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  • 特開-歯ブラシ用多層樹脂平線。 図1
  • 特開-歯ブラシ用多層樹脂平線。 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129178
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】歯ブラシ用多層樹脂平線。
(51)【国際特許分類】
   A46B 3/16 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
A46B3/16
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022065932
(22)【出願日】2022-03-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】504078187
【氏名又は名称】竹内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊文
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB19
3B202EA01
3B202EG17
(57)【要約】
【課題】現在、市販されている歯ブラシの大半は、ブラシ毛糸束をブラシ台座部に固定する際、金属(真鍮)を使用している。しかし、金属(真鍮)であるため歯ブラシを使用し続けることで、水や歯磨剤の浸食から表面が腐蝕し真鍮=黄銅のため、毒性のある緑青を生じる可能性がある。それに加え、口腔内に金属(真鍮)を頻繁に挿入する行為には抵抗もある。本願発明は、このような課題の解決を目的とした。
【解決手段】現在、使用されている平線の材料である真鍮の硬さ、引張り強さに匹敵するかそれ以上の数値を示す、多層構造からなる多層樹脂平線を開発した。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
片手で握り往復移動させることができる形状の歯ブラシの柄と、その柄の先端部に設けたブラシ台座部小孔に、適量のブラシ毛糸束を2ッ折りにした後、その中央部に、前記ブラシ毛糸束を固定することを目的として打ち込まれる平線が、繊維構造の長く延長する基材に、合成樹脂を充填し圧縮成形することで固体化した多層樹脂帯体を、カットしてなることを特徴とする多層樹脂平線。
【請求項2】
請求項1の多層樹脂平線であって、繊維構造の長く延長する基材に、熱硬化性樹脂溶剤を充填し加熱圧縮成形することで固体化した多層樹脂帯体を、カットしてなることを特徴とする多層樹脂平線。
【請求項3】
請求項1、2の何れか1項に記載の多層樹脂平線であって、繊維構造の長く延長する基材が、網目、布構造に編まれていることを特徴とする多層樹脂平線。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の多層樹脂平線を使用し、金属を使用せず合成樹脂類のみで構成されることを特徴とする歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、歯ブラシ用多層樹脂平線に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市販される植毛歯ブラシ(市販される歯ブラシ、シングルタフト歯ブラシ)の、ほとんどが平線(歯ブラシ柄の片方端に位置する台座部に、多数の整列してなる小孔を設け、その小孔内にブラシ毛糸束を挿入し、固定すため打ち込まれる小片)に金属(真鍮=黄銅製であり、以後真鍮平線と示す)が使用されている商品である。
そして、前記真鍮平線を腐触の心配がない合成樹脂に変更することを課題とした文献の中から、本願発明に関係すると思われる2文献を下記した。
【0003】
【特許文献】特開平06-054715
【特許文献】特開2011-101734
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は現在、市販される植毛歯ブラシから腐触の心配がある真鍮平線を、前記真鍮に匹敵する硬度、引張り強さ、伸びを有し、歯ブラシ高速植毛機においてもカット可能な切断性と、ブラシ台座部に設けた小孔にブラシ毛糸束を固定する目的をもって、打ち込む際の衝撃力に耐える靭性(硬度プラス、伸び等の柔軟性を合せ持つ物性)且、前記ブラシ毛糸束を強靭に固定することが可能な合成樹脂性の平線の開発を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
歯ブラシ台座部小孔に、ブラシ毛糸束を2ッ折りにした後、その中央部に、前記ブラシ毛糸束を固定する目的をもって打ち込まれる平線が、繊維構造で連結し長く延長する基材に、合成樹脂(熱可塑性樹脂)を加熱、攪拌することにより粘性とした後、前記基材に充填し圧縮成形、冷却することで固体化し多層樹脂帯体とすることと、熱硬化性樹脂においては繊維構造に連結し長く延長する基材に、常温で熱硬化性樹脂溶剤を充填し、加熱圧縮成形することで固体化した多層樹脂帯体となる。
【0006】
加えて、前記以上の硬度、引張り強さを必要とする場合は、繊維構造が連結し長く延長する基材を、網目構造、布構造に編まれている多層樹脂帯体とする。
【0007】
次に、前記多層樹脂帯体をボビンに巻き、歯ブラシ高速植毛機にセット可能な形状とした。そして、前記多層樹脂帯体を歯ブラシ台座部に整列する小孔直径(1.5~1.7mm)より長寸(2.2~2.4mm、片側打ち込み量0.35mm)に、歯ブラシ高速植毛機においてカットし、多層樹脂平線とした小片を、ブラシ毛糸束を2ッ折りした中央部にセットし、前記歯ブラシ台座部に整列する小孔に打ち込み歯ブラシとなる。
【0008】
そして、前記多層樹脂帯体の基材となる繊維構造は、必ず前記多層樹脂帯体内において連結していることが最低条件であって、これによりどの部分で歯ブラシ高速植毛機においてカットされ多層樹脂平線となっても、その内部では必ず繊維構造は連結していることとなる。
そして、この連結の有無が硬度、引張り強さに大きな影響を与えることとなる。
【発明の効果】
【0009】
多層樹脂平線内の基材である繊維構造の材質、量(合成樹脂量に対する基材パーセント)、構造(長手方向のみ、網目状、布状)により、硬度、引張り強さ、切断力が微妙にコントロールできることで、色々な合成樹脂が多層樹脂平線の充填剤として使用可能となった。
【0010】
加えて、金属を「くり返し」口腔内に挿入することに対する異和感と、真鍮の腐触からくる毒性のある緑青の発生を気にする必要のない安全な歯ブラシとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を図をもって説明する。
【0012】
図1は、歯ブラシの柄の片方端に位置する台座部3に設けた小孔に、適量のブラシ毛糸束2を、2ッ折りにした後、真鍮平線を打ち込み固定したことを示す断面図であり、この真鍮平線を多層樹脂平線1とすることが、本願発明の課題である。
【0013】
そして、これまで使用され続けてきた真鍮平線の欠点は、材質が銅と亜鉛の合金であることから、歯ブラシを使い続けることにより、真鍮が腐触し毒性のある緑青が発生することと、金属をくり返し常習的に口腔内に挿入することの異和感にあったが、物性から考えると最適な材料である。そして、その物性を表1で示し、この物性に類似する合成樹脂の選択を試みた。
【0014】
【表1】
【0015】
しかし、前記した表1に示した真鍮のように、平線として充分な硬度(ビッカース硬度HV85以上)と、伸び(40%以上)、に加えて、その複合である引張り強さ(335N/mm以上)を有する樹脂は単体では存在しないと考えられる。そして、その理由は、合金(金属)と合成樹脂(高分子)の原子が結び付く「化学結合」の違いによるところが大きく(化学結合とは、分子や結晶中で原子間を結び付ける力のこと)、真鍮は「金属結合」であり原子間の結び付きは強固であるに対して合成樹脂は、「共有結合」のため弱いものとなる。つまり、これが金属と合成樹脂の物性の違いとなり、金属においては硬度、引張り強さに加え適度な伸びを合せ持っ(靭性に豊む)物性となり、合成樹脂においては(表2)のような物性となる。
【0016】
【表2】
【0017】
前記、表2に示した汎用合成樹脂の内より、3ポリプロピレン樹脂は歯ブラシ本体台座部を構成する合成樹脂であり、この合成樹脂に対し1ナイロン66樹脂、2ポリカーボネイト樹脂性の樹脂平線を打ち込み、ブラシ毛糸束を固定するとした前記2文献の内容では、表2に示した硬度、引張り強さ、伸び数値の差においてはブラシ毛糸束を、真鍮に匹敵する力で固定し少なくとも1ヵ月間以上、その力を維持することは難しい。
【0018】
そこで、平線に最低限必要な物性を、重要と思われる順に示すと、
1、台座部を構成する合成樹脂(大半はポリプロピレン樹脂)に、厚さ0.4~0.5mm程度の薄さをもって打ち込み可能であり、強力に前記した樹脂に「くい込む」ことで、ブラシ毛糸束の固定ができ且、前記した薄さにも関わらず湾曲等の微妙な変化も少ない硬度の高さを有する、合成樹脂が必要である。
2、次に、前記した樹脂平線を台座部を構成する合成樹脂(ポリプロピレン樹脂)に歯ブラシ高速植毛機により、打ち込む際の衝撃力により「罅、欠け、割れ」が発生しない(衝撃力を吸収する柔軟性)ことが重要である。
3、最後に、樹脂平線をボビン6に巻かれた状態から、打ち込みサイズ(長さL2.2mm×副1.3mm×厚さ0.4~0.5mm)に歯ブラシ高速植毛機でカットする際の衝撃力により、「罅、欠け、割れ」が発生しない(衝撃力を吸収する柔軟性)ことが重要である。
【0019】
つまり、真鍮平線に変わる樹脂平線を完成するためには、合成樹脂により高い硬度(ロックウェルM硬度115以上が必要)が必要であり且、適度な伸び(衝撃力を吸収する柔軟性)と相反する物性を有する必要がある。これが金属であれば前記したように「金属結合」であり原子間の結び付きが強固のため実現はできても、合成樹脂の場合のように、原子間の結び付きが弱い「共有結合」では実現が難かしい。
【0020】
そして、樹脂業界においてはスーパーエンプラとして、近年、硬度だけに特化した合成樹脂や、ゴムのような柔軟性だけに特化した合成樹脂は存在するが、真鍮(合金)のような硬度と柔軟性を有する靭性に豊んだ合成樹脂は見当らなかった。
【0021】
そこで、本願発明者は表2に示す4メラミン樹脂に注目した。前記した1~3に示した熱可塑性樹脂(加熱より溶解し冷却により固体化する、射出成形に使用される汎用合成樹脂)と異なり、接着材、ペンキ類と同類の熱硬化性樹脂(熱可塑性樹脂の反対物性を有し、常温で液体であって、加熱することで固体化する汎用合成樹脂)であり、この4種類の汎用合成樹脂の中では突出した硬度(ロックウェルM硬度115以上)を示す。このように、硬度が上昇することで引張り強さも上昇(MaX89MPa)するが、当然相反関係にある伸び(0.6~1.0%)は大幅に低い値となる。
そして、この数値が他の汎用合成樹脂と大きく異なる理由は、4メラミン樹脂の製造方法(物性)によるところが大きいことから、その製造方法に注目した。
【0022】
その製造方法とは、アルカリ環境下においてメラミンとホルムアルデヒドとの重縮合により製造される。そのため正式名称は、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂という。このアルカリ環境下で作り出されたメラミン樹脂(メチロールラミン)を溶剤に溶かし、充填剤(セルロース)と混ぜ加熱し成形することが一般的な製造方法である。
【0023】
ここで、注目する点は前記表2で示した1~3の汎用合成樹脂は、樹脂単体であるに対して、4メラミン樹脂の場合はセルロースを充填剤として使用していることから考えれば、硬度の高さも理解できる。
これは、同様の物性を有する熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂においても見られ、その数値の変化を表3で示した。
【0024】
【表3】
【0025】
まず、前記4メラミン樹脂において、未充填の各項目が空欄である理由は、4メラミン樹脂においては、充填剤を使用することで成形品となるため未充填(単体)品は存在しない。そのため表2の数値と同値であることは、共にセルロース充填のためである。そして、このセルロース充填は、繊維構造に連結(網目、布形状)がないことと、その充填剤の物性が引張り強さ、硬度、破断時伸び、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)共に弱いことに起因する。
【0026】
次に、5不飽和ポリエステル樹脂において、未充填の場合は4メラミン樹脂の物性上限値相応であるに対し、ガラスF積層の場合の数値は、引張り強さ、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)値は急上昇する。それに対し、硬度上昇は少なく破断時伸びは当然小さくなる。
【0027】
前記、引張り強さ、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)、硬度、伸びの関係を、ガラスF布積層の場合と、5不飽和ポリエステル樹脂内に、同物性のガラス繊維を充填(練り込む)した場合の、前記各数値の変位を考える。
【0028】
ガラスF布積層時では、5不飽和ポリエステル樹脂内においてガラスF布積層であることから、連結はタテ・ヨコ両方行となり強靭なものとなる。よって、表3の引張り強さは、4~89MPaから207~345MPaに急上昇し、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)では、11~22J/mから267~1601J/mと、この値も急上昇する。しかし、硬度はバーコル硬度35~75から60~80と上昇率は少ない。そして、前記したように引張り強さの急上昇から当然、破断時伸びは2~6%から1~2%に低下する。
【0029】
それに対して、ガラス繊維を充填(練り込む)した場合は、前記ガラス繊維において規則性を有する連結がないことから、樹脂平線の物性に対し「バラツキ」が生じるだけでなく、引張り強さ、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)各数値の上昇も、充填量(50%迄)を変えても2倍に上昇させることが難しいレベルとなった。
そして、硬度に対してはガラスF布積層の場合と同様に、破断時伸びはガラス布積層時以上、未充填時以下の中間値となった。
【0030】
以上の数値の変化から、ガラス繊維を充填(練り込む)するよりも、繊維が連結するガラスF布積層の方が各数値、特に引張り強さ、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)を急上昇させ、硬度に関してもガラス繊維充填の場合と同様の上昇が見られることから有効である。
【0031】
これら、異なる物性の材料を組み合わせて、より強靭な引張り強さ、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)、硬度などを上昇させた構造のものは多数存在する。
その中の代表格は、金属の硬度と引張り強さ(柔軟性)の両面を有する靭性に豊んだ鉄筋と、硬度のみに特化したコンクリートを組み合わせた建造物である、ビル、橋梁、高速道路橋脚などであり、これは、前記した鉄筋の靭性を利用し芯材として連結させ、その周囲をコンクリートをもって成形することにより、コンクリートに靭性、衝撃強さを持たせると同時に、コンクリートが鉄筋を蔽うことで空気、水分を遮断し劣化を防止する意味がある。
【0032】
それに加え、合成樹脂の業界においても広く利用されている、たとえば前記した4メラミン樹脂にセルロースを充填剤とすることで成形される、4メラミン樹脂は表面の硬度が特出して硬いことなどから、学校給食用トレーなどに使用され、5不飽和ポリエステルにおいては、ガラス繊維を充填、ガラスF布積層などの手段により硬度、引張り強さを急上昇させることで、小型船本体、ヘルメット、浴槽、貯水タンクなどに多く使用されている。
【0033】
前記した、4メラミン樹脂、5不飽和ポリエステルはその使用方法から考えても、充分に口腔内使用に適した安全性を有するものであることも確認できた。
これにより、本願発明を改めて図2から説明する。
【0034】
その図2は、多層樹脂平線1の主成分である合成樹脂1Bが、熱可塑性樹脂の場合の多層樹脂帯体1Cの製造方法を示した図である。
【0035】
まず最初に、合成樹脂(熱可塑性樹脂)1Bチップを、押出し成形機4に挿入し、図2に矢印で示したように攪拌しながら加熱、粘性状態となった合成樹脂(熱可塑性樹脂)1Bを押出し装置4Aを矢印方向に押すことで、圧縮されながら合成樹脂(熱可塑性樹脂)1Bは、口金部から成形され押し出される。そして、他のルートから挿入された充填剤1Aが、前記成形品内中央部付近で固定されることで芯材となり、多層樹脂帯体1Cが完成する。
【0036】
次に、図3は、合成樹脂(熱硬化性樹脂)1Bの溶剤中に、充填剤1Aを投入し合成樹脂(熱硬化性樹脂)1Bを充分装着させる。そして、取り出した充填剤1Aを加熱された熱圧縮機5により加熱圧縮成形することで、多層樹脂帯体1Cが完成する(図3では、充填剤1Aを分かり易いように正方形として示したが、実際は、図2に示したように帯体形状として製造される)。
【0037】
最後に、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂により製造された多層樹脂帯体1Cを、歯ブラシ高速植毛機に装着できるように、図4に示したようにボビン6に巻き完成する。
【0038】
このボビン6に巻かれた多層樹脂帯体1の各寸法は、多層樹脂平線1の長さL=2.2~2.4mm、幅W=1.3~2mm、厚さT=0.4~0.5mmと小さく、この寸法に高速でカットされた多層樹脂平線1を、歯ブラシ台座部に設けた各小孔全てに、ブラシ毛糸束を2ッ折りにした後、その中央部に多層樹脂平線を打ち込むことで金属を一切使用しない、樹脂のみの歯ブラシが完成する。
【0039】
本願発明において発明者が重視したことは、「机上の空論」としてではなく、即時実行できる現実性のある発明を目指した。
【0040】
そして、樹脂平線に関しての考え方においては、前記した文献と、本願発明内容には大きな隔たりがある。
その骨子(着目)の違いとは公開文献においては汎用合成樹脂及び合成樹脂を主成分として、他の合成樹脂を充填(ブレンド)することで、硬度、衝撃強さの上昇を狙ったことに対し、本願発明は、金属と樹脂における電子結合力の違いから、樹脂単体(充填、ブレンド=樹脂内に他物性を練り込むことも含む)において真鍮平線に変る樹脂平線(硬度、引張り強さ、衝撃強さを合せもち靭性に豊む平線)の製造は、現時点では難かしいと考たことから始まった。
しかし、前記事実に鑑み単体樹脂平線を、繊維構造(網目、布形状に編まれたものを含む)の長く延長し連結する基材に、合成樹脂を充填し圧縮成形することで固体化した多層樹脂帯体とすることで、物性は大きく変化した。そして、その内容は、
1、硬度の場合は、5不飽和ポリエステル樹脂(未充填)の場合のバコール硬度35~75から、ガラスF布積層時60~80と最低値において70%以上の上昇が見られ安定した数値(上下の差が少ない)となった。
2、引張り強さの場合は、5不飽和ポリエステル樹脂(未充填)の場合の引張り強さ4~89MPaから、ガラスF布積層時207~345MPaに急上昇し、200%以上の数値となった。
3、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)の場合は、5不飽和ポリエステル樹脂(未充填)の場合の衝撃強さ(アイゾットノッチ付)11~22J/mから、ガラスF布積層時267~1601J/mと急上昇し、1000%以上の数値となる。
4、破断時伸びの場合は、5不飽和ポリエステル樹脂(未充填)の場合の破断時伸び2~6%から、ガラスF布積層時1~2%と低下した。
【0041】
そして、上記した物性の変化を踏え多層樹脂平線を分析すると、下記の結論となる。
【0042】
まず、第1に図4に示すようにボビン6に巻かれ、歯ブラシ高速植毛機にセット後引き出された多層樹脂帯体1Cが、前記歯ブラシ高速植毛機において正確且、高速でカット可能かにある。
これに対しては、合金であり、前記(表1)に示した物性の真鍮がカットできるパワーを有する歯ブラシ高速植毛機において、合成樹脂平線のカットは容易にできる。ただ問題は、「カットが可能か」ではなく、「カットが正確にできるか」のレベルでもない。
歯ブラシとして口腔内で使用されるための安全性と、低価格で販売される量産品であることから「歩止り=合格率」が、100%に近い数値であり、真鍮平線レベルであることが条件となる。
【0043】
この条件を「クリア」した樹脂平線が本願発明の多層樹脂平線1である。今迄、他文献において示された樹脂平線では、歯ブラシ高速植毛機における、カット時の衝撃力により樹脂平線に「罅、欠け、割れ」が発生するトラブルが多発した。しかし前記したように、多層樹脂平線1(5不飽和ポリエステル樹脂等の合成樹脂の内に基材としてガラスF布積層)においては、引張り強さが2倍(200%以上)以上、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)においては、その数値が10倍(1000%以上)以上の急上昇となった。それに対し硬度の上昇(前記、2項目は基材の連結力に要因があることに対し、硬度の上昇は、合成樹脂に対する基材の量に関係する)は、100%を下廻る数値であるため、多層樹脂平線1にカット時に発生する「罅、欠け、割れ」のトラブルは大きく軽減する。
【0044】
次に、第2として、図1に示すように歯ブラシ片方端に設けた台座部3の各小孔に、ブラシ毛糸束2を固定するために打ち込まれる際の、多層樹脂平線1が受ける衝撃力に対しては、前記したように、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)、引張り強さ各数値の上昇により問題はない。
【0045】
第3(最後)に、多層樹脂平線1が台座部3の各小孔に打ち込まれた後の、ブラシ毛糸束2の固定力(湾曲等によるブラシ毛糸束の抜け)の強さにあるが、これに対しても70%以上の硬度の上昇が見込めることで充分と考えられる。
ただ、それ以上の硬度が必要な場合は、合成樹脂内に設ける基材の量を増加させるか、硬度が高い合成樹脂を使用するなど色々な対策が考えられる。
【0046】
また、前記した内容にプラスして、多層樹脂平線1の質量(密度)を上昇させることもブラシ毛糸束を強固に固定する方法として有効であり、これに対しても基材、充填剤共に色々な選択肢がある。たとえば、密度が高く質量ある基材、充填剤の使用などが考えられる。
そして、上記した基材、充填剤の組み合わせにより合成樹脂単体で構成される世界初の植毛歯ブラシが量産品となる。
【0047】
そして、本願発明のように連結した基材を設ける方法と、連結のない繊維組織を合成樹脂内に充填(練り込む)する方法を比較した場合、平線にとって重要な引張り強さ、衝撃強さ(アイゾットノッチ付)値を急上昇させる方法は基材を設ける方法がベストと考えられるが、その他にも注目する点は存在する。
その注目点とは、金型に対するダメージの違いにあり、ガラス繊維などの硬度が高い物体を合成樹脂内に充填(練り込む)した場合、金型(口金)へのダメージは大きく、金型(口金)の寿命は著しく短かくなる。その結果、そのコスト全てが歯ブラシ価格に反映されるため真鍮平線を樹脂平線とする企業は見当らない。
そこで、本願発明者は樹脂平線の物性だけでなく、安価で量産可能(多層樹脂平線=モノフィラメント同様に押出し成形機により製造可能で、その機械内部及び口金の摩耗を考え、ガラス繊維の練り込みがなく基材は別ルートから挿入)であり、真鍮平線と比較して充分にコスト面でも対応できる多層樹脂平線となった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】歯ブラシ用多層樹脂平線をもって、ブラシ毛糸束を固定する構造を示す断面図。
図2】熱可塑性樹脂による歯ブラシ用多層樹脂帯体の製造方法を示す工程図。
図3】熱硬化性樹脂による歯ブラシ用多層樹脂帯体の製造方法を示す工程図。
図4】歯ブラシ用多層樹脂帯体をボビンに巻き取った形状と、前記多層樹脂帯体をカットし多層樹脂平線としたことを示すイメージ図。
【符合の説明】
【0049】
1、 多層樹脂平線、
1A、充填剤、
1B、合成樹脂(熱可塑性樹脂&熱硬化性樹脂)、
1C、多層樹脂帯体、
2、 ブラシ毛糸束、
3、 台座部、
4、 押出し成形機、
4A 押出し装置、
5、 熱圧縮機、
6、 ボビン、
L、 多層樹脂平線(長さ)、
W、 多層樹脂平線(幅)、
T、 多層樹脂平線(厚さ)、
図1
図2
図3
図4