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  • 特開-難燃処理液及び難燃処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129080
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】難燃処理液及び難燃処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/12 20060101AFI20230907BHJP
   B27K 3/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C09K21/12
B27K3/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033854
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渥美 和彦
【テーマコード(参考)】
2B230
4H028
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230AA08
2B230BA01
2B230CB01
2B230CB10
2B230CB12
2B230CB21
2B230CB30
2B230DA02
2B230EA03
2B230EB02
2B230EB05
2B230EB12
4H028AA29
4H028AA38
4H028BA02
(57)【要約】
【課題】木材などのOH基を含む被処理物に対して比較的低温で難燃性とともに耐水性を付与することができる難燃処理液及び難燃化処理方法を提供する。
【解決手段】ポリリン酸アルキルアミン塩、尿素、及び水を含む難燃処理液、並びにOH基を含む被処理物に、前記難燃処理液を含浸させる含浸工程と、前記難燃処理液が含浸した前記被処理物を110℃以上140℃未満で加熱する加熱工程と、を含む難燃処理方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸アルキルアミン塩、尿素、及び水を含む難燃処理液。
【請求項2】
前記ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンの炭素数が1~6である請求項1に記載の難燃処理液。
【請求項3】
前記ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンが、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、メチルジエチルアミン、及びトリエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の難燃処理液。
【請求項4】
OH基を含む被処理物に、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の難燃処理液を含浸させる含浸工程と、
前記難燃処理液が含浸した前記被処理物を110℃以上140℃未満で加熱する加熱工程と、
を含む難燃処理方法。
【請求項5】
前記被処理物が、セルロース構造を含む請求項4に記載の難燃処理方法。
【請求項6】
前記被処理物が、木材である請求項4又は請求項5に記載の難燃処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、難燃処理液及び難燃処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材、繊維などに難燃剤を塗布するなどして難燃性を付与することが行われている。例えば、木材用難燃剤として、リン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等の水溶性の難燃剤が知られている。これらの難燃剤を水に溶かして得られる難燃処理液を木材に含浸して乾燥させることで難燃性を付与することができる。
【0003】
木材用難燃剤の中でも屋外に面する木材などに使用される外装用難燃剤は、難燃性と共に高い耐水性を有することが求められる。これは、外装用に難燃処理液を含浸した木材を使用した際、雨風に曝されることによる薬剤の抜け出しを抑制するためである。
【0004】
しかし、リン酸グアニジン等の水溶性難燃剤を単独で用いた場合、木材に難燃性を付与できるものの、耐水性を十分に付与することができない。
【0005】
また、リン酸やポリリン酸を木材に固定することで、木材に難燃性を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1参照)。この方法では、尿素を反応促進剤として用い、リン酸やポリリン酸と木材中のセルロースとを反応(セルロースのリン酸エステル化)させることで、木材への薬剤の固定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47-6595号公報
【特許文献2】特公昭49-48600号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】工学化学雑誌 第69巻第4号 681-685頁 1969年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、リン酸やポリリン酸を木材に固定する前記方法でも木材に難燃性を付与できるものの、耐水性を十分に付与することができない。
リン酸アンモニウムと尿素によりセルロースをリン酸エステル化した場合も耐水性が劣る点が問題となる。また、ポリリン酸アンモニウムと尿素によりセルロースをリン酸エステル化した場合、難燃性と耐水性の両立が可能となるものの、木材へ固定(反応)する際には高温条件(140℃以上)が必要となる。木材を140℃以上で加熱すると木材に熱によるダメージを与えやすい。
【0009】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、木材などのOH基を含む被処理物に対して比較的低温で難燃性とともに耐水性を付与することができる難燃処理液を提供することにある。
また、本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、木材などのOH基を含む被処理物に対して比較的低温で難燃性とともに耐水性を付与することができる難燃処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1> ポリリン酸アルキルアミン塩、尿素、及び水を含む難燃処理液。
<2> 前記ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンの炭素数が1~6である<1>に記載の難燃処理液。
<3> 前記ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンが、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、メチルジエチルアミン、及びトリエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である<1>又は<2>に記載の難燃処理液。
<4> OH基を含む被処理物に、<1>~<3>のいずれか1つに記載の難燃処理液を含浸させる含浸工程と、
前記難燃処理液が含浸した前記被処理物を110℃以上140℃未満で加熱する加熱工程と、
を含む難燃処理方法。
<5> 前記被処理物が、セルロース構造を含む<4>に記載の難燃処理方法。
<6> 前記被処理物が、木材である<4>又は<5>に記載の難燃処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、木材などのOH基を含む被処理物に対して比較的低温で難燃性とともに耐水性を付与することができる難燃処理液が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、木材などのOH基を含む被処理物に対して比較的低温で難燃性とともに耐水性を付与することができる難燃処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示に係る難燃処理液によってセルロースがリン酸エステル化される推測メカニズムを示す図である。
図2】本開示に係る難燃処理方法により木材を難燃化処理する手順の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本開示に係る難燃処理液及び難燃処理方法について詳細に説明する。
【0014】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本明細書において、難燃処理液中の各成分の量は、難燃処理液中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、難燃処理液中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
[難燃処理液]
本開示に係る難燃処理液は、ポリリン酸アルキルアミン塩、尿素、及び水を含む。
本開示に係る難燃処理液を木材等のOH基を含む被処理物(本明細書において単に「被処理物」と称する場合がある。)に含浸させて140℃未満の比較的低温で加熱処理することで難燃性とともに耐水性を付与することができる。このように難燃性と耐水性が両立することができる理由は定かでないが、以下のように推測される。
【0017】
本開示に係る難燃処理液を用いれば、比較的低温で加熱処理してもOH基を含む被処理物がリン酸エステル化されることで難燃性と耐水性が両立して付与されると考えられる。図1は、被処理物がセルロース構造を含む場合に本開示に係る難燃処理液を用いてセルロースがリン酸エステル化される推測メカニズムを示している。
110℃~140℃未満の加熱によって尿素が分解してイソシアン酸が発生する。そして、ポリリン酸アルキルアミン塩からアルキルアンモニウムイオンが乖離したポリリン酸にイソシアン酸が付加して反応性が向上する。なお、図1において、乖離したアルキルアンモニウムイオンは省略されている。イソシアン酸が付加して反応性が向上したポリリン酸とセルロースとの反応は、経路AまたはBを介して進行すると考えられる。経路Aでは、イソシアン酸の付加により反応性が向上したポリリン酸がさらにポリリン酸と重合した後、セルロースと反応してリン酸エステル化が生じる。経路Bでは、イソシアン酸の付加により反応性が向上したポリリン酸がセルロ―スと反応してリン酸エステル化が生じる。
【0018】
なお、ポリリン酸アンモニウムを含有する難燃処理液を用いてセルロースをリン酸エステル化する場合も同様のメカニズムで進行すると推測される。しかし、ポリリン酸アンモニウムはポリリン酸アルキルアミン塩に比べてイオン結合が強いため、アンモニウムイオンが乖離しにくい。したがって、イソシアン酸との反応も進行しづらくなるため、リン酸エステル化の反応速度が低下すると推測される。
【0019】
なお、上述したメカニズムは推測であり、本開示に係る難燃処理液及び難燃処理方法は図1に示す推測メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0020】
以下、本開示に係る難燃処理液に含まれる各成分について説明する。
【0021】
<ポリリン酸アルキルアミン塩>
ポリリン酸アルキルアミン塩は、例えば、ポリリン酸アンモニウムとアルキルアミンを水溶液中で反応(塩交換)させて得ることができる。
ポリリン酸アルキルアミン塩は、水溶性のものが好適である。ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン等のモノアルキルアミン;ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン等のジアルキルアミン;トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、メチルジエチルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミンが挙げられる。
【0022】
なお、メチルジプロピルアミン、ジブチルアミン等の炭素数が多いアミンは、非水溶性のアミンであるため、水溶液中での塩交換反応が進行し難い。
水溶性の観点から、ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンは、炭素数が1~6であることが好ましく、具体的には、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びノルマルブチルアミンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
特に難燃処理液を調製するときの水溶性、及び被処理物をできるだけ低温で加熱して難燃性と耐水性を付与する観点から、ポリリン酸アルキルアミン塩におけるアルキルアミンは、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びノルマルブチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
難燃処理液に含まれるポリリン酸アルキルアミン塩は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0024】
ポリリン酸アルキルアミン塩の分子量は特に限定されないが、難燃処理液の調製、被処理物への含浸、難燃性などの観点から、200~4500が挙げられる。
【0025】
難燃処理液中のポリリン酸アルキルアミン塩の含有量は特に限定されないが、被処理物に高い難燃性を付与する観点から、難燃処理液の全質量に対して、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることがより好ましい。
【0026】
<尿素>
難燃処理液中の尿素は反応促進剤として作用する。難燃処理液中の尿素の含有量は特に限定されないが、被処理物に高い難燃性を付与する観点から、難燃処理液の全質量に対して、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることがより好ましい。
【0027】
<水>
水は、水道水、イオン交換水などを用いることができる。
水の含有量は、ポリリン酸アルキルアミン塩と尿素を溶解できれば特に限定されず、難燃処理液の全質量に対して、15質量%~75質量%であることが好ましく、25質量%~65質量%であることがより好ましい。
【0028】
<他の成分>
本開示に係る難燃処理液は、必要に応じて他の成分を含むこともできる。
他の成分としては、例えば、ホウ酸、リン酸、硫酸、スルファミン酸、ホウ酸ナトリウム、リン酸グアニル尿素、ホウ酸グアニジン、硫酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、及びリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
<難燃処理液の調製>
本開示に係る難燃処理液を調製する方法は特に限定されず、例えば、以下の手順で調製することができる。
水溶性ポリリン酸アンモニウムに水を加えて溶解させた後、イオン交換樹脂を加えて攪拌し、濾過する。
次いで、得られたろ液を攪拌しながらアルキルアミンを添加し、添加終了後さらに攪拌することでポリリン酸アルキルアミン塩の水溶液を得る。
さらに、得られたポリリン酸アルキルアミン塩水溶液に尿素を添加し、室温で攪拌する。これにより本開示に係る難燃処理液を得ることができる。
【0030】
[難燃処理方法]
次に、本開示に係る難燃化処理方法について説明する。
本開示に係る難燃処理方法は、OH基を含む被処理物に、前述した本開示に係る難燃処理液を含浸させる含浸工程と、難燃処理液が含浸した被処理物を110℃以上140℃未満で加熱する加熱工程と、を含む。
以下、本開示に係る難燃処理方法の各工程について説明する。
【0031】
<含浸工程>
OH基を含む被処理物に、本開示に係る難燃処理液を含浸させる。例えば、難燃処理液を収容した容器に被処理物を浸漬して含浸させることができる。
【0032】
被処理物はOH基を含み、難燃処理液が含浸するものであれば限定されない。例えば、木材、綿や麻などの植物繊維を原料とした布、紙、不織布などのセルロース構造を含む植物繊維由来の材料が挙げられ、特に木材が好適である。
被処理物の大きさや形状は特に限定されず、所望の大きさ、形状を有するものを用いることができる。
【0033】
浸漬時間は特に限定されず、被処理物の材質などにもよるが、木材の場合、難燃処理液を十分含浸させる観点から10分以上浸漬させることが好ましい。
【0034】
<加熱工程>
含浸工程後、難燃処理液が含浸した被処理物を110℃以上140℃未満で加熱する。
難燃処理液が含浸した被処理物を110℃以上140℃未満で加熱することで尿素が分解して生じたイソシアン酸がポリリン酸に付加して反応性が向上し、比較的低温でセルロースのポリリン酸エステル化を行うことができるとともに、熱による被処理物へのダメージを抑制することができる。尿素の分解、熱による被処理物へのダメージを抑制する観点から、加熱温度は、115℃以上130℃以下が好ましい。
加熱時間は、加熱温度、被処理物の材質、ポリリン酸アルキルアミン塩の含有量、尿素の含有量などにもよるが、リン酸エステル化及び生産性の観点から、2時間以上15時間以下が好ましく、4時間以上10時間以下がより好ましい。
ポリリン酸アルキルアミン塩として、例えばポリリン酸のトリエチルアミン塩を含む難燃処理液を用いて木材の難燃化処理を行う場合、120~130℃、3~10時間での反応(リン酸エステル化)が可能である。
【0035】
ここで、本開示に係る難燃化処理方法によって木材を難燃化処理する場合の好適な手順の一例について説明する。図2は、本開示に係る難燃処理方法により木材を難燃化処理する手順の一例を示す概略図である。
【0036】
(A)荒加工
まず、被処理物である木材を薬液プールに入るサイズに粗く加工する。なお、被処理物が木材の場合、本開示に係る難燃処理によって難燃性が付与された外面を削って所望の形状に加工すると難燃性が低下してしまうため、予め所望の形状又はそれに近い形状に加工しておくことが好ましい。
【0037】
(B)乾燥処理
荒加工後、乾燥処理を行う。例えば、荒加工した木材をデシケーター又は乾燥機に入れて20~100℃で1~20時間放置し、水分を除去する。乾燥処理によって水分を除去しておくことで、木材に難燃処理液が含浸しやすくなる。
【0038】
(C)薬液含浸
乾燥処理後、難燃処理液(薬液)を収容した薬液プールに木材を漬け込んで薬液を含浸させる。木材を薬液に浸漬させた状態で、例えば1~30時間放置する。容器内を減圧して含浸を促進させてもよい。また、薬液を加温して含浸を促進させてもよい。
【0039】
(D)乾燥処理
木材に薬液を含浸させた後、薬液プールから木材を取り出し、デシケーター又は乾燥機に入れて20~100℃で1~40時間放置し、薬液の水分を除去する。
【0040】
(E)加熱処理
乾燥処理後、木材を乾燥機に入れて110℃以上140℃未満で加熱して薬剤を反応させる。加熱条件(加熱温度、加熱時間)は薬液ごとに設定すればよい。
【0041】
(F)加工
加熱処理後、必要に応じ、所望のサイズ、形状に加工する。
【0042】
以上の工程を経て、難燃性及び耐水性が両立した木材を得ることができる。本開示に係る難燃化処理された木材は、難燃性を有するだけでなく、耐水性が高い、すなわち、雨風に曝されることによる薬剤の抜け出しが抑制されるため、外装用など屋外で使用される木材として好適に用いることができる。
【実施例0043】
以下、本開示に係る難燃処理液及び難燃処理方法の実施例について説明するが、本開示はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<難燃処理液の作製>
下記(1)~(8)の難燃剤を用い、固形分30質量%になるように難燃処理液を作製した。
【0045】
(1)リン酸グアニジン型難燃剤
AP-307[三和ケミカル製リン酸グアニジン水溶液NV50]500gに水333gを加え、25℃で1時間攪拌し、難燃処理液を作製した。
【0046】
(2)樹脂併用型難燃剤
リン酸グアニジン216gに92%パラホルム98g、水271gを加え、60℃で1時間の加熱攪拌を行うことでメチロール化リン酸グアニジンの50%水溶液を得た。三和ケミカル社製DMDHEU(ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素)の50%水溶液300g、メチロール化リン酸グアニジンの50%水溶液300g、水400gを加え混合し、難燃処理液を作製した。なお、三和ケミカル社製DMDHEU(ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素)を樹脂成分、メチロール化リン酸グアニジンを難燃剤成分としてそれぞれ固形分で1:1(重量比)となるように難燃処理液を作製した。
【0047】
(3)リン酸アンモニウム型難燃剤
尿素120g、リン酸アンモニウム115gに水548gを加え、25℃で1時間攪拌し、難燃処理液を作製した。
【0048】
(4)ポリリン酸アンモニウム型難燃剤
尿素120g、ポリリン酸アンモニウム[雨田社製水溶性ポリリン酸アンモニウムNNA20]98gに水509gを加え、25℃で1時間攪拌し、難燃処理液を作製した。
【0049】
(5)ポリリン酸トリエチルアミン型難燃剤
ポリリン酸アンモニウム98gに脱イオン水702gを加え、溶解させた後、イオン交換樹脂(三菱ケミカル製SK1BH)200ccを加え10分攪拌後、濾過を行った。次いで、得られたろ液を攪拌しながらトリエチルアミン101gを添加し、添加終了後さらに5分攪拌することでポリリン酸トリエチルアミン塩の水溶液を得た。得られた水溶液に尿素120gを添加し25℃で1時間の攪拌処理を経て、難燃処理液を作製した。
【0050】
(6)ポリリン酸トリメチルアミン型難燃剤
ポリリン酸アンモニウム98gに脱イオン水469gを加え、溶解させた後、イオン交換樹脂(三菱ケミカル製SK1BH)200ccを加え10分攪拌後、濾過を行った。次いで、ろ液を攪拌しながら30%トリメチルアミン水溶液197gを添加し、添加終了後さらに5分攪拌することでポリリン酸トリメチルアミン塩の水溶液を得た。得られた水溶液に尿素120gを添加し25℃で1時間の攪拌処理を経て、難燃処理液を作製した。
【0051】
(7)ポリリン酸ジエチルアミン型難燃剤
ポリリン酸アンモニウム98gに脱イオン水639gを加え、溶解させた後、イオン交換樹脂(三菱ケミカル製SK1BH)200ccを加え10分攪拌後、濾過を行った。次いで、ろ液を攪拌しながらジエチルアミン73gを添加し、添加終了後さらに5分攪拌することでポリリン酸ジエチルアミン塩の水溶液を得た。得られた水溶液に尿素120gを添加し25℃で1時間の攪拌処理を経て、難燃処理液を作製した。
【0052】
(8)ポリリン酸ノルマルブチルアミン型難燃剤
ポリリン酸アンモニウム98gに脱イオン水639gを加え、溶解させた後、イオン交換樹脂(三菱ケミカル製SK1BH)200ccを加え10分攪拌後、濾過を行った。次いで、ろ液を攪拌しながらノルマルブチルアミン73gを添加し、添加終了後さらに5分間攪拌することでポリリン酸ノルマルブチルアミン塩の水溶液を得た。得られた水溶液に尿素120gを添加し25℃で1時間の攪拌処理を経て、難燃処理液を作製した。
【0053】
<木材サンプルの作製>
(木質材料の準備)
120mm×30mm×5mmの杉木材を準備し、乾燥剤入りのデシケーター内において25℃で6時間保管した。
保管後の木質材料の重量A0を、電子天秤(製品名「AP224X」、島津製作所社製)を用いて測定した。
【0054】
(難燃化処理)
乾燥後の木材を容器に入れ、真空ポンプ(製品名「TST-300」、佐藤真空社製)を用いて減圧した。容器に、弁付きのチューブを入れ、減圧状態で弁を開き、調製した難燃処理液(以下、薬液(1)~(8)と記す場合がある。)を投入した。木材が完全に難燃処理液に浸ったことを確認した後、減圧を解除し、25℃で20時間放置した。難燃処理液が含浸された木材を乾燥機(製品名「WFO-420」、東京理化器械社製)中、60℃で20時間乾燥させた。
薬液(1)を用いた場合は、その後乾燥剤入りのデシケーターにおいて25℃で6時間保管した。薬液(2)~(8)を用いた場合は、120℃で9時間の加熱を行い、乾燥剤入りのデシケーターにおいて25℃で6時間保管した。
保管後の木材の重量A1を、電子天秤(製品名「AP224X」、島津製作所社製)を用いて測定した。重量A1から重量A0を差し引いた重量を、薬剤付着量として算出した。
薬剤付着量=重量A1-重量A0
【0055】
<評価方法>
上記のようにして各難燃剤を含浸させた木材サンプルについて下記方法により耐水性及び難燃性の評価を行った。
【0056】
(耐水性)
各薬剤が含浸された木材サンプルを40℃の水500mLに浸漬させ、8時間放置した。8時間経過後、木材サンプルを取り出した。取り出した木材サンプルを、乾燥機(製品名「WFO-420」、東京理化器械社製)中、60℃で20時間乾燥させた後、乾燥剤入りのデシケーター内において25℃で6時間保管した。保管後の木材サンプルの重量B1を、電子天秤(製品名「AP224X」、島津製作所社製)を用いて測定した。
重量B1から重量A0を差し引いた重量を、薬剤残存量として算出した。
薬剤残存量=重量B1-重量A0
以下の式に基づいて、薬剤残存率を算出し、薬剤残存率が40%以上である場合を耐水性に優れると評価した。
薬剤残存率(%)=(薬剤残存量/薬剤付着量)×100
【0057】
(難燃性)
耐水性評価後の木材サンプルについて、キャンドル燃焼試験機(型式「AC-2」、東洋精機社製)を用いて、酸素指数を測定した。なお、本明細書中において酸素指数とは、着火後の燃焼長さが8cm以上となるか、又は、燃焼時間が3分以上となるのに必要な酸素濃度を意味する。
測定した酸素指数に基づいて、難燃性の評価を行った。耐水性評価後の酸素指数が40以上である場合に難燃性に優れると判断した。
結果は表1に記載した。
【0058】
【表1】

【0059】
<評価結果>
ポリリン酸のアルキルアミン塩を含む難燃処理液(5)~(8)を用いることで、(1)~(4)の難燃処理液と比べて優れた耐水性および難燃性が両立されていることが分かる。
(5)~(8)の難燃処理液の作製に用いたアミン以外のアミンであっても、水溶性のアミンであれば同様の効果が期待できる。
図1
図2