(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128915
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】積層体、積層体の製造方法、及び自動車内装表皮
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20230907BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20230907BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230907BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230907BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B32B5/18
B32B25/08
B32B27/32 Z
B32B27/30 B
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033601
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山内 庸詞
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK03C
4F100AK12C
4F100AK51A
4F100AK51B
4F100AK54C
4F100AL07C
4F100AL09C
4F100AR00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CB00B
4F100DJ01D
4F100EJ55
4F100GB33
4F100HB00E
4F100JA06
4F100JA07
4F100JB16C
4F100JK06
4F100JK12
4F100JL11B
(57)【要約】
【課題】トップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/発泡体層の積層構成を有する積層体において、接着層との接着性に優れる積層体及び積層体の製造方法と、この積層体を用いた自動車内層表皮を提供する。
【解決手段】トップコート層と、接着層と、下記成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層と、発泡体層とを有する積層体。この積層体よりなる自動車内装表皮。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップコート層と、接着層と、下記成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層と、発泡体層とを有する積層体。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、下記成分(E)を含む、請求項1に記載の積層体。
成分(E):スチレン系熱可塑性エラストマー
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー層と発泡体層との間に、更に、加飾層を有する、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体よりなる自動車内装表皮。
【請求項5】
下記成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を形成する工程と、該熱可塑性エラストマー層の少なくとも一方の面に接着剤を含む接着層を形成する工程と、トップコート層を形成する工程とを有する積層体の製造方法。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、下記成分(E)を含む、請求項5に記載の積層体の製造方法。
成分(E):スチレン系熱可塑性エラストマー
【請求項7】
下記成分(A)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)を含む混合物を溶融混練することにより得られる熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を形成する工程と、該熱可塑性エラストマー層の少なくとも一方の面に接着剤を含む接着層を形成する工程と、トップコート層を形成する工程とを有する積層体の製造方法。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(b):ポリアルキレンエーテルグリコール
成分(c):酸及び/又はその誘導体
成分(d):過酸化物
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、下記成分(E)を含む、請求項7に記載の積層体の製造方法。
成分(E):スチレン系熱可塑性エラストマー
【請求項9】
下記成分(A)と成分(B)を含む接着剤層接着用熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、積層体の製造方法、及びこの積層体よりなる自動車内装表皮に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のインストルメントパネルやドアトリムに代表される工業部品の積層体は、熱可塑性エラストマーよりなる層を含む多層の積層体構成となっている。このような積層体は、例えば、表層から順にトップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/発泡体層というような層構成で実用化されている。
このような積層体において接着層と熱可塑性エラストマー層の接着性を向上するための取り組みがされてきた。
【0003】
例えば、熱可塑性エラストマー層の片面に接着層を介してトップコート層を設ける際に、熱可塑性エラストマー層と接着層の接着性を高めるために、熱可塑性エラストマーの表面をコロナ処理等により表面処理を施す工夫が知られている。
【0004】
また、熱可塑性エラストマーに官能基を導入することにより、接着層との接着性を高める技術も知られている。具体的には、オレフィン系樹脂を無水マレイン酸変性させた無水マレイン酸変性ポリオレフィン(特許文献1参照)や、ポリエステル系樹脂にポリテトラメチレンエーテルグリコールを共重合させたポリエステル系熱可塑性エラストマーを、無水マレイン酸変性した変性ポリエステル系エラストマーが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-278956公報
【特許文献2】特開2002-155135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、工程削減によるコスト削減だけでなく、CO2発生量の削減の観点から、コロナ処理等により表面処理を施すことなく、積層体における接着層と熱可塑性エラストマー層との接着性向上が求められている。
しかしながら、特許文献1、2に記載の変性ポリオレフィンや変性ポリエステル系エラストマーを用いた熱可塑性エラストマーでは、接着層との接着性の観点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、トップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/発泡体層の積層構成を有する積層体において、接着層との接着性に優れる積層体及び積層体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、この積層体を用いた自動車内装表皮を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、トップコート層と、接着層と、特定の熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層と、発泡体層とを有する積層体が上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] トップコート層と、接着層と、下記成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層と、発泡体層とを有する積層体。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【0011】
[2] 前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、下記成分(E)を含む、[1]に記載の積層体。
成分(E):スチレン系熱可塑性エラストマー
【0012】
[3] 前記熱可塑性エラストマー層と発泡体層との間に、更に、加飾層を有する、[1]又は[2]に記載の積層体。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の積層体よりなる自動車内装表皮。
【0014】
[5] 下記成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を形成する工程と、該熱可塑性エラストマー層の少なくとも一方の面に接着剤を含む接着層を形成する工程と、トップコート層を形成する工程とを有する積層体の製造方法。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【0015】
[6] 前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、下記成分(E)を含む、[5]に記載の積層体の製造方法。
成分(E):スチレン系熱可塑性エラストマー
【0016】
[7] 下記成分(A)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)を含む混合物を溶融混練することにより得られる熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を形成する工程と、該熱可塑性エラストマー層の少なくとも一方の面に接着剤を含む接着層を形成する工程と、トップコート層を形成する工程とを有する積層体の製造方法。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(b):ポリアルキレンエーテルグリコール
成分(c):酸及び/又はその誘導体
成分(d):過酸化物
【0017】
[8] 前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、下記成分(E)を含む、[7]に記載の積層体の製造方法。
成分(E):スチレン系熱可塑性エラストマー
【0018】
[9] 下記成分(A)と成分(B)を含む接着剤層接着用熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、トップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/発泡体層の積層構成を有する積層体において、接着層との接着性に優れる積層体及び積層体の製造方法を提供することができる。本発明によればまた、この積層体を用いた自動車内装表皮を提供することができる。
【0020】
また、本発明の積層体の製造方法によれば、コロナ処理をせずとも、層間接着性に優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の積層体の一実施形態に係る自動車用インストルメントパネルの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物性値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物性値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0023】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の積層体の熱可塑性エラストマー層を構成する熱可塑性エラストマー組成物(以下、「本発明の熱可塑性エラストマー組成物」と称す場合がある。)について説明する。
【0024】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)と成分(B)を含むものである。
成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(B):酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコール
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(a)~(c)を成分(d)の存在下で反応させてなる熱可塑性エラストマー組成物であることが好適である。
成分(a):オレフィン系熱可塑性エラストマー
成分(b):ポリアルキレンエーテルグリコール
成分(c):酸及び/又はその誘導体
成分(d):過酸化物
なお、上記成分(A)と成分(a)は同義である。以下において、成分(a)を成分(A)として説明する場合があるが、「成分(A)」を「成分(a)」に置き換えてその説明が適用される。同様に、「成分(a)」の説明は「成分(A)」に置き換えて適用することができる。
【0025】
[成分(A):オレフィン系熱可塑性エラストマー]
成分(A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、公知のオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することができる。例えば、ポリプロピレン系重合体、ポリエチレン系重合体等にエチレン・プロピレン・共重合ゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)、エチレン・ブテン共重合ゴム(EBM)、エチレン・プロピレン・ブテン共重合ゴム等を1種又は複数種含んだものが挙げれれる。
【0026】
成分(A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーは、成形性の観点から、ISO 1133(2011年)に準拠した温度230℃、測定荷重49Nでのメルトフローレート(MFR)が通常0.1~50g/10分であり、0.5~40g/10分であることが好ましく、1~35g/10分であることがより好ましい。
【0027】
成分(A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーついて、ISO7619に準拠して測定したデュロ硬度A(15秒後値)は、95以下であることが好ましく、特に20~90の範囲であることがより好ましく、50~80の範囲であることが更に好ましい。デュロ硬度Aが上記下限以上であると、柔軟性が良好であり好ましい。デュロ硬度Aが上記上限以下であると、成形性や加工性が良好であり好ましい。
【0028】
成分(A)の市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製「トレックスプレーン(登録商標)」が挙げられる。
【0029】
これらのオレフィン系熱可塑性エラストマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
[成分(B)]
成分(B)は、酸及び/又はその誘導体により変性された変性ポリアルキレンエーテルグリコールである。
【0031】
変性ポリアルキレンエーテルグリコールは、Macromol.Chem.Phys.197,981-990(1996)で知られているように、ポリアルキレンエーテルグリコール(成分(b))を酸及び/又はその誘導体(成分(c))によりグラフト変性させることで得られる。変性ポリアルキレンエーテルグリコールにおける酸及び/又はその誘導体によるグラフト変性率が高いほど接着性に優れる傾向にある。
【0032】
<成分(b):ポリアルキレンエーテルグリコール>
ポリアルキレンエーテルグリコールは、通常、分子内の主骨格中に1つ以上のエーテル結合を有するポリヒドロキシ化合物である。
【0033】
ポリアルキレンエーテルグリコールの主骨格中の繰り返し単位としては、例えば、1,2-エチレングリコール単位、1,2-プロピレングリコール単位、1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール)単位、2-メチル-1,3-プロパンジオール単位、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール単位、1,4-ブタンジオール(テトラメチレングリコール)単位、2-メチル-1,4-ブタンジオール単位、3-メチル-1,4-ブタンジオール単位、3-メチル-1,5-ペンタンジオール単位、ネオペンチルグリコール単位、1,6-ヘキサンジオール単位、1,7-ヘプタンジオール単位、1,8-オクタンジオール単位、1,9-ノナンジオール単位、1,10-デカンジオール単位及び1,4-シクロヘキサンジメタノール単位等の炭素数1~20の飽和炭化水素基が挙げられる。これらの繰り返し単位の1種のみで単独重合のポリアルキレンエーテルグリコールが形成されていてもよいし、2種以上の繰り返し単位で共重合ポリアルキレンエーテルグリコールが形成されていてもよい。
【0034】
本発明で用いるポリアルキレンエーテルグリコールとしては、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械強度、接着力の観点から、前記繰り返し単位を主骨格中に有するポリアルキレンエーテルグリコールのうち、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、3-メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランの共重合ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルポリオール、エチレンオキサイドとテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルポリオール、プロピレンオキサイドとテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルグリコールが好ましく、中でも、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)がより好ましい。
【0035】
本発明において、ポリアルキレンエーテルグリコールの分子量は特に限定されないが、数平均分子量(Mn)で200~4500、特に200~3000であることが、各種用途への適用において好ましい。
【0036】
なお、ポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分析することができる。本発明では、GPCのキャリブレーションには、英国POLYMERLABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用した。
後掲の実施例及び比較例で使用したポリテトラメチレンエーテルグリコールの数平均分子量(Mn)についてもこの方法で測定した。
【0037】
ポリアルキレンエーテルグリコールは市販品として入手することができる。例えば、三菱ケミカル株式会社製PTMGシリーズやBioPTMGシリーズを用いることができる。
【0038】
ポリアルキレンエーテルグリコールは1種のみを用いてもよく、組成、物性等の異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
<成分(c):酸及び/又はその誘導体>
変性に用いる酸及び/又はその誘導体は特に限定されないが、不飽和カルボン酸が好適に用いられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハイミック酸、シトラコン酸が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩が挙げられる。
【0040】
不飽和カルボン酸の誘導体としては、具体的には、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N,N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムが挙げられる。
【0041】
これらの酸及び/又はその誘導体は1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
これらのうちでは、マレイン酸及び/又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
【0043】
酸及び/又はその誘導体の使用量は、成分(a)(成分(A))のオレフィン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、一方、通常、5質量部以下、好ましくは4質量部以下である。酸及び/又はその誘導体等の使用量が上記下限値以上であれば、後述の熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層と接着剤よりなる接着層との接着性が良好となる傾向にあり、一方、上記上限値以下であれば、未反応物及び副生物の発生の抑制により、得られる積層体において、フィッシュアイ、ブツ等による製品外観の悪化を防止できるとともに、接着性の低下を抑制できる傾向にある。
【0044】
<成分(d):過酸化物>
過酸化物は、成分(B)の変性ポリアルキレンエーテルグリコールのグラフト変性におけるラジカル開始剤として用いられるものである。
【0045】
本発明においては、この過酸化物として、芳香族系有機過酸化物及び脂肪族系有機過酸化物のいずれも使用することが可能である。具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン-3等のパーオキシエステル類;アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類;ジ-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類が挙げられる。
【0046】
以上に挙げた過酸化物は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
これらの中でも、1分間半減期温度が100℃以上であるものがグラフト変性効率の観点から好ましく、具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキシド類、又は、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン-3等のパーオキシエステル類が好ましい。
【0048】
過酸化物の使用量は、成分(b)のポリアルキレンエーテルグリコール100質量部に対して、通常3質量部以上、好ましくは5質量部以上であり、一方、通常、20質量部以下、好ましくは15質量部以下である。過酸化物の使用量を上記下限以上とすることで、グラフト変性を効率的に行うことができ、上記上限以下とすることで、過酸化物の反応残渣による臭気の発生を低減できる。
【0049】
<グラフト変性>
成分(B)の変性ポリアルキレンエーテルグリコールを製造するには、前述の成分(b):ポリアルキレンエーテルグリコールと、成分(c):酸及び/又はその誘導体と、成分(d):過酸化物とを所定の割合で用いてポリアルキレンエーテルグリコールの変性を行う。ポリアルキレンエーテルグリコールの変性は、例えば、ポリアルキレンエーテルグリコールを溶融させて酸及び/又はその誘導体と過酸化物等を添加してグラフト変性させることで行うことができる。また、ポリアルキレンエーテルグリコールを溶媒に溶解させて酸及び/又はその誘導体と過酸化物等を添加してグラフト変性させることで行うことができる。上記の製造法の中では、溶融させて変性させる方法が設備、時間、環境の点で好ましい。
【0050】
溶融させて変性させる方法では、通常、混練機を用いる。混練機としては、バンバリーミキサー(インテンシブミキサー)、加圧式ニーダー、2軸押出機等の混練機を使用することができる。
【0051】
バンバリーミキサーは、混合室内に2本のローターを配置しており、このローターが互いに異なる方向に回転することによって、配合材料を混練し、また、加圧ラムによって、配合材料に圧力を付加することができると共に、ジャケットを介して、配合材料を外部から加熱又は冷却できるように構成されている。
【0052】
加圧式ニーダーは、混合室内に2本のブレードを配置してあり、このブレードが互いに異なる方向に回転することによって、配合材料を混練するようにし、また、加圧シリンダーによって、配合材料に圧力を付加することができると共に、ジャケットを介して、配合材料を外部から加熱又は冷却できるように構成されている。
【0053】
2軸押出機は、シリンダー内に2本のスクリューを配置してあり、このスクリューが同方向又は異方向に回転することによって、配合材料を前後に搬送して圧力を付加しつつ剪断力を付加して混練し、また、シリンダーの外壁をヒーター及び冷却ジャケットで包囲し、配合材料を外部から加熱又は冷却できるように構成されている。
【0054】
混練機を用いる変性は、通常160~350℃程度の温度で、用いた混練機の設定条件に従って行われる。
なお、後述の通り、ポリアルキレンエーテルグリコールの変性は、成分(a)のオレフィン系熱可塑性エラストマーの存在下で行うことができる。
【0055】
<成分(E)スチレン系熱可塑性エラストマー>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は接着性を高める観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)やスチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、これらを水添したスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)やスチレン・エチレン・エチレン・スチレン共重合体(SEEPS)のいずれも使用することができる。本発明では、これらのスチレン系エラストマーを1種又は複数種使用することができる。
【0056】
成分(E)のスチレン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量は限定されないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定したポリスチレン換算の値として、20,000以上であることが好ましく、40,000以上がより好ましい。また500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましい。数平均分子量が上記範囲であると、柔軟性、成形性が良好となる傾向にある。
【0057】
成分(E)のスチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン単位の含有率は限定されないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。一方、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0058】
成分(E)スチレン系熱可塑性エラストマーは市販品として入手することができる。例えばKraton社製「クレイトンGポリマー」やクラレ(株)製「セプトン(登録商標)」シリーズから該当品を選択して用いることができる。
【0059】
[含有割合]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)100質量部に対し、成分(B)を0.1~30質量部含有することが接着性の観点から好ましい。成分(B)の含有量の下限は、安定した接着性発現の観点から、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましい。一方、成分(B)の含有量の上限は、製造時のハンドリングの観点から、25質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい。
【0060】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(E)を含有する場合、成分(E)の含有量は、成分(A)100質量部に対し、1~10質量部であることが接着性の観点から好ましい。成分(E)の含有量の下限は、安定した接着性発現の観点から、0.1質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。一方、成分(E)の含有量の上限は、外観の観点から、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。
【0061】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記した成分(A)(成分(a))、成分(B)、成分(E)以外に本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じてその他の成分を配合することができる。
【0062】
その他の成分としては例えば、充填材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物や炭化水素系ゴム用軟化剤を挙げることができる。これらは任意のものを単独又は併用して用いることができる。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、得られる熱可塑性エラストマー組成物を軟化させ、柔軟性と弾性を増加させるとともに、得られる熱可塑性エラストマー組成物の加工性、流動性を向上させるために、炭化水素系ゴム用軟化剤を含むことが好ましい。
【0064】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられる。特に鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中でも、パラフィン系オイルが好ましい。
【0065】
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は、20センチストークス(cSt)以上であることが好ましく、50cSt以上であることがより好ましく、一方、800cSt以下であることが好ましく、600cSt以下であることがより好ましい。また、炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0066】
炭化水素系ゴム用軟化剤は市販のものを用いてもよい。例えば、JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から適宜選択して使用することができる。
【0067】
炭化水素系ゴム用軟化剤は1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0068】
充填材としては、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、炭酸カルシウム、二酸化チタン、カーボンブラック、窒化ホウ素等を挙げることができる。
これらの充填材は、単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
熱安定剤としては、燐酸、亜燐酸の脂肪族、芳香族又はアルキル基置換芳香族エステルや次亜燐酸誘導体、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルぺンタエリスリトールジホスファイト、ジアルキルビスフェノールAジホスファイト等のリン化合物;フェノール系誘導体、特にヒンダードフェノール化合物;チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、チオジプロピオン酸エステル系等のイオウを含む化合物;スズマレート、ジブチルスズモノオキシド等のスズ系化合物等を使用することができる。
【0070】
ヒンダードフェノール化合物としては、「Irganox1010」、「Irganox1520」(以上、いずれも商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
リン化合物としては、「PEP-36」、「PEP-24G」、「HP-10」(以上、いずれも商品名:株式会社ADEKA製)、「Irgafos168」(商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0071】
イオウを含む化合物としては、ジラウリルチオプロピオネート(DLTP)、ジステアリルチオプロピオネート(DSTP)などのチオエーテル化合物が挙げられる。
【0072】
これらの熱安定剤の含有率は、熱可塑性エラストマー組成物100質量部中の質量割合として、下限が、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、上限は、好ましくは1質量%、より好ましくは0.5質量%である。熱安定剤の質量割合を上記下限以上とすることで、その添加効果を十分に得ることができ、上記上限以下とすることで、その析出を抑制できる。
【0073】
光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系化合物等が挙げられる。具体的には「TINUVIN622LD」、「TINUVIN765」(以上、いずれも商品名:BASFジャパン株式会社製)、「SANOLLS-2626」、「SANOLLS-765」(以上、いずれも商品名:三共株式会社製)が使用可能である。
【0074】
紫外線吸収剤としては、「TINUVIN328」、「TINUVIN234」(以上、いずれも商品名:BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0075】
これらの光安定剤、紫外線吸収剤の含有率は、熱可塑性エラストマー組成物100質量部中の質量割合として、各々、下限が、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、上限は、好ましくは1質量%、より好ましくは0.5質量%である。光安定剤、紫外線吸収剤の含有率を上記下限以上とすることで、その添加効果を十分に得ることができ、上記上限以下とすることで、その析出を抑制できる。
【0076】
着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料などの染料;カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、マイカなどの無機顔料;及びカップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系等の有機顔料等が挙げられる。
【0077】
難燃剤としては、燐及びハロゲン含有有機化合物、臭素あるいは塩素含有有機化合物、ポリ燐酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の添加及び反応型難燃剤が挙げられる。
【0078】
これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
〔熱可塑性エラストマー組成物の製造方法〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーと成分(B)の変性ポリアルキレンエーテルグリコールを上記した混練機等を用いて溶融混練することで得られる。この方法には、変性ポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際に、オレフィン系熱可塑性エラストマー(成分(a))を同時に投入することで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得る方法(1段製造法)、先に変性ポリアルキレンエーテルグリコールを製造しておいて、オレフィン系熱可塑性エラストマー(成分(A))をあとから混合して、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得る方法(2段製造法)がある。また、1段製造法を用いて、変性ポリアルキレンエーテルグリコールを多量に含む本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造し、これをマスターバッチとして使用して、2段目でオレフィン系熱可塑性エラストマー(成分(A))と混合することもできる(マスターバッチ法)。1段製造法とマスターバッチ法の場合、前述の混練機を用いることが好ましく、2軸混練機を用いることがより好ましい。
【0080】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(a):オレフィン系熱可塑性エラストマー、成分(b):ポリアルキレンエーテルグリコール、成分(c):酸及び/又はその誘導体、成分(d):過酸化物を含む混合物を反応させることでも得られる。
前記混合物は、成分(a)100質量部に対し、成分(b)を0.1~30質量部、成分(c)を0.01~5質量部、成分(d)を0.01~3質量部含むことが好ましい。
前記混合物が、更に成分(E)としてスチレン系熱可塑性エラストマーを含む場合には、前記混合物は、成分(a)100質量部に対し、成分(b)を0.1~30質量部、成分(c)を0.01~5質量部、成分(d)を0.01~3質量部、成分(E)を1~10質量部含むことが好ましい。
【0081】
〔成形〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、通常用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、カレンダー成形、中空成形、圧縮成形、真空成形の各種成形方法により、本発明の積層体の熱可塑性エラストマー層に成形することができる。これらの中でも押出成形やカレンダー成形が好適である。また、これらの成形を行った後に積層成形、熱成形の二次加工を行うこともできる。
【0082】
〔積層体〕
本発明の積層体は、少なくとも、トップコート層と、接着層と、前掲の成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層と、発泡体層とを有する。
【0083】
[トップコート層]
熱可塑性樹エラストマー層は、表面における、接着性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性が、他の表皮材である塩化ビニル樹脂などに比べ劣るため、これらの性能向上を目的として塗装を施す必要がある。そのため本発明に係るトップコート層は、積層体の耐傷付き性や耐油性を改善する目的で設けられるもので、表層として設けられる実施形態が好ましい。
トップコート層の厚みは3~20μm程度であることが好ましい。
【0084】
トップコート層に用いられるトップコート剤としては、公知の水性処理剤、油性処理剤が挙げられる。このうち、熱可塑性エラストマー層との良好な接着性を示す油性処理剤が好適に使用される。
【0085】
[接着層]
本発明に係る接着層は、トップコート層と熱可塑性エラストマー層の間に設けられ、トップコート層と熱可塑性エラストマー層にそれぞれ接するように設けられるのが好適態様である。接着層の厚みは3~20μm程度であることが好ましい。
【0086】
本発明に係る接着層は接着剤を含んでいることが好ましい。
接着層に用いられる接着剤としては、エマルジョン系接着剤、溶剤系接着剤が挙げられる。エマルジョン系接着剤としては、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、合成ゴム(SBR、NBR)等が挙げられる。また、溶剤系接着剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、クロロプレン樹脂、合成ゴム(SBR、NBR)、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂などが挙げられる。これらのうち、工業部品の積層体には、良好な密着強度を有する溶剤系の2液硬化型が好ましく、ウレタン系接着剤が好適に使用される。
【0087】
[熱可塑性エラストマー層]
本発明に係る熱可塑性エラストマー層は、前掲の成分(A)と成分(B)を含む本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形することにより形成される。
成形方法としては、上述の成形方法が適用できる。この際、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、後述の通り、別の熱可塑エラストマー、熱可塑性樹脂や各種添加剤、着色剤を加えた混合物を成形に供する場合があるが、当該混合物もまた本発明の熱可塑性エラストマー組成物に包含され、このような混合物から形成されたものも本発明に係る熱可塑性エラストマー層に包含される。
【0088】
[発泡体層]
本発明に係る発泡体層は、積層体に柔軟性を付与する目的で設けられ、熱可塑性エラストマー層に接するよう設けられるのが好適態様である。発泡体には連続気泡体と独立気泡体があるが、独立気泡体が好ましい。さらに独立気泡体の中でも1種または複数のポリオレフィンを含み、それらが電子線架橋されているものが好ましい。
架橋ポリオレフィン系発泡体は、優れた耐熱性及び断熱性を有しているので、従来から、断熱材、クッション材等として広範な分野で使用されている。特に、自動車用途では、天井、ドア、インストルメントパネル、クーラーカバー等の断熱材及び内装材として使用されている。具体的な例として、積水化学工業株式会社製のソフトロンや東レ株式会社製のトーレペフが挙げられる。
【0089】
[加飾層]
本発明の積層体は、更に加飾層を有していてもよい。
本発明に係る加飾層は、積層体の意匠性や視認性を高める目的で設けられ、熱可塑性エラストマー層に接するように設けられる態様が好ましい。
例えば、トップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/加飾層/発泡体層の積層構成で設けられる態様、トップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/発泡体層/加飾層の積層構成で設けられる態様で用いることができる。これらの中でも熱可塑性エラストマー層に接するように設けられる態様、即ち、トップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層/加飾層/発泡体層の積層構成が好ましい。
加飾層の形態としては、絵柄や機能、品番を付与したフィルムやシート状のものが挙げられる。
【0090】
〔積層体の製造方法〕
本発明の積層体の製造方法は、前掲の成分(A)と成分(B)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を形成する工程と、該熱可塑性エラストマー層の少なくとも一方の面に接着剤を含む接着層を形成する工程と、トップコート層を形成する工程とを有するものである。
【0091】
本発明の積層体の製造方法はまた、前掲の成分(A)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)を含む混合物を溶融混練することにより得られる熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を形成する工程と、該熱可塑性エラストマー層の少なくとも一方の面に接着剤を含む接着層を形成する工程と、トップコート層を形成する工程とを有するものである。
【0092】
本発明の積層体の成形方法には特に制限はないが、押出成形もしくはカレンダー成形が適用される。
【0093】
<熱可塑性エラストマー層を形成する工程>
熱可塑性エラストマー層を形成する工程は、例えば、押出成形やカレンダー成形が選定される。所望の硬度や色に調整するために、本発明の熱可塑性エラストマー組成物単独もしくは、別の熱可塑エラストマー、熱可塑性樹脂や各種添加剤、着色剤等を予め混合し成形に供す場合もある。
【0094】
このようにして得られた熱可塑性エラストマー層の表面を接着層等との密着性を向上させるために、必要に応じてコロナ処理してもよいが、工程削減によるコスト削減や、CO2発生量の削減の観点から、コロナ処理をしないことが好ましい。
【0095】
<接着層を形成する工程>
接着層を形成する工程は、例えば、熱可塑性エラストマー層に前述の接着剤を塗布することにより行われる。接着剤の塗布には、ナイフコータ、ロールコータ、スプレー、刷毛、ローラー等を適宜採用することができる。
【0096】
<トップコート層を形成する工程>
トップコート層を形成する工程は、例えば、上述の接着層にトップコート剤を塗布することにより行われる。トップコート剤の塗布にも、ナイフコータ、ロールコータ、スプレー、刷毛、ローラー等を適宜採用することができる。
【0097】
<発泡体層を形成する工程>
発泡体層を形成する工程は、上記によって得られたトップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層を有する構造体と発泡体とを加熱や接着剤等とにより密着させることにより行われる。
【0098】
<加飾層を形成する工程>
加飾層を形成する工程は、例えば、上記によって得られたトップコート層/接着層/熱可塑性エラストマー層を有する構造体と、フィルムやシートなどの加飾層とを接するようにして行われる。
【0099】
〔自動車内装表皮〕
本発明の積層体は、特に自動車用インストルメントパネルもしくはドアトリムのような自動車内装表皮に好適に用いられる。
【0100】
図1は、自動車用インストルメントパネル(10)の一例の模式的断面図であり、符号(1)はトップコート層、(2)は接着層、(3)は熱可塑性エラストマー層、(4)は加飾層、(5)は発泡体層を表す。
上記の自動車用インストルメントパネル(10)の熱可塑性エラストマー層(3)には前述の本発明の熱可塑性エラストマー組成物が使用される。
【実施例0101】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0102】
[原材料]
以下の実施例・比較例で使用した原材料は以下の通りである。
【0103】
<成分(A)(成分(a))>
オレフィン系熱可塑性エラストマー/三菱ケミカル株式会社製トレックスプレーン(登録商標)TT1001N(オレフィン系樹脂のマトリックス中にオレフィン系ゴムを分散させた熱可塑性エラストマー)
MFR:22g/10分(測定条件:230℃、荷重49N)
デュロ硬度A:66(測定条件:ISO7619)
【0104】
<成分(b)>
ポリテトラメチレンエーテルグリコール/三菱ケミカル株式会社製PTMG250
数平均分子量:225
【0105】
<成分(c)>
無水マレイン酸/和光純薬株式会社製特級試薬
【0106】
<成分(d)>
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物/化薬ヌーリオン株式会社製トリゴノックス101-40C
【0107】
<成分(E)>
スチレン系熱可塑性エラストマー/Kraton社製G1651H
数平均分子量:253,000
スチレン含有率:33質量%
【0108】
[評価方法]
以下の実施例・比較例の熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
【0109】
<接着強度>
熱可塑性エラストマー組成物を用いて、プレス成形機(油圧ジャッキ式加熱・冷却プレス200×200mm、東洋精機製作所製)を使用して200℃で厚さ1mmのシートを成形した。成形シート表面をコロナ処理したのち、速やかにコロナ処理された成形シート表面にウレタン樹脂よりなる接着剤であるレザロイドLU-4304(大日精化株式会社製)100質量部とレザロイドLU-3017(c)(大日精化株式会社製)5質量部の混合液をバーコーターで約10μmの厚みとなるように塗り、80℃のオーブン中で6時間乾燥し、さらに室温で24時間静置した。その後、接着剤が塗布された面にポリウレタンテープ(幅12mm)を熱ラミネート接着させ、試験片1とした。
また、コロナ処理を行わず、上記と同様に接着層を形成し、ポリウレタンテープを接着させた試験片2も作成した。
得られた試験片1と2について、ISO8510-2:1990の規格を参考に、島津製作所製オートグラフAG2000を用い、180度剥離試験法(試験速度50mm/min、剥離距離約50mm、最大試験力を測定)にてテープとシートの接着強度を測定した。
この剥離強度から熱可塑性エラストマー組成物よりなるシートと接着剤との接着性を評価した。
また、接着強度測定後の試験片剥離面を剥離モードとして観察した。熱可塑性エラストマー組成物シートとポリウレタンテープとの界面付近で剥離してる場合は界面剥離と評価した。また、熱可塑性エラストマー組成物シートが破壊している場合は材料破壊と評価した。本評価において材料破壊は、界面剥離する場合と比較して、熱可塑性エラストマー組成物よりなるシートと接着剤との接着性が強いことを意味する。
【0110】
[実施例/比較例]
<実施例1>
成分(A)100質量部に対して、成分(b)1.8質量部、成分(c)1質量部、成分(d)0.2質量部を、小型混練機(東洋精機製作所製ラボプラストミル20C-200、ミキサーR-60H)の温度設定160℃の状態で投入し、ローター回転数20rpmで均一化行った後、温度180~210℃の範囲で昇温させ、ローター回転数100rpmの条件で5分混練を行い、成分(A)と成分(c)の無水マレイン酸により変性された変性ポリテトラメチレンエーテルグリコールを含む熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを用いて接着強度の評価を実施した。結果を表-1に示す。
【0111】
<実施例2~3及び比較例1>
表-1に示す配合にした以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを用いて、実施例1と同様に評価した。評価結果を表-1に示す。
【0112】
【0113】
<評価結果>
表-1に示す通り、実施例1~3は、試験片1と試験片2のいずれにおいても、比較例1と比べて接着性に優れるものであった。実施例1~3の試験片2の結果と比較例1の試験片1の結果とを比較すると、実施例1~3では、従来技術である比較例1と同等の接着性が得られていることが確認できた。これより実施例1~3ではコロナ処理を施すことなく実用的な接着性を得ることができることがわかる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる熱可塑性エラストマー層を有する本発明の積層体は接着性に優れることから、自動車部品(ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、ホース、アームレスト、インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールリッド、マット)に用いることができる。特に、自動車用インストルメントパネルやドアトリムとして工業的に有用である。また、コロナ処理を行わなくても十分な接着力を有するため、積層体の製造工程におけるCO2削減に寄与できる。