(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129148
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】遠隔操作システム及び遠隔操作方法
(51)【国際特許分類】
B25J 3/00 20060101AFI20230907BHJP
B25J 5/00 20060101ALI20230907BHJP
B25J 5/06 20060101ALI20230907BHJP
B25J 9/06 20060101ALI20230907BHJP
B25J 9/12 20060101ALI20230907BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20230907BHJP
B25J 19/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B25J3/00 A
B25J5/00 A
B25J5/00
B25J5/06
B25J9/06 B
B25J9/12
B25J13/08
B25J19/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033959
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】徳元 勇太
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩二
(72)【発明者】
【氏名】石田 匡平
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS12
3C707AS15
3C707AS26
3C707BS12
3C707CY17
3C707CY32
3C707JS01
3C707JT05
3C707KS34
3C707KW01
3C707KW03
3C707KX07
3C707LU08
3C707MS03
3C707MS07
3C707MT04
(57)【要約】
【課題】射出作業を実行するときの遠隔操作を容易にする遠隔操作システム及び遠隔操作方法を提供する。
【解決手段】遠隔操作システム1は、作業者による操作入力を受け付ける操作部12と、作業対象物44に対する射出ツール24を搭載したマニピュレータ22と、操作部22に対して作業者が入力した動きに応じてマニピュレータ22を動かすとともにマニピュレータ22が受ける反力を操作部12へフィードバックする制御装置30とを備える。マニピュレータ22は、射出ツール24と作業対象物44との間の距離が作業距離に入るように作業対象物44に接触する接触部材26を更に搭載する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者による操作入力を受け付ける操作部と、
作業対象物に対する射出ツールを搭載したマニピュレータと、
前記操作部に対して前記作業者が入力した動きに応じて前記マニピュレータを動かすとともに前記マニピュレータが受ける反力を前記操作部へフィードバックする制御装置と
を備え、
前記マニピュレータは、前記射出ツールと前記作業対象物との間の距離が作業距離に入るように前記作業対象物に接触する接触部材を更に搭載する、遠隔操作システム。
【請求項2】
前記マニピュレータは、移動可能に構成されている移動台に搭載されている、請求項1に記載の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記接触部材は、緩衝機能を備えるダンパーを含む、請求項1又は2に記載の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記接触部材及び前記射出ツールは、前記マニピュレータの先端に位置し、
前記接触部材は、前記射出ツールよりも前記射出ツールの射出方向に突出している、請求項1から3までのいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項5】
作業対象物に対する射出ツールの遠隔操作方法であって、
前記射出ツールを搭載したマニピュレータを前記作業対象物に接近させる工程と、
マスタ操作装置の操作部を操作することによって前記マニピュレータを遠隔操作し、前記マニピュレータから張り出すように設けられた接触部材を前記作業対象物に接触させることによって前記射出ツールと前記作業対象物との間に作業距離を確保する工程と、
前記射出ツールと前記作業対象物との間に前記作業距離を確保した状態で、前記作業対象物に対して射出作業を実行する工程と
を含む、遠隔操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔操作システム及び遠隔操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロボットのようなマニピュレータ(ロボットアーム)は、一般的に、固定面又は安定した台座に設置されて、事前にティーチングにて教示された軌道の空間座標へアーム先端を位置制御されている。その際、ロボットアームが作業対象物としているものは、ティーチングされたときと位置が変わらないことが前提となっているため、対象物の位置が変化する場合又は非定常な作業の場合において従来の技術を適用するのが困難となる。ここで、作業を自動化させることができない非定常、非定型な作業においては、いわゆるマスタスレーブ遠隔操作により、マスタ操作装置を直接手動操作し、スレーブマニピュレータを遠隔制御する事例がある。
【0003】
例えば特許文献1では、スレーブマニピュレータの先端などにあるエンドエフェクタが剛性の高い物体と接触したときに、入力グリップに大きなスレーブ反力が発生しないよう、あらかじめ設定したマスタ反力の絶対値が上限値以上になると、その上限値までを入力グリップ(マスタ操作装置)に帰還するようにしている。したがって、入力グリップに過大なマスタ反力が帰還されることはなく、操作者は剛体接触を含むスレーブマニピュレータの操作において、エンドエフェクタの剛体接触を感知でき、かつ、意思に反する入力グリップの動作なく、安定した接触操作が行える、と記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、高所作業車などの車両より伸びるブームの上端に搭載されたスレーブマニピュレータに作用する外力を、車両側に搭載されたマスタマニピュレータに反力としてフィードバック制御する遠隔操作形マニピユレータが示されている。作業ポイントに至る経路上の障害物を検出して、スレーブマニピュレータが回避点近傍の所定の位置を越えると、次第にその反力が増加し、マスタマニピュレータを拘束し、回避点への接触を未然に防止できる効果がある、と記載されている。また、スレーブが障害物に接触して停止したことは外力の増加、即ちマスタ操作装置への反力の増加として操作者が感じることができるため、このような、ロボット工法にて保守作業を行う場合、オペレータは作業中に障害物に接触したことを確認することができる、と記載されている。
【0005】
また、特許文献3及び特許文献4では、マニピュレータに形状測定装置またはレーザー照射装置が設けられており、形状測定装置またはレーザー照射装置によって測定したワーク(作業対象物)の形状をもとにワーク面との距離を一定に保ちながらマニピュレータを動作させることで、ケレン作業等を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-229858号公報
【特許文献2】特開平08-300277号公報
【特許文献3】特開2021-53679号公報
【特許文献4】特開2021-58912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、スレーブアームに伝わる反力を検知しているが、対象物に接触してからの反力であり、急な反力に対応できないことが考えられる。着目している対象物だけでなく、想定外の障害物に接触したときも、急な反力が生じることになる。また、マスタ操作装置へ伝える反力に上限値を設けたことで、上限値以上の動きが感じ取れない。
【0008】
特許文献2では、作業ポイントに至る経路上の障害物までの距離を視覚装置により判定し、設定された所定の距離を越えると障害物に接近した距離に応じてマスタの拘束力を関数発生器にて発生させ、その拘束力を反力に重畳してマスタにフィードバックする反力発生手段を備えている。上記の場合、障害物までの距離を視覚装置により判定する必要があるため、視野角によっては、距離を見誤る可能性がある。
【0009】
特許文献3、特許文献4では、形状測定装置またはレーザー照射装置によって測定したワーク(作業対象物)の形状をもとにワーク面との距離を一定に保ちながらマニピュレータを自動制御している。しかし、マスタスレーブ制御の場合、操作員が人手でマスタ操作装置を操作して遠隔でマニピュレータを動かすため、マニピュレータと作業対象物との距離を自動で制御することはできない。特に、作業対象物が複雑な形状の場合には、作業用ツールと作業対象物との距離を所定の距離に保った状態でマニピュレータを操作することは難しかった。
【0010】
そこで、本開示は、射出作業を実行するときの遠隔操作を容易にする遠隔操作システム及び遠隔操作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムは、作業者による操作入力を受け付ける操作部と、作業対象物に対する射出ツールを搭載したマニピュレータと、前記操作部に対して前記作業者が入力した動きに応じて前記マニピュレータを動かすとともに前記マニピュレータが受ける反力を前記操作部へフィードバックする制御装置とを備える。前記マニピュレータは、前記射出ツールと前記作業対象物との間の距離が作業距離に入るように前記作業対象物に接触する接触部材を更に搭載する。
【0012】
本開示の一実施形態に係る遠隔操作方法は、作業対象物に対する射出ツールの遠隔操作方法であって、前記射出ツールを搭載したマニピュレータを前記作業対象物に接近させる工程と、マスタ操作装置の操作部を操作することによって前記マニピュレータを遠隔操作し、前記マニピュレータから張り出すように設けられた接触部材を前記作業対象物に接触させることによって前記射出ツールと前記作業対象物との間に作業距離を確保する工程と、前記射出ツールと前記作業対象物との間に前記作業距離を確保した状態で、前記作業対象物に対して射出作業を実行する工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る遠隔操作システム及び遠隔操作方法によれば、射出作業を実行するときの遠隔操作が容易に実行され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示に係る遠隔操作システムの構成例を示す図である。
【
図3】マニピュレータがカバーを備える構成例を示す図である。
【
図4】本開示に係る遠隔操作方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、作業対象物に対する射出作業を実行する射出ツールを備えるマニピュレータを遠隔操作する遠隔操作システム、及び、マニピュレータの遠隔操作方法に関する。
【0016】
本開示に係る遠隔操作システムは、いわゆるバイラテラル制御によるマスタスレーブシステムとして構成されるとする。遠隔操作システムは、マスタ操作装置の操作部に入力された操作の動きに応じて、マスタ操作装置から離れて位置するマニピュレータの動作を制御するように構成されることによって遠隔操作を実現する。遠隔操作システムの産業上の利用分野として、高所、難所、高温環境又は粉塵環境等の人間によるアクセスが困難な建築物又は構造物のエリアで行う保全作業等の種々の作業分野が挙げられる。
【0017】
以下、本開示に係る遠隔操作システム及び遠隔操作方法の実施形態が図面に基づいて説明される。各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置又は方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
<第1実施形態>
(システム全体構成)
図1に示されるように、遠隔操作システム1は、マスタ操作装置10と、スレーブ操作装置20と、制御装置30とを備える。マスタ操作装置10は、操作部12を備える。スレーブ操作装置20は、マニピュレータ22と、マニピュレータ22の先端に取り付けられている射出ツール24と、接触部材26とを備える。マニピュレータ22は、スレーブアームとして構成される。
【0019】
制御装置30は、マスタ操作装置10とスレーブ操作装置20との間を接続するケーブル32を備える。制御装置30は、ケーブル32を介してマニピュレータ22と通信可能に接続される。マニピュレータ22と制御装置30とは、無線で通信可能に接続されてもよい。制御装置30は、操作部12に入力された操作に応じてマニピュレータ22の動作を制御するとともに、マニピュレータ22が受ける反力を操作部12にフィードバックする。
【0020】
制御装置30は、遠隔操作システム1の各部を制御及び管理できるように、例えばCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等の少なくとも1つのプロセッサを含んで構成されてよい。制御装置30は、1つのプロセッサで構成されてよいし、複数のプロセッサで構成されてよい。制御装置30を構成するプロセッサは、後述する記憶部に格納されたプログラムを読み込んで実行することによって、遠隔操作システム1の各構成部を制御及び管理してよい。
【0021】
制御装置30は、記憶部を備えてよい。記憶部は、各種の情報又はデータ等を格納する。記憶部は、例えば制御装置30において実行されるプログラム、又は、制御装置30において実行される処理で用いられるデータ若しくは処理の結果等を格納してよい。また、記憶部は、制御装置30のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等を含んで構成されてよいがこれに限定されない。例えば、記憶部は、制御装置30として用いられるプロセッサの内部メモリとして構成されてもよいし、制御装置30からアクセス可能なハードディスクドライブ(HDD)として構成されてもよい。記憶部は、非一時的な読み取り可能媒体として構成されてもよい。記憶部は、制御装置30と一体に構成されてもよいし、制御装置30と別体として構成されてもよい。
【0022】
制御装置30は、通信部を備えてよい。通信部は、有線又は無線によって遠隔操作システム1のマスタ操作装置10又はスレーブ操作装置20等の各構成部と通信するための通信インタフェースを含んで構成されてよい。通信インタフェースは、ネットワークを介して他の装置と通信可能に構成されてよい。通信部は、遠隔操作システム1の各構成部との間でデータを入出力する入出力ポートを含んで構成されてよい。通信部は、遠隔操作システム1の各構成部との間で必要なデータ及び信号を送受信する。通信部は、有線通信規格に基づいて通信してよいし、無線通信規格に基づいて通信してもよい。例えば無線通信規格は3G、4G又は5G等のセルラーフォンの通信規格を含んでよい。また、例えば無線通信規格は、IEEE802.11及びBluetooth(登録商標)等を含んでよい。通信部は、これらの通信規格の1つ又は複数をサポートしてよい。通信部は、これらの例に限られず、種々の規格に基づいて他の装置と通信したりデータを入出力したりしてよい。
【0023】
遠隔操作システム1は、高所作業車100に搭載され、高所に位置する作業対象物44に対して射出ツール24によって射出物を射出する作業を行う際に用いられるとする。高所作業車100は、ブーム110と、移動台120と、運転台130とを備える。移動台120は、ブーム110の先端に搭載されており、ブーム110の回転又は伸縮によって移動可能に構成されている。スレーブ操作装置20は、移動台120に搭載されるとする。マスタ操作装置10は、運転台130に搭載されるとする。運転台130は、ブーム110を操作する装置を備える。
【0024】
スレーブ操作装置20のマニピュレータ22は、一例として、6軸方向に自由度を有する垂直多関節型のアームロボットであるとする。マニピュレータ22は、マスタ操作装置10によって遠隔操作されるように構成される装置である限り、アームに限られず、種々の構造又は形状を有する装置として構成されてよい。
【0025】
マスタ操作装置10の操作部12は、一例として、マニピュレータ22と同じ垂直多関節型のアームロボットであるとする。マスタ操作装置10の操作部12とスレーブ操作装置20のマニピュレータ22とが同一又は類似の態様で構成されることで、遠隔操作システムとしてのマスタスレーブ制御システムが容易に制御され得る。マスタ操作装置10とスレーブ操作装置20とは、必ずしも相似形で構成されなくてもよいし、同じ自由度で構成されなくてもよい。操作部12は、操作軸として構成されてもよいし、ジョグシャトルのような回転型コントローラとして構成されてもよい。操作部12は、これらの例に限られず種々の態様で構成されてよい。
【0026】
制御装置30は、マスタ操作装置10を制御するとともに、マニピュレータ22の各部の位置(角度)と、マニピュレータ22の各部に作用する反力とをマスタ操作装置10へフィードバックする。具体的に、制御装置30は、マニピュレータ22のアームの角度から軌道計算されるマニピュレータ22の先端の位置及び姿勢と、マニピュレータ22の各部に作用する反力とを、バイラテラル制御で双方向に伝達可能に構成される。マニピュレータ22のアームが多関節ロボットとして構成される場合、制御装置30は、マニピュレータ22の各関節に設けられた駆動モータのトルクを、反力としてマスタ操作装置10に伝達するように構成されてよい。
【0027】
上述したように、マニピュレータ22の先端に、作業対象物44に対して射出作業を実施するための射出ツール24が取り付けられている。射出ツール24は、例えばレーザーを照射するレーザー照射装置、ガスを噴射するガス溶断装置、塗料を噴射する塗装装置、又は、ケレン作業のために砂等の研磨材料を吹き付ける装置等の、種々の射出物を射出する装置を含んでよい。射出ツール24は、固体、液体若しくは気体等の物質を射出できるように構成されてよい。射出ツール24は、光等の電磁波、又は、電極に電圧を印加することによって生じる電界若しくは磁極から生じる磁界等の電磁的なエネルギーを射出できるように構成されてよい。射出ツール24は、超音波等の音波、又は、衝撃波等の力学的なエネルギーを射出できるように構成されてよい。
【0028】
射出作業は、ケレン作業、検査、洗浄、塗装、溶断又は溶接等の種々の作業に含まれてよい。作業対象物44は、例えば、橋梁の桁下構造等の鋼構造物を含んでよい。
【0029】
射出ツール24は、ケーブル42を介して通信可能に接続される射出制御装置40によって制御される。射出ツール24と射出制御装置40とは、無線で通信可能に接続されてもよい。射出制御装置40は、制御装置30と同一又は類似に構成されてよい。
【0030】
マスタ操作装置10は、射出ツール24に射出作業を実行させる操作の入力を受け付ける。制御装置30は、マスタ操作装置10において射出作業を実行させる操作が入力された場合、射出制御装置40に対して射出ツール24に射出作業を実行させるように指示を出力する。
【0031】
射出ツール24は、制御装置30によって制御されてもよい。この場合、制御装置30は、マスタ操作装置10において射出作業を実行させる操作が入力された場合、射出ツール24に射出作業を実行させるように射出ツール24を制御する。
【0032】
射出ツール24の位置は、マニピュレータ22の動作によって定まり、射出ツール24から作業対象物44までの距離が適切な範囲に入るように制御される。適切な範囲内の距離は、作業距離とも称される。作業距離は、射出作業の用途別(作業別)に定められる。
【0033】
マニピュレータ22は、射出作業を実施するために、射出ツール24から作業対象物44までの距離が作業距離になるように制御される。つまり、マスタ操作装置10の操作部12を操作する作業者は、射出ツール24から作業対象物44までの距離が作業距離になるように操作部12を操作する必要がある。
【0034】
ここで、マニピュレータ22の先端に、接触部材26が取り付けられている。接触部材26は、
図2に示されるように、射出ツール24が射出物を射出する方向に向かってマニピュレータ22の先端から射出ツール24よりも突出するように取り付けられている。本実施形態において、接触部材26は、マニピュレータ22の先端の射出ツール24の近傍に取り付けられている。具体的に、接触部材26は、射出ツール24に隣り合うように平行に配置されてよい。
【0035】
接触部材26は、射出ツール24が作業対象物44に近づいたときに、射出ツール24よりも先に作業対象物44に接触する。したがって、射出ツール24と作業対象物44との間に距離が保たれる。接触部材26の長さは、射出ツール24から作業対象物44までの距離が作業距離に入るように、射出ツール24から作業対象物44までの適切な距離を確保できる長さにあらかじめ設定されている。
【0036】
接触部材26は、緩衝性能を備えるダンパーを含んで構成されてもよい。接触部材26は、マニピュレータ22から張り出して射出ツール24と作業対象物44との間に作業距離を確保することができる大きさ及び形状であればよい。接触部材26は、例えば棒状のロッド若しくはプローブ、湾曲した盾状のカバー、又は、クッション状のブロック等で構成されてよい。接触部材26は、弾性部材を含んで構成されてもよい。
【0037】
接触部材26は、先端等の作業対象物44に接触する部分に、接触部材26が作業対象物44に接触したことを検知する接触センサを備えてよい。接触センサは、検知結果を信号として制御装置30又は射出制御装置40に出力する。
【0038】
制御装置30又は射出制御装置40は、接触センサの検知結果に基づいて射出ツール24の動作を制御してよい。具体的に、制御装置30又は射出制御装置40は、接触部材26が作業対象物44に接触していることが接触センサによって検知された場合、射出ツール24を使用可能状態(スタンバイ状態)にする。射出ツール24は、使用可能状態(スタンバイ状態)になった場合、マスタ操作装置10における射出操作の入力に応じてすぐに射出を実行できる。一方、制御装置30又は射出制御装置40は、接触部材26が作業対象物44に接触していることが接触センサによって検知されない場合、射出ツール24を使用不可能状態(ОFF)にする。言い換えれば、制御装置30又は射出制御装置40は、射出ツール24が作業対象物44に向いていない場合又は射出ツール24と作業対象物44との距離が作業距離ではない場合に、射出ツール24が射出を実行できないようにできる。このようにすることで、作業対象物44以外に向けた射出が避けられ得る。その結果、射出作業の安全性が高まり得る。
【0039】
接触部材26の先端等の作業対象物44に接触する部分は、作業対象物44への接触により摩耗したり汚れたりし得る。したがって、接触部材26の先端等の作業対象物44に接触する部分は、取替可能(使い捨て)に構成されてよい。
【0040】
接触部材26が接触センサを備えない場合であっても、制御装置30は、接触部材26が作業対象物44に接触した際に受ける反力を検知することによって、接触部材26が作業対象物44に接触したか判定してよい。制御装置30は、接触部材26に作用する反力が所定の閾値以上である場合に接触部材26が作業対象物44に接触したと判定し、射出ツール24を使用可能状態にしてよい。制御装置30は、接触部材26に作用する反力が所定の閾値より小さい場合に接触部材26が作業対象物44に接触していないと判定し、射出ツール24を使用不可能状態にしてよい。
【0041】
接触部材26は、先端等の作業対象物44に接触する部分に、作業対象物44に沿って摺動するローラー等の摺動体を備えてもよい。この場合、摺動体に接触センサが取り付けられてもよい。
【0042】
(遠隔操作方法)
本実施形態の遠隔操作システム1によって射出作業を行う際の手順が説明される。
【0043】
第1操作工程として、作業者は、高所作業車100のブーム110によって移動台120全体を上昇させ、マニピュレータ22を作業対象物44に接近させる。このとき、作業者は、マニピュレータ22の先端ができるだけ曲がった状態(コンパクトな状態)でマニピュレータ22を作業対象物44に接近させる。このようにすることで、次の第2操作工程でマニピュレータ22を操作するときに、マニピュレータ22の先端に取り付けられている射出ツール24の位置が作業対象物44に対して合わせられやすくなる。
【0044】
第2操作工程として、作業者は、マニピュレータ22を伸ばせば作業対象物44に接触できる程度に移動台120を作業対象物44に接近させた後、マスタ操作装置10の操作部12を操作することによってマニピュレータ22を徐々に伸ばし、接触部材26を作業対象物44に当接(接触)させる。射出ツール24が例えばレーザー照射装置である場合、レーザー照射装置の照射レンズから作業対象物44の照射面まで一定の距離(作業距離)を確保する必要がある。ここで、本実施形態において、接触部材26のマニピュレータ22からの張り出し長さが一定の距離を確保できる長さに設定されている。そのため、接触部材26を作業対象物44の照射面に接触させることによってレーザー照射に適正な距離(作業距離)が確保される。接触部材26がダンパーを含んで構成される場合、接触部材26のダンパーは、作業対象物44に対して押し付ける力によって収縮する。接触部材26のダンパーは、ダンパーが収縮したとしても射出ツール24と作業対象物44との距離が作業距離になるように設計されているとする。作業者は、押し付け力(反力)と接触部材26のダンパーの収縮量との関係をあらかじめ把握しておくことによって、接触部材26を所定の押し付け力(反力)で作業対象物44に押し付けつつ、マスタ操作装置10によってマニピュレータ22を遠隔操作できる。作業者は、マニピュレータ22を移動させる場合、接触部材26を作業対象物44の照射面に接触させた状態で引きずるように動かす(摺動体が設けられている場合には摺動体を摺動させる)ことで、照射に適正な距離(作業距離)を保ったままで射出ツール24を移動させることができる。
【0045】
第3操作工程として、作業者は、接触部材26によって射出ツール24と作業対象物44との間に一定の距離(作業距離)を確保した状態で、作業対象物44の作業箇所(照射面)に対して、マニピュレータ22に取り付けられている射出ツール24の位置を決定する。作業者は、マスタ操作装置10を操作して、射出ツール24によって作業対象物44に対する射出作業を実行させる。
【0046】
<第2実施形態>
(システム構成)
図3に示されるように、第2実施形態に係る遠隔操作システム1において、マニピュレータ22は、接触カバー28を備えてよい。接触カバー28は、マニピュレータ22の各関節に取り付けられていてよいし、関節以外の部分に取り付けられていてもよい。接触カバー28は、盾状の湾曲した接触面を有しているとする。また、接触カバー28は、マニピュレータ22の関節に取り付けられている場合、作業対象物44又はその周辺に位置する物体に当接(接触)した際の反力がマニピュレータ22の関節部分に伝わるように構成されている。接触カバー28は、各関節に対してそれぞれ複数個ずつ取り付けられていてもよい。接触カバー28は、少なくともマニピュレータ22の関節の外側をカバーする位置に取り付けられていてよい。接触カバー28は、接触部材26と同様に緩衝機能を備えるダンパーを含んで構成されてもよい。
【0047】
第2実施形態に係る遠隔操作システム1は、特に作業対象物44又はその周辺に位置する物体の形状が複雑であったり射出作業を実行する場所が狭かったりする場合に用いられてよい。すなわち、第2実施形態のように、マニピュレータ22に複数の接触カバー28を取り付けて、特に関節部分を接触カバー28で保護することにより、マニピュレータ22が作業対象物44以外の物体にぶつかることによって、射出ツール24と作業対象物44との距離が変わることを抑制し得る。また、マニピュレータ22が、接触カバー28によって安定した姿勢で支持され得る。
【0048】
<実施例>
以下、遠隔操作システム1の具体的な実施例が説明される。
【0049】
マニピュレータ22は、
図3に示される、関節6自由度の垂直多関節型のアームロボットで、本体重量40kg、最大リーチ長さ1300mm、最大可搬重量12kgの協働ロボットとして構成された。マスタ操作装置10は、関節6自由度の垂直多関節型のアームロボットとして構成された。高所作業車100として、製鉄所の保守点検又は清掃作業で使われる一般的なものであって、ブーム110の最大高さ50m、最大載荷重量200kgのものが使用された。射出ツール24は、出力1kWのレーザー照射機(照射装置)として構成された。また、マニピュレータ22の先端にレーザー照射レンズ3kgが取り付けられた。レーザー照射機は、通常の人手作業で1時間程度の照射作業を問題なく実行できるように構成された、手持ち用のレーザー照射ガンの重量を参考にして構成された。上述した構成を用いて、レーザー照射機からのレーザー照射によって、鋼構造物表面の錆びを落とすケレン作業が実行された。
【0050】
遠隔操作システム1を用いた作業との比較として人手による作業が実行された。人手による作業は、高所作業車100の移動台120に作業者が搭乗し、手持ち用のレーザー照射ガンによってレーザーを照射することによって実行された。しかし、高所作業車100の移動台120を高さ40mの位置まで上げたところで、風の影響を受けて±100mm程度の揺れが生じた。その結果、人手による作業において、洗浄又はケレンにムラが生じてしまった。
【0051】
一方で、遠隔操作システム1を用いた作業において、マニピュレータ22を搭載した移動台120を高さ40mの位置まで上げたところで移動台120が揺れる状態で、作業者は、マスタ操作装置10の操作部12を操作することによってマニピュレータ22を操作した。作業者は、関節に取り付けられている接触カバー28を鋼構造物に押し当てるように接触させながらマニピュレータ22を伸ばすことによって、マニピュレータ22の揺れを低減させることができた。作業者は、移動台120の高さがそのままで、かつ、接触カバー28を介してマニピュレータ22を鋼構造物に寄り掛からせたままで、移動台120を水平方向へ1m移動させ、先端の接触部材26を鋼構造物に押し付けた。このとき、作業者は、接触部材26のダンパーの長さ、すなわちマニピュレータ22の先端のレーザー照射レンズと作業対象物44である鋼構造物の表面との距離が作業距離に入るように力を調整しながらマスタ操作装置10の操作部12を操作した。そして、作業者は、目標とする作業エリアで移動台120の移動を止め、そこでマニピュレータ22の遠隔操作だけで、作業対象物44である鋼構造物の表面の50cm×50cmの範囲に対してケレン作業を実行した。作業者は、マニピュレータ22に取り付けたカメラからの映像を、運転台130のモニターで確認しながら作業を実行した。作業者は、レーザー照射機の反射光によって作業対象物44である鋼構造物をほとんど視認できなかった。しかし、作業者は、接触部材26が受ける反力に応じてマスタ操作装置10の操作部12を操作することによって、レーザー照射レンズと作業対象物44である鋼構造物の表面との距離を一定に保つことができ、ケレン作業を安定して実行できた。
【0052】
<フローチャート>
遠隔操作システム1は、
図4に例示されるフローチャートの手順を含む遠隔操作方法を実行してもよい。遠隔操作方法は、遠隔操作システム1を構成するプロセッサに実行させる遠隔操作プログラムとして実現されてもよい。遠隔操作プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0053】
制御装置30は、マニピュレータ22を作業対象物44に接近させる(ステップS1)。具体的に、制御装置30は、マスタ操作装置10の操作部12に入力された操作内容を取得し、操作部12の動きに応じてマニピュレータ22を動かす。
【0054】
制御装置30は、マニピュレータ22に取り付けられている接触部材26を作業対象物44に接触させる(ステップS2)。制御装置30は、接触部材26に接触センサが取り付けられている場合、接触センサの検出結果を取得する(ステップS3)。制御装置30は、接触部材26が作業対象物44に接触したか判定する(ステップS4)。
【0055】
制御装置30は、接触部材26が作業対象物44に接触していないと判定した場合(ステップS4:NO)、射出ツール24を使用不可能状態にする(ステップS5)。制御装置30は、ステップS5の手順の実行後、ステップS2の接触部材26を作業対象物44に接触させる手順に戻る。
【0056】
制御装置30は、接触部材26が作業対象物44に接触したと判定した場合(ステップS4:YES)、射出ツール24を使用可能状態にする(ステップS6)。制御装置30は、射出ツール24によって射出作業を実行する(ステップS7)。制御装置30は、ステップS7の手順の実行後、
図4のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0057】
以上述べてきたように、本開示に係る遠隔操作システム1及び遠隔操作方法によれば、マニピュレータ22から張り出す接触部材26によって、作業者は、接触部材26を作業対象物44に当接(接触)させながらマニピュレータ22を操作できる。このようにすることで、作業者は、作業対象物44に対して射出作業を実行する際に、射出ツール24と作業対象物44との間に作業距離を確保しやすくなる。その結果、射出作業を実行するときの遠隔操作が容易になる。
【0058】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0059】
1 遠隔操作システム
10 マスタ操作装置(12:操作部)
20 スレーブ操作装置
22 マニピュレータ
24 射出ツール
26 接触部材
28 接触カバー
30 制御装置(32:ケーブル)
40 射出制御装置(42:ケーブル)
44 作業対象物
100 高所作業車(110:ブーム、120:移動台、130:運転台)