(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012911
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】クリープ変位差吸収機構及び免震建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230119BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
E04H9/02 331D
F16F15/04 E
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116672
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】小田島 暢之
(72)【発明者】
【氏名】岡村 祥子
(72)【発明者】
【氏名】田渕 浩司
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC19
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139CA02
2E139CA11
2E139CA21
2E139CB01
2E139CB04
2E139CC02
3J048AA03
3J048BA08
3J048BG02
3J048BG04
3J048CB09
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことが可能なクリープ変位差吸収機構及び免震建物を提供する。
【解決手段】クリープ変位差吸収機構30は、免震建物10の免震層16に配置されたクリープ特性が異なる複数の積層ゴム支承22及びすべり支承20のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ないすべり支承20の上側に設けられた積層ゴム支承32と、積層ゴム支承32の外周部に設けられ、積層ゴム支承32の鉛直方向への変形を許容し、かつ、積層ゴム支承32の水平方向への変形を規制する許容規制部材34と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震建物の免震層に配置されたクリープ特性が異なる複数の免震支承のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承の上側及び下側の少なくとも一方に設けられた積層ゴム支承と、
前記積層ゴム支承の外周部に設けられ、前記積層ゴム支承の鉛直方向への変形を許容し、かつ、前記積層ゴム支承の水平方向への変形を規制する許容規制部材と、
を備えるクリープ変位差吸収機構。
【請求項2】
前記許容規制部材は、
前記積層ゴム支承の上部取付部材に設けられた第1規制板と、
前記積層ゴム支承の下部取付部材に設けられた第2規制板と、
前記第1規制板及び前記第2規制板の一方に形成され、鉛直方向に長い長孔と、
前記第1規制板及び前記第2規制板の他方に固定され、前記長孔に挿通されるボルトと、
前記ボルトに螺合され、前記第2規制板に対する前記第1規制板の移動を許容するナットと、
を有する、請求項1に記載のクリープ変位差吸収機構。
【請求項3】
前記一の免震支承は、すべり支承又は転がり支承である、請求項1又は請求項2に記載のクリープ変位差吸収機構。
【請求項4】
免震層に配置された他の積層ゴム支承と、
前記免震層に配置され、クリープによる鉛直方向の歪量が前記他の積層ゴム支承と比して少ない一の免震支承と、
前記他の積層ゴム支承のクリープによる歪量と前記一の免震支承のクリープによる歪量との差を吸収する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のクリープ変位差吸収機構と、
を備える免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ変位差吸収機構及び免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の種類の免震装置が配置された免震層を備えた建築物がある。このような建築物では、例えば、複数の種類の免震装置のクリープ特性が異なる場合、クリープによる歪量が経時変化により夫々の免震装置間で異なることで、歪量が小さい免震装置への軸力の移行が生じ、免震装置に支持されている梁に損傷が生じる可能性がある。
【0003】
下記特許文献1には、転がり支承部の下側に配置された積層ゴムと、積層ゴムの水平方向の移動を規制する水平移動拘束部と、を有する支承装置が開示されている。この支承装置では、積層ゴムを貫通するアンカーボルトの上部に、ベースプレートに固定されると共にアンカーボルトに緊結された緊結機構が設けられている。緊結機構は、長期荷重により積層ゴムが沈み込んだ際にアンカーボルトとの緊結状態を保持している。この支承装置では、緊結機構により、積層ゴムの鉛直方向の変形を許容すると共に変形量を規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の支承装置では、水平移動拘束部と緊結機構とは別部材とされており、部品の種類が多くなる。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことが可能なクリープ変位差吸収機構及び免震建物を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に記載のクリープ変位差吸収機構は、免震建物の免震層に配置されたクリープ特性が異なる複数の免震支承のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承の上側及び下側の少なくとも一方に設けられた積層ゴム支承と、前記積層ゴム支承の外周部に設けられ、前記積層ゴム支承の鉛直方向への変形を許容し、かつ、前記積層ゴム支承の水平方向への変形を規制する許容規制部材と、を備えている。
【0008】
クリープ特性が異なる複数の免震支承では、クリープによる鉛直方向の歪量(すなわち、変形量)が異なるが、第1態様に記載のクリープ変位差吸収機構では、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承の上側及び下側の少なくとも一方に積層ゴム支承が設けられている。さらに、積層ゴム支承の外周部には、積層ゴム支承の鉛直方向への変形を許容する許容規制部材が設けられている。許容規制部材により積層ゴム支承の鉛直方向への変形が許容されることで、クリープによる免震支承の鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。このため、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承への軸力の移行が抑制され、一の免震支承に支持されている梁に損傷が生じることが抑制される。
また、許容規制部材によって、積層ゴム支承の水平方向への変形が規制されることで、水平方向の振動特性に影響を与えることなく、クリープによる鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。
さらに、許容規制部材が積層ゴム支承の外周部に設けられていることで、水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことができる。
【0009】
第2態様に記載のクリープ変位差吸収機構は、第1態様に記載のクリープ変位差吸収機構において、前記許容規制部材は、前記積層ゴム支承の上部取付部材に設けられた第1規制板と、前記積層ゴム支承の下部取付部材に設けられた第2規制板と、前記第1規制板及び前記第2規制板の一方に形成され、鉛直方向に長い長孔と、前記第1規制板及び前記第2規制板の他方に固定され、前記長孔に挿通されるボルトと、前記ボルトに螺合され、前記第2規制板に対する前記第1規制板の移動を許容するナットと、を有する。
【0010】
第2態様に記載のクリープ変位差吸収機構によれば、積層ゴム支承の上部取付部材に第1規制板が設けられ、下部取付部材に第2規制板が設けられている。第1規制板及び第2規制板の一方には、鉛直方向に長い長孔が形成され、第1規制板及び第2規制板の他方に固定されたボルトが長孔に挿通されている。このボルトには、ナットが螺合され、第2規制板に対して第1規制板の移動が許容されている。
また、積層ゴム支承に引き抜き力が作用しても、ボルトが長孔の終端部に接触して第1規制板の上方への移動が規制されるため、積層ゴム支承が破損することが抑制される。
【0011】
第3態様に記載のクリープ変位差吸収機構は、第1態様又は第2態様に記載のクリープ変位差吸収機構において、前記一の免震支承は、すべり支承又は転がり支承である。
【0012】
第3態様に記載のクリープ変位差吸収機構によれば、一の免震支承は、すべり支承又は転がり支承であり、一の免震支承の上側及び下側の少なくとも一方に積層ゴム支承を設けることで、クリープによる鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。
【0013】
第4態様に記載の免震建物は、免震層に配置された他の積層ゴム支承と、前記免震層に配置され、クリープによる鉛直方向の歪量が前記他の積層ゴム支承と比して少ない一の免震支承と、前記他の積層ゴム支承のクリープによる歪量と前記一の免震支承のクリープによる歪量との差を吸収する第1態様から第3態様までのいずれか1つの態様に記載のクリープ変位差吸収機構と、を備えている。
【0014】
第4態様に記載の免震建物によれば、一の免震支承と他の積層ゴム支承はクリープによる鉛直方向の歪量(すなわち、変形量)が異なるが、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承の上側及び下側の少なくとも一方に積層ゴム支承を設けることで、クリープによる鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。このため、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承への軸力の移行が抑制され、一の免震支承に支持されている梁に損傷が生じることが抑制される。
さらに、許容規制部材が積層ゴム支承の外周部に設けられていることで、水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態のクリープ変位差吸収機構を備えた免震建物の一例を示す立面図である。
【
図2】第1実施形態のクリープ変位差吸収機構を示す正面図である。
【
図4】第1実施形態のクリープ変位差吸収機構に用いられる許容規制部材を示す断面図である。
【
図5】変形例のクリープ変位差吸収機構に用いられる許容規制部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。なお、各図面において適宜示される矢印UPで示す方向を鉛直方向の上方側とする。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1~
図4にしたがって、第1実施形態に係るクリープ変位差吸収機構及び免震建物について説明する。
【0019】
図1には、第1実施形態に係るクリープ変位差吸収機構30を備えた免震建物10が示されている。
図1に示されるように、免震建物10は、基礎12と建物本体14との間に設けられた免震層16を備えている。
【0020】
建物本体14は、一例として、複数の階層からなる鉄骨造のラーメン構造である。なお、建物本体14の構造形式は、変更が可能であり、例えば、鉄筋コンクリート造、又は鉄骨鉄筋コンクリート造等でもよい。
【0021】
建物本体14は、免震層16上に支持された複数の柱110と、柱110の間に設けられた梁112と、を備えている。図示を省略するが、梁112の上部には、スラブが施工されている。
【0022】
免震層16には、クリープ特性が異なる複数の免震支承の一例として、すべり支承20と、積層ゴム支承22とが配置されている。すべり支承20は、積層ゴム支承22と比較して、クリープによる鉛直方向の歪量(すなわち、変形量)が少ない。すべり支承20は、複数の免震支承のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承の一例である。また、積層ゴム支承22は、他の積層ゴム支承の一例である。
【0023】
積層ゴム支承22及びすべり支承20は、複数設けられている。免震建物10では、積層ゴム支承22の上側及びすべり支承20の上側に、建物本体14の複数の柱110がそれぞれ支持されている。
【0024】
本実施形態の免震建物10では、免震層16に、積層ゴム支承22のクリープによる歪量とすべり支承20のクリープによる歪量との差を吸収するクリープ変位差吸収機構30が設けられている。クリープ変位差吸収機構30は、免震層16に複数設けられたすべり支承20の上側にそれぞれ設けられている。
【0025】
図2に示されるように、クリープ変位差吸収機構30は、すべり支承20の上側に設けられた積層ゴム支承32と、積層ゴム支承32の外周部に設けられた許容規制部材34と、を備えている。本実施形態では、許容規制部材34は複数設けられおり、平面視で積層ゴム支承32を囲むように配置されている(
図3参照)。
【0026】
基礎12上には、ベースプレート24が設けられており、ベースプレート24の上にはすべり板26が設けられている。すべり板26及びベースプレート24は、アンカーボルトとナット等の固定具28で基礎(本実施形態では、下部基礎)12に固定されている。すべり支承20は、すべり板26の上に水平方向に変位可能(すなわち、摺動可能)に配置されている。
【0027】
すべり支承20の上には、すべり支承20の水平方向の長さよりも長いフランジ鋼板40が設けられている。フランジ鋼板40は、すべり支承20に固定されている。フランジ鋼板40の上には、下部フランジ鋼板42が設けられている。下部フランジ鋼板42は、フランジ鋼板40に取付ボルトとナット等の固定具44により固定されている。
【0028】
図2及び
図3に示されるように、積層ゴム支承32は、下部フランジ鋼板42の上に設けられている。積層ゴム支承32は、例えば、下部フランジ鋼板42の上面に接着(例えば、加硫接着)等により固定されている。一例として、積層ゴム支承32は、平面視にて矩形状とされており、角部が斜め方向に切り欠かれている。
【0029】
積層ゴム支承32の上には、上部フランジ鋼板46が設けられており、上部フランジ鋼板46の上には、上部プレート48が設けられている。積層ゴム支承32は、上部フランジ鋼板46に接着(例えば、加硫接着)等により固定されている。上部プレート48の上面は、上部基礎50の下部に接触している。上部プレート48及び上部フランジ鋼板46は、上部基礎50にアンカーボルト及びナット等の固定具52により固定されている。
【0030】
図2及び
図4に示されるように、許容規制部材34は、積層ゴム支承32の側方に設けられている。許容規制部材34は、積層ゴム支承32の鉛直方向への変形を許容し、かつ、積層ゴム支承32の水平方向への変形を規制する機能を有する。許容規制部材34は、上部フランジ鋼板46に設けられた第1規制板62と、下部フランジ鋼板42に設けられた第2規制板60と、を備えている。さらに、許容規制部材34は、第2規制板60に形成された長孔64と、第1規制板62に固定されると共に長孔64に挿通されるボルト66と、ボルト66に螺合されるナット68と、を備えている。下部フランジ鋼板42は、下部取付部材の一例であり、上部フランジ鋼板46は、上部取付部材の一例である。
【0031】
第1規制板62は、上部フランジ鋼板46に固定されており、上部フランジ鋼板46の下面から下方側に延びている。第1規制板62は、積層ゴム支承32の側面の側方(すなわち、積層ゴム支承32の側面の外側)に鉛直方向に沿って配置されている。一例として、第1規制板62の表面は、積層ゴム支承32の側面と交差(本実施形態では直交)する方向に配置されており、第1規制板62の端面が積層ゴム支承32の側面と近接対向している(
図3参照)。
【0032】
第2規制板60は、下部フランジ鋼板42に固定されており、下部フランジ鋼板42の上面から上方側に延びている。第2規制板60は、積層ゴム支承32の側方(すなわち、積層ゴム支承32の側面の外側)に鉛直方向に沿って配置されている。第2規制板60は、第1規制板62に沿って配置されており、第1規制板62に接触している。一例として、第2規制板60の表面は、積層ゴム支承32の側面と交差(本実施形態では直交)する方向に配置されており、第2規制板60の端面が積層ゴム支承32の側面と近接対向している(
図3参照)。
【0033】
第2規制板60に形成された長孔64は、鉛直方向に長い。例えば、長孔64は、長円形である(
図2参照)。本実施形態では、第2規制板60の横方向にほぼ平行に2列の長孔64が形成されている。
【0034】
図4に示されるように、ボルト66は、長孔64に挿通される軸部66Aと、軸部66Aの軸方向の一端部に形成された頭部66Bと、を備えている。長孔64の鉛直方向と直交する方向の内径は、軸部66Aの直径より大きく、軸部66Aが長孔64の内部を上下方向に相対的に移動可能とされている。頭部66Bの直径は、長孔64の鉛直方向と直交する方向の内径より大きく、頭部66Bが第1規制板62における長孔64の周囲の壁面に接触し、頭部66Bが長孔64から抜け出さない構成とされている。
【0035】
第1規制板62には、ボルト66の軸部66Aが貫通する円形の貫通孔70が形成されている。ナット68は、ボルト66の軸部66Aに螺合されている。ナット68により、ボルト66は、軸部66Aが長孔64に挿通された状態で、第1規制板62に固定されている。また、ナット68は、ボルト66に螺合された状態で、第2規制板60に対する第1規制板62の移動を許容している。
【0036】
図2及び
図3に示されるように、第1規制板62には、横方向に2つのボルト66が固定されており、それぞれのボルト66の軸部66Aが第2規制板60の2つの長孔64に挿通されている。
【0037】
許容規制部材34は、上記のように、ボルト66の軸部66Aが長孔64に挿通され、第2規制板60に対する第1規制板62の移動を許容している。これにより、許容規制部材34は、積層ゴム支承32の鉛直方向への変形を許容する機能を有する。また、許容規制部材34は、ボルト66の軸部66Aが長孔64に挿通されていることで、積層ゴム支承32の鉛直方向の変形量を規制している。本実施形態では、積層ゴム支承32がクリープにより鉛直方向に変形したときに、ボルト66の軸部66Aが長孔64の下側終端部に接触しないように設計されている。また、積層ゴム支承32に引き抜き力が作用したときに、ボルト66の軸部66Aが長孔64の上側終端部に接触することで、第1規制板62及び積層ゴム支承32の上方への変位量が規制される。さらに、許容規制部材34は、第1規制板62の端面及び第2規制板60の端面が積層ゴム支承32の側面と近接対向することで、積層ゴム支承32の水平方向への変形を規制する機能を有する。
【0038】
本実施形態では、複数の許容規制部材34が積層ゴム支承32を囲むように配置されており、夫々の許容規制部材34に設けられた第1規制板62及び第2規制板60が積層ゴム支承32の側面と近接対向している(
図3参照)。複数の許容規制部材34により、積層ゴム支承32の外周部のいずれの方向においても、積層ゴム支承32の水平方向への変形が規制される(すなわち、水平方向への変位が拘束される)ようになっている。一例として、第1規制板62及び第2規制板60は、積層ゴム支承32の周囲にほぼ等しい間隔で配置されている。
【0039】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0040】
クリープ特性が異なる複数の免震支承(すべり支承20及び積層ゴム支承22)では、クリープによる鉛直方向の歪量(すなわち、変形量)が異なるが、クリープ変位差吸収機構30では、複数の免震支承(すべり支承20及び積層ゴム支承22)のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ないすべり支承20の上側に積層ゴム支承32が設けられている。さらに、積層ゴム支承32の外周部には、積層ゴム支承32の鉛直方向への変形を許容する許容規制部材34が設けられている。許容規制部材34により積層ゴム支承32の鉛直方向への変形が許容されることで、クリープによる免震支承(すべり支承20及び積層ゴム支承22)の鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。このため、クリープによる鉛直方向の歪量が少ないすべり支承20への軸力の移行が抑制され、すべり支承20に支持されている梁112に損傷が生じることが抑制される。また、クリープ変位差吸収機構30を設けることで、すべり支承20と積層ゴム支承22の変位差によって生じる応力に対して、梁112の断面を大きくする必要がない。
【0041】
また、許容規制部材34によって、積層ゴム支承32の水平方向への変形が規制されることで、水平方向の振動特性に影響を与えることなく、クリープによる鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。許容規制部材34によって、例えば、積層ゴム支承32が水平方向に変形してからすべり支承20が変位することが抑制される。
【0042】
さらに、許容規制部材34が積層ゴム支承32の外周部に設けられていることで、水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことができる。
【0043】
また、クリープ変位差吸収機構30では、許容規制部材34は、上部フランジ鋼板46に設けられた第1規制板62と、下部フランジ鋼板42に設けられた第2規制板60と、を備えている。第2規制板60には、鉛直方向に長い長孔64が形成され、第1規制板62に固定されたボルト66が長孔64に挿通されている。ボルト66には、ナット68が螺合され、第2規制板60に対して第1規制板62の移動が許容されている。
【0044】
このようなクリープ変位差吸収機構30では、ボルト66が長孔64に挿通されていることで、積層ゴム支承32の鉛直方向への変形が許容されると共に、積層ゴム支承32の鉛直方向の変形量が規制される。これにより、積層ゴム支承32に引き抜き力が作用しても、ボルト66が長孔64の上側終端部に接触して第1規制板62の上方への移動が規制されるため、積層ゴム支承32が破損することが抑制される。
【0045】
また、クリープ変位差吸収機構30では、免震建物10の免震層16に配置されたクリープ特性が異なる複数の免震支承(すべり支承20及び積層ゴム支承22)のうち、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承として、すべり支承20が設けられている。このため、すべり支承20の上側に積層ゴム支承32を設けることで、クリープによる鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。
【0046】
また、免震建物10は、免震層16に配置された積層ゴム支承22と、免震層16に配置されると共にクリープによる鉛直方向の歪量が積層ゴム支承22と比して少ないすべり支承20と、を備えている。さらに、免震建物10は、積層ゴム支承22のクリープによる歪量とすべり支承20のクリープによる歪量との差を吸収するクリープ変位差吸収機構30を備えている。
【0047】
免震建物10では、すべり支承20と積層ゴム支承22はクリープによる鉛直方向の歪量が異なるが、クリープによる鉛直方向の歪量が少ないすべり支承20の上側に積層ゴム支承32を設けることで、クリープによる鉛直方向の歪量の違いをキャンセルできる。このため、クリープによる鉛直方向の歪量が少ないすべり支承20への軸力の移行が抑制され、すべり支承20に支持されている梁112に損傷が生じることが抑制される。
【0048】
さらに、免震建物10では、許容規制部材34が積層ゴム支承32の外周部に設けられていることで、水平方向の移動を規制する水平規制部と鉛直方向の変形量を規制する鉛直規制部とが夫々設けられている場合と比較して、部品の種類を減らすことができる。
【0049】
〔変形例〕
図5には、変形例のクリープ変位差吸収機構80に用いられる許容規制部材82が示されている。
図5に示されるように、許容規制部材82は、第1規制板62と、第2規制板60と、長孔64と、ボルト66と、ナット68と、を備えている。許容規制部材82では、免震建物10の免震層16(
図1参照)の施工時に、第1規制板62に固定されたボルト66の軸部66Aを第2規制板60の長孔64の上側終端部(すなわち、長孔64の上部側の壁面)に接触させる。なお、クリープ変位差吸収機構80の他の構成は、第1実施形態のクリープ変位差吸収機構30と同様である。
【0050】
このようなクリープ変位差吸収機構80では、免震層16に引き抜き力が作用したときに、第1規制板62の上方への変位がより効果的に規制されるため、積層ゴム支承32が破損することをより確実に抑制することができる。
【0051】
〔補足説明〕
第1実施形態及び変形例では、許容規制部材34、82における第1規制板62の端面と第2規制板60の端面を積層ゴム支承32に対向させたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、第1規制板の端面と第2規制板の端面のどちらか一方を積層ゴム支承32に対向させる構成でもよい。また、例えば、第1規制板の表面又は第2規制板の表面を積層ゴム支承に対向させる構成でもよい。
【0052】
第1実施形態及び変形例では、すべり支承20の上側に矩形状の積層ゴム支承32が配置されていたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、すべり支承20の上側に円形状の積層ゴム支承を設けてもよい。この場合は、複数の許容規制部材にそれぞれ設けられた第1規制板及び第2規制板は、円形状の積層ゴム支承に対して、円環状(すなわち、放射状)に配置することが好ましい。
【0053】
第1実施形態及び変形例では、免震層に配置されるクリープ特性が異なる複数の免震支承として、すべり支承20と積層ゴム支承22が配置されていたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、免震層に配置されるクリープ特性が異なる複数の免震支承として、転がり支承(例えば、直動転がり支承)と積層ゴム支承とが配置される構成でもよい。この場合は、複数の免震支承のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承は、転がり支承となる。また、例えば、免震層に配置されるクリープ特性が異なる複数の免震支承として、すべり支承と転がり支承と積層ゴム支承とが配置されている構成でもよい。この場合は、複数の免震支承のうちクリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承は、すべり支承及び転がり支承となる。また、すべり支承として、弾性すべり支承、球面すべり支承等を用いてもよい。
【0054】
第1実施形態及び変形例では、クリープによる鉛直方向の歪量が少ないすべり支承20の上側に積層ゴム支承32を設けたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承(例えば、すべり支承又は転がり支承)の下側に積層ゴム支承を設けてもよいし、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない一の免震支承の上側及び下側の両方に積層ゴム支承を設けてもよい。
【0055】
第1実施形態及び変形例では、許容規制部材34、82は、下部フランジ鋼板42に設けられた第2規制板60に長孔64を設け、上部フランジ鋼板46に設けられた第1規制板62に固定されたボルト66を長孔64に挿通したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、許容規制部材は、上部フランジ鋼板に設けられた第1規制板に長孔を設け、下部フランジ鋼板に設けられた第2規制板に固定されたボルトを、長孔に挿通し、ボルトにナットを螺合させる構成でもよい。また、ボルト66とナット68以外のピンを長孔に挿通させた状態で、第1規制板又は第2規制板にピンを嵌合等により固定する構成でもよい。
【0056】
第1実施形態及び変形例では、許容規制部材34、82は、積層ゴム支承32の周囲にほぼ等しい間隔で配置されているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、許容規制部材は、積層ゴム支承の周囲において、大きな水平力がかかる部位に多く配置する構成としてもよい。また、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない免震支承が複数設けられている場合は、免震支承の位置や種類に応じて、積層ゴム支承の周囲に配置される許容規制部材の個数を変えてもよい。また、許容規制部材の個数は、クリープによる鉛直方向の歪量が少ない免震支承(すべり支承又は転がり支承)の摩擦係数に応じて調整するようにしてもよい。例えば、免震支承(すべり支承又は転がり支承)の摩擦係数が高い場合は、許容規制部材の個数を多くするようにしてもよい。
【0057】
また、第1実施形態及び変形例において、建物本体14の構成は変更可能であり、また、建物本体の変更に対応して免震層に配置されるクリープ特性が異なる複数の免震支承の数も変更可能である。
【0058】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0059】
10 免震建物
16 免震層
20 すべり支承(一の免震支承、複数の免震支承)
22 積層ゴム支承(複数の免震支承、他の積層ゴム支承)
30 クリープ変位差吸収機構
32 積層ゴム支承
34 許容規制部材
42 下部フランジ鋼板(下部取付部材)
46 上部フランジ鋼板(上部取付部材)
60 第2規制板
62 第1規制板
64 長孔
66 ボルト
68 ナット
80 クリープ変位差吸収機構
82 許容規制部材