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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129118
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ワインパミス麹及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20230907BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20230907BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20230907BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20230907BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230907BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230907BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20230907BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C12N1/14 101
C12P7/40
C12P7/22
C12P1/02 Z
A23L33/10
A61K8/9789
A61K8/9728
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033920
(22)【出願日】2022-03-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年6月25日 神崎 浩、仁戸田 照彦、三宅 剛史、伊藤 一成、谷野 有佳、山下 秀行、中川 拓郎、平野 幸司及び栢菅 一久が、公益財団法人 中国地域創造研究センターのウェブサイト(https://crirc.jp/、https://crirc.jp/jigyonaiyou/rd/shinsan/ke/2020.php、https://crirc.jp/jigyonaiyou/rd/shinsan/pdf/ke/2020/08.pdf)にて発表 令和3年6月 神崎 浩が、公益財団法人JKAのウェブサイト(https://hojo.keirin-autorace.or.jp/、https://hojo.keirin-autorace.or.jp/about/list/kikai/2020/index.html、https://hojo.keirin-autorace.or.jp/shinsei/document/list/kikai/2020/pdf/2020-171koho.pdf)にて発表 令和3年3月18日~令和3年3月21日 公益社団法人日本農芸化学会主催、日本農芸化学会2021年度大会(仙台) オンデマンド配信、オンライン質疑応答 令和3年3月5日 公益社団法人日本農芸化学会発行の日本農芸化学会2021年度大会講演要旨集、3C06-06欄 令和3年3月5日 公益社団法人日本農芸化学会発行の日本農芸化学会2021年度大会講演要旨集、3C06-07欄 令和3年9月24日~令和3年9月25日 日本農芸化学会西日本・中四国・関西支部2021年度合同鹿児島大会実行委員会主催の日本農芸化学会西日本・中四国・関西支部2021年度合同鹿児島大会 オンライン発表 令和3年9月24日 日本農芸化学会西日本・中四国・関西支部2021年度合同鹿児島大会実行委員会発行の日本農芸化学会西日本・中四国・関西支部2021年度合同鹿児島大会 講演要旨集、講演番号:C-p06欄 令和4年1月12日~令和4年1月14日 RX Japan株式会社主催の第12回 化粧品開発展[東京] 講演 令和4年1月12日~令和4年1月14日 RX Japan株式会社主催の第12回 化粧品開発展[東京] 展示
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】520147304
【氏名又は名称】株式会社果実工房
(71)【出願人】
【識別番号】514178532
【氏名又は名称】株式会社 樋口松之助商店
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神崎 浩
(72)【発明者】
【氏名】仁戸田 照彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 幸司
(72)【発明者】
【氏名】樋口 松之助
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
4C083
【Fターム(参考)】
4B018MA02
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF13
4B064AC19
4B064AD01
4B064CA05
4B064DA10
4B065AA63X
4B065CA42
4C083AA031
4C083AA111
4C083CC01
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】ワインパミスの有用な利用方法を提供する。
【解決手段】原料のワインパミスに麹菌を播種する播種工程、及び前記ワインパミスに播種された前記麹菌を培養する培養工程を有する、ワインパミス麹の製造方法である。また、麹菌を原料のワインパミスに播種した後に培養してなる、ワインパミス麹である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料のワインパミスに麹菌を播種する播種工程、及び前記ワインパミスに播種された前記麹菌を培養する培養工程を有する、ワインパミス麹の製造方法。
【請求項2】
前記原料のワインパミスの含水率が10~60質量%である、請求項1に記載のワインパミス麹の製造方法。
【請求項3】
前記原料のワインパミスが、ぶどうの果実を発酵させる発酵工程、得られた発酵物を圧搾する圧搾工程、得られた圧搾物を乾燥させる乾燥工程、及び得られた乾燥物を吸水させる吸水工程を行うことにより得られたものである、請求項1又は2に記載のワインパミス麹の製造方法。
【請求項4】
前記麹菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)又はアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)である、請求項1~3のいずれかに記載のワインパミス麹の製造方法。
【請求項5】
前記ワインパミス麹がコウジ酸を含有し、前記ワインパミス麹中のコウジ酸以外の他の成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なる、請求項1~4のいずれかに記載のワインパミス麹の製造方法。
【請求項6】
前記ワインパミス麹がコウジ酸を実質的に含有せず、前記ワインパミス麹中のコウジ酸以外の他の成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なる、請求項1~4のいずれかに記載のワインパミス麹の製造方法。
【請求項7】
前記他の成分がポリフェノールであり、前記ワインパミス麹の前記ポリフェノールの含有量が、前記原料のワインパミスよりも多い、請求項5又は6に記載のワインパミス麹の製造方法。
【請求項8】
麹菌を原料のワインパミスに播種した後に培養してなる、ワインパミス麹。
【請求項9】
コウジ酸の含有量が、全固形分に対して、0.1~3質量%である、請求項8に記載のワインパミス麹。
【請求項10】
実質的にコウジ酸を含有せず、ポリフェノールの総含有量が、全固形分に対して、0.1~10質量%である、請求項8に記載のワインパミス麹。
【請求項11】
請求項8~10のいずれかに記載のワインパミス麹又はその抽出物を用いてなる、化粧品又は医薬部外品。
【請求項12】
請求項10に記載のワインパミス麹又はその抽出物を用いてなる、食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワインを醸造する際に生まれるワインパミスを用いて得られるワインパミス麹及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインパミスとは、主にワインを製造する工程で、発酵後のぶどう果実を絞った後に残るブドウの果皮・種などを含む搾りかすや、ワイン醸造後に残るぶどう果皮・種を意味する。ワインパミスには、ぶどう品種によって差があるものの、ワインの2倍以上ものポリフェノールが含まれている。その他、アントシアニン、レスベラトロールなども含まれる。更に、ワインには含まれていないオレアノール酸という成分も含まれており、ワインパミスはワイン以上に健康によいと言われている。このようなことから、ワインパミスやその抽出物は食品素材等として利用されている。なお、本発明でいうワインパミスには、前記ワインパミスの他、発酵していない搾りかすであるグレープパミスも包含される。
【0003】
しかしながら、例えば、ワインの産地として有名な山梨県では、ワインパミスは年間10,000t以上が未利用のまま廃棄処分されている。そのため、ワインパミスのより有効な活用方法が求められている。
【0004】
一方、麹菌は、古くから、日本酒、焼酎、味噌等の製造に用いられてきた。そして、近年、麹菌の新たな利用方法も開発されている。特許文献1には、食品廃棄物をアスペルギルス属麹菌によって発酵させて、前記麹菌由来のクエン酸を含有するpH5.5以下の液状物を得る食品廃棄物の処理方法が記載されている。前記食品廃棄物として、調理くず、食べ残し、オカラ、茶粕、賞味期限切れの弁当、米のとぎ汁等の生ゴミが挙げられている。そして、得られた液状物はクエン酸を含有することで腐敗が防止され、家畜の飼料として利用できると記載されている。しかしながら、ワインパミスに麹菌を播種して培養し、ワインパミス麹として利用することについては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-92189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ワインパミスの有用な利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、原料のワインパミスに麹菌を播種する播種工程、及び前記ワインパミスに播種された前記麹菌を培養する培養工程を有する、ワインパミス麹の製造方法を提供することによって解決される。このとき、前記原料のワインパミス含水率が10~60質量%であることが好ましい。原料のワインパミスが、ぶどうの果実を発酵させる工程、得られた発酵物を圧搾する圧搾工程、得られた圧搾物を乾燥させる乾燥工程、及び得られた乾燥物を吸水させる吸水工程を行うことにより得られたものであることも好ましい。前記麹菌がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)又はアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)であることも好ましい。前記ワインパミス麹がコウジ酸を含有し、前記ワインパミス麹中のコウジ酸以外の他の成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なることも好ましい。前記ワインパミス麹がコウジ酸を実質的に含有せず、前記ワインパミス麹中のコウジ酸以外の他の成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なることも好ましい。前記他の成分がポリフェノールであり、前記ワインパミス麹の前記ポリフェノールの含有量が、前記原料のワインパミスよりも多いことがより好ましい。
【0008】
上記課題は、麹菌を原料のワインパミスに播種した後に培養してなる、ワインパミス麹を提供することによっても解決される。
【0009】
前記ワインパミス麹中のコウジ酸の含有量が、全固形分に対して、0.1~3質量%であることが好ましい。前記ワインパミス麹又はその抽出物を用いてなる、化粧品又は医薬部外品が前記ワインパミス麹の好適な実施態様である。
【0010】
前記ワインパミス麹が実質的にコウジ酸を含有せず、ポリフェノールの総含有量が、全固形分に対して、0.1~10質量%であることが好ましい。当該ワインパミス麹又はその抽出物を用いてなる、食品が前記ワインパミス麹の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、原料のワインパミスには含まれていない有効成分を含むワインパミス麹や原料のワインパミスとは組成の異なるワインパミス麹が得られる。こうして得られるワインパミス麹やその抽出物は、食品、化粧品及び医薬部外品等として広く用いられるとともに、食品、化粧品及び医薬部外品等に適宜配合して用いられる上、ワインパミスの廃棄量も削減される。これに加え、従来、廃棄されていたワインパミスの有効利用に繋がる有用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1~4において、ワインパミス麹の抽出物を測定して得られたUPLCクロマトグラムである。
図2図1の破線の位置のピーク成分及び標品のコウジ酸のMSスペクトルである。
図3】実施例1~5におけるワインパミス麹中のコウジ酸の含有量を示した図である。
図4】実施例1~5におけるワインパミス麹中のアントシアニンの含有量を示した図である。
図5】実施例1~5におけるワインパミス麹中のカテキンの含有量を示した図である。
図6】実施例1~5におけるワインパミス麹中の総ポリフェノール含有量を示した図である。
図7】実施例1~5におけるワインパミス麹のDPPH法で測定された抗酸化活性を示した図である。
図8】実施例1~5におけるワインパミス麹のORAC法で測定された抗酸化活性を示した図である。
図9】実施例5において培養に使用された箱の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のワインパミス麹の製造方法は、原料のワインパミスに麹菌を播種する播種工程、及び前記ワインパミスに播種された前記麹菌を培養する培養工程を有するものである。このような製造方法によれば、原料のワインパミスには含まれていない成分を含むワインパミス麹や原料のワインパミスとは組成の異なるワインパミス麹が得られる。こうして得られるワインパミス麹やその抽出物は、食品、化粧品及び医薬部外品等として広く用いられるとともに、食品、化粧品及び医薬部外品等に適量配合して用いられる上、ワインパミスの廃棄量も削減される。これに加え、従来、廃棄されていたワインパミスの有効利用に繋がる有用性を有する。
【0014】
本発明の製造方法では、原料のワインパミスとして、ぶどうの果実を発酵させてから圧搾した後に残存する搾りかすが用いられる。本発明で言う、ぶどうの果実とは、ぶどうの果皮、果肉、種子等の一部又は全部を意味する。搾りかすには、前記ぶどうの果皮、果肉、種子等が含まれ、前記原料のワインパミスは、ぶどうの果皮、果肉及び種子からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、果皮を含有することがより好ましい。このような搾りかすは、一般的な赤ワインの製造工程などにおいて生じるものである。原料のワインパミスは、ぶどうの果実を発酵させる発酵工程、及び得られた発酵物を圧搾する圧搾工程を行うことにより得ることができる。
【0015】
前記原料のワインパミスの素となるぶどうの品種としては、特に限定されず、赤ワイン等の製造に一般的に用いられるものが用いられ、例えば、ピノノワール、ツヴァイゲルトレーベ、カベル・ソーヴィニヨン、シラー、メルロ、ガメ、マスカット・ベーリーA、サンジョヴェーゼ、テンプラニーリョ、ガルナッチャ、マルベック、カルメネール、カベルネ・フラン等の黒ぶどうが挙げられ、中でも、ピノノワール及びツヴァイゲルトレーベが好ましい。
【0016】
発酵工程及び圧搾工程を行うことにより得られたワインパミスをそのままワインパミス麹の製造に供してもよいが、圧搾工程後のワインパミス(圧搾物)を乾燥させる乾燥工程を行うことが好ましい。これにより前記ワインパミス中に残存するアルコールが揮発して除去されるため、麹菌の増殖速度が高まる。また、取扱性や保存性も向上する。通常、前記乾燥工程における乾燥温度は、45~75℃であり、乾燥時間は5~50時間である。乾燥工程後のワインパミス(乾燥物)の含水率は5~10質量%であることが好ましい。
【0017】
また、発酵工程及び圧搾工程を行うことにより得られたワインパミスを洗浄する洗浄工程を行ってもよい。このとき用いられる洗浄液としては水が好ましい。前記洗浄液の温度は、通常、90~100℃であり、殺菌効果が得られる点からは、95℃以上が好ましい。殺菌時間は、通常5~60分である。これまで、麹菌は穀物の糖質の分解等に利用されてきたが、ぶどう果実中の糖質はアルコール発酵によって概ね消費されるうえに、ワインパミスを洗浄すると残存する糖質も除去される。前記メカニズムについては定かではないが、従来知られていた糖質の分解等とは全く異なる麹菌の作用を利用したものである可能性がある。
【0018】
発酵工程及び圧搾工程を行うことにより得られたワインパミスに対して、上述した乾燥工程や洗浄工程を行う場合、その順序や回数は特に限定されない。取扱性、保存性、後述するワインパミスの含水率の調整のし易さ等の観点からは、洗浄工程を行った後に、乾燥工程を行うことが好ましい。
【0019】
発酵工程及び圧搾工程を行うことにより得られたワインパミスに水を吸水させる吸水工程を行う方法が好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記水が添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、リン酸二カリウム等が挙げられる。ワインパミス麹の製造に供するワインパミスの含水率を調製し易い点から、前記吸水工程を前記乾燥工程後に行うことがより好ましい。同様の点から、前記ワインパミスをワインパミス麹の製造に供する直前に前記吸水工程を行うこともより好ましい。
【0020】
ワインパミス麹の製造に供する前記原料のワインパミスの含水率は10~60質量%が好ましい。当該含水率が10質量%未満の場合、前記麹菌の増殖速度が低下するおそれがある。前記含水率は20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。一方、前記含水率が60質量%を超える場合、雑菌汚染が生じるおそれがある。前記含水率は55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
前記原料のワインパミス中のアルコールの含有量は、通常、考慮する必要性はないが、アルコール耐性の低い麹菌を用いる場合には、5質量%以下が好ましく、アルコール含有量が5質量%を超える場合、前記麹菌の増殖速度が低下するおそれがあるので、アルコール含有量は3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下が特に好ましく、前記原料のワインパミス中にアルコールが実質的に含有されていないことが最も好ましい。
【0022】
本発明で用いられる前記麹菌としては特に限定されない。後述する実施例に記載するとおり、本発明者らの検討の結果、前記原料のワインパミスを基材として、種々の麹菌を培養できること、及び麹菌の種類によって、得られるワインパミス麹に含まれる成分や組成が異なることを確認している。したがって、得られるワインパミス麹の用途に応じて前記麹菌の種類を適宜選択すればよい。前記麹菌としては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)等が挙げられ、中でも、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤが好ましく、アスペルギルス・オリゼがより好ましい。アスペルギルス・オリゼとしては、樋口松之助商店製のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)6001、6003等が挙げられる。アスペルギルス・ソーヤとしては、樋口松之助商店製のアスペルギルス・ソーヤ7009等が挙げられる。アスペルギルス・ルチュエンシスとしては、樋口松之助商店製のアスペルギルス・ルチュエンシス8041等が挙げられる。
【0023】
前記播種工程において、前記原料のワインパミスに麹菌を播種する。このとき、前記原料のワインパミスに対して添加する前記麹菌の量は麹菌の種類等に応じて変更すればよく特に限定されないが、通常、前記原料のワインパミス中の固形分10gに対して添加する胞子の数は10~10個である。
【0024】
前記培養工程において、前記原料のワインパミスに播種された前記麹菌を培養する。このときの培養方法は特に限定されないが、固体培養法が好ましい。培養方法によって、産生される化合物の種類や量が異なることがあることが知られている。後述する実施例で示されているとおり、本発明者らは検討の結果、固体培養法を用いることによって、コウジ酸を含有するワインパミス麹やポリフェノールの含有量が多いワインパミス麹が得られることを見出した。通常、米や麦などの穀物を用いて麹にする場合が多いが、本発明で用いられる固体培養法では、乾燥ワインパミスあるいはその粉砕物に吸水させたものなどを基質として用い、その表面や内部で前記麹菌を培養する。
【0025】
前記固体培養法は、容器に、前記麹菌が播種された前記ワインパミスを堆積させた状態で行うことができる。具体的には、醸造酒を製造する際の製麹において従来から用いられている麹蓋や麹箱に、前記麹菌が播種された前記ワインパミスを堆積させた状態で培養する方法や、「佐藤和夫:日本醸造協会誌,87, 558-565 (1992)」や「Couto, S. R. and Sanroman, M. A.: J. Food Eng., 76, 291-302 (2006)」に記載された、目的の温湿度に設定した空気を循環できる培養室の内部にトレイを多段に組んだ培養装置、前記麹菌が播種された前記ワインパミスの堆積層に、目的の温度と含水率になるよう設定した空気の通風を行う堆積通風式培養装置、これに前記ワインパミスの物理的な均一化を図るため攪拌機が付属した装置を用いる方法等が採用される。
【0026】
また、前記固体培養法として、「Kazunari Ito, 生物工学会誌 98: 108-115, 2020」に記載された無通風箱培養法も好適に採用される。当該文献の図1に示されるように、当該方法では、木箱の上下の開口部全面に水や風は通さないが、水蒸気を通す延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)膜を装着し、内部には培養基質(前記ワインパミス)と外部との間に一定の緩衝部ができるよう空間を設けた培養器が用いられる。この中に麹菌が播種された前記ワインパミスを堆積させたトレイを置き,恒温恒湿槽内で培養器外部の温度と湿度を制御して静置培養を行う。本培養法は、送風制御によって起こる部位間の品温や水分のばらつきが少なく推移することから、培養の均一性や再現性が高まる。
【0027】
前記麹菌の培養条件は、前記麹菌の種類等に応じて適宜調整すればよいが、培養温度は、通常、5~50℃である。前記麹菌の培養速度の観点から、前記温度は13~45℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~38℃がさらに好ましい。
【0028】
培養時間は前記麹菌の種類等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、通常、30時間以上であり、48時間以上が好ましく、72時間以上がより好ましい。一方、培養時間は、通常、180時間以下である。
【0029】
前記麹菌を培養する際の湿度は、前記麹菌の種類等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、通常、80%RH以上であり、90%RH以上が好ましい。
【0030】
上述した方法により、原料のワインパミスには含まれていない有効成分を含むワインパミス麹、原料のワインパミスとは各成分、特に有効成分の組成が異なるワインパミス麹、原料のワインパミスよりも有効成分の含有量が多いワインパミス麹等が得られる。このようなワインパミス麹やその抽出物は、食品、化粧品及び医薬部外品等として広く用いられるとともに、食品、化粧品及び医薬部外品等に適量配合して用いられる上、ワインパミスの廃棄量も削減される。これに加え、従来、廃棄されていたワインパミスの有効利用に繋がる有用性を有する。
【0031】
前記ワインパミス麹がコウジ酸を含有することが好ましい。このとき、コウジ酸以外の他の成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なることがより好ましい。具体的には、ポリフェノールなどの有効成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なることや前記原料のワインパミスよりも多いことが好ましい。通常、赤ワインの製造工程で得られるワインパミスにはコウジ酸は含まれない。それに対して、後述する実施例に記載されているとおり、所定の麹菌を用いることにより、コウジ酸を含有するワインパミス麹が得られる。このようなワインパミス麹は化粧品及び医薬部外品等として好適に用いられるとともに、食品、化粧品及び医薬部外品等に適量配合して用いられる。前記ワインパミス麹のコウジ酸の含有量が、全固形分に対して、0.01~5質量%であることが好ましい。当該含有量が0.01質量%以上であることにより、化粧品や医薬部外品等に用いる際の効果がさらに高くなる。当該含有量は0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。一方、前記含有量は3質量%以下がより好ましい。前記ワインパミス麹のコウジ酸の含有量は後述する実施例に記載された方法によって測定される。
【0032】
また、前記ワインパミス麹がコウジ酸を実質的に含有しないことも好ましい。前記ワインパミス麹がコウジ酸を実質的に含有しないとは、前記ワインパミス麹中のコウジ酸の含有量が、全固形分に対して、0.0001質量%以下であることを意味する。このようなワインパミス麹は食品等に好適に用いられる。このようなワインパミス麹中のコウジ酸以外の他の成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なることがより好ましい。具体的には、ポリフェノールなどの有効成分の含有量が、前記原料のワインパミスと異なることや前記原料のワインパミスよりも多いことが好ましい。
【0033】
前記ワインパミス麹がポリフェノールなどのコウジ酸以外の有効成分を含有することも好ましい。また、前記ワインパミス麹の当該有効成分の含有量が、前記原料のワインパミスよりも多いことが好ましい。後述する実施例に記載されているとおり、所定の麹菌を用いることにより、このようなワインパミス麹が得られる。当該ワインパミス麹は、食品、化粧品、医薬部外品等として好適に用いられる。前記ポリフェノールとしては、アントシアニン、カテキン、フラボノイド類等が挙げられる。コウジ酸以外の有効成分を含有するワインパミス麹がコウジ酸を実質的に含有しないことも好ましい。このようなワインパミス麹は食品等に好適に用いられる。
【0034】
前記ワインパミス麹がアントシアニンを含有する場合、その含有量は、全固形分に対して、0.01~0.5質量%であることが好ましい。当該含有量が0.01質量%以上であることにより、食品、化粧、医薬部外品等に用いる際の効果がさらに高くなる。
【0035】
前記ワインパミス麹がカテキンを含有する場合、その含有量は、全固形分に対して、0.01~5質量%であることが好ましい。当該含有量が0.01質量%以上であることにより、食品、化粧、医薬部外品等に用いる際の効果がさらに高くなる。当該含有量は0.1質量%以上であることがより好ましい。
【0036】
前記ワインパミス麹がポリフェノールを含有する場合、その総含有量は、全固形分に対して、0.1~10質量%であることが好ましい。前記ワインパミス麹中のポリフェノールの含有量は後述する実施例に記載された方法によって測定される。当該含有量が0.1質量%以上であることにより、食品、化粧、医薬部外品等に用いる際の効果がさらに高くなる。当該含有量は0.5質量%以上であることがより好ましい。一方、前記含有量は5質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
前記ワインパミス麹を抽出物として用いてもよい。抽出に用いる溶媒は水、有機溶媒、または有機溶媒と水との混合物が挙げられる。有機溶媒の例としてメタノール、エタノール、アセトン、エチルエーテル、プロピレングリコール、1、3-ブチレングリコール及び酢酸エチルなどが挙げられる。
【0038】
上記課題は、麹菌を原料のワインパミスに播種した後に培養してなるワインパミス麹を提供することによっても解決される。当該ワインパミス麹は、上述した方法等によって製造され得る。当該ワインパミス麹に含まれる成分の種類や含有量は、上述した本発明の製造方法によって得られるワインパミス麹と同じであることが好ましい。
【実施例0039】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
実施例1
ぶどう(ピノノワール)の果実、果皮及び種子をアルコール発酵させてから圧搾して得られた搾りかすを70℃で24時間乾燥させた後、裏ごし機を用いて粉砕することにより含水率9.63質量%の乾燥ワインパミスを得た。ピノノワールの代わりにツヴァイゲルトレーベを用いたこと以外は上記と同様にしてワインパミスを得た。ガラスシャーレ(直径150mm,高さ30mm)に、これらのワインパミスの混合物10g、水道水6.2mLを添加することによって含水率を44.2質量%に調整した後、市販の麹菌である、樋口松之助商店製のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) 6001の胞子約10個を添加した。こうしてワインパミスに麹菌を播種した後、30℃、90%RHにて培養を行った。74時間培養した後、培養物(ワインパミス麹)のメタノール抽出を行った。UPLC(超高速高分離液体クロマトグラフィー)を用いて得られた抽出物を測定した。このときの測定条件を表1に示す。図1に、抽出物を測定して得られたUPLCクロマトグラムを示す。また、参考のため、麹菌を播種する前のワインパミスのメタノール抽出物のUPLCクロマトグラムも図1に示す。なお、乾燥ワインパミスとして、種が除去された種なし破砕物、種が除去されていない種あり破砕物及び種が除去されていない未破砕物の三種類を用いてそれぞれワインパミス麹の製造を行った。
【0041】
【表1】
【0042】
前記抽出物と、標品のコウジ酸とのコクロマトグラフィーを行った結果、図1の破線の位置のピークと標品のコウジ酸のピークが同じ位置に現れ、両ピークの保持時間tRが同じであったこと、図1の破線の位置のピーク成分のUV吸収スペクトル(図1の右下)とコウジ酸のUV吸収スペクトルが一致したこと、並びにポジティブイオンモードにおける、図1の破線の位置のピーク成分のMSスペクトル(図2左)及び標品のコウジ酸のMSスペクトル(図2右)の比較から、図1の破線の位置のピーク成分がコウジ酸であることを確認した。
【0043】
標品のコウジ酸を用いて検量線を作成した後、UPLCクロマトグラムからワインパミス麹中のコウジ酸(図1の破線の位置のピーク成分)の含有量を求めた。結果を図3に示す。また、ワインパミス麹における、アントシアニン(Malvidin 3-O-glucoside)の含有量、カテキン((+)-Catechin)の含有量及び総ポリフェノール含有量を、検量線を作成した後、UPLCクロマトグラムから求めた。結果を図4~6に示す。参考のため、麹菌を播種する前のワインパミスのメタノール抽出物のUPLCクロマトグラムから求めた各成分の含有量も図3~6に示す。
【0044】
得られたワインパミス麹の抗酸化活性をDPPH法及びORAC法により以下のとおり測定した。結果を図7及び8に示す。参考のため、麹菌を播種する前のワインパミスの抗酸化活性も図7及び8に示す。
【0045】
(DPPH法)
培養物(ワインパミス麹)のメタノール抽出物とpH3.0の10mMクエン酸緩衝液とを1:1(体積比)で混合することにより測定試料を調製した。当該測定試料240μLとDPPHのメタノール溶液(500μM、SIGMA社製)60μLをこの順でマイクロプレートに添加した後、プレートリーダー(CORONA SH-9000 LAB Microplate Reader)を用いて、波長517nmの吸収を測定し、吸光度から得られたワインパミス麹の抗酸化活性を算出した。
【0046】
(ORAC法)
培養物(ワインパミス麹)のメタノール抽出物20μL、pH7.4の75mMリン酸緩衝液80μL、150nMのフルオレセイン溶液(溶媒:pH7.4の75mMリン酸緩衝液)をマイクロプレートに添加した後、37℃にて30分間インキュベートした。このとき、pH7.4の75mMリン酸緩衝液も37℃にて30分間インキュベートした。当該リン酸緩衝液に187.5mMとなるようにAAPHを添加した後、AAPHが添加されたリン酸緩衝液20μLをメタノール抽出物等が入ったセルに添加した。混合液を撹拌しながら、3分ごとに60分間、蛍光測定(excitation:480nm、emission:520nm)を行い、検出された蛍光の強度から得られたワインパミス麹の抗酸化活性を算出した。
【0047】
実施例2~4
麹菌として、市販の樋口松之助商店製のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) 6003(実施例2)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)7009(実施例3)、又はアスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis) 8041(実施例4)を用いた以外は実施例1と同様にしてワインパミス麹の製造及び評価を行った。結果を図1、3~8に示す。
【0048】
実施例5
麹菌として秋田今野商店製のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) AOK11を用いたこと、及び麹菌が播種されたワインパミスが充填された金属製のシャーレを上下の開口部全面に透湿性の延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)膜が装着された木箱(無通風箱)内に配置して、30℃、95%RHにて培養を行った以外は実施例1と同様にしてワインパミス麹の製造を行った。図9に無通風箱の外観及び内部(培養物無)の写真を示す。所定の時間(24h、48h、72h)培養した培養物(ワインパミス麹)を採取してメタノール抽出を行った後、得られた各抽出物を実施例1と同様にして、UPLC(超高速高分離液体クロマトグラフィー)を用いて測定した後、評価した。結果を図1、3~8に示す。
【0049】
上記のとおり、種々の麹菌を用いることにより、原料のワインパミスには含まれていない有効成分を含むワインパミス麹や、原料のワインパミスとは異なる組成を有するワインパミス麹が得られた。得られたワインパミス麹中のコウジ酸の含有量は、全固形分に対して、0.0017~2.74質量%であり、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)6001を用いて得られたワインパミス麹に最も多く含まれていた。得られたワインパミス麹中のカテキンの含有量は、全固形分に対して、0.00549~1.22質量%であり、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)7009を用いて得られたワインパミス麹に最も多く含まれていた。得られたワインパミス麹中のアントシアニンの含有量は、全固形分に対して、0.0016~0.196質量%であり、アスペルギルス・ルチュエンシス(Aspergillus luchuensis) 8041を用いて得られたワインパミス麹に最も多く含まれていた。得られたワインパミス麹中の総ポリフェノール量は、全固形分に対して、0.18~4.16質量%であり、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)7009を用いて得られたワインパミス麹に最も多く含まれていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9