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特開2023-128921エレクトロスラグ溶接方法、エレクトロスラグ溶接装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128921
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】エレクトロスラグ溶接方法、エレクトロスラグ溶接装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 25/00 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
B23K25/00 N
B23K25/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033610
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 亮
(57)【要約】
【課題】エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能な構成を提供する。
【解決手段】エレクトロスラグ溶接方法であって、エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を有することを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項2】
前記制御工程において、前記特徴量の値が大きいほど前記フラックスの散布量を増加させる、ことを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項3】
前記制御工程において、前記閾値は、前記第2の周期における制御タイミングに対応する所定の値が設定される、ことを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項4】
前記制御工程において、前記フラックスの散布量は、前記第2の周期における制御タイミングに応じて異なる、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項5】
前記算出工程において、前記所定の周波数帯域の値の平均を前記特徴量として算出する、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項6】
前記算出工程において、前記所定の周波数帯域の値の積分を前記特徴量として算出する、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項7】
前記算出工程において、前記変換工程にて導出された周波数成分の値から、溶接電源のスイッチング周波数、前記スイッチング周波数の高調波、ワイヤの曲がり癖またはトーチの揺動に起因する物理量の変動の周波数成分のうちの少なくとも一つの周波数成分の値を除去して、前記特徴量を算出する、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項8】
前記制御工程において更に、スラグ浴の上面を検出する検出器の検出結果に基づいて、フラックスの散布を制御する、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項9】
装置本体と、溶接電源と、を備えるエレクトロスラグ溶接装置であって、
前記装置本体は、
走行台車と、走行台車制御装置とフラックス供給装置と、フラックス供給制御装置と、を有し、
請求項1~8のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法を行うエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項10】
コンピュータに、
エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ溶接方法、エレクトロスラグ溶接装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船や鉄骨建築分野における構造物製造においては、立向溶接が行われている。この立向溶接には、例えば、溶融スラグのジュール熱を熱源とするエレクトロスラグ溶接(ESW)が用いられ、自動化が進められている。エレクトロスラグ溶接は、露出したアークではなく溶融スラグ内で熱が発生してワイヤ及び母材を溶融するので、アーク放射熱が発生せず、またヒューム、スパッタの発生も少なく、作業環境の改善に適している。また、溶融スラグで溶接金属を大気から遮蔽するのでシールドガスが不要であり、板厚が大きくなってもシールド効果が劣化することがなく、大気に存在する窒素などの溶融金属内への侵入を板厚に関係なく効果的に防止できる。そのため、溶接金属の機械的性質が良好である。
【0003】
エレクトロスラグ溶接は、溶融プールと母材溶融部が溶融スラグで覆われている。スラグ浴深さは、溶接時における溶接ワイヤの溶け込みなどに影響を与え、安定した溶接を実現するためには、一定に保つことが望ましい。しかし、スラグ浴深さは、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ突出し長などの比較的管理しやすいパラメータと比べて、測定することが難しい。そのため、例えば、スラグ浴深さを一定に保つためのフラックスを供給するタイミングなどを制御することが難しい。
【0004】
例えば、特許文献1では、コンタクトチップ先端からスラグ浴までの溶接ワイヤの長さが所定の長さとなるようにフラックスを供給しつつ、走行台車の走行速度を調整して、スラグ浴深さを所定の深さに保ちながら溶接を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6460910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のエレクトロスラグ溶接装置は、溶融スラグ浴検出器を走行台車に設け、溶融スラグ浴を検出している。このようにスラグ浴深さを直接検出する検出器を設ける場合、エレクトロスラグ溶接という高温環境下における耐久性を考慮した構成が必要となり、そのためのコストが生じる。例えば、検出器に対する冷却機能や、検出端子における加工なども必要となる。また、検出端子の冷却性能が強すぎる場合は、端子表面にスラグが固化・付着し、適切にスラグ浴が検出できなくなる。更に、溶接トーチを検出端子から離して設置する場合、スラグ浴が検出端子に触れても検出端子付近での電位が低いため、スラグ検出が出来なくなる。また、溶接中に検出器を破損した場合も、適切にスラグ浴が検出できなくなる。
【0007】
本願発明では、上記課題を鑑み、エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能な構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明は以下の構成を有する。すなわち、エレクトロスラグ溶接方法は、
エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を有する。
【0009】
また、本願発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、エレクトロスラグ溶接装置は、
装置本体と、溶接電源と、を備え、
前記装置本体は、
走行台車と、走行台車制御装置とフラックス供給装置と、フラックス供給制御装置と、を有し、
エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を有するエレクトロスラグ溶接方法を行う。
【0010】
また、本願発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、プログラムは、
コンピュータに、
エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願発明の一実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図。
図2】本願発明の一実施形態に係るエレクトロスラグ溶接を用いた溶接装置の構成例を示す図。
図3A】スラグ浴の深さに応じた電圧の波形を説明するためのグラフ。
図3B】スラグ浴の深さに応じた電圧の波形を説明するためのグラフ。
図3C】スラグ浴の深さに応じた電圧の波形を説明するためのグラフ。
図4】本願発明の一実施形態に係る周波数特性導出処理のフローチャート。
図5】本願発明の一実施形態に係るフラックス散布判定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本願発明に係る一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
[溶接システムの概要]
本実施形態の制御方法で用いられるエレクトロスラグ溶接装置500(以下、溶接装置という)の全体概要について説明する。図1は、本実施形態に係る溶接装置500の構成例を示す概略図である。溶接装置500は、装置本体100、溶接電源200、ワイヤ送給装置300、および操作箱400を含んで構成される。装置本体100と、そのほかの各装置は、電源ケーブルや信号ケーブルなどの各種ケーブルを介して接続される。
【0016】
(装置本体)
図2は、本実施形態に係る装置本体100の構成例を示す概略図である。図2にX軸、Y軸、Z軸の3軸からなる座標系を示す。X軸は母材3の板厚方向、Y軸は一対の母材が並ぶ方向、即ち、母材3の表面に沿った水平方向、Z軸は母材3の溶接線に沿った方向、即ち上下方向である。
【0017】
図2に示すように、本実施形態に係る装置本体100は、固定の銅当て金1、溶接用摺動銅当て金13(以下、銅当て金13とも称する)、溶接トーチ4、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、走行台車16、および走行台車制御装置17を備える。
【0018】
装置本体100において、鋼板である一対の母材3の開先の裏側には固定の銅当て金1が配置されており、開先の表側には銅当て金13が配置される。ここで、裏側の銅当て金1の代わりに、耐熱性のセラミックから構成される裏当て材を用いてもよい。また、表側の銅当て金13は、上下方向に摺動する銅当て金であり、例えば、水冷により冷却されている。なお、本実施形態では、溶接用摺動銅当て金13の材質として銅を挙げているが、銅に限定されるものではなく、一般的に熱伝導性能が良い材質であれば、当て金に用いられる材質は特に問わない。本実施形態では、便宜上、固定の銅当て金1が配置されている方を「開先の裏側」、溶接用摺動銅当て金13が配置されている側を「開先の表側」とするが、開先の両側に溶接用摺動銅当て金13を配置しても構わない。
【0019】
溶接トーチ4は、溶接電源200から供給される溶接電流8により溶接ワイヤ6に給電して母材3を溶接する。また、溶接トーチ4は、コンタクトチップ5を有しており、コンタクトチップ5は、溶接ワイヤ6を案内するとともに溶接ワイヤ6に溶接電流8を供給する。
【0020】
母材3、銅当て金1、および銅当て金13に囲まれた開先内に、溶接トーチ4のコンタクトチップ5の先端から溶接ワイヤ6が送給され、開先内に形成された溶融スラグ浴7内に送り込まれる。溶接電流8は、溶接ワイヤ6から溶融スラグ浴7を通して溶融金属9に流れる。このとき、溶融スラグ浴7を流れる溶接電流8及び溶融スラグ浴7の抵抗により、ジュール熱が発生し、溶接ワイヤ6及び母材3を溶融しながら溶接が進行する。
【0021】
溶接用摺動銅当て金13は、立向溶接が進むにつれて、開先の表側の面に沿って上側に移動する。フラックス供給装置14は、溶融スラグ浴7にフラックス12を散布することで供給する。フラックス12は溶融して溶融スラグになるため、フラックス12を供給することにより、溶融スラグ浴7の量、すなわち、深さが増加することとなる。
【0022】
フラックス供給制御装置15は、フラックス供給装置14の動作を制御し、溶融スラグ浴7に供給されるフラックス12の量を調整する。フラックス供給制御装置15は、溶融スラグ浴7の深さを調整するために、フラックス12を供給するようにフラックス供給装置14を制御する。フラックスを供給するタイミング等の制御については後述する。
【0023】
溶接が進行するにつれて、溶融金属9は冷却されて溶接金属10となり、溶融スラグ浴7の一部は、銅当て金1と溶接金属10との間、及び銅当て金13と溶接金属10との間に形成された溶融スラグ層となり、この溶融スラグ層が冷却されて固化スラグ11となる。このようにして、溶融スラグ浴7は、その一部がビード表面を覆う固化スラグ11となるので、溶接の進行につれて消費され、溶融スラグ浴7の深さLsが減少していくことになる。この溶融スラグ浴7の減少を補うためには、溶融して溶融スラグ浴7となるフラックス12を追加供給する必要がある。
【0024】
ビード表面を覆う固化スラグ11の量は、ビード幅や溶接開先の幅によって変動する。また、固化スラグ11の量は、銅当て金1や銅当て金13と、母材3との密着度合や、銅当て金1や銅当て金13の冷却状態によっても変動する。そのため、固化スラグ11の量は一定ではなく、溶融スラグ浴7の深さLsを一定に保つためには供給するフラックス12の量も変化させる必要がある。しかしながら、溶融スラグ浴7の深さLsがわからないために、フラックス12の供給量が適切でない場合には、溶融スラグ浴7の深さLsが変動することになる。
【0025】
本実施形態では、溶融スラグ浴7の深さLsを一定にするための制御を行う。ここで、一定とは、溶融スラグ浴7の深さLsが常に1つの値になる場合に限られず、誤差を考慮して溶融スラグ浴7の深さLsが一定の範囲内の値を示す場合も含まれる。すなわち、溶融スラグ浴7の深さLsは、予め定めた深さの範囲内にて維持されるように制御される。ここで、コンタクトチップ5の先端から溶融スラグ浴7の上面までを、溶接ワイヤ長Ld(以下、ドライエクステンションLdと称する)とする。これはコンタクトチップ5の先端が一般的に溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5間の通電位置になっていることを前提としたものである。例えば、コンタクトチップ5の先端が、セラミック等で保護され、コンタクトチップ5の先端より上方で溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5の通電部分を設けている場合は、この通電部分の位置がドライエクステンションLdを決める基準となる。
【0026】
走行台車16は、溶接トーチ4、溶接用摺動銅当て金13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、および走行台車制御装置17を搭載して構成される。走行台車16は、溶接しながら、不図示のレール上を上方向、即ち、Z軸方向に移動することで、装置本体100を昇降させる。すなわち、走行台車16は、溶接トーチ4、溶接用摺動銅当て金13、フラックス供給装置14、フラックス供給制御装置15、および走行台車制御装置17と一体となって移動するため、それぞれの相対的な位置関係は変わらない。走行台車16が上昇することにより、Z軸方向に沿って立向溶接が行われる。
【0027】
走行台車制御装置17は、走行台車16の走行速度を増減させて、走行台車16の動作を制御する。フラックス供給制御装置15は、後述する制御方法を用いて制御量を導出してフラックス供給装置14に出力することで、フラックス供給量を制御する。
【0028】
走行台車16に備えられる各種制御装置は、処理部および記憶部から構成される。処理部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)により構成される。また、記憶部は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性や不揮発性のメモリにより構成される。処理部が、記憶部に記憶された電源制御用のコンピュータプログラムを実行することにより、各種制御処理を実現する。
【0029】
[スラグ浴深さと電圧の関係]
図3A図3Cを用いて、溶接電圧とスラグ浴深さの関係について説明する。本例では、スラグ浴の深さとして、「浅い(10~14mm)」、「適切(25mm)」、「深い(37mm)」の3つの例を挙げて説明する。なお、ここでのスラグ浴深さの分類は一例であり、装置構成等に応じて、適切な溶接のために制御すべきスラグ浴深さは異なる。ここでは、溶接電源200から供給される電圧の値は一定であるものとして説明する。
【0030】
図3Aは、スラグ浴の深さが「浅い」場合の周波数特性を示す。図3Aは、スラグ浴を10~14mmとした状態にて溶接を行った際の溶接電圧の値を測定し、FFT(Fast Fourier Transform)処理を行うことで得られた波形を示している。横軸は周波数[Hz]を示し、縦軸は振幅を示す。
【0031】
図3Bは、スラグ浴の深さが「適切」である場合の周波数特性を示す。図3Bは、スラグ浴を25mmとした状態にて溶接を行った際の溶接電圧の値を測定し、FFT処理を行うことで得られた波形を示している。横軸は周波数[Hz]を示し、縦軸は振幅を示す。
【0032】
図3Cは、スラグ浴の深さが「深い」場合の周波数特性を示す。図3Cは、スラグ浴を37mmとした状態にて溶接を行った際の溶接電圧の値を測定し、FFT処理を行うことで得られた波形を示している。横軸は周波数[Hz]を示し、縦軸は振幅を示す。
【0033】
図3A図3Cに示すように、スラグ浴の深さに応じて、溶接電圧の周波数特性が異なる。特に、スラグ浴の深さが浅い方が波形の変動が大きく、スラグ浴が深くなるにつれて波形の変動が小さくなる。つまり、スラグ浴が浅くなるにつれて、ノイズが多くなるという傾向がある。なお、図3A図3Cに示す縦軸の目盛り幅は、いずれも同じである。
【0034】
本実施形態では、図3A図3Cに示すようなスラグ浴の深さに応じて変化する周波数特性に基づいてスラグ浴の深さ、すなわち、スラグ浴の状態を推定し、その結果に応じてフラックスの供給を制御する。なお、本実施形態では、溶接電圧を用いて処理を行う例を示すが、溶接電流でも同様の特徴が現れるため、溶接電流を用いて処理を行ってもよく、所定の物理量を用いることができる。
【0035】
[処理フロー]
(周波数特性導出処理)
図4は、本実施形態に係る周波数特性導出処理のフローチャートを示す。本処理フローは、フラックス供給制御装置15により、フラックス散布の制御に用いるための周波数特性を導出するための処理である。本処理フローにより、図3A図3Cに示したような波形の周波数特性を導出することができる。本処理フローは、例えば、フラックス供給制御装置15が備える処理部が、対応するプログラムを記憶部から読み出して実行することにより実現される。図4に示す処理フローは、溶接動作の開始とともに開始され、溶接動作が行われている間継続して実行される。また、溶接電圧は、溶接電源200により適時供給される。また、処理の開始に伴って、計時部により計時が行われる。
【0036】
S401にて、フラックス供給制御装置15は、カウンタMを初期化する。カウンタMは、溶接電圧の値を記憶した回数、すなわち、溶接電圧の値を測定した回数を示し、初期値を0とする。
【0037】
S402にて、フラックス供給制御装置15は、所定の実行タイミングAに達したか否かを判定する。ここでの実行タイミングAは、前回の溶接電圧の値の記憶から経過した時間に相当する。例えば、数μ秒ごとに溶接電圧の値の記憶を行うように設定してよく、より具体的には2000μ秒などが実行タイミングAを判断する際の値として設定されてよい。実行タイミングAに達した場合、すなわち、前回の溶接電圧の値の記憶から所定の時間が経過した場合(S402にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理は、S403へ進む。一方、実行タイミングAに達していない場合(S402にてNO)、フラックス供給制御装置15は、実行タイミングAに達するまで待機する。
【0038】
S403にて、フラックス供給制御装置15は、カウンタMの値を参照し、溶接電圧の値の記憶、すなわち、測定した回数がm回目か否かを判定する。ここでのmの値は特に限定するものでは無いが、例えば、m=256が設定されてよい。M=mの場合(S403にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS406へ進む。一方、M≠mの場合(S403にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS404へ進む。
【0039】
S404にて、フラックス供給制御装置15は、その時点の溶接電圧の値を記憶する。溶接電圧の値は、電圧センサにより検出して取得してよい。
【0040】
S405にて、フラックス供給制御装置15は、カウンタMの値を1インクリメントする。その後、フラックス供給制御装置15の処理はS410へ進む。
【0041】
S406にて、フラックス供給制御装置15は、ここまでに測定した溶接電圧の値に基づく波形に対し、FFT処理を実行する。
【0042】
S407にて、フラックス供給制御装置15は、S406のFFT処理により得られた波形から直流成分(DC成分)と不要な周波数成分を除去する。S406にて得られる波形には、溶接電源200のスイッチング周波数と、その高調波が含まれている。より精度の高い制御を行うためには、これらの成分を除去する必要がある。除去すべき成分は、例えば、事前に無負荷電圧において測定を行い、これをFFT処理することで算出しておくことができる。除去すべき成分については、例えば、ワイヤの曲がり癖やトーチの揺動、すなわち、オシレートなどに起因する電圧変動など他の要因に起因する成分が含められてもよい。
【0043】
S408にて、フラックス供給制御装置15は、S407の処理結果を用いて、周波数成分の特徴量を算出する。本実施形態では、特徴量として所定の周波数帯域の振幅の平均を用いる。図3A図3Cを用いて説明したように、スラグ浴が浅いほどノイズが多くなるため、S407の処理結果にて示される振幅の値も高くなる傾向がある。この振幅の平均を平均ノイズ電圧とも称する。平均ノイズ電圧を導出するための周波数帯域の範囲は、予め規定されていてよい。例えば、10~500Hzの範囲を対象として振幅の平均値を求めてよい。また、平均ノイズ電圧を算出する場合、上記周波数帯域において、1Hz当たりの振幅の値から導出してもよい。なお、本実施形態では、特徴量を算出するために平均を用いる例を示すが、これに限定するものではなく、例えば、積分を用いてもよい。フラックス供給制御装置15は、算出した特徴量を記憶する。なお、算出した特徴量は、最新の値のみを保持していてもよいし、履歴として過去の値も保持していてもよい。
【0044】
S409にて、フラックス供給制御装置15は、カウンタMの値を初期化する。その後、フラックス供給制御装置15の処理はS410へ進む。
【0045】
S410にて、フラックス供給制御装置15は、溶接が終了したか否かを判定する。溶接が終了した場合(S410にてYES)、本処理フローを終了する。溶接が終了していない場合(S410にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS402へ戻り、以降の処理を繰り返す。ここでの判定は、溶接終了のユーザ指示、溶接におけるエラーの発生、溶接に係る制御プログラムの終了、などに基づいて行われてよい。
【0046】
(フラックス散布判定処理)
図5は、本実施形態に係るフラックス散布判定処理のフローチャートを示す。本処理フローは、フラックス供給制御装置15により、図4にて示した周波数特性導出処理の結果に基づいてフラックス散布を制御するための処理である。本処理フローは、例えば、フラックス供給制御装置15が備える処理部が、対応するプログラムを記憶部から読み出して実行することにより実現される。図5に示す処理フローは、溶接動作の開始とともに開始され、図4に示した周波数特性導出処理と並行して、溶接動作が行われている間継続して実行される。また、処理の開始に伴って、計時部により計時が行われる。
【0047】
S501にて、フラックス供給制御装置15は、所定の実行タイミングXに達したか否かを判定する。ここでの実行タイミングXは、前回のフラックス散布の判定のタイミングから経過した時間に相当し、例えば、1秒ごとに判定を行うように設定されてよい。実行タイミングXは、図4に示した実行タイミングAよりも間隔が長い時間とする。また、便宜上、実行タイミングAの周期を第1の周期とし、実行タイミングXの周期を第2の周期とする。実行タイミングXに達した場合、すなわち、前回のフラックス散布の判定から所定の時間が経過した場合(S501にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS502へ進む。一方、実行タイミングXに達していない場合(S501にてNO)、フラックス供給制御装置15は、実行タイミングXに達するまで待機する。
【0048】
S502にて、フラックス供給制御装置15は、その時点での周波数特性を示す特徴量を取得する。ここで取得される特徴量は、図4のS408の処理にて得られた値に相当し、本実施形態では、平均ノイズ電圧である。
【0049】
S503にて、フラックス供給制御装置15は、所定の実行タイミングYに達したか否かを判定する。ここでの実行タイミングYは、一定の周期のタイミングに相当する。例えば、S501の処理にて設定されている実行タイミングXが1秒である場合に、実行タイミングYは4秒に設定してよい。この場合、4秒ごとに本判定はYESと判定される。つまり、本処理フローの開始時点を0秒とした場合、4秒、8秒、12秒、…のタイミングにて、本判定はYESと判定される。実行タイミングYに達した場合(S503にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS507へ進む。一方、実行タイミングYに達していない場合(S503にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS504へ進む。
【0050】
S504にて、フラックス供給制御装置15は、所定の実行タイミングZに達したか否かを判定する。ここでの実行タイミングZは、一定の周期のタイミングに相当する。例えば、S501の処理にて設定されている実行タイミングXが1秒である場合に、実行タイミングZは2秒に設定してよい。この場合、2秒ごとに本判定はYESと判定される。つまり、本処理フローの開始時点を0秒とした場合、S503の判定処理も踏まえると、2秒、6秒、10秒、…のタイミングにて、本判定はYESと判定される。実行タイミングZに達した場合(S504にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS506へ進む。一方、実行タイミングZに達していない場合(S504にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS505へ進む。
【0051】
本処理フローにおける各実行タイミングの設定の関係は、実行タイミングX<実行タイミングZ<実行タイミングYとなる。上記の例では、実行タイミングX(1秒)<実行タイミングZ(2秒)<実行タイミングY(4秒)となっている。なお、各実行タイミングの設定値は、上記の値に限定するものではなく、例えば、溶接速度や溶接規模などに応じて他の値が設定されてもよい。
【0052】
S505にて、フラックス供給制御装置15は、S502にて取得した特徴量、すなわち平均ノイズ電圧が予め規定された閾値Th1以上か否かを判定する。平均ノイズ電圧が閾値Th1以上である場合(S505にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS508へ進む。一方、平均ノイズ電圧が閾値Th1より小さい場合(S505にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS509へ進む。
【0053】
S506にて、フラックス供給制御装置15は、S502にて取得した特徴量、すなわち、平均ノイズ電圧が予め規定された閾値Th2以上か否かを判定する。平均ノイズ電圧が閾値Th2以上である場合(S506にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS508へ進む。一方、平均ノイズ電圧が閾値Th2より小さい場合(S506にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS509へ進む。
【0054】
S507にて、フラックス供給制御装置15は、S502にて取得した特徴量、すなわち、平均ノイズ電圧が予め規定された閾値Th3以上か否かを判定する。平均ノイズ電圧が閾値Th3以上である場合(S507にてYES)、フラックス供給制御装置15の処理はS508へ進む。一方、平均ノイズ電圧が閾値Th3より小さい場合(S507にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS509へ進む。
【0055】
各閾値の関係は、Th3<Th2<Th1となる。例えば、Th1=100mV、Th2=90mV、Th3=80mVとして設定してよい。このとき、スラグ浴深さと相関のある検出値から得られる特徴量が高ければ高いほど、フラックスの散布量を増やしたり、散布回数を増やしたりするように設定される。本実施形態の場合、平均ノイズ電圧の値が高いほど、フラックスの散布量を増やしたり、散布回数を増やしたりするように設定される。したがって、上記条件を満たすような構成であれば、図5に示す判定処理の順序や条件が異なっていてよい。なお、閾値としての設定値は、上記に限定するものではなく、例えば、溶接速度や溶接規模などに応じて他の値が設定されてよい。各閾値は予め設定され、記憶部にて保持されているものとする。
【0056】
S508にて、フラックス供給制御装置15は、フラックス12を散布させる。ここでの散布量は予め規定されているものとする。ここでのフラックスの散布量は、実行タイミングに応じて異なる量が散布されるように制御されてもよい。すなわち、S505、S506、S507のいずれの判定処理の結果としてS508の処理に進んだかに応じて、散布量を切り替えてもよい。フラックス12の散布により、スラグ浴の深さが上昇する。その後、フラックス供給制御装置15の処理はS509へ進む。
【0057】
S509にて、フラックス供給制御装置15は、溶接動作が終了したか否かを判定する。溶接動作が終了した場合(S509にてYES)、本処理フローを終了する。溶接動作が終了していない場合(S509にてNO)、フラックス供給制御装置15の処理はS501へ戻り、以降の処理を繰り返す。ここでの判定は、溶接終了のユーザ指示、溶接動作におけるエラーの発生、溶接動作に係る制御プログラムの終了、などに基づいて行われてよい。
【0058】
上記の例では、3つの実行タイミングX、Y、Zの判定を行ったが、更に多くの実行タイミングを行うような構成であってよい。同様に、特徴量と比較判定するための3つの閾値Th1、Th2、Th3を用いたが更に多くの閾値を用いて更に詳細にフラックスの散布量を調整するような構成であってもよい。したがって、フラックスの散布のタイミングや散布量は任意に調整されてよい。このとき、スラグ浴深さと相関のある特徴量が高ければ高いほど、フラックスの散布量を増やしたり、散布回数を増やしたりするように設定してよい。
【0059】
また、上記の例では、実行タイミングYと閾値Th3のように、実行タイミングと閾値は1対1の関係であったが、これに限定するものではない。例えば、ある実行タイミングにて複数の閾値を用いるような構成であってもよいし、閾値として範囲が設定されもよい。このような構成により、より詳細な制御を行うことが可能である。
【0060】
以上、本実施形態により、エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能となる。また、フラックス散布のタイミングに応じて異なる量を散布するように設定でき、適切な量を散布してスラグ浴の深さを所望の範囲にて維持することができる。また、電源電圧におけるスイッチング周波数やその他の外乱の影響を抑制することができる。さらには、フーリエ変換を用いているため短時間でスラグ浴深さの判定を行うことできるので、スラグ浴の深さをより適切に維持することが可能である。
【0061】
特に、スラグ浴深さを直接検出する検出器を設ける場合、溶接という環境下における耐久性や耐衝撃性を考慮した構成が必要となり、そのためのコストが生じる。それに対し、本実施形態の構成では、検出器が不要であるため、検出器周りの冷却設計や加工を抑制できる。また、検出器に対する溶接の環境下における耐性を考慮しなくてよくなるため、装置全体の耐久性を向上させることができる。更には、検出器周りの操作やメンテナンスが不要となるため、溶接における段取りや手間を簡素化することができる。
【0062】
<その他の実施形態>
なお、第1の実施形態では、スラグ浴を検出するための検出器を省略した場合でもフラックス散布のタイミングを適切に制御できる構成について説明した。しかし、第1の実施形態の構成に対して更に、検出器を備えるような構成であってもよい。例えば、検出器がスラグ浴の上面を検出するように構成されてよい。このような構成は、立向溶接においてスラグ浴の上面からのスラグ溢れを抑止したい場合などに利用できる。したがって、第1の実施形態にて示した構成は、必ずしも検出器と排他的な構成ではなく、必要に応じて検出器と組み合わせてもよい。
【0063】
本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0064】
また、1以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0065】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を有することを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能となる。特に、スラグ浴深さを直接検出する検出器が不要であるため、検出器周りの冷却設計や加工を抑制できる。また、検出器に対する溶接の環境下における耐性を考慮しなくてよくなるため、装置全体の耐久性を向上させることができる。更には、検出器周りの操作やメンテナンスが不要となるため、溶接における段取りや手間を簡素化することができる。
【0066】
(2) 前記制御工程において、前記特徴量の値が大きいほど前記フラックスの散布量を増加させる、ことを特徴とする(1)に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、算出される特徴量に応じて異なる量を散布するように設定でき、適切な量を散布してスラグ浴の深さを所望の範囲にて維持することができる。
【0067】
(3) 前記制御工程において、前記閾値は、前記第2の周期における制御タイミングに対応する所定の値が設定される、ことを特徴とする(1)または(2)に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、フラックス散布のタイミングに応じて異なる量を散布するように設定でき、適切な量を散布してスラグ浴の深さを所望の範囲にて維持することができる。
【0068】
(4) 前記制御工程において、前記フラックスの散布量は、前記第2の周期における制御タイミングに応じて異なる、ことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、フラックス散布のタイミングに応じて異なる量を散布するように設定でき、適切な量を散布してスラグ浴の深さを所望の範囲にて維持することができる。
【0069】
(5) 前記算出工程において、前記所定の周波数帯域の値の平均を前記特徴量として算出する、ことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、スラグ浴深さに相関のある周波数成分に基づき、簡易な計算により特徴量を算出することができる。
【0070】
(6) 前記算出工程において、前記所定の周波数帯域の値の積分を前記特徴量として算出する、ことを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、スラグ浴深さに相関のある周波数成分に基づき、簡易な計算により特徴量を算出することができる。
【0071】
(7) 前記算出工程において、前記変換工程にて導出された周波数成分の値から、溶接電源のスイッチング周波数、前記スイッチング周波数の高調波、ワイヤの曲がり癖またはトーチの揺動に起因する物理量の変動の周波数成分のうちの少なくとも一つの周波数成分の値を除去して、前記特徴量を算出する、ことを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接にて生じるノイズ成分を適切に除去することで、より精度良くフラックスの散布制御が可能となる。
【0072】
(8) 前記制御工程において更に、スラグ浴の上面を検出する検出器の検出結果に基づいて、フラックスの散布を制御する、ことを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法。
この構成により、立向溶接においてスラグ浴の上面からのスラグ溢れを抑止することが可能となる。
【0073】
(9) 装置本体と、溶接電源と、を備えるエレクトロスラグ溶接装置であって、
前記装置本体は、
走行台車と、走行台車制御装置とフラックス供給装置と、フラックス供給制御装置と、を有し、
(1)~(8)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接方法を行うエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能となる。特に、スラグ浴深さを直接検出する検出器が不要であるため、検出器周りの冷却設計や加工を抑制できる。また、検出器に対する溶接の環境下における耐性を考慮しなくてよくなるため、装置全体の耐久性を向上させることができる。更には、検出器周りの操作やメンテナンスが不要となるため、溶接における段取りや手間を簡素化することができる。
【0074】
(10) コンピュータに、
エレクトロスラグ溶接を行う際の物理量を第1の周期にて測定する測定工程と、
前記測定工程にて測定した物理量をフーリエ変換することにより、各周波数成分の値を導出する変換工程と、
前記変換工程にて導出された周波数成分のうちの所定の周波数帯域の値に基づいて、特徴量を算出する算出工程と、
前記第1の周期よりも間隔の長い第2の周期にて、前記特徴量と当該特徴量に対する閾値とに基づき、フラックスの散布を制御する制御工程と、
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接において、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つことが可能となる。特に、スラグ浴深さを直接検出する検出器が不要であるため、検出器周りの冷却設計や加工を抑制できる。また、検出器に対する溶接の環境下における耐性を考慮しなくてよくなるため、装置全体の耐久性を向上させることができる。更には、検出器周りの操作やメンテナンスが不要となるため、溶接における段取りや手間を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…銅当て金
3…母材
4…溶接トーチ
5…コンタクトチップ
6…溶接ワイヤ
7…溶融スラグ浴
8…溶接電流
9…溶融金属
10…溶接金属
11…固化スラグ
12…フラックス
13…溶接用摺動銅当て金(胴当て金)
14…フラックス供給装置
15…フラックス供給制御装置
16…走行台車
17…走行台車制御装置
100…装置本体
200…溶接電源
300…ワイヤ送給装置
400…操作箱
500…溶接装置(エレクトロスラグ溶接装置)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5