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特開2023-129092有機発光素子、遅延蛍光材料の評価方法、遅延蛍光材料の設計方法、有機発光素子の設計方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129092
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】有機発光素子、遅延蛍光材料の評価方法、遅延蛍光材料の設計方法、有機発光素子の設計方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/10 20230101AFI20230907BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230907BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/10
C09K11/06 645
C09K11/06 655
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033872
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】垣添 勇人
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 飛鳥
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC21
3K107CC45
3K107DD59
3K107DD66
3K107FF19
3K107FF20
3K107GG56
(57)【要約】
【課題】遅延蛍光材料を発光層に含む、耐久性に優れた有機発光素子の提供。
【解決手段】有機発光素子の発光層にΔPBHTが0.01以上の遅延蛍光材料を用いる。PBHT(T1)は遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHTを表し、PBHT(Tn)は遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHTを表す。
ΔPBHT = PBHT(Tn)- PBHT(T1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で規定されるΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を含む発光層を有する、有機発光素子。
式(I) ΔPBHT = PBHT(Tn)- PBHT(T1)
[式(I)において、PBHT(T1)は前記遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHT値を表し、PBHT(Tn)は前記遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHT値を表す。]
【請求項2】
前記遅延蛍光材料が下記一般式(1)~(6)のいずれかで表される化合物である、請求項1に記載の有機発光素子。
【化1】
[一般式(1)~(6)において、D~D10は各々独立に下記一般式(7)で表される基を表す。ただし、DとD、DとD、DとD、DとD10は互いに化学構造が異なり、2つのD、3つのD、2つのD、2つのD、3つのD、2つのD、2つのD、2つのDは互いに化学構造が同じである。]
【化2】
[一般式(7)において、L11は単結合もしくは2価の連結基を表す。R41~R48は各々独立に水素原子または置換基を表す。R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とR46、R46とR47、R47とR48は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
【請求項3】
前記一般式(1)~(6)のそれぞれにおいて、前記一般式(7)で表される基の少なくとも1つは、下記一般式(8)~(13)のいずれかで表される基である、請求項2に記載の有機発光素子。
【化3】
[一般式(8)~(13)において、L21~L26は単結合もしくは2価の連結基を表す。R51~R110は各々独立に水素原子または置換基を表す。R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R58とR59、R59とR60、R61とR62、R62とR63、R63とR64、R65とR66、R66とR67、R67とR68、R68とR69、R69とR70、R72とR73、R73とR74、R74とR75、R75とR76、R76とR77、R77とR78、R78とR79、R79とR80、R81とR82、R82とR83、R83とR84、R84とR85、R86とR87、R87とR88、R88とR89、R89とR90、R91とR92、R93とR94、R94とR95、R95とR96、R96とR97、R97とR98、R99とR100、R101とR102、R102とR103、R103とR104、R104とR105、R105とR106、R107とR108、R108とR109、R109とR110は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
【請求項4】
前記PBHT(Tn)が第3励起三重項状態のPBHT(T3)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記遅延蛍光材料が、前記一般式(2)で表される化合物である、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記一般式(2)のDが前記一般式(13)で表される基である、請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記PBHT(Tn)が第2励起三重項状態のPBHT(T2)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記遅延蛍光材料が、前記一般式(4)または(5)で表される化合物である、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記一般式(4)のD、前記一般式(5)のDが前記一般式(13)で表される基である、請求項8に記載の有機発光素子。
【請求項10】
下記式(I)で規定されるΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料の発光特性を評価することを含む、遅延蛍光材料の評価方法。
式(I) ΔPBHT = PBHT(Tn)- PBHT(T1)
[式(I)において、PBHT(T1)は前記遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHT値を表し、PBHT(Tn)は前記遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHT値を表す。]
【請求項11】
ΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料の遅延蛍光速度を予測する工程を含む、請求項10に記載の評価方法。
【請求項12】
ΔPBHTが異なる複数種の参照遅延蛍光材料のΔPBHTと遅延蛍光速度に基づいて、ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係を求める工程と、
評価対象の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算し、前記ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係から、前記評価対象のΔPBHTに対応する遅延蛍光速度の値を求め、この値を前記評価対象の遅延蛍光速度であると予測する工程と、
予測した遅延蛍光速度に基づいて、評価対象の発光特性を評価する工程を含む、請求項10または11に記載の評価方法。
【請求項13】
前記参照遅延蛍光材料の遅延蛍光速度が実測値である、請求項12に記載の評価方法。
【請求項14】
遅延蛍光材料の構造と下記式(I)で規定されるΔPBHTの関係に基づいて、遅延蛍光材料の分子設計を行うことを含む、遅延蛍光材料の設計方法。
式(I) ΔPBHT = PBHT(Tn)- PBHT(T1)
[式(I)において、PBHT(T1)は前記遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHT値を表し、PBHT(Tn)は前記遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHT値を表す。]
【請求項15】
特定の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算する第1工程と、
前記特定の遅延蛍光材料の構造の一部を変更した改変化合物を設計し、その改変化合物のΔPBHTを計算する第2工程と、
前記改変化合物の構造の一部を変更した再改変化合物を設計し、その再改変化合物のΔPBHTを計算する第3工程と、
前記特定の遅延蛍光材料、前記改変化合物、および前記再改変化合物の構造と算出したΔPBHTに基づいて、化合物の構造とΔPBHTの関係を求める第4工程と、
前記化合物の構造とΔPBHTの関係から、目標範囲のΔPBHTに対応する化合物の構造を抽出し、抽出された構造を有する化合物の群の中から合成対象の遅延蛍光材料を選択する第5工程を含む、請求項14に記載の設計方法。
【請求項16】
前記特定の遅延蛍光材料および前記改変化合物の構造の一部の変更が、数値化できる変更である、請求項15に記載の設計方法。
【請求項17】
さらに、前記特定の遅延蛍光材料、前記改変化合物、および前記再改変化合物について、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTを求める工程を有し、前記第5工程において、前記工程で求めたΔESTに基づいて、前記化合物の群の中から合成対象の遅延蛍光材料を選択する、請求項15または16に記載の設計方法。
【請求項18】
前記第3工程で設計した再改変化合物を改変化合物と見做して、前記第3工程を繰り返し行う、請求項15~17のいずれか1項に記載の設計方法。
【請求項19】
下記式(I)で規定されるΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料を選択し、選択した遅延蛍光材料を用いて有機発光素子を設計することを含む、有機発光素子の設計方法。
式(I) ΔPBHT = PBHT(Tn)- PBHT(T1)
[式(I)において、PBHT(T1)は前記遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHT値を表し、PBHT(Tn)は前記遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHT値を表す。]
【請求項20】
複数種の遅延蛍光材料のΔPBHTをデータとして格納した遅延蛍光材料のデータベースから、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を検索する工程と、
前記工程の検索でヒットした遅延蛍光材料の群の中から、有機発光素子に用いる遅延蛍光材料を選択する工程と、
前記工程で選択した遅延蛍光材料を用いて有機発光素子を設計する工程を含む、請求項19に記載の設計方法。
【請求項21】
前記遅延蛍光材料のデータベースが、さらに、前記複数の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTをデータとして格納しており、前記遅延蛍光材料を検索する工程において、前記遅延蛍光材料のデータベースから、ΔPBHTが0.01以上であって、ΔESTが0.3eV以下である遅延蛍光材料を検索する、請求項20に記載の設計方法。
【請求項22】
請求項10~21のいずれか1項に記載の方法を実施するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性が高い有機発光素子およびその設計方法、並びに、その有機発光素子の材料として有用な遅延蛍光材料の評価方法およびその設計方法、これらの方法を実施するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機発光素子を構成する発光層の材料を新たに開発することにより、素子の発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、遅延蛍光材料を発光層の材料に利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。
【0003】
遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光を放射する化合物である。こうした経路による蛍光は、基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。ここで、例えばキャリアの注入により有機分子を励起した場合、励起一重項状態と励起三重項状態の発生確率は統計的に25%:75%である。そのため、基底状態から直接生じた励起一重項状態のエネルギーのみを発光に利用する通常の蛍光材料では、発光効率の向上に限界がある。一方、遅延蛍光材料では、励起一重項状態のみならず、励起三重項状態も上記の逆項間交差を介した経路により蛍光発光に利用することができるため、通常の遅延蛍光材料に比べて高い発光効率が得られることになる。
【0004】
ところで、上記のような三重項から一重項への逆項間交差は、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTが小さいもの程、起こり易いとされている。一方、ΔESTは、HOMOとLUMOの軌道の重なりが小さいもの程、小さい値を示す傾向がある。したがって、HOMOとLUMOの軌道の重なりが小さい化合物は、ΔESTが小さくて逆項間交差が起こり易いことになる。こうしたことから、従来の遅延蛍光材料の研究開発では、例えばΔESTを0.2未満とすることや、HOMOとLUMOの軌道の重なり程度を示す指標値(PBHT値、非特許文献1参照)をより近くすることを目指して分子設計が行われている。なお、PBHT値は0以上1以下の値をとり、PBHT値が0に近い程、軌道の重なり程度が小さいことを示す計算値である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Chem. Phys. 128, 044118 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、これまでは、ΔESTやPBHT値を逆項間交差の起こり易さの指標として、遅延蛍光材料の分子設計が行われている。しかしながら、本発明者らが、ΔESTやPBHT値と、遅延蛍光速度の関係を調べたところ、確かに、ΔESTが小さいものや、PBHT値が0に近いものには、遅延蛍光速度が速い傾向があるものの、その中には、十分な遅延蛍光速度を示さないものも存在しており、そうした遅延蛍光材料を発光層に用いると、長寿命の三重項励起子に起因して素子耐久性が低くなることが判明した。
【0007】
そこで、本発明者らは、遅延蛍光材料を発光層に含む有機発光素子であって、耐久性に優れた有機発光素子を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、遅延蛍光材料の中でも、最低励起三重項状態T1のPBHT値よりも高次励起三重項状態TnのPBHT値の方が大きい化合物群において、遅延蛍光速度が速い傾向があることを見いだした。そして、こうした遅延蛍光材料を発光層に用いることにより、耐久性に優れた有機発光素子が実現できるとの知見を得た。
本発明はこうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 下記式(I)で規定されるΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を含む発光層を有する、有機発光素子。
式(I) ΔPBHT = PBHT(Tn)- PBHT(T1)
[式(I)において、PBHT(T1)は前記遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHT値を表し、PBHT(Tn)は前記遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHT値を表す。]
[2] 前記遅延蛍光材料が下記一般式(1)~(6)のいずれかで表される化合物である、[1]に記載の有機発光素子。
【化1】
[一般式(1)~(6)において、D~D10は各々独立に下記一般式(7)で表される基を表す。ただし、DとD、DとD、DとD、DとD10は互いに化学構造が異なり、2つのD、3つのD、2つのD、2つのD、3つのD、2つのD、2つのD、2つのDは互いに化学構造が同じである。]
【化2】
[一般式(7)において、L11は単結合もしくは2価の連結基を表す。R41~R48は各々独立に水素原子または置換基を表す。R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とR46、R46とR47、R47とR48は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
[3] 前記一般式(1)~(6)のそれぞれにおいて、前記一般式(7)で表される基の少なくとも1つは、下記一般式(8)~(13)のいずれかで表される基である、[2]に記載の有機発光素子。
【化3】
[一般式(8)~(13)において、L21~L26は単結合もしくは2価の連結基を表す。R51~R110は各々独立に水素原子または置換基を表す。R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R58とR59、R59とR60、R61とR62、R62とR63、R63とR64、R65とR66、R66とR67、R67とR68、R68とR69、R69とR70、R72とR73、R73とR74、R74とR75、R75とR76、R76とR77、R77とR78、R78とR79、R79とR80、R81とR82、R82とR83、R83とR84、R84とR85、R86とR87、R87とR88、R88とR89、R89とR90、R91とR92、R93とR94、R94とR95、R95とR96、R96とR97、R97とR98、R99とR100、R101とR102、R102とR103、R103とR104、R104とR105、R105とR106、R107とR108、R108とR109、R109とR110は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
[4] 前記PBHT(Tn)が第3励起三重項状態のPBHT(T3)である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の有機発光素子。
[5] 前記遅延蛍光材料が、前記一般式(2)で表される化合物である、[4]に記載の有機発光素子。
[6] 前記一般式(2)のDが前記一般式(13)で表される基である、[5]に記載の有機発光素子。
[7] 前記PBHT(Tn)が第2励起三重項状態のPBHT(T2)である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の有機発光素子。
[8] 前記遅延蛍光材料が、前記一般式(4)または(5)で表される化合物である、[7]に記載の有機発光素子。
[9] 前記一般式(4)のD、前記一般式(5)のDが前記一般式(13)で表される基である、[8]に記載の有機発光素子。
[10] 前記式(I)で規定されるΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料の発光特性を評価することを含む、遅延蛍光材料の評価方法。
[11] ΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料の遅延蛍光速度を予測する工程を含む、[10]に記載の評価方法。
[12] ΔPBHTが異なる複数種の参照遅延蛍光材料のΔPBHTと遅延蛍光速度に基づいて、ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係を求める工程と、
評価対象の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算し、前記ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係から、前記評価対象のΔPBHTに対応する遅延蛍光速度の値を求め、この値を前記評価対象の遅延蛍光速度であると予測する工程と、
予測した遅延蛍光速度に基づいて、評価対象の発光特性を評価する工程を含む、[10]または[11]に記載の評価方法。
[13] 前記参照遅延蛍光材料の遅延蛍光速度が実測値である、[12]に記載の評価方法。
[14] 遅延蛍光材料の構造と前記式(I)で規定されるΔPBHTの関係に基づいて、遅延蛍光材料の分子設計を行うことを含む、遅延蛍光材料の設計方法。
[15] 特定の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算する第1工程と、
前記特定の遅延蛍光材料の構造の一部を変更した改変化合物を設計し、その改変化合物のΔPBHTを計算する第2工程と、
前記改変化合物の構造の一部を変更した再改変化合物を設計し、その再改変化合物のΔPBHTを計算する第3工程と、
前記特定の遅延蛍光材料、前記改変化合物、および前記再改変化合物の構造と算出したΔPBHTに基づいて、化合物の構造とΔPBHTの関係を求める第4工程と、
前記化合物の構造とΔPBHTの関係から、目標範囲のΔPBHTに対応する化合物の構造を抽出し、抽出された構造を有する化合物の群の中から合成対象の遅延蛍光材料を選択する第5工程を含む、[14]に記載の設計方法。
[16] 前記特定の遅延蛍光材料および前記改変化合物の構造の一部の変更が、数値化できる変更である、[15]に記載の設計方法。
[17] さらに、前記特定の遅延蛍光材料、前記改変化合物、および前記再改変化合物について、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTを求める工程を有し、前記第5工程において、前記工程で求めたΔESTに基づいて、前記化合物の群の中から合成対象の遅延蛍光材料を選択する、[15]または[16]に記載の設計方法。
[18] 前記第3工程で設計した再改変化合物を改変化合物と見做して、前記第3工程を繰り返し行う、[15]~[17]のいずれか1項に記載の設計方法。
[19] 前記式(I)で規定されるΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料を選択し、選択した遅延蛍光材料を用いて有機発光素子を設計することを含む、有機発光素子の設計方法。
[20] 複数種の遅延蛍光材料のΔPBHTをデータとして格納した遅延蛍光材料のデータベースから、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を検索する工程と、
前記工程の検索でヒットした遅延蛍光材料の群の中から、有機発光素子に用いる遅延蛍光材料を選択する工程と、
前記工程で選択した遅延蛍光材料を用いて有機発光素子を設計する工程を含む、[19]に記載の設計方法。
[21] 前記遅延蛍光材料のデータベースが、さらに、前記複数の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTをデータとして格納しており、前記遅延蛍光材料を検索する工程において、前記遅延蛍光材料のデータベースから、ΔPBHTが0.01以上であって、ΔESTが0.3eV以下である遅延蛍光材料を検索する、[20]に記載の設計方法。
[22] [10]~[21]のいずれか1項に記載の方法を実施するためのプログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を用いることにより、耐久性に優れた有機発光素子を実現することができる。また、本発明の遅延蛍光材料の評価方法によれば、遅延蛍光速度などの遅延蛍光材料の発光特性を容易に評価することができる。さらに、本発明の遅延蛍光材料の設計方法によれば、遅延蛍光速度が大きな遅延蛍光材料を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ΔPBHT(T3-T1)と遅延蛍光速度の関係を示すグラフである。
図2】ΔPBHT(T2-T1)と遅延蛍光速度の関係を示すグラフである。
図3】ΔPBHT(T3-T1)とLT95の関係を示すグラフである。
図4】ΔPBHT(T2-T1)とLT95の関係を示すグラフである。
図5】ΔPBHT(T2-T1)と遅延蛍光速度の関係を示すグラフである。
図6】ΔPBHT(T2-T1)とLT95の関係を示すグラフである。
図7】遅延蛍光材料の設計方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本願において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本願において「からなる」とは、「からなる」の前に記載されるもののみからなり、それ以外のものを含まないことを意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の一部または全部は重水素原子(H、デューテリウムD)に置換することができる。本明細書の化学構造式では、水素原子はHと表示しているか、その表示を省略している。例えばベンゼン環の環骨格構成炭素原子に結合する原子の表示が省略されているとき、表示が省略されている箇所ではHが環骨格構成炭素原子に結合しているものとする。本明細書にて「置換基」という用語は、水素原子および重水素原子以外の原子または原子団を意味する。一方、「置換もしくは無置換の」「置換されていてもよい」という表現は、水素原子が重水素原子または置換基で置換されていてもよいことを意味する。また、本発明における「透明」とは、可視光の透過率が50%以上であることをいい、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上である。可視光の透過率は紫外・可視分光光度計により測定することができる。
【0013】
<有機発光素子>
本発明の有機発光素子は、下記式(I)で規定されるΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を含む発光層を有するものである。
式(I) ΔPBHT= PBHT(Tn)- PBHT(T1)
式(I)において、PBHT(T1)は遅延蛍光材料の最低励起三重項状態のPBHT値であり、PBHT(Tn)は遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態のPBHT値を表す。以下の説明では、本発明における「最低励起一重項エネルギーよりもエネルギーが大きい励起三重項状態のうち、最もエネルギーが小さい励起三重項状態」を、「高次励起三重項状態Tn」と総称することがある。
例えば、遅延蛍光材料が、励起三重項状態として最低励起三重項状態T1、第2励起三重項状態T2および第3励起三重項状態T3をとり、最低励起一重項状態のエネルギーES1、最低励起三重項状態のエネルギーET1、第2励起三重項状態のエネルギーET2、第3励起三重項状態のエネルギーET3が下記式に示す関係である場合には、
T1<ES1<ET2<ET3
第2励起三重項状態T2のPBHT値であるPBHT(T2)がPBHT(Tn)に対応し、ΔPBHTは下記式により求められる。
ΔPBHT= PBHT(T2)- PBHT(T1)
また、最低励起一重項状態のエネルギーES1、最低励起三重項状態のエネルギーET1、第2励起三重項状態のエネルギーET2、第3励起三重項状態のエネルギーET3が下記式に示す関係である場合には、
T1<ET2<ES1<ET3
第3励起三重項状態T3のPBHT値であるPBHT(T3)がPBHT(Tn)に対応し、ΔPBHTは下記式により求められる。
ΔPBHT= PBHT(T3)- PBHT(T1)
ここで、本発明における「最低励起一重項エネルギー」および「最低励起三重項状態」のエネルギーは、後述の手順で求めた最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)である。第2励起三重項状態T2や第3励起三重項状態T3などの高次励起三重項状態Tnのエネルギーは、量子化学計算B3LYP/6-31Gの分子軌道計算で求めた値である。
【0014】
本発明における「PBHT値」は、Michael J. Peach, Peter Benfield, Trygve Helgaker,およびDavid J. Tozerにより提唱された値であり、4名の名字の頭文字を連ねて命名された値である。PBHT値は、励起状態の軌道の性質を表す数値である。一重項と三重項のPBHT値があるが、本発明では三重項のPBHT値を採用する。小さいPBHT値は励起状態が電荷移動性(CT性)であることを示し、大きいPBHT値は励起状態が局在電子性(LE性)であることを示している。PBHT値は、下記式により算出される値Λである。
【0015】
【数1】
【0016】
上式における各項の定義は下記の通りである。
【0017】
【数2】
【0018】
PBHT値の算出法については、J. Chem. Phys. 128, 044118 (2008)「Excitation energies in density functional theory: An evaluation and a diagnostic test」に詳しく記載されており、その論文の全頁を本明細書の一部としてここに引用する。
PBHT値は、HOMO(Highest occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)の重なりの程度を示すものであり、0以上1以下の値をとる。PBHT値が0であることは、HOMOとLUMOに重なりがないことを示し、PBHT値が1であることは、HOMOとLUMOが完全に重なっていることを示す。
【0019】
本発明の有機発光素子は、上記のように規定されるΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を発光層に含むことにより、優れた耐久性を示す。これは以下の理由によるものと推測される。
すなわち、ΔPBHTが0.01以上であることは、高次励起三重項状態Tnの方が最低励起三重項状態T1よりもHOMOとLUMOの重なり程度が大きいことを意味しており、T1-Tn間で分子軌道分布が大きく異なることを示す。したがって、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料は、最低励起三重項状態T1が電荷移動性(CT性)であり、高次励起三重項状態Tnが局在電子性(LE性)であると推測することができる。こうした遅延蛍光材料では、最低励起三重項状態T1から高次励起三重項状態Tnへ遷移した後、スピン軌道相互作用が効果的に働いて三重項-一重項スピン変換が容易に起こり、大きな遅延蛍光速度(逆項間交差速度)を示すと考えられる。あるいはT1がLE性、TnがCT性の場合においても同様に効果的なスピン変換が起こる。そのため、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を発光層に含む有機発光素子は、長寿命の三重項励起子に起因した劣化が抑制され、優れた耐久性を示すと推測される。
【0020】
以下において、本発明で用いることができる、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料について詳細に説明する。
【0021】
[遅延蛍光材料]
本発明における「遅延蛍光材料」とは、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じ、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光(遅延蛍光)を放射する有機化合物である。本発明では、蛍光寿命測定システム(浜松ホトニクス社製ストリークカメラシステム等)により発光寿命を測定したとき、発光寿命が100ns(ナノ秒)以上の蛍光が観測されるものを遅延蛍光材料と言う。
本発明では、こうした遅延蛍光材料のうち、上記の式(I)で規定されるΔPBHTが0.01以上であるものを使用する。ΔPBHTは、好ましくは0,02以上、より好ましくは0.03以上であり、例えば0.04以上の範囲から選択してもよいし、0.05以上の範囲から選択してもよいし、0.06以上の範囲から選択してもよいし、0.07以上の範囲から選択してもよい。
【0022】
本発明で用いるΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料は、最低励起一重項エネルギーと77Kの最低励起三重項エネルギーの差ΔESTが0.3eV以下であることが好ましく、0.25eV以下であることがより好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.15eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.07eV以下であることがさらにより好ましく、0.05eV以下であることがさらにまた好ましく、0.03eV以下であることがさらになお好ましく、0.01eV以下であることが特に好ましい。
【0023】
ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料は金属原子を含まないことが好ましい。例えば、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料として、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができる。例えば、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料として、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができる。例えば、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料として、炭素原子、水素原子および窒素原子からなる化合物を選択することができる。
【0024】
ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料は、例えば芳香族炭化水素が1つ以上の電子求引性基と1つ以上の電子供与性基で置換された構造を有する化合物群の中から選択することができる。芳香族炭化水素を構成する芳香環は、単環であっても2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。芳香環の好ましい例として、ベンゼン環を挙げることができる。電子求引性基は、該電子求引性基が結合している環から電子を吸引する性質を有する基であり、例えばハメットのσp値が正の基の中から選択することができる。電子供与性基は、該電子供与性基が結合している環に対して電子を供与する性質を有する基であり、例えばハメットのσp値が負の基の中から選択することができる。
ここで、「ハメットのσp値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。本発明における「ハメットのσp値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。
アクセプター性基の例として、シアノ基や、環骨格構成原子として窒素原子を含む芳香族ヘテロ6員環基を挙げることができる。環骨格構成原子として窒素原子を含む芳香族ヘテロ6員環基として、置換もしくは無置換のピリジル基、置換もしくは無置換のピリミジル基、置換もしくは無置換のピリダジル基、置換もしくは無置換のピラジル基、置換もしくは無置換のトリアジル基を挙げることができる。ドナー性基の例としては、置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基や後述する一般式(7)で表される基を挙げることができる。
本発明で用いることができる遅延蛍光材料の特に好ましい例として、下記一般式(1)~(6)のいずれかで表される化合物であって、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を挙げることができる。
【0025】
【化4】
【0026】
一般式(1)~(6)において、D~D10は各々独立に下記一般式(7)で表される基を表す。ただし、DとD、DとD、DとD、DとD10の各組合せは互いに化学構造が異なり、2つのD、3つのD、2つのD、2つのD、3つのD、2つのD、2つのD、2つのDの各組合せは互いに化学構造が同じである。一般式(1)~(6)および下記の一般式(7)~(13)の少なくとも1つの水素原子は重水素原子で置換されていてもよい。
【0027】
【化5】
【0028】
一般式(7)で表される基は、下記一般式(8)~(13)のいずれかで表される基であることが好ましい。
【化6】
【0029】
一般式(7)~(13)において、L11およびL21~L26は単結合もしくは2価の連結基を表す。2価の連結基として、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基を挙げることができる。
一般式(7)~(13)において、R41~R110は各々独立に水素原子または置換基を表す。R41とR42、R42とR43、R43とR44、R44とR45、R45とR46、R46とR47、R47とR48、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R54とR55、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R58とR59、R59とR60、R61とR62、R62とR63、R63とR64、R65とR66、R66とR67、R67とR68、R68とR69、R69とR70、R72とR73、R73とR74、R74とR75、R75とR76、R76とR77、R77とR78、R78とR79、R79とR80、R81とR82、R82とR83、R83とR84、R84とR85、R86とR87、R87とR88、R88とR89、R89とR90、R91とR92、R93とR94、R94とR95、R95とR96、R96とR97、R97とR98、R99とR100、R101とR102、R102とR103、R103とR104、R104とR105、R105とR106、R107とR108、R108とR109、R109とR110は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。互いに結合して形成する環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環、フラン環、チオフェン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノリン環などを挙げることができる。例えばフェナントレン環やトリフェニレン環のように多数の環が縮合した環を形成してもよい。一般式(7)で表される基に含まれる環の数は3~5の範囲内から選択してもよく、5~7の範囲内から選択してもよい。一般式(8)~(13)で表される基に含まれる環の数は5~7の範囲内から選択してもよく、5であってもよい。
41~R110が採りうる置換基として、下記の置換基群Bの基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~10の無置換のアルキル基、または炭素数1~10の無置換のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基である。本発明の好ましい一態様では、R41~R110は水素原子または炭素数1~10の無置換のアルキル基である。本発明の好ましい一態様では、R41~R110は水素原子または炭素数6~10の無置換のアリール基である。本発明の好ましい一態様では、R41~R110はすべてが水素原子である。
一般式(7)~(13)におけるR41~R110が結合している炭素原子(環骨格構成炭素原子)は、各々独立に窒素原子に置換されていてもよい。すなわち、一般式(7)~(13)におけるC-R41~C-R110は、各々独立にNに置換されていてもよい。窒素原子に置換されている数は、一般式(7)~(13)で表される基の中で0~4つであることが好ましく、1~2つであることがより好ましい。本発明の一態様では、窒素原子に置換されている数は0である。また、2つ以上が窒素原子に置換されている場合は、1つの環中に置換されている窒素原子の数は1つであることが好ましい。
一般式(7)~(13)において、X~Xは、酸素原子、硫黄原子またはN-Rを表す。本発明の一態様では、X~Xは酸素原子である。本発明の一態様では、X~Xは硫黄原子である。本発明の一態様では、X~XはN-Rである。Rは水素原子または置換基を表し、置換基であることが好ましい。置換基としては、上記置換基群Aから選択される置換基を例示することができる。例えば、無置換のフェニル基や、アルキル基やアリール基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基で置換されているフェニル基を好ましく採用することができる。
一般式(7)~(13)において、*は結合位置を表す。
【0030】
また、一般式(7)で表される基は、置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基であってもよいし、置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基で置換されたアリール基や置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基で置換されたヘテロアリール基であってもよい。ここで、9-カルバゾリル基における置換基の好ましい位置は、3位および6位の少なくとも一方である。
ただし、一般式(7)で表される基の少なくとも1つは、一般式(8)~(13)のいずれかで表される基であることが好ましい。すなわち、一般式(1)のDおよびDの少なくとも一方、一般式(2)のDおよびDの少なくとも一方、一般式(3)のD、一般式(4)のDおよびDの少なくとも一方、一般式(5)のD、一般式(6)のDおよびD10の少なくとも一方は、一般式(8)~(13)のいずれかで表される基であることが好ましい。また、一般式(1)、(2)、(4)、(6)では、D、D、D、Dが一般式(8)~(13)のいずれかで表される基であり、D、D、D、D10が置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基、置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基で置換されたアリール基、または置換もしくは無置換の9-カルバゾリル基で置換されたヘテロアリール基であることも好ましい。
【0031】
一般式(2)および(5)において、ArおよびArは各々独立に置換もしくは無置換のアリール基または置換もしくは無置換のヘテロアリール基(ただし、一般式(7)で表される基を除く)を表す。ArおよびArは、置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、置換もしくは無置換のフェニル基であることがより好ましく、無置換のフェニル基、または、水素原子の少なくとも1つが重水素原子で置換されたフェニル基であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の好ましい態様では、遅延蛍光材料は、一般式(2)で表される化合物であって、PBHT(Tn)が第3励起三重項状態のPBHT(T3)である化合物である。本発明のより好ましい態様では、遅延蛍光材料は、一般式(2)で表され、Dが一般式(13)で表される基である化合物であって、PBHT(Tn)が第3励起三重項状態のPBHT(T3)である化合物である。
本発明の他の好ましい態様では、遅延蛍光材料は、一般式(4)または(5)で表される化合物であって、PBHT(Tn)が第2励起三重項状態のPBHT(T2)である化合物である。本発明の他のより好ましい態様では、遅延蛍光材料は、一般式(4)で表され、Dが一般式(13)で表される基である化合物であって、PBHT(Tn)が第2励起三重項状態のPBHT(T2)である化合物である。本発明のさらに他のより好ましい態様では、遅延蛍光材料は、一般式(5)で表され、Dが一般式(13)で表される基である化合物であって、PBHT(Tn)が第2励起三重項状態のPBHT(T2)である化合物である。
【0033】
以下において、本発明で用いることができる、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる遅延蛍光材料はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0034】
【化7】
【0035】
上記の化合物T1~T12のうち、化合物T1~T5では、第3励起三重項状態T3のPBHT(T3)がPBHT(Tn)に対応し、化合物T6~T12では、第2励起三重項状態T2のPBHT(T2)がPBHT(Tn)に対応する。
【0036】
本明細書において「アルキル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1以上、2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デカニル基、イソデカニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができる。置換基たるアルキル基は、さらにアリール基で置換されていてもよい。
「アルケニル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルケニル基の炭素数は、例えば2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルケニル基の具体例として、エテニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブテニル基、イソブテニル基、n-ペンテニル基、イソペンテニル基、n-ヘキセニル基、イソヘキセニル基、2-エチルヘキセニル基を挙げることができる。置換基たるアルケニル基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
「アリール基」および「ヘテロアリール基」は、単環であってもよいし、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。環の具体例として、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、キノリン環、ピラジン環、キノキサリン環、ナフチリジン環を挙げることができ、これらが縮合した環であってもよい。アリール基またはヘテロアリール基の具体例として、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基を挙げることができる。アリール基の環骨格構成原子数は6~40であることが好ましく、6~20であることがより好ましく、6~14の範囲内で選択したり、6~10の範囲内で選択したりしてもよい。ヘテロアリール基の環骨格構成原子数は4~40であることが好ましく、5~20であることがより好ましく、5~14の範囲内で選択したり、5~10の範囲内で選択したりしてもよい。「アリーレン基」および「ヘテロアリール基」は、アリール基およびヘテロアリール基の説明における価数を1から2へ読み替えたものとすることができる。
【0037】
本明細書において「置換基群A」とは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アルキルチオ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、アリールチオ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールチオ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アシル基(例えば炭素数1~40)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)、アルキニル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、アリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、ヘテロアリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、シリル基(例えば炭素数1~40のトリアルキルシリル基)およびニトロ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群B」とは、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ジアリールアミノアミノ基(例えば炭素原子数0~20)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群C」とは、アルキル基(例えば炭素数1~20)、アリール基(例えば炭素数6~22)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~20)、ジアリールアミノ基(例えば炭素原子数12~20)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群D」とは、アルキル基(例えば炭素数1~20)、アリール基(例えば炭素数6~22)およびヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~20)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群E」とは、アルキル基(例えば炭素数1~20)およびアリール基(例えば炭素数6~22)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基」や「置換もしくは無置換の」と記載されている場合の置換基は、例えば置換基群Aの中から選択してもよいし、置換基群Bの中から選択してもよいし、置換基群Cの中から選択してもよいし、置換基群Dの中から選択してもよいし、置換基群Eの中から選択してもよい。
【0038】
本明細書において、化合物の最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)は、下記の手順により求めた値である。ΔESTはES1-ET1を計算することにより求めた値である。
(1)最低励起一重項エネルギー(ES1
測定対象化合物の薄膜もしくはトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製して試料とする。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
後述の実施例における発光スペクトルの測定は、励起光源にLED光源(Thorlabs社製、M300L4)を用いて検出器(浜松ホトニクス社製、PMA-12マルチチャンネル分光器 C10027-01)により行った。
(2)最低励起三重項エネルギー(ET1
最低励起一重項エネルギー(ES1)の測定で用いたのと同じ試料を、液体窒素によって77[K]に冷却し、励起光(300nm)を燐光測定用試料に照射し、検出器を用いて燐光を測定する。励起光照射後から100ミリ秒以降の発光を燐光スペクトルとする。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0039】
[発光層のその他の成分]
発光層はΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料のみで構成されていてもよいし、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としてホスト材料を挙げることができる。
【0040】
(ホスト材料)
ホスト材料は、キャリアの輸送を担う機能を有することが好ましい。またホスト材料は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料のエネルギーを該化合物中に閉じ込める機能を有することが好ましい。これにより、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料は、分子内でホールと電子とが再結合することによって生じたエネルギー、および、ホスト材料から受け取ったエネルギーを効率よく発光に変換することができる。エネルギーの閉じ込め機能を奏するため、ホスト材料は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料よりも最低励起一重項エネルギーが高いことが好ましく、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料よりも、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーが共に高いことがより好ましい。
ホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。また、本発明の好ましい一態様では、ホスト材料は遅延蛍光を放射しない化合物の中から選択する。ホスト材料からの発光は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子からの発光の1%未満であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましく、例えば0.01%未満、検出限界以下であってもよい。
ホスト材料は金属原子を含まないことが好ましい。例えば、ホスト材料として、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができる。例えば、ホスト材料として、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物を選択することができる。例えば、ホスト材料として、炭素原子、水素原子および窒素原子からなる化合物を選択することができる。
以下に、ホスト材料として用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0041】
【化8】
【0042】
ホスト材料を用いる場合、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料が発光層中に含有される量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
[有機発光素子の全体構成]
本発明の有機発光素子は、有機フォトルミネッセンス素子であっても有機エレクトロルミネッセンス素子であってもよい。有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および、陽極と陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する。有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機層は、発光層のみから構成されていてもよいし、発光層以外の有機層を含んでいてもよい。例えば、陽極と発光層、発光層と陰極の間には、それぞれ有機層が介在していてもよいし、介在していなくてもよい。言い換えれば、陽極と発光層は直接接するように積層されていてもよいし、直接接触しないように積層されていてもよい。また、発光層と陰極は直接接するように積層されていてもよいし、直接接触しないように積層されていてもよい。発光層は、陽極と陰極の間に位置しており、陽極と陰極の間の領域に発光層全体がはみ出すことなく配置されていることが好ましい。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および、発光層を含む少なくとも1層の有機層を支持する基板を有していてもよい。この場合、基板は、陽極の発光層と反対側に配置していてもよいし、陰極の発光層と反対側に配置していてもよい。また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、大半の光が基板と反対側から放出されるトップエミッション方式の素子であってもよいし、大半の光が基板側から放出されるボトムエミッション方式の素子であってもよい。ここで、「大半の光」とは、素子から放出される光の量の60%以上の光であることを意味する。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0044】
(発光層)
本発明の有機発光素子の発光層は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を含む。発光層は、さらにホスト材料を含んでいてもよい。ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料の説明については、上記の[遅延蛍光材料]の欄の記載を参照することができ、ホスト材料の説明については、上記の(ホスト材料)の欄の記載を参照することができる。発光層は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料とホスト材料以外に、電荷やエネルギーの授受を行う化合物やホウ素以外の金属元素を含まない構成にすることができる。また発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することもできる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子および酸素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、ホウ素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子およびホウ素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。例えば、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子からなる化合物だけで構成することができる。発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子から構成される遅延蛍光材料を含むものであってもよい。また、発光層は、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子から構成される遅延蛍光材料を含むものであってもよい。発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子から構成されるホスト材料と、炭素原子、水素原子、重水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子から構成される遅延蛍光材料を含むものであってもよい。また、発光層は、炭素原子、水素原子、窒素原子および酸素原子からなる群より選択される原子から構成されるホスト材料と、炭素原子、水素原子、重水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子から構成される遅延蛍光材料を含むものであってもよい。
発光層は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を蒸着することにより形成してもよいし、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料とホスト材料を共蒸着することにより形成してもよいし、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料とホスト材料をあらかじめ混合して調製した混合物を蒸着源として蒸着することにより形成してもよいし、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を溶解させた溶液、または、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料とホスト材料を溶解させた溶液を用いて塗布法により形成してもよい。
【0045】
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および発光層以外の各層について説明する。
【0046】
基材:
いくつかの実施形態では、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は基材により保持され、当該基材は特に限定されず、有機エレクトロルミネッセンス素子で一般的に用いられる、例えばガラス、透明プラスチック、クォーツおよびシリコンにより形成されたいずれかの材料を用いればよい。
【0047】
陽極:
いくつかの実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス装置の陽極は、金属、合金、導電性化合物またはそれらの組み合わせから製造される。いくつかの実施形態では、前記の金属、合金または導電性化合物は高い仕事関数(4eV以上)を有する。いくつかの実施形態では、前記金属はAuである。いくつかの実施形態では、導電性の透明材料は、CuI、酸化インジウム・スズ(ITO)、SnOおよびZnOから選択される。いくつかの実施形態では、IDIXO(In-ZnO)などの、透明な導電性フィルムを形成できるアモルファス材料を使用する。いくつかの実施形態では、前記陽極は薄膜である。いくつかの実施形態では、前記薄膜は蒸着またはスパッタリングにより作製される。いくつかの実施形態では、前記フィルムはフォトリソグラフィー方法によりパターン化される。いくつかの実施形態では、パターンが高精度である必要がない(例えば約100μm以上)場合、当該パターンは、電極材料への蒸着またはスパッタリングに好適な形状のマスクを用いて形成してもよい。いくつかの実施形態では、有機導電性化合物などのコーティング材料を塗布しうるとき、プリント法やコーティング法などの湿式フィルム形成方法が用いられる。いくつかの実施形態では、放射光が陽極を通過するとき、陽極は10%超の透過度を有し、当該陽極は、単位面積あたり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~1,000nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~200nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは用いる材料に応じて変動する。
【0048】
陰極:
いくつかの実施形態では、前記陰極は、低い仕事関数を有する金属(4eV以下)(電子注入金属と称される)、合金、導電性化合物またはその組み合わせなどの電極材料で作製される。いくつかの実施形態では、前記電極材料は、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム-銅混合物、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム-アルミニウム混合物および希土類元素から選択される。いくつかの実施形態では、電子注入金属と、電子注入金属より高い仕事関数を有する安定な金属である第2の金属との混合物が用いられる。いくつかの実施形態では、前記混合物は、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム-アルミニウム混合物およびアルミニウムから選択される。いくつかの実施形態では、前記混合物は電子注入特性および酸化に対する耐性を向上させる。いくつかの実施形態では、陰極は、蒸着またはスパッタリングにより電極材料を薄膜として形成させることによって製造される。いくつかの実施形態では、前記陰極は単位面積当たり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は10nm~5μmである。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は50~200nmである。いくつかの実施形態では、放射光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極および陰極のいずれか1つは透明または半透明である。いくつかの実施形態では、透明または半透明のエレクトロルミネッセンス素子は光放射輝度を向上させる。
いくつかの実施形態では、前記陰極を、前記陽極に関して前述した導電性の透明な材料で形成されることにより、透明または半透明の陰極が形成される。いくつかの実施形態では、素子は陽極と陰極とを含むが、いずれも透明または半透明である。
【0049】
注入層:
注入層は、電極と有機層との間の層である。いくつかの実施形態では、前記注入層は駆動電圧を減少させ、光放射輝度を増強する。いくつかの実施形態では、前記注入層は、正孔注入層と電子注入層とを含む。前記注入層は、陽極と発光層または正孔輸送層との間、並びに陰極と発光層または電子輸送層との間に配置することがきる。いくつかの実施形態では、注入層が存在する。いくつかの実施形態では、注入層が存在しない。
以下に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0050】
【化9】
【0051】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【化10】
【0052】
障壁層:
障壁層は、発光層に存在する電荷(電子または正孔)および/または励起子が、発光層の外側に拡散することを阻止できる層である。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層と正孔輸送層との間に存在し、電子が発光層を通過して正孔輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層と電子輸送層との間に存在し、正孔が発光層を通過して電子輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、障壁層は、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層および正孔障壁層は励起子障壁層を構成する。本明細書で用いる用語「電子障壁層」または「励起子障壁層」には、電子障壁層の、および励起子障壁層の機能の両方を有する層が含まれる。
【0053】
正孔障壁層:
正孔障壁層は、電子輸送層として機能する。いくつかの実施形態では、電子の輸送の間、正孔障壁層は正孔が電子輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。正孔障壁層に用いる材料は、電子輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に、正孔障壁層に用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0054】
【化11】
【0055】
電子障壁層:
電子障壁層は、正孔を輸送する。いくつかの実施形態では、正孔の輸送の間、電子障壁層は電子が正孔輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。電子障壁層に用いる材料は、正孔輸送層について前述したのと同じ材料であってもよい。
以下に電子障壁材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0056】
【化12】
【0057】
励起子障壁層:
励起子障壁層は、発光層における正孔と電子との再結合を通じて生じた励起子が電荷輸送層まで拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、発光層における励起子の有効な閉じ込め(confinement)を可能にする。いくつかの実施形態では、装置の光放射効率が向上する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、陽極の側と陰極の側のいずれかで、およびその両側の発光層に隣接する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陽極側に存在するとき、当該層は、正孔輸送層と発光層との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陰極側に存在するとき、当該層は、発光層と陰極との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層または同様の層は、陽極と、陽極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層または同様の層は、陰極と、陰極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーを含み、その少なくとも1つが、それぞれ、発光材料の励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーより高い。
【0058】
正孔輸送層:
正孔輸送層は、正孔輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送特性および電子の障壁特性のうちの1つの特性を有する。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は有機材料である。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は無機材料である。本発明で使用できる公知の正孔輸送材料の例としては、限定されないが、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導剤、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導剤、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリルアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導剤、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリンコポリマーおよび導電性ポリマーオリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)、またはその組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料はポルフィリン化合物、芳香族三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物から選択される。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は芳香族三級アミン化合物である。以下に正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0059】
【化13】
【0060】
電子輸送層:
電子輸送層は、電子輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、電子輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、電子輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、電子輸送材料は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能さえあればよい。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はまた、正孔障壁材料としても機能する。本発明で使用できる電子輸送層の例としては、限定されないが、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アゾール誘導体、アジン誘導体またはその組合せ、またはそのポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はチアジアゾール誘導剤またはキノキサリン誘導体である。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はポリマー材料である。以下に電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0061】
【化14】
【0062】
さらに、各有機層に添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0063】
【化15】
【0064】
有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示したが、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0065】
デバイス:
いくつかの実施形態では、発光層はデバイス中に組み込まれる。例えば、デバイスには、OLEDバルブ、OLEDランプ、テレビ用ディスプレイ、コンピューター用モニター、携帯電話およびタブレットが含まれるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を有するOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、本願明細書に記載の構成物は、OLEDまたは光電子デバイスなどの、様々な感光性または光活性化デバイスに組み込まれうる。いくつかの実施形態では、前記構成物はデバイス内の電荷移動またはエネルギー移動の促進に、および/または正孔輸送材料として有用でありうる。前記デバイスとしては、例えば有機発光ダイオード(OLED)、有機集積回線(OIC)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機太陽電池(O-SC)、有機光学検出装置、有機光受容体、有機磁場クエンチ(field-quench)装置(O-FQD)、発光燃料電池(LEC)または有機レーザダイオード(O-レーザー)が挙げられる。
【0066】
バルブまたはランプ:
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含むOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、デバイスは色彩の異なるOLEDを含む。いくつかの実施形態では、デバイスはOLEDの組合せを含むアレイを含む。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、3色の組合せ(例えばRGB)である。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、赤色でも緑色でも青色でもない色(例えばオレンジ色および黄緑色)の組合せである。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、2色、4色またはそれ以上の色の組合せである。
いくつかの実施形態では、デバイスは、
取り付け面を有する第1面とそれと反対の第2面とを有し、少なくとも1つの開口部を画定する回路基板と、
前記取り付け面上の少なくとも1つのOLEDであって、当該少なくとも1つのOLEDが、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含む、発光する構成を有する少なくとも1つのOLEDと、
回路基板用のハウジングと、
前記ハウジングの端部に配置された少なくとも1つのコネクターであって、前記ハウジングおよび前記コネクターが照明設備への取付けに適するパッケージを画定する、少なくとも1つのコネクターと、を備えるOLEDライトである。
いくつかの実施形態では、前記OLEDライトは、複数の方向に光が放射されるように回路基板に取り付けられた複数のOLEDを有する。いくつかの実施形態では、第1方向に発せられた一部の光は偏光されて第2方向に放射される。いくつかの実施形態では、反射器を用いて第1方向に発せられた光を偏光する。
【0067】
ディスプレイまたはスクリーン:
いくつかの実施形態では、本発明の発光層はスクリーンまたはディスプレイにおいて使用できる。いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物は、限定されないが真空蒸発、堆積、蒸着または化学蒸着(CVD)などの工程を用いて基材上へ堆積させる。いくつかの実施形態では、前記基材は、独特のアスペクト比のピクセルを提供する2面エッチングにおいて有用なフォトプレート構造である。前記スクリーン(またマスクとも呼ばれる)は、OLEDディスプレイの製造工程で用いられる。対応するアートワークパターンの設計により、垂直方向ではピクセルの間の非常に急な狭いタイバーの、並びに水平方向では大きな広範囲の斜角開口部の配置を可能にする。これにより、TFTバックプレーン上への化学蒸着を最適化しつつ、高解像度ディスプレイに必要とされるピクセルの微細なパターン構成が可能となる。
ピクセルの内部パターニングにより、水平および垂直方向での様々なアスペクト比の三次元ピクセル開口部を構成することが可能となる。更に、ピクセル領域中の画像化された「ストライプ」またはハーフトーン円の使用は、これらの特定のパターンをアンダーカットし基材から除くまで、特定の領域におけるエッチングが保護される。その時、全てのピクセル領域は同様のエッチング速度で処理されるが、その深さはハーフトーンパターンにより変化する。ハーフトーンパターンのサイズおよび間隔を変更することにより、ピクセル内での保護率が様々異なるエッチングが可能となり、急な垂直斜角を形成するのに必要な局在化された深いエッチングが可能となる。
蒸着マスク用の好ましい材料はインバーである。インバーは、製鉄所で長い薄型シート状に冷延された金属合金である。インバーは、ニッケルマスクとしてスピンマンドレル上へ電着することができない。蒸着用マスク内に開口領域を形成するための適切かつ低コストの方法は、湿式化学エッチングによる方法である。
いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、基材上のピクセルマトリックスである。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、リソグラフィー(例えばフォトリソグラフィーおよびeビームリソグラフィー)を使用して加工される。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、湿式化学エッチングを使用して加工される。更なる実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、プラズマエッチングを使用して加工される。
【0068】
デバイスの製造方法:
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
【0069】
本発明の他の態様では、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの製造方法を提供し、当該方法は、
マザーパネルのベース基材上に障壁層を形成する工程と、
前記障壁層上に、セルパネル単位で複数のディスプレイユニットを形成する工程と、
前記セルパネルのディスプレイユニットのそれぞれの上にカプセル化層を形成する工程と、
前記セルパネル間のインタフェース部に有機フィルムを塗布する工程と、を含む。
いくつかの実施形態では、障壁層は、例えばSiNxで形成された無機フィルムであり、障壁層の端部はポリイミドまたはアクリルで形成された有機フィルムで被覆される。いくつかの実施形態では、有機フィルムは、マザーパネルがセルパネル単位で軟らかく切断されるように補助する。
いくつかの実施形態では、薄膜トランジスタ(TFT)層は、発光層と、ゲート電極と、ソース/ドレイン電極と、を有する。複数のディスプレイユニットの各々は、薄膜トランジスタ(TFT)層と、TFT層上に形成された平坦化フィルムと、平坦化フィルム上に形成された発光ユニットと、を有してもよく、前記インタフェース部に塗布された有機フィルムは、前記平坦化フィルムの材料と同じ材料で形成され、前記平坦化フィルムの形成と同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記発光ユニットは、不動態化層と、その間の平坦化フィルムと、発光ユニットを被覆し保護するカプセル化層と、によりTFT層と連結される。前記製造方法のいくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、ディスプレイユニットにもカプセル化層にも連結されない。
【0070】
前記有機フィルムと平坦化フィルムの各々は、ポリイミドおよびアクリルのいずれか1つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記障壁層は無機フィルムであってもよい。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はポリイミドで形成されてもよい。前記方法は更に、ポリイミドで形成されたベース基材の1つの表面に障壁層を形成する前に、当該ベース基材のもう1つの表面にガラス材料で形成されたキャリア基材を取り付ける工程と、インタフェース部に沿った切断の前に、前記キャリア基材をベース基材から分離する工程と、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記OLEDディスプレイはフレキシブルなディスプレイである。
いくつかの実施形態では、前記不動態化層は、TFT層の被覆のためにTFT層上に配置された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、不動態化層上に形成された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、障壁層の端部に形成された有機フィルムと同様、ポリイミドまたはアクリルで形成される。いくつかの実施形態では、OLEDディスプレイの製造の際、前記平坦化フィルムおよび有機フィルムは同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、障壁層の端部に形成されてもよく、それにより、当該有機フィルムの一部が直接ベース基材と接触し、当該有機フィルムの残りの部分が、障壁層の端部を囲みつつ、障壁層と接触する。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記発光層は、ピクセル電極と、対電極と、当該ピクセル電極と当該対電極との間に配置された有機発光層と、を有する。いくつかの実施形態では、前記ピクセル電極は、TFT層のソース/ドレイン電極に連結している。
いくつかの実施形態では、TFT層を通じてピクセル電極に電圧が印加されるとき、ピクセル電極と対電極との間に適切な電圧が形成され、それにより有機発光層が光を放射し、それにより画像が形成される。以下、TFT層と発光ユニットとを有する画像形成ユニットを、ディスプレイユニットと称する。
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットを被覆し、外部の水分の浸透を防止するカプセル化層は、有機フィルムと無機フィルムとが交互に積層する薄膜状のカプセル化構造に形成されてもよい。いくつかの実施形態では、前記カプセル化層は、複数の薄膜が積層した薄膜状カプセル化構造を有する。いくつかの実施形態では、インタフェース部に塗布される有機フィルムは、複数のディスプレイユニットの各々と間隔を置いて配置される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、一部の有機フィルムが直接ベース基材と接触し、有機フィルムの残りの部分が障壁層の端部を囲む一方で障壁層と接触する態様で形成される。
【0072】
一実施形態では、OLEDディスプレイはフレキシブルであり、ポリイミドで形成された柔軟なベース基材を使用する。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はガラス材料で形成されたキャリア基材上に形成され、次に当該キャリア基材が分離される。
いくつかの実施形態では、障壁層は、キャリア基材の反対側のベース基材の表面に形成される。一実施形態では、前記障壁層は、各セルパネルのサイズに従いパターン化される。例えば、ベース基材がマザーパネルの全ての表面上に形成される一方で、障壁層が各セルパネルのサイズに従い形成され、それにより、セルパネルの障壁層の間のインタフェース部に溝が形成される。各セルパネルは、前記溝に沿って切断できる。
【0073】
いくつかの実施形態では、前記の製造方法は、更にインタフェース部に沿って切断する工程を含み、そこでは溝が障壁層に形成され、少なくとも一部の有機フィルムが溝で形成され、当該溝がベース基材に浸透しない。いくつかの実施形態では、各セルパネルのTFT層が形成され、無機フィルムである不動態化層と有機フィルムである平坦化フィルムが、TFT層上に配置され、TFT層を被覆する。例えばポリイミドまたはアクリル製の平坦化フィルムが形成されるのと同時に、インタフェース部の溝は、例えばポリイミドまたはアクリル製の有機フィルムで被覆される。これは、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃を有機フィルムに吸収させることによってひびが生じるのを防止する。すなわち、全ての障壁層が有機フィルムなしで完全に露出している場合、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃が障壁層に伝達され、それによりひびが生じるリスクが増加する。しかしながら、一実施形態では、障壁層間のインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されて、有機フィルムがなければ障壁層に伝達されうる衝撃を吸収するため、各セルパネルをソフトに切断し、障壁層でひびが生じるのを防止してもよい。一実施形態では、インタフェース部の溝を被覆する有機フィルムおよび平坦化フィルムは、互いに間隔を置いて配置される。例えば、有機フィルムおよび平坦化フィルムが1つの層として相互に接続している場合には、平坦化フィルムと有機フィルムが残っている部分とを通じてディスプレイユニットに外部の水分が浸入するおそれがあるため、有機フィルムおよび平坦化フィルムは、有機フィルムがディスプレイユニットから間隔を置いて配置されるように、相互に間隔を置いて配置される。
【0074】
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットは、発光ユニットの形成により形成され、カプセル化層は、ディスプレイユニットを被覆するためディスプレイユニット上に配置される。これにより、マザーパネルが完全に製造された後、ベース基材を担持するキャリア基材がベース基材から分離される。いくつかの実施形態では、レーザー光線がキャリア基材へ放射されると、キャリア基材は、キャリア基材とベース基材との間の熱膨張率の相違により、ベース基材から分離される。
いくつかの実施形態では、マザーパネルは、セルパネル単位で切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルは、カッターを用いてセルパネル間のインタフェース部に沿って切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルが沿って切断されるインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されているため、切断の間、当該有機フィルムが衝撃を吸収する。いくつかの実施形態では、切断の間、障壁層でひびが生じるのを防止できる。
いくつかの実施形態では、前記方法は製品の不良率を減少させ、その品質を安定させる。
他の態様は、ベース基材上に形成された障壁層と、障壁層上に形成されたディスプレイユニットと、ディスプレイユニット上に形成されたカプセル化層と、障壁層の端部に塗布された有機フィルムと、を有するOLEDディスプレイである。
【0075】
<遅延蛍光材料の評価方法>
次に、本発明の遅延蛍光材料の評価方法について説明する。
本発明の遅延蛍光材料の評価方法は、上記の式(I)で規定されるΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料の発光特性を評価することを含む。ΔPBHTの説明については、上記の<有機発光素子>の欄の記載を参照することができる。
本発明の評価方法で評価する遅延蛍光材料には特に制限がなく、公知の遅延蛍光材料であっても未知の遅延蛍光材料であってもよい。また、本発明の評価方法で評価する遅延蛍光材料は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料であってもよいし、ΔPBHTが0である遅延蛍光材料や、ΔPBHTが負である遅延蛍光材料であってもよい。遅延蛍光材料の定義と、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料の説明については、上記の[遅延蛍光材料]の欄の記載を参照することができる。
後掲の実施例で示すように、遅延蛍光材料のΔPBHTと遅延蛍光速度には相関関係がある。したがって、評価対象の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算し、ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の相関図(τ2/ΔPBHT相関図)から、評価対象のΔPBHTに対応する遅延蛍光速度の値を求めることにより、その値を評価対象の遅延蛍光速度であると予測することができる。これにより、評価対象の遅延蛍光速度や遅延蛍光速度に関わる発光特性を評価することができる。遅延蛍光速度に関わる発光特性として、発光効率、フェルスターエネルギー移動効率、発光スペクトル、半値幅、素子耐久性を挙げることができる。
【0076】
本発明の一態様では、遅延蛍光材料の評価方法は、ΔPBHTが異なる複数種の参照遅延蛍光材料のΔPBHTと遅延蛍光速度に基づいて、ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係(例えば、τ2/ΔPBHT相関図)を求める工程と、評価対象の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算し、上記のΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係から、評価対象のΔPBHTに対応する遅延蛍光速度の値を求め、この値を評価対象の遅延蛍光速度であると予測する工程と、予測した遅延蛍光速度に基づいて、評価対象の発光特性を評価する工程を含む。
ここで、参照遅延蛍光材料の遅延蛍光速度は実測値であっても計算値であってもよいが、遅延蛍光材料について実際に測定した実測値であることが好ましい。また、ΔPBHTと遅延蛍光速度τ2の関係は、参照遅延蛍光材料を共通の環骨格を有するもの毎に分類して、分類したクループ毎に取得するようにしてもよい。この場合、評価対象と共通または類似の環骨格を有する参照遅延蛍光材料のグループについて取得した相関関係を用いることにより、評価対象の遅延蛍光速度を精度よく予測することができる。
【0077】
<遅延蛍光材料の設計方法>
本発明の遅延蛍光材料の設計方法は、遅延蛍光材料の構造と、上記の式(I)で規定されるΔPBHTの関係に基づいて、遅延蛍光材料の分子設計を行うことを含む。ΔPBHTの説明の好ましい範囲については、上記の<有機発光素子>の欄の記載を参照することができる。
本発明で設計する遅延蛍光材料は、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料であってもよいし、ΔPBHTが0である遅延蛍光材料や、ΔPBHTが負である遅延蛍光材料であってもよい。ΔPBHTが0.01以上となるように遅延蛍光材料を設計することにより、遅延蛍光速度が大きくて有機発光素子の耐久性向上に有利な遅延蛍光材料を得ることができる。遅延蛍光材料の定義と、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料の説明と好ましい範囲については、上記の[遅延蛍光材料]の欄の記載を参照することができる。
本発明における「遅延蛍光材料の構造とΔPBHTの関係」とは、特定の遅延蛍光材料と、特定の遅延蛍光材料の構造の一部を変更した複数種の化合物のΔPBHTに基づいて求められる、その構造とΔPBHTの対応関係である。遅延蛍光材料の構造の一部の変更は数値化できる変更であることが好ましい。これにより、「遅延蛍光材料の構造とΔPBHTの関係」を、数量とΔPBHTの関係で表すことができる。数値化できる構造の変更として、炭素原子数の変更、置換基や重水素原子の置換数の変更、置換基や重水素原子の置換配置の変更、縮合環の縮合数の変更、置換基のハメットのσp値の変更、窒素、酸素、硫黄などの原子数置換が挙げられる。
また、本発明の設計方法では、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTを加味して分子設計を行ってもよい。例えば、遅延蛍光材料の構造とΔESTの関係も考慮して分子設計を行うことにより、所望の発光特性を示す遅延蛍光材料を精度よく設計することができる。ΔESTの説明と好ましい範囲については、上記の<有機発光素子>の欄や[遅延蛍光材料]の欄に対応する記載を参照することができる。
【0078】
本発明の一態様では、遅延蛍光材料の設計方法は、図7に示すように、特定の遅延蛍光材料のΔPBHTを計算する第1工程(S1)と、特定の遅延蛍光材料の構造の一部を変更した改変化合物を設計し、その改変化合物のΔPBHTを計算する第2工程(S2)と、改変化合物の構造の一部を変更した再改変化合物を設計し、その再改変化合物のΔPBHTを計算する第3工程(S3)と、特定の遅延蛍光材料、改変化合物および再改変化合物の構造と算出したΔPBHTに基づいて、化合物の構造とΔPBHTの関係を求める第4工程(S4)と、化合物の構造とΔPBHTの関係から、目標範囲のΔPBHTに対応する化合物の構造を抽出し、抽出された構造を有する化合物の群の中から合成対象の遅延蛍光材料を選択する第5工程(S5)を含む。ここで、第3工程は、この工程で設計した再改変化合物を改変化合物と見做して、繰り返し行ってもよい。
本発明の好ましい態様では、さらに、特定の遅延蛍光材料、改変化合物および再改変化合物について、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTを求める工程と、特定の遅延蛍光材料、改変化合物および再改変化合物の構造と、それらのΔESTに基づいて、化合物の構造とΔESTの関係を求める工程を有し、第5工程において、化合物の構造とΔESTの関係から、目標範囲のΔESTに対応する化合物の構造を抽出し、その構造の中で、化合物の構造とΔPBHTの関係から抽出した化合物の構造と重複するものを合成対象の遅延蛍光材料の構造として選択する。
以上の本発明の各態様において、第1工程で用いる特定の遅延蛍光材料、第2工程で設計する改変化合物、第3工程で設計する再改変化合物の構造は、例えば、上記の一般式(1)~(6)のいずれかで表される構造の中から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
また、第1工程~第5工程はこの順に行ってもよいし、手順を変えて行ってもよい。例えば、各工程におけるΔPBHTの計算は、化合物の設計と時期を合わせて、その都度行ってもよいし、改変化合物や再改変化合物を設計した後に、特定の遅延蛍光材料、改変化合物および再改変化合物について、一括してΔPBHTを計算してもよい。
【0079】
<有機発光素子の設計方法>
本発明の有機発光素子の設計方法は、上記の式(I)で規定されるΔPBHTに基づいて遅延蛍光材料を選択し、選択した遅延蛍光材料を用いて有機発光素子を設計することを含む。ΔPBHTの説明の好ましい範囲については、上記の<有機発光素子>の欄の記載を参照することができる。本発明の設計方法では、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を選択して有機発光素子の設計に用いることにより、耐久性が高い有機発光素子を実現することができる。遅延蛍光材料の定義と、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料の説明と好ましい範囲については、上記の[遅延蛍光材料]の欄の記載を参照することができる。有機発光素子の構成については、上記の[有機発光素子の全体構成]の欄の記載を参照することができる。
本発明の一態様では、有機発光素子の設計方法は、複数種の遅延蛍光材料のΔPBHTをデータとして格納した遅延蛍光材料のデータベースから、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を検索する工程と、検索でヒットした遅延蛍光材料の群の中から、有機発光素子に用いる遅延蛍光材料を選択する工程と、選択した遅延蛍光材料を用いて有機発光素子を設計する工程を含む。
本発明の好ましい態様では、遅延蛍光材料のデータベースが、さらに、複数の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTをデータとして格納しており、上記の遅延蛍光材料を検索する工程において、遅延蛍光材料のデータベースから、ΔPBHTが0.01以上であって、ΔESTが0.3eV以下である遅延蛍光材料を検索する。ΔESTの説明と好ましい範囲については、上記の<有機発光素子>の欄や[遅延蛍光材料]の欄に対応する記載を参照することができる。
【0080】
<プログラム>
本発明のプログラムは、本発明の遅延蛍光材料の評価方法、本発明の遅延蛍光材料の設計方法および本発明の有機発光素子の設計方法の少なくとも一つの方法を実施するためのプログラムである。
プログラムを構成する工程については、上記の<遅延蛍光材料の評価方法>、<遅延蛍光材料の設計方法>および<有機発光素子の設計方法>の各欄の記載を参照することができる。
本発明のプログラムは、本発明の遅延蛍光材料の評価方法、本発明の遅延蛍光材料の設計方法および本発明の有機発光素子の設計方法のいずれか一つの方法を実施するためのプログラムであってもよいし、これらの方法の2つ以上を実施するためのプログラムであってもよい。後者の例として、本発明の遅延蛍光材料の評価方法を実施するための工程と、本発明の遅延蛍光材料の設計方法を実施するための工程を含んでおり、発明の遅延蛍光材料の設計方法で設計した遅延蛍光材料を、本発明の遅延蛍光材料の評価方法で評価する態様を挙げることができる。
【実施例0081】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光性能の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行い、遅延蛍光速度の測定は、Quantaurus-Tau小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス(株)製C16361-01 を用いて行った。
【0082】
(実施例1) 化合物T1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成された厚さ2mmのガラス基材上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-5Paで積層した。まず、ITO上にHATCNを10nmの厚さに形成し、その上にNPDを30nmの厚さに形成した。続いて、TrisPCz10nmの厚さに形成し、その上にPYD2Czを5nmの厚さに形成した。次に、化合物PYD2Czと化合物T1を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの発光層を形成した。このとき、化合物T1の濃度は35重量%とした。次に、SF3TRZを10nmの厚さに形成した。続いて、SF3TRZとLiqを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに形成した。このとき、Liqの濃度は30重量%とした。さらに、Liqを2nmの厚さに形成し、その上に、アルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着して陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子1)とした。
【0083】
(実施例2~12、比較例1~7) 化合物T2~T12または比較化合物T1~T7を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
化合物T1の代わりに化合物T2~T12または比較化合物T1~T7を用いて発光層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子2~12、比較EL素子1~7)を作製した。
【0084】
作製した各EL素子について、遅延蛍光速度(delayrate)およびLT95を測定してΔPBHTとの相関関係を調べた結果を図1図6に示す。ここで、LT95は、2.0mA/cmで連続駆動したときの輝度が初期輝度の95%になるまでの時間である。図1図6中に示した化合物T1~T12、比較化合物T1~T6は、そのプロットに対応するEL素子が発光層に含む遅延蛍光材料である。図1、3の横軸における「ΔPBHT(T3-T1)」は、PBHT(T3)-PBHT(T1)で算出されるΔPBHTを表し、図2、4~6の横軸における「ΔPBHT(T2-T1)」は、PBHT(T2)-PBHT(T1)で算出されるΔPBHTを表す。
図1、2、5に示すように、ΔPBHTが0.01以上である化合物T1~T12を用いた各EL素子は、比較化合物T1~T7を用いた各比較EL素子に比べて大きな遅延蛍光速度を示した。また、図3、4、6に示すように、化合物T1~T12を用いた各EL素子は、比較化合物T1~T7を用いた各比較EL素子に比べてLT95が遥かに長く、長寿命であった。また、遅延蛍光材料のΔPBHTが大きなもの程、遅延蛍光速度とLT95が向上する相関関係も認められた。
【0085】
【化16】
【0086】
【化17】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明では、ΔPBHTが0.01以上である遅延蛍光材料を用いることにより、有機発光素子の耐久性を向上させることができる。そのため、本発明によれば、実用性に優れた遅延蛍光型の有機発光素子を提供することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7