(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129099
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/02 20060101AFI20230907BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230907BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20230907BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230907BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230907BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08L9/02
C08L23/12
C08L53/02
C08L91/00
C08L67/00
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033887
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】富高 慎哉
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC07W
4J002AE00Y
4J002BB12X
4J002BP01Z
4J002CF00Y
4J002EK036
4J002FD156
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】柔軟性、機械物性、耐熱歪特性(高温における耐圧縮永久歪特性)、耐ブリード性、調製の容易性、及び成形性に優れるとともに、耐グリース性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(a)不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム 100質量部;(b)ポリプロピレン系樹脂 15~150質量部;(c)軟化剤 20~160質量部;(d)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 5~80質量部;及び(e)有機過酸化物 0.1~0.6質量部;を含み、前記(d)ブロック共重合体は、(d-1)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 40~70質量%;及び(d-2)アミン変性による芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 30~60質量%;からなり、ここで前記成分(d-1)と上記成分(d-2)との和は100質量%であることを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム 100質量部;
(b)ポリプロピレン系樹脂 15~150質量部;
(c)軟化剤 20~160質量部;
(d)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 5~80質量部;及び
(e)有機過酸化物 0.1~0.6質量部;
を含み、
前記(d)ブロック共重合体は、
(d-1)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 40~70質量%;及び
(d-2)アミン変性による芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 30~60質量%;
からなり、ここで前記成分(d-1)と上記成分(d-2)との和は100質量%である
ことを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記(c)軟化剤は、
(c-1)非芳香族系ゴム用軟化剤 20~60質量%;及び
(c-2)ポリエステル系可塑剤 80~40質量%;
からなり、ここで前記成分(c-1)と前記成分(c-2)との和は100質量%である、
請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記(a)不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴムは、不飽和ニトリルに由来する構造単位の含有量が30~50質量%であり、共役ジエンに由来する構造単位の含有量が50~70質量%である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を製造する方法であって、
前記成分(a)~(e)、及び所望により前記成分(a)~(e)以外の成分を混合し、
前記(e)有機過酸化物の1分半減期温度以上の温度で溶融混練することを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形物。
【請求項6】
パッキン及びシールからなる群より選択される自動車用部材である、請求項5に記載の成形物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の成形物を製造する方法であって、
請求項4に記載の方法により熱可塑性エラストマー組成物を調製する工程;及び
前記熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形物に加工する工程;
を含む、成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関し、より詳細には、自動車部品、とりわけパッキンやシールなどの自動車部品用材料として有用である熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム弾性を有する軟質材料であって加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性やマテリアルリサイクル性を有する熱可塑性エラストマーが、加硫ゴムを代替する材料として、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療用部品及び雑貨等の分野で多く使用されている。
【0003】
例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、強度や耐屈曲疲労性などの機械的性質や、耐寒性や耐熱性等の熱的性質、さらには耐油性にも優れており、自動車の等速ジョイントブーツ等に使用されている。しかしながら、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、従来の加硫ゴムと比較して、高価であること、成形前に乾燥を必要とすること、柔軟性、耐候性、耐圧縮永久歪特性、耐加水分解性等の特性が不十分であること、比重が高いこと、といった課題がある。
【0004】
また、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物やスチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物などのポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性、常温におけるゴム弾性、耐熱老化性(熱安定性)、耐候性、及び成形加工性に優れ、広く使用されている。そのため、上記したTPEEの問題を改善する手段として、スチレン-ブタジエンブロック共重合体等の水素添加物を含む組成物を、動的架橋させて得られる材料が提案されている(例えば、特許文献1~5)。
【0005】
また、ポリオレフィン系樹脂やポリオレフィン系共重合体ゴムを動的架橋して得られる熱可塑性エラストマー組成物も多数知られている。例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体樹脂とハロゲン化ブチルゴム等のゴムを動的架橋したエラストマー組成物や(特許文献6)、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、EPDM等のモノオレフィンゴム、ニトリルゴム等の共役ジエンポリマー、及びプロセスオイルを含む動的加硫熱可塑性エラストマー組成物が提案されている(特許文献7)。
【0006】
更に、本出願人も、加硫ゴムの代替材料の開発を行い、耐熱油性(高温における耐油性)、耐熱歪特性(高温における耐圧縮永久歪特性)に優れた、不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴムを含む特定の熱可塑性エラストマー組成物を提案している(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59-6236号公報
【特許文献2】特開昭63-57662号公報
【特許文献3】特公平3-49927号公報
【特許文献4】特公平3-11291号公報
【特許文献5】特公平6-13628号公報
【特許文献6】特開昭61-26641号公報
【特許文献7】特開平9-291176号公報
【特許文献8】特開2016-060757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1~5において提案されている材料は、柔軟性と高温、特に100℃以上における耐圧縮永久歪特性や耐油性とのバランスが低く、また機械強度が低いという問題があり、加硫ゴムを代替する材料として満足いくものではなかった。
【0009】
また、特許文献6において提案されているエラストマー組成物は、耐熱収縮性や成形加工性に優れるものの、柔軟性と高温での耐圧縮永久歪特性や耐油性とのバランスが劣り、加硫ゴムを代替する材料として満足いくものではなかった。また、特許文献7において提案されている動的加硫熱可塑性エラストマー組成物は、非常に軟質であるが、成形加工性に劣り、高温での耐圧縮永久歪特性や耐油性が不十分であった。
【0010】
更に、これまで提案されている熱可塑性エラストマー組成物は、その成形物を高温でグリース等の機械油に浸漬すると、熱可塑性エラストマー組成物に含まれる配合オイルが機械油に溶出し、成形品の寸法が縮小してしまうという課題があり、パッキンやシールなどの自動車部品として使用(即ち、高温で機械油と接触する環境下での使用)には適していなかった。そのため、熱可塑性エラストマーの用途拡大のためにも、加硫ゴムと同等又はそれ以上の特性を有しながら、耐グリース性にも優れる材料が希求されている。
【0011】
したがって、本発明の目的は、柔軟性、機械物性、耐熱歪特性(高温における耐圧縮永久歪特性)、耐ブリード性、組成物の調製容易性、及び成形性に優れるとともに、耐グリース性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム、ポリプロピレン系樹脂、軟化剤、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物及び有機過酸化物を所定の割合で含む組成物において、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物が、特定の割合でアミン変成されていることにより、加硫ゴムと同等又はそれ以上の特性を有しながら、耐グリース性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物を実現できるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
[1](a)不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム 100質量部;
(b)ポリプロピレン系樹脂 15~150質量部;
(c)軟化剤 20~160質量部;
(d)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 5~80質量部;及び
(e)有機過酸化物 0.1~0.6質量部;
を含み、
前記(d)ブロック共重合体は、
(d-1)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 40~70質量%;及び
(d-2)アミン変性による芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物 30~60質量%;
からなり、ここで前記成分(d-1)と上記成分(d-2)との和は100質量%である
ことを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物。
[2]前記(c)軟化剤は、
(c-1)非芳香族系ゴム用軟化剤 20~60質量%;及び
(c-2)ポリエステル系可塑剤 80~40質量%;
からなり、ここで前記成分(c-1)と前記成分(c-2)との和は100質量%である、
[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3]前記(a)不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴムは、不飽和ニトリルに由来する構造単位の含有量が30~50質量%であり、共役ジエンに由来する構造単位の含有量が50~70質量%である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4][1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を製造する方法であって、
前記成分(a)~(e)、及び所望により前記成分(a)~(e)以外の成分を混合し、
前記(e)有機過酸化物の1分半減期温度以上の温度で溶融混練することを特徴とする、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
[5][1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形物。
[6]パッキン及びシールからなる群より選択される自動車用部材である、[5]に記載の成形物。
[7][5]又は[6]に記載の成形物を製造する方法であって、
[4]に記載の方法により熱可塑性エラストマー組成物を調製する工程;及び
前記熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形物に加工する工程;
を含む、成形物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柔軟性、機械物性、耐熱歪特性、耐ブリード性、組成物の調製容易性、及び成形性に優れるとともに、耐グリース性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本発明による熱可塑性エラストマー組成物は、不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム(以下、「成分(a)」という場合がある)、ポリプロピレン系樹脂(以下、「成分(b)」という場合がある)、軟化剤(以下、「成分(c)」という場合がある)、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以下、「成分(d)」という場合がある)、及び有機過酸化物(以下、「成分(e)」という場合がある)を必須成分として含む。以下、本発明による熱可塑性エラストマー組成物を構成する各成分について説明する。
【0016】
<成分(a):不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(a)として、不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴムを含む。成分(a)は、耐熱歪特性に重要な働きをする。成分(a)としては、特に制限されず、任意の不飽和ニトリルと任意の共役ジエンとを、乳化重合等の公知の方法により共重合して得たものを用いることができる。また、所望により、不飽和ニトリル及び共役ジエン以外のその他のモノマーを用いてもよい。
【0017】
不飽和ニトリルは、重合性の炭素-炭素二重結合とニトリル基(シアノ基)とを1分子内に有する重合性モノマーである。不飽和ニトリルとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、メチルα-イソプロピルアクリロニトリル、メチルα-n-ブチルアクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル化合物;2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-(2-シアノエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-(2-シアノエトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、4-(2-シアノエトキシ)ブチル(メタ)アクリレート、2-〔2-(2-シアノエトキシ)エトキシ〕エチル(メタ)アクリレート等のシアノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;フマロニトリル;及び2-メチレングルタロニトリル等を挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で、アクリロニトリルが好ましい。
【0018】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを包括する概念である。また、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを包括する概念である。
【0019】
成分(a)中の不飽和ニトリルに由来する構造単位の含有量(以下、「ニトリル含量」と略す場合がある)は、特に制限されないが、耐熱歪特性の観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、柔軟性の観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。ニトリル含量は、更に好ましくは30~50質量%である。ニトリル含量が、上記範囲にあると、柔軟性と耐熱歪特性とのバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0020】
共役ジエンは、2つの炭素-炭素二重結合が1つの炭素-炭素単結合により結合された構造を有する重合性モノマーである。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で、1,3-ブタジエン及びイソプレンが好ましい。
【0021】
成分(a)中の共役ジエンに由来する構造単位の含有量(以下、「ジエン含量」と略す場合がある)は、特に制限されないが、柔軟性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。また、耐グリース性の観点から、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0022】
成分(a)の不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴムは、構成モノマーとして上記した以外のものを含んでいてもよく、上記した飽和ニトリル及び共役ジエンと共重合可能なモノマーであれば特に制限されず、任意のモノマーを用いることができる。その他のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート化合物;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基と炭素-炭素二重結合とを有する重合性化合物;及びスチレン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
成分(a)中のその他のモノマーに由来する構造単位の含有量は、柔軟性と耐熱歪特性とのバランスの観点から、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0024】
成分(a)の不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴムとしては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、アクリロニトリルーブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(NBIR)、アクリロニトリル-イソプレン共重合体ゴム(NIR)、アクリロニトリルーブタジエン-ブトキシアクリレート共重合体ゴム、アクリロニトリルーブタジエンーアクリル酸共重合体ゴム、及びアクリロニトリルーブタジエンーメタクリル酸共重合体ゴムが挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらの中でも、耐グリース性の観点から、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)が好ましい。
【0025】
成分(a)は、柔軟性、及び成形性の観点から、JIS K6300-1-2013に準拠し、L形ロータを使用し、予熱時間1分間、ロータの回転時間4分間、及び試験温度100℃の条件で測定したムーニー粘度(ML(1+4)100℃)が、好ましくは20~120、より好ましくは40~100である。
【0026】
<成分(b):ポリプロピレン系樹脂>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(b)としてポリプロピレン系樹脂を含む。成分(b)は、溶融混練時の組成物の流動性をコントロールして、上記成分(a)などのゴム成分の組成物中での分散を良好にせしめる機能を付与する。
【0027】
成分(b)としては、例えば、プロピレン単独重合体;プロピレンと他の少量のα-オレフィン(例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1-ペンテン等)との共重合体(ブロック共重合体、及びランダム共重合体を含む。);等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0028】
成分(b)は、成形性の観点から、JIS K 7210-1999に準拠し、230℃、21.18Nの条件で測定したメルトマスフローレートが、好ましくは0.1~100g/10分である。
【0029】
成分(b)は、耐熱歪特性の観点から、DSC型示差走査熱量計を使用して、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)において、最も高い温度側に現れるピークのピークトップ融点が、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上である。ピークトップ融点の上限は特にないが、ポリプロピレン系樹脂であるから、せいぜい167℃である。なお、DSC型示差走査熱量計としては、例えば株式会社パーキンエルマージャパンのDiamondを使用することができる。
【0030】
成分(b)の配合量は、機械物性、組成物の調製容易性の観点から、上記成分(a)100質量部に対して15質量部以上、好ましくは25質量部以上である。柔軟性及び耐熱歪特性の観点から、150質量部以下、好ましくは120質量部以下である。より好ましくは、30~100質量部である。成分(b)の配合量が、上記範囲にあることで、柔軟性と耐熱歪特性とのバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0031】
<成分C:軟化剤>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(c)として軟化剤を含む。成分(c)は、柔軟性と耐熱歪特性とのバランスの向上に重要な働きをする。成分(c)としては、熱可塑性エラストマー組成物に使用される軟化剤を制限なく使用することができるが、本発明においては、柔軟性、耐熱歪特性、耐ブリード性、及び耐グリース性の観点から、非芳香族系ゴム用軟化剤(以下、「成分(c-1)」という場合がある)と、ポリエステル系可塑剤(以下、「成分(c-2)という場合がある」とを含むことが好ましい。
【0032】
成分(c-1)の非芳香族系ゴム用軟化剤は、非芳香族系の鉱物油(石油等に由来する炭化水素化合物)又は合成油(合成炭化水素化合物)であり、通常、常温では液状又はゲル状若しくはガム状である。ここで非芳香族系とは、鉱物油については、下記の区分において芳香族系に区分されない(芳香族炭素数が30%未満である)ことを意味する。合成油については、芳香族モノマーを使用していないことを意味する。
【0033】
ゴム用軟化剤として用いられる鉱物油は、パラフィン鎖、ナフテン環、及び芳香環の何れか1種以上の組み合わさった混合物であって、ナフテン環炭素数が30~45%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれ、ナフテン系にも芳香族系にも属さず、かつパラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものはパラフィン系と呼ばれて区別されている。
【0034】
成分(c-1)としては、例えば、直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、及びこれらの誘導体等のパラフィン系鉱物油;ナフテン系鉱物油;水素添加ポリイソブチレン、ポリイソブチレン、及びポリブテン等の合成油;等が挙げられる。これらのなかでも、相容性の観点から、パラフィン系鉱物油が好ましく、芳香族炭素数の少ないパラフィン系鉱物油がより好ましい。また取扱い性の観点から、室温で液状であるものが好ましい。成分(c-1)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。非芳香族系ゴム用軟化剤として市販のものを使用してもよく、例えば日本油脂株式会社のイソパラフィン系炭化水素油「NAソルベント(商品名)」、出光興産株式会社のn-パラフィン系プロセスオイル「PW-90(商品名)」及び「PW-380(商品名)」、出光石油化学株式会社の合成イソパラフィン系炭化水素「IP-ソルベント2835(商品名)」、及び三光化学工業株式会社n-パラフィン系プロセスオイル「ネオチオゾール(商品名)」等を挙げることができる。
【0035】
成分(c-1)は、耐熱性及び取扱い性の観点から、37.8℃における動的粘度が好ましくは20~1000cStである。また取扱い性の観点から、流動点が好ましくは-10~-15℃である。更に安全性の観点から、引火点(COC)が好ましくは170~300℃である。なお、本明細書において、動的粘度はJIS K 2283:2000に準拠して定法により測定することができる。流動点はJIS K 2269:1987に準拠して定法により測定することができる。引火点(COC)はJIS K 2265:2007に準拠して定法により測定することができる。
【0036】
成分(c-2)のポリエステル系可塑剤は、分子内に極性基を有し、常温で液体の合成化合物である。極性基を有し、炭化水素化合物ではないという点で成分(c-1)とは区別される。
【0037】
成分(c-2)としては、例えば、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-へキサンジオール、1,6-へキサンジオール、及びネオペンチルグリコールなどを用い、二塩基酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸などを用い、必要により一価アルコールやモノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらの中で、アジピン酸系ポリエステル可塑剤が好ましい。
【0038】
成分(c-2)の質量平均分子量(Mw)は、耐グリース性の観点から、通常900以上、好ましくは1000以上である。耐グリース性の観点からは、質量平均分子量は大きいほど好ましい。一方、組成物の調製の容易性の観点から、Mwは通常3000以下、好ましくは2000以下である。なお、本明細書において、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下「GPC」と略すことがある。)により測定した微分分子量分布曲線(以下、「GPC曲線」と略すことがある。)から求めたポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)を意味する。
【0039】
本発明においては、成分(c)が、20~60質量%の(c-1)非芳香族系ゴム用軟化剤と、80~40質量%の(c-2)ポリエステル系可塑剤とからなることが好ましい。ここで成分(c-1)と成分(c-2)との和は100質量%である。成分(c-1)が60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下(成分(c-2)が40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上)であることにより、耐ブリード性の良好な熱可塑性エラストマー組成物を得られやすくなる。また、成分(c-1)が20質量%以上、更に好ましくは、30質量%以上(成分(c-2)が80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下)であることにより、耐グリース性の良好な熱可塑性エラストマー組成物を得られやすくなる。成分(c-1)と成分(c-2)との割合が上記範囲にあることで、柔軟性、耐熱歪特性、耐ブリード性、及び耐グリース性のバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0040】
成分(c)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、柔軟性及び耐熱歪特性の観点から、20質量部以上、好ましくは40質量部以上である。耐熱歪特性、機械物性、耐ブリード性、及び組成物の調製の容易性の観点から、160質量部以下、好ましくは120質量部以下である。
【0041】
<成分(d):芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(d)として芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物を含む。成分(d)は、耐グリース性及び機械物性の向上に、重要な働きをする。
【0042】
本発明においては、成分(d)は、40~70質量%の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以下、「成分(d-1)」という場合がある)と、30~60質量%のアミン変性による芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以下、「成分(d-2)」という場合がある)とからなる。ここで成分(d-1)と成分(d-2)との和は100質量%である。成分(d-1)が70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下(成分(c-2)が30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上)であることにより、耐ブリード性の良好な熱可塑性エラストマー組成物を得られやすくなる。また、成分(d-1)が40質量%以上、更に好ましくは、50質量%以上(成分(d-2)が60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下)であることにより、耐グリース性の良好な熱可塑性エラストマー組成物を得られやすくなる。成分(d-1)と成分(d-2)との割合が上記範囲にあることで、柔軟性、耐グリース性、及び耐ブリード性のバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0043】
成分(d-1)である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物からなる群から選択される1種以上である。成分(d-1)は、モノマーとして不飽和ニトリルが使用されていないという点で、上記成分(a)とは区別される。成分(d-1)は、耐グリース性及び機械物性を良好にする働きをする。
【0044】
芳香族ビニル化合物は、重合性の炭素-炭素二重結合と芳香環を有する重合性モノマーである。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、及びp-第3ブチルスチレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでもスチレンが好ましい。
【0045】
共役ジエンは、上記成分(a)の説明において上述した化合物を挙げることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、1,3-ブタジエン及びイソプレンが好ましい。
【0046】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体は、耐グリース性及び機械物性の観点から、好ましくは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの2個以上と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの1個以上とからなるブロック共重合体である。例えば、A-B-A、B-A-B-A、及びA-B-A-B-Aなどの構造を有するブロック共重合体を挙げることができる。
【0047】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、機械物性及び耐グリース性の観点から、好ましくは5~60質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0048】
重合体ブロックAは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体ブロック又は芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックである。重合体ブロックAが共重合体ブロックである場合における、重合体ブロックA中の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、通常50質量%以上、機械物性及び耐グリース性の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。重合体ブロックA中の共役ジエン化合物に由来する構造単位の分布は、特に制限されず、任意である。重合体ブロックAが2個以上あるとき、これらは同一構造であってもよく、互いに異なる構造であってもよい。
【0049】
重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のみからなる重合体ブロック又は芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックである。重合体ブロックBが共重合体ブロックである場合における、重合体ブロックB中の共役ジエン化合物に由来する構造単位の含有量は、通常50質量%以上、柔軟性及び機械物性の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。重合体ブロックB中の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の分布は、特に制限されず、任意である。共役ジエン化合物と共役ジエン化合物との結合様式(以下、ミクロ構造と略すことがある。)は、特に制限されず、任意である。重合体ブロックBが2個以上あるとき、これらは同一構造であってもよく、互いに異なる構造であってもよい。
【0050】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の数平均分子量は、耐グリース性及び機械物性の観点から、好ましくは5,000~1,500,000、より好ましくは、10,000~550,000、更に好ましくは100,000~400,000である。分子量分布(質量平均分子量/数平均分子量)は、機械物性の観点から、好ましくは10以下である。
【0051】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の分子鎖構造は、直鎖状、分岐状、放射状、及びこれらの任意の組合せの何れであってもよい。
【0052】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体としては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、及びスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等が挙げられ、これら1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体としては、特に制限されず、任意の芳香族ビニル化合物と任意の共役ジエンとを、特公昭40-023798号公報に記載された方法等の公知の方法により共重合して得たものを用いることができる。
【0054】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物は、上記芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体中の炭素-炭素二重結合に水素を添加して炭素-炭素単結合にすることにより得られる。上記水素添加は、公知の方法、例えば、不活性溶媒中で水素添加触媒を用いて水素処理することにより行うことができる。
【0055】
水素添加物の水素添加率(水素添加前の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体中の炭素-炭素二重結合の数に対する水素添加により炭素-炭素単結合となった結合の数の割合。)は、特に制限されないが、耐ブリード性の観点から、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上であってよい。
【0056】
水素添加物の共役ジエン重合体ブロックが、ブタジエン重合体ブロックである場合、そのミクロ構造は、1,2-結合が、柔軟性の観点から、好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~45質量%であってよい。また耐熱老化性及び耐候性の観点から、1,2-結合を選択的に水素添加したものであってよい。
【0057】
水素添加物の共役ジエン重合体ブロックが、イソプレンとブタジエンとの共重合ブロックである場合、そのミクロ構造は、1,2-結合が、耐熱老化性及び耐候性の観点から、好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、更に好ましくは15%未満であってよい。
【0058】
水素添加物の共役ジエン重合体ブロックが、イソプレン重合体ブロックである場合、そのミクロ構造は、1,4-結合が、柔軟性の観点から、好ましくは70~100質量%であってよい。水素添加率は、耐ブリード性の観点から、90質量%以上が好ましい。
【0059】
水素添加物中の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、耐グリース性及び機械物性の観点から、好ましくは5~70質量%、より好ましくは20~50質量%である。上記水素添加物の数平均分子量は、耐ブリード性の観点から、好ましくは150,000以上、より好ましくは200,000以上である。相溶性の観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下である。
【0060】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物としては、スチレン-エチレン-ブテン共重合体(SEB)、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-ブテン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)等が挙げられ、これら1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、柔軟性、耐グリース性、及び耐熱歪特性の観点から、スチレン-エチレン-ブテン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)が好ましい。
【0061】
成分(d-2)のアミン変性による芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物は、上記した成分(d-1)である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との共重合体の水素添加物にアミン化合物が共重合(通常はグラフト共重合)されている化合物である。成分(d-2)は、耐グリース性を良好にする働きをする。
【0062】
成分(d-2)は、任意の成分(d-1)と任意のアミン化合物とを用い、公知の方法で反応させることにより得ることができる。例えば、有機過酸化物の存在下、任意の成分(d-1)と任意のアミン化合物と溶融混錬する方法を挙げることができる。使用するアミン化合物としては、例えば、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、及び複素環式アミン化合物等が挙げられる。
【0063】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、脂肪族1級アミン化合物、脂肪族2級アミン化合物、脂肪族3級アミン化合物、及び脂肪族多価アミン化合物(1分子中に2個以上のアミン基を有する脂肪族アミン化合物)等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0064】
脂肪族1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、tert‐ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、及びシクロヘキシルアミン等の飽和脂肪族1級アミン化合物;ドデセニルアミン、オクタデセニルアミン、及びドコセニルアミン等の不飽和脂肪族1級アミン化合物;等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0065】
脂肪族2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、及びジシクロヘキシルアミン等の飽和脂肪族2級アミン化合物;並びに、不飽和脂肪族2級アミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0066】
脂肪族3級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、N,N‐ジイソプロピルエチルアミン、及びN,N‐ジメチルシクロヘキシルアミン等の飽和脂肪族3級アミン化合物;N,N‐ジメチルオクタデセニルアミン等の不飽和脂肪族3級アミン化合物;等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0067】
脂肪族多価アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びN,N,N’,N’‐テトラメチルエチレンジアミン挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0068】
芳香族アミン化合物としては、例えば、アニリン類(アニリン及びその誘導体)、及びアリールアルキルアミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0069】
アニリン類としては、例えば、アニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジン、フェネチジン、4‐エチルアニリン、2‐エチルアニリン、及び4‐イソプロピルアニリン等のアニリン類であって1級アミンである化合物;N‐メチルアニリン、N‐エチルアニリン、及びN‐イソプロピルアニリン等のアニリン類であって2級アミンである化合物;N,N‐ジメチルアニリン、N,N‐ジエチルアニリン、及びN,N‐ジイソプロピルアニリン等のアニリン類であって3級アミンである化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0070】
アリールアルキルアミン化合物としては、例えば、ベンジルアミン、1-フェニルエチルアミン、及び2-フェニルエチルアミン等のアリールアルキル1級アミン化合物;N‐メチルベンジルアミン等のアリールアルキル2級アミン化合物;N,N‐ジエチルベンジルアミン等のアリールアルキル3級アミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0071】
複素環式アミン類としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール、2‐チエニルアミン、及び2‐チエニルメチルアミン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0072】
上記したアミン化合物の配合量は、成分d-2100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上であってよい。一方、ゲルの発生を抑止し、塗工性を良好に保つ観点から、通常20質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下であってよい。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(d)の含有量は、成分(a)を100質量部として5~80質量部であり、柔軟性及び耐グリース性の観点から、好ましくは15質量部以上である。また、機械物性、耐ブリード性、及び組成物の調製の容易性の観点から、好ましくは60質量部以下である。
【0074】
<成分(e):有機過酸化物>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(e)として有機過酸化物を含む。成分(e)は、過酸化水素の水素原子の1個又は2個を有機の遊離基で置換した化合物であり、その分子内に過酸化結合を有するため、溶融混練時にラジカルを発生せしめ、そのラジカルを連鎖的に反応させて、上記成分(a)や上記成分(d)を架橋せしめる働きをする。また、同時に上記成分(b)を分解して溶融混練時の組成物の流動性をコントロールしてゴム成分の分散を良好にせしめる働きをする。
【0075】
成分(e)としては、例えば、ジクミルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3、3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、及びtert-ブチルクミルパーオキシド等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。これらのなかでも、臭気性、着色性、及びスコーチ安全性の観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0076】
成分(e)の配合量は、耐グリース性の観点から、上記成分(a)100重量部に対して0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上である。また、機械物性の観点から、0.6質量部以下、好ましくは0.4質量部以下である。成分(e)の配合量は、より好ましくは0.2~0.4質量部である。成分(e)の配合量が、上記範囲にあることで、柔軟性と耐グリース性とのバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0077】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記した成分(a)~(e)以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、ステアリン酸、シリコーンオイル等の離型剤、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、発泡剤(有機系、無機系)などを配合することができる。上記した添加剤に特に制限はなく公知のものを使用することができる。例えば、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等を使用することができる。
【0078】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(a)~(e)、及び所望に応じて用いる任意成分を、同時に、又は任意の順に加えて、任意の溶融混練機を使用して、溶融混練することに製造することができる。
【0079】
溶融混練の方法は、特に制限はなく、通常公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。例えば、適度なL/Dの二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等を用いることにより、上記操作を連続して行うこともできる。溶融混練の温度は、各成分の配合割合に応じて適宜設定できるが、成分(e)が確実に働くようにする観点から、成分(e)の1分半減期温度以上の温度で1分間以上行うことが好ましい。成分(e)の1分半減期温度以上の温度で2分間以上行うことがより好ましい。また溶融混練温度は、機械物性、組成物の製造性、及び射出成型性の観点から、通常240℃以下、好ましくは220℃以下であってよい。
【0080】
[成形物]
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、任意の方法でペレット化した後、任意の方法で任意の物品に成形することができる。ペレット化は、ホットカット、ストランドカット、及びアンダーウォーターカット等の方法により行うことができる。
【0081】
[用途]
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、上記のような特性を有していることより、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療用部品、履物、及び雑貨などに好適に用いることができる。特に、燃料チューブ、ダイヤフラム、ジョイント部のブーツ、パッキン、シール等の自動車部品の材料として有用である。
【実施例0082】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
本明細書において、実施例および比較例において用いた試験片の製造方法、評価方法および原料は以下の通りである。
【0084】
<評価方法>
(1)硬さ
表1及び2に示す各組成物から押出成形機を用いてJIS K 6253に準拠した6.3mm厚円柱状のプレスシートを作製し、試験片とした。得られた試験片をデュロメータ(高分子計器株式会社製、AUTO DUROMETER P-2型)を用いて、デュロメータ硬さ・タイプA(ショアA)を測定した。測定結果は表1及び2に示すとおりであった。
なお、好ましい硬さは45~90であり、より好ましくは55~80である。
【0085】
(2)機械物性(引張強さ、及び引張伸び)
表1及び2に示す各組成物から押出成形機を用いてJIS K 6251-2010に準拠した1mm厚プレスシートを作製し、プレスシートから打抜いた3号ダンベルを試験片とし、引張速度500mm/分の条件で測定した。測定結果は表1及び2に示すとおりであった。
なお、好ましい引張強さは3.0MPa以上、より好ましくは5.0MPa以上であり、好ましい引張伸びは150%以上、より好ましくは200%以上である。
【0086】
(3)耐熱グリース性(高温における耐グリース性)
表1及び2に示す各組成物を用いてJIS K 6258-2016に準拠したプレスシート(厚さ2mm)、及び押出テープ(幅22mm、厚さ1mm)を作製し、試験片とした。試験片を、マルテンプWR194(リチウム系グリース、協同油脂株式会社製)に温度115℃で240時間浸漬した後の物性変化(率)を測定した。物性変化(率)は、硬さ変化及び寸法変化率を測定した。寸法変化率は押出テープの幅方向の寸法変化率である。測定結果は表1及び2に示すとおりであった。
なお、好ましい硬さ変化は0以下、より好ましくは-2以下である。また、好ましい寸法変化率は0%以上であり、より好ましくは2%以上である。
【0087】
(4)圧縮永久歪(高温における圧縮永久歪)
表1及び2に示す各組成物を用いてJIS K 6262-2003に準拠した6.3mm厚の円柱状のプレスシートを作製し、試験片とした。試験片に厚さ25%に相当する圧縮歪みを付与し70℃×22時間保持した後に歪み開放し、1時間後に圧縮永久歪み率(%)を測定した。測定結果は表1及び2に示すとおりであった。
なお、好ましい圧縮永久歪の範囲は70%以下であり、より好ましくは60%以下である。
【0088】
(5)耐ブリード性
上記(3)の耐熱グリース性評価を行った後の試験片の表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:シート表面にブリードの発生は認められない
△:シート表面にブリードが若干認められる
×:シート表面にブリードが顕著に発生している
評価結果は、下記の表1及び2に示すとおりであった。
【0089】
(6)組成物の調製容易性
表1及び2に示す各組成物を二軸押出機とストランドカット方式の造粒機とを備えた装置を使用し、押出機出口温度180℃の条件で溶融混練したときの製造性を、以下の基準で評価した。
○:ストランドが安定して引ける
△:ストランドが時折不安定である
×:ストランドが安定しない
評価結果は、下記の表1及び2に示すとおりであった。
【0090】
(7)成型性
表1及び2に示す各組成物を20mm単軸押出成形機を使用し、ダイ出口温度200℃の条件で、厚み1mm、幅22mmのシートを押出成形した際の、引取性(ドローダウン性)、リップ口における汚染状況や滞留物(目脂)の有無を観察し、以下の基準で評価した。
○:全く不具合がない
△:リップ口に若干の目脂付着が見られる
×:引取性に問題がある、及び/又はリップ口に目脂付着が見られる
評価結果は、下記の表1及び2に示すとおりであった。
【0091】
<使用した材料>
成分(a):不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体ゴム
(a-1)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム
JSR株式会社製「PNC-48(商品名)」、ニトリル含量30質量%、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)60
(a-2)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム
JSR株式会社製「PN-30A(商品名)」、ニトリル含量35質量%、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)56
(a’-1)塩素化ブチルゴム
JSR株式会社製「CHLOROBUTYL1066(商品名)」、比重0.92、ムーニー粘度(ML(1+8)125℃)38、塩素含量1.2質量%
【0092】
成分(b):ポリプロピレン系樹脂
(b-1)ポリプロピレン樹脂
サンアロマー株式会社製「PX600N(商品名)」、メルトマスフローレート(230℃、21.2N)7.5g/10分
【0093】
成分(c):軟化剤
(c-1)パラフィンオイル
出光興産株式会社製「ダイアナプロセスオイルPW-380(商品名)」、パラフィン成分73質量%、ナフテン成分27質量%
(c-2)ポリエステル系可塑剤
株式会社ADEKA製「アデカサイザーPN-230(商品名)」、分子量2000
【0094】
成分(d):芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物
(d-1)スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体
クラレ株式会社製「SEPTON4077(商品名)」
(d-2)アミン変性スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体
旭化成株式会社製「タフテックMP10(商品名)」。
(d’-2)マレイン酸無水物変性スチレン-エチレン-ブテン-スチレンブロック共重合体
旭化成株式会社製「タフテックM1913(商品名)」
【0095】
成分(e):有機過酸化物
(e)2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン
日本油脂株式会社製「パーヘキサ25B(商品名)」、1分半減期温度179℃
【0096】
表1に示す組成に従って上記した各原料を混合し、L/Dが47の二軸押出機(日本製鋼所株式会社製、TEX28)を用いて混練温度180℃で溶融混練し、ペレット化した。
得られたペレットを用いて上記した(1)~(7)評価用の試験片を作製した。なお、表中の組成の数値は質量部を表す。
【0097】
【0098】
【0099】
表1及び2に示す評価結果からも明らかなように、本発明の熱可塑性エラストマー組成物(実施例1~20)は、非常に柔軟であり、かつ耐グリース性、耐熱歪特性が非常に優れている。また機械物性、耐ブリード性、組成物の調製容易性、及び押出成形性にも優れていることがわかる。
一方、比較例1~11の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、耐グリース性、耐熱歪特性、機械物性、耐ブリード性、組成物の調製容易性、押出成形性の少なくとも何れか1つ以上が不十分であることがわかる。