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特開2023-128968ポリエステル支持体の回収方法およびポリエステルフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128968
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ポリエステル支持体の回収方法およびポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20230907BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230907BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
B29C48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033676
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 仁
(72)【発明者】
【氏名】池山 敬子
(72)【発明者】
【氏名】仲道 広志
(72)【発明者】
【氏名】西崎 大起
【テーマコード(参考)】
4F207
4F401
【Fターム(参考)】
4F207AA24
4F207AA50
4F207AG01
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL84
4F401AA22
4F401AB10
4F401AC13
4F401AD01
4F401AD07
4F401BA13
4F401CA32
4F401CA75
4F401CA91
4F401CB01
4F401EA04
4F401EA07
4F401EA08
4F401FA01Y
4F401FA01Z
4F401FA06Y
4F401FA06Z
4F401FA07Y
4F401FA07Z
4F401FA20Y
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】ポリエステルフィルムを安定して搬送でき、かつ様々な機能層をポリエステル支持体から、短時間で効率良く剥離する方法を提供すること。
【解決手段】ポリエステル組成物からなるポリエステル支持体と少なくとも1層以上の機能層とを含むポリエステルフィルムに紫外線を照射した後に、アルカリ処理液で処理するポリエステル支持体の回収方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル組成物からなるポリエステル支持体と少なくとも1層以上の機能層とを含むポリエステルフィルムに紫外線を照射した後に、アルカリ処理液で処理するポリエステル支持体の回収方法。
【請求項2】
紫外線照射強度が0.5~40mW/cm、紫外線照射時間が3~210秒である、請求項1記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項3】
前記紫外線の照射と前記アルカリ処理液での処理の間隔が1秒~24時間である、請求項1または2に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項4】
前記アルカリ処理液が、温度40~95℃、かつ濃度1~25wt%のアルカリ水溶液であり、前記アルカリ処理液で処理する時間が30~600秒である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステル支持体の回収方法で回収したポリエステル支持体を押し出し成形してポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1層以上の機能層を有するポリエステルフィルムからポリエステル支持体を回収する方法、およびポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械特性や熱特性などの観点から、工業材料用途として多様な用途で用いられている。これらのポリエステルフィルムの多くの表面には、様々な機能を有する機能層が塗布されている。
【0003】
上記ポリエステルフィルムは使用後、廃棄、焼却されるのが一般的であり、資源の有効活用のため、機能層を剥離してポリエステルフィルムの支持体をリサイクルすることが検討されている。
【0004】
このような技術として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1では、剥離層を有するフィルムを、コロナ処理を施した後、アルカリ性物質とアルコールを含む溶液と接触し、その後有機溶剤と接触させることによって、剥離層を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-291690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の方法では、フィルム上に導電性の物質が存在、付着している場合、コロナ処理でスパークが発生し、フィルムが焼ききれることがあり、多様な機能層の剥離に適用できないという問題がある。
【0007】
本発明は上記理由に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポリエステルフィルムを安定して搬送でき、かつ様々な機能層をポリエステル支持体から、短時間で効率良く剥離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した。その結果、前記ポリエステルフィルムに紫外線を照射した後、アルカリ処理液に接触させることにより所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の構成は以下のとおりである。
(1)ポリエステル組成物からなるポリエステル支持体と少なくとも1層以上の機能層とを含むポリエステルフィルムに紫外線を照射した後に、アルカリ処理液で処理するポリエステル支持体の回収方法。
(2)紫外線照射強度が0.5~40mW/cm、紫外線照射時間が3~210秒である、前記(1)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
(3)前記紫外線の照射と前記アルカリ処理液での処理の間隔が1秒~24時間である、前記(1)又は(2)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
(4)前記アルカリ処理液が、温度40~95℃、かつ濃度1~25wt%のアルカリ水溶液であり、前記アルカリ処理液で処理する時間が30~600秒である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載のポリエステル支持体の回収方法。
(5)前記(1)~(4)のいずれか1つに記載のポリエステル支持体の回収方法で回収したポリエステル支持体を押し出し成形してポリエステルフィルムを製造するポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少なくとも1層以上の機能層を有するポリエステルフィルムを安定して搬送でき、かつ様々な機能層をポリエステル支持体から短時間で効率良く剥離でき、回収したポリエステル支持体を再生利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本発明のポリエステル支持体の回収方法は、ポリエステル組成物からなるポリエステル支持体と少なくとも1層以上の機能層とを含むポリエステルフィルムに紫外線を照射した後に、アルカリ処理液で処理することを含む。
【0013】
<ポリエステルフィルム>
(ポリエステル支持体)
ポリエステル支持体はポリエステル組成物により形成される。
ポリエステル支持体を構成するポリエステルとしては、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分を重縮合して得られるポリエステルが挙げられる。
【0014】
上記ジカルボン酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸など種々のジカルボン酸成分を用いることができる。
【0015】
上記ジオール成分としては、各種ジオールを用いることができる。例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオールなどの脂環式ジオール、2,6-ジヒドロキシ-9-オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンジオールなどの各種脂環式ジオールや、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にもトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。
【0016】
ポリエステルはホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。また、ポリエステルは、ジカルボン酸成分、ジオール成分以外の第3成分を共重合成分として含んでもよい。
【0017】
ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン-2,6-ナフタレートなどが挙げられ、これらの中ではポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、これらは、共重合ポリエステルであってもよい。
【0018】
ポリエステル組成物は、ポリエステルからなるものであってもよいし、組成物中にポリエステル以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、末端封鎖剤、酸化防止剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤等が挙げられる。
【0019】
ポリエステル支持体は、以下の方法で作製できる。
【0020】
例えば、ポリエステル組成物を真空乾燥した後、押し出し機に供給し、260~300℃で溶解し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10~60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化させて未延伸ポリエステル支持体を作製する。未延伸ポリエステル支持体を70~130℃に加熱されたロール間で縦方向に2.5~5倍延伸する。引き続き、連続的に70~150℃の加熱された熱風ゾーンで幅方向に2.5~5倍延伸し、続いて190~240℃の熱処理ゾーンに導き、5~40秒間の熱処理を施し、100~200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向を完了させ、ポリエステル支持体を得る。また、上記熱処理中に必要に応じて幅方向あるいは長手方向に0.1~12%の弛緩処理を施してもよい。
【0021】
(機能層)
上記ポリエステル支持体の少なくとも一方の面は機能層を有している。ここで機能層とは、ポリエステル支持体に種々の機能を付与し得る層であり、例えば、易接着層、離型層、ハードコート層などが挙げられ、これに限定されない。
【0022】
これらの機能層は、上記ポリエステル支持体の少なくとも片面に有していればよく、両面に有していてもよい。また、上記機能層は、一層を単独で有していてもよいし、二種以上の層が積層されていてもよい。また、上記機能層は、一層中に単一の機能だけでなく複数の機能を有するものであってもよい。
【0023】
上記易接着層を構成する樹脂は易接着層に一般に使用される樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、尿素系樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。またこれらの樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
上記離型層を構成する樹脂は離型層に一般に使用される樹脂であれば特に限定されず、例えば、各種シリコーン系樹脂、フロロシリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アミドアルキド系樹脂、オレフィン系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。またこれらの樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
上記ハードコート層を構成する樹脂はハードコート層に一般に使用される樹脂であれば特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0026】
機能層は、特に限定されないが、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用い、ポリエステル支持体上に形成できる。
【0027】
<ポリエステル支持体の回収>
(紫外線の照射)
本発明のポリエステル支持体の回収方法は、ポリエステルフィルムに紫外線を照射する工程を含む。ポリエステルフィルムに紫外線を照射することで、後述のアルカリ処理液との親和性が高まると考えられ、これによりアルカリ処理液による機能層の分解を高めることができる。
【0028】
本発明で照射する紫外線は、波長が10~400nm、即ち可視光線より短く軟X線より長い不可視光線の電磁波である。
【0029】
紫外線の照射強度は0.5~40mW/cmであることが好ましく、10~40mW/cmがより好ましく、15~40mW/cmが更に好ましい。照射強度が高すぎると、ポリエステル支持体がダメージを受けやすくなる傾向があり、照射強度が弱すぎると後述のアルカリ処理の時間が長くなり、ポリエステル支持体がダメージを受けやすくなる傾向がある。紫外線の照射強度が0.5~40mW/cmであると、ポリエステル支持体がダメージを受けることなく、生産性良く処理ができる。
【0030】
ポリエステルフィルムへの紫外線の照射時間は、3~210秒であることが好ましく、30~100秒がより好ましく、50~70秒が更に好ましい。紫外線の照射時間が長くなると、装置のサイズを大きくする必要があるので製造コストが高くなり、またポリエステル支持体がダメージを受けやすくなる傾向がある。紫外線の照射時間が短すぎると機能層を充分剥離できない虞がある。紫外線の照射時間が3~210秒であると、機能層の剥離効果が得られ、かつポリエステル支持体へのダメージを抑制できる。
【0031】
紫外線の発生源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等の公知のランプを用いることができ、低圧水銀灯を使用するのが好ましい。
【0032】
(アルカリ処理液での処理)
本発明のポリエステル支持体の回収方法は、紫外線照射の後にアルカリ処理液で処理する工程を含む。紫外線照射後のポリエステルフィルム(以下、「処理済ポリエステルフィルム」ともいう。)にアルカリ処理液を接触させることで、紫外線照射によりアルカリ処理液との親和性が高められた機能層は容易に分解し、ポリエステル支持体から剥離しやすくなると推測される。
【0033】
アルカリ処理液としては、アルカリ性物質を溶解させた溶液を用いることができる。
アルカリ性物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、単独で使用してもよく、二種以上を併用することもできる。
【0034】
アルカリ性物質を溶解させる溶媒としては、例えば、水やアルコール等が挙げられる。中でも、経済性の観点から水が好ましい。
【0035】
アルカリ処理液におけるアルカリ性物質の含有量は、1~25wt%であることが好ましく、2~8wt%がより好ましく、3.5~4.5wt%が更に好ましい。アルカリ性物質の含有量が多すぎる場合、ポリエステル支持体がダメージを受けやすくなる傾向があり、該含有量が少なすぎる場合、機能層を充分剥離できない虞がある。アルカリ性物質の含有量が1~25wt%であると、機能層の剥離効果が得られ、かつポリエステル支持体へのダメージを抑制できる。
【0036】
上記アルカリ処理液には界面活性剤を含んでいるのが好ましい。
界面活性剤としては、特に制限はなく、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。界面活性剤は、単独で使用してもよく、二種以上を併用することもできる。
【0037】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルピリジニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0038】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステルナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム塩などが挙げられる。
【0039】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0040】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステルナトリウム塩、イミダゾリンスルホン酸ナトリウム塩などが挙げられる。
【0041】
アルカリ処理液には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤等が挙げられる。
【0042】
アルカリ処理液による処理の方法は、紫外線照射後のポリエステルフィルム(処理済ポリエステルフィルム)がアルカリ処理液と接触できれば特に限定されない。例えば、アルカリ処理液の入った洗浄槽に処理済ポリエステルフィルムを浸漬する方法、処理済ポリエステルフィルムにアルカリ処理液を塗布する方法、処理済ポリエステルフィルムにアルカリ処理液を噴霧する方法などが挙げられる。これらのうち、機能層へのアルカリ処理液の浸透性の点から、浸漬する方法が好ましい。
【0043】
本発明において、アルカリ処理液は、温度40~95℃、かつ濃度1~25wt%のアルカリ水溶液を用いるのがより好ましい。
【0044】
処理済ポリエステルフィルムを処理するときのアルカリ処理液の温度は、40~95℃であることが好ましく、60~85℃がより好ましく、75~80℃が更に好ましい。前記温度範囲のアルカリ処理液を用いることによって、機能層の剥離が促進され、ポリエステル支持体の回収にかかる時間を短縮することができる。
【0045】
処理済ポリエステルフィルムのアルカリ処理液での処理時間は、30~600秒であることが好ましく、90~180秒がより好ましく、100~140秒が更に好ましい。処理時間が長すぎる場合、ポリエステル支持体がダメージを受けやすくなる傾向があり、処理時間が短すぎる場合、機能層を充分剥離できない虞がある。アルカリ処理液での処理時間が30~600秒であると、機能層の剥離効果が得られ、かつポリエステル支持体へのダメージを抑制できる。
【0046】
(紫外線照射とアルカリ処理の間隔)
本発明において、アルカリ処理液による処理は紫外線照射直後に行ってもよいし、所望時間を空けて行ってもよい。
紫外線照射とアルカリ処理の間隔は1秒~24時間であることが好ましい。紫外線照射からアルカリ処理までの間隔が長くなりすぎると、紫外線照射の効果が薄れてしまい機能層の剥離に長時間を要し、機能層を充分剥離できない虞があるため、紫外線を照射した後は24時間以内にアルカリ処理を行うのが好ましい。紫外線照射とアルカリ処理との間隔が1秒~24時間であると、紫外線照射の効果により、短時間で機能層の剥離ができる。紫外線照射とアルカリ処理の間隔は、機能層の剥離効果の観点から、1秒~5時間であるのがより好ましく、1秒~1時間が更に好ましい。
【0047】
(複数回処理)
上記の紫外線照射とアルカリ処理は複数回行うことが好ましい。複数回処理を行うことで、ポリエステル支持体が固有粘度の低下などのダメージを受けることなく、短時間での処理が可能となる。複数回処理を行う場合、例えば、紫外線を3~50秒照射した後、アルカリ処理液で10~90秒処理する工程を2~5回程度繰り返し、合計で紫外線を6秒以上、アルカリ処理液で30秒以上処理するのが好ましい。
【0048】
(水洗工程)
アルカリ処理液での処理の後、機能層が剥離されて残ったポリエステル支持体上に残留した機能層の残渣やアルカリ処理液を取り除くために、水洗工程を行うのが好ましい。
【0049】
水洗の方法としては、機能層を剥離したポリエステル支持体に対して水を噴霧する方法、ポリエステル支持体を水槽に浸漬する方法などが挙げられる。
【0050】
(乾燥工程)
水洗の後には、乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥工程によって、ポリエステル支持体上に残存した水を除去できる。
【0051】
乾燥方法については特には限定されず、例えば熱風を吹き付ける方法や非接触式のヒーターで加熱する方法などが挙げられる。
【0052】
乾燥時間は、50~150秒が好ましい。乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となり、ブロッキングを起こしてしまう虞がある。一方、乾燥時間が長すぎると、ポリエステル支持体がダメージを受けやすくなる傾向がある。
【0053】
(ペレット化工程)
回収したポリエステル支持体はペレット化して、ペレット状のポリエステルとすることが好ましい。
【0054】
ペレット化の方法については特に限定されず、例えば回収したポリエステル支持体を粉砕し、押出機に投入して溶融、ペレット化する方法などが挙げられる。
【0055】
<ポリエステルフィルムの製造>
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、上記ポリエステル支持体の回収方法で回収したポリエステル支持体を押し出し成形してポリエステルフィルムを製造することを含む。
具体的には、回収したポリエステル支持体から製造した上記のペレット状のポリエステルを含む、原料を用いて、公知のフィルム製膜法によってポリエステルフィルムを成形することができる。
【0056】
ポリエステルフィルムの厚みは、限定的ではないが、通常は10~50μmの範囲内で適宜設定することができる。また、必要に応じて、他の層(例えば、離型層、接着層、ヒートシール層、表面保護層、印刷層、意匠層等)と積層して積層体として使用することができるほか、その積層体を成形することにより上記のような各種の成形体として利用することもできる。
【実施例0057】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(紫外線照射強度測定)
紫外線照射強度測定には、紫外線強度計(コニカミノルタ株式会社製「UM-10」)を使用した。
【0059】
(機能層の剥離評価)
1.処理性の評価
回収したポリエステル支持体を細かく裁断した後、溶融プレス機で円柱状に成型し、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製「3270型」)を用いてケイ素(Si)の含有量を測定した。
本発明の処理性を、得られたSi含有量に基づいて、以下の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:Siの含有量が検出下限(100ppm)以下
△:Siの含有量が100ppm超300ppm未満
×:Siの含有量が300ppm以上
【0060】
2.ポリエステル支持体へのダメージの評価
回収したポリエステル支持体から得たペレット0.1gをo-クロロフェノール10mlに加え、100℃、30分で溶解させた後、ウベローデ型粘度計を用いて25℃における固有粘度(処理後のペレットの固有粘度)を測定した。
また、未処理のポリエチレンテレフタレートから得たペレットを用いて、同様に25℃における固有粘度(処理前のペレットの固有粘度)を測定した。
処理前のペレットの固有粘度に対し、処理したペレットの固有粘度を比較し、以下の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:処理前のペレットの固有粘度と比較し、処理後のペレットの固有粘度が0.005未満の低下
△:処理前のペレットの固有粘度と比較し、処理後のペレットの固有粘度が0.005以上0.01未満の低下
×:処理前のペレットの固有粘度と比較し、処理後のペレットの固有粘度が0.01以上の低下
【0061】
<試料フィルムの作製>
(1)機能層を有するポリエステル支持体(ポリエステルフィルム)の作製
ポリエステル支持体として、通常の方法で製造した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを準備した。このフィルム上に硬化型シリコーン樹脂組成物の5wt%トルエン溶液をリバースキスコーターで、乾燥後の塗布量で0.2g/mとなるようにコーティングし、トンネルオーブン中で130℃で加熱して離型層を形成し、巻き取った。
なお、硬化型シリコーン樹脂組成物は、シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製「LTC-300B」)100質量部と、硬化剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製「SRX-212」)0.8質量部の混合物である。
【0062】
(2)セラミックグリーンシート層と内部電極の作製
上記の機能層を有するポリエステル支持体をキャリアシートとして用い、その離型層面上に、下記組成からなるセラミックスラリーをブレードコーターで均一に塗布し、トンネルオーブン中で85℃で乾燥して、厚さ20μmのセラミックグリーンシート層を、離型層上に作製した。次に、該セラミックグリーンシート上に下記組成の導電性ペーストをスクリーン印刷し、80℃で10分間乾燥させて内部電極を形成した後、20℃にて1時間放置した。
【0063】
《セラミックスラリー組成》
セラミック粉体(チタン酸バリウム) 100質量部
バインダー(ポリビニルブチラール) 10質量部
可塑剤(フタル酸ジオクチル) 5質量部
溶剤(トルエン/イソプロピルアルコール=1/1(質量比)) 100質量部
《導電性ペースト組成》
Ni系粉末 90質量部
有機ビヒクル 10質量部
ターピネオール 30質量部
【0064】
(3)セラミックグリーンシート層の剥離
上記の離型フィルム上の内部電極が形成されたセラミックグリーンシート層に、10cm×10cmの形状にスリットを入れた後、真空吸着機でセラミックグリーンシート層を吸引して離型層から剥離させ、試料フィルムを得た。なお、試料フィルムの離型層表面には、一部剥離できなかったセラミックスラリーと導電性ペーストが付着した状態である。
【0065】
[実施例1]
〈紫外線照射〉
上記試料フィルムを紫外線照射装置で30mW/cmの照射強度で60秒間紫外線照射を行った。
紫外線照射を行ってから、3分後に後述のアルカリ処理を実施した。
【0066】
〈アルカリ処理〉
水酸化ナトリウムの4wt%と非イオン性界面活性剤(富士フイルム和光純薬株式会社製「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」)の0.01wt%の混合水溶液を80℃まで加熱し、紫外線照射をした試料フィルムを前記水溶液に120秒浸漬させ、処理することにより、離型層を剥離し、検体フィルム(回収ポリエステル支持体)を得た。検体フィルムを用いて、上記した「処理性の評価」を行った。
【0067】
〈水洗・乾燥・ペレット化〉
検体フィルム(回収ポリエステル支持体)を水槽に120秒浸漬させた後、熱風を吹き付けることで乾燥させた。乾燥後の検体フィルムを粉砕し、押出機に投入して溶融、ペレット化した。得られたペレットを用いて、上記した「ポリエステル支持体へのダメージの評価」を行った。
【0068】
〈ポリエステルフィルムの製造〉
検体フィルムから得たペレットを150℃で3時間乾燥し、押し出し機に供給し、285℃で溶融押し出しを行い、静電印加された20℃のキャストドラム上にキャストし未延伸シートを得た。この未延伸シートを90℃に加熱された延伸ロールによって長手方向に3.1倍延伸し、次いでテンター式延伸機によって120℃で幅方向に3.7倍延伸し、その後230℃で熱固定してロールに巻き取った。
【0069】
[実施例2~4]
紫外線照射強度を表1記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0070】
[実施例5~10]
紫外線照射時間を表1記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0071】
[実施例11~13]
紫外線照射後からアルカリ処理を行うまでの間隔を表1記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0072】
[実施例14~19]
アルカリ処理におけるアルカリ処理液の温度を表2記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0073】
[実施例20~25]
アルカリ処理におけるアルカリ処理液の濃度を表2記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0074】
[実施例26~31]
アルカリ処理におけるアルカリ処理液の浸漬時間を表3記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0075】
[実施例32]
試料フィルムを30mW/cmの照射強度で3秒間紫外線照射を行った。紫外線照射を行ってから、3分後に実施例1と同様のアルカリ処理液に試料フィルムを30秒間浸漬させた。この操作を再度実施した後、実施例1と同様に、水洗、乾燥し、ポリエステルフィルムを作製した。
【0076】
[実施例33]
紫外線照射時間、アルカリ浸漬時間、処理の繰り返し回数を表3記載の条件に変更した以外は実施例32と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。
【0077】
[比較例1,2]
試料フィルムを、紫外線照射をすることなく、実施例1と同様のアルカリ処理液に表3記載の所定時間浸漬させた後、実施例1と同様に水洗、乾燥し、ポリエステルフィルムを作製した。
【0078】
これらの結果を表1~表3に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表1~表3より、本発明の方法によれば、機能層を有するポリエステルフィルムから、機能層を剥離することが可能であり、ポリエステル支持体の回収およびこのポリエステル支持体を原料の一部とするポリエステルフィルムを製造することができた。
【0083】
また、実施例32,33の結果から、紫外線照射とアルカリ処理を複数回実施することで、固有粘度の低下などのダメージを受けることなく、短時間での機能層剥離も可能であることが分かった。
【0084】
紫外線を照射しない比較例1,2では、短時間での機能層の剥離ができなくなった。
【0085】
以上のように、本発明の方法によれば、紫外線照射とアルカリ処理の条件に応じ機能層を剥離することができ、ポリエステル支持体の回収およびこのポリエステル支持体を原料の一部とするポリエステルフィルムを製造することが可能である。また、紫外線照射とアルカリ処理を複数回処理することで、固有粘度の低下などのダメージを受けることなく、短時間での機能層剥離も可能となり、極めて有用である。