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特開2023-128906もろみ、アルコール飲料及びこれらの製造方法
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  • 特開-もろみ、アルコール飲料及びこれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128906
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】もろみ、アルコール飲料及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20190101AFI20230907BHJP
   C12H 6/02 20190101ALI20230907BHJP
【FI】
C12G3/02
C12H6/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033584
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000110918
【氏名又は名称】ニッカウヰスキー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】小路 博志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 利和
(72)【発明者】
【氏名】坊 正樹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 健一郎
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115AG04
4B115AG17
4B115NB01
4B115NB02
4B115NG02
4B115NG03
4B115NG04
4B115NG17
(57)【要約】
【課題】デンプン原料として、蒸きょうすることで糊化した穀類を使用する場合でも、原料の溶解性及び発酵性に優れ、アルコール濃度が高く、原料由来の香味に富んだアルコール飲料を得ることができるもろみを提供すること。
【解決手段】デンプン原料と糖化酵素源と酵母と水分とを含んで成る原料混合物の発酵物である、アルコール飲料を製造するためのもろみであって、該デンプン原料は、穀類の蒸きょうされた穀粒の粉砕物を含むもろみ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン原料と糖化酵素源と酵母と水分とを含んで成る原料混合物の発酵物である、アルコール飲料を製造するためのもろみであって、
該デンプン原料は、穀類の蒸きょうされた穀粒の粉砕物を含むもろみ。
【請求項2】
前記蒸きょうされた穀粒は、浸水され、蒸きょうされた穀粒を含む、請求項1に記載の記載のもろみ。
【請求項3】
前記蒸きょうされた穀粒は、102~150%の含水率を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項4】
前記粉砕物は0.3~3.5mmの平均粒径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項5】
前記穀類は、トウモロコシ、大麦及びライ麦からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項6】
前記酵母はウイスキー酵母を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項7】
前記糖化酵素源は麦芽を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項8】
前記糖化酵素源は麹を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項9】
前記もろみが並行複発酵物である、請求項1~8のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項10】
前記アルコール飲料は蒸留酒を含む請求項1~9のいずれか一項に記載のもろみ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のもろみの蒸留物を含むアルコール飲料。
【請求項12】
穀類の穀粒を蒸きょうする工程;
蒸きょうされた穀粒を粉砕する工程;
蒸きょうされた穀粒の粉砕物と糖化酵素源と酵母と水分とを含んで成る原料混合物を得る工程;及び
原料混合物を発酵させる工程;
を包含する、アルコール飲料を製造するためのもろみの製造方法。
【請求項13】
穀類の穀粒を蒸きょうする工程の前に、穀類の穀粒を浸水させる工程を包含する、請求項12に記載のもろみの製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法で得られるもろみを蒸留する工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。
【請求項15】
穀類の穀粒を蒸きょうする工程;
蒸きょうされた穀粒を粉砕する工程;
穀類の蒸きょう粉砕物に酵素源を加えて資化性糖を生成させる工程;及び
得られる糖化物に酵母を加えて発酵を行う工程;
を包含する、穀類の発酵方法。
【請求項16】
穀類の穀粒を蒸きょうする工程;
蒸きょうされた穀粒を粉砕する工程;
穀類の蒸きょう粉砕物に酵素源を加えて資化性糖を生成させる工程;
得られる糖化物に酵母を加え、熟成させて一次もろみを得る工程;
一次もろみに穀類の蒸きょう粉砕物を加えて原料混合物を得る工程;及び
原料混合物を発酵させて二次もろみを得る工程;
を包含する、穀類の発酵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料を製造するためのもろみに関し、詳しくは、原料混合物をアルコール発酵させることで生成するもろみに関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の発酵形態には単行発酵、単行複発酵、並行複発酵という3種類の形態がある。単行発酵とは、糖化を行わず発酵のみを行う発酵形式をいう。ワイン醸造が単行発酵の典型例である。単行複発酵とは、初めにデンプン原料の糖化を行い、その後発酵を行わせる発酵形式をいう。麦デンプンを麦芽の糖化酵素で分解して麦汁を作り、麦汁を用いて発酵させるビール醸造が単行複発酵の典型例である。並行複発酵とは、デンプン原料の糖化とアルコール発酵を同時並行的に行わせる発酵形式をいう。デンプン原料と糖化酵素源と酵母を含む原料混合物を発酵させる清酒醸造が並行複発酵の典型例である。
【0003】
アルコール飲料を製造するためのもろみは、デンプンを含む原料を用いて糖化液を製造し、その糖化液を酵母で発酵させて製造する。デンプン原料として穀類を使用する場合、生の状態ではデンプンが溶解し難く、穀粒を覆う外皮がデンプンの放出を妨げるため、発酵が不良な状態になり易い。そのため、一般に、穀類は、蒸きょうして糊化するか、又は粉砕、加水及び蒸煮して糊化した後に、デンプン原料に混合する。
【0004】
特許文献1には、酵素源に白麹菌を用い、粉砕トウモロコシと粉砕麦芽を原料としてウイスキー酵母を用いて無蒸煮発酵を行うことにより、生澱粉の状態で糖化できることを見出している。この方法の発酵は並行複発酵となるため、独立した糖化工程を必要としない他、低pH下において発酵が進むことが記載されている。
【0005】
特許文献2には、原料の一部に加熱処理されたトウモロコシを原料とする焼酎の製造方法が記載されている。全粒トウモロコシは掛原料として用いられ、蒸気による蒸きょう処理を行わず、焙焼やエクストルーダーによる熱処理を行うことにより、香ばしく甘いといった良好な香味を有する焼酎であることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、でん粉原料として蒸きょう工程を経た非粉砕の米を使用した糖化液を発酵したアルコール飲料が記載され、かかるアルコール飲料を蒸留して得られたウイスキー蒸留液について記載されている。この出願では、蒸きょう工程を経た非粉砕の米を粉砕した麦芽を合わせて糖化液を製造することにより、糖化液の製造工程を簡便化し、かつ特徴的な香味を有するアルコール飲料が製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-95765号公報
【特許文献2】特開2014-161272号公報
【特許文献3】国際公開公報第2018/207250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
仕込み用デンプン原料として使用する穀類を粉砕、加熱及び蒸煮することで糊化する場合には、穀類の成分が水で希釈されるために、得られるアルコール飲料の原料由来の香味が不十分になることがある。また、この場合、発酵の種類が単発酵になるために、得られるアルコール飲料の複雑味が不十分になることがある。更に、この場合、仕込み槽及び撹拌等の設備を備え、管理運用するために、コスト及び労力を要する問題がある。
【0009】
一方、穀類を蒸きょうすることで糊化する場合には、蒸気を全体に行き渡らせるために、穀粒を粉砕することなく使用する。そのため、穀粒を覆う外皮がデンプンの放出を抑制して、原料の溶解不良及び発酵不良が発生し、アルコール飲料の香味が不十分になり、香味品質が低下し、アルコール収率が低下することがある。
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、アルコール濃度が高く、原料由来の香味に富んだアルコール飲料を得ることができる、品質に優れたもろみを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、デンプン原料と糖化酵素源と酵母と水分とを含んで成る原料混合物の発酵物である、アルコール飲料を製造するためのもろみであって、
該デンプン原料は、穀類の蒸きょうされた穀粒の粉砕物を含むもろみを提供する。
【0012】
ある一形態においては、前記蒸きょうされた穀粒は、浸水され、蒸きょうされた穀粒を含む。
【0013】
ある一形態においては、前記蒸きょうされた穀粒は、102~150%の含水率を有する。
【0014】
ある一形態においては、前記粉砕物は0.3~3.5mmの平均粒径を有する。
【0015】
ある一形態においては、前記穀類は、トウモロコシ、大麦及びライ麦からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0016】
ある一形態においては、前記酵母はウイスキー酵母を含む。
【0017】
ある一形態においては、前記糖化酵素源は麦芽を含む。
【0018】
ある一形態においては、前記糖化酵素源は麹を含む。
【0019】
ある一形態においては、前記もろみが並行複発酵物である。
【0020】
ある一形態においては、前記アルコール飲料は蒸留酒を含む。
【0021】
また、本発明は、前記いずれかのもろみの蒸留物を含むアルコール飲料を提供する。
【0022】
また、本発明は、穀類の穀粒を蒸きょうする工程;
蒸きょうされた穀粒を粉砕する工程;
蒸きょうされた穀粒の粉砕物と糖化酵素源と酵母と水分とを含んで成る原料混合物を得る工程;及び
原料混合物を発酵させる工程;
を包含する、アルコール飲料を製造するためのもろみの製造方法を提供する。
【0023】
ある一形態においては、前記もろみの製造方法は、穀類の穀粒を蒸きょうする工程の前に、穀類の穀粒を浸水させる工程を包含する。
【0024】
また、本発明は、前記方法で得られるもろみを蒸留する工程を包含する、アルコール飲料の製造方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、穀類の穀粒を蒸きょうする工程;
蒸きょうされた穀粒を粉砕する工程;
穀類の蒸きょう粉砕物に酵素源を加えて資化性糖を生成させる工程;及び
得られる糖化物に酵母を加えて発酵を行う工程;
を包含する、穀類の発酵方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、穀類の穀粒を蒸きょうする工程;
蒸きょうされた穀粒を粉砕する工程;
穀類の蒸きょう粉砕物に酵素源を加えて資化性糖を生成させる工程;
得られる糖化物に酵母を加え、熟成させて一次もろみを得る工程;
一次もろみに穀類の蒸きょう粉砕物を加えて原料混合物を得る工程;及び
原料混合物を発酵させて二次もろみを得る工程;
を包含する、穀類の発酵方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アルコール濃度が高く、原料由来の香味に富んだアルコール飲料を得ることができる、品質に優れたもろみを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例で得られたウイスキーの香気の種類と強さについて、官能評価を行った結果を図示したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<もろみ>
もろみとは、アルコール飲料の原料混合物をアルコール発酵させることで生成する、アルコール飲料を取り出す前段階の発酵物をいう。アルコール発酵を行う場合、原料混合物は、デンプン原料と糖化酵素源と酵母と水分とを含むものになる。原料混合物は、要すれば、香料及び酵素剤等のアルコール飲料を醸造する際に通常使用される成分を含有する。
【0030】
例えば、並行複発酵を行う場合は、一般に、もろみは2種類使用される。ひとつは、アルコール発酵を促すために使用される、酵母を培養した発酵物に該当する、一次もろみである。一次もろみは、デンプン原料、糖化酵素源、酵母及び水の混合物を開放型タンク内で熟成することにより製造される。酵素源としては、例えば、麦芽等の発芽穀類、又はデンプン原料に麹菌を植え付けた麹等が使用される。
【0031】
もう一つは、並行複発酵が終了した発酵物に該当する二次もろみである。二次もろみには、その後飲料として取り出されるアルコールが含まれる。二次もろみは、一次もろみ、デンプン原料及び水の混合物を開放型タンク内で発酵させることにより製造される。本明細書において単に「もろみ」というときは、特にことわらない限り、二次もろみを意味する。
【0032】
本発明のもろみは、デンプン原料である穀類の蒸きょうされた穀粒の粉砕物と、糖化酵素源と、酵母と、水分とを、含んで成る原料混合物の並行複発酵物である。本発明のもろみの製造方法及び本発明のもろみを使用して製造するアルコール飲料について、以下に説明する。
【0033】
尚、並行複発酵では、デンプン原料の溶解及び糖化、及び糖化物のアルコール発酵が連続的に発生する。その場合、酵素反応による資化性糖の生成速度と、酵母代謝による資化性糖の減少速度との関係が、生成するもろみの特性に大きく影響し、エタノールの収率、及びアルコール飲料の品質にも大きく影響を及ぼす。
【0034】
<もろみの製造方法>
(1)デンプン原料の準備
デンプン原料としては穀類を使用する。穀類の使用量はデンプン原料の一部であってよい。穀類を原料とするアルコール飲料は、特有な原料由来の甘く香ばしい香味を有し、近年愛好者の幅が広がる傾向にある。
【0035】
穀類は、好ましくは、穀粒の表面が外皮で覆われているものを使用する。穀粒の表面が外皮で覆われている穀類は、蒸きょう処理の過程でデンプン及び香味成分が外部に放出されにくい。そのため、蒸きょう処理後の原料は、穀類の香味成分の含有量が高いものになる。ある一形態においては、穀類は、穀粒の表面が外皮で覆われているもののみを使用する。
【0036】
外皮は、好ましくは、実質的に穀粒の表面の全部を覆う物理的強度を有する構造物を形成しているものである。例えば、未発芽及び未搗精の穀粒は、実質的に穀粒の表面の全部が外皮で覆われている穀粒に該当する。発芽した穀粒、搗精した穀粒、又は焙煎処理などの比較的高温で加熱処理した穀粒は、外皮が損傷していたり、剥離したり、穀粒の表面の一部しか覆っていない場合があり、実質的に穀粒の表面の全部を覆う膜を形成しているとはいえないものは、好ましくない。但し、発芽した穀粒、搗精した穀粒、又は焙煎処理などの比較的高温で加熱処理した穀粒であっても、蒸きょう処理の過程で香味成分の放出量を抑制できる程度に外皮が穀粒の表面を覆っているものは、使用してもよい。
【0037】
穀類は、より好ましくは、比較的固い外皮を有するものである。穀類の外皮が柔らかい場合は、蒸きょう処理の過程で香味成分の放出量が多くなり、蒸きょう処理後の原料は、穀類の香味成分の含有量が低いものになることがある。
【0038】
穀類としては、トウモロコシ(コーン、メイズ、キビ、ナンバンキビ、トウキビ、トウムギ、コウライムギを含む)、ライ麦、小麦、大麦、玄米などを使用することができる。中でも好ましい穀類はトウモロコシ、大麦及びライ麦である。これら3種類の穀類は、比較的固い外皮を有する穀類に該当する。穀類は1種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(2)穀類の蒸きょう
準備した穀類は、蒸きょうする。蒸きょうとは、穀類の穀粒に、沸騰した水の蒸気をあてて加熱し、穀粒中のデンプン質をα化(即ち、糊化)する処理をいう。蒸きょう処理では、粉砕、加熱及び蒸煮して糊化する場合と比べて、穀粒の外に放出されたり、劣化する穀類の香味成分の量が少なくなる。そのため、得られる糖化原料は、穀類の香味成分の含有量が高いものになる
【0040】
穀類は非粉砕の状態で穀粒のまま使用する。穀粒の粉砕物を蒸きょうした場合、含水率が高くなり、過度にα化が進行して、餅状の穀類の塊が形成されたり、蒸気が接触する箇所が不均一になり、均質に糖化することができなくなる。
【0041】
穀粒の蒸きょう処理には、甑(こしき)又はメッシュコンベアを備えた連続蒸きょう機を使用することができる。蒸きょう処理に使用する蒸気の温度は、一般に、約80~90℃である。蒸きょう処理の時間は0.3~2時間、好ましくは0.5~1.5時間である。蒸きょう処理の後に、好ましくは、送風等の手段により、蒸きょうされた穀粒の粗熱を除去する。
【0042】
穀粒は、好ましくは、蒸きょう処理の前に、所定の時間浸水させておく。そのことで、穀類の種類に応じて、穀粒を、糖化し易い適切な含水率に調節することができる。穀類を浸水させる水の温度は、20~60℃、好ましくは35~45℃である。穀類を浸水させる時間は、0.5~2.5時間、好ましくは1~2時間である。その後、水切りを0.5~1.0時間程度行い浸水された穀粒から余分な水分を取り除くことが好ましい。
【0043】
(3)含水量の調節
蒸きょうされた穀類は、糖化を適切に進行させる目的で、含水量を調節する。含水量の調節は、例えば、蒸きょうされた穀粒を大気又は外気にあてて乾燥させることで行う。穀粒の含水率は、102~150%、好ましくは110~140%に調節する。ここでいう含水率は、最初に準備した、蒸きょう処理も浸水処理も行っていない穀粒の重量に対する蒸きょう処理後の穀粒の重量の割合(重量%)である。穀粒の含水率が前記範囲内にあることで、並行複発酵時に資化性糖の生成がむらなく均一に、適切な速度で進行する。
【0044】
(4)穀類の粉砕
含水量を調整した穀類は粉砕する。粉砕は粉砕機を使用して穀粒を微細化することで、行うことができる。穀粒の粉砕物の粒径は糖化の進行度合を考慮して適宜決定することができる。穀粒の粉砕物の平均粒径は、一般に約0.15~5mm、好ましくは約0.3~3.5mmである。粉砕機として、「ハイスピードミル」(商品名、ラボネクト社製)を用いた場合は、40~50秒間粉砕を行うことで、穀粒の粉砕物を適切な粒径に調節することができる。
【0045】
穀粒の粉砕加工後に、所定の目開きサイズの篩を設置し、それを通過したものを回収することで、適切な粒径の粉砕物を回収することができる。より詳しく平均粒径を測定する場合は、レーザー回折式粒度分布測定機器などを用いることで、決定することができる。
【0046】
(5)糖化酵素源
糖化酵素源としては、アルコール飲料を製造するために通常使用されるもの、例えば、麦芽、麹及び酵素剤などが使用される。麹の具体例としては、清酒又は焼酎の製造時に使用され米や大麦を原料として製造された固体麹、又は大麦もしくはトウモロコシを原料として製造された液体麹が挙げられる。酵素剤としては、市販されているグルコアミラーゼ、α-アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼの製剤等が挙げられる。また、これらの酵素製剤を複数併用してもよい。
【0047】
(6)発酵
上述のとおり、穀類の穀粒を蒸きょうすること、蒸きょうされた穀粒を粉砕することで、発酵の原料として、穀類の蒸きょう粉砕物を準備する。穀類の蒸きょう粉砕物は溶解性及び発酵性に優れ、発酵により産生されるアルコールの量が増大する。また、穀類の蒸きょう粉砕物は、穀類の香味成分の含有量が高く、発酵により原料由来の香味が更に富化される。次に、穀類の蒸きょう粉砕物に酵素源を加えて資化性糖を生成させ、得られる糖化物の温度を20℃程度に下げてから酵母を添加し、発酵の工程を行う。
【0048】
ウイスキーを製造する場合の酵母としては、通常のウイスキーの製造に使用されるウイスキー酵母以外にも、清酒や焼酎の製造に使用される清酒酵母や焼酎酵母も使用することができる。発酵期間は1~5日とすることが好ましく、発酵によりアルコール濃度約6~22%のもろみ(発酵液)が得られる。本明細書において、アルコール濃度の単位は体積%である。もろみのアルコール濃度は、好ましくは10~20%、より好ましくは15~18%である。
【0049】
発酵は、並行複発酵を行っても良い。並行複発酵とは、糖化と発酵を同時並行で進める発酵方法をいう。並行複発酵を行うことで、もろみのアルコール濃度をより高めることができる。並行複発酵の工程を以下に説明する。
【0050】
まず、一次もろみを準備する。即ち、デンプン原料に酵素源を加えて資化性糖を生成させ、ここに酵母及び水を加え、1週間程度熟成させて一次もろみを得る。酵母は、製造するアルコール飲料の品目を考慮して適切な種類のものを使用する。例えば、ウイスキーを製造する場合には、ウイスキー酵母を使用する。焼酎を製造する場合には、焼酎酵母を使用する。ただし、使用する酵母の種類はアルコール飲料の品目のみによって決定されるものではない。目標とする酒質によっては、ウイスキーを製造する場合に焼酎酵母を用いてよく、焼酎を製造する場合にウイスキー酵母を用いてもよい。
【0051】
調製した一次もろみに対し、デンプン原料及び水を加えて原料混合物を得る。デンプン原料及び水の追加は複数回に分割して行ってもよい。原料混合物は発酵に適した温度に調節されて、発酵が開始される。発酵初期(1~3日間)は発酵が活発に行われ温度上昇も高い。発酵温度を38℃以下、28℃以上の設定範囲温度に管理する。発酵中期から発酵終期(約5日~2週間)に至ると発酵が落ち着いてくる。アルコール発酵が終了すると、原料混合物の並行複発酵物として、二次もろみが得られる。
【0052】
発酵の工程の一例は、穀類の蒸きょう粉砕物に酵素源を加えて資化性糖を生成させること、得られる糖化物に酵母及び水を加え、熟成させて一次もろみを得ること、一次もろみに穀類の蒸きょう粉砕物及び水を加えて原料混合物を得ること、原料混合物を発酵させて二次もろみを得ること、を含むものである。
【0053】
<アルコール飲料>
得られた二次もろみは、蒸留機に移し替えられる。そして蒸留機で蒸留されることによりアルコール飲料が得られる。得られた原酒はステンレス、ほうろう、甕つぼなどの容器に貯蔵される。
【0054】
本発明のアルコール飲料は、本発明のもろみを原料として得られることを特徴とする。アルコール飲料は、一般に蒸留酒になる。蒸留酒の具体例は、ウイスキー、焼酎、原料用アルコール、スピリッツ、ウオッカ、ジン等が挙げられる。これら中でも、ウイスキー及び焼酎が好ましい。
【実施例0055】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
デンプン原料として未発芽及び未搗精のトウモロコシの穀粒を準備した(以下の実施例及び比較例において同様である。)。トウモロコシの穀粒を80~90℃の温度で60分間蒸した。蒸きょうされた穀粒を室温及び風通しのよい大気雰囲気下に静置することで、含水率を106%に調節した。これを粉砕機「ハイスピードミル」(商品名、ラボネクト社製)に入れ、平均粒径3mm以下に粉砕して、トウモロコシの蒸きょう粉砕物を得た。
【0057】
5L容量ガラス容器に40℃の水を800ml入れ、ここに糖化酵素として「スミチームS」(商品名、新日本化学工業社製)2gを加えて溶解させ、トウモロコシの蒸きょう粉砕物250g、粉砕麦芽0.5g、乳酸1.0mlを加えて混合した。この混合物にウイスキー酵母を接種し、25~30℃にて2日間発酵させて、一次もろみを得た。
【0058】
一次もろみに対し、32℃の水1600ml、トウモロコシの蒸きょう粉砕物600gを加え、更にその翌日に32℃の水270ml、トウモロコシの蒸きょう粉砕物550gを加え、25~℃にて計10日並行複発酵を行って、二次もろみを得た。
【0059】
(実施例2)
トウモロコシの穀粒を20℃の水に60分間浸漬し、15分間水切りを行った。浸水させた穀粒を80~90℃の温度で60分間蒸した。浸水され、蒸きょうされた穀粒を室温及び風通しのよい大気雰囲気下に静置することで、含水率を122%に調節した。これを粉砕機「ハイスピードミル」(商品名、ラボネクト社製)に入れ、平均粒径3mm以下に粉砕して、トウモロコシの浸水蒸きょう粉砕物を得た。
【0060】
トウモロコシの蒸きょう粉砕物の代わりに前記トウモロコシの浸水蒸きょう粉砕物を使用すること以外は実施例1と同様にして、二次もろみを得た。
【0061】
(実施例3)
トウモロコシの穀粒を60℃の水に60分間浸漬し、15分間水切りを行った。浸水させた穀粒を80~90℃の温度で60分間蒸した。浸水され、蒸きょうされた穀粒を室温及び大気雰囲気下に静置することで、含水率を136%に調節した。これを粉砕機「ハイスピードミル」(商品名、ラボネクト社製)に入れ、平均粒径3mm以下に粉砕して、トウモロコシの浸水蒸きょう粉砕物を得た。
【0062】
トウモロコシの蒸きょう粉砕物の代わりに前記トウモロコシの吸水蒸きょう粉砕物を使用すること以外は実施例1と同様にして、二次もろみを得た。
【0063】
(比較例1)
トウモロコシの穀粒を粉砕機「ハイスピードミル」(商品名、ラボネクト社製)に入れ、平均粒径3mm以下に粉砕して、トウモロコシの粉砕物を得た。
【0064】
5L容量のガラス容器に40℃の水を1100ml入れ、ここに酵素剤として「スミチームS」(商品名、新日本化学工業社製)2gを加えて溶解させ、トウモロコシの粉砕物450g、粉砕麦芽0.5g、乳酸3.6mlを加えて混合した。この混合物にウイスキー酵母を接種し、25~30℃にて2日間発酵させて、一次もろみを得た。
【0065】
一次もろみに対し、32℃の水1400ml、トウモロコシの粉砕物560gを加え、25~30℃にて5日間並行複発酵を行って、二次もろみを得た。
【0066】
(比較例2)
トウモロコシの粉砕物の代わりにトウモロコシの穀粒(未粉砕物)を使用すること以外は比較例1と同様にして、二次もろみを得た。
【0067】
(比較例3)
トウモロコシの穀粒を80~90℃の温度にて60分間蒸した。蒸きょうされた穀粒を室温及び風通しのよい大気雰囲気下に静置することで、室温に冷却した。
【0068】
トウモロコシの蒸きょう粉砕物の代わりに、得られたトウモロコシの蒸きょう物を使用すること以外は実施例1と同様にして、二次もろみを得た。尚、トウモロコシの蒸きょう物は、含水率を調節することなく、冷却後直ぐに使用した。
【0069】
(比較例4)
トウモロコシの穀粒を20℃の水に60分浸漬し、15分間水切りを行った。浸水させた穀粒を80~90℃の温度で60分蒸した。浸水され、蒸きょうされた穀粒を室温及び大気雰囲気下に静置することで、含水率を120%に調節した。
【0070】
トウモロコシの蒸きょう粉砕物の代わりに、得られたトウモロコシの浸水蒸きょう物を使用すること以外は実施例1と同様にして、二次もろみを得た。
【0071】
(二次もろみの特性)
実施例1~3及び比較例1~4で得られた二次もろみの調製条件及び特性を確認した。結果を表1及び表2に示す。なお、比較例2および3については、アルコール発酵が良好に進行せず、雑菌汚染によりもろみが腐造したため、発酵試験途中で中止した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
(アルコール飲料の調製)
実施例1~3及び比較例1で得られた二次もろみを単式蒸留機で2回蒸留した。その際、初留は水蒸気蒸留を行い、終了アルコール濃度10%とした。次に、間接蒸留にて再留を行い、アルコール濃度65%のグレーンウイスキーを得た。
【0075】
得られたウイスキーの官能評価を行った。評価者は、訓練されたパネリスト5名とした。評価者は、試料を試飲して、まず、トウモロコシの穀物感を感じる程度について、最も強いものを5点、最も弱いものを1点として、5段階で採点した。採点後に5名の評点の平均値を算出した。結果を表3に示す。
【0076】
もろみアルコール濃度10%程度と低かった比較例1は、酸的な、うすく軽い香味との評価でウイスキーとしての香味品質を有していなかった。一方で、もろみのアルコール濃度が16%程度に達した実施例1~3においては、グレーンウイスキーらしい甘い香味を有していた。特に、実施例2および3は、トウモロコシ由来の穀物感や香ばしさが感じられ、非常に良好な品質であった。
【0077】
【表3】
【0078】
次いで、香気の成分を細分化して、評価項目に該当する程度を5段階に採点した。採点基準は次の通りである。即ち、一般的な製法で製造されたグレーンウイスキー(未貯蔵品)の評点を3として、やや強く感じられる場合は4、強く感じられる場合は5、やや弱く感じられる場合は2、弱く感じられる場合は1とし、最後に5名の評点の平均値を算出した。評価結果を表4及び図1に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
(実施例4)
トウモロコシの穀粒を30℃の水に60分間浸漬し、15分間水切りを行った。浸水させた穀粒を80~90℃の温度で60分間蒸した。浸水され、蒸きょうされた穀粒を室温及び風通しのよい大気雰囲気下に静置することで、含水率を126%に調節した。これを粉砕機「ハイスピードミル」(商品名、ラボネクト社製)に入れ、平均粒径3mm以下に粉砕して、浸水され、蒸きょうされた穀粒の粉砕物を得た。
【0081】
特許3718677号公報に記載の方法に従い、原料に大麦を使用して焼酎用白麹菌を液体培養することによって、液体麹を得た。
【0082】
5L容量ガラス容器に40℃の水を425ml入れ、ここにトウモロコシの浸水蒸きょう粉砕物250g、前記液体麹310ml及び乳酸0.7mlを加えて混合した。この混合物に焼酎酵母を接種し、25~30℃にて10日間発酵させて、一次もろみを得た。
【0083】
一次もろみに対し、32℃の水800ml、トウモロコシの浸水蒸きょう粉砕物600gを加え、32℃の水585ml、トウモロコシの浸水蒸きょう粉砕物550gを加え、25~30℃にて計10日並行複発酵を行って、二次もろみを得た。
【0084】
得られたもろみ液の溶けは良好であり、もろみアルコール濃度は16.76%、もろみアルコール収率は419.0(純アルコール容量換算/t)であった。
【0085】
(アルコール飲料の調製)
実施例4で得られた二次もろみを常圧蒸留にて蒸留し、割水後、アルコール濃度25%のトウモロコシ焼酎を得た。
【0086】
比較対象として、市販のトウモロコシ焼酎2品を用いた。市販品A(比較例5)はとうもろこしを原料として米麹で製造されたトウモロコシ焼酎であり、アルコール濃度は25%であった。市販品B(比較例6)はとうもろこしを原料とし、とうもろこし麹で製造された焼酎であり、アルコール濃度は25%であった。実施例4、市販品A(比較例5)およびB(比較例6)の香気成分を分析した結果を表5に示した。
【0087】
得られた本発明品の焼酎は、市販品に比べて、脂肪酸エステルを多く含むことが分かった。また、熟練パネル4名により官能評価したところ、市販品および実施例4で得られた焼酎について、香りと味の官能評価した結果を表6に示した。市販品Aはコメ焼酎様の香気が強く、とうもろこし由来の原料香が感じられなかった。また味は甘いが、後味に渋さが残った。市販品Bは、全体的におとなしい香りで、市販品Aと同様にとうもろこし由来の原料香が弱かった。味は非常に軽快で、後味はすっきりしていた。一方、本発明品は、焼きトウモロコシを想起させる甘い香気を有しており、ポップコーンのような原料香が感じられた。味はふくらみがあり、後味に甘さを感じられ、非常に良好な酒質であった。評価者のコメントを表6に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
図1