(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129313
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】送液デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
A61M1/00 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026909
(22)【出願日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2022033370
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】横田 知明
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA20
4C077HH06
4C077PP12
(57)【要約】
【課題】管腔臓器の壁と係止部の間に隙間が生じにくい送液デバイスを提供する。
【解決手段】管腔臓器2を連通し、一方側から管腔臓器2内に位置する他方側に体液を流す送液デバイス1は、一方側に体液の流入部15を有し、径方向に拡縮自在な筒状の本体部10と、本体部10の外周に設けられ、本体部10が貫通した管腔臓器2の壁2aに係止される第1係止部20と、第1係止部20よりも一方側の位置で本体部10の外周に設けられ、第1係止部20とで壁2aを挟みこんで本体部10を軸方向に位置決めする第2係止部30と、本体部10が径方向に拡張した状態で、本体部10と協働して第1係止部20と第2係止部30との軸方向長さを変化させる調整部40と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔臓器を連通し、一方側から前記管腔臓器内に位置する他方側に体液を流す送液デバイスであって、
一方側に前記体液の流入部を有し、径方向に拡縮自在な筒状の本体部と、
前記本体部の外周に設けられ、前記本体部が貫通した前記管腔臓器の壁に係止される第1係止部と、
前記第1係止部よりも一方側の位置で前記本体部の外周に設けられ、前記第1係止部とで前記壁を挟みこんで前記本体部を軸方向に位置決めする第2係止部と、
前記本体部が前記径方向に拡張した状態で、前記本体部と協働して前記第1係止部と前記第2係止部との軸方向長さを変化させる調整部と、を備える
送液デバイス。
【請求項2】
前記調整部は、前記第1係止部と前記第2係止部の間で、軸方向長さを短縮する方向に前記本体部を付勢して前記第1係止部と前記第2係止部の間隔を近づける
請求項1に記載の送液デバイス。
【請求項3】
前記調整部は、前記本体部の軸方向に延在して取り付けられるひも状の弾性体である
請求項2に記載の送液デバイス。
【請求項4】
前記本体部は、径方向に自己拡張可能な骨格部をさらに有し、
前記調整部は、前記骨格部に編み込まれて前記本体部に取り付けられる
請求項3に記載の送液デバイス。
【請求項5】
前記本体部は、径方向に自己拡張可能な骨格部をさらに有し、
前記調整部は、前記骨格部に取り付けられ、軸方向に伸縮可能な筒状の膜体で構成される
請求項2に記載の送液デバイス。
【請求項6】
前記調整部は、らせん状に巻回されて軸方向へのばね作用を有する骨格部で構成される
請求項2に記載の送液デバイス。
【請求項7】
前記第1係止部は、径方向に延び、先端が他方側に向けて突出する形状に形成され、
前記第2係止部は、径方向に延び、先端が一方側に向けて突出する形状に形成される
請求項1に記載の送液デバイス。
【請求項8】
一方側が腹腔内に留置され、他方側が腹腔臓器内に留置され、
前記腹腔内の体液を前記腹腔臓器に還流させる請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の送液デバイス。
【請求項9】
2つの管腔臓器を連通して留置され、一方側の第1の管腔臓器から他方側の第2の管腔臓器に前記体液を流す請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の送液デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送液デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食道、胃、十二指腸、大腸、膵臓、胆道、胆嚢等の腫瘍、周囲のリンパ節、血管等の検査や治療を、超音波内視鏡(EUS:Endoscopic Ultrasonography)を用いて経口的に行う手技が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、超音波内視鏡下で行われるドレナージ術に適用されるステントとして、逆流を防止して管腔臓器に体液を一方向に流すことができる構成が開示されている。特許文献1のステントは、管腔臓器の内壁を貫通して管腔臓器に留置される本体部と、本体部における体液の逆流を防止する弁部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2021/044837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステントが留置される管腔臓器の壁の厚さには個人差がある。そのため、壁の厚さの薄い管腔臓器にステントを留置する場合、ステントの係止部と管腔臓器の壁の間に隙間が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、管腔臓器の壁と係止部の間に隙間が生じにくい送液デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、管腔臓器を連通し、一方側から管腔臓器内に位置する他方側に体液を流す送液デバイスである。送液デバイスは、一方側に体液の流入部を有し、径方向に拡縮自在な筒状の本体部と、本体部の外周に設けられ、本体部が貫通した管腔臓器の壁に係止される第1係止部と、第1係止部よりも一方側の位置で本体部の外周に設けられ、第1係止部とで壁を挟みこんで本体部を軸方向に位置決めする第2係止部と、本体部が径方向に拡張した状態で、本体部と協働して第1係止部と第2係止部との軸方向長さを変化させる調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、管腔臓器の壁と係止部の間に隙間が生じにくい送液デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の送液デバイスの構成例を示す図である。
【
図2】送液デバイスの留置状態の一例を示す概略図である。
【
図3】留置の際の送液デバイスの変位例を示す図である。
【
図4】送液デバイスの他方側の弁部を示す図である。
【
図5】第1実施形態の調整部の構成例を示す図である。
【
図7】第2実施形態の調整部の構成例を示す図である。
【
図8】第3実施形態の送液デバイスの構成例を示す図である。
【
図9】第3実施形態の調整部の変形例を示す図である。
【
図10】(a)は送液デバイスの留置状態の別例を示す概略図であり、(b)は留置状態の別例における送液デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る送液デバイスの構成例について説明する。本実施形態では、送液デバイスの一例として、腹腔内に貯留された体液を腹腔臓器に還流する送液デバイスについて説明する。
【0011】
ここで、図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。図面において、送液デバイスの軸方向Axを必要に応じて矢印で示す。また、軸方向Axと略直交する方向を径方向と定義する。なお、必要に応じて、図面において送液デバイスの一方側を符号Bで示し、他方側を符号Fで示す。
【0012】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態の送液デバイス1の構成例を示す図である。
図2は送液デバイス1の留置状態の一例を示す概略図である。
図3は、留置の際の送液デバイス1の変位例を示す図である。
図4は、送液デバイス1の他方側の弁部を示す図である。
図5は、第1実施形態の調整部の構成例を示す図である。
図6は、送液デバイス1の横断面(軸方向と直交する平面での断面)を示す図である。
【0013】
送液デバイス1は、全体形状が筒状のデバイスである。送液デバイス1は、腹腔に過剰に貯留され、白血球やタンパク質等の有用な成分を含む腹水(体液)を腹腔臓器2(例えば、胃)に還流させるために使用される。
図2に示すように、送液デバイス1は、腹腔臓器2の壁2aに形成された開口2bに挿入され、腹腔臓器2の壁2aを貫通した状態で留置される。送液デバイス1の一方側は、体液の流れ方向の上流側であり、腹腔3内に配設される。送液デバイス1の他方側は、体液の流れ方向の下流側であり、腹腔臓器2内に配設される。
腹腔臓器2としては、例えば、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化器、消化管が挙げられるが、一例であってこれに限られるものではない。
【0014】
図1に示すように、送液デバイス1は、軸方向Axの一方側と他方側が連通し、径方向に拡縮自在な筒状の本体部10と、第1係止部20および第2係止部30を備える。また、送液デバイス1は、本体部10と協働して第1係止部20と第2係止部30との軸方向長さを変化させる調整部40をさらに備えている。
【0015】
図2の留置状態において、本体部10の内部空間は、一方側から他方側に向けて体液が通過可能な流路を形成する。なお、本体部10の軸方向Axおよび径方向の寸法は、患者の体に必要以上の負荷をかけずに、腹腔3内に貯留された体液を腹腔臓器2内に導くことができる範囲で適宜決定される。
【0016】
本体部10は、筒状の骨格部11と、骨格部11に固定された被膜部12とを有している。また、本体部10は、軸方向Axの他方側に弁部13を有し、軸方向Axの一方側の端部が開口している。また、本体部10の一方側の側面部には、本体部10への体液の流入を補助するために、被膜部12を内外に貫通する複数の流入補助孔15aが設けられている。これにより、本体部10には、一方側の開口15と流入補助孔15aから体液が流入する。なお、流入補助孔15aは本体部10に必ずしも設けられていなくてもよい。
【0017】
骨格部11は、弁部13の先端部分(後述する平坦部13b)を除く本体部10に配設されている。
骨格部11は、拡張状態の形状が記憶されたいわゆる自己拡張型の構成であって、径方向内側に収縮した収縮状態から径方向外側に拡張する拡張状態へと拡縮可能である。送液デバイス1は、図示は省略するが、径方向内側に収縮された状態(不図示)でシースに収納され、超音波内視鏡(EUS:Endoscopic Ultrasonography)を介して患者の体内に導入される。
【0018】
骨格部11は、一例として、金属素線からなる線材をフェンス状に編み込んで構成された格子状の網目構造を有している。骨格部11の線材の材料としては、例えば、Ni-Ti合金、ステンレス鋼、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金等が挙げられる。なお、骨格部11は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
【0019】
骨格部11の材料としては、例えば、Ni-Ti合金、ステンレス鋼、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金等が挙げられる。なお、骨格部11は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
骨格部11を構成する材料としてNi-Ti合金を用いる場合、骨格部11を拡張状態の形状に整えた後、所定の熱処理を施すことにより、拡張状態の形状を骨格部11に記憶させることができる。
【0020】
また、骨格部11の線材にはX線造影性を有する合金材料を用いてもよく、あるいはX線造影性を有する合金材料で形成されたマーカ片(不図示)を線材に適宜取り付けてもよい。これらの場合、送液デバイス1の位置を体外から確認できるようになる。
なお、骨格部11の構成は、上記に限定されるものではない。例えば、上記の各種金属からなる薄肉円筒体をレーザーカットして格子状の骨格部11を形成してもよい。また、骨格部11は、ジグザグに折り返された金属細線を環状に接続したリング状の骨格片を軸方向に間隔をおいて複数配列した構造であってもよい(不図示)。
【0021】
被膜部12は、上述の流路を形成する筒状の可撓性の膜体であって、骨格部11の隙間部分を閉塞するように骨格部11に取り付けられている。本実施形態では、
図5に示すように、被膜部12は、骨格部11の外周側に取り付けられている。骨格部11に対する被膜部12の固定方法は、例えば、ディッピングによる被膜の形成、糸による縫着、接着、溶着、テープ等による貼着等のいずれでもよい。
【0022】
被膜部12は、腹腔臓器2内で腹腔臓器の消化液(例えば胃液)にさらされる環境下で使用されるため、耐酸性および生体適合性を有する材料で形成される。被膜部12の材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂などが挙げられる。超高分子量ポリエチレンは、分子量が100~700万のポリエチレンである。
なお、留置される腹腔臓器2の種類や状態によってpH値が高い場合や、留置期間が比較的短い場合等には、被膜部12は必ずしも耐酸性を有していなくてもよい。
【0023】
送液デバイス1では、本体部10が被膜部12の膜体によって連続的に覆われている。これにより、留置時に腹腔臓器2の壁2aの開口2bに臨み、腹腔臓器2の壁2aを通過する部位(例えば、第1係止部20と第2係止部30の間の領域)と、その下流側で腹腔臓器2内に配設される部位(第1係止部20から弁部13までの領域)は、いずれも耐酸性および生体適合性を有する膜体で流路が一体に構成される。
【0024】
なお、被膜部12は、送液デバイス1の部位ごとに膜体の物性を異ならせてもよい。例えば、腹腔臓器2の壁2aを通過する部位とその下流側の部位(腹腔臓器2内に配設される部位)には、耐酸性を有する膜体を配設し、これら以外の部位には耐酸性を有しない膜体を配設してもよい。
【0025】
弁部13は逆流防止弁であって、一方側から他方側に体液を流すとともに、他方側からの体液の逆流を防止する機能を担う。
弁部13は、本体部10の他方側に設けられ、全体として一方側の流路断面積よりも他方側の流路断面積が小さい先細り形状に形成されている。弁部13は、一方側から他方側に向けて順にテーパー部13aと、弾性変形可能な平坦部13bとを有する。また、平坦部13bの他方側には流出口13cが形成されている。
【0026】
テーパー部13aは、軸方向Axに直交する第1方向D1の寸法がほぼ一定であり、軸方向Axおよび第1方向D1に対して略直交する第2方向D2の寸法が一方側から他方側に向かうにつれて狭くなる形状に形成されている。つまり、テーパー部13aでは、一方側から他方側に向けて流路断面積が徐々に小さくなる。なお、第1方向D1、第2方向D2は
図4に示す。
【0027】
また、弁部13のテーパー部13aには、流出口13cに向けて延びる一対の延出部11a,11aが配置されている。一対の延出部11a,11aは、骨格部11を構成する金属素線の一部からなり、本体部10の管軸を挟んで向かい合うように配置され、本体部10の径方向に対向する2つの山部の高さが、他の山部の高さよりも高くなっている。
【0028】
また、平坦部13bは、第1方向D1及び第2方向D2の寸法が軸方向Axに沿って保持され、第2方向D2では膜体がほぼ密着する扁平状に形成された開閉部位である。また、平坦部13bの他方側には、腹腔臓器2内に体液を流出させる流出口13cが形成されている。
【0029】
平坦部13bは、弁部13の一方側で体液の内圧が所定未満のときには、第1方向D1に直線状に延びるとともに、第2方向D2において膜体が密着する。これにより、弁部13の一方側での体液の内圧が所定未満のときの平坦部13bは、流出口13cが閉塞された状態に維持され、体液を流さない。
【0030】
一方、平坦部13bは、一方側から弁部13に流入する体液の内圧が所定以上になると、膜体が体液の内圧で押し広げられて第2方向D2に離間する。これにより、弁部13の一方側での体液の内圧が所定以上のときの平坦部13bは、流出口13cが開口した状態となり、他方側に体液を流す。
【0031】
以上のように、弁部13は、流出口13cから腹腔臓器2内への体液の排出を許容する一方で、消化液を含む体液が腹腔臓器2から送液デバイス1に逆流することを抑制する。なお、流出口13cは、体液を排出するときに例えば楕円形状や矩形状に開口するが、流出口13cの開口形状は体液が通過可能な形状であれば特に限定されるものではない。
【0032】
弁部13は、生体適合性を有するとともに、弾性変形可能な薄膜材料で形成される。弁部13の材料としては、例えば、シリコン樹脂や、PTFE等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂などが挙げられる。
弁部13をシリコン樹脂で形成する場合、ディッピングにより本体部10の他方側に弁部13を形成できる。また、弁部13は、被膜部12の膜体によって本体部10と一体に形成されてもよい。
【0033】
第1係止部20は、本体部10の外周に環状に設けられ、弁部13から一方側に軸方向に間隔を空けて配置されている。第1係止部20は、留置時に腹腔臓器2の内側に配置され、送液デバイス1に対して一方側へ変位させる外力が作用したときに、腹腔臓器2の壁2aの内面に係止されることで送液デバイス1を腹腔臓器2から抜け止めして腹腔3への逸脱を抑制する機能を担う。
【0034】
第1係止部20は、径方向に延びる骨格部21を有する。骨格部21は、本体部10に固定された一方側から他方側に向かうにつれて金属骨格が外周側に広がって突出する形状をなしている。骨格部21は、例えば、本体部10の骨格部11とは別体で形成され、縫着やかしめ等によって本体部10に取り付けられる。また、骨格部21には、骨格部21の隙間部分を閉塞するように薄膜のカバー22が取り付けられている。
【0035】
また、第2係止部30は、第1係止部20と同様に本体部10の外周に環状に設けられ、第1係止部20から一方側に軸方向に間隔を空けて配置されている。第1係止部20と第2係止部30の間隔は、腹腔臓器2の壁2aの厚さに対応する寸法に決定される。
【0036】
第2係止部30は、留置時に腹腔臓器2の外側に配置され、第1係止部20とともに腹腔臓器2の壁2aを挟み込んで送液デバイス1を軸方向Axに位置決めする。これにより、第2係止部30は、第1係止部20とともに送液デバイス1の位置ずれ(マイグレーション)を抑制する機能を担う。また、第2係止部30は、送液デバイス1に対して他方側へ変位させる外力が作用したときに、腹腔臓器2の壁2aの外面に係止されることで送液デバイス1の腹腔臓器2内への逸脱を抑制する機能も担う。
【0037】
第2係止部30は、径方向に延びる骨格部31を有する。骨格部31は、本体部10に固定された他方側から一方側に向かうにつれて金属骨格が外周側に広がって突出する形状をなしている。したがって、第1係止部20および第2係止部30は、いずれも腹腔臓器2の壁2aに向けて径方向に窄むように対向して配置されている。
骨格部31は、例えば、本体部10の骨格部11とは別体で形成され、縫着やかしめ等によって本体部10に取り付けられる。また、骨格部31には、骨格部31の隙間部分を閉塞するように薄膜のカバー32が取り付けられている。
【0038】
なお、第1係止部20と第2係止部30の骨格部21,31の形状やカバー22,32の有無は適宜変更することができる。例えば、第1係止部20または第2係止部30の一方が、軸方向において逆向きに広がる形状であってもよい。
【0039】
調整部40は、第1係止部20と第2係止部30の間の領域を含むように、本体部10に設けられている。
第1実施形態の調整部40は、例えば、軸方向に伸縮可能なひも状の弾性体41で構成される。弾性体41の材料としては、例えば、ウレタンやゴムなどの生体適合性および伸縮性を有する材料が挙げられる。
【0040】
弾性体41は、本体部10の軸方向に延在して取り付けられている。弾性体41の一方側および他方側は、それぞれ本体部10に保持される。弾性体41は、骨格部11に固定されて保持されてもよく、被膜部12に固定されて保持されてもよい。これにより、弾性体41の軸方向の伸縮力が本体部10に伝達され、弾性体41と本体部10の骨格部11が協働して、径方向に拡張した状態の本体部10を軸方向に伸縮させることができる。
また、弾性体41による軸方向の伸縮量は、例えば、患者による腹腔臓器2の壁2aの厚さの差を吸収できる範囲で決定される。
【0041】
弾性体41は、本体部10において、第1係止部20と第2係止部30の間の領域に配設されるが、第1係止部20と第2係止部30の間の一部に配置されていてもよく、第1係止部20と第2係止部30の間の領域全体に配置されてもよい。また、弾性体41は、一方側から他方側にわたって本体部10の全体に配置されていてもよい。
【0042】
弾性体41は、
図5(a)に示すように、本体部10がシースに装填され、骨格部11が軸方向に伸びた状態では通常よりも伸張している。そして、本体部10がシースから放出されて径方向に拡張すると、
図5(b)に示すように、弾性体41は復元力により軸方向に短縮する。これにより、弾性体41は軸方向長さを短縮する方向に本体部10を付勢し、本体部10が径方向に拡張した状態において、第1係止部20と第2係止部30の間隔を近づける。
【0043】
また、
図6に示すように、弾性体41は、周方向に間隔をあけて本体部10に複数配置されている。弾性体41を周方向の複数箇所で並列に配置することで、調整部40での軸方向長さの調整量が周方向において偏ることを抑制できる。
弾性体41は、周方向において等間隔に複数配置されていてもよい。一例として、
図6(a)では、周方向に等間隔で弾性体41が2箇所配置される例を示し、
図6(b)では、周方向に等間隔で弾性体41が6箇所配置される例を示している。もっとも、各々の弾性体41の配置間隔は必ずしも等間隔でなくてもよい。例えば、
図6(c)に示すように、本体部10の中心軸を基準として回転対称をなすパターンで複数の弾性体41を配置してもよい。
図6(c)では、本体部10の中心軸を基準として180度の位置にそれぞれ3本の弾性体41が1組ずつ配置される例を示している。
【0044】
また、各々の弾性体41は、
図5(a)、(b)に示すように、骨格部11に編み込まれて本体部10に取り付けられている。骨格部11に編み込まれた弾性体41は、骨格部11の近傍に保持される。そのため、内周側に撓んだ弾性体41がステントのデリバリーシステム等に引っ掛かって干渉する可能性を抑制できる。
なお、弾性体41は骨格部11に必ずしも編み込まれていなくてもよく、弾性体41は、例えば接着、溶着、貼着、結び付け等によって本体部10に固定されていてもよい。
【0045】
次に、送液デバイス1を腹腔臓器2に留置する手順を説明する。送液デバイス1を留置する手技は、例えば経内視鏡的に行われるが、一例であってこれに限られるものではない。
まず、送液デバイス1を挿入するために、例えば、超音波内視鏡を用いて切開や穿刺等により腹腔臓器2の壁2aに開口2bが形成される。腹腔臓器2の開口2bの大きさは、送液デバイス1の本体部10の寸法に応じて適宜調整される。
【0046】
そして、上記の開口2bに対して、径方向内側に収縮された送液デバイス1を筒状のシース内に収容したカテーテル(不図示)が挿通される。その後、軸方向Axにおいて送液デバイス1の第1係止部20と第2係止部30の間に腹腔臓器2の壁2aが位置する状態で、カテーテルのシースを引き抜くように移動させる。すると、シースから送液デバイス1が放出される。このとき、送液デバイス1の他方側は腹腔臓器2内に配設され、送液デバイス1の一方側は腹腔3内に配設される。
【0047】
送液デバイス1は、シースから放出されることで径方向外側に自己拡張する。これにより、拡張した本体部10は腹腔臓器2の開口2bを押し広げるようにして壁2aに密着し、腹腔臓器2と送液デバイス1の隙間は塞がれる。なお、送液デバイス1の内側に留置用のカテーテルとは異なる拡張用カテーテル(不図示)を挿通し、拡張用カテーテルの膨張によって送液デバイス1を径方向外側に拡張させてもよい。
【0048】
また、送液デバイス1の第1係止部20は腹腔臓器2の内側で開口よりも径方向に拡がるように拡張し、第2係止部30は腹腔臓器2の外側で開口よりも径方向に拡がるように拡張する。
【0049】
調整部40の弾性体41は、軸方向長さを短縮する方向に本体部10を付勢し、本体部10が径方向に拡張した状態において、第1係止部20と第2係止部30の間隔を近づける。これにより、弾性体41の短縮によって第1係止部20と第2係止部30が腹腔臓器2の壁2aに密着するので、第1係止部20と腹腔臓器2の壁2aの間や、第2係止部30と腹腔臓器2の壁2aの間に隙間が生じることを抑制できる。
また、腹腔臓器2の壁2aは第1係止部20と第2係止部30で内外から挟みこまれた状態となる。そのため、例えば、腹腔臓器2のぜん動や患者の寝返りなどの姿勢変化による外力が送液デバイス1に作用しても、腹腔臓器2に対して送液デバイス1が軸方向Axに位置ずれしにくい。
【0050】
さらに、第1係止部20と腹腔臓器2の壁2aとの間に隙間が形成されにくくなることで、当該隙間に腹腔臓器2の内容物が滞留する可能性が低減する。そのため、滞留した内容物によって送液デバイス1が逸脱する事象や、滞留した内容物が瘻孔付近に付着して腹腔3側への漏れを生じさせる事象はいずれも生じにくくなる。
【0051】
以上のようにして、他方側が腹腔臓器2内に配設され、一方側が腹腔3に配設された状態で送液デバイス1を患者の体内に留置できる。
体液で膨張した腹腔3の内圧よりも腹腔臓器2内の圧力が小さくなる場合、本体部10の一方側の開口15と流入補助孔15aから体液が本体部10内に流入する。本体部10に流入した体液は、弁部13を通過して腹腔臓器2内に排出される。なお、弁部13は逆流防止弁であるので、消化液を含む体液が腹腔3に逆流することは抑制される。
【0052】
以下、第1実施形態の送液デバイス1の効果を述べる。
送液デバイス1は、腹腔臓器2を連通し、一方側から腹腔臓器2内に位置する他方側に体液を流す。送液デバイス1は、腹腔3内に貯留される体液を腹腔臓器2内に流出させるので、腹腔3の体液は腹腔臓器2の消化作用で体内に吸収される過程を経て還流される。したがって、送液デバイス1によれば、腹腔3の体液を血管内に直接還流する場合と比べて心不全や血栓の形成などの重篤な合併症を発症するリスクを大幅に抑制できる。
また、送液デバイス1は、一方側に開口15(体液の流入部)を有し、径方向に拡縮自在な筒状の本体部10と、本体部10の外周に設けられ、本体部10が貫通した腹腔臓器2の壁2aに係止される第1係止部20と、第1係止部20よりも一方側の位置で本体部10の外周に設けられ、第1係止部20とで壁2aを挟みこんで本体部10を軸方向に位置決めする第2係止部30と、本体部10が径方向に拡張した状態で、本体部10と協働して第1係止部20と第2係止部30との軸方向長さを変化させる調整部40と、を備える。
本体部10が径方向に拡張した状態で、調整部40が第1係止部20と第2係止部30との軸方向長さを変化させることで、第1係止部20と第2係止部30を腹腔臓器2の壁2aに密着させることができる。これにより、第1係止部20や第2係止部30と腹腔臓器2の壁2aの間に隙間が生じることを抑制できる。
【0053】
また、調整部40は、第1係止部20と第2係止部30の間で、軸方向長さを短縮する方向に本体部10を付勢して第1係止部20と第2係止部30の間隔を近づける。調整部40によって本体部10を短縮させて第1係止部20および第2係止部30を腹腔臓器2の壁2aに密着させることで、送液デバイス1を留置時に容易に位置決めすることが可能となる。
【0054】
また、調整部40は、本体部10の軸方向に延在して取り付けられるひも状の弾性体41である。ひも状の弾性体41を用いることで、本体部10や骨格部11の構成を大きく変更せずに、送液デバイス1に調整部40を容易に組み込むことができる。
また、本体部10は、径方向に自己拡張可能な骨格部11をさらに有し、調整部40の弾性体41は、骨格部11に編み込まれて本体部10に取り付けられる。弾性体41を骨格部11に編み込むことで弾性体41が骨格部11の近傍に保持されるので、弾性体41がステントのデリバリーシステム等に引っ掛かる可能性を抑制できる。
【0055】
また、第1係止部20は、径方向に延び、先端が他方側に向けて突出する形状に形成され、第2係止部30は、径方向に延び、先端が一方側に向けて突出する形状に形成される。これにより、第1係止部20および第2係止部30で腹腔臓器2の壁2aを挟み込みやすくなり、送液デバイス1の安定性が向上する。また、上記の第1係止部20および第2係止部30の形状によれば、第1係止部20と第2係止部30で瘻孔の周囲をカバーする効果も期待できる。
【0056】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態の調整部40の構成例を示す図である。なお、以下の各実施形態の説明では、第1実施形態の送液デバイス1と同様の構成には共通の符号を付して重複説明を省略する。
【0057】
第2実施形態は、被膜部12によって調整部40を構成する例である。具体的には、第2実施形態では、骨格部11に取り付ける筒状の被膜部12として、軸方向に伸縮可能な膜体42(調整部40)が用いられる。膜体42としては、例えば、伸縮性を有するシリコン樹脂などの膜体や、伸縮性を有する弾性繊維で編まれた布などが挙げられる。
【0058】
膜体42は、
図7(a)に示すように、軸方向に伸びた形状(装填時)の骨格部11に対して通常よりも軸方向に伸張した状態で取り付けられる。また、
図7(b)に示すように、膜体42は、シースから放出されると復元力により軸方向長さを短縮する方向に骨格部11を付勢する。これにより、第2実施形態の調整部40も、軸方向長さを短縮する方向に本体部10を付勢して第1係止部20と第2係止部30の間隔を近づけることができる。
第2実施形態の調整部40によっても、第1実施形態と同様に、第1係止部20や第2係止部30と腹腔臓器2の壁2aの間に隙間が生じることを抑制できる。
【0059】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態の送液デバイス1aの構成例を示す図である。第3実施形態は、骨格部11によって調整部40を構成する例である。具体的には、第3実施形態の送液デバイス1aは、本体部10の骨格部11として、金属細線がジグザグに折り返されながららせん状に巻回される骨格部43(調整部40)を有する。上記の骨格部43は、金属素線からなる線材を編んで形成されてもよく、金属製の薄肉円筒体をレーザーカットすることで形成されてもよい。
【0060】
らせん状に巻回された骨格部43は、軸方向長さを短縮する方向にばね作用を有している。骨格部43は、装填時には軸方向に伸びた形状であり、シースから放出されると復元力により軸方向長さを短縮する方向に本体部10を付勢する。これにより、第3実施形態の調整部40も、軸方向長さを短縮する方向に本体部10を付勢して第1係止部20と第2係止部30の間隔を近づけることができる。
【0061】
また、第3実施形態の調整部40は、らせん状に巻回された骨格部43に、第1実施形態と同様に軸方向に延在する弾性体41を組み込んでもよい。
図9は、第3実施形態の調整部40の変形例を示している。
【0062】
図9(a)に示すように、弾性体41は、軸方向に伸びた形状の骨格部43に対して通常よりも軸方向に伸張した状態で取り付けられる。
図9(b)に示すように、弾性体41は、復元力により軸方向長さを短縮する方向に骨格部43を付勢する。
図9に示すように、骨格部43と弾性体41を組み合わせることで、より確実に第1係止部20と第2係止部30の間隔を近づけることができる。
なお、第3実施形態の調整部40として、軸方向に伸縮可能な膜体42を骨格部43に組み合わせるようにしてもよい(不図示)。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0064】
上記実施形態では、腹腔内に貯留された体液を腹腔臓器に還流する送液デバイス1を説明した。しかし、本発明の送液デバイス1の用途は上記に限定されない。例えば、送液デバイス1は、2つの管腔臓器を連通して留置され、一方側の第1の管腔臓器から他方側の第2の管腔臓器に体液を流すものであってもよい。
【0065】
図10(a)は、送液デバイス1の留置状態の別例を示す概略図であり、
図10(b)は留置状態の別例における送液デバイス1の他方側を部分的に示す図である。
図10では、胆のうドレナージ術に適用される送液デバイス1の例を示している。
【0066】
図10に示すように、送液デバイス1は、一方側の胆のう4と他方側の十二指腸5を連通して留置され、胆のう4に貯留された胆汁を十二指腸5に流す。送液デバイス1の本体部10は胆のう4の壁4aと十二指腸5の壁5aをそれぞれ連通する。開口15および流入補助孔15aを有する本体部10の一方側と、第2係止部30が胆のう4内に配設される。また、弁部13と、第1係止部20が十二指腸5内に配設される。そして、第1係止部20と第2係止部30によって胆のう4の壁4aと十二指腸5の壁5aが挟み込まれた状態で送液デバイス1が留置される。
図10の送液デバイス1によれば、胆のう4の胆汁を十二指腸5に直接流すことができるとともに、十二指腸5から胆のう4への体液の逆流を防ぐことができる。また、送液デバイス1は、調整部40により、第1係止部20と壁5aの間や第2係止部30と壁4aの間に隙間が生じることを抑制できる。
【0067】
また、本体部10において第1係止部20と第2係止部30の間隔を、腹腔臓器2の壁2aの厚さよりも小さくし、調整部40で第1係止部20と第2係止部30の間隔を広げるようにしてもよい。上記の場合、調整部40は、第1係止部20と第2係止部30の間で、軸方向長さを拡げる方向に本体部10を付勢し、第1係止部20と第2係止部30の間隔を離すように移動させる構成となる。
【0068】
また、上記実施形態では、被膜部12として、骨格部11の外周側に取り付けられているものを例示したが、一例であってこれに限られるものではなく、例えば、骨格部11の内周側に被膜部12が取り付けられていてもよい。
また、上記実施形態の本体部10は、弁部13の他に、さらに一方側に逆流防止弁(不図示)を備えていてもよい。
【0069】
また、送液デバイス1における調整部40の弾性体41の配置は上記実施形態に限定されない。例えば、調整部40は、軸方向での配置が異なる複数の弾性体を組合わせた構成であってもよい。
図11は、送液デバイス1の変形例を示す図である。
図11の送液デバイス1は、調整部40として、第1の弾性体41aおよび第2の弾性体41bを有している。
【0070】
第1の弾性体41aは、第1係止部20の一方側端部に一端が固定され、第1係止部20の位置から第2係止部30を跨いで一方側に延びている。また、第2の弾性体41bは、第2係止部30の他方側端部に他端が固定され、第2係止部30の位置から第1係止部20を跨いで他方側に延びている。第1の弾性体41a、第2の弾性体41bは、それぞれ骨格部11に固定されて保持されてもよく、被膜部12に固定されて保持されてもよい。
【0071】
また、第1の弾性体41aと第2の弾性体41bは、周方向に位相をずらして配置されている。
図11の例では、第1の弾性体41aと第2の弾性体41bは、送液デバイス1の周方向に交互に配置されている。
【0072】
図11に示す調整部40では、第1の弾性体41aにより第1係止部20が一方側に牽引され、第2の弾性体41bにより第2係止部20が他方側に牽引される。また、
図11に示す調整部40の構成によれば、第1の弾性体41aは第1係止部20の他方側に延びておらず、第2の弾性体41bは第2係止部30の一方側に延びていない。つまり、
図11の例では、各係止部に対する牽引力を低下させずに、各係止部と軸方向に重なって配置される弾性体の本数を抑制できる。これにより、送液デバイス1をデリバリーシステムに装填するときに各係止部の部位でシース内の充填率を下げることができる。
【0073】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1、1a…送液デバイス、2…腹腔臓器、2a…壁、2b…開口、3…腹腔、4…胆のう、4a…壁、5…十二指腸、5a…壁、10…本体部、11…骨格部、11a…延出部、12…被膜部、13…弁部、13a…テーパー部、13b…平坦部、13c…流出口、15…開口(流入部)、15a…流入補助孔、20…第1係止部、21…骨格部、22…カバー、30…第2係止部、31…骨格部、32…カバー、40…調整部、41…弾性体、42…膜体、43…骨格部