(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129085
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】電磁クラッチ機構、減速機、およびモータ
(51)【国際特許分類】
F16D 27/118 20060101AFI20230907BHJP
F16H 21/10 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16D27/118
F16H21/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033863
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】寺島 和希
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA02
3J062AB27
3J062BA13
3J062CB02
3J062CB15
3J062CB32
3J062CB42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】噛み合い切り替え時の方向を同一とすることができ、それによって組立時の調整作業や点検をアーマチュアの一方面側においてのみ行うことができ、また組み込まれる装置全体の全長の短縮化にも有利な、電磁クラッチ機構を提供すること。
【解決手段】電磁クラッチ機構10は、電磁力により連結先の切り替えを行うための2パターンの直線運動を行う可動体3、電磁力を発生する電磁石4、可動体3と電磁石4とをつなぐ弾性手段5からなり、可動体3は弾性手段5と連結される第一部材1、前記直線運動方向上に第一部材1とは逆方向に運動可能なよう係合する第二部材2からなり、第一部材1と第二部材2を逆方向に直線運動させるための方向変換構造6が備えられ、各部材1、2にはそれぞれの連結先30A、30Bに連結するための連結部1A、2Bが設けられている構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁力により連結先の切り替えを行うための2パターンの直線運動を行う可動体と、
該電磁力を発生する電磁石と、
該可動体と電磁石とをつなぐ弾性手段とからなり、
直線運動のパターンによって該可動体の連結先の切り替えがなされる電磁クラッチ機構であって、
該可動体は、該弾性手段と連結される第一部材と、
前記直線運動方向上に該第一部材とは逆方向に運動可能なよう係合する第二部材とからなり、
該第一部材と第二部材を逆方向に直線運動させるための方向変換構造が備えられ、
各部材にはそれぞれの連結先に連結するための連結部が設けられていることを特徴とする、電磁クラッチ機構。
【請求項2】
前記方向変換構造は、支持体と、中央部を該支持体に揺動可能に支持された揺動体とからなるシーソー構造であり、該揺動体の一方端部は前記第一部材に、他方端部は前記第二部材にそれぞれ連結していることを特徴とする、請求項1に記載の電磁クラッチ機構。
【請求項3】
前記第一部材はアーマチュアであることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の電磁クラッチ機構。
【請求項4】
前記可動体はアーマチュアであることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の電磁クラッチ機構。
【請求項5】
請求項1、2、3、4のいずれかに記載の電磁クラッチ機構を備えた減速機であって、前記可動体の連結先がいずれも該可動体の同じ面側に位置することを特徴とする、減速機。
【請求項6】
請求項5に記載の減速機を備えていることを特徴とする、モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁クラッチ機構、減速機、およびモータに係り、特に、噛み合い歯を有し、任意で回転を切り替える電磁クラッチ機構の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5、6は、従来の電磁クラッチ機構の構造および動作を示す断面図であり、前者は無通電状態、後者は通電状態を示す。これらに示すように従来の電磁クラッチ機構410では、可動部品であるアーマチュア43により、歯の噛合方向を変化させ、回転を切り替えることを実現している。
図5に示すように電磁石44に通電されていない状態では、アーマチュア43がコイルばね45の力によって、連結先である噛み合い歯50Aに押し付けられる。この状態では噛み合い歯50Aは回転が止められており、別の連結先である噛み合い歯50Bが自由に回転する。
【0003】
一方、
図6に示すように電磁石44に通電されている場合は、磁性体であるアーマチュア43が電磁石44に引き寄せられ、噛み合い歯50Bに押し付けられる。この状態では、噛み合い歯50Bは回転が止められており、噛み合い歯50Aが自由に回転する。このように、電磁石44によって噛み合う部品を変化させ、回転する部品を切り替える構造が従来技術であり、アーマチュア43の連結先である噛み合い歯50A、50Bは、アーマチュア43を挟んで反対側に位置する構造である。
【0004】
電磁クラッチについては従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、コンパクトな構造で操作が便利な電気自動車用電気駆動システム用の噛み合い電磁クラッチとして、固定ギアスリーブの外側に固定アーマチュアが外装され、かつそれらは隙間を介して位置関係が固定されており、可動ギアスリーブの外側にソレノイドコイルを内蔵した可動アーマチュアが回転可能に外装され、可動アーマチュアが可動ギアスリーブとともに軸方向に沿って移動可能で、ソレノイドコイルが通電されると可動アーマチュアが固定アーマチュアに吸引されて可動ギアスリーブと固定ギアスリーブとが噛み合うという構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2021-516320号公報「噛み合い電磁クラッチ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5、6で示した通り、通電の有無によって可動体アーマチュア43の運動方向を変え、それによって連結先の噛み合い歯50A、50Bの切り替え、つまり回転切り替えを行う従来の電磁クラッチ機構410では、連結先はアーマチュア43を挟んでその表方向と裏方向に分かれてしまわざるを得ない。装置の構造によっては、裏側の噛み合いを目視で確認することができず、組立時の調整作業や点検時において都合が悪い。また、アーマチュア43の噛合方向が表裏の二方向に分かれているため、全長の短縮化を図ることは困難である。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、噛み合い切り替え時の方向を同一とすることができ、それによって組立時の調整作業や点検をアーマチュアの一方面側においてのみ行うことができ、また組み込まれる装置全体の全長の短縮化にも有利な、電磁クラッチ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した結果、アーマチュアを単一部品から二部品による構成とし、かつアーマチュアには、シーソーのように二部品の運動(進退)を反対方向に変換する手段を取り付けて、二部品が互い違いに動作する構造とすることによって解決できることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 電磁力により連結先の切り替えを行うための2パターンの直線運動を行う可動体と、該電磁力を発生する電磁石と、該可動体と電磁石とをつなぐ弾性手段とからなり、直線運動のパターンによって該可動体の連結先の切り替えがなされる電磁クラッチ機構であって、該可動体は、該弾性手段と連結される第一部材と、前記直線運動方向上に該第一部材とは逆方向に運動可能なよう係合する第二部材とからなり、該第一部材と第二部材を逆方向に直線運動させるための方向変換構造が備えられ、各部材にはそれぞれの連結先に連結するための連結部が設けられていることを特徴とする、電磁クラッチ機構。
〔2〕 前記方向変換構造は、支持体と、中央部を該支持体に揺動可能に支持された揺動体とからなるシーソー構造であり、該揺動体の一方端部は前記第一部材に、他方端部は前記第二部材にそれぞれ連結していることを特徴とする、〔1〕に記載の電磁クラッチ機構。
〔3〕 前記第一部材はアーマチュアであることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の電磁クラッチ機構。
【0010】
〔4〕 前記可動体はアーマチュアであることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の電磁クラッチ機構。
〔5〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の電磁クラッチ機構を備えた減速機であって、前記可動体の連結先がいずれも該可動体の同じ面側に位置することを特徴とする、減速機。
〔6〕 〔5〕に記載の減速機を備えていることを特徴とする、モータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁クラッチ機構、減速機、およびモータは上述のように構成されるため、これらによれば、噛み合い切り替え時の方向を同一とすることができ、それによって組立時の調整作業や点検をアーマチュアの一方面側においてのみ行うことができる。また、組み込まれる装置全体の全長の短縮化にも有利となる。すなわち、アーマチュアの噛み合い方向を同一にすることにより、組立時の調整作業や点検時に該当箇所を目視で確認することが可能になり、作業性が向上する。
【0012】
これまで、メンテナンス時にアーマチュアと噛み合い歯の距離関係は組み上がり状態で確認することが困難であり、分解する必要があった。しかし、本発明により、分解せずに目視にて確認可能となり、作業時間の短縮に寄与する。また、部品配置が改善され、噛み合い歯が配置されていた部分にスペースを確保することができ、その結果、装置組立時の全長短縮にも役立たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明電磁クラッチ機構の構成および動作を示す断面図である(無通電状態)。
【
図2】発明電磁クラッチ機構の構成および動作を示す断面図である(通電状態)。
【
図4】発明電磁クラッチ機構に係る方向変換構造の例を示す説明図である。
【
図5】従来の電磁クラッチ機構の構造および動作を示す断面図である(無通電状態)。
【
図6】従来の電磁クラッチ機構の構造および動作を示す断面図である(通電状態)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1、2は、本発明電磁クラッチ機構の構成および動作を示す断面図であり、前者は通電状態、後者は無通電状態である。また、
図3は
図1、2の要部拡大断面図であり、図中(a)は
図1、(b)は
図2に対応する。これらに図示するように本電磁クラッチ機構10は、電磁力により連結先の切り替えを行うための2パターンの直線運動を行う可動体3と、電磁力を発生する電磁石4と、可動体3と電磁石4とをつなぐコイルバネ等の弾性手段5とからなり、可動体3は、弾性手段5と連結される第一部材1と、前記直線運動方向上に第一部材1とは逆方向に運動可能なよう係合する第二部材2とからなり、第一部材1と第二部材2を逆方向に直線運動させるための方向変換構造6が備えられ、各部材1、2にはそれぞれの連結先30A、30Bに連結するための連結部1A、2Bが設けられていることを、基本的な構成とする。
【0015】
弾性手段5によって電磁石4に連結され、異なる連結先30A、30Bに対する2パターンの直線運動を行う可動体3が連結先切り替えの作用を行う要素であるが、すなわちこれはアーマチュアである。より詳しくは、可動体3を構成する二つの部材のうち、少なくとも弾性手段5と連結される第一部材1はアーマチュアとしての機能を備えていることを要する。さらに第二部材2を含めた可動体3全体でもってアーマチュアであるという構成も、本発明の範囲内である。後者の場合は、従来技術とは異なりアーマチュアを2部品に分けた構造となる。なお、連結先30A等、およびそれに対応して連結状態を形成するための各部材1等における連結部1A等は、噛み合い歯とすることができる。
【0016】
かかる構成による本電磁クラッチ機構10の作用を説明する。
図1に示す無通電状態では、弾性手段5を介して電磁石4と連結される第一部材1は、電磁石4による吸引作用を受けないため、弾性手段5の伸長によって電磁石4の反対側へ、すなわち連結先30Aの方向へと押し付けられ、第一部材1の連結部1Aは連結先30Aと連結する。一方、第二部材2は、方向変換構造6によって第一部材1とは逆方向に直線運動させられるため、連結先30Bからは離れる方向へと移動し、したがって第二部材2の連結部2Bは連結先30Bとは連結しない状態となる。
【0017】
図2に示す通電状態では、弾性手段5を介して電磁石4と連結される第一部材1は、電磁石4による吸引作用を受けるため、弾性手段5を圧縮させて電磁石4側へ、すなわち連結先30Aから離れる方向へと移動し、第一部材1の連結部1Aは連結先30Aとは連結しない状態となる。一方、第二部材2は、方向変換構造6によって第一部材1とは逆方向に直線運動させられるため、連結先30B方向へと移動し、したがって第二部材2の連結部2Bは連結先30Bと連結する。
【0018】
このようにして、直線運動方向上に第一部材1と第二部材2とは相互に逆方向に運動するため、本電磁クラッチ機構10では直線運動のパターンによって可動体3の連結先30A、30Bの切り替えがなされる。そして連結先30A、30Bは、可動体3を挟んだ反対側への配置ではなく、ともに可動体3の同一面側に配置することができる。なお、第一部材1と直線運動方向上に係合する第一部材1と第二部材2の係合は、たとえば両者が相互に摺動する構造によるものとすることができる。
【0019】
連結先30A、30Bがいずれも噛み合い歯を持ち、回転する構造、すなわち歯車であるとして、上述の作用を説明する。電磁石4に通電されていない状態では、第一部材1が弾力手段5の力により連結先30Aに押し付けられる。この状態では連結先30Aは自由な回転が止められている。すなわち連結先30Aが出力側として切り替えられている状態である。ここで、第一部材1と第二部材2は方向変換構造6により接続されていることにより、第二部材2は第一部材1と反対方向に動くため、連結先30Bは自由に回転する。つまり出力側として選択されていない状態である。
【0020】
一方、電磁石4に通電されている状態では噛み合いが反転し、連結先30Bは自由な回転が止められている。すなわち連結先30Bが出力側として切り替えられている状態である。また、方向転換構造6により常に反対方向へと移動する連結先30Aは、この状態では自由に回転する。つまり出力側として選択されていない状態である。
【0021】
このように本発明電磁クラッチ機構10では、可動体3が二部構成であることと方向変換構造6によって、各噛み合い方向を統一することが可能となる。なお、第一部材1の内径部と第二部材2の外径部とはスプライン9等によって回転止めが成されているものとする。また第一部材1の外径部についても、スプライン等によってハウジングとなる部品に対しての回転止め構造を形成することとする。
【0022】
図3は、発明電磁クラッチ機構に係る方向変換構造の例を示す説明図である。図示するように方向変換構造6は、支持体7と、中央部を支持体7に揺動可能に支持された揺動体8とからなるシーソー構造とすることができる。そして揺動体8の一方端部8Aは前記第一部材1に、他方端部8Bは前記第二部材2にそれぞれ連結する。方向転換構造6の具体的構造はこれに限定されない。しかしながらシーソー構造は、構造・作用のいずれも簡素な、好適な例である。
【0023】
かかる構成の方向変換構造6により、
図1に示した通り、揺動体8の第一部材1に連結している一方の端部8Aが第一部材1を連結先30Aとの連結方向に移動する時には、第二部材2に連結している他方の端部8Bはそれと逆方向、すなわち第二部材2が連結先30Bから離れる方向に移動する。一方、揺動体8の端部8Bが第二部材2を連結先30Bとの連結方向に移動する時には、第一部材1に連結している端部8Aはそれと逆方向、すなわち第一部材1が連結先30Aから離れる方向に移動する。このようにして、二部構成となっている可動体3の各部材1、2は、シーソー構造の作用により常に相互に反対方向へと移動し、可動体3の同一の面側にある連結先30A、30Bに対する選択的な連結がなされる。
【0024】
以上説明したいずれかの構成を有する電磁クラッチ機構10を備えた減速機であって、可動体3の連結先30A、30Bがいずれも可動体3の同じ面側に位置することとなる減速機も本発明の範囲内であり、さらにかかる減速機を備えたモータもまた、本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の電磁クラッチ機構、減速機、およびモータによれば、噛み合い切り替え時の方向を同一とすることができ、それによって組立時の調整作業や点検をアーマチュアの一方面側においてのみ行うことができ、作業性が向上する。したがって、電磁クラッチならびにモータ製造分野、使用および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0026】
1…第一部材
1A…連結部
2…第二部材
2B…連結部
3…可動体
4…電磁石
5…弾性手段
6…方向変換構造
7…支持体
8…揺動体
8A、8B…揺動体の端部
9…スプライン
10…電磁クラッチ機構
30A、30B…連結先
(以下の各符号は従来技術に係る)
43…アーマチュア
44…電磁石
45…コイルばね
49…スプライン
410…従来の電磁クラッチ機構
50A、50B…連結先の噛み合い歯