(b)ゼロ磁場での結合磁性層の表面の磁気光学カー効果を示す顕微鏡写真(図中の矢印は、予想される磁化方向)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図5は、本発明の実施の形態の磁気センサを示している。
図1に示すように、磁気センサ10は、磁気抵抗効果素子から成り、基板11とバッファ層12と自由層13と障壁層14と参照層15とキャップ層16とを有している。
【0018】
磁気センサ10は、基板11の上に、バッファ層12、自由層13、障壁層14、参照層15、キャップ層16の順番で積層して形成されている。基板11は、SiウエハやSOIウエハから成っている。バッファ層12は、基板11と自由層13との格子不整合を緩和するために、基板11の上に配置されている。バッファ層12は、例えば、Ta、Ru、Cr、TaB等、もしくはそれらの積層構造から成っている。
【0019】
自由層13は、バッファ層12の上に配置されており、非磁性体から成る第1磁気分断層21と、1対の細分化層22と、非磁性体から成る挿入結合層23と、結合磁性層24とを有している。各細分化層22は、第1磁気分断層21の両側に配置され、2つの磁性層22aと、非磁性体から成る第2磁気分断層22bとを有している。各磁性層22aは、軟磁性体から成り、磁化方向が変化可能になっている。各細分化層22の2つの磁性層22aは、それぞれの磁化方向が互いに反平行を成しており、外部からの磁束の影響を受けて、層の表面に平行な方向で変化可能になっている。各磁性層22aは、例えば、層厚が20nm以上であり、軟質磁性材料のCoFeSiBアモルファスや、軟磁性材料のNiFe等から成っている。第2磁気分断層22bは、各磁性層22aの間に配置されている。
【0020】
第1磁気分断層21は、その両側に配置された各細分化層22の、それぞれ第1磁気分断層21の側に配置された2つの磁性層22aが静磁結合するよう設けられている。また、第2磁気分断層22bは、両側の各磁性層22aが静磁結合するよう設けられている。第1磁気分断層21および第2磁気分断層22bは、それらを挟む磁性層22aが、RKKY相互作用を発現せず、静磁結合可能な層厚を有していることが好ましい。さらに、第1磁気分断層21および第2磁気分断層22bは、それらを挟む磁性層22aの磁気秩序を分断可能な層厚を有していることが好ましい。特に、第1磁気分断層21は、それを挟む2つの磁性層22aの磁気秩序を確実に分断し、第2磁気分断層22bは、それを挟む2つの磁性層22aを確実に静磁結合することが好ましい。このため、第1磁気分断層21の層厚が、第2磁気分断層22bの層厚よりも大きくなっていてもよい。
【0021】
第1磁気分断層21および第2磁気分断層22bは、例えば、Ru、Ta、TaBから成っている。また、第1磁気分断層21および第2磁気分断層22bは、例えば、層厚が2nm乃至50nmであり、特に、第1磁気分断層21の層厚が8nm乃至12nmであり、第2磁気分断層22bの層厚が2nm乃至5nmであることが好ましい。
【0022】
挿入結合層23は、一方の細分化層22の第1磁気分断層とは反対側に配置されている。結合磁性層24は、挿入結合層23の一方の細分化層22とは反対側に配置されている。結合磁性層24は、強磁性体から成り、磁化方向が層の表面に平行な方向で変化可能に構成されている。結合磁性層24は、その磁化方向が、一方の細分化層22の各磁性層22aのうち、挿入結合層23の側の磁性層22aの磁化方向に対して反平行の状態を維持するよう、その磁性層22aの磁化方向の変化に追従して変化可能に構成されている。
【0023】
挿入結合層23は、例えばRuまたはTaから成り、結合磁性層24の磁化方向が、結合磁性層24とは反対側の磁性層22aの磁化方向の変化に追従して変化できる層厚を有している。挿入結合層23の層厚は、例えば、1.5nm以下である。また、結合磁性層24は、例えばCoFeBから成り、その体積が、自由層13の各磁性層22aを合わせた体積と比べて、十分に小さくなるような層厚を有している。
【0024】
自由層13は、バッファ層12の上に、他方の細分化層22、第1磁気分断層21、一方の細分化層22、挿入結合層23、結合磁性層24の順番で積層して形成されている。
【0025】
障壁層14は、絶縁材料から成り、バッファ層12とは反対側の自由層13の上、すなわち結合磁性層24の挿入結合層23とは反対側に配置されている。障壁層14は、例えば、MgO、Mg-Al-O、AlOx等から成り、層厚が1nm~5nm程度である。
【0026】
参照層15は、強磁性体から成り、自由層13とは反対側の障壁層14の上に配置されている。参照層15は、磁化方向が層の表面に平行な方向で固定されている。なお、自由層13の各磁性層22aは、磁化方向が、参照層15の磁化方向に対して垂直な方向から、反対向きの垂直な方向までの間で変化可能になっている。参照層15は、例えばCoFeBから成っている。
【0027】
キャップ層16は、参照層15の磁化を固定するために、障壁層14とは反対側の参照層15の上に配置されている。キャップ層16は、例えば、IrMn、PtMn、FeMnなどの反強磁性体から成っている。また、キャップ層16は、参照層15の上部にRu等からなる結合層を設け、その上にCoFe等の参照用磁性層を配置し、さらにその上にIrMn、PtMn、FeMnなどの反強磁性体を設けた構造としてもよい。
【0028】
次に、作用について説明する。
磁気センサ10は、非磁性体から成る第1磁気分断層21の両側に1対の細分化層22が配置されており、第1磁気分断層21を挟む2つの磁性層22aだけでなく、各細分化層22中の第2磁気分断層22bを挟む2つの磁性層22aも静磁結合しているため、各磁性層22aの内部に複数の磁区が形成されるのを抑制し、素子単体でノイズを低減することができる。特に、第1磁気分断層21に関して、その両側に各細分化層22が対称に配置されているため、さらに効果的にノイズを低減することができる。
【0029】
なお、
図2に示すように、磁気センサ10は、自由層13が、第1磁気分断層21の両側にそれぞれ同じ数だけ積層して配置された複数対の細分化層22を有していてもよい。
図2は、細分化層22を2対有する場合であるが、細分化層22を3対以上有していてもよい。この場合、第1磁気分断層21の両側で各細分化層22の間に配置された複数の第3磁気分断層25を有し、第3磁気分断層25は、その両側に配置された各細分化層22の、それぞれ第3磁気分断層25の側に配置された2つの磁性層22aが静磁結合するよう設けられている。これにより、第3磁気分断層25を挟む2つの磁性層22aも静磁結合しているため、各磁性層22aの内部に複数の磁区が形成されるのを抑制し、ノイズを低減することができる。また、この場合も、第1磁気分断層21に関して、その両側に各細分化層22が対称に配置されているため、素子単体でさらに効果的にノイズを低減することができる。
【0030】
また、この場合、第3磁気分断層25は、それらを挟む磁性層22aが、RKKY相互作用を発現せず、静磁結合可能な層厚を有していることが好ましい。さらに、第3磁気分断層25は、それらを挟む磁性層22aの磁気秩序を確実に分断可能な層厚を有していることが好ましい。このため、第3磁気分断層25の層厚は、第1磁気分断層21の層厚よりも小さく、第2磁気分断層22bの層厚と同じ程度であることが好ましい。第3磁気分断層25は、例えば、RuまたはTaから成っている。また、第3磁気分断層25は、例えば、層厚が2nm乃至12nmであり、特に層厚が2nm乃至5nmであることが好ましい。
【実施例0031】
図1に示す磁気センサ10(以下、本発明の磁気センサ10)を製造し、顕微鏡により磁気光学カー効果の観察を行った。また、比較例として、
図3(a)に示すように、自由層13が、1対または複数対の細分化層22を有さず、挿入結合層23および結合磁性層24の他に、1層の強磁性層31のみから成る構造の場合(以下、比較例1)と、
図4(a)に示すように、磁気分断層32と、その両側に配置された1対の強磁性層31から成る構造の場合(比較例2)についても、同様に磁気光学カー効果の観察を行った。
【0032】
まず、マグネトロンスパッタリングを用いて、基板11の上に各層を成膜し、本発明の磁気センサ10、ならびに、比較例1および2の磁気センサを製造した。本発明の磁気センサ10は、
図5(a)に示すように、自由層13の第1磁気分断層21が、層厚10nmのRu層から成り、自由層13の各細分化層22の第2磁気分断層22bが、層厚2.5nmのRu層から成り、各細分化層22の各磁性層22aが、層厚25nmのCo
70.5Fe
4.5Si
15B
10のアモルファス層から成っている。また、比較例1は、
図3(a)に示すように、自由層13の強磁性層31が、層厚70nmのCo
70.5Fe
4.5Si
15B
10のアモルファス層から成っている。また、比較例2は、
図4(a)に示すように、自由層13の磁気分断層32が、層厚10nmのRu層から成り、自由層13の各強磁性層31が、層厚50nmのCo
70.5Fe
4.5Si
15B
10のアモルファス層から成っている。
【0033】
また、本発明の磁気センサ10、ならびに、比較例1および2の磁気センサはいずれも、基板11が、熱酸化膜付きSiウエハから成り、バッファ層12が、層厚5nmのTa層から成り、自由層13の挿入結合層23が、層厚0.4nmのRu層から成り、自由層13の結合磁性層24が、層厚3nmのCoFeB層から成り、障壁層14が、層厚2nmのMgO層から成り、参照層15が、層厚3nmのCoFeB層から成り、キャップ層16が、層厚0.9nmのRu層、層厚2nmのCoFe層、および層厚10nmのIrMn層から成っている。
【0034】
図3(a)に示す比較例1、
図4(a)に示す比較例2、および
図5(a)に示す本発明の磁気センサ10の、ゼロ磁場での自由層13の表面(結合磁性層24の表面)の、磁気光学カー効果の顕微鏡写真を、それぞれ
図3(b)、
図4(b)および
図5(b)に示す。なお、各図中の矢印は、予想される磁化方向を示している。また、図中の磁場は、各図の横方向(右向きがプラス)に印加されている外部磁場の大きさを示している。
【0035】
図3(b)に示すように、自由層13の強磁性層31が1つである比較例1では、結合磁性層24内に濃淡が認められ、磁化方向が異なる複数の磁区が形成されていることが確認された。また、
図4(b)に示すように、自由層13の強磁性層31が2つである比較例2では、結合磁性層24の大部分が同じ濃さであるが、一部に薄い部分が認められ、磁化方向が異なる小さい磁区が形成されていることが確認された。これに対し、
図5(b)に示すように、本発明の磁気センサ10では、結合磁性層24内に濃淡が認められず、複数の磁区の形成は確認されなかった。このように、本発明の磁気センサ10では、複数の磁区の形成が抑制されており、素子単体でノイズを低減することができるといえる。