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特開2023-128945ジベンゾペンタフルバレンオリゴマー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128945
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ジベンゾペンタフルバレンオリゴマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 13/465 20060101AFI20230907BHJP
   C07C 1/32 20060101ALI20230907BHJP
   C07C 23/34 20060101ALI20230907BHJP
   C07C 17/263 20060101ALI20230907BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20230907BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20230907BHJP
   C07F 7/22 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C07C13/465 CSP
C07C1/32
C07C23/34
C07C17/263
C07F5/02 C
C07F7/08 W
C07F7/08 C
C07F7/22 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033643
(22)【出願日】2022-03-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ウェブサイト(日本化学会第101春季年会講演予稿集)への掲載 ▲1▼掲載日:2021年3月4日 ▲2▼アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/csj101st/static/yokou (2)学会(日本化学会第101春季年会)での発表 ▲1▼開催日:2021年3月19日 ▲2▼集会名:日本化学会第101春季年会 開催場所:オンライン開催 (3)セミナー(近畿化学協会令和3年度第1回合成フォーラム)での発表 ▲1▼開催日:2021年5月31日 ▲2▼集会名:近畿化学協会令和3年度第1回合成フォーラム 開催場所:オンライン開催 (4)発表会(京都大学工学研究科物質エネルギー化学専攻修士論文発表会)での発表 ▲1▼開催日:2022年2月8日 ▲2▼集会名:京都大学工学研究科物質エネルギー化学専攻修士論文発表会 開催場所:京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】中 愛子
(72)【発明者】
【氏名】砂山 尚之
(72)【発明者】
【氏名】早川 雅大
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4H049
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC22
4H006BA25
4H006BA48
4H006BB12
4H006BB25
4H006EA33
4H048AA01
4H048AB84
4H048AC90
4H048BA25
4H048BA48
4H048BB25
4H048VA22
4H048VA77
4H048VB10
4H049VN01
4H049VN03
4H049VP01
4H049VP02
4H049VQ08
4H049VQ13
4H049VR11
4H049VR23
4H049VS13
4H049VT17
4H049VT38
4H049VU36
4H049VV16
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】優れた電子受容性を有する新たな化合物を提供する。
【解決手段】本発明によると、1,1’-ビインデニリデン又はその誘導体のn量体(nは2~5の自然数)を含んだオリゴマーが提供される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1’-ビインデニリデン又はその誘導体のn量体(nは2~5の自然数)を含んだオリゴマー。
【請求項2】
下記式(I)により表される、請求項1に記載のオリゴマー。
【化1】
式(I)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
Aの各々は、互いに独立に、水素原子又は任意の置換基であり、
nは、2~5の自然数である。
【請求項3】
Aの各々は、互いに独立に、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、及びハロゲン原子からなる群より選択される、請求項2に記載のオリゴマー。
【請求項4】
下記式(II)により表される、請求項2又は3に記載のオリゴマー。
【化2】
式(II)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であり、
nは、2~5の自然数である。
【請求項5】
の各々は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択される、請求項4に記載のオリゴマー。
【請求項6】
の各々は、互いに独立に、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、及びシリル基からなる群より選択されるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成している、請求項2乃至5の何れか1項に記載のオリゴマー。
【請求項7】
の各々は、互いに同一であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して対称な環構造を形成している、請求項2乃至6の何れか1項に記載のオリゴマー。
【請求項8】
下記式(III)により表される化合物。
【化3】
式(III)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
の各々は、互いに独立に、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、2つのRの少なくとも一方は、シリル基、ボリル基、又はスタンニル基であり、2つのRは、同時にトリメチルシリル基ではない。
【請求項9】
下記式(III―A)により表される、請求項8に記載の化合物。
【化4】
式(III-A)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、
は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択される。
【請求項10】
下記式(IV)により表される化合物。
【化5】
式(IV)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、
Xは、ハロゲン原子である。
【請求項11】
下記式(IV―A)により表される、請求項10に記載の化合物。
【化6】
式(IV―A)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択され、
Xは、ハロゲン原子である。
【請求項12】
請求項1乃至7の何れか1項に記載のオリゴマーの製造に使用される、請求項8乃至11の何れか1項に記載の化合物。
【請求項13】
請求項8乃至12の何れか1項に記載の化合物、及び、下記式(V)によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を準備する工程と、
前記少なくとも1つの化合物を用いてカップリング反応を行う工程と、
を含んだ、請求項1乃至7の何れか1項に記載のオリゴマーの製造方法。
【化7】
式(V)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
Xは、ハロゲン原子である。
【請求項14】
前記少なくとも1つの化合物を準備する工程は、前記式(V)により表される化合物を用いて請求項8乃至12の何れか1項に記載の化合物を合成することを含んでいる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至7の何れか1項に記載のオリゴマーを含んだ電子受容性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジベンゾペンタフルバレンオリゴマー及びその製造方法に関する。また、本開示は、上記ジベンゾペンタフルバレンオリゴマーの製造に使用し得る中間体化合物に関する。更に、本開示は、上記ジベンゾペンタフルバレンオリゴマーを含んだ電子受容性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い電子受容性を示す分子性材料として、π電子系化合物が広く研究されている。その中でも、フラーレンC60は、1分子あたり12個もの電子を受容し得る堅牢な電子受容材として特によく知られている。また、フラーレンC60の部分構造を有する多環芳香族炭化水素(PAH)化合物の研究も行われている。例えば、非特許文献1には、コラヌレンC2010及びその誘導体が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Alexander V. Zabula et al. “Record Alkali Metal Intercalation by Highly ChargedCorannulene” Acc. Chem. Res. 2018, 51, 1541-1549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フラーレンC60は、球状の分子構造を有しているため、固体状態における分子間の積層及び軌道相互作用が比較的少ないという問題を有している。また、フラーレンC60の部分構造を有する非球状の多環芳香族炭化水素化合物は例が限られており、それらの電子受容性も必ずしも充分に高くはない。そこで、本発明は、優れた電子受容性を有する新たな化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
[1]1,1’-ビインデニリデン又はその誘導体のn量体(nは2~5の自然数)を含んだオリゴマー。
[2]下記式(I)により表される、[1]に記載のオリゴマー。
【化1】
式(I)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
Aの各々は、互いに独立に、水素原子又は任意の置換基であり、
nは、2~5の自然数である。
[3]Aの各々は、互いに独立に、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、及びハロゲン原子からなる群より選択される、[2]に記載のオリゴマー。
[4]下記式(II)により表される、[2]又は[3]に記載のオリゴマー。
【化2】
式(II)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であり、
nは、2~5の自然数である。
[5]Rの各々は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択される、[4]に記載のオリゴマー。
[6]Rの各々は、互いに独立に、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、及びシリル基からなる群より選択されるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成している、[2]~[5]の何れかに記載のオリゴマー。
[7]Rの各々は、互いに同一であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して対称な環構造を形成している、[2]~[6]の何れかに記載のオリゴマー。
[8]下記式(III)により表される化合物。
【化3】
式(III)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
の各々は、互いに独立に、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、2つのRの少なくとも一方は、シリル基、ボリル基、又はスタンニル基であり、2つのRは、同時にトリメチルシリル基ではない。
[9]下記式(III―A)により表される、[8]に記載の化合物。
【化4】
式(III-A)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、
は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択される。
[10]下記式(IV)により表される化合物。
【化5】
式(IV)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、
Xは、ハロゲン原子である。
[11]下記式(IV―A)により表される、[10]に記載の化合物。
【化6】
式(IV―A)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択され、
Xは、ハロゲン原子である。
[12][1]~[7]の何れかに記載のオリゴマーの製造に使用される、[8]~[11]の何れかに記載の化合物。
[13][8]~[12]の何れかに記載の化合物、及び、下記式(V)によって表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を準備する工程と、
前記少なくとも1つの化合物を用いてカップリング反応を行う工程と、
を含んだ、[1]~[7]の何れかに記載のオリゴマーの製造方法。
【化7】
式(V)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
Xは、ハロゲン原子である。
[14]前記少なくとも1つの化合物を準備する工程は、前記式(V)により表される化合物を用いて[8]~[12]の何れかに記載の化合物を合成することを含んでいる、[13]に記載の製造方法。
[15][1]~[7]の何れかに記載のオリゴマーを含んだ電子受容性材料。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、優れた電子受容性を有する新たな化合物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の一態様に係るオリゴマーの設計コンセプトを示す概念図である。
図2図2は、化合物2bの結晶構造解析の結果を示している。
図3図3は、化合物3bの結晶構造解析の結果を示している。
図4図4は、化合物8の結晶構造解析の結果を示している。
図5図5は、化合物10bの結晶構造解析の結果を示している。
図6図6は、化合物10cの結晶構造解析の結果を示している。
図7図7は、化合物3b及び3cに対する紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定結果を示している。
図8図8は、化合物8に対する紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定結果を示している。
図9A図9Aは、化合物3b及び3cに対するサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果を示している。
図9B図9Bは、化合物3b及び3cに対するサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果を示している。
図10図10は、化合物8に対するサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果を示している。
図11図11は、化合物3b及び3cのジアニオン構造における炭素間結合距離の計算値の変化を示している。
図12図12は、化合物8のジアニオン構造における炭素間結合距離の計算値の変化を示している。
図13図13は、本発明の一態様に係る鎖状3量体のフロンティア軌道準位の計算例を示している。
図14図14は、化合物3b及び3cに対するフロンティア軌道準位及びその軌道分布の計算結果を示している。
図15図15は、本発明の一態様に係るオリゴマーのフロンティア軌道準位の計算例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一態様に係るオリゴマー及びその製造方法について説明する。また、併せて、上記オリゴマーの製造に使用し得る中間体化合物についても説明する。なお、図面又は化学式を参照する場合、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号又は記号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
本発明者らは、優れた電子受容性を有する新たな化合物を設計すべく、種々の検討を行った。
【0010】
図1は、本発明の一態様に係るオリゴマーの設計コンセプトを示す概念図である。図1の左側は、フラーレンC60の構造を示している。図1の中央は、フラーレンC60の赤道部分を抜き出した仮想的な部分構造であり、ジベンゾペンタフルバレンの環状3量体構造を有している。図1の右側は、上記の環状構造を解いて1次元状に展開したジベンゾペンタフルバレンオリゴマーであり、これが、本発明の一態様に係るオリゴマーの一例である。このようなオリゴマーは、比較的単純な構造を有しているにもかかわらず、2量体以上のオリゴマーの報告例はこれまで存在しなかった。しかしながら、本発明者らは、このようなオリゴマー(2量体~5量体)の合成方法を見出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の一態様に係るオリゴマーは、1,1’-ビインデニリデン又はその誘導体のn量体(nは2~5の自然数)を含んでいる。このようなオリゴマーは、後述する通り、優れた電子受容性を有している。なお、ここで「誘導体」とは、1,1’-ビインデニリデン骨格の任意の位置に任意の置換基が導入された化合物を意味している。複数の置換基が互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0012】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、例えば、下記式(I)により表される化合物である。
【化8】
【0013】
式(I)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
Aの各々は、互いに独立に、水素原子又は任意の置換基であり、
nは、2~5の自然数である。
【0014】
式(I)の1,1’-ビインデニリデン骨格において、Rの位置に置換基又は環構造が存在する場合、立体障害などの観点から、他の位置に置換基又は環構造が存在する場合と比較して、オリゴマー又はその中間体の合成が比較的容易である。また、このような場合、同様の理由により、式(I)の化合物の固体状態における平面性が担保され易い。
【0015】
の各々は、互いに同一であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して対称な環構造を形成していることが好ましい。このような場合、オリゴマーを合成する際に異性体が生じず、所望の化合物の単離が比較的容易である。また、このような場合、式(I)の化合物の結晶性も比較的高くなる。なお、ここで「対称な環構造」とは、隣接するRの各々が結合している2つの炭素分子を繋ぐ線分の垂直二等分線に対して線対称な環構造を意味している。
【0016】
の少なくとも1つが任意の置換基である場合、その置換基は、電子求引性、立体障害、及び結晶構造の最適化などの観点から、適宜選択することができる。この場合、Rとしての置換基は、好ましくは、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、及びシリル基からなる群より選択される。Rは、好ましくは、水素原子、アルキル基、又はアルコキシ基であり、より好ましくは、水素原子又はアルコキシ基である。
【0017】
アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。このアルキル基は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6である。
【0018】
ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。このペルフルオロアルキル基は、フッ素原子によって置換されていない箇所が他の置換基によって置換されていてもよい。ペルフルオロアルキル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6である。
【0019】
アルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。このアルコキシ基は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。アルコキシ基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~15であり、より好ましくは1~10である。
【0020】
ポリアルキレングリコール基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。このポリアルキレングリコール基は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。ポリアルキレングリコール基は、例えば、ポリエチレングリコール基又はポリプロピレングリコール基であり、好ましくはポリエチレングリコール基である。ポリアルキレングリコール基の繰り返し単位数は、例えば2~12であり、好ましくは2~8であり、より好ましくは2~5である。
【0021】
アリールオキシ基を構成するアリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、又はアントラセニル基であり、好ましくはフェニル基又はナフチル基であり、より好ましくはフェニル基である。これらのアリール基は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。
【0022】
シロキシ基は、RSiO-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基であり、好ましくは、アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基でである。アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。3つのRのうちの2つ以上は互いに同一であることが好ましい。シロキシ基の好ましい例としては、トリメチルシロキシ基(TMSO-)、トリエチルシロキシ基(TESO-)、トリイソプロピルシロキシ基(TIPSO-)、t-ブチルジメチルシロキシ基(TBDMSO-)、及びt-ブチルジフェニルシロキシ基(TBDPSO-)が挙げられる。
【0023】
アルキルチオ基を構成するアルキル基の例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。アリールチオ基を構成するアリール基の例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0024】
アシル基は、R(C=O)-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0025】
アシロキシ基は、RCO-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0026】
カルバメート基は、RNHCO-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0027】
アミド基は、RCONH-又はRCONR’-によって表される置換基である。R及びR’は、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0028】
シリル基は、RSi-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基であり、好ましくは、アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基でである。アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。3つのRのうちの2つ以上は互いに同一であることが好ましい。シリル基の好ましい例としては、トリメチルシリル基(TMS-)、トリエチルシリル基(TES-)、トリイソプロピルシリル基(TIPS-)、t-ブチルジメチルシリル基(TBDMS-)、及びt-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS-)が挙げられる。
【0029】
隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成している場合、その環構造は、芳香環であってもよく、非芳香環であってもよい。また、環構造は、複素環であってもよい。この環構造は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。Rが形成し得る環構造としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、シクロヘキサン環、ピロール環、チオフェン環、及びフラン環などが挙げられる。
【0030】
Aの少なくとも一方が任意の置換基である場合、その置換基は、電子求引性、立体障害、及び結晶構造の最適化などの観点から、適宜選択することができる。この場合、Aとしての置換基は、好ましくは、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、及びハロゲン原子からなる群より選択され、より好ましくは、アリール基、シリル基、ボリル基、スタンニル基、及びハロゲン原子から選択され、更に好ましくは、アリール基又はシリル基である。2つのAは、互いに同一であることが好ましい。
【0031】
アリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。2つのAが共にアリール基である場合の特に好ましい例については、後で式(II)を参照して説明する。
【0032】
アルケニル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよい。このアルケニル基は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。アルケニル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6である。
【0033】
アルキニル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。このアルキニル基は、他の置換基によって更に置換されていてもよい。アルキニル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは1~12であり、より好ましくは1~6である。
【0034】
アルキル基及びアルコキシ基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0035】
アミノ基は、HN-、RHN―、又はRR’N-によって表される置換基である。R及びR’は、各々独立に、例えば、アルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0036】
シリル基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0037】
ボリル基は、ホウ素原子を含有する置換基であり、典型的にはYB-によって表される置換基である。Yは、各々独立に、例えば、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、又はアルコキシ基である。アルキル基、アリール基、及びアルコキシ基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。Yは、好ましくはアルコキシ基である。2つのYが互いに結合して環構造を形成していてもよい。そのようなボリル基の代表的な例としては、ボロン酸ピナコールエステル基(pin)B-が挙げられる。
【0038】
スタンニル基は、スズ原子を含有する置換基であり、典型的にはRSn-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、好ましくは、アルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。3つのRのうちの2つ以上は互いに同一であることが好ましい。スタンニル基は、好ましくは、トリアルキルスタンニル基であり、より好ましくはトリブチルスタンニル基又はトリメチルスタンニル基である。
【0039】
ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子から選択される。ハロゲン原子は、塩素原子又は臭素原子であることが好ましく、臭素原子であることがより好ましい。
【0040】
nは、上述した通り、2~5の自然数である。nの値は、合成の容易さ及び所望の物性等を考慮して、適宜選択することができる。なお、先に図1を参照しながら説明した通り、n=3の場合が、フラーレンC60の赤道部分の一周分に相当している。
【0041】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、下記式(II)により表される化合物であってもよい。式(II)により表される化合物は、式(I)により表される化合物において、Aがフェニル基又はp-置換フェニル基である場合に相当している。
【化9】
【0042】
式(II)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であり、
nは、2~5の自然数である。
【0043】
及びnについては、先に式(I)を参照しながら説明したのと同様である。
【0044】
の少なくとも一方が任意の置換基である場合、その置換基は、電子求引性、立体障害、及び結晶構造の最適化などの観点から、適宜選択することができる。この場合、Rとしての置換基は、好ましくは、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択される。Rは、好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はシリル基であり、より好ましくは、水素原子、アルコキシ基、又はシリル基である。2つのRは、互いに同一であることが好ましい。
【0045】
としてのアルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、及びアミド基の好ましい例としては、先にRに関連して説明したのと同様のものが挙げられる。Rとしてのアミノ基及びボリル基としては、先にAに関連して説明したのと同様のものが挙げられる。
【0046】
スルホニル基は、RSO-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、水素原子、アルキル基、又はアリール基であり、好ましくは、アルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0047】
ホスホリル基は、(HO)OP-又は(RO)OP-によって表される置換基である。Rは、各々独立に、例えば、アルキル基又はアリール基である。アルキル基又はアリール基の好ましい例としては、先に説明したのと同様のものが挙げられる。
【0048】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、例えば、以下のような中間体化合物を用いて合成することができる。
【0049】
本発明の一態様に係る化合物は、例えば、式(III)によって表される。
【化10】
【0050】
式(III)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
の各々は、互いに独立に、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、2つのRの少なくとも一方は、シリル基、ボリル基、又はスタンニル基であり、2つのRは、同時にトリメチルシリル基ではない。
【0051】
については、先に式(I)を参照しながら説明したのと同様である。
【0052】
としてのアリール基の好ましい例としては、先にRに関連して説明したのと同様のものが挙げられる。Rとしてのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基の好ましい例としては、先にAに関連して説明したのと同様のものが挙げられる。2つのRは、互いに同一であることが好ましい。2つのRの少なくとも一方は、シリル基、ボリル基及びスタンニル基からなる群より選択されることが好ましく、ボリル基及びスタンニル基からなる群より選択されることがより好ましい。
【0053】
なお、2つのRが共にトリメチルシリル基である場合、式(III)によって表される化合物を本発明の一態様に係るオリゴマーの合成に用いることは可能であるが、このような化合物は、下記文献R1において既に報告されており、新規の化合物ではない。
文献R1:Mark Stradiotto et al. Organometallics 2000, 19, 590-601
【0054】
本発明の一態様に係る化合物は、式(III-A)によって表される化合物であってもよい。式(III-A)により表される化合物は、式(III)により表される化合物において、Rの一方がフェニル基又はp-置換フェニル基である場合に相当している。
【化11】
【0055】
式(III-A)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、
は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択される。
【0056】
については、先に式(I)を参照しながら説明したのと同様である。Rについては、アリール基、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が除外されていることを除いては、先に式(III)を参照しながら説明したのと同様である。なお、Rは、ボリル基及びスタンニル基からなる群より選択されることが好ましい。Rの好ましい例については、先に式(II)のRについて説明したのと同様である。
【0057】
本発明の一態様に係る化合物は、例えば、式(IV)によって表される。
【化12】
【0058】
式(IV)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、及びスタンニル基からなる群より選択され、
Xは、ハロゲン原子である。
【0059】
については、先に式(I)を参照しながら説明したのと同様である。Rについては、先に式(III)を参照しながら説明したのと同様である。Xとしてのハロゲン原子の好ましい例については、先に式(I)のAに関連して説明したのと同様である。
【0060】
本発明の一態様に係る化合物は、式(IV-A)によって表される化合物であってもよい。式(IV-A)により表される化合物は、式(IV)により表される化合物において、Rがフェニル基又はp-置換フェニル基である場合に相当している。
【化13】
【0061】
式(IV―A)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
は、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルコキシ基、ポリアルキレングリコール基、アリールオキシ基、シロキシ基、シリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アシル基、アシロキシ基、カルバメート基、アミド基、アミノ基、ホスホリル基、及びボリル基からなる群より選択され、
Xは、ハロゲン原子である。
【0062】
については、先に式(I)を参照しながら説明したのと同様である。Rについては、先に式(II)を参照しながら説明したのと同様である。Xについては、先に式(IV)を参照しながら説明したのと同様である。
【0063】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、例えば、以下のような方法によって製造することができる。即ち、まず、上述したような中間体化合物を合成する。その後、これらの化合物を適宜組み合わせて、カップリング反応、好ましくはクロスカップリング反応を行う。このようにして、オリゴマーを得る。
【0064】
以下、中間体化合物の合成、及び、オリゴマーの合成について、順に説明する。なお、後述するように、上記の中間体化合物を経ないで、直接的にオリゴマーを合成することもできる。
【0065】
また、以下では、式(III)又は(IV)によって表される化合物、及び、式(I)によって表されるオリゴマーの合成方法について説明しているが、これらはあくまで一例である。同様の手法によって、他の1,1’-ビインデニリデン誘導体のオリゴマーを合成することも可能である。
【0066】
[中間体化合物の合成]
中間体化合物は、例えば、下記式(V)によって表される化合物を用いて合成することができる。
【化14】
【0067】
式(V)中、
の各々は、互いに独立に、水素原子若しくは任意の置換基であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して環構造を形成しており、
Xは、ハロゲン原子である。
【0068】
については、先に式(I)を参照しながら説明したのと同様である。Xについては、先に式(IV)を参照しながら説明したのと同様である。
【0069】
式(V)によって表される化合物は、例えば、下記文献R2及び/又はR3に記載されている既知の方法に従って、以下のようなスキームS1によって合成することができる。
文献R2:H. Taniguchi et al. Chem. Lett. 1978, 73
文献R3:D. Rehder et al. Chem. Ber. 1988, 121, 1971
【化15】
【0070】
このスキームからも分かるように、Rの各々が、互いに同一であるか、又は、隣接するR同士が互いに結合して対称な環構造を形成していると、異性体が生じず、式(V)によって表される化合物の単離が容易である。
【0071】
次に、式(V)によって表される化合物において、2つのXのうちの少なくとも一方をRによって置換する。即ち、2つのXのうち少なくとも一方を、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、又はスタンニル基によって置換する。2つのXのうち一方のみを置換すると、式(IV)によって表される化合物が得られる。2つのXの両方を置換すると、式(III)によって表される化合物が得られる。
【0072】
XのRによる置換は、例えば、以下のスキームS2に示すようなクロスカップリング反応によって行うことができる。これらのクロスカップリング反応は、例えばパラジウム又はニッケル触媒下で行われ、典型的にはパラジウム触媒下で行われる。
【化16】
【0073】
スキームS2において、Rは、先に式(III)又は(IV)について説明した置換基であり、Mは、各種のクロスカップリング反応に一般的に用いられる原子を含んだ官能基である。例えば、MがZnを含んでいる場合、上記の反応は、根岸カップリングによって行うことができる。MがSnを含んでいる場合、上記の反応は、右田-小杉-Stilleカップリングによって行うことができる。MがBを含んでいる場合、上記の反応は、鈴木-宮浦カップリング(宮浦-石山ホウ素化反応)によって行うことができる。MがSiを含んでいる場合、上記の反応は、檜山カップリングによって行うことができる。なお、Rがボリル基又はスタンニル基である場合、RとMとは同一であってもよい。また、Rがアルケニル基である場合、溝呂木-Heck反応を用いて、XのRによる置換を行うこともできる。Rがアルキニル基である場合、薗頭カップリングを用いて、XのRによる置換を行うこともできる。
【0074】
なお、上記のスキームにおいて、式(III)又は(IV)によって表される化合物は、反応時間等の反応条件を制御することにより、何れかを優位に生成させることができる。式(III)によって表される化合物と式(IV)によって表される化合物を含んだ混合物が得られる場合、これらの化合物は、カラムクロマトグラフィー又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などを用いて単離することができる。
【0075】
[2量体又は3量体の合成]
本発明の一態様に係るオリゴマーは、様々な方法によって合成することができる。ここでは、n=2又は3の場合について説明する。
【0076】
まず、式(V)により表される化合物から、直接的にオリゴマーを合成する方法について説明する。本発明者らは、予期せぬことに、上記スキームS2と同様の反応において、本発明の一態様に係る2量体及び/又は3量体が同時に生成し得ることを見出した。このような2量体及び3量体の形成は、MがZnを含む場合、即ち、根岸カップリングを用いる場合に観察されやすい。
【化17】
【0077】
スキームS3において、R及びMは、先にスキームS2について説明したものと同様である。左側の生成物において、n=1の場合が、式(III)によって表される化合物に相当する。左側の生成物において、n=2又は3且つR=Aの場合が、式(I)によって表される化合物に相当する。右側の生成物において、n=1の場合が、式(IV)よって表される化合物に相当する。右側の生成物において、n=2且つR=Aの場合が、式(I)によって表される化合物において、Aの一方がX(ハロゲン原子)である場合に相当する。なお、スキームS3において得られたオリゴマーに対して、RをAに変換する合成後修飾を行って、式(I)によって表される化合物を合成することもできる。
【0078】
上記スキームによって得られた単量体、2量体、及び3量体は、カラムクロマトグラフィー又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などを用いて、互いに単離することができる。なお、オリゴマーの形成は、NMR測定、質量分析、紫外・可視・近赤外吸収分光、及び結晶構造解析などによって確認することができる。
【0079】
次に、上述した中間体化合物を介してオリゴマーを合成する方法について説明する。
【0080】
第1の例は、ホモカップリングを用いる方法である。この方法では、例えば、式(IV)によって表される化合物に対して、化学量論量のニッケルを用いたホモカップリングを行う。
【化18】
【0081】
スキームS4の生成物において、R=Aの場合が、式(I)によって表される化合物に相当する。先と同様に、スキームS4において得られたオリゴマーに対して、RをAに変換する合成後修飾を行って、式(I)によって表される化合物を合成することもできる。
【0082】
第2の例は、クロスカップリングを用いる方法である。このクロスカップリング反応は、例えばパラジウム又はニッケル触媒下で行われ、典型的にはパラジウム触媒下で行われる。具体的な方法としては、例えば、以下のスキームS5又はS6による方法が挙げられる。
【化19】
【0083】
スキームS5において、左側の反応物は、式(III)によって表される化合物である。右側の反応物は、式(IV)によって表される化合物において、R=Aの場合に相当する。上記スキームによって2量体と3量体との混合物が得られる場合には、これらの化合物は、カラムクロマトグラフィー又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などを用いて、互いに単離することができる。
【化20】
【0084】
スキームS6中、左側の反応物は、式(III)によって表される化合物において、Rの一方がAの場合に相当する。右側の反応物は、式(V)によって表される化合物である。左側の生成物は、式(I)によって表される化合物において、n=2であり且つAの一方がX(ハロゲン原子)の場合に相当する。右側の生成物は、式(I)によって表される化合物において、n=3の場合に相当する。上記スキームによって2量体と3量体との混合物が得られる場合には、これらの化合物は、カラムクロマトグラフィー又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などを用いて、互いに単離することができる。
【0085】
なお、スキームS5及びS6において、Rの少なくとも一方がシリル基である場合、上記の反応は、例えば、檜山カップリングを介して進行する。Rの少なくとも一方がボリル基である場合、上記の反応は、例えば、鈴木-宮浦カップリングを介して進行する。Rの少なくとも一方がスタンニル基である場合、上記の反応は、例えば、右田-小杉-Stilleカップリングを介して進行する。上記の各種クロスカップリング反応のうち、合成の容易さ等の観点から、鈴木-宮浦カップリング又は右田-小杉-Stilleカップリングを用いることがより好ましく、鈴木-宮浦カップリングを用いることが特に好ましい。
【0086】
[4量体の合成]
本発明の一態様に係るオリゴマーの合成方法について、n=4の場合の例について説明する。
【0087】
第1の例は、ホモカップリングを用いる方法である。この方法では、例えば、スキームS3又はS6によって得られる、片側がX(ハロゲン原子)でキャップされた2量体を用いる。これらの2量体に対して、化学量論量のニッケルを用いたホモカップリングを行って、4量体を得る。
【化21】
【0088】
第2の例は、クロスカップリングを用いる方法である。この方法では、例えば、スキームS3又はS6によって得られる、片側がX(ハロゲン原子)でキャップされた2量体において、系中でXからRへの置換を行う。その後、片側がXでキャップされた2量体と、片側がRでキャップされた2量体との間でクロスカップリング反応を生じさせて、4量体を得る。このクロスカップリング反応は、例えばパラジウム又はニッケル触媒下で行われ、典型的にはパラジウム触媒下で行われる。
【化22】
【0089】
スキームS8において、R及びMは、先にスキームS2について説明したものと同様である。このクロスカップリング反応としては、合成の容易さ等の観点から、鈴木-宮浦カップリング又は右田-小杉-Stilleカップリングを用いることがより好ましく、鈴木-宮浦カップリングを用いることが特に好ましい。
【0090】
[5量体の合成]
本発明の一態様に係るオリゴマーの合成方法について、n=5の場合の例について説明する。5量体は、例えば、以下の2段階を含んだ方法によって合成することができる。
【0091】
第1に、片側がX(ハロゲン原子)でキャップされた2量体において、XからRへの置換を行う。この際、上記スキームS8に示す4量体形成ができるだけ生じないように注意する。
【化23】
【0092】
その後、第2に、第1の段階で得られた2量体と、式(V)によって表される化合物とをクロスカップリング反応によって連結して、5量体を得る。
【化24】
【0093】
なお、この例示的な方法においては、合成の容易さ等の観点から、第1の段階を宮浦-石山ホウ素化反応によって行って、第2の段階を鈴木-宮浦カップリングによって行うことが特に好ましい。
【0094】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、以下の実施例で実証されるように、優れた電子受容性を有している。そのため、このようなオリゴマーは、電子受容性材料として利用することができる。
【0095】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、典型的には、フラーレンC60に匹敵するほど低いLUMOを有している。また、本発明の一態様に係るオリゴマーは、典型的には、フラーレンC60より高いHOMOを有している。即ち、本発明の一態様に係るオリゴマーは、典型的には、フラーレンC60より小さなHOMO-LUMOギャップを有している。
【0096】
このように、本発明の一態様に係るオリゴマーは、フラーレンC60に匹敵するほどの電子受容性を有しているため、n型半導体材料(電子輸送材料)としても使用し得る。また、本発明の一態様に係るオリゴマーは、典型的にはポリアセチレンに類似した電子構造を有しているため、p型半導体材料としても使用し得る。
【0097】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、典型的には、上記の小さなHOMO-LUMOギャップに起因して、フラーレンC60よりも長波長側(特に可視光領域)に強い光吸収を示す。そのため、このようなオリゴマーは、色素としても使用し得る。また、このようなオリゴマーは、有機太陽電池のための非フラーレン電子輸送材料としても使用し得る。
【0098】
本発明の一態様に係るオリゴマーは、典型的には、多電子還元に対する堅牢性を有している。より具体的には、本発明の一態様に係るオリゴマーは、n量体1分子に対して、2n個の電子を可逆的に受容し得る。このように、本発明の一態様に係るオリゴマーにおいては、鎖長に応じた多段階の可逆的な還元を行うことができる。そのため、このようなオリゴマーは、電池の負極材料としても使用し得る。また、このようなオリゴマーは、典型的にはアニオン構造も安定であるため、金属塩等の形成も可能である。そのため、このようなオリゴマーにおいては、超伝導材料、Mott絶縁体、及び量子スピン液体等としての応用も期待される。
【実施例0099】
以下、本発明の一態様に係るオリゴマーの幾つかの例について、合成及び同定の方法、並びに、物性及びシミュレーション評価の結果を、具体的に説明する。
【0100】
本実施例で用いた略語のリストは以下の通りである。
THF: tetrahydrofuran
PPh3: triphenylphosphine
TMEDA: tetramethylethylenediamine
cod: 1,5-cyclooctadiene
DMF: N,N’-dimethylformamide
OAc: acetate
Bu: butyl
Et: ethyl
Me: methyl
PCy3: tricyclohexylphosphine
【0101】
[合成]
以下の合成例において、化合物の同定は、以下の装置を用いて行った。融点(mp)は、Yanaco MP-S3を用いて測定した。H、13C{H}、19F、及び 119Sn NMRスペクトルは、Bruker AVANCE III(Hについて500MHz、13Cについて125MHz)を用いて測定した。測定溶媒としてはCDCl又はCDClを用いた。質量スペクトルは、Bruker solarix(FT-ICR)システムを用いて、APCI法又はMALDI法によって測定した。
【0102】
以下の合成例において、化合物の単離は、以下のようにして行った。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、シリカゲル60F254(Merck)の0.25mm厚シリカゲルによってコートされたプレートを用いて行った。カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル:Wakosil(登録商標)HC-N(富士フイルム和光純薬)を用いて行った。リサイクル分取ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、LaboACE LC-5060(日本分析工業)を用いて行った。その際、カラムとしては、ポリスチレンゲルカラム(JAIGEL-2HR-40)を使用し、溶離液としてはCHClを使用した。
【0103】
以下の合成例において、無水THFとしては、関東化学から購入し、GlassContour有機溶媒精製装置で更に精製したものを用いた。その他の試薬は、購入したものをそのまま用いた。(E)-3,3’-dibromo-1,1’-biindenylidene(化合物1)、1-bromo-4-(tert-butyldimethylsilyl)benzene、及び、4,4,5,5-tetramethyl-2-(triethylsilyl)-1,3,2-dioxaborolaneは、文献法に従って合成した。
【0104】
以下のスキームにしたがって、オリゴマーの合成を行った。この合成は、上記のスキームS3において、根岸カップリングを用いた場合に相当している。
【化25】
【0105】
(R=Hの場合)
無水THF(10mL)中のブロモベンゼン(335mg,2.13mmol)の溶液に、nBuLiヘキサン溶液(1.6M,1.45mL,2.32mmol)を、-78℃で2分間かけて滴下した。1時間攪拌した後、この溶液にZnCl・TMEDA(593mg,2.35mmol)を加え、同温度で15分間攪拌した。得られた塩化フェニル亜鉛溶液を化合物1(1.16g,3.00mmol)及びPd(PPh(104mg,0.090mmol)のTHF溶液(3mL)に滴下し、次いで70℃で21時間攪拌した。得られた混合物をHOでクエンチしたのちCHClで希釈し、層分離させて、水層をCHCl(3×50mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水NaSO上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、ヘキサンからCHCl、次いで酢酸エチル)で精製した後、リサイクル分取GPC(溶離液としてCHCl)を行って、40mgの化合物2aを赤色固体として(0.10mmol,収率4%)、12mgの化合物2bを黒色固体として(0.020mmol,収率1%)、7.3mgの化合物2cを黒色固体として(8.8μmol,収率0.9%)、169mgの化合物4aを赤色固体として(0.44mmol,収率15%)、及び、13mgの化合物4bを黒色固体として(0.021mmol,収率1%)、それぞれ得た。
【0106】
化合物2a
Mp: 210.9-211.0℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.11-8.09 (m, 2H), 7.76 (dd, J = 8.3 Hz, 1.3 Hz, 4H), 7.62-7.60 (m, 2H), 7.55 (s 2H), 7.52 (td, J = 7.5 Hz, 1.3 Hz, 4H), 7.44 (tt, J = 7.5 Hz, 1.5 Hz, 2H), 7.31 (ddd, J = 4.5 Hz, 2.0 Hz, 4H).
13C{1H} NMR (100 MHz, CD2Cl2): δ149.1, 142.4, 140.4, 138.7, 135.6, 129.2, 129.1, 128.2, 126.5, 125.8, 124.8, 121.7.
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C30H21: 381.1368 ([M]+). Obsd. 381.1367.
【0107】
化合物2b
Mp: 239.5-239.8℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.16 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 8.11-8.09 (m, 2H), 7.95 (s, 2H), 7.81 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.79 (d, J = 7.5 Hz, 4H), 7.64-7.62 (m, 2H), 7.75 (s, 2H), 7.53 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 7.45 (q, J = 7.5 Hz, 4H), 7.39 (td, J = 7.5 Hz, 1.0 Hz, 2H), 7.34-7.33 (m, 4H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ149.5, 142.4, 142.3, 141.8, 141.3, 140.5, 138.5, 138.4, 135.5, 129.0, 128.9, 128.4, 128.3, 128.0, 126.7, 126.5, 126.3, 125.5, 124.7, 121.8, 121.7.
HRMS (MALDI): m/z calcd for C48H30: 606.2342 ([M]+), found: 606.2343.
【0108】
化合物2c
Mp: >300℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ7.34-7.36 (m, 2H), 7.40-7.42 (m, 2H), 7.46 (dd, J = 13.9 Hz, 7.5 Hz, 3H), 7.54 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 7.57 (s, 1H), 7.62-7.64 (m, 2H), 7.68-7.71 (m, 2H), 7.79 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.83-7.85 (m, 1H), 7.98 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 8.10-8.11 (m, 1H), 8.16 (t, J = 7.3 Hz, 1H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): 溶解性が乏しいため測定できなかった。
HRMS (MALDI): m/z Calcd. for C60H40: 832.3124 ([M]+). Obsd. 832.3124.
【0109】
化合物4a
Mp: 171.1-171.8℃.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.00 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.74 (dd, J = 8.3 Hz, 1.3 Hz, 2H), 7.65 (s, 1H), 7.59-7.57 (m, 1H), 7.51 (td, J = 7.5 Hz, 1.2 Hz, 2H), 7.47-7.45 (m, 1H), 7.44 (s, 1H), 7.41-7.40 (m, 1H), 7.37 (td, J = 7.3 Hz, 1.0 Hz, 1H), 7.35-7.31 (m, 3H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ149.9, 142.3, 141.2, 140.2, 138.11, 138.09, 136.1, 135.3, 129.0, 128.9, 128.5, 128.5, 128.4, 127.9, 127.4, 127.0, 126.5, 125.4, 124.7, 124.4, 121.6, 121.0.
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C24H16 79Br: 383.0430 ([M+H]+). Obsd. 383.0427.
【0110】
化合物4b
Mp: >300℃.
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ7.36 (dd, J = 5.6 Hz, 2.9 Hz, 2H), 7.38-7.44 (m, 5H), 7.46-7.49 (m, 3H), 7.55 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 7.59 (s, 1H), 7.64 (dd, J = 5.6 Hz, 2.6 Hz, 1H), 7.71 (s, 1H), 7.80-7.84 (m, 4H), 7.88 (s, 1H), 7.99 (s, 1H), 8.05 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.08 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 8.12 (dd, J = 5.6 Hz, 2.9 Hz, 1H), 8.19 (d, J = 7.0 Hz, 1H).
13C{1H} NMR :溶解性が乏しいため測定できなかった。
HRMS (MALDI): m/z calcd for C42H25 79Br: 608.1140 ([M]+), found: 608.1136.
【0111】
(R=SiMetBuの場合)
無水THF(10mL)中の1-ブロモ-4-(tert-ブチルジメチルシリル)ベンゼンブロモベンゼン(571mg,2.11mmol)の溶液に、nBuLiヘキサン溶液(1.6M,1.45mL,2.32mmol)を、-78℃で2分間かけて滴下した。1時間攪拌した後、この溶液にZnCl・TMEDA(584mg,2.31mmol)を加え、同温度で15分間攪拌した。得られた塩化フェニル亜鉛溶液を化合物1(1.16g,3.00mmol)及びPd(PPh(104mg,0.090mmol)のTHF溶液(4mL)に滴下し、次いで70℃で21時間攪拌した。得られた混合物をHOでクエンチしたのちCHClを加え、層分離させて、水層をCHCl(3×15mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水NaSO上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、ヘキサンからCHCl、次いで酢酸エチル)で精製した後、リサイクル分取GPC(溶離液としてCHCl)を行って、137mgの化合物3aを赤色固体として(0.23mmol,収率7%)、39mgの化合物3bを黒色固体として(0.047mmol,収率3%)、10mgの化合物3cを黒色固体として(9.4μmol,収率0.9%)、244mgの化合物5aを赤色固体として(0.49mmol,収率16%)、及び、10mgの化合物5bを黒色固体として(0.014mmol,収率0.9%)、それぞれ得た。
【0112】
化合物3a
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.10 (dt, J = 11.0 Hz, 3.7 Hz, 2H), 7.74 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.66 (d, J = 7.9 Hz, 4H), 7.65-7.62 (m, 2H), 7.56 (s, 2H), 7.34-7.27 (m, 4H), 0.94 (s, 18H), 0.33 (s, 12H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ148.8, 142.2, 140.3, 138.9, 138.6, 135.8, 135.0, 128.0, 126.8, 126.2, 125.5, 124.8, 121.5, 77.4, 77.2, 76.9, 26.7, 17.2, -6.0.
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C42H49Si2: 609.3367 ([M]+). Obsd. 609.3368.
【0113】
化合物3b
Mp: >300℃.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.15 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 8.11-8.08 (m, 2H), 7.95 (s, 2H), 7.81 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.76 (d, J = 8.1 Hz, 4H), 7.67 (d, J = 8.2 Hz, 4H), 7.66-7.64 (m, 2H), 7.59 (s 2H), 7.43 (td, J = 11.1 Hz, 0.9 Hz, 2H), 7.38 (td, J = 7.6 Hz, 1.1 Hz, 2H), 7.36-7.32 (m, 4H), 0.95 (s, 18H), 0.34 (s, 12H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ149.5, 142.4, 142.2, 141.8, 141.4, 140.5, 139.2, 138.6, 138.4, 135.7, 135.1, 128.4, 128.3, 126.8, 126.6, 126.5, 126.3, 125.5, 124.8, 121.8, 121.7, 26.7, 17.2, -6.0.
HRMS (MALDI): m/z Calcd. for C60H59Si2: 835.4150 ([M+H]+), Obsd. 835.4139.
【0114】
化合物3c
Mp: >300℃.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.16 (d, J = 7.6 Hz, 3H), 8.11-8.09 (m, 2H), 7.97 (d, J = 2.6 Hz, 3H), 7.85-7.82 (m, 3H), 7.76 (d, J = 7.9 Hz, 4H), 7.68 (d, J = 8.2 Hz, 5H), 7.66-7.65 (m, 2H), 7.56 (s, 2H), 7.48-7.33 (m, 14H), 0.95 (s, 18H), 0.35 (s, 12H).
13C{1H} NMR:溶解性が乏しいため測定できなかった。
HRMS (MALDI): m/z Calcd. for C78H68Si2: 1060.48541 ([M]+), Obsd. 1060.48413.
【0115】
化合物5a
Mp: 185.9-186.3℃.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ7.99 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.71 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.65 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.64 (s, 1H), 7.61 (dd, J = 6.5, 1.7 Hz, 1H), 7.45 (s, 1H), 7.41-7.29 (m, 5H), 0.94 (s, 9H), 0.34 (s 6H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ150.0, 142.3, 141.2, 140.3, 139.2, 138.2, 138.1, 136.1, 135.6, 135.0, 128.5, 128.5, 128.3, 127.4, 127.1, 126.7, 126.5, 125.4, 124.7, 124.5, 121.7, 121.0, 26.7, 17.2, -6.0.
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C30H30Si79Br: 497.1295 ([M]+). Obsd. 497.1292.
【0116】
化合物5b
Mp: >300℃.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.18 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 8.13-8.10 (m, 1H), 8.07 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 8.04 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.98 (s, 1H), 7.88 (s, 1H), 7.82 (t, J = 8.5 Hz, 2H), 7.78 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.70 (d, J = 8.3 Hz, 3H), 7.68-7.65 (m. 1H), 7.60 (s, 1H), 7.49-7.34 (m, 9H), 0.95 (s, 9H), 0.35 (s, 6H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ150.0, 143.1, 142.6, 142.4, 141.9, 141.4, 140.8, 140.5, 139.2, 138.7, 138.5, 138.1, 136.2, 135.8, 135.4, 129.2, 129.2, 129.0, 128.70, 128.66, 127.8, 127.6, 127.2, 127.02, 126.99, 126.8, 126.3, 125.8, 125.6, 125.0, 122.3, 122.1, 122.0, 121.3, 26.7, 17.3, -6.0.
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C48H40 79BrSi: 723.2077 ([M+H]+), Found. 723.2077.
【0117】
以下のスキームにしたがって、オリゴマーの合成を行った。この合成では、まず、上記のスキームS2において、根岸カップリングを用いることにより、式(IV)によって表される化合物を合成している。その後、上記のスキームS4に従ってホモカップリング反応を行うことにより、2量体を得ている。
【0118】
なお、本スキームにおける化合物の同定は、以下の装置を用いて行った。即ち、H-NMRは、JEOL AL-400を用いて測定した。また、質量スペクトルは、Bruker micrOTOF Focus(イオン化法:APCI)を用いて測定した。
【化26】
【0119】
(中間体化合物7の合成)
化合物7(3-bromo-3’-(4-methoxyphenyl)-5,5’,6,6’-tetra(n-buthoxy)-1,1’-biindenylidene)を、以下のようにして合成した。
【0120】
まず、(E)-3,3’-dibromo-5,5’,6,6’-tetra(n-buthoxy)1,1’-biindenylidene(化合物6)を、化合物1と同様に、文献法に従って合成した。次に、ZnCl・TMEDA(90.1mg,0.357mmol)のTHF溶液(4mL)に、4-メトキシフェニルマグネシウムブロミドを滴下し、1時間以上室温で撹拌して、塩化4-メトキシフェニル亜鉛溶液を準備した。Pd(PPh(6.9mg,5.95μmol)のTHF溶液(4.0mL)に、上記の化合物6及び塩化4-メトキシフェニル亜鉛溶液を加え、THF(2.0mL)で洗浄し、75℃で50時間加熱した。得られた反応混合物を、水(100mL)及び酢酸エチルを用いて、水層と有機層とに分離した。水層を酢酸エチルで抽出して(50mL×3回)有機層に加え、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。無水硫酸ナトリウムを濾別し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(塩基性アルミナ;ヘキサン/酢酸エチル 10/1~0/10(v/v))で精製することにより、化合物7を茶色固体として得た(0.148mmol,収率50%)。
【0121】
中間体化合物7
1H NMR (400 MHz, C6D6): δ7.83 (s, 1H), 7.73 (s, 1H), 7.72 (s, 1H) 7.64 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.42 (s, 1H), 7.29 (s, 1H), 7.13 (s, 1H), 6.85 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 3.91 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.80 (t, J = 6.4 Hz, 4H), 3.74 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.30 (s, 3H), 1.59-1.66 (m, 8H), 1.37-1.53 (m, 8H), 0.82-0.94 (m, 12H).
【0122】
(化合物8の合成)
以上のようにして得られた中間体化合物7を用いて、2量体化合物8を合成した。
【0123】
Ni(cod)(20.12mg,0.0731mmol)のDMF溶液(5mL)溶液に2,2’-ビピリジル(10.9 mg,0.0698 mmol)、1,5-シクロオクタシジエン(7.5μL,0.0610 mmol)、及び、化合物7(40.1mg,0.0573mmol)を加え,65℃で47時間加熱撹拌した。得られた反応混合物を、水(40mL)及び酢酸エチルを用いて、水層と有機層とに分離した。水層を酢酸エチルで抽出して(30mL×3回)有機層に加え、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。無水硫酸ナトリウムを濾別し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(塩基性アルミナ;ヘキサン/酢酸エチル 10/1~0/10(v/v))で精製することにより、化合物2を黒色固体として得た(9.41μmol,収率33%)。
【0124】
化合物8
1H NMR (400 MHz, C6D6): δ8.22 (s, 1H), 8.09 (s, 1H), 8.05 (s, 1H), 7.75 (s, 1H), 7.68 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 7.63 (s, 1H), 7.35 (s, 1H), 6.86 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 4.06 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.99 (td, J = 6.3, 2.4 Hz, 4H), 3.82 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.31 (s, 3H), 1.36-1.80 (m, 16H), 0.85-0.96 (m, 12H)
【0125】
以下のスキームにしたがって、オリゴマーの合成を行った。この合成では、まず、上記のスキームS2に従って、ホウ素化、ケイ素化、又はスズ化を行うことにより、各種の中間体化合物を合成している。その後、上記のスキームS5に従ってクロスカップリング反応を行うことにより、オリゴマーを得ている。
【0126】
(中間体化合物9aの合成)
【化27】
【0127】
化合物9a((E)-3,3’-bis(4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan-2-yl)-1,1’-biindenylidene)を、以下のようにして合成した。
【0128】
化合物1(390mg,1.01mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(619mg,2.44mmol)、KOAc(507mg,5.16mmol)、及びPd(PPh(25mg,0.022mmol)のTHF(20mL)溶液を、75℃で12時間攪拌した。得られた混合物にCHClを加えたのち層分離し、水層をCHCl(3×30mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、ヘキサン/CHClを4/1から1/1,R=0.43(ヘキサン/CHCl 1/1))で精製した後、リサイクル分取GPC(溶離液としてCHCl)を行って、102mgの化合物9aを赤色固体として得た(0.21mmol,収率21%)。
【0129】
中間体化合物9a
Mp: 273.5-274.3℃
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ1.38 (s, 24H), 7.21 (td, J = 7.6 Hz, 1.2 Hz, 2H), 7.27 (td, J = 7.4 Hz, 1.1 Hz, 2H), 7.72 (dd, J = 7.3 Hz, 0.6 Hz, 2H), 7.90 (s, 2H), 8.00 (d, J = 7.3 Hz, 2H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ25.1, 83.8, 123.4, 125.7, 125.8, 128.8, 137.3, 139.2, 143.1, 146.2(ホウ素原子に結合した炭素原子の1つのシグナルは、四重極緩和のために観察されなかった)
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C30H35B2O4: 481.2716 ([M+H]+). Obsd. 481.2722
【0130】
(中間体化合物10a及び11aの合成)
【化28】
【0131】
化合物10a((E)-3,3’-bis(triethylsilyl)-1,1’-biindenylidene)を、以下のようにして合成した。
【0132】
化合物1(116mg,0.30mmol)、4,4,5,5-tetramethyl-2-(triethylsilyl)-1,3,2-dioxaborolane(447mg,1.84mmol)、KCO(215mg,1.56mmol)、及びPd(PPh(7mg,6.2μmol)のTHF(6mL)及びHO(1.2mL)溶液を、75℃で48時間攪拌した。得られた混合物にCHClを加えたのち層分離させて、水層をCHCl(3×20mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてヘキサン,R=0.50)で精製して、720mgの化合物10aを赤色固体として得た(0.16mmol,収率52%)。
【0133】
中間体化合物10a
Mp: 122.2-123.2℃
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ0.90-0.95 (m, 12H), 1.01-1.05 (m, 18H), 7.21 (td, J = 7.5 Hz, 1.2 Hz, 2H), 7.26 (td, J = 7.5 Hz, 1.2 Hz, 2H), 7.40 (dd, J = 7.2 Hz, 0.8 Hz, 2H), 7.61 (s, 2H), 7.95 (d, J = 7.3 Hz, 2H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ4.0, 7.8, 123.2, 125.5, 125.8, 128.8, 137.9, 138.1, 141.1, 147.9, 148.9
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C30H41Si2: 457.2741 ([M+H]+). Obsd. 457.2737
【0134】
化合物11a((E)-3-bromo-3’-triethylsilyl-1,1’-biindenylidene)を、以下のようにして合成した。
【0135】
化合物1(774mg,2.00mmol)、4,4,5,5-tetramethyl-2-(triethylsilyl)-1,3,2-dioxaborolane(1.17g,4.81mmol)、KCO(1.14g,8.27mmol)、及びPd(PPh(48mg,0.042mmol)のTHF(40mL)及びHO(8mL)溶液を、75℃で12時間攪拌した。得られた混合物にトルエンを加えた上で層分離させて、水層をトルエン(3×30mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水NaSO上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてヘキサン,R=0.50)で精製しした後、リサイクル分取GPC(溶離液としてCHCl)を行って、420mgの化合物11aを赤色固体として得た(1.00mmol,収率50%)。
【0136】
中間体化合物11a
Mp: 50.5-51.5℃
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ0.90-0.95 (m, 6H), 1.02-1.05 (m, 9H), 7.21 (td, J = 7.6 Hz, 1.1 Hz, 1H), 7.28 (td, J = 7.5 Hz, 1.0 Hz, 1H), 7.33-7.37 (m, 1H), 7.38-7.41 (m, 3H), 7.57 (s, 1H), 7.63 (s, 1H), 7.91 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.97 (d, J = 7.3 Hz, 1H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ3.9, 7.7, 121.2, 123.4, 125.1, 125.2, 126.0, 127.5, 127.8, 128.8, 128.9, 129.2, 136.6, 137.47, 137.54, 137.7, 141.5, 141.9, 147.9, 149.9
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C24H26 79BrSi: 421.0982 ([M+H]+). Obsd. 421.0980
【0137】
(中間体化合物12aの合成)
【化29】
【0138】
化合物12a((E)-3,3’-bis(tributylstannyl)-1,1’-biindenylidene)を、以下のようにして合成した。
【0139】
化合物1(79mg,0.20mmol)、SnBu(1.02mL,2.04mmol)、Pd(OAc)(1mg,4.9μmol)、及びPCy(2mg,8.6μmol)のTHF(4mL)溶液を、75℃で24時間攪拌した。得られた混合物を室温で冷却し、揮発物をロータリーエバポレーションによって除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液としてヘキサン,R=0.45)で精製して、97mgの化合物12を赤色固体として得た(0.12mmol,収率59%)。
【0140】
中間体化合物12a
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ0.91 (t, J = 14.7 Hz, 18H), 1.17-1.20 (m, JC-Sn = 51.9 Hz, 12H), 1.37 (td, J = 14.7 Hz, 7.3 Hz, 12H), 1.58-1.65 (m, 12H), 7.19 (td, J = 7.1 Hz, 1.9 Hz, 2H), 7.22-7.28 (m, 4H), 7.58 (s, JH- 117 Sn = 29.0 Hz, JH- 119 Sn = 40.0 Hz, 2H), 7.95 (d, J = 7.6 Hz, JH-Sn = 31.4 Hz, 4H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ10.0 (JC- 117 Sn = 333.3 Hz, JC- 119 Sn = 348.8 Hz), 13.8, 27.5 (JC-Sn = 58.1 Hz), 29.4 (JC-Sn = 19.9 Hz), 123.2, 125.0, 125.4, 128.4, 137.5, 137.7, 139.8 (JC-Sn = 50.9 Hz), 149.4 (JC-Sn = 33.6 Hz), 153.7 (JC- 117 Sn = 328.8 Hz, JC- 119 Sn = 344.2 Hz)
119Sn NMR (186.5 MHz, CDCl3): δ-55.7 (J117 Sn - 119 Sn = 347.6 Hz)
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C42H65 120Sn2: 809.3130 ([M+H]+). Obsd. 809.3142
【0141】
(化合物10b及び10cの合成)
【化30】
【0142】
2量体化合物10b((1E,1’’’E)-3,3’’’- bis(triethylsilyl)-1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’-quaterindene)及び3量体化合物10c((1E,1’’’E,1’’’’’E)-3,3’’’’’-bis(triethylsilyl)-1,1’:3’,1’’:3’’,1’’’:3’’’,1’’’’:3’’’’,1’’’’’-sexiindene)を、以下のようにして合成した。
【0143】
(鈴木-宮浦カップリングによる化合物10b及び10cの合成)
化合物9a(15mg,0.031mmol)、化合物11a(30mg,0.071mmol)、KCO(24mg,0.18mmol)、及びPd(PPh(1mg,1μmol)のTHF(1mL)及びHO(0.2mL)溶液を、75℃で24時間攪拌した。得られた混合物にCHClを加えたのち層分離させて、水層をCHCl(3×10mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、ヘキサンからヘキサン/CHCl9/1)で精製して、1mgの化合物10bを黒赤色固体として(2μmol,収率2%)、8mgの化合物10cを緑色固体として(8.2μmol,収率26%)、それぞれ得た。
【0144】
(右田-小杉-Stilleカップリングによる化合物10cの合成)
化合物12a(35mg,0.043mmol)、化合物11a(40mg,0.095mmol)、LiClのTHF溶液(0.5M,0.19mL,0.095mmol)、及びPd(PPh(6mg,5μmol)のTHF(1mL)溶液を、75℃で32時間攪拌した。得られた混合物にCHClを加えたのち層分離させて、水層をCHCl(3×15mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、ヘキサンからヘキサン/CHCl9/1)で精製して、2mgの化合物10cを緑色固体として得た(2.6μmol,収率6%)。
【0145】
化合物10b
Mp: >300℃
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ0.93-0.98 (m, 6H), 1.03-1.08 (m, 9H), 7.24 (td, J = 7.5 Hz, 1.2 Hz, 1H), 7.28 (td, J = 7.3 Hz, 1.2 Hz, 1H), 7.38-7.46 (m, 3H), 7.68 (s, 1H), 7.80 (dd, J = 7.3 Hz, 0.6 Hz, 1H), 7.92 (s, 1H), 8.02 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.11 (d, J = 7.3 Hz, 1H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ4.0, 7.8, 122.1, 123.4, 125.4, 125.9, 126.0, 126.7, 127.0, 128.7, 129.0, 137.7, 138.1, 138.4, 139.9, 142.4, 142.5, 143.0, 147.9, 149.2
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C48H51Si2: 683.3524 ([M+H]+). Obsd. 683.3520
【0146】
化合物10c
Mp: >300℃
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ0.96 (ddd, J = 15.9 Hz, 7.6 Hz, 1.6 Hz ,6H), 1.04-1.11 (m, 9H), 7.26 (dtd, J = 18.7 Hz, 7.4 Hz, 1.3 Hz, 2H), 7.39-7.48 (m, 5H), 7.69 (s, 1H), 7.82-7.85 (m, 2H), 7.95 (s, 1H), 7.97 (s, 1H), 8.02 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.12 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 8.15 (d, J = 7.0 Hz, 1H)
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ4.0, 7.8, 122.1, 122.3, 123.4, 125.4, 125.7, 125.9, 126.0, 126.6, 127.0, 127.2, 128.7, 128.9, 129.0, 137.7, 138.1, 138.4, 138.5, 139.9, 141.8, 142.38, 142.44, 142.45, 142.48, 143.1, 147.9, 149.4
HRMS (APCI): m/z Calcd. for C66H61Si2: 909.4306 ([M+H]+). Obsd. 909.4298
【0147】
以下のスキームにしたがって、オリゴマーの合成を行った。この合成は、上記のスキームS6において、鈴木-宮浦カップリングを用いた場合に相当している。
【化31】
【0148】
ここでは、Rがt-ブチルジメチルシリル基又は水素原子の場合について説明する。その他の場合にも、同様の方法によって、合成、単離、及び同定を行うことができる。
【0149】
(宮浦-石山ホウ素化反応による中間体化合物15aの合成)
反応容器に対し、化合物5a(101mg,204μmol)、ビスピナコラートジボロン(56.8mg,224μmol)、酢酸カリウム(101mg,1.03mmol),Pd(PPh(7.1mg,6.1μmol)、及びTHF(2mL)を加え、80℃で34時間攪拌した。得られた反応混合物に水(30mL)とジクロロメタン(30mL)を加え、ジクロロメタンで抽出し(10mL×3回)、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサンからジクロロメタン、酢酸エチル)で精製することで、68.0mgの化合物15aを赤色固体として得た(125μmol,収率61%)。
【0150】
化合物15a
Mp: 206.5-206.6℃.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.16-8.15 (m, 1H), 8.02-7.98 (m, 2H), 7.82-7.80 (m, 1H), 7.73 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.66 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.61-7.60 (m, 1H), 7.52 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 7.33-7.27 (m, 3H), 7.23-7.20 (m, 1H), 1.41 (d, J = 1.4 Hz, 12H), 0.94 (d, J = 3.4 Hz, 9H), 0.34 (d, J = 3.2 Hz, 6H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CDCl3): δ150.2, 146.3, 142.3, 142.0, 141.4, 139.1, 138.4, 137.5, 135.4, 128.9, 128.5, 128.3, 127.9, 126.4, 126.1, 125.6, 125.1, 124.8, 123.7, 121.4, 83.8, 25.1.
【0151】
(鈴木-宮浦カップリングによる化合物15b及び3cの合成)
反応容器に対し、化合物15a(32.6mg,59.9μmol)、化合物1(116mg,404μmol)、炭酸カリウム(41.4mg,300μmol),Pd(PPh(3.6mg,3.1μmol)、THF(10mL)、及び、水(2mL)を加え、75℃で5時間攪拌した。得られた反応混合物に水(20mL)とジクロロメタン(50mL)を加え、ジクロロメタンで抽出し(10mL×3回)、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)及びゲル浸透クロマトグラフィー(クロロホルム)で精製することで、6.6mgの化合物3cを黒色固体として(6.2μmol,収率21%)、及び、17.2mgの化合物15bを黒色固体として(23.8μmol,収率40%)として、それぞれ得た。
【0152】
化合物15b
Mp: >300℃.
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ8.18 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 8.13-8.10 (m, 1H), 8.07 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 8.04 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.98 (s, 1H), 7.88 (s, 1H), 7.82 (t, J = 8.5 Hz, 2H), 7.78 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.70 (d, J = 8.3 Hz, 3H), 7.68-7.65 (m, 1H), 7.60 (s, 1H), 7.49-7.34 (m, 9H), 0.95 (s, 9H), 0.35 (s, 6H).
13C{1H} NMR (125 MHz, CD2Cl2): δ150.0, 143.1, 142.6, 142.4, 141.9, 141.4, 140.8, 140.5, 139.2, 138.7, 138.5, 138.1, 136.2, 135.8, 135.4, 129.2, 129.2, 129.0, 128.70, 128.66, 127.8, 127.6, 127.2, 127.02, 126.99, 126.8, 126.3, 125.8, 125.6, 125.0, 122.3, 122.1, 122.0, 121.3, 26.7, 17.3, -6.0.
HRMS (MALDI): m/z Calcd for C48H40 79Br: 725.2077 ([M+H]+). Obsd.: 723.2077.
【0153】
(宮浦-石山ホウ素化反応による中間体化合物14aの合成)
化合物5aの代わりに化合物4aを用いたことを除いては、化合物15aと同様にして、化合物14aを合成した(収率17%)。
【0154】
化合物14a
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.06-8.04 (m, 1H), 7.19 (s, 1H), 7.88 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.71 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.66-7.64 (m, 2H), 7.48-7.46 (m, 1H), 7.43-7.40 (m, 3H), 7.36-7.33 (m, 1H), 7.22-7.17 (m, 3H), 7.13-7.09 (m, 1H), 1.31 (s, 12H).
13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ150.2, 146.3, 142.3, 142.0, 141.4, 139.1, 138.4, 137.5, 135.4, 128.9, 128.5, 128.3, 127.9, 126.4, 126.1, 125.6, 125.1, 124.8, 123.7, 121.4, 83.8, 25.1.
【0155】
(鈴木-宮浦カップリングによる化合物14b及び2cの合成)
化合物15aの代わりに化合物14aを用いたことを除いては、化合物15b及び3cと同様にして、化合物14b(収率34%)及び化合物2c(収率18%)を合成した。
【0156】
化合物14b
Mp: >300℃.
1H NMR (500 MHz, CD2Cl2): δ8.19 (d, J = 7.1 Hz, 1H), 8.13-8.11 (m, 1H), 8.08 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 8.05 (d J = 7.2 Hz, 1H), 7.99 (s, 1H), 7.88 (s, 1H), 7.84-7.80 (m, 4H), 7.71 (s, 1H), 7.65-7.63 (m, 1H), 7.59 (s, 1H), 7.55 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 7.49-7.35 (m, 10H).
HRMS (MALDI): m/z Calcd for C42H25 79Br: 608.1140 ([M]+), Obsd. 608.1136.
【0157】
以下のスキームにしたがって、オリゴマーの合成を行った。この合成は、上記のスキームS8において、鈴木-宮浦カップリングを用いた場合に相当している。
【化32】
【0158】
ここでは、Rがt-ブチルジメチルシリル基の場合について説明する。即ち、化合物15bから化合物3dを合成する場合について説明する。その他の場合にも、同様の方法によって、合成及び同定を行うことができる。
【0159】
反応容器に対し、化合物15b(17.2mg,23.8μmol)、ビスピナコラートジボロン(6.6mg,26μmol)、炭酸カリウム(16.4mg,119μmol),Pd(PPh(1.4mg,1.2μmol)、THF(10mL)、及び、水(2mL)を加え、75℃で13時間攪拌した。得られた反応混合物に水(10mL)とジクロロメタン(30mL)を加え、ジクロロメタンで抽出し(15mL×3回)、得られた有機層を水(30mL)で洗浄し、溶媒を減圧留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタンから酢酸エチル)で精製し、ジクロロメタンによってメンブレンフィルタを用いて濾過することにより、2.1mgの化合物3dを黒色固体として得た(1.6μmol,純度100%の場合の収率14%)。
【0160】
化合物3d
質量スペクトルにおいて、4量体化合物3dに相当する位置に明確なピークが見られた。これにより、4量体化合物が確かに形成していることが分かった。
HRMS (MALDI): m/z Calcd for C96H78Si2: 1286.5636 ([M]+). Obsd.: 1286.5652.
【0161】
[結晶構造解析]
得られたオリゴマーの一部について、結晶構造解析を行った。
【0162】
化合物2b
化合物2bのCHCl溶液中にn-ヘキサンをゆっくり拡散させることにより、黒色の板状単結晶を成長させた。SPring-8(JASRI)のBL02B1ビームラインにおけるシンクロトロン放射(λ=0.4137Å)の強度データを100Kで収集した。最大2θ角31.2°で16301個の反射を測定し、そのうち3339個は独立反射(Rint=0.0877)であった。直接法(SHELXT-2018/2)により構造を解析し、F(SHELXL-2018/3)上の全行列最小二乗により精密化した。全ての水素原子はAFIX命令を用いて配置し、全ての非水素原子は異方的に精密化した。
【0163】
結晶データ:C48H30; FW = 606.72, crystal size = 0.02x0.01x0.01 mm3, triclinic, P-1 (#2), a = 3.8411(3) Å, b = 11.5144(9) Å, c = 17.6125(13) Å, α= 107.216(7)°, β= 90.470(6)°, γ= 97.393(6)°, V = 737.00(10) Å3, Z = 1, Dc = 1.367 g cm-3, μ= 0.036 mm-1, R1 = 0.0632 (I > 2σ(I)), wR2 = 0.1397 (all data), GOF = 1.108.
【0164】
図2は、化合物2bの結晶構造解析の結果を示している。図2に示す通り、化合物2bでは、フルバレン同士が直接結合し、2量体が確かに形成されていることが分かった。また、各分子は比較的平坦な構造を有しており、分子間の最も近接した炭素-炭素原子間の距離は3.372Åであった。
【0165】
化合物3b
化合物3bのCHCl溶液中にi-PrOHをゆっくり拡散させることにより、黄色の板状単結晶を成長させた。SPring-8(JASRI)のBL02B1ビームラインにおけるシンクロトロン放射(λ=0.4125Å)の強度データを100Kで収集した。最大2θ角31.1°で56114個の反射を測定し、そのうち5732個は独立反射(Rint=0.1759)であった。直接法(SHELXT-2018/2)により構造を解析し、F(SHELXL-2018/3)上の全行列最小二乗により精密化した。全ての水素原子はAFIX命令を用いて配置し、全ての非水素原子は異方的に精密化した。なお、この化合物は、CHClが溶媒和された状態で結晶解析された。
【0166】
結晶データ:C60H59Si2 .CH2Cl2; FW = 920.17, crystal size = 0.01x0.01x0.01 mm3, orthorhombic, Ccc2 (#37), a = 23.5244(14) Å, b = 29.1379(16) Å, c = 7.2938(4) Å, V = 4999.5(5) Å3, Z = 4, Dc = 1.222 g cm-3, μ = 0.061 mm-1, R1 = 0.0653 (I > 2σ(I)), wR2 = 0.1656 (all data), GOF = 1.004.
【0167】
図3は、化合物3bの結晶構造解析の結果を示している。図3に示す通り、化合物3bでは、フルバレン同士が直接結合し、2量体が確かに形成されていることが分かった。また、各分子は、化合物2bと比較すると、やや湾曲した極性構造を有しており、分子間で最も近接した炭素-炭素原子間の距離は3.654Åであった。
【0168】
化合物8
化合物2b及び3bと同様の方法により、SPring-8(JASRI)のBL02B1ビームラインを用いて、結晶構造解析を行った。その結果を図4に示す。
【0169】
図4は、化合物8の結晶構造解析の結果を示している。図4に示す通り、化合物8では、二面角が比較的大きく、平面性はそれほど高くなかった。しかしながら、化合物8において、フルバレン同士が直接結合し、2量体が形成されていることが確認できた。
【0170】
化合物10b
化合物10bのCHCl溶液中にMeOHをゆっくり拡散させることにより、赤色の板状単結晶を成長させた。FR-X発生器、Varimax光学系、及びMoKα放射(λ=0.71073Å)を有するPILATUS 200K光子計数検出器を備えたRigaku XtaLAB AFC10回折計を用いて、133Kで強度データを収集した。最大2θ角55.0°で11398個の反射を測定し、そのうち4233個は独立反射(Rint=0.0296)であった。直接法(SHELXT-2018/2)により構造を解析し、F(SHELXL-2018/3)上の全行列最小二乗により精密化した。全ての水素原子はAFIX命令を用いて配置し、全ての非水素原子は異方的に精密化した。
【0171】
結晶データ:C48H50Si2; FW = 683.06, crystal size = 0.20x0.05x0.01 mm3, tetragonal, I-4 (#82), a = 23.1624(9) Å, b = 23.1624(9) Å, c = 7.2304(4) Å, V = 3879.1(4) Å3, Z = 4, Dc = 1.170 g cm-3, μ= 0.124 mm-1, R1 = 0.0417 (I > 2σ(I)), wR2 = 0.1100 (all data), GOF = 1.056.
【0172】
図5は、化合物10bの結晶構造解析の結果を示している。図5中、(a)は熱楕円体プロット(確率50%)であり、(b)は側面図であり、(c)及び(d)はパッキング構造を示している。図5に示す通り、化合物10bでは、フルバレン同士が直接結合し、2量体が確かに形成されていることが分かった。
【0173】
化合物10c
化合物10cのCHCl溶液中にMeCNをゆっくり拡散させることにより、緑色のブロック状単結晶を成長させた。FR-X発生器、Varimax光学系、及びMoKα放射(λ=0.71073Å)を有するPILATUS 200K光子計数検出器を備えたRigaku XtaLAB AFC10回折計を用いて、128Kで強度データを収集した。最大2θ角55.0°で63302個の反射を測定し、そのうち11386個は独立反射(Rint=0.0669)であった。直接法(SHELXT-2018/2)により構造を解析し、F(SHELXL-2018/3)上の全行列最小二乗により精密化した。全ての水素原子はAFIX命令を用いて配置し、全ての非水素原子は異方的に精密化した。
【0174】
結晶データ:C66H60Si2; FW = 909.32, crystal size = 0.20x0.10x0.10 mm3, monoclinic, P21/n (#14), a = 18.8784(12) Å, b = 13.8630(6) Å, c = 20.8684(15) Å, β= 114.320(8)°, V = 4976.8(6) Å3, Z = 4, Dc = 1.214 g cm-3, μ = 0.114 mm-1, R1 = 0.0771 (I > 2σ(I)), wR2 = 0.2331 (all data), GOF = 1.093.
【0175】
図6は、化合物10cの結晶構造解析の結果を示している。図6中、(a)は結晶学的に独立な2分子の熱楕円体プロット(確率50%)であり、(b)は側面図であり、(c)はパッキング構造を示している。図6に示す通り、化合物10cでは、フルバレン同士が直接結合し、3量体が確かに形成されていることが分かった。
【0176】
以上の通り、化合物2b、3b、8、10b、及び10cについて、結晶構造解析の結果からも、オリゴマー構造が確かに形成されていることが確認された。また、これらの化合物において立体構造及びパッキング構造の違いが見られたことから、1,1’-ビインデニリデン骨格又はキャップ部分における置換基の変更によって、オリゴマーの結晶構造を制御し得ることが分かった。
【0177】
[紫外可視近赤外吸収スペクトル]
得られたオリゴマーの一部について、紫外可視近赤外吸収スペクトル測定を行った。また、比較対象として、n=1の単量体、及び、フラーレンC60についても、同様の測定を行った。UV/Vis/NIR吸収スペクトルは、1cm角石英キュベット中のスペクトルグレードTHFの希釈試料溶液を用いて、0.2nmの分解能を有するShimadzu UV-3600分光光度計で測定した。
【0178】
図7は、化合物3b及び3cに対する紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定結果を示している。図7には、化合物3a及びフラーレンC60に対する測定結果も併せて示している。
【0179】
図7に示すように、化合物3a(単量体)、化合物3b(2量体)、化合物3c(3量体)の順に、長波長側の肩状の吸収が、レッドシフト(長波長化)していることが分かった。具体的には、それぞれの吸収波長は、順に、476nm、616nm、670nmと増大していた。また、それと共に、モル吸光係数εも増大していた。この結果から、オリゴマーの形成及びnの増大に伴って、ユニット間でのπ共役が拡張していることが示唆された。
【0180】
また、図7において、フラーレンC60では、最長波長での吸収帯(623nm)は禁制であり、その強度は弱かった。これに対し、化合物3b及び化合物3cでは、長波長領域での吸収帯が許容であり、その強度は高かった。より具体的には、化合物3b及び化合物3cでは、フラーレンC60と比較して、モル吸光係数が2桁以上高く、化合物3cでは、フラーレンC60よりも高い吸収波長(670nm)を示すことが分かった。
【0181】
図8は、化合物8に対する紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定結果を示している。図8には、化合物8に対応する単量体に対する測定結果も併せて示している。
【0182】
図8に示すように、化合物8においても、対応する単量体と比較して、吸収波長の長波長化及びモル吸光係数の増大が観察された。この結果からも、オリゴマーの形成によって、ユニット間でのπ共役が拡張していることが示唆された。
【0183】
[電気化学測定]
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定をALS/chi-670A電気化学分析器(BAS)で行った。CVセルはガラス状炭素電極、Ptワイヤ対電極、及びAg/AgNO 3参照電極から構成されたものを用いた。支持電解質として0.1Mのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスファートを含む1mM濃度のTHF中の試料溶液を用いてN雰囲気下で測定を行った。酸化還元電位はフェロセン/フェロセニウムイオン対で校正した。
【0184】
図9A及び9Bは、化合物3b及び3cに対するサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果を示している。図9A及び9Bには、化合物3a及びフラーレンC60に対する測定結果も併せて示している。
【0185】
図9Aに示す通り、化合物3a(単量体)、化合物3b(2量体)、化合物3c(3量体)の順に、第1還元電位が正側にシフトしていること、即ち、より高い電子親和性を有していることが明らかとなった。具体的には、それぞれの第1還元電位は、順に、-1.48V、-1.19V、-1.09Vと増大しており、フラーレンC60の第1還元電位(-0.89V)に匹敵する電子親和性を有していた。また、これらの化合物は、フラーレンC60と同様に、可逆的な酸化還元過程を示した。化合物3a(単量体)では2段階の可逆的な還元過程が観測されたのに対し、化合物3b(2量体)では4段階、化合物3c(3量体)では5段階の可逆的な還元過程が観測された。
【0186】
また、図9Bに示す通り、サイクリックボルタンメトリーの結果をもとにRandles-Sevcik式を用いた解析を行った結果、化合物3c(3量体)の1段階目の還元は、2電子還元であることが明らかとなった。即ち、化合物3a(単量体)では2電子、化合物3b(2量体)では4電子、化合物3c(3量体)では6電子の可逆的な還元が可能であることが分かった。このことから、本発明に係るオリゴマーにおいては、n量体に対して2n個の電子の可逆的な還元が可能であることが示唆された。
【0187】
更に、図9Bに示す通り、化合物3a(単量体)、化合物3b(2量体)、化合物3c(3量体)の順に、第1還元電位と第2還元電位との差が小さくなってることが分かった。具体的には、それぞれの還元電位差は、0.31V、0.15V、0Vと狭くなっていた。この結果から、本発明に係るオリゴマーにおいては、ジアニオンまでが特に生成しやすいことが示唆された。なお、ジアニオンの形成に関しては、後述する通り、量子化学計算による検討も行った。
【0188】
図10は、化合物8に対するサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定結果を示している。図10には、化合物8に対応する単量体に対する測定結果も併せて示している。
【0189】
図10に示すように、化合物8においても、対応する単量体と比較して、第1還元電位の増大が観察された。また、化合物8についても、2n=4電子の可逆的な還元が見られることが分かった。
【0190】
[量子化学計算]
幾何学的最適化は、Gaussian 16 Revision B.01に実装された理論のPBE0/6-31+G(d)レベルで、デフォルトの閾値及びアルゴリズムを用いて行った。対称性の仮定なしに定常点を最適化し、同じ理論レベル(虚周波数の数は0)での周波数解析により同定した。
【0191】
図11は、化合物3b及び3cのジアニオン構造における炭素間結合距離の計算値の変化を示している。具体的には、図11では、化合物3b及び3c並びにそれらのジアニオンについて構造最適化を行って、主鎖の炭素原子間の距離を左から順にプロットしている。なお、図11に示す例においては、簡単のため、R=トリメチルシリル基として計算を行った。
【0192】
図11に示す通り、ジアニオンと中性種とでは、結合交替の傾向が逆転していた。また、ジアニオンにおいては、両端の5員環部分の結合距離の変化が特に小さくなっていた。この結果は、上記のオリゴマーのジアニオンにおいては、末端に負電荷を分離して局在させることによる芳香族性の獲得と、負電荷間の反発の抑制が生じたために、ジアニオン構造が安定しているものと推測される。また、鎖長を伸ばすほど分子内の電荷の分離がより大きくなり、負電荷間の反発がより小さくなるために、オリゴマーのユニット数が増えるほど、第1還元電位と第2還元電位との差が小さくなったものと考えられる。このような傾向は、ペンタフルバレン構造を1次元状(鎖状)に拡張したことによる特徴であり、先に図1を参照しながら説明した設計コンセプトが、フラーレンC60等との違いを確かに生み出していることが示唆される。
【0193】
図12は、化合物8のジアニオン構造における炭素間結合距離の計算値の変化を示している。具体的には、図12では、化合物8並びにそのジアニオンについて構造最適化を行って、主鎖の炭素原子間の距離を左から順にプロットしている。図12に示すように、化合物8においても、同様の傾向が見られることが分かった。
【0194】
図13は、本発明の一態様に係る鎖状3量体のフロンティア軌道準位の計算例を示している。図13には、フラーレンC60及び先に図1を参照しながら説明した仮想的な環状3量体についての計算値も併せて示している。なお、図13に示す鎖状3量体は、式(I)において、R=水素原子、A=水素原子、n=3としたものに相当している。
【0195】
図13から分かるように、鎖状3量体は、フラーレンC60と比較して、より高いHOMOを有している。また、鎖状3量体は、対応する環状3量体と比較して、より低いLUMOを有している。更に、鎖状3量体は、フラーレンC60及び対応する環状3量体と比較して、より小さなHOMO-LUMOギャップを有している。これらの計算結果は、上述したオリゴマーの長波長側での光吸収及び高い電子親和性等の観測結果とよく整合している。
【0196】
図14は、化合物3b及び3cに対するフロンティア軌道準位及びその軌道分布の計算結果を示している。図14には、化合物3a及びフラーレンC60に対する測定結果も併せて示している。なお、図14に示す例においては、簡単のため、R=トリメチルシリル基として計算を行った。
【0197】
図14に示す通り、化合物3a(単量体)、化合物3b(2量体)、化合物3c(3量体)の順に、LUMOが低下すると共に、HOMOが上昇している。この計算結果から、本発明に係るオリゴマーは、典型的には、フラーレンC60に匹敵するほど低いLUMOを有し、フラーレンC60よりも高いHOMOを有していることが示唆される。また、本発明に係るオリゴマーは、典型的には、フラーレンC60より狭いHOMOーLUMOギャップを有していることが示唆される。
【0198】
また、図14において、軌道の分布に注目すると、上記のオリゴマーにおいては、HOMOもLUMOも、主鎖方向に沿って、非局在化したπ軌道及びπ軌道を有していることが分かる。この計算結果から、本発明に係るオリゴマーは、典型的には、ポリアセチレンのような非局在化した電子構造を有していることが示唆される。
【0199】
なお、図14中のn=3の場合について記載しているように、TD-DFT計算から求められた3量体の最低エネルギー遷移の振動子強度は、1.93という非常に高い値であった。このような高い振動子強度は、非局在化したHOMO-LUMO間の遷移に対応しているためであると考えられる。
【0200】
図15は、本発明の一態様に係るオリゴマーのフロンティア軌道準位の計算例を示している。図15には、対応する単量体、及び、対応するオリゴエンについての計算結果も併せて示している。
【0201】
図15に示すように、本発明の一態様に係るオリゴマー及び対応するオリゴエンの双方において、繰り返し単位数nが大きくなるほど、LUMOが低下すると共に、HOMOが上昇している。しかしながら、上記のオリゴマーは、対応するオリゴエンと比較して、顕著に低いLUMOを有している。特に、この計算例では、nが3以上の場合、上記のオリゴマーは、フラーレンC60より低いLUMOを有している。また、上記のオリゴマーは、対応するオリゴエンと比較して、より狭いHOMO-LUMOギャップを有している。これらの計算結果から、上記のオリゴマーは、対応するオリゴエンと類似の電子構造(即ち、ポリアセチレンと類似の電子構造)を有すると共に、優れた電子受容性をも併せ持っていることが示唆される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15