(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012902
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】多孔フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20230119BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116659
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹原 一芳
(72)【発明者】
【氏名】森 恵一
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山延 健
(72)【発明者】
【氏名】撹上 将規
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AB01
4F074AB03
4F074CA03
4F074CA04
4F074CA06
4F074CC02Y
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA43
4F074DA49
(57)【要約】
【課題】乾式法で環境と設備への負荷やコストをかけず、強度が高く、メルトダウン特性を有するとともに、通気性に優れた多孔フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】多孔フィルムは、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを延伸して得られ、DSCチャートにおいて、140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有し、JIS P 8117に準拠して測定されたガーレ式透気度が200s/100ml以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを延伸して得られる多孔フィルムであって、
DSCチャートにおいて、140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有し、JIS P 8117に準拠して測定されたガーレ式透気度が200s/100ml以下であることを特徴とする多孔フィルム。
【請求項2】
JIS K 7127に準拠して測定された引張破断応力が100MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の多孔フィルム。
【請求項3】
JIS Z 1707に準拠して測定された突き刺し強度が2N以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔フィルム。
【請求項4】
前記多孔フィルムの全体に対する前記超高分子量ポリエチレンの配合量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【請求項5】
水銀圧入法により測定した細孔のメジアン径が1μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔フィルム。
【請求項6】
互いに対向して配置された一対のロールの間に、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である超高分子量ポリエチレンの固体粉末を供給して固相ロール圧延によりフィルムを成形しながら、該フィルムを引き取る工程と、
前記フィルムを延伸する工程と
を少なくとも備えることを特徴とする多孔フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量を有するポリエチレンを主成分とする原料により形成された超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム(以下、単に「ポリエチレンフィルム」という場合がある。)を延伸することにより得られる多孔フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン等のポリオレフィンを主成分とする多孔フィルムは、イオン透過性や絶縁性を有することから二次電池用セパレータやコンデンサー用セパレータとして、また化学的安定性から精密ろ過膜や透湿防水膜等の分離膜や濾過膜として、広く利用されている。
【0003】
また、近年、この多孔フィルムは、スマートフォンや電気自動車などの様々な分野で多用されているリチウムイオン二次電池のセパレータとしての需要が拡大している。このような、多くの二次電池用セパレータとして利用される理由としては、上述の特性の他に、熱可塑性樹脂において融点が比較的低いことによるシャットダウン特性や優れた機械特性を有していることが挙げられる。また、超高分子量ポリオレフィンを使用することにより、融点以上の温度領域においても形状を維持することができるメルトダウン特性を有するため、電極間の短絡を防ぐことにより、二次電池における安全性を確保することができるという利点も有している。
【0004】
ここで、微細な孔を有するオレフィン微多孔フィルムの製膜方法は、大きく分けて乾式法と湿式法に大別される。乾式法は樹脂を溶融押出することにより薄い原反シートを製膜し、この原反シートを熱処理等で安定化させて、所定の延伸条件下で、主に一軸方向に延伸することで開孔させる方法である(例えば、特許文献1参照)。また、湿式法は、樹脂を溶剤と共に溶融混錬してシート成形した後、そのシートを二軸延伸し、その後、溶剤を除去して開孔させる方法である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-88645号公報
【特許文献2】特開2021-14572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の乾式法においては、溶融押出により原反シートを得るため、溶融粘度が極めて高く、溶融押出が困難である超高分子量ポリオレフィンを使用することができない。従って、強度が弱くなり、メルトダウン特性を持たせることもできない。また、上記不都合を回避するために、多層化や架橋構造を付与する方法が考えられるが、依然、強度は十分とは言えず、また十分な貫通孔が形成されず、多孔フィルムの透気度が低下するという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の湿式法においては、樹脂を溶剤と共に溶融混錬するため、その後、溶剤を除去する工程が必要となり、環境と設備への負荷やコストが高くなるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、乾式法で環境と設備への負荷やコストをかけず、強度が高く、メルトダウン特性を有するとともに、通気性に優れた多孔フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の多孔フィルムは、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを延伸して得られる多孔フィルムであって、DSCチャートにおいて、140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有し、JIS P 8117に準拠して測定されたガーレ式透気度が200s/100ml以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の多孔フィルムの製造方法は、互いに対向して配置された一対のロールの間に、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である超高分子量ポリエチレンの固体粉末を供給して固相ロール圧延によりフィルムを成形しながらフィルムを引き取る工程と、フィルムを延伸する工程とを少なくとも備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乾式法で環境と設備への負荷やコストをかけず、強度が高く、メルトダウン特性を有するとともに、通気性に優れた多孔フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを製造するための装置を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る(実施例1における)多孔フィルムのDSCチャートにおける吸熱ピークを説明するための図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る多孔フィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図4】比較例8における多孔フィルムのDSCチャートである。
【
図5】比較例9における多孔フィルムのDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の多孔フィルムについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0014】
本発明の多孔フィルムは、固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを延伸して得られる多孔フィルムである。
【0015】
<超高分子量ポリエチレン>
本発明で使用する超高分子量ポリエチレンは、固体粉末であり、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万のものを使用することができる。これは、粘度平均分子量(Mv)が60万未満の場合は、溶融粘度が低すぎるため、樹脂がロールに付着してしまい、ロール圧延による成形が困難になる場合があり、また、押出成形で原反フィルムを製造した場合でも、融点付近の温度(例えば、130℃)で、後述のフィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD」という。)における延伸処理を行うと、フィルムが溶け落ち、MD延伸が困難になる場合があるためである。また、粘度平均分子量(Mv)が500万よりも大きい場合は、溶融粘度が高過ぎるため、一般的なサイズのロールでは、固相ロール圧延による成形が困難になる場合があるためである。
【0016】
すなわち、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを使用することにより、ロール圧延による成形性を確保することができるとともに、乾式法で環境と設備への負荷やコストをかけず、多孔フィルムの強度を向上させて、メルトダウン特性(すなわち、融点以上の温度領域においても形状を維持することができる特性)を付与することが可能になる。
【0017】
なお、超高分子量ポリエチレンとしては、例えば、ミペロンXM220(三井化学社製、粘度平均分子量:200万)等の市販品を使用することができる。
【0018】
また、架橋剤や電子線照射等により架橋された架橋ポリエチレンや、60万~500万の粘度平均分子量に高分子量化されたもの(合成されたもの)を使用してもよい。
【0019】
なお、粘度平均分子量は、70万~400万が好ましく、80万~300万がより好ましく、100万~200万がさらに好ましい。
【0020】
また、上記「粘度平均分子量」とは、JIS K 7367-3:1999に準拠して算出されるものを言う。
【0021】
また、超高分子量ポリエチレンとしては、重合直後の個体粉末の融点が140~150℃の範囲のものが好ましく、140~145℃のものがより好ましい。
【0022】
なお、上記「融点」とは、JIS K 7121:1987に準拠して測定されるものを言い、示差走査熱量計により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0023】
<他の成分>
本発明の多孔フィルムには、主成分である超高分子量ポリエチレンの他に、各種添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、ポリエチレンフィルムに通常用いられる公知の添加剤を用いることができ、例えば、ステアリン酸カルシウム(金属石鹸)、ステアリルアルコール、セリルアルコール等の高級脂肪族アルコール、n-デカン、n-ドデカン等のn-アルカン、流動パラフィン、灯油、パラフィンワックス等が挙げられる。なお、これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
<多孔フィルム>
多孔フィルムにおける超高分子量ポリエチレンと添加剤との配合比は、本発明の多孔フィルムの特徴を損なわない限り、特に制限はないが、添加剤に起因する多孔フィルムの機械的強度(引張強度)の低下を抑制するとの観点から、多孔フィルムの全体に対する超高分子量ポリエチレンの配合量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。また、加工助剤等を含まない、超高分子量ポリエチレンのみ(すなわち、100質量%)からなる多孔フィルムも提供することができる。
【0025】
また、本発明の多孔フィルムの厚みは、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。厚みが30μm以下の場合は、例えば、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた場合にセパレータの薄膜化により電極間の距離を短くできるため、リチウムイオン二次電池の高容量化、高出力化に貢献できる。
【0026】
また、本発明の多孔フィルムにおいては、DSC測定で140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有する。より具体的には、
図2のDSCチャートに示すように、本発明の多孔フィルムは2つの吸熱ピークを有しており、140~145℃付近の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶(斜方晶)の融解ピークであり、150~155℃付近の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶の転移(斜方晶→六方晶)ピークである。
【0027】
また、延伸前の固相ロール圧延フィルム(原反フィルム)は130~160℃の間に少なくとも2つの吸熱ピークを有しており、130~135℃付近の吸熱ピークはラメラ結晶の融解ピークである。
【0028】
伸び切り鎖結晶の融解熱量は、ラメラ結晶に比べて少量であるため、転移ピーク(150~155℃付近の吸熱ピーク)しか観測されない場合もある。
【0029】
そして、
図2に示すDSCチャートにおいて、本発明の多孔フィルムは、140~145℃付近の伸び切り鎖結晶の融解ピークと150~155℃付近の伸び切り鎖結晶の転移ピークの2つの吸熱ピーク(すなわち、140℃以上155℃未満に少なくとも1つ以上の吸熱ピーク)を有することにより、強度が発現しているものと考えられる。
【0030】
なお、上記「DSCチャート」とは、JIS K7121に準拠して測定されたものをいう。
【0031】
また、本発明の多孔フィルムにおいては、MDと、これと直交する方向(以下、「TD」という。)における引張破断応力が100MPa以上であることが好ましい。引張破断応力が100MPa以上であれば、伸長ストレスや屈曲ストレスに対する高い耐久性を発揮することができるため、機械的強度に優れた多孔フィルムを提供することができる。
【0032】
なお、上述の「引張破断応力」とは、JIS K 7127に準拠して測定された応力のことを言う。
【0033】
また、本発明の多孔フィルムにおいては、JIS P 8117に準拠して測定したガーレ式透気度は200s/100ml以下が好ましく、100s/100ml以下がより好ましく、50s/100ml以下がさらに好ましい。ガーレ式透気度が200s/100ml以下であれば、十分な貫通孔が形成されているため、二次電池用セパレータや分離膜・ろ過膜として使用した場合に機能を発揮することができる。
【0034】
また、本発明の多孔フィルムにおいては、突き刺し強度が2N以上であることが好ましい。突き刺し強度が2N以上であれば、例えば、二次電池用セパレータとして使用した場合に、異物や衝撃によりセパレータが突き破られて、正極と負極が短絡することを防止することができる。
【0035】
なお、上述の「突き刺し強度」とは、JIS Z 1707に準拠して測定された強度のことを言う。
【0036】
また、本発明の多孔フィルムにおいては、水銀圧入法により測定した細孔のメジアン径が1μm以下であることが好ましい。多孔フィルムにおける細孔のメジアン径が1μm以下であれば、例えば、二次電池セパレータとして使用した場合に、導電物質が通過することによって正極と負極が短絡することを防止することができる。
【0037】
以上に説明したように、本発明の多孔フィルムは、乾式法で環境と設備への負荷やコストをかけず、通気性に優れ、機械的強度が高く、かつメルトダウン特性を有するため、例えば、精密ろ過膜や透湿防水膜等の分離膜や濾過膜、二次電池用セパレータ、及びコンデンサー用セパレータとして好適に使用できる。
【0038】
<多孔フィルムの製造方法>
次に、本発明の多孔フィルムの製造方法について、詳細に説明する。
【0039】
本発明の多孔フィルムは、まず、上述の粘度平均分子量60万~500万の超高分子量ポリエチレンを単独で、あるいは当該超高分子量ポリエチレンを上述の添加剤と混合した、超高分子量ポリエチレンを主成分とする原料を、固体粉末のままロール圧延機でフィルム状に成形して超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを製造し、次に、この固相ロール圧延により製造された超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを延伸することにより製造される。
【0040】
なお、本発明による超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムの製造方法は、加工助剤等を用いて後に除去する湿式法に対し、加工助剤等を使用しない、または後に加工助剤を除去する工程を備えていない乾式法によるフィルムの製造方法である。
【0041】
図1は、本実施形態に係る超高分子量ポリエチレンフィルムを製造するための装置(ロール圧延機)を示す概略図である。
【0042】
図1に示すように、ロール圧延機10は、原料供給機1において超高分子量ポリエチレンMの固体粉末を、原料供給機1の出口1aから、ロール圧延機を構成する一対のロール2,3の間に供給して、原料である超高分子量ポリエチレンMを挟圧し、一対のロール2,3の間を通過させてロールによるフィルム成形を行う。そして、フィルムを成形しながら、当該フィルムを、移送ロール4~7を介して、矢印Yの方向に搬送し、引取ロール8により、矢印Zの方向に引取ることにより、超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムPを得ることができる。
【0043】
なお、
図1に示すように一対のロール2,3は、超高分子量ポリエチレンMの供給方向(図中の矢印Xの方向)に設けられるとともに、互いに対向して配置されている。また、一対のロール2,3は所定の間隔で離間して設けられている。
【0044】
また、一対のロール2,3、移送ロール4~7、及び引取ロール8としては、金属ロールやゴムロールを使用することができる。
【0045】
上記のロール圧延機によるフィルム成形の温度(フィルム成形時のロールの温度)に関しては、原料である超高分子量ポリエチレンの融点付近で加熱することが固相ロール圧延によるフィルム成形の特徴であり、ロール上に原料を残存させることなくフィルムを成形するために重要である。フィルム成形の温度は、超高分子量ポリエチレンの重合直後の個体粉末の融点をMp[℃]とした場合、下限値としては、Mp-5℃以上の温度であることが必要である。また、上限値としては、Mp+10℃未満の範囲であることが必要である。これは、Mp+10℃よりも高い温度で成形すると、原料の凝集に起因してフィルムに穴が形成され、フィルム成形が困難になる場合があるためである。また、Mp-5℃よりも低い温度で成形すると、原料の粉末部分が残りフィルム成形が困難になる場合がある。
【0046】
なお、上記「融点」とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC)で測定し、観察される主吸収ピーク温度のことをいう。
【0047】
また、本発明においては、原料である超高分子量ポリエチレンを、ロール圧延機を構成する一対のロール2,3の間に通過させてロール成形を行うが、固相ロール圧延で個体粉末を圧着してフィルム状にするとの観点から、一対のロールを構成する2つのロール2,3のロール間線圧は100~300kg/cmが好ましく、30~250kg/cmがより好ましく、50~200kg/cmがさらに好ましい。
【0048】
また、ロール圧延速度は、ロール径が75mmφの場合、24~2400mm/分の範囲に設定することが好ましい。これは、ロール圧延速度が2400mm/分を超えると、フィルムの破断が発生する場合があり、ロール圧延速度が24mm/分未満の場合は、生産効率が低下する場合があるためである。
【0049】
なお、ロールの回転数は、上述のロール圧延速度に対応させて、適宜、設定することができ、ロール径が75mmφの場合、例えば、0.1~1.0rpmに設定することができる。
【0050】
また、ロール径により、ロール圧延速度(mm/分)、及びロールの回転数が異なるため、上記範囲に限定されるものではない。
【0051】
また、ロール圧延倍率は2倍~10倍の範囲に設定することが好ましい。なお、ロール圧延倍率は以下のように算出する。(1)まず、原料の個体粉末を温度180℃、プレス圧125kgf、プレス時間120秒の条件下でプレス成形を行い、無延伸フィルムを作製する。(2)次に、得られた無延伸フィルムを145℃下にて2倍、4倍、5倍、6倍までMD延伸したフィルムをそれぞれ作製する。(3)このMD一軸延伸フィルムを150℃のオーブンに入れ30分間保持し、その後熱収縮率を測定する。(4)次に熱収縮率と延伸倍率のグラフを作成し近似曲線を作成する。(5)ロール圧延機で成形された引き取り前のフィルムの熱収縮率を、上記(3)と同様の方法で測定し、上記(4)の近似曲線により延伸倍率を算出し、これをロール圧延倍率とする。ロール圧延倍率が、2倍~10倍の場合、多孔化に必要な伸び切り鎖結晶の形成を促進することができる。
【0052】
また、ロール圧延機で成形されたフィルムは、引取機(引取ロール8)によって引き取られる(すなわち、ロール圧延によりフィルムを成形しながら、該フィルムが引き取られる)が、本発明においては、引取速度を、上述のロール圧延速度よりも速くなるように設定する。より具体的は、ロール圧延速度をV1、引取速度をV2とした場合に、引取倍率(V2/V1)は1.1倍より大きく10倍以下の範囲に設定することが好ましい。
【0053】
引取倍率(V2/V1)が1.1倍より大きく10倍以下の場合に、フィルムの搬送方向(すなわち、MDであって、図中の矢印Yの方向)において、フィルムにテンションを掛けた状態で引き取ることが可能になるため、フィルムの配向が促進されて機械的強度(引張強度)が向上するとともに、薄膜化された(すなわち、100μm以下の厚みを有する)超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを得ることが可能になる。
【0054】
次に、引き取られた超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを、MD、TDの二方向に延伸することにより、高強度化および多孔化して、本発明の多孔フィルムを製造する。
【0055】
より具体的には、まず、原反フィルムである高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムに対して、MDに延伸処理を行うことにより、MDの分子配向が進行して、ラメラ結晶が伸び切り鎖結晶へ変化し、MDの強度が向上する。
【0056】
MDの延伸処理における延伸温度は、136℃以上160℃未満である。これは、136℃以上で溶融延伸することにより、上述の伸び切り鎖結晶が形成され、136℃未満の場合は、原反フィルムのラメラ結晶の融点未満となり、ラメラ結晶が溶けずにフィルムが延伸できる柔らかさにならず、破断する場合があるためである。また、延伸温度が160℃よりも高い場合は、フィルムが溶融して破断する場合があるためである。
【0057】
また、MDの延伸処理における延伸倍率は、1.0倍以上20倍以下が好ましく、1.1倍以上15倍以下がより好ましく、1.2倍以上10倍以下がさらに好ましく、1.3倍以上5倍以下が特に好ましい。MDの延伸処理における延伸倍率が1.0倍以上20倍以下の場合に、MDの分子配向が進行して、ラメラ結晶が伸び切り鎖結晶へ変化し、MDの延伸処理後のフィルムのMDの強度が発現するものと推察される。なお、ここでいう「延伸倍率」とは、延伸方向(すなわち、MD)における、延伸前のフィルムの長さに対する延伸後のフィルムの長さの倍数のことをいう。
【0058】
また、MDの総延伸倍率は、16倍以上35倍以下が好ましく、20倍以上30倍以下がより好ましい。MDにおける総延伸倍率とは、ロール延伸倍率と、引取倍率と、MDの延伸処理における延伸倍率とを掛け合わせた倍率である。MDの総延伸倍率が16倍未満の場合は、伸び切り鎖結晶が十分に形成されないという不都合が生じる場合があり、35倍よりも大きい場合は、フィルムを伸長した場合に破断する場合がある。
【0059】
次に、MDに延伸処理をしたフィルムに対して、TDに延伸処理を行うことにより、TDの分子配向が進行してTDの強度が向上し、かつ上述の伸び切り鎖結晶が開裂して、
図3に示す走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクサイエンス製、商品名:ショットキー走査電子顕微鏡 SU5000)写真における細孔21が形成され、多孔化された多孔フィルム20が製造される。
【0060】
TDの延伸処理における延伸温度は、130℃以上であり、DSCチャートにおける伸び切り鎖結晶の吸熱ピーク温度(例えば、145℃、または150℃)未満である。これは、130℃未満の場合は、伸び切り鎖結晶間もしくはラメラ結晶間の非晶部分が十分に柔らかくならず亀裂が入ると推察され、破断する場合があるためである。また、DSCチャートにおける伸び切り鎖結晶の吸熱ピーク温度よりも高い場合は、伸び切り鎖結晶が溶解して細孔が塞がり、多孔化が困難になる場合があるためである。
【0061】
また、TDの延伸処理における延伸倍率は、2倍以上10倍以下である。これは、延伸倍率が2倍未満の場合は、TDの分子配向が十分に進行せず、フィルムのTD強度が発現しない場合や、伸び切り鎖結晶が開裂せず、多孔化が困難になる場合があり、10倍よりも大きい場合は、延伸装置を大型化する(すなわち、延伸装置の幅を大きくする)必要があるため、延伸処理が困難になる場合があるためである。なお、ここでいう「延伸倍率」とは、延伸方向(すなわち、TD)における、延伸前のフィルムの長さに対する延伸後のフィルムの長さの倍数のことをいう。
【0062】
また、MD、及びTDにおける延伸方法は特に限定されず、例えば、ロール延伸、テンター延伸等が挙げられる。
【0063】
そして、上述の方法により製造された本発明の多孔フィルムは、JIS K 7127に準拠して測定された引張破断応力が100MPa以上となり、JIS P 8117に準拠して測定されたガーレ式透気度が200s/100ml以下となるため、優れた機械的強度と通気性を得ることが可能になる。
【0064】
また、延伸処理前の原反フィルムの厚みは、30~300μmが好ましく、50~200μmがより好ましい。原反フィルムの厚みが30μm以上であれば、巻取り時のシワや、スリット時のトリミングのカット性などのハンドリング性を確保できる。また、原反フィルムの厚みが300μm以下であれば、延伸処理後の多孔フィルムは十分な通気性を得ることができる。
【0065】
以上の方法により、本発明においては、乾式法で環境と設備への負荷やコストをかけず、強度が高く、メルトダウン特性を有するとともに、通気性に優れた多孔フィルムを得ることができる。
【実施例0066】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0067】
(実施例1)
<多孔フィルムの作製>
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ミベロンXM220、粘度平均分子量:200万、融点:143℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが98μmのポリエチレンフィルム(多孔化前の原反フィルム)を作製した。
【0068】
次に、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行い、その後、TDに延伸処理を行うことにより、原反フィルムを多孔化し、複数の細孔が形成された多孔フィルム(厚み:15μm)を作製した。
【0069】
<ガーレ式透気度の測定>
JIS P 8117に準拠して、透気度試験機(旭精工社製、商品名:デジタル型王研式透気度試験機、EG01-6-1MR)を使用して、作製した多孔フィルムのガーレ式透気度[s/100ml]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0070】
<引張破断応力の測定>
JIS K 7127に準拠して、作製した多孔フィルムの引張破断応力[MPa]を測定した。より具体的には、試験片タイプ3号ダンベルの試験フィルムを用意し、引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフAG-5000A)を用いて、温度25℃、引張速度100mm/分の条件で引張試験を行い、MD及びTDにおける引張破断応力[MPa]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0071】
<突き刺し強度の測定>
JIS Z 1707に準拠して、フィルム突刺し治具(イマダ社製、商品名:計測スタンドEMXシリーズ、フィルム突刺し治具TKSシリーズ)を使用して、作製した多孔フィルムの突き刺し強度[s/N]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0072】
<メジアン径の測定>
水銀圧入計(島津製作所-マイクロメリティックス社製、商品名:細孔分布測定装置オートポアV9620)を使用して、水銀圧入法により、多孔フィルムにおける細孔のメジアン径を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0073】
<DSC測定>
また、作製した多孔フィルムのDSC測定を行った、より具体的には、をJIS K 7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(日立ハイテクサイエンス社製、商品名:DSC7000X)に、試料を約1mg採取して封入した後、キャリヤーガスとして窒素を30cc/分流し、10℃/分の昇温速度の条件で、DSCチャートを得た。また、同様の条件で、延伸前の固相ロール圧延フィルム(原反フィルム)のDSCチャートを得た。以上の結果を
図2に示す。
【0074】
図2に示すように、作製した多孔フィルムのDSC曲線においては、140℃以上155℃未満(141℃以上152℃以下)に2つの吸熱ピーク(すなわち、140~145℃付近の伸び切り鎖結晶の融解ピークと150~155℃付近の伸び切り鎖結晶の転移ピークの2つの吸熱ピーク)を有しており、その結果、多孔フィルムの強度が発現しているものと考えられる。
【0075】
(実施例2)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、融点:144℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが79μmの原反フィルムであるポリエチレンフィルムを作製するとともに、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行い、その後、TDに延伸処理を行うことにより、原反フィルムを多孔化し、複数の細孔が形成された多孔フィルム(厚み:6μm)を作製した。
【0076】
その後、上述の実施例1と同様にして、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン320MU、粘度平均分子量:320万、融点:144℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが96μmの原反フィルムであるポリエチレンフィルムを作製するとともに、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行い、その後、TDに延伸処理を行うことにより、原反フィルムを多孔化し、複数の細孔が形成された多孔フィルム(厚み:15μm)を作製した。
【0078】
その後、上述の実施例1と同様にして、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0079】
(実施例4)
MDの延伸処理における延伸倍率を表1に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムを作製し、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0080】
(実施例5)
MD及びTDの延伸処理における延伸倍率を表1に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムを作製し、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0081】
(実施例6)
TDの延伸処理における延伸倍率を表1に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムを作製し、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:50万、融点:143℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、粘度平均分子量が小さいため、溶融粘度が低くなり、樹脂がロールに溶け付いて成形することができなかった。
【0083】
(比較例2)
MDの延伸処理における延伸倍率を表2に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムを作製し、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表2に示す。
【0084】
(比較例3)
TDの延伸処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムを作製し、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表2に示す。
【0085】
(比較例4)
MDの延伸処理における延伸温度を表2に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムの作製を試みたが、MDの延伸処理における延伸温度(125℃)が低いため、MDの延伸処理においてポリエチレンフィルムが破断し、TDの延伸処理を行うことができなかった。
【0086】
(比較例5)
MDの延伸処理における延伸温度を表2に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムの作製を試みたが、MDの延伸処理における延伸温度(160℃)が高いため、MDの延伸処理においてポリエチレンフィルムが溶融して破断し、TDの延伸処理を行うことができなかった。
【0087】
(比較例6)
MDの延伸処理における延伸倍率、及びTDの延伸処理における延伸温度を表2に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムの作製を試みたが、TDの延伸処理における延伸温度(125℃)が低いため、TDの延伸処理においてポリエチレンフィルムが破断した。
【0088】
(比較例7)
TDの延伸処理における延伸温度を表2に示す条件に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして多孔フィルムの作製し、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表2に示す。
【0089】
(比較例8)
まず、質量平均分子量が460万の超高分子量ポリエチレン70質量部と、質量平均分子量が56万の高密度ポリエチレン30質量部とを混合したポリエチレン組成物を、予め準備しておいた流動パラフィン55質量部とデカリン(デカヒドロナフタレン)25質量部の混合溶剤と混ぜ、ポリエチレン溶液を調製した。
【0090】
このポリエチレン溶液を、温度160℃において、ダイを用いてシート状に押出し、次に、この押出物を水浴中において、25℃で冷却するとともに、水浴の表層に水流を設け、水浴中でゲル化したシートの中から放出されて水面に浮遊する混合溶剤がシートに再び付着しないようにしながら、ゲル状シート(ベーステープ)を作製した。
【0091】
次に、このベーステープを55℃で10分、さらに、95℃で10分乾燥して、デカリンをベーステープ内から除去した後、引き続き、85℃に加熱したローラー上を20kgf/mの押圧を掛けながら搬送させて、ベーステープ内から流動パラフィンの一部を除去した。その後、このベーステープを長手方向に温度100℃にて倍率5倍でMDに延伸処理を行い、その後、温度100℃にて倍率14倍でTDに延伸処理を行い、直ちに128℃で熱処理(熱固定)を行うことにより、多孔フィルム(厚み:15μm)を作製した。
【0092】
そして、上述の実施例1と同様にして、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0093】
(比較例9)
まず、質量平均分子量が59万のポリプロピレン樹脂を、Tダイ温度200℃で溶融押出した。吐出フィルムは90℃の冷却ロ-ルに導かれ、37.2℃の冷風が吹きつけられて冷却された後、40m/minで引き取られ、未延伸ポリプロピレンフィルム(厚み:14.1μm)を作製した。
【0094】
次に、質量平均分子量が32万の高密度ポリエチレンを、Tダイ温度173℃で溶融押出した。吐出フィルムは115℃の冷却ロ-ルに導かれ、39℃の冷風を吹きつけて冷却した後、20m/minで引き取られ、未延伸ポリエチレンフィルム(厚み:7.6μm)を作製した。
【0095】
この未延伸ポリプロピレンフィルムと未延伸ポリエチレンフィルムとを使用し、両外層がポリプロピレンフィルムで内層がポリエチレンフィルムのサンドイッチ構成の三層の積層フィルムを以下のようにして製造した。三組の原反ロ-ルサンドから、ポリプロピレンフィルムとポリエチレンフィルムを、各々、速度6.5m/minで巻きだし、加熱ロ-ルに導き、ロール温度147℃のロールにて熱圧着し、その後、同速度で30℃の冷却ロ-ルに導いた後に巻き取り、三層の積層フィルム(厚み:35.8μm)を作製した。
【0096】
次に、この三層の積層フィルムを、125℃に加熱された熱風循環オ-ブンに入れ、加熱処理を行った。次に、熱処理した積層フィルムを、35℃に保持されたニップロ-ル間で、倍率1.18倍にてMDに延伸処理を行った。なお、供給側のロ-ル速度は2.8m/分であった。次に、130℃に加熱された熱延伸ゾーンにおいて、ロ-ル周速差を利用して、ローラー間で、倍率1.9倍にてMDに延伸処理を行い、その後、引き続き、倍率1.25倍にてMDに延伸処理を行った。そして、133℃で熱処理(熱固定)を行うことにより、多孔フィルム(厚み:15μm)を作製した。
【0097】
そして、上述の実施例1と同様にして、ガーレ式透気度の測定、引張破断応力の測定、突き刺し強度の測定、メジアン径の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
表1に示すように、実施例1~6の多孔フィルムにおいては、DSCチャートにおいて、140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有し、ガーレ式透気度が200s/100ml以下であるため、通気性に優れ、機械的強度が高く、かつメルトダウン特性を有することが分かる。
【0102】
一方、比較例2においては、MDの延伸処理における延伸倍率が低いため、伸び切り鎖結晶が十分に形成されず、伸び切り鎖結晶の開裂に基づく多孔化を行うことができなかった。従って、ガーレ式透気度の測定値が99999s/100mlより大きくなり、メジアン径の測定を行わなかった。
【0103】
また、比較例3においては、TDの延伸処理を行わなかったため、伸び切り鎖結晶の開裂に基づく多孔化を行うことができず、ガーレ式透気度の測定値が99999s/100mlより大きくなり、メジアン径の測定を行わなかった。また、TDの分子配向が十分に進行せず、TDの破断強度が100MPa未満となっており、機械的強度に劣ることが分かる。
【0104】
また、比較例7においては、TDの延伸処理における延伸温度(155℃)が、DSCチャートにおける伸び切り鎖結晶の吸熱ピーク温度(141℃、152℃)よりも高いため、TDの延伸処理において、伸び切り鎖結晶が溶解して細孔が塞がり、伸び切り鎖結晶の開裂に基づく多孔化を行うことができず、ガーレ式透気度の測定値が99999s/100mlより大きくなり、メジアン径の測定を行わなかった。
【0105】
また、比較例8においては、
図4に示すように、DSCチャートにおける吸熱ピーク温度が138℃であり、140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有していない。すなわち、伸び切り鎖結晶が存在しないため、TDにおける引張破断応力が100MPa未満となっており、機械的強度に劣ることが分かる。
【0106】
また、比較例9においては、
図5に示すように、DSCチャートにおける吸熱ピーク温度が161℃であり、140℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有していない。すなわち、伸び切り鎖結晶が存在しないため、TDにおける引張破断応力が100MPa未満となっており、機械的強度に劣ることが分かる。
以上説明したように、本発明は、超高分子量ポリエチレンを主成分とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを延伸して得られる多孔フィルムに適している。