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特開2023-128912エアゾール用の水性防錆塗料およびエアゾール品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128912
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】エアゾール用の水性防錆塗料およびエアゾール品
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230907BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20230907BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230907BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230907BHJP
   B05B 9/04 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/10
C09D133/00
C09D7/61
B05B9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033593
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000107000
【氏名又は名称】シャープ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】梅本 晶太
(72)【発明者】
【氏名】福井 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】笠原 康弘
【テーマコード(参考)】
4F033
4J038
【Fターム(参考)】
4F033RA02
4F033RC01
4F033RC24
4J038CC061
4J038CG011
4J038CG131
4J038HA066
4J038HA216
4J038KA05
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA03
4J038PA06
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】防錆が意図された水性塗料でありつつも、所望のエアゾール化が可能となる水性塗料を提供すること。
【解決手段】エアゾールのための水性防錆塗料であって、水性エマルションと耐食性金属薄片とを含んで成り、前記水性エマルションとしてコアシェル・エマルションを含み、該コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が親水性シェル層を有する、エアゾール用の水性防錆塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾールのための水性防錆塗料であって、
水性エマルションと耐食性金属薄片とを含んで成り、
前記水性エマルションとしてコアシェル・エマルションを含み、該コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が親水性シェル層を有する、エアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項2】
前記コアシェル粒子において、前記親水性シェル層が親水性のポリマー・シェルであり、粒子コアが疎水性のポリマー・コアである、請求項1に記載のエアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項3】
前記親水性シェル層が、水分を保持して水膜を成す、請求項1または2に記載のエアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項4】
前記コアシェル・エマルションがアクリル・エマルションである、請求項1~3のいずれかに記載のエアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項5】
前記耐食性金属薄片が、鱗片状ステンレススチール箔である、請求項1~4のいずれかに記載のエアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項6】
無機酸化物を更に含んで成る、請求項1~5のいずれかに記載のエアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項7】
前記無機酸化物が酸化亜鉛である、請求項6に記載のエアゾール用の水性防錆塗料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の水性防錆塗料と、エアゾール化のための噴射剤とが容器にて充填されたエアゾール品。
【請求項9】
前記噴射剤は、炭化水素を含んで成る噴射剤である、請求項8に記載のエアゾール品。
【請求項10】
前記噴射剤は、ジメチルエーテルを含んで成る噴射剤である、請求項8または9に記載のエアゾール品。
【請求項11】
前記エアゾール品の容器内容物の全体質量基準で25質量%~50質量%の水含有量を有する、請求項8~10のいずれかに記載のエアゾール品。
【請求項12】
前記エアゾール品の容器内容物の全体質量基準で5質量%~15質量%のエマルション樹脂成分の含有量を有する、請求項8~11のいずれかに記載のエアゾール品。
【請求項13】
前記エアゾール品の容器内容物の全体質量基準で5質量%~20質量%の前記耐食性金属薄片の含有量を有する、請求項8~12のいずれかに記載のエアゾール品。
【請求項14】
前記エアゾール品の容器内容物の全体質量基準で20質量%~30質量%の前記噴射剤の含有量を有する、請求項8~13のいずれかに記載のエアゾール品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾールのための水性防錆塗料およびエアゾール品に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料は、塗膜成分を含んだ材料であって、対象となる素地に対して使用される。粉体塗料および無溶剤塗料のように溶剤を含まない塗料があるものの、一般的には媒体として溶剤が塗料に含まれている。水性塗料は媒体として水を含んでいるが、このような塗料は、素地に対して塗り広げられ、乾燥工程などを経て塗膜を形成する。
【0003】
塗料は用途に応じて用いられることが多い。例えば鋼製部材の腐食防止を目的として防錆塗料が用いられる。つまり、鋼製部材などに対しては防錆塗料で防錆処理が為される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-311514号公報
【特許文献2】特開2016-510082号公報
【特許文献3】特開2003-82294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、従前の防錆塗料では克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを見出した。
【0006】
水性防錆塗料は、塗膜として所望の防錆性能を示す塗料であったとしても、刷毛やローラーなどを用いた塗装作業では塗装効率が十分といえない。また、そのような塗装具を用いる防錆作業は用具がかさむことが多く、塗装者の負担が軽いといえない。
【0007】
そこで、エアゾール品として水性防錆塗料を使用することが考えられるものの、それは通常困難であると当業者には認識されていた。なぜなら、防錆性能を呈する水性エマルションはエアゾールに使用される噴射剤(例えばジメチルエーテルなどの炭化水素材)と混合されたとしても経時的に安定化し難いからである。具体的には、そのような噴射剤と混合するとエマルション粒子が時間の経過と共に溶解してしまいゲル化が促される虞がある。このように、塗料業界では防錆を主目的とした水性エマルションを所望にエアゾール化することは通常困難であると考えられていた。
【0008】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、特に防錆が意図された水性塗料でありつつも、所望のエアゾール化に資する水性塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された水性防錆塗料の発明に至った。
【0010】
本発明では、エアゾールのための水性防錆塗料であって、
水性エマルションと耐食性金属薄片とを含んで成り、
前記水性エマルションとしてコアシェル・エマルションを含み、該コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が親水性シェル層を有する、エアゾール噴射用の水性防錆塗料が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に防錆が意図された水性塗料でありつつも、所望のエアゾール化に資する水性防錆塗料がもたらされる。
【0012】
より具体的には、本発明に係る水性防錆塗料は、炭化水素材などの噴射剤と共に用いられたとしても、経時的に安定したエアゾール品として供すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明に係る「エアゾールのための水性防錆塗料」および「エアゾール品」をより詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細な説明、あるいは実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、以下で説明する形態などは、本発明の技術思想を説明するためのものであって、本発明を特に限定するものではない。
【0014】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、「未満」や「より多い/より大きい」などの特段の用語が付されない限り、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”も含むものとして解釈され得る。また、“約”および“程度”といった用語は、数パーセント、例えば±10%の変動を含み得ることを意味する。
【0015】
[本発明の基礎となった知見等]
【0016】
鋼製部材に対しては腐食防止の目的で塗装による防錆処理が実施される。中でも橋梁や鉄塔、船舶、海洋構造物は、その用途から高腐食環境であって長期間の防錆が求められるため、定期的に補修塗装が行われる。かかる場合、足場を設置し、多人数を要する大規模な工事となる場合が多い。
【0017】
部材や設備の点検時及び塗膜の劣化調査時に発見された傷んだ塗膜や部材に対しては、軽微な補修が求められる場合がある。この場合、作業の性質と場所の制約との点でより簡易な補修塗装を行うことが考えられる。
【0018】
従来より、鋼製部材の防錆にはエポキシ樹脂系の塗料が多く使用されている。エポキシ樹脂は鋼材との付着性に優れると共に、硬化した塗膜が外部の腐食因子を遮断して鋼製部材の防錆に資するからである。鋼製部材は、新設時においてドックヤードのような解放された空間を有する塗装場で管理されて塗装される。しかしながら、鋼製部材が一旦組み立てられた後では、箱桁のように内部に閉鎖空間が形成されるので、その閉鎖空間に雨水が溜まって腐食が生じやすい。例えば明石大橋等の海上長大橋の鋼製部材では、その設置後に定期的に腐食状況や塗膜の傷み具合などを点検し、補修工事の計画を立てる。その点検に際して腐食部位や塗膜の劣化部位を発見すると傷み具合からその場で補修することがある。かかる補修は鋼材との付着性および防食性を勘案してエポキシ樹脂塗料で補修することが上述の理由で好ましいものの、エポキシ塗料には樹脂分を溶解させる目的で有機溶剤が多量に用いられている。つまり、塗料中に含まれる有機溶剤が塗装時に揮散してしまい、閉鎖された空間に有機溶剤が充満してしまう懸念がある。これは、他の防錆補修であっても同様である。例えば、船舶や鉄道車両、コンテナ、車両荷台等の、主に閉鎖された空間における補修塗装もエポキシ樹脂塗料を用いることが多く、同様に塗料中の有機溶剤が塗装時に揮散し、閉鎖された空間に有機溶剤が充満し得る。
【0019】
揮散した有機溶剤にはエチルベンゼンやキシレンやトルエン等の有害な芳香族炭化水素が含まれている場合が多く、これらは神経障害やがんの誘発の懸念がある。よって、塗装作業に際しては特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則により排気設備の設置や有機ガス用防毒マスク又は送気マスク等の保護具の使用が義務付けられている。しかしながら、橋梁の多くは高所や海上に位置するため、閉鎖空間に排気設備を搬送して設置することは一般に困難である。また、閉鎖空間に至る階段やタラップ間の移動があるため、送気マスクの着用も困難となり得る。有機ガス用防毒マスクの着用のみ可能であるが、吸収缶の使用時間が限られるので閉鎖空間における滞在時間に制限が生じてしまう。さらには、高所作業となるので、予備の吸収缶を持参するにも限界がある。
【0020】
かかる事情に鑑みて本願発明者らは、防錆のための塗料でありながらも、より安全に配慮した水性塗料を開発した。かかる塗料は、所望の防錆特性を供しつつも、特に閉鎖空間で使用したとしても各種の予防規則に該当しない水性塗料である。つまり、原材料に特定化学物質を含まず、作業者の安全に配慮した水性防錆塗料となっている。
【0021】
この本願発明者らが開発した水性防錆塗料は、所望の防錆性能(例えば、有機溶剤系の防錆塗料と遜色ない防錆性能)を呈し得るものの、刷毛やローラーもしくは霧吹き等のハンドスプレーでの塗装作業となると、エアゾールタイプの場合と比べて作業効率が高くならない。また、刷毛やローラーなどの場合では現場に持ち込まなければならない塗装用具および付属用具等の点で負担が増えてしまう。一方、作業効率が高くなるエアゾール化は、水性エマルションの場合に当初困難であるとの認識から本格的な検討を行うことはなかった。つまり、水性エマルションはエアゾールに使用される噴射剤、例えばジメチルエーテルなどの炭化水素に混合しづらく、また、塗料の防錆成分がエマルション粒子の安定化に不利に作用し、水性防錆塗料と噴射剤とを混合すると時間の経過と共にエマルション粒子が溶解してゲル化し易くなると考えられていた。つまり、実際の塗料業界においては、所望の防錆特性を有する水性エマルション塗料(特に閉鎖空間でより安全に使用できる水性エマルション塗料)に関して経時的な要件も好適に満して所望にエアゾール化すること等は困難であった。
【0022】
[本発明の水性防錆塗料]
本発明の塗料は、水性防錆塗料である。好ましくは、本発明の塗料は、エアゾール(即ち、“エアゾール品”)のための水性防錆塗料である。つまり、エアゾール噴射への利用に好適な水性防錆塗料である(以下、エアゾールのための水性防錆塗料を「エアゾール噴射用の水性防錆塗料」などとも称する)。本発明では防錆塗料として水性エマルションが用いられており、塗膜樹脂成分の溶解のために有機溶剤は用いられていない。よって、本発明の塗料は、塗料中の有機溶剤が塗装時に揮散するといった事象が回避された防錆塗料である。つまり、上記“閉鎖された空間”などに有機溶剤が充満する事象を回避でき、作業者がより安全に防錆処理を行うことができる。
【0023】
本発明において「エアゾール」とは、噴射剤(例えば噴射ガス)の圧力などを利用して容器内容物を排出する(好ましくは霧状および/または泡状に排出する)態様またはそのような排出を行うことができる製品または構造物のことを指している。
【0024】
本発明のエアゾール噴射用の水性防錆塗料は、水性エマルションと耐食性金属薄片とを含んで成り、水性エマルションとしてコアシェル・エマルションを含むことを特徴の1つとする。
【0025】
本発明において「コアシェル・エマルション」とは、エマルションを成している粒子の少なくとも1つがコアシェル構成を有することを意味している。つまり、本発明の水性防錆塗料は、水性エマルションを含んだ塗料であって、エマルションの水媒体中にコアシェル構成を有する粒子が含まれている。端的にいえば、本発明の水性防錆塗料は、コアシェル粒子が水性エマルションを成しているともいえる。
【0026】
本発明のエアゾール噴射用の水性塗料は、耐食性金属薄片が少なくとも含まれている点で防錆特性を呈する防錆塗料である。特に、本発明に係るエアゾール噴射用の塗料は、耐食性金属薄片を含みつつも、水性エマルションとしてコアシェル・エマルションを含んでおり、エアゾール噴射用の防錆塗料としてより好適なものとなっている。
【0027】
この耐食性金属薄片は、耐食性を有する金属材から成る薄片体である。水性防錆塗料において耐食性金属薄片は、1又は複数の片状物として含まれていてよい。好ましくは、複数の耐食性金属薄片が水性防錆塗料に含まれており、それによって、より好適な防錆特性が塗料にもたらされている。
【0028】
本明細書において「耐食性」とは、広義には、腐食作用に耐えることを指しており、狭義には、水性塗料中において及び/又はその水性塗料から得られる塗膜中の環境下において腐食作用に耐えることを意味している。“腐食作用に耐える”とは、例えば、金属そのものが腐食し難くなっている態様のみならず、金属がその表面に不動態皮膜を形成して腐食し難くなっている態様をも意味している。また、本明細書において「薄片」とは、広義には、厚さ寸法が主面寸法よりも小さい形状(例えば扁平状または板状などの全体形状が金属材にもたらされるように主面寸法と比べて厚みが相当小さい形状)を意味しており、狭義には、主面寸法(例えば厚みと直交する方向における主面寸法の最大値)が厚さ寸法の10~5000倍、10~2500倍、10~1000倍、10~900倍、20~700倍、30~500倍、40~500倍、50~500倍、50~400倍、50~300倍または50~200倍となった形状を意味している。ある好適な態様では、薄片は、ミクロンオーダーまたはナノオーダーの厚さを有していてよく、例えば、0.01~8μm、0.01~5μm、0.01~2μm、0.05~1μm、0.1~1μm.0.1~0.9μm、0.1~0.7μm、または0.1~0.5μmなどの厚さを有していてよい(ここでいう厚さは、単一の薄片のうち最大となる厚さであってよい)。“薄片”に起因して、耐食性金属薄片が可撓性を有していてもよい。つまり、耐食性金属薄片は、可撓性の耐食性金属材となっていてもよい。
【0029】
耐食性金属薄片の「厚さ寸法」は、塗料またはそれから得られる塗膜に対して、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を利用して測定される任意の3薄片の各々の任意の4箇所のうちの最大値を平均化した算術平均値を採用してよい。同様にして耐食性金属薄片の「主面寸法」は、塗料またはそれから得られる塗膜に対して、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を利用して測定される任意の3薄片の各々の最大主面寸法を平均化した算術平均値を採用してよい。
【0030】
本発明で用いる耐食性金属薄片は、特に制限されるわけではないが、例えば下記に挙げる耐食性金属から成る金属箔など薄い金属材料を細かく片状および/または粒子状となるように処理することによって得ることができる。例えば、そのような金属箔などの薄い金属材料を切断や粉砕などせん断力を加える機械的処理および/または必要に応じて行う化学処理などに付すことを通じて得ることができる。また、耐食性金属薄片は市販のものを利用してもよい。
【0031】
本発明では、複数の耐食性金属薄片は、塗膜の内部でその厚み方向に互いに積層するように配向され得る。よって、素地に対して劣化の要因となる水、酸素および/または各種イオンなどの成分(以下、「劣化成分」などとも称する)が素地に至ることが効果的に妨げられ、素地の腐食を効果的に減じる又は抑制できる。ある好適な態様では、耐食性金属薄片の積層に起因して、塗膜に耐食性金属薄片から成るラビリンス構造がもたらされ得る。ここでいう「ラビリンス構造」とは、いわゆる“迷路状”に入り組んだ形態を指しており、例えば、塗膜にて劣化成分の素地への供給がより減じられるように、かかる供給路が“迷路状”により複雑に蛇行している形態を指している。
【0032】
耐食性金属薄片は、例えば、ステンレススチール、アルミ合金、チタン合金およびニッケル合金から成る群から選択される少なくとも1種からなる金属の薄片であってよい。このような金属の薄片は、耐食性を呈するところ、上述の積層に起因して、素地の腐食低減により好適に寄与し得る。なお、本明細書における「ステンレススチール」は、特に制限されないものの、例えば、「JIS G 0203 鉄鋼用語」に規定されるクロムまたはクロムとニッケルとを含有する合金鋼であってよい。
【0033】
本発明のエアゾール噴射用の水性塗料に用いられる耐食性金属薄片は、金属箔の形態を有するものであってよい。そのようにより薄い形態を有することで、塗膜において薄片の同士がより積層し易くなり、耐食性金属薄片から成るラビリンス構造がもたらされ易くなる。より具体的には、耐食性金属薄片は、箔片としてステンレススチール箔、アルミ合金箔、チタン合金箔およびニッケル合金箔から成る群から選択される少なくとも1種となっていてよい。
【0034】
耐食性金属薄片は、例えば、その全体形状(特に主面形状)が長尺状になっていてよい。別の切り口で表現すれば、耐食性金属薄片は、直線または曲線を成す細長の線形状などの形状を有していてよい。これにつき、例えば、耐食性金属薄片のアスペクト比、例えば、厚み方向に直交する方向の薄片主面における最大寸法とそれに直交する寸法との比(最大寸法/“最大寸法に直交する方向の寸法”)が2以上30以下、2以上20以下、2以上15以下、2以上10以下、2以上5以下、2以上4以下、2以上3以下、1.5以上3以下、1.5以上2.5以下などとなっていてよい。
【0035】
ある好適な態様では、耐食性金属薄片は鱗片状ステンレススチール箔である。鱗片状ステンレススチール箔は、塗膜にラビリンス構造がもたらされるように塗膜の内部でその厚み方向に互いに少なくとも部分的に積層し易い。つまり、鱗片状ステンレススチール箔では塗膜においてラビリンス構造が特に形成され易い。よって、耐食性金属薄片として鱗片状ステンレススチール箔が含まれていると、劣化要因となる水、酸素および/または各種イオンなどの素地への供給がより効果的に遮断・低減され易くなり、より好適的に素地の腐食を低減・抑制できる。ここで「鱗片状」とは、扁平なうろこ状の片(薄片)を有するような形態を指している。塗膜に含まれる「耐食性金属薄片」の画像(例えば、耐食性金属薄片の単一の形状)などからして当業者に“うろこ形状”と認識可能なものを含んでいる限り“鱗片状”とみなしてよい。
【0036】
ステンレススチール箔(例えば鱗片状ステンレススチール箔)としては、特に長尺状または線形状のステンレススチール箔と、そうでない非長尺状または非線形状などの他のステンレススチール箔とが混在していてよい。かかる場合、長尺状または線形状のステンレススチール箔は、そのような形状にない他のステンレススチール箔の相互の隙間を埋め易くなり、素地の腐食低減がより促進され得る。
【0037】
鱗片状ステンレススチール箔の材質として用いられるステンレスの種類は特に制限されない。公知のステンレス材から成る耐食性金属鱗片であってよい。例えば、ステンレス鋼としてのステンレスは、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、2相系ステンレス(例えばオーステナイト・フェライト系ステンレス)、および析出硬化系ステンレスから成る群から選択される少なくとも1種であってよい。特に、より高い耐食性およびより高い加工性を重要視すれば、フェライト系ステンレスおよび/またはオーステナイト系ステンレスを用いることが好ましい。フェライト系ステンレスとしては、例えばSUS430を挙げることができる。また、オーステナイト系ステンレスとしては、SUS304、SUS316および/またはSUS316Lを挙げることができる。なお、ステンレスは不可避不純物を含んでいてもよく、また、本発明の効果を奏する限り、そのような不可避不純物の具体的な成分は特に制限されない。より好適な耐食性および加工性がもたらされ得る点でいえば、鱗片状ステンレススチール箔における不可避不純物の含有割合は1重量%以下となっていてよい。
【0038】
鱗片状ステンレススチール箔は、積算分布において50%となる薄片径に相当する50%粒子径(以下「Dp50」とも称する)が、10μm以上300μm以下となっていてよく、例えば20μm以上50μm以下、または20μm以上40μm以下などであってよい。また、鱗片状ステンレススチール箔は、その厚さが0.1μm以上5μm以下であってよく、例えば、0.1μm以上1μm以下、0.1μm以上0.8μm以下、0.1μm以上0.6μm以下、0.2μm以上3μm以下または0.2μm以上1μm以下などであってよい。また、鱗片状ステンレススチール箔は、そのアスペクト比、例えば、厚み方向に直交する方向の薄片主面における最大寸法とそれに直交する寸法との比(最大寸法/“最大寸法に直交する方向の寸法”)が1以上20以下であってよく、例えば2以上15以下、2以上10以下、または2以上5以下、2以上4以下、2以上3以下、1.5以上3以下、1.5以上2.5以下などであってよい。このような鱗片状ステンレススチール箔が塗料に含まれていると、得られる塗膜中においてラビリンス構造がより安定してもたらされ得ることになる。つまり、鱗片状ステンレススチール箔では、より優れた防錆性能を呈する塗膜が得られ易くなる。また、耐食性金属薄片が鱗片状ステンレススチール箔となる場合、塗膜の耐衝撃性、耐摩耗性、熱安定性および/または耐薬品性などもより向上させ易くなる。
【0039】
本発明のエアゾール噴射用の水性防錆塗料は、防錆材として上記の耐食性金属薄片を含みつつも、ビヒクルとして含まれる水性エマルションがコアシェル・エマルションとなっている。
【0040】
コアシェル・エマルションは、分散質としての粒子が、コア(粒子内核)とシェル層(粒子外殻)を有するエマルションである。本発明において、エマルションは水性エマルションであるので、分散媒として含まれる水にコアとシェル層とを有する分散質(分散質粒子)が分散している。つまり、本発明の塗料では、精製水、脱イオン水、蒸留水および/またはイオン交換水などの水媒体中においてコアとその少なくとも一部を囲むシェルとから構成された粒子(塗膜形成粒子)が分散している。エマルションを成すべく、かかる塗膜形成粒子が複数分散している。なお、本発明の塗料は、耐食性金属薄片を含むので、耐食性金属薄片を含んだ水性防錆塗料が、そのエマルションの分散質粒子としてコアシェル粒子を含んで成るといえる。本発明において、「コアシェル粒子」とは、広義には、エマルションを構成する粒子が、その中心を含む内側領域と外殻領域とに分けて構成されていると捉えることができる態様を指している。狭義には、「コアシェル粒子」は、エマルションを構成する粒子について、粒子中心を含む内側領域(コア)とその領域の周囲の外殻領域(シェル層)とが互いに異なる成分、官能基、分子量(重量平均分子量および/または数平均分子量)、ガラス転移温度(Tg)ならびに/または材質などを含み得る・伴い得る態様を指している。
【0041】
エマルションがコアシェル・エマルションとなっている場合、シェル層がコアを保護する機能を有し得るので、耐食性金属薄片が含まれていたとしても、それから受け得る影響および/またはエアゾール化に伴う影響などに対して好適なエマルション耐性が得られ易い。つまり、本発明の水性塗料は、耐食性金属薄片を有しつつも、エマルション分散粒子におけるコア部が好適に保護されており、エアゾールに使用される噴射剤(例えばジメチルエーテルなどの炭化水素材)とより好適に混合させておくことができる。
【0042】
ある好適な態様では、コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が、親水性シェル層を有している。これにより、耐食性金属薄片に対して及び/又はエアゾール化に使用される噴射剤(例えばジメチルエーテルなどの炭化水素材)に対して、当該親水性シェル層がバリア層として機能し易くなる。つまり、親水性シェル層によって耐食性金属薄片および/またはジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤からコア(好ましくは粒子または粒子コア)が好適に保護され易くなる。換言すれば、本発明に係る水性防錆塗料は、防錆材として上記の耐食性金属薄片を含む塗料であるにも拘わらず、親水性シェル層を有するコアシェル・エマルションに起因して、炭化水素材などの噴射剤と共に用いられたとしても所望のエアゾール化を達成できる。このようにエアゾール品としてエマルション粒子をより好適に保護することから、本発明に係る「親水性シェル層」は、耐エアゾール保護層またはエアゾール化保護層などと称すこともでき、特に、耐食性金属薄片の含有塗料(水性塗料)における耐エアゾール保護層またはエアゾール化保護層などと称すことができる。
【0043】
親水性シェル層は、水分を保持して水膜を成していてよい。エアゾール液として用いられるに際しては、塗料が水で希釈されてよい。ここで、一般の水性エマルションは水で希釈されたとしてもエマルション粒子自体に水分が実質含まれない又は含まれ難いものの、この親水性のシェル層を有するコアシェル・エマルションは希釈すると粒子が水分をより好適に保持し易くなり、その結果、エマルション粒子において水膜のバリア層がより形成され易くなる。よって、耐食性金属薄片および/またはジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤から粒子コアがより好適に保護され易くなる。特定の理論に拘束されるわけではないが、シェルの水膜があたかもクッション層として作用し得ることで、耐食性金属薄片および/またはエアゾール噴射剤に対するバリア(即ち、耐エアゾール保護膜またはエアゾール化保護膜など)として供され易くなるからである。同様に特定の理論に拘束されるわけではないが、ジメチルエーテルに対する耐性についていえば、ジメチルエーテルが疎水性を有するので、ジメチルエーテルと親水性シェル層との間で斥力が働き易くなり、それが粒子コアの保護に資する一因になっているとも推察される。このように、ある好適な態様では、コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子の親水性シェル層が水分を保持して水膜を成すことで、より好適なエマルション安定化がもたらされ得る。
【0044】
本発明の塗料は、あくまでも水性防錆塗料であるにも拘わらず、より好適なエアゾール化に資する塗料となっている。特に、親水性シェル層に起因して、耐食性金属薄片を含んだ水性防錆塗料であるにも拘わらず、エアゾール品としてより経時的に安定に存在することが可能となっている。耐食性金属薄片は、それ自体により高い強度を有しており、持続的にエマルション粒子に対して程度の差はあれ影響を及ぼし得る。特に、水性防錆塗料と共に液化ガスまたは圧縮ガス形態で容器充填される噴射剤が存在すると、そのような圧力下の耐食性金属薄片はエマルション粒子に対して不都合に作用しやすい(つまり、エアゾール品を成すべく容器充填された噴射剤が存在し、水性防錆塗料が容器内において加圧下に付された状態にある場合、水性塗料内の耐食性金属薄片はエマルション粒子に対して特に不都合に作用し得る)。本発明では、コアシェル粒子が親水性シェル層を有するので、この親水性シェル層が耐食性金属薄片の上記悪影響に抗するように作用し得、水性エマルションが経時的により安定化し得る。つまり、水性防錆塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール化が達成され得る。これは、エアゾール化のための噴射剤と共に容器充填された状態であっても、水性防錆塗料が防錆エアゾール品としてより好適な長期貯留性を示すことを意味しており、実際の現実の用途に鑑みると特に有利な効果であるといえる。
【0045】
本発明では、シェル層が親水基を含んで成ることによって、シェル層に親水性がもたらされていてよい。ある好適な態様では、水中で親水性を呈する官能基がシェル層に含まれている。例えば、ノニオン性親水基、カチオン性親水基、アニオン性親水基および/または両性親水基がシェル層に含まれていてよい。あくまでも1つの例示にすぎないが、シェル層がアニオン性親水基を含んでエマルション粒子が構成されていてよい。このような水中で親水性を呈する官能基が含まれる場合、水性防錆塗料中で耐食性金属薄片と共存する水性エマルションのコアシェル粒子の親水性シェル層がより好適なものとなり易く、所望のエアゾール化の点でより安定なエマルションがもたらされ易くなる。例えば、シェル層には、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、およびリン酸基から成る群から選択される少なくとも1種の官能基が含まれていてよい。このようなシェル層の親水基は、常套的な元素分析手法を通じて把握することができる。例えば、シェル層の親水基は、吸光光度計(例えば、日本分光(株)社製のIR7000型)によって、その存在を確認することができる。つまり、親水性シェル層は、水性防錆塗料またはそれから得られる塗膜からのサンプリングを通じて吸光光度計などの光分析によって把握できる。
【0046】
ある好適な態様では、親水性シェル層が親水性のポリマー・シェルとなっており、粒子コアが疎水性のポリマー・コアとなっている。つまり、エマルション粒子は、疎水性ポリマーを少なくとも部分的に又は全体的に囲む親水性ポリマーが粒子外殻を成す粒子となっていてよい。かかる態様において、上述した如く、親水性のポリマー・シェル層は、塗料がエアゾール液として用いられるに際して、より好適に水膜のバリア層を成し易くなり、ジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片から粒子コアがより好適に保護され得る。つまり、エアゾール液として、本発明に係る水性防錆塗料を用いたとしても、エマルション粒子が溶解してゲル化するといった事象が好適に抑制され、結果として、所望のエアゾール品が得られる。
【0047】
例えば、コアシェル粒子のシェル層は、そのベースとなる母材成分と、当該母材成分が呈するイオン性に対してカウンターとなるイオン性を呈する成分とが共存して成る層となっていてよい。例えば、コアシェル粒子のシェル層は、そのベースとなるポリマーと、当該ベースのポリマーが有し得るイオン性に対してカウンターとなるイオン性を有し得るポリマーとが共存する層となっていてよい。かかる場合、粒子シェルにベースとなるポリマーと、対イオン性ポリマー(あるいは“カウンター・イオン”またはそれを有するポリマー)とを共存させたものといえ、それゆえ、ある好適な一態様では水性エマルションとしてアニオンとカチオンの両成分を持つエマルション(端的にいえば、“両性エマルション”)がもたらされ得る。例えば、シェル・ベースのベース・ポリマーがアニオン性を呈し得、カチオン性を呈し得るポリマー部位またはポリマーが当該ベース・ポリマー中に分散して成る層からシェル層が構成されていてもよい。あるいは、シェル・ベースとなるベース・ポリマーがカチオン性を呈し得、当該ベース・ポリマー中にアニオン性を呈し得るポリマー部位またはポリマーが分散して成る層からシェル層が構成されていてもよい。このようなシェル層を有するコアシェル粒子から構成された水性エマルションでは、ジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片から粒子コアがより好適に保護され易くなる。つまり、エアゾール液として、本発明に係る水性防錆塗料を用いたとしても、エマルション粒子が溶解してゲル化するといった事象が好適に抑制され易くなり、結果として、所望のエアゾール品が得られ易くなる。
【0048】
親水性のポリマー・シェル層は、ポリマー・コアよりも分子量が小さいポリマーから構成されていてよい。例えば、親水性のポリマー・シェル層がポリマー・コア(例えば疎水性のポリマー・コア)よりも分子量が1/1000~1/5、1/100~1/5、または1/100~1/10程度と小さいポリマーから構成されていてよい。換言すれば、コアシェル粒子において、ポリマー・コアの分子量(重量平均分子量Mw)は、親水性のポリマー・シェル層の分子量(重量平均分子量Mw)の5倍~1000倍、5倍~100倍、または10倍~100倍などとなっていてよい(ある態様では、10倍~70倍、10倍~60倍、20倍~60倍、30倍~60倍、40倍~60倍などとなっていてよい)。別の切り口で表現すれば、分子量が5000~40000(例えば、5000~30000、5000~25000、10000~30000、10000~25000、または5000~20000)程度の比較的低分子量のポリマーがシェルを構成している一方、分子量が50000以上(例えば、50000~4000000、50000~3000000、50000~2000000、50000~1500000、100000~1500000、300000~1500000、500000~1500000、750000~1500000、または750000~1250000)の比較的高分子量のポリマーがコアを構成していてよい。このような分子量またはそのような分子量関係を有するコアシェル粒子から構成された水性エマルションでは、ジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片から粒子コアがより好適に保護され易くなる。つまり、エアゾール液として、本発明に係る水性防錆塗料を用いたとしても、エマルション粒子が溶解してゲル化するといった事象が好適に抑制され易くなり、結果として、所望のエアゾール品が得られ易くなる。
【0049】
なお、本明細書でいう「分子量」は、重量平均分子量(Mw)と捉えてよく、以下の条件でGPC測定された重量平均分子量とみなしてよい(つまり、単に「分子量」と述べているものは“重量平均分子量”とみなしてよい)。

<分子量(重量平均分子量Mw)のGPC測定>
装置メーカー:日本Waters株式会社
装置名:Alliance e2695
カラム:Shodex KF-606M
カラム温度:40℃
移動相:THF (試薬特級)
流速:0.5mL/min
試料注入量:5.0μL
【0050】
親水性のポリマー・シェル層と、疎水性のポリマー・コアとは、特に制限されるものではないが、例えば架橋構造により互いが結合された構成となっていてよい。つまり、コア部のポリマーとシェル部のポリマーとがそれら母材構成要素とは違う要素(例えば原子、元素および/または分子など)を介して互いに結合されていてよい。換言すれば、架橋剤が配合されることでコアとシェルとが互いに結合したコアシェル・エマルションとなっていてよい。このような架橋構造を有すると、コアシェル粒子にてその一体性がより向上し得る。上述の例でいえば、例えばシェルを成す部分の分子量が上記の如く5000~40000程度の比較的低分子量のポリマーを含み、コアを成す部分の分子量が上記の如く50000~4000000程度の比較的高分子量のポリマーとを含んでおり、それらが架橋元素・成分で互いに結合されていてよい。架橋元素または架橋剤は、特に制限されるものではないが、反応性に富む官能基(エマルション粒子の重合反応に際して反応性に富む官能基)を含むものであってよく、例えば、そのような反応性官能基を含むモノマーであってよい(あくまでも1つの例示にすぎないが、アミノ基および/またはグリシジル基を含むモノマーまたはビニル系モノマーであってよい)。ある1つの態様において、架橋剤がグリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有ビニル系モノマーに相当し、そのようなグリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有ビニル系モノマーを介してコア部とシェル部とが互いに結合して成る構造をエマルション粒子が有していてもよい。
【0051】
コアシェル粒子について、シェル部分を構成するポリマーとコア部分を構成するポリマーとの質量比は、特に制限するわけではないが、1:9~9:1(シェル部分:コア部分)であってよく、例えば2:8~8:2、または3:7~7:3(シェル部分:コア部分)などであってよい。ある好適な態様では、コアシェル粒子について「シェル部分を構成するポリマーの質量」に対する「コア部分を構成するポリマーの質量」の比(すなわち「コア部分を構成するポリマーの質量」/「シェル部分を構成するポリマーの質量」が1より大きくなっている。これにより、水性防錆塗料中で耐食性金属薄片と共存する水性エマルションのコアシェル粒子のシェル層がより好適なものとなり易く、所望のエアゾール化の点でより安定なエマルションがもたらされ易くなる。
【0052】
水性エマルションのコアシェル粒子のサイズは、特に制限されず、水性エマルションに資するものであればどのような大きさであってもよい。あくまでも例示にすぎないが、水性エマルションのコアシェル粒子の平均粒子径は、例えば5~900nmであってよく、10~900nm、10~700nm、10~500nm、20~500nm、50~500nm、または100~900nmなどであってよい。
【0053】
親水性のポリマー・シェルは、親水性を呈するノニオン性、カチオン性、アニオン性および/または両性の官能基ならびに/またはポリマー成分などを含んでいてよい。あくまでも1つの例示にすぎないが、例えばアニオン性官能基を少なくとも含有するアニオン性樹脂を含んで成っていてよい。例えば、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、およびリン酸基から成る群から選択される少なくとも1種のアニオン性官能基を含有する樹脂からポリマー・シェルが構成されていてよい。アニオン性樹脂としては、例えば、上記官能基を含んで成るアクリル樹脂、ウレタン樹脂およびアクリルウレタン樹脂等から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。あくまでも1つ例示であるが、ポリマー・シェルが、例えばアニオン性樹脂とケイ酸またはその塩(例えば有機塩基との塩)とを含んで成るシェルとなっていてもよい。
【0054】
コアシェル・エマルションに含まれるポリマー成分(即ち樹脂成分)のガラス転移温度(Tg)は、0℃~60℃であってよく、例えば10℃~50℃、15℃~40℃または15℃~35℃などであってよい。かかる場合、本発明の一実施形態に係る水性防錆塗料から形成された塗膜は、より優れた防水性を呈し易くなる。コアシェル粒子において、シェル層とコアとの間でガラス転移温度(Tg)が異なっていてよく、シェル層の方がコアよりもTgが高くなっていてよい。例えば、親水性シェル層のTgが、コア部のTgの1.2~5倍、1.2~3倍または1.2~2倍などとなっていてよい。このようなコアシェル粒子から構成された水性エマルションでは、ジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片から粒子コアがより好適に保護され易くなる。つまり、エアゾール液として、本発明に係る水性防錆塗料を用いたとしても、エマルション粒子が溶解してゲル化するといった事象が好適に抑制され易くなり、結果として、所望のエアゾール品が得られ易くなる。
なお、本明細書において「ガラス転移温度(Tg)」は、JIS K 7121に準拠して測定した値であってよい。
【0055】
また、コアシェル・エマルションに含まれるポリマー成分(即ち樹脂成分)の最低造膜温度(MFT)は-20℃~50℃であってよく、例えば0℃~30℃、0℃~20℃、0℃~10℃、または2℃~8℃であってよい。かかる場合、これにより本発明の一実施形態に係る水性防錆塗料は、良好な造膜性を呈し易くなる。
【0056】
水性防錆塗料において、水の含有量は、塗料の全体質量基準で、20質量%~60質量%、例えば30質量%~55質量%、30質量%~45質量%、または35質量%~45質量%などとなっていてよい。かかる水、すなわち、水性エマルションにおける水の種類は、特に制限はなく、例えば、水道水、精製水、脱イオン水、蒸留水および/またはイオン交換水などであってよい。また、水性エマルションの水には、乳化剤が含まれていてよく、同様にその種類に特に制限はない。水性塗料に用いられる乳化剤として一般的な乳化剤が含まれていてよい。なお、本発明の水性防錆塗料では、その水性エマルションの水にアルコールまたはその類が含まれていなくてよい。端的にいえば、本発明では、水混和性極性溶剤などとしてアルコール、グリコールおよび/またはエステルなどが水性エマルションに含まれていなくてよい。
【0057】
ここで、親水性シェル層のコアシェル粒子から構成される水性コアシェル・エマルションは、例えば、水相中においてコア成分がシェル成分に囲まれた状態で重合を行うことによって得ることができる。特に制限されるわけではないが、水中において、重合などによって親水性ポリマーまたはその前駆体をコア成分(好ましくは、疎水性のコア成分のモノマー)の存在下で得る処理を行い、これにより、当該コア成分が親水性ポリマーまたはその前駆体により取り囲まれるようにし、その後、コア成分のモノマー(好ましくは疎水性モノマー)を重合に付すことで水媒体中において親水性シェル部分でコア部分が囲まれたコアシェル粒子を得ることができる。つまり、このような重合処理を通じて親水性シェル層のコアシェル粒子から構成された水性コアシェル・エマルションを得ることができる。重合はラジカル重合であってよく、それゆえ、適当なラジカル重合開始剤が用いられてよい。必要に応じてエマルション化が促進されるべく、攪拌処理を行ってよく、あるいは、乳化剤なども用いられてよい。また、上記重合処理に付す水相中に架橋剤を含ませておいてよく、その場合、エマルション粒子にてシェル部分とコア部分とがより好適に結合した形態が得られ易くなる。例えば、上記疎水性モノマーのコア成分と併せて(又はその成分と混ぜて)、架橋剤を含ませておいてもよい。また、ベース・ポリマーと、当該ベース・ポリマーが有し得るイオン性に対してカウンターとなるイオン性を有し得るポリマーとが共存するシェル層を得る場合には、かかるシェル層形成のための重合に用いるモノマーとしてそのようなイオン性を予め有するモノマーをそれぞれ用いればよい。
本発明において、親水性シェル層のコアシェル粒子から構成された水性コアシェル・エマルションは耐食性金属箔と合わせられ(例えば、適当な攪拌処理が為され)、それによって、水性防錆塗料が得られる。攪拌処理は、特に制限はなく、塗料業界で通常行われている攪拌・混合処理を採用することができる。
また、本発明の水性防錆塗料についていえば、コアシェル・エマルションとして市販されているエマルションを利用してもよい。特に、コアシェル・エマルションとして市販されているエマルションをビヒクルとして本発明の水性防錆塗料に用いてよい。例えば、市販されているコアシェル粒子を含むエマルションであって、粒子シェル層が親水性を呈するものであれば、それを利用してよい。かかる場合、そのようなエマルションと耐食性金属箔とを合わせて攪拌処理することを通じ、水性防錆塗料を得ることができる。なお、ビヒクルとしての水性エマルションと耐食性金属箔との攪拌処理は、特に制限はなく、例えば攪拌速度が10~3000rpm程度および撹拌時間が5分~60分程度であってよい。
【0058】
ある好適な態様では、エアゾール噴射用の水性防錆塗料は、エアゾール液として供されるに際して加えられる希釈用の水(以下、「希釈水」とも称する)を有して成る。かかる場合、水性防錆塗料に対して一定割合の範囲の希釈水量であってよい。たとえば、希釈水として加えられる水量は水性防錆塗料に対して0質量%~60質量%、例えば0質量%~50質量%、0質量%~40質量%、5質量%~40質量%、5質量%~30質量%、5質量%~20質量%、5質量%~16質量%、7質量%~15質量%、または8質量%~15質量%などであってよい(希釈水が加えられる対象となる水性防錆塗料の全体基準)。このように希釈された水性防錆塗料では、コアシェル・エマルションにおけるシェル層がジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片に対するバリア層としてより好適に作用し易くなる。
【0059】
エアゾール品として用いるうえで適し得る粘性に関していえば、水性防錆塗料が、例えば、フォードカップ#4(株式会社 離合社製、No.420)による粘度で10~60秒(室温23±2℃および大気圧条件下)となるような粘性を有していてよい。かかる粘性より下回ると、エアゾールの霧化特性が低下し易くなり、より均一な塗面が得られ難くなる。このような粘性・粘度は、希釈用の水の添加で調整できる。
【0060】
なお、本発明の一実施形態に係る水性防錆塗料は、予め上記希釈水に相当する水を含んでいてもよい。これは、水性防錆塗料における水含有量がある程度多くなっていてよいことを意味している。かかる場合(即ち、水性防錆塗料に希釈水が加えられた場合あるいはそれを加えなくても予め所望の含水分を水性防錆塗料が有している場合)、水性防錆塗料の含水量は、その全体質量基準で、20質量%~90質量%、20質量%~80質量%、または20質量%~70質量%となっていてよい。ある態様では、本発明のエアゾール噴射品として用いるうえで好適な水性防錆塗料は、塗料全体の質量基準で、30質量%~90質量%、30質量%~70質量%、30質量%~60質量%、例えば40質量%~60質量%、または40質量%~55質量%などの含水量を有している。ここでいう「全体質量基準」とは、水性防錆塗料に希釈水が加えられた又は予め加えられている場合ではその加えられた希釈水も含めた水性防錆塗料の全体質量を基準にしており、また、加えなくても予め所望の含水分を水性防錆塗料が有している場合では、その希釈水などが加えられていない状態における水性防錆塗料の全体質量を基準にしている。また、かかる水性防錆塗料は、フォードカップ#4(株式会社 離合社製、No.420)による粘度で10~60秒(室温23±2℃および大気圧条件下)となるような粘性を有していてよい。このような水含有量および/または粘性を有する水性防錆塗料は、エアゾール化に際して噴射剤と混ぜられたとしても(特に、更なる希釈水などの水が追加されず噴射剤と混ぜられたとしても)、エマルション粒子が経時的に溶解してゲル化することが好適に抑制され易くなり、所望のエアゾール化に資する。
【0061】
本発明の一実施形態に係る水性防錆塗料において、塗料全体を100質量部とした場合、コアシェル・エマルション(例えばビヒクルとしてのエマルション)が40~80質量部であってよく、例えば40~75質量部、40~70質量部、40~65質量部、または45~65質量部などであってよい。コアシェル・エマルションが40質量部未満であると耐食性金属薄片、さらには任意の着色顔料を適切に分散させるだけの樹脂量、いわゆるPVC(Pigment Volume Concentration:顔料容積濃度)が限界値を超え易くなり樹脂が顔料粒子を包みきれなくなる傾向が生じ易くなり、顔料凝集が発生し易くなる。一方、コアシェル・エマルションが80質量部を超えると耐食性金属薄片の配合量が相対的に減ることになり、腐食因子の遮断効果が程度の差はあれ減じられ防錆作用が相対的に低下し易くなる。
【0062】
本発明の一実施形態に係る水性防錆塗料において、塗料全体を100質量部とした場合、耐食性金属薄片が5~40質量部となっていてよく、例えば10~40質量部、10~35質量部、10~30質量部、または15~30質量部などであってよい。耐食性金属薄片が5質量部を下回ると塗膜中で配向がなされても腐食因子を遮断する効果が低下し易くなる。一方、耐食性金属薄片が40質量部を超えると好適な配向がなされ難くなり腐食因子を遮断する効果が低下し易くなる。
【0063】
ある好適な態様では、親水性シェル層が、親水性のアクリル層となっている。つまり、親水性シェル層が少なくともアクリルを含んで成る層となっている。これにより、エアゾール液として、より好適な水膜のバリア層が形成され易くなり、ジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤から粒子コアがより好適に保護され易くなる。つまり、エアゾール液として、本発明に係る水性防錆塗料が供されたとしても、エマルション粒子が溶解してゲル化することが好適に抑制され易くなり、所望のエアゾール化を達成し易くなる。例えば、水性アクリルエマルションでは、分子量が5000~40000(例えば、5000~30000、5000~25000、10000~30000、10000~25000、または5000~20000)程度の比較的低分子の親水性アクリル(親水性アクリル・ポリマー)がシェルを構成し、分子量が50000以上(例えば、50000~4000000、50000~3000000、50000~2000000、50000~1500000、100000~1500000、300000~1500000、500000~1500000、750000~1500000、または750000~1250000)の疎水性ポリマー(例えば疎水性アクリル・ポリマー)がコアを構成してよく、架橋成分によってコアとシェルとが結合する構成となっていてよい。かかる場合、親水性のアクリル層としてのシェル部がジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片からコア部がより好適に保護され易くなり、本発明の水性防錆塗料をジメチルエーテルとより好適に混合しておくことが可能になる。
【0064】
ある好適な態様では、エアゾール噴射用の水性防錆塗料のコアシェル・エマルションがアクリル・エマルションとなっている。つまり、コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子がアクリル粒子(すなわち、アクリルを含んで成る粒子)に相当してよく、好ましくは、当該粒子のシェル層が親水性のアクリル層となっていてよい。かかる場合、親水性のアクリルのシェル層が疎水性のアクリルのコアを包囲するようにエマルション粒子が構成されていてよい。
【0065】
コアシェル粒子がアクリル粒子となる水性コアシェル・エマルションは、アクリル・エマルションで構成されてよい。アクリル・エマルションにおけるアクリルの種類は、特に制限はなく、いずれのアクリルであってもよい。例えば、アクリルは、単独重合体であっても、あるいは、共重合体であってもよい。あくまでも例示にすぎないが、アクリルとして、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸誘導体共重合体エマルション、エチレン/メタクリル酸誘導体共重合体エマルション、ポリメタクリル酸誘導体エマルション、スチレン/メタクリル酸誘導体共重合体エマルション等を挙げることができる。メタクリル酸誘導体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、これらのエステルなどの酸誘導体であってよく、少なくともこれらの成分を1種以上含んでいてよい。
【0066】
上記メタクリル酸誘導体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、および、メタクリルアミド等から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。ある好適な態様でいえば、親水性シェル層を有するコアシェル粒子(特にコアシェル・アクリル粒子)は、スチレン-アクリル共重合を含んで成る粒子となっている。
【0067】
なお、水分を含んだバリア層ができうる構造の水性エマルションについていえば、例えばポリゾールAP-6750(昭和電工製)を挙げることができる。しかしながら、親水性シェル層を有するコアシェル・エマルションと比較すると耐性(エアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片に対する耐性)に劣り得るものであり、経時的な観点からも安定性に劣り得る。つまり、耐食性金属箔片を含んだ防錆塗料について、好適にエアゾール化可能なアクリルエマルションは、あくまでも親水性シェル層を有するコアシェル・エマルションが好ましいといえる。
【0068】
なお、コアシェル粒子のシェル層は、そのベースとなるアクリル・ポリマーと、当該ベースのポリマーが有し得るイオン性に対してカウンターとなるイオン性を有し得るアクリル・ポリマーとが共存する層となっていてよい。例えば、シェル・ベースのベース・アクリルポリマーがアニオン性を呈し得、カチオン性を呈し得るアクリル・ポリマー部位またはアクリルポリマーが当該ベース・アクリルポリマー中に分散して成る層からシェル層が構成されていてもよい。あるいは、シェル・ベースとなるベース・アクリルポリマーがカチオン性を呈し得、当該ベース・アクリルポリマー中にアニオン性を呈し得るアクリル・ポリマー部位またはアクリルポリマーが分散して成る層からシェル層が構成されていてもよい。このようなシェル層を有するアクリル・コアシェル粒子から構成された水性エマルションでは、ジメチルエーテル等のエアゾール噴射剤および/または耐食性金属薄片から粒子コアがより好適に保護され易くなる。つまり、エアゾール液として、本発明に係る水性防錆塗料を用いたとしても、エマルション粒子が溶解してゲル化するといった事象が好適に抑制され易くなり、結果として、所望のエアゾール品が得られ易くなる。
【0069】
本発明に係るエアゾール噴射用は、防錆成分として、耐食性金属薄片を含んでいるが、そのような比較的剛性の耐食性金属薄片を含んでいたとしても、経時的に安定化したエアゾール品の形成に資する。上述したように、液化ガスまたは圧縮ガス形態で容器充填された噴射剤が存在していたとしても、水性エマルションの親水性シェル層の存在に少なくとも起因して、耐食性金属薄片へのエマルションへの悪影響が減じられ得るからである。
【0070】
本発明に係るエアゾール噴射用の水性防錆塗料に含まれる耐食性金属薄片は、無機酸化物を更に含んで成っていてよい。特に、防錆材として及び/または顔料として、無機酸化物を更に含んで成っていてよい。特に防錆材として無機酸化物が含まれることで、水性防錆塗料から得られる塗膜の防錆特性がより好ましいものとなり得る。
【0071】
例えば、無機酸化物は酸化亜鉛であることが好ましい(かかる酸化亜鉛は1つまたはそれよりも多い粒子状の形態を有していてよい)。耐食性金属薄片の積層構造に起因した防錆作用に加えて、酸化亜鉛の犠牲防食に起因した素地への防錆作用が付加的にもたらされ得るからである。この場合、本発明の水性防錆塗料は、無機物として防錆成分を含んでいる特徴を有すことになり、特に、2種の異なる無機防錆成分(無機金属薄片および無機酸化物の2種)を含んだ塗料の特徴を有し得る。
【0072】
酸化亜鉛の種類などは、特に制限されない。酸化亜鉛のサイズ・粒径も特段制限されないが、例えば酸化亜鉛の平均粒径は0.1μm以上5μm以下であってよく、例えば0.2μm以上3μm以下、0.2μm以上1μm以下、0.2μm以上0.8μm以下、または0.2μm以上0.5μm以下などであってよい。このような粒径範囲の酸化亜鉛を用いると、耐食性金属薄片の積層構造の形成不良が仮にあった場合でも、その影響を減じて又はその影響が大きくならないように、犠牲防食による素地の防錆効果がもたらされ得る。なお、犠牲防食による防錆作用の発揮の観点と耐食性金属薄片の腐食因子遮断効果を不都合に妨げない観点との双方をより重視すると、水性防錆塗料は、その塗料全体100質量部に対して0.1~5質量部、例えば0.1~3質量部、0.1~2質量部、0.1~1.5質量部、0.1~1.0質量部、0.5~1.5質量部、または0.7~1.3質量部の酸化亜鉛を含んでいてよい。
【0073】
無機酸化物としては、酸化亜鉛に限らず、他の金属の酸化物が含まれていてもよい。より具体的には、無機酸化物は、亜鉛、チタン、アルミニウム、鉄、銅およびジルコニウムから成る群から選択される少なくとも1種の金属成分を含んでなる酸化物であってもよい。
【0074】
なお、本発明に係るエアゾール噴射用の水性防錆塗料では、必要に応じて、酸化チタン、カーボンブラック等の無機系または有機系の顔料が加えられていてもよい。かかる場合、そのような無機系または有機系の顔料の添加後に通常の撹拌分散もしくは練合分散がなされることで塗料化がなされていてよい。
【0075】
さらにいえば、本発明に係るエアゾール噴射用の水性防錆塗料は、水性塗料に一般的に使用される添加剤またはその類を含んでいてよく、例えば、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、表面調整剤および沈降防止剤等から成る群から選択される少なくとも1種が適宜配合されてもよい。例えば分散剤についていえば、それは塗料中において耐食性金属薄片を少なくとも分散させるのに資するものであってよい。そのような分散剤の種類は特に制限されない。例えば、顔料を分散する機能を有する市販の水系分散剤、例えばBYK-151、153、154、155および156、ならびにDISPERBYKシリーズ(BYK-Chemie社)、ディスパロンAQ-320に代表されるディスパロンシリーズ(楠本化成株式会社)、ノプコサントK、ノプコサントR、およびノプコスパース44-Cに代表されるノプコスパースシリーズ(サンノプコ株式会社)などを分散剤として挙げることができる(その他、国内外の市場にて販売されるカチオン系、アニオン系および/またはノニオン系の界面活性剤などを単独使用または混合使用できる)。
【0076】
あくまでも1つの例示であるが、水性防錆塗料は、水性コアシェル・エマルション、耐食性金属薄片(例えばステンレススチール箔)、酸化亜鉛、顔料(例えば酸化チタン)および水の他に、そのような添加剤を含んで成っていてよい(あくまでも例示にすぎないが、表1における添加剤の“その他”は、消泡剤および増粘剤である)。本発明において、添加剤の銘柄および/または品種等は特に制限はない。
【0077】
本発明の防錆塗料は、あくまでも“水性”であるので、媒体として有機溶剤が用いられていない塗料である。よって、本発明の防錆塗料は、好ましくは、塗布後に揮発・揮散する有機溶剤を含んでいない。これにつき、本発明の防錆塗料は、特定化学物質障害予防規則および/または有機溶剤中毒予防規則によって排気設備の設置および/または有機ガス用防毒マスク・送気マスク等の保護具の使用が義務付けられることになる有機溶剤・有機成分などを含んでいない。例えば、本発明の防錆塗料は、芳香族炭化水素を含んでおらず、より好ましくはエチルベンゼン、キシレンおよび/またはトルエン等の有害な芳香族炭化水素を含んでいない。
【0078】
[本発明のエアゾール品]
本発明では、上述の水性防錆塗料を含んで成るエアゾール品も提供される。具体的には、上述のエアゾール噴射用の水性防錆塗料と、エアゾール化のための噴射剤とが容器にて充填されたエアゾール品が提供される。
【0079】
本明細書において「エアゾール品」とは、広義には、噴射剤の作用によって容器内の内容物を容器外へと放出できるものを指している。狭義には、「エアゾール品」は、容器内に仕込まれた噴射剤の圧力を利用して、容器内の内容物を容器外へと霧状および/または泡状に放出できる製品または構造物を指している。
【0080】
本発明に係るエアゾール品は、容器において、エアゾール充填塗料原液に用いられる水性防錆塗料がコアシェル・エマルション(特に、親水性シェル層を含むコアシェル・エマルション)を含んでおり、防錆材として上記の耐食性金属薄片を含んでいる。このように、本発明のエアゾール品では、防錆材として耐食性金属薄片を含んだ防錆塗料が、炭化水素材などの噴射剤と共に用いられているといえども、所望のエアゾール特性を有する。
【0081】
エアゾール品ゆえ、噴射剤は、容器内に仕込まれた噴射ガスに相当し得、あるいは、場合によっては高圧ガスに相当し得る。一般的なエアゾール製品に用いられているものであれば、噴射ガスの種類は、特に制限はない。つまり、容器内に仕込まれている噴射剤は、液化ガスおよび/または圧縮ガスに相当するものであってよい。このような噴射剤が含まれている点でいえば本発明に係るエアゾール品は、ガス圧力噴射品に相当し、いわゆる“霧吹き”のようなハンドスプレー・タイプとは本質的に異なる。
【0082】
本発明のエアゾール品において噴射剤は、炭化水素を含んで成る噴射剤であってよい。かかる炭化水素は、エアゾール塗料原液として一般的に用いられているものであれば、特に制限ない。例えば、エアゾール品において、水性防錆塗料と共に用いられている炭化水素は、液化石油ガス、直鎖エーテルおよびフッ化炭化水素から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。直鎖エーテルとしては、例えばジメチルエーテルを挙げることができる。また別の切り口でいえば、噴射剤の炭化水素は、例えば、炭素原子数1~10のアルキル基を含んでいてよく、例えば、炭素原子数1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、または1~2のアルキル基を含んでいてよい。このようなアルキル基を、より具体的に例示しておくと、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、および/またはn-デシル基等が挙げられる。同様に別の切り口でいえば、噴射剤の炭化水素は、その分子構造にハロゲン原子を含んでいてよく、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)および/またはヨウ素(I)などを含んでいてもよい。
【0083】
エアゾール品に用いられる容器は、エアゾール噴霧のため水性防錆塗料と噴射剤とが共に充填された状態を維持できるものであるならば、いずれの容器であってもよい。例えば、エアゾール品に用いられる容器は、密閉容器であってよい。また、エアゾール品に用いられる容器は、剛性および/または耐圧の容器であってもよく、例えば金属製の容器であってよい。このようなエアゾール化のため容器は、ディップチューブ、バルブ、アクチュエーター、ボタン、ノズル、および/またはキャップなどを備えていてよい。つまり、本発明に係るエアゾール品の内容物以外の要素については特に制限がない。よって、エアゾール製品として一般的に用いられている容器と同じもの又は同様のものを用いることができ、その付属品・関連部材(例えばディップチューブ、バルブ、アクチュエーター、ボタン、ノズルおよび/またはキャップなど)もエアゾール製品として一般的に用いられているものと同じ又は同様であってよい。
【0084】
あくまでも1つの例示にすぎないが、容器は、例えば殺虫剤や化粧品類、グリース等の工業用途品の用途に使用される缶であってよい。水性防錆塗料がより好適に封入されるべく、缶の内面は樹脂コートおよび/またはラミネート加工がされていてよい。また、特に携帯性を重視するならば、例えば容器容量が100~500mLまたは200~400mL前後となっていてよい。さらに、容器内においては内容物の混合に資する球体(特に、剛性の球体)が仕込まれていてもよい。例えば直径が約8mm~約15mmのガラス玉を1つまたはそれ以上(例えば、1~5個、好ましくは1~2個ほど)入れて密閉することで、噴射時に缶を振って内容物を混合して均一させ易くできる。ノズルの口径や形状には特に制限はなく、用途に応じて適宜で使い分けてよい。
【0085】
本発明のエアゾール品は、エアゾール充填塗料原液としての水性防錆塗料が密閉容器にて噴射剤と組み合わされることで得られる。例えば、必要に応じて水で希釈された水性防錆塗料がエアゾール充填塗料原液として密閉容器内において噴射剤(例えば上述の炭化水素)と組み合わされてエアゾール品が供されている。例えば、エアゾール品を得るべく、かかる100質量部のエアゾール充填塗料原液に対して、10~70質量部の噴射剤(例えば上述の炭化水素)が組み合わされてよく、例えば、10~60質量部、10~50質量部、20~50質量部、または30~50質量部の噴射剤(例えば上述の炭化水素)が組み合わされてよい。なお、ここでいう「エアゾール充填塗料原液」とは、エアゾール品を得るべく噴射剤と組み合わされる塗料原液を指しており、既に必要に応じて水で希釈された塗料原液(即ち、エアゾール品に用いるうえで既に所望の含水量を有している水性防錆塗料)を指すものと捉えてよい。
【0086】
本発明のエアゾール品では、エアゾール充填塗料原液に用いられている水性防錆塗料が耐食性金属薄片を含んでいるので、より好適な防錆特性を呈する塗膜を形成でき、そうでありながらも、エアゾール噴射剤からエマルションの粒子コア部がより好適に保護されたエアゾール製品となっている。つまり、耐食性金属薄片を含んでいながらも、本発明のエアゾール品ではエアゾール噴射剤とより好適に混成されたエマルション状態が得られており、所望のエアゾール化に資するものとなっている。
【0087】
本発明のエアゾール品において、上述の水性防錆塗料は希釈水で希釈された塗料として容器に充填されていてよい。つまり、エアゾール品内での塗料の耐性(いわゆる貯蔵安定性など)をより高める目的で、水性防錆塗料が水で希釈されていてよい。なお、希釈しなくても予め所望の含水分を水性防錆塗料が有している場合にはエアゾール化に際して水を加えてなくてもよい。いずれの場合であってもエアゾール品の容器内容物として捉えた場合、水含有量は、そのエアゾール品の容器内容物の全体質量基準で、20質量%~50質量%であってよく、例えば25質量%~50質量%、25質量%~47質量%、26質量%~40質量%、26質量%~35質量%、27質量%~35質量%、28質量%~35質量%または29質量%~35質量%などとなっていることが好ましい。このような水含有量であると、エアゾール噴射塗料において、エマルションが経時的により安定化する効果が向上し得る。つまり、水性防錆塗料から調製されたエアゾール噴射塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール品となり得る。
【0088】
なお、本明細書でいう「エアゾール品の容器内容物」とは、エアゾール品の容器内に仕込まれた物を指しており、端的にいえば、容器内の“塗料混合物”を指している(混合促進または攪拌促進などのため仕込まれ得る“剛性球体”は除く)。典型的には、「エアゾール品の容器内容物」は、上記の“水性防錆塗料”、必要に応じて加えられた任意の希釈水、および、噴射剤から成る混合物を意味している。
【0089】
上述の水性防錆塗料は、例えば、エアゾールに適する溶液粘度であるフォードカップ#4(株式会社 離合社製、No.420)による粘度で10~60秒であってよく、鋼材への塗布性をより重視すると20~40秒(室温23±2℃および大気圧条件下)となるものであってよい。このように粘度となるように必要に応じて水希釈された塗料をエアゾール充填塗料原液とし、それに対して炭化水素を含んで成る噴射剤を加えてエアゾール噴射品としてよい。なお、希釈に用いる水は、水道水、精製水、脱イオン水、蒸留水および/またはイオン交換水などであってよい。
【0090】
本発明のエアゾール品では、その容器内容物の全体質量基準として、樹脂成分の含有量(端的にいえば、エマルション樹脂成分またはエマルション・ポリマー成分であり、特にエアゾール品中のコアシェル・エマルションの樹脂成分・ポリマー成分)が5質量%~50質量%となっていてよく、例えば5質量%~40質量%、5質量%~30質量%、5質量%~20質量%、5質量%~15質量%、7質量%~15質量%または8質量%~15質量%などとなっていることが好ましい。これにより、水性防錆塗料から調製されたエアゾール噴射塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール品となり易い。
【0091】
本発明のエアゾール品では、その容器内容物の全体質量基準として、耐食性金属薄片が5質量%~35質量%となっていてよく、例えば5質量%~30質量%、5質量%~25質量%、5質量%~20質量%、または10質量%~20質量%などとなっていることが好ましい。これにより、水性防錆塗料から調製されたエアゾール噴射塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール品となり易い。
【0092】
本発明のエアゾール品では、その容器内容物の全体質量基準として、噴射剤が10質量%~40質量%となっていてよく、例えば20質量%~40質量%、20質量%~30質量%、または25質量%~30質量%などとなっていることが好ましい。これにより、水性防錆塗料から調製されたエアゾール噴射塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール品となり易い。
【0093】
本発明のエアゾール品では、その容器内容物の全体質量基準として、酸化亜鉛が0.2質量%~1.0質量%となっていてよく、例えば0.2質量%~0.8質量%、0.3質量%~0.7質量%、0.4質量%~0.7質量%、または0.5質量%~0.7質量%などとなっていることが好ましい。これにより、水性防錆塗料から調製されたエアゾール噴射塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール品となり易い。
【0094】
ある1つの好適な態様では、本発明のエアゾール品は、樹脂成分(コアシェル・エマルションの樹脂成分)、耐食性金属薄片、水および噴射剤を含んで成るところ、エアゾール品の容器内容物の全体質量基準で、樹脂成分(ポリマー成分)の含有量が5質量%~15質量%、耐食性金属薄片の含有量が10質量%~20質量%、水の含有量が27質量%~35質量%、噴射剤の含有量が20質量%~30質量%となっていたり、あるいは、樹脂成分(ポリマー成分)の含有量が5質量%~12質量%、耐食性金属薄片の含有量が10質量%~19質量%、水の含有量が27質量%~35質量%(例えば28質量%~35質量%または29質量%~35質量%など)、噴射剤の含有量が20質量%~29質量%などとなっていたりする。このような含有量の場合、水性防錆塗料から調製されたエアゾール噴射塗料であるにもかかわらず、経時的に安定したエアゾール品となり易い。
【0095】
例えば、本発明のエアゾール品は、少なくとも数カ月安定して存在し、その数か月後であっても所望の水性防錆塗料のエアゾール品として好適に使用できる(特に、後述する“エアゾール特性”/“エアゾール作業性”の点で少なくとも好適に使用できる)。例えば、少なくとも製造後1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月、7ヵ月、8ヵ月、または9ヵ月を経過してもエアゾール品として好適に使用でき、ある場合においては、それ以上の期間経過しても(例えば、製造後10カ月経過、12ヵ月経過などおよそ年単位として経過しても)エアゾール品として好適に使用できる。
【0096】
エアゾール品の使用態様については、特に制限ない。例えば、噴霧使用時におけるエアゾール品と対象となる素地との間の離隔距離などは特に制限はない。あくまでも1つ例示にすぎないが、対象となる素地とエアゾール品(より具体的には、その塗料吐出口)との間の距離は、20~40cm程度であってよい。
【0097】
本発明では、エアゾール品の製造方法も提供される。かかる本発明の製造方法は、上記水性防錆塗料と噴射剤とを組み合わせてエアゾール品の容器内容物を得ることを含んで成る。かかる本発明の製造方法では、噴射剤と組み合わされる水性防錆塗料が、「水性エマルションと耐食性金属薄片とを含み、当該水性エマルションがコアシェル・エマルションであって、そのコアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が親水性シェルを有する」ことを特徴とする。
【0098】
噴射剤は、上述したように、炭化水素を含んで成る噴射剤であってよく、かかる炭化水素は、液化石油ガス、直鎖エーテルおよびフッ化炭化水素から成る群から選択される少なくとも1種であってよい。直鎖エーテルは、例えばジメチルエーテル(DME)であってよく、そのような噴射剤としてのDMEは、市販品のものを特に制限なく使用できる(例えば、市販されている状態のDME品を特段の調整なく使用してよい)。このような噴射剤と水性防錆塗料とを組み合わせてエアゾール品を得る手法自体は、特段の制限なく、エアゾール・メーカーによって一般的に行われているエアゾール塗布原料と噴射剤とからエアゾール品を得る手法と同じまたは同様であってよい。
【0099】
本発明の製造方法において、水性防錆塗料は、噴射剤と組み合わされるに先立って、必要に応じて水で希釈されてよい。例えば、フォードカップ#4(株式会社 離合社製、No.420)による粘度で10~60秒、例えば20~40秒(室温23±2℃および大気圧条件下)となるように水で希釈されてよい。
【0100】
本発明のエアゾール品に用いられている“水性防錆塗料”(または本発明のエアゾール品の製造方法に用いられる“水性防錆塗料”)に関する更なる詳細、更なる具体的な態様などその他の事項は、上述の[本発明の水性防錆塗料]にて説明しているので、重複を避けるためにここでの説明は省略する。
【0101】
なお、本発明に係る水性防錆塗料およびエアゾール品の容器内容物の成分や含有量などは、かかる組成物の調製(使用した原料)から原則的に把握でき、特に原料の仕込比などから把握できる。また、塗料および容器内容物を機器分析にかけることで原料成分の定性分析および/または定量分析を行い、それによっても成分の含有(存在)および/またはその含有量などを把握することができる。具体的には、クロマトグラフィー、電気泳動法および/またはゲル濾過法などの「分離分析」、吸光分析および/または発光分析、例えば、可視吸光分析、紫外吸光分析、赤外吸光分析、原子吸光分析、ラマンスペクトル分析、発光分析、および/または蛍光分析などの「光分析」、核磁気共鳴分析および/または電子スピン共鳴分析などの「電磁気分析」、電位差測定法、イオン電極法、および/またはポーラログラフィーなどの「電気化学分析」、あるいは、熱分析などの「他の分析法」を利用することによって塗料およびエアゾール品の容器内容物の成分について定性分析および/または定量分析を行うことができる。使用される分析機器などは、特殊なものでなく、塗料業界の当業者にとって知られているものを用いることができ、それによって、対象となる塗料やエアゾール容器内容物の原料成分に関して定性分析および/または定量分析を行うことができる。
【0102】
以上、本発明の実施態様について説明してきたが、本発明の適用範囲における典型例を示したに過ぎない。したがって、本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の変更がなされ得ることは当業者に容易に理解されよう。
【0103】
例えば、上記説明において、水性防錆塗料をエアゾール品として用いるに際して希釈用の水を加える態様を言及したが、本発明は、必ずしも希釈用の水を要するわけではない。水性防錆塗料が既に所望の水含有量を有していたり、あるいは、所望の粘性・粘度などを既に有する場合においては、そのような“希釈用の水”を用いなくてよい。つまり、エアゾール化に際して、水で希釈されることなく水性防錆塗料が噴射剤と合わせられる態様となってもよい。
【実施例0104】
本発明に関連して試験を実施した。具体的には、実使用に鑑みて水性防錆塗料の好適なエアゾール化について確認すべく実証試験を行った。なお、以下で挙げる実施例及び比較例はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定するものでない。実施例において「%」は特記しない限り質量基準による。
【0105】
実施例1として、水性防錆塗料を調製した。具体的には、表1に示す配合割合となるように以下の塗料成分をディスパーで撹拌して水性防錆塗料を調製した。
【0106】
実施例1
〈水性エマルション〉
実施例1では、水性エマルションとして、コアシェル・エマルションを用い、特にコアシェル粒子が親水性シェル層を有するコアシェル・エマルションを用いた。具体的には、大成ファインケミカル株式会社製のアクリットAKW-107をビヒクルとして用いた。かかる水性コアシェル・エマルションの物性は次の通りである。

・水性コアシェル・エマルション
組成 : スチレン-アクリル共重合エマルション
Tg : 20℃(コア部)、30℃(シェル部)
MFT: 5℃
固形分(ビヒクルとしてエマルションの固形分): 30.0%±1.5 %
粘度 : 50±40 mPa・s
pH : 8.0±1.0
重量平均分子量: 約100万(コア部)、約2万(シェル部)
【0107】
〈耐食性金属薄片〉
耐食性金属薄片として、以下のスチレンスチール箔を用いた。

・鱗片状ステンレススチール箔(東洋アルミニウム株式会社製、RFA4500)
材質 : SUS316L
50%粒子径:28μm
厚さ:0.3μm
アスペクト比:平均2.1(長辺/短辺)
【0108】
塗料の他の成分として以下を用いた。つまり、副成分は以下の通りである。

・酸化亜鉛(顔料)
JIS規格2種相当品(ハクスイテック株式会社製)
平均粒径:0.3μm

・酸化チタン(着色顔料)
二酸化チタン(テイカ株式会社製、TITANIX JR-600A)
密度:4.1g/cm(20℃)
平均粒径:0.2μm

・分散剤
水系分散剤(BYK-Chemie社製、DISPERBYK-2015)
【0109】
得られた水性防錆塗料を水で希釈し、粘度がフォードカップ#4(株式会社 離合社製、No.420)で10~60秒(室温23±2℃および大気圧条件下)になるように調整した。次いで、水性防錆塗料をエアゾール噴射剤と混合した。具体的には、表1に示す配合割合となるように、水性防錆塗料が仕込まれたエアゾール噴射容器に対して以下の炭化水素噴射剤を封入し、エアゾール噴射品として噴射剤混成塗料を製造した。

・炭化水素噴射剤
ジメチルエーテル(CO)
沸点:-23.6℃、
水への溶解度:7.1g/100g(20℃)
【0110】
実施例2~4
塗料成分および希釈水の配合割合を表1の通りに変更した以外は、上記の実施例1と同様に噴射剤混成塗料をそれぞれ製造した。
【0111】
比較例1
水性エマルションとして「コアシェル・エマルションであるものの、コアシェル粒子のシェル層が親水性ではないエマルション(アクリットUW-550CS:固形分35%/大成ファインケミカル株式会社製)」を用いたこと以外は、上記の実施例1と同様に噴射剤混成塗料を製造した(塗料成分の配合割合は表1の通りである)。
【0112】
比較例2
水性エマルションとして「コアシェル・エマルションでないエマルションであって、親水層をエマルション粒子周囲に形成するエマルション(ポリゾールAP-6750:固形分45%/昭和電工株式会社製)」を用いたこと以外は、上記の実施例1と同様に噴射剤混成塗料を製造した(塗料成分の配合割合は表1の通りである)。
【0113】
比較例3
水性エマルションとして「コアシェル・エマルションでないエマルションであって、親水層をエマルション粒子周囲に形成しない一般の汎用アクリルエマルション(ポリゾールAP-691T:固形分55%/昭和電工株式会社製)」を用いたこと以外は、上記の実施例1と同様に噴射剤混成塗料を製造した(塗料成分の配合割合は表1の通りである)。
【0114】
比較例4
耐食性金属薄片を用いなかったこと以外は、上記の実施例1と同様に噴射剤混成塗料を製造した(塗料成分の配合割合は表1の通りである)。
【0115】
表1

【0116】
実施例1~4および比較例1~4の噴射剤混成塗料をそれぞれ用いて、「製造後におけるエアゾール化」、「防錆性」、「耐候性」、「エアゾール貯留性(長期貯留後のエアゾール特性)」をそれぞれ評価した。
【0117】
評価に際しては、70mm×150mm×0.8mmサイズの鋼板(JIS G3141、冷間圧延鋼板)を研磨紙で研磨し、酢酸エチルで脱脂したものを試験片として用いた。かかる試験片は各塗料とも2枚ずつ作成して同時に供試した。

噴射剤混成塗料を封入容器ごと30回振り、容器内のガラス玉で容器内の塗料を撹拌させて試験片に乾燥塗膜が50~80μmとなるように室温下(23±2℃)/大気圧下でスプレー塗装した(容器における塗料吐出口と試験片との間の距離は30cm離した)。なお、容器として以下の仕様のものを用いた。

・容器:60φ×210 D30R M1-13 切削 NET330mL(株式会社 町山製作所製)
・バルブ:A80W24(U)76163(0.6)×180両UC G-207(株式会社 丸一製)
・ワンタッチキャップ:白-215-3(1.0)/ C-151 (株式会社 丸一製)
・撹拌用剛球:ガラス玉(直径12mm/2個)
【0118】
<製造後のエアゾール試験>

製造直後におけるエアゾール作業性を確認すべくスプレー塗装を試みた。具体的には、製造後の短期間(7日以内)の噴射剤混成塗料についてスプレー塗装した時の霧の状態および塗布面の状態を下記の評価基準で判定した。

◎: 霧が非常に細かく(最大の霧液滴※1:1.0μm未満)、均一に塗布されている(表面粗度Rz※2が5μm以上の箇所を含まない)
〇: 霧化が良好(霧液滴:1.0μm以上10.0μm未満を含む)で、正常な塗面が得られる(表面粗度Rzで5μm以上の箇所を含むもののRz10μm未満)
△: 霧化がやや不良(霧液滴:10.0μm以上50.0μm未満を含む)で、塗布面が凹凸化している(表面粗度Rzで10μm以上の箇所を含む)
×: 霧化が不良(最大霧液滴として100μm以上をも含む)、塗布面が均一にならない(表面粗度Rzで10μm以上を含む)もしくは塗膜面が形成されない


※1:霧の液滴は、スプレー噴霧時における容器の塗料吐出口と試験片の間の噴霧体を撮像した画像においてその噴霧体の周縁領域で判断。特に、噴霧体の最外縁から「幅寸法(特に、噴霧方向に対して直交する方向に相当する幅方向寸法であって、容器の塗料吐出口から噴霧方向へと15cm離隔したポイントから当該噴霧方向に直交する方向の幅方向寸法)の1/10の長さ分」内側に至るまでの局所的な周縁領域(画像にて1cm×1cm正方形サイズの局所的な周縁領域)で判断。なお、“噴霧方向”は噴霧のための塗料吐出口における開口面に対して法線(垂直)を成す方向に相当する。

※2:表面粗度に関する「Rz」は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう(JIS B0601:1994参照)。塗膜側面の画像で判断。
【0119】
<防錆性>
「JISK-5600-7-1 塗膜の長期耐久性-耐中性潜水噴霧性」に準じて試験を実施し、下記の評価基準で判定した。なお、試験片を35℃にて60日間、塩水噴霧に曝した後の試験片のスクラッチ部や塗面に生じ得る錆び、ふくれ、剥がれの発生程度を判定した。浸せき期間終了後、試験片を取出して、23℃の室内で1時間乾燥させた後、評価した。

◎: ふくれ及び剥がれ等、塗面に欠陥がみられない、スクラッチ部から錆が発生していない
〇: スクラッチ部に1cm以内の錆の拡がりがみられるものの、塗面に欠陥がみられない
×: ふくれ及び/又は剥がれ等、塗膜に欠陥が発生して、素地の鋼板にさびが発生している
【0120】
<耐候性>
「JISK-5600-7-7 促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)」 に準じて試験を実施し、下記の評価基準で判定した。なお、促進耐候性試験機は7.5kW Xenon NX75(スガ試験機株式会社製)を使用した。なお、かかる耐候性に供試したパネルとして裏面とエッジをマスキング処理したパネルを用いた。

◎: ふくれ、剥がれ、ツヤひけおよび変色等、塗面に欠陥が全くみられない
〇: ツヤひけ及び/又は変色が発生しているものの、ふくれ、割れ及び剥がれ等の塗膜欠陥は発生していない
×: ふくれ及び/又は剥がれ等、塗膜に欠陥が発生して、素地の鋼板にさびが発生している
【0121】
〈長期貯留後におけるエアゾール特性〉
エアゾール貯留性を評価した。特に、長期貯留後におけるエアゾール特性を評価した。かかるエアゾール貯留性/貯蔵性は、現実的な観点から水性防錆塗料をエアゾール塗料として用いる際の重要な指標になる。
具体的には、エアゾール塗料をエアゾール噴射容器に封入して、45℃にて貯蔵し、3か月経過後に室温(23±2℃)まで冷却後、エアゾール作業性を評価した。評価は、上記「製造後のエアゾール試験」と同様に行った。
【0122】
《総合評価》
上記の試験及び評価を総合的に判定し、実施例1~4および比較例1~4の塗料を評価した。

◎: 上記評価項目において×がなく、◎が1つ以上
〇: 上記評価項目において×がなく、◎が1つ未満(全てが〇である)
×: 上記評価項目において×が1つ以上

総合評価として「◎」は、特に、実際の使用の観点からエアゾール品としてより好ましい態様で使用できる。

総合評価として「〇」は、実際の使用の観点からエアゾール品として使用できる。

総合評価として「×」は、実際の使用の観点からは課題があり、エアゾール品として実際の観点から使用できない。
【0123】
結果を以下の表2に示す。
【0124】
表2

【0125】
表2から分かるように、水性エマルションとしてコアシェル・エマルションを含み、該コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が親水性シェル層を有する水性防錆塗料から調製されたエアゾール品は、耐食性金属薄片に起因する防錆特性を供するものでありながらも、実際の使用の観点から好適なエアゾール品であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の塗料は、防錆塗料であるので、防錆が求められる素地に対して用いることができる。特に、有害な有機溶剤を含まない水性防錆塗料であるので、主に閉鎖された空間での鋼材の補修用途などに対して作業者の安全に鑑みて好適に使用できる。このような防錆の対象となる鋼材としては、特に制限するわけではないが、海上や高所に位置する橋梁、鉄塔等の鋼製構造物、船舶や鉄道車両、コンテナ、車両荷台等における鋼材を挙げることができる。
また、本発明の水性防錆塗料は、水性であって、なおかつ防錆成分として金属防錆剤を含んでいるにも拘わらず、エアゾール化を好適に達成できるので、作業者の安全および作業効率の双方に鑑みた塗料として上記“主に閉鎖された空間”における使用に特に適している。
【0127】
なお、本発明に関連するエアゾール噴霧は、単なるスプレー噴霧と本質的に異なるものであり、その点でも産業上有用となり得る。つまり、単なるスプレー噴霧は、特に手動によってスプレー噴霧を行うものであり、塗布の作業効率の点ではエアゾール噴霧に劣る。なぜなら、エアゾール噴霧は、塗料と共に液化ガスまたは圧縮ガス形態で容器に充填されている噴射剤を用いており、その噴射剤の圧力を利用して効率的により勢い良く噴霧させることができるからである。また、手動で行うスプレー噴霧は、そもそもノズル詰まりを引き起こし易く噴霧できなくなったり、噴霧効率が落ちやすいのに対して、噴射剤を利用するエアゾール噴霧はそれが生じにくい。
【0128】
最後に、「特開2016-510082号公報」(特許文献2)および「特開2003-82294号公報」(特許文献3)の開示について付言しておく。
まず特開2016-510082号公報および特開2003-82294号公報は、エアゾール化に触れられているものの、所望の防錆特性を呈する水性防錆塗料に関するものではない。このことは、[本発明の基礎となった知見等]で説明されるように、所望の防錆特性を呈する水性防錆塗料ではエアゾール化が困難であることにも起因し得ると推察される。
例えば、市場にはコアシェル型でない水溶性アクリル樹脂や水溶性ウレタン樹脂のように水可溶の樹脂を使った塗料が販売されている。これらの市場に多く出回っている塗料は、そもそも水可溶であるため、塗膜形成後の耐候性や耐水性が望ましいといえない。よって、主に室内の壁や家具類等水濡れのない、湿気の少ない環境で使用される部位に使用され、風雨に晒される外部環境の使用例は現実には少ない。この点、本発明に係る水性防錆塗料は、そのような外部環境であってもより好適に使用できる。
「特開2016-510082号公報」(特許文献2)に開示されている水性エマルションでのエアゾール化は、対象が防錆用途ではなく、特に発明者らが開発した無機防錆剤または金属防錆剤に相当する「耐食性金属薄片」(例えば鱗片状ステンレススチール箔)が配合されていない。塗料の配合時に撹拌・分散されるに際しては、耐食性金属薄片はエマルション粒子の構造、例えばコアシェル・エマルションのような二層構造を持つ粒子でも破壊する懸念がある。耐食性金属薄片はそれ自体に強度があるため、塗料の撹拌・分散時にシェアをかけても形状が崩れ難いからである。つまり、撹拌シェアがかけられた場合であっても形状が崩れることなく持続的に他の顔料と共にエマルション粒子に対して悪影響を与える懸念が通常ある。そして、塗料製造時に仮に問題が少なくても圧力下で経時的にエマルション粒子に影響を及ぼし得る。特にエアゾール品として噴射ガスと共に封入された場合、経時的に耐食性金属薄片の凝集等によってエマルション粒子への影響が大きくなり得る。また、そもそもエアゾール噴射させる直前にエアゾール缶を強く何回も振る場合があるが、その際にも同様の理由で振る都度にエマルション粒子への悪影響が通常懸念される。これにつき、本発明では、「コアシェル・エマルションにおけるコアシェル粒子が親水性シェル層を有している」ことに少なくとも起因して、そのような悪影響が減じられており、経時的により安定したエアゾール品として供すことができる。