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特開2023-129117PRRSウイルスに対する検体の免疫を測定する方法
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  • 特開-PRRSウイルスに対する検体の免疫を測定する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129117
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】PRRSウイルスに対する検体の免疫を測定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20230907BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20230907BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G01N33/569 L
C12N7/00
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033918
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】両角 岳哉
(72)【発明者】
【氏名】助川 慎
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】従来のPRRSウイルスに対する検体の免疫測定方法では、検体を希釈する希釈液の影響で、ウイルス感染価が低下し、正確に検体の免疫を測定することができなかった。
【解決手段】抗PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を用いて検体を希釈することで、ウイルス感染価の低下を抑制し、より正確に検体の免疫の測定が可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRRSウイルスに対する検体の免疫を測定する方法であって、以下の:
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液と検体とを混合して、検体の希釈液を調製する工程、
前記検体の希釈液と、PRRSウイルス試料とを混合して、中和検体を調製する工程、及び
中和検体中の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記検体が、初乳、常乳、血液、血漿又は血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中和検体の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程が、中和検体の一部又は全部を培養細胞に接触させて感作させ、感作陽性を検出することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記検体の希釈液を調製する工程において、量の異なる複数のPRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を用いて、検体の希釈液の希釈系列を取得する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記PRRSウイルス抗体陰性血清が、動物由来血清である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
PRRSウイルスを含むウイルス試料、及び
PRRSウイルス抗体陰性血清
を含む、検体の免疫測定キット。
【請求項7】
さらに細胞培養培地を希釈液として含む、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記ウイルス試料が、検体の免疫を測定するための所定の感染価を有する、請求項6又は7に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRRSウイルスに対する検体の免疫の測定の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
豚繁殖・呼吸障害症候群(porcine reproductive and re spiratory syndrome,PRRS)は、PRRSウイルス(PRRSV)を病原体とする疾病で、育成・肥育段階の豚の呼吸器症状、妊娠中の母豚の死流産等の繁殖障害を引き起こす。日本国内においても、多くの農場に浸潤しており、年間280億円という甚大な被害を養豚産業に及ぼすと推計されている。PRRSVは、アルテリウイルス科、ベータアルテリウイルス属に分類される。PRRSVは約15.1~15.4kbのプラス一本鎖RNAをゲノムとして有する。
【0003】
PRRSVに対するワクチンとして弱毒化生ワクチンが日本国内では上市されているが、症状の軽減を期待して用いられることが多く、完全な予防はできていない。ワクチン接種がされた個体において、その免疫を測定することで、免疫が弱い個体に対しては早期対策が可能になり、生産性低下を低減することができる。
【0004】
従来、免疫測定は、検体の希釈溶液を作製して希釈検体を調製し、希釈検体とウイルス試料とを混合して中和反応をさせた後に、培養細胞に感作させて、ウイルスの感染を検出することにより行われている。一例として、FBSを含まない細胞培養培地で希釈した血清検体とウイルス試料を等量混合して37℃で中和反応を1時間行い、MARC145細胞に接種して1時間後にPBSで洗浄し23時間培養した後、細胞の固定、洗浄、ブロッキングを経て、SR30とHRP-conjugated goat-anti-mouse IgGを吸着させて発色検出(Cell-based ELISA)によって中和抗体価を測定する方法が開示されている(非特許文献1)。また、かかる方法に加えて、MARC145細胞の接着改善のために2%FBSを血清希釈用の培地とウイルス希釈用の培地に添加し、細胞の状態を顕微鏡観察して結果を判定し、50%中和力価を求めることで中和抗体価を測定する方法が開示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Virus Res. 2015 May 4;203:56-65
【非特許文献2】Virus Res. 2018 Mar 15;248:13-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の免疫測定方法では、検体を希釈する希釈液の影響で、ウイルス感染価が低下する場合があり、正確に免疫を測定することができないという課題を本発明者らは見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、ウイルス感染価を低下させない検体の希釈液について鋭意検討を行ったところ、抗PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を用いて希釈することで、ウイルス感染価の低下を抑制し、より正確に免疫を測定できることを見出し、本発明に至った。そこで本発明は以下に関する:
[1] PRRSウイルスに対する検体の免疫を測定する方法であって、以下の:
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液と検体とを混合して、検体の希釈液を調製する工程、
前記検体の希釈液と、PRRSウイルス試料とを混合して、中和検体を調製する工程、及び
中和検体中の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程
を含む、前記方法。
[2] 前記検体が、初乳、常乳、血液、血漿又は血清である、項目1に記載の方法。
[3] 中和検体の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程が、中和検体の一部又は全部を培養細胞に接触させて感作させ、感作陽性を検出することを含む、項目1又は2に記載の方法。
[4] 前記検体の希釈液を調製する工程において、量の異なる複数のPRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を用いて、検体の希釈液の希釈系列を取得する、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記PRRSウイルス抗体陰性血清が、動物由来血清である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[6] PRRSウイルスを含むウイルス試料、及び
PRRSウイルス抗体陰性血清
を含む、検体の免疫測定キット。
[7] さらに細胞培養培地を希釈液として含む、項目6に記載のキット。
[8] 前記ウイルス試料が、検体の免疫を測定するための所定の感染価を有する、項目6又は7に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
検体の免疫を測定するにあたり、PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を用いて検体を希釈することにより、ウイルス感染価の低下を抑制し、正確に免疫を測定可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、無血清希釈液(MG free)と、PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液としてブタ血清、FBS、及びヒト血清を用いて、検体を希釈して(2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍)、培養細胞に感作させた際の、陽性細胞率を示す。陽性対照として希釈液とウイルス試料とを等量加えて陽性細胞率を測定し(感染PC)、陰性対照として、PRRSウイルスを含まない試料を使用して陽性細胞率を測定した(非感染)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスに対する検体の免疫を測定する方法に関する。より具体的に、本発明の免疫測定方法は、以下の:
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液と検体とを混合して、検体の希釈液を調製する工程、
前記検体の希釈液と、PRRSウイルス試料とを混合して、中和検体を調製する工程、及び
中和検体中の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程
を含む。PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を検体を希釈するための希釈液として用いることにより、PRRSウイルスの感染価の低下を抑制することができ、より正確に検体の免疫の測定が可能になる。
【0011】
本発明において、検体とは、抗体が含まれうる検体であれば任意の検体であってよく、一例として初乳、常乳、血液、血漿、血清、口腔液、鼻汁、粘液、体液などが挙げられる。免疫測定の観点からは初乳、常乳、血液、血漿又は血清が好ましく、血清がより好ましい。検体は、PRRSウイルスに罹患する動物であれば任意の動物由来の検体であってよく、一例として、イノシシ属の動物、例えばブタ由来の検体が使用される。
【0012】
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液とは、検体を希釈するための希釈液であり、PRRSウイルス抗体陰性血清を含む希釈液を指す。PRRSウイルス抗体陰性血清の含有量は、免疫測定の観点から、PRRS抗体陰性血清含有希釈液全量に対して、25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液は、中和検体中のPRRSウイルス抗体陰性血清の量が、20質量%以上となるように調製されることが好ましく、25質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、免疫測定の観点から、PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液は、中和検体中のPRRSウイルス抗体陰性血清の量が、80質量%以下となるように調製されることが好ましく、50質量%以下がより好ましい。一例としては、100%抗体陰性血清をPRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液として使用することができる。検体を2倍希釈した場合を考えると、検体の希釈液では50質量%の抗体陰性血清が含まれ、検体の希釈液とPRRSウイルス試料とを質量比で1:1で混合することで、中和検体中には25質量%の抗体陰性血清が含まれる。検体の希釈液にPRRSウイルス抗体陰性血清を含有させることにより、検体の希釈液とウイルス試料とを混合した際のウイルスの感染価の低減を抑制することができる。
【0013】
PRRSウイルス抗体陰性血清は、抗PRRS抗体が一定量以下の血清を指す。一定量とは、PRRSウイルスと反応したときに、実質的なウイルス感染価を低減させることのない量であり、例えばPRRSウイルス抗体陰性血清中の抗体量をELISA法で測定した時のS/P比((検体の吸光度-抗原陰性コントロールの吸光度)/(抗原陽性コントロールの吸光度-抗原陰性コントロールの吸光度)が0.4未満の量をいう。このようなPRRSウイルス抗体陰性血清は、PRRSウイルスへの曝露及び/又はPRRSウイルスワクチンの投与がされていない動物から得られた血清であってもよいし、PRRSウイルスへの曝露及び/又はPRRSウイルスワクチンの投与がされた動物から得られた血清であって、抗PRRSウイルス抗体が除去又は低減された血清であってもよい。抗PRRSウイルス抗体は、抗原と接触させることで除去又は低減されてもよい。PRRSウイルス抗体陰性血清は任意の動物由来の血清であってよいが、例えばブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、ウサギなど動物由来の血清が使用されうる。PRRSウイルス感染価を低減しない観点から、PRRSウイルスの宿主であるブタ由来の血清が好ましい。血清は動物の血液から調製されたものであってもよいし、血清粉末であってもよい。血清粉末は液体、好ましくは水や緩衝液を用いて再構成されうる。
【0014】
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液は、PRRSウイルス抗体陰性血清をそのまま、又は希釈液で希釈して調製される。さらに、血清粉末を希釈液に溶解して調製されてもよい。また、PRRSウイルス試料は、所定量のウイルス又はウイルス様粒子を含むよう希釈液で希釈して調製されうる。このような希釈液としては、緩衝剤を含む溶液が挙げられ、かかる希釈液として細胞培養培地が使用されてもよい。希釈液に含まれる緩衝剤としては、リン酸塩、HEPES、TRIS、MOPS、PIPES、AMPD、炭酸塩などが挙げられる。希釈液として使用される細胞培養培地としては、任意の細胞培養培地であってよいが、一例としてDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)、MEM、RPMI1640、F10、F12、DMEM/F-12、199、イーグル最小必須培地、ウィリアム培地、エイムス培地、イスコフ改変培地、グラスゴー改変培地、クリック培地、フィッシャー培地、L-15培地、マッコイ培地、NCTC培地、MG培地などが使用されうる。
【0015】
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液と検体とを混合して検体の希釈液を調製する工程は、希釈工程ともいうことができる。希釈工程において、検体を所定量のPRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液と混合することで、所定の倍率に希釈される。検体の免疫を測定する観点から、量の異なる複数のPRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液を用いて、複数の希釈倍率で希釈して希釈系列として調製することが好ましい。一例として、希釈工程として段階希釈が行われうる。段階希釈を行う場合、検体そのものを1倍希釈液とよび、PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液とを1:1で段階的に混合することで2倍希釈液、4倍希釈液、8倍希釈液、16倍希釈液、32倍希釈液、及び64倍希釈液等を調製することができる。希釈系列を調製せずに、特定の希釈倍率で希釈してもよい。
【0016】
PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液と検体とを混合して調製された検体の希釈液と、PRRSウイルス試料とを混合して中和検体を調製する工程は、中和工程ともいうことができる。中和工程における反応時間は、中和反応が十分に生じる時間であればよく、例えば5分~24時間、好ましくは0.5~2時間が使用される。中和検体の調製温度は4~40℃、好ましくは25~37℃、さらに好ましくは37℃が使用される。中和工程において、検体中に含まれる抗PRRSウイルス抗体が、PRRSウイルス試料中のPRRSウイルスの抗原に結合し、抗原抗体反応を引き起こすことにより、PRRSウイルスの感染価を低下させる。
【0017】
PRRSウイルス試料とは、所定量のウイルス又はウイルス様粒子を含む試料をいう。感染性に基づいて検体の免疫を測定する観点から、ウイルスを含むことが好ましい。ウイルス試料は、培養細胞にPRRSウイルスを感染させて回収された培養上清から調製される。回収された培養上清は所定の感染価となるように細胞培養培地等で希釈されてウイルス試料として調製される。ウイルス試料の感染価は任意に調整することができる。一例として、ウイルス試料は、希釈液とウイルス試料とを一定量ずつ、例えば30μLずつ加えた場合(=感染PC(positive control))に、検出される陽性細胞数が約10000~20000個となるように、培地で希釈して調製することができる。所定の感染価のウイルス試料は予め調製されて、凍結保存されていてもよい。凍結保存されたウイルス試料を解凍して使用することができる。ウイルス様粒子としては、PRRSウイルスの膜タンパク質、及びエンベロープ糖タンパク質から選ばれる少なくとも1つのタンパク質を有する一方、細胞への侵入をレポータータンパク質の発現などにより測定可能な粒子をいい、かかるウイルス様粒子を用いることで検体中の抗体に依る免疫を測定することもできる。
【0018】
中和検体の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程は、中和検体の一部又は全部を培養細胞に接触させて感作させることにより行われる。より具体的に感作は、検体中の抗体と、ウイルス試料のウイルス抗原との間で中和反応を生じさせて得た中和検体を培養細胞に播種して培養することにより行われる。感作後に、感作陽性を検出することにより、中和検体の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出することができる。感作陽性は、細胞変性効果(CPE)、抗原量、感染細胞数、及び死亡細胞数からなる群から選ばれる少なくとも1つの感染指標から決定される。検体には抗PRRSウイルス抗体が含まれており、希釈後の検体中の抗PRRSウイルス抗体の量に応じて、中和検体中におけるウイルスの感染指標が変化するため、希釈倍率と、感染指標とに基づいて、検体の免疫を決定することができる。
【0019】
細胞変性効果(CPE)とは、ウイルスの侵入によって引き起こされる宿主細胞の形態変化のことを言う。ウイルス感染による宿主細胞の形態変化を光学顕微鏡下で観察することにより決定することができる。細胞変性効果としては、感染細胞の円形化、収縮、集合、膨化、溶解、融合などが挙げられる。抗原量及び感染細胞数は、細胞におけるウイルスの存在を、蛍光、発光や発色等による化学的検出や放射性物質による物理学的検出によって測定することができる。一例としては、細胞のウイルス感染の有無を抗ウイルス抗原抗体を用いて検出し、さらに抗ウイルス抗原抗体を標識2次抗体を用いて可視化することにより、抗原量及び感染細胞数を決定することができる。PRRSウイルスを検出するための抗ウイルス抗原抗体は、本技術分野において広く知られており、例えばSR30やSDOW17を使用することができる。死亡細胞数は、一例としてプラーク法により決定することができる。プラーク法は、シート状に培養した培養細胞にウイルス液を播種し、全体をゲルで覆い培養し、形成されたプラークを確認することで死亡細胞数を決定することができる。
【0020】
中和検体の抗PRRSウイルス抗体による抗原抗体反応を検出する工程は、免疫測定法によって測定されてもよい。免疫測定法としては、サンドイッチ法、競合法、凝集法(HA、HI、IAHA、LA、PHA法等)、イムノクロマト法、ウエスタンブロット法、放射免疫測定、蛍光免疫測定(FA、IFA、FPIA、FEIA等)、酵素免疫測定(EIA、ELISA等)、ビオチン免疫測定、化学発光免疫測定法(CLIA、CLEIA等)、補体結合反応、電気化学発光、表面プラズモン共鳴、抗体アレイを用いた方法、ネフェロメトリー法、電気泳動法、免疫組織染色法、蛍光活性化細胞選別法、免疫沈降、免疫比濁等が挙げられる。
【0021】
別の態様では、本発明は、検体のPRRSウイルスに対する免疫を測定するキットにも関する。具体的に、かかるキットは、以下の:
PRRSウイルスを含むウイルス試料、及び
PRRSウイルス抗体陰性血清
を含む。ウイルス試料及び抗体陰性血清は、別々の容器で提供されてもよいし、予め混合して提供されてもよいが、別々の容器で提供されることが好ましい。さらに、本発明のキットにおいて、希釈液を別の容器で提供されうる。希釈液は、PRRSウイルス抗体陰性血清を希釈するために用いられてもよいし、ウイルス試料を希釈するために使用されてもよい。本発明のキットは、検体の免疫を測定するのに必要な、細胞培養キット、及び検出キットをさらに含んでもよい。
【0022】
細胞培養キットとしては、細胞、細胞培養培地、及び培養プレートを含むものが挙げられる。細胞としては、PRRSウイルスが感染可能な細胞であれば任意の細胞であってよい。一例として、ブタ(哺乳綱鯨偶蹄目イノシシ科の動物)由来の細胞(IPKM細胞、Z-MAC細胞)、アフリカミドリザル腎細胞由来の細胞(MA104細胞、MARC-145細胞等)である。PRRSウイルスは単球やマクロファージ系に感染することから、血液から分離した単球、臓器から分離したマクロファージ、多能性幹細胞から誘導した単球やマクロファージ、不死化単球やマクロファージ等が使用されうる。培養培地は培養する細胞の種類に応じて適宜選択することができる。一例として、MG培地を使用することができる。培養プレートとしては、任意の細胞培養プレートであってよいが、多検体を取り扱う観点から96穴の培養プレートが好ましい。陽性細胞の検出は任意の手法により行われてもよいが、検出キットとして、一例として抗PRRSウイルス抗体と標識2次抗体を用いてもよい。さらに核染色試薬を用いることで、陽性細胞率の測定が可能になる。
【0023】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0024】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0025】
実施例1:ウイルスの感染能の確認
1.細胞培養
不死化ブタ腎マクロファージ細胞(IPKM)株(国立研究開発法人農研機構)をMG培地(25μMモノチオグリセロール、10μg/mLインシュリン、100μg/mLストレプトマイシン、100U/mLペニシリンを含むDMEM培地)を入れた90Φディッシュにコンフルエントになるまで37℃CO2加湿雰囲気下で培養を行った。コンフルエントになった培養物の培地を捨てた。次いで、PBS(-)で洗浄し、PBS(-)を捨てた。1mLのTrypLE Xpress(Thermo Fisher scientific社製)を加え、37℃のインキュベーターに入れて3~5分静置した。静置後、ディッシュの側面を叩いて細胞を剥がした。9mLのMG培地を加え、ピペッティングでディッシュの底面全体に培地を吹き付けて細胞を剥した。10μLの細胞懸濁液をとり、TC20(BioRad社製)で細胞数を計測した。96ウェルプレート1枚あたり5×106細胞/10mlで細胞懸濁液を調製した。5×104細胞/ウェルでIPKM細胞を、透明底黒96ウェルプレートに100μLずつ播種した。37℃、5%CO2加湿雰囲気下、O/Nで24時間培養を行った。
【0026】
2.中和反応
ブタの血清を56℃、30分加熱し非働化したものを検体として用いた。PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液として、PRRSウイルスに罹患歴がなく、またワクチン接種も受けていないブタ由来の血清、FBS(ウシ胎児血清)、及びヒト血清を用いた。検体を、各PRRSウイルス抗体陰性血清含有希釈液でそれぞれ、2、4、8、16、32、64倍希釈し、検体希釈液を調製した。比較例として、血清非含有のMG培地(25μMモノチオグリセロール、10μg/mLインシュリン、100μg/mLストレプトマイシン、100U/mLペニシリンを含むDMEM培地)を希釈液として用い、検体を希釈液で2、4、8、16、32、64倍希釈し、検体希釈液を調製した。検体希釈液30μLにPRRSウイルス試料30μLを加え、37℃、1時間インキュベートし中和検体を得た。PRRSウイルス試料は、PRRSウイルス抗体陰性血清とPRRSウイルス試料とを30μLずつ加えた場合(=感染PC(positive control))に、検出される陽性細胞数が約10000~20000個となるようにMG培地で希釈し調製した。5×104細胞/ウェルで播種し、24時間培養を行った細胞に中和検体を各ウェル50μLとなるように接種し、37℃、5%CO2加湿雰囲気下、O/Nで20~24時間培養を行った。
【0027】
3.判定
培養後培地を捨て、無血清培地200μLで1回洗った。10%ホルマリン液100μLを各ウェルに添加し、室温で30分静置して固定を行った。10%ホルマリン液を捨て、PBSTを添加して、5分静置して洗った。50μLのイムノブロック(株式会社ケーエスシー製、製品名「CTKN001」)を各ウェルに加えて、室温で1時間ブロッキングさせた。
<一次抗体の添加>
抗PRRSウイルス抗体SR30(Rural technologies社製)をイムノブロックで2000倍希釈して50μLを各ウェルに加え、室温で30分間反応させた。PBS(-)で5分、2回洗った。
<二次抗体の添加>
200倍希釈したALEXA Fluor 488 Goat anti―mouse IgG(Thermo Fisher scientific社製)と2000倍希釈したHoechst 33342(Thermo Fisher scientific社製)を含むイムノブロック50μLを各ウェルに加え、室温で30分反応させた。PBS(-)で5分、2回洗った。PBS(-)を200μL加えて蒸発防止のためにフィルムシールを貼った。BZX810(キーエンス社製)で検鏡を行い、陽性細胞数と核数を測定し、下記式に基づいて陽性細胞率を算出した。結果を図1に示す。
【数1】
【0028】
MGFreeの感染PCは、他の各血清と比較して陽性細胞率が低くなっており、MGFreeによる影響でウイルスの感染価が低下していることが確認できる。また、各血清を使用した場合は、MGFreeと比較して、濃度の違いによる陽性細胞率の変化が明瞭である。
図1