(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129125
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】回転装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/131 20060101AFI20230907BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20230907BHJP
F16F 15/16 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16F15/131
F16F15/134 D
F16F15/16 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033927
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】古志 和啓
(72)【発明者】
【氏名】吉本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】相川 将隆
(57)【要約】
【課題】減衰性能を向上させることができる回転装置を提供する。
【解決手段】回転装置は、走行中に回転方向第1側に回転する。回転装置は、入力部材と、出力部材と、ダンパ部と、粘性流体と、を備える。ダンパ部は、入力部材と出力部材とを回転方向において弾性的に連結する。粘性流体は、入力部材と、ダンパ部との間に配置される。ダンパ部は、第1シート部材と、第2シート部材と、を有する。第1シート部材は、入力部材に対して隙間を空けて配置されている。第1シート部材は、入力部材に対して相対回転可能に配置されている。第2シート部材は、第1シート部材に対して回転方向第2側に配置されている。第2シート部材は、入力部材に対して隙間を空けて配置されている。第1シート部材は、せん断トルク低減部を有する。せん断トルク低減部は、入力部材と第1シート部材との間で生じるせん断トルクを低減する。
【選択図】
図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中に回転方向第1側に回転する回転装置において、
回転可能に配置された入力部材と、
前記入力部材に対して相対回転可能に配置された出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材とを回転方向において弾性的に連結するダンパ部と、
前記入力部材と前記ダンパ部との間に配置される粘性流体と、
を備え、
前記ダンパ部は、
前記入力部材に対して隙間を空けて、前記入力部材に対して相対回転可能に配置される第1シート部材と、
前記第1シート部材に対して回転方向第2側に、前記入力部材に対して隙間を空けて配置される第2シート部材と、
を有し、
前記第1シート部材は、前記入力部材と前記第1シート部材との間で生じるせん断トルクを低減するせん断トルク低減部を有する、
回転装置。
【請求項2】
前記ダンパ部は前記第2シート部材に対して回転方向第2側に配置される第3シート部材を有し、
前記入力部材は、前記第1シート部材と当接し前記第1シート部材に対して回転方向第1側に配置される第1当接部と、前記第3シート部材と当接し前記第3シート部材に対して回転方向第2側に配置される第2当接部と、を有し、
前記出力部材は、前記第1シート部材と当接し前記第1シート部材に対して回転方向第1側に配置される第1動力伝達部と、前記第3シート部材と当接し前記第3シート部材に対して回転方向第2側に配置される第2動力伝達部と、を有し、
前記第1シート部材の前記入力部材に対向する面の面積は、前記第3シート部材の前記入力部材に対向する面の面積よりも小さい、
請求項1に記載の回転装置。
【請求項3】
前記せん断トルク低減部は、前記入力部材に対向する面に配置される貫通孔を含む、
請求項1または請求項2に記載の回転装置。
【請求項4】
前記せん断トルク低減部は、前記入力部材に対向する面に配置される溝を含む、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の回転装置。
【請求項5】
前記せん断トルク低減部は、テーパ面を含み、
前記テーパ面は、前記第1シート部材の軸方向を向く面と、前記第1シート部材の径方向外側を向く面とをつなぎ、径方向に向かうにつれて前記入力部材から離れるように傾斜する、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の回転装置。
【請求項6】
前記第1シート部材と前記第2シート部材との間に配置される第1弾性部材と、
前記第2シート部材に対して回転方向第2側に配置され、前記第1弾性部材よりもばね定数が大きい第2弾性部材と、
をさらに備える、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両において、エンジンの回転変動を減衰するためにデュアルマスフライホイール(DMF)のような回転装置が搭載されている。この回転装置は、入力部材と出力部材とを弾性的に連結するダンパ部によってエンジンの回転変動を減衰している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような回転装置において、走行中における減衰性能を向上させることが要望されている。そこで、本発明の課題は、減衰性能を向上させることができる回転装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明に係る回転装置は、走行中に回転方向第1側に回転する。回転装置は、入力部材と、出力部材と、ダンパ部と、粘性流体と、を備える。入力部材は、回転可能に配置されている。出力部材は、入力部材に対して相対回転可能に配置されている。ダンパ部は、入力部材と出力部材とを回転方向において弾性的に連結する。粘性流体は、入力部材と、ダンパ部との間に配置される。ダンパ部は、第1シート部材と、第2シート部材と、を有する。第1シート部材は、入力部材に対して隙間を空けて配置されている。第1シート部材は、入力部材に対して相対回転可能に配置されている。第2シート部材は、第1シート部材に対して回転方向第2側に配置されている。第2シート部材は、入力部材に対して隙間を空けて配置されている。第1シート部材は、せん断トルク低減部を有する。せん断トルク低減部は、入力部材と第1シート部材との間で生じるせん断トルクを低減する。
【0006】
本発明者らは、入力部材とシート部材とが相対回転することにより、これらの間に配置される粘性流体のせん断トルクが発生し、そのせん断トルクが回転変動の減衰性能を低下させていることを見出した。
【0007】
そこで、本願発明では、第1シート部材にせん断トルク低減部を形成することによって、回転変動の減衰性能の低下を防止し、減衰性能を向上させている。詳細には次のとおりである。
【0008】
走行時、入力部材が回転方向第1側に回転することにより、入力部材からの動力は、第2シート部材及び第1シート部材を介して、出力部材に伝達される。ここで、エンジンからのトルク入力開始時には、第2シート部材は入力部材と一体的に回転する一方で、第1シート部材は、入力部材と一体的に回転せずに入力部材に対して相対回転する。第2シート部材が第1シート部材に当接した後は、第2シート部材と第1シート部材との両方が入力部材に対して相対回転する。つまり、通常走行時、第1シート部材は、主に入力部材に対して相対回転する。これにより、第1シート部材と入力部材との間でせん断トルクが発生する。
【0009】
ここで、第1シート部材は、上述したせん断トルクを低減させるためのせん断トルク低減部を有する。そのため、第1シート部材は、通常走行時に発生するせん断トルクを低下させることができる。この結果、回転装置は、回転変動の減衰性能の低下を防止し、減衰性能を向上させることができる。
【0010】
(2)好ましくは、ダンパ部は第3シート部材を有する。第3シート部材は、第2シート部材に対して回転方向第2側に配置される。入力部材は、第1当接部と、第2当接部と、を有する。第1当接部は、第1シート部材と当接する。第1当接部は、第1シート部材に対して回転方向第1側に配置される。第2当接部は、第3シート部材と当接する。第2当接部は、第3シート部材に対して回転方向第2側に配置される。出力部材は、第1動力伝達部と、第2動力伝達部と、を有する。第1動力伝達部は、第1シート部材と当接する。第1動力伝達部は、第1シート部材に対して回転方向第1側に配置される。第2動力伝達部は、第3シート部材と当接する。第2動力伝達部は、第3シート部材に対して回転方向第2側に配置される。第1シート部材の入力部材に対向する面の面積は、第3シート部材の入力部材に対向する面の面積よりも小さい。
【0011】
本発明者らはさらに、せん断トルクの大きさが、シート部材の入力部材に対向する面において、粘性流体に接触する面積に比例することも見出した。本願発明では、第1シート部材の入力部材に対向する面の面積は、第3シート部材の入力部材に対向する面の面積よりも小さい。そのため、第2シート部材と入力部材との間で生じるせん断トルクを低減できる。つまり、第1シート部材は、通常走行時に発生するせん断トルクを低下させることができる。
【0012】
(3)好ましくは、せん断トルク低減部は、貫通孔を含む。貫通孔は、入力部材に対向する面に配置される。
【0013】
(4)好ましくは、せん断トルク低減部は、溝を含む。溝は、入力部材に対向する面に配置される。
【0014】
(5)好ましくは、せん断トルク低減部は、テーパ面を含む。テーパ面は、第1シート部材の軸方向を向く面と第1シート部材の径方向外側を向く面とをつなぐ。テーパ面は、径方向に向かうにつれて入力部材から離れるように傾斜する。
【0015】
(6)好ましくは、回転装置は、第1弾性部材と、第2弾性部材と、をさらに備える。第1弾性部材は、第1シート部材と第2シート部材との間に配置される。第2弾性部材は、2シート部材に対して回転方向第2側に配置される。第2弾性部材は、第1弾性部材よりもばね定数が大きい。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明では、減衰性能を向上させることができる回転装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態による回転装置の断面図。
【
図4】回転装置の径方向外側からの部分断面斜視図。
【
図10】変形例における端部用スプリングシートの正面図。
【
図11】粘性指数とせん断トルク増加割合との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるデュアルマスフライホイール100(回転装置の一例であり、以下、単に「DMF100」と記載する)の断面図である。また、
図2はDMF100の正面図であり、部材の一部(例えばセカンダリフライホイール5の左半分等)を削除して示している。
図1において、O-O線は回転軸Oである。
図1において、DMF100の左側にエンジンが配置され、右側に電動機や変速装置等を含む駆動ユニットが配置される。
【0019】
なお、以下の説明において、軸方向とは、DMF100の回転軸Oが延びる方向である。
図1の左側を「軸方向第1側」、
図1の右側を「軸方向第2側」とする。また、回転方向とは、回転軸Oを中心とした円の回転方向である。径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。
図2の矢印D1は、回転方向第1側であり、矢印D2はその反対側である回転方向第2側である(以下の図において同様)。DMF100は、エンジンからのトルク入力により走行中に回転方向第1側に回転する。
【0020】
このDMF100は、図示しないエンジンのクランクシャフト(駆動源側の部材の一例)と駆動ユニットの入力軸との間に設けられ、回転変動を減衰するための装置である。DMF100は、プライマリフライホイール2(入力部材の一例)と、セカンダリフライホイール5と、グリース4(粘性流体の一例)と、複数のダンパ部40と、を有している。
【0021】
[プライマリフライホイール2]
図1に示すように、プライマリフライホイール2は、エンジンからの動力が入力される。プライマリフライホイール2は、エンジン側の部材、例えばクランクシャフト(図示せず)に、固定される。
【0022】
プライマリフライホイール2は、回転軸Oまわりに回転可能に配置される。プライマリフライホイール2は、入力プレート21と、シールプレート22と、支持部材23と、を有している。
【0023】
入力プレート21は、クランクシャフト及び支持部材23によって挟持され、ボルトによってクランクシャフトに固定される。
【0024】
図1及び
図2に示すように、入力プレート21は、第1本体部21aと、筒状部21bとを、有している。第1本体部21aは、回転軸Oまわりに回転可能に構成される。第1本体部21aは、実質的に円板状に形成されている。
【0025】
図3に示すように、第1本体部21aは、内周部21hと外周部21eとを有する。外周部21eは、第1本体部21aの内周部21hに対して、軸方向第1側に配置される(
図1参照)。
【0026】
また、第1本体部21aは、第1当接部21f及び第2当接部21gを有している。第1当接部21f及び第2当接部21gは、回転方向においてダンパ部40に当接する部分である。第1当接部21f及び第2当接部21gは、第1本体部21aの外周部21eに設けられている。第1当接部21f及び第2当接部21gは、外周部21e上を径方向に延びている。第1当接部21f及び第2当接部21gは、軸方向の第2側に突出している(
図1参照)。
【0027】
図1及び
図2に示すように、筒状部21bは、軸方向に延びる円筒状である。筒状部21bは、第1本体部21aの外周端部から軸方向の第2側に延びている。筒状部21bは、第1本体部21aと一体に形成される。
【0028】
シールプレート22は、入力プレート21と一体回転可能に構成される。例えば、シールプレート22は、固定手段、例えば溶接によって、筒状部21bに固定される。
【0029】
シールプレート22は、回転軸Oまわりに回転可能に配置される。シールプレート22は、実質的に環状に形成されている。
【0030】
シールプレート22は、軸方向において、第1本体部21aに対して間隔を空けて配置されている。シールプレート22と第1本体部21aとの軸方向間には、スプリングシート3が配置される。
【0031】
シールプレート22は、第3当接部22d及び第4当接部22eを有している。第3当接部22d及び第4当接部22eは、回転方向においてダンパ部40に当接する部分である。第3当接部22d及び第4当接部22eはそれぞれ、軸方向において、第1当接部21f及び第2当接部21gと間隔を空けて対向して配置される。
【0032】
図4に示すとおり、シールプレート22は、絞り部22jを有する。絞り部22jは、第3当接部22d及び第4当接部22eの軸方向第2側の面に形成される。絞り部22jは、軸方向第2側に開口する凹部である。絞り部22jの底部は、第3当接部22d及び第4当接部22eにおいて軸方向第1側に突出していてもよい。絞り部22jは、第1当接部21f及び第2当接部21gの軸方向第1側の面に形成されてもよい。この場合絞り部22jは、軸方向第1側に開口する凹部である。
【0033】
支持部材23は、入力プレート21及びシールプレート22を支持する部材である。支持部材23は、入力プレート21と一体回転可能に、入力プレート21を支持する。また、支持部材23は、シールプレート22と一体回転可能に、シールプレート22を支持する。
【0034】
支持部材23は、回転軸Oまわりに回転可能に構成される。支持部材23は、実質的に筒状に形成されている。
【0035】
[セカンダリフライホイール5]
セカンダリフライホイール5は、プライマリフライホイール2からダンパ部40に伝達された動力を出力側の部材に伝達する。
【0036】
セカンダリフライホイール5は、プライマリフライホイール2の回転軸Oまわりに回転可能に配置されている。セカンダリフライホイール5は、プライマリフライホイール2に対して、相対回転可能である。詳細には、セカンダリフライホイール5は、ベアリング39を介して、プライマリフライホイール2の支持部材23に回転可能に支持されている。
【0037】
セカンダリフライホイール5は、第1出力部材51(出力部材の一例)と、第2出力部材52と、を有している。第1出力部材51は、第2出力部材52と一体回転可能に構成されている。第1出力部材51は、第2出力部材52に固定されている。
【0038】
第1出力部材51は、第2本体部51aと、第1動力伝達部51bと、第2動力伝達部51cと、を有している。
【0039】
第2本体部51aは、実質的に環状に形成されている。第2本体部51aは、リベットによって、第2出力部材52の内周部に固定されている。
【0040】
第1動力伝達部51b及び第2動力伝達部51cには、エンジンからプライマリフライホイール2に伝達された動力が、ダンパ部40を介して伝達される。第1動力伝達部51b及び第2動力伝達部51cは、第2本体部51aから径方向外側に向けて延びている。第1動力伝達部51b及び第2動力伝達部51cは、回転方向において互いに間隔を隔てて設けられている。
【0041】
第1動力伝達部51b及び第2動力伝達部51cはそれぞれ、プライマリフライホイール2の第1本体部21a及びシールプレート22の軸方向間に、配置されている。詳細には、
図4に示すように、第1動力伝達部51bは、軸方向において、プライマリフライホイール2の第1当接部21fと第4隙間84を空けて配置される。第2動力伝達部51cは、軸方向において、第2当接部21gと隙間を空けて配置される。
【0042】
第1動力伝達部51bは、第1当接部21f及び第3当接部22dの軸方向間において、第1当接部21f及び第3当接部22dに対して相対回転可能である。第2動力伝達部51cは、第2当接部21g及び第4当接部22eにおいて、第2当接部21g及び第4当接部22eに対して相対回転可能である。
【0043】
第2出力部材52は、軸方向において、トランスミッション及びダンパ部40の間に、配置される。詳細には、第2出力部材52は、軸方向において、トランスミッションとシールプレート22との間に配置される。
【0044】
[ダンパ部40]
図1及び
図2に示すように、ダンパ部40は、複数のスプリングシート3(第1シート部材及び第2シート部材の一例)と、複数のコイルスプリング41(第1弾性部材及び第2弾性部材の一例)と、を有する。ダンパ部40は、プライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5とを、弾性的に連結する。詳細には、ダンパ部40は、プライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5とを、回転方向に弾性的に連結する。
【0045】
本実施形態においては、ダンパ部40は一対存在する。
図2では、一対のダンパ部40のうち一方のダンパ部40だけが示されている。
【0046】
各ダンパ部40は、筒状部21bの径方向内側に、配置される。各ダンパ部40は、入力プレート21の第1本体部21a及びセカンダリフライホイール5の軸方向間に配置される。
【0047】
各ダンパ部40は、複数(例えば5個)のスプリングシート3と、複数(例えば4個)のコイルスプリング41と、を有している。
【0048】
[スプリングシート3]
スプリングシート3は、プライマリフライホイール2に対して相対回転可能に配置される。スプリングシート3は、プライマリフライホイール2に対して隙間を空けて配置される。詳細には、スプリングシート3は、軸方向において入力プレート21とシールプレート22との間に配置される。スプリングシート3は、第1本体部21aの軸方向第2側の面と、筒状部21bの内周面と、シールプレート22の軸方向第1側の面と、に対して間隔を空けて配置される。スプリングシート3は、プライマリフライホイール2またはセカンダリフライホイール5が回転した時に周方向の押圧力を受けて移動可能である。
【0049】
図5及び
図6に示すように、入力プレート21とスプリングシート3との間には第1隙間81が空いている。シールプレート22とスプリングシート3との間には第2隙間82が空いている。詳細には、スプリングシート3の軸方向第1側の面と第1本体部21aの第2側の面とは軸方向において第1隙間81が空いている。スプリングシート3の軸方向第2側の面とシールプレート22の軸方向第1側の面とは軸方向において第2隙間82が空いている。スプリングシート3の外周面と筒状部21bの内周面とは径方向において第3隙間83が空いている。
【0050】
スプリングシート3は、プライマリフライホイール2に対して相対回転可能に配置される。
【0051】
図2に示すように、スプリングシート3には、第1端部用スプリングシート3a(第1シート部材の一例)、及び、第2端部用スプリングシート3e(第3シート部材の一例)と、第1中間用スプリングシート3b(第2シート部材の一例)、第2中間用スプリングシート3c、第3中間用スプリングシート3dと、がある。なお、第2中間用スプリングシート3c及び第3中間用スプリングシート3dは、第1中間用スプリングシート3bと同形状であるため、これらの詳細な説明を省略する。
【0052】
第1端部用スプリングシート3aは、回転方向第1側においてプライマリフライホイール2及びセカンダリフライホイール5に当接する。詳細には、第1端部用スプリングシート3aは、回転方向第1側において第1当接部21f、第3当接部22d、及び第1動力伝達部51bに当接する。
【0053】
図7A及び
図7Bに示すように、第1端部用スプリングシート3aは、内周部34a、外周部34c、2つの側面部34d、底部34e、及び、貫通孔37を有する。内周部34a、外周部34c、及び、側面部34dは、底部34eから回転方向の一方側に延びる。内周部34a、外周部34c、2つの側面部34d、及び、底部34eは、収容部36を画定する。収容部36は、第1端部用スプリングシート3aの回転方向を向く回転方向面34Wに配置される。収容部36は、回転方向に延びており、回転方向の一方に開口する。
【0054】
第1端部用スプリングシート3aは、第1面F1と第2面F2とを有する。第1面F1は、プライマリフライホイール2に対向する面である。すなわち、第1面F1は、第1端部用スプリングシート3aの外側面34X、及び、2つの側面34Yを含む。第2面F2は、プライマリフライホイール2に対向しない面である。すなわち、第2面F2は、回転方向面34W、及び、内側面34Zを含む。
【0055】
貫通孔37は、第1面F1において軸方向に貫通する。詳細には、貫通孔37は、第1端部用スプリングシート3aの軸方向を向く側面34Yに配置される。貫通孔37は、内周部34a、外周部34c、及び、側面部34dにより四方を画定されていてもよいし、内周部34a、外周部34c、及び、側面部34dにより三方を画定されていてもよい。
【0056】
第2端部用スプリングシート3eは、第1端部用スプリングシート3aに対して回転方向第2側に配置される。第2端部用スプリングシート3eは、回転方向第2側においてプライマリフライホイール2及びセカンダリフライホイール5に当接する。詳細には、第2端部用スプリングシート3eは、回転方向第2側において第2当接部21g、第4当接部22e、及び第2動力伝達部51cに当接する。
【0057】
図8A及び
図8Bに示すように、第2端部用スプリングシート3eは、内周部34a、外周部34c、2つの側面部34d、及び、底部34eを有する。内周部34a、外周部34c、及び、側面部34dは、底部34eから回転方向の一方側に延びる。内周部34a、外周部34c、2つの側面部34d、及び、底部34eは、収容部36を画定する。収容部36は、第1端部用スプリングシート3aの回転方向を向く回転方向面34Wに配置される。収容部36は、回転方向に延びており、回転方向の一方に開口する。
【0058】
第2端部用スプリングシート3eは、第1面F1と第2面F2とを有する。第1面F1は、プライマリフライホイール2に対向する面である。すなわち、第1面F1は、第2端部用スプリングシート3eの外側面34X、及び、2つの側面34Yを含む。第2面F2は、プライマリフライホイール2に対向しない面である。すなわち、第2面F2は、回転方向面34W、及び、内側面34Zを含む。
【0059】
第1端部用スプリングシート3aの外側面34Xの面積は、第2端部用スプリングシート3eの外側面34Xの面積よりも小さい。
【0060】
第1中間用スプリングシート3bは、第1端部用スプリングシート3aに対して回転方向第2側に配置される。
図9に示すように、第1中間用スプリングシート3bは、2つの第2端部用スプリングシート3eの底部34eを突き合わせて回転方向に並べた形状である。したがって、第1中間用スプリングシート3bについての詳細な説明は省略する。
【0061】
図2に示すように、各ダンパ部40に含まれる複数のコイルスプリング41(例えば4個)は、それぞれが回転方向にスプリングシート3に隣接するように配置される。複数のコイルスプリング41それぞれは、プライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5との間で互いに直列に作用するように配置されている。複数のコイルスプリング41それぞれは、上述した第1本体部21aの軸方向第2側の面と、筒状部21bの内周面と、シールプレート22の軸方向第1側の面と、で画定される領域に配置されている。
【0062】
各ダンパ部40に含まれる複数のコイルスプリング41は、スプリングシート3を介して、第1、2動力伝達部51b、51cと、回転方向において第1、第2当接部21f、21g、及び第3、第4当接部22d、22eと、に押圧される。このようにして、複数のコイルスプリング41は、第1、2動力伝達部51b、51cと第1、第2当接部21f、21g、及び第3、第4当接部22d、22eとの間で伸縮する。
【0063】
各ダンパ部40に含まれる複数(例えば5個)のスプリングシート3それぞれは、各コイルスプリング41の端部に配置され、各コイルスプリング41の端部を支持する。詳細には、各コイルスプリング41の端部は、収容部36に収容される。
【0064】
コイルスプリング41には、第1~第4コイルスプリング41a、41b、41c、41dがある。第1コイルスプリング41aが本発明の第1弾性部材に相当する。第2コイルスプリング41bが本発明の第2弾性部材に相当する。第3、第4コイルスプリング41c、41dは、第2コイルスプリング41bと同じ構成であるため、これらの形状についての詳細な説明を省略する。
【0065】
第1コイルスプリング41aは、回転方向において動力伝達部51bに隣接する。第1コイルスプリング41aは、第1端部用スプリングシート3aと第1中間用スプリングシート3bとの間に配置される。第1コイルスプリング41aの回転方向第1側の端部は、第1端部用スプリングシート3aに支持される。第1コイルスプリング41aの回転方向第2側の端部は、第1中間用スプリングシート3bに支持される。
【0066】
第2コイルスプリング41bは、第1中間用スプリングシート3bの回転方向第2側に配置される。第2コイルスプリング41bの回転方向第1側の端部は、第1中間用スプリングシート3bに支持される。第2コイルスプリング41bの回転方向第2側の端部は、第2中間用スプリングシート3cに支持される。
【0067】
第2コイルスプリング41bは、第1コイルスプリング41aよりもばね定数が大きい。第1コイルスプリング41aのばね定数は、プライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5とが相対回転中に主に伸縮する程度とする。これにより、走行中の初期段階には第2コイルスプリング41bが収縮せず、第1中間用スプリングシート3bがプライマリフライホイール2と一体的に摺動可能する。一方、第1コイルスプリング41aが主に収縮し、第1端部用スプリングシート3aのみがプライマリフライホイール2に対して相対回転する。
【0068】
第1端部用スプリングシート3aは、第1動力伝達部51b、第1当接部21f、及び、第3当接部22dそれぞれに、周方向に当接している。第2端部用スプリングシート3eは、第2動力伝達部51c、第2当接部21g、及び、第4当接部22eに、周方向に当接している。DMF100が作動すると、第1、第2端部用スプリングシート3a,3eの一方は、プライマリフライホイール2によって、押圧される。第1、第2端部用スプリングシート3a,3eの他方は、回転方向において第1出力部材51b又は第2出力部51cによって、押圧される。このように、第1~第4コイルスプリング41a、41b、41c、41dは、スプリングシート3を介して、第1、第2出力部材51b、51cと、第1、第2当接部21f、21g及び第3、第4当接部22d、22eと、の間で伸縮する。
【0069】
以下、すべてのスプリングシート3に共通であるため、第1端部用スプリングシート3aをスプリングシート3として説明する。ただし、せん断トルクを低減するための構造は、第2端部用スプリングシート3e、第1~第3中間用スプリングシート3b、3c、3dには適用されない。
【0070】
[グリース4]
図5及び
図6に示すように、グリース4は、プライマリフライホイール2とダンパ部40との間に配置される。詳細には、グリース4は、プライマリフライホイール2とスプリングシート3との隙間に配置される。より詳細には、グリース4は、入力プレート21とスプリングシート3との第1隙間81、及び、シールプレート22とスプリングシート3との第2隙間82、に配置される。グリース4は、筒状部21bの内周面とスプリングシート3の外周面との第3隙間83にも配置される。
【0071】
詳細には、グリース4は、第1本体部21aの軸方向第2側の面と、筒状部21bの内周面と、シールプレート22の軸方向第1側の面と、で画定される領域内に充填される。グリース4は、DMF100の作動時、筒状部21bの内周面で受けられ、遠心力によって筒状部21bの全周に広がる。グリース4は、DMF100の作動時、スプリングシート3とシールプレート22との軸方向の第1隙間81、第1本体部21aとスプリングシート3との軸方向の第2隙間82、及び、スプリングシート3と筒状部21bとの径方向における第3隙間83を埋めるように充填される。DMF100の作動時、第1隙間81の内周部及び第2隙間82の内周部は、グリース4により埋められていなくてもよい。DMF100の作動時、第3隙間83は、グリース4により全体が埋められている。
【0072】
グリース4はさらに、スプリングシート3の第1面F1に接触する。詳細には、グリース4は、スプリングシート3の外側面34X全体を覆うように充填されている。グリース4はさらに、スプリングシート3の2つの側面34Y全体を覆ってもよいし、部分的に覆ってもよいように充填されている。
【0073】
グリース4は、スプリングシート3の第2面F2に接触しない。詳細には、スプリングシート3の内側面34Zに接触しないように充填される。
【0074】
グリース4は、スプリングシート3のコイルスプリング41と接触する面全体を覆ってもよいし、部分的に覆ってもよいように充填されている。
【0075】
グリース4は、第1当接部21fと第1動力伝達部51bとの軸方向間の第4隙間84、及び、第1動力伝達部51bと第3当接部22dとの軸方向間の第5隙間85にも充填されている。グリース4は、第2当接部21gと第2動力伝達部51cとの軸方向間の隙間、及び、第2動力伝達部51cと第4当接部22eとの軸方向間の隙間にも充填されている。
【0076】
グリース4は、せん断トルクTを発生させる。具体的には、DMF100の作動時、スプリングシート3は、プライマリフライホイール2に対して相対回転する。この相対回転により、グリース4がせん断され、グリース4のせん断トルクが発生する。このグリース4のせん断トルクをせん断トルクTとして用いる。
【0077】
せん断トルクTは、第1隙間81、第2隙間82、及び、第3隙間83で発生する。以下、第1隙間81で発生するせん断トルクTについて説明する。なお、各スプリングシート3で得られる合計せん断トルクは、第1隙間81、第2隙間82、及び、第3隙間83のそれぞれで算出したせん断トルクTの合計値である。
【0078】
せん断トルクTは、グリース4の代表半径R、スプリングシート3に接しているグリース4の面積A、グリース4の見かけ粘度η、及び、プライマリフライホイール2とスプリングシート3との相対角速度ωに比例する。また、せん断トルクTは、プライマリフライホイール2とスプリングシート3との隙間の軸方向の寸法Hに反比例する。つまり、せん断トルクTは、次の式(1)で定義される。式(1)では、1つのスプリングシート3と接触するグリース4により発生するせん断トルクTを定義することができる。
【0079】
【0080】
代表半径RはDMF100の作動時のグリース4の代表半径である。具体的には、DMF100の作動時、グリース4は遠心力を受け、第1本体部21aの軸方向第2側の面と、筒状部21bの内周面と、シールプレート22の軸方向第1側の面と、で画定される領域内で径方向外側に向かって広がる。つまり、DMF100の作動時、グリース4は、第1本体部21aの軸方向第2側の面、筒状部21bの内周面、シールプレート22の軸方向第1側の面、スプリングシート3の軸方向第1側の面、スプリングシート3の外周面、及び、スプリングシート3の軸方向第2側の面に接している。このときのグリース4の代表半径がRである。代表半径Rは、作動時の最小グリース半径R1と最大グリース半径R2とを用いて次の式(2)で定義される。なお、最大グリース半径R2とは、回転軸Oから外側面34Xまでの距離である。
【0081】
【0082】
面積Aは、第1隙間81において、DMF100の作動時にスプリングシート3のそれぞれの面に接しているグリース4の面積である。
【0083】
相対角速度ωは、DMF100の作動時のプライマリフライホイール2とスプリングシート3との相対角速度である。
【0084】
寸法Hは、DMF100の作動時のプライマリフライホイール2とスプリングシート3との隙間の軸方向の寸法である。つまり、第1隙間81では、寸法Hは、第1隙間81の軸方向の寸法H1である。
【0085】
第2隙間82、及び、第3隙間83のそれぞれで発生するせん断トルクTも、第1隙間81で発生するせん断トルクTと同様に算出できる。第3隙間83で得られるせん断トルクTにおいて、第1隙間81で得られるせん断トルクTと異なる点を以下に説明する。
【0086】
第3隙間83では、代表半径Rは、回転軸Oから外側面34Xまでの距離、つまり最大グリース半径R2である。また、第3隙間83では、面積Aは、スプリングシート3の外側面34Xにおいて、DMF100の作動時に外側面34Xに接しているグリース4の面積である。第3隙間83では、寸法Hは、第3隙間83の径方向の寸法H3である。
【0087】
見かけ粘度ηは、DMF100の作動時のグリース4の見かけ粘度である。見かけ粘度ηは、次の式(3)で定義される。
【0088】
【0089】
式(3)において、μは、グリース4の周知の粘性係数である。
【0090】
nはグリース4の粘性指数である。粘性指数nは、グリース4の速度依存性を表す物性値であり、数値が大きいほど速度による粘度変化が小さいことを示す。粘性指数nは、以下の方法で算出する。粘性指数nは、グリース4のせん断速度と、グリース4の見かけ粘度と、の関係から算出する。詳細には、粘性指数nは、24℃においてグリース4のせん断速度条件を変化させ、キャピラリーレオメーターを使用して、グリース4の見かけ粘度ηを測定する。グリース4のせん断速度の対数値を横軸にとり、グリース4の見かけ粘度の対数値を縦軸にとり、得られた結果をグラフにプロットする。複数のプロットの回帰直線を求める。回帰直線は周知の方法で求めれば足りる。回帰直線はたとえば、最小二乗法で求めてもよいし、他の方法で求めてもよい。得られた直線の傾きに1を加えた数値をグリース4の粘性指数nとする。
【0091】
粘性指数nは、0.4以上である。粘性指数nが0.4以上であれば、エンジン始動時に発生する共振を十分に抑制することができる。この理由は以下のとおりである。式(1)及び式(3)から、せん断トルクTは次の式(4)で定義できる。
【数4】
【0092】
一般的に、エンジン始動時に共振が発生した時のプライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5との相対角速度ω(以下、単に相対角速度ωという)は、通常作動時の相対角速度ωの約40倍であると考えられる。なお、通常作動時とは、すなわちエンジンからのトルク入力によってDMF100が回転している時を意味する。一方、エンジン始動時に共振が発生した時のダンパ入力トルクの変動幅は、通常作動時のダンパ入力トルクの変動幅の約5倍である。このエンジン始動時と通常作動時とで変化する相対角速度及びダンパ入力トルクの変動幅の増加割合は、DMF100のサイズが変わっても同程度となる。せん断トルクTは、ヒステリシストルクとして利用できる。したがって、相対角速度ωが40倍に変化したときに、通常走行時に必要なせん断トルクTの5倍以上のせん断トルクTが発生すれば、エンジン始動時に発生する共振を十分に抑制することができる。
【0093】
式(4)によれば、せん断トルクTの相対角速度に対する増加割合は、粘性指数nに大きく影響される。そこで、後述の実施例のとおり、粘性指数nとせん断トルク変動割合との関係を調べた。その結果、粘性指数nは0.4以上であれば、せん断トルク増加割合を5倍以上とすることができることが分かった。したがって、粘性指数nは、0.4以上である。従来のDMFでは、粘性指数nが0.2程度のものが一般的に用いられていた。本実施形態においては、粘性指数nが例えば0.4以上と従来のグリースの粘性指数nよりも有意に高くなっているため、エンジン始動時に発生する共振を十分に抑制することができる。
【0094】
スプリングシート3とコイルスプリング41とは相対回転するものの、両部材の相対速度及びグリース4に接する面積は他の第1隙間81、第2隙間82及び第3隙間83に比べて有意に小さい。そのため、そのため、スプリングシート3のコイルスプリング41と接触する面は、せん断トルクTの発生に寄与しない。
【0095】
DMF100全体で得られる全体せん断トルクは、第1、第2端部用スプリングシート3a、3e、及び第1~第3中間用スプリングシート3b、3c、3dのそれぞれで算出したせん断トルクTの合計値である。
【0096】
また、グリース4のせん断トルクは、プライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5との相対回転によっても生じさせることができる。この場合、第1当接部21fと第1動力伝達部51bとの第4隙間84、及び、第1動力伝達部51bと第3当接部22dとの第5隙間85、で生じるグリース4せん断トルクもせん断トルクTとして使用することができる。第2当接部21gと第2動力伝達部51cとの隙間、及び、第2動力伝達部51cと第4当接部22eとの隙間、で生じるグリース4せん断トルクもせん断トルクTとして使用することができる。
【0097】
[せん断トルク低減部P]
第1端部用スプリングシート3aは、せん断トルク低減部Pを有する。せん断トルク低減部Pは、プライマリフライホイール2と第1端部用スプリングシート3aとの間で生じるせん断トルクTを低減する。
【0098】
上記のとおり、せん断トルクTは、グリース4の代表半径R、スプリングシート3に接しているグリース4の面積A、グリース4の見かけ粘度η、及び、プライマリフライホイール2とスプリングシート3との相対角速度ωに比例する。また、せん断トルクTは、プライマリフライホイール2とスプリングシート3との隙間の軸方向の寸法Hに反比例する。したがって、せん断トルクTを低減させるためには、これらの要素を低減または増加させればよい。
【0099】
本実施形態においては、第1端部用スプリングシート3aとプライマリフライホイール2との間で生じるせん断トルクTを低減する。一方、第2端部用スプリングシート3e、第1~第3中間用スプリングシート3b、3c、3dとプリンターの間で生じるせん断トルクTは大きいまま維持する。したがって、せん断トルクTを低減させるために、第1端部用スプリングシート3aに接しているグリース4の面積Aを低減する、あるいは、せん断トルクTを低減させるために、第1端部用スプリングシート3aとプライマリフライホイール2との第1隙間81の軸方向の寸法H1を大きくする、などを行う。
【0100】
本実施形態においては、第1端部用スプリングシート3aの外側面34Xの面積は、第2端部用スプリングシート3eの外側面34Xの面積よりも小さい。そのため、式(1)の第1端部用スプリングシート3aに接しているグリース4の面積Aが低減される。その結果、せん断トルクTを低減することができる。
【0101】
また、本実施形態においては、第1端部用スプリングシート3aの第1面F1に配置される貫通孔37をせん断トルク低減部Pとして用いる。上記のとおり、貫通孔37は、第1端部用スプリングシート3aのプライマリフライホイール2と対向する第1面F1に配置される。そのため、式(1)の第1端部用スプリングシート3aに接しているグリース4の面積Aが低減される。その結果、せん断トルクTを低減することができる。
【0102】
[動作・効果]
エンジンからプライマリフライホイール2に伝達されたトルクは、ダンパ部40に入力される。ダンパ部40では、入力プレート21にトルクが入力され、このトルクは、コイルスプリング41を介して、セカンダリフライホイール5に伝達され、出力側の電動機、発電機、変速機等に伝達される。通常走行時、すなわちエンジンからのトルク入力によってDMF100が回転している時には、伝達されるトルクによる回転変動を減衰する必要がある。プライマリフライホイール2と第1端部用スプリングシート3aとの間で生じるグリース4のせん断トルクTは回転変動の減衰性能を低下させる。
【0103】
本実施形態では、通常走行時にプライマリフライホイール2に対して主に相対回転する第1端部用スプリングシート3aがせん断トルク低減部Pを有している。せん断トルク低減部Pは、プライマリフライホイール2と第1端部用スプリングシート3aとの間で生じるグリース4のせん断トルクTを低減する。これにより、回転変動の減衰性能の低下を防止し、減衰性能を向上させている。詳細には次のとおりである。
【0104】
通常走行時には、プライマリフライホイール2が回転方向第1側に回転することにより、プライマリフライホイール2からの動力は、第1中間用スプリングシート3b及び第1端部用スプリングシート3aを介して、セカンダリフライホイール5に伝達される。ここで、エンジンからのトルク入力開始時には、第1中間用スプリングシート3bはプライマリフライホイール2と一体的に回転する一方で、第1端部用スプリングシート3aは、プライマリフライホイール2と一体的に回転せずにプライマリフライホイール2と相対回転する。第1中間用スプリングシート3bが第1端部用スプリングシート3aに当接した後は、第1中間用スプリングシート3bと第1端部用スプリングシート3aとがプライマリフライホイール2に対して相対回転する。つまり、通常走行時、第1端部用スプリングシート3aは、主にプライマリフライホイール2に対して相対回転する。これにより、第1端部用スプリングシート3aとプライマリフライホイール2との間でせん断トルクが発生する。
【0105】
ここで、第1端部用スプリングシート3aは、上述したせん断トルクを低減させるためのせん断トルク低減部Pを有する。そのため、第1端部用スプリングシート3aは、通常走行時に発生するせん断トルクを低下させることができる。この結果、回転装置は、回転変動の減衰性能の低下を防止し、減衰性能を向上させることができる。
【0106】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0107】
(a)上記実施形態では、せん断トルク低減部Pは、第1端部用スプリングシート3aの軸方向を向く側面34Yに配置された貫通孔37であった。しかしながら、特にこれに限定されない。例えば、せん断トルク低減部Pは、第1面F1に配置される溝を含んでもよい。溝にはグリース4が入り込まない。そのため、溝は、第1端部用スプリングシート3aの第1面F1の面積を低減する。
【0108】
(b)せん断トルク低減部Pは、第1端部用スプリングシート3aの外側面34Xに配置されてもよい。
【0109】
(c)
図10に示すように、せん断トルク低減部Pは、テーパ面34Vを含んでもよい。テーパ面34Vは、第1端部用スプリングシート3aの側面34Yと第1端部用スプリングシート3aの外側面34Xとをつなぐ。テーパ面34Vは、径方向に向かうにつれてプライマリフライホイール2から離れるように傾斜する。この場合、第1端部用スプリングシート3aとプライマリフライホイール2との第1隙間81の軸方向の寸法H1が大きくなる。その結果、第1端部用スプリングシート3aとプライマリフライホイール2との間で発生するせん断トルクTが低減される。
【0110】
(d)上記実施形態では、第3、第4コイルスプリング41c、41dは、第2コイルスプリング41bと同じ構成としたが、特にこれに限定されない。第2~第4コイルスプリング41b、41c、41dは、回転方向第2側のシート部材がプライマリフライホイール2と一体的に摺動可能である限り、異なるばね定数であってもよい。
【0111】
(e)上記実施形態では、回転装置の一例としてDMF100を説明したが、回転装置はDMF100に限定されない。例えば、回転装置は、セカンダリフライホイール5を備えていなくてもよい。また、回転装置は、クラッチ装置、又はダンパ装置などであってもよい。
【0112】
(f)上記実施形態では、第1弾性部材及び第2弾性部材はコイルスプリング41であったが、特にこれに限定されない。第1弾性部材及び第2弾性部材はコイルスプリング以外であってもよい。第1弾性部材及び第2弾性部材は例えば、ゴムであってもよい。
【実施例0113】
以下において本発明の実施例について説明する。以下の実施例は数値シミュレーション解析により実施して得られた。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0114】
[DMF100の作製]
式(1)のグリース4の代表半径R、第1端部用スプリングシート3aに接しているグリース4の面積A、プライマリフライホイール2と第1端部用スプリングシート3aとの軸方向の寸法Hが次のとおりとなるように、DMF100を作製した。第1隙間81及び第2隙間82においては、代表半径R:115mm、面積A:(第1隙間81及び第2隙間82の合計で)15.4cm2、寸法H1:0.5mm、寸法H2:0.5mmであった。第3隙間83は無しとした。第1隙間81及び第2隙間82のそれぞれで算出したヒステリシストルクTの合計値である合計ヒステリシストルクを、各試験番号で得られるヒステリシストルクとした。
【0115】
本シミュレーションにおいて、通常作動時(エンジン始動時ではなく、安定して走行している時)の相対角速度ωは、50deg/sであった。エンジン始動時に共振が発生した時の相対角速度ωは、2000deg/sであった。つまり、エンジン始動時に共振が発生した時の相対角度は、通常作動時の相対角速度ωの40倍となった。
【0116】
また、本シミュレーションにおいて、通常作動時のダンパ入力トルククの変動幅は、±20Nmであった。エンジン始動時に共振が発生した時のダンパ入力トルクの変動幅は、±100Nmであった。つまり、エンジン始動時に共振が発生した時のダンパ入力トルクの変動幅は、通常作動時のダンパ入力トルクの変動幅の5倍となった。
【0117】
表1のとおり、粘性指数nが異なるグリースを種々用意した。なお、試験番号1及び試験番号2で用いたグリースは、従来のDMFで一般的に用いられるグリースである。用意したグリースを用いて、DMF100において、プライマリフライホイール2とセカンダリフライホイール5との相対角速度ωが40倍となった場合の通常作動時のせん断トルクTに対するエンジン始動時のせん断トルクTの増加割合(以下、せん断トルク増加割合という)について、式(1)を用いた数値解析により模擬した。結果を表1及び
図11に示す。
【0118】
【0119】
[評価結果]
上記のとおり、エンジン始動時に共振が発生した時のダンパ入力トルクの変動幅は、通常作動時のダンパ入力トルクの変動幅の5倍であった。そのため、ヒステリシストルク増加割合を5倍以上にすれば、エンジン始動時に発生する共振を十分に抑制できる。表1及び
図11に示すとおり、粘性指数nが0.43以上において、せん断トルク増加割合が5倍以上となった。したがって、粘性指数nが0.4以上であれば、エンジン始動時に発生する共振を十分に抑制できることが確認できた。