(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129192
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】一次金属電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20230907BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20230907BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20230907BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20230907BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230907BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230907BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M4/06 Q
H01M12/06 D
H01M4/06 B
H01M4/42
H01M4/46
H01M12/06 F
H01M12/06 G
H01M4/96 B
H01M4/90 M
H01M4/86 M
H01M4/96 M
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100795
(22)【出願日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2022032203
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507131908
【氏名又は名称】株式会社ニソール
(71)【出願人】
【識別番号】513313129
【氏名又は名称】小野塚精機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513326392
【氏名又は名称】株式会社マクルウ
(71)【出願人】
【識別番号】521070740
【氏名又は名称】水野 恒雄
(74)【代理人】
【識別番号】100158229
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】田崎 勝也
(72)【発明者】
【氏名】柳原 健也
(72)【発明者】
【氏名】安倍 信貴
(72)【発明者】
【氏名】水野 恒雄
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018EE02
5H018EE06
5H018EE07
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032AS12
5H032CC06
5H032CC16
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE04
5H032EE08
5H032EE12
5H032EE18
5H050AA02
5H050BA20
5H050CA14
5H050CA15
5H050CA16
5H050CA17
5H050CB11
5H050CB13
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA02
5H050EA09
5H050EA12
5H050EA22
5H050EA23
5H050FA04
(57)【要約】
【課題】電気エネルギーを効率よく取り出し、長期に使用できる電極を使用した一次金属電池を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の一次金属電池は金属に化学反応を防止する導電性被膜又は半導性被膜のいずれか一方、又は、導電性被膜と半導性被膜の両方が形成されている被膜金属電極を使用したことを特徴とする。金属電極は、銅,亜鉛または亜鉛合金,アルミニウムまたはアルミニウム合金,マグネシウムまたはマグネシウム合金が使用できる。導電性の被膜は、層状化合物、抵抗体又は金属であり、半導電性の被膜は酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒が使用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属に化学反応を防止する導電性被膜又は半導電性被膜のいずれか一方、又は、導電性被膜と半導電性被膜の両方が形成されている被膜金属電極を使用したこと、
を特徴とする一次金属電池。
【請求項2】
前記金属は、亜鉛または亜鉛合金,アルミニウムまたはアルミニウム合金,マグネシウムまたはマグネシウム合金であること、
を特徴とする請求項1に記載の一次金属電池。
【請求項3】
導電性被膜は、層状化合物、抵抗体又は金属であり、半導電性被膜は半導体であること、
を特徴とする請求項1に記載の一次金属電池。
【請求項4】
前記層状化合物は、黒鉛,プルシアンブルーまたはプルシアンブルー類似体であること、
を特徴とする請求項3に記載の一次金属電池。
【請求項5】
前記抵抗体は、鉄フタロシアニン、は酸化鉄又は導電性の不働態被膜であること、
を特徴とする請求項3に記載の一次金属電池。
【請求項6】
前記半導体は、酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒であること、
を特徴とする請求項3に記載の一次金属電池。
【請求項7】
前記導電性被膜には、導電材として、黒鉛、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,活性炭,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末、鉄フタロシアニン又は酸化鉄、又は、有機導電性ポリマーが含まれていること、
を特徴とする請求項3に記載の一次金属電池。
【請求項8】
前記導電性被膜は、前記導電材が結合剤又は樹脂と混合されて前記金属に被膜を形成していること、
を特徴とする請求項7に記載の一次金属電池。
【請求項9】
被膜金属電極を負極とし、正極は、カーボンを主成分とした黒鉛、活性炭、カーボングラファイト、ハードカーボン、木炭を材料としたカーボン電極、又は、イオン化傾向が貴な金属であること、
を特徴とする請求項1記載の一次金属電池。
【請求項10】
前記カーボン電極は、鉄フタロシアニン又は酸化鉄を結合剤又は樹脂でコーティングした鉄成分被膜が形成されていること、
を特徴とする請求項9に記載の一次金属電池。
【請求項11】
電解質は水、土壌、海水、肥料の水溶液、有機物又は肥料を含ませた土壌、又は、これらの組み合わせであること、
を特徴とする請求項9に記載の一次金属電池。
【請求項12】
前記電解質は、植物が光合成で生成し、根から放出する糖類を含んでいること、
を特徴とする請求項11に記載の一次金属電池。
【請求項13】
前記被膜金属電極は、透水性の絶縁シートで覆われていること、
を特徴とする請求項9に記載の一次金属電池。
【請求項14】
前記絶縁シートは、前記被膜金属電極の被膜と同じ材料を含侵していること、
を特徴とする請求項13に記載の一次金属電池。
【請求項15】
請求項1乃至14に記載の前記一次金属電池と、
蓄電池と
前記一次電池からの電気エネルギーを前記蓄電池に蓄電する制御部
とからなる電気エネルギーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを取り出すことができる一次金属電池及びその電極に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パソコン、電子玩具など電子機器では、電源として電池が幅広く使用されている。電池にはマンガン電池やアルカリ電池などが広く利用されているが、現在、金属材料を電極に使用した亜鉛電池、アルミニウム電池、マグネシウム電池等が開発されている。また、自然界から電気エネルギーを取り出すことができる微生物燃料電池も、取り出せる電気エネルギーは僅かではあるが、自然に適合し、環境に優しい自然エネルギーとして注目されている。
【0003】
なお、以下の説明で正極とカソード電極(又はカソード)、負極とアノード電極(又はアノード)の言葉は、業界により標準的に使用されている言葉が違うため、混在しているが、一次電池としては、同じ意味で使用する。
【0004】
亜鉛電池は負極に亜鉛または亜鉛合金が用いられ、高容量化や高電圧化が求められる一方、より長時間の使用が要望されている。
【0005】
特許文献1には、電池のサイクル寿命および保存可能期間が向上する技術が開示されている。充電式亜鉛アルカリ電気化学電池の負極活性物質は、スズおよび/または鉛で被覆された金属亜鉛粒子から形成される。その後、残りの亜鉛電極構成成分、たとえば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi2O3)、分散剤および結合剤を加える。これにより。従来の電池に比べて、60~80%も水素ガスの発生が起こりにくくなり、亜鉛導電性マトリックスが元の状態のまま損なわれず、保存時の放電を抑制できる。これにより、電池のサイクル寿命および保存可能期間が向上する。
【0006】
特許文献2には、電池の負極にアルミニウムを用いても、高電圧、高寿命かつ低コストの電池を得る技術が開示されている。アルミニウム電池は、正極と負極との間に電解質を有し、負極のアルミニウム電極に接触している電解質中に分散された粘土鉱物を有するアルミニウム電池、または正極と負極との間に電解質を有し、負極のアルミニウム電極に接触している粘土鉱物の層を有する。
【0007】
特許文献3には、マグネシウム電池の長寿命化を図ることができる技術が開示されている。マグネシウム電池は、負極にマグネシウムを使用している。負極は、薄板状アルミニウムの導電板の両面に薄膜状マグネシウムの負極材を接合した構成を有している。負極材は、1.5~2.5重量%のカルシウムが添加されたマグネシウムからなっている。
【0008】
微生物燃料電池は、微生物の異化代謝能を利用して有機物から電力を生産するシステムである。ヘドロは、産業排水及び家庭排水等に含まれる有機物が泥と共に、川底及び海底に堆積しているが、微生物によりヘドロ中の有機物を分解するバイオマス処理すると、水素イオンと電子が発生して電力という形で直接電気エネルギーを回収できる。微生物燃料電池において,微生物から放出された電子はアノード電極(負極)へと受け渡される。電子はアノード電極から外部負荷を経てカソード電極(正極)へと移動し,そこで酸化剤(電子受容体)となる化合物およびアノード側から拡散してきた水素イオン(H+)と反応する。このため、アノード電極とカソード電極の間に負荷を接続することにより電気回路として機能する。
【0009】
特許文献4では、電力生産力を向上させると共に発電コストを抑制することのできる微生物燃料電池、微生物燃料電池用電極およびその製造方法、微生物を利用した電力生産方法及びその電力生産方法に用いられる微生物の選択的培養方法を開示されている。有機性物質を含む液体とアノード電極とを有し、嫌気雰囲気下で微生物により有機性物質を生分解するアノード電極と、カソード電極と、アノード電極とカソード電極を電気的に接続する外部回路とを備え、アノード電極は、グラフェンを備えている。アノード電極に備えられたグラフェンは、優れた電子伝導材料であるので、グラフェンによって微生物から負極までの電子伝達を容易にすることができ、電力生産量を向上させることができるとしている。
【0010】
特許文献5では、微生物燃料電池において高出力電流を発生することが可能な微生物燃料電池用電極とそれを用いた微生物燃料電池が開示されている。微生物燃料電池のアノード電極として、電極基盤表面に導電性ポリマーによりナノワイヤ構造を形成させて電極表面積を増大させている。これにより、微生物から電極への電荷移動効率が、従来の微生物燃料電池用電極と比較して10倍~100倍も増大することを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-527733号公報
【特許文献2】特開2018-041670号公報
【特許文献3】特開2017-188483号公報
【特許文献4】国際公開2013/073284号
【特許文献5】国際公開2011/025021号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の一次金属電池は、正極(カソード電極)、負極(アノード電極)と電解質で構成されるが、電極に金属を用いた場合は、腐食の問題がつきまとう。さらに、電気エネルギーは、金属の化学反応を利用しているため、寿命の問題もある。また、微生物燃料電池は、カーボンフェルトが使用されているが、カソード電極とアノード電極に同じ材料が使用されているため、電圧や電流が少なくなってしまう。
【0013】
既存の亜鉛電池、アルミニウム電池やマグネシウム電池等の一次金属電池は、化学反応を利用しており、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムおよびそれらの合金類は、化学反応により溶解して小さくなっていく。このため、特性の劣化は避けられず、寿命が大きな課題となっている。
【0014】
微生物燃料電池では、取り出せる電力が著しく少なく、電圧も太陽電池に比べて低く、実用化に際して更なる高電圧化、電力生産量の向上が必要であるという課題があった。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電気エネルギーを効率よく取り出し、長期に使用できる電極を使用した一次金属電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の手段により一次金属電池の電極の長寿命化を図っている。
【0017】
(1)本発明の一次金属電池は、金属に化学反応を防止する導電性被膜又は半導電性被膜のいずれか一方、又は、導電性被膜と半導電性被膜の両方が形成されている被膜金属電極を使用したこと、を特徴とする。
【0018】
(2)本発明の一次金属電池において、金属は、亜鉛または亜鉛合金,アルミニウムまたはアルミニウム合金,マグネシウムまたはマグネシウム合金であること、が好ましい。
【0019】
(3)本発明の一次金属電池において、導電性被膜は、層状化合物、抵抗体又は金属であり、半導電性被膜は半導体であること、が好ましい。
【0020】
(4)本発明の一次金属電池において、層状化合物は、黒鉛,プルシアンブルーまたはプルシアンブルー類似体であること、が好ましい。ここで層状化合物は、インターカレーション機能を有する物質の総称として使用しており、三次元骨格で細孔構造が固定化されたマイクロポーラスクリスタル、多孔性配位高分子を含む。
【0021】
(5)本発明の一次金属電池において、抵抗体は、鉄フタロシアニン、酸化鉄又は導電性の不働態被膜であること、が好ましい。
【0022】
(6)本発明の一次金属電池において、半導体は、酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒であること、が好ましい。
【0023】
(7)本発明の一次金属電池において、導電性被膜には、導電材として、黒鉛、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,活性炭,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末、鉄フタロシアニン、酸化鉄、又は、有機導電性ポリマーが含まれていること、が好ましい。
【0024】
(8)本発明の一次金属電池において、導電性被膜は、導電材が結合剤又は樹脂と混合されて金属にコーティングされていること、が好ましい。
【0025】
(9)本発明の一次電金属池において、被膜金属電極を負極とし、正極は、カーボンを主成分とした黒鉛、活性炭、カーボングラファイト、ハードカーボン、木炭を材料としたカーボン電極、又は、イオン化傾向が貴な金属であること、が好ましい。
【0026】
(10)本発明の一次金属電池において、カーボン電極は、鉄フタロシアニン又は酸化鉄を結合剤又は樹脂でコーティングした鉄成分被膜、酸化チタン被膜、酸化タングステン又は光触媒被膜が形成されていること、が好ましい。
【0027】
(11)本発明の一次金属電池において、電解質は水、土壌、海水、肥料の水溶液、有機物又は肥料を含ませた土壌、又は、これらの組み合わせであること、が好ましい。
【0028】
(12)本発明の一次金属電池において、電解質は、植物が光合成で生成し、根から放出する糖類を含んでいること、が好ましい。
【0029】
(13)本発明の一次金属電池において、前記被膜金属電極は、透水性の絶縁シートで覆われていること、が好ましい。
【0030】
(14)本発明の一次金属電池において、絶縁シートは、前記被膜金属電極の被膜と同じ材料を含侵していること、が好ましい。
【0031】
(15)本発明の一次金属電池は、蓄電池と、一次金属電池からの電気エネルギーを蓄電池に蓄電する制御部とからなる電気エネルギーシステムとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
(1)本発明の一次金属電池は、電極のイオン化傾向(酸化還元電位)の差を利用して電解質に電圧を印加し、電解質を電気分解することにより電子を発生させ、電子を電極から取り出すことで一時電池として機能させるのが原理である。電極に金属を使用した場合は、電解質との化学反応による腐食が問題となる。このため、金属に化学反応を防止する導電性被膜又は半導電性被膜のいずれか一方、又は、導電性被膜と半導電性被膜の両方が形成されている被膜金属電極を使用することにより、電極の溶解、即ち化学反応が防止でき、長期に渡って使用可能となる。
【0033】
(2)本発明の一次金属電池は、金属に亜鉛または亜鉛合金,アルミニウムまたはアルミニウム合金,マグネシウムまたはマグネシウム合金が使用できる。酸化還元電位は、亜鉛が-0.76V、アルミニウムが-1.68V、マグネシウムが-2.34Vである。この酸化還元電位に依存して発生電圧が決まる。酸化還元電位がマイナスの亜鉛,アルミニウム,マグネシウム等は負極に使用することが好ましい。それぞれの酸化還元電位により、他の電極との酸化還元電池との差で電解質に電圧を印加することができる。
【0034】
微生物燃料電池においては、負極としてカーボンフェルトが使用されている。この負極を、本発明による被膜金属電極とすれば、電圧、電流とも大幅な増加が可能となる。
【0035】
(3)導電性被膜は、層状化合物、抵抗体又は金属であり、半導電性被膜は半導体であり、この導電性被膜により、金属の化学反応を防止でき、長期使用が可能となる。
【0036】
(4)導電性被膜の層状化合物は、黒鉛,プルシアンブルーまたはプルシアンブルー類似体であることが好ましく、インターカレーション機能を持っていることが必要である。インターカレーションは分子または分子集団の空隙に他の元素が侵入する可逆反応である。黒鉛は酸化還元電位がマイナスの亜鉛,アルミニウム,マグネシウム等が金属表面にコーティングされていることが好ましい。層状化合物のコーティングは、金属の化学反応を抑制し、インターカレーション機能により、電荷移動反応に代えることができる。
【0037】
(5)抵抗体は、鉄フタロシアニン、は酸化鉄又は導電性の不働態被膜であることが好ましい。これにより、低抵抗の被膜が形成でき、さらに金属の化学反応を防止できる。
【0038】
(6)半導体は、酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒をコーティングして半導体被膜が形成できる。酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒は、負極と正極のイオン化傾向(酸化還元電位)の差により発生する電圧を印加でき、これにより電子が価電子帯から導電帯に励起されるため、電解質を電気分解して電子の発生を増加させ、取得できる電気エネルギーを増加させることができ、さらに金属の化学反応を防止できる。
【0039】
(7)導電性被膜には、導電材として、黒鉛、活性炭,カーボンナノチューブ,カーボンブラック,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末、鉄フタロシアニン又は酸化鉄、又は、有機導電性ポリマーが含まれている。特に、プルシアンブルーとプルシアンブルー類似体は、低抵抗化に効果がある。これらの導電材は、抵抗を小さくでき電子を通しやすくする。
【0040】
(8)導電性被膜は、導電材が結合剤又は樹脂と混合されて前記金属に被膜を形成している。導電材と、結合剤又は樹脂を混合して十分に攪拌して均一な分散状態として、コーティングすることで、均一な被膜となる。これにより、導電材が均一で強固に前記金属に密着する。
【0041】
(9)被膜金属電極を負極とし、正極は、カーボンを主成分とした黒鉛、活性炭、カーボングラファイト、ハードカーボン、木炭を材料としたカーボン電極、又は、イオン化傾向が貴な金属とすることにより、電池としての機能を発揮する一次金属電池となる。
【0042】
(10)カーボン電極は、鉄フタロシアニン又は酸化鉄を結合剤又は樹脂でコーティングした鉄成分被膜が形成されている。これにより取得できる電気エネルギーを増加させることができる。
【0043】
(11)電解質は水、土壌、海水、肥料の水溶液、有機物又は肥料を含ませた土壌、又は、これらの組み合わせである。土壌に有機物又は肥料を含ませることにより、電池の大幅な性能向上に効果がある。即ち、自然界を電界質として地球上のどこからでも電気エネルギーを取得できる。
【0044】
(12)電解質は、植物が光合成で生成し、根から放出する糖類を含んでいてもよい。植物が光合成で生成し、根から放出する糖類は、植物が生育している限り継続的に放出され、半永久的なエネルギー供給源とすることができる。
【0045】
(13)被膜金属電極は、透水性の絶縁シートで覆われている。透水性の絶縁シートで包むことにより、被膜金属電極と電解質間は、電解質における電荷の移動のみを行うことができる。これにより、被膜金属電極に形成されている被膜をキズ等により、被膜が剥がれることを防止しすることができる。また、被膜金属電極交換の際には、絶縁シートで包まれた被膜金属電極を、残渣物を含めて取り除くことができ、電解質に残渣物が残らず、容易に交換できる。
【0046】
(14)絶縁シートは、前記被膜金属電極の被膜と同じ材料を含侵している。これにより、被膜の機能を補うことができる。
【0047】
(15)一次金属電池と、蓄電池と、一次金属電池からの電気エネルギーを蓄電池に蓄電する制御部との構成により、電気エネルギーシステムとすることができ、一次金属電池から取得した電気エネルギーを効率よく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の一次金属電池に用いる被膜金属電極の断面を示す図である。
【
図2】従来のマグネシウム空気電池の原理を説明する図である。
【
図3】本発明による一次金属電池を説明する図である。
【
図4】植物の生育している土壌に、アノード電極とカソード電極を埋め込んだ微生物燃料電池を示す図である。
【
図5】電解質を土壌領域と水領域で構成した微生物燃料電池の類型である田んぼ発電を説明する図である。
【
図6】負極として試作した被膜金属電極の試作例を示している。
【
図7】被膜金属電極の機能を確認する実験装置Aである。
【
図8】花を植えた植木鉢に、電極を埋め込んで電気エネルギーを取り出し、イルミネーションを点灯させる実験装置Bを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
電池には一次電池と二次電池がある。一次電池は、正極と負極が電解質(化学物質)を挟んだセル構造であり、原理的には、セル内に存在する化学物質を電極との不可逆的な化学反応であるため、非充電式である。化学反応は、電極とセル内に存在する化学物質との反応であり、電極は化学反応によって溶解する。電極又は化学物質のすべてが使用されると発電は終了する。
【0050】
一次電池の起電力は、正極と負極のイオン化傾向の差である。イオン化傾向を表す酸化還元電位が、正極と負極とで差が大きいほど大きな起電力が得られる。一次電池の例としては、電極材に二酸化マンガンと亜鉛を使用したマンガン乾電池やアルカリ乾電池がある。マンガン乾電池の電解質は主に塩化亜鉛溶液であり、アルカリ乾電池の電解質は水酸化カリウム溶液である。
【0051】
リチウム一次電池は、正極の電極材料にイオン化傾向の大きいリチウムを使い、正極の電極材料として、二酸化マンガン、フッ化黒鉛、塩化チオニル等を使用している。安価な二酸化マンガンを使った出力電圧が3Vのものが主流であるが、フッ化黒鉛、塩化チオニル等を使った出力電圧が3.6Vのものもある。
【0052】
マグネシウム一次電池は、現在非常用の電池として実用化されている。負極の電極材料にマグネシウムを使い、正極の電極材料としてカーボンを使用している。電解質として塩化ナトリウム水溶液を使用するため、一度マグネシウムが塩化ナトリウム水溶液にさらされると浸蝕が発生する。このため、マグネシウムにアルミニウムや亜鉛等を添加して耐食性を向上させているが十分ではなく、現状では非常用の使い捨てタイプに限定されている。
【0053】
電極材料の化学反応を伴わない一次電池としては、燃料電池及び微生物燃料電池がある。燃料電池は、水の電気分解の逆で、水素と酸素により水をつくり、その過程で生じる電気を取り出す。燃料極において、水素燃料を供給することで触媒反応より水素イオン(H+)と電子(e-)を取り出す。電解質は、例えばリン酸(H3PO4)水溶液であり、イオンは通すが電子を通さない物質の為、水素イオン(H+)は電解質を通り、空気極に移動する。
【0054】
電子は、電解質に阻まれ移動できないので、外部に取り出すことで、電気を発生させることができる。空気極では、空気中の酸素を供給することで触媒反応により、酸素(O2)が酸素原子2個に分離する。この酸素原子に移動した電子と電解質を通ってきた水素イオンが結合することより、水(H2O)ができる。
【0055】
微生物燃料電池は、微生物の代謝能力を利用して有機物などを電気エネルギーに変換する。微生物燃料電池の燃料となる有機物は、落ち葉等が発酵したり、植物の光合成により生成されて根から排出されたりした糖分等である。負極(アノード)では、有機物が電流発生菌と呼ばれる微生物(例えばシュワネラ菌)により酸化分解される時に発生する電子を回収する。
【0056】
その電子は外部回路を経由して正極(カソード)に移動し、正極で酸化剤の還元反応、即ち空気中の酸素により消費され水となる。このため、正極はエアカソードとも呼ばれている。汚水や汚泥などの有機物を燃料として用いることができ、発電と同時に有機廃棄物の処理や水質改善などの環境浄化にも応用可能である。電極の材料は、正極、負極とも主にカーボンフェルトが使用されており、取り出せる電気エネルギーも小さい。
【0057】
一次電池の一種である再生可能エネルギーとしては、太陽光発電や風力発電等がある。現在は太陽光発電が主流であり、CO2を発生せず、地球温暖化対策の重要なエネルギーに位置付けられている。太陽光発電は、太陽光をエネルギー源としているため、当然ながら、太陽光の当たらない場所や夜間は発電しない。風力発電も風を利用しているので、まさに風任せの不安定なエネルギーであり、設置場所も限られる。
【0058】
二次電池は、繰り返し充放電可能なことが要求され、可逆的な化学反応を伴う二次電池は繰り返し電極材料を析出・溶解することが難しく、例えばリチウムイオン電池のように、正極と負極の間で電荷を移動させる電荷移動型が主流である。電荷移動型は、充電時は、外部からの電圧印加により正極に電荷を蓄積し、使用時は、正極に蓄積された電荷を電解質内で負極に移動させて、外部回路には電子を流す方式である。
【0059】
二次電池の例としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池がある。ニッケル水素電池は、正極に水酸化ニッケル、負極に水素吸蔵合金を使った電池である。水素吸蔵合金は、体積の1000倍もの水素を蓄えられる金属である。電解液には水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液が使用されている。充電時は、水素吸蔵合金へ水素を蓄積し、放電時は水素吸蔵合金に蓄積された水素を放出する。ニッケル水素電池の電圧は、1.2Vとニッカド電池と同じであるが、約2倍の電気容量を持っている。
【0060】
リチウムイオン電池は、インターカレーション現象を利用した高電圧大容量を特徴とする代表的な二次電池であり、現在の主流を占めている。正極、負極ともインターカレーション機能を有する層状化合物が使用されており、正極はコバルト酸リチウムと焦電体にアルミニウム、負極は黒鉛(グラファイト)と焦電体に銅が使用されているのが代表的な例である。
【0061】
コバルト酸リチウムは酸化複合物とも呼ばれ、コバルトはコストが高いことから、コストをより抑えられるマンガン酸リチウム(LiMn2O4)系、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)系、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)系なども用いられている。電解質(電解液)に高い導電率と安全性を与えるため、炭酸エチレン・炭酸プロピレンなどの環状炭酸エステル系高誘電率・高沸点溶媒に、低粘性率溶媒である炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の低級鎖状炭酸エステルなども用いられている。
【0062】
以上、一次電池と二次電池について概観したが、一次電池は化学反応、二次電池は電荷移動反応が主な原理である。これらは化学電池に分類されているが、一次電池としては、物理電池の他、太陽光発電、風力発電、水力発電等があり、電解質(燃料)を継続的に供給する燃料電池もある。
【0063】
化学電池としての一次電池は、金属の化学反応を利用した発電原理であり、化学反応を利用して金属を溶解させているため、自ずと寿命に限界がある。二次電池は、繰り返し使用可能であるが、最初は外部からの電気エネルギーによる充電である。CO2を排出しない再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電や風力発電は、安定に電力を供給することができず、太陽光発電は太陽光が照射されているときに限られ、風力発電も風が吹いているときに限られる。燃料電池は継続的な電気エネルギーの供給が可能であるが、単位セルでの電圧が低く、特に微生物燃料電池は電流容量が少ない。
【0064】
これらの問題点を解決するために、新たに考案したのが本発明の一次金属電池である。
【0065】
本発明の一次金属電池は、正極と負極に使用する物質のイオン化傾向(酸化還元電位)の差を利用して電圧を発生させ、この電圧により電解質を電気分解して電気エネルギーを得ることを基本原理としている。このとき、電極の化学反応を抑えるために、電極表面に被膜を形成する。正極と負極に使用する物質が金属であれば、電圧発生に金属のイオン化傾向の差を利用する。化学反応を防止する導電被膜が形成されている被膜金属電極を、少なくとも正極又は負極のいずれか一方の電極に使用している。正極は、金属では無いカーボン系の材料が使用できる。この場合、正極の酸化還元電位は、0Vと見做すことができる。
【0066】
金属に化学反応を防止する導電被膜が形成されているので、金属自身が直接的に電解質と接することが無く、化学反応をすることはない。このため、金属の水酸化物、例えば、マグネシウム電池における水酸化マグネシウムの発生がなく、被膜金属電極は長期的に安定して使用できる。
【0067】
金属に亜鉛または亜鉛合金,アルミニウムまたはアルミニウム合金,マグネシウムまたはマグネシウム合金等が使用できる。酸化還元電位は、亜鉛が-0.76V、アルミニウムが-1.68V、マグネシウムが-2.34Vである。この酸化還元電位に依存して発生電圧が決まる。酸化還元電位がマイナスの亜鉛,アルミニウム,マグネシウム等は負極に使用することが好ましい。それぞれの酸化還元電位により、他の電極との酸化還元電池との差で電解質に電圧を印加することができる。なお、酸化還元電位がマイナス同士であっても、還元電位の差で電圧は発生する。例えば、負極をアグネシウム、正極を亜鉛とすれば、酸化還元電位の差は1.58Vである。
【0068】
微生物燃料電池においては、正極(カソード)としてカーボンフェルトが使用されている。さらに微生物燃料電池においては、負極(アノード)も同じカーボンフェルトが使用されており、このカーボンフェルトの一方の側が空気に接して空気中の酸素を取り入れるエアカソード方式として、正極となる。
【0069】
水田などでの電極の接地では、負極を水田の泥の中に埋めて嫌気性環境とし、正極は酸素を含む好気性環境とする。このため、正極は水の上に空気と接するように設置しなければならず、複雑となるばかりでなく、取り出せる電気エネルギーも少ない。微生物燃料電池におけるこの負極を、本発明による被膜金属電極とすれば、電圧、電流とも大幅な増加が可能となる。さらに、本発明の一次金属電池は、エアカソード方式とする必要が無く、正極を嫌気性の泥の中に埋め込んでもよく、水田から電気エネルギーを取得する場合にも簡単に設置できる。
【0070】
導電性被膜は、層状化合物、抵抗体又は金属であり、半導電性被膜は半導体であることが好ましく、この導電性被膜や半導電性被膜により、金属に電解質が直接的に接しないため、金属の化学反応を防止できる。従って、金属が溶解することがないため、長期使用が可能となる。
【0071】
導電性被膜の層状化合物は、黒鉛,プルシアンブルーまたはプルシアンブルー類似体等であることが好ましく、インターカレーション機能を持っていることが必要である。インターカレーションは分子または分子集団の空隙に他の元素が侵入する可逆反応である。侵入した物質はインターカレーターやインターカラントと呼ばれ、電解質(電解液)に存在する電荷が、インターカレーション現象により、イオン化傾向の差による起電力で負極に蓄積され、正極に移動する。
【0072】
抵抗体は、鉄フタロシアニン、酸化鉄又は導電性の不働態被膜であること、が好ましい。抵抗体は、金属のイオン化傾向、即ち、酸化還元電位の差により発生した電圧(起電力)を電解質に直接印加し、電解質を電気分解すると同時に、電位分解により発生する電子が金属に流れる通路となる。負極側から正極側へは、外部導線を通して電子が流れる。なお、導電性の不働態被膜は、陽極酸化処理により形成される。抵抗体で被膜を形成することにより、金属の化学反応を抑える効果もある。
【0073】
半導体は、酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒をコーティングして半導体被膜が形成できる。酸化チタン、酸化タングステン又は光触媒は、アノード電極とカソード電極のイオン化傾向(酸化還元電位)の差により発生する電圧を印加できる。これにより、価電子帯の電子が正孔と分離し、伝導帯に励起され、価電子帯の正孔と伝導体の電子による酸化還元反応で電解質を分解して電子を発生させる。この時発生した電子が、アノード側からカソード側に外部導線を通して流れる。このため、電解質を電気分解して電子の発生を増加させ、取得できる電気エネルギーを増加させることができ、さらに金属の化学反応を防止できる。
【0074】
光触媒は、酸化チタンを主成分とした材料の他、酸化タングステンを主成分とした材料である。酸化チタンや酸化タングステンは、光の照射により強い酸化還元機能を発揮するが、電圧の印加によっても同様の機能が発揮されることを確認している。酸化チタンや酸化タングステンを主成分とした光触媒は、助触媒として銅、銀や白金の微粒子が含まれていてもよい。
【0075】
導電性被膜には、導電材として、黒鉛、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,活性炭,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末、鉄フタロシアニン、酸化鉄、又は、導電性ポリマーが含まれていることが好ましい。これらの導電材は、導電被膜の抵抗値を下げ、電子を流れやすくする効果がある。特に、プルシアンブルーとプルシアンブルー類似体は、低抵抗化に効果がある。
【0076】
抵抗体である鉄フタロシアニン又は酸化鉄に、鉛、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,活性炭,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,活性炭,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末のいずれか1つ、又は、これらを組み合わせて添加してもよい。
【0077】
半導体である酸化チタンに、黒鉛、カーボンナノチューブ,カーボンブラック,活性炭,ケッチェンブラック,フラーレン,木炭の微粉末、鉄フタロシアニン、酸化鉄、又は、有機導電性ポリマーのいずれか1つ、又は、これらを組み合わせて添加してもよい。導電性ポリマーには
【0078】
導電性被膜は、導電材を結合剤又は樹脂に混合させてコーティングし、金属に被膜を形成することができる。導電材と結合剤又は樹脂を混合して十分に攪拌して均一な分散状態として、コーティングすることで、被膜も均一な被膜となる。これにより、導電材が均一で強固に前記金属に密着する。
【0079】
導電性被膜の形成に使用されている層状化合物、抵抗体又は半導体は、いずれも粉体であり、結合剤又は樹脂と混合されて金属にコーティングされる。結合剤としては、例えばPTFEがある。樹脂としては、例えば塗料として使用されている、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂やシリコーン樹脂がある。
【0080】
被膜金属電極10を負極とし、正極は、カーボンを主成分とした黒鉛、活性炭、カーボングラファイト、ハードカーボン、木炭を材料としたカーボン電極、又は、イオン化傾向が貴な金属とすることにより、電池としての機能を発揮する一次金属電池となる。イオン化傾向が貴な金属としては、銅、銀、白金、金等がある。銅の酸化還元電位は0.34V、銀の酸化還元電位は0.78V、白金の酸化還元電位は1.19V、金の酸化還元電位は1.52Vである。なお、本発明は金属のイオン化傾向の差により電圧を発生させているため、例えば、負極をマグネシウムとし正極を亜鉛としても電気エネルギーは得られる。
【0081】
カーボンを主成分とした正極は、金属ではなくイオン化傾向を持たないが、酸化還元電位を0として考えることができる。
【0082】
一次金属電池において、カーボン電極は、鉄フタロシアニン又は酸化鉄を結合剤又は樹脂でコーティングした鉄成分被膜、酸化チタン被膜、酸化タングステン又は光触媒被膜が形成されていてもよい。黒鉛、活性炭、カーボングラファイト、ハードカーボン又は木炭を材料として、その表面に、鉄フタロシアニン、酸化鉄、又は、導電性ポリマーを結合剤又は樹脂でコーティングした鉄成分被膜酸化チタン被膜、酸化タングステン又は光触媒被膜のいずれかを形成することにより電流容量が増加する。結合剤としては、例えばPTFEがある。樹脂としては、例えば塗料として使用されている、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂やシリコーン樹脂がある。
【0083】
一次金属電池において、電解質は水、土壌、海水、肥料の水溶液、又は、これらの組み合わせであることが好ましい。水、例えば河川の水には、ミネラルや有機物が溶けているため、これらが電気ネルギー源となる。土壌は、原野では、植物の葉や枯れ草が堆積して発酵し、腐葉土となって植物の肥料となるが、ここにも電気エネルギー源が存在する。海水も塩分を含み、電気ネルギー源として適している。肥料も化学肥料及び有機肥料には、電気エネルギー源となる成分、即ち、リン、カリウム、カルシウム等が含まれている。この構成により一次金属電池を構築すれば、自然界を電解質とした高性能な一次金属電池が得られる。電解質は水、土壌、海水、肥料の水溶液、又は、これらの組み合わせであることから、自然界のあらゆる場所から電気エネルギーを得ることができる。
【0084】
電解質は、植物が光合成で生成し、根から放出する糖類を含んでいること、が好ましい。植物は光合成を行うが、植物の細胞内に存在する葉緑体で行われ、光エネルギーが化学エネルギーに変換され、二酸化炭素と水から炭水化物などの有機化合物が合成される。有機化合物の多くはデンプンでありショ糖やタンパク質も生成される。これらは、果実や根などの貯蔵器官に運ばれ植物の生長に寄与するが、残った有機化合物は、根から放出される。この有機物を発電菌と呼ばれるシュワネラ菌等により分解され、電子と水素イオンに分解される。
【0085】
電子は、負極(被膜金属電極)から外部導線を通して正極(カーボン電極)に運ばれ、水素イオンと反応して水となる。また、有機化合物は、電極のイオン化傾向を利用して印加される電圧によっても電気分解され、電子と水素イオンに分解される。
【0086】
被膜金属電極又はカーボン電極の少なくとも一方は、透水性の絶縁シートで覆われていることが好ましい。これにより、被膜金属電極に形成されている被膜をキズ等により、被膜が剥がれることを防止しすることができる。また、被膜金属電極交換の際には、絶縁シートで包まれた被膜金属電極を、残渣物を含めて取り除くことができ、電解質に残渣物が残らず、容易に交換できる。また、被膜金属電極を、透水性の絶縁シートで覆うことにより、被膜金属電極とカーボン電極が短絡することがなくなり、複数の電極を接触させながら重ねて密に並べることができ、単位面積当たり取得される電流容量が大きくなる。
【0087】
次に、被膜金属電極について、層状化合物を被膜する場合を説明する。
【0088】
図1は、本発明の一次金属電池に用いる被膜金属電極の断面を示す図である。
図1の被膜金属電極10は、金属12の表面にコーティングにより導電性被膜14を形成し、電極として端子16を設けている。金属12の材料は、イオン化傾向を有する様々な材料が使用できる。イオン化傾向は、金属の持つ特有の基本的な性質であり、水溶液中における水和イオンと単体金属との間の標準酸化還元電位の順で表される。
【0089】
標準酸化還元電位がマイナスである金属は、例えば、リチウム(酸化還元電位:-3.05V),カリウム(酸化還元電位:-2.93V),マグネシウム(酸化還元電位:-2.36V),アルミニウム(酸化還元電位:-1.68V),チタン(酸化還元電位:-1.63V),亜鉛(酸化還元電位:-0.76V)、鉄(酸化還元電位:-0.44V),ニッケル(酸化還元電位:-0.26V)等がある。
【0090】
酸化還元電位がプラスである貴な金属は、例えば、銅(酸化還元電位:0.34V),銀(酸化還元電位:0.80V),白金(酸化還元電位:1.19V),金(酸化還元電位:1.52V)等がある。
【0091】
導電性被膜は、層状化合物、抵抗体又は金属であり、半導電性被膜は半導体であり、この導電性被膜により、金属の化学反応を防止でき、長期使用が可能となる。
【0092】
層状化合物は、インターカレーション機能を有する物質の総称として使用しており、三次元骨格で細孔構造が固定化されたマイクロポーラスクリスタル、多孔性配位高分子を含む。層状化合物は、層構造がファンデルールスカで保持されている層状化合物と、層体が電荷を持っており、その電荷を補償するための交換可能なカウンターイオンが層間に存在し、それらの間に働くクーロンカで層構造が保たれている層状化合物がある。
【0093】
ファンデルールスカで保持されている代表的な層状物質に黒鉛(グラファイト)がある。グラフェンシート層は、規則的に並べて形成される三次元秩序構造である。面内の炭素原子はC-C共有結合で結ばれており、面と面の間の炭素原子間に働いているのがファンデルワールス力である。これが電荷挿入の要因となる。
【0094】
層体が電荷を持つ層状化合物は、例えば層状複水酸化物は、ブルース石の構造を基本とし、2価の金属イオンM2+の一部を3価のものM3+に置き換えた水酸化物層からなる。そのため層自体は正電荷を有し、それを補償するために層間に交換可能な陰イオンが存在している。M2+としては,Mg,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znなどが、また,M3+としてはAl,Fe,Cr,Co,Inなどがとり得る。そして,いろいろなM2+とM3+の組み合わせの層状複水酸化物を合成することができる。
【0095】
リチウムイオン電池に使用されているコバルト酸リチウムは層状複水酸化物の一種であり酸化複合物とも呼ばれている。コストをより抑えられるマンガン酸リチウム(LiMn2O4)系,ニッケル酸リチウム(LiNiO2)系,リン酸鉄リチウム(LiFePO4)系なども用いられている。
【0096】
プルシアンブルーもインターカレーション機能を有する多孔性配位高分子の一種として、層状化合物である。プルシアンブルーの分子組成は鉄(Fe3+/Fe2+)とシアノ基(CN)-が主成分となって、NaCl型の結晶構造を持つ。カリウム(K+)やアンモニウム(NH4
+)等の陽イオンを含んでいる。
【0097】
鉄イオン(Fe+2)の上下・左右・前後の6方位にシアノ基(CN)-が配位して,金属イオン(Fe/Ni/Coなど)を頂点とする立方体ジャングルジム構造を組んでいる.金属イオンがFeの場合がプルシアンブルーである。Fe2+とFe3+の距離は0.5nmと大きいため、大きな空隙を持っている。この大きな空隙は様々なカチオンや分子を脱挿入できる。プルシアンブルー類似体は、プルシアンブルーの金属イオンや配位子の中心金属を置換することで得られ、プルシアンブルーと同じ格子構造を持つが、格子定数が異なる。Fe2+とFe3+の距離を大きくしているため、Na+,K+,Ca+,Mg+といった無機イオンを利用したアノード電極として好適である。
【0098】
層状化合物自体に導電性がない場合は、導電材を混入させる。導電材としては、活性炭,ケッチェンブラック,黒鉛,カーボンナノチューブなどの炭素材料、マグネシウム,銅やアルミニウムなどの金属材料、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などがある。また、酸素の還元酸化反応を効率よく行うための触媒成分が含まれていてもよい。触媒成分としては、白金,コバルト,ニッケル,パラジウム,およびマンガンなどの金属,これらの金属の合金,およびこれらの金属の酸化物などがある。
【0099】
層状化合物と導電材は、結合剤で結着させる。結合剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE),ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE),エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE),ポリフッ化ビニル(PVF)などがある。
【0100】
本発明による一次金属電池においては、負極(以下、アノード電極という)側に電荷を蓄積し、一方向に電流が流れるので、正極(以下、カソード電極という)側に電荷を蓄積せず、カソード電極側は必ずしも層状化合物をコーティングする必要はない。また、アノード電極側の酸化還元電位のみを利用すれば、カソード電極側は金属を使用しなくとも起電力は発生する。
【0101】
このため、カソード電極は、例えば酸化還元電位がプラスの銅を使用してカーボン系の層状化合物をコーティングすることが好ましいが、必ずしも銅などの金属を使用する必要はなく、また、層状化合物でなくてもよい。即ち、カソード電極としては、カーボン系の材料を金属にコーティングしてもよいし、単独で使用してもよい。
【0102】
カーボン系の材料はいろいろあるが、層状化合物としては黒鉛がある。黒鉛はグラファイトとも呼ばれ、炭素からなる元素鉱物で、六方晶系、六角板状結晶である。構造は亀の甲状の層状物質で、層毎の面内は強い共有結合で炭素間が繋がっているが、層と層の間(面間)は弱いファンデルワールス力で結合している。層状化合物以外では、炭素繊維(カーボンファイバー)、木炭、活性炭など、きちんとした結晶構造を持たない無定形炭素があり、この無定形炭素も使用可能である。内部に筒状の中空空間を有しているため、様々な分子を内包させることができる。
【0103】
また、カーボンナノチューブも利用できる。カーボンナノチューブは、一様な平面のグラファイトを円筒状に丸めたような構造をしている。閉口状態の場合、両端はフラーレンの半球のような構造で閉じられており5員環を必ず6個ずつ持つ。5員環の数が少ないため有機溶媒等には溶けにくい。チューブは筒のような構造のためキャップを焼き切るなどにより中に様々な物質を取りこむ事ができる。
【0104】
さらに、ケッチェンブラックも利用できる。ケッチェンブラックは、組成的に言えば、ゴム用カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛(グラファイト)と同様炭素からなり、疑似グラファイト構造と呼ばれる結晶子から構成されている。結晶子はπ電子をもった縮合ベンゼン環からなり、このπ電子はカーボンブラック上を自由に移動することができる。アグリゲートやアグロメレートにより形成された導電回路上をπ電子が移動するためこのため、ケッチェンブラックを添加した材料が導電性を発現する。ケッチェンブラックは、比表面積、多孔度ともに高いことが特徴的であり、粒子密度の増加による導電回路の形成が支配的となって高導電性を発現させている。
【0105】
また、鉄フタロシアニン又は酸化鉄でもよい。鉄フタロシアニンは、鉄系の有機金属錯体であり、触媒作用がある。酸化鉄は、鉄の酸化鉄を意味し、特に酸化第二鉄(Fe2O3)が適している。
【0106】
次に、本発明の一次金属電池を従来のマグネシウム電池との比較により説明する。
【0107】
図2は、従来のマグネシウム空気電池の原理を説明する図である。マグネシウム空気電池は、非常用電源として既に市販されている。マグネシウム空気電池20は、アノード電極22としてマグネシウム合金(以下、単にマグネシウムという。)を使用し、カソード電極26にカーボンを使用している。なお、アノード電極22は負極であり、カソード電極26は正極となり、アノード電極26は負極となる。カソード電極22は、容器内の電解質30に接する側と反対側は大気中にさらされて、空気中の酸素を反応に利用することができるようにしている。このため、エアカソードと呼ぶ場合もある。電解質30は、例えば塩化ナトリウムの水溶液である。電解液は、食塩水が使用されている。食塩水とすることで、取得電力量を大幅に増加させている。
【0108】
ここで、カソード電極と正極、アノード電極と負極の用語の使い方について説明する、一般に電池の場合には電位によって区別して、電位の高い方を正極或いは陽極、低い方を負極或いは陰極という。英語では、溶液から負電荷(アニオン)が集る方がアノード、正電荷(カチオン)が集る方をカソードと言う。腐食や電気分解の場合、金属(電極)から溶液にプラスのイオン(正の電荷)が移動する方をアノード(anode)、プラスのイオンが移動する方をカソード(cathode)と言う。これは、ファラデーによって命名され、ギリシャ語で上り口を意味する「anodos」と下り口を意味する「cathode」に由来している。
【0109】
このため、以下の実施例を説明するにあたっては、より現象に忠実なカソードを一般的な用語、カソード電極をカソードとなる物理的な物、アノードを一般的な用語、アノード電極をアノードとなる物理的な物、という意味で用語を使用することにする。
【0110】
原理的なマグネシウム電池の化学反応は以下のようになる。
カソードでの反応は、
O2+2H2O+4e- → 4OH-
であり、アノードでの反応は、
2Mg → 2Mg2++4e-
である。全体としての反応は、
2Mg+O2+2H2O → 2Mg(OH)2
となる。
【0111】
アノード電極はマグネシウムであり、化学反応により溶解し水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を生成する。溶解によりマグネシウム電極は減少し、最終的には無くなって寿命となる。当然、マグネシウム電極が減少するに従い、電流容量も減少する。寿命を長くするためには、マグネシウム板の厚さを厚くすることが必要となる。
【0112】
図3は、本発明による被膜金属電極を用いた一次金属電池を説明する図である。
図3(A)は被膜金属電極144を用いた一次金属電池36の構成を示す図、
図3(B)は被膜金属電極を用いた一次金属電池36のモデル図である。金属の導電被膜には、層間化合物を用いている。被膜金属電極を用いた一次金属電池36の構成は、アノード電極22に、例えば黒鉛、プルシアンブルーあるいはプルシアンブルー類似体をコーティングしたマグネシウム板を使用し、カソード電極26に黒鉛をコーティングした銅板を使用している。銅板は、エアカソードとするため、メッシュ状の銅板を用いている。アノード電極22,カソード電極26とも金属板に層状化合物をコーティングした被膜金属電極である。
【0113】
アノード電極22はマグネシウム板、カソード電極26は銅メッシュを使用している。マグネシウムの酸化還元電位は、-2.34Vであり、銅の酸化還元電位は、+0.34Vである。酸化還元電位の差は、2.68Vでありこれが起電力となる。この起電力により、電解質の有機物等が分解され、そのときに発生する電子がアノード電極22から外部導線(図示せず)を通してカソード電極に流れる。これが一次金属電池としての原理である。
【0114】
カソード電極26は、空気と接するエアカソード方式として図示しているが、必ずしもエアカソード方式とする必要はなく、カソード電極26と同じく、電解液30の中に入れるだけでもよい。
【0115】
電解質(電解液)30は、例えば塩化ナトリウム(NaCl)の水溶液(食塩水)であり、酸化還元電位の差による起電力で塩化ナトリウムと水が電気分解され、電解液中には電子と、陽イオンとしてH+(水素イオン)とNa+が存在することになる。これらの陽イオンがインターカレーター(インターカラントとも呼ばれている。)38となって層状化合物に侵入してインターカレーション反応を生成する。
【0116】
インターカレーター38となる陽イオンは、無機イオンのMg+(マグネシウムイオン),K+(カリウムイオン),Ca+(カルシウムイオン),S+(硫化物イオン)等であってもよい。純粋なマグネシウムは水によく溶けるため、水に純粋なマグネシウムを溶解させた水溶液を電解液とすることができる。また、Mg+,K+,Ca+,S+等は、植物を育てる肥料の成分でもあり、例えば化成肥料やリンカリ肥料にはK+が含まれている。苦土石灰にはMg+,Ca+が含まれている。さらに有機肥料としては発酵鶏糞があり、K+成分が含まれている。従って、電解液は肥料の水溶液であってもよい。
【0117】
被膜金属電極10を用いた一次金属電池36は、アノード電極22に使用したマグネシウムとカソード電極26に使用した銅のイオン化傾向の差が起電力となっており、電解液中の陽イオンがインターカレーター38となってアノード電極22側でインターカレーション反応を生成し、電池の使用時には、インターカレーター38が放出されるとともに、アノード電極22から外部回路を介してカソード電極26に流れる。
【0118】
一次金属電池にインターカレーション反応を利用することは、従来にない新たな原理であり、詳細な検討は今後の課題である。原理的に、化学反応から電荷移動反応に変えられるため、電極の溶解がなく長寿命化できる。このため、例えば非常用マグネシウム空気電池に適用し、マグネシウム電極を本発明の被膜金属電極10に代えれば、塩化ナトリウム水溶液(塩水)を入れ替えて常時使用可能な電池となる。
【0119】
また、燃料電池が水素を供給するように、電解液を連続的に、あるいは定期的に供給すれば、継続して発電可能となる。定期的な供給にあっては、例えば、電解液を大気にさらし、蒸発分を補給する形態であってもよい。さらに、微生物燃料電池に適用すれば、高電圧化と電流容量の増加が可能である。
【0120】
導電性被膜14に抵抗体を用いる場合は、低抵抗である必要があり、鉄フタロシアニン、酸化鉄又は導電性不働態被膜がある。鉄フタロシアニンは触媒機能もある。導電性不働態被膜に関しては、例えばマグネシウム又はマグネシウム合金への導電性不働態被膜の形成は、特許4367838(堀金属表面処理工業株式会社、岡山県)にある導電性陽極酸化皮膜が利用できる。導電性不働態被膜は、リン酸根を0.1~1mol/L、アンモニア又はアンモニウムイオンを0.2~5mol/L含有し、pHが8~14である電解液にマグネシウム又はマグネシウム合金を浸漬し、その表面を陽極酸化処理して製造することができる。
【0121】
導電性被膜に半導体を用いる場合は、酸化チタン(TiO2)、酸化タングステン(WO3)や光触媒が利用できる。酸化チタンは、二酸化チタンとも呼ばれる。酸化チタンは、光触媒の原材料として利用されている。酸化チタンに紫外線が照射されると価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に残された正孔と共に酸化還元反応を起こす。紫外線でなくとも、電圧の印加により電圧の印加により、電子帯の電子が伝導帯に励起されるので、アノード電極とカソード電極で使用される金属の酸化還元電位の差を起電力として電圧の印加をすることができる。
【0122】
図4は、植物の生育している土壌に、アノード電極とカソード電極を埋め込んだ微生物燃料電池を示す図である。微生物燃料電池40は、土壌42に化成肥料等の肥料を混入させている。この土壌42に、アノード電極22とカソード電極26を埋め込み、電気エネルギーを取り出す。アノード電極22は、マグネシウムやアルミニウム等のイオン化傾向が卑な金属に、層状化合物として、例えば黒鉛、プルシアンブルーあるいはプルシアンブルー類似体をコーティングしている。
【0123】
アノード電極22は、マグネシウムやアルミニウム等のイオン化傾向が卑な金属に、抵抗体として鉄フタロシアニンや酸化鉄を、PTFEやウレタン樹脂等を使用してコーティングしてもよい。さらに、半導体として酸化チタンを、PTFEやウレタン樹脂等を使用してコーティングしてもよい。酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンを使用する。
【0124】
カソード電極26は、銅などのイオン化傾向が貴な金属に、層状化合物として、例えば黒鉛をコーティングしている。カソード電極26は、銅などのイオン化傾向が貴な金属を用いず、木炭,黒鉛,カーボングラファイトフェルト,ハードカーボンや炭素繊維シート等であってもよい。また、カソード電極26は、木炭、黒鉛、カーボングラファイト又はハードカーボンを材料として、その表面に、鉄フタロシアニン又は酸化鉄を結合剤又は樹脂でコーティングした鉄成分被膜を形成してもよい。
【0125】
土壌42には、太陽の光合成により植物44で生成された糖分(C6H12O6)が根46から排出され、シュワネラ菌等の電流生産菌により水素イオン(H+)と電子(e-)に分解され、電気エネルギー源となる。さらに土壌42に存在する有機物や肥料等が、電極間のイオン化傾向の差による起電力で電気分解され、電気エネルギー源となる。
【0126】
一般に微生物燃料電池は、微生物の異化代謝能を利用して有機物から電力を生産するシステムであり、燃料として汚泥、生ごみ等のバイオマスを使用できることから、持続可能な発電システムでもある。微生物自体が有機物から電子を取り出す生体触媒として機能するため、低コストである利点もある。
【0127】
土壌中に存在する微生物には、水素を電子放出源とし硫黄で電子を受容する、高度好熱性硫黄依存古細菌が存在し、この菌は硫化水素を生成する。さらに、二酸化炭素を電子受容体とするメタン細菌や、硫酸塩を電子受容体にする硫酸塩還元細菌、炭酸塩を電子受容体にする酢酸生成細菌や、鉄を電子受容体にする異化的鉄還元細菌が存在する。
【0128】
微生物の中には、有機物を分解する過程で電子を外部に放出する性質をもつ電流生成菌と呼ばれる細菌が存在する。電流生成菌は、この異化的鉄還元細菌のことで、異化的鉄還元細菌は、アモルファス状の鉄酸化物に直接触れることで、三価鉄を二価鉄に還元し、ナノサイズの磁性粒子を生産する。
【0129】
異化的鉄還元細菌として、ジオバクター菌やシュワネラ菌などがある。これらの菌は、空気中の酸素を嫌い、地中や海底、沼底など、酸素のほとんどない環境で生息している。この電流生成菌は、有機物と一緒に水を与えると電流発生菌が有機物を分解し、水素イオンと電子を放出する。放出した電子をアノード電極に渡し、カソード電極側に流せば、電流が流れ、カソード電極側では水素イオンが酸素と反応して水となる。このため、有機物と水を継続的に微生物に与えれば、持続的に発電が可能となる。
【0130】
有機物を継続的に土壌に与えるために、植物の光合成を利用することができる。植物は、葉緑体で太陽の光により光合成を行い、根から導管により吸い上げた水と空気中の二酸化炭素から、有機物、例えばショ糖(C6H12O6)やデンプンを合成する。水を分解する過程で生じた酸素は、空気中に放出する。光合成により生産された有機物の一部は、植物の根から土壌中に放出される。このため、エネルギー源となる有機物を継続的に供給することができる。
【0131】
従来の微生物燃料電池は、電気エネルギー源を電流生産菌により生成される電子(e-)のみを利用することで発電していたが、本発明による一次金属電池に適用により、電極間のイオン化傾向の差による起電力で有機物や肥料が電気分解され、電気エネルギー源となるので、大幅に取得電力が増加する。このため、土壌に肥料を含ませることにより、肥料の成分も電気的エネルギーとして利用でき、発電能力が飛躍的に増大する。
【0132】
肥料は、「有機肥料」と「化学肥料」の2種に大きく分けられるが、何れでもよい。化成肥料は、化学肥料の分類に属し、鉱石などの無機物から抽出した成分を原料としている。有機肥料とは、油粕や魚粉、鶏糞など、植物性または動物性の有機物(炭酸そのものを除く炭素を含む化合物)を原料にした肥料である。また、肥料はその成分により窒素肥料,リン酸肥料,カリ肥料,ケイ酸肥料,石灰肥料,複合肥料などに分類され,化学的性質によりアルカリ性肥料,酸性肥料に分けられる。
【0133】
肥料は、土壌に施す栄養物質であり、これによって土壌の生産力を維持,増進し,植物の生長を促進する。肥料の3大要素は、窒素,リン酸,カリ(カリウム)である。さらに、マグネシウム,カルシウム,硫黄と酸素及び水素を合わせた9元素のほか、マンガン,亜鉛,鉄,ホウ素などの微量成分が必要とされている。
【0134】
肥料によって電気エネルギーが増大するのは、9元素と微量成分が、電極間のイオン化傾向の差による起電力により電気分解され、イオンとなって電子を生成し、電解質中を移動するためである。
【0135】
さらに、肥料は植物の生長と電気的エネルギーの増大に効果がある。このため、自然界の生態系に適合し、まさに自然界と共存する自然エネルギーとなる。他の自然エネルギー、例えば太陽発電は、太陽光パネルを設置するためにコンクリートで固定するなど自然を破壊してしまう。完成された太陽光発電システムの景観は自然とは相いれず、風景を一変する。また、風力発電も同様であり、自然の破壊と、さらに低騒音問題を抱えている。いずれも廃棄する場合には費用が高額であり、廃棄処理の問題もある。
【0136】
肥料を利用した電解質は、土壌に肥料を混入することで実現することができる。土壌は固体(固相)、液体(液相)および気体(気相)から構成され,これら3つは土壌の三相と呼ばれ,これら三相の分布割合を土壌の三相分布という.土壌の三相分布は,植物の根の伸長の難易および,根への水分,酸素および養分の供給の良否といった要素に 影響を及ぼし、植物の生育にとって重要な要素のひとつである.
【0137】
土壌の隙間は,気相および液相で占められている。この三相の分布割合は様々で,土壌の種類あるいは利用形態などにより異なる.畑土壌の場合,三相分布が固相30~40%、液相40~30%占めている状態が植物の生育に最適であるとされている。土壌の構造は、単位構造と団粒構造の2つのタイプに分類されている。単位構造は、土壌の粒子が単独に並んでいる状態である。団粒構造は個々の粒子が集まり団粒を形成し、この団粒が並んでいる状態である。
【0138】
団粒構造には,大きな孔隙および小さな孔隙の両方がある。大きい孔隙は排水性を良くし、小さい孔隙は保水性に関係する。一般的に、団粒構造の土壌の方が土壌中の隙間(孔隙)が多く、隙間がある程度多い方が、排水、保水、通気および根の伸長等、植物の生育に適している。
【0139】
土壌には、植物の生長に欠かせない窒素,リン酸,カリ(カリウム)等の養分の他に、微量要素として、鉄,マンガン,銅,亜鉛,ホウ素等が含まれている。肥料は、土壌中に欠乏し易い成分、特に窒素,リン酸,カリを補給するのが役割である。
【0140】
土壌は固体(固相)、液体(液相)および気体(気相)から構成され、液相は水分であり、気相は主に空気であるから、アノード電極を土壌中に埋め込んでも、水素イオン(H+)と気相における空気の酸素が反応し、電池としての機能を果たすことができる。また、液相の水分は、導電性を付与し、アノード電極への電子の移動を可能としている。このため、アノード電極とカソード電極を土壌中に埋めても電気エネルギーを取り出すことができる。
【0141】
肥料を含む電解質は、水に肥料を溶解させた水溶液であってもよい。この場合は、肥料の成分を利用して、電極で電気エネルギーを取り出している。肥料の成分には、前述したように窒素,リン酸,カリ(カリウム)と、マグネシウム,カルシウム,硫黄と酸素及び水素を合わせた9元素がある。
【0142】
これら9元素のうち、電気的なエネルギー源としてカリウム,マグネシウム,カルシウムと硫黄が挙げられる。これらの成分は、水溶液中でイオン化してアノード電極とカソード電極の電気伝導を担う。これにより電子の移動が生じ、電気エネルギーとなる。従って、肥料には、カリウム,マグネシウム、カルシウム、及び、硫黄のいずれか1以上の成分を含んでいることが好ましい。
【0143】
植物は、光合成により大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する。光合成は、二酸化炭素を利用して糖分(有機化合物)を生成するが、植物体内で消費される量以上に糖分が生成されるから、余った糖分は根から排出される。さらに土壌には、落ち葉や枯れた枝が存在し、有機物の増加に寄与している。また、植物の根からの滲出物、分泌物等も電気エネルギーに寄与している。
【0144】
これらの有機物は、土壌中に存在するシュワネラ菌とよばれる電流発生菌により分解され、水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。アノード電極では、カソード電極から外部回路を通して流れてきた電子(e-)と酸素が水素イオン(H+)と反応して水(H2O)となる。この化学反応が基本的な原理であり、電子(e-)の流れを生じさせることで電気エネルギーに変換される。
【0145】
土壌の養分に肥料を加え、それにより植物の生長を促進する。植物は太陽の光により光合成して大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、植物体内には糖類を生成して植物自身を成長させる。生成された糖類は、全てが植物体内で消費されるのではなく、余った糖類は根から放出される。根から放出された糖類が電流発生菌により水素イオンと電子に分解され、酸素と反応して電気エネルギー源となる。まさに自然と共存し、自然の持続的な生態系循環サイクルに適合した自然エネルギーである。
【0146】
図5は、電解質を土壌領域と水領域で構成した微生物燃料電池の類型である田んぼ発電を説明する図である。田んぼ発電50は、水田を利用した微生物燃料電池であり、電解質は、水領域54と土壌領域52で構成されている。稲56が植えられており、稲56が太陽の光合成により根46から糖分(C
6H
12O
6)を排出する。排出された糖分(C
6H
12O
6)は、シュワネラ菌等の電流生産菌により水素イオン(H
+)と電子(e
-)に分解され、さらに、電極間のイオン化傾向の差による起電力により排出された糖分(C
6H
12O
6)が電気分解され、電気エネルギー源となる。稲56は光合成により継続的に糖分を生成し、根46から排出するため、継続的な発電が可能となる
【0147】
従来、アノード電極22とカソード電極26は、両電極とも同じカーボンフェルトが使用されている。カソード電極26は、空気中の酸素を取り入れて化学反応をさせるため、空気と接するように配置されている。このため、エアカソードとも呼ばれている。カソード電極28では、電流生産菌により糖分を分解して生成された水素イオン(H+)が、空気中の酸素と結合し水を生成する。この時電子(e-)を必要とし、外部回路を介してアノード電極22から電子(e-)を引き寄せるため、外部回路に電流が流れ、電気エネルギーとして取り出すことができる。
【0148】
この田んぼ発電50のアノード電極22に、被膜金属電極10を使用することにより、大幅に電気エネルギーを増大させることができる。金属12としては、マグネシウム、マグネシウム合金やアルミニウムが使用できる。金属12にコーティングする層状化合物14は、プルシアンブルーまたはプルシアンブルー類似体が使用できる。また、抵抗体や半導体でもよい。この被膜金属電極10を用いた田んぼ発電では、化学反応を伴わずに効率よく電気エネルギーを取り出すことができるので、例えば金属12にマグネシウムを使用し、層状化合物14としてプルシアンブルーを使用した場合は、1.8V前後の出力電圧が得られる。金属12にアルミニウムを使用した場合は、0.8V前後の出力電圧である。従来の田んぼ発電では、出力電圧が0.5V程度であり、大幅に改善することができる。
【0149】
土壌等に電極を設置する場合は、取り扱い時に被膜金属電極10の層状化合物14の被膜が傷つつくことがあるが、透水性シートにより覆うのがよい。電被膜金属電極10の全体を、包み込むことにより、被膜を保護すると同時に、交換時には透水性シートに包まれた被膜金属電極10を残渣物とともに全てを除去することができる。このため、交換が容易となる。
【実施例0150】
図6は、アノード電極として試作した被膜金属電極とカソード電極の試作例を示している。
図6(A)は、マグネシウム板にプルシアンブルーをコーティングした皮膜金属電極22の試作例である。
図6(B)は、プルシアンブルーをコーティングしたマグネシウム板に透水シートでカバーした皮膜金属電極22の試作例である。
図6(C)は、カソード電極26の試作例である。
【0151】
マグネシウム板は、厚さ0.5mmのAZ31を使用している。層状化合物としてプルシアンブルーを使用し、結合剤としてのウレタン樹脂を混合してシンナーで稀釈している。導電材は、活性炭を使用し、20~30%でプルシアンブルーの希釈液に混合した。この希釈液をマグネシウム板に塗布し、常温で乾燥させた。プルシアンブルーをコーティングしたマグネシウム板は、透水性シートで全体が包み込まれており、透水性シートは、保護カバーとしての機能と絶縁機能を有している。
また、アノード電極22の両側に、セパレータ62を挟んでカソード電極を設けた場合の厚さは、約3mmであり、高さ15cmの電極を垂直に設置すると、エネルギー密度は、481mW/cm2となる。設置する場合に、この電極を1cm当たり3本設置するとしても、設置面積でのエネルギー密度は、441mW/cm2である。
エネルギー密度は、(最大取り出せる短絡電流密度)×(最大取り出せる開放電圧)として算出したが、最大取り出せる電力は、(最大取り出せる短絡電流密度)×(最大取り出せる開放電圧)とはならない。これは、微生物燃料電池内部の直列抵抗や並列抵抗(シャント抵抗)の影響によるものであり、最大発電電力と(最大取り出せる短絡電流密度)×(最大取り出せる開放電圧)の比は、形状因子と呼ばれている。