(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012936
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20230119BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230119BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230119BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230119BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230119BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230119BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M4/58
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 A
H01M10/052
H01M10/0569
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116703
(22)【出願日】2021-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】521312444
【氏名又は名称】CPエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】玉浦 裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 三郎
(72)【発明者】
【氏名】脇原 將孝
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ12
5H029CJ14
5H029CJ28
5H029HJ02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA30
5H050CB12
5H050GA12
5H050GA15
5H050GA27
5H050HA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】超長寿命・非発熱性・高エネルギー密度化が可能な非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材の製造方法を提供する。
【解決手段】酸性溶液下でアニリンを電解重合して原料となる酸性型の酸化型ポリアニリンを作製し、硫黄及びLiFePO
4の少なくともいずれか1つの存在下で行って取り込ませる工程と、前記原料を塩基性溶液で洗浄して塩基型とする工程と、前記塩基型とした原料を部分還元又は全還元してセミ還元型ポリアニリンを得る反応を、リチウムイオンを含有するリチウム塩及び非水溶媒もしくは水系溶媒で行うことにより酸化型ポリアニリンに前記リチウム塩を取り込ませ、酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に前記リチウムイオンを配位結合させる工程とにより、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンと前記リチウムイオンを含有する非水電解質二次電池用正極材を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンの-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含む非水電解質二次電池用正極材を製造する方法であって、
酸性溶液下でアニリンを電解重合することにより、原料となる酸化型ポリアニリンとして酸性型の酸化型ポリアニリンを作製し、該酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つの存在下で行い、前記原料となる酸化型ポリアニリンに、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを取り込ませる工程と、
前記原料となる酸化型ポリアニリンを塩基性溶液で洗浄することにより、該原料となる酸化型ポリアニリンを塩基型とする工程と、
前記塩基型とした原料となる酸化型ポリアニリンを部分還元又は全還元することにより、セミ還元型ポリアニリンを得る反応を、リチウムイオンを含有するリチウム塩及び非水溶媒もしくは水系溶媒で行うことにより、酸化型ポリアニリンに前記リチウム塩を取り込ませ、酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に、前記リチウムイオンを配位結合させる工程と
により、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンと前記リチウムイオンを含有する非水電解質二次電池用正極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項2】
前記酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、さらに、導電体を共存させて行い、前記原料となる酸化型ポリアニリンに、前記導電体を取り込ませることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項3】
前記部分還元又は全還元を、フェニルヒドラジン、ヒドロキノン、ビタミンC、NaBH4及びNa2S2O4のうち少なくとも1つを用いて行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項4】
前記部分還元又は全還元を、前処理に脱炭酸還元を用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項5】
前記脱炭酸還元を、ギ酸を用いて真空脱気することにより行うことを特徴とする請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項6】
前記部分還元又は全還元を、OH基を有する有機化合物を用いた電解還元により行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム塩として、六フッ化ホウ酸リチウム(LiBF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)のうち少なくともいずれか1つを用いることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法によって製造された非水電解質二次電池用正極材であって、前記酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に前記リチウム塩を構成するリチウムイオンが配位結合して-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有しており、前記酸化型ポリアニリンが、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを含有するものであることを特徴とする非水電解質二次電池用正極材。
【請求項9】
酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含む、非水電解質二次電池用正極材であって、
前記酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に前記リチウム塩を構成するリチウムイオンが配位結合して-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有しており、
前記酸化型ポリアニリンが、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを含有し、
前記酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量100mol%に対して、前記リチウムイオンの存在量が15mol%以上48mol%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極材。
【請求項10】
前記酸化型ポリアニリンが、さらに、導電体を含有することを特徴とする請求項9に記載の非水電解質二次電池用正極材。
【請求項11】
前記酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量100mol%に対して、前記リチウムイオンの存在量が40mol%以上48mol%以下であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極材。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
【請求項13】
請求項12に記載の非水電解質二次電池用正極と、負極と、セパレーターと、電解質とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項14】
前記負極がリチウム金属であり、前記電解質がイオン液体であることを特徴とする請求項13に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池等の蓄電デバイスの正極において、ポリアニリン等の電気化学的に活性なポリマーを活物質として用いる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、蓄電デバイスのための蓄電デバイス用正極が記載されている。この正極は、ポリアニリンおよびその誘導体の少なくとも一方を含む活物質と、導電助剤と、バインダーとを含有している。活物質中のポリアニリン酸化体の割合は、ポリアニリン活物質全体の45重量%以上とされている。
【0004】
以下、ポリアニリンを中心に導電性高分子について広く技術的背景を説明する。
【0005】
(a) [ポリアニリンの基本の4つの構造式とドーパント・酸化還元との関係]
ポリアニリンは導電性ポリアセチレンと同じく、二重結合と単結合が交互に連なった共役π電子系の構造を有する電子伝導性ポリマーである。安価なアニリンモノマーから化学酸化で合成され、空気中で安定かつ強固なフイルムを形成する。ただし、ポリアニリンにおいて高い導電性を得るためには、対イオン(Dopant,ドーパント)となる塩酸や硫酸などの無機酸やトルエンスルホン酸などの有機酸の添加が必要である。
【0006】
導電性ポリアニリンはエメラルド色(緑)を呈することからエメラルジン塩(Emeraldine salt)と呼ばれる。このエメラルジン塩をアルカリで脱ドープしたものはエメラルジン塩基(Emeraldine base)と呼ばれ、青色の絶縁体である。また、エメラルジン塩及びエメラルジン塩基のそれぞれの還元体は、ロイコ型(Leuco型)の塩及びロイコ型(Leuco型)の塩基であり、無色の絶縁体である。なお、ロイコとは(Leuco)とは無色の意味である。この関係(電子およびプロトンの移動によるポリアニリンの分子内転移)を以下の化学反応式に示した。
【化1】
【0007】
(b) [ポリアニリンのドーピングと有機電荷移動錯体形成反応]
ドーピングは、導電性高分子の最高被占準位から電子を引き抜く反応、又は、最低空準位に電子を与える還元反応である。ドーパントは電子移動反応より分子鎖と錯体を形成し、窒素原子の+チャージ近傍に存在する。導電性高分子のドーピングにより得られた錯体の安定性は、高分子とドーパントのイオン化ポテンシャルと電子親和力の関係に大きく影響される。この点において導電性高分子のドーピングは有機電荷移動錯体の錯形成反応に類似していると言える。
【0008】
導電高分子の導電性は、ドーピングによって生成したソリトンやバイポーラロンあるいはこれによって非局在化したπ電子が電位勾配に沿って移動することにより発現すると考えられている。
【0009】
低温域での導電率の温度依存性から、導電性高分子はキャリアが高分子主鎖方向に沿って移動する擬一次元電導体と考えることができる。擬一次元物質の導電性は、主鎖方向には自由電子的に、主鎖と垂直方向にはホッピング的に起こっている。導電性高分子では高分子鎖は有限であるから分子端が存在し、また構造欠陥も多いと考えられる。このような場所では、ソリトン、ポーラロンはホッピングして隣の鎖に移動し、ホッピングのエネルギーは熱エネルギーによって供給される。
【0010】
(C) [導電性高分子の中でのポリアニリンの有用性]
導電性高分子(伝導性高分子)は、伝導度によって、10-13~10-7S/cmの場合は帯電防止物質、10-6~10-2S/cmの場合は静電気除去物質、1S/cm以上の場合は電磁波遮蔽用物質、またはバッテリー電極、半導体あるいは太陽電池などに適用され得るが、その伝導度の数値を向上させると、さらに様々な用途の開発が可能になる。
【0011】
導電性高分子は、高分子固有の優れた機械的特性及び加工性に加えて、金属の電気的、磁気的、光学的特性を同時に示すことによって、合成化学、電気化学、固体物理学などの学問分野だけでなく、その潜在的な実用性により各種の産業分野で重要な研究対象となっている。
【0012】
現在、知られている重要な伝導性高分子としては、ポリアニリン(Polyaniline)、ポリピロール(Polypyrrole)、ポリチオフェン(Polythiophene)、ポリフェニレンビニレン{Poly(p-phenylene vinylene)}、ポリパラフェニレン{Poly(p-phenylene)}、ポリフェニレンサルファイト(Polyphenylene sulfide:PPS)などがある。
【0013】
この中でも、ポリアニリンは、空気中で安定性が高く、産業化が容易で最も大きな注目を浴びてきており、最近、ディスプレイの革新をもたらした有機電気発光素子(OLED)、電界効果トランジスタ(FET)などの重要な素子の作成に欠かせない役割が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、二次電池等の蓄電デバイスの正極において、ポリアニリン等の電気化学的に活性なポリマーが活物質として用いられてきた。ポリアニリンの非水電解質二次電池用正極材としての利用においては、エメラルジン塩基を酸でプロトネーションする方法が一般的に用いられてきた。この方法によるプロトン型正極材を用いて電池を組み立てるには、正極材にリチウムイオンが存在しないため、別途、リチウムイオンを負極かセパレーターかに含有させる必要がある。例えばセパレーターにリチウム金属を蒸着する方法、負極材のカーボンに金属リチウムを含有させるなどの方法が用いられている。
【0016】
また、プロトン型正極材では、ポリアニリンの酸化状態に対するドーパントの取込量との関係が、重合反応条件や反応後の処理条件によって様々に変化するために、酸化度に合った有効なドープ量を最大に取り込ませることが出来ない。そのために、エネルギー密度を飛躍的に高めるうえで限界があり、容積当たりの蓄電容量が高密度化できないという課題、つまり低ドーパント限界の問題を解決する必要がある。
【0017】
また、プロトン型正極材では負極での水素ガス生成反応をゼロにはできないため、電池内に水素ガスが発生し、電池の性能が発生ガスによって徐々に低下するという問題がある。いずれも、ポリアニリンの窒素原子のプロトネーションそのものが問題であり、この問題を解決するには、プロトネーション電池反応そのものを考え直さなければならない。
【0018】
そもそも、リチウムイオン電池は無機固体の正極材が主体であり、実用化され商用化されているものは無機固体の正極材である。このようなリチウムイオン電池は、正極材が、リチウムイオンとの反応の発熱が大きいものであるために、高電流での充放電では発熱発火を引き起こすために高速充放電ができないという課題がある。
【0019】
さらに、このような前記した充放電では無機固体においてリチウムイオンの侵入・脱離の反応が正極材で繰り返し起こるため、無機固体のひずみによる劣化が無視できないので超長寿命(長寿命≒10年(充放電回数4000回)、超長寿命≒20~30年(充放電回数(1万~1.5万回))にはできないという課題がある。
【0020】
本発明は、リチウムイオン電池の上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、ポリアニリンの-NH-基の窒素原子のプロトンを構造式の理論最大値に取り込ませて低ドーパント限界の問題を解決すると共に、さらにこのプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を用いる新電池反応を考案したもので、この新反応に基づき超長寿命・非発熱性・高エネルギー密度化が可能な非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材の製造方法を提供することを目的とする。また、そのように、超長寿命で非発熱性であり、高エネルギー密度化された非水電解質二次電池用正極材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、
酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させつつ窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換して-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含む非水電解質二次電池用正極材を製造する方法であって、
酸性溶液下でアニリンを電解重合することにより、原料となる酸化型ポリアニリンとして酸性型の酸化型ポリアニリンを作製し、該酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つの存在下で行い、前記原料となる酸化型ポリアニリンに、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを取り込ませる工程と、
前記原料となる酸化型ポリアニリンを塩基性溶液で洗浄することにより、該原料となる酸化型ポリアニリンを塩基型とする工程と、
前記塩基型とした原料となる酸化型ポリアニリンを部分還元又は全還元することにより、セミ還元型ポリアニリンを得る反応を、リチウムイオンを含有するリチウム塩及び非水溶媒もしくは水系溶媒で行うことにより、酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させつつ前記リチウム塩を取り込ませて窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換して、酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に、前記リチウムイオンを配位結合させる工程と
により、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンと前記リチウムイオンを含有する非水電解質二次電池用正極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用正極材の製造方法を提供する。
【0022】
このような工程を経る非水電解質二次電池用正極材の製造方法では、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基としてリチウムイオンを正極材に高密度で導入できる。このようにリチウムイオンを取り込ませることができるので、電池に組み立てるときに別途リチウムイオンを供給するための手段を講じる必要がない。すなわち、従来、ポリアニリンを用いた正極材を電池に組み立てるときに別途リチウムイオンを供給、注入するための手段が必要であったが、本発明によれば、この従来の工程を簡素化できる。また、これにより、超長寿命・非発熱性・高エネルギー密度化が可能な非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材を製造することができる。また、本発明の正極材の製造方法では、アニリンの電解重合において硫黄やLiFePO4の添加物を正極材に取り込ませて複合化した正極材を製造することができる。これらの添加物の成分は、それぞれポリアニリン成分と協働して正極材の性能を調整、向上させることができる。
【0023】
このとき、前記酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、さらに、導電助剤(導電体)を共存させて行い、前記原料となる酸化型ポリアニリンに、前記導電助剤(導電体)を取り込ませることができる。
【0024】
このようにすることにより、アセチレンブラックなどの導電体を正極材に含有させることができる。この添加物の成分は、ポリアニリン成分と協働して正極材の性能を調整、向上させることができる。
【0025】
また、前記部分還元又は全還元を、フェニルヒドラジン、ヒドロキノン、ビタミンC、NaBH4及びNa2S2O4のうち少なくとも1つを用いて行うができる。
【0026】
また、前記部分還元又は全還元を、前処理に脱炭酸還元を用いることもできる。すなわち、まず、部分還元又は全還元を脱炭酸還元により行い、該脱炭酸還元の後にフェニルヒドラジン、ヒドロキノン、ビタミンC(アスコルビン酸)、NaBH4、Na2S2O4やなどを用いて行うこともできる。
【0027】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法においては、前記部分還元又は全還元を、OH基を有する有機化合物を用いた電解還元により行うこともできる。
【0028】
このようなOH基を有する有機化合物を用いた電解還元によっても、還元工程での余分なアニオンを形成しないで還元を行うことができる。
【0029】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法においては、前記部分還元又は全還元を、リチウム塩を含む非水電解質を用いた電解還元により行うこともできる。
【0030】
また、前記リチウム塩として、六フッ化ホウ酸リチウム(LiBF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)のうち少なくともいずれか1つを用いることが好ましい。
【0031】
このようにリチウム塩として六フッ化ホウ酸リチウム(LiBF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)のうち少なくともいずれか1つを用いることで、Li+イオンと、BF6
-、BF4
-若しくはFSIイオンをドープすることができ、正極材として好ましい態様とすることができる。
【0032】
また、本発明は、上記の非水電解質二次電池用正極材の製造方法によって製造された非水電解質二次電池用正極材であって、前記酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に前記リチウム塩を構成するリチウムイオンが配位結合して-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有しており、前記酸化型ポリアニリンが、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを含有するものであることを特徴とする非水電解質二次電池用正極材を提供する。
【0033】
また、本発明は、酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含む、非水電解質二次電池用正極材であって、前記酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に前記リチウム塩を構成するリチウムイオンが配位結合して-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有しており、前記酸化型ポリアニリンが、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを含有し、前記酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量100mol%に対して、前記リチウムイオンの存在量が15mol%以上48mol%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極材を提供する。このリチウムイオンの存在量は、好ましくは40mol%以上である。
【0034】
このような非水電解質二次電池用正極材は、リチウムイオンが正極材に高密度で導入されているので、電池に組み立てるときに別途リチウムイオンを供給するための手段を講じる必要がない。また、リチウムイオンの配位結合形成が電子移動反応によって形成されるので、充放電でのリチウムイオンの正極内での吸脱着が容易に、しかも発熱がほとんどなく進行させることができる。これにより、超長寿命・非発熱性・高エネルギー密度化が可能な非水電解質リチウムイオン二次電池用正極材とすることができる。また、本発明の正極材は、硫黄やLiFePO4の添加物を正極材に含有されている。これらの添加物の成分は、それぞれポリアニリン成分と協働して正極材の性能を調整、向上させることができる。
【0035】
この場合、前記酸化型ポリアニリンが、さらに、導電体を含有することが好ましい。
【0036】
この添加物の成分は、ポリアニリン成分と協働して正極材の性能を調整、向上させることができる。
【0037】
また、本発明は、上記の非水電解質二次電池用正極材を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用正極を提供する。
【0038】
また、本発明は、上記の非水電解質二次電池用正極と、負極と、セパレーターと、電解質とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0039】
この場合、前記負極がリチウム金属であり、前記電解質がイオン液体であることが好ましい。
【0040】
このような正極及び二次電池は、正極材においてリチウムイオンが正極材に高密度で導入されているものとすることができる。また、リチウムイオンの配位結合形成が電子移動反応によって形成されるので、充放電でのリチウムイオンの正極内での吸脱着が容易に、しかも発熱がほとんどなく進行させることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法の各工程を経ることによりリチウムイオンを正極材に高密度で導入できる。この処理によって、窒素原子当たりの理論限界値にリチウムイオンを取り込ませることもできる。また、リチウムイオンの配位結合形成が電子移動反応によって形成されるので、充放電でのリチウムイオンの正極内での吸脱着が容易に、しかも発熱がほとんどなく進行させることができる。これにより、正極材の寿命を長寿命とすることもできる。そのために、非水電解質二次電池の正極エネルギー密度が向上する効果が得られる。また、本発明の正極材の製造方法では、アニリンの電解重合において硫黄やLiFePO4の添加物を正極材に取り込ませて複合化した正極材を製造することができる。これらの添加物の成分は、それぞれポリアニリン成分と協働して正極材の性能を調整、向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、以下の電池反応を新規に考案したものである。ポリアニリン(一例;エメラルジン塩基)の-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基(sp3)(下記化学式(1))を有する正極材を用いて、充電時には-NLi-基(sp3)からの電子移動とリチウムイオンの電解液中へ遊離する反応(下記化学式(2))によってN原子の電荷ゼロのイミン(C-N=C)(sp2)を形成させ(イミン形成過程)(下記化学式(3))、この時に形成される孤立電子対(sp2)にリチウムイオンが再び配位結合してN原子がプラス電荷となり(下記化学式(4))、その後電解液中のリチウム塩のアニオンを電荷クーロン力により吸着させ、見かけの電荷をゼロチャージとする(アニオン吸着過程)(下記化学式(5))。一方負極においては、正極でのイミン形成過程(下記化学式(3))に連動して正極から電解液中に遊離したリチウムイオンと同数のイオンが電解液から吸蔵され、同時にイミン形成過程で正極から引き抜かれて負極に外部回路を通じて負極に流れる電子をリチウムイオンに渡してリチウム原子を形成させる。また放電時には、負極から正極への電子移動によって正極材のN原子のプラス電荷がゼロとなり、同時にN原子に配位結合していたリチウムがLi+となって電解液中へ遊離し、それに伴ってN原子のプラス電荷にクーロン力吸着していたアニオンが電解液中へ遊離する。これによって、正極材は放電前の-NLi-基を有する正極材に戻る。また負極側では電子が正極側に放出されると同時にリチウム原子がリチウムイオンとなって電解液中に遊離し、元の負極に戻る。本発明者らは、これら一連の充放電の電気化学反応によって動作する電池反応を新規に考案し、本発明はこれに基づいたものである。
【0045】
以上の充電時の正極の一連の電子反応の流れを以下に示した。
【化2】
【0046】
このような電池反応を用いれば、電池に組み立てるときに別途リチウムイオンを供給するための手段を講じる必要がない。すなわち、従来、ポリアニリンを用いた正極材を電池に組み立てるときに別途リチウムイオンを供給、注入するための手段が必要であったが、本発明によれば、この従来の工程を簡素化できる。
【0047】
また、このような電池反応ではプロトンが存在しないため、水素ガスがほとんど生成しないので、電池内のガス発生による正極材の劣化がほとんどない。
【0048】
さらに、リチウムイオンがポリアニリン(一例)のN原子の孤立電子対を介した吸脱着反応においては、導電性高分子N原子近傍の分子構造は大きく変化せず、その吸脱着反応の自由エネルギーのエンタルピー変化(ΔH1)は、通常のリチウムイオン電池で用いられる無機固体の正極材(LiMnCo系;一例)でリチウムイオンが侵入・離脱によって無機固体の結晶構造が変化する時のエンタルピー変化(ΔH2)の約1/10に過ぎない(ΔH1/ΔH2≒1/10)。そもそも従来の無機固体の正極材の発熱はこのエンタルピー変化ΔH2が大きいことに起因しており、本発明の正極材による新反応を電池反応とする正極材ではその値が1/10に低くできるので、従来の無機固体の正極材のような発熱はほとんどなくなる。つまり、本発明の正極材による新反応を用いる電池は、発熱発火がなく、安全性が極めて高い。
【0049】
さらに、前記したように本発明の正極材のリチウムイオンの吸脱着では分子の構造変化が小さく、エントロピー変化(ΔS1)そのものが小さい。つまり、本発明の正極材の反応の自由エネルギー=ΔH1-ΔS1Tは無機固体の正極材よりもはるかに小さく、リチウムイオンの正極材での侵入・離脱の化学反応が極めて速い反応速度で進行する。同時に前記したように反応熱はほとんどない。これらの特性は、本発明によって製造した正極材はキャパシタ同様の急速な充放電が可能となる。
【0050】
前記したように本発明の正極材のリチウムイオンの侵入・離脱での反応のエントロピーが小さいが、これは高分子でN原子近傍の有機化合物の構造の分子運動の揺らぎが無機固体よりも大きいために、反応の前後でのエントロピー変化が小さくなることに起因する。つまり、N原子近傍でのリチウムイオンの侵入・脱離に伴う分子全体に及ぼす構造のひずみは無視できるほど小さい。つまり、充放電に伴う構造の安定性の寿命が圧倒的に長く、超長寿命にすることができる。
【0051】
また、前記したキャパシタは、従来技術ではイオンのクーロン力によってプラスとマイナスが近接してコンデンサー的な特性を利用したものであり、化学反応が関与しないために、充電容量が極めて低く、高容量の電力を必要とする急速充放電には適用できないものであるが、本発明の正極材では、キャパシタ的であると同時に、化学反応による吸脱着が関与するので、蓄電容量を大幅に高めることができる。つまり、従来にはない全く新しい電池の概念であり、キャパシタ性能と蓄電性能との両性能を有する新電池である。導電性高分子(conductive polymer)を用いた前記新電池であることから、以下、この新電池をCPバッテリーと言うこととする。
【0052】
前記した本発明による新電池のCPバッテリーの発明の効果をまとめると、(1)別途、リチウムイオンを供給、注入するための手段が不要、(2)正極材内でのガス発生反応がない、(3)発熱発火がなく安全性が極めて高い、(4)キャパシタ同様の急速な充放電が可能、(5)充放電に伴う構造の安定性の寿命が圧倒的に長く、超長寿命にすることができる、(6)キャパシタ的であると同時に、化学反応による吸脱着が関与するので、蓄電容量を大幅に高めることができる。
【0053】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、前記した新規に考案した一連の充放電の電気化学反応によって動作する電池反応の原理に基づき、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含む非水電解質二次電池用正極材を製造する方法であって、酸性溶液下でアニリンを電解重合することにより、原料となる酸化型ポリアニリンとして酸性型の酸化型ポリアニリンを作製し、該酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つの存在下で行い、前記原料となる酸化型ポリアニリンに、前記硫黄及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを取り込ませる工程と、前記原料となる酸化型ポリアニリンを塩基性溶液で洗浄することにより、該原料となる酸化型ポリアニリンを塩基型とする工程と、前記塩基型とした原料となる酸化型ポリアニリンを部分還元又は全還元することにより、セミ還元型ポリアニリンを得る反応を、リチウムイオンを含有するリチウム塩及び非水溶媒もしくは水系溶媒で行うことにより、酸化型ポリアニリンに前記リチウム塩を取り込ませ、酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に、前記リチウムイオンを配位結合させる工程とにより、酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有する酸化型ポリアニリンと前記リチウムイオンを含有する非水電解質二次電池用正極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用正極材の製造方法を見出した。
【0054】
さらに、酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、さらに、アセチレンブラックなどの導電体を共存させて行うこともでき、この場合、原料となる酸化型ポリアニリンに、導電体を取り込ませることができる。
【0055】
上記のような添加物(硫黄、LiFePO4、並びに、アセチレンブラックなどの導電体等)が複合化されている正極材は、添加した正極材成分を正極の電極反応に協働させることができる。本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法においては、アニリンの電解重合においてこれらのような添加物を正極材に取り込ませて複合化した正極材を製造することができる。
【0056】
また、このような非水電解質二次電池用正極材の製造方法により、酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含む、非水電解質二次電池用正極材であって、前記酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に前記リチウム塩を構成するリチウムイオンが配位結合して-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を有しており、前記酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量(100mol%)に対して、前記リチウムイオンの存在量が15mol%以上48mol%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極材を製造することができる。
【0057】
本発明において、上記ポリアニリンとは、アニリンもしくは下記アニリン誘導体を電解重合させて得られるポリマーをいい、ポリアニリン誘導体とは、アニリンの誘導体を電解重合させ、または化学酸化重合させて得られるポリマーをいう。ここに、アニリンの誘導体としては、アニリンの4位以外の位置にアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基等の置換基を少なくとも1つ有するものを例示することができる。好ましい具体例として、例えば、o-メチルアニリン、o-エチルアニリン、o-フェニルアニリン、o-メトキシアニリン、o-エトキシアニリン等のo-置換アニリン、m-メチルアニリン、m-エチルアニリン、m-メトキシアニリン、m-エトキシアニリン、m-フェニルアニリン等のm-置換アニリンをあげることができる。
【0058】
本発明において、酸化型ポリアニリンとは上記ポリアニリンのエメラルジン塩基基本骨格が還元されてロイコ型エメラルジン塩基基本骨格となる間、高分子鎖中のエメラルジン塩骨格成分が減少し、ロイコエメラルジン塩基骨格成分が増大するが、この間の一連の種々の酸化度を有するアニリンポリマーの高分子鎖のことをいう。エメラルジン塩基本骨格も同じ酸化型ポリアニリンであるが、本発明の酸化型ポリアニリンとは区別する。
【0059】
前記の酸化型ポリアニリンは酸化度に応じて-NH-基と-NH=基との高分子鎖中での成分比率が変化し、より還元型のロイコ型エメラルジン塩基骨格成分が増大するほど、-NH-基の数が増大する。本発明の酸化型ポリアニリンの-NH-基とは、酸化度が0~1の間で形成される-NH-基のことを言う。酸化度がゼロ(ロイコ型エメラルジン塩基骨格成分が100%の時)では、-NH-基の数比率は1.0となる。
【0060】
-NH-基を-NLi-基へとプロトンをリチウムイオンに交換するには、上記酸化型ポリアニリンにおいては、ロイコエメラルジン塩基基本骨格に還元した後に非水溶媒系でリチウム塩を非酸化条件下(不活性ガス雰囲気下など)において反応させることが好ましい。
【0061】
このような本発明の方法、すなわち、アニリンの酸性重合反応工程の後に得られる「酸性型(酸化型)ポリアニリン」を、塩基で中和して脱プロトン化し「塩基型(酸化型)ポリアニリン」(エメラルジン塩基)とし、その後、還元反応をリチウム塩非水溶媒もしくは水系溶媒中で行うことにより、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基としてリチウムイオンを正極材に高密度で導入できることを見出した。本処理によって、窒素原子当たりの理論限界値(100%)近くまでリチウムイオンを取り込ませることもできる。また、リチウムイオンの配位結合形成が電子移動反応によって形成されるので、充放電でのリチウムイオンの正極内での吸脱着が容易に、しかも発熱がほとんどなく進行させることができる。
【0062】
以下、図面を参照して本発明についてさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法の一例を示すフロー図である。本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法では、工程S11~S14の各工程を行って、酸化型ポリアニリンとリチウムイオンを含有する非水電解質二次電池用正極材を製造する。
【0063】
[工程S11、アニリンの電解重合]
本発明の非水電解質二次電池用正極材の製造方法では、まず、
図1の工程S11に示したように、酸性溶液下でアニリンを電解重合することにより、原料となる酸化型ポリアニリンとして酸性型の酸化型ポリアニリンを作製する。このとき、この工程S11における酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、硫黄、LiFePO
4の少なくともいずれか1つの存在下に導電体として例えばアセチレンブラックなどの共存もしくは非共存で行うことができる。これにより、原料となる酸化型ポリアニリンに、硫黄、及びLiFePO
4の少なくともいずれか1つを取り込ませ、もしくはアセチレンブラックなどの導電体を同時に取り込ませることができる。このように、原料となる酸化型ポリアニリンに上記の添加物を添加することにより、最終的に製造する非水電解質二次電池用正極材にも上記添加物を添加することができる。これらの添加物の成分は、それぞれポリアニリン成分と協働して正極材の性能を調整、向上させることができる。正極材に硫黄を複合させることにより長寿命で安定、電気伝導度を高くすることができる。また、正極材として一般的なLiFePO
4をポリアニリンに複合化することもできる。また、アセチレンブラックの添加により、正極材の導電性を向上させることができる。
【0064】
この工程S11では、公知の方法により、酸性溶液下でアニリンの電解重合を行うことができる。例えば、硫酸イオンや塩素イオンなどの通常のアニオンを多くドープさせる従来の電解重合法によりポリアニリンフィルム(PAnフィルム)を作製することができる。より具体的には、酸性溶液(硫酸や塩酸等)中でアニリンを電解重合させ、電極上にフィルム状にポリアニリン膜を作製することができる。特に、このアニリンの電解重合を硫酸存在下で行うことが簡便で、良質なポリアニリンを作製できるため好ましい。
【0065】
[工程S12、塩基性溶液による洗浄]
次に、
図1の工程S12に示したように、原料となる酸化型ポリアニリンを塩基性溶液で洗浄することにより、該原料となる酸化型ポリアニリンを塩基型とする。すなわち、この工程S12を経ることにより、塩基型の酸化型ポリアニリンを得ることができる。
【0066】
この工程S12において用いることができる塩基性溶液は特に限定されないが、炭酸ナトリウム溶液(例えば、アンモニア水に炭酸ナトリウムを溶解させた溶液)等の種々の塩基性溶液を用いることができる。この洗浄(リンス)によって硫酸イオン等のアニオンを洗い出すことができる。
【0067】
[工程S13(酸化型ポリアニリンのセミ還元反応選択)]
次に、
図1の工程S13(酸化型ポリアニリンのセミ還元反応選択)に示したように、塩基型とした原料となる酸化型ポリアニリンをセミ還元(部分還元又は全還元)するための適用可能な還元反応を選択する。
【0068】
[工程S14(-NLi-基の生成)]
次に、
図1の工程S14(-NLi-基の生成)に示したように、工程S13(酸化型ポリアニリンのセミ還元反応選択)で選択したセミ還元反応を、リチウムイオンを含有するリチウム塩及び非水溶媒もしくは水系溶媒で進行させて、酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させた酸化型ポリアニリンにリチウム塩を取り込ませて-NLi-基を生成させる。これにより、酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子に、リチウムイオンを配位結合させ、-NH-基の窒素原子のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基としてLi
+イオンを正極材に高密度で導入ることができる。
【0069】
これにより、セミ還元型ポリアニリンを得ることができる。ここで行う還元は部分還元であってもよく、全還元であってもよい。本発明の説明においては、これを「セミ還元」と称する。ここで生成するセミ還元型ポリアニリンは、少なくとも一部がロイコ型のポリアニリン(ロイコエメラルジン)である。
【0070】
この工程S14(-NLi-基の生成)では、セミ還元(部分還元又は全還元)を、フェニルヒドラジン、ヒドロキノン、ビタミンC、NaBH4、Na2S2O4などを用いて行うことが好ましい。
【0071】
この工程S14では、セミ還元(部分還元又は全還元)を、脱炭酸還元による前処理を行うことができる。特に、脱炭酸還元を、ギ酸を用いて真空脱気することにより行うことができる。
【0072】
すなわち、前記還元は、部分還元又は全還元を脱炭酸還元による前処理を行い、該脱炭酸還元の後にフェニルヒドラジン、ヒドロキノン、ビタミンC(アスコルビン酸)、NaBH4、Na2S2O4やなどを用いて還元反応を行うこともできる。
【0073】
また、この工程S14(-NLi-基の生成)では、セミ還元(部分還元又は全還元)を、OH基を有する有機化合物を用いた電解還元により行うことができる。OH基を有する有機化合物としては、例えば、エチレングリコール、メタノール、エタノールを用いることができる。
【0074】
脱炭酸還元反応にアルコール、カルボン酸の電解還元を用いた場合は、α-置換酸のKolbe電解による。アルコールはカルボン酸に酸化、その後脱炭酸反応を起こして進行する。酸イオンが陽極で一電子酸化を受けてアシルオキシラジカルを生成し,これが分解して二酸化炭素とアルキルラジカルとなり,後者がカップリングして生成物を与える。このときの反応式は以下の通りである。
【化3】
【0075】
また、脱炭酸還元反応にエチレングリコールの電解還元を用いた場合、前述のアルコールの場合に比べてきわめて高い酸化効率で電解が進行する。エチレングリコールの酸化において、予想される炭素-炭素結合の切断されていない酸化中間体(グリコールアルデヒド、グリコール酸など)が形成されるがこれらはいずれもきわめて微量である。
【0076】
また、この工程S14(-NLi-基の生成)では、非水溶媒系で行う場合には、リチウム塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化リン酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)のうち少なくともいずれか1つを用いることが好ましい。これにより、正極材にLi+とともにこれらの塩のアニオンを取り込ませることができる。これらのアニオンは前記した本発明の正極材による新反応による電極反応においてN原子がプラス電荷となった時にマイナスイオンとしてN原子にイオン電荷クーロン力により吸着される。PF6
-イオンは正極材に含有させるイオンとして好ましい。
【0077】
工程S14(-NLi-基の生成)で、水溶液を溶媒とする場合には、水酸化リチウム、塩化リチウムなどの酸・塩基から形成されるリチウム塩を蒸留水に溶解した水溶液を用いるのが好ましく、その工程では前記非水溶媒系を用いるよりも製造ラインの運転が容易でかつコスト的メリットがある。
【0078】
[工程S14(-NLi-基の生成)後、乾燥工程と電池組立の前準備]
工程S14(-NLi-基の生成)において水分が生成するかどうかにかかわらず、非水溶媒系での反応後には空気酸化されないようにして、前記したリチウム塩を含む非水溶媒でリンスした後に乾燥工程に移る。また、工程S14(-NLi-基の生成)において水系溶媒を用いた時には、反応後に空気酸化されないようにして、エタノール脱水後に、前記したリチウム塩を含む非水溶媒でリンスした後に乾燥工程に移る。
【0079】
工程S14(-NLi-基の生成)で得られる製品は空気酸化によってエメラルジン塩基へと変化する際には、空気酸化によって遊離したリチウムイオンがアニオンと結合してリチウム塩に変化し、空気中で乾燥すると塩が析出し、微視的には局所的に製品正極電極膜にひずみが生じ劣化する原因となるので、空気酸化を遮断することが好ましい。また、実際の作業手順では、工程S14(-NLi-基の生成)の後、乾燥工程とその後の電池組立をスタートさせるまでは空気を遮断して保管しておくことが好ましい。
【0080】
工程S14で使用する非水溶媒としては、リチウムイオンを含有するリチウム塩を溶解しやすい溶媒を選択することができる。例えば、このリチウム塩としてLiBF4塩を用いる場合、LiBF4塩が溶けやすい非水溶媒、例えば、EC(エチレンカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)などを選択でき、一般的なリチウムイオン電池の1MLiBF4電解液を選択することもできる。また溶媒のpHが反応中において中性付近になるようにHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を共存させておくことが好ましい。また、反応途中に水が形成される反応系の場合には、水を除去することが好ましい。例えばモレキュラーシーブなどを用いる。これにより、-NH-基のプロトンをリチウムイオンに置換して-NLi-基へと変換する反応を促進することが出来、また反応途中で生成したプロトンを反応系外に除去し、反応終了時点に非水溶媒で洗浄することにより電池系内に一切のプロトンを残存させないようにすることができる。上記非水溶媒液は空気中の水分と反応するため、乾燥剤で封印することが好ましい。そのため、ドライルームを使用することが好ましい。
【0081】
[工程S14(-NLi-基の生成)のより詳細な説明]
工程S14(-NLi-基の生成)において、空気と接触させないようにすることが好ましい。この具体的な態様について記述するが、本発明はこれに限定されない。反応容器(例えばフラスコ)にアルカリ洗浄後に得られた酸化型ポリアニリン(エメラルジン塩基)を正極のサイズ(例えば2cm×2cm)にカットして事前に反応容器に入れておく。さらに、モレキュラーシーブ等の乾燥剤も入れておくことができる。さらに、上記リチウム塩を溶解した上記非水溶媒液を反応容器に投入する。水溶液を溶媒とする場合には、水酸化リチウム、塩化リチウムなどの酸・塩基から形成されるリチウム塩を蒸留水に溶解した水溶液を投入する。ナス型フラスコに窒素ガスかアルゴンガスなどの不活性ガスを流通させる。次いで、アスコルビン酸、フェルヒドラジンなどの還元剤を添加し、-NLi-基の生成反応を進行させる。反応の進行状態は、エメラルジン塩基の青色の変化によってモニターし、青色が徐々に薄くなって行き、かなり白色に近くなった時点を終点とする。
【0082】
[本発明の非水電解質二次電池用正極材]
このようなS11~S14を経て製造された非水電解質二次電池用正極材は、ロイコ型エメラルジン塩基で、その窒素原子の一部もしくは理論上半分がリチウムイオンと配位結合している。本発明では、ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量に対して、リチウムイオンの存在量を40mol%以上という高密度とすることができる。
【0083】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極材では、上記のように工程S14(-NLi-基の生成)と工程S14(-NLi-基の生成)後の工程においてリチウム塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を用いることにより、それぞれ、BF6
-、BF4
-、FSI-をアニオンとして含むものとすることができる。また、上記のように工程S11において、硫黄、LiFePO4の少なくともいずれか1つの存在下において、導電体として例えばアセチレンブラックなどの共存もしくは非共存で行うことにより、本発明の非水電解質二次電池用正極材では、硫黄、及びLiFePO4の少なくともいずれか1つを含み、さらにアセチレンブラックなどの導電体を含むか、もしくは含まないかいずれかの複合体とすることができる。
【0084】
[本発明の正極材の充放電機構]
以下に、ポリアニリンの窒素原子上に酸化還元脱吸着するリチウムイオンによる充放電反応機構を示した。この例では、リチウム塩としてLi
+A
-を用いた例を示している。
【化4】
【0085】
本発明の方法で製造したポリアニリンを含む正極は、上記充放電反応機構に示すように、電位(Li/Li+)が2.1V付近にある充電初期においてはエメラルジン塩基のLi型(上記化学反応式の充電時のスタートの構造式(X))と図中に表記しているものは、ポリアニリンの高分子鎖の多くの部分を占めている構造式であり、この構造が正極反応に与かるが、高分子鎖全体として見た場合には、低成分ではあるがエメラルジン塩(図中のY)の構造が存在しており導電性である。充電が開始されると、図中のXから電子が負極に引き抜かれると同時に、リチウムイオンが電解液中に遊離し、それが負極に吸蔵され、次いで正極から移動してきた電子と放電してリチウム(ゼロ価)へと電子化学反応が進む。同電子化学反応が充電時間と共に進行し、前図のXが次々にYに変化し、高分子鎖全体としてはX成分が徐々に減少し、その代わりにY成分が増大することとなり、充電による化学エネルギー生成(蓄電)が進行する。
【0086】
上記の充放電機構は、前記した、酸化型ポリアニリンの-NH-基のプロトンをリチウムイオンに交換した-NLi-基を用いるもので、前記においては、前図のXからYまでの充電過程とYからXまでの放電過程について新しい電池反応機構を述べたものである。改めて上記の充放電機構を用いて新しい電池反応をまとめて式で示すと以下の化学式のようになる。
【化5】
【0087】
上記の充電過程((1)~(3)式)と放電過程((4)と(5)式)とをそれぞれの電極反応式としてまとめたものが充電過程(total)と放電過程(total)であり、式(6)で示されるように充電過程では電解液からリチウム塩が取り込まれ、式(7)で示されるように放電過程では電解液中にリチウム塩が遊離し、本発明の正極材を用いたリチウムイオン電池はいわゆるリザーブ型の蓄電池として動作する。
【0088】
そのため、電解液中のリチウムイオン濃度が充電過程では減少するので、イオン電導度が低下して性能が低下するために、電解液のリチウム塩の量を正極材の5~10倍にすることが好ましい。
【0089】
しかし、本発明の正極材の反応にはプロトネーションが関与しないので、電解液中にプロトンが遊離することはなく、負極での水素発生反応がほとんど進行しない。そのためガス発生による電池反応の阻害がなく、またガス発生による負極の機械的ひずみによる劣化が起こる恐れがなく、超長寿命となる。
【0090】
このように、本発明の正極材を用いた電池では、充放電に伴ってリチウムイオンの配位結合の形成と脱離する反応が進行するのみであり(アニオンの吸脱着を伴う)、その反応のエンタルピー変化は-15Jmol-1ほどである。これに対して、従来のリチウムイオン電池の正極に使用されているLiMnCo系酸化物では、固体の結晶の構造変化を伴いそのエンタルピー変化は-1500kJmol-1程度で本発明による正極の発熱量は従来技術の約1/100程度である。放電反応は以上の逆過程が進行する。
【0091】
以上の反応の特性から次のような電池の新機能が発現する。
(1)リチウムイオン電池の従来技術では急速充放電で発熱が生じるために、それができない。しかし、本発明の正極材は発熱がないので、急速充放電可能となる。現在市販されているリチウムイオン電池が充放電中に発熱や発火の危険性があるが、この課題が解決できる。
(2)発熱はほとんどない(従来のリチウムイオン電池と比較すると全くないとも言える程度である。)。
(3)急速充放電ができ、従来のリチウムイオン電池では不可能であったキャパシタ特性が発現する。また電池本来の機能である一定電気容量を保持することもできる。すなわち、本発明の正極材を用いることにより、これまでにない、キャパシタ性能を有する新型の蓄電池を提供することができる。
【0092】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極材は、ポリアニリンがフレキシビリティの高い高分子重合体であるので、フィルム内にLiBF4がインターカレーションして膨潤によって正極材が損壊することはない。充放電を相当数繰り返しても機能が維持される。従って、超長寿命の電池にすることができる。特に、数千回の充放電で機能は96%維持されているものとすることができる。
【0093】
その他、本発明の方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
a)正極材のエネルギー密度を高くできる。
b)リチウムイオンの配位結合形成が電子移動反応によって形成されるので、充放電でのリチウムイオンの正極内での吸脱着が容易に、しかも発熱がほとんどなく進行させることができる。そのために、高電流密度での急速充放電を行うことが出来る。
【0094】
[非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池]
本発明の非水電解質二次電池用正極材は、正極の成分とすることができ、さらに、その正極は二次電池の構成部材とすることができる。
【0095】
非水電解質二次電池用正極は、本発明の正極材を用いれば、その他の構成要素は特に限定されない。本発明の正極材は電解重合でポリアニリンを形成するため、形成するために用いた電極(金属箔等)上にポリアニリンフィルムを形成することができる。そのため、このポリアニリン形成用電極と、各工程の処理を経たポリアニリンフィルムをそのまま正極とすることもできる。
【0096】
本発明の非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極と、負極と、セパレーターと、電解質とを含むものとすることができる。負極、セパレーター、電解質としては公知のものを用いることができる。本発明の非水電解質二次電池の場合、負極がリチウム金属であり、電解質がイオン液体であることが好ましい。イオン液体としては特に限定されないが、例えば、直鎖エーテルG4(テトラグライムジメチルエーテル)に支持塩としてLIFSA(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)などを加えたイオン液体が挙げられる。
【0097】
[本発明の着想の原点]
本発明は、以下のような知見に基づいてなされた。
【0098】
硫酸酸性溶液で電解重合反応によって得られたポリアニリンには、プロトンがカチオンとして、また硫酸イオンがアニオンとしてドーピングされているが、これらはアルカリ洗浄によって除去されるが、アルカリのアニオンは洗浄によって完全に除去することができないために、電池としてのエネルギー密度が30-40%と低くなっていることを見出し、これを改善するために、アスコルビン酸により還元反応を進行させてロイコ型エメラルジン成分を増大させたところ、電池としてのエネルギー密度を60%程度にまで高めることが出来た。
【0099】
しかし、この還元方法では酸化型のエメラルジン塩基のイミン基がプロトネーションを伴って還元反応が進行し、ロイコ型エメラルジン塩基の窒素原子が-NH-基となるために、電池の正極として用いた時には充電時にプロトンが脱離し、電解液中にプロトンが遊離し、電解液中にプロトンが溶存し負極での水素ガス発生による負極の劣化が起こり、超長寿命にすることができない。
【0100】
この課題を解決するために、酸化型ロイコエメラルジン塩基のイミン基の還元反応をリチウムイオン存在下に進行させることが考えられるが、イミン基が還元されて-NH-となるにはpKa=3.5以下にする必要があることから、また、プロトンもリチウムイオンもNの不対電子に対しては固い酸として同等の反応性が期待されるところから、リチウムイオンをこのpKa以上の濃度、pKa=2.0に相当する10mM以上のリチウムイオン濃度で還元反応を進行させる方法を適用した。
【0101】
実際には、アルカリ洗浄処理の後に得られる酸化型のエメラルジン塩基に対して、アスコルビン酸、Na2S2O4を還元剤として0.1MLiOH(水酸化リチウム)をpH=1.2~6.0(好ましくは3.6~5.5)において室温で反応させ、蒸留水で洗浄後、40℃で空気乾燥し、酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値の-NH-基数に相当するリチウムイオン数が導入された酸化型エメラルジン塩基(Li型)を得ることが出来た。
【0102】
また、リチウムイオンをpKa=2.0に相当する10mM以上にリチウム塩を含有する非水溶媒系で空気酸化されない条件下において、酸化型ロイコエメラルジン塩のイミン基の還元反応に電極反応を適用できることも見出した。
【0103】
これらの一連の発想とその実証試験に基づき、酸化型ポリアニリンの構造式の理論最大値に-NH-基を導入させる反応を進行させると同時にリチウム塩共存下において脱プロトン化を伴うリチウムイオン化を進行させることが確認できたことから、リチウムイオンとアニオンとを同時に取り込ませるための具体的な製造工程を検討し、本発明の工程S11~S14による正極材の製造方法に想到した。
【0104】
本発明の工程S11~S14による正極材の製造方法であれば、以下の効果が得られる。工程S11~工程S12(硫酸等の酸性溶液中での電解重合工程、アルカリ洗浄工程)で残存する不要なアニオン(硫酸イオン等の、アルカリ洗浄液の炭酸イオン等)の残存をゼロとすることができる。これは、「エメラルジン塩基」のロイコ型へ還元されるためドーパントはゼロとなるためである。
【0105】
また、S13の還元工程の選択と、工程S14におけるその選択の適用がない場合、S11~S12の電解重合、洗浄工程のみでは、洗浄効果がその都度変動するために、イミン窒素原子の理論上50%のすべてをプロトン化してその脱離反応と共にリチウムイオンを配位結合させることはできないが、本発明では、これを実現できると共に製品の品質の一律性を確保できる(高歩留まり、高度品質管理)。
【0106】
以下、リチウムイオンがイミン窒素原子と配位結合を形成できる化学的考察を記載する。
【0107】
[リチウムイオンと窒素原子との配位について]
炭素、窒素、酸素、イオウなどの元素とリチウムとの結合は分極しており、電気陰性度が低いリチウムに直結する原子はアニオン性が高くなっている。したがって優れた求核種となる。ルイス酸性に富むリチウム原子に電子を送り込んで安定化するルイス塩基性の配位子は、リチウム-異種原子結合の分極を増大させ、アニオン性を増強する。一方、1sに2個、2sに1個の単純な電子構造を持つリチウム原子は様々な配位形を採ることが可能である。
【0108】
イミン窒素原子(Imine nitrogen atom)は、プロトン酸水溶液中においては、全体または部分的にプロトンが加えられ、金属イオン(Li+)やルイス酸(Li+)に窒素の孤立電子対を与え、錯体を形成する。プロトンもしくはリチウムイオンはいずれもイミン窒素原子の孤立電子対により錯体を形成し得る。プロトン酸水溶液ではなく、リチウムイオンの塩を含む非水溶媒系を用いれば、プロトン非共存下ではリチウムイオンのみがイミン窒素原子と配位結合ができる。上記のように配位結合が形成され得るので、-ΔGは平衡定数によるが反応は進行方向に傾いている。
【0109】
[リチウムイオン配位結合反応とBF4-の吸着反応の共役]
酸素がロイコエメラルジンと最初に反応してエメラルジン塩基へと変化するに伴って、これがリチウムイオンと配位結合する反応へと進行する。
【0110】
イミン窒素原子にリチウムイオン配位結合が形成されれば、この窒素原子は+チャージを持つので、ここにカウンターアニオンであるBF4-が吸着し、反応が終結する。これら2つの反応がステップワイズに進行するが、共役反応として進行する。
【0111】
リチウムイオンが配位結合を形成する反応とアニオンの吸着反応(イオン結合形成)とは共役的に進行するので、トータルの反応の自由エネルギーはこれらの共役反応を合わせたものとなる。但し、配位結合10eVとイオン結合2eVの両者の結合エネルギーの差からは、全体の反応の自由エネルギーはリチウムイオンの配位結合反応が支配的である。結論としては、プロトンの配位とリチウムイオン配位とでは、反応の自由エネルギーにはさほど大きな差異はないと考えられ、プロトンの存在しない非水溶媒中という反応条件においては、リチウムイオン配位の反応は十分に進行させることが可能である。
【実施例0112】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0113】
[比較例1]
工程S11として、硫酸(H2SO4)存在下でアニリンを電解重合することにより、原料となる酸化型ポリアニリンとして、酸性型の酸化型ポリアニリンを作製した。これにより、酸性型の酸化型ポリアニリンには硫酸イオン(SO4
2-)が取り込まれた。
【0114】
このようにして得られた、原料となる酸化型ポリアニリンを、アンモニア水に炭酸ナトリウムを溶解させた溶液で洗浄した(工程S12)。これにより、硫酸イオン(SO4
2-)を洗い流し、該原料となる酸化型ポリアニリンを塩基型とした。
【0115】
次に、塩基型とした酸化型ポリアニリンをLアスコルビン酸およびNa2S2O4によりセミ還元する方法を選択し(工程S13)、これを適用した(工程S14)。
【0116】
前記した工程S14は、より具体的には以下の通りに行った。まず、塩基型の酸化型ポリアニリンを窒素気流中にて脱酸素した蒸留水中にて、pH4.6において、上記還元試薬溶液(5%溶液)を滴下して還元反応を進行させた。
【0117】
この還元反応の進行に合わせて、水酸化リチウム溶液(5%)を滴下して反応を進行させた。生成物は無色のロイコ型エメラルジン塩基で、その窒素原子の一部もしくは理論上半分がリチウムイオンと配位結合していることがFTIRで確認された。ICPによるリチウムイオン量の測定により、ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量に対して、リチウムイオンの存在量は48mol%であった。これは従来のプロトネーションによる正極材に比べて2.5倍に高密度化されていた。
【0118】
次に、電池としての性能評価を行った。負極材としてハードカーボンを用いて、非水電解質にリチウム塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)もしくは四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を用いたボタン電池の電気容量は140mAh/(単位ポリアニリン分子量当たり)であった。これは理論値146mAhにほぼ相当する。
【0119】
[実施例1]
基本的に比較例1に沿って正極材を製造したが、以下のように変更した。上記比較例1の工程S11において、電解重合の際に、LiFePO4のナノ粒子および同ナノ粒子表面を高分子被覆した粒子を顔料として同時に存在させることにより、原料となる酸化型ポリアニリンとして、LiFePO4を取り込んだ酸性型の酸化型ポリアニリンを作製した。その後、工程S14において非水溶媒中にてリチウム塩を窒素気流中で接触させる方法で行った。その結果、上記の比較例1と同様に高濃度でのLiBF4をドープさせることができた。
【0120】
次に、電池としての性能評価を行った。比較例1と同様に測定し、電気容量は204mAh/(単位ポリアニリン分子量当たり)でこれはポリアニリン単独の正極材(比較例1)の1.4倍である。
【0121】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
前記酸性溶液下でのアニリンの電解重合を、さらに、導電体を共存させて行い、前記原料となる酸化型ポリアニリンに、前記導電体を取り込ませることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
前記部分還元又は全還元を、OH基を有する有機化合物を用いた電解還元により行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材の製造方法。
前記酸化型ポリアニリンを構成する窒素原子の存在量100mol%に対して、前記リチウムイオンの存在量が40mol%以上48mol%以下であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の非水電解質二次電池用正極材。