(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129215
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】緑内障の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230907BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230907BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230907BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230907BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20230907BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/06
C07K16/18
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140706
(22)【出願日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022033467
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】518150688
【氏名又は名称】プロテオブリッジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】中澤 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝太
(72)【発明者】
【氏名】五島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 圭
(72)【発明者】
【氏名】小野 千紘
(72)【発明者】
【氏名】桐原 朋子
(72)【発明者】
【氏名】岩切 千栄
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA36
2G045DA37
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR08
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA02
4H045DA75
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】新規な緑内障の検出方法および新規な緑内障の罹患可能性の判定方法の提供。
【解決手段】本発明によれば、被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を測定する工程を含んでなる、緑内障の検出方法であって、前記タンパク質が、自己抗体および/またはサイトカインである、検出方法が提供される。本発明によればまた、被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを取得する工程と、(ii)工程(i)において取得した前記データを説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める工程とを含んでなる、判定方法が提供される。本発明によれば、緑内障の検出および緑内障の罹患可能性の判定を簡便かつ的確に実施できる点で有利である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を測定する工程を含んでなる、緑内障の検出方法であって、前記タンパク質が、自己抗体および/またはサイトカインである、検出方法。
【請求項2】
自己抗体が、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体、
(3)SOX2自己抗体、
(4)NEXN自己抗体、
(5)ETNK1自己抗体および
(6)KLHL7自己抗体
からなる群から選択される1種または2種以上の自己抗体(タンパク質a)である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
サイトカインが、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1、
(107)TGF-β、
(108)BDNF、
(109)IL-10、
(110)MCP-1、
(111)VEGFおよび
(112)FGF
からなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質(タンパク質b)である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を指標にして、緑内障の罹患可能性の有無を判定する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項5】
前記被験対象の臨床情報をさらに指標にして緑内障の罹患可能性の有無を判定する、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
臨床情報が年齢、性別、既往歴、視力および眼圧(IOP)からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
生体試料が血液試料である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項8】
緑内障を検出または評価するための生体試料分析方法である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項9】
緑内障の罹患可能性の判定方法であって、
(i)被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを取得する工程と、
(ii)工程(i)において取得した前記データを説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める工程と
を含んでなる、判定方法。
【請求項10】
工程(i)において前記被験対象の臨床情報に関するデータをさらに取得する、請求項9に記載の判定方法。
【請求項11】
自己抗体が、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体、
(3)SOX2自己抗体、
(4)NEXN自己抗体、
(5)ETNK1自己抗体および
(6)KLHL7自己抗体
からなる群から選択される1種または2種以上の自己抗体(タンパク質a)である、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項12】
自己抗体が、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体および
(3)SOX2自己抗体
から選択される、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項13】
サイトカインが、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1、
(107)TGF-β、
(108)BDNF、
(109)IL-10、
(110)MCP-1、
(111)VEGFおよび
(112)FGF
からなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質(タンパク質b)である、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項14】
サイトカインが、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1、
(107)TGF-βおよび
(108)BDNF
から選択される、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項15】
臨床情報が年齢、性別、既往歴、視力および眼圧(IOP)からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項10に記載の判定方法。
【請求項16】
工程(ii)の多変量解析モデルがロジスティック回帰モデルである、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項17】
(iii)工程(ii)において求めた罹患確率に基づいて緑内障の罹患可能性を評価する工程をさらに含む、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項18】
工程(iii)において、前記罹患確率をあらかじめ定めた閾値と比較することにより緑内障の罹患可能性を評価する、請求項9または10に記載の判定方法。
【請求項19】
前記罹患確率が前記閾値以上の場合に緑内障の罹患可能性が高いと評価し、前記罹患確率が前記閾値未満の場合に緑内障の罹患可能性が低いと評価する、請求項18に記載の判定方法。
【請求項20】
閾値がYouden’s Indexに基づいて算出される、請求項18に記載の判定方法。
【請求項21】
自己抗体が(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体および(4)NEXN自己抗体であり、かつ、臨床情報が年齢、性別、神経疾患の既往歴、心疾患の既往歴、片頭痛の既往歴、冷え性の既往歴、対象眼の眼科手術歴、視力および眼圧(IOP)である、請求項16に記載の判定方法。
【請求項22】
自己抗体が(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体、(5)ETNK1自己抗体および(6)KLHL7自己抗体であり、かつ、臨床情報が年齢である、請求項16に記載の判定方法。
【請求項23】
サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-βおよび(108)BDNFであり、かつ、臨床情報が年齢、性別、神経疾患の既往歴、片頭痛の既往歴、冷え性の既往歴、視力および眼圧(IOP)である、請求項16に記載の判定方法。
【請求項24】
サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-β、(108)BDNF、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFであり、かつ、臨床情報が年齢である、請求項16に記載の判定方法。
【請求項25】
サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(108)BDNF、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFであり、かつ、臨床情報が年齢である、請求項16に記載の判定方法。
【請求項26】
サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-β、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFであり、かつ、臨床情報が年齢である、請求項16に記載の判定方法。
【請求項27】
被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める処理をプロセッサに実行させるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
【請求項28】
プロセッサと前記プロセッサの制御下にあるメモリとを備えたコンピュータを含んでなる、緑内障の罹患可能性の判定システムであって、前記メモリが請求項27に記載のコンピュータプログラムを備える、判定システム。
【請求項29】
被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を指標とする緑内障の診断マーカーであって、前記タンパク質が自己抗体および/またはサイトカインである、診断マーカー。
【請求項30】
被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度の定量手段を含んでなる緑内障の診断キットであって、前記タンパク質が自己抗体および/またはサイトカインである、診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障の検出方法に関する。本発明はまた、緑内障の罹患可能性の判定方法および判定システム(コンピュータプログラムを含む)ならびに緑内障の診断マーカーおよび診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、視機能を司る網膜神経節細胞の障害に伴い網膜の菲薄化を生じ、その結果として視野障害を生じる視神経症であり、本邦における失明原因の第一位である。世界の緑内障患者は6000万人、緑内障罹患による両眼失明者は840万人と試算されており、国際的にも緑内障は白内障に次ぐ中途失明原因疾患とされている。また、日本人の緑内障患者の70%は、眼圧が正常範囲内である正常眼圧緑内障であり、眼圧が十分に低値であっても視野障害が進行する症例が存在する。緑内障による視野障害は不可逆的な現象であるため、早期発見・早期治療が病態進行抑制に有効である。
【0003】
現在、緑内障の検査は、主に眼科検査機器を用いて実施されている(非特許文献1)。一方で、眼科検査機器は主に眼科に存在するものの、眼科受診率は歯科などに比して低く、早期発見に繋がる緑内障スクリーニングは十分に普及しているとは言えない状況にあった。このため、緑内障の簡便な検出方法の開発が待たれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shabbir A, et al., Math Biosci Eng. 2021 Mar 2;18(3):2033-2076.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、緑内障の新規な検出方法を提供することを目的とする。本発明はまた、新規な緑内障の罹患可能性の判定方法ならびに緑内障の新規な診断マーカーおよび診断キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、外来患者について、緑内障を罹患していない患者群(対照群)と緑内障を罹患している患者群(緑内障群)に分類し、各群の患者から採取した血液検体の血漿中のタンパク質の量を比較検討した。その結果、自己抗体およびサイトカインの量に差があることを確認した。本発明者らはまた、これらのタンパク質および患者の臨床情報を説明変数として使用し、対照群と緑内障群との判別を目的としてロジスティック回帰分析法により統計学的解析を行った。その結果、AUCが0.80を超えており、これらの説明変数が緑内障患者を識別する上で有用であることを見出すとともに、これらの説明変数を用いて高い精度で緑内障の罹患可能性を判定し得るロジスティック回帰モデルを構築した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を測定する工程を含んでなる、緑内障の検出方法であって、前記タンパク質が、自己抗体および/またはサイトカインである、検出方法。
[2]自己抗体が、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体、
(3)SOX2自己抗体、
(4)NEXN自己抗体、
(5)ETNK1自己抗体および
(6)KLHL7自己抗体
からなる群から選択される1種または2種以上の自己抗体(タンパク質a)である、上記[1]に記載の検出方法。
[3]サイトカインが、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1、
(107)TGF-β、
(108)BDNF、
(109)IL-10、
(110)MCP-1、
(111)VEGFおよび
(112)FGF
からなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質(タンパク質b)である、上記[1]または[2]に記載の検出方法。
[4]前記被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を指標にして、緑内障の罹患可能性の有無を判定する工程をさらに含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の検出方法。
[5]前記被験対象の臨床情報をさらに指標にして緑内障の罹患可能性の有無を判定する、上記[4]に記載の検出方法。
[6]臨床情報が年齢、性別、既往歴、視力および眼圧(IOP)からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[5]に記載の検出方法。
[7]生体試料が血液試料である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の検出方法。
[8]緑内障を検出または評価するための生体試料分析方法である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の検出方法。
[9]緑内障の罹患可能性の判定方法であって、
(i)被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを取得する工程と、
(ii)工程(i)において取得した前記データを説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める工程と
を含んでなる、判定方法。
[10]工程(i)において前記被験対象の臨床情報に関するデータをさらに取得する、上記[9]に記載の判定方法。
[11]自己抗体が、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体、
(3)SOX2自己抗体、
(4)NEXN自己抗体、
(5)ETNK1自己抗体および
(6)KLHL7自己抗体
からなる群から選択される1種または2種以上の自己抗体(タンパク質a)である、上記[9]または[10]に記載の判定方法。
[12]自己抗体が、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体および
(3)SOX2自己抗体
から選択される、上記[9]または[10]に記載の判定方法。
[13]サイトカインが、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1、
(107)TGF-β、
(108)BDNF、
(109)IL-10、
(110)MCP-1、
(111)VEGFおよび
(112)FGF
からなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質(タンパク質b)である、上記[9]~[12]のいずれかに記載の判定方法。
[14]サイトカインが、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1、
(107)TGF-βおよび
(108)BDNF
から選択される、上記[9]~[12]のいずれかに記載の判定方法。
[15]臨床情報が年齢、性別、既往歴、視力および眼圧(IOP)からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[10]~[14]のいずれかに記載の判定方法。
[16]工程(ii)の多変量解析モデルがロジスティック回帰モデルである、上記[9]~[15]のいずれかに記載の判定方法。
[17](iii)工程(ii)において求めた罹患確率に基づいて緑内障の罹患可能性を評価する工程をさらに含む、上記[9]~[16]のいずれかに記載の判定方法。
[18]工程(iii)において、前記罹患確率をあらかじめ定めた閾値と比較することにより緑内障の罹患可能性を評価する、上記[9]~[17]のいずれかに記載の判定方法。
[19]前記罹患確率が前記閾値以上の場合に緑内障の罹患可能性が高いと評価し、前記罹患確率が前記閾値未満の場合に緑内障の罹患可能性が低いと評価する、上記[18]に記載の判定方法。
[20]閾値がYouden’s Indexに基づいて算出される、上記[18]または[19]に記載の判定方法。
[21]自己抗体が(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体および(4)NEXN自己抗体であり、かつ、臨床情報が年齢、性別、神経疾患の既往歴、心疾患の既往歴、片頭痛の既往歴、冷え性の既往歴、対象眼の眼科手術歴、視力および眼圧(IOP)である、上記[16]~[20]のいずれかに記載の判定方法。
[22]自己抗体が(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体、(5)ETNK1自己抗体および(6)KLHL7自己抗体であり、かつ、臨床情報が年齢である、上記[16]~[20]のいずれかに記載の判定方法。
[23]サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-βおよび(108)BDNFであり、かつ、臨床情報が年齢、性別、神経疾患の既往歴、片頭痛の既往歴、冷え性の既往歴、視力および眼圧(IOP)である、上記[16]~[20]のいずれかに記載の判定方法。
[24]サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-β、(108)BDNF、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFであり、かつ、臨床情報が年齢である、上記[16]~[20]のいずれかに記載の判定方法。
[25]サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(108)BDNF、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFであり、かつ、臨床情報が年齢である、上記[16]~[20]のいずれかに記載の判定方法。
[26]サイトカインが(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-β、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFであり、かつ、臨床情報が年齢である、上記[16]~[20]のいずれかに記載の判定方法。
[27]被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める処理をプロセッサに実行させるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
[28]プロセッサと前記プロセッサの制御下にあるメモリとを備えたコンピュータを含んでなる、緑内障の罹患可能性の判定システムであって、前記メモリが上記[27]に記載のコンピュータプログラムを備える、判定システム。
[29]被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を指標とする緑内障の診断マーカーであって、前記タンパク質が自己抗体および/またはサイトカインである、診断マーカー。
[30]被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度の定量手段を含んでなる緑内障の診断キットであって、前記タンパク質が自己抗体および/またはサイトカインである、診断キット。
【0008】
本発明によれば、緑内障の検出を簡便かつ的確に実施できる点で有利である。本発明によればまた、被験対象の生体試料を使用して緑内障を検出できるため、眼科検査機器を使用しなくても緑内障を検出できる点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、白内障患者群(対照群)と緑内障患者群(緑内障群)の血液検体(血漿)中の各タンパク質(A:VMAC、B:SUN1、C:SOX2、D:NEXN、E:ETNK1、F:KLHL7)を抗原とする自己抗体の量(インデックス値)を比較検討した結果をそれぞれ示す。p値は、対象群と緑内障群で等分散性の検証を行ったところ等分散性の仮説が棄却されたため、ウェルチのt検定(両側検定)により算出した。
【
図2】
図2は、各解析の説明変数を使用して緑内障患者を判別するROC曲線をそれぞれ示す(A:解析1、B:解析2)。
【
図3】
図3は、各解析の説明変数を使用して緑内障患者を判別するROC曲線をそれぞれ示す(A:解析3、B:解析4、C:解析5、D:解析6)。
【発明の具体的説明】
【0010】
<<定義>>
「緑内障」とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患と定義される。緑内障は、「原発緑内障(眼圧上昇の原因を他の疾患に求めることができない)」、「続発緑内障(他の眼疾患、全身疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる)」および「小児緑内障(胎生期の隅角発育異常や他の疾患・要因により小児期に眼圧上昇をきたす)」の3病型に分類される。また、原発緑内障は「原発開放隅角緑内障(広義)(従来の原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を包括した疾患概念)」と原発閉塞隅角緑内障に大別される(緑内障診療ガイドライン(第4版)、日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会、2018年1月10日)。本発明において、「緑内障」の用語は最も広い意味で用いられるが、好ましくは「原発緑内障」であり、より好ましくは「原発開放隅角緑内障(広義)」である。
【0011】
「VMAC(Vimentin type intermediate filament associated coiled-coil protein)」(VMAC遺伝子がコードするタンパク質)は、細胞骨格の構成因子であり、神経細胞の分化、発達に関与するタンパク質である。
【0012】
「SUN1(SUN domain containing protein 1)」(SUN1遺伝子がコードするタンパク質)は、LINC(LInker of Nucleoskeleton and Cytoskeleton) complexの構成因子であり、核膜と細胞骨格の結合に関与するタンパク質である。
【0013】
「SOX2(SRY(sex determining region Y) box transcription factor 2)」(SOX2遺伝子がコードするタンパク質)は、転写因子であり、初期の胚発生や胚性幹細胞の多能性、神経細胞の分化、発達に関与するタンパク質である。
【0014】
「NEXN(Nexilin F-actin binding protein)」(NEXN遺伝子がコードするタンパク質)は、アクチン結合タンパク質であり、細胞の接着や移動に関与するタンパク質である。
【0015】
「ETNK1(Ethanolamine kinase 1)」(ETNK1遺伝子がコードするタンパク質)は、ATP結合因子であり、エタノールアミンのリン酸化(生体膜を構成するグリセロリン脂質の主要成分であるホスファチジルエタノールアミンの生成)に関与するタンパク質である。
【0016】
「KLHL7(Kelch like family member 7)」(KLHL7遺伝子がコードするタンパク質)は、BCR(BTB-CUL3-RBX1) E3ユビキチンリガーゼ複合体の基質特異的アダプターであり、基質タンパク質の分解に関与するタンパク質である。
【0017】
本発明において、VMACを抗原とする自己抗体を「VMAC自己抗体」、SUN1を抗原とする自己抗体を「SUN1自己抗体」、SOX2を抗原とする自己抗体を「SOX2自己抗体」、NEXNを抗原とする自己抗体を「NEXN自己抗体」、ETNK1を抗原とする自己抗体を「ETNK1自己抗体」、KLHL7を抗原とする自己抗体を「KLHL7自己抗体」という。
【0018】
「サイトカイン」は、細胞から産生される生理活性を有するタンパク質と定義され、代表的なものとして以下のものが挙げられる。
・インターロイキン(IL:Interleukin)
・腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)
・増殖因子
・インターフェロン(IFN:interferon)
・ケモカイン
【0019】
本発明において、「インターロイキン(IL)」には、IL-4、IL-5、IL-6およびIL-10が含まれる。「IL-4」は、主にTh2細胞(CD4+細胞)により産生され、寄生虫感染やアレルギー反応に関与する。「IL-5」は、Th2細胞や肥満細胞により産生され、好酸球に作用する。「IL-6」はTh細胞やマクロファージにより産生され、B細胞の抗体産生を誘導する。Il-6は炎症誘発性サイトカインとして知られる。「IL-10」は、主にTh2細胞から産生され、Th1細胞からのINF-γ産生の抑制やマクロファージの機能を抑制する。IL-10は炎症抑制性サイトカインとして知られる。
【0020】
本発明において、「TNF」には、TNF-αが含まれる。「TNF-α」は、単球やマクロファージから産生され、感染防御や抗腫瘍作用に関与する。TNF-αは炎症促進性サイトカインとして知られる。
【0021】
本発明において、「増殖因子」には、上皮増殖因子(EGF:epidermal growth factor)、繊維芽細胞増殖因子(FGF:fibroblast growth factor)、血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)、神経増殖因子(NGF:nerve growth factor)および形質転換増殖因子(TGF-β:transofroming growth factor β)が含まれる。「EGF」は、DNA合成や細胞増殖に関与するなどの多様な機能を有する増殖因子である。「FGF」は、細胞の増殖や血管新生に関与する。「VEGF」は、脈管形成や血管新生に関与する増殖因子である。「NGF」は、ニューロンのシナプス形成に関与する増殖因子である。「TGF-β」は、免疫細胞や幹細胞の調節、分化に関与するなどの多様な機能を有する増殖因子である。TGF-βは炎症抑制性サイトカインとして知られる増殖因子である。
【0022】
本発明において、サイトカインは上記以外に、「エンドセリン-1」、「脳由来神経栄養因子(BDNF:brain-derived neurotrophic factor)」および「MCP-1(monocyte chemotactic protein 1)」が含まれる。「エンドセリン-1」は、主に血管収縮作用を有するタンパク質である。「BDNF」は、ニューロンの生存維持や神経伝達物質の合成促進などの作用を有するタンパク質である。「MCP-1」は、CCL2としても知られるケモカインであり、免疫調節や炎症プロセスに関与するタンパク質である。
【0023】
本発明において「生体試料」は、生体から分離された試料を意味し、例えば、血液等の体液であり、好ましくは血液試料であり、より好ましくは血清試料または血漿試料であり、さらに好ましくは血漿試料である。
【0024】
本発明における「対象」は、ヒトを含む哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。本発明における「対象」は、正常な対象(健常者)も含まれるが、緑内障の罹患リスクの観点から、ヒトでは好ましくは40歳以上の対象であり、より好ましくは50歳以上の対象であり、さらに好ましくは60歳以上である。
【0025】
<<マーカータンパク質>>
本発明において緑内障の指標となるタンパク質(マーカータンパク質)は、自己抗体およびサイトカインのいずれかまたは両方を少なくとも含む。
【0026】
本発明において緑内障の指標となる自己抗体は、
(1)VMAC自己抗体、
(2)SUN1自己抗体、
(3)SOX2自己抗体、
(4)NEXN自己抗体、
(5)ETNK1自己抗体および
(6)KLHL7自己抗体からなる群から選択される1種または2種以上の自己抗体を少なくとも含む。本明細書において「(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体、(5)ETNK1自己抗体および(6)KLHL7自己抗体からなる群から選択される1種または2種以上の自己抗体」を「本発明のタンパク質a」または「タンパク質a」ということがある。本発明のタンパク質aは、緑内障に罹患している対象の生体試料(好ましくは血液、より好ましくは血漿)中のタンパク質の量または濃度が緑内障を罹患していない対象と比較して高いことを特徴とする。
【0027】
本発明において緑内障の指標となるサイトカインは、
(101)TNF-α、
(102)IL-4、
(103)IL-5、
(104)IL-6、
(105)NGF、
(106)エンドセリン-1
(107)TGF-β、
(108)BDNF、
(109)IL-10、
(110)MCP-1、
(111)VEGFおよび
(112)FGF
からなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質を少なくとも含む。本明細書において「(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-β、(108)BDNF、(109)IL-10、(110)MCP-1、(111)VEGFおよび(112)FGFからなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質」を「本発明のタンパク質b」または「タンパク質b」ということがある。本発明のタンパク質bは、緑内障に罹患している対象の生体試料(好ましくは血液、より好ましくは血漿)中のタンパク質の量または濃度が緑内障を罹患していない対象と比較して異なる(高いあるいは低い)ことを特徴とする。
【0028】
本発明のタンパク質bのうち、緑内障に罹患している対象の生体試料(好ましくは血液、より好ましくは血漿)中のタンパク質の量または濃度が緑内障を罹患していない対象と比較して高いタンパク質は、IL-4であり、本明細書において「IL-4」を「本発明のタンパク質b1」または「タンパク質b1」ということがある。
【0029】
本発明のタンパク質bのうち、緑内障に罹患している対象の生体試料(好ましくは血液、より好ましくは血漿)中のタンパク質の量または濃度が緑内障を罹患していない対象と比較して低いタンパク質は、TNF-α、IL-5、IL-6、NGF、エンドセリン-1、TGF-β、BDNF、IL-10、MCP-1、VEGFおよびFGFであり、本明細書において「TNF-α、IL-5、IL-6、NGF、エンドセリン-1、TGF-β、BDNF、IL-10、MCP-1、VEGFおよびFGFからなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質」を「本発明のタンパク質b2」または「タンパク質b2」ということがある。
【0030】
<<検出方法>>
本発明の第一の側面によれば、緑内障の検出方法が提供される。本発明の検出方法によれば、被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度を指標にして緑内障を検出することができる。すなわち、本発明の検出方法は、タンパク質の量または濃度を被験対象の緑内障の罹患可能性と関連づけることを特徴とする。
【0031】
本発明の検出方法においては、まず、(A)被験対象の生体試料中の自己抗体(好ましくは、タンパク質a)および/またはサイトカイン(好ましくは、タンパク質b)からなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質(本発明のタンパク質)の量または濃度を測定する工程を実施する。タンパク質の量または濃度の測定は、公知の方法により実施することができる。
【0032】
タンパク質の量または濃度の測定方法としては、抗体やアプタマーを利用したイムノアッセイとして、エンザイムイムノアッセイ(ELISAやEIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ、質量分析法(例えば、LC/MS、TOF-MS、LC-MS/MS)、ウエスタンブロット、時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)、表面プラズモン共鳴(SPR)、水晶マイクロバランス法(QCM法)等が挙げられるが、迅速かつ簡便な検出の観点からELISAおよびEIAが好ましい。
【0033】
測定対象が自己抗体である場合は、該自己抗体の抗原を使用した測定方法を利用することができる。そのような測定方法としては、間接蛍光抗体法(IFA:indirect immunofluorescence assay)、二重免疫拡散(DID:double immunodiffusion)法、ラテックス凝集法、化学発光免疫測定法(CLIA:chemical luminescence immunoassay)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA:chemical luminescence enzyme immunoassay)、ラインブロッド法、ドットブロット法、免疫沈降法、免疫比濁法、免疫比ろう法、細胞免疫染色、免疫組織化学等が挙げられるが、迅速かつ簡便な検出の観点からIFAが好ましい。
【0034】
また、タンパク質の量または濃度は、そのタンパク質をコードするRNAの量または濃度を測定することにより間接的に測定することもできる。RNAの量または濃度の測定方法としては、次世代シーケンサーを利用したRNA-seq、定量的PCR(RT-qPCR)、デジタルPCR、マイクロアレイ、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法、質量分析法等が挙げられるが、迅速かつ簡便な検出の観点からRT-qPCRおよびデジタルPCRが好ましい。
【0035】
本発明の検出方法においては、(B)工程(A)で測定された本発明のタンパク質の量または濃度を指標にして、生体試料を採取した被験対象の緑内障の罹患の有無を判定する工程をさらに含むことができる。
【0036】
本発明のタンパク質がタンパク質aおよびタンパク質b1である場合、工程(B)は、(B-1―1)被験対象の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度とあらかじめ定めた参照値とを比較する工程と、(B-1-2)被験対象の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度が参照値以上であるか、または参照値よりも高い場合に被験対象が緑内障に罹患している(緑内障に罹患している可能性がある)と判定する工程とにより実施することができる。なお、本発明において「緑内障に罹患している可能性がある」とは、「緑内障に罹患している可能性が高いあるいは極めて高い」を含む意味で用いられるものとする。
【0037】
工程(B-1-2)では、被験対象の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度が参照値以下であるか、または参照値よりも低い場合に被験対象が緑内障に罹患している(緑内障に罹患している可能性がある)と判定することもできる。
【0038】
本発明のタンパク質がタンパク質b2である場合、工程(B)は、(B-2-1)被験対象の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度とあらかじめ定めた参照値とを比較する工程と、(B-2-2)被験対象の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度が参照値以下であるか、または参照値よりも低い場合に被験対象が緑内障に罹患している(緑内障に罹患している可能性がある)と判定する工程とにより実施することができる。
【0039】
工程(B-2-2)では、被験対象の生体試料中における本発明のタンパク質の量または濃度が参照値以上であるか、または参照値よりも高い場合に被験対象が緑内障に罹患している(緑内障に罹患している可能性がある)と判定することもできる。
【0040】
本発明において、「参照値」は、緑内障に罹患していない対象(正常対象)の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。このような対象は、治療中の疾患がない健常者が好ましいが、緑内障以外の疾患を有する対象であってもよい。本発明において参照値はまた、緑内障に罹患した対象(罹患対象)の生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。上記の参照値の決定方法においては、正常対象群または罹患対象群の測定値の平均値、中央値、パーセンタイル値、最大値または最小値を使用することができる。パーセンタイル値は任意の値を選択することができ、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90または95とすることができる。参照値を算出する際の正常対象および罹患対象の例数は複数例が好ましく、例えば、2例以上、5例以上、10例以上、20例以上、50例以上または100例以上とすることができる。なお、参照値は本発明を実施する上で緑内障の罹患の有無を区別する数値であり、この意味においてカットオフ値または境界値といい得る。
【0041】
本発明において参照値はまた、緑内障に罹患していない対象(正常対象)の試料における本発明のタンパク質の量または濃度の測定値と、緑内障に罹患した対象(罹患対象)の試料におけるタンパク質の量または濃度の測定値に基づいて算出することもできる。例えば、罹患対象群と、正常対象群について、生体試料中の本発明のタンパク質の量または濃度を測定し、得られた測定値を用いてROC(受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic))解析等の統計解析を行うことにより参照値を設定することができる。ROC曲線の作成とROC曲線に基づく参照値の設定は周知であり、感度や特異度の観点から当業者が適宜設定することができる。
【0042】
本発明において本発明のタンパク質を複数種組み合わせて指標とする場合や、本発明のタンパク質を他の臨床情報と組み合わせて指標とする場合には、指標となる複数種のタンパク質の量または濃度の測定値に対して一つの参照値を設定することもできる。例えば、一種のタンパク質の量または濃度の測定値に代えて、複数種のタンパク質の量または濃度の測定値の合計値、平均値、比率等を用いて参照値を算出することができ、あるいは、複数種のタンパク質の量または濃度の測定値に重み付けをした上で合計値、平均値、比率等を算出し、該算出値を用いて参照値を算出することができる。このようにして算出された参照値を本発明に用いる場合には、参照値の算出方法と同じ方法で被験対象の生体試料中の複数種のタンパク質の量または濃度の測定値を処理し、得られた数値をあらかじめ定めた参照値とを比較することで判定を行うことができる。
【0043】
本発明の検出方法の工程(B)においてはまた、例えば、被験対象の生体試料中における本発明のタンパク質aおよび/またはタンパク質b1の量または濃度が正常対象群の当該タンパク質の量または濃度の平均値よりも高いか、あるいは該平均値と比較して約1.05倍以上、約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2.0倍以上、約2.5倍以上または約3倍以上である場合に、被験対象が緑内障に罹患している(あるいは緑内障に罹患している可能性がある)と判定することができる。
【0044】
本発明の検出方法の工程(B)においては、例えば、被験対象の生体試料中の本発明のタンパク質b2の量または濃度が、正常対象群の当該タンパク質の量または濃度の平均値よりも低いか、あるいは該平均値と比較して約0.9倍以下、約0.85倍以下、約0.8倍以下、約0.75倍以下、約0.7倍以下、約0.65倍以下、約0.6倍以下、約0.55倍以下、約0.5倍以下、約0.45倍以下、約0.4倍以下または約0.35倍以下である場合に、被験対象が緑内障に罹患している(あるいは緑内障に罹患している可能性がある)と判定することができる。
【0045】
本発明の検出方法において、自己抗体を指標とする場合は、タンパク質aのうち少なくともいずれか1種を指標に検出を行うことができ、検出精度の観点から、好ましくは(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体または(5)ETNK1自己抗体のいずれか1種であり、より好ましくは(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体または(3)SOX2自己抗体である。また、タンパク質aのうち2種以上を指標に検出を行うこともできる。本発明の検出方法では、本発明のタンパク質aのうちいずれか1種を検出対象とし、残りの5種の少なくとも1種を場合により組み合わせて使用できる検出対象とすることができる。
【0046】
本発明の検出方法において、サイトカインを指標とする場合は、タンパク質bのうち少なくともいずれか1種を指標に検出を行うことができるが、この場合は自己抗体の少なくとも1種と組み合わせることもできる。組み合わせることができる自己抗体としては、検出精度の観点から、好ましくは(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体または(5)ETNK1自己抗体のいずれか1種であり、より好ましくは(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体または(3)SOX2自己抗体である。また本発明の検出方法において、サイトカインを指標とする場合は、タンパク質bのうち2種以上を指標に検出を行うこともできる。タンパク質bのうち2種以上の組合せとしては、検出精度の観点から、(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-βおよび(108)BDNFからなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質を少なくとも含むことが好ましい。本発明の検出方法では、本発明のタンパク質bのうちいずれか1種を検出対象とし、残りの11種の少なくとも1種を場合により組み合わせて使用できる検出対象とすることができる。
【0047】
本発明の検出方法において、緑内障の罹患の有無の検出は、被験対象の生体試料中のタンパク質の量または濃度の測定に、該被験対象の臨床情報を組み合わせて実施することができる。組み合わせる臨床情報としては、例えば、年齢、性別、既往歴、視力、眼圧(IOP:intraocular pressure)、眼軸長(AL:axial length)、中心角膜厚(CCT:central corneal thickness)、投薬歴、対象眼の眼科手術歴、血圧、心拍数、身長、体重が挙げられ、検出精度の観点から、好ましくは年齢、既往歴、対象眼の眼科手術歴、視力および眼圧(IOP)であり、より好ましくは年齢および既往歴である。
【0048】
本発明において、既往歴としての疾患には、例えば、神経疾患、心疾患、糖尿病、片頭痛、冷え症が含まれる。
【0049】
本発明において、視力は、LogMAR(logarithmic minimum angle of resolution)やtotal reflection(total ref)を指標として使用することができる。
【0050】
本発明において、眼圧(IOP)は、NCT(非接触型眼圧計)やGAT(ゴールドマン眼圧計)を使用して測定することができる。
【0051】
本発明の検出方法によれば、被験対象の緑内障の罹患の有無を検出することができる。したがって、本発明の検出方法は、緑内障の診断に補助的に用いることができ、被験対象が緑内障に罹患しているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師が行うことができる。例えば、本発明においては、緑内障を罹患している(あるいは緑内障を罹患している可能性がある)と判定された被験対象については、医師が他の所見を参照しつつ被験対象が緑内障を罹患している(あるいは緑内障を罹患している可能性がある)と判断することができる。すなわち、本発明の検出方法は緑内障の診断を補助する方法あるいは緑内障の診断を支援する方法と言い換えることができる。
【0052】
本発明の検出方法によれば、被験対象から採取された生体試料に基づいて定量的に緑内障の検出または評価を行うことができる。すなわち、本発明の検出方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確に緑内障を検出または評価できる点で有利である。このため本発明の検出方法は、緑内障を検出または評価するための生体試料分析方法(好ましくは血液試料分析方法)と言い換えることができる。本発明の検出方法は、健康診断等において活用できるため、被験対象の緑内障の罹患の早期発見および早期治療の開始への貢献が期待できる点で有用性が高い。本発明の検出方法はまた、健康診断等において広く利用することができるため、緑内障患者のスクリーニングに資する点でも有用性が高い。
【0053】
<<罹患可能性の判定方法>>
本発明の第二の側面によれば、緑内障の罹患可能性の判定方法が提供される。本発明の判定方法は、(i)被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインからなる群から選択される1種または2種以上のタンパク質の量または濃度に関するデータを取得する工程と、(ii)工程(i)において取得した前記データを説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める工程とを含んでなる。
【0054】
本発明の判定方法において、工程(i)は、生体試料中のタンパク質の量または濃度を測定することにより、被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを取得することができる。生体試料中のタンパク質の量または濃度の測定は、本発明の検出方法の記載に従って実施することができる。
【0055】
工程(i)において、自己抗体に係るデータ(生体試料中の自己抗体の量または濃度)を取得する場合は、タンパク質aのうち少なくともいずれか1種のデータを取得することができ、好ましくは(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体または(5)ETNK1自己抗体のいずれか1種であり、より好ましくは(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体または(3)SOX2自己抗体である。本発明の判定方法では、本発明のタンパク質aのうちいずれか1種をデータ取得の対象とし、残りの5種の少なくとも1種を場合により組み合わせてデータ取得の対象とすることができる。
【0056】
工程(i)において、サイトカインに係るデータ(生体試料中のサイトカインの量または濃度)を取得する場合は、タンパク質bのうち少なくともいずれか1種のデータを取得することができる。本発明の判定方法では、本発明のタンパク質bのうちいずれか1種をデータ取得の対象とし、残りの11種の少なくとも1種を場合により組み合わせてデータ取得の対象とすることができる。タンパク質bのうち2種以上の組合せとしては、(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-βおよび(108)BDNFからなる群から選択される2種以上のタンパク質を少なくとも含むことが好ましい。
【0057】
本発明の判定方法において、データ取得は、必要に応じ、本発明のタンパク質aと本発明のタンパク質bを組み合わせてデータ取得の対象とすることができる。本発明のタンパク質aと本発明のタンパク質bは、例えば、(1)VMAC自己抗体、(2)SUN1自己抗体、(3)SOX2自己抗体、(4)NEXN自己抗体および(5)ETNK1自己抗体からなる群から選択されるいずれか1種または2種以上と、(101)TNF-α、(102)IL-4、(103)IL-5、(104)IL-6、(105)NGF、(106)エンドセリン-1、(107)TGF-βおよび(108)BDNFからなる群から選択されるいずれか1種または2種以上とを組み合わせることができる。
【0058】
本発明の判定方法において、工程(i)では、前記被験対象の臨床情報に関するデータをさらに取得することができる。臨床情報としては、例えば、年齢、性別、既往歴、視力、眼圧(IOP:intraocular pressure)、眼軸長(AL:axial length)、中心角膜厚(CCT:central corneal thickness)、投薬歴、対象眼の眼科手術歴、血圧、心拍数、身長、体重が挙げられ、好ましくは年齢、既往歴、視力および眼圧(IOP)であり、より好ましくは年齢および既往歴である。
【0059】
本発明の判定方法において、工程(ii)では、工程(i)において取得した前記データを説明変数として、多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める。多変量解析モデルとしては、例えば、ロジスティック回帰モデル、判別分析モデル、重回帰分析モデル、比例ハザード分析モデル等の公知のモデルを用いることができ、緑内障の罹患可能性の有無といった二値の目的変数を扱う観点から、好ましくはロジスティック回帰モデルを用いることができる。ここで、本発明において、「罹患確率」とは、生体試料の採取時に被験対象が緑内障に罹患している確率のことを意味する。
【0060】
工程(ii)は、コンピュータとソフトウェア(コンピュータプログラム)を用いて実施することができる。ここで、コンピュータプログラムは、工程(ii)をコンピュータに実行させるためのプログラム命令を備えており、例えば、汎用プログラミング言語(例えば、python、R)を使用して作成することができ、必要に応じて数学計算ライブラリ(例えば、NumPy)、科学計算ライブラリ(例えば、SciPy)、機械学習ライブラリ(例えば、scikit-learn)、統計解析ライブラリ(例えば、statsmodel)等を組み合わせて使用することにより作成することもできる。上記のように、本発明の判定方法において、工程(ii)はコンピュータプログラムを用いて実施することができるが、市販の統計解析ソフトウェア(例えば、SPSS、SAS)を用いて実施することもできる。
【0061】
本発明の判定方法において、多変量解析モデルとしてロジスティック回帰モデルを用いる場合、下式(I)に示すロジスティック回帰モデルに、説明変数として本発明のタンパク質または本発明のタンパク質と臨床情報の組合せを適用するとともに、症例対照研究によってあらかじめ求めた各説明変数に対応する回帰係数を適用することにより緑内障の罹患可能性を判定することができる。
【0062】
【数1】
p:緑内障に罹患している確率(罹患確率)
β
0:切片
β
1、β
2、・・・:各説明変数に対する回帰係数
x
1、x
2・・・:説明変数
【0063】
例えば、後記実施例で示すように、生体試料(血漿)中の本発明のタンパク質の濃度と臨床情報の関数であるロジスティック回帰モデルによれば、ROC曲線のAUCが0.8を超え、高い精度で緑内障の罹患可能性を判定することができる。
【0064】
本発明の判定方法では、工程(ii)(あるいは工程(i))に先立って、多変量解析法により緑内障の罹患可能性を判定するための多変量解析モデルを構築することができる。多変量解析法としては、例えば、ロジスティック回帰分析法、判別分析法、重回帰分析法、比例ハザード分析法等の公知の方法を用いることができる。多変量解析法に適用する説明変数はステップワイズ法を用いて選択することもできる。多変量解析法としてロジスティック回帰分析法を用いる場合は、式(I)の説明変数として本発明のタンパク質(好ましくは、本発明のタンパク質および臨床情報)を適用することにより、緑内障の診断もしくは検出、または緑内障の罹患可能性を判定するための各説明変数に対応する回帰係数を求めることができる。そして、工程(ii)では、このようにして求めた回帰係数を備える式(I)に被験対象のデータを適用することにより、緑内障の罹患可能性を判定することができる。
【0065】
本発明の判定方法は、(iii)工程(ii)において求めた罹患確率に基づいて緑内障の罹患可能性を評価する工程をさらに含むことができる。緑内障の罹患可能性の評価は、例えば、罹患確率がある閾値以上である場合に、該被験対象は緑内障に罹患している可能性がある(罹患可能性あり)と決定することができ、罹患確率が該閾値未満である場合は、該被験対象は緑内障に罹患していない可能性がある(罹患可能性なし)と決定することができる。閾値は任意に設定することもできるが、例えば0.5、0.6、0.7、0.8とすることができる。また、閾値は、事前に構築されたロジスティック回帰モデルの感度または特異度に基づいて、あるいは、ROC曲線に基づいて設定することができる。ROC曲線に基づいて設定する場合、ROC曲線を含むグラフの左上の点からの距離が最小となるROC曲線上の点に対応する罹患確率を閾値とし、または、「(感度+特異度-1)の最大値」として定義されるYouden’s Indexを用いて罹患確率の閾値を求めることができる。測定値のばらつきの影響を排除する目的でROC曲線を作成する際に適切な近似を行い、または、これらの方法で求めた閾値を感度や特異度の観点から調整してもよい。
【0066】
本発明の判定方法において、工程(iii)では、前記罹患確率をあらかじめ定めた閾値と比較することにより緑内障の罹患可能性を評価することができる。緑内障の罹患可能性の評価は、例えば、罹患確率がある閾値以上の場合に、該被験対象は緑内障に罹患している可能性がある(罹患可能性あり)と評価することができ、罹患確率が該閾値未満の場合に、該被験対象は緑内障に罹患していない可能性がある(罹患可能性なし)と評価することができる。
【0067】
本発明の判定方法は、上記に加えて、本発明の検出方法の記載に従って実施することができる。
【0068】
本発明の判定方法によれば、被験対象の緑内障の罹患可能性を判定することができる。したがって、本発明の判定方法は、緑内障の診断に補助的に用いることができ、被験対象が緑内障に罹患しているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師が行うことができる。
【0069】
本発明の判定方法によれば、被験対象から採取された生体試料に係るデータに基づいて統計学的に緑内障の罹患可能性を判定することができる。すなわち、本発明の判定方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確に緑内障の罹患可能性を判定できる点で有利である。本発明の判定方法は、健康診断等において活用できるため、被験対象の緑内障の罹患の早期発見および早期治療の開始への貢献が期待できる点で有用性が高い。本発明の判定方法はまた、健康診断等において広く利用することができるため、緑内障患者のスクリーニングに資する点でも有用性が高い。
【0070】
<<コンピュータプログラム>>
本発明の第三の側面によれば、本発明の判定方法の工程(ii)をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが提供される。すなわち、本発明のコンピュータプログラムは、被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを、必要に応じてさらに被験対象の臨床情報とともに、説明変数として多変量解析モデルに適用することにより、緑内障の罹患確率を求める処理をコンピュータ(具体的にはプロセッサ)に実行させるプログラム命令を備えることを特徴とする。本発明のコンピュータプログラムは、上記に加えて、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0071】
<<罹患可能性の判定システム>>
本発明の第四の側面によれば、緑内障の罹患可能性の判定システムが提供される。本発明の判定システムは、プロセッサと前記プロセッサの制御下にあるメモリとを備えたコンピュータを含んでなり、前記メモリは本発明のコンピュータプログラムを備えることを特徴とする。本発明の判定システムは、本発明の判定方法に用いることができる。
【0072】
本発明の判定システムにおいてプロセッサは、コンピュータプログラムの命令を解釈して指示を出す制御部と、コンピュータプログラムの命令に従って演算を実行する演算部とを少なくとも備えてもよい。本発明の判定システムにおいてプロセッサは典型的にはCPU(中央処理装置)である。本発明の判定システムはまた、入力部と出力部とを備えていてもよい。本発明の判定システムによる処理手順の例を示すと以下の通りである。すなわち、入力部において被験対象の生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータ、ならびに、必要に応じてさらに臨床情報に関するデータが入力され、該データがメモリに保存された後、演算部で多変量解析モデルに適用されて罹患確率の計算が実行され、計算結果はメモリに保存され、出力部から表示または出力される。予め作成した多変量解析モデルは複数をメモリに保存しておいてもよく、判定用途に適したモデルを演算部に呼び出して計算を実行することができる。本発明の判定システムではまた、プロセッサと接続したネットワークインターフェースを備えていてもよく、ネットワークインターフェースを介して本発明の判定システムを他のコンピュータやインターネットと接続させることができる。
【0073】
本発明の判定システムは、本発明の判定方法の工程(i)を実施する装置、すなわち、生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータを取得する装置(データ取得装置)と組み合わせて使用することもできる。上記のデータ取得装置は、生体試料中の自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度を測定する機能を備えた装置であればよい。データ取得装置により測定され、取得された自己抗体および/またはサイトカインの量または濃度に関するデータは、本発明のシステムに入力部を介して自動的に入力されるように構成することができる。
【0074】
本発明の判定システムとデータ取得装置は、データ取得装置が判定システムの制御下で作動するように接続された一体型のシステムとして構成してもよく、あるいはそれぞれ独立したシステムと装置とすることもできる。本発明の判定システムとデータ取得装置が一体型のシステムとして提供される場合には、データ取得装置で取得されたデータが本発明の判定システムの制御下で本発明の判定システムの入力部に入力されるように構成することができる。本発明の判定システムとデータ取得装置が独立したシステムと装置として提供される場合には、データ取得装置で取得されたデータはデータ取得装置から有線通信、無線通信またはネットワークを経由して、本発明のシステムに入力されるように構成することができる。この場合、データ取得装置で取得されたデータは一旦ネットワーク上のデータサーバーに保存し、本発明の判定システムが該サーバーにアクセスして入力部からデータを取り込んでもよい。同様に、臨床情報についても、該臨床情報が保存されたデータサーバー(例えば、電子カルテシステム)に本発明の判定システムがアクセスして入力部からデータを取り込んでもよい。ネットワーク上のデータサーバーからのデータの取得は、本発明の判定システムが必要に応じてデータサーバーにアクセスし、自動的にデータが入力されるように構成することもできる。なお、本発明においてネットワークとはインターネットおよびイントラネットを含む意味で用いられる。
【0075】
本発明の判定システムにより得られた判定結果は、ネットワークを介して出力することもでき、例えば、電子カルテシステム等と接続することにより緑内障の診断に補助的に用いることができる。
【0076】
本発明の判定システムは、上記に加えて、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0077】
<<診断マーカー>>
本発明の第五の側面によれば、本発明のタンパク質を含んでなる、緑内障の診断または検出に用いるためのマーカーと、緑内障の診断または検出用マーカーとしての、本発明のタンパク質の使用が提供される。本発明において、診断マーカーおよび検出マーカーは、その存在および量が緑内障の罹患の有無の診断の指標となる物質をいい、緑内障の診断や検出等のためのマーカーとして用いることができるものである。すなわち、本発明のマーカーによれば、本発明のタンパク質を緑内障の診断または検出用のマーカーとして使用することができる。
【0078】
本発明のマーカーは、緑内障の診断もしくは検出、または緑内障の罹患可能性の判定に用いることができる。例えば、本発明のマーカーを使用して取得された本発明のタンパク質に関するデータと、臨床情報に関するデータとを組み合わせて、緑内障の診断もしくは検出、または緑内障の罹患可能性の判定を実施することができる。
【0079】
本発明のマーカーは、上記に加えて、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【0080】
<<診断キット>>
本発明の第六の側面によれば、生体試料における本発明のタンパク質の量または濃度の定量手段を含んでなる、緑内障の診断または検出に用いるためのキットが提供される。本発明のキットは、典型的には、本発明の検出方法に従ってなされる、緑内障の診断または検出用のキットである。本発明のタンパク質の量または濃度の定量は、本発明の検出方法に記載の本発明のタンパク質の量または濃度の測定方法に従って実施することができる。
【0081】
本発明のキットは、緑内障の診断もしくは検出、または緑内障の罹患可能性の判定に用いることもできる。例えば、本発明のマーカーを搭載したチップを含んでなるキットを使用して取得された本発明のタンパク質に関するデータと、臨床情報に関するデータを組み合わせて、緑内障の診断もしくは検出、または緑内障の罹患可能性の判定を実施することができる。
【0082】
本発明のキットは、上記に加えて、本発明の検出方法および判定方法の記載に従って実施することができる。
【実施例0083】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0084】
例1:緑内障マーカーの検討およびロジスティック回帰モデルの構築(1)
例1では、白内障患者群(対照群)と緑内障患者群(緑内障群)から採取した血液検体を使用して、緑内障を診断する上で指標となる自己抗体に関連する因子について検討するとともに、緑内障の罹患可能性を判定するためのロジスティック回帰モデルの構築を試みた。
【0085】
(1)方法
ア 血液検体
東北大学病院を受診している白内障患者群(対照群:44名)と緑内障患者群(緑内障群:131名)から採取した血液検体を使用した。対照群の白内障患者は緑内障の所見がないことを確認した。また、各患者群について、血液検体採取時にインフォームドコンセントを行った上で表1に示す臨床情報を得た。
【0086】
【0087】
イ カスタムアレイ
血液検体の血漿中に含まれる自己抗体について、220種の抗原を搭載したカスタムアレイを作製し、緑内障の指標となる因子の候補を抽出するためにカスタムアレイを実施した。検出された自己抗体の定量は、下式(II)によるインデックス値で評価した。
【0088】
【数2】
Sx :各抗原の蛍光シグナル
Snc :陰性対照の蛍光シグナル平均値
*
Spc :陽性対照の蛍光シグナル平均値
**
*陰性対照は抗原を搭載していない溶液のみのMockスポットとした。
**陽性対照は自己抗体検出用の蛍光標識抗ヒトIgG抗体が直接反応するIgGとした(1/1希釈)。
【0089】
ウ 統計学的解析
上記アおよびイで得られたデータ(臨床情報およびインデックス値)に基づいて、対照群と緑内障群との判別を目的として統計学的解析を行った。解析方法には下式(I)に示すロジスティック回帰モデルを用いた(使用プログラム:SAS)。解析1および2は以下の手順で実施した。
【0090】
【数3】
p:緑内障に罹患している確率(罹患確率)
β
0:切片
β
1、β
2、・・・:各説明変数に対する回帰係数
x
1、x
2・・・:説明変数
【0091】
(i) 解析1
解析1では、ステップワイズ法により説明変数の選択を行い、表2に示す説明変数を使用してロジスティック回帰分析を行った。そして、その結果に基づいてROC曲線を作成しAUCを算出するとともに、Youden’s Index(「感度+特異度-1」の最大値)を用いて罹患確率の閾値を求めた。
【0092】
(ii) 解析2
解析2では、説明変数の選択を行わずに、表3に示す説明変数を使用してロジスティック回帰分析を行った。そして、その結果に基づいてROC曲線を作成しAUCを算出するとともに、Youden’s Index((感度+特異度-1)の最大値)を用いて罹患確率の閾値を求めた。
【0093】
(2)結果
結果は、
図1、
図2および表2~4に示す通りであった。カスタムアレイの結果、6種類の自己抗体を緑内障の指標となる因子として抽出した。
図1では、カスタムアレイによる定量の結果、緑内障群において4種類のタンパク質を抗原とする自己抗体の量(インデックス値)が対照群と比較して増加していることが確認された(A:VMAC、B:SUN1、C:SOX2、D:NEXN、E:ETNK1、F:KLHL7)。また、
図2および表2~4の結果から、解析1および2のいずれにおいてもAUCが0.80を超えていることが確認された。これらの結果から、緑内障患者を識別する上でこれらの説明変数に係る因子が有用であることが示された。また、これらの説明変数を用いたロジスティック回帰モデルにより緑内障の疾患可能性を高い精度で判定し得ることが示された。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
例2:緑内障マーカーの検討およびロジスティック回帰モデルの構築(2)
例2では、白内障患者群(対照群)と緑内障患者群(緑内障群)から採取した血液検体を使用して、緑内障を診断する上で指標となるサイトカインに関連する因子について検討するとともに、緑内障の罹患可能性を判定するためのロジスティック回帰モデルの構築を試みた。
【0098】
(1)方法
ア 血液検体
東北大学病院を受診している白内障患者群(対照群:158名)と緑内障患者群(緑内障群:362名)から採取した血液検体を使用した。対照群の白内障患者は緑内障の所見がないことを確認した。また、各患者群について、血液検体採取時にインフォームドコンセントを行った上で上記表1に示す臨床情報を得た。
【0099】
イ タンパク質の測定方法
血液検体の血漿中のタンパク質15種について、表5に示す方法により測定した。
【0100】
【0101】
ウ 統計学的解析
上記アおよびイで得られたデータ(臨床情報およびタンパク質測定値)に基づいて、例1(1)ウの記載と同様に、対照群と緑内障群との判別を目的として統計学的解析を行った。解析3~6は以下の手順で実施した。
【0102】
(i) 解析3
解析3では、ステップワイズ法により説明変数の選択を行い、表6に示す説明変数を使用してロジスティック回帰分析を行った。そして、その結果に基づいてROC曲線を作成しAUCを算出するとともに、Youden’s Index(「感度+特異度-1」の最大値)を用いて罹患確率の閾値を求めた。
【0103】
(ii) 解析4~6
解析4~6では、説明変数の選択を行わずに、表7~9にそれぞれ示す説明変数を使用してロジスティック回帰分析を行った。そして、その結果に基づいてROC曲線を作成しAUCを算出するとともに、Youden’s Index(「感度+特異度-1」の最大値)を用いて罹患確率の閾値を求めた。
【0104】
(2)結果
結果は、
図3および表6~10に示す通りであった。解析3~6のいずれにおいてもAUCが0.80を超えていることが確認された。これらの結果から、緑内障患者を識別する上でこれらの説明変数に係る因子が有用であることが示された。また、これらの説明変数を用いたロジスティック回帰モデルにより緑内障の疾患可能性を高い精度で判定し得ることが示された。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】