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特開2023-128997構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128997
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20230907BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20230907BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G01N29/14
G01N29/11
G01N29/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033726
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 智基
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AA10
2G047BA05
2G047BC03
2G047BC07
2G047BC11
2G047CA01
2G047CA03
2G047EA10
2G047GA14
2G047GF26
2G047GG02
2G047GG09
2G047GG12
2G047GG17
2G047GG28
2G047GG37
2G047GG47
2G047GH19
(57)【要約】
【課題】振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値を用いて構造物の長期モニタリングを行う場合において、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることができる構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を提供することである。
【解決手段】実施形態の構造物評価システムは、複数のセンサと、取得部と、算出部と、評価部とを持つ。複数のセンサは、構造物から発生する弾性波を検出する。取得部は、前記複数のセンサそれぞれによって検出された各弾性波の少なくとも振幅に関する情報と各弾性波が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を評価対象期間分取得する。算出部は、取得された前記評価対象期間分の検知情報に基づいて、弾性波の振幅規模別頻度分布の傾きである評価値を所定の期間毎に算出する。評価部は、前記所定の期間毎に算出された各評価値の時系列データに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物から発生する弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された各弾性波の少なくとも振幅に関する情報と各弾性波が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を評価対象期間分取得する取得部と、
取得された前記評価対象期間分の検知情報に基づいて、弾性波の振幅規模別頻度分布の傾きである評価値を所定の期間毎に算出する算出部と、
前記所定の期間毎に算出された各評価値の時系列データに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価システム。
【請求項2】
前記算出部は、前記所定の期間毎に複数の候補評価値を算出し、前記複数の候補評価値の代表値を前記評価値として前記所定の期間毎に算出する、請求項1に記載の構造物評価システム。
【請求項3】
各評価値の時系列データを用いて、トレンド成分と季節性成分を推定する推定部をさらに備え、
前記評価部は、推定された前記トレンド成分と前記季節性成分それぞれにおいて、前記構造物の劣化状態を評価する、請求項1又は2に記載の構造物評価システム。
【請求項4】
前記推定部は、加法回帰モデルに当てはめることで、前記トレンド成分と前記季節性成分を推定する、請求項3に記載の構造物評価システム。
【請求項5】
前記推定部は、前記トレンド成分を区間線形モデルにより推定し、前記季節性成分をフーリエ級数により推定する、請求項4に記載の構造物評価システム。
【請求項6】
前記評価部は、前記トレンド成分が下降傾向である場合、前記構造物において損傷が進行していると評価する、請求項3から5のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項7】
前記評価部は、前記季節性成分が周期的に変動している場合、前記構造物の内部に進展性の低い損傷が存在としていると評価する、請求項3から6のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項8】
前記推定部は、前記トレンド成分と前記季節性成分に加えて、所定の物理量のセンサーデータに比例する項を付加した加法回帰モデル用いて、前記トレンド成分と前記季節性成分を推定する、請求項4又は5に記載の構造物評価システム。
【請求項9】
前記推定部は、前記トレンド成分と前記季節性成分に加えて、少なくとも温度、湿度、交通量のいずれかに比例する項を付加した加法回帰モデル用いて、前記トレンド成分と前記季節性成分を推定する、請求項8に記載の構造物評価システム。
【請求項10】
評価対象期間分は、2年以上の期間であり、
前記算出部は、前記2年以上の期間分の検知情報のうち少なくとも2年の期間分の検知情報に基づいて前記評価値を日毎に算出する、請求項1から9のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項11】
情報を表示する表示部をさらに備え、
前記評価部は、前記評価値を各センサの設置位置における代表値として用いた二次元マップを生成し、生成した二次元マップを前記表示部に表示させる、請求項1から10のいずれか一項に記載の構造物評価システム。
【請求項12】
構造物から発生する弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された各弾性波の少なくとも振幅に関する情報と各弾性波が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を評価対象期間分取得する取得部と、
取得された前記評価対象期間分の検知情報に基づいて、弾性波の振幅規模別頻度分布の傾きである評価値を所定の期間毎に算出する算出部と、
前記所定の期間毎に算出された各評価値の時系列データに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する評価部と、
を備える構造物評価装置。
【請求項13】
構造物から発生する弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された各弾性波の少なくとも振幅に関する情報と各弾性波が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を評価対象期間分取得し、
取得された前記評価対象期間分の検知情報に基づいて、弾性波の振幅規模別頻度分布の傾きである評価値を所定の期間毎に算出し、
前記所定の期間毎に算出された各評価値の時系列データに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する、
構造物評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度経済成長期に建設された橋梁等の構造物の老朽化に伴う問題が顕在化してきている。万が一にも構造物に事故が生じた場合の損害は計り知れないため、従来から構造物の状態を監視するための技術が提案されている。例えば、内部亀裂の発生、又は、内部亀裂の進展に伴い発生する弾性波を、高感度センサにより検出するAE(Acoustic Emission:アコースティック・エミッション)方式により、構造物の損傷を検出する技術が提案されている。AEは、材料の亀裂の進展に伴い発生する弾性波である。AE方式では、圧電素子を利用したAEセンサにより弾性波をAE信号(電圧信号)として検出する。AE信号は、材料の終局的破断が生じる前の兆候として検出される。したがって、AE信号の発生頻度及び信号強度は、材料の健全性を表す指標として有用である。そのため、AE方式によって構造物の劣化の予兆を検出する技術の研究が行われている。
【0003】
AE方式に基づく構造物の健全性の評価手法の一つとして、地震学の分野でGutenberg-Richter則として知られる経験則から導かれるb値を用いた評価手法が知られている。b値は、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値であり、材料内部の亀裂状態と相関があることが知られている。橋梁のような構造物の寿命は一般的に50年といわれている。数年から数十年という長期間に渡って、構造物の健全性をモニタリングすることは、安全かつ安心な社会を構築するために不可欠である。特に、大規模な損傷が発生する前に、構造物内部の劣化の兆候を検知することが望まれている。AE方式に基づく構造物の長期モニタリングは、早期に劣化兆候の検知に有望であると考えられる。
【0004】
しかしながら、AE方式におけるb値に基づく構造物の劣化状態の評価を実際の橋梁の長期モニタリングに適用する場合、データが得られない期間があると劣化状態の評価精度が低下してしまう場合があった。このような問題は、b値に限られず、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる他の評価値(改良b値)を用いる場合においても生じる問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-10595号公報
【特許文献2】特許6567268号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】I. S. Colombo, I. Main, and M. Forde, “Assessing Damage of Reinforced Concrete Beam Using ‘‘b-value’’ Analysis of Acoustic Emission Signals”, Journal of materials in civil engineering, vol. 15, no. 3, pp. 280-286, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値を用いて構造物の長期モニタリングを行う場合において、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることができる構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の構造物評価システムは、複数のセンサと、取得部と、算出部と、評価部とを持つ。複数のセンサは、構造物から発生する弾性波を検出する。取得部は、前記複数のセンサそれぞれによって検出された各弾性波の少なくとも振幅に関する情報と各弾性波が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を評価対象期間分取得する。算出部は、取得された前記評価対象期間分の検知情報に基づいて、弾性波の振幅規模別頻度分布の傾きである評価値を所定の期間毎に算出する。評価部は、前記所定の期間毎に算出された各評価値の時系列データに基づいて、前記構造物の劣化状態を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における構造物評価システムの構成を示す図。
図2】実施形態における信号処理装置の機能を表す概略ブロック図。
図3】実施形態におけるAFEの機能を表す概略ブロック図。
図4】実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図。
図5】実施形態の構造物評価システムにおける検知情報の蓄積に関する処理の流れを示すシーケンス図。
図6】実施形態における構造物評価装置の処理の流れを示すフローチャート。
図7】評価対象期間分のb値のデータを用いた分析結果の一例を示す図。
図8】ボロノイ線図に基づく補完を施したコンター図の一例を図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の構造物評価システム、構造物評価装置及び構造物評価方法を、図面を参照して説明する。
(概要)
実施形態における構造物評価システムは、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値(例えば、b値)を用いて構造物の長期モニタリングを行う場合において、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることができるシステムである。具体的には、まず構造物評価システムでは、橋梁等の構造物に付与される衝撃により発生した弾性波を、少なくとも評価対象となる期間(以下「評価対象期間」という。)分収集する。次に、構造物評価システムでは、収集した評価対象期間分の弾性波に基づいて得られる所定の期間毎のb値に基づいて、加法回帰モデルを用いてトレンド成分と季節性成分を推定する。そして、構造物評価システムでは、推定したトレンド成分に基づいて構造物の長期的な損傷(例えば、クラック)の傾向を評価し、季節性成分に基づいて安定な既存クラックの有無を評価する。
【0011】
構造物に付与される衝撃は、例えば車両が構造物を走行することで路面とタイヤが接触して構造物に加えられる衝撃である。本実施形態における評価対象期間は、少なくとも1年以上であって、より好ましくは2年以上である。ここで、評価対象期間として上記の期間とした理由について説明する。一般的に、構造物の材料は、温度変化に伴い膨張及び収縮を生じる。従って大局的にみると、構造物内部に安定的に存在している損傷(例えば、クラック)は、温度の高い夏季に開き、冬季に損傷が閉じるという周期的な運動を繰り返す傾向にある。損傷の方向によっては、温度の高い夏季に損傷が閉じ、冬季に開く場合もあり得る。いずれにしても、周期的な年変動は温度の影響により開閉する既存クラックの存在を示唆している。一方で、b値の長期的なトレンドは、継続的なクラックの増加もしくは進展に関わっていると考えることができる。例えば、クラックが増加もしくは進展するにつれてb値が低下する傾向がある。これらの分析を行うためには、周期性が表れる1年間以上の計測データを用いることが有効である。さらには、より季節性とトレンドを明確に分離するためには、周期性が繰り返される2年間以上の計測データを用いることが望ましい。
【0012】
次に、本実施形態で用いるb値の求め方について説明する。地震学の分野では、震源の規模を示すマグニチュードと対数頻度に以下の式(1)に示す関係があるとされ、Gutenberg-Richter則として知られている。
【0013】
【数1】
【0014】
式(1)においてN(M)は、マグニチュードM以上のイベント数を表し、a,bが定数を表す。通常、マグニチュードMは振幅Aの対数をとったものである。定数bは“b値”と呼ばれ、構造的な不均質性や応力体系を反映するとされている。これをAE方式に応用し、b値に基づいて構造物の健全性を評価する数多くの試みがなされている。通常デシベルで表記される弾性波の振幅を用いる場合、式(1)は以下の式(2)のように表される。
【0015】
【数2】
【0016】
式(1)及び式(2)の関係より、地震学におけるb値との整合をとるために、弾性波の振幅を用いて計算した傾き(すなわち式(2)のb値)を20倍した値を本実施形態ではb値として用いる。b値を求めるためのサンプル数nは、試験体による検証ではn=50が適当とされている。交通荷重で発生する弾性波を対象とする場合はノイズを多く含むため、より多くのサンプル数を用いる方がロバストである。そこで、本実施形態では、サンプル数によるデータの変動を考慮して、1つのb値を求めるために推奨値の10倍となるサンプル数n=500を用いるものとする。なお、サンプル数は、500に限られない。例えば、ノイズの影響を含めてもよい場合には、試験体による検証と同様にサンプル数は50以上であってもよい。
【0017】
次に、本実施形態で行うトレンド成分と季節性成分の推定について説明する。
弾性波の計測には以下のような特徴がある。第1の特徴として、弾性波が検出される頻度が定期ではなく、長期間の間、弾性波のデータが得られない場合もある。これは、構造物上を走行する車両が不規則であるためである。第2の特徴として、温度変化や交通量に起因する季節性(年変動)を有する。第3の特徴として、変動幅が大きい。このような特徴を有する弾性波のデータから適切なb値に基づくトレンドを抽出する手法として、区間線形トレンドと季節性を考慮した加法回帰モデルを用いることができる。まずb値の推定値として、b^(t)を導入し、以下の式(3)のようにモデルを仮定する。なお、「^」はbの上に付される(以下同様)。
【0018】
【数3】
【0019】
式(3)において、g(t)はトレンド成分を表し、s(t)は季節性成分(年変動)を表し、εtは誤差を表す。トレンド成分g(t)は変化点をS個持つ区間線形モデルとして以下の式(4)のように表すことができる。
【0020】
【数4】
【0021】
式(4)において、kは成長率を表し、mはオフセットパラメータを表す。補正係数ベクトルδ∈Rは、変化点s(j=1,…,S)おける傾きの補正係数δを要素として持つ。ベクトルa(t)∈{0,1}及び連続性を担保するベクトルγ∈Rは、以下の式(5)で定義される。
【0022】
【数5】
【0023】
季節性成分は、データが日次データで、季節性成分が年変動である場合、フーリエ級数として以下の式(6)のように表すことができる。
【0024】
【数6】
【0025】
式(6)において、Nはパラメータ数であり、例えばN=10を用いることができるがこれに限定されない。本実施形態では、500個の弾性波毎にb値を算出し、算出したb値を用いて日次データに変換し、任意のアルゴリズムで上式(3)にフィッティングすることでトレンド成分と季節性成分を分離抽出できる。例えば、準ニュートン法の一種であるL-BFGS(Limited memory Broyden Fletcher Goldfarb Shanno algorithm)法を用いると少ないメモリで良好なフィッティング結果を得ることができ、好適である。最尤推定、ベイズ推定、最大事後確率(MAP:maximum a posteriori)推定等の推定方法には限定されないが、MAP推定によって観測値のデータ量が少ない場合においても良好な結果をえることができる。
以下、本実施形態の具体的な構成について説明する。
【0026】
図1は、実施形態における構造物評価システム100の構成を示す図である。構造物評価システム100は、構造物11の健全性の評価に用いられる。以下の説明において、評価とは、ある基準に基づいて構造物11の健全性の度合い、すなわち構造物11の劣化状態を決定することを意味する。なお、以下の説明では、構造物11の一例としてコンクリートで構成された橋梁を例に説明するが、構造物11は橋梁に限定される必要はない。構造物11は、亀裂の発生または進展、あるいは外的衝撃(例えば雨、人工雨など)に伴い弾性波13が発生する構造物であればどのようなものであってもよい。例えば、構造物11は、岩盤であってもよい。なお、橋梁は、河川や渓谷等の上に架設される構造物に限らず、地面よりも上方に設けられる種々の構造物(例えば高速道路の高架橋)なども含む。
【0027】
構造物11の劣化状態の評価に影響を及ぼす損傷としては、例えば亀裂、空洞、土砂化等の弾性波13の伝搬を妨害する構造物11内部の損傷がある。ここで、亀裂には、縦方向の亀裂、横方向の亀裂及び斜め方向の亀裂等が含まれる。縦方向の亀裂とは、センサが設置されている構造物11の面に垂直な方向に生じている亀裂である。横方向の亀裂とは、センサが設置されている構造物11の面に水平な方向に生じている亀裂である。斜め方向の亀裂とは、センサが設置されている構造物11の面に水平及び垂直以外の方向に生じている亀裂である。土砂化とは、主にアスファルトとコンクリート床版の境界部でコンクリートが土砂状に変化する劣化である。
以下、構造物評価システム100の具体的な構成について説明する。
【0028】
構造物評価システム100は、複数のセンサ10-1~10-P(Pは2以上の整数)と、起動制御装置15と、信号処理装置20と、構造物評価装置30とを備える。複数のセンサ10-1~10-Pそれぞれと信号処理装置20は、有線により接続される。起動制御装置15と信号処理装置20とは、有線により接続される。信号処理装置20と構造物評価装置30とは、有線又は無線により接続される。なお、以下の説明では、センサ10-1~10-Pを区別しない場合にはセンサ10と記載する。
【0029】
図1に示すように、構造物11上を車両12が通過した際、車両12のタイヤと路面との接触により、路面に対して荷重がかかる。荷重によるたわみにより、多数の弾性波13が構造物11内に発生する。構造物11の下面に設置された各センサ10は、構造物11内で発生した弾性波13を検出することができる。
【0030】
センサ10は、構造物11内部から発生する弾性波13を検出する。例えば、センサ10は、構造物11を車両12が通過したことによって発生した弾性波13を検出する。センサ10は、弾性波13を検出することが可能な位置に設置される。例えば、センサ10は、構造物11に対して荷重がかかる面と異なる面上に設置される。荷重がかかる面が、構造物11の路面である場合、センサ10は構造物11の側面及び底面のいずれかの面上に設置される。センサ10は、検出した弾性波13を電気信号(AE信号)に変換する。以下の説明では、センサ10が、構造物11の底面に設置されている場合を例に説明する。ここで、複数のセンサ10-1~10-Pは、構造物11の底面において車両走行軸方向と車両走行軸直交方向とにそれぞれ異なる間隔で離間して配置される。複数のセンサ10-1~10-Pで囲まれた領域が、構造物11の評価対象領域となる。
【0031】
センサ10には、例えば10kHz~1MHzの範囲に感度を有する圧電素子が用いられる。センサ10としてより好適なものは、100kHz~200kHzに感度を有する圧電素子である。センサ10は、周波数範囲内に共振ピークをもつ共振型、共振を抑えた広帯域型等の種類があるが、センサ10の種類はいずれでもよい。センサ10が弾性波13を検出する方法は、電圧出力型、抵抗変化型及び静電容量型等があるが、いずれの検出方法でもよい。センサ10は、増幅器を内蔵していてもよい。
【0032】
センサ10に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、構造物11において発生した弾性波13を検出する。加速度センサは、センサ10と同様の処理を行うことによって、検出した弾性波13を電気信号に変換する。
【0033】
起動制御装置15は、センサ10と同様に、構造物11に対して荷重がかかる面と異なる面上に設置される。起動制御装置15は、車両12の接近を検知するセンサであり、加速度センサを用いることができる。車両12の通行に伴い発生する加速度から車両の近接が検知できる。なお、MEMS(Micro Electro Mechanical System)加速度センサは、低消費電力の観点から好適である。起動制御装置15は、車両12の接近を検知した場合、信号処理装置20を稼働モードにさせるための起動信号を信号処理装置20に出力する。信号処理装置20を稼働モードにさせるとは、信号処理装置20に対して信号処理を行わせることである。すなわち、信号処理装置20は、起動制御装置15から起動信号が取得されるまでの間は、弾性波13に対する信号処理を行わない。これにより、信号処理装置20の消費電力を抑制することができる。
【0034】
信号処理装置20は、稼働モードと休止モードの複数のモードを有し、起動制御装置15から出力された起動信号に基づいて稼働モードに移行する。休止モードとは、機能を制限することで稼働モードよりも消費電力を小さくするモードである。信号処理装置20は、稼働モードに移行するまでは休止モードである。休止モードは、例えば、起動していても信号処理を行わない状態であってもよいし、スリープ状態であってもよいし、電源が落ちた停止状態であってもよい。
【0035】
信号処理装置20は、稼働モードに移行すると、センサ10から出力された電気信号を入力とする。信号処理装置20は、入力した電気信号に対して信号処理を行う。信号処理装置20が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等である。信号処理装置20は、信号処理により得られた弾性波13に関する情報と各弾性波13が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を、少なくとも評価対象期間分保存する。なお、信号処理装置20は、評価対象期間より長い期間の検知情報を保存していてもよい。信号処理装置20は、例えば、構造物評価装置30からの要求により、要求された評価対象期間分の検知情報を分割又はまとめて送信データとして構造物評価装置30に送信する。
【0036】
信号処理装置20は、アナログ回路又はデジタル回路を用いて構成される。デジタル回路は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やマイクロコンピュータにより実現される。不揮発型のFPGAを用いることで、待機時の消費電力を抑えることができる。デジタル回路は、専用のLSI(Large-Scale Integration)により実現されてもいい。信号処理装置20は、フラッシュメモリ等の不揮発メモリや、取り外し可能なメモリを搭載してもよい。
【0037】
構造物評価装置30は、信号処理装置20から送信された評価対象期間分の送信データを用いて、構造物11の劣化状態を評価する。
【0038】
構造物評価装置30は、通信部31、制御部32、記憶部33及び表示部34を備える。
【0039】
通信部31は、信号処理装置20から送信された評価対象期間分の送信データを受信する。例えば、通信部31は、外部からの指示に応じて信号処理装置20に対して評価対象期間分の送信データを要求することで、評価対象期間分の送信データを受信する。通信部31は、受信した評価対象期間分の送信データを制御部32に出力する。
【0040】
制御部32は、構造物評価装置30全体を制御する。制御部32は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部32は、プログラムを実行することによって、取得部321、算出部322、推定部323及び評価部324として機能する。
【0041】
取得部321、算出部322、推定部323及び評価部324の機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGAなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0042】
取得部321、算出部322、推定部323及び評価部324の機能の一部は、予め構造物評価装置30に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが構造物評価装置30にインストールされることで実現されてもよい。
【0043】
取得部321は、各種情報を取得する。例えば、取得部321は、通信部31によって受信された評価対象期間分の送信データを取得する。取得部321は、取得した評価対象期間分の送信データを記憶部33に保存する。
【0044】
算出部322は、記憶部33に蓄積された評価対象期間分の送信データに基づいて、b値を所定の期間毎に算出する。b値は、評価値の一態様である。
【0045】
推定部323は、各b値の時系列データを用いて、トレンド成分と季節性成分を推定する。具体的には、推定部323は、上述したように式(3)に示す加法回帰モデルに当てはめることで、トレンド成分と季節性成分を推定する。推定部323は、トレンド成分を区間線形モデルにより推定し、季節性成分をフーリエ級数により推定する。
【0046】
評価部324は、所定の期間毎に算出された各b値の時系列データに基づいて、構造物11の劣化状態を評価する。具体的には、評価部324は、推定部323により推定されたトレンド成分が下降傾向である場合、構造物11において損傷が進行していると評価する。評価部324は、推定部323により推定された季節性成分が周期的に変動している場合、構造物11の内部に進展性の低いひび割れが存在していると評価する。進展性の低いひび割れとは、損傷ではあるが、現時点では早急な対応が不要とみなすことができる損傷である。
【0047】
記憶部33には、取得部321によって取得された評価対象期間分の送信データと、センサ位置情報とが記憶される。センサ位置情報には、センサIDに対応付けてセンサ10の設置位置に関する情報が含まれる。センサ位置情報は、例えば構造物11上における緯度、経度の情報であってもよいし、構造物11の特定位置からの水平方向および垂直方向の距離等の情報であってもよい。記憶部33は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0048】
表示部34は、制御部32の制御に従って情報を表示する。例えば、表示部34は、評価部324の評価結果を表示する。表示部34は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部34は、画像表示装置を構造物評価装置30に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部34は、特定結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0049】
図2は、実施形態における信号処理装置20の機能を表す概略ブロック図である。信号処理装置20は、複数のAFE21(Analog Front End)、起動制御部22、電源部23、電源供給部24、クロック発振器25、時刻情報生成部26、信号処理部27及び通信部28を備える。
AFE21は、センサ10から出力されたAE信号に対してフィルタ処理及びアナログデジタル変換処理を行う。AFE21は、フィルタ処理及びアナログデジタル変換処理後の信号を信号処理部27に出力する。
【0050】
起動制御部22は、起動制御装置15から起動信号を取得すると、信号処理部27を稼働モードにする。
【0051】
電源部23は、電源供給部24の供給する電力を賄う。電源部23は、一次電池、二次電池、太陽電池、エネルギーハーベスタ等のいずれかである。
【0052】
電源供給部24は、電源部23から得られる電力を、信号処理装置20全体、又は、信号処理装置20の一部機能部へ供給する。
【0053】
クロック発振器25は、クロック信号を生成する。クロック発振器25は、例えば水晶発振器である。クロック発振器25は、生成したクロック信号を時刻情報生成部26に出力する。
【0054】
時刻情報生成部26は、クロック発振器25から入力されたクロック信号を入力とする。時刻情報生成部26は、クロック信号を利用して時刻情報を生成する。時刻情報生成部26は、例えばレジスタを有するカウンタである。すなわち時刻情報生成部26は、クロック信号のエッジをカウントし、信号処理装置20の電源投入時からの累積のカウント値を、時刻情報としてレジスタに記憶する。時刻情報(レジスタ)のビット長kは、構造物11の測定継続時間y、及び、時刻分解能dtに基づいて、k≧y/dtを満たす1以上の整数kにより決定される。なお時刻分解能dtは、弾性波13の伝搬速度v、及び、弾性波13の発生源の位置情報分解能drに基づいて、dt=dr/vにより決定される。これにより弾性波13の発生源の位置特定精度を任意の範囲に設定でき、信号処理装置20は必要かつ十分な位置の特定を行うことができる。例えば構造物11の材質が鉄の場合、弾性波13の伝搬速度vは5950[m/s]である。この場合、弾性波13の発生源の位置特定精度を10mmとすると、dt=1.68[μsec]である。測定継続年数を100年とすると、時刻情報(レジスタ)のビット長kは、k≧51[bit]となる。更に、一般的な無線モジュールの送信パケットはバイト単位のデータ送信が基本となるため、後述の通信部28を汎用の無線モジュールにより実現する場合、時刻情報(レジスタ)のビット長kを8の倍数にする必要がある。すなわち時刻情報(レジスタ)のビット長kを、k≧51[bit]を満たす最小の8の倍数として、56ビット=7バイトに決定することにより、汎用の無線モジュールを時刻情報の送信に使用することが可能となる。
【0055】
信号処理部27は、信号処理装置20全体を制御する。信号処理部27は、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。例えば、信号処理部27は、AFE21から出力されたフィルタ処理及びアナログデジタル変換処理後の信号に基づいて検知情報を生成する。
【0056】
通信部28は、信号処理部27によって生成された検知情報を所定のタイミングで構造物評価装置30に送信する。通信部28が無線通信により検知情報を送信する場合、無線の周波数帯は、例えば2.4GHz及び920MHz帯(日本国内においては915MHz~928MHz)等のいわゆるISMバンド(Industry Science Medical band)を用いる。
【0057】
上述したように、信号処理装置20が自立電源を搭載しているため、可搬性や設置性の自由度を向上させることができる。例えば、このような自立電源を搭載している信号処理装置20は橋梁の桁に設置することも可能であり、長期モニタリングに好適である。
【0058】
図3は、実施形態におけるAFE21の機能を表す概略ブロック図である。AFE21は、受信部211、第1フィルタ212、アナログデジタル変換部213及び第2フィルタ214で構成される。
受信部211は、センサ10から送信されたAE信号を受信する。受信部211は、受信したAE信号を第1フィルタ212に出力する。AE信号には、センサ10により検出された時刻情報が付与されているものとする。
【0059】
第1フィルタ212は、受信部211によって受信されたAE信号からノイズを除去する。例えば、第1フィルタ212は、AE信号から特定周波数帯以外の周波数帯をノイズとして除去する。第1フィルタ212は、例えば、バンドパスフィルタである。第1フィルタ212は、ノイズ除去後のアナログ信号(以下「ノイズ除去アナログ信号」という。)をアナログデジタル変換部213に出力する。
【0060】
アナログデジタル変換部213は、第1フィルタ212から出力されたノイズ除去アナログ信号を量子化することによって、アナログ信号からデジタル信号に変換する。アナログデジタル変換部213は、デジタル信号を第2フィルタ214に出力する。
【0061】
第2フィルタ214は、アナログデジタル変換部213から出力されたデジタル信号からノイズを除去する。第2フィルタ214は、ノイズを除去するためのフィルタである。第2フィルタ214は、ノイズ除去後のデジタル信号(以下「ノイズ除去デジタル信号」という。)を制御部32に出力する。
以下の説明では、AFE21において行われる処理を前処理と記載する。
【0062】
図4は、実施形態における信号処理部27の機能を表す概略ブロック図である。信号処理部27は、波形整形フィルタ271、ゲート生成回路272、到達時刻決定部273、特徴量抽出部274、検知情報生成部275及びメモリ276を備える。
【0063】
波形整形フィルタ271は、入力されたデジタル信号から所定の帯域外のノイズ成分を除去する。波形整形フィルタ271は、例えばデジタルバンドパスフィルタ(BPF)である。波形整形フィルタ271は、ノイズ成分除去後のデジタル信号(以下「ノイズ除去信号」という。)をゲート生成回路272及び特徴量抽出部274に出力する。
【0064】
ゲート生成回路272は、波形整形フィルタ271から出力されたノイズ除去信号を入力とする。ゲート生成回路272は、入力したノイズ除去信号に基づいてゲート信号を生成する。ゲート信号は、ノイズ除去信号の波形が持続しているか否かを示す信号である。
【0065】
ゲート生成回路272は、例えばエンベロープ検出器及びコンパレータにより実現される。エンベロープ検出器は、ノイズ除去信号のエンベロープを検出する。エンベロープは、例えばノイズ除去信号を二乗し、二乗した出力値に対して所定の処理(例えばローパスフィルタを用いた処理やヒルベルト変換)を行うことで抽出される。コンパレータは、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0066】
ゲート生成回路272は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上となった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していることを示す第1のゲート信号を到達時刻決定部273及び特徴量抽出部274に出力する。一方、ゲート生成回路272は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値未満になった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していないことを示す第2のゲート信号を到達時刻決定部273及び特徴量抽出部274に出力する。
【0067】
到達時刻決定部273は、時刻情報生成部26により生成された時刻情報と、ゲート生成回路272から出力されたゲート信号とを入力とする。到達時刻決定部273は、第1のゲート信号が入力されている間に入力された時刻情報を用いて、弾性波到達時刻を決定する。到達時刻決定部273は、決定した弾性波到達時刻を時刻情報として検知情報生成部275に出力する。到達時刻決定部273は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。
【0068】
特徴量抽出部274は、波形整形フィルタ271から出力されたノイズ除去信号と、ゲート生成回路272から出力されたゲート信号とを入力とする。特徴量抽出部274は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたノイズ除去信号を用いて、ノイズ除去信号の特徴量を抽出する。特徴量抽出部274は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。特徴量は、ノイズ除去信号の特徴を示す情報である。
【0069】
特徴量は、例えば波形の振幅[mV]、波形の立ち上がり時間[usec]、ゲート信号の持続時間[usec]、ゼロクロスカウント数[times]、波形のエネルギー[arb.]、周波数[Hz]及びRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値等である。特徴量抽出部274は、抽出した特徴量に関するパラメータを検知情報生成部275に出力する。特徴量抽出部274は、特徴量に関するパラメータを出力する際に、特徴量に関するパラメータにセンサIDを対応付ける。センサIDは、構造物11の健全性の評価対象となる領域(以下「評価領域」という。)に設置されているセンサ10を識別するための識別情報を表す。
【0070】
波形の振幅は、弾性波13の振幅に関する情報であり、例えばノイズ除去信号の中で最大振幅の値である。波形の立ち上がり時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始からノイズ除去信号が最大値に達するまでの時間T1である。ゲート信号の持続時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線をノイズ除去信号が横切る回数である。
【0071】
波形のエネルギーは、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。周波数は、ノイズ除去信号の周波数である。RMS値は、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗して平方根により求めた値である。
【0072】
検知情報生成部275は、センサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを入力とする。検知情報生成部275は、入力したセンサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを含む検知情報を生成する。
【0073】
メモリ276は、検知情報生成部275により生成された検知情報を記憶する。メモリ276は、例えばデュアルポートRAM(Random Access Memory)である。メモリ276には、例えば2年以上の期間分の検知情報が蓄積される。
【0074】
図5は、実施形態の構造物評価システム100における検知情報の蓄積に関する処理の流れを示すシーケンス図である。なお、図5では、センサ10-1~10-Pをまとめてセンサ群として説明する。図5の処理開始時には、信号処理装置20は休止モードであるとする。
起動制御装置15は、車両12の接近を検知する(ステップS101)。起動制御装置15は、起動信号を生成し、生成した起動信号を信号処理装置20に出力する(ステップS102)。
【0075】
信号処理装置20の起動制御部22は、起動制御装置15から送信された起動信号を受信する。起動制御部22は、受信した起動信号に応じて、信号処理部27を起動させる。これにより、信号処理装置20は、休止モードから稼働モードへ移行する(ステップS103)。センサ群は、複数の弾性波13を検出する(ステップS104)。センサ群は、検出した弾性波13を電気信号(AE信号)に変換する。センサ群は、電気信号(AE信号)を信号処理装置20に送信する。なお、センサ群は、弾性波13を検出する度に弾性波13を電気信号(AE信号)に変換して信号処理装置20に送信する。
【0076】
AFE21は、センサ群から送信された電気信号(AE信号)に対して前処理を行う(ステップS106)。具体的には、AFE21は、電気信号(AE信号)に対して、フィルタ処理及びアナログデジタル変換処理を行う。AFE21は、ノイズ除去デジタル信号を信号処理部27に出力する。信号処理部27は、AFE21から出力されたノイズ除去デジタル信号を入力として、入力したノイズ除去デジタル信号に基づいて弾性波13の到達時刻を決定する(ステップS107)。さらに、信号処理部27は、入力したノイズ除去デジタル信号に基づいて、弾性波13の特徴量を抽出する(ステップS108)。ここで、信号処理部27は、第1のゲート信号が出力されている場合にのみノイズ除去デジタル信号に基づいて、弾性波13の特徴量を抽出する。一方、信号処理部27は、第2のゲート信号が出力された場合にはノイズ除去デジタル信号から特徴量を抽出しない。
【0077】
信号処理部27は、弾性波13の到達時刻と、特徴量と、センサIDとを対応付けた検知情報を生成する(ステップS109)。生成された検知情報は、メモリ276に蓄積される(ステップS110)。なお、図5における処理が継続的に行われることによって、メモリ276には、少なくとも評価対象期間分の検知情報が蓄積されることになる。
【0078】
図6は、実施形態における構造物評価装置30の処理の流れを示すフローチャートである。
構造物評価装置30の取得部321は、通信部31を介して、信号処理装置20に対して評価対象期間分の検知情報を要求する。これにより、信号処理装置20において評価対象期間分の検知情報を含む送信データが生成され、構造物評価装置30に送信される。取得部321は、信号処理装置20から送信された送信データを取得する(ステップS201)。取得部321は、取得した送信データに含まれる評価対象期間分の検知情報を記憶部33に記憶する。
【0079】
算出部322は、記憶部33に記憶されている評価対象期間分の検知情報に基づいて、b値を所定の期間(例えば、1日分)毎に算出する(ステップS202)。具体的には、まず算出部322は、ある1日分の検知情報を記憶部33から読み出す。次に、算出部322は、読み出した検知情報うち、b値を求めるために用いるサンプル数(例えば、500)毎にb値を算出する。算出部322は、b値を求める際に、検知情報に含まれる波形の振幅の値を用いる。このようにサンプル数毎に算出されるb値を、候補b値と記載する。ある1日分の検知情報が1500個ある場合、算出部322は3個の候補b値を算出することになる。候補b値は、候補評価値の一態様である。候補b値の数が多いほど1日におけるb値の変動が大きくなる。そこで、日変動を抑制するため、算出部322は算出した候補b値の統計値を求めることで、その日の代表値としてのb値を算出する。なお、統計値は、中央値であってもよいし、平均値であってもよい。このように求めた、その日の代表値としてのb値を日次b値と記載する。
【0080】
算出部322は、上述した処理を1日分の検知情報毎に行う。これにより、算出部322は、評価対象期間分のb値を所定の期間(例えば、1日分)毎に算出する。一方で、上述したように、弾性波13の計測では、弾性波13が得られるタイミングが不定期であるため、日にちによっては弾性波13が得られない、又は、弾性波13が得られたとしてもb値を求めるために用いるサンプル数に満たない場合も想定される。そこで、算出部322は、b値を求めるために用いるサンプル数に満たない場合には候補b値を算出しない。その場合、算出部322は、日次b値も算出しない。すなわち、評価対象期間のすべての日にちにおいて、日次b値を有していなくてもよく、検知情報が得られた日にちのみ、日次b値が得られている状態であってよい。評価対象期間が日曜日から始まるある一週間で、水曜日と金曜日には弾性波13が得られなかったと仮定すると、日曜日、月曜日、火曜日、木曜日、土曜日の5点の日次b値が得られていればよい。
【0081】
推定部323は、算出部322により得られた所定の期間毎のb値に基づいて、加法回帰モデルを用いて、トレンド成分と季節性成分を推定する(ステップS203)。具体的な処理として、前記の一週間の評価対象期間(例えば、5点の日次b値が得られた期間)を例にとると、推定部323は、間欠的な時系列データである5点の日次データと、時間の関数で表される式(3)に示される加法回帰モデルで表現できるように加法回帰モデルのパラメータを最適化する。数時刻tを経過日数と考えると、日曜日から始まるある一週間における日曜日、月曜日、火曜日、木曜日、土曜日の5点の日次b値は、それぞれt=0、1、2、4、6の日次b値に相当し、b(t)と表現することができる。時刻tにおける加法回帰モデルの推定値b^(t)と検知情報から得られた日次b値b(t)の誤差が最も小さくなるように加法回帰モデルのパラメータを最適化する。その結果、加法回帰モデルは任意の時刻tにおける推定値b^(t)を求めることが可能となる。前記の例においては、日次データが得られなかった水曜日(t=3)、金曜日(t=5)の推定値を得ることができるようになる。さらに、式(3)のように、トレンド成分と季節性成分はそれぞれ独立の項として表現されているため、トレンド成分の推定値と季節性成分の推定値をそれぞれ独立に求めることも可能である。さらに計測期間外の将来や過去の推定値を求めることもできる。前記の例においては、さらに一週間後の日曜日t=7における値を推定値として求めることもできるようになる。推定部323は、推定結果を評価部324に出力する。
【0082】
評価部324は、推定部323により推定されたトレンド成分が下降傾向である場合、構造物11において損傷が進行していると評価する。評価部324は、推定部323により推定された季節性成分が周期的に変動している場合、構造物11の内部に進展性の低いひび割れが存在としていると評価する(ステップS204)。評価部324は、評価結果を表示部34に表示してもよい。この際、評価部324は、トレンド成分と季節性成分のグラフと、評価結果とを同一画面上に表示してもよい。
【0083】
次に、発明者らの実験結果を踏まえて本実施形態の効果について説明する。図7は、評価対象期間分のb値のデータを用いた分析結果の一例を示す図である。図7に示す例では、評価対象期間を3年間として、3年間で得られた弾性波13に基づく分析結果を示している。図7の上図に示す点P1はb値を表し、点線L1はトレンド成分を表す。図7において、日時t0から日時t1までの期間は評価対象期間における1年目のb値のデータを用いた分析結果を表し、日時t1から日時t2までの期間は評価対象期間における2年目のb値のデータを用いた分析結果を表し、日時t2から日時t3までの期間は評価対象期間における3年目のb値のデータを用いた分析結果を表す。
【0084】
図7の上図に示す結果からトレンド成分と、季節性成分に分離した結果を図7の下図に示す。図7の下図に示す直線L1はトレンド成分を表し、線分L2は季節性成分を表す。直線L1で示すようにトレンド成分(図7におけるTrend)は緩やかな下降傾向を示しており、線分L2で示すように季節性成分(図7におけるSeasonality)としては夏季に増加、冬季に低下する傾向があることが分かる。図7に示すように、発明者らの長期的なモニタリングにより、構造物内部において季節性の変動が見られることが初めて明らかになった。このような季節性の変動は、従来のような短期間で得られたb値を用いた評価手法では確認することが困難である。そのため、本実施形態における評価方法は、従来にはない評価方法であり、従来では得ることができない分析結果も得ることができる。長期的なb値の低下トレンドは、クラックが徐々に増加している傾向を示し、年間変動は、温度変化に伴う既存クラックの形状変化によるものであると推定することができる。
【0085】
複数のセンサ10を用いて、その長期的なトレンドの変化をコンター図(二次元マップ)の変化として描くことで、劣化の進んだ領域を可視化するができる。そこで、評価部324は、ユーザにより選択された日時におけるb値と、センサ10の設置位置情報とに基づいて、b値をセンサ位置における代表値として、ボロノイ線図に基づく補完を施したコンター図を生成し、生成したコンター図を表示部44に表示させてもよい。ここで、選択するb値としては、トレンド成分に関係するb値を用いることが望ましい。トレンド成分に関係するb値は、例えば図7に示すように評価対象期間で得られたb値のデータを用いて得られる直線L1を描いた際に、直線L1と重なるb値である。ボロノイ線図の母点は、センサ10の設置位置である。
【0086】
b値をセンサ位置における代表値として、ボロノイ線図に基づく補完を施したコンター図の一例を図8に示す。図8に示す黒丸の点は、センサ10の配置位置を表す。図8の左図は日時t0におけるb値に基づくコンター図を表し、図8の右図は日時t3(日時t0から3年後の日時)におけるb値に基づくコンター図を表す。図8の左図と右図とを比較することにより、3年の期間で右上の領域において劣化が拡大していることが分かる。
【0087】
以上のように構成された構造物評価システム100によれば、b値を用いて構造物11の長期モニタリングを行う場合において、構造物11の劣化状態の評価精度を向上させることができる。具体的には、構造物評価システム100では、評価対象期間分の検知情報を用いて日次b値を所定の期間毎に算出し、所定の期間毎に算出された各日次b値の時系列データに基づいて、構造物11の劣化状態を評価する。例えば、評価対象期間が3年であれば、構造物評価システム100では、3年分の検知情報を用いて日次b値を所定の期間毎に算出することになる。評価対象期間内の全ての日時において、日次b値が算出されていない場合であっても、構造物評価システム100では、算出された日次b値の時系列データで、構造物の劣化状態を評価する。そのため、ある期間で弾性波13が検出されなかったとしても、b値の時間変化を見ることで損傷の傾向を評価することができる。そのため、b値を用いて構造物11の長期モニタリングを行う場合において、構造物11の劣化状態の評価精度を向上させることが可能になる。
【0088】
構造物評価システム100では、所定の期間毎に複数の候補b値を算出し、複数の候補b値の代表値を日次b値として算出する。これにより、候補b値のばらつきによる評価精度の低下を抑制することが可能になる。
【0089】
構造物評価システム100では、評価対象期間として2年以上の期間の検知情報を用いることで、周期性を観測することができる。そのため、季節の変化によるb値の変化を捉えやすくなり、構造物の劣化状態の評価精度を向上させることが可能になる。
【0090】
構造物評価システム100では、トレンド成分の傾向に基づいて構造物11内部の損傷の進展を評価し、季節性成分に基づいて構造物11内部に進展性の低い損傷があるか否かを評価する。このように、構造物評価システム100では、構造物11内部の損傷の進展のみならず、季節による温度変化に伴う損傷の変化を捉えることができる。その結果、将来的な構造物評価に生かすことができる。
【0091】
構造物評価システム100の変形例について説明する。
(変形例1)
上述した実施形態では、構造物11に対して衝撃を付与する対象が車両12である場合を示したが、構造物11に対して衝撃を付与する対象は車両12に限定されない。構造物11に対して衝撃を付与する対象は、不定期であっても長期的に構造物11に対して衝撃を与えることができるものであればよい。例えば、構造物11に対して衝撃を付与する対象は、雨、水の散布、人手による打撃のいずれであってもよい。
【0092】
(変形例2)
温度依存性を加法回帰モデルに組み込むことで、年変動のうち温度に依存する成分と、温度に依存しない季節性成分s(t)に分けることもできる。この場合の温度に依存しない季節性成分は例えば年間を通じた交通量の変動に起因する成分であることが考えられる。そこで、推定部323は、温度に依存する成分を、温度データT(t)と、回帰係数αの乗算項として、トレンド成分と季節性成分に付加した以下の式(7)に示す加法回帰モデルを用いて、トレンド成分と季節性成分を推定するように構成されてもよい。
【0093】
【数7】
【0094】
なお、推定部323は、温度データT(t)にかえて湿度データを用いてもよい。同様に、推定部323は、他の物理量をセンシングしたデータx(t)と、回帰係数βの乗算項を上式(7)に付加した以下の式(8)に示す加法回帰モデルを用いて、トレンド成分と季節性成分を推定するように構成されてもよい。
【0095】
【数8】
【0096】
他の物理量は、例えば交通量である。このように、推定部323は、トレンド成分と季節性成分に加えて、少なくとも温度、湿度、交通量のいずれかに比例する項を付加した加法回帰モデル用いて、トレンド成分と季節性成分を推定する。
【0097】
(変形例3)
上述した実施形態では、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値としてb値を例に説明したが、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値はこれに限定されない。例えば、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値は、下記の参考文献1に記載されている改良b値が用いられてもよい。改良b値は、振幅の平均μと標準偏差σに基づき、統計的に振幅範囲を決定するであり、AE方式に基づく1つの健全性の診断指標として活用されている。
(参考文献1:特開2006-10595号公報)
【0098】
(変形例4)
構造物評価装置30が備える機能部の一部は、別の筺体に備えられていてもよい。例えば、構造物評価装置30が通信部31、制御部32及び記憶部33を備えて、表示部34が別の筺体に備えられてもよい。このように構成される場合、制御部32は、評価結果を別の筺体に送信する。そして、別の筺体に備えられる表示部34は、評価結果を表示する。
【0099】
(変形例5)
信号処理装置20と、構造物評価装置30とは一体化されて構成されてもよい。
【0100】
(変形例6)
上述した実施形態では、メモリ276に評価対象期間分の検知情報を保持させる構成を示したが、評価対象期間分の検知情報は他の装置の記憶部に記憶されてもよい。他の装置の記憶部は、例えば、クラウド上に設けられたサーバの記憶部であってもよいし、構造物評価装置30の記憶部33であってもよい。評価対象期間分の検知情報を他の記憶部に記憶させる場合、信号処理装置20は検知情報が得られる度、又は、一定期間分の検知情報がメモリ276に記憶される度に、他の装置に送信する。なお、一定期間は、評価対象期間よりも短い期間であって、例えば1週間、1か月等である。信号処理装置20は、検知情報を他の装置に送信した後、メモリ276に保存されている検知情報を削除する。これにより、メモリ276の容量を押さえることができる。構造物評価装置30の取得部321は、評価対象期間分の検知情報がクラウド上に設けられたサーバに記憶されている場合、サーバから評価対象期間分の検知情報を取得すればよい。
【0101】
(変形例7)
評価部324は、トレンド成分に基づく評価において、b値を加味した評価をさらに行うように構成されてもよい。トレンド成分が下降傾向を示していたとしても、b値がある程度大きい値である場合には損傷が少ない、すなわち早急な補修等が不要であるとみなすことができる。下記の参考文献2の表1を参照すると、b値が1.7以上である場合には小さい損傷はあるものの損傷が少ないと考えられることが記載されている。そこで、評価部324は、トレンド成分が下降傾向を示し、かつ、b値が1.7より大きい場合には、構造物11において損傷が進行しているが、早急な対応は不要であると評価する。さらに、評価部324は、トレンド成分が下降傾向を示し、かつ、b値が1.2<b値<1.7である場合には、構造物11において損傷が進行しているが早急な対応は不要であると評価する。さらに、評価部324は、トレンド成分が下降傾向を示し、かつ、b値が1.2未満である場合には、構造物11において損傷が進行しており、早急な対応は必要であると評価する。
(参考文献2:I. S. Colombo, I. Main, and M. Forde, “Assessing Damage of Reinforced Concrete Beam Using ‘‘b-value’’ Analysis of Acoustic Emission Signals”, Journal of materials in civil engineering, vol. 15, no. 3, pp. 280-286, 2003.)
【0102】
(変形例8)
取得部321は、構造物11を走行した車両12に関する情報(以下「車両情報」という。)をさらに取得するように構成されてもよい。車両情報は、例えば評価対象期間に構造物11を走行した車両12の車種情報と、構造物11の車両12の通行量情報である。車両12の車種情報には、少なくとも車両12のトレッド幅の情報が含まれる。車両12の通行量情報は、評価対象期間に構造物11をどの車種の車両12が何台通過したかを示す情報である。取得部321は、車両情報を、ユーザの入力によって取得してもよいし、交通情報を記憶しているサーバから取得してもよい。このように構成される場合、算出部322は、車種別にb値を所定の期間毎に算出してもよい。推定部323は、算出部322によって車種別に算出された各b値の時系列データを用いて、トレンド成分と季節性成分を車種別に推定する。評価部324は、所定の期間毎に算出された各b値の時系列データに基づいて、構造物11の劣化状態を評価する。
【0103】
(変形例9)
上述した実施形態では、信号処理装置20が自立電源を搭載している構成を示した。一方で、可搬性や設置性の自由度は低下してしまうが、信号処理装置20は自立電源を搭載せず、商用電源を用いて動作するように構成されてもよい。このように構成される場合、信号処理装置20は電源部23を備えなくてよい。
【0104】
(変形例10)
上述した実施形態では、検知情報生成部275が、センサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを含む検知情報を生成する構成を示した。b値を算出するには、少なくとも波形の振幅の情報があればよい。さらに、ある期間のb値を算出する場合には、波形の振幅の情報と、弾性波の時刻情報があればよい。すなわち、検知情報生成部275は、特徴量に関するパラメータ全てを含む検知情報を生成する必要はない。そこで、検知情報生成部275は、時刻情報と、波形の振幅の情報とを含む検知情報を生成してもよい。
【0105】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、構造物から発生する弾性波を検出する複数のセンサ10と、複数のセンサ10それぞれによって検出された各弾性波の少なくとも振幅に関する情報と各弾性波が検出された時刻情報とを対応付けた検知情報を蓄積するメモリ276と、メモリ276に蓄積された評価対象期間分の検知情報に基づいてb値を所定の期間毎に算出する算出部322と、所定の期間毎に算出された各b値の時系列データに基づいて、構造物11の劣化状態を評価する評価部324とを持つことにより、振幅規模別頻度分布の傾きにより得られる評価値を用いて構造物11の長期モニタリングを行う場合において、構造物11の劣化状態の評価精度を向上させることができる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0107】
10、10-1~10-P…センサ,15…起動制御装置,20…信号処理装置,30…構造物評価装置,31…通信部,32…制御部,33…記憶部,34…表示部,321…取得部,322…算出部,323…推定部,324…評価部,21…AFE,22…起動制御部,23…電源部,24…電源供給部,25…クロック発振器,26…時刻情報生成部,27…信号処理部,28…通信部,211…受信部,212…第1フィルタ,213…アナログデジタル変換部,214…第2フィルタ,271…波形整形フィルタ,272…ゲート生成回路,273…到達時刻決定部,274…特徴量抽出部,275…検知情報生成部,276…メモリ
図1
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図8